2021-07-13 00:57:57 更新

概要

俺は死んだ、常に競り合ってきたライバルに力を託して。

そして俺は目覚め、出会った。どこまでも純粋で、真っ直ぐな「艦娘」達と。



その時、止まった筈の俺のーーー滝沢直人の時間が、再び動き出した。


前書き

今回は、「艦これ」と「未来戦隊タイムレンジャー」のクロスオーバーです!

一応タイムレンジャー知らない方でも楽しめるように書いていますが、
タイムレンジャー(特に本作の主人公の滝沢直人と原作の主人公の浅見竜也)
についてググってから見て頂けるとより一層楽しめると思います!
(ただ最初辺りは直人の身の上話になってしまうので、
そこは原作知らない方には分かりづらいと思います…………ご勘弁をm(_ _)m)

時系列的には、タイムレンジャー第49話からの分岐という形となっています。


*注意*
(文が多少ごちゃごちゃしてます)
(不定期投稿なので、気長に待って頂けると嬉しいです!)
(多少キャラ崩壊する可能性があります…ご注意を)
(タイムファイヤーは出すつもりですが、序盤は直人と艦娘の交流を中心に書くので、暫く出ません)

以上を踏まえた上で『読んでも良いよ!』という方は、本編をどうぞ!!




まだ寒さの厳しい冬の夕暮れ、俺は一人地面に仰向けで倒れていた。






???「直人!!!」




此方に駆け寄ってくる、腐れ縁の聴き慣れた声が俺ーーー滝沢直人(たきざわ なおと)の耳に入る。


そしてそのまま、俺の身体が抱き抱えられる。



???「直人!しっかりしろ!」



直人「……よお」




こんな時にまで平気そうに振る舞う辺り、我ながら相当な意地っ張りだと思う。




………こんな血塗れで無残な姿では平気だと誤魔化しようが無いが。





???「直人……」






苦しみながらも上体を起こし、前を見る。

そこには、倒れた籠の中で元気に羽ばたいて居る小鳥が。





……結局、『力』という名の籠に囚われた人生だった。己の生き方は、最後まで変えられなかった。



なら……もうここで終わってしまうなら………せめて………




直人「………浅見。お前は、変えて見せろ。」





そう言い、俺は最後の力を振り絞り、自分の左手首に装着していた己の力の象徴ーーーVコマンダーを外し、

目の前の男ーー浅見竜也(あさみ たつや)に差し出した。



それは、これから死地に赴く事になるであろう、己の生涯のライバルであった男への、最初で最後のエール。



それを浅見は、暖かな『手』ーー何度も俺に向けて差し伸べ、俺はいつも拒絶していたーーで、しっかりと受け取る。


その直後、とうとう限界を迎えた俺の体から力が抜ける。



竜也「!!!」




竜也「何でだよ………何で死ななきゃいけないんだよ………!」



ーーーさあ、何でだろうな……

力を求め過ぎた『代償』ってヤツなのかもな……





竜也「何で‼︎‼︎うわァァァァァァ‼︎直人ォォォォォォ‼︎‼︎」





浅見が泣き叫ぶ。




直人(うるさい………最期くらい……ゆっくり……寝かせろ……)



そう口にしたかったが、今の俺は口どころか瞼すらも開けられない。







直人(……終わってみれば、案外つまらない人生だったな……)


己の道を貫く為に力を求め、力を手に入れた後もさらに求め続け、その先にあったのは、優越感でも達成感でもなかった。





-----そこにあったのは、終わりの見えない不安、果てしない虚無感、そして、自身の『破滅』だった。







直人(『力に溺れる』とはよく言ったものだな……)



内心、皮肉げに嗤う。


そうだ…俺は、抗えずに『溺れた』んだ。


己の力に………







……………そして、『運命』に。








直人(……結局、浅見との腐れ縁は最後まで続いたな…)




俺と浅見は高校時代、空手のインターハイ決勝で出会った。




その時、俺は勝ったのだが……実際は浅見の自滅の様なものだった。



俺はその勝利にどうしても納得できず、決着をつける為に、浅見を追いかけて同じ大学に推薦入学した。


だが、そこは金持ちのセレブ達が通う大学で……庶民である俺は取り巻きとしか扱われなかった。


そんな中、浅見だけは対等に接しようとしてくれていた。しかし俺はそれを拒んだ。




……俺からすれば金持ちの「情け」でしかなかったからだ。


周りの傲慢さに嫌気がさし、俺は大学を中退した。(今思えば、これが力を求めるきっかけだった)









……大企業「浅見グループ」の御曹司、それが浅見の立場だった。


強大な力と、確約された安寧……其れらを浅見は生まれた時から与えられていた。


しかし、本人はそのまま甘んじて『浅見の敷いたレール』に乗って進んで行く事を嫌がり……





………現実から目を背けて『浅見』という力から『逃げて』いた。






力を持っていない俺からすれば、それは『甘え』としか言いようがなかった。



『浅見』から逃げながら、常に自分の本心を隠す為にヘラヘラと笑いながら生きている浅見がーー





----何よりも、腹立たしかった。





そんな浅見と俺は常に対立した。

時には血みどろの殴り合いになるまで……


だが…「自分の明日は変えられる」を信念とし、常にブレずに明日へ向かってもがき続ける浅見を認めてもいた。



だからこそ、俺と浅見はライバルで居続けた。


『きちんとした決着』は最後までつけられなかったが……






……だが、もし今の俺と浅見が万全の状態で勝負していたら、十中八九、俺は負けていたと思う。




何故なら……





アイツは、『浅見』と言う自分の力と向き合う覚悟を完全に固めたからだ。


……自分の生き方を変えて見せると俺に言って見せたからだ。






-------


ー数時間前ー

浅見『生き方は変えられる筈だ。…決めるのは自分自身なんだから。

   ………俺、変えるよ。生き残ったらね。』




ーーーーーーー





この時、初めて俺は、『浅見に負けた』と思った。



そして、浅見が変えた『生き方』をーー自分が生き残れない事を薄々分かっていてもーー




………見てみたくなった。




だから俺は、自分の意思でVコマンダーを託した。



浅見の『明日』を切り拓く手助けをする為に。



……俺の分まで、生きてもらう為に。





直人(もし、俺も自分の生き方を変えられていたら……)





ーーー浅見を、越えられたかもしれない。



そんなたらればが脳裏をよぎる。



今更そんな物は無意味だと知りながら、それでもつい想像してしまう。




直人(結局、最後まで追い越せなかったな……)



内心死ぬ程悔しいが(もうすぐ死ぬんだが……)


………何処か清々しい。



直人(浅見……俺の分まで生きろ… そして…自分の未来を掴め……)



そう思ったのを最期に、俺の意識は完全に途切れた。



ここで、俺ーーー滝沢直人の人生は幕を閉じた。








------はずだった。










[Case File 0: 死、その先に]












[Case File 1: 炎の新提督]





まず最初に目に入ったのは、白い天井だった。


感覚からして、俺はベッドに寝かされているらしい。




直人「……此処は…?」




身体を起こして周囲を見渡す。




綺麗に整理された薬品の入った棚

幾つか並んでいる清潔感のあるベッド

所々に見受けられる様々な医療器具




……どうやら此処は救護室の様な場所らしい。



そして、窓の外に広がるのは、昼の日光を浴びてキラキラと輝く海。


此処は海の近くにある様だ。




何故俺はここに居るのか……?



自分の記憶を辿ってみる。




直人(俺は……確か………っ‼︎‼︎)





瞬間、全てを思い出す。



直人「そうだ……俺は……」







ーーー死んだんだ。





しかし、そうなると、この状況は益々理解出来ない。




直人(俺は……あの後生き残れたのか?)



直人(それとも……)



そう考えながら、俺は自分の左手首を見る。



そこには、『何も無かった』



直人(それもそうか…Vコマンダーは浅見のヤツに渡したからなぁ……)





続いて自分の姿を見る。



今の俺が身に纏っているのは、入院着だった。

最期まで俺が着ていた民間警備会社ーーーCGC(シティガーディアンズ)の隊服では無い。




直人(……待てよ?)



そうして今の状況を整理していく内に、俺はある『違和感』を覚えた。



俺はあの時、瀕死の重症を負っていた……治るとしても完治にはかなりの時間が必要な筈……




ならば何故……






………俺は、さっき『痛みを全く感じること無く』身体を起こせた?





まさかと思い、俺は入院着をはだけさせ、胸元を見た。



そこには……






『傷一つ無かった』







直人「……一体どうなってるんだ??」



俺は死ぬ少し前に少女を庇って大勢の機械兵士ーーゼニットに正面から確かに撃たれた。



……最も、それらは致命傷には至らなかったが、身体から所々血は流れ、吐血する程には内臓もやられた。




さらに死ぬ直前、俺は背後から致命傷を受けた。



……正直、致命傷を負ってから浅見が来るまでの間、よく生きていたと自分でも思う。



それ程の重体だった。



それなのに、傷跡はおろか手術痕すら無いのはさすがにおかしい。




今の状況を整理すればするほど浮き彫りになる『矛盾』。



あまりにも混乱しすぎて、俺の頭はパンク寸前だった。



そこへ……



誰かがドアを開けて部屋に入って来た。




???「……ようやく目を覚ましましたか。」




来訪者を見た瞬間、俺は自分の目を疑った。


それは、鮮やかなピンク色の髪を後ろで一つに結んだ、中学生程の年の、セーラー服を纏った少女だったからだ。


直人(人間の髪はここまで鮮やかな色は出せない……染めているのか?)


直人(それにこの服装だ……コスプレイヤーか何かか?)



『まあ今それはどうでも良い』と結論付け、俺は来訪者に言葉を投げかける。



直人「お前は……?」



???「……不知火です。」



直人(名字が『不知火』って言うのも珍しいな…)



直人「……お前が俺をここに運んでくれたのか?」




不知火「ハイ、海岸で倒れていたのを不知火が保護しました。」



俺の中で、この不知火の一言が何か引っ掛かった。






直人「……ちょっと待て。俺は『海岸で』倒れていたのか?」



不知火「ええ、この服を着て倒れていましたよ?」



そう言って不知火は抱えていた物を俺に差し出した。



それは、まごう事なき俺が死に際に纏っていたCGCの隊服だった。





不知火「その服、最初から血塗れで、たった今洗濯が終わったんですよ?」




不知火「本当に驚きましたよ。血塗れの服を着て人が倒れているんですから。


    …まあ目立った外傷は無かったので何よりです。」





直人「………」






直人(……本当にどういうことだ?俺が死んだ筈の所は都市のど真ん中……海岸に流れ着く訳がない)



直人(日本では水葬が禁止されている筈、だったら俺の身体が海に流される事もあり得ない。)



直人(仮に流されたとしても、それは俺の遺体だ。蘇生出来る筈もない)



直人(それに隊服だ…隊服が血塗れだったなら、俺の身体が無傷である事が説明できない…)



直人(俺は確かに、傷を負ったんだ…)



直人(かと言ってここが死後の世界だとも思えない…)



直人(まだ俺には、『生きている』感覚がある…)





不知火「あの……?」





不知火の一言で俺は我に帰る。





直人「……すまない。少し考え事をしていた。」




不知火「いえ……そういえば貴方の名前を聞いていませんでした。」




直人「……そうだったな。俺は滝沢直人だ。」




不知火「滝沢さん、ですか……」





直人(取り敢えず、今の俺に必要なのは『情報』だ… コイツから引き出してみるか……)



そう決めて、俺は不知火に話しかける。



直人「いくつか聞きたい事がある。聞いても良いか?」




不知火「不知火がお答え出来る事なら…… 但し条件が有ります。」




直人「……聞こうか。」



不知火「不知火も滝沢さんに聞きたい事があります。

    滝沢さんからお先に質問して頂いて良いので、それに後で答えて下さい。」



直人「……分かった。それで良い。」




……正直、俺はこの時不知火に少し驚かされた。



この少女、どうやら臆せずに大人とうまく交渉出来る程の度胸と頭脳があるようだ。



『この少女を甘く見ていると痛い目に遭う』と肝に銘じて、早速質問を始める。



直人「まず最初の質問だ。……ここは何処だ?」



不知火「日本の神奈川県にある、横須賀鎮守府です。」



直人「鎮守府……?確か昔の日本海軍の根拠地だったって言う、あれか?」



不知火「……?何を言っているんですか?鎮守府は今も機能していますよ?」



直人「……何? だとしたら今は何年だ?」



不知火「西暦2021年ですよ? ……本当に何を言っているんですか?」





それを聞いた瞬間、俺は絶句した。




不知火が怪訝な視線を俺に向けてくる。


しかし俺はそんな事は今どうでも良かった。



直人(……2021年だと?俺の知っている時代より20年も後じゃないか⁉︎)



直人(俺はコールドスリープかタイムスリップでもしていたのか…?)



直人(しかしこれは不知火に聞いても意味がないだろうな。……仕方ない、保留しておくか。)



直人(……それに鎮守府が現代でも機能しているというのが引っかかる。)



直人(俺の知識が正しいなら、鎮守府は自国の防衛、他国への攻撃を主な目的としていた筈。)



直人(それが今も機能しているということは、その必要があるという事…)





直人「……なあ、今鎮守府は一体何と戦っているんだ?」





俺は不知火に聞いてみる。


すると、不知火はより一層怪訝な顔をした。





不知火「……?? 深海棲艦に決まっているじゃないですか?」



直人「シンカイセイカン?」



不知火「………本当に何も知らないんですね……」




不知火は呆れながらそう言うと、一から俺に丁寧に説明してくれた。(この少女はツンとした見た目に反して根は優しいようだ)



そして分かったのは、


この世界の人類は8年ほど前から深海棲艦に制海権を奪われた事。

深海棲艦にはいかなる現行の兵器でも歯が立たない事。

そして、深海棲艦に対抗できるのは、軍艦の魂を宿した『艦娘』だけであるという事。





直人「……成る程な。」



不知火「お分かりいただけたなら何よりです。」



直人「正直信じられんがな……」



直人(そう、信じられない。)




不知火の話を聞きながら、俺はある『仮説』を立てていた。



それは、自身でも到底信じられないような仮説だった。


しかし、確かめる価値はある。


その『仮説』が正しいか否か知る為、俺は意を決して不知火に質問する。




直人「……最後にいいか?」



不知火「どうぞ。」



直人「『タイムレンジャー』『ロンダーズ』『シティガーディアンズ』……これらの言葉に聞き覚えは?」



不知火「……どれも知りません。不知火は初めて聞きました。」



直人(やはりか……)


西暦3000年からやって来た犯罪者集団『ロンダーズ』と、それを追って同じく西暦3000年から来た『タイムレンジャー』


そして、ロンダーズに対抗する為に、浅見の父であり、浅見グループ現会長浅見 渡(あさみ わたる)が設立したーーーそして俺も所属していた現代人で構成された民間警備会社『CGC(シティガーディアンズ)』


今出した単語は、俺の世界であれば誰もがどれか一つ位は聞いた事のある物だ。


20年過ぎたとしてもそう簡単には風化しないだろう。





……それらを不知火は『初めて聞いた』と言った。




直人(………間違いない。此処は……)






直人(………俺のいた世界じゃない。)






俺はそう結論づける。



直人(……受け入れるしか無い。この状況を。)



戸惑っていないと言えば嘘になる。だが……



直人(受け入れないと、進めない。)



俺は、進まなければならない。



何故俺は生きているのか。何故俺は此処にいるのか。俺はこの世界でどうすればいいのか。俺のいた世界はどうなったのか。




………浅見は生き方を変えられたのか。




……それらを知る為に。



不可能な事かもしれない。その前にもう一度死ぬ事になるかもしれない。それでも進まなければ、いや………






直人(俺は進みたい……!)



直人(自分の生き方を、今度こそ変えたい……!)





知りたい情報は最低限得る事が出来た。後は……





不知火「……質問はもういいですか?」



直人「ああ……一応な。」



不知火「それでは次は不知火から質問させて頂きます。」





……報酬を支払うだけだ。









不知火「……といっても不知火の質問は職務なので、そこまで深入りした質問はしません。ご安心を。」



無表情のまま、不知火が話す。



これから不知火は俺に住所、職業などの最低限の職務質問だけをする気なのだろう。



そして恐らく、実際にそうするだろう。



それを理解させて俺を安心させようとしているのだろうが……




直人(今の俺は全く安心出来ないんだよな……)




何しろ今の俺は職無し家無しで、何も答える事が出来ない。


その上、俺は『海岸に血塗れの服を着て倒れていた男』と向こうに認識されている。


さらに『艦娘』『深海棲艦』と言ったこの世界の常識も知らない。



……こんな人間、怪しく無い訳がない。



直人(まあそんな人間居たら俺でも疑うしな……)





……つまるところ、『絶体絶命』なのだ。




直人(生き方を変えるのは一筋縄じゃいかないか……)



直人(さて、どうしたものか………ん?)





直人「……なあ、質問を打ち切ったばかりで申し訳ないが、聞かせてくれないか。鎮守府にはどんな職種の人間が勤めているんだ?」



不知火「………まあ良いでしょう。」



不知火「そうですね……普段勤めているのは、『艦娘』達とそれを指揮する『提督』、そしてそれらを取り締まる『憲兵』ぐらいですね」





先程、不知火は今からする質問は『職務』だといった。職質ごときで、鎮守府のトップが簡単に出て来る筈が無い。



そして、セーラー服を纏って勤務している憲兵と言うのも有り得ない。憲兵には軍服が必要な筈だ。



直人(……まさか)



直人「ありがとう、ついでにもう一ついいか?」



不知火「……本当に最後にして下さいよ……」



直人「悪いな。この一連の質問が終わった後、今度こそお前の質問に答えよう。」



直人「……不知火。お前は、艦娘だな?」



二人の間で、少しの沈黙が流れる。




不知火「……ええ、私は陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です。」




直人「……艦娘ってのは、皆お前ぐらいの年齢の少女なのか?」




不知火「ええ……年長者の戦艦の人達でも20年代、海防艦の子達なんて、小学校1年生程でしょうね。」





直人(……じゃあ何だ、この世界ではコイツの様な年端もいかない少女達を戦わせてるって言うのか?)



その事実にも驚かされたが、『ある』疑問も残った。




直人(『一年生程でしょうね』って言うのはどういう事だ?口ぶりからして、学校はあるんだよな……何故はっきりと言わない?)



そう、ここに来て不知火の言葉が少し曖昧になって来ているのだ。



……序盤の質問にはハキハキと答えた不知火が。



瞬間、俺の頭がある『仮説』をまた提示してくる。




それは……現実であって欲しく無い仮説だった。






直人(もし、学校があっても『行けない』のだとしたら……)



……辻褄が合う。



直人(……不知火。少し、核心に踏み込ませてもらうぞ。)



そして俺は不知火に聞く。 ……この疑問の核心をつく最後の質問を。



直人「……なあ、艦娘ってのは人間と同じ扱いを受ける事が出来ているのか?」



先程よりも長い沈黙が流れる。



流石に酷だったかと思い、質問を撤回しようとした時、不知火が口を開いた。



不知火「……どうでしょうね。」



ここに来て初めて、不知火があからさまに茶を濁した。



それは『答え』にもなっていて……



直人「……まさかおま「質問は以上ですね?ではこちらの質問に答えて頂きます。」



俺の言葉は不知火に掻き消された。




……今まで冷静で静かだった不知火が強引に話を逸らそうとしている。



直人(……流石に踏み込み過ぎたか)




聞かなくても良い事を聞いた後悔の念と不知火への罪悪感が湧いた。




直人「……不知火、すまなかった。」



不知火「……いえ、不知火も少し強引過ぎました。」



そして、不知火が職務質問を始める。



俺はどうしようも無かったので、

『山奥から降りて来て、今までずっと山奥で過ごしていた。服の血は森を降りている時に出会った熊を食用の為に殺した時の返り血で、その後力尽きて海岸で倒れた』


……という設定で対応した。




直人(……我ながら無理あるな。)



しかし、何故か、不知火は追及してこなかった。そして……



不知火「では、以上で職務質問は終了です。お疲れ様でした。」




直人「……良いのか?こんな胡散臭い奴を追及しなくて。」



つい聞いてしまう。

不知火が答える。



不知火「………自分の非を認めて、他人に謝る事の出来る人は悪人ではないと思うので。それに……」



直人「それに?」



不知火「……私は一回貴方との約束を破りました。」



直人「?」



直人(そんな事あったか?)



不知火「……私は、貴方の質問には『不知火の答えられる範囲』で答えると約束しました。」



不知火「ですが、不知火は『艦娘と人間は同じ扱いを受けられているか』という質問にあえて答えませんでした。」



直人「……正直あれは答えになっていたと思うんだが?」



不知火「不知火はそう思っていません。」



不知火「だから、滝沢さんも一回私との約束を破る権利があると思いました。」



不知火「なので、身分についてはそういう事にしましょう。」





……そこまで聞き、ついに俺は笑いが我慢が出来なくなった。





直人「………クックックック」



不知火「なっ……! 笑わないで下さい!不知火に落ち度でも⁉︎」



直人「落ち度しか無いだろう。上にバレたら軍法会議ものじゃないのか?」



不知火「それはそうですが……!」



直人「……お前、よく周りから『バカ真面目』とか言われてないか?」



不知火「うっ………」





どうやら図星のようだ。




尚更笑いが止まらなくなる。




だが、赤面して、今にもショートしそうな不知火を見て流石にやめようと必死に笑いを抑えた。




直人「……その真っ直ぐな所は、お前の長所だ。これからも大事にしろよ。」



不知火「……ハイ……」



今にも消え入りそうな声で不知火が返事をする。





果たして彼女の赤面は羞恥によるものなのか、はたまたべつの物なのか……





不知火「それではこれで失礼します今後の説明の為に明日の昼改めて来ますそれでは」





不知火が早口で捲し立てる。



……どうやら羞恥だったらしい。





直人「…ちょっと待て」




急いで部屋を出ようとする不知火を呼び止める。




そして、真顔で不知火の目を見据え、声のトーンを落とし、励ましとは別に警告も送る。





直人「覚えておけ。今後は自分の事を考えて行動しろ。かといって自分の事しか考えないのも止めろ。」



直人「……どちらも、自分の身を滅ぼすだけだ。」






不知火「滝沢さん……?」





不知火が戸惑う。  


……どうやら少し空気を重くし過ぎたようだ。



直人「……要するに、優先度を自分と他人のどちらかに偏らせ過ぎるなって事だ。それだけ覚えててくれれば良い。」



不知火「ハイ……」



直人「……呼び止めて悪かったな。もう行ってもいいぞ。」



不知火「では……とりあえず今の所、食事は今晩と明日の朝、昼の3回あるので、その都度係の艦娘が運びますね。」



直人「わかった。」



不知火「それと……滝沢さんには申し訳ありませんが明日の昼までこの部屋からは出られません。」





……どうやら俺は明日まで軟禁状態らしい。






直人「……理由を聞いてもいいか?」



不知火「今、海軍大本営の元帥殿が、ここに視察に来ていらっしゃっているんです。」



直人「成る程……それが明日までだから、部外者の俺に余計な事をさせないようにする為か。」



不知火「話が早くて助かります。」



直人「分かった。じゃあまた明日な。」



不知火「……はい。それでは滝沢さん、今度こそ失礼します。お大事に。」





そう言って、不知火は部屋を出て行った。





直人(あの愚直とも言える程の真っ直ぐな信念……どこか浅見に似ていたな。)




そう思いながら、俺はベッドに再び横たわる。



時間はたっぷり有る。今日一日、今後について考えるとしよう……





------




不知火「はぁ……」




滝沢さんのいる部屋の外で、不知火は溜息を吐きます。




不知火(なんだか、目が鋭くて、少し怖くて、けれどどこか優しい人でしたね……)



滝沢さんの人柄を分析しながら、不知火は無人の廊下を歩きます。




不知火「……あの人が私達の提督だったなら良かったんですが……」





ーーーそんな独り言をポツリと呟きながら。




------




ー夜ー



考えに耽っている内に、どうやらもう夜になった様だ。



俺は部屋の壁にかけられていた時計に目を向ける。


現在の時刻は………午後7時。





直人(そろそろ夕飯時だな…)





そう思った矢先、外の廊下から1つの足音が聞こえてきた。さらに車輪の回る様な音も混じっていた。



そして音はこの部屋のドアの前で止まった。




直人(……噂をすれば、か)



ドアがノックされる。



???「失礼する!夕食を持って推参した!」



ドア越しに聞こえるのは元気な声。



直人「……どうぞ」




俺が入室を促すと、そこから入ってきたのは黒髪を腰の高さまで伸ばし、後髪の一部を左右前方に出して赤いリボンで結んだ少女だった。



そして、(不知火と同じく)セーラー服調の服を身にまとっていた。


さらに、料理が入っているであろうワゴンも持ってきていた。





直人「……名前を聞いてもいいか?」




俺がそう言うと、少女は明るく答えた。





???「勿論!私は陽炎型駆逐艦12番艦、『磯風』だ。 よろしく頼む!」





直人(……元気な奴だな……)



直人(……ん?『陽炎型駆逐艦』?」





直人「……なあ、ひょっとしてお前って不知火の……」






磯風「うむ。私は不知火姉さんの妹だ!」






直人(……全く似てないな……)



…………という声は心の内に留めて置くとしよう。






直人「そうだったのか。お前の姉には世話になったよ。」




磯風「そうか……なんだかんだ言って不知火姉さんは面倒見が良いからな!」




直人「……なんだかんだは余計じゃないのか?」



磯風「今は姉さんは居ないから大丈夫だろう。」



直人「……そうか。」



直人(……明日の昼不知火に告げ口してやろうかな?)




そんなことを少し意地悪に考えていると、磯風が口を開いた。





磯風「さあ、これが今晩の食事だ。どれも私が腕によりをかけて作ったんだ!」





そう言うと磯風は、ワゴンから蓋のついた料理を取り出し、テーブルに並べ始めた。


数多くの皿が、テーブルを埋め尽くしていく。この量を作るのは、相当な手間と苦労があった筈だ。






直人「……ほぉ、ソイツは有り難い。…こんな余所者の為に手間をかけさせてしまってすまないな。」



直人(……不知火に告げ口するのはやめておくか。ここまで俺に尽くしてくれた磯風に申し訳ないしな。)






磯風「いいさ、それに………いや、何でもない。」




直人「?」






磯風が何かを言いかける。一体何を言おうとしたのだろう?



直人(……まあ良いか。俺には関係無い事だろう。)






磯風「……さあ!どれから食べる?」





磯風が笑顔で聞いてくる。




……ここは素直に、磯風の厚意に感謝してあやからせて貰うとしよう。




そうと決まれば………



直人「そうだな……」





俺は何を食べようかしばし思案する。そして……





直人「それじゃあ、汁物はあるか?最初はあっさりした物から口にしたい。」




磯風「味噌汁で構わないか?」




直人「ああ、それで良い。頼む。」




磯風「わかった。確か味噌汁の入った椀は………あった、これだな。 ほら、冷めない内に食べると良い。」






そう言って磯風は蓋付の小さなお椀と箸を一膳、俺に手渡してくれた。




直人「有難う。……それじゃあ、いただきます。」





食前の挨拶を済ませ、俺がお椀の蓋を取ろうとした時………






ドタドタドタドタドタドタ




直人(……なんだ?)





部屋の外の廊下から、複数の足音が近づいてきた。




直人(足音からしてかなり急いでいる様だが、何かあったのか?)



俺は何が何だかよく分からなかったが……





磯風「チッ……!もう来たのか⁉︎」




直人「?」




……どうやら磯風には心当たりがあるようだ。





直人「おい磯風、これってどういう………」





俺が磯風に聞き終える前に……






バァン!!

………部屋のドアが蹴破られた。






直人・磯風「!!!」ビクッ





直人(なんなんだ一体⁉︎)




余りにも突然だったので、俺はドアの方を反射的に見る事しか出来なかった。




そこから部屋に入って来たのは………








不知火「総員!磯風と料理を確保しなさい‼︎」




「「「「「了解です不知火姉さん!!!」」」」」








…………つい数時間前に『また明日』と言って別れた不知火と不知火率いる陽炎型部隊だった。










不知火「嵐、浜風は直ちに磯風を確保して下さい!」




部屋に入ってから開口一番に、不知火が指示を飛ばす。





嵐「OK!……というわけで、ごめんな磯風姉さん!」


浜風「磯風……後でたっぷりお話しましょうか?」




そう言い、『嵐』『浜風』と呼ばれた二人が磯風を取り押さえる。





磯風「なっ……!酷いぞ二人とも!」






磯風がジタバタともがいて抵抗するが、嵐と浜風にガッチリとホールドされていて動けなかった。




そして不知火が再び指示を飛ばす。



不知火「そして天津風、浦風、雪風は料理を回収した後、厨房で現在代わりの食事を作っている萩風のサポートをお願いします!」





天津風「了解したわ。」

浦風「浦風に任せんさい!」

雪風「了解です!」




さらに、『天津風』『浦風』『雪風』と呼ばれた3人がテキパキと手際良く料理をワゴン内に回収していく。





磯風「や、やめ、やめろぉぉぉぉ!!」



磯風「クッ……!何でこんな事をされなきゃならないんだ⁉︎」




取り押さえられた磯風が叫ぶ。




直人(……同感だ。何で磯風が拘束される羽目になるんだ?)






そんな風に疑問に思っていると、嵐と浜風が口を開いた。





嵐「そりゃぁ、なあ?」


浜風「磯風の殺人料理の犠牲者を出さない様にする為に決まってるじゃないですか?」





直人(………殺人料理?)



………今何だかとてつもなく不穏な単語を聞いた気がする。





直人(……まさか……!)




嫌な予感がして、俺は急いで手に持ったままだったお椀の蓋を開けた。









………そこには、到底食べ物とは思えない様な毒々しい紫色の液体が入っていた。



さらにそこから、独特の刺激臭が漂う。






直人「…………。」







………俺は黙ってそのまま蓋を閉じた。





そして心の底から思った事はただ一つ。



直人(不知火達が来てくれて本当に助かった………)




磯風の前では言いづらいので、今度改めて不知火に礼を言おうと考えていると、不知火が俺に近づいて来た。




不知火「滝沢さん…お騒がせして本当に申し訳ありません。」




不知火が俺に頭を下げてくる。




直人「よせ……。 それより何があったんだ?」





俺は不知火に頭を上げさせて、事情を聞いた。




不知火「本来、今晩の滝沢さんの食事は、陽炎型の中でも料理が得意な『萩風』が作る筈だったのですが……」




不知火「その………こちらの手違いで、艦隊で一、二を争う程料理が下手な『磯風』に連絡が行った様で……」





不知火「……今回は完全に不知火の落ち度です。……本当に申し訳ありませんでした。」




直人「……頭は下げるなよ、もう謝罪の意思は十分に伝わったからな。」





そう言って、不知火がもう一度頭を下げようとしたので、その前にやめさせる。





直人「……そうだったのか。」



直人(どうしてここまで盛大な手違いが起こったのかは少し気になるが…)





不知火が磯風の方に向き直る。




不知火「磯風、何でこんな事を?」




不知火「貴方途中から料理が下手な自分の仕事ではないと薄々気づいていたでしょう?」




磯風「うっ……!」



磯風「………。」



磯風「不知火姉さん、滝沢さん、皆……すまなかった。」





磯風が謝罪の言葉を述べる。






磯風「……特に滝沢さん、騙していて本当に申し訳無かった。」



磯風「最初に料理の味と『目的』について説明しようと思ったんだが、言い出せなかったんだ。」



磯風「私は、料理で感謝された事が無かったから……滝沢さんの感謝の言葉が、心の底から……嬉しかったんだ。」



磯風「……本当にすまない。ただこれだけは信じてくれ。」



磯風「私はただ……滝沢さんに料理の感想を聞きたかっただけなんだ……!」



磯風「こんな料理が下手な自分を変えたいから……第三者の率直な意見を聞きたかったんだ……!」





本当に申し訳無さそうにそう言って、磯風は深々と頭を下げた。




ここで俺は全て理解する。少し前に磯風が言いかけたのは……こういう事だったのだ。




直人「………。」





俺は磯風をじっと見つめる。



……自分を変える為に、今目の前で行動している少女を。




……それは、前の世界で俺には出来なかった事。



直人(コイツは自分と必死に向き合おうとしている……)




視線を手元の椀に向ける。


……作った理由はどうであれ、磯風がこれを一所懸命苦労して作ったのは確かだ。




直人(……だったら)




そこへ、天津風と呼ばれた少女がこちらに近づいて来た。




天津風「……お話の所申し訳ないけど、そのお椀も回収させて貰うわよ。」




そして、俺の手元にある椀に手を伸ばそうとした天津風を片手で制止する。





天津風「………?」





天津風が不思議そうに首を傾げる。


俺は、その姿を横目に見ながら、磯風に語りかける。





直人「……おい磯風。」



磯風「‼︎」ビクッ



磯風が震える。俺に怒られるとでも思っているのだろう。俺自身そんな気は毛頭ないが。




直人「……俺の感想が聞きたいんだったよな?」




その言葉を聞いた瞬間、部屋にいた艦娘全員がギョッとした目でこちらを見た。




天津風「あなた正気⁉︎」

浦風「やめといた方がええよ?」

雪風「雪風もやめた方が良いと思います!」

嵐「おいおい、マジか?」

浜風「私は絶対にお勧めできません!」

不知火「無茶です、滝沢さん!」



磯風「そ、そうだ!正直今皆の言葉でとても傷ついているが、私もやめておいた方が良いと思うぞ!」





全員の制止を無視して、俺は箸を手に取る。





磯風「どうしてそこまで……?」





磯風が聞いてくる。




直人「別に……。俺の為に作ってくれたんだ。食べない事が一番の無礼になると思っただけだ。」




そう言って俺は、もう一度椀の蓋を取る。辺りに刺激臭が再び漂う。




直人(……改めて見てみると凄い色だな…)



椀の中を覗き込みながらそう考える。



ここまで来たらもう後には退けない。




直人「……いただきます。」




意を決して椀に口をつけて味噌汁を口に流し込む。




味はと言うと………







………正直言って、予想を更に数倍上回る不味さだった。



一言で言い表すなら、まさに『混沌』。



何度も気分が悪くなったが……




直人(残すのは、磯風に申し訳ないからな……!)




決して途中で箸を置いたりはしない。きっちり最後まで腹に流し込む。



直人「………ご馳走様でした。」



不知火「誰か!滝沢さんに何か飲み物を!」





それを見た不知火が急いで指示を出し、雪風がワゴンに入っていた水入りの2Lペットボトルを持ってくる。



それを奪い取る様に受け取ると、水を一気に飲み干す。




直人「ふぅ………」




ようやく落ち着いた俺に艦娘達が一斉に駆け寄る。




不知火「滝沢さん!大丈夫ですか⁉︎何処か体に異常は⁉︎」

嵐「すっげえ……ホントにやりやがった!」

天津風「磯風の料理を食べても意識を保って居られる人を初めて見たわ……」

浦風「わしもじゃ……」

雪風「雪風も初めて見ました……」

浜風「今まで磯風の料理を食べた人って皆すぐに気絶したから……」


磯風「滝沢さん!大丈夫か⁉︎ 因みに私は皆のせいでもう心が折れそうだ!(泣)」



……どうやら俺は初めて磯風の料理を一品完食した人間らしい。




直人(本当にもう一度死ぬかと思った……!)




そう思いつつも俺は全員に無事を伝える。




直人「……俺は大丈夫だ。」




直人「……それで磯風、感想なんだが…」




磯風「‼︎」ゴクリ





磯風が緊張した面持ちでこちらを見る。



直人(磯風は正直な感想を求めている。俺の意見をありのままに言おう。)



そう決めて俺は口を開く。




直人「……正直、不味かった。他の奴が気絶したのも頷ける。」



磯風「……‼︎ そうか………。」



直人「ああ……。その上で、料理が下手でも無いし上手でも無い一般人としてアドバイスさせて貰う。」



直人「まずは出汁だ。味噌汁は出汁が重要だ。その深みのある味を他の食材が邪魔していてはダメだ。」



直人「次に食材の切り方だ、食材には半月切り、短冊切りといった様々な切り方がある。それぞれの食材や料理によって切り方は変わって来るが……先ずは食べ応えを多少残す程度で食べ易い大きさに均等に切る事から始めてみろ。」



直人「あと、隠し味はその名の通り、『隠さ』れている『味』だ。食べてみても気付かない程度にしておけ。」



直人「最後に……今後はまず、レシピ通りにそのまま作ってみろ。料理レシピはこれまでの料理研究家の努力の結晶だ。分量通り、手順通りに作れば、皆が大体同じ物を美味しく作れる様に出来ている。まずそこから始めろ。美味しい物が作れたら、己の自信にもなるしな。」




直人「……と、まあこんなもんだ。分かったか?磯風。」



磯風「ああ……!よく分かったよ滝沢さん!」



直人「……元気になった様でなによりだ。」



磯風「早速厨房へ行ってくる! 本当にありがとう!」





そう言って、磯風は勢い良く外へ飛び出して行った。


磯風が去った後、不知火が俺に話しかけてきた。




不知火「……滝沢さんは本当は料理がお上手なのですか?」





直人「いや?………どうしてそう思ったんだ?」




不知火「アドバイスがとても的を射ていたので。」



直人「……そうか?」



不知火「ハイ。貴方達もそう思いましたよね?」




そう言って不知火が残っていた陽炎型姉妹に問いかけると、全員首を縦に振った。





雪風「直人さんのアドバイス分かりやすかったです!」

浦風「そうじゃのう…なんだか説得力があったんじゃ。」

嵐「磯風姉さん……上手くいくと良いな。」

天津風「ええ……そうね。」

浜風「失礼ですが、滝沢さんは料理の経験はどの位おありなのでしょうか?」




直人「そうだな……数年間一人暮らしだったから、その間は自炊して生活していたな……。」





そう言って浜風の質問に答える。





不知火「……それは上手と言って良いのでは?」




直人「さあな? ………ところで、夕飯があの味噌汁だけと言うのは正直少し足りないんだが……」



不知火「‼︎ 忘れていました……。 急いで用意しますね。」



直人「そこまで急がなくても良い……。 是非頼む。」



不知火「分かりました。それでは失礼します。…30分程後に夕飯をお持ちしますね。」




そう言って、不知火は姉妹をまとめて部屋から出て行った。





………去り際に他の艦娘達からも笑顔で挨拶され、少しだけ胸が暖かくなったのは自分だけの秘密にして置こう。









ーーー数十分後ーーー







その後、俺は『萩風』と名乗った少女が持って来た食事にありつく事が出来た。




健康が重要視された萩風の料理は、磯風の味噌汁を入れた後の俺の胃に優しい味だった。




料理を完食し、部屋を出る前の萩風に重ねて礼を言い、俺は床に着いた。




…………そこでそのまま眠って朝を迎える事が出来たら良かったのだが。






直人(………腹が痛い……!)






……どうやらここにきて磯風の味噌汁が効力を発揮し出したらしい。



更に不幸は続く。





直人(トイレに行くか……。)





そう思い、ベッドから立ち上がろうとした時…





直人「……あっ。」





……ここにきて俺の犯したミスが露呈する。




直人(トイレの場所聞きそびれた……)




……そう、トイレの場所が分からないのだ。



こういう時、普通ならそのまま部屋の外に出て探せば良いのだが……





直人(今ここでそれを実行するのはマズイ……!)




……そう、現在の俺は身元不明の部外者。しかも今日はここに海軍の元帥が来ているときた。



そんな状況下で、夜中俺が鎮守府内をウロウロ徘徊していて、それが誰かの目に入ったら……?




直人(今度こそ言い逃れ出来ずに『不審者』のレッテル貼られるぞ……)




最悪、元帥を標的としている『暗殺者』なんかだと誤解されて現行犯で捕まっても全くおかしくない状況だ。




かといってこのままで居るのも却下だ。俺の腹が既に悲鳴を上げ始めている。





直人(……どうする……どうする……⁉︎)





………こんなくだらない事でジレンマを抱える事になるとは思っても見なかった。







………十数分後、俺は夜間警備で偶然部屋の前を通った憲兵を呼び止め、何とかギリギリ(不幸中の幸いで、近くにあった)トイレに駆け込む事が出来た。





だが、腹の痛みはいつまでも治らず、俺は何度も部屋とトイレを行ったり来たりする羽目になり、眠れない夜を過ごした。




そして……





直人(……ん?)





直人(これって結局、俺が鎮守府内を真夜中に徘徊していた事になるんじゃ無いか?)





……それに気づいたのは、窓から見える水平線から、眩しい朝日が顔を出し始めた頃だった。













直人(………眠い。)




そう思いながら、俺は一つ大きな欠伸をした。




……結局俺は昨夜、腹痛のせいで一睡も出来なかった。



先程、もう一度寝ようと試みたのだが駄目だった。



どうやら、一晩中回り続けた俺の脳が冴え過ぎているらしい。




その上何もする事が無いので、とにかく暇で仕方がない。





直人(そういえば、こんな風にのんびり過ごすのも随分と久しぶりだな……)



今更その事に気づき、窓の外を見る。






ーーー東の空に眩く光る太陽。




ーーーどこまでも、青く、蒼く広がっている青空と蒼海。





それは、今まで周囲に当たり前にあった筈で……




………力に固執し過ぎた故に俺には見えなくなっていた、美しき『モノ』。




直人(俺は……やはり力に執着し過ぎたな。)





窓の外の景色を見ながら、ふとそう考える。






ーーー回想ーーー




………前の世界で、俺は力を手に入れるためならどんな事でもした。






……力を手に入れる為、『ロンダーズ』と『タイムレンジャー』が繰り広げていた、巨大生体メカ『ブイレックス』と、その制御装置である『Vコマンダー』の争奪戦に単身で飛び込み、この二つを奪取した。




それらを利用して、空席だったCGC隊長の座に着き、権力を得た。




また、CGCを完全に掌握する為に、親会社であった『浅見グループ』のトップだった『浅見 渡』会長が瀕死の重体であった事を良いことに、浅見グループからのCGCの切り離しも実行した。






……今思えば本当に色んな事をした。





何もかもが、半年の間に起こった出来事だった。





………そう、『たった』半年だ。




大学を中退した、ただのCGC新米隊員が、たった半年でCGC二代目隊長に就任。




今思い返してみると、異例中の異例のスピード出世だった。





…………そして当然、それを良く思わない者もCGC内にいただろう。





そして、力を手にした俺は自惚れ、他の隊員との信頼関係を築く為に時間を割こうとしなかった。





直人(だから……俺は……)




………見捨てられたんだ。






俺が死ぬ数時間前、俺は突然CGC隊長解任の辞令と、Vコマンダーの引き渡し命令を『浅見グループ』から告げられた。







理由は……『浅見グループへの反逆』『CGC研究班によるVコマンダーのボイスキー解除成功』といったものだった。







Vコマンダーは音声入力式アイテムであり、俺の声しか認識されないようにボイスキーが設定されていた。



それが解除されたという事は……『誰でもVコマンダーとブイレックスを使える』様になったという事。





つまり……俺はCGCにとって、『用済み』だった。





CGCが必要としていたのは、『俺』ではなく……




………俺の持つ『力』だった。





Vコマンダーの引き渡しを拒否した俺に、嘗ての部下達は容赦なく襲いかかった。





…………誰一人として、俺に味方する人間は居なかった。





時間を掛けて隊員達と信頼関係を築き、ゆっくり出世街道を歩めば回避出来たかもしれない、悲劇だった。






………俺は必死に逃げた。 Vコマンダーさえ有れば、まだ巻き返せると信じて。






女の子「助けてぇ!!」






しかし、逃げている最中、俺は見てしまった。



ーーー大量の機械兵『ゼニット』に追われ、背中を見せて必死に逃げている少女を。





「見捨てろ。今のお前に戦える力は無い。」


「今ここで少女の前に飛び出したら、大量の銃弾に撃たれて死ぬぞ?」


「お前は立ち直すんだろう?死んでは元も子もないぞ?」





俺の中のナニかが囁く。実際その通りだ、俺は生き残らなければならない。




………そうだ。



直人(俺は、生き残らなければ、ならないんだ………!)




ゼニット達が冷たい銃口を少女に向ける。




そして………




直人『ウァァァァ!!』





俺は駆け出し、ホルスターに入っていた拳銃を取り出してゼニットに発砲し……




ーーー気がつけば少女の前に立ち、大量の銃弾をその身に受けていた。





………非情に徹する事が、俺にはどうしても出来なかった。






俺は防弾仕様のCGC隊服を着ていたとはいえ、重傷を負った。




女の子『お兄ちゃん………』




俺の背後にいた少女が心配そうにこちらを見る。




直人『早く、逃げろ……』



女の子『でも………』



少女が俺の身を心配する。




直人『行け……‼︎』





掠れた声で叫ぶ。


それでようやく、少女はその場から離れた。


(……この一連の出来事が、俺が死ぬ遠因となったのだが、不思議とこの行動だけは今も後悔していない。)






その直後、ゼニットが再び銃を構える。今度は、俺に狙いを定めて。




身体は既に満身創痍。それでも少しずつ前へ進みゼニットに銃口を向ける。




だが、現実は、どこまでも非情だった。




ゼニットに攻撃しようと向けた拳銃から鳴ったのはトリガーを引く音だけ。





………弾切れだ。




直人(……此処で終わるのか……)




そう思いながら、それでも俺は前に進み続けた。




………生き残る為に。




ゼニットが銃を撃とうとする。



それを睨みつけていると……




突然、一体のゼニットが、乱入者が放った飛び蹴りで倒された。



乱入者は、次々とゼニットを倒してゆく。



その正体は……




直人(あさ、み……)




……俺の腐れ縁だった。




……それを視認した直後、俺はその場で倒れた。




ーーー回想終了ーーー




……結局あの後、俺は浅見に助けられ『その時は』生き長らえる事が出来た。




……また、この一件で俺は、『力』を求め過ぎ、他の事に目を向けなかった事への代償の重さを身をもって知った。





そして………



今まで『正しい』と思って生きてきた、『力』だけを求める生き方を……ほんの少しだけ、後悔した。




しかし、その後悔はもう既に遅かった。








………『その時』は。









……だが、『今』は違う。




直人(………俺はこれから再スタートを切る事が、出来る。)



直人(力には、もう決して振り回されたりしない。)



直人(折角の二度目の人生だ。一度目の失敗を糧に必死に生きてやる。)




直人(『生』に……今度こそ最後までしがみついてやる。)






ーーー俺は窓の外に広がる美しい景色を見ながら、そう心の中で固く決意した。











直人(……そういえば、磯風はあの後どうなったのだろう?)



ふとそんな事を思う。



……昨日の磯風は部屋を去る時、とても生き生きとしていた。



それも含めて、昨日磯風と交流して分かった事が一つ。


直人(………アイツは、何かに一所懸命打ち込める奴だ。)





………磯風には言わなかったが、俺は、料理に一番大事なのは『丹精込めて作る事』だと思っている。




磯風は、それを既に持っている。



一日二日でとは行かずとも、きっといつか料理が上手くなるであろう。


ーーー少なくとも俺は、そう信じている。




ただ、『今すぐ磯風の料理を口にしたいか』と聞かれるとそういうわけでも無い。



……正直、俺の中で昨日の味噌汁は軽くトラウマになった。



『もう二度とあの味を味わいたく無い』と思うまでには。



……さすがにたった一日で、食べられるレベルまで上達する事は出来ないだろう。(磯風には失礼だが)




だから、『今の』磯風の料理はあまり口にしたくない、というのが本音だった。



時計を見る。



現在の時刻は午前7時半。もうそろそろ朝食が来てもおかしくない時間帯だ。







……まさか2食連続で磯風は来ないだろう。



直人(まさか、なぁ……)




直人(……待てよ?)


直人(……確かこう言うのを『フラグ』って……)





コンコン

磯風「滝沢さん、磯風だ!朝食をお持ちしたぞ!」





直人「…………。」




直人(気付くのが遅かったか……!)





……俺の中で、第2ラウンド開始を告げるゴングの音が鳴った気がした。









直人「……どうぞ。」




磯風「うむ、失礼する!」




そう言って、今日も元気にニコニコしながら磯風が部屋に入る。



昨日と同じように、ワゴンも一緒だ。





磯風「…滝沢さん、昨日は本当にすまなかった。」





表情を真顔に改めて、磯風が再び頭を深々と下げる。





直人「もうよせ……全て終わった事だ。」




俺は磯風に頭を上げさせる。



すると、磯風は再び微笑んで言った。




磯風「そう言ってくれると有り難い……」



磯風「と、いう訳で朝食をお持ちしたぞ!」






……何が『と、いう訳で』なのだろう?




直人(……今話繋がっていたか?)





疑問に思うが、今それよりも優先すべき事案がある。






直人「……失礼を承知で聞くが、誰が作ったんだ?」





磯風には本当に失礼な質問だが、勘弁して欲しい。





直人(何せ俺の身体の安全がかかっているんでな……!)



すると……





磯風「……そんなに身構えないでくれ……私が泣きたくなる……」





磯風が目に見えて落ち込んだ。






直人(……俺今人として何か最低な事をしている気がする。)





直人「………すまん、今のは俺が悪かった…」





さすがに申し訳なく思い、磯風に謝罪する。






磯風「……どうせ私は料理下手な艦娘さ……」





磯風がいじける。





直人「……本当にすまなかった。」





罪悪感に耐え切れず、俺は磯風に深々と頭を下げる。




それを見た磯風は……




磯風「……分かった、もうその位で良いから頭を上げてくれ、滝沢さん。」




ようやく機嫌を直し、テーブルに料理を並べ始めた。




直人「……悪かったな。」




磯風「もう良いさ……それで、誰が作ったのかと言うと……」




直人「………。」ゴクリ




磯風「……萩風だ。」




直人「……そうか。」ホッ




磯風「あっ‼︎ 今滝沢さんホッとしただろう⁉︎」




磯風が怒る。





直人「……別に?そんな事無いが?」





図星だった為、俺はしらばっくれる事にした。




直人「……さ、朝食を有難く頂くとするか。」





磯風「むぅ〜〜」





話を逸らされた磯風が膨れっ面になる。




直人「フッ……」




その顔が少し可笑しかったので、磯風には気付かれない程度に小さく笑い、俺は用意された食事に目を向ける。




内容は玉子粥、漬物、味噌汁と、一汁一菜のシンプルで身体に優しい献立だった。





直人「いただきます。」





そう言って俺は料理に箸を付けて、あっという間に全ての皿を空にした。




それまでの間、何故か磯風はただこちらを真剣にじっと見つめていた。




直人「ご馳走様。 ……どの料理もとても美味かった。」




磯風「それは……味噌汁もか?」




磯風が聞いてくる。




直人「? ああ、味噌汁も美味かったぞ。」




そう答えると……





磯風「そ、そうか………」





……磯風が、顔を仄かに紅く染めて急にモジモジし出した。





直人(……もしかして)





磯風「じゃ、じゃあ私はこれで失礼する‼︎」





磯風が急いで食器をワゴンの中に片付けて、部屋を出ようとする。





直人「……磯風、ちょっと待て。」





俺は磯風を呼び止めた。





磯風「な、何かな滝沢さん?」





そして、磯風に伝言を頼む。





直人「萩風と、『この味噌汁を作った奴』に伝えて置いてくれ。 ……『ありがとう、美味かったぞ』ってな。」





磯風「な、何を言っているんだ滝沢さん?今回の食事は全て萩風が作った物だぞ?」




磯風がしどろもどろに答える。




直人「……そうか、じゃあ萩風にそう伝えて置いてくれ。」





磯風「分かった……ではこれで今度こそ失礼する。」





そう言って、磯風はワゴンを押しながら、今度こそ部屋を出てドアを閉める。




去り際に頬を更に紅くしながら、ある言葉を残して。








磯風『………………どういたしまして。』ボソッ











直人(それにしても驚いたな…)



まさかたった一日で磯風の料理の腕があそこまで上達するとは、俺も予想外だった。




直人(……少しはアドバイスが役に立ったのだろうか?)




それを知る方法は無いが、もしそうであったのなら、俺としても嬉しい限りだ。








ーーー人はやはり、自分を変える事の出来る存在なのだろう。



俺は磯風を見て、改めてそう感じた。





直人(俺も……変えられる筈だ……きっと。)




直人(いや………必ず。)




そう決意していると、食後だからだろうか、急に眠気が迫って来た。





直人(ようやく睡魔のお出ましか……)




不知火が来るのは今日の昼間。 まだ時間がある。





直人(……一眠りするとするか。)





そう決めて、俺はベッドに横になる。



すると、直ぐに瞼が重くなる。





直人(ありがとな……萩風、磯風。)






……その直後、俺は深い眠りに落ちた。










ー昼ー




直人「ん………。」




俺は目覚め、ベッドから身体を起こし大きく伸びをした。




直人(………いつぶりだろう?)




直人(今日はとても安らかに眠れた。)





……本当に、いつぶりだろう?



何事にも囚われる事無く、こんなに健やかに眠れたのは。



身体は勿論、何だか心も暖かかった。






直人(……こういうのも中々良いもんだな。)






そんな感想を抱きながら、時計を見る。




午後0時10分。正午を少し回ったところだった。



そろそろ不知火が来る筈だ。



ふと、未だに入院着を着用している自分の姿を見る。



昨晩や今朝はまだ入院着の様な緩い服装で大丈夫だったかもしれないが、『今後について』という俺にとって重要な話をこれからするとなるとこの服装は流石にだらし無い。




直人(俺は別に病人でも無いしな。)



直人(……着替えるか。)




………入院着を脱ぎ、昨日不知火から渡された下着を身につける。



そして、同じく不知火から渡されたCGCの隊服を着ようとした時、ある事に気づいた。




直人(……ほつれが直されている。)




数多くの戦闘を潜り抜け、死に際には大量の銃弾も受けて、傷だらけでボロボロになっていた筈の隊服が綺麗に修繕されている。



洗濯と一緒に不知火がやってくれたのだろうか?





直人(だとしたら、不知火には感謝してもし切れないな…)




そう思っていると……




コンコン

不知火「滝沢さん、お昼をお持ちしました。入っても宜しいでしょうか?」




不知火がドアをノックする。





直人「……少し待ってくれ。今着替えている。」





不知火には申し訳ないが、少しだけ待ってもらう。



急いで隊服を着て、身嗜みを整える。





直人「……どうぞ。」





着替えが終わったので、不知火に入室を促す。





不知火「失礼します。」





不知火が入って来る。






直人「……よぉ。」




俺が不知火に話しかけると、不知火は俺を黙ってじっと見つめていた。




直人「………服装、何処か変だったか?」




少し不安になったので、不知火に問う。



すると……不知火が口を開いた。





不知火「いえ、そんな事は無いのですが……ただ」




直人「ただ?」




不知火「……ただ、少し似合っていたので……」




直人「……そうか?」




不知火「ええ、服に着られている感じが一切ありません。きちんと着こなせているかと。」




直人「そうか……ありがとな、褒めてくれて。」




不知火「いえ…… 昼食を用意しますね。」





直人「ああ、頼む。」






そして、不知火がテキパキと昼食を用意していく。




テーブルに並んだのは、色鮮やかな具材が挟み込まれたサンドイッチだった。



肉系、野菜系、デザート系と、種類が分かれているらしい。




不知火「お口に合えば良いのですが……」




直人「……これお前が作ったのか?」




不知火「お恥ずかしながら……」




直人「へぇ……美味そうじゃないか。」




直人「いただきます。」




そして、俺はサンドイッチに豪快に齧り付いた。




内心、昨晩の磯風の二の舞になるかと危惧していたのだが……




……結論から言うと、どのサンドイッチもとても美味しかった。




特に、生ハムとサラダチキンとレタスが挟まれた肉系のサンドイッチは、昨日から殆ど肉を食べていない俺にとって、とても有難いものだった。(昨晩の萩風の食事は健康重視なので、肉があまり使われていなかった。)





そして、俺はあっという間に完食した。





直人「ご馳走様。 美味かったぞ。」





不知火「……そうですか。」





不知火が頬を紅く染める。



それを見て、俺はつい笑ってしまった。





直人「……フッ」




不知火「……笑わないで下さい。」ムッ




直人「ああ、すまない。……何しろお前が頬を赤くした瞬間の顔がどこか磯風のそれとそっくりだったんでな、似ていると思っただけだ。」





……見た目は全く似ていないが、やはり姉妹というのは何処かしら似ている物なのだろう。






直人「……なあ、姉妹って言うのはどういう物なんだ?」



直人「俺に兄弟は居なかったから、そういうのはよく分からないんだ。」






ふと気になったので、聞いてみる。



すると……





不知火「そうですね……皆とても五月蝿いです。」





………不知火がとても不機嫌そうに語った。






不知火「静かに過ごせる時なんて全くありません。……正直言ってかなり迷惑です。」







直人(………地雷踏んだか?)





内心少し焦っていると、不知火が再び言葉を紡ぐ。






不知火「けれど……その五月蠅さに不知火自身が救われているのも事実です。」







不知火「……かけがえの無い大切な物ですよ、私にとって、姉妹は。」







そう言って、不知火は微笑んだ。




直人「……そうか。」




俺もつられて微笑む。




不知火「はい。」




部屋の中が、和やかな空気で全て満たされる。





不知火「………だから、私は……」ボソッ





…………一つの暗雲を除いて。





直人「? 何か言ったか?」





不知火「……いえ、何でもありません。」





直人(今何か言っていたと思うんだが…?)




そして一瞬、不知火の顔が曇った様にも見えた。





直人(……何か隠してるな。)





一体何なのだろう?少しの間黙考してみる。





不知火「ーーーさん、滝沢さん?」




不知火が声をかけてくる。




直人「……すまない、考え事をしていた。 ……何だ?」




不知火「いえ、そろそろ本題に入ろうかと思いまして……」





直人「ああ……そういえば、俺の今後について話すんだったな。」





不知火「はい。  …それで早速ですが、滝沢さんには今から職を探して頂きます。」





直人「……まあ、そうなるよな。」




先ずは、この世界で衣食住を確保する為の資金を稼がねばならない。





不知火「なので、此方で幾つかリストアップしておきました。これが資料です。」






そう言って、不知火が紙の『束』を渡してくる。





直人「‼︎」




直人「本当に何から何まですまないな…… この量の資料を用意するのは大変だっただろう?」






不知火「別に……貴方には磯風がお世話になりましたから。」





直人「そうか……だったらその心遣い、有難く受け取らせてもらおう。」





不知火「……因みに期限は3日間です。それ以降はこの鎮守府に滞在する事は出来ません。」





直人「成る程……分かった。 それまでに決めておくよ。」




不知火「ええ、そうして下さい。」




取り敢えず今後の方針は決まった。




直人(………というか)




直人「なあ不知火、俺はあと3日も此処に居ていいのか?」




昨日も含めて、計4日間の衣食住を身元不明の俺が無償で保証されるのは、果たして良いのだろうか?


不安になったので、不知火に聞いてみる。





不知火「一応、滝沢さんは書類上『漂流者』という事になっています。漂流者を手厚く保護する事も、鎮守府の職務の一環なので、大丈夫です。」




直人「……そうか、なら良かった。」




俺は静かに胸を撫で下ろす。





直人(不知火には世話を焼かせているな……申し訳ない。)  



直人(……そうだ。)





直人「不知火、何か俺に出来る事は無いか?礼をしたいんだが。」





せめて何か不知火に恩返しがしたい。そう思い、俺は不知火に聞く。





不知火「そうですね……」





不知火が考え込む。そして、意を決した様な顔付きで口を開いた。




不知火「……それでは、今からする質問に正直に答えて下さい。はぐらかしはナシです。」





直人「……一つだけならいいだろう。」




不知火の願いを了承して、俺は不知火の言葉を待つ。




直人(……まあ、大体予想はついているがな。)




………そして、不知火は俺が予想した通りの質問を投げかけてきた。








不知火「滝沢さん………貴方は、本当は何者なのですか?」








直人「……それを知ってどうするつもりだ?」





俺は不知火に目的を聞いてみる。





不知火「どうもしませんのでご安心を。ただの不知火の好奇心です。」





……不知火が相変わらずの無表情で答えるが、正直言って信用できない。



だが……





直人「……信用できないが、まあ良いだろう。」





……そう、別にどうだって良い。