もう勇者やめていいですか?24
オリジナルss 赤髪の少女は何を想うか。
主要人物おさらい
グレン(カレン)
主人公。18歳。500年前の勇者で魔王と悪魔との戦いの後で気を失い、気づいたら500年後の未来にいた。元は男で目覚めた時には女になっていた。原因は魔族化の影響?
ナル
神剣と呼ばれる聖なる武器...が人間になった姿。金色の髪で目は金と藍色のオッドアイをしている。少々変わっている話し方をしていて甘いものが大好き。黙っていれば美少女。
カイゼル
東大陸国ゼノギアの王都リーネの王国騎士団長。30代で団長に上り詰めた天才で礼儀を重んじる。グレンがこの世界で初めて会った人物でもある。
クレハ
聖堂襲撃事件の際に唯一生き残った聖堂の神官らしき赤い髪に赤い瞳が特徴な少女。グレンのかつての幼馴染みに似ているらしい。
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時は少し遡り、グレン達がバルロッサへ向かった数日後に戻る。
2人の出立の後クレハは王城の客室に1人でいた。
出立前にナルに言われたことをクレハは思い当たることがあるのか、ひどく気にしていた。
ナル『…主が万が一マスターの敵になろう者ならば…わたしはお前を、容赦なく消してやる』
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クレハ「あの言葉の意味は…そういうこと、ですよね…」
勿論私はあの人たちに敵意なんてものはもっていない。むしろ助けてくれてとても感謝していて、敵対するだなんてことはありえない。
でもナルという子は、私の隠し事を見抜いている…どうやってわかったのかはわからないけど、とても警戒されているらしい。
クレハ「うぅ…できれば穏便に進めたいのに…」
敵対する意思がないことをどうやってわかってもらえるだろうか?接し方がわからない…だって…
クレハ「同年代の女の子と話したことないもん…」
そう、私は聖堂で暮らし始めた頃より前の記憶がない。聖堂は男の…しかも年老いた神官様たちしかいなかったので、同年代の人と話したことすらない。
クレハ「でも…」
あの時…聖堂で助けに来てくれて私を救ってくれた、カレン…すごく可愛らしい人だったけど、すごく…かっこよかった。
あれを仮に勇者様と呼んでもなにも不思議ではない。
クレハ「……」
けれど気になったのはカレンが私の顔を見た時、すごく驚いている表情をしていた。もしかしてあの人は私の事を知っているのかな…?
それになぜか…私もカレンを見た時とても懐かしい感じがした。
すごく気になったけど、あの時の私の精神状態はとてもそんなことを聞ける程余裕はなかった。今も少し…辛いけど。
クレハ「大神官さま…」
あの日を思い出すと、とても胸が苦しくなる。結界内のなにも出来ない状態で、毒で苦しんでいる大神官さまを延々と何時間も見せつけられて…気が狂いそうだった。
私のせいで…私のせいでみんなを巻き込んでしまった。私がいなければ、こんなことは起きなかったかもしれない。
私のせいで失ってしまったのに…私だけが生きている…
こんなことがあっていいのだろうか。大神官さま…罪深い私は、これからどうすればいいのでしょうか…
私は…あの時の大神官さまの言い付けを守っているだけで本当に良かったのでしょうか?
クレハ「……」
…わかっています。大神官さまが私のことを命を懸けて守ってくれてことを、私に生きていてほしいことも。
わかってはいます…が。
クレハ「…うぅ」
この現実を受け入れるのは…もう少しかかりそうです。
クレハ「……」
ふとテーブルを見ると、お菓子受けにナルが食べていた飴玉があった。確かナルがとても美味しそうに食べてましたね。
飴玉を一つ取り、それを口の中に入れてみた。
するととても甘い味が口の中に広がった。
クレハ「とても甘い…今の私の心とは、真逆ですね…」
徐々に涙が目に溜まり、やがて零し始めてしまった。涙が枯れる程泣いたはずなのに…まだ止まらないんですね。
私は…どうすれば…
カイゼル「クレハ殿、少しよろしいか?」
クレハ「……!?!?!?」
いきなりドアを開けられ、カイゼルさんが声をかけてきた。その際にびっくりしすぎて…飴玉を喉の奥へと追いやってしまった。
クレハ「〜〜〜ごほごほ!!?!?」
カイゼル「だ、大丈夫か!?」
手で口を押さえ咳き込み、なんとか危機は脱した。
カイゼル「すまない、タイミングが悪かったな」
クレハ「い、いえ…その…」
飴玉が口に入っているせいか、少し話づらい。それにとても失礼な気がする…
カイゼル「…急がなくても大丈夫だ。ゆっくり食べるといい」
カイゼル「すみません…」
とても恥ずかしいところを見られてしまい、飴が舐め終わるまでの間少し気まずくなってしまった。
なにをやっているんだろう、私は…
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カイゼル「気分はどうだ?なにか悪いところがあったら遠慮なく言うといい」
クレハ「いえ、ここに来てからだいぶ落ち着いてきました」
あの事件の後だからだろうか、どうやら心配して様子を見に来てくれたみたいだ。
カイゼル「そうか、それなら良いのだが…申し訳ないがクレハ殿の対応はまだ決まっていなくてな…」
対応、というのはこれからの私の扱いについてだろう。確か王城の使用人か騎士団に入るとかなんとか…
カイゼル「聖堂を復興させ、クレハ殿は大神官の道を歩む…という手もあるが」
クレハ「ほ、本当ですか!?」
聖堂を復興させる…これを聞いた途端、私にはこれしかないと思った。
大神官さま達が築き上げてきた聖堂…それが復興できるのならば、私にそれ以外の道はないに等しい。
カイゼル「どうやら決まっているみたいだな」
カイゼル「はい、ノイス聖堂は…私の全てですから」
記憶のない私にとって、あそこは私の全ての思い出が詰まっている。それをあのままにはしておけない。
カイゼル「ならば我ら騎士団も復興を助力しよう」
クレハ「…!ありがとう、ございます」
安堵の息を漏らし、悲しい気持ちが落ち着いた。
まだ全てを失ったわけじゃない、一からやり直すんだ。
私はまだ…やれるんだ。大神官さまならば、きっと諦めるなと言ってくれるはず。
これからも"あの言い付け"を守り抜いてみせます。
カイゼル「ところでクレハ殿」
クレハ「…?」
話は終わったものだと思ったのだがカイゼルさんはこのまま話を続けてきた。
カイゼル「部屋にずっといては気が滅入ってしまうのではないか?」
クレハ「いえ…そんなことは…」
ない、と言えば嘘になる。今はカイゼルさんが話相手してくれるおかげで前向きに考えることができるが、1人でいる時はどうしても後ろ向きに考えてしまいそうになる。
そういうところを見破られてしまったみたいだ。
カイゼル「よかったら街を見てきてはどうだ?」
クレハ「街、ですか?」
カイゼル「そうだ、それで遊びに行くといい。多少は気分転換にはなると思うのだが…どうだろうか?」
クレハ「……」
もしかしなくてもわかる、気遣ってくれているんだ。この人は優しい人なんだなと思う。
街…そういえば聖堂と、その後ろにある海辺以外には行ったことがない。興味はとてもある…
クレハ「そう、ですね…街、見てみたいです」
カイゼル「そうか、それは良かった」
何故か私よりもカイゼルさんの方が嬉しそうにしていた。なんでだろ…
クレハ「あ、でも私」
カイゼル「ではこれを…ん?どうした?」
お金を持っていない、と言おうとしたらおそらくお金が入っているだろう袋を渡された。最初から私を街へ行かせるつもりだったのかな?
クレハ「えっと…」
カイゼル「もしかしてこの金貨のことか?これはカレン殿に預かっててだな…クレハ殿に渡してほしいと」
クレハ「あの人が…?」
カイゼル「ああ、是非使ってほしいと」
クレハ「……」
もう…この人たちは気を回しすぎです…この気持ちを無下にはできませんね。
クレハ「わかりました。大事に使わせていただきます」
カイゼル「うむ、その方がいい」
金貨の入った袋を受け取り懐にしまった。
無駄遣いしないようにしなくちゃ…お金なんて使ったことないけど。
カイゼル「私はまだ任務があるのでこれで…街への道はわかるか?」
クレハ「大丈夫です、私記憶力はいいので」
記憶は無くしてるけど…その分他の記憶は鮮明に思い出せる。ここまで来た道のりを全て把握しているのだ。
カイゼル「そうか、何かあれば騎士団を訪ねてきてくれ。では」
カイゼルさんは一礼をしそのまま部屋を出て行った。
私騎士団の場所わからないんだけど…うーん、城門前の騎士さんたちに聞いてみればいいかな。
さてと、初めての街散策…複雑な気持ちだけれど、せっかくだし行ってみるとしよう。
少しでも寂しい気持ちを紛らせたいから、ね。
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カイゼルさんもとい、カレンから貰ったお金を持って1人で街へ繰り出した。
やはり部屋の中にいるより外の方が幾分か気持ちが落ち着く気がする。街へ行ってみるように提案してくれたカイゼルさんには感謝しかない。
それはいいのだけど…散策早々私はとんでもない状態になっていた。
クレハ「うぐ…うぷっ…」
道の隅っこで無様にうずくまっている私をちらちら通行人が見ているのがわかって恥ずかしいのだがそんなこと言っている場合ではなかった。
予想してたより人の数が多い…き、気持ち悪い…
決して人間が嫌いという発言ではない、単純に…人混みに酔ってしまっていた。
聖堂にもそれなりに人は来たけれどいつもその時は人前には出てなかったので、こういうのには耐性がまるでない。
クレハ「はぁ…はぁ…」
気分が晴れるかと思い外に出たのに更に悪化した気がする…人混み怖い…
「おいおい大丈夫かいお嬢ちゃん」
通りの隅で蹲っている私を心配してかバンダナをしたおじさんが声をかけてきた。
クレハ「大丈夫、です…ちょっと人混みに酔っただけです…」
「人混みぃ?この時間はそう多くないはずなんだがなぁ」
なんか今聞こえてはいけないことを聞いた気がするけど…気のせい、だよね、うん。気のせいのはず。
「うち串焼き屋やってるんだが、椅子があるから少し休んでいきなよ」
クレハ「で、でも…」
「いいからいいから」
ああ、大神官さまに知らない人には着いていってはダメと言われているのに…
でもごめんなさい…ちょっと限界なのでお言葉に甘えちゃいます。
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串焼きのおじさんに着いて行き、店の中にある椅子をお借りした。人混みを避け、腰掛けるものがあるだけでだいぶ楽になったような気がする。
「水、飲むかい?」
クレハ「ありがとうございます」
木製のコップに注がれた冷たい水を飲み干し、一息ついた。
しかし、自分が情けない…たったこれだけの人混みに酔ってしまって…私って意外と虚弱体質なのだろうか?
「落ち着いたかい?」
クレハ「はい、おかげさまで」
「そりゃよかった!」
とても優しい方だ。こんな見ず知らずの人物を助けてくれるだなんて…この街の人たちはいい人ばかりだ。
「お腹空いてないかい?よかったらうちの串焼き食べていきなよ」
店から持ってきたのだろうか、串焼きのおじさんの手に持っているお皿にお肉の串焼きが乗っていた。
クレハ「えと、お金…」
「いいよ、嬢ちゃんにサービスだ」
クレハ「それはダメです!こういうのはしっかりしておきたいんです!」
「え、おおう…真面目だなぁ」
世の中は等価交換だと大神官さまも言ってました。聖堂に仕える身として無償の施しはすれど受けはしません。
「んじゃ金貨1枚ね、まいど!」
袋から金貨1枚を取り出し串焼きのおじさんに渡す。そして私は串焼きを手に入れた。
…待って、これって私、もしかして初めてお買い物をしたのでは?
クレハ「〜〜〜ッッッ!!」
す、すごいです。私、初めてお金を使ってお買い物をしました!聖堂にいたころはお金を使うところなんてなかったからとても新鮮な気分です。
そしてこれは、所謂…買い食い!
お肉の串焼きを見ると、初めての買い物兼買い食いで気持ちが昂る。更にお肉のいい香りがしてきて食欲も沸いてきた。
クレハ「いい匂いがします…いただきます」
お肉を一口口にすると、肉汁が溢れ香ばしい匂いが一面に広がる。
クレハ「お…美味しい!」
「当たり前だ、自慢の串焼きだからな!」
ただの串焼きなのにここまで美味しいだなんて…なんの材料を使っているんだろう?
「なんか前にもこんなやり取りしたな…」
クレハ「前?」
「おう、前にもかわいい嬢ちゃん2人が今の嬢ちゃんみたいに美味い美味い言っててな。そう言われるとこっちまで気分が良くなっちまうぜ!ははは!」
クレハ「はぁ…」
他の人も絶賛するような味ならば間違いないですね。ここの串焼きはとても美味しいです。
しばらくの間串焼きを堪能して、せっかくなのでもう少し休ませてもらうことにした。
今人混みに戻ったら…一生帰れない気がするので。
読んでいただきありがとうございます。
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