もう勇者やめていいですか?8
オリジナルss 水面下で動く闇、聖堂に危機が訪れる
登場人物おさらい
グレン
主人公。18歳。200年前の勇者で魔王と悪魔との戦いの後で気を失い、気づいたら200年後の未来にいた。元は男で目覚めた時には女になっていた。原因は魔族化の影響?
ナル
神剣と呼ばれる聖なる武器...が人間になった姿。金色の髪で目は金と藍色のオッドアイをしている。少々変わっている話し方をしていて甘いものが大好き。グレン曰く、黙っていれば美少女。
カイゼル
東大陸国ゼノギアの首都リーネの王国騎士団長。30代で団長に上り詰めた天才で礼儀を重んじる。グレンがこの世界で初めて会った人物でもある。
オリス
初対面の戦闘の時に剣をグレンに奪われた一介の騎士くん。炎竜の一件でグレン(女)の強さに憧れているらしい。
カル
200年前の大英雄の1人。筋肉が取り柄のプライド高い男性。記述では「戦神」と呼ばれ、危獣種との戦い方を世に広めた人物。グレン曰く、説明下手の脳筋。
ミナ
200年前の大英雄の1人。パッと見幼く見えるが芯が強いお姉さん。記述では「賢神」と呼ばれ、生活水準を上げるために誰でも使える魔道具を、戦闘の幅を広げる魔装具を開発した。西大陸国に魔法使のための街を創ったという。
ユリハ
200年前にグレンと共に旅をしていた幼馴染み。最後の六魔との戦いで負傷したグレンを助けるために自らの命を魔力に転換する転命術を使い、亡き者となった。
ーーー ノイス聖堂
森の開けた先、海の近くに立派な聖堂が建っている。
たまに王都から祈りにくるものがいるが今はそんな悠長なことを言っている状態ではなかった。
大神官「くそ!なんてことだ!この聖堂に災厄が訪れるとは...!」
神官「この結界も長くは保たないぞ!王都からの援軍はまだなのか!?」
神官2「援軍ならさっききただろう!...やられてしまったが」
神官たちは怒声を飛ばし合う。そんなことをしている場合ではないのだがあまりの緊急事態のため、皆、気が動転していた。
「ヒヒッ、固ぇ結界だなぁ?」
1人、結界の外で不気味に笑う男がいた。神官たちの結界を見てそう呟く。
「だがいつまでもつんだろぉーなぁ?ほら、やっちまえ」
「グオオオオォォォォォ!!!」
男が手を挙げるとその背後から巨大な竜が咆哮をあげた。大気が震え、思わず神官たちも立ちすくんでしまう。
竜はその結界に向かって炎を吐く。周りが炎に包まれ聖堂の周りはすでに焼け野原になっていた。
神官「ぐぅぅ!なぜ竜があの男の命令を...!」
神官2「まずい、このままでは...」
「あの、私も手伝います!」
そう言ったのは1人の少女だった。フードを被っているが、緋色の髪が見えていた。
大神官「ダメだ、君を奪われるわけにはいかない!...こうなれば奥の手だ」
神官の男は懐から魔法石を出し、その少女に向ける。
大神官「隔絶結界 風魔陣!」
少女「...!!」
少女はまばゆい光に包まれ、周りを魔法の障壁が囲む。
少女「大神官さま!」
大神官「ここでおとなしくしておりなさい」
「あぁ?お前、なにしやがったんだぁ?」
大神官「ふん、貴様にあの子を渡すわけにはいかないからな。隔離させてもらった」
「なんだとぉ...??」
男は不機嫌な感情を露わにし竜に攻撃をやめるように指示をする。
「もういい、俺が直接破ってやるよぉ」
男は常人では計り知れない殺気を帯びた目で神官たちを睨みつけ、その目をみた神官たちは本能的に恐れを感じた。
「せいぜい全力で結界張っとけよぉ?そしたら数秒は生き残る時間が増えるかもしれないからなぁ!!?」
男の体から視認できるほどの大量の魔力が溢れてくる。
神官「ありえない...奴は本当に人間なのか!?」
神官2「くっ、ダメだ。魔力の桁が違いすぎる...誰でもいい...誰でもいいから...救いの光を...」
それを聞いた男は救いを求めている神官たちに言い放つ。
「ヒヒッ...救いなんてねぇよぉ。仮にあったとしてもなぁ...」
更に不気味な笑みを浮かべ、絶望の言葉を吐き捨てる。
「俺がその光を闇で塗りつぶしてやるよぉ」
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーー現在 首都リーネ
日が昇り、朝が来た。俺は既に起床しており、朝日と共に王城の庭で剣の鍛錬を行なっていた。
ちなみに剣は先日騎士たちから奪ったもので返そうとしたのだが是非使ってください!なんて言われたのでありがたくもらっておいた。
基本の素振り、自分の呼吸に合わせた剣振り、想定する敵との剣技の使い分け。どれも基本であり、それが1つでも欠けると戦況は大きく変わってしまう。
剣技は技術がモノをいう。ただ腕力で降ってるだけでは技術を持った剣士や、知能のある悪魔には絶対に勝てない。
逆に技術があれば素の実力に差があっても技術の有無で差が埋まることもある。
グレン「っ!!...ふぅ、こんなもんでいいか」
多少汗をかき、タオルでそれを拭う。鍛錬でかく汗は少々気持ちがいい。
カイゼル「レン殿」
グレン「ん?カイゼルか」
声をかけられ振り向く。カイゼルはいつもきている鎧はきてなく、薄服で動きやすそうな格好をしていて、腰には訓練用の木こりの剣を二本身につけていた。
カイゼル「鍛錬か?精がでるな」
グレン「なに、勇者時代からの習慣だよ」
カイゼル「ふっ、良ければ一戦交えないか?」
グレン「おう、いいぜ」
剣を鞘にしまいカイゼルから木剣を一本受け取り模擬戦の準備に入る。
グレン「勝敗はどうする?」
カイゼル「先に一撃いれた方というのは?」
グレン「わかった」
カイゼル「準備はいいか?」
グレン「いつでもいいぜ」
相変わらず剣を構えると雰囲気が変わるな。さすがは騎士団長様だ。
カイゼル「ゆくぞ!」
グレン「おう!」
木剣同士が幾度とぶつかり打ち合い続ける。やはりいい腕をしているな。この強さもカルが戦い方を広めた結果なのだろうか。
カイゼル「はぁ!!」
カイゼルが剣を振り下ろすが、振り下ろした軌道を剣で横にいなし、体勢を崩す。
カイゼル「っ!!」
その隙に素早く懐に潜り込み、木剣をカイゼルの首元に突きつけ後一歩のところで寸止めした。
グレン「どうだ?」
カイゼル「...!!.....はぁ、やはり勝てんな」
互いに木剣を下ろし、模擬戦を終了させた。カイゼルは高らかに笑い出しこちらを見る。
カイゼル「はっはっは!レン殿はやはり強い!」
グレン「カイゼルも強いと思うぞ」
カイゼル「お世辞はいい...レン殿が本気を出していないことくらいわかる。東の大森林で戦ったときも」
グレン「...バレてたか」
カイゼル「当たり前だ。炎竜と戦った時とはまるで違かったからな。魔法と剣技を駆使されていたら私如き、一瞬で倒されていたであろうな」
さすがは鋭いな。まぁカイゼルほどの腕なら少し戦えば相手の実力がわかるはずだから不思議ではないのかもな。
カイゼル「それに炎竜に使ったあの技...あれは凄まじかった...あの技は一体なんだ?」
グレン「あぁ、あれはな...龍剣体術っていってな。魔法武術の一種だ」
ーーー魔法武術
魔法とは謳っているがどれも大概は身体強化の魔法と合わせて繰り出す武術だ。
元々は汎用魔法が使えない人間が戦うために作られたのだが…極めれば並の魔法使などとるに足らないほどの実力を身につけることができる。
カイゼル「魔法武術...か」
グレン「知ってるみたいだな。当然か、カイゼルも使ってたもんな。炎竜の首を斬るときに」
カイゼル「さすがレン殿は知っていたか」
グレン「まぁな。抜剣術...だな」
抜剣術...勇者時代にもその魔法武術はあった。バルロッサの兵士が使っていたな。
特徴としては一撃の速さに非常に長けていて、抜剣の極致に至ったものに関してはその剣撃の速さのあまり不可視の一閃と呼ばれるほど。
ただ、一閃の速さは桁外れだが一撃に趣きすぎて小回りの効かないのが短所だ。使い所としては相手の一瞬の隙を狙い仕留める、そんな感じの使い方だ。
カイゼル「そうだ。昔から伝わる剣術でな...これにはとても助けられた」
カイゼルしみじみと感傷に浸る。昔のことでも思い出しているのだろうか。
カイゼル「それで、龍剣体術だったか?聞いたことがないが...あの時は素手で攻撃していたな」
グレン「あぁ、龍剣体術はその名の通り剣術と体術の両方使う武術だ。炎竜に使ったのは【龍穿哮】。魔力を衝撃波に変えて直接打ち込む技だ」
カイゼル「あれはすごかったな、まるで龍の雄叫びのような振動だった」
グレン「だな。というかその抜剣術もそうだろ」
カイゼル「それもそうだった。ところでレン殿はなにか他に魔法が使えるのか?」
グレン「俺は初級の基本魔法しか使えないよ。魔法自体のセンスは皆無でな…一応固有魔法はあるけど」
カイゼル「固有魔法!?それは確か...」
グレン「そうだ、魔法の極致に至ったものだけが習得できる...自分だけの魔法」
魔法は基本属性を司る。その属性は火、水、風、雷、土、闇、の6種類に分類される。
そして固有魔法とはそれとはまったく異なる属性の魔法、他の人では使えない新たな魔法のことだ。
魔法の極致とはいったが実際は魔法が使える人たち全員が固有魔法を習得できることが理論的にはできる。
だが固有魔法は、要は自分に一番合った魔法のことで誰でも習得できるとはいったが、膨大にある魔法の中で自分の合った魔法を見つけ更にそれを自分用に改良しなければ固有魔法は完成しない。
誰でも作れる可能性はあるが作れる保証はない。だからこそ固有魔法は価値が高い。
カイゼル「すごい...さすがは勇者様だ」
グレン「俺の固有魔法なんて大したことないけどな。ミナはもっとやばい固有魔法持ってたし」
カイゼル「それは...かの賢神の固有魔法となれば凄まじいだろうな」
グレン「ミナに魔法を使わせたら右に出るものはいないよ」
それからしばらくカイゼルとの話を楽しみ日の光が王城を大きく照らし出す。
騎士たちも何人か王城の外に出て各々朝の訓練に取り掛かろうとしていた。
カイゼル「む、もう随分と日が昇ってきたな。レン殿、そろそろ出発の準備をしようか」
グレン「わかった、ナルを起こしてくる」
王城の庭を後にし、自分の剣を持って王城内の部屋に戻る。
ーーーーーーーーー
王宮 寝室
寝室のドアを開け、ベッドの上で気持ちよさそうに寝ているナルの体を揺する。
グレン「おーいナル、朝だぞ。そろそろ出発するぞー?」
ナル「んんー...ふわぁ...ますたー...?」
ナルはゆっくりと体を起こし、おぼろげながらも返事をした。まだ寝ぼけているのか目が虚ろとしておりウトウトしているようだ。
普段と比べておとなしいせいだろうか。窓から差し込む光がナルの金色の髪を照らし、まるで天使が現れたような感覚に陥った。
普通にしてればすごい美少女なんだがなぁ...
ナル「うぅ...眠いのだ...後...」
グレン「後5年とかいったら置いてくからな」
ナル「うぐ...じゃぁ...ますたーがちゅーしてくれたら起きるのだ...」
グレン「んじゃ、留守番よろしくな」
ナル「んぬぁ!冗談、冗談なのだ!もう起きた!だから置いていかないでほしいのだぁ!?」
寝ぼけててもからかってくるとは...油断も隙もないなこの神様は。
ナルがベッドから降りて荷物から自分が着ていた服を取り出す。どうやら着替えるみたいだ。
グレン「着替え終わったら王城門までこいよ?」
ナル「うむ、わかったのだ」
自分の荷物を持って部屋を出て再び王城の庭へと出る。
改めて見るとここの王城は大きい。かつてのバルロッサ城の倍くらいはあるのではないか?
すると庭にはさっきまでいなかった騎士たちが数人集まっていた。朝の訓練の時間なのだろうか。
「あ!レン様!おはようございます!」
1人が俺に気づき爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。
グレン「あぁ、おはよ。オリス、だっけか?」
オリス「は、はい!覚えていてくださって感激です!」
グレン「さすがに1日じゃ忘れない」
長旅をしてきたからな、記憶力はいい方だと自分でも思っている。あんま関係ないか。
グレン「これから訓練か?」
オリス「はい、そうです。あ、もしよかったら剣の指導を...」
グレン「あー悪いな。実はこれから行かなきゃいけないところがあって。カイゼルとな」
オリス「そういえば団長がそんなことを...ではまたの機会に」
グレン「別に構わないが...俺の指導はキツイぞ?」
人に教えたことなんてないけど。
オリス「レン様の指導なら耐えられます...!」
グレン「まぁ、機会があればな」
オリス「はい、その時はよろしくお願いします!」
爽やかすぎる青年だ。俺より年下な感じだが強くなりたいという意思は伝わってくる。ちゃんと鍛え上げればそれなりにいい線はいくのではないだろうか。
それから庭にいる数人の騎士たちにも軽く挨拶を済ませ、王城門へと足を運ぶ。
なんか成り行きで依頼を引き受けることになってしまったが、悪くない。勇者ではない新しい門出に少し、期待を膨らませていた。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー
北王城門前
王城門にたどり着くと門の前に馬車が停まっていた。おそらくカイゼルが用意したものだろう。
馬は活き活きとしており今にでも走って行きそうな勢いで鼻を鳴らしている。
早朝だからか中央通りを抜けて走っていく馬車が多い気がする。市場への搬入や他の街への輸出など、そんな感じだろうか。
本当にリーネは大きくなった。あの頃の村の人たちが見たら卒倒してしまうだろうな。
ナル「待たせたのだ、マスター」
しばらく街の風景を眺めていると着替えと準備を終えたのか、ナルが城門から出てきていた。
グレン「ちゃんと目覚めたか?」
ナル「ばっちりなのだ!...だが」
グレン「なんだ?」
ナル「マスターが、ハグの1つでもしてくれればー、もっと目を覚ますと思うのだがー...??」
グレン「さて、荷物を荷台に乗せとくか」
ナル「むぅー!最近わたしの扱いが酷いのだ!もっと敬えなのだ!」
だったら敬えるような態度を取って欲しいものである。普段の自分を客観的に見てほしい。
ぷんすかしてるナルをいつも通りスルーし、荷物を乗せる。乗せた荷物から地図を取り出し、これから行く場所と陸路の確認をする。
このリーネからノイス聖堂までは然程離れてはいない。道も比較的緩やかで道中に山や大きな川なんてものもないが少し森の中を進むことになる。
さすがに徒歩で行くと時間がかかってしまうが馬車なら1日あれば着くだろう。
その距離だからこそ連絡が取れないというのは異様だ。なにか問題が起きているのは確実だろう。それが単に忙しいのかなんらかの理由で聖堂に近づけないのか...敵襲を受けたのか。
理由はわからないが最悪の状況を想定した方がいい。まぁそのために昨日は色々買っておいたのだが。
ノイス聖堂...あいつの育った場所が襲われてるってんなら、助けないとな。
カイゼル「待たせてすまない、レン殿」
そんなことを考えてるうちにカイゼルがやってきた。これで全員集合ってわけだな。
グレン「さっきぶりだな。てかやっぱその鎧着ていくんだ」
カイゼル「当然だ、これは全て戦うためには必要だからな」
そういえばただの鎧じゃなくて魔法を封じ込めた鎧だったな。そりゃ着てくるのも納得か。
カイゼル「ところでナル殿は機嫌がよろしくなさそうだが」
グレン「気にしなくていい、いつものことだ」
カイゼル「左様か」
ナル「ちょっとは気にするのだぁー!!」
ナルは大変ご立腹のようだ。これ以上からかうのはよしておこう。
グレン「さて、出発するか」
カイゼル「そうだな」
ナル「ぐぬぬ...覚えておれマスターめ...」
そんな戯れを置いて馬車へと全員乗り込む。馬が鳴き声を上げ、荷車を引き始めた。
やがて砦門に近づき、馬車の遠征の許可をそこで申請して門の外に出る。
1日ぶりとはいえ外の景色は圧巻だった。今のリーネは砦に囲まれているからな。村育ちの俺にとっては狭苦しく感じていた。
馬車に揺られながら外の風に当たる。こうしてみると勇者時代の旅を思い出す。あの頃は悪魔と戦うのに必死だったけど、4人で笑いあって、何気に楽しい旅だったな...
本当に楽しかった...ユリハが死ぬまでは。
年月的には200年が過ぎてはいるが、俺にとってはつい最近の出来事だ。あの日は昨日のことにさえ思える。
だけどなんでだろうな、悲しい。悲しいんだが、思ったよりかは心が折れていない。
感情が失うとまではいかないが、若干だが薄まってきている気がする...いや違うな。もっと言うならそう、普通の感覚とズレているような。
これも悪魔の血を浴び過ぎた影響なのだろうか...
ナル「どうしたのだマスター?さっきから考え込んでいるのだ」
グレン「........」
まぁ、そんなことはどうでもいいか。たとえ感情が薄まろうとズレようと、この気持ちだけは変わらない。
グレン「なんでもないよ」
ナル「わっ...いきなり撫でるなマスター」
大切な人達だけは、俺が絶対に守ってみせる。
二度と、失わせはしない。
前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください
このSSへのコメント