2021-07-13 00:57:57 更新

概要

俺は死んだ、常に競り合ってきたライバルに力を託して。

そして俺は目覚め、出会った。どこまでも純粋で、真っ直ぐな「艦娘」達と。



その時、止まった筈の俺のーーー滝沢直人の時間が、再び動き出した。


前書き

今回は、「艦これ」と「未来戦隊タイムレンジャー」のクロスオーバーです!

一応タイムレンジャー知らない方でも楽しめるように書いていますが、
タイムレンジャー(特に本作の主人公の滝沢直人と原作の主人公の浅見竜也)
についてググってから見て頂けるとより一層楽しめると思います!
(ただ最初辺りは直人の身の上話になってしまうので、
そこは原作知らない方には分かりづらいと思います…………ご勘弁をm(_ _)m)

時系列的には、タイムレンジャー第49話からの分岐という形となっています。


*注意*
(文が多少ごちゃごちゃしてます)
(不定期投稿なので、気長に待って頂けると嬉しいです!)
(多少キャラ崩壊する可能性があります…ご注意を)
(タイムファイヤーは出すつもりですが、序盤は直人と艦娘の交流を中心に書くので、暫く出ません)

以上を踏まえた上で『読んでも良いよ!』という方は、本編をどうぞ!!




まだ寒さの厳しい冬の夕暮れ、俺は一人地面に仰向けで倒れていた。






???「直人!!!」




此方に駆け寄ってくる、腐れ縁の聴き慣れた声が俺ーーー滝沢直人(たきざわ なおと)の耳に入る。


そしてそのまま、俺の身体が抱き抱えられる。



???「直人!しっかりしろ!」



直人「……よお」




こんな時にまで平気そうに振る舞う辺り、我ながら相当な意地っ張りだと思う。




………こんな血塗れで無残な姿では平気だと誤魔化しようが無いが。





???「直人……」






苦しみながらも上体を起こし、前を見る。

そこには、倒れた籠の中で元気に羽ばたいて居る小鳥が。





……結局、『力』という名の籠に囚われた人生だった。己の生き方は、最後まで変えられなかった。



なら……もうここで終わってしまうなら………せめて………




直人「………浅見。お前は、変えて見せろ。」





そう言い、俺は最後の力を振り絞り、自分の左手首に装着していた己の力の象徴ーーーVコマンダーを外し、

目の前の男ーー浅見竜也(あさみ たつや)に差し出した。



それは、これから死地に赴く事になるであろう、己の生涯のライバルであった男への、最初で最後のエール。



それを浅見は、暖かな『手』ーー何度も俺に向けて差し伸べ、俺はいつも拒絶していたーーで、しっかりと受け取る。


その直後、とうとう限界を迎えた俺の体から力が抜ける。



竜也「!!!」




竜也「何でだよ………何で死ななきゃいけないんだよ………!」



ーーーさあ、何でだろうな……

力を求め過ぎた『代償』ってヤツなのかもな……





竜也「何で‼︎‼︎うわァァァァァァ‼︎直人ォォォォォォ‼︎‼︎」





浅見が泣き叫ぶ。




直人(うるさい………最期くらい……ゆっくり……寝かせろ……)



そう口にしたかったが、今の俺は口どころか瞼すらも開けられない。







直人(……終わってみれば、案外つまらない人生だったな……)


己の道を貫く為に力を求め、力を手に入れた後もさらに求め続け、その先にあったのは、優越感でも達成感でもなかった。





-----そこにあったのは、終わりの見えない不安、果てしない虚無感、そして、自身の『破滅』だった。







直人(『力に溺れる』とはよく言ったものだな……)



内心、皮肉げに嗤う。


そうだ…俺は、抗えずに『溺れた』んだ。


己の力に………







……………そして、『運命』に。








直人(……結局、浅見との腐れ縁は最後まで続いたな…)




俺と浅見は高校時代、空手のインターハイ決勝で出会った。




その時、俺は勝ったのだが……実際は浅見の自滅の様なものだった。



俺はその勝利にどうしても納得できず、決着をつける為に、浅見を追いかけて同じ大学に推薦入学した。


だが、そこは金持ちのセレブ達が通う大学で……庶民である俺は取り巻きとしか扱われなかった。


そんな中、浅見だけは対等に接しようとしてくれていた。しかし俺はそれを拒んだ。




……俺からすれば金持ちの「情け」でしかなかったからだ。


周りの傲慢さに嫌気がさし、俺は大学を中退した。(今思えば、これが力を求めるきっかけだった)









……大企業「浅見グループ」の御曹司、それが浅見の立場だった。


強大な力と、確約された安寧……其れらを浅見は生まれた時から与えられていた。


しかし、本人はそのまま甘んじて『浅見の敷いたレール』に乗って進んで行く事を嫌がり……





………現実から目を背けて『浅見』という力から『逃げて』いた。






力を持っていない俺からすれば、それは『甘え』としか言いようがなかった。



『浅見』から逃げながら、常に自分の本心を隠す為にヘラヘラと笑いながら生きている浅見がーー





----何よりも、腹立たしかった。





そんな浅見と俺は常に対立した。

時には血みどろの殴り合いになるまで……


だが…「自分の明日は変えられる」を信念とし、常にブレずに明日へ向かってもがき続ける浅見を認めてもいた。



だからこそ、俺と浅見はライバルで居続けた。


『きちんとした決着』は最後までつけられなかったが……






……だが、もし今の俺と浅見が万全の状態で勝負していたら、十中八九、俺は負けていたと思う。




何故なら……





アイツは、『浅見』と言う自分の力と向き合う覚悟を完全に固めたからだ。


……自分の生き方を変えて見せると俺に言って見せたからだ。






-------


ー数時間前ー

浅見『生き方は変えられる筈だ。…決めるのは自分自身なんだから。

   ………俺、変えるよ。生き残ったらね。』




ーーーーーーー





この時、初めて俺は、『浅見に負けた』と思った。



そして、浅見が変えた『生き方』をーー自分が生き残れない事を薄々分かっていてもーー




………見てみたくなった。




だから俺は、自分の意思でVコマンダーを託した。



浅見の『明日』を切り拓く手助けをする為に。



……俺の分まで、生きてもらう為に。





直人(もし、俺も自分の生き方を変えられていたら……)





ーーー浅見を、越えられたかもしれない。



そんなたらればが脳裏をよぎる。



今更そんな物は無意味だと知りながら、それでもつい想像してしまう。




直人(結局、最後まで追い越せなかったな……)



内心死ぬ程悔しいが(もうすぐ死ぬんだが……)


………何処か清々しい。



直人(浅見……俺の分まで生きろ… そして…自分の未来を掴め……)



そう思ったのを最期に、俺の意識は完全に途切れた。



ここで、俺ーーー滝沢直人の人生は幕を閉じた。








------はずだった。










[Case File 0: 死、その先に]












[Case File 1: 炎の新提督]





まず最初に目に入ったのは、白い天井だった。


感覚からして、俺はベッドに寝かされているらしい。




直人「……此処は…?」




身体を起こして周囲を見渡す。




綺麗に整理された薬品の入った棚

幾つか並んでいる清潔感のあるベッド

所々に見受けられる様々な医療器具




……どうやら此処は救護室の様な場所らしい。



そして、窓の外に広がるのは、昼の日光を浴びてキラキラと輝く海。


此処は海の近くにある様だ。




何故俺はここに居るのか……?



自分の記憶を辿ってみる。




直人(俺は……確か………っ‼︎‼︎)





瞬間、全てを思い出す。



直人「そうだ……俺は……」







ーーー死んだんだ。





しかし、そうなると、この状況は益々理解出来ない。




直人(俺は……あの後生き残れたのか?)



直人(それとも……)



そう考えながら、俺は自分の左手首を見る。



そこには、『何も無かった』



直人(それもそうか…Vコマンダーは浅見のヤツに渡したからなぁ……)





続いて自分の姿を見る。



今の俺が身に纏っているのは、入院着だった。

最期まで俺が着ていた民間警備会社ーーーCGC(シティガーディアンズ)の隊服では無い。




直人(……待てよ?)



そうして今の状況を整理していく内に、俺はある『違和感』を覚えた。



俺はあの時、瀕死の重症を負っていた……治るとしても完治にはかなりの時間が必要な筈……




ならば何故……






………俺は、さっき『痛みを全く感じること無く』身体を起こせた?





まさかと思い、俺は入院着をはだけさせ、胸元を見た。



そこには……






『傷一つ無かった』







直人「……一体どうなってるんだ??」



俺は死ぬ少し前に少女を庇って大勢の機械兵士ーーゼニットに正面から確かに撃たれた。



……最も、それらは致命傷には至らなかったが、身体から所々血は流れ、吐血する程には内臓もやられた。




さらに死ぬ直前、俺は背後から致命傷を受けた。



……正直、致命傷を負ってから浅見が来るまでの間、よく生きていたと自分でも思う。



それ程の重体だった。



それなのに、傷跡はおろか手術痕すら無いのはさすがにおかしい。




今の状況を整理すればするほど浮き彫りになる『矛盾』。



あまりにも混乱しすぎて、俺の頭はパンク寸前だった。



そこへ……



誰かがドアを開けて部屋に入って来た。




???「……ようやく目を覚ましましたか。」




来訪者を見た瞬間、俺は自分の目を疑った。


それは、鮮やかなピンク色の髪を後ろで一つに結んだ、中学生程の年の、セーラー服を纏った少女だったからだ。


直人(人間の髪はここまで鮮やかな色は出せない……染めているのか?)


直人(それにこの服装だ……コスプレイヤーか何かか?)



『まあ今それはどうでも良い』と結論付け、俺は来訪者に言葉を投げかける。



直人「お前は……?」



???「……不知火です。」



直人(名字が『不知火』って言うのも珍しいな…)



直人「……お前が俺をここに運んでくれたのか?」




不知火「ハイ、海岸で倒れていたのを不知火が保護しました。」



俺の中で、この不知火の一言が何か引っ掛かった。






直人「……ちょっと待て。俺は『海岸で』倒れていたのか?」



不知火「ええ、この服を着て倒れていましたよ?」



そう言って不知火は抱えていた物を俺に差し出した。



それは、まごう事なき俺が死に際に纏っていたCGCの隊服だった。





不知火「その服、最初から血塗れで、たった今洗濯が終わったんですよ?」




不知火「本当に驚きましたよ。血塗れの服を着て人が倒れているんですから。


    …まあ目立った外傷は無かったので何よりです。」





直人「………」






直人(……本当にどういうことだ?俺が死んだ筈の所は都市のど真ん中……海岸に流れ着く訳がない)



直人(日本では水葬が禁止されている筈、だったら俺の身体が海に流される事もあり得ない。)



直人(仮に流されたとしても、それは俺の遺体だ。蘇生出来る筈もない)



直人(それに隊服だ…隊服が血塗れだったなら、俺の身体が無傷である事が説明できない…)



直人(俺は確かに、傷を負ったんだ…)



直人(かと言ってここが死後の世界だとも思えない…)



直人(まだ俺には、『生きている』感覚がある…)





不知火「あの……?」





不知火の一言で俺は我に帰る。





直人「……すまない。少し考え事をしていた。」




不知火「いえ……そういえば貴方の名前を聞いていませんでした。」




直人「……そうだったな。俺は滝沢直人だ。」




不知火「滝沢さん、ですか……」





直人(取り敢えず、今の俺に必要なのは『情報』だ… コイツから引き出してみるか……)



そう決めて、俺は不知火に話しかける。



直人「いくつか聞きたい事がある。聞いても良いか?」




不知火「不知火がお答え出来る事なら…… 但し条件が有ります。」




直人「……聞こうか。」



不知火「不知火も滝沢さんに聞きたい事があります。

    滝沢さんからお先に質問して頂いて良いので、それに後で答えて下さい。」



直人「……分かった。それで良い。」




……正直、俺はこの時不知火に少し驚かされた。



この少女、どうやら臆せずに大人とうまく交渉出来る程の度胸と頭脳があるようだ。



『この少女を甘く見ていると痛い目に遭う』と肝に銘じて、早速質問を始める。



直人「まず最初の質問だ。……ここは何処だ?」



不知火「日本の神奈川県にある、横須賀鎮守府です。」



直人「鎮守府……?確か昔の日本海軍の根拠地だったって言う、あれか?」



不知火「……?何を言っているんですか?鎮守府は今も機能していますよ?」



直人「……何? だとしたら今は何年だ?」



不知火「西暦2021年ですよ? ……本当に何を言っているんですか?」





それを聞いた瞬間、俺は絶句した。




不知火が怪訝な視線を俺に向けてくる。


しかし俺はそんな事は今どうでも良かった。



直人(……2021年だと?俺の知っている時代より20年も後じゃないか⁉︎)



直人(俺はコールドスリープかタイムスリップでもしていたのか…?)



直人(しかしこれは不知火に聞いても意味がないだろうな。……仕方ない、保留しておくか。)



直人(……それに鎮守府が現代でも機能しているというのが引っかかる。)



直人(俺の知識が正しいなら、鎮守府は自国の防衛、他国への攻撃を主な目的としていた筈。)



直人(それが今も機能しているということは、その必要があるという事…)





直人「……なあ、今鎮守府は一体何と戦っているんだ?」





俺は不知火に聞いてみる。


すると、不知火はより一層怪訝な顔をした。





不知火「……?? 深海棲艦に決まっているじゃないですか?」



直人「シンカイセイカン?」



不知火「………本当に何も知らないんですね……」




不知火は呆れながらそう言うと、一から俺に丁寧に説明してくれた。(この少女はツンとした見た目に反して根は優しいようだ)



そして分かったのは、


この世界の人類は8年ほど前から深海棲艦に制海権を奪われた事。

深海棲艦にはいかなる現行の兵器でも歯が立たない事。

そして、深海棲艦に対抗できるのは、軍艦の魂を宿した『艦娘』だけであるという事。





直人「……成る程な。」



不知火「お分かりいただけたなら何よりです。」



直人「正直信じられんがな……」



直人(そう、信じられない。)




不知火の話を聞きながら、俺はある『仮説』を立てていた。



それは、自身でも到底信じられないような仮説だった。


しかし、確かめる価値はある。


その『仮説』が正しいか否か知る為、俺は意を決して不知火に質問する。




直人「……最後にいいか?」



不知火「どうぞ。」



直人「『タイムレンジャー』『ロンダーズ』『シティガーディアンズ』……これらの言葉に聞き覚えは?」



不知火「……どれも知りません。不知火は初めて聞きました。」



直人(やはりか……)


西暦3000年からやって来た犯罪者集団『ロンダーズ』と、それを追って同じく西暦3000年から来た『タイムレンジャー』


そして、ロンダーズに対抗する為に、浅見の父であり、浅見グループ現会長浅見 渡(あさみ わたる)が設立したーーーそして俺も所属していた現代人で構成された民間警備会社『CGC(シティガーディアンズ)』


今出した単語は、俺の世界であれば誰もがどれか一つ位は聞いた事のある物だ。


20年過ぎたとしてもそう簡単には風化しないだろう。





……それらを不知火は『初めて聞いた』と言った。




直人(………間違いない。此処は……)






直人(………俺のいた世界じゃない。)






俺はそう結論づける。



直人(……受け入れるしか無い。この状況を。)



戸惑っていないと言えば嘘になる。だが……



直人(受け入れないと、進めない。)



俺は、進まなければならない。



何故俺は生きているのか。何故俺は此処にいるのか。俺はこの世界でどうすればいいのか。俺のいた世界はどうなったのか。




………浅見は生き方を変えられたのか。




……それらを知る為に。



不可能な事かもしれない。その前にもう一度死ぬ事になるかもしれない。それでも進まなければ、いや………






直人(俺は進みたい……!)



直人(自分の生き方を、今度こそ変えたい……!)





知りたい情報は最低限得る事が出来た。後は……





不知火「……質問はもういいですか?」



直人「ああ……一応な。」



不知火「それでは次は不知火から質問させて頂きます。」





……報酬を支払うだけだ。









不知火「……といっても不知火の質問は職務なので、そこまで深入りした質問はしません。ご安心を。」



無表情のまま、不知火が話す。



これから不知火は俺に住所、職業などの最低限の職務質問だけをする気なのだろう。



そして恐らく、実際にそうするだろう。



それを理解させて俺を安心させようとしているのだろうが……




直人(今の俺は全く安心出来ないんだよな……)




何しろ今の俺は職無し家無しで、何も答える事が出来ない。


その上、俺は『海岸に血塗れの服を着て倒れていた男』と向こうに認識されている。


さらに『艦娘』『深海棲艦』と言ったこの世界の常識も知らない。



……こんな人間、怪しく無い訳がない。



直人(まあそんな人間居たら俺でも疑うしな……)





……つまるところ、『絶体絶命』なのだ。




直人(生き方を変えるのは一筋縄じゃいかないか……)



直人(さて、どうしたものか………ん?)





直人「……なあ、質問を打ち切ったばかりで申し訳ないが、聞かせてくれないか。鎮守府にはどんな職種の人間が勤めているんだ?」



不知火「………まあ良いでしょう。」



不知火「そうですね……普段勤めているのは、『艦娘』達とそれを指揮する『提督』、そしてそれらを取り締まる『憲兵』ぐらいですね」





先程、不知火は今からする質問は『職務』だといった。職質ごときで、鎮守府のトップが簡単に出て来る筈が無い。



そして、セーラー服を纏って勤務している憲兵と言うのも有り得ない。憲兵には軍服が必要な筈だ。



直人(……まさか)



直人「ありがとう、ついでにもう一ついいか?」



不知火「……本当に最後にして下さいよ……」



直人「悪いな。この一連の質問が終わった後、今度こそお前の質問に答えよう。」



直人「……不知火。お前は、艦娘だな?」



二人の間で、少しの沈黙が流れる。




不知火「……ええ、私は陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です。」




直人「……艦娘ってのは、皆お前ぐらいの年齢の少女なのか?」




不知火「ええ……年長者の戦艦の人達でも20年代、海防艦の子達なんて、小学校1年生程でしょうね。」





直人(……じゃあ何だ、この世界ではコイツの様な年端もいかない少女達を戦わせてるって言うのか?)



その事実にも驚かされたが、『ある』疑問も残った。




直人(『一年生程でしょうね』って言うのはどういう事だ?口ぶりからして、学校はあるんだよな……何故はっきりと言わない?)



そう、ここに来て不知火の言葉が少し曖昧になって来ているのだ。



……序盤の質問にはハキハキと答えた不知火が。



瞬間、俺の頭がある『仮説』をまた提示してくる。




それは……現実であって欲しく無い仮説だった。






直人(もし、学校があっても『行けない』のだとしたら……)



……辻褄が合う。



直人(……不知火。少し、核心に踏み込ませてもらうぞ。)



そして俺は不知火に聞く。 ……この疑問の核心をつく最後の質問を。



直人「……なあ、艦娘ってのは人間と同じ扱いを受ける事が出来ているのか?」



先程よりも長い沈黙が流れる。



流石に酷だったかと思い、質問を撤回しようとした時、不知火が口を開いた。



不知火「……どうでしょうね。」



ここに来て初めて、不知火があからさまに茶を濁した。



それは『答え』にもなっていて……



直人「……まさかおま「質問は以上ですね?ではこちらの質問に答えて頂きます。」



俺の言葉は不知火に掻き消された。




……今まで冷静で静かだった不知火が強引に話を逸らそうとしている。



直人(……流石に踏み込み過ぎたか)




聞かなくても良い事を聞いた後悔の念と不知火への罪悪感が湧いた。




直人「……不知火、すまなかった。」



不知火「……いえ、不知火も少し強引過ぎました。」



そして、不知火が職務質問を始める。



俺はどうしようも無かったので、

『山奥から降りて来て、今までずっと山奥で過ごしていた。服の血は森を降りている時に出会った熊を食用の為に殺した時の返り血で、その後力尽きて海岸で倒れた』


……という設定で対応した。




直人(……我ながら無理あるな。)



しかし、何故か、不知火は追及してこなかった。そして……



不知火「では、以上で職務質問は終了です。お疲れ様でした。」




直人「……良いのか?こんな胡散臭い奴を追及しなくて。」



つい聞いてしまう。

不知火が答える。



不知火「………自分の非を認めて、他人に謝る事の出来る人は悪人ではないと思うので。それに……」



直人「それに?」



不知火「……私は一回貴方との約束を破りました。」



直人「?」



直人(そんな事あったか?)



不知火「……私は、貴方の質問には『不知火の答えられる範囲』で答えると約束しました。」



不知火「ですが、不知火は『艦娘と人間は同じ扱いを受けられているか』という質問にあえて答えませんでした。」



直人「……正直あれは答えになっていたと思うんだが?」



不知火「不知火はそう思っていません。」



不知火「だから、滝沢さんも一回私との約束を破る権利があると思いました。」



不知火「なので、身分についてはそういう事にしましょう。」





……そこまで聞き、ついに俺は笑いが我慢が出来なくなった。





直人「………クックックック」



不知火「なっ……! 笑わないで下さい!不知火に落ち度でも⁉︎」



直人「落ち度しか無いだろう。上にバレたら軍法会議ものじゃないのか?」



不知火「それはそうですが……!」



直人「……お前、よく周りから『バカ真面目』とか言われてないか?」



不知火「うっ………」





どうやら図星のようだ。




尚更笑いが止まらなくなる。




だが、赤面して、今にもショートしそうな不知火を見て流石にやめようと必死に笑いを抑えた。




直人「……その真っ直ぐな所は、お前の長所だ。これからも大事にしろよ。」



不知火「……ハイ……」



今にも消え入りそうな声で不知火が返事をする。





果たして彼女の赤面は羞恥によるものなのか、はたまたべつの物なのか……





不知火「それではこれで失礼します今後の説明の為に明日の昼改めて来ますそれでは」





不知火が早口で捲し立てる。



……どうやら羞恥だったらしい。





直人「…ちょっと待て」




急いで部屋を出ようとする不知火を呼び止める。




そして、真顔で不知火の目を見据え、声のトーンを落とし、励ましとは別に警告も送る。





直人「覚えておけ。今後は自分の事を考えて行動しろ。かといって自分の事しか考えないのも止めろ。」



直人「……どちらも、自分の身を滅ぼすだけだ。」






不知火「滝沢さん……?」





不知火が戸惑う。  


……どうやら少し空気を重くし過ぎたようだ。



直人「……要するに、優先度を自分と他人のどちらかに偏らせ過ぎるなって事だ。それだけ覚えててくれれば良い。」



不知火「ハイ……」



直人「……呼び止めて悪かったな。もう行ってもいいぞ。」



不知火「では……とりあえず今の所、食事は今晩と明日の朝、昼の3回あるので、その都度係の艦娘が運びますね。」



直人「わかった。」



不知火「それと……滝沢さんには申し訳ありませんが明日の昼までこの部屋からは出られません。」





……どうやら俺は明日まで軟禁状態らしい。






直人「……理由を聞いてもいいか?」



不知火「今、海軍大本営の元帥殿が、ここに視察に来ていらっしゃっているんです。」



直人「成る程……それが明日までだから、部外者の俺に余計な事をさせないようにする為か。」



不知火「話が早くて助かります。」



直人「分かった。じゃあまた明日な。」



不知火「……はい。それでは滝沢さん、今度こそ失礼します。お大事に。」





そう言って、不知火は部屋を出て行った。





直人(あの愚直とも言える程の真っ直ぐな信念……どこか浅見に似ていたな。)




そう思いながら、俺はベッドに再び横たわる。



時間はたっぷり有る。今日一日、今後について考えるとしよう……





------




不知火「はぁ……」




滝沢さんのいる部屋の外で、不知火は溜息を吐きます。




不知火(なんだか、目が鋭くて、少し怖くて、けれどどこか優しい人でしたね……)



滝沢さんの人柄を分析しながら、不知火は無人の廊下を歩きます。




不知火「……あの人が私達の提督だったなら良かったんですが……」





ーーーそんな独り言をポツリと呟きながら。




------




ー夜ー



考えに耽っている内に、どうやらもう夜になった様だ。



俺は部屋の壁にかけられていた時計に目を向ける。


現在の時刻は………午後7時。





直人(そろそろ夕飯時だな…)





そう思った矢先、外の廊下から1つの足音が聞こえてきた。さらに車輪の回る様な音も混じっていた。



そして音はこの部屋のドアの前で止まった。




直人(……噂をすれば、か)



ドアがノックされる。



???「失礼する!夕食を持って推参した!」



ドア越しに聞こえるのは元気な声。



直人「……どうぞ」




俺が入室を促すと、そこから入ってきたのは黒髪を腰の高さまで伸ばし、後髪の一部を左右前方に出して赤いリボンで結んだ少女だった。



そして、(不知火と同じく)セーラー服調の服を身にまとっていた。


さらに、料理が入っているであろうワゴンも持ってきていた。





直人「……名前を聞いてもいいか?」




俺がそう言うと、少女は明るく答えた。





???「勿論!私は陽炎型駆逐艦12番艦、『磯風』だ。 よろしく頼む!」





直人(……元気な奴だな……)



直人(……ん?『陽炎型駆逐艦』?」





直人「……なあ、ひょっとしてお前って不知火の……」






磯風「うむ。私は不知火姉さんの妹だ!」






直人(……全く似てないな……)



…………という声は心の内に留めて置くとしよう。






直人「そうだったのか。お前の姉には世話になったよ。」




磯風「そうか……なんだかんだ言って不知火姉さんは面倒見が良いからな!」




直人「……なんだかんだは余計じゃないのか?」



磯風「今は姉さんは居ないから大丈夫だろう。」



直人「……そうか。」



直人(……明日の昼不知火に告げ口してやろうかな?)




そんなことを少し意地悪に考えていると、磯風が口を開いた。





磯風「さあ、これが今晩の食事だ。どれも私が腕によりをかけて作ったんだ!」





そう言うと磯風は、ワゴンから蓋のついた料理を取り出し、テーブルに並べ始めた。


数多くの皿が、テーブルを埋め尽くしていく。この量を作るのは、相当な手間と苦労があった筈だ。






直人「……ほぉ、ソイツは有り難い。…こんな余所者の為に手間をかけさせてしまってすまないな。」



直人(……不知火に告げ口するのはやめておくか。ここまで俺に尽くしてくれた磯風に申し訳ないしな。)






磯風「いいさ、それに………いや、何でもない。」




直人「?」






磯風が何かを言いかける。一体何を言おうとしたのだろう?



直人(……まあ良いか。俺には関係無い事だろう。)






磯風「……さあ!どれから食べる?」





磯風が笑顔で聞いてくる。




……ここは素直に、磯風の厚意に感謝してあやからせて貰うとしよう。




そうと決まれば………



直人「そうだな……」





俺は何を食べようかしばし思案する。そして……





直人「それじゃあ、汁物はあるか?最初はあっさりした物から口にしたい。」




磯風「味噌汁で構わないか?」




直人「ああ、それで良い。頼む。」




磯風「わかった。確か味噌汁の入った椀は………あった、これだな。 ほら、冷めない内に食べると良い。」






そう言って磯風は蓋付の小さなお椀と箸を一膳、俺に手渡してくれた。




直人「有難う。……それじゃあ、いただきます。」





食前の挨拶を済ませ、俺がお椀の蓋を取ろうとした時………






ドタドタドタドタドタドタ




直人(……なんだ?)





部屋の外の廊下から、複数の足音が近づいてきた。




直人(足音からしてかなり急いでいる様だが、何かあったのか?)



俺は何が何だかよく分からなかったが……





磯風「チッ……!もう来たのか⁉︎」




直人「?」




……どうやら磯風には心当たりがあるようだ。





直人「おい磯風、これってどういう………」





俺が磯風に聞き終える前に……






バァン!!

………部屋のドアが蹴破られた。






直人・磯風「!!!」ビクッ





直人(なんなんだ一体⁉︎)




余りにも突然だったので、俺はドアの方を反射的に見る事しか出来なかった。




そこから部屋に入って来たのは………








不知火「総員!磯風と料理を確保しなさい‼︎」




「「「「「了解です不知火姉さん!!!」」」」」








…………つい数時間前に『また明日』と言って別れた不知火と不知火率いる陽炎型部隊だった。










不知火「嵐、浜風は直ちに磯風を確保して下さい!」




部屋に入ってから開口一番に、不知火が指示を飛ばす。





嵐「OK!……というわけで、ごめんな磯風姉さん!」


浜風「磯風……後でたっぷりお話しましょうか?」




そう言い、『嵐』『浜風』と呼ばれた二人が磯風を取り押さえる。





磯風「なっ……!酷いぞ二人とも!」






磯風がジタバタともがいて抵抗するが、嵐と浜風にガッチリとホールドされていて動けなかった。




そして不知火が再び指示を飛ばす。



不知火「そして天津風、浦風、雪風は料理を回収した後、厨房で現在代わりの食事を作っている萩風のサポートをお願いします!」





天津風「了解したわ。」

浦風「浦風に任せんさい!」

雪風「了解です!」




さらに、『天津風』『浦風』『雪風』と呼ばれた3人がテキパキと手際良く料理をワゴン内に回収していく。





磯風「や、やめ、やめろぉぉぉぉ!!」



磯風「クッ……!何でこんな事をされなきゃならないんだ⁉︎」




取り押さえられた磯風が叫ぶ。




直人(……同感だ。何で磯風が拘束される羽目になるんだ?)






そんな風に疑問に思っていると、嵐と浜風が口を開いた。





嵐「そりゃぁ、なあ?」


浜風「磯風の殺人料理の犠牲者を出さない様にする為に決まってるじゃないですか?」





直人(………殺人料理?)



………今何だかとてつもなく不穏な単語を聞いた気がする。





直人(……まさか……!)




嫌な予感がして、俺は急いで手に持ったままだったお椀の蓋を開けた。









………そこには、到底食べ物とは思えない様な毒々しい紫色の液体が入っていた。



さらにそこから、独特の刺激臭が漂う。






直人「…………。」







………俺は黙ってそのまま蓋を閉じた。





そして心の底から思った事はただ一つ。



直人(不知火達が来てくれて本当に助かった………)




磯風の前では言いづらいので、今度改めて不知火に礼を言おうと考えていると、不知火が俺に近づいて来た。




不知火「滝沢さん…お騒がせして本当に申し訳ありません。」




不知火が俺に頭を下げてくる。




直人「よせ……。 それより何があったんだ?」





俺は不知火に頭を上げさせて、事情を聞いた。




不知火「本来、今晩の滝沢さんの食事は、陽炎型の中でも料理が得意な『萩風』が作る筈だったのですが……」




不知火「その………こちらの手違いで、艦隊で一、二を争う程料理が下手な『磯風』に連絡が行った様で……」





不知火「……今回は完全に不知火の落ち度です。……本当に申し訳ありませんでした。」




直人「……頭は下げるなよ、もう謝罪の意思は十分に伝わったからな。」





そう言って、不知火がもう一度頭を下げようとしたので、その前にやめさせる。





直人「……そうだったのか。」



直人(どうしてここまで盛大な手違いが起こったのかは少し気になるが…)





不知火が磯風の方に向き直る。




不知火「磯風、何でこんな事を?」




不知火「貴方途中から料理が下手な自分の仕事ではないと薄々気づいていたでしょう?」




磯風「うっ……!」



磯風「………。」



磯風「不知火姉さん、滝沢さん、皆……すまなかった。」





磯風が謝罪の言葉を述べる。






磯風「……特に滝沢さん、騙していて本当に申し訳無かった。」



磯風「最初に料理の味と『目的』について説明しようと思ったんだが、言い出せなかったんだ。」



磯風「私は、料理で感謝された事が無かったから……滝沢さんの感謝の言葉が、心の底から……嬉しかったんだ。」



磯風「……本当にすまない。ただこれだけは信じてくれ。」



磯風「私はただ……滝沢さんに料理の感想を聞きたかっただけなんだ……!」



磯風「こんな料理が下手な自分を変えたいから……第三者の率直な意見を聞きたかったんだ……!」





本当に申し訳無さそうにそう言って、磯風は深々と頭を下げた。




ここで俺は全て理解する。少し前に磯風が言いかけたのは……こういう事だったのだ。




直人「………。」





俺は磯風をじっと見つめる。



……自分を変える為に、今目の前で行動している少女を。




……それは、前の世界で俺には出来なかった事。



直人(コイツは自分と必死に向き合おうとしている……)




視線を手元の椀に向ける。


……作った理由はどうであれ、磯風がこれを一所懸命苦労して作ったのは確かだ。




直人(……だったら)




そこへ、天津風と呼ばれた少女がこちらに近づいて来た。




天津風「……お話の所申し訳ないけど、そのお椀も回収させて貰うわよ。」




そして、俺の手元にある椀に手を伸ばそうとした天津風を片手で制止する。





天津風「………?」





天津風が不思議そうに首を傾げる。


俺は、その姿を横目に見ながら、磯風に語りかける。





直人「……おい磯風。」



磯風「‼︎」ビクッ



磯風が震える。俺に怒られるとでも思っているのだろう。俺自身そんな気は毛頭ないが。




直人「……俺の感想が聞きたいんだったよな?」




その言葉を聞いた瞬間、部屋にいた艦娘全員がギョッとした目でこちらを見た。




天津風「あなた正気⁉︎」

浦風「やめといた方がええよ?」

雪風「雪風もやめた方が良いと思います!」

嵐「おいおい、マジか?」

浜風「私は絶対にお勧めできません!」

不知火「無茶です、滝沢さん!」



磯風「そ、そうだ!正直今皆の言葉でとても傷ついているが、私もやめておいた方が良いと思うぞ!」





全員の制止を無視して、俺は箸を手に取る。





磯風「どうしてそこまで……?」





磯風が聞いてくる。




直人「別に……。俺の為に作ってくれたんだ。食べない事が一番の無礼になると思っただけだ。」




そう言って俺は、もう一度椀の蓋を取る。辺りに刺激臭が再び漂う。




直人(……改めて見てみると凄い色だな…)



椀の中を覗き込みながらそう考える。



ここまで来たらもう後には退けない。




直人「……いただきます。」




意を決して椀に口をつけて味噌汁を口に流し込む。




味はと言うと………







………正直言って、予想を更に数倍上回る不味さだった。



一言で言い表すなら、まさに『混沌』。



何度も気分が悪くなったが……




直人(残すのは、磯風に申し訳ないからな……!)




決して途中で箸を置いたりはしない。きっちり最後まで腹に流し込む。



直人「………ご馳走様でした。」



不知火「誰か!滝沢さんに何か飲み物を!」





それを見た不知火が急いで指示を出し、雪風がワゴンに入っていた水入りの2Lペットボトルを持ってくる。



それを奪い取る様に受け取ると、水を一気に飲み干す。




直人「ふぅ………」




ようやく落ち着いた俺に艦娘達が一斉に駆け寄る。




不知火「滝沢さん!大丈夫ですか⁉︎何処か体に異常は⁉︎」

嵐「すっげえ……ホントにやりやがった!」

天津風「磯風の料理を食べても意識を保って居られる人を初めて見たわ……」

浦風「わしもじゃ……」

雪風「雪風も初めて見ました……」

浜風「今まで磯風の料理を食べた人って皆すぐに気絶したから……」


磯風「滝沢さん!大丈夫か⁉︎ 因みに私は皆のせいでもう心が折れそうだ!(泣)」



……どうやら俺は初めて磯風の料理を一品完食した人間らしい。




直人(本当にもう一度死ぬかと思った……!)




そう思いつつも俺は全員に無事を伝える。




直人「……俺は大丈夫だ。」




直人「……それで磯風、感想なんだが…」




磯風「‼︎」ゴクリ





磯風が緊張した面持ちでこちらを見る。



直人(磯風は正直な感想を求めている。俺の意見をありのままに言おう。)



そう決めて俺は口を開く。




直人「……正直、不味かった。他の奴が気絶したのも頷ける。」



磯風「……‼︎ そうか………。」



直人「ああ……。その上で、料理が下手でも無いし上手でも無い一般人としてアドバイスさせて貰う。」



直人「まずは出汁だ。味噌汁は出汁が重要だ。その深みのある味を他の食材が邪魔していてはダメだ。」



直人「次に食材の切り方だ、食材には半月切り、短冊切りといった様々な切り方がある。それぞれの食材や料理によって切り方は変わって来るが……先ずは食べ応えを多少残す程度で食べ易い大きさに均等に切る事から始めてみろ。」



直人「あと、隠し味はその名の通り、『隠さ』れている『味』だ。食べてみても気付かない程度にしておけ。」



直人「最後に……今後はまず、レシピ通りにそのまま作ってみろ。料理レシピはこれまでの料理研究家の努力の結晶だ。分量通り、手順通りに作れば、皆が大体同じ物を美味しく作れる様に出来ている。まずそこから始めろ。美味しい物が作れたら、己の自信にもなるしな。」




直人「……と、まあこんなもんだ。分かったか?磯風。」



磯風「ああ……!よく分かったよ滝沢さん!」



直人「……元気になった様でなによりだ。」



磯風「早速厨房へ行ってくる! 本当にありがとう!」





そう言って、磯風は勢い良く外へ飛び出して行った。


磯風が去った後、不知火が俺に話しかけてきた。




不知火「……滝沢さんは本当は料理がお上手なのですか?」





直人「いや?………どうしてそう思ったんだ?」




不知火「アドバイスがとても的を射ていたので。」



直人「……そうか?」



不知火「ハイ。貴方達もそう思いましたよね?」




そう言って不知火が残っていた陽炎型姉妹に問いかけると、全員首を縦に振った。





雪風「直人さんのアドバイス分かりやすかったです!」

浦風「そうじゃのう…なんだか説得力があったんじゃ。」

嵐「磯風姉さん……上手くいくと良いな。」

天津風「ええ……そうね。」

浜風「失礼ですが、滝沢さんは料理の経験はどの位おありなのでしょうか?」




直人「そうだな……数年間一人暮らしだったから、その間は自炊して生活していたな……。」





そう言って浜風の質問に答える。





不知火「……それは上手と言って良いのでは?」




直人「さあな? ………ところで、夕飯があの味噌汁だけと言うのは正直少し足りないんだが……」



不知火「‼︎ 忘れていました……。 急いで用意しますね。」



直人「そこまで急がなくても良い……。 是非頼む。」



不知火「分かりました。それでは失礼します。…30分程後に夕飯をお持ちしますね。」




そう言って、不知火は姉妹をまとめて部屋から出て行った。





………去り際に他の艦娘達からも笑顔で挨拶され、少しだけ胸が暖かくなったのは自分だけの秘密にして置こう。









ーーー数十分後ーーー







その後、俺は『萩風』と名乗った少女が持って来た食事にありつく事が出来た。




健康が重要視された萩風の料理は、磯風の味噌汁を入れた後の俺の胃に優しい味だった。




料理を完食し、部屋を出る前の萩風に重ねて礼を言い、俺は床に着いた。




…………そこでそのまま眠って朝を迎える事が出来たら良かったのだが。






直人(………腹が痛い……!)






……どうやらここにきて磯風の味噌汁が効力を発揮し出したらしい。



更に不幸は続く。





直人(トイレに行くか……。)





そう思い、ベッドから立ち上がろうとした時…





直人「……あっ。」





……ここにきて俺の犯したミスが露呈する。




直人(トイレの場所聞きそびれた……)




……そう、トイレの場所が分からないのだ。



こういう時、普通ならそのまま部屋の外に出て探せば良いのだが……





直人(今ここでそれを実行するのはマズイ……!)




……そう、現在の俺は身元不明の部外者。しかも今日はここに海軍の元帥が来ているときた。



そんな状況下で、夜中俺が鎮守府内をウロウロ徘徊していて、それが誰かの目に入ったら……?




直人(今度こそ言い逃れ出来ずに『不審者』のレッテル貼られるぞ……)




最悪、元帥を標的としている『暗殺者』なんかだと誤解されて現行犯で捕まっても全くおかしくない状況だ。




かといってこのままで居るのも却下だ。俺の腹が既に悲鳴を上げ始めている。





直人(……どうする……どうする……⁉︎)





………こんなくだらない事でジレンマを抱える事になるとは思っても見なかった。







………十数分後、俺は夜間警備で偶然部屋の前を通った憲兵を呼び止め、何とかギリギリ(不幸中の幸いで、近くにあった)トイレに駆け込む事が出来た。





だが、腹の痛みはいつまでも治らず、俺は何度も部屋とトイレを行ったり来たりする羽目になり、眠れない夜を過ごした。




そして……





直人(……ん?)





直人(これって結局、俺が鎮守府内を真夜中に徘徊していた事になるんじゃ無いか?)





……それに気づいたのは、窓から見える水平線から、眩しい朝日が顔を出し始めた頃だった。













直人(………眠い。)




そう思いながら、俺は一つ大きな欠伸をした。




……結局俺は昨夜、腹痛のせいで一睡も出来なかった。



先程、もう一度寝ようと試みたのだが駄目だった。



どうやら、一晩中回り続けた俺の脳が冴え過ぎているらしい。




その上何もする事が無いので、とにかく暇で仕方がない。





直人(そういえば、こんな風にのんびり過ごすのも随分と久しぶりだな……)



今更その事に気づき、窓の外を見る。






ーーー東の空に眩く光る太陽。




ーーーどこまでも、青く、蒼く広がっている青空と蒼海。





それは、今まで周囲に当たり前にあった筈で……




………力に固執し過ぎた故に俺には見えなくなっていた、美しき『モノ』。




直人(俺は……やはり力に執着し過ぎたな。)





窓の外の景色を見ながら、ふとそう考える。






ーーー回想ーーー




………前の世界で、俺は力を手に入れるためならどんな事でもした。






……力を手に入れる為、『ロンダーズ』と『タイムレンジャー』が繰り広げていた、巨大生体メカ『ブイレックス』と、その制御装置である『Vコマンダー』の争奪戦に単身で飛び込み、この二つを奪取した。




それらを利用して、空席だったCGC隊長の座に着き、権力を得た。




また、CGCを完全に掌握する為に、親会社であった『浅見グループ』のトップだった『浅見 渡』会長が瀕死の重体であった事を良いことに、浅見グループからのCGCの切り離しも実行した。






……今思えば本当に色んな事をした。





何もかもが、半年の間に起こった出来事だった。





………そう、『たった』半年だ。




大学を中退した、ただのCGC新米隊員が、たった半年でCGC二代目隊長に就任。




今思い返してみると、異例中の異例のスピード出世だった。





…………そして当然、それを良く思わない者もCGC内にいただろう。





そして、力を手にした俺は自惚れ、他の隊員との信頼関係を築く為に時間を割こうとしなかった。





直人(だから……俺は……)




………見捨てられたんだ。






俺が死ぬ数時間前、俺は突然CGC隊長解任の辞令と、Vコマンダーの引き渡し命令を『浅見グループ』から告げられた。







理由は……『浅見グループへの反逆』『CGC研究班によるVコマンダーのボイスキー解除成功』といったものだった。







Vコマンダーは音声入力式アイテムであり、俺の声しか認識されないようにボイスキーが設定されていた。



それが解除されたという事は……『誰でもVコマンダーとブイレックスを使える』様になったという事。





つまり……俺はCGCにとって、『用済み』だった。





CGCが必要としていたのは、『俺』ではなく……




………俺の持つ『力』だった。





Vコマンダーの引き渡しを拒否した俺に、嘗ての部下達は容赦なく襲いかかった。





…………誰一人として、俺に味方する人間は居なかった。





時間を掛けて隊員達と信頼関係を築き、ゆっくり出世街道を歩めば回避出来たかもしれない、悲劇だった。






………俺は必死に逃げた。 Vコマンダーさえ有れば、まだ巻き返せると信じて。






女の子「助けてぇ!!」






しかし、逃げている最中、俺は見てしまった。



ーーー大量の機械兵『ゼニット』に追われ、背中を見せて必死に逃げている少女を。





「見捨てろ。今のお前に戦える力は無い。」


「今ここで少女の前に飛び出したら、大量の銃弾に撃たれて死ぬぞ?」


「お前は立ち直すんだろう?死んでは元も子もないぞ?」





俺の中のナニかが囁く。実際その通りだ、俺は生き残らなければならない。




………そうだ。



直人(俺は、生き残らなければ、ならないんだ………!)




ゼニット達が冷たい銃口を少女に向ける。




そして………




直人『ウァァァァ!!』





俺は駆け出し、ホルスターに入っていた拳銃を取り出してゼニットに発砲し……




ーーー気がつけば少女の前に立ち、大量の銃弾をその身に受けていた。





………非情に徹する事が、俺にはどうしても出来なかった。






俺は防弾仕様のCGC隊服を着ていたとはいえ、重傷を負った。




女の子『お兄ちゃん………』




俺の背後にいた少女が心配そうにこちらを見る。




直人『早く、逃げろ……』



女の子『でも………』



少女が俺の身を心配する。




直人『行け……‼︎』





掠れた声で叫ぶ。


それでようやく、少女はその場から離れた。


(……この一連の出来事が、俺が死ぬ遠因となったのだが、不思議とこの行動だけは今も後悔していない。)






その直後、ゼニットが再び銃を構える。今度は、俺に狙いを定めて。




身体は既に満身創痍。それでも少しずつ前へ進みゼニットに銃口を向ける。




だが、現実は、どこまでも非情だった。




ゼニットに攻撃しようと向けた拳銃から鳴ったのはトリガーを引く音だけ。





………弾切れだ。




直人(……此処で終わるのか……)




そう思いながら、それでも俺は前に進み続けた。




………生き残る為に。




ゼニットが銃を撃とうとする。



それを睨みつけていると……




突然、一体のゼニットが、乱入者が放った飛び蹴りで倒された。



乱入者は、次々とゼニットを倒してゆく。



その正体は……




直人(あさ、み……)




……俺の腐れ縁だった。




……それを視認した直後、俺はその場で倒れた。




ーーー回想終了ーーー




……結局あの後、俺は浅見に助けられ『その時は』生き長らえる事が出来た。




……また、この一件で俺は、『力』を求め過ぎ、他の事に目を向けなかった事への代償の重さを身をもって知った。





そして………



今まで『正しい』と思って生きてきた、『力』だけを求める生き方を……ほんの少しだけ、後悔した。




しかし、その後悔はもう既に遅かった。








………『その時』は。









……だが、『今』は違う。




直人(………俺はこれから再スタートを切る事が、出来る。)



直人(力には、もう決して振り回されたりしない。)



直人(折角の二度目の人生だ。一度目の失敗を糧に必死に生きてやる。)




直人(『生』に……今度こそ最後までしがみついてやる。)






ーーー俺は窓の外に広がる美しい景色を見ながら、そう心の中で固く決意した。











直人(……そういえば、磯風はあの後どうなったのだろう?)



ふとそんな事を思う。



……昨日の磯風は部屋を去る時、とても生き生きとしていた。



それも含めて、昨日磯風と交流して分かった事が一つ。


直人(………アイツは、何かに一所懸命打ち込める奴だ。)





………磯風には言わなかったが、俺は、料理に一番大事なのは『丹精込めて作る事』だと思っている。




磯風は、それを既に持っている。



一日二日でとは行かずとも、きっといつか料理が上手くなるであろう。


ーーー少なくとも俺は、そう信じている。




ただ、『今すぐ磯風の料理を口にしたいか』と聞かれるとそういうわけでも無い。



……正直、俺の中で昨日の味噌汁は軽くトラウマになった。



『もう二度とあの味を味わいたく無い』と思うまでには。



……さすがにたった一日で、食べられるレベルまで上達する事は出来ないだろう。(磯風には失礼だが)




だから、『今の』磯風の料理はあまり口にしたくない、というのが本音だった。



時計を見る。



現在の時刻は午前7時半。もうそろそろ朝食が来てもおかしくない時間帯だ。







……まさか2食連続で磯風は来ないだろう。



直人(まさか、なぁ……)




直人(……待てよ?)


直人(……確かこう言うのを『フラグ』って……)





コンコン

磯風「滝沢さん、磯風だ!朝食をお持ちしたぞ!」





直人「…………。」




直人(気付くのが遅かったか……!)





……俺の中で、第2ラウンド開始を告げるゴングの音が鳴った気がした。









直人「……どうぞ。」




磯風「うむ、失礼する!」




そう言って、今日も元気にニコニコしながら磯風が部屋に入る。



昨日と同じように、ワゴンも一緒だ。





磯風「…滝沢さん、昨日は本当にすまなかった。」





表情を真顔に改めて、磯風が再び頭を深々と下げる。





直人「もうよせ……全て終わった事だ。」




俺は磯風に頭を上げさせる。



すると、磯風は再び微笑んで言った。




磯風「そう言ってくれると有り難い……」



磯風「と、いう訳で朝食をお持ちしたぞ!」






……何が『と、いう訳で』なのだろう?




直人(……今話繋がっていたか?)





疑問に思うが、今それよりも優先すべき事案がある。






直人「……失礼を承知で聞くが、誰が作ったんだ?」





磯風には本当に失礼な質問だが、勘弁して欲しい。





直人(何せ俺の身体の安全がかかっているんでな……!)



すると……





磯風「……そんなに身構えないでくれ……私が泣きたくなる……」





磯風が目に見えて落ち込んだ。






直人(……俺今人として何か最低な事をしている気がする。)





直人「………すまん、今のは俺が悪かった…」





さすがに申し訳なく思い、磯風に謝罪する。






磯風「……どうせ私は料理下手な艦娘さ……」





磯風がいじける。





直人「……本当にすまなかった。」





罪悪感に耐え切れず、俺は磯風に深々と頭を下げる。




それを見た磯風は……




磯風「……分かった、もうその位で良いから頭を上げてくれ、滝沢さん。」




ようやく機嫌を直し、テーブルに料理を並べ始めた。




直人「……悪かったな。」




磯風「もう良いさ……それで、誰が作ったのかと言うと……」




直人「………。」ゴクリ




磯風「……萩風だ。」




直人「……そうか。」ホッ




磯風「あっ‼︎ 今滝沢さんホッとしただろう⁉︎」




磯風が怒る。





直人「……別に?そんな事無いが?」





図星だった為、俺はしらばっくれる事にした。




直人「……さ、朝食を有難く頂くとするか。」





磯風「むぅ〜〜」





話を逸らされた磯風が膨れっ面になる。




直人「フッ……」




その顔が少し可笑しかったので、磯風には気付かれない程度に小さく笑い、俺は用意された食事に目を向ける。




内容は玉子粥、漬物、味噌汁と、一汁一菜のシンプルで身体に優しい献立だった。





直人「いただきます。」





そう言って俺は料理に箸を付けて、あっという間に全ての皿を空にした。




それまでの間、何故か磯風はただこちらを真剣にじっと見つめていた。




直人「ご馳走様。 ……どの料理もとても美味かった。」




磯風「それは……味噌汁もか?」




磯風が聞いてくる。




直人「? ああ、味噌汁も美味かったぞ。」




そう答えると……





磯風「そ、そうか………」





……磯風が、顔を仄かに紅く染めて急にモジモジし出した。





直人(……もしかして)





磯風「じゃ、じゃあ私はこれで失礼する‼︎」





磯風が急いで食器をワゴンの中に片付けて、部屋を出ようとする。





直人「……磯風、ちょっと待て。」





俺は磯風を呼び止めた。





磯風「な、何かな滝沢さん?」





そして、磯風に伝言を頼む。





直人「萩風と、『この味噌汁を作った奴』に伝えて置いてくれ。 ……『ありがとう、美味かったぞ』ってな。」





磯風「な、何を言っているんだ滝沢さん?今回の食事は全て萩風が作った物だぞ?」




磯風がしどろもどろに答える。




直人「……そうか、じゃあ萩風にそう伝えて置いてくれ。」





磯風「分かった……ではこれで今度こそ失礼する。」





そう言って、磯風はワゴンを押しながら、今度こそ部屋を出てドアを閉める。




去り際に頬を更に紅くしながら、ある言葉を残して。








磯風『………………どういたしまして。』ボソッ











直人(それにしても驚いたな…)



まさかたった一日で磯風の料理の腕があそこまで上達するとは、俺も予想外だった。




直人(……少しはアドバイスが役に立ったのだろうか?)




それを知る方法は無いが、もしそうであったのなら、俺としても嬉しい限りだ。








ーーー人はやはり、自分を変える事の出来る存在なのだろう。



俺は磯風を見て、改めてそう感じた。





直人(俺も……変えられる筈だ……きっと。)




直人(いや………必ず。)




そう決意していると、食後だからだろうか、急に眠気が迫って来た。





直人(ようやく睡魔のお出ましか……)




不知火が来るのは今日の昼間。 まだ時間がある。





直人(……一眠りするとするか。)





そう決めて、俺はベッドに横になる。



すると、直ぐに瞼が重くなる。





直人(ありがとな……萩風、磯風。)






……その直後、俺は深い眠りに落ちた。










ー昼ー




直人「ん………。」




俺は目覚め、ベッドから身体を起こし大きく伸びをした。




直人(………いつぶりだろう?)




直人(今日はとても安らかに眠れた。)





……本当に、いつぶりだろう?



何事にも囚われる事無く、こんなに健やかに眠れたのは。



身体は勿論、何だか心も暖かかった。






直人(……こういうのも中々良いもんだな。)






そんな感想を抱きながら、時計を見る。




午後0時10分。正午を少し回ったところだった。



そろそろ不知火が来る筈だ。



ふと、未だに入院着を着用している自分の姿を見る。



昨晩や今朝はまだ入院着の様な緩い服装で大丈夫だったかもしれないが、『今後について』という俺にとって重要な話をこれからするとなるとこの服装は流石にだらし無い。




直人(俺は別に病人でも無いしな。)



直人(……着替えるか。)




………入院着を脱ぎ、昨日不知火から渡された下着を身につける。



そして、同じく不知火から渡されたCGCの隊服を着ようとした時、ある事に気づいた。




直人(……ほつれが直されている。)




数多くの戦闘を潜り抜け、死に際には大量の銃弾も受けて、傷だらけでボロボロになっていた筈の隊服が綺麗に修繕されている。



洗濯と一緒に不知火がやってくれたのだろうか?





直人(だとしたら、不知火には感謝してもし切れないな…)




そう思っていると……




コンコン

不知火「滝沢さん、お昼をお持ちしました。入っても宜しいでしょうか?」




不知火がドアをノックする。





直人「……少し待ってくれ。今着替えている。」





不知火には申し訳ないが、少しだけ待ってもらう。



急いで隊服を着て、身嗜みを整える。





直人「……どうぞ。」





着替えが終わったので、不知火に入室を促す。





不知火「失礼します。」





不知火が入って来る。






直人「……よぉ。」




俺が不知火に話しかけると、不知火は俺を黙ってじっと見つめていた。




直人「………服装、何処か変だったか?」




少し不安になったので、不知火に問う。



すると……不知火が口を開いた。





不知火「いえ、そんな事は無いのですが……ただ」




直人「ただ?」




不知火「……ただ、少し似合っていたので……」




直人「……そうか?」




不知火「ええ、服に着られている感じが一切ありません。きちんと着こなせているかと。」




直人「そうか……ありがとな、褒めてくれて。」




不知火「いえ…… 昼食を用意しますね。」





直人「ああ、頼む。」






そして、不知火がテキパキと昼食を用意していく。




テーブルに並んだのは、色鮮やかな具材が挟み込まれたサンドイッチだった。



肉系、野菜系、デザート系と、種類が分かれているらしい。




不知火「お口に合えば良いのですが……」




直人「……これお前が作ったのか?」




不知火「お恥ずかしながら……」




直人「へぇ……美味そうじゃないか。」




直人「いただきます。」




そして、俺はサンドイッチに豪快に齧り付いた。




内心、昨晩の磯風の二の舞になるかと危惧していたのだが……




……結論から言うと、どのサンドイッチもとても美味しかった。




特に、生ハムとサラダチキンとレタスが挟まれた肉系のサンドイッチは、昨日から殆ど肉を食べていない俺にとって、とても有難いものだった。(昨晩の萩風の食事は健康重視なので、肉があまり使われていなかった。)





そして、俺はあっという間に完食した。





直人「ご馳走様。 美味かったぞ。」





不知火「……そうですか。」





不知火が頬を紅く染める。



それを見て、俺はつい笑ってしまった。





直人「……フッ」




不知火「……笑わないで下さい。」ムッ




直人「ああ、すまない。……何しろお前が頬を赤くした瞬間の顔がどこか磯風のそれとそっくりだったんでな、似ていると思っただけだ。」





……見た目は全く似ていないが、やはり姉妹というのは何処かしら似ている物なのだろう。






直人「……なあ、姉妹って言うのはどういう物なんだ?」



直人「俺に兄弟は居なかったから、そういうのはよく分からないんだ。」






ふと気になったので、聞いてみる。



すると……





不知火「そうですね……皆とても五月蝿いです。」





………不知火がとても不機嫌そうに語った。






不知火「静かに過ごせる時なんて全くありません。……正直言ってかなり迷惑です。」







直人(………地雷踏んだか?)





内心少し焦っていると、不知火が再び言葉を紡ぐ。






不知火「けれど……その五月蠅さに不知火自身が救われているのも事実です。」







不知火「……かけがえの無い大切な物ですよ、私にとって、姉妹は。」







そう言って、不知火は微笑んだ。




直人「……そうか。」




俺もつられて微笑む。




不知火「はい。」




部屋の中が、和やかな空気で全て満たされる。





不知火「………だから、私は……」ボソッ





…………一つの暗雲を除いて。





直人「? 何か言ったか?」





不知火「……いえ、何でもありません。」





直人(今何か言っていたと思うんだが…?)




そして一瞬、不知火の顔が曇った様にも見えた。





直人(……何か隠してるな。)





一体何なのだろう?少しの間黙考してみる。





不知火「ーーーさん、滝沢さん?」




不知火が声をかけてくる。




直人「……すまない、考え事をしていた。 ……何だ?」




不知火「いえ、そろそろ本題に入ろうかと思いまして……」





直人「ああ……そういえば、俺の今後について話すんだったな。」





不知火「はい。  …それで早速ですが、滝沢さんには今から職を探して頂きます。」





直人「……まあ、そうなるよな。」




先ずは、この世界で衣食住を確保する為の資金を稼がねばならない。





不知火「なので、此方で幾つかリストアップしておきました。これが資料です。」






そう言って、不知火が紙の『束』を渡してくる。





直人「‼︎」




直人「本当に何から何まですまないな…… この量の資料を用意するのは大変だっただろう?」






不知火「別に……貴方には磯風がお世話になりましたから。」





直人「そうか……だったらその心遣い、有難く受け取らせてもらおう。」





不知火「……因みに期限は3日間です。それ以降はこの鎮守府に滞在する事は出来ません。」





直人「成る程……分かった。 それまでに決めておくよ。」




不知火「ええ、そうして下さい。」




取り敢えず今後の方針は決まった。




直人(………というか)




直人「なあ不知火、俺はあと3日も此処に居ていいのか?」




昨日も含めて、計4日間の衣食住を身元不明の俺が無償で保証されるのは、果たして良いのだろうか?


不安になったので、不知火に聞いてみる。





不知火「一応、滝沢さんは書類上『漂流者』という事になっています。漂流者を手厚く保護する事も、鎮守府の職務の一環なので、大丈夫です。」




直人「……そうか、なら良かった。」




俺は静かに胸を撫で下ろす。





直人(不知火には世話を焼かせているな……申し訳ない。)  



直人(……そうだ。)





直人「不知火、何か俺に出来る事は無いか?礼をしたいんだが。」





せめて何か不知火に恩返しがしたい。そう思い、俺は不知火に聞く。





不知火「そうですね……」





不知火が考え込む。そして、意を決した様な顔付きで口を開いた。




不知火「……それでは、今からする質問に正直に答えて下さい。はぐらかしはナシです。」





直人「……一つだけならいいだろう。」




不知火の願いを了承して、俺は不知火の言葉を待つ。




直人(……まあ、大体予想はついているがな。)




………そして、不知火は俺が予想した通りの質問を投げかけてきた。








不知火「滝沢さん………貴方は、本当は何者なのですか?」








直人「……それを知ってどうするつもりだ?」





俺は不知火に目的を聞いてみる。





不知火「どうもしませんのでご安心を。ただの不知火の好奇心です。」





……不知火が相変わらずの無表情で答えるが、正直言って信用できない。



だが……





直人「……信用できないが、まあ良いだろう。」





……そう、別にどうだって良い。





何故なら、


直人(不知火みたいな奴に俺の素性を真面目に答えた所で……)





直人「そうだな……。一度死んだ筈の、空手と射撃が少し得意な異世界人、とでも言っておこうか。」






不知火「……不知火に冗談は通じませんよ?」






直人(……そもそも信じちゃくれないからな。)


案の定、不知火は俺の言葉を信じなかった。



話を続ける。





直人「ああ知ってる。 だから本当の事を伝えたんだがな……。」




直人「……まあ、信じるか信じないかはお前次第だ。」




不知火「……不知火にはとても信じられません。」




直人「だろうな、俺でも同じ事を言われればそう思う。  ……だがそれが事実だ。」




直人「それに、俺のやるべき事は俺の素性をお前に『話す』事であって、『信じてもらう』事じゃない。」




直人「……俺のするべき事は、ここで終了だ。」




やや強引に話を打ち切る。





不知火「むぅ………。」グヌヌイ






不知火がとても不満そうにこちらを見る。このままだと更に追及される事になりそうだ。



…そうなると少し面倒くさい。






直人(何か話を逸らせる様な話題は無いものか……。)





そう考えながら、周囲をさりげなく見渡していると……





直人「‼︎‼︎‼︎‼︎」





………俺は見つけた。




………見つけて、しまった。




窓から吹く風のせいで一瞬だけ見えた、不知火の半袖仕様のワイシャツの右袖に隠れていた『ある物』を。





直人「………なあ不知火、お前達『艦娘』は『深海棲艦』と戦っているんだよな。」





不知火「……話を逸らさないで下さい。」





不知火が至極当然な事を言う。




だが……



………不知火には悪いが、今の俺にはどうしても確かめたい事がある。少し強引にしてでも話をさせてもらおう。





直人「………いいから答えろ。」ギロッ




不知火「……‼︎」ビクッ





不知火「え、ええそうですが……… どうしたんですか、滝沢さん……?」




不知火が俺の変わりように困惑する。


それに構わず、俺は質問を続ける。





直人「……その戦いって、肉弾戦とかの『近距離戦』じゃなくて、砲弾の撃ち合いがメインの『中、遠距離戦』だよな?」





不知火「⁇⁇」





質問の意図が分からず、不知火がますます困惑する。





不知火「確かにそうですが……?」





直人「………そうか。」





直人「………なら、『コレ』は一体何なんだ?」






そう言って、俺は不知火の右手を掴み、こちらに引き寄せてから不知火のワイシャツの右袖をまくり、『ソレ』を露わにした。






不知火「滝沢さん⁉︎いきなり何をするんでs………っ‼︎‼︎」






………不知火の右の二の腕にできていた、大きな『青痣』を。








不知火「……深海棲艦との戦いでできた物です。 あの時は不覚を取りまし「嘘つけ。」






即座に偽りの言葉に真実を被せる。





不知火「……どうして、嘘だって決め付けるんですか。」





直人「……確証があるからだ。」




不知火の言葉を聞いて、俺は淡々と証拠を並べ始めた。





直人「お前さっき俺に言っただろ? 艦娘と深海棲艦の戦いは『中、遠距離戦』だって。お前が戦いで傷を負う理由は、砲撃や魚雷といった遠距離攻撃しか無い。」




直人「それに砲弾や魚雷が当たったのなら、内出血が原因である青痣は絶対にできない。目に見えて出血する程の怪我を負う筈だからな。」




直人「それに、俺はさっきも言った通り、空手が少し得意でな……こういった形状の痣は何度も見て来てるんだよ。」





直人「………空手家の端くれとして断言してやる。これは、誰かから『拳で強く殴られた』痕だ。 それも新しい物だな。」






不知火「…………本当に、鋭い洞察力ですね。」





不知火が暗に俺の仮説を肯定する。



そしてそれっきり、不知火が下を向いて押し黙る。






直人「………なあ不知火、何があったのか、良かったら教えてくれないか?」




直人「……俺が力になれるかもしれない。」





俺が不知火に問いかける。






……すると。






不知火「…………っていうんですか。」








不知火「それを知ったところで、貴方に何が出来るっていうんですか⁉︎」






不知火が涙でクシャクシャになった顔を上げて、叫んだ。




……それは、今まで苦痛を隠し、何食わぬ顔で俺と接して来た少女が、堪え切れずに初めて見せた激情だった。






直人「………。」





俺はその言葉に、確固たる意思を乗せた言葉で応える。







直人「お前を殴った奴を、ぶん殴れる。」





不知火「なっ………‼︎」





不知火が驚愕する。





不知火「正気ですか滝沢さん⁉︎ 軍人に危害を加えるのは大罪ですよ⁉︎ 貴方もただじゃ済みません‼︎」





直人「ほう……。お前を殴ったのは軍人………つまり、この鎮守府内の人間なのか……。」





不知火「っ‼︎」





不知火が「しまった」と考えている事が、不知火の顔から良く分かる。





直人「……無事じゃ済まないのは百も承知だ。その上でこんな事を言っているんだ。」





不知火「滝沢さんは……どうしてそこまでしようとするんですか?」





不知火「貴方がやろうとしている事は、貴方にとってのメリットなんて何も無いのに……。」






直人「……何を言っているんだ?」




……本当に何を言っているのだろう?







直人「『自分の命の恩人を傷付けた。』……理由なんてそれで十分だ。 損得なんて知った事じゃ無い。」








直人「……まあ正直言って、俺にはここを出てから、まだまだやるべき事が沢山ある。」





不知火「だったら‼︎ 不知火を見捨ててくださ「けどな、」





直人「目の前で困っている奴を簡単に見捨てられる程、『俺』は冷酷に出来ていないんだ。  ……あいにくな。」








………どうやら、一度死んでもまだ俺は懲りていないらしい。



目の前のちっぽけな存在を助ける為に、再び自分の身を犠牲にしようとしている。






…………けれど。






直人(後悔などしない。 ………する訳が、無い。)





直人(………俺にとって、『これが正しい』と心の底から思える行動だから。)





直人「……お前は艦娘で、普通の人間とは少し違うのかもしれない。」





直人「だが、俺から見ればまだまだ未熟な子供だ。」





不知火「…………。」





直人「子供はな……困ったら大人に頼る事が出来る。  それが子供にとっての仕事でもあるしな。」





直人「頼れる大人が……『味方』が身の回りに居なくて、今までお前はずっと一人で抱え込んでいたのかもしれない。」





直人「だが、今お前の目の前に居る大人は、間違いなくお前の『味方』だ。  ……だからな?」





直人「………俺にも、一緒に抱え込まさせろ。」





そう不知火に語りかける。




数分間、部屋の中が沈黙で満たされる。





そして、不知火が動いた。





不知火「滝沢さん……‼︎」





そう言って不知火は俺の胸に飛び込み、そのまま嗚咽を上げながら泣き出した。




俺は不知火を抱き止め、不知火が泣き止むまでずっと背中をさすり続けた。





部屋の中には、一人のあどけない少女の悲痛な泣き声しか響く事は無かった。










………沈黙が破られてからさらに数分後。





直人「……落ち着いたか?」





不知火「はい……。 お見苦しい所をお見せしました。」





直人「……別に良いさ。」





不知火「……滝沢さんは、本当に優しい方なんですね。」





直人「……子供限定だけどな?」







……実際、俺は浅見や自分の上司、部下に対しては一切の容赦をしない人間だ。




しかしどういう訳か、子供相手となるとつい甘くなってしまう。(これは自分でも欠点だと思う。)







不知火「しかし……私はその優しさに頼る事は出来ません。」





直人「………それこそ正気か?」





直人「このままだと、お前は遅かれ早かれ取り返しのつかない事になるぞ?」





直人「お前は俺にとっての恩人だ。俺に『借りを返せ。』と言ってもいい立場なんだぞ?」





不知火「それでも、です。」





不知火が頑なに拒む。






不知火「………貴方を、巻き込んでしまうから。」





不知火「滝沢さんに、迷惑はかけられません。」





不知火「……そろそろ元帥がお帰りになる時間です。この後私は、他の艦娘達と一緒に元帥のお見送りをしなければならないので。」





不知火「……失礼します。   ………貴方のお気持ち、嬉しかったです。」






そう言って、不知火は急いで退出する。



………まるで『助けを求める』という誘惑を振り切るかの様に。






直人「…………。」





直人(……やっぱりアイツは、一人で抱え込むタイプだな。)






俺はそれを見送った後、腰掛けていたベッドから立ち上がり、窓の方へと向かった。




………そして。






直人「……で、お前は何をやっているんだ?」






……不知火が入ってきた時から、ずっと一階にあるこの部屋の窓の外で聞き耳を立てていた奴に話しかけた。







???「……なんだ、気付いていたのか。」






直人「気配の消し方がまるでなっていない。 バレバレだ………磯風。」






磯風「……不知火姉さんも言ってたが、本当に滝沢さんは何者なんだ?」






直人「だから、一度死んだ筈の空手と射撃が少し得意な異世界人だ。 それ以上でもそれ以下でも無い。」





直人「……で、どうしてここに居る?」





磯風「今日の昼に滝沢さんの今後の話がされる事は不知火から聞いていてな……。つい気になってしまったんだ。」






磯風「……滝沢さん。私が本当の事を全て話そう。」





直人「……‼︎ 良いのか、お前が話しても?」





磯風「……正直分からない。………けど、」





磯風「………けど、もうこれ以上、不知火姉さんが、『皆』が、傷付くのを見ていられないんだ………‼︎」





そして、悲痛な面持ちで磯風が言葉を紡いでいく。








磯風「…………この鎮守府の艦娘達は皆、提督と憲兵に虐待されているんだ。」







磯風「ここの提督は、人間じゃない私が言うのもなんだが、血の通った人間とは思えない程の下衆でな。」






磯風「休みは無いのが当たり前。負傷しても『資材が惜しいから』と一蹴され、治療する事すら許されない。それどころか『能無し』と叱責される様な毎日。」






磯風「さらに、本来こういう時に助けてくれる憲兵ですら提督に便乗する始末だ。」







磯風「………今まで、本当に多くの仲間が死んでいったよ……。」






磯風「サンドバックにされて、殴られ、蹴られ、その場で死んだ娘もいた。」





磯風「性欲の捌け口として、毎晩多くの男に犯され、嬲られ、精神的に追い込まれて自分で命を絶った娘もいた。」





磯風「作戦で捨て駒として扱われ、誰からも手を差し伸べられずに海の底に沈んだ娘もいた。」





磯風「死んだ娘の後を追って、自殺した娘もいたっけ……。」






磯風「……本当に、ゴミクズどもの巣窟だよ………此処は。」






直人「……それでも提督や憲兵達に反抗しないのは何故だ?」






磯風「………出来ないんだ。」






直人「………‼︎‼︎ おいまさか……」






俺は、ある予測にたどり着いた。






それは、感情を持つ者に対して、非常に効果的であり、それでいて最低な手段。







………そして俺の予測は、次の磯風の一言で肯定された。







磯風「ああ……私達は、姉妹、戦友といった、各々の大事な娘を人質に取られているんだ……。」






磯風「………提督は、人質を何処か別の場所に監禁しているんだ。」





磯風「今視察に来ている元帥殿にさえ気付かれない程に、秘密裏に。」





磯風「………現在、私達陽炎型駆逐艦も、長女の『陽炎』、三女の『黒潮』を人質に取られている……。」





磯風「提督は、『告発、脱走、反抗したら、人質を殺す』と私達を脅して、今までずっとこの状況を維持してきたんだ……」






直人「……それで、今まで動けなかったって訳か……。」




磯風「ああ……」





瞬間、俺の中で今までの謎が氷解した。



不知火が度々見せた陰。俺が軟禁されていた真の理由。




直人(不知火は、『艦娘は人間と同じ扱いを受ける事が出来ているか』という俺の質問で、言い淀んでいた。)





直人(それはそうだ………。こんなえげつない最低の行為をされていたら、誰でもハッキリとYESとは言えない。)





直人(そして、俺がこの部屋に軟禁されていたのは、『元帥の視察の邪魔をさせない為』ではなく、『この鎮守府の実態に気付かれ、部外者で人質も何もなく、脅す事が出来ない俺から告発されない様にする為』だった、て事か……。)





………聞けば聞く程、反吐が出る。



………聞けば聞く程、怒りが湧く。






そして……自分が惨めになる。





それは、ある一つの事実を知ったが故。





直人「……お前達、『俺や元帥の前でボロを出すな』なんて命令されただろ?」




磯風「………。」






磯風が黙る。




……それはもはや音の無い『肯定』でしかなかった。






直人「……それじゃあ、お前達が俺の前で見せていた笑顔も、偽りだったって事か……。」





それが、俺が知った事実だった。





……あの少女達の笑顔の裏では、計り知れない程の苦痛が隠されていたのだろう。




直人(……本当に鈍感だな、俺は。)




直人(言われないと、こんな事にも気づけないなんて。)




そう思い、俺が自己嫌悪に陥っていると………





磯風「それは違う‼︎‼︎」




直人「‼︎‼︎」





磯風が大声で叫んだ。




磯風「確かに私達は提督にそう命令された……‼︎ 貴方を欺いた‼︎  けど……‼︎」




磯風「私は、久しぶりに皆の笑顔を見たんだ……。顔は暗く、目は濁って、心は荒んでいた皆の、心からの笑顔を……‼︎」




磯風「だからこそ、これだけはハッキリと言える……‼︎」





磯風「皆が滝沢さんの前で見せた笑顔だけは、絶対に嘘じゃないんだ……‼︎それだけは、信じてくれ……‼︎」




磯風が必死に訴える。




直人(……眼を見れば分かる。あれは、真実を言っている眼だ。)





直人「……分かった。お前のその眼を、信じよう。」





磯風「……有難う……‼︎」




磯風が深く頭を下げる。





磯風「………滝沢直人さん。」





そして、姿勢を整え、磯風がこちらの眼を見据えて来る。




俺は黙って、磯風の言葉の続きを待った。







磯風「……私が今から貴方に言う言葉は、本当におこがましい物だ………自分勝手な物だ………お世話になった貴方に『恩知らず』と言われて、責められても仕方がない物だ…‼︎」





磯風「自分でも無茶苦茶な事だと思う‼︎ 屁理屈だとも思う‼︎こんな事を貴方に言うのはお門違いだろう‼︎」





磯風「それでも………もう、頼れる人が滝沢さん、貴方しかいないんだ……‼︎」




そして、泣きながら叫ぶ。








磯風「頼む……‼︎『私達』を、助けてくれ……‼︎」








………必死のSOSを。





直人「………。」





磯風「…………逃げるなら今のうちだぞ、滝沢さん。」






磯風が悲しげに微笑みながらそんな提案をする。







直人「……ハッ。」






その提案を俺は、一笑してバッサリと切り捨てる。





直人「俺が『逃げる』?………冗談じゃ無い。」




直人「俺は『逃げ』という選択肢が大嫌いなんだ。俺は何事からも、絶対に逃げはしない……。」





直人「………それに、」





直人「……俺はその言葉を、待っていたんだ。」




直人「助けを求めるのに、理屈なんて要らないんだよ。」




直人「お前は知らないだろうが、世界にはただ一言『助けて』と叫ぶだけで手を差し伸べてくれる様なお人好しもいるんだぞ?」





……それは、根拠も無い自信で、ずっと自分の明日を切り拓いて来た俺の腐れ縁が、『浅見 竜也』という男がいつもしていた事。





直人(浅見に出来る事が、俺に出来ない訳が無い。)





……自分から災禍に飛び込むのは慣れている。





覚悟は、とっくの前に出来ている。






……昨日までは、何故ここに居るのかすら分からなかった俺だが、今はハッキリと言える。






直人(俺は……きっと、コイツらを救う為に今、此処に居るんだ。)






何物にも決して消せないーーー消させない意思の『炎』は、既にもう一度、己の芯に確かに灯した。





あとは……行動するだけだ。





そして俺は告げる。『了承』を。 そして……





………『宣戦布告』を。






直人「……俺に任せろ。 お前達から受けた恩、全部纏めて返してやる。」








磯風「‼︎‼︎」





磯風「………本当に、良いのか?………貴方に……頼っても?」





俺が頼みを引き受けるとは思っていなかったのだろうか、磯風が困惑して俺に聞いてくる。





直人「……自分から頼っておいて今更何を言う。」





直人「俺は一度決めた事は絶対に覆さない主義でな。もう後戻りは出来ないし、そもそもする気も無い。」





直人「…………やってやるさ。」





磯風「滝沢さん………‼︎」





その直後、磯風が泣き出した。




磯風「……グスッ……有難う……本当に、有難う……‼︎」





そして、感謝の言葉を何度も紡ぐ。





直人「……その言葉と涙は、今は使うな。」





磯風「グスッ……?」






直人「全て終わった後の時の為に、取っておけ。」






磯風「…‼︎‼︎   …………ああ‼︎」





磯風が涙を拭って勢い良く返事をする。




上げた顔は、今までで一番清々しく、良い顔だと思った。





直人「……今までで、一番(清々しくて)綺麗な顔だ。」





そんな感想を率直に言うと……





磯風「なっ………‼︎‼︎」






……何故か磯風が顔を真っ赤に染めた。






磯風「それは反則だ……滝沢さん……」ボソッ






直人「? 何か言ったか?」






磯風「〜〜〜‼︎ 何でもない‼︎」






磯風「コホン…… とにかく、今から滝沢さんにお願いしたい事がある。それは……」






……俺はある種の確信を持って、磯風の言葉に自分の推測を被せた。







直人「『提督、憲兵に気付かれず、元帥と接触。そしてこの鎮守府の実態を報告して元帥に助力を請う。』って所か?」






磯風「……本当に滝沢さんの慧眼には驚かされるな。」





直人「……図星か?」





磯風「ああ、それで合っている。」





直人「……それについて、幾つか質問しても良いか?」





磯風「ああ、いいぞ。」





そして、計画を磐石で抜かり無い物にする為、俺は磯風に質問し始めた。





直人「まず一つ目。  ……元帥っていうのは、今視察に来ている奴の事だよな?」





磯風「ああ、そうだが?」





直人「ソイツは……信用に足る奴なのか?」







この計画は助けを求める相手を間違えた瞬間、即座に瓦解してしまう様な………







ーーー文字通り『命懸け』の計画。






その為、まず助けを求める相手について確認したかった。






磯風「ああ、今ここに視察に来ている『剣持 竜馬』元帥は、艦娘を大切にしている方だ。様々な所から聞いた話だ、恐らく間違いない。」






磯風「……まあ最終的には、滝沢さんが自分の目で見て、話して、信用できるか否かを判断してくれ。」






直人「分かった。……二つ目だ。告発するにしても、見ず知らずの俺が言っただけでは向こうに信じてもらえない。何か提督や憲兵の悪事に関する決定的な証拠は無いか?」






磯風「それなら……私に一つ確かなアテがある、心配しなくて良い。」







直人「分かった、お前を信じよう。………三つ目だ。元帥がここを出発するのは何時だ?」





直人「誰にも気付かれずに元帥と接触するとなると、鎮守府からの帰路を狙うしか無い。」





直人「その時刻が、計画開始の時刻だ。」








磯風「成る程な。  元帥がここを去るのは確か……午後3時だった筈だ。」






現在の時刻は……午後1時。




ーー行動開始まで、あと2時間。






直人(なんだよ……まだまだ見送りまで時間はあったじゃないか……不知火。)





ここで不知火の小さな嘘が発覚するが、今は放っておくとしよう。






直人「OK……。 最後の質問だ、と言っても、これは俺からの少し無茶な頼みなんだが……聞いてもらえるか?」





磯風「何を言うんだ、こちらが貴方に無茶な事を頼んでいるんだ。それくらいなんとかするさ。」





直人「そうか……。それじゃあ、『ーーー』と『ーーー』が欲しいんだが……。」




磯風「ふむ………。分かった、多分どちらも用意できる。時間までに用意しよう。」




直人「助かる。」




磯風「それじゃあ、そろそろ戻らないと提督達に怪しまれる。1時間半後にこの場所まで来てくれ。そこで用意をしておく。」





そう言って、磯風は俺に、ある地点に印を付けた鎮守府内の地図を急いで渡した。





直人「分かった。」





磯風「それじゃあ。……最後に、滝沢さん。」





ここを去ろうとして、後ろを向いた磯風がこちらを振り返る。





直人「……何だ?」





磯風「……本当に有難う。『人間』では無く、『兵器』である私達の為にここまでしてくれて。」





磯風「……私達は貴方の優しさに、もう十分救われたよ。」





磯風「だから…………もしもこの先、貴方が危機に陥ったら、私達の事は気にせず、自分の身の安全を最優先してくれ。」







磯風「………貴方を、死なせたく無い。」





直人「磯風………。」





磯風「……それが言いたかっただけだ。じゃあな‼︎」





今度こそ、磯風がこの場を去った。





そして、俺は磯風の背中を見ながら独り言を漏らした。





直人「………悪いな、磯風。 その願いは聞けない。」





直人(お前は自分達の事を『兵器』だと言ったが、少なくとも俺はそうは思わない。)





直人(お前達は、ここの提督や憲兵なんかよりも、ずっと立派に『人間』やってるよ……。)






直人(一度滅んだこの身と引き換えに、『今』を必死に生きるお前達を救えるのなら、それで良いと俺は思うんだ。)





直人(だから………)






直人「……お前達を、ここで見捨てたりはしない。………絶対に。」







…………不思議だ。上手くいく根拠なんて何処にも無い筈なのに、自信が湧き上がって来る。






……その『根拠のない自信』は、浅見が常に持っていた物。






直人(成る程……これは確かに、『強い』な。)






直人(浅見……馬鹿馬鹿しくて、それでいて眩しいお前の考えが、今更だが少しだけ理解できたよ……。)









直人「……ハッ」





直人(………こんな事を考える様になった辺り、俺にも焼きが回ったか?)








自身を鼻で笑いながらそう思い、俺は此処を去る準備を始めた。







……自分の信念を、貫き通す為に。






…………少女達の、新しい未来[とき]を、刻む為に。









ーー1時間半後ーー





ーーー鎮守府のはずれの雑木林ーーー





直人「……地図によると……この辺りだな。」






俺は、一日世話になった部屋を綺麗に整え、置き手紙を添えたのち、磯風から貰った地図を片手に憲兵の巡回を掻い潜りながら、鎮守府敷地の最端に位置する雑木林に来ていた。





雑木林の中は樹々が生い茂っており、まだ日が沈んでいないこの時間帯でも、樹々によって日光がある程度遮られている為やや暗かった。






直人(……成る程、此処なら隠れて何かするには好都合だな。)





そう思いながら、何か目印の様なものは無いかと思い、辺りを見渡すと………





???「……失礼します‼︎」つグイッ





直人「うぉぉ⁉︎」





何者かから首根っこを掴まれて、近くにあった茂みの中へと引きずり込まれた。






直人「痛っ………誰だ⁉︎」





素早く体制を立て直し、空手の構えを取り、臨戦態勢を整える。





???「ちょっ‼︎ちょっと待ってください‼︎私は貴方の味方です‼︎」





慌ててそう言ったのは、綺麗な緑色の髪をポニーテールで結んだ少女だった。





???「私、この鎮守府所属の夕張型軽巡洋艦1番艦『夕張』と言います。」





夕張「手荒な真似をしてごめんなさい……こんな所でも憲兵の巡回は実施されているので、急いで貴方の身を隠すべきだと思ったんです……」





夕張はそう言って、頭を下げた。






直人「……いや、こちらこそ済まない。少し過剰に反応してしまった。」






俺も構えを解いてから夕張に詫びを入れ、早速本題に移った。






直人「……さて、お前の様子とこの状況からして…………事情は知っているんだな?」





夕張「はい……磯風ちゃんから全部聞きました……。」





夕張「滝沢さん、本当に有難うございます。私達の為にここまでして下さって……。」






直人「……礼ならもう十分だ。それより、磯風から俺の要望の内容は聞いたのか?」






夕張「はい……まず、これが提督達の悪事の証拠です。」





夕張が差し出したのは………一本のUSBメモリだった。






夕張「……これには、長い年月をかけて重巡『青葉』が調査を重ねて、必死に集めた証拠が全て詰まっています。これで証拠は十分な筈です。」






夕張「これを、貴方にお渡しします。」





夕張が真剣な眼差しで俺の眼を見据えて、USBメモリを差し出す。




俺はそれを受け取り、同じく真剣な眼差しと、覚悟を込めた言葉で応じる。






直人「……お前達の意思、俺が確かに受け取った……‼︎」





夕張「……どうか、宜しくお願いします。」





直人「……ああ、任せろ。」






夕張「………成る程……陽炎型の皆が心を許したのも頷けるなぁ……」ボソッ





直人「何か言ったか?」





夕張「いえ、何でも。」





夕張「それと、貴方に頼まれた物は既にこちらに用意してあります。」





そして夕張は、近くにあった(暗くて気付かなかった)『何か大きな物』に被せている迷彩色の布を勢いよく剥ぎ取った。





そこから現れたのは、元帥の車を追跡する為に俺が磯風に頼んだ物の一つ………





直人「………上出来だ。」





……漆黒の中型バイクだった。






直人「排気量も十分、燃料も満タン、作りもしっかりしている。こんな物、よく短時間で用意出来たな?」





夕張「これでも私、この鎮守府の工廠員でもあるんで、機械には強いんです。」





夕張「因みに、バイクはスクラップ予定だった物をオーバーホールした物です。」




(※オーバーホール・・・機械を全て分解した後、各部品を清掃して再び組み立てる事で新品時の性能状態に戻す作業の事)





直人「それなら安心だ。これで心置き無く使える。」





夕張「……それとこれは少し失礼な質問ですが、滝沢さんはバイク、運転出来ますよね?」





夕張が恐る恐る聞いてくる。





直人「大丈夫だ。バイクは何度も運転した事がある。」





夕張「そうですか……もし滝沢さんが事故でも起こしたら目も当てられませんから……。」ホッ






そう言って、夕張は胸を撫で下ろした。






直人(まあ……今『免許は持って無い』がな。)





……何度も運転したと言っても、それは前の世界での話。




俺はこの世界に来たばかりなので、『この世界』で通用する免許は当然持っていない。




なので、今から無免許運転をする事になるのだが……。






直人「……もうどうとでもなれ。」ボソッ





夕張「? 何か言いましたか?」





直人「……なんでもない。」





直人(……俺が免許を持っていないのは、伏せておくか。 面倒くさくなりそうだしな……。)





夕張「あ、ヘルメットもどうぞ。」





夕張が俺に黒いフルフェイスヘルメットを手渡す。






直人「サンキュ。それと、磯風にもう一つ頼んだ物があったんだが……。」






……正直言って、『もう一つ』はバイクよりも優先度は低いので、無くても大丈夫だったのだが……。





夕張「それも用意してあります。どうぞ。」





……どうやらキッチリ用意してくれた様だ。





俺は夕張から『ソレ』を受け取る。





その正体は…………俺の手の中で黒光りする、護身用の『オートマチック式拳銃』と、予備のマガジン2つだった。







直人(……今まではリボルバー式拳銃を使っていたが、これでも十分使えるはずだ。)






そして俺は、拳銃を右腰に付いていた空のホルスターに、マガジンを隊服の懐にそれぞれ収めた。






直人「………よし、行くか。」





夕張「滝沢さん、ここから北に真っ直ぐ進めば道路に出られます。そこから少し遠くからですが鎮守府正門も見えるので、元帥の車が出るタイミングを測って出発して下さい。」





夕張「それと、その服装ではやや目立つので、これを羽織って行って下さい。」





そう言って、夕張が黒い無地の革ジャケットを差し出す。





直人(……確かにCGCの隊服なんて、この世界で着ているのは恐らく俺だけだろうだしな……目立たないに越した事は無い。)





直人「……何から何まで有難うな。」






俺は、夕張に重ねて礼を述べながら、ジャケットを受け取る。






夕張「いえ……滝沢さん、どうか御武運を。」






直人「ああ……。じゃあな。」






夕張に別れを告げ、俺はバイクを押しながら北へと進み始めた。








ーーー計画開始まで、残り20分。






-------






………現在の時刻は午後2時50分。不知火はこの鎮守府の『秘書艦』として剣持元帥を見送る為に、鎮守府正門前に居ました。





剣持「今回は世話になったな。」






???「いえいえ、こちらこそわざわざ御足労頂き、ありがとうございました。」






そう言って元帥に笑みを浮かべているのは、ここの鎮守府の提督。







………皆の生活を狂わせた、全ての元凶。






剣持元帥にはどう映ったのかは分かりませんが、少なくとも不知火には、提督が今浮かべている笑みは『悪魔』のソレに見えました。






『己が正しい』と決して信じて疑わず、笑いながら暴虐、破壊の限りを尽くす、そんな『悪魔』の。






剣持「鎮守府の運営は上手くいっているようだな。今後のより一層の活躍、期待しているよ。」





提督「元帥のご期待に応えられる様、今後も精進して参ります。」





そう言って、提督は恭しく礼をしましたが……







不知火(……嘘ですね。そんな事、この下種はこれっぽっちも思っていない。)







元帥、気付いて下さい。貴方の目の前に広がっている光景は、偽りの平和なんです。






……そう叫びたかった。この悪夢を、終わらせたかった。






けれど、人質に取られている陽炎の、皆の顔が脳裏によぎり、声が出ませんでした。





この人の皮を被った悪魔は、不知火が告発した瞬間、監禁場所に連絡して、人質を平気で殺させるでしょう。






……自分が失脚させられた『ただの腹いせ』として、命を平気で奪える。





今不知火の目の前にいるのは、そういう男です。






不知火(ごめんなさい、皆……。不知火は……弱いんです。)






不知火(………弱いから、戦う『勇気』と、罪を背負う『覚悟』が、持てないんです。)





不知火(ごめんなさい……皆……‼︎)






心の中で、誰の耳にも届かない謝罪をします。






不知火(……不知火も、どうしようも無いクズですね……)






自虐の笑みを浮かべ、現実に目を向ける。





剣持元帥は運転手付きのリムジンに、元帥直属の護衛の方々は大きなワンボックスカーにそれぞれ乗り込み、既に鎮守府正門をくぐった後でした。







………そして元帥がお帰りになってから暫くして、提督が『本性』を見せました。





提督「……二度と来るな、クソザル。」





提督「はぁ〜ストレス溜まったわ〜。………よし決めた。不知火、今日お前な。」





……それは、虐待の合図。地獄の始まりを告げる、悪魔の声。





不知火「………。」





提督「……上官を無視とはなぁ〜…………何様のつもりだ?」






次の瞬間、不知火の身体が左横に吹っ飛ばされました。





……右頬を思い切り強く殴られたと気付くまで、そう時間は掛かりませんでした。






不知火「……クッ…」





せめてもの反抗として、力の限り提督を睨み付けます。



しかし、返されたのは下卑た笑いと、悪魔の『本性』の片鱗を見せた言葉。






提督「ハハハ‼︎‼︎ いいね〜その闘争心に満ちた目………ズタズタにしたくなる。」





提督「……もう今からやっちゃって良いか。」





そう言って、提督が不知火に近づいて来ます。




伸ばされた提督の手が、不知火に触れる直前。






憲兵A「提督、少し宜しいでしょうか?」





提督「……チッ…………どうした?」





提督が伸ばした手を引っ込めて、舌打ちしながらやって来た二人の憲兵に目を向けました。





……次に憲兵の口から聞かされた情報は、不知火も驚愕する物でした。





憲兵B「数日前、駆逐艦不知火が鎮守府付近の海岸にて保護した男が、つい先程医務室から姿を消しました。」





不知火「‼︎‼︎」




不知火(………滝沢さんが?)





一体、どうして………そう考えていた時、数時間前に滝沢さんが口にした言葉が、ふと頭をよぎりました。




-----


直人『だが、今お前の目の前に居る大人は、間違いなくお前の『味方』だ。  ……だからな?』






直人『………俺にも、一緒に抱え込まさせろ。』



-----




不知火「………まさか………」ボソッ





脳内にある予想が浮かんだ時、鎮守府正門の前を、黒いバイクが元帥の車が去った方向へ、猛スピードで横切って行きました。






……バイクが横切る瞬間、運転手が一瞬、ヘルメット越しにこちらを見た気がしました。






不知火(………もしかして)






不知火「………滝沢さん?」ボソッ






そんな言葉が不知火の口から自然に出て来ました。


しかし………





不知火(……そんな訳無いですよね。)





不知火(………滝沢さんが、元帥殿にこの状況を伝えて下さる、なんて……)




不知火(………上手すぎる話ですよね……)





そんな妄想を頭から振り払っていると、提督と憲兵達の話し声で、不知火は我に返りました。






提督「ふ〜ん……ソイツと接触したのは?」






憲兵A「昨日から、陽炎型駆逐艦の数名が男と接触した記録がありますが、殆どが食事を運んだ程度でして、会話の為に本格的に接触したのは……」





憲兵A「……2番艦『不知火』のみです。」





提督「……な〜るほどねぇ〜。」






そう言って、提督が不知火の方へ再び向き直り、近づいて来ました。





そして………






不知火「………ウグッ‼︎」





提督「おい、何か余計な事言ったりしてないよな?」






………提督が、不知火の首を思い切り強く絞め、至近距離で睨み付けながらそう聞いてきました。







不知火「……しら、ぬ、いは、何も……っ‼︎」






提督「あ?正直に言えよ‼︎ほら、言ってみろよぉ‼︎」






苦しみながらそう答えますが、不知火の首を絞める力は緩みませんでした。




それどころか、力はさらに強まりました。







不知火「……本当に、な、にも、言って、ません……‼︎」






涙を浮かべながら、必死に訴える。





その直後、提督が不知火の首を解放しました。




瞬間、不知火は無我夢中で、不足していた空気を貪りました。






提督「……あ〜もういいや。一気にシラけたわ。」






提督「……おい、遠征で『敵母港空襲作戦』に行っている奴等、何時頃帰って来るっけ?」







提督が憲兵に、脈絡も無くそんな質問をします。







憲兵「?  確か出発したのが本日の午前10時で…終了時刻が80時間後なので、3日後の午後6時ですね。」






提督「よし……不知火、その時皆の前でお前を公開処刑するから。それまで牢にぶち込まれとけ。」






……そして、提督は不知火に、何でもない事の様に『死刑宣告』を言い渡しました。






不知火「⁉︎ ちょっと待って下さい‼︎ 不知火に落ち度はありません‼︎」






不知火は提督に必死に抗議しました。




……身の潔白が明らかになれば、殺されずに済むと思って。




しかし、提督が笑いながら言い放ったのはたった一言。







提督「いや、落ち度とかそういう問題じゃないからww お前を殺す理由は〜〜……『俺をシラケさせたから』だから。」







その瞬間、大事な事を思い出す。









………ああ、そうだ。コイツは、性根が腐り果てているんだった。






不知火(……こんな奴に常識を当て嵌めようとした、不知火が、馬鹿でした。)





不知火(この提督が来た時点で、不知火と皆の運命は、既に決まっていたのですね……)







その事を悟った不知火の心を埋め尽くしたのは、海の底よりも何倍も深く、暗く、寒い……







………『絶望』でした。







提督「おい、コイツを牢屋に連れてけ。」





憲兵達「「はっ」」






憲兵が二人がかりで不知火の両腕を乱暴に掴み、持ち上げます。





普段の不知火なら、必死に反抗するでしょうが………






………絶望に心を完膚なきまでに『砕かれた』今の不知火に、抵抗する気力は、ありませんでした。





そうしてなされるがままに、不知火は牢屋へと連行されて行きました。







不知火(……死んだら、この地獄から、解放されるのでしょうか。楽に、なれるのでしょうか。 …………だったら、それも………)







………不知火の目から、光は完全に消え失せていました。






-------






時刻は午後3時15分。





俺は元帥のリムジンと、護衛が乗っているワンボックスカーを追跡していた。





『機械に強い』と自身をそう評した夕張が整備したバイクは、マシントラブルを起こす事も無く、快調な走りを見せていた。







………しかしマシンの好調とは裏腹に、俺の心は沈んでいた。







直人(不知火………済まない。)







つい先程、俺は不知火が提督と思しき人物から、暴力を受けている現場を目の当たりにした。





………一瞬、バイクを乗り捨ててヘラヘラ笑っている提督を思い切り殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、すんでのところで堪えた。






『今ここで動けば、磯風や夕張、数々の艦娘達の『想い』を無下にしてしまう。』





自分に必死にそう言い聞かせて、俺はその場を去った。






……理由があったとはいえ、不知火を見捨てたのは事実。





その為、俺は自責の念に苛まれていた。




だが……





直人(……クヨクヨしたってしょうがない。不知火を助けたいのなら、ここから俺が頑張れば良いだけの話だ。)






直人(少しだけ辛抱してろよ……不知火。)





強引に気持ちを切り替える。





そして俺は、雑念を振り切る様に、バイクの速度をさらに上げて追跡を続行した。







ーー数十分後ーー






そして、2台の車とバイクは、通行車両も通行人も全く存在しない、人気の無い道路へと差し掛かった。





……鎮守府からは十分遠ざかった。 ここなら人気も無いので、誰かに聞かれる心配も無い。





直人(………そろそろ仕掛けるか。)





そう決断した俺は、バイクをフルスロットル状態に移行して、ワンボックスカーを、続いてリムジンを一気に追い抜いた。





直人(……この辺りだな。)





バックミラーで十分に距離を取った事を確認し、俺は急ブレーキをかけて道路のど真ん中にバイクを横向きで停めた。





バイザーを上げてヘルメットを脱ぎ、リムジンを見据える。






向こうもこちらに気付いたのだろう。リムジンがここから10m程の位置で停車した。



背後に続いていたワンボックスカーも停まる。





そして2台の車から出て来たのは、純白の軍服を身に纏い、軍帽を被った老人と、それを取り囲む様に陣形を構えた、しっかりした体躯を黒いスーツで包んだ5人の護衛だった。







直人(………さて、ここが正念場だ。)






俺が永く忘れていた『他人の笑顔の暖かさ』を思い出させてくれた、天津風、雪風、浜風、浦風、萩風、嵐。





俺を信じて、己の危険を冒してまで計画に協力してくれた磯風、夕張。





そして……見ず知らずの俺の命を助け、親身に接してくれた、不知火。






そんな優しく純粋な心を持つ『艦娘』に、恩を返す為に。





…………彼女達の信頼に、応える為に。





…………彼女達の、明日を変える為に。






直人(やってやる………何が何でも。)






舞台は整った。覚悟も出来た。後は……






………ただ事を成し遂げるのみ。







………そして、俺はバイクから降りて元帥達と対峙した。







直人「………貴方が元帥殿で?」





俺は老人に話を切り出した。





剣持「………如何にも。私が日本海軍元帥、『剣持 竜馬』だ。」






剣持「そういう君は何者で、私に何の用があるのかね?……まさか意味も無く車を停めさせた訳ではあるまい?」






直人「勿論です。 自分は『滝沢 直人』といいます。………今回、『メッセンジャー』として貴方の下へ参りました。」






剣持「ほう………。誰からの、どんなメッセージを預かっているのかね?」





直人「………横須賀鎮守府所属の『艦娘』一同からの直談判です。」





剣持「………‼︎‼︎」





元帥が、明らかに驚いた素振りを見せた。





直人(…………喰い付いたな。)






内心、『これで俺の話を詳しく聞いて貰える』と確信していたのだが………






………次に元帥の口から放たれた言葉は、俺の確信を粉々に打ち砕いた。






剣持「………ふん、大した事ないな。」





剣持「……私も忙しい。他に要件が無いのであれば、これで失礼したいのだが。」






直人「なっ………‼︎」





俺は絶句した。




話に喰い付かなかった事への意外感も有ったが、それ以上に俺の心の大部分を占めていたのは………







直人「……今の言葉は、訂正してください。」







艦娘の必死の想いを、『大した事ない』と切り捨てた元帥への、怒りだった。





直人「アイツらは………『艦娘』達は、必死に元帥、貴方に現状を、意思を伝える為に行動した‼︎」





直人「それをよく聞こうともせずに『大した事ない』だと………?」





直人「あんた、それでも上に立つ人間なのか⁉︎」




剣持「…………。」




直人「いい加減に何か喋ったら……っ⁉︎」





そう言いながら元帥の双眸を力の限り睨み付けたその時、俺はある違和感に気付いた。






元帥の眼に映っていたのは、呆れや苛立ちでは無く………






直人(………後ろめたさと、懇願?)






……元帥の目は、『申し訳ない』と詫びている様にも、何かを懇願している様に見えた。






直人(……何故だ?)






………俺は一度落ち着いて冷静になり、脳をフル回転させると同時に、視野を最大限に広げた。






直人(こんな時に後ろめたく思うという事は………状況的に考えて、『心にも無い事を口にしているから』?)





直人(それじゃあ何でそんな事を言う必要がある……?)





直人(……この話を、してはいけない理由があるのか……?)




直人(ならその理由は何だ…?)





直人(それに、元帥は俺に一体何を求めているんだ?)





直人(考えろ……探せ………何か、何かある筈だ……‼︎)






そして探し続けた結果、俺はある『事実』に気付いた。




その『事実』と自身の『考え』に基づいて、俺はある仮説を立てた。






直人(………まさか)





直人(………一度探りを入れてみるか。)






自分の仮説を実証する為、俺は元帥に再度話しかけた。






直人「……申し訳ありません。少し熱くなり過ぎてしまいました。」





剣持「……いや、こちらこそ言葉を誤った。謝罪させてくれ。」





直人「それはまた今度の機会に、艦娘達に直接言っていただければ……。」





直人「………ところで、話は変わりますが、貴方の護衛はとても優秀ですね。」





直人「…………立派に己の『職務』を果たして居られる。」





剣持「………フッ」




剣持「……面白い奴だな、君は。」






………元帥が微かに、しかし確かに笑った。



それは、安堵と、感心の笑みだった。






……どうやら、俺の仮説は当たっていたらしい。






直人(正直、当たって欲しく無かったんだがな……)






直人「……お気に召して頂けたのならば何よりです。」





剣持「ああ、コイツらは仕事熱心な上に身体が頑丈でな……」





剣持「驚くべき事に、『銃弾一発位なら、くらってもピンピンしている』のだよ……。」





直人「ほう……それは凄い。」






適度に相槌を打ちながら、俺は今後の展開を予想した。





そして夕張から貰ったジャケットを脱ぎ、バイクの座席部分にジャケットを掛けた。





直人(ジャケットを脱いだ方が『動き易い』。それに………)





直人(折角の貰い物を、『傷付けたく無い』しな。)







……これまでの『推理』と『観察』のおかげで、既にピースは揃った。





元帥の『察してくれ』と言わんばかりの表情。 現在のこの状況。





そして……





無機質な表情を保ち、一言も発せず、誰一人として『人間なら』無意識に行う筈の【瞬き】ですら一度もしなかった………






………まるで『ロボット』の様な、5人の護衛。







真実は、掴んだ。







さあ…………『開戦』だ。







直人「……先程、『銃弾一発くらってもピンピンしている』と自身の護衛を評されていましたね?」





剣持「ああ、そうだが?」






そして、俺はさりげなく腰のホルスターに手を添えて、元帥に『最終確認』を取った。






直人「………やってしまっても?」







剣持「……やはり、君は面白い人間だな。」





剣持「………構わん。思いっきりぶちかませ。」







直人「では遠慮無く」バァンバァンバァン‼︎






………その答えを聞いた瞬間、俺は即座に銃を抜き、護衛の一人に対して続け様に発砲した。







護衛が倒れ、動かなくなる。





そして……『正体』を現した。






直人「‼︎‼︎」





直人(まさかとは思ったが………)







アスファルトの地面に横たわって居たのは、俺が何体も葬り、また俺自身も葬られた、因縁深い『モノ』…………






…………『ゼニット』だった。







……横たわるゼニットを見て、俺は至極当然の疑問を抱いた。






直人(何でこの世界にゼニットが居るんだ⁉︎)





ゼニットは、前の世界で犯罪者集団『ロンダーズファミリー』のメンバーが使役していた、身体の至る所に『西暦3000年の技術』が用いられている機械人形。





………それが今この場に存在しているという事は、ある一つの『事実』を示していた。







直人(この世界にも居るって言うのか………⁉︎  ロンダーズが‼︎)






一体、どうして。



疑問は尽きない。だが………






直人(………今考えている暇は無さそうだな………。)






俺は黙考を中断して、機能停止した1体と同じ様に正体を現し、武器を構えた残り4体のゼニットに意識を集中させた。






直人(さて………やるか。)






そして俺は拳銃を構え、ゼニットに向かって全速力で駆け出した。






ーーー残り、4体。






活動中のゼニット1体の眉間に照準を疾く、そして正確に合わせ、引き金を引く。





バァン‼︎





轟音が鳴り響く。



狙い通りに眉間に銃弾が命中し、ゼニットが怯んだ。しかし致命傷には至らなかった様で、他の3体と同様に、俺に銃口を向けて発射態勢を取った。






直人(一発でダメなら………何発でも撃ってやる‼︎)





先程狙ったゼニットに対して再び引き金を引く。但し、今度は五連射。





これは流石に堪えたのだろうか、ゼニットは火花を散らしてその場に倒れ伏し、機能を完全に停止した。





ーーー残り、3体。





しかし危機はまだ去らない。




残り3体のゼニットが、引き金に指を添えていた。恐らくコンマ数十秒後には俺の元に大量の銃弾が殺到するだろう。






直人(正面には進めない、だが今前に進まなければ勝ち目が薄くなる。)





直人(だったら………‼︎)





俺は瞬時に決断し、右斜め前に勢い良く飛び込んだ。




その直後、つい先程まで俺が存在していた空間を、大量の銃弾が横切った。




……もしあそこに留まっていたら、俺は今頃蜂の巣になっていただろう。





そして俺は飛び込みの勢いを利用して一回転し、膝立ちに体制を立て直し、ゼニット1体を2体目と同じ要領で仕留めようと引き金を連続で引いた。




しかし………




一発目、二発目は狙い通りの位置に着弾したが………三発目は当たらなかった。





……そもそも、発射されなかった。





直人(チッ………弾切れか。)





ゼニット達が、再び俺に銃口を向けて来る。





銃弾再装填の時間は………無い。






直人(もう一回同じ様に避けるか?しかし単調な機械相手とはいえ、同じ手が通用するか?)





ゼニットから目を離さず、俺は思考を張り巡らせる。






…………そんな俺の目に、予想外の光景が映った。




ゼニットの1体が急に前に倒れ込んだのだ。どうやら、背後からなんらかの衝撃を受けたらしい。



想定外の事態に、俺に銃を構えていた2体のゼニットが背後を見る。




俺も同じ方向を見た。そこに居たのは………





直人(元帥⁉︎)





引き締まった表情で腰を深く落とし、握り締めた拳を前に突き出していた元帥だった。





直人(鋼鉄の身体を持つゼニットを正拳突き一発で倒すとはな………)





……この老人、見かけによらずかなりの強者らしい。





直人(……兎に角、今のうちだ‼︎)





俺は元帥が作った隙を逃さずに拳銃から空のマガジンを排出し、懐から取り出した新しいマガジンを再装填する。




そして標的を元帥に変えて、俺に背中を向けていたゼニット2体に容赦無く銃弾の雨を浴びせた。





………マガジンが再び空になる頃、2体のゼニットは力尽きてその場に倒れ伏していた。





ーーー残り、1体。





先程元帥に倒された最後のゼニットが再び動き出し、立ち上がろうとして両手を地面に突いた。




それを見た俺は最後のマガジンを装填して、走りながらゼニットの腕を狙い撃ち、体制を崩した。




俺は体制を崩したゼニットに走り寄り、上に覆い被さって馬乗りになる。




そして、ゼニットの脳天に銃口を突き付け………






直人「じゃあな。」






………ゼロ距離で、最後の銃弾を撃ち込んだ。




最後のゼニットの身体から、力が抜け落ちた。







………こうして30秒にも満たない、命懸けの攻防は幕を閉じたのだった。







直人「………フゥ………」





緊張状態をようやく解き、俺は軽く息を吐いた。



そして拳銃をホルスターに収め、元帥に近付く。






直人「御無事ですか?元帥殿。」





剣持「ああ……君のお蔭で助かったよ。礼を言わせてくれ。」





直人「いえ……ところで、あの男も機械人形では無いのですか?」






自分の正体を隠す為、『ゼニット』という正式名称を伏せながら、俺はずっとリムジン内に隠れていた運転手について元帥に聞いた。





剣持「ああ、それについては大丈夫だ。彼は正真正銘、ただの人間だよ。」





直人「そうですか……」





俺は密かに胸を撫で下ろした。これで『ひとまず』危機は去った。



そう判断した俺は、元帥に再び話しかけた。





直人「………それにしても、元帥殿の正拳突きもお見事でした。」





剣持「……既に衰え切った、老ぼれの拳だがな……お気に召したのなら何よりだ。」





そう言って元帥が自虐の笑みを浮かべる。





直人「…………。」





だが、高校時代に一度、全国の頂点付近まで上り詰めた空手選手の俺には判った。





直人(この老人………恐らく俺や浅見よりも強い。)





元帥がゼニットに放ったあの一発は、構え、気迫、威力、どれを取っても一級品だった。



そしてそこには、血の滲む努力と数十年積み重ねた研鑽が見て取れた。





直人(俺と浅見が2対1で挑んで、やっとの事で引き分けに持ち込める位だな………)






己の力に自信を持っている俺がそんな分析をする程、元帥の一発は本当に凄まじかった。





直人(一度、手合わせ願いたいものだな……)





そんな事を考えていると………





剣持「さて、滝沢君、だったな?少し良いか?」






俺は元帥の言葉で我に帰った。






直人「何でしょう?」






剣持「改めて礼を言わせてくれ。……本当に、有難う。」






剣持「そして冒頭で発した、君と艦娘達への侮辱の言葉を、深く謝罪させてくれ。」





そう言って、元帥は頭を深く下げた。





直人「………顔を上げて下さい。………コイツらに脅されたが故の、仕方無い発言だったのでしょう?」





そう言いながら、俺は足元に転がっていたゼニットの亡骸を軽く蹴った。





剣持「………そこまで気付いていたのか。」





頭を上げた元帥の顔は、驚愕と感嘆に満ちていた。





剣持「………ああ、その通りだ。」





直人「………詳しくお聞きしても?」





俺は元帥にそう聞いたが………





剣持「………駄目だ。」





剣持「君は私の恩人だ。君には、私ができる範囲で恩を返したいと思っている。」





剣持「………しかし、これは海軍の問題だ。部外者の君をこれ以上踏み込ませる訳にはいかない。」





そう言って、元帥は首を縦に振らなかった。




直人(……この様子だと、考えを変える気は無さそうだな。)





『何故ゼニットがここに居るのか。』




その疑問を解決する為にも、元帥から詳しく事情を聞いておきたい。





直人(……面倒臭くなるが、しょうがない。奥の手を使うか。)





俺はある『決断』をして、元帥に話しかけた。





直人「……確かに、『部外者なら』この件にこれ以上踏み込めないでしょうね。」




剣持「………それでは、君は関係者だとでも言いたいのかね?」




直人「ええ。」





そして俺は、元帥に自分の正体の一部を明かした。





直人「俺はこの機械人形を………『ゼニット』を、知っています。」





剣持「………何だと?」





その瞬間、俺と元帥の間に張り詰めた空気が立ち込めた。








剣持「……どういう意味だ、滝沢君?」





直人「…………‼︎‼︎」





………元帥が、今にも押し潰されそうな威圧感を隠さずに俺に話しかける。



俺はやっとの思いで、その強大な威圧感に臆する事なく質問に答える事が出来た。





直人「………そのままの意味です。俺はコイツらを知っています。」





直人「ただ……一つ補足させて頂くと、『敵として』です。」





俺の一言に、元帥が更に眉を細める。





剣持「……それでは、君はこの機械人形と………たしか『ゼニット』と言ったか………コイツらと戦った事があるのかね?」





直人「ええ、今まで何度も。」





そして、俺は元帥に『交渉』を持ちかけた。





直人「……俺は、ゼニットに関する情報を持っています。それと、そちらの事情についての話で、対価交換をしませんか?」






直人「如何でしょう?………元帥殿には、悪くない話だと思いますが?」






暫し間が空いた後、その交渉に元帥は苦笑いをもって応じた。





剣持「……食えない奴だな、君は。」






剣持「……良いだろう。その話、乗ってやる。」





直人「有難うございます。」






直人「それと重ねてお願い申し上げたいのですが、ゼニットについて話すと長くなりますので、何処か落ち着ける場所に移りませんか?」






剣持「……大本営にある、私の執務室で構わないか?」





直人「お招き頂けるならば、是非とも。」





剣持「……決まりだな。滝沢君、私のリムジンが先導するから海軍大本営までついてきなさい。」





直人「それは承知しましたが………コイツらの処分は如何なされるおつもりで?」





俺は床に転がった5体のゼニットと、空になったワンボックスカーに視線を向けながら質問した。






剣持「ああ、すっかり忘れていた。………少し待て。」






そう言って元帥は、掌サイズの長方形の薄い板状の物体を取り出して、何やら操作し始めた。






剣持「………よし、作業班に連絡した。数十分後には、ここには一切の痕跡が残っていないだろうな。」





直人「元帥殿、それは………?」





元帥が手に持っている物を俺は見た事が無かったので、つい好奇心で元帥に聞いてみた。





すると………






剣持「……滝沢君、君はまさか『スマートフォン』を知らないのか?」






………元帥が、信じられない物を見る目で俺を見た。






直人「………?  ええ、全く。」






剣持「ゼニットの事は知っていて、スマートフォンを知らないとは………」






剣持「………滝沢君。君は、一体何者なんだ?」





直人「……??」






一瞬、何故自分がそんな目で見られているのか分からなかったが、暫く考えてようやく気が付いた。






直人(…………ああ、そうか。)






直人(バイク、拳銃等の使い方が『前の世界』と一緒だったからつい忘れていたが………)






直人(………『この世界』は、俺の居た世界と一緒じゃ無い。)






直人(………俺の常識は、この世界では通用しないんだ。)






直人(一見同じ様に見えても、やはり…………何処か、違うんだ。)






直人(『艦娘』『深海棲艦』といった、俺にとって未知の存在も居るしな……。)






直人(……………。)






直人(………この世界でも、俺はずっと一人のまま、か………。)







ふと、俺の胸に哀愁と虚無の念が湧いた。







直人(………変だな。)






直人(………俺はこんな感情を持つ程、女々しくなかった筈なんだが………。)






………前は、一人でいる事を苦痛に感じる事は無かった。




寧ろ、一人の方が気が楽だった。






直人(…………どうやら、俺は『アイツら』と少し馴れ合い過ぎた様だ。)






いつも互いを信じ合い、助け合い、何度も困難を乗り越えていたーーー






ーーー『四人の未来人』と『一人の現代人』で構成されたチームの面々と。







直人(………本当に、おめでたい連中だったな。)





直人(だが…………)





直人(…………アイツらは、俺には無い『強さ』を持っていた。)






そして、その『強さ』が…………







……………ほんの少しだけ、羨ましかった。







直人(………感傷に浸るのは、この辺りで止めておくか。)






直人(もう………終わった事だ。)






過ぎた過去を今更未練がましく思っても意味が無い。






直人(………俺は、『現在[いま]』を生きているんだ。)






直人(………もうそろそろ、前を向くとしよう。)






そうして思考を自己完結し、俺は保留したままだった元帥への返事を返した。






直人「………俺の素性は、ゼニットと深く関係があります。なのでそれについても、後ほど説明させて頂きます。」






直人「………こんな胡散臭い人間ですが、どうか信じて頂きたい。」






真剣な眼差しで、元帥の瞳を見つめる。




元帥はしばらく考え込んだ後、俺の言葉に応えた。






剣持「………良かろう。恩人である君の言葉を、信じよう。」






直人「……有難うございます。」






剣持「では、行くぞ。……ついてこい。」






そう言い残し、元帥はリムジンに乗り込んだ。




リムジンのエンジンがかかる。




それを見た俺もバイクの座席に掛けてあったジャケットを羽織ってバイクに乗り、ヘルメットを被ってバイザーを下ろした。



エンジンをかけると、端切れの良い迫力のある重低音が周りに響いた。





そして、俺はリムジンを再び追跡し始めた。







……但し、今度は目的地を定めて。









ーーー1時間後ーーー




ーーー海軍大本営ーーー





……そして俺は駐車場にバイクを停めた後、海軍大本営の内部を元帥の後に続いて進んでいた。





大本営の内装は、海軍の本拠地と呼ぶに相応しい豪奢な物だった。




廊下の横には絵画、彫刻等の芸術品の数々。



上には眩い光を放つシャンデリア。



床には埃一つ無い、真紅のカーペット。






直人(……流石、海軍の総本山と言うべきか……)






さらに規律も徹底されている様で、すれ違う軍人は一人の例外も無く、元帥に道を開けた後に姿勢を整えて敬礼した。






…………俺に対しては疑惑の視線を向けていたが。






直人(………それもそうか。)





直人(海軍の権力者が、いきなり見知らぬ他人を懐に招き入れているんだからな………)





直人(……そう考えると、元帥も中々無茶な事をしているんだな……)





直人(それだけ俺を信用してくれているって事か………)





その事に対し、密かに元帥への感謝の意を抱いていると………






元帥「………ここだ。入り給え。」






元帥がある一室の前で足を止め、ドアを開けて部屋の中に入った。






直人「……失礼します。」






俺も続いて入室した後、ドアを静かに閉めた。




振り返ると、部屋の全貌が目に入る。




窓際には整頓された書類が乗った机。


中央には、応接用としてテーブルを挟んで設置された二つのソファ。


壁沿いには、大型テレビ、本棚等の家具。





………元帥の執務室は、とても綺麗に整えられていた。






剣持「座りなさい。」





元帥が俺にソファに腰掛ける様、促した。





直人「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。」




俺がそう言ってソファに座ると、元帥が食器棚からマグカップを二つ取り出しながら俺に聞いてきた。





剣持「滝沢君は、コーヒーと紅茶、どちらが好みだ?」





直人「……‼︎ 元帥のお手を煩わせる訳にはいきません。代わりに俺が用意します。」





元帥に飲み物を用意させるのは流石に気が引けた為、自分で動こうとソファから立ち上がると、元帥がそれを制止した。





剣持「構わんよ。君は私の客人だ、これ位のもてなしはさせてくれ。」





直人「………元帥の心遣い、心から感謝します。」





直人「……ではコーヒーを一杯、お願いします。」





剣持「うむ。………少し待て。」





そう言って、元帥は電気ポットで湯を沸かし始めた。





………そして数分後、俺の前には暖かいコーヒーの入ったマグカップが置かれた。






剣持「…君の口に合えば良いのだが。」





直人「………戴きます。」





元帥に謝意を述べながら、俺はコーヒーを一口。



コーヒーを口に含んだ瞬間、芳醇な香りと心地良い苦味が口内に広がった。





直人「………とても、美味しいです。」





素直な感想を述べる。





剣持「そうか、なら良かった………。」





それを聞いた元帥が微笑んだ。





元帥が自分用のマグカップを持ちながら、俺の向かい側のソファに座った。



………そして。






剣持「………さて。」






元帥の眼差しが、真剣な物へと変わる。






剣持「本題に、入るとするか。」






俺も、マグカップをテーブルに置き、姿勢を伸ばして答えた。





直人「………ええ、始めましょう。」







………こうして、俺と元帥の『取引』が開始された。









直人「……では、まず俺から情報を提供しても宜しいでしょうか?」





俺はそう言って話を切り出した。





剣持「こちらとしては構わないが………良いのか?この取引は、先に話した方が不利だぞ?」





……元帥の言う通り、この取引は先に話した方が交渉のカードを失い、不利になる。



最悪、『相手の情報だけ得てこちらの情報は話さない』なんて事もあり得るのだ。




だが………





直人(そもそも、今俺が最優先すべきなのは『元帥の事情を聞き、ゼニットについての情報を得る事』じゃない。)






直人「……こちらの要求を一つだけ、元帥殿に確約して頂けるのならばそれで構いません。」





剣持「……何だね?」





元帥が聞く。



そして、俺は元帥に『要求』を伝えた。






直人「どうか……横須賀鎮守府の艦娘を、元帥の御力で助けて頂きたい。」






剣持「………そういえば、君は『艦娘』のメッセンジャーとして私と接触したのだったな。」






剣持「ゼニットについて聞く前に、一体どんな内容のメッセージなのか、今聞いても良いかね?」






直人「………それでは伝えます。」






俺は呼吸を整えて、口を開いた。






直人「横須賀鎮守府所属艦娘一同は此度、俺を通じて『横須賀鎮守府在任の提督、憲兵一団の数々の悪事の内部告発』に踏み切りました。」





剣持「………‼︎‼︎」





元帥が思い切り眼を見開く。






剣持「……具体的に聞こうか?」






直人「………分かりました、と言いたい所ですが。」





直人「生憎、俺も一人の艦娘から話を聞いただけで、詳細は知らないのです。」





直人「……但し、悪事の証拠は艦娘から預かっています。」






そう言って、俺は懐から夕張から受け取ったUSBメモリを取り出した。





剣持「それが……。」





元帥がメモリに手を伸ばす。しかし、俺はメモリを持っている手を引っ込めた。






剣持「………どういうつもりだ?」





直人「……これを渡すかどうかの判断は、自分に一任されていまして。」





直人「……元帥殿が『横須賀鎮守府の艦娘達を助ける』と確約しない限り、渡すつもりはありません。」






そう言い切り、俺は静かに、それでいて強く元帥を威圧した。






剣持「……もしも私がそう約束しなかったら、君はどうする?」





元帥が問う。




それに対し、俺は己の双眼に確固たる意思を秘めて答えた。






直人「その時は………俺がアイツらを救います。」





直人「………たとえ、俺の手が血に塗れる事になろうとも。」






………それは、紛れも無い『海軍への宣戦布告』。





俺の双眸を、元帥は暫く見つめ………





………やがて、大きく笑った。






剣持「ハッハッハッ‼︎ ここまで真っ直ぐな性根を持った人間を見るのは久しぶりだ‼︎」





剣持「滝沢君、済まない。………少し試させてもらった。」





剣持「……君の覚悟、しかと見せてもらったよ。」





直人「……それは、『こちらの条件を呑む』という解釈で宜しいですか?」





剣持「ああ、そう受け取って貰って構わない。」






剣持「君がそこまで必死になる程、今横須賀の艦娘達は困難な状況に立たされているのだろう?」






剣持「……私は海軍の元帥だ。海兵も、艦娘も、私にとっては掛け替えの無い『家族』の様な物だ。」







剣持「困っている者が居るのであれば、手を差し伸べ………」








剣持「………………身内に『悪』が存在するならば、私自らの手で粛清する。」







剣持「……それに、今まで事態に気付かなかったのは私の責任でもある。」






剣持「自分と部下の尻拭いをするのは、人間として、上司として当然の事だ。」







剣持「………日本国海軍元帥『剣持 竜馬』の名にかけて、『横須賀鎮守府の艦娘を必ず救う』とここに誓おう。」






そう宣言した元帥の目は、何一つ曇りが無く、どこまでも澄んでいた。




……嘘を吐いている人間の目であるとは、俺には到底見えなかった。






直人「……その御言葉、信じさせて頂きます。」





そして、俺は元帥にUSBメモリを差し出し、元帥がしっかりと受け取る。






………今、艦娘達の想いが、俺の手から、確かに元帥の手に渡った。








直人「……それでは確約も頂けたので、これからゼニットについて話させて頂きますが、その前に一つ元帥殿に断りを入れさせて貰います。」





剣持「………何だ。」





直人「………今から元帥殿にお話しする事は、普通であれば信じられない様な夢物語です。」





直人「しかし、全て今まで俺が見て、聞いて、命を賭けて得た『真実』である事をご理解頂きたい。」





剣持「…………分かった。……話してみたまえ。」





直人「それでは………」






そして俺は元帥に、俺が知る限りの情報を提供した。






ゼニットは、『西暦3000年の技術で作られた量産型機械兵士』である事。



ゼニットを使役しているのは、西暦3000年の犯罪者集団『ロンダーズファミリー』である事。



ある時、ロンダーズが『西暦3000年』から1000年を越えて、『西暦2000年』へと活動拠点を移した事。





………そして、俺はゼニットとロンダーズが存在している世界の『西暦2001年』からこの世界の『西暦2021年』にやって来た事。







直人「……俺の知っている事は、これで全てです。」





剣持「……成る程な……」






直人「………ご理解頂けましたでしょうか?」





剣持「ああ。正直なところ信じられんがな……」





剣持「しかしそれならば、ゼニットが高性能である事も、滝沢君のゼニット討伐の手際の良さも説明がつくな。」





剣持「……それに、『あの男』の言っていた事にも辻褄が合う。」






直人「『あの男』?」






剣持「………滝沢君。君は私にとって、とても有益な話をしてくれた。」






剣持「…………今度は、私が君に益をもたらす番だ。」






そう言って、元帥が静かに語り始めた…………。









ーーーーーーー




ーーー数週間前の深夜ーーー




その夜、私ーー『剣持 竜馬』は一日の執務を終え、帰宅の支度をしていた。





剣持(………今日は、いつもより早く帰る事が出来るな。)






剣持「……フッ」






剣持(………それも、我が自慢の秘書艦様の日頃の頑張りのお蔭だな。)






私の優秀な秘書艦である、阿賀野型軽巡洋艦2番艦『能代』は、既に執務を終えて帰宅していた。



彼女は、こんな何の取り柄も無い老ぼれである私と、今まで二人三脚で共に歩んでくれた、最高で唯一無二の相方である。






………そして1ヶ月後は、そんな相方とのケッコンカッコカリ記念日だった。






剣持(日頃の感謝も込めて、何か贈りたいが………何にしようか?)






剣持(………ネックレスなどの綺麗な装飾品か? それとも何処か高級な店で食事?……休暇を与えて旅行に行かせるというのもアリだな……)






そんな、実に悩ましく、それでいて実に楽しい考え事に耽っていた………






………その時。




コンコン




執務室のドアが控えめにノックされた。





剣持「………?」





剣持(………こんな時間に誰だ? しかも全く気配を感じなかったぞ?)





首を傾げながらも、私は来訪者の入室を許可した。





剣持「………入れ。」





ドアが開く。そこから入って来たのは………





…………五人の黒服の男達だった。




一瞬で、執務室の空気が緊張した物に変わる。





剣持「………貴様ら、何者だ?」





剣持「………見たところ、海軍の人間じゃないな?」






男達「「「「「……………………。」」」」」






男達はただ立ち尽くしているだけで、何も答えない。





剣持「…………。」





剣持(………この連中、ただの侵入者じゃない。)





そう直感し、密かに戦闘態勢を整えていると………。





開いたままのドアからもう一人、男(顔が面で隠れているが、体格から見てそうだろう)が出てきた。




その男は、顔を摩訶不思議な面で隠し、漆黒のコートを羽織り、黒のチューリップハットを目深に被っており、不気味な雰囲気を醸し出していた。




……そしてその男の最も特徴的であった部分は、『左手の、三本爪のアーム』だった。






剣持(………義手か?それにしては珍しい形状だな……。)





疑問に思いながらも、警戒は緩めない。




……数秒間、膠着状態が続いた。





………やがて、最後に入室して来た不気味な男が声を発した。





不気味な男「こんばんは、君が日本海軍の『剣持元帥』かな?」






剣持「……如何にも。剣持は私だが。」






不気味な男「ふむ……そうか。ならば単刀直入に言おう。」






次に男が放った一言は、実に馬鹿げた物だった。






不気味な男「……今回、君には海軍の保有する資材を私に横流しして貰う。」





剣持「…………おい。」









剣持「……………………寝言は、寝て言えよ?」ギロッ






………余りにも馬鹿げていて、意図せずに殺気を振り撒いてしまった。






不気味な男「おお、怖い怖い。流石、元帥の地位に上り詰めるだけの事はあるな。」






男はヘラヘラ笑いながらそう答える。







不気味な男「だが……君に拒否権は無いよ?」






そう言って男が懐から何かの機械を取り出し、操作した。




瞬間、空中に映像が映し出される。






剣持「………‼︎‼︎‼︎」





『空中に映像が投影される』事にも驚いたが………




私が最も驚愕したのは、映し出されている『映像』の内容だった。



そこに映し出されていたのは、両手両足を縛られ、地面に横たわって眠らされている………






剣持「能代っ‼︎‼︎‼︎」






………私の、最愛の妻の姿だった。









不気味な男「……これで、君の立場は分かったかな?」






剣持「………貴様ァァ‼︎‼︎‼︎」






私は目の前の男に対して激昂した。


そして、腰のホルスターに収めていた拳銃を素早く取り出して銃口を男に突き付けた。






不気味な男「おっと、それはやめておいた方が良い。君が私に牙を剥いた瞬間、彼女の命は一瞬で絶たれるぞ?」






剣持「………グッ……!」






私は目の前の『外道』と、何も出来ない無力な『己』に対して、激しい怒りを覚えた。






唇を思い切り噛み締める。



口内が血の味で満たされる。




そんな私に、男が再び馬鹿げた事を話しかけて来た。






不気味な男「今、君は私を殺したくて堪らないだろう?」






不気味な男「……私はこう見えても寛大な方でね。そんな君に『チャンス』をあげよう。」






不気味な男「今から一度だけ、君は私に攻撃を仕掛けていいとしよう。勿論、人質である彼女の命は取らない。」






不気味な男「……まだまだ利用価値があるからな。」






……その一言を聞いた瞬間、私は返事も返さずに、右手の拳銃を左から右へと大きく振り切りながら、侵入者6人全員の脳天目掛けて弾丸を一発ずつ放った。






……本来、普通の人間の急所である脳目掛けて発砲するのは、人道的に許されるものではない。




しかし………






剣持(コイツらは……馬鹿にした。)






剣持(………能代の命を、馬鹿にした‼︎‼︎)






その『事実』によって、ついに堪忍袋の緒が切れ、我を忘れていたその時の私に、倫理観など、無かった。




銃弾は全て狙い通りの軌道を進んでいた。そして、コンマ数秒後には鮮血が舞う…………







……………筈だった。






剣持「な…………‼︎」





次に私が目にしたのは、銃弾を額に受け、血一滴も流さずに平然と立っている6人の姿だった。






剣持(コイツら………人間じゃない⁉︎)





その事に驚愕していると………





不気味な男「まあ………私達は『未来の技術で作られた機械の体』を持っているから、こんな野蛮な鉛玉一発位どうという事無いがなぁ‼︎‼︎」





不気味な男「アッハッハッハッハッハ‼︎‼︎」





男が、私を嘲笑う。



そして、ある事を悟り、戦慄した。






剣持(コイツは………正真正銘の、『外道』だ。頭が狂っている……‼︎‼︎)







そして気が付けば、私は異質な形状の銃を構えた黒服達に取り囲まれていた。






不気味な男「君にソイツらはどうやっても倒せないよ。何故なら全員倒す前に君が死ぬからな。」






剣持「………どういう………意味だ……?」






相手に生殺与奪の権利を与えてしまったこの状況下で、必死に声を絞り出す。





不気味な男「ソイツらには、君が反抗的、或いは不審な動きをしたが最後、君をその場で殺した後、監禁場所に居る仲間に『人質を徹底的に嬲った後に殺せ』と連絡する様に私がプログラムしているからだ。」






剣持「‼︎‼︎」






不気味な男「一体ならばともかく、五体を同時に相手取る事は出来まい。」






不気味な男「ああ、それと勿論、誰かにこの状況を知らせようとしてもアウトだ。」






不気味な男「コイツらは、君の行動全てを24時間監視するからな。下手な事をすると二人揃ってすぐに死ぬぞ?」






…………男の言い方が何か引っ掛かった。






剣持(私を『24時間』監視する……?)






剣持「……‼︎ おい待て、貴様まさか………‼︎」






不気味な男「ん?ああ、そういえば言っていなかったな。」






そして、男は信じられない事を言った。







不気味な男「これから君には、その五人を専属の護衛として雇ってもらうよ。」






不気味な男「その方が、自然に君の近くにソイツらを置く事が出来るからな。」





剣持「‼︎‼︎」





剣持「ふざけるな‼︎誰がこんな得体の知れない奴等を側に置く「忘れている様だからもう一度言っておくが。」





私の言葉を男が遮る。






不気味な男「君に、拒否権は無いからね?」






そう言って、男は先程空中に映像を映し出した機械をちらつかせた。



私の脳裏に、拘束された能代の姿がよぎる。





剣持「………グッ……」






無力な私は、要求に従うしか無かった。






剣持「………分かった。言う通りにしよう。」






不気味な男「……聞き分けの良い人間は嫌いじゃないよ。」






不気味な男「………さて、力の差も示した事だし、早速資材を………」






そして、男が資材を要求しようとした、その時………






ビー‼︎ビー‼︎ビー‼︎





大本営全域にけたたましい警報が鳴り響いた。



どうやら発砲音を聞きつけた者が、警報ベルを鳴らしたらしい。






不気味な男「おっと、邪魔が入ったか………」





不気味な男「ここに来た者を血祭りに上げるのも一興だが………今日は出直すとしよう。」






不気味な男「今日は夜分遅くに邪魔して済まなかったね。」






不気味な男「では……良い夢を。」






不気味な男「ハハハハハハハ‼︎‼︎」






男は笑いながら、背景に溶け込んで『消えた』。







………五人の、人間ではない『ナニカ』を残して。






-----







剣持「それ以降、ゼニットが私から目を離す事は1秒たりとも無かった。」





剣持「執務時でも、公の場でも、私情でも。」





剣持「一見すると監視が行われていないリムジン内部などでも、仕込まれた監視カメラでリアルタイムで監視されていた。」





剣持「奴等は、一瞬も隙を見せなかった。」





剣持「私は、何もする事が出来なかった………‼︎」






元帥が奥歯を噛む。



俺は、そんな元帥にささやかな反論を試みた。






直人「………『何も出来なかった』訳では無いかと思います。」






直人「俺は、元帥殿が先程ゼニットに放った一発のお蔭でゼニット達に勝利出来たと考えています。」






直人「そんなに、ご自身を責めないで下さい。」






………事実、元帥があの時に動かなかったら、俺はその場で蜂の巣になっていたか、時間が経ちジリ貧で負けていただろう。






剣持「………有難う。少し、気が楽になったよ。」





元帥が微笑む。





剣持「さて…………これで、私が話せる事は全てだ。」






剣持「何か、役に立てたかね?」






直人「ええ………まぁ。」






俺は元帥の質問に曖昧に答えた。




…正直、今の元帥の話から収穫はあった。






………『得たくない』収穫だったが。





直人(元帥にゼニットを押し付けた男の特徴は、話を聞く限り………)





直人(『ゼニットを使役出来』て、身体はゼニットと同じ『未来技術の塊』で、『左手には3本爪のアーム』を持ち………)





直人(………『狂っている』。)





直人(………まさか。)





俺は、それらの特徴に当てはまる奴に一人だけ心当たりがあった。




ソイツは、まさに『狂気の科学者』とでも呼ぶべき、俺が前に居た世界を幾度と無く滅ぼそうとした、あまりにも危険な存在。




それがこの世界に存在しているという事を、認めたくなかった。






剣持「………?」






元帥がこちらを不思議そうに見る。



俺はこれ以上、自分の動揺を元帥に勘付かれない様に、話題を切り替えた。






直人「……ところで、元帥殿はどうやって人質を奪還するおつもりで?」





剣持「ああ………」





剣持「………実は、能代には発信機を持たせていてな。」






剣持「今まで、ゼニットに監視されていた故に情報を確認する事が出来なかったが、つい先程、能代の居場所を特定した。」






直人「……‼︎」





直人「だったら、俺に構わずに救出に向かって下さい。」






ここで元帥の邪魔をする訳にはいかないと思い、俺はそう進言する。



それに、元帥は感謝を述べ、応える。






剣持「………心配してくれて有難う。だが、それについては大丈夫だ。」






剣持「大本営への移動中に、信頼できる私直属の部下達に招集を掛けた。」





剣持「だが、全員が集合するまで少し時間がかかる。」






剣持「……今の私は、ただ待つ事しか出来ないんだ。」






元帥の面持ちが、再び悲痛な物に変わる。



俺は、自分の失態に気付き、恥じた。





直人「…………申し訳ありません。不適切な言動でした。」





剣持「いや、良いんだ………。」





俺は、元帥の歯痒さを慮り、それっきり話さなかった。



そんな俺に、元帥が話しかける。





剣持「………さて、これで取引は終了した訳だが……」





剣持「……少し、私的な質問をしても良いかな?」





直人「……何でしょう?」






剣持「私はこれから、人員が揃い次第能代を救出し、その後君から譲り受けた証拠を理由に、横須賀鎮守府への強制捜査を執り行なうつもりだが………」






剣持「………滝沢君は、これからどうするつもりなのかね?」





直人「そうですね………。」






暫く思案し、俺は自分の考えを述べた。






直人「元帥殿のお話の中に、幾つか気になる点があったので、その調査をしようかと考えていますが………」





直人「………当分は、何か職に就いて資金を稼ごうかと考えています。」






剣持「………それは無理だろう。」






直人「………?」






元帥の言葉の意味が判らず、首を傾げる。




そんな俺に、元帥は当たり前の『事実』を告げた。






剣持「確かに、今後君が何をするにしても金は必要になってくるだろう。」





剣持「だが………この世界で有効な『戸籍』を持っていない君を雇ってくれる職場はあると思うか?」





剣持「……仮にあるとしても、そこが後ろめたい『何か』を抱えていない、健全な職場だと思うか?」





直人「………!」






直人(そこは盲点だった…………)






確かに、俺の様な身元不明の人間を雇ってくれる『普通の』職場なんて、ある筈が無い。






直人(…………俺のバカ‼︎)






直人(だとすると、俺はこれからどうすれば良い?)





直人(金はまともに稼げない。よって衣食住を確保できない。頼れる人間も居ない。)





直人(一体、どうすれば良い…………?)





この事態の打開策を必死に練る。



そんな俺を、元帥は『何か』を見定める様な目でじっと見つめていた。




そして………








………次の瞬間に元帥の口から出た『提案』は、俺にとって唐突で、有り得ない物だった。







剣持「……これは、君が望むならの話だが………」






剣持「………滝沢君。『横須賀鎮守府の提督』になってみないか?」






直人「…………………。」









直人「………………………は?」







俺の口から、間抜けな声が漏れ出た。







直人「………御冗談でしょう?」






剣持「私は至って真面目だが?」






元帥が真顔で答える。



冗談を言っている雰囲気では、無かった。







直人(………元帥が本気だとしても、それはまずい。)





直人(元帥と俺が今後背負う事になるリスクが、大き過ぎる。)






俺は元帥の誘いを断るため、次々と不安要素を提示し始めた。







直人「……先程元帥が仰った様に、俺の戸籍は存在しません。そんな俺がいきなり海軍の管理職に就ける訳がありません。」






剣持「戸籍位私のコネを使えば作れる。それに、その際身分もある程度偽装できる。」






直人「………犯罪ではないですか。」






剣持「………バレたらバレたで、その時は揉み消すさ。」






元帥が、大した事ではない様にそう言い放った。





直人「……………。」






直人(つくづく思うが………)






直人(………『権力者』というのは、本当に恐ろしいな。)






直人(どんな無茶苦茶な事でも、それを実現する力を持っているのだから。)






内心、元帥に微かな畏怖を覚える。



それでも、俺は口を閉じない。






直人「………仮に自分を抜擢したならば、他の人間が黙っていないでしょう。」





剣持「私が黙らせる。」






直人「…………俺よりも、提督に適性のある人材は幾らでも居る筈です。」






直人「信頼出来る部下も、いらっしゃるのでしょう?」






剣持「……話を聞く限り、君は前の世界で戦闘部隊を率いていたのだろう?」





剣持「そこで培ったノウハウは、そのまま提督の執務に活かせる筈だ。」






剣持「それに、私が信頼出来る者達は全員、『憲兵部隊長』『提督補佐』等と言った、替えが効かない地位に現在就いていてな……。」






剣持「…………他の者を登用するとしても、今の海軍の人間は迂闊に信用出来ない。」






直人「………と、言いますと?」





俺が問い返す。


元帥が、苦々しい表情で応えた。





剣持「………『私の秘書艦である『能代』が誘拐され、私の執務室に侵入者が来た』事については聞いていたな?」






直人「ええ………それが何か?」






剣持「………奴らは能代の帰宅途中を狙い、能代を拉致した後、私の元に来た。」






剣持「………だとすると、奴等は能代の帰宅ルートと、私の執務室の位置について、完璧に把握していた事になる。」






剣持「能代の帰宅ルートに関しては、ストーキング等で突き止める事も可能だろう。」





剣持「……だが、大本営内の見取り図の情報は、外部の人間には入手出来ない。」






剣持「当てずっぽうで引き当てる程、大本営の敷地は狭くない上に、部屋も少なくない。」







剣持「………では、奴等はどうやって私の執務室の位置を突き止めた?」





直人「…………?」





暫く元帥の言葉の意味について考える。





直人(大本営の見取り図の情報は、外部の人間には手に入らない……?)





やがて…………





直人(…………『外部の』人間には?)








直人「…………‼︎‼︎‼︎」






俺は一つの考えに至った。






直人「元帥殿、貴方まさか………」





そして、俺は自分の考えを口にした。






直人「……………海軍内に、『内通者』が居るとお考えで?」






剣持「…………ああ。」






…………元帥が、重苦しい声で肯定した。






剣持「『何者かが、侵入者に情報を流した』とすれば、辻褄が合う。」






直人「………それで、海軍の人間は信用出来ないと仰ったんですか。」






剣持「誰が裏切り者であるかを見極めるまでは、な。」






剣持「……それに君に提督を勧めたのは、他の理由もあってな。」






直人「………その理由をお聞きしても?」






剣持「………今、『艦娘』の立場は極めて不安定だ。」






剣持「というのも、現在海軍内部で、艦娘を『人間』として捉えるか『兵器』として捉えるかで派閥が出来ているのだ。」






剣持「因みに、私は前者に属している。」






剣持「『彼女達には、『心』がある故に、『物』では無い』というのが私の持論でな。」






直人「……それについては同意見です。」







俺は、今まで交流を持った艦娘達の顔を浮かべながら、そう答えた。



彼女達が、『兵器』である筈が無い。




『兵器』は、意思を持たない。




故に、笑わない。顔を赤らめない。怒らない。他人の身を案じない。





そして…………………涙を流さない。






直人(アイツらは…………れっきとした『人間』だ。『兵器』じゃない。)






剣持「……そんな君だからこそ、『艦娘』達を安心して任せられると思ったのだよ。」






剣持「艦娘達の為に危険を冒して行動し、艦娘達の為に怒り、艦娘達を『モノ』ではなく『ヒト』として見る事が出来る。」






剣持「…………そんな君だから。」






剣持「………先程の言動の一部を訂正させてくれ。」






直人「何でしょう?」





俺が問い返す。





剣持「私は、君に提督になる事を『提案』した。」





剣持「だが本心では、私は君に提督をやって貰いたい。」






剣持「改めて、君に『提案』ではなく、『依頼』をさせてくれ。」





そして、元帥が俺の目を見据えて、『依頼』した。






剣持「……横須賀鎮守府の提督に、着任してくれないか?」








剣持「……………『艦娘』達を救い、護ってやってくれないか?」






そう言って、元帥は深く頭を下げた。





直人「……‼︎」





直人「どうか顔を上げて下さい。」





俺は慌てて元帥の顔を上げさせた。




元帥が顔を上げ、問う。






剣持「………どうだ?」






直人「…………数分程、考えさせて下さい。」






俺は考えを張り巡らせる。





ここで提督になれば、戸籍と職と安定した衣食住を一度に得る事が出来る。



『元帥』という、大きな後ろ盾も得られる。




………この話は俺にとって、利益しか無い。




それに、ここで依頼を断れば、ここまで俺を買ってくれた元帥に申し訳ない。







直人(……………いや、それはあくまで『オマケ』と『建前』でしかないな。)





………正直なところ、俺が元帥の提案を最初に断ったのは、リスクなんかが理由じゃない。






直人(俺は…………怖かったんだ。)





直人(………上に立つ事で、いずれアイツらから『も』見捨てられる事態に陥る事が。)






しかし、思い返してみる。





俺がCGCから、『浅見グループ』から見捨てられたのは何故だ?





直人(……俺が、出世を急ぎ過ぎたからだ。)





直人(周りを、全く省みようとしなかったからだ。)






原因は自分にある。だったら…………






直人(…………変えられる。)






直人(今度は、未来を変えられる……‼︎)






直人(………なんてちっぽけな事を怖がっていたんだ、俺は?)





俺は少し前の俺自身に呆れる。





直人(俺は、決めた筈だ。)





直人(アイツらに、借りを返すと。)





直人(…………アイツらを、助けると。)






直人(俺は…………ただ純粋に、アイツらの力になりたい。)






直人(俺なんかを信じて、頼ってくれたアイツらに、応えたい。)






…………思い出せ、滝沢直人。



お前は今まで何をしてきた?






直人(俺は……仕事として、人や街を『守ってきた』。)







直人(そうだ………これから俺がする事は、前と何も変わらない。)






直人(ただ…………守る『理由』が、『仕事』から『己の意思』に代わるだけ。)






直人(今度は、自分の意思で、『守る』。)






直人(守り通して、みせる……‼︎)






そこまで決意し、俺は元帥に聞いた。






直人「………元帥殿、準備までにどの位の時間が必要ですか?」






剣持「…………‼︎‼︎」






剣持「……戸籍準備や手続きに3日。君の提督としての最低限の教養を身に付けてもらうのに1週間だ。」






それを聞き、俺は即座に言葉を返す。






直人「3日で十分です。勉学は、俺が2、3倍努力すれば良いだけの話。」





直人「………努力するのは、俺の十八番ですから。」





そして、俺は導き出した『答え』を告げた。








直人「………剣持元帥、俺を、提督にしてください。」






-------






…………そこから、各々の想いを乗せて、時は流れていった。






ーーー1日後。





剣持「滝沢君。昨晩、能代の救出に成功したのだが、監禁場所に裏切り者に関する『証拠』があったよ。」





直人「その証拠とは?」





剣持「実は能代と共に、---------。」





直人「‼︎‼︎‼︎」





直人「と、言う事は………‼︎」





剣持「ああ、間違いない。」








剣持「裏切り者は、『アイツ』だ。」








ーーー2日後。




ーーー獄中ーーー





不知火「…………。」ハイライトオフ





不知火(もう、明日で何もかも終わるんですね………。)





不知火(やっと、この地獄から抜け出せる………。)








不知火「皆さん………不知火も、すぐにそこに行きます。」





-------






そしてーーー







ーーーーーーー3日後。






各々にとっての運命の日が、やって来た。









ーーーー横須賀鎮守府ーーーー




ーーー大講堂ーーー






今現在、私ーー『磯風』は、大講堂内部に他の艦娘達と共に整列していた。





今朝、提督からの集合命令が、横須賀鎮守府所属の全艦娘に降ったのだ。




なお、何をするのかは全く聞かされていない。






磯風(一体、何をする気なんだ?)






『あの』提督が艦娘を集めて集会を開く事など今まで一度も無かったので、不気味である。






磯風(まあ………どうせ直ぐに分かる事だ………。)







今考えてもどうしようも無いと結論付け、思考を終える。




少しの間、呆然とする。






磯風(………滝沢さんは、上手くやってくれただろうか………?)






ふと、そんな事を思う。






磯風(………良い人だったな………。)







彼は、普段は何となく厳しそうな表情をしているが、他人の事を考え優しくできる人だった。




……そして、私が初めて、好感を持つ事が出来た『人間』だった。






磯風(あんな人が、ここの提督だったら良かったのだがな………。)






叶わない願望を胸中に浮かべる。



そんな物思いに耽っていると………





提督が、講堂前方のステージに登壇した。





講堂内の空気が、一層冷え、緊張感のある物に一変する。





艦娘達「………。」ビシッ





そして、艦娘全員が提督に対して行うのは、『形式上』の敬礼。(艦娘達による、せめてもの反抗である。)





(ある程度予想していたが)提督は、敬礼も返さずに話を切り出した。







提督「さて、今回貴様等に集まってもらったのは…………」







そして、提督は『ヒト』としての感性を疑う一言を放った。






提督「…………裏切り者の公開処刑をお前達に見せつけて、恐怖心を植え直すためだ。」






艦娘「‼︎‼︎‼︎」





ザワザワ…………





艦娘達が一斉にざわつく。




ある者は悲痛に顔を歪め、またある者は、既に何もかも諦めた表情で虚ろな眼をしていた。





そんな、見るに耐えない光景の中…………





……………私はある『最悪の予想』に思い至ってしまった。






磯風(………まさか。)






提督の話が始まる前から、私の中を駆け巡っていた、『悪寒』。




これまで、嫌という程思い知らされた『提督』という人間の、残虐性。




そして………








……………数日前から姿が見えない『姉』。






それらのピースは、私の中で、不気味な程、隙間無くキッチリと嵌っていた。






磯風(………嘘だろう?)






磯風(嘘だと、言ってくれ………‼︎)






心の中で悲痛に叫ぶ。






提督「処刑されるのは、コイツだ。」






……………しかし、そんな私の願いを、現実は嘲笑った。





憲兵に連れられて、何者かが登壇する。





そして、そちらを見た私の目に入ってきたのは………




手錠を付けられ汚れた服を身に纏い、髪はボサボサになり、普段見せていた凛々しい表情の代わりに、濁った双眸を持った…………







磯風(……………不知火、姉さん……………。)






…………変わり果てた、姉の姿だった。








提督「コイツーー不知火は、外部への海軍に関する情報の横流しを働いた。」







提督「………海軍の情報を売る事は、海軍自体を売る事と同義。」






提督「よって………心苦しいが、私直々の打首とする。」







提督が心にもない事を口にする。






磯風(何が………『心苦しい』だ………)






腑が煮え繰り返る。





しかし、提督の五月蝿い口はまだ閉じなかった。







提督「………と言うのは建前で、本当の目的は先程も言った通り…………」







そう言った直後、提督の顔が邪悪な嗤いで歪み………




……本性を、見せた。







提督「……お前達に、反抗する気も失せる様な圧倒的な恐怖を植え付けるためだよォ‼︎‼︎‼︎」






提督「泣け‼︎叫べ‼︎そして絶望して学べ‼︎お前達は、所詮『道具』でしか無い事を‼︎」






提督「道具が………人間様に、歯向かうなぁ‼︎‼︎」






提督達「アハハハハハハハハ‼︎‼︎‼︎」






提督が笑い、提督の護衛として、講堂に来ていた憲兵達が笑い声に同調する。







磯風(………………。)






それを聞いた瞬間………






………………………遂に私の中で何かが『途切れた』。







途切れた物が堪忍袋の緒だったのか、理性だったのか、はたまた別の物だったのかは、判らない。





だが、一つだけ確かなのは…………









磯風(……………コロシテヤル。)







………私の中には、一生分と言っても良い程の激しく、巨大な『怒り』と『憎悪』、そして、『殺意』が渦巻いていた。







磯風(オマエの方が…………死ぬべきだ。)






磯風(誰も、お前を裁かないのであれば…………)






磯風(……………私が、ここに居る仲間達と、奴等に殺されていった仲間達に代わって、断罪する。)







今までの人生で一番強く、悲しい決意を固める。




私は密かに『艤装』を装着する準備を整えた。




本来、艤装とは正式な手順を踏んで装着する物。



だが非常時に対応出来る様に、艦娘は自分の意思で装備の一部を喚び出し、その場で装着する事が出来る様になっている。




………最低限の装備しか喚び出せないのが、欠点だが。




故に、今の私が装備出来るのは、せいぜい単装砲一つ。




だが………





磯風(提督を葬るには、十分だ。)






周りを見渡し、状況を把握する。



ステージ上には提督[標的]と、2人の憲兵に押さえつけられて項垂れている不知火が。



そして、ステージ下には10人程の、刀や拳銃などで武装している憲兵。




提督一人だけならば私だけでも何とかなるが、流石に憲兵12人を一人で相手取る事は出来ない。





提督を殺した後、私は憲兵達にその場で殺されるだろう。





あくまでそれは『私一人』の場合であって、他の艦娘達に協力して貰えば良い話なのだが………







磯風(…………それは、ダメだ。)





磯風(『反逆者』のレッテルを貼られるのは…………私一人で良い。)





磯風(汚れ仕事に関わるのも、私一人で良い。)






そう思うのは、ある『事実』を知るが故。







それは、『提督を手にかける』という事は、『人質に取られている艦娘達の命』を奪う事と同義であるという『事実』。







磯風(ああ…………そうか。)






ここに来て、私はようやく悟った。




今まで艦娘達が尻込みして反旗を翻さなかった、最大の理由。





それは、『人質を殺される事』への恐怖ではなく…………







磯風(……………『反旗を翻した事で人質を殺してしまい、故に他者から怨まれる事』への恐怖だったんだ。)







つまるところ………誰も『自分の手を汚したく無かった』のだ。




罪の無い『綺麗な自分』で、在り続けたかったのだ。




それは………当然の『心理』で。




……………紛れも無いこの悪夢の、『真理』だった。







磯風(………今の艦娘達には、必要なんだ。)






磯風(…………『救世主』であり、『憎しみの象徴』でもある存在が。)






その二つは、皮肉にも相反する『存在』。






磯風(だったら、尚更他人は巻き込めない。)





磯風(そんな『必要悪』は………私一人で十分だ。)







磯風(……………私が、全て背負ってやる。)






磯風(罪も、死者の怨みも、生者の憎悪も、何もかも。)






磯風(陽炎姉さん、黒潮姉さん、皆…………すまない。)






人質に取られている仲間達に、心の中で謝罪する。






磯風(私も、すぐに『そっち』に行くよ…………。)






磯風(『向こう』で、幾らでも責めて良い。………どんな罰も、私は全て受け入れよう。)






磯風(だから…………今は…………)







磯風(目の前で嗤っているクズを………消させてくれ………‼︎‼︎)






提督「それでは、しっかりと見て、聞いておけ‼︎裏切り者の鮮血を‼︎断末魔を‼︎無様に転がる生首をォ‼︎‼︎」






そう言って提督が、腰に挿していた軍刀を鞘から抜き放つ。





不知火姉さんは、魂が抜けた様にピクリとも動かず、膝立ちで項垂れている。






磯風(……お前が言った惨劇は、不知火姉さんには起こらない。)






磯風(………お前自身に起こる物だ。)







狙うのは、残虐非道な提督が『誰かの命を奪う』快楽に最も深く酔いしれて油断しており、尚且つ不知火姉さんに害が及ばない様なタイミング。






………つまり、提督が軍刀を振り上げ、振り下ろすその直前。






提督の挙動を観察して、そのタイミングを測っていると………。






浜風「……………磯風、大丈夫?貴女今凄く怖い顔してるわよ?」






隣に並んで居た浜風が、心配そうな表情で話しかけてきた。






磯風「浜風…………」






そして、私は唯一無二の妹に笑顔を向けながら『遺言』を残した。







磯風「……………………今まで有難う。……………………皆に『すまない』と言っておいてくれ。」ボソッ






浜風「⁉︎⁉︎」





浜風「磯風、貴女………⁉︎」






浜風が顔を真っ青にして私を止めようとするが、もう遅い。





提督が軍刀をゆっくり振り上げる。




その瞬間私は単装砲を顕現させる。





磯風(………滝沢さん、すまない。)






こんな私達に手を差し伸べてくれた、一人の『恩人』に詫びる。






磯風(貴方の為に取っておいた、感謝の言葉は伝える事が出来なかったよ………。)






磯風(貴方ならきっと、『私達の託した願い』を………そして、『貴方自身の目的』を果たせると、信じている。)






磯風(………後は、頼んだ。)






磯風(………ありがとう。)





磯風(………………さよなら。)






そして、私は照準を一瞬で提督に合わせて、引き金を……………






バァァァン‼︎‼︎






全員「‼︎‼︎」ビクッ






………………ステージの向かい側にある、講堂の正面ドアが勢い良く開かれた音に出鼻を挫かれ、引けなかった。





講堂に居た全員が反射的に、開け放たれたドアの方に目を向ける。




そして見たのは………





大型ライフル、防弾ベスト、軍用フルフェイスヘルメット等で完全武装し、『元帥直属』の証である腕章を身に付けた20人程の憲兵達が、一斉に講堂内に雪崩れ込んで来る姿だった。







磯風(……‼︎)






憲兵達が、ステージに向かって一直線に駆けて行く。





それを見た壇上の提督が騒ぐ。






提督「貴様ら、一体何者だ‼︎ここを何処だと思って……ッ‼︎」







だが、提督の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。





何故なら………






………突入してきた憲兵達が、提督とその部下達に対し一斉に『銃口を向けた』から。





提督達が怯み、動きが完全に止まる。





突然の乱入者達は、一瞬にしてこの場を制圧してしまった。




そして突入部隊を率いていた男が一歩前へと出て、メット越しにくぐもった、しかし確かな声を発した。






男「………お前が、横須賀鎮守府の提督だな?」






提督「………それがどうした‼︎」





提督が怒鳴り声をあげる。




それに対して、男は淡々と告げる。





男「俺達は、剣持竜馬元帥直属の憲兵団だ。」





男「そして俺は、その隊長を務めさせてもらっている。」





隊長「剣持元帥の命により…………」





隊長「貴様を、資源の業務上横領、外部への情報の横流し、提督としての資質の欠如、その他諸々の疑いにより………」






隊長「………本日付で『横須賀鎮守府提督』を解任し、身柄を拘束する。」






提督「ふ、ふざけるなぁ‼︎私がそんな事をした証拠なんて「あるぞ。」






提督「‼︎‼︎」






隊長が、提督の言葉を遮る。






隊長「……数日前、剣持元帥の元に、匿名の情報提供があった。」








隊長「…………その際、証拠も一緒に提供された。」






提督「なっ………‼︎」







それを聞いた瞬間、私は……………





……………両膝を突き、嬉し涙を流した。






こんな事が出来る『人間』なんて…………一人しかいない。





磯風「……………ハハッ」





磯風「……………やって………くれたんだな…………」






磯風「…………………本当に。」






磯風「………ありがとう…………滝沢さん………‼︎」






取って置いてあった涙と、感謝の言葉が一気に溢れ出る。



顕現した艤装が霧散する。




私の様子を周りで見ていた浜風達が訳の分からない顔をしていたが、それも気にせず、私は感謝の涙を流し続けた。







…………そして私が泣いている間に、隊長は胸元からスマートフォンを取り出して操作し、提督に画面を向けた。





一体画面に何が映し出されたのか、ここからは分からなかったが………







提督「………‼︎‼︎」







提督の真っ青な表情を見るに、映し出されたのは決定的な証拠だった様だ。






隊長「………これで分かったな?」






隊長「…………貴様に、逃げ場は、無い。」






隊長「………拘束しろ。」





憲兵達「「ハッ」」





隊長が、憲兵に拘束を命じる。




………そして二人の憲兵が、提督を拘束する為にステージに上がろうとした時だった。







提督「………近寄るなぁ‼︎コイツがどうなっても良いのかァ⁉︎」






提督が錯乱状態に陥りながら、背後から不知火の首の皮に軍刀を付けた。





………それは、『提督』という下種の、最後の醜い悪足掻きだった。






磯風(……どこまでも性根が腐っている奴だ………‼︎)






涙を拭き、顔を引き締めて、私は再び艤装を装着しようとした。






…………今度こそ、奴の息の根を止める為に。





そんな中、隊長が提督に呆れた様に話しかけた。






隊長「…………お前、馬鹿か?」





提督「…………は?」






提督が間抜けな声で聞き返した、その直後。





バァァン‼︎





隊長が、腰のホルスターから一瞬で引き抜いた拳銃が、火を噴き…………





…………提督の眉間に命中した。




提督が気を失い、後ろに倒れる。



それによって、不知火の首から軍刀が離れる。




それを確認した直後、憲兵達が即座に提督の元に駆け寄り、今度こそ身柄を拘束する。





隊長「………そういう人質の取り方はな、相手側が『飛び道具』を持っていない事が大前提なんだよ。」






隊長「この状況下でお前が取った行動は、まさに愚の骨頂だった訳だ。」






隊長「……因みに、お前に撃ったのは非殺傷のラバー弾だ。」






隊長「………って、聞いてないか………。」






憲兵達の手により、ステージから引き摺り下ろされる提督を見届け、隊長はステージに一人俯いたままでいる不知火の目の前に立った。






-----





不知火「……………。」ハイライトオフ






その時の不知火の意思は、希薄でした。





………この世の全てに絶望したから。




……………不知火の未来[明日]が、見えないから。





今の不知火が何かを見ても、脳が記憶しない。




今の不知火が何かを聞いても、そのまま耳を通り過ぎる。




今の不知火が何かを感じても…………




……………心が動かない。





男「………随分と酷い顔をしているな。」





不知火「……………。」







故にその言葉も、先程も同じ様にそのまま虚空へと消えました。




しかし…………






男「…………顔を上げろ‼︎そして前を向け不知火‼︎‼︎」






その直後に、目の前から聞こえた『喝』だけは、何故か脳が忘れる事を拒みました。



何故か耳が聞き逃す事を拒みました。





………………何故か、心が熱くなりました。






不知火「………‼︎」ビクッ





不知火「……………?」





一体、何故。



そう『感じた』不知火の心が、不知火の顔を久しぶりに上げさせました。




不知火が顔を上げた事を確認した目の前の男が…………ライフルを置き、空いた両手をフルフェイスヘルメットに添えます。





そして、『男』がヘルメットを脱ぎ捨てました。





その瞬間…………






不知火「………‼︎‼︎‼︎‼︎」







不知火の目に、光が再び、確かに灯りました。





何故ならば、素顔を露わにした男の正体は…………






不知火「……………た、きざ、わ、さん…………?」






直人「…………よお、待たせたな。」






直人「借りを返しに来たぞ……………不知火。」







-----『滝沢直人』その人だったのです。







不知火「どう………して…………?」






不知火から溢れるのは、言葉と、涙。






直人「言っただろ?『借りを返しに来た』って。」






直人「………これで、俺はお前に、恩をきっちり返す事が出来たか?」






滝沢さんが問う。




………そんなの、答えは不知火の中で決まっている。






不知火「………そんなの………決まっているじゃないですか………。」






不知火「………今、何十倍にもして、返して、頂きました………‼︎」







嗚咽を上げながら、不知火はそう答えます。



それを見た滝沢さんは、小さく微笑みました。






直人「………そうか、なら良かった。」






直人「…………それじゃあ、これで貸し借りはナシだな。」






直人「………ここからは、俺自身の意思に基づいた、俺の勝手な行動だ。」






不知火「………?」






滝沢さんの言葉の真意が分からず、不知火は首を傾げました。







直人「……………改めて、自己紹介をしようか。」







そう言って、滝沢さんは憲兵の一人からボストンバッグを受け取ると、着ていた防弾ベストを脱ぎました。




そして、バッグを開き、中から取り出した『何か』を勢い良く羽織ります。





それは…………純白の、軍服。






不知火「…………‼︎‼︎」







それを見た不知火の中で、葛藤がありました。






不知火(もしかして……まさか…………)





そんな期待と。






不知火(いえ、奇跡は、既に起こりました…………これ以上、不知火が奇跡を望んではいけません………。)





不知火(これ以上を望んでしまったら、それは『傲慢』と言う物でしょう。)






それを押し殺そうとする、『諦め』にも似た自制心との、葛藤が。







不知火(それにこれまでの様々な出来事で、不知火は思い知った筈です。)






不知火(……………『現実は、非情で、甘くない』と。」







不知火(………奇跡は、二度も起こらない。)






不知火(世界は、そんなに都合良く出来ていません。)






そう言い聞かせ、不知火は、もう『奇跡』は起こらないと全面的に否定しました。






………勝手に期待して、その期待が裏切られた時に負う傷を、出来る限り浅くする為に。






しかし、『現実』はここに来て、初めて『情』を見せました。







…………初めて、不知火達に、微笑みました。







その事を示すかの様に、軍服の襟を直した後、滝沢さんはステージに上がり、不知火とステージ下の艦娘達の方へと振り向き…………







直人「今日付で、『横須賀鎮守府提督』に着任した『滝沢 直人』だ。」







直人「………『提督としては』まだ未熟だが、これから宜しく頼む。」








………二度目の『奇跡』が起こった事を、告げました。







不知火「………嘘………。」





不知火の口から、そんな言葉が漏れました。






直人「嘘じゃない。………現実だ。」






直人「もう大丈夫だ。だから、もう泣くな。」






滝沢さんの声が、不知火の中で優しく響きました。



それ故に、更に涙が流れます。






直人「………ったく。泣くなって言ってるだろ?」






そうぶっきらぼうに言いながらも、滝沢さんは微笑みながら不知火の元に近づこうとし…………







提督「…………ハハ。」





提督「アハハハハヒャヒャヒャヒャハハヒャアハハヒャ‼︎‼︎」






………外に連行されかけていた提督の狂った笑い声が、それを中断させました。






直人「…………何だ、もう目が覚めたのか?」





滝沢さんが『案外タフな奴だ……』と小さく呟きながら、呆れた顔で『前』提督の方を向きます。






提督「………貴様、俺に、逃げ場が無いと言ったな?」






直人「ああ、そう言ったが?」






前提督の言葉に、滝沢さんが即答します。





提督「………馬鹿は、貴様だ。」






そう言いながら、前提督は憲兵の拘束を強引に振り解き、距離を取った後、懐からボタンの付いている機械を取り出しました。







提督「………逃走用の車を今すぐに用意しろ。」






提督「………さもなくば、このボタンを押して、人質である艦娘どもを皆殺しにする‼︎」






提督「憲兵達の武装も解除しろ‼︎いいな⁉︎」






提督の一言に、艦娘全員が青ざめ、騒ぎ出します。






直人「………良いぞ?ボタンを、押してみろ。」






艦娘達「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」






そして滝沢さんの放った一言が、講堂内を阿鼻叫喚でさらに満たします。





提督「い、良いのか?本当に押すぞ⁉︎」





直人「だから『押して見ろ』って言っているだろ?同じ事を何度も言わせるな。」





直人「………貴様をここから逃がすつもりは、毛頭無い。」





直人「……それに貴様だったら、要求が通った後にどうせボタンを押すだろ?」





直人「だったら、今とっとと押せ‼︎貴様に押せるものなら押してみろ‼︎」





滝沢さんが、前提督を大声で煽ります。





直人「さあ、奴を取り押さえろ‼︎」





同時に、憲兵達に捕縛を命じます。



憲兵達が、ジリジリと前提督との距離を詰めます。




それにより、精神的に追い詰められた前提督は、遂に……………





提督「良いだろう‼︎ならば、最後に艦娘達の苦しむ顔を拝ませて貰うとしよう‼︎」






…………ボタンを、押しました。





瞬間、講堂中に響き渡ったのは、前提督の嗤い声と、艦娘達の悲鳴でした。





ある者は崩れ落ち、ある者は泣き叫び、ある者は前提督と滝沢さんを力の限り睨みつけました。




そんな、収拾が付かないこの状況下で…………





バァァァン‼︎‼︎





………一発の銃声が、一瞬の静寂をもたらしました。




銃声の鳴った方向には…………




まだ銃口から硝煙が昇っている拳銃を、天井に向けている滝沢さんの姿がありました。






直人「………言い忘れていたが‼︎」






滝沢さんが、声を張り上げます。






直人「………俺は、一度決めた事は決して覆さない主義でな。」






直人「俺は、コイツらを…………『艦娘達』を、守り通すと自分自身の意思で決めた。」






直人「もうこれ以上、艦娘達に、血は流させないし………………涙も流させない。」






直人「………もう良いぞ、入って来い‼︎‼︎」






そして、滝沢さんは、講堂の『外に』呼び掛けました。




そこから、大勢の人が講堂に入って来ます。




その内の一人が、不知火の元に一直線に駆け寄って来ました。





不知火の涙でぼやけた視界では、初めはそれが誰なのか判断が付きませんでした。




しかし『誰か』が近づいて来るにつれ、段々と『ある人物』のシルエットを帯びてきました。






不知火(…………嘘、でしょう?)






不知火は、それが幻覚だと思いました。





だってそれは、近くに居るはずなのに、ずっと遠くに居て。






………………ずっと会いたくて、けど会えなかった…………






不知火の、『大切な姉』のものだったから。







不知火(きっと、見間違いです。不知火が『あの人』を想った故に見えた、幻覚に決まっています。)






不知火はそう結論付けます。







しかし……………





直後に『誰か』から抱きつかれた温もりは、幻なんかじゃなくて確かに存在していて。







不知火「………かげ、ろう…………?」






陽炎「………ただいま、不知火………‼︎」






不知火が無意識の内に呼んでしまった声に、ハッキリと不知火の耳元で答えたのは……………







……………不知火のたった一人の大切な姉ーーー『陽炎』以外の何物でもありませんでした。







不知火「かげ………ろう………?」






それでも、信じられなくて。






陽炎「ええ、そうよ………貴方の、貴方達の、姉よ………‼︎」






けど、確かに目の前に居て。





………それを確認した途端。






不知火「……………ぅぁ」






不知火「ぁぁぁああああああ‼︎」






不知火は、陽炎を力強く抱き返し、泣きじゃくりました。




そんな不知火を、陽炎は何も言わずにただただ抱き締め続けました。






-------





………目の前の感動の再会を見届けた後、俺は周りを見渡した。




講堂内のあちこちで、艦娘達が同じ様に歓喜の涙を流していた。






………依然として講堂内には大声が響いている。





だがそれは、前提督の耳障りな嗤い声と艦娘達の悲しみの慟哭では無く、歓喜の叫びだった。





そんな光景を見ただけで、俺の中が達成感で満たされる。






直人(実際にやってみると、案外……………良いものだな。)





直人(……………誰かの為に、損得関係無く動くってのは。)






直人(………何だか清々しい。)







そんな事を考えながら、俺は気持ちを切り替え、『後始末』をつける為、茫然自失とし、憲兵に再び捕らえられていた前提督の元に近づいた。






直人「…………よぉ、残念だったな。」





提督「………何故だ?」





提督「何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だァァァ⁉︎⁉︎」





提督「どうして奴らの監禁場所が分かったぁ⁉︎」






前提督が喚く。



それに、俺は淡々と答えた。





直人「それに関してはただの偶然だな。」






そう、本当に偶然なのだ。





と言うのも…………




-----



ーーーー3日前。




剣持『滝沢君。昨晩、能代の救出に成功したのだが、監禁場所に裏切り者に関する『証拠』があったよ。』





直人『その証拠とは?』





剣持『実は能代と共に、他の艦娘達が何人か同じ場所に囚われていてな。』





剣持『彼女達を保護した後、一人一人に話を聞いたのだが…………』





剣持『……全員、[自分は横須賀鎮守府所属の艦娘だ]と口を揃えて言ったよ。』





直人『‼︎‼︎‼︎』





直人『と、言う事は………‼︎』





剣持『ああ、間違いない。』






剣持『裏切り者は、『アイツ』だ。』








剣持『…………現在の横須賀鎮守府提督だ。』





-----





直人「と、まあこんな感じで、本当に偶然だった訳だ。」






直人「まあ、その偶然が『決定打』になったがな。」






直人「お蔭で俺達は、貴様とは関わりの無い優秀な憲兵を選出して、突入部隊を編成する事が出来た。」







直人「……………そして、思う存分貴様を焚き付ける事が出来た。」






提督「………⁉︎どういう事だ⁉︎」





前提督が問う。






直人「………突然だが、スマートフォンって本当に便利だな。」






それに対し、俺は全く関連性が無い様に見える言葉を発した。






提督「………⁇⁇⁇⁇」






前提督が怪訝な表情でこちらを見る。



そんな前提督に、俺は懐から元帥から支給されたスマートフォンを取り出して、その画面と、先程の言葉の『真意』を示した。






直人「何せ、懐に入れていてもしっかり音を拾う事ができるからな。」





俺のスマホの画面に表示されているのは…………








『通話中』と、『剣持元帥』の文字。







提督「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」






前提督の顔が一瞬にして真っ青になる。



それに構わずに、俺は電話越しに剣持元帥に話しかけた。






直人「………ここまでのやり取りは、そちらに聞こえましたか、『剣持元帥』?」






剣持『ああ…………ハッキリと一語一句逃さずに聞く事が出来たよ。』





元帥の厳粛な声が、スピーカーホン越しに聞こえる。






直人「それでは確認を取りますが、コイツはつい先程、艦娘の大量虐殺未遂の罪を犯しましたね?」






剣持『ああ………確かに一部始終聞き届けた。』






剣持『仮に、そこに居るクズの意思を尊重し、艦娘を兵器と捉えたとしても、結局行き着くのは、故意の軍備品損害未遂。どちらも犯罪だ。』






剣持『よって、ソイツをその現行犯として捕縛したまえ。』





直人「了解しました。」






提督「元帥殿‼︎これは違うので『黙れ。』






提督「ヒッッッ‼︎」






前提督の反論が、元帥の一言で遮られる。




その元帥の一言は、電話越しに俺まで冷や汗をかく程の、凄まじい威圧と怒気が含まれていた。







剣持『………それでは、滝沢君。後は頼めるか?』






直人「お任せを。それでは。」






そう言って、俺は通話を切った。






直人「随分と訳の分からない顔をしているな。」





直人「まあ、そんな貴様に説明ぐらいはしてやろうか。」





直人「………………さあ、種明かしだ。」








そして、俺は前提督に一連の騒動の『真実』を語り始めた。







直人「実は、さっき貴様に見せた証拠は、まだ『証拠』としての効力を発揮していなくてな。」






直人「と言うのも、流石に3日間で全ての証拠の裏付けまでは出来なかったんだ。」






直人「つまり…………突入した時点では、貴様を捕縛する権限は、俺達には無かったんだよ。」





提督「‼︎‼︎‼︎‼︎」





提督が目を見開く。




さらに続ける。






直人「……まあ監禁されていた艦娘達の証言もあったから、貴様を引き摺り出すことは可能だった。」






直人「但し、出来てせいぜい『任意の事情聴取』位のものだ。」






直人「それでは貴様は中々出てこないだろうし、出て来たとしてもしらばっくれる事も可能だった。」






直人「それによって、かなり時間が掛かる事になる。」






直人「今現在危険な立場に立たされている艦娘達を一刻も早く救わなければならない俺達にとって、時間を掛ける訳にはいかなかった。」






直人「そこで俺と元帥は考え、『俺達の目の前で罪を犯させ、現行犯でその場で捕縛すれば良い』という結論に至った。」






直人「幸い、と言っては不謹慎かもしれないが、誰も被害を受ける事の無い『虚構の罪』は、元帥が人質を救出したお蔭で既に用意出来ていた。」






直人「後は、あたかも『逃げ道が無い』かの様に思わせて、貴様を上手く誘導するだけだった。」






直人「………まあ成功するかどうかは五分五分だったがな。」






直人「………要するに、だ。」







そして、俺は前提督に対し、ただただ冷酷に、そして残酷に言い放った。









直人「貴様は、踊らされ続けていたんだよ。『俺達』の掌の上でな。」






直人「…………これが、一連の騒動のカラクリだ。」






そこで言葉を切る。



途端に、前提督が喚き出す。






提督「な、ならば貴様が先程私に銃口を向けたのは、軍への叛逆になる筈だ‼︎貴様もタダでは済むまい⁉︎」






直人「普通だったらそうだろうな。」






…………そう、『普通』なら。






直人「だが今の俺には、海軍内の問題を好きに揉み消す事の出来る、強力な『後ろ盾』が付いている。」






直人「今回の一連の事件は、『横須賀鎮守府提督の乱心』と言う事になるらしい。」






直人「まあ貴様はそもそも初めから、憲兵も抱き込んで悪行を重ねる程狂っていたしな。あながち間違ってもいない。」






直人「これでようやく、貴様を叩き潰せるって訳だ。」






俺は前提督の喚きをあしらっていく。






提督「あ、悪魔……‼︎」






前提督の畏怖に震えた声に、俺は鼻で笑って答えた。







直人「フッ………鏡を見てみろ。俺以上の悪魔の酷い顔が拝める筈だぞ?」






それを聞いた『悪魔』の顔が、憤怒に染まる。







直人「だが………俺が悪魔っていうのは否定しない。」





直人「もう、この手は汚れ切っているしな。」






そう言い、俺は己の掌に視線を向ける。



そこに存在するのは、何も無い綺麗な掌。







…………………だが俺の眼には、ある『呪い』によって黒い靄がかかった掌に見えた。







それは前の世界で最後まで振り解けず、そして今もなお俺に纏わり付いている『力』という名の呪い。





いつ解けるのか分からない。もしかすると一生解けないのかもしれない。




だが………





直人(それでも、構わない。)






直人(俺が手を汚して、アイツらを助ける事が出来るのなら…………)






直人(…………幾らでも、汚してやる。)






掌を力強く握り締める。




…………一瞬、手にかかっていた靄が晴れた、気がした。





そんな物思いに耽っていた俺を、前提督の叫び声が現実に引き戻す。







提督「何故だ⁉︎何故貴様はそうも私を追い詰める⁉︎」






提督「貴様と元帥が私の前に立ちはだかる理由は、何も無い筈だ‼︎」







直人「………おいおい、本気で言っているのか?」






前提督の馬鹿さ加減もここまで来ると、もう呆れ果ててしまう。



そう思いつつも、俺は『理由』を告げた。







直人「貴様は『俺の恩人達』と、『元帥の大切な人』を、傷付けた。」






直人「俺達にとって、貴様を全力で潰す理由はそれで十分だ。」







直人「………貴様が犯した決定的な失態を、ここに断言しておいてやる。」






そして、俺は前提督の『一番の敗因』を示した。








直人「貴様は『滝沢直人』と『剣持竜馬』という、絶対に怒らせてはいけない人間達の、逆鱗に触れたんだ。」








直人「…………絶対に敵に回してはいけない奴等を、敵に回したんだ。」







そして俺は、自分の顔を前提督の顔に思い切り近づけ、至近距離で前提督の眼を力の限り睨み付けた。







直人「…………それが分かったら、とっとと失せろ。」






提督「ヒィッッッ‼︎‼︎」





前提督の顔が、恐怖で歪む。



それを見て、反抗の意思は失せたと判断し、俺は憲兵達に命令を下した。





直人「………全員、連行しろ。」






憲兵達「「「「「「はっ‼︎」」」」」」






憲兵達が、怯え、震えたままの前提督と、その部下達を外に連れ出す為に出口へ向かう。






直人(これで、終わったか…………。)






それを見届けた俺は、ようやく緊張状態を解除しようとして…………






直人「……………ん?」






『あるもの』を見て、それを止めた。



内心、溜息を吐く。





直人(どうやら…………もう一悶着ありそうだな。)






そう思いながら、俺は『あるもの』の方へと歩き出した。






-----




『私』の目の前で、革命劇が繰り広げられていた。




多くの観客[かんむす]はこれに歓喜し、澱んでいた目が、希望に満ちた物に変わった。





しかし、『私』の目は澱んだままだった。






………『私』の心は、何も晴れていなかった。






今、私の心の全てを埋め尽くしていたのは…………………






……………私の、『最も大切な人』を奪った『あの男』への、『復讐心』。






あの男の存在をこの世から抹消しない限り、私の中で、この悪夢が醒めることはない。




…………いや、もう一生醒めないのかもしれない。




…………『あの娘』を失った時点で。






だが、そんな事は今はどうでも良い。






もうすぐ、私の目の前を前提督ーーー『対象』が、憲兵に連れられて横切る。





葬るチャンスは、その一瞬。





そして、『私』ーーーー翔鶴型1番艦『翔鶴』は、右手を袴の横の隙間から中に突っ込み、誰にも気付かれない様に、矢を一本、手中に顕現させた。






『対象』の心臓を、貫く為。





…………『故人』への想いを、貫く為。






翔鶴(………あの世で、地を這いつくばって詫びさせてやる。)






翔鶴(………私の大切な妹ーーー『瑞鶴』に。)








暫くして、前提督が私の目の前に差し掛かる。





そして、私は前提督目掛けて駆け出そうとし…………






ガシッ





…………横から、何者かに右腕を掴まれた。







翔鶴「⁉︎⁉︎」






勢いに乗りかけていた私の身体が、予期せぬ急ブレーキによって、一瞬ガクンと揺れる。





私は、手首を掴んだ『何者か』の方へと勢いよく振り向いた。





そこには…………







直人「……………待て。」







『滝沢直人』と名乗った新しい提督が、険しい顔付きで立っていた。







翔鶴「………確か、『滝沢提督』、でしたっけ?」







私は、悟られない様に出来る限りの柔和な笑みで話しかける。







直人「ああ、そうだ。…………そういうお前は、『翔鶴』だったか?」






翔鶴「私の名前をご存知で?」






直人「………ここに来る前に、艦娘達に関する書類には一通り目を通したからな。」






直人「翔鶴型空母1番艦『翔鶴』。練度は全所属艦娘の中でもトップクラスで、『改二改装』も受けているとても優秀な艦娘と認識している。」







直人「………………そして、妹である翔鶴型空母2番艦『瑞鶴』を数ヶ月前に亡くしているな。」






翔鶴「………へぇ。私達の事をちゃんと把握して下さっているんですね。」






内心、私は素直に感心した。


そして………安心し、敬意を抱いた。






翔鶴(この人ならきっと、艦娘達を正しい方へと導いてくれる。)






だが………それとこれとは話が別。






翔鶴「………その手、話して頂けませんか?」






翔鶴「セクハラで、訴えますよ?」






そして、私は(冗談だが)男性が絶対に怯むであろう単語を口にした。



これで、手を放して貰える………と思っていたのだが。






直人「成る程、そんな捉え方もあるか………。」






直人「だが俺は上司として、『殺気をだだ漏れにしている部下』を野放しにする訳にはいかないんでな。」







直人「この手は、放せない。」






滝沢提督は、食い下がってきた。






翔鶴「………っ!」





翔鶴「殺気だなんて………そんな物騒なモノ、私は知りませんよ?」






指摘された瞬間、私は焦りながら殺気を引っ込めた。






直人「ほぉ…………。だったら、今自分が右手に握っているモノが何なのか位は、流石に知っているだろう?」






そう言って、滝沢提督は私の右手を袴の中から一気に外に引き出した。


私の右手に握られていた矢が、露わになる。





ザワザワザワザワ……………





瞬間、周りがざわつく。



どうやら………もう隠し通す事は出来ない様だ。






直人「お前は、たった今殺人未遂の罪を犯した事が明らかになった。」





直人「………言い逃れは出来ないぞ?」






滝沢提督が、私の目を見据えてそう言う。


ついに観念して、私は鼻で小さく笑った。





翔鶴「………フッ」





翔鶴「言い逃れも何も、私はこの後『殺人罪』で裁かれるつもりでしたよ。」






そして、私は自白し始めた。






翔鶴「ええ、私はその男ーーー前提督を、この矢で殺そうとしました。」






ざわつき声が、一層大きくなる。




構わずに続ける。





翔鶴「私の妹『瑞鶴』は、前提督考案の捨て駒作戦で命を落としました。」






私は、目の前で止まっている『仇』に目を向けて、力の限り睨み付ける。


私の放った威圧に、『仇』がすくみ上がる。






翔鶴「その男は、私の妹の仇なんです。」





翔鶴「ソイツの命は、あの娘への………瑞鶴への、せめてもの手向けなんです。」





翔鶴「もう、罪を背負う覚悟は出来ています。」





翔鶴「なので、この手を離して下さ「断る‼︎」





翔鶴「………!」





滝沢提督が即答する。





直人「そんな物が、覚悟だと………?」











直人「ふざけるな‼︎‼︎‼︎‼︎」






全員「‼︎‼︎」ビクッ






講堂内に居た全員が、滝沢提督の今日一番の怒号に驚いた。







直人「今のお前が持っているのは『覚悟』じゃない‼︎」






直人「覚悟というのは、前へと進もうとする者が持つ物だ‼︎」






直人「お前が今向かっているのは、『終わり』なんじゃないのか⁉︎」







直人「だったら‼︎今お前がやろうとしているのは覚悟を伴った行動じゃない、ただの『自決』だ‼︎」






直人「『覚悟』という言葉を、軽々しく口にするな‼︎」





翔鶴「………っ‼︎」






私は、滝沢提督の言葉に何一つ言い返せなかった。



滝沢提督の言葉が全て正論だったのもあるが………




…………滝沢提督の目と声が発している、とてつもない威圧感に萎縮してしまったのも理由の一つだった。







直人「……………それに」






直人「お前は、前提督を殺す事を『妹への手向け』と言ったが………」






直人「お前の妹は、そんな事では喜ばないだろうな。」






翔鶴「………‼︎‼︎」





………プチッ





………私の中で、何かが切れた音が聞こえた。







翔鶴「…………………デスカ。」






そして、私は大声で怒鳴った。






翔鶴「貴方に、瑞鶴の何が分かるっていうんですか⁉︎」






翔鶴「書類上でしか私達を知らない貴方に、何が⁉︎」







大声を出す事など久しぶりだったので、喉が痛い。







直人「………確かに、俺は瑞鶴について何も知らない。」






翔鶴「……‼︎‼︎」







だが、滝沢提督があっさりと自分の非を認めた事が無性に腹立たしく、私は喉の痛みなど気にせずに更に叫んだ。







翔鶴「だったら‼︎勝手な事言わ「だから」






直人「瑞鶴を良く知っているお前に聞こう。」






そう言って、滝沢提督は私の眼を改めて見据えて聞いてきた。






直人「お前の妹瑞鶴は、姉であるお前が人を手にかける姿を、見たいと思う奴だったのか?」







直人「……………『自分の為に、自分のたった一人の姉が手を汚した』事を、心から喜べる様な奴だったのか⁉︎」








直人「どうなんだ⁉︎答えろ翔鶴‼︎」







翔鶴「……っ‼︎それは……………」







私の自慢の妹が、そんな事をする訳が、無かった。



返答に詰まる。


滝沢提督が話し続ける。





直人「………お前の言う通り、俺は瑞鶴の事も、そしてお前の事も良く知らない。」







直人「お前が今まで、どれだけ苦しみ、どれだけ考え抜いて自分の手を汚す事を決意したのか、俺には想像もつかない。」








直人「………………だから、俺にはお前を止める『義務』はあっても『権利』は無い。」











直人「………ここから先は、お前が決めろ。」







そう言って、滝沢提督は……………






……………私の右腕をずっと掴んでいた手を、『放した』。






翔鶴「………どういうつもりですか?」






怪訝な表情で私は問う。



滝沢提督が答える。






直人「……実はコイツーー前提督は、剣持元帥の怒りをかなり買っていてな。」






直人「………俺は元帥から、『やむを得ない場合は殺しても構わない。』と言われているんだ。」






翔鶴「……‼︎‼︎」






直人「だから…………もし」







直人「………もし………俺の話を聞いて尚、お前が前に進む為には『前提督を殺す事』が必要であると言うのであれば、好きにしろ。」






直人「責任は、俺と元帥が持つ。」






滝沢提督が纏っていた雰囲気は、とても冗談を言っている物では無かった。




そこまで聞いた私は…………






ゆらり、と。




殺気を放ちながら前提督へとゆっくり近づき始めた。






提督「ヒィィィィ‼︎‼︎く、来るなぁ‼︎‼︎」






仇が、喚き、後ずさる。



途中でつまづいて、尻餅をついても尚、後ずさる。




………やがて、仇の背が講堂の壁に激突する。






提督「き、貴様ぁ‼︎こんな事をして許されると思っているのかぁ⁉︎」






仇が私に向かって怒鳴るが………






直人「その言葉、そっくりそのまま少し前の貴様に返そう。」






直人「今貴様に降りかかっているのは、今まで働いた数々の悪行のツケのほんの一部だ。」






直人「………ただの自業自得だ。諦めろ。」







私の背後から、どこまでも冷徹で、淡々とした声が返ってくる。





その返答の間に、私が仇の目の前に立つ。






提督「嫌だ………死にたくない………‼︎‼︎私が、悪かった…………助けてくれ………‼︎‼︎」






翔鶴「……今更どの口が言うんですか。」






静かな、しかし膨大な怒気を孕んだ声で、仇の懇願を切り捨てる。






翔鶴「………あの世で、瑞鶴に地を這いつくばって詫びなさい。」






そして、矢を持った右腕を振り上げる。



狙いを、仇の心臓に定める。






そして、私は右腕に勢いをつけて振り下ろす。






何も、考えるな。







瑞鶴『翔鶴姉、おはよう‼︎今日も一緒に頑張ろう?』







考えるな。







瑞鶴『翔鶴姉、進水日おめでとう‼︎  はいこれブレゼント‼︎ どう?嬉しい?』






考えるな‼︎‼︎







瑞鶴『え、翔鶴姉、私にこれくれるの⁉︎ へへっ、さ〜んきゅ♪』







考え、たら……………








瑞鶴『翔鶴姉………こんな妹でごめんね……………私の分まで………………笑顔で生きて…………………』





瑞鶴『………翔鶴姉は、笑顔が1番、綺麗だから……………』








気付くと、私の右腕は、仇の胸に鏃を軽く食い込ませた所で止まり、震えていた。





その事実を知った瞬間、私の体から力が抜けて、その場に崩れ落ちる。







翔鶴「……なんでよ…………」





翔鶴「どうして殺せないのよ…………‼︎」






翔鶴「コイツは瑞鶴の命を奪った‼︎艦娘達の笑顔を奪った‼︎‼︎」






翔鶴「死ぬべき人間なのよ………‼︎‼︎」






翔鶴「なのに、どうして………………」







翔鶴「どうして‼︎‼︎‼︎‼︎⁇⁇⁇」







翔鶴「ウワァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」









…………私の絶叫が、講堂内に大きくこだました。






------





翔鶴が、目の前で泣き叫ぶ。



その姿を、俺はただ後ろから見つめていた。




………正直、こうなる事は予想がついていたし、それなりに心構えもしていた。




だが………いざ見てみると、とてつもなく悲痛な光景だった。





改めて考える。


彼女はあの背中で、一体どれだけの苦痛を背負って来たのだろうか?




俺には、分からない。




故に『安易な慰めの言葉は、彼女を、そして瑞鶴を侮辱する事になる』と判断した俺が、今彼女にしてやれたのは………






直人「………誰か、翔鶴を入渠させた後、どこか身体を休める場所へと運んでくれないか?」






………彼女をこの場から離し、心身共に休ませる事くらいだった。






???「それじゃあ、私達が…………」






そう言って、名乗りを上げたのは………二人の(確か、『蒼龍』と『飛龍』という名だった)艦娘だった。



俺はこの3日間で詰め込んだ、艦娘に関する知識を思い出しながら、指示を出した。






直人「………頼む。各種資材と『高速修復剤』っていうのを元帥から大量に貰っているから、それを使ってやってくれ。」






直人「……それと、翔鶴を運び終えたら、お前達も修復剤を使って入渠しろ。いいな?」






蒼龍「わかりました。」





飛龍「…………翔鶴、行こう?」






二人が、今も尚泣き叫んでる翔鶴の両脇を左右から抱えて、翔鶴の足をやや引きずりながらも、講堂の外に連れ出す。






そして………講堂内を、静寂が満たした。





その静寂を破ったのは、前提督の怯えた声だった。







提督「………助かった、のか………?」






直人「……………そんな訳無いだろ。随分とおめでたい奴だな。」






そう言って、俺は前提督の元に近づき、髪を鷲掴みにして至近距離でもう一度睨み付けた。






提督「ヒィィィ‼︎‼︎」





直人「貴様には、これから聞きたい事が山ほどある。どんな手段を用いても吐いてもらうぞ。」






直人「それと…………貴様の取り調べは、剣持元帥が取り仕切る事になっている。」






直人「これは善意の忠告だが、大人しく素直に全て話した方が良い。」






直人「……………………これ以上元帥の怒りを買うと、貴様の命に関わるぞ?」






提督「‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」





提督「嫌だ……まだ死にたく無い………助けて………」





直人「…………今まで、貴様にそう言って、無念に死んでいった艦娘達はどれだけ居るんだろうな?」





提督「…………………っ」






前提督が必死に命乞いをするが、俺はたった一言で切り捨てる。




返事は…………………なかった。






直人「………海軍大本営に、コイツらを護送しろ。」





憲兵達「「「「「「「はっっ‼︎」」」」」」」








……………今度こそ元凶達がこの鎮守府から消え去った。







直人(これで、がん細胞は取り除いた。)




直人(後は…………)





そして、俺は最後の仕上げにかかった。





直人「ここに集まっている全艦娘に告ぐ‼︎‼︎」





声を張り上げる。


多くの意識が、俺の方へと向けられる。





直人「現時点で、この鎮守府の指揮権は俺に移った‼︎」





直人「まず、俺は前任の様な虐待はしないと誓おう‼︎」





直人「そしてお前達の事だが……」





直人「お前達も翔鶴と同じ様に、様々な無念があるだろう‼︎」





直人「過去に引き摺られ、縛られるのも分かる‼︎」





直人「………だがそれが何になる⁉︎」





直人「ずっと過去[うしろ]を振り返っている事は、前に進む努力を怠る言い訳、『甘え』でしか無い‼︎」






直人「……俺は『甘え』という言葉が大嫌いだ‼︎」






直人「故に‼︎俺はお前達に『優しく』はしても『甘やかし』はしない‼︎」





直人「『自分は悲劇のヒロイン』だとでも思っている奴は、ここを去れ‼︎ 俺にそんな部下は必要無い‼︎」





直人「過去を振り切って前に進もうとする、そんな奴だけここに残り、ついてこい‼︎」





直人「俺の話は以上だ‼︎」





講堂に、何度目かの静寂。




………意図的に高圧的な口調で話したが、やり過ぎだっただろうか?



内心、不安げに思っていると………






不知火「………不知火は、貴方について行きます。」






ずっと壇上で陽炎の胸で泣いていた不知火が、真っ赤に充血し、だが確かな『意思』を宿した眼を向けながら、こちらに歩いてきた。



不知火が、俺の目の前で立ち止まる。






不知火「…………私は、自分の『大事な物』を、守れませんでした。」






不知火「それは、不知火の力不足も原因の一つです。」





不知火「不知火は………もっと、強くなりたいです。」






そして、俺の目を見据えて『宣言』した。







不知火「今度は、大事な物を守り抜けるだけの、力が欲しいです………‼︎」







俺の中で、力を欲する不知火の姿が、一瞬以前の自分と重なった。





……………『力』というのは、底知れない危険な誘惑だ。




力を求める者は、その際限ない優越感と自己満足に、『魅せられる』。(現に、俺がそうだった。)




だが、きっとコイツは大丈夫だ。





何故なら…………『自分の為の力』ではなく『誰かの為の力』を求めているから。




それならば、きっと『力』に惑わされる事は無いだろう。







磯風「私もだ‼︎   ………誰かが傷付くのを黙って見ているのは、二度と御免だ‼︎」







「私も‼︎」「今度こそ………‼︎」「もう、繰り返させない……‼︎」「やってやる‼︎」「頑張ります……‼︎」






少し考えている内に、次々と艦娘達が名乗りを挙げていく。




…………ここから去ろうとする艦娘は、1人も居なかった。






不知火「滝沢さん…………いえ、『滝沢司令』。」






不知火「…………私達の命、貴方にお預けします。」







そして不知火が、しっかりとした顔付きで、俺に敬礼する。



他の艦娘達も、俺の方に体を向け、同じ様に敬礼する。




それを、横須賀鎮守府の艦娘の『総意』と受け取った俺は…………





直人「………ああ。」






直人「お前達の命、責任を持って俺が預かろう。」






そう宣言して、『部下』達に敬礼を返した。








[滝沢提督が横須賀鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります。]







                                             Case File 1

                                             2021.Feb.7.


後書き

……タイムファイヤーって個人的に一番好きな追加戦士なんですケド、
皆さんは特撮キャラで何か『この人は好き‼︎‼︎』っていう人いますか?

もしいたら是非コメント欄に載せて下さい!
そのキャラを題材にした作品を出す………かもです!

勿論感想も募集中です!是非よろしくお願いします(・∀・)


このSSへの評価

2件評価されています


SS好きの名無しさんから
2021-07-22 17:43:59

SS好きの名無しさんから
2021-05-20 01:05:30

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2021-05-30 17:19:32

SS好きの名無しさんから
2021-05-20 01:05:26

このSSへのコメント

14件コメントされています

-: - 2021-05-14 23:16:48 ID: -

このコメントは削除されました

2: SS好きの名無しさん 2021-05-22 21:21:22 ID: S:WxYyUV

更新を楽しみに読んでいます!
タイムファイヤーになれない状況で、直人がどう立ち回るのかが楽しみです。
せめてDVディフェンダーがあればもう少し楽だったんですが・・・無い物ねだりしても仕方ないですからね(苦笑)。

直人が不知火達の為に立ち上がる時、タイムレンジャーのOPの冒頭が脳裏をよぎりました。(鳥が羽ばたいてるアレ)
クズ共にはとっととご退場いただいて、直人のさらなる活躍を見たいですね。

ちなみに特撮キャラは多すぎて好きなのが絞れませんが・・・
スーパー戦隊の追加戦士に絞るならメガシルバーですかねぇ。
ああいうタイプ大好きなので(笑)

今後の更新も楽しみにしております。

3: SS好きの名無しさん 2021-05-22 22:52:59 ID: S:RpgP10

コメントどうもありがとうございます‼︎

そしていつもこんな進行ペースクッソ遅い作品を見てくれてありがとうございます‼︎T^T

メガシルバー……裕作さんですか〜 破天荒な人でしたね……(笑)

それでいて子供もあやせる器用さも持っているという……


……あれ、裕作さん結構優秀なのでは?(゚ω゚)



今後ともこの作品をどうぞ宜しくお願いします‼︎^_^





……因みに余談ですが、いつになるかは分かりませんが、この作品で直人には提督の軍帽を空高く脱ぎ捨てて貰おうかと思っております。


意味は………貴方ならお判りになるかと……d( ̄  ̄)

4: SS好きの名無しさん 2021-05-22 23:48:03 ID: S:v1GEQ0

>>2です。
最近では『マジか!読もう!』と速攻で思った作品で本当に面白いです。

裕作さんガチで優秀ですからね(^-^;
メガボイジャーもあの人のお陰ですし、物のついででメガウインガー作っちゃうし・・・
別世界では緑のクワガタでしたし(笑)

軍帽を脱ぎ捨てる・・・VSシリーズでそんなシーンがあったような・・・まさか!?

益々楽しみにしております!

5: 一条玲 2021-05-24 23:35:27 ID: S:eS76Y9

今更気付きましたが、>>3は作者です‼︎
まぎわらしくて済みませんでしたm(._.)m

あと、PV800超えました。


………え?マジで?∑(゚Д゚)


筆者自身か〜な〜り驚いております………


読者の皆様には本当に感謝しかありません‼︎(T^T)


一体PV1000突破とタイトル回収はどっちが速く達成するのか……?

……もう筆者にも判りません。(°▽°)(←思考放棄)


現在迷走中(と自分では思っている)の本作ですが、今後ともどうぞ宜しくお願いします‼︎^_^

6: SS好きの名無しさん 2021-05-26 07:16:46 ID: S:wlT9PT

たまたま見たら面白かったです! 頑張って下さい

7: 一条玲 2021-05-26 07:32:44 ID: S:XT6kl6

>>6
有難うございます‼︎

今後ともこの作品をどうぞよろしくお願いします‼︎(^_^)

8: 一条玲 2021-05-28 14:59:41 ID: S:yTjZnp

㊗️PV1000突破‼︎㊗️

ここまで読んで頂き本当に有難うございます‼︎(*^ω^*)

え〜………

………PV1000突破の方がタイトル回収よりも明らかに速かったです(泣)

ペース遅くて本当にごめんなさいm(_ _)m
(PV1500突破迄には直人着任……出来るよなぁ?(~_~;))
(↑こんな自信の無い筆者ですいません。)

しかし既に状況は殆ど整えて、後は直人に己の道を突っ走って貰うだけなので、もう暫しお待ち下さい……。



余談ですが、『タイムレンジャー』原作もとても面白い作品なので、そちらにも興味を持って頂ければ、タイムレンジャー好きな筆者としても幸いです。



それでは、今後とも一条玲をどうぞ宜しくお願いします^_^

9: SS好きの名無しさん 2021-05-30 23:27:15 ID: S:6pwXea

まさかまさかのゼニットが登場・・・
雑兵だからまだ良かったですが、これから先どうなっていくやら・・・

そしてスマホを知らない直人・・・まあ死んだのが2001年でしたから、スマホなんて無かったですもんね(汗)
元帥との接触にとりあえずは成功出来ましたが・・・早くしないと不知火がヤバい・・・!

これからが楽しみです!


タイムレンジャー原作はリアルタイムで見ていた世代なので、今でもハッキリ覚えてます。
仮に原作ネタとかが出てきたらニヤリとしそうです・・・(^-^

10: 一条玲 2021-05-30 23:51:47 ID: S:f7iWMM

スマホに関しては、なるべく矛盾は無くしたいのでこうしました……(^^;;

………まあ直人自身、1000年後の道具(Vコマンダーetc…)を使いこなせているので、スマホを使いこなす事なんて朝飯前なんでしょうけどね‼︎
(要するに筆者の我儘です。どうかお付き合い頂ければ……)


それと原作ネタですか……少し考えてみます‼︎


あと文章が長ったるいので分かりにくい(本当に申し訳ない…)ですが、一応この時点でぬいぬいに与えられた猶予は残り3日です。


……もう5万字超えているというのに、実は直人が目覚めてからまだ2日目なんですよ……


…………うん、やっぱり長いですねすいません(´;ω;`)



そんなグダグダな本作ですが、今後も頑張っていくのでどうぞよろしくお願いします……m(_ _)m

11: 一条玲 2021-06-18 07:52:18 ID: S:Mfi2ne

祝え‼︎ 『炎の提督』PV2000突破である‼︎(某魔王の従者風)


お久しぶりです、一条玲です( ̄▽ ̄)
………なんでこんな進行グダグダな本作で、読者離れが起こらないんでしょう? .°(ಗдಗ。)°.(←マジの嬉し泣き)
(差し支え無ければ、この作品の良い所と改善点をコメント欄に記入して下さい。筆者はこの作品をより良くしたいです‼︎)
初めて早1ヶ月。ここまでPV数は一定の割合で増え続け、ここまで来ました。
それもこんな作品を見て下さった読者の皆さんのお蔭です‼︎

全ての読者に、今一度最大限の感謝を。

12: 一条玲 2021-06-18 07:52:59 ID: S:pI1oor

そして今後の話を少し………

この作品はもうキリが良い所ですが、あと4、5日分続きます。(と言うのも、今どうしても敷きたい『伏線』が一つあるので……)

そしてこれが終わって少し間を空けた後、第2話の執筆と共に、艦これ単体の安価制も始めてみようかと考えております。


そして9月頃から、新しい艦これ特撮クロスオーバーを書く気でいます。


今の所、『仮面ライダーセイバー』の『ある剣士』をクローズアップしようかと考えているので、そちらも関心を持って頂ければ……

(自分で自分の予定を『詰めて』追い『詰めて』いくスタイル)


…………ハイッ‼︎アルトじゃ〜〜〜ないとッッ‼︎(´⊙ω⊙`)



……すいません調子乗りました。m(_ _)m



それでは、また。d( ̄  ̄)

13: 竜角 2021-06-18 18:04:07 ID: S:wdCCN2

最近読んだssの中で一番面白いですね!がんばってください!

14: 一条玲 2021-06-18 21:56:44 ID: S:N0R-8a

竜角さん、有難う御座います‼︎(^○^)


これより面白い作品なんて他に幾らでもあると思うのですが………(苦笑)


………しかし、竜角さんがこの作品を選んで下さったのであれば、(もどきですが)小説家として冥利に尽きます‼︎(//∇//)



今後ともこの作品を宜しくお願いします‼︎


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