2020-05-20 00:34:02 更新

概要

オリジナルss 斬り伏せる覚悟。


ーーーーー


クレハ「はぁ…はぁ…ふぅ」


騎士さんは住民の避難はほぼ済んでいると言っていた。だけどもしかしたら逃げ遅れた人がいるかもしれない…


私は出来るだけ人目のつかないところや狭い路地などを見回り、魔力を探知しながら走り回っていた。


魔力探知は自分を中心に半径数百メートル以内なら完璧に探知することができるので、こうやって走り回って探していれば少なくとも取りこぼしはないはず。


クレハ「はぁ…はぁ…もう全員避難が済んだのでしょうか…」


最後に街の端、街壁側を探してみよう。

そう思い忙しなく駆けていくと魔力探知に微かな反応を察知した。


とても弱い魔力…子どもかな?良かった、やっぱりまだ逃げ遅れた人がいたんだ。


反応があった場所目掛けて路地を幾つか曲がり、やがて街壁沿いへと辿り着く。


クレハ「ここの…角!」


通りを曲がり、普段人気が無さそうな路地へと着いた。そこの端にあった木箱の裏になにやらしゃがんで震えている者が見えた。すかさず声をかける。


クレハ「大丈夫ですか?」


「ぅぅ…あれ…?」


クレハ「あなたは…!」


なんと震えていた子どもは昨日の迷子の男の子だった。私の姿を見ると同時に不安で堪らなかったであろう感情が溢れたかのように縋り付いてきた。


男の子「おねぇちゃーーん…!!うわぁぁぁんん!!」


クレハ「っと、よしよしもう大丈夫ですよ」


不安を拭ってあげるように優しく頭を撫でる。この子はまた迷子にでもなったのだろうか。


クレハ「お母さまは一緒じゃないんですか?」


男の子「ううん…ぼくまた一人で…ぐすっ」


クレハ「そうですか…」


目を離した隙に逸れてしまった、というところだろう。普段なら大丈夫だろうがそんな時にこんな非常事態が起きてしまえば逸れてしまうのも無理はない。


お母さまの方は無事なのだろうか…


クレハ「…ひとまず、私と王城に行きましょう。お母さまがいるかもしれません」


男の子「…うん」


鼻を啜りながらも一緒に手を繋いで、王城への通りを歩いていく。この子だけは無事に送り届けなければ。


この子が多分最後の住人なはず、ここまで来るのに一切魔力を感じなかったので間違いはない。


と、そう考えてきたら魔力探知の範囲に何者かが反応する。


この魔力は…騎士さんたちの魔力だ。


前方を見てみると逃げ遅れた住人を未だに探し回っているのか、慌ただしい騎士さんがいた。


クレハ「騎士さん!」


騎士「…!クレハ様」


声をかけると騎士さんはすぐに気づきこちらに駆け寄ってきた。そして今の状況を伝えることにした。


クレハ「もう街の人はここら辺にはいません、この子が最後みたいです」


騎士「そうですか…!いやはやクレハ様のおかげでとても助かりました…!」


クレハ「それで…この子お母さまと逸れたみたいで…」


騎士「母親と…?ふむ、そういえば子どもと逸れたというご婦人がいるという報告を受けましたが、この子でしょうかね?自分で探しにいくと言って聞かない様子だとか…」


クレハ「!!多分そうです、それなら急いで王城に戻りましょう」


よかった…これでひとまずは安心できそうです。


後はカイゼルさんたちが襲撃者を倒してくれれば事は済むのだが…


はたしてそう上手くいくだろうか、どうもこれだけでは終わらないような気がする。


クレハ「……」


いえ、考えてもどうしようもないですね…私にできることは、これ以上ないのだから。


騎士「さぁ、王城へ向かいましょう」


騎士さんが先行して前へ進んでいく。それに続くように私も男の子の手を引き一歩踏み出した。


だがその刹那、全身に悪寒が走る感覚に襲われた。


クレハ「うっ…!?」


更に軽い吐き気も加わり堪らず口を手で覆う。突然襲われた感覚に動揺を隠しきれなかった。


騎士「クレハ様?どうしましたか?」


前を歩いていた騎士さんが私の異変に気づき声をかけてきた。どうやら騎士さんにはこの悪寒が感じていないみたいだ。


男の子「おねぇ、ちゃん…?」


クレハ「いえ…大丈夫です」


乱れた心を落ち着かせて息を整える。さっきの感覚、身に覚えがある。


クレハ「すみません、この子をお願いします」


騎士「えっ、あ、クレハ様!?」


男の子の手を離し、さっき感じた悪寒の方へと向かっていく。


あれは…あの感覚は間違いない…

あの日、聖堂が襲撃された日の初めてゼブラとかいう男を見た時と同じ感覚…殺気と、邪悪な魔力!!


毒男の時はその姿を見るまでなにも感じなかったけど、今回はそれとは訳が違う…だって、"魔力探知の範囲外"から感じたのだから。


それはつまり、あの毒男以上の…ううん、それとは比べものにならないほどの化け物がいるということ。


このままじゃ…カイゼルさんが危ない!


ーーーーー

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ーーーーー


焦燥を馳せる思いで無我夢中で邪悪な魔力を感じた場所へと近づいていく。大通りを進んでいき、やがてその魔力を感じる範囲へと入った。


場所は中央広場…そして例の魔力とカイゼルさんの魔力を感じる、間違いない。


まだ数百メートル離れているというのにとてつもない魔力が伝わってくる。およそ人が持っていい魔力ではない。人がどれほどの魔力を持てるのかはわからないが少なくとも私の周りではこんな規格外の魔力を持っている者はいなかった。


あのとても強いカレンでさえも少し多いかなというレベルでここまでの量はなかった。実は魔力を隠してましたというのなら話は別なのだが…


いいや、そんなことよりも目の前のことだ。私の魔力探知に狂いがないのならば、由々しき事態になるのは明白…


中央広場前に近づくにつれ、邪悪な魔力が濃くなっていくのがわかる。やはり気のせいとかではなさそうだ。


クレハ「…!」


中央広場の目の前に着いた時に思わず目を見張った。戦った後だろう…騎士さんたちが複数人倒れていた。


皮膚が爛れて倒れている者、水浸しになっている者、無残に焼かれている者…後はあのゴーレムの爆発痕だろうか、所々地面が抉れているのがわかった。


クレハ「っ……」


思わず唇を噛み締める。ここまでやる意味はなんなのだろうか、なにがどうなったらそこまでことができるのだろうか…理解に苦しむ。


クレハ「この先に、いるんですね…」


これを行った元凶がこの先にいる…

生唾を飲み込み、ゆっくりと中央広場へと近づいていく。


すると人影を二つ見つけ、爆発で地面が抉れた際にできたであろう瓦礫の影へと身を潜ませ様子を窺うことにした。


1人はカイゼルさんで間違いなさそうだ。よく見るとカイゼルさんの周りには毒男含め4人の男女が横たわっていた。


カイゼルさんが倒したんだ…すごい、1人で勝っちゃうなんて。


だがもう1人、例の魔力を持った人物がいる。

大柄の男で、両腕に刺青が入っている怖そうな人だ。


男は膨大な魔力を見に纏い、まるで目の前に怪物がいるかのような錯覚に陥れられた。


その男とカイゼルさんは、なにやら会話しているようだった。耳を澄ませてその会話を聞いてみる。


「炎魔人エリアス…?大層な通り名だな」


まずそう呟いたのはカイゼルさんだ。その呟きから察するにあの大柄の男の名前はエリアスというようだ。


エリアス「大層だと?俺は事実を述べただけだ」


カイゼル「ならやめるといい。人に言われるのはともかく…自分でそう名乗るのは些か、誇張がすぎるぞ」


エリアス「…あ?」


カイゼルさんは煽るような口ぶりで淡々と述べでいった。その口調が気に入らなかったのかエリアスの顳顬に血管が浮き出たのがわかった。


エリアス「ふっ、ふふ、フハハハハ!!!」


カイゼル「……?」


てっきり激昂するのとばかり思っていたがそんなことはなくエリアスは豪快に笑い飛ばした。


エリアス「くく…今のは聞かなかったことにしといてやるよ。それよりもだ」


不敵な笑みを浮かべたまま話を続ける。


エリアス「小天使隊を倒した実力に免じて例のモノを差し出せば大人しく退いてやるよ」


カイゼル「……」


エリアスの言葉を聞くが、カイゼルさんはなぜだか無言のまま口を開かなかった。


しかし例のモノとはなんだろうか…てっきり私を狙ってきたのかと思ったのだが、勘違い…?


エリアス「あー、言い方が違ったか?例のモノの在り処を知っている人物を差し出せ、か」


例のモノの在り処…?なにかを探しているのだろうか。


カイゼル「…なんのことだかわからんな」


カイゼルさんはすっとぼけるようにそう口にする。そんな嘘は通じないとばかりにエリアスはイラつきを口調に乗せる。


エリアス「とぼけんなよ、聖堂にいた女だよ!匿ってんだろここによぉ!?」


聖堂にいた女…やっぱり私を探している…!?でも例のモノの在り処ってのは一体…


私個人で物として隠しているのはなにもないはず…一体彼はなにを探して…


いや…ある、ひとつだけ。だけどそれは物理的に隠しているということではない。

彼はなにかを勘違いしている…多分彼が狙っているのは私の力…


クレハ「……」


出て行くべきか…カイゼルさんには悪いけど、正直勝てそうな相手ではない。魔力の桁が違いすぎる、下手すればこの街など簡単に滅ぼされるかもしれない。


そう考えると、私1人が犠牲になった方がいいのではと思ってしまう。実際そうだ、このままだと被害がでるのは目に見えている。


あれこれ思っている内に、カイゼルさんが鼻で軽く笑った。


カイゼル「ふっ…生憎だが、私はなにも知らないな」


エリアス「てめぇ…」


驚くことにあそこまで言われて煽る口調をやめなかった。このままだと話し合いでは済まなくなってしまう。

カイゼルさんはなにを考えているのだろうか、まさか相手のあの異常な魔力がわからないの…?


エリアス「はっ…もういい、少し痛めつけてやるよ」


とうとう痺れを切らしたのか膨大な魔力が溢れ出し、周りの空気が変わっていくのがわかった。


エリアスの足元に魔力が集まり、やがてそれは徐々に熱を帯びて燃え盛り始める。


だがそれはただの炎ではなく黒い炎を見に纏い、その熱で地面が溶けていくのが見えた。物凄い熱量だ。


カイゼル「その炎は…!?」


流石のカイゼルさんも見たことがないだろう炎の色に戸惑う。あまりの熱さからか、額から汗が流れて頰を伝っていた。


エリアス「大層な通り名だと言ったな?じゃあ見せてやるよ」


エリアスは更に激しく黒炎を燃え上がらせながらにやりと笑う。


エリアス「炎魔人と呼ばれる力を、な」



ーーーーー


黒炎が燃え広がる中、心中では別のことが気がかりでいた。

もちろん目の前の敵は規格外…油断をすれば一瞬でやられてしまうことも理解している。


それでも考えずにはいられなかった…やつらは一体なにを狙っているのかを。


初めはクレハ殿自身を狙っているのかと思ったがどうやら彼の口ぶりではクレハ殿だけが知るあるモノが目当てらしい。


でもそれがわからない。聖堂に関してはわざわざこんなことをしてまで手に入れたいほどのモノはなかったはずだ。クレハ殿が隠し持っている線もあるが彼女がなにかを持っているのも見た感じでは何もなかった。


違うところに隠してあるのだとすればまだ可能性はあるが…エリアスを見るに余程手に入れたいモノらしいのでそんなものを手の届かないところに隠すのはリスクが高いはずだ。


…考えてもわからない、か。だがひとつ言えることは、こいつにその例のモノが渡ってしまえば碌なことにならないだろうということだ。


それに…これ以上思考する時間はないみたいだ。


エリアス「いくぜ?リーネの騎士団長」


カイゼル「…!」


拳に黒炎を纏いそのまま拳を突き出すように振るうと、黒炎が舞い広がりこちらに勢いよく吹き出された。


カイゼル「っ…閃風!…なっ!?」


剣を斬り払い黒炎に突風をぶつける。が、黒炎は掻き消えることなく眼前まで迫る。


それに気づき咄嗟に横に飛んで間一髪で躱した。


黒炎が通った後を見てみると地面があまりの高温で溶けており、その上を衰えることなく黒炎が燃え盛っていた。


なんなんだ…この炎は。


エリアス「避けたか、やるじゃねぇの」


言葉ではそう言いつつも避けて当然というような口ぶりだ。手を抜いて楽しんでいるつもりか?


カイゼル「…貴殿に問いたいことがある」


エリアス「あぁ?」


いきなり何を言いだすんだ?というような顔をし眉をひそめるが気にせず話を続けることにした。


カイゼル「貴殿の狙っている例のモノとは一体なんだ?」


エリアス「はぁ?」


エリアスは素っ頓狂な声を出して疑問交じりな目を向ける。


エリアス「お前…自分は答える気ねぇくせにこっちには聞くのかよ?」


カイゼル「……」


流石に都合が良すぎたか、まぁ答えてくれるとは思ってはいないが。ならば別の質問でもしようか。


カイゼル「それもそうだな…なら、貴殿は何故ここにきた?」


エリアス「…どういう意味だ?」


問いかけを続け、地面に倒れているある4人の姿に視線を向ける。


カイゼル「そこに倒れている…小天使隊、といったか?その者たち一人一人固有魔法が使える程の実力者だ」


エリアス「それがなんだってんだ?」


カイゼル「固有魔法が使えるほどの魔法使はとても珍しい、一般の者では天地がひっくり返っても勝てないだろう。それが4人だ、これだけでも過剰な戦力ではないか?」


エリアス「お前は何が言いたいんだ?」


カイゼル「簡単なことだ、その4人でも十分過ぎる戦力なのにわざわざその上の立場にいる貴殿が来た。この街を潰すには過剰すぎる戦力だ」


エリアスはより一層目つきが悪くなった。この後に言うことが予想できてしまったのだろう。


カイゼル「つまりは、それほどまでにその例のモノを手に入れたいということ…このゼノギア国を敵に回してでも、な」


エリアス「……」


ここまで派手に襲撃してきて、その襲撃者の正体がバレているのならばもはや言い逃れることはできない。こちらとて聖人君子などではない、やられればそれ相応の報いは与えるべきだ。


この者たちが行っていることは、敵国の宣戦布告と変わらない。このままでは戦争は避けられないだろう。


エリアス「くくく…はっはっはっ!!!」


今まで黙っていたエリアスは、突然笑い出した。


エリアス「何をいうかと思えば…敵に回すだ?笑わせんなよ」


カイゼル「…なに?」


エリアス「平和ボケしてるお前らと、軍事展開してる俺らとじゃあ話になんねぇよ。お前らの国なんて一瞬で滅ぼせるぜ?」


カイゼル「……」


彼は自身満々にそう言い放った。自惚れとかで出る言葉ではない、確信を持った物言いだ。


エリアス「よく考えろよ、俺はそこにくたばってるやつらより遥か格上だぞ。それが俺を除いてまだ3人もいる、その意味がわかるか?」


カイゼル「…っ」


確かに対峙しただけで彼が小天使隊の4人より遥かに強いのは私でもわかる。四聖騎士の1人だったか…よく考えれば彼と同じ立場の者がまだいると言うこと…


小天使隊の4人に圧倒されてた私以外の我が騎士団では…確実に敗北するのが目に見えている。


その気になればいつでもこの国を潰せる…妄言などでは決してない。


エリアス「はっは!理解できたみたいだな、だがお前らは俺に感謝するべきだぜ?」


カイゼル「…どういうことだ?」


エリアス「この国はいつでも潰せる、だけど俺は"穏便"に済ますためにわざわざ1人で来てやったんだよ。お前らだって負けると分かってる戦争なんてしたくないだろ?」


カイゼル「穏便…だと?」


こいつ…ふざけているのか?ここまでこの街をめちゃくちゃにしておいて穏便に済ますだと?冗談にしても質が悪すぎる。


エリアス「元はと言えば俺らの邪魔をしたお前らが悪い。素直にあの女を引き渡せばいいものを」


こちらの心情など気づく訳もなく、戯言を次々と呟いていく。


エリアス「俺らの邪魔をしなきゃ犠牲者が出なくて済んだのになぁ!?」


ふざけたことを言い続けるエリアスに、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


エリアス「まぁ俺らの目的のためには多少の犠牲は…」


カイゼル「…まれ」


カイゼル「…あ?なんかいったか?」


剣の柄をこれまでにないほど強く握り締め、エリアスに構える。


カイゼル「黙れと言ったんだ、"お前"とはもはやこれ以上の対話の必要はない!」


エリアス「…ほーう」


全身の魔装具に魔力を流し込み、エリアスに全力の殺意を向けた。


カイゼル「お前をここで、私が斬り伏せようぞ…!!」


エリアス「…くくっ、やれるもんなら、やってみろよ」



後書き

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