もう勇者やめていいですか?27
オリジナルss 騎士団長vs小天使隊
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メイナ「な!?」
ミクル「嘘ぉ!?ぜっちんやられちゃっタ!?」
ローグ「まじかよ…」
あまりの突拍子の出来事に驚きを隠せないのか、3人とも焦りの言葉を吐く。
メイナ「毒が…効いてないの…?」
カイゼル「…さっき言っていたように、私は一度この男に負けている」
メイナ「……」
カイゼル「地下牢が襲われたと聞いてすぐに思った…やつと再び戦闘になるとな。だからそれを見越して、予めこれを使ったんだ」
腰にあるポーチから空になった瓶を取り出した。
メイナ「空びん…!?…事前に薬を飲んでいたということね…」
カイゼル「左様、これは一時的に毒を無力化する魔法薬だ。同じ過ちは繰り返す気はないのでな」
だがあの毒男が本気になればこんな魔法薬など気休めにしかならなかったが…やつが油断してくれてたおかげで素早く仕留めることができた。
けれども腐っても固有魔法を使えるほどの魔法使たち、動揺しながらもすぐに態勢を整え始めた。
ミクル「ぜっちんの仇ぃ!」
1番早く反応したのはミクルだった。魔法陣を展開させて、カイゼルへと向ける。
ミクル「マルチアクアショット☆」
圧縮された水の弾丸が無数、一直線に放たれる。
マルチアクアショット、水の中級魔法だ。
カイゼル「武器能力解放…!」
手に持った剣に魔力を込める。そして放たれた水弾を容易く斬り裂いた。
ミクル「うぇっ!?魔法斬られタ!?」
ローグ「ちっ…ならこれはどうだ…?」
ローグもなにやら魔法を使い始めた。するとどこからか騎士の姿をした者が襲いかかってきた。
カイゼル「これは…!」
ローグ「終わりだ…」
騎士の姿をした者は大きく膨らみ、大きな音と共に土煙を巻き上げながら爆発した。
ミクル「やったネ☆」
ローグ「はぁ…そうだな」
土煙を上げる中、2人はそう言い合った。
けれど土煙が徐々に晴れていくと同時に、人影が煙の中から姿を現す。
カイゼル「……」
ミクル「じょ、冗談きついヨ…」
ローグ「まじかよ…」
剣を振り払い一息つく。あの爆発で仕留めたと思ったのだろうが、甘く見てもらっては困る。
あの爆発の瞬間、抜剣術を使い爆発の威力を相殺したのだ。普通の剣技ではおよそ不可能だが、魔法を斬ることができる魔法武術ならばそれは容易いこと。
カイゼル「今ので"気配"は覚えた、次は爆発する前に斬ってみせよう」
ローグ「け、気配…?わけのわからないことを…!」
ローグが再び手を向けなにかを操るように指を動かす。
背後の建物の影から先ほどと同じ気配を感じた。
カイゼル「そこだ!」
剣閃から放たれた一撃は建物の影からでてきた"それ"を容易く斬り裂いた。
ローグ「なっ…」
カイゼル「いくら我が騎士団員の姿に化けようとも、人と傀儡では気配がまるで違う。伝わらなかったようならば言い直そう…同じ手はもう通用せんぞ」
メイナ「……2人とも情けないわね」
2人の後ろでずっと見ていた1人…メイナがイラつき気にそう口にする。
メイナ「遊びは終わりよ…すぐに殺してあげるわ」
カイゼル「……」
彼女のことを警戒する。一つ一つの動作に気を配り、次なる攻撃に身を備える。
メイナ「悪いけど、あなたにはもう次の機会は与えないわ」
彼女の目が一瞬光ったような気がした。なにか魔法を使ったのだろうか…それならばこちらから仕掛けるべきか…
カイゼル「……!!?」
身体が…動かない!?
まるで全身が石になってしまったかのように、微動だにできない。だが麻痺毒とは違って倒れずに、身体には何故だか力が入るみたいだ。
メイナ「ふふ…」
メイナが勝ちを確信したかのように軽く微笑んだ。
メイナ「知っているかしら、圧倒的存在を前にした時人間はあまりの恐怖に固まって動けなくなってしまうそうよ…蛇に睨まれた蛙のようにね…これが私の固有魔法、大蛇の目」
ミクル「でた、なっちゃんの常套句ダ☆」
ローグ「さっきも言っただろそれ…」
メイナ「うるさいわね、殺すわよ」
彼女たちはもう終わったつもりなのだろう。これで勝敗は決まった、負けるはずがない、と。
そんな危機的状況下なはずなのに…私の頭は不思議と冷静を保っていた。普通ならば焦りを感じてもいい場面のはずなのだが。
何故だろうか…まったくそんな気は起きない、平静を保てている。それは事実、焦っていてもなにも変わらないことをわかっているからだ。
だがこのままだとやられるのも時間の問題だ、早急に手を打たなければ…
カイゼル「……」
思考を高速で巡らす。身体が動かないのにはなにか理由があるはずだ。
第一にこれは魔法の仕業で間違いない。こんな現象、少なくとも魔法以外ではありえない。それに彼女…メイナの目を見た時、あるモノを植え付けられた。
それは…恐怖心。一瞬だけだが、まるで死を実感したかのような恐怖心を覚えた。
それに彼女の言葉…圧倒的存在を前にした時、あまりの恐怖で動けなくなる、と言っていたか?
どこかで聞いたことがある。人は突然の想定外のことや死の恐怖に直面した時、ほとんどの者がその場で咄嗟に動けず立ち尽くしてしまうという。
その状況を意図的に起こせるもの…それが彼女の固有魔法だとしたら、とても強力な魔法だろう。
だがそれも…タネがわからなければの話だが。
カイゼル「…ふぅー……」
深く息を吐き、全身の力を抜いて心を落ち着かせる。もし彼女の魔法が予想通りの効果を持つのならば…この対処で破れるはずだ。
カイゼル「…よし」
動く…さっきとはまるで違う、固まっていた身体が今なら自由に動かせそうだ。
メイナ「さて、これで終わりよ騎士団長」
完全に油断しているであろうメイナが、手のひらを向けて魔法陣を出した。
メイナ「バーンフレア!」
勢いよく炎が吹き出し、地面を焼き焦がしながら迫ってきた。だが身体が動かせる今、こんなものはピンチの内にも入らない。
カイゼル「閃風ッ!」
剣を振る勢いで突風を起こし、炎と対消滅させた。その光景に彼女らは驚きを隠せなかったようだ。
ミクル「うぇっ!?あいつなんで動けるノ!?」
ローグ「嘘だろ…」
メイナ「なっ…」
他2人も十二分に驚いてはいるがやはり1番驚いているのはメイナだ。それもそのはず、おそらく彼女の絶対的自身の源の魔法であるそれが目の前で破られたのだから。
メイナ「なんで…動けんのよ…!」
目を見開き、明らかに動揺を隠せていない敵意を向けられた。
カイゼル「貴殿たちは少しお喋りが過ぎる。あの動きを止める"魔法"の正体を分析するにはさして時間は掛からなかったぞ」
メイナ「なんですって…?」
メイナは眉をひそめそんなことはありえない、とでも言いたそうな顔をした。
今から彼女の自信をへし折ってやろう。
カイゼル「まず貴殿の目を見た時、強烈な恐怖心を植え付けられた。あんなものを食らってしまえば普通の人なら震えて固まってしまうだろうな」
メイナ「……」
カイゼル「だがそれは所詮まやかし、偽物の恐怖だ。そんなもので私を止めたつもりならば…やはり相当舐められてるみたいだな」
そう、彼女の大蛇の目は一種の洗脳の魔法だ。他人に恐怖心を植え付け、一切の身体の自由を奪うもの。非常に強力な魔法だ。ただし…"本物の殺意"には敵わない。
カイゼル「貴殿の偽物の恐怖より、カレン殿の殺意の方が何倍も震えたぞ」
カレン殿と初めて会った時のことを思い出す。我が騎士団員が誇りもなくナル殿を人質に取ろうとした瞬間のあの殺気…たったあれだけで死を直感したのは生まれて初めてだった。
あれと比べればこんな偽物の恐怖…歯牙にもかけないことだ。
メイナ「くっ、知らないわよそんなやつ!」
カイゼル「別に知らなくていい、それに」
メイナ「なっ…!?」
脚の魔装具に魔力を込めて脚力を強化し、瞬く間にメイナとの距離を詰める。
カイゼル「戦場での死の覚悟など…とうの昔にできている!!」
メイナ「がっ…!?」
剣の柄頭でメイナの腹部を殴打しあまりの激痛に耐えかねたのか、そのまま倒れるように気絶していった。
…我ながら殺さないのは、やはり甘いのだろうか。
カイゼル「残り、2人だな」
メイナ「や、やばいヨ…」
ローグ「めんどうなことになったな…」
4人中2人がやられたことで流石に焦りを感じたのか、最初とは打って変わって余裕のない様子だ。
ミクル「リーネの騎士団長ってこんなに強いノ…?話と違うじゃン!」
ローグ「だがこれが現実だろ…くそ、まじで舐めてた」
カイゼル「私のことをどう話してたかは知らないが…以前の私ならば貴殿たちには敵わなかったかもしれんな」
どれもこれも、カレン殿のおかげだ。あの方のおかげで私はまだまだ強くなれる。こんなことを言ったら俺は大したことはしてないとか言われそうだが。
ローグ「おいミクル、俺たちも本気でやるぞ」
カイゼル「うん!わかってるヨ☆」
これまでの相手を下に見ていた雰囲気とは違い、明確な敵意を感じた。彼らもついに本気になったということだろう。
これまでの奇襲はもう通用しないと言ってもいい。いや、その奇襲自体が通用してたことがもはや異常だったのだ。
ここからは純粋な実力での戦い…一歩間違えれば死へと繋がることもあるだろう。
だがこの街の騎士として、負けるわけにはいかない。
カイゼル「……」
私の全てを以って…この街を守ってみせようぞ!
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ローグ「コンビネーションで潰す!」
ミクル「あいサー☆」
まずローグが地面を使いなにかを形成していく。次々と岩を繋ぎ合わせ、巨人の姿へと変わった。
背丈は人の二回り以上の大きさだ。こんなものまで作り出せるのか。
ローグ「グランドゴーレム!あいつを叩き潰せ…!」
巨岩兵「ォォォォォォォ…!!」
体内から響く振動音を上げながら、岩でできた腕を振り下ろしてきた。
カイゼル「……!」
見た目よりも速い攻撃に多少面をくらったが避けられないほどではなかった。難なく躱して攻撃を加える。
カイゼル「ッ!!」
斬烈強化の入った剣でゴーレムの腕を斬り落とした。岩でできているからといってもそう固くはない、簡単に斬ることができた。
カイゼル「まだだ…!風迅一閃!」
更に一つ攻撃を加える。身を捻り、剣を振り切った斬撃はゴーレムの身体を真っ二つに斬り裂いた。
ミクル「アクアバレット☆」
カイゼル「…!!」
頭上から無数の水の弾丸が降り注ぐ。それを察知し、いち早く後ろへと距離を取り水弾を避けた。
ミクル「くぅー!これも当たらないヨ!」
ローグ「俺のグランドゴーレムをこんな簡単に…だけどな…」
ローグがそう呟くと両断したはずのゴーレムの岩の破片がカタカタと震えだし、一箇所へと集まっていった。
やがて元ある形へと戻り、両断する前の状態になってしまった。
ローグ「無駄だ、これは俺の特別製。俺がいる限り何度でも再生する」
ミクル「さっすがろーくん!やるネ☆」
ローグ「はぁ…ろーくんって言うな」
斬っても自動で再生するゴーレムか…なんとも厄介だな。
だが幸いにもあのゴーレム自体は然程脅威ではない。しっかりと攻撃を見極めれば十分に対処できるはずだ。
しかし再生するのならば…どうするべきか。
カイゼル「ならば…これでどうだッ!」
居合の構えを取り、全身の魔装具に魔力を込めて身体強化を施す。
カイゼル「風迅…大一閃ッッ!!」
勢いよく剣を薙ぎ払ったその一撃は、暴風を生み出しゴーレムを最も簡単に砕いた。そしてその暴風はそのまま突き進み、2人に襲いかかっていった。
ミクル「ちょやばいヨ!?」
ローグ「ちっ!ロックウォー…ぐわぁぁぁ!!?」
ローグが岩壁を作り出し防御を試みるが、予想以上に暴風の威力が高かったせいかその岩壁さえも砕き、2人を軽く吹き飛ばしていった。
ミクル「い、いったーイ…あれ、痛い…なんデ…あたしに物理攻撃は効かないはずなのニ」
ローグ「くっそ…なんて威力してんだよ」
ゴーレムと岩壁で威力を落とされたせいか、大したダメージは負っていないようだった。
やはり遠距離での攻撃では威力が足りない…直接攻撃を与えるしかないようだ。
ローグ「…ミクル、もう出し惜しみは無しだ」
ミクル「うん、本気でやっちゃうヨ☆」
2人の魔力が可視化できるくらいに溢れてきた。ようやく自分を敵と認識してくれたみたいだ。
ローグ「グランドゴーレム…この数ならどうだ?」
砕けたゴーレムが再生する中、新たなゴーレムが造られた。それも一体や二体などではない、数十体は軽く超えている。
こんな量のゴーレムを造り操るとなれば尋常ではない魔力を消費せざるおえないはず…出し惜しみなしというのは本当みたいだ。
ミクル「これもくらっちゃいなヨ☆」
カイゼル「……!」
空中からさっきの水弾が降り注いできた。その水弾を斬り落としながら、ゴーレムの攻撃に気を遣いつつ立ち回る。
巨岩兵「ォォォォォォォ……!!」
カイゼル「くっ…!」
ひっきりなしに降ってくる水弾を避けながらなんとか凌いできたが、ここでゴーレムの殴打を躱しきれずに剣で受け止めてしまった。
だが完全には受け止められず、軽く吹っ飛ばされてしまった。
まずいな…今のはたまたま防御できたがこの状態が長く続けばいずれまともに攻撃を受けてしまう。
ローグ「しぶといな…はぁ、もういい…あれをやるぞ」
ミクル「おっ?禁断のあれやっちゃウ?よーしやっちゃオー☆」
なにやら2人で頷き合い、にやりと笑みを浮かべる。なにかするつもりなのか…?
ミクル「いっくヨー!ウォーターベール☆」
するとゴーレムとカイゼルを球状で囲むように、水の幕が周りに張り巡らされた。まるで逃げ場をなくすかのように。
だがこの程度の魔法ならば十分斬り裂いて脱出することは可能だ。一体なにを考えている?
ローグ「グランドゴーレム、やつを囲め!」
一体一体を敷き詰めるように隙間をなくし、退路を完全に防いだ。
これになんの意味がある…?こんなことをしてもさっき見せた技で道を作れることはあの2人もわかっているはず…
ローグ「最初に受けた俺の魔法を忘れてるようだな…」
カイゼル「……!」
最初に受けた魔法…我が騎士たちの姿をしたものを使い爆破してきたやつか…ん?
カイゼル「まさか…!?」
それに気づいたローグは不敵な笑みを溢す。
さっきの彼の言葉を考えるならば…この後起きることは一つしかない。
ここにあるゴーレムたちを…全て爆破させるつもりだ。
そのための水の魔法…おそらくこれは本来防御に使う魔法なのだろう。これを使った理由は爆発の余波に自分たちを巻き込まないため…してやられた!
ローグ「これで終わりだ…リーネの騎士団長」
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