2022-06-12 02:23:32 更新

概要

海を駆ける艦娘達と、1人の男が出会った。新しい未来を切り拓く為に………。10/23 お久しぶりです、何とか生きとります………


前書き

注意書きは前作の前書きを参照して下さい。

今回も長くなりそうなので、のんびり、気長にお楽しみ頂ければ幸いです……m(_ _)m


再会、因縁、決着…………


………その全てを乗り越えて、男は再び炎を纏う。




[Case File 2: 復活の炎 ]





直人「………早速だが、お前達にやってもらう事がある。」





全員が、きちんと俺の話に耳を傾けるのが分かる。


そして、俺は部下達に最初の指令を下した。





直人「まずは、全員入渠して傷を癒せ。重傷者、空母を優先的にだ。」





直人「先程言った通り、資材と修復剤は大量にある。惜しみなく使え。」





直人「そして入渠後すぐに、空母勢は全員で交代しながらひとまず今日一日、鎮守府近海の哨戒を行ってくれ。」






直人「今から鎮守府の立て直しに総員で取り掛かる。よって、即座に鎮守府防衛に人員を割くことが出来ない。」





直人「空母勢は鎮守府近海に何か不審な動きが見られた場合、どんな些細な事でも連絡しろ。一部の作業を中断し、なるべく短時間で防衛体制を整える。」





直人「交代順、交代時間は、お前達に任せる。それと、飛龍と蒼龍にもこの事を伝えろ。」







直人「次に料理の出来る者は、入渠後協力して炊き出しを行え。」






直人「通常分の食料では足りなかった場合は、この鎮守府の非常用の備蓄を使え。俺が許可する。」






直人「そして他の奴等は、鎮守府内の修繕、清掃、整理を頼む。」





直人「自力でどうしても直せない破損箇所等は随時俺に連絡しろ。その都度専門の業者を呼ぶ。」





直人「何か質問は無いか?」






艦娘達に問いかける。


声は何も返ってこない。





直人「よし、それじゃあ今すぐ行動開始だ、解散‼︎」





そして全員が、鎮守府復興の為に慌ただしく動き始めた。







-------




そこから先は、てんやわんやだった。



俺は鎮守府中を駆け回り、指示を出し、時には手伝うといった、目まぐるしい数時間を過ごした。



そして、物事は集中すればする程、時間の流れを速く感じる物で………





………気づいた時には夜になっており、俺達は全員で食堂に集まっていた。



食堂のテーブルに並べられているのは、料理の得意な艦娘達が作った様々な種類の料理。



見るからに美味しそうな数々の料理の所為で、自ずと食堂内がざわつく。



そんな中、俺は一つ疑問を抱く。






直人(………何でこんなに豪勢な料理が並んでるんだ?)






…………そう、目の前の料理が豪華過ぎるのだ。




俺は『炊き出し』を指示したのであって、『宴席の準備』を指示した覚えは無いのだが……………




…………まあ、だからと言って不都合な事は何も無いのだが。




そう思案していた俺の元に、不知火がやってきた。






不知火「司令、何か一言お願い出来ませんか?」






直人「何か一言………?」





しばらくして、俺は察した。





直人「………乾杯の音頭を取れって事か?」






不知火「ええ、今回は司令のちょっとした歓迎会も兼ねているので、お願いします。」





直人「………!」






………これが俺の歓迎会という話は、今初めて聞いた。




俺はその事に少し驚くと同時に、大量の馳走が用意されているこの状況に合点がいった。




………そして、なんだかむず痒くなった。




……………今まで、誰かに暖かく迎え入れられ、俺がその輪に入った事が無かったから。







直人(……………悪くは、ないな。)






そんな『らしくない』心情を悟られない様、俺は不知火に返事をする。







直人「…………こういうのは、柄じゃ無いんだが。」







実際、俺は人前で目立つ様な行動を取る事を好まない。



なので、こういう事はあまりやりたく無いのだが…………。




ふと周りを見渡すと、艦娘達が料理には手を付けずに、酒、ジュースといった、様々な飲み物の入ったグラスを片手に俺の方を見つめていた。



…………どうやら、俺の言葉を待っているらしい。






直人(…………しょうがない。)






これ以上、美味しそうな料理の前で艦娘達を待たせるのも悪い。それに、料理はなるべく出来たてで食べた方が美味しいだろう。



俺は観念して、近くに用意されていた烏龍茶の入ったグラスを持ち、咳払いを一つ。




食堂が静まり返る。






直人「全員、少し聞いてくれ。」






そして、懸命にこの場に合った言葉を捻り出し始める。






直人「………お前達、まずは今日一日、ご苦労だった。」





直人「本来お前達には、前提督供の所為で荒んでしまった『心』を休める時間が必要だっただろう。」





直人「だがそんな中、お前達はきちんと各々の仕事を全うしてくれた。」





直人「この場を借りて、その事に対して感謝の意を述べよう。」






一度言葉を区切り、やや枯渇気味だった息を補給する。


再び口を開く。





直人「………先程言った通り、俺はお前達を『甘やか』さない。」





直人「明日からは、通常通りに業務を再開する。」





直人「………但し、『明日から』、だ。」





直人「今晩は、存分に英気を養うと良い。」






艦娘達の表情が(個人で差異はあれど)明るくなる。






直人「…………俺は、提督としてはまだまだ未熟だ。」






直人「だが提督になったからには、俺は精一杯職務を全うする。」





直人「今後、前へと進む努力を一切怠らない事を、俺自身に、そしてお前達に対して今此処に誓おう。」





直人「………この誓いをもって、乾杯の音頭とさせて貰う。」





直人「……………乾杯。」





艦娘達「「「「「「「「「「乾杯‼︎‼︎」」」」」」」」」」






そして、全員がグラスを上に掲げて、一晩限りの宴が始まった。






……………艦娘達の表情は、どれも生気に溢れていた。






-----





それから、俺は数々の艦娘達からの怒涛の質問攻めにあった。




何処の出身なのか、何が得意なのか、趣味は何か、等々。




ある程度の数の質問であれば軽くあしらっても良かったのだが、俺は丁寧に一つ一つ答えていった。(とは言っても、俺の身元は大っぴらに話してはいけない物だったので、当たり障りの無い範囲でしか答えなかったが。)





艦娘達の好奇心で輝いた瞳を汚す事を躊躇ったのもあるが…………






……………何より、この状況が新鮮で、ほんの少しだけ心地よかった。







こんなに賑やかで明るい空気が、俺を中心に広がっている。






それは、昔の俺であれば絶対に起こり得なかった物で。





…………俺の心に空いていた『空洞』を、少しだけ満たした気がした。







直人(…………。)






直人(……………本当に、ここ最近の俺は、『らしくない』な。)






質問攻めがひと段落した所で目の前の明るい光景を見つめながら、ふとここ数日の自分を振り返る。




やけに感傷的になり、自分自身を素直に振り返り、出会ったばかりの奴の情に絆されハイリスクノーリターンな事を実行し、他人と関わる事を『心地良い』と感じた。




俺の中身の大部分は、今も変わっていないのだろう。(動機は違えど、俺はこの世界でも『地位』という『力』を自分から求め、そして得た。)





……だが逆に、変わった部分も確かにあるのが事実だった。






直人(俺はここまで献身的でも、感情的でもなかった筈なんだがな………。)






『今の自分』がまるで、赤の他人の様に感じる。



それに対し違和感、嫌悪感を抱く自分が居る。




…………だが。






直人(この世界でも、『滝沢直人』で居続ける必要は、無いのかもしれない。)





直人(力に固執し、己の事しか省みない『滝沢直人』には。)






………『今の自分』を肯定する自分も、何処かに、確かに居た。





この世界に、俺を知る人物は居ない。



…………ならば、側から見て、今の俺に『らしくない』事なんて何も無いのではないか?



この世界にとって、『滝沢直人』はつい数日前に生まれ落ちた存在で、『この世界での過去』など持ち合わせていないのだから。





そう主張する自分が、存在する。




…………一体どちらが正しいのか、今の俺には分からない。





恐らくその『答え』は、これからコイツらと関わって行く中で見つける物なのだろう。




見つかるかどうかは判らない。



………だが。





直人(……そんな事、関係無い。)






直人(俺は、これからコイツらと共に歩んで行くと決めた。)





直人(だったら、俺のすべき事も、出来る事も、コイツらと前へ進む事だけだ。)






直人(………ここまで来たんだ。責任持って、コイツらと突っ走ってやる。)







そして、俺は改めて提督の任を全うする事を自身に固く誓った。








蒼龍「ーーーーとく?………提督?」








俺の意識が、いつの間にか目の前に立っていた蒼龍の一言により引き戻される。







直人「……ん。すまない、考え事をしていた。」






直人「俺に何か用だったか?」






俺は一言詫びを入れ、用件を聞いた。






蒼龍「いえ、ただ改めて挨拶を、と思いまして………。」





直人「………わざわざ悪いな。」





蒼龍「上官に対して敬意を払うのは当然ですから。」






俺が抱いた罪悪感を知ってか知らずか、蒼龍が明るく微笑む。






蒼龍「改めまして、蒼龍型正規空母1番艦『蒼龍』です。今後とも宜しくお願いします、滝沢提督‼︎」





直人「ああ、こちらこそ宜しく頼む。」






そして、俺達は挨拶を交わし、しばしの間談笑する。






直人(…………そういえば。)






………暫くして俺はある事に気が付き、実行に移すべく蒼龍に聞いた。






直人「なあ蒼龍、食事を入れて持ち運べる容器が何処にあるか知っているか?」





蒼龍「………?間宮さんか鳳翔さんに頼めば、タッパやお重が頂けると思いますが………それが?」





直人「いや、今鎮守府近海の哨戒を行なっている奴に、料理の差し入れをしようと思ってな。」






直人「………俺は誰かを故意に仲間外れにするのは、好きじゃないからな。」






…………正確には、差し入れる相手は『もう1人』居るのだが。






蒼龍「私が持って行きましょうか?」





蒼龍がそう申し出る。






直人「………気持ちだけ受け取っておこう。」





直人「お前は、引き続きこの場を楽しめ。明日からはビシバシしごいて行くからな、今のうちに心身共に休めておけ。」






直人「………それに、哨戒させているのは俺だ。ならば、俺が持って行くのが筋って物だろう。」






直人(…………『アイツ』とも話したい事があるしな。)






直人「だから、大丈夫だ。」





少しして、蒼龍が少し申し訳無さそうに引き下がった。





蒼龍「………それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。」





直人「ああ、お前にはまた別の機会に頼らせて貰おう。」





蒼龍「……‼︎」





蒼龍「………その時はご期待に添える様、一生懸命頑張ります‼︎」





そう言った蒼龍の表情が、明るい物に戻る。




そして蒼龍は、宴席へと元気に戻って行った。






直人(…………さて。)






それを見届けた後、俺は蒼龍の指示通りに間宮に用件を伝え、色とりどりの料理が詰まったお重を『2組』受け取り………






…………誰にも気付かれない様に、ひっそりと食堂を後にした。






-----




俺は1人、夜の鎮守府を歩く。



幸い、歩道には一定の間隔で街灯が設置されていたので、歩道を歩く間は何かにつまづく様な事は無かった。







直人(確か………こっちか?)






暫く歩いて俺は脇道に逸れ、事前に暗記しておいた横須賀鎮守府内の見取り図を脳裏に浮かべながら、暗い脇道を予め用意してきた懐中電灯と微かな月光を頼りに、慎重に進んで行く。





………「ひとまず先に『働いている』方から差し入れよう」と決めた俺が今向かっているのは、鎮守府沿いの砂浜。(というのも、蒼龍から哨戒の実行、交代場所がそこであると聞いたからだ。)





さらに暫く進み、やがて俺の視界が開ける。




直後、俺の目に映ったのは、月明かりを映すただ一点を除いて全て漆黒に染まった海と、微かに視認できる砂浜。



そして………………『弓を携え』ながら海の方を見つめ、佇む人影。






……………よもや、夜中に弓を携えて海岸に佇む様な部外者は居ないだろう。



また、空母艦娘が艦載機を発艦させる方法の一つに、弓を用いた方法があると言う。






直人(…………という事は、今の哨戒当番はアイツか。)





そう判断し、俺は人影に近づいて行く。



近づく度に、人影が輪郭を帯びてゆく。




長髪。袴。すらっとした体格。





直人(…………ん?)





そこまで認識出来た時点で、俺は人影に『既視感』を覚えた。



一体何処で見たのか………?自分の記憶の中を探す。



しばらくの間黙考し…………





直人(………まさか、アイツか?)






………やがて、『ある人物』の姿が思い浮かんだ。



懐中電灯を人影に向ける。



光に反応した人影が、『白髪をなびかせて』こちらに振り向く。





そこに佇んでいたのは、俺の予想通りの相手で…………




今は医務室で休んでいる筈の、もう1人の『差し入れの相手』……………







直人「…………無断で任務に参加するのは、感心しないな?」






翔鶴「………………提督…………。」






……………翔鶴だった。






直人「……その様子を見ると、『身体の傷』は癒えた様だな。」





翔鶴「……………ええ、おかげさまで。」





俺の含みのある言い方に、翔鶴は敢えて反応しなかった様に見えた。


そのまま会話を続ける。





直人「………どうしてここに居る?」





翔鶴「………偶然、空母勢が交代で哨戒任務に就いている事を耳にしまして。」





翔鶴「私だけ休んでいるのはどうにも気が引けたので、私の前に哨戒を行なっていた『加賀』さんに頼み込んで、話を通して頂いた次第です。」





翔鶴がそう口にする。





直人「…………成る程な、理由は分かった。」





直人「だが、今後は俺に一言断ってから任務に就け、キチンと把握しておきたい。」





翔鶴「ハイ、大変申し訳ありませんでした………。」





翔鶴が、深々と頭を下げる。





直人「……………判れば良い。」





俺は翔鶴に顔を上げさせる。





直人「………提督の寛大な御心に、感謝します。」





そして上がった彼女の顔にあったのは、『何処かぎこちない』微笑みだった。





直人(………やはり、か。)






………最初から俺は、翔鶴の言動、表情に何処かぎこちなさを感じていた。



そして、ここまでの翔鶴の動向に関して、俺には思い当たる節が一つあった。






直人「なあ、翔鶴………。」







直人「…………俺の事が、信用できないか?」







翔鶴「‼︎そんな訳無「あるんじゃないのか?」





翔鶴「……………。」






翔鶴がしばらく黙りこくる。




そして、長い沈黙の後に返ってきたのは…………






翔鶴「……そうかも、しれません。」





翔鶴「………………………いえ、そうですね。」





翔鶴「私は、提督ーー貴方を、心の何処かで、拒絶しています。」





…………翔鶴が意を決して放った『肯定』だった。





それに対し、俺はたった一言。







直人「…………………そうか。」






翔鶴「…………お咎めに、ならないのですか?」






翔鶴が俺に恐る恐る問いかける。







直人「…………ああ。今お前が抱いている感情は、至極当然の物だとも思うしな。」







………翔鶴は、前提督に大事な者を奪われた。




だったら、コイツが『提督』という存在ーーーあるいは『人間』そのものに、トラウマを抱いていてもおかしくないだろう。



そしてそれは、簡単に払拭できるものではない。




……………人間の恐怖心とは、そういう物だ。



一度抱いてしまうと、中々克服できない。(因みにこの考えは、俺が体験した『恐怖の出来事』に基づいている。)







直人「……そもそも『見知って一日目の人間を信用しろ』というのが、土台無理な話だしな。」






直人(………おそらく食堂に居る連中も、まだ完全には俺に信頼を寄せていないだろう。)






直人「………だから、無理して今すぐ信用する必要は無い。」






そこまで言うと俺は一呼吸入れ、声のトーンを少し下げる。






直人「……………だが俺の指揮下にある以上、自分の仕事は全うして貰うぞ。いいな?」






翔鶴「………………ハイ………。」






翔鶴が重苦しく頷く。



………直後に、俺は自分の言葉不足を自覚した。



コイツは………その『仕事』で、妹を亡くしているのだ。






直人「………といっても、俺は無理難題な仕事を与えるつもりは無いから安心しろ。」








翔鶴を安心させる意味合いでフォローを付け加えた後、俺は当初の目的を思い出し、話題を変えた。







直人「………ああ、そうだ。」





翔鶴「………?」





直人「お前に、夜食を届けに来た。」





俺は片手で、2組のお重が包まれた風呂敷を軽く掲げる。






翔鶴「‼︎ まさか私の為にわざわざ………?」





翔鶴が驚愕する。





直人「………本来、『ここで哨戒任務に就いている奴』と『医務室に居るお前』に届けるつもりで2組用意したんだが、1組不要になったな。」






直人「………まあいい。少し待て。」






そう言って、俺はその場にしゃがみ込んで懐中電灯を脇に挟んだ後、風呂敷を砂浜に置いて結び目を解き、お重を1組翔鶴に手渡した。





直人「ほらよ。」





翔鶴「………有難う、ございます………。」





翔鶴が戸惑いながらも、礼を述べてお重を受け取る。





直人「礼ならその料理を作った奴らに言え。」





直人「………今すぐとは言わないが、冷めないうちに食っておけ。それと、空になった重箱は間宮に返せ。それじゃあな。」






翔鶴「ぁっ…………」






翔鶴が何か言おうとした様に見えたが、気にせず俺は残ったお重を風呂敷に包み直し、その場から立ち去り始めた。






直人(………今俺がここに居ても、翔鶴には悪影響しかない。)






直人(………暫くそっとしておくとしよう。)






そして再び、鎮守府へと続く脇道に入るーーーその直前だった。








翔鶴「…………待って下さい滝沢提督‼︎‼︎」







…………背後から、翔鶴の呼び声が聞こえた。





直人「…………何だ⁉︎」






翔鶴の方へと振り向き、大声で聞き返す。


翔鶴がお重を持ったまま、息を切らしながらこちらへ走って来る。



そして、俺の元に辿り着いた瞬間………





翔鶴「…………大変、申し訳ありませんでした‼︎」





頭を深く下げ、謝罪してきた。





直人「…………どうした?」





いきなりの謝罪にやや面食らった俺は、翔鶴に聞き返す。


息を整えた翔鶴が、ぽつりぽつりと話し出した。





翔鶴「私は、提督に、許されない無礼を働きました。」





翔鶴「医務室へ見舞いに来てくれた皆から、『提督は危険を冒して見ず知らずの私達を救って下さった』と聞いていたのに………」





翔鶴「……………『きっと私達を油断させる罠に決まっている』と勝手に思い込み、疑いました。」





翔鶴「貴方に非は無いのに、前提督の姿と、重ねてしまいました。」





翔鶴「自分勝手な見解で、貴方の厚意を、踏みにじりました。」





翔鶴「………本当に、申し訳ありませんでした。」





翔鶴「…………………処分は、どんな物でも御受けします。」





翔鶴が、頭を下げたままでそう口にする。





直人(……………本当は、コイツが謝る必要は無いんだがな…………)





内心そう思うが、おそらくその旨を伝えても翔鶴は食い下がるだろう。



……………コイツは、真面目なのだ。



真面目な奴に『免罪符』を渡しても、意味が無い。




………だがそれは、あくまで『免罪符』を『免罪符』としてそのまま渡した場合だ。






直人「………………。」





直人「……………………翔鶴。」






俺は暫く考え、やがて翔鶴に『処分』を伝えた。





直人「………処分を言い渡す。」





翔鶴「…………ハイ。」





直人「………これより、鎮守府近海哨戒任務を一時中断し、俺と共に、食事による栄養分補給に入れ。」







翔鶴「………………………え?」






翔鶴が顔を上げ、信じられない物を見る様な目で俺を見る。






直人「…………実は、俺は艦娘達の怒涛の質問攻めで、ろくにメシを食えてなくてな。今腹が減っているんだ。」






直人「丁度料理が1組余った事だ。わざわざ間宮に詰めて貰ったしな、これは俺が食べるとしよう。」






直人「それに、ーーーこれは俺はあまり理解出来ないんだがーーー美味い飯は1人で食うよりも、複数人で食べた方がより美味いらしい。」






直人「という訳で、俺の飯に付き合え。因みにこれはあくまでお前への『処分』だ、拒否権は無いからな?」






翔鶴「……………しかし…………」






翔鶴が尻込みする。



………翔鶴の顔には、『こんな事で良いのだろうか?』と考えている様な困惑と葛藤が浮かんでいた。



そんな翔鶴に、俺は『俺なりの言葉』で語りかけ始めた。





直人「………翔鶴、お前の謝意は十分伝わった。罰せられたい気持ちも分かった。」





直人「だがな、『罰』という概念は反面、『赦し』でもある。」





直人「『赦される』というのは、『罪の意識から逃れる』といった、ある種の『甘え』とも言える。」





直人「……お前が居ない時に全艦娘の前で言ったが、俺は『甘え』という物が嫌いでな。」





直人「故に俺は、お前達を『甘やかす』事は無い。」





直人「……………故に俺は、お前に『赦し』は与えない。」





翔鶴「…………‼︎‼︎」ビクッ





直人「罪の意識を、これからも抱き続けろ。」





直人「そして………それを糧にして、強くなれ。二度と罪を犯さない様に。」





直人「………今度は、大事な者を守れる様に。」






翔鶴「…………‼︎‼︎」





直人「…………いいな?」





翔鶴「……………ハイッ‼︎」





翔鶴が、威勢の良い声で返事をする。


もう、ぎこちなさは何処にも無かった。






翔鶴「………それで提督………あの…………その……。」






暫くすると、翔鶴が何か言いたげに俺を見た。






直人「………何か言いたい事があるなら言ってみろ。今なら何を言っても良いぞ?」






翔鶴「それでは、僭越ながら……………」






翔鶴「……………提督、少し回りくどく無いですか?」





直人「…………思ったよりも辛辣だな。」





翔鶴からの、容赦ない本音。



だがそれは、俺も考えていた事で………






直人「…………ハッ、まあ確かにそうだな。」






直人「……だがこのくらい回りくどい方が、不器用な俺らしいさ。」





俺はそう言って、鼻で笑い飛ばした。






翔鶴「…………ふふっ、そうですか。」






それにつられて翔鶴も、初めての笑顔を見せた。





………それは、この闇夜の中でも、俺の眼にしっかりと輝いて見えた。






----それから、俺達は並んで砂浜に座り込み、食事を取りながら様々な事を語り合った。





俺の趣味は文鳥飼育だった事。

(飼っていた2匹の文鳥に、俺が『トラ』『サクラ』とそれぞれ名付けた事を話すと、何故か翔鶴から『とっても可愛らしいですね』と生暖かい視線を向けられた。)





翔鶴は同じ空母である、一航戦『赤城』『加賀』の両名を特に尊敬している事。

(昇格曰く、2人とも鎮守府きってのエースであり、大食いらしい。肝に銘じておくとしよう。)




俺が提督になった経緯。

(話を聞き終えた翔鶴から何度も重ねて礼を述べられたが、『俺がやりたくてやった事』と断言して、これを丁重に断った。)





瑞鶴の人柄、思い出………………そして前提督の捨て駒として、翔鶴の目の前で沈む事になってしまったという凄惨な最期。

(翔鶴が何処か遠くを見る様な目で、漆黒の大海を見つめながら語る姿が、ひどく脳裏に焼き付いた。)





俺にとって、鬱陶しかった存在ーーーそれでいて、唯一無二の代え難い存在でもあった『ライバル』の事。

(半ば愚痴になってしまったが、それでも翔鶴は黙って耳を傾け続けてくれた。)





そんな時間の中で取った食事は、元の料理が美味しい事を抜きにしても、普段1人で食べる時よりもどこか美味く感じられた。



そして俺達の語り合いは、俺が帰ってこない事を心配した蒼龍が海岸に様子を見に来るまで続いた。(ふと腕時計を見ると、俺が食堂を抜け出してから3時間以上経過していた。)





翔鶴「…………提督、本日は有難うございました。」





別れ際に、翔鶴が口を開く。




直人「………別に、礼を言われる事は何もしていない。」




直人「俺はただ、己の責務を果たしただけだ。」




翔鶴「フフッ、そうですか。」




翔鶴「でしたら提督、責務お疲れ様でした。」




直人「………労いの言葉として、受け取っておこうか。」




翔鶴「ええ、是非そうして下さい。」





直人「………翔鶴、蒼龍がそろそろ哨戒の担当交代に来ると言っていた事だし、任務が終わったらお前も今晩は早めに休んでおけ。」




直人「明日からは、全員ビシバシしごいて行く。勿論、お前も例外じゃ無いからな。」




直人「なんせ俺は「『甘え』が嫌い、なんですよね?」




直人「………フッ、そういう事だ。」





そんなやり取りを互いに笑顔で交わす。


………どうやら、この時間は俺と翔鶴にとって、互いに有益な物となった様だ。





直人「………じゃあな。」




翔鶴「ええ……………提督、おやすみなさい。」




直人「………ああ、おやすみ。」





最後に別れの挨拶を交わして、俺は翔鶴に背を向けて海岸を後にした。




…………上に広がる曇り無き夜空には、綺麗な満月と無数の星が煌めいていた。






ーーー翌日。



俺は宣言通り、本格的に執務を開始した。(提督には、執務補佐の艦娘ーーー『秘書艦』が1人付く事になっていたので有志から募集し、最終的に俺と面識のある不知火を採用した。)




ーーー



コンコン




直人「入れ。」




ガチャ、バタン




翔鶴「提督、艦隊が帰投しました。」




直人「御苦労。戦果と被害状況の報告を。」




翔鶴「ハイ。第二艦隊はカスガダマ沖にて、深海棲艦の本拠地襲撃に成功。旗艦翔鶴[中破]、軽空母瑞鳳[中破]、軽巡神通[大破]の損害を受けました。空母加賀、駆逐艦雪風、夕立……以下3名はそれぞれ微傷です。」





直人「分かった。………不知火、今入渠ドッグはいくつ空いている?」




不知火「確か、第一艦隊で出撃し負傷した4名の内、時雨、陽炎の入渠がつい数分前に完了した筈です。現在空きの入渠ドッグは二つかと。」




直人「………残り2人の入渠がいつ終わるか、分かるか?」




不知火「両名、完了に一時間程掛かります。」




直人「よし、空いている二つのドッグで神通、翔鶴両名は、高速修復剤を使用して入渠しろ。」




直人「そして直後に瑞鳳、加賀を入渠。一時間後、第一艦隊が使っているドッグが空いたら即座に雪風、夕立の入渠を開始しろ。」




翔鶴「了解しました。それでは………」




直人「ああ翔鶴、少し待ってろ。」



翔鶴「?」



直人「確かこの辺りに………ああ、コレだな。」ゴソゴソ




直人「翔鶴、重ねて言うが御苦労だった。」




直人「今日はこの後お前達に出撃予定は無い、コレでも使ってゆっくり身体を休めておけ。それと他の奴等にも、これを渡すついでにそう伝えておいてくれ。」つ間宮券×6




翔鶴「……‼︎‼︎宜しいのですか?」




直人「…………俺は成果に見合う報酬はあって然るべきだと思うしな、受け取れ。」




翔鶴「……有難うございます。」ニコッ




翔鶴「それでは、失礼します。」




直人「ああ。」




ガチャ、バタン



-----



コンコン




直人「入れ。」




ガチャ、バタン




磯風「司令‼︎第三艦隊、帰投したぞ‼︎」




直人「ああ、遠征の結果報告を頼む。」




磯風「第三艦隊、『北方鼠輸送作戦』成功したぞ‼︎」




直人「そうか。じゃあ1時間の小休憩を挟んだ後、燃料、弾薬を補給しもう一度同遠征に行ってくれ。それで今日の分の遠征は完了だ。」




磯風「了解した。失礼する‼︎」




直人「ああ、頼むぞ。」




ガチャ、バタン




-----




直人「不知火、今日の演習相手がここに到着するのは何時だ?」




不知火「本日午後3時です。」




直人「今は………午後2時か。よし、演習艦隊にそろそろ事前練習を切り上げる様に通達。」




直人「『先方に失礼がない様に、各自本番に向けてコンディションと身嗜みを整えておく様に。』とも伝えておけ。」




不知火「ハイ、了解しました。」




-----



コンコン




直人「入れ。」




ガチャ、バタン




夕張「失礼します、提督。本日の開発でご相談が………。」




直人「そうか、分かった。」




直人「………と言いたいところだが、俺はまだ装備に関する知識が不足していてな。お前の相談には乗れそうに無い。」




直人「という訳でここは、実際に装備を使っている『現場』の意見を聞くとしよう。」




直人「不知火、何か意見はあるか?」




不知火「そうですね…………。」




不知火「……それでは僭越ながら、具申させて頂きます。」




直人「ああ、言ってみろ。」




不知火「ここ最近、海域で遭遇する深海棲艦の強さが増しています。」




不知火「それに伴って、深海棲艦の攻撃の命中精度、威力も増加の傾向にあります。」




不知火「そんな攻撃を道中被弾し、大破した者も少なくありません。」




不知火「………その際大破進軍も一つの手段ですが、司令は絶対に進軍させずに艦隊を帰投させます。」




直人「ああ、そうだ。上司として部下の命を守るのは当然の責務だしな。」




不知火「滝沢提督のそのお心遣いは有り難いですが、その判断が海域突破を妨げているのも事実です。」




不知火「…………そして、その事実に胸を痛めている艦娘が多々居ます。」




不知火「『自分が足を引っ張っている』『もっと自分が強ければ………』といった様にです。」




直人「……………。」




不知火「以上の理由で、不知火は道中の大破確率を減らす為に必要な耐久力を得られる『増設バルジ』の開発を提案します。」




直人「………成る程、な。」




直人「この意見を聞いて、夕張はどう思う?」




夕張「私は賛成です。とても理にかなっているかと思います。」




直人「………決まりだな。」




直人「夕張、今日は『増設バルジ』の開発を頼む。資材配分はお前に任せる。開発が終了したら、結果報告書を提出してくれ。」




夕張「お任せ下さい。失礼します。」




ガチャ、バタン





直人「…………不知火。」




不知火「なんでしょう?」




直人「………物怖じせずに自分の意思を伝える事が出来るお前を秘書艦にして、正解だったよ。」




不知火「…………そう、ですか。」




直人「ああ。」




不知火「………お茶、淹れますね。」




直人「………頂こうか。」



-----



普段から落ち着き冷静さを持ち続けている不知火と行う執務は、騒がしいのをあまり好まない俺にとって、とてもやり易い物だった。



そして俺と不知火は、夜中になるまで淡々と、着実に執務をこなしていった。




不知火「司令、お疲れ様でした。本日の執務はこれで終了です。」




直人「ああ、不知火もご苦労だったな。」




互いに労いの言葉を掛ける。




直人「不知火、また明日も秘書艦を頼めるか?」




不知火「……不知火で宜しければ、謹んでお受けします。」




直人「ああ、そうしてくれ。」





……これで、明日の執務も何とかなりそうだ。




不知火「それでは、失礼します。」





そう言って、不知火は執務室のドアに近づき…………




不知火「…………司令。」





…………出て行く直前、俺の方へ振り向いた。





直人「何だ?」




不知火「………本日は、有り難うございました。」





直人「?礼を言うのはこちらの方だが……?」





思わず不知火に問い返す。


不知火は、しばらく間を置いてから答えた。





不知火「……滝沢司令は、不知火に『今日』という時間をくださいました。」




不知火「…………『生きている』実感が湧く様な時間を。」




不知火「………………『明日』を心待ちにする事が出来るような、そんな素敵な時間を。」





不知火「どれも、不知火が長らく忘れていた、大切な物です。」





不知火「本当に………有り難うございました。」





不知火が頭を深く下げる。





直人「………そういうのはよせ。何だかむず痒い。」





不知火「フフッ、そうですか。」





上がった不知火の顔には、微かな笑みが浮かんでいた。





不知火「それでは、今度こそ失礼します。」




直人「……ああ。」





そして、不知火は退出して行った。





不知火「…………願わくば、こんな日々がずっと続きます様に。」ボソッ




…………そう言い残して。




バタン




直人「……………。」




直人「…………『こんな日々』、か………。」




直人「……………続くに越した事は無いんだがな。」




直人「だがな、不知火………」




直人「…………永遠の安寧なんて物は、どんな世にも存在しないんだ……………悲しい事だがな……。」





……………そんな俺の呟きを聞く者は、誰一人居なかった。




そして、俺の言葉は『現実』となり…………





暫く時が流れ、提督業も板についてきた、そんなある日。





……………俺達の『安寧』は、1人の『悪魔』によってぶち壊された。








----3ヶ月後。



俺は、普段と何ら変わりの無い執務を今日もこなしていた。



強いて違う点を挙げるとするなら、今日は非番で外出中の不知火に代わり、翔鶴が秘書艦を務めてくれていた。





直人「翔鶴、臨時の秘書艦を引き受けて貰って悪いな。」




翔鶴「いえ、提督のお役に立てるのなら本望です。」




直人「………そうか。」




翔鶴「そういえば、不知火さんは今どちらに?」




直人「ああ、本人に聞いたんだが、何でも陽炎型全員集めて日帰り旅行に出かけたらしい。」




直人「………陽炎型全員から一斉に休暇届を提出されて、ストライキでも起こしたかと内心焦ったのは記憶に新しいな。」




翔鶴「フフッ、それはそれは………。」




直人「アレは、もう止めて欲しいな。………心臓に悪かった。」




直人「……っと。危うく脱線しかけたな、そろそろ仕事に戻るとするか。」




翔鶴「ええ、そうしましょう。」




直人「翔鶴、第二艦隊の帰投予想時刻は?」




翔鶴「つい数十分程前、海域最深部を突破し帰投すると報告があったので、あと十分程でしょうか?」




直人「そうか、今回はやや変則的な編成だったからな、無事で何よりだ。」




翔鶴「夕張さんが、目を輝かせて『新型兵装のテストをやらせて下さい‼︎‼︎』と今朝提督に直談判したが故の、急な編成変更でしたからね………。」




翔鶴「………よく許可なさいましたね?」




直人「ああ、アイツは艦娘であり、技術者だ。開発が主な仕事だとしても最低限の出撃はさせるべきだし、自分の発明品くらい自分で試してみたいんだろう。」




直人「それに、アイツは休暇を殆ど取らずに鎮守府運営に貢献してくれている。これ位の要望は叶えられても良いと思ってな。」




直人「ただ、働き過ぎで仕事の効率が落ちても駄目だしな。艦隊が帰投したら、夕張に休暇を与えようかと考えている。」




翔鶴「……夕張さんは仕事を生き甲斐にしている節があるので、恐らく『仕事が楽しいので‼︎』とか言われて、やんわりと断られると思いますよ?」




直人「その時は、命令として否応無く休ませるさ。」




翔鶴「………フフッ。」




直人「………何故笑う。」




翔鶴「いえ、提督はやはりお優しいと思っただけです。」




直人「…………一体、どんな目を持てば俺が優しく見えるんだ?」




翔鶴「普通の、常識人の目ですが?」




直人「……ほう、ならこれからはもっと休みを削減して、スパルタで行くか?」




翔鶴「出来ればそれはご遠慮したい所です。」




直人「…………冗談だから、そんなに身構えるな。」





ーーーそんな、何気ない会話を互いに書類と向き合いながら交わす。



執務室が、静か且つ穏やかな空気に包まれる。



そんな所に…………



バァァン‼︎




大淀「提督‼︎大変です‼︎」




普段冷静な任務娘『大淀』が、血相を変えて執務室に飛び込んできた。



『これは只事では無い。』ーー俺の中の何かがそう告げていた。



だが、ここで俺が取り乱す訳にはいかない。


俺は落ち着いて大淀に事情を聞いた。





直人「一体どうした?」





大淀「第二艦隊が………第二艦隊が……………‼︎」




だが次に続いた大淀の一言は、俺の目を大きく見開かせるには十分過ぎる程の衝撃を秘めていた。





大淀「………つい先程、全員瀕死の状態で、帰投しました………」





直人・翔鶴「…………‼︎‼︎」





俺と翔鶴が絶句する。



…………だが、それも束の間。


俺は即座に立ち直り、指示を飛ばした。





直人「大淀、第二艦隊の負傷具合は?」




大淀「夕張さん、青葉さんがかなりの重傷を負っていて、医師による手術が必要かと‼︎」




直人「よし、大淀‼︎憲兵団の中に医療専門部隊があった筈だ、今すぐ集中治療室でオペを開始する様連絡、誘導しろ‼︎」




大淀「了解しました‼︎」





大淀が執務室から飛び出して行く。





直人「翔鶴‼︎今すぐ入渠ドッグに高速修復剤を使ってドッグを全て空ける様通達しろ‼︎」




翔鶴「そう仰ると思ったので、すでに指示は内線電話で飛ばしています‼︎」




直人「…………そうか、分かった。」





取り敢えず、現時点で俺が出来る事はやった。


……………今のうちに、俺は翔鶴に確認を取る。





直人「………なあ翔鶴。第二艦隊が海域最深部を突破した際、大破の報はあったか?」





翔鶴「いえ、通信機越しに夕張さんの報告を聞きましたが、今回大破した者は誰一人いなかったそうです。」





直人「…………ならどうして、全員瀕死の重傷を負っているんだ?」





翔鶴の話を聞く限り、第二艦隊は帰投中に襲撃されたのだろう。



だが艦隊は、特段の指示が無い限り、そこまで突破して来た道をそのまま引き返して帰投する事になっている。



そして今回、俺は帰投方法に関しては何も指示を出していない。




すると第二艦隊は、一度突破したルート上で、艦隊を全滅させる程の強敵と遭遇した事になる。



そんな事が…………普通あるだろうか?




それに俺は普段の仕事の取り組みから、夕張が真面目な奴だと知っている。



…………そんな夕張が旗艦を務めていたのだ、恐らく帰投中の索敵も怠らなかっただろう。



索敵をしているならば、敵艦隊を発見した時点で『迂回』なり『迎撃体制』なり、何かしらの対応を事前に取る事ができる。



そんな状況下で、全員が瀕死の重傷を負う程の被害を受けるだろうか?



そして、何より……………





直人(どうして全員、瀕死『で済んでいるんだ』?)





…………(不謹慎だが)全員1人も欠ける事無く鎮守府に辿り着けた事が、一番腑に落ちない。



『深海棲艦が敵である艦娘と遭遇し、完膚無きまでに叩きのめした。』ーーーそこ迄は納得出来る。



だが果たして、深海棲艦が目の前の瀕死の敵に止めを刺さずに、全員を生かして帰すだろうか?





直人(………無いだろうな。奴等にとってのデメリットは有れど、メリットが無い。)





直人(余程の嗜虐心でも無い限り、そんな行動は取らない筈………。)





直人(………一体、どういう事だ?)





考えれば考える程、より一層意味が分からなくなる。




何故?どうして?ーーーそんな疑問が次々と浮かぶ。



それでも思考放棄せずに、必死に頭を働かせていると………





大淀「…………提督、第二艦隊全員の治療が、開始されました。」





大淀が、再び執務室に入ってきた。


………どうやら、かなりの時間を費やしていたらしい。




直人「………各員の容体は?」




俺は大淀に静かに問いかける。




大淀「………ドッグに入った4名は、何とか回復しそうですが…………」




大淀「医師の方々によると、夕張さん、青葉さんが助かる確率は、五分五分だそうです…………。」




大淀「どうやら、夕張さんと青葉さんが傷だらけの身体を酷使して残り4人を鎮守府まで曳航した所為で、傷口がさらに広がっていた様です………。」





大淀が、悲痛な面持ちでそう報告する。





直人「…………そう、か。」





直人(夕張、青葉…………お前達はなんて馬鹿な事を…………。)





直人(命を賭して他人を助けたお前達自身が助からないんじゃ、本末転倒だろう…………?)




直人(…………腹立たしい。)




直人(………俺の部下をこんな目に遭わせた奴よりも、)




直人(…………こんな時、何も出来ない無力な自分が、何よりも腹立たしい……………‼︎‼︎)





そんな自責の念に苛まれる。



こんな時、俺に力が有れば………………



普段なら絶対にしない『無い物ねだり』をしてしまう。




………そんな中、大淀が口を開いた。





大淀「……………提督、集中治療室に入る直前、青葉さんが朦朧とした意識の中、『司令官に渡す様に』と私にコレを………………」





そう言って、大淀が掌に乗った『何か』を差し出す。


それは-----





直人「……………‼︎‼︎‼︎」





-----血塗れの、SDカードだった。



…………それは、今現在生死の境目を彷徨っている青葉からの、文字通り『命懸け』のメッセージで。



……………………それを見た瞬間、俺の目が、覚めた。





直人(…………俺は、自分の部下が、命を懸けたって言うのに何をウジウジしていた?)




直人(『力が無いから』、何も出来ない?……ふざけるな。)




直人(『力が無くても』、やるんだよ…………‼︎‼︎)




直人(………たった今気付かされた、俺に出来る事を…………)




直人(…………『部下の意志を引き継ぐ』という、俺にしか出来ない事を…………‼︎‼︎)





そこまで考えた直後、俺は座ったまま右拳を力の限り握り締め…………




ゴフッ‼︎‼︎




自分の右頬を、思い切り殴った。


反動で身体がよろめき、椅子から転げ落ちる。




大淀「⁉︎⁉︎」




翔鶴「提督⁉︎⁉︎」





殴った衝撃で傷付いた口内から、幾多の場面で何度も味わった血の味がする。


それを一瞬、だが確かに味わい、俺は確固たる意志で、立ち上がる。





直人「驚かせて悪かったな、ただの気付けだ。」





直人「………大淀、アイツらが目を覚ましたら、こう伝えて置いてくれ。」




一呼吸置く。そして、俺の『意志』を告げる。




直人「………………『お前達の意志は俺が引き継いだ。後は任せろ。』ってな。」





……………そう言いながら、俺は大淀の掌からSDカードを取った。






------





暫くして、俺は1人執務机でパソコンを立ち上げ、淡く光る画面と向き合っていた。



………翔鶴と大淀には、『最初は俺1人で確認したい』という我儘を聞いて貰い、執務室から出て行ってもらった。



パソコン横のスロットにSDカードを挿入する。


幸い端子部分の損傷はなかった様で、血塗れのSDカードは正常に認識された。


それを確認した後、マウスで操作してSDカード内のファイルを開く。


中には、幾つかの動画ファイル。


記録されている時間から、全て帰投途中に撮影された物だと分かる。





ーーー恐らく、此処に真実がある。





俺は意を決して、一番古いファイルをクリックした。




…………やがて、画面に映像が映し出され始めた。





青葉『……よし、夕張さん‼︎こっちは記録準備オッケーですよ〜‼︎』



夕張『了解。皆、周囲の状況は⁉︎』



艦娘『今の所大丈夫です‼︎異変があったら逐一報告します‼︎‼︎』



夕張『オッケー、それじゃあ実戦で試し切れなかった新型艤装のテスト、ちゃっちゃと終わらせちゃいますか‼︎』



青葉『………そういえば、どうして此処でテストを?鎮守府近くの海域で行った方が安全ではないですか?』



夕張『ああ……今から試したい装備って、構造上騒音が出ちゃうのよね。まだ実際に使用していないから規模は何とも言えないけど………。』



夕張『もしかなり大きな騒音が出たら、鎮守府の皆を驚かせちゃうし、最悪敵襲と誤認される事もあり得るから………。』



夕張『………その点、此処なら誰にも迷惑が掛からないでしょう?それに、この海域の深海棲艦は私達が行きに倒したし、今現在は比較的安全でしょうね。』





青葉『成る程、そういう事でしたか。青葉了解です‼︎‼︎』ビシィ




夕張『……と言っても、こんな所に長居は不要ですし、早速始めましょう‼︎‼︎』




青葉『………あまり遅くなり過ぎると、司令官の長い長〜いお説教がありますもんね〜。全く、寛大じゃないんですから……。』アキレ




夕張『………それ、提督に言い付けても良いかしら?』ニコッ




青葉『そ、それは御勘弁を〜〜⁉︎』アタフタ




青葉以外の5人『アハハハハハ‼︎‼︎』




画面の奥で、そんな穏やかな時間が流れる。


俺の口から、微かな笑みが溢れる。





直人「……………フッ、青葉の奴。」




直人(…………………よし。青葉の傷が治ったら罰として、俺が直々に組んだ特別訓練メニューで泣く程しごいてやろう。)




直人(…………青葉、覚悟しておけよ?)




直人(そして何より…………)






直人「……………………死ぬなよ。」






今現在、必死に『死』に立ち向かっているであろう部下に対する密かな声援を呟き、気を取り直して映像に意識を集中させる。



………そこから先は、夕張が様々な装備をテストする光景が続いた。



俺はそれらを一瞬たりとも見逃さない様、しっかりと目に焼き付けて行く。



暫くし、再生が終了する。


即座に次のファイルを開き、再生する。




そんな、全く同じ作業を根気強く繰り返す。



…………意思を継いだ責任を、全うする為に。





ーーーそして、作業開始から30分程経過した時だった。






-----それは、唐突に訪れた。




夕張『……よし、この兵装もチェック完了っと。皆待たせてごめんなさい‼︎終わったから帰投するわよ‼︎‼︎』





青葉『了解しました‼︎‼︎それじゃあ、録画を切って………』







???『おっと、帰るのはもう少し後にして貰おうかな?』






……………一瞬前までは、確かに何も存在していなかった筈の海上の一部分に、突如何者かが出現した。






第二艦隊『⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』





直人「………‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」





???『やあ、ごきげんよう。』




夕張『全員、今すぐ負傷した娘を後ろに配置した警戒陣を取って‼︎‼︎‼︎』




第二艦隊『了解‼︎‼︎‼︎』シュバッ




夕張『……貴方は、誰⁉︎見たところ、深海棲艦じゃ無さそうね⁉︎』カチャ




???『おっと、そんな物騒な武器をこちらに向けないでくれ。私はただ伝言を頼みたいだけだ、君達に危害を加えるつもりは無い。』





夕張『私は提督からこの艦隊を任されていてね……いきなり現れた不審者の言う事を、簡単に信じる訳にはいかないのよ‼︎‼︎』





???『…………ふむ、それでは信用して貰える様に君の質問に答えるとしよう。』





???『………君の推察通り、私はシンカイセイカンでは無い。』





???『………そして、『私は何者なのか』という質問についてだが…………』





画面の向こうで、乱入者が丁寧な口調で話している。





直人(……………………………まさかと思ったが…………)






そんな中、俺は硬い表情で重い溜息を一つ吐いた。




………何故なら。




今目の前に映っているのは、俺が第二艦隊の惨状を参考に、つい思い描いてしまった『最悪のシナリオ』そのものだったのだから。




----名を聞く必要も無い。




直人(俺は、コイツの名を知っている。)





----信用するに足るかどうか、考える必要も無い。





直人(コイツを信じたが最後、行き着く先は『破滅』だ。)




直人(………そうだろ?)






???「私の名は『ギエン』と言う。以後お見知り置きを。」

直人「……………『ギエン』………………‼︎‼︎‼︎‼︎」






そう言い俺は、画面内の『悪魔』を力の限り睨み付けた。





----『ギエン』。


犯罪者集団『ロンダーズファミリー』を牛耳る幹部の1人である、(まさにマッドサイエンティストと呼ぶに相応しい)悪魔の機械。


俺が奴を『悪魔』と評する所以は、奴が世界を破壊した張本人『の1人』であった事にある。




俺の世界での西暦2000年。


浅見グループが、グループ傘下に入っている第3総合研究所にて、「公害を起こさないクリーンなエネルギー、人類の新エネルギー」として総力を挙げ研究していた物質があった。



ーーーその名も、『λ(ラムダ)2000』。



λ2000は、エネルギー源としては破格の性能を秘めており、まさに『万能』という言葉が相応しかった。

(なおλ2000は、西暦3000年ではさらに改良を加えられ、『ζ(ゼータ)3』として世界中の主要エネルギーとなっているらしい。)



…………たった一つの『欠点』を除いて。



λ2000には、使用時に僅かながら時空を蝕んでいく性質があったのだ。



それをギエンは悪用し、史上最悪の『災害』を引き起こした。




…………『大消滅』。(事件の名称はタイムレンジャーを通じて知った。)




ギエンが超高濃度のλ2000を使用した事によって発生した時空の歪みから、巨大なワームホールが地球上空に多数出現、その中に大地や建造物、人々が飲み込まれて消滅すると言う、恐るべき『人災』。



世界が人々の阿鼻叫喚、慟哭、断末魔に包まれ、地獄と化した、史上最悪の『歴史的事実』。




ーーーだがλ2000は、西暦2000年時点では浅見グループしか取り扱っていない、限り無く希少な物質。



そんな中、一体どうやって時空を大きく歪ませる程の大量のλ2000をギエンは用意出来たのか?



…………その答えは『未来から持って来た』という、至極単純な物だった。




大消滅を引き起こした原因のλ2000は、西暦3000年のロボットであるギエンの動力源として搭載されていたのだ。



ギエンはそれを利用して、大消滅を引き起こした。




又、大消滅の原因となったλ2000は『ある未来の産物にも』、同様に動力源として搭載されていたのだが…………。




直人(…………………。)





暫しの黙考。



その一方で、パソコン画面では緊迫した問答が続いていた。





夕張『……………………伝言って言ってたわね?』





ギエン『ああ、今の君達の上司………………確かテイトク、だったか?彼への伝言を頼みたいんだ。』




夕張『……………一応、聞きましょうか。』





夕張の強張った声が聞き取れる。





ギエン『それでは…………』






…………そして、ギエンはとんでもない事を告げた。







ギエン『「3日後に、私は横須賀鎮守府に対する[武力報復]を行う事にした。」』








第2艦隊『…………っ‼︎‼︎』





艦娘達の息を飲む音が聞こえる。


カメラに映っていなくとも、それだけで彼女達の動揺ぶりがよく分かった。





直人(………『報復』、か。)



夕張『………私達が貴方に何か恨まれる様な事をしたって言うの?』





夕張が至極真っ当な質問を発する。



それはそうだ。彼女達には報復を受ける心当たりが無いのだから。





……………『彼女達には』、だが。





ギエン『…ああ、言葉が足りなかったな。』



ギエン『私の報復相手は、厳密に言うと君達[艦娘]では無い。』





そう、恐らく奴の標的は……………





ギエン『君達のボスーーー[提督]だ。』



第2艦隊『⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』




………………俺だ。




そう、俺には報復の心当たりが一つある。





青葉『司令官ですって………⁉︎司令官が貴方に何をしたって言うんですかっ⁉︎』



ギエン『彼は、数ヶ月前に私の邪魔をしてね。その所為で、私の計画が大幅に狂ってしまった………全く、余計な事をしてくれた物だ。』




ギエンが、今後を憂う様な沈んだ声を発する。




青葉『計画……?邪魔……?一体、何の事なんですか………?』




青葉の困惑した声が聞こえる。


当然だ、この話は事情を知っている人間にしか分からないのだから。



ギエン『ふむ……邪魔に関しては、後で提督に聞いてみると良い。心当たりはある筈だ。』



ギエンがそう答える。


確かに、俺はギエンにとっての『邪魔』について心当たりがある。



直人(奴の言う『邪魔』というのは、俺が剣持元帥に張り付けていたゼニットを倒した事だろうな。)



というより、奴に恨みを買う理由はそれ以外に考えられない。



そしてそれをベースに、俺は脳内でシナリオを組み始める。



直人(元帥の話が確かだとすると、ギエンは資材を欲していた。)


直人(その為に、奴は剣持元帥をゼニットと『能代』という人質を使って脅し、元帥に要求を呑ませる事に成功した。)


直人(元帥から資材を搾り取る手筈が整い、後は資材を受け取るだけだったが、大本営の人間に気付かれ、ゼニットを監視役として残し、その日は出直す事にした。)


直人(だが奴が去った数日後、俺がゼニットを破壊し、元帥が能代を救出し、それらが全て台無しになってしまった。)


直人(そして、ギエンは元帥の元を再び訪れた時に、監視役のゼニットが居ない事でその事実を知り、時間をかけて犯人が俺だという事を突き止めた。)



そこで思考を区切る。



直人(………全て正しいとは言えないが、大体はこれで合っている筈だ。)




俺の中でそう仮定し、新たな疑問に思考を移す。




直人(………だとすれば、ギエンの『計画』とは一体何だ?)




そう、これは俺でも分からない。


ギエンは一体、元帥から奪った資材を用いて何をする気だったのだろう?



ゼニットの量産?以前と同じ様な巨大メカ、或いは兵器の開発?それとも…………?




直人「……チッ」


直人(………ダメだな、幾ら考えてもキリが無い。)



これ以上想像を膨らませても意味が無いと判断して、俺は舌打ちして思考を切り上げた。


これに関しては、計画立案者本人にしか判らないだろう。




……ただ、これだけは俺でも断言出来る。




直人(どんな計画にせよ、絶対にろくな物じゃ無い。………それも『世界規模』で、だ。)




そう考えるだけで不穏な気分になる。




………だが、俺の不安要素はもう一つあった。




ギエン『ああ、それと何の因果か、君達の提督の名前は私が以前散々手こずらされた忌々しい人間の物と全く同じでな。』



ギエン『単純な八つ当たり、というのも理由の一つではあるな。』




………しかし不幸中の幸いで、こちらは杞憂に終わった。




直人(ギエンの奴、俺がタイムファイヤーの『滝沢直人』だとは思っていない様だな。)




俺の不安要素----それは所謂『正体バレ』である。



俺は今まで、何度もゼニットとロンダーズファミリーの連中を相手取り、倒してきた。


そしてその事はギエンも良く知っている筈。


もし、俺が『タイムファイヤー』と同一人物だと知れば、ギエンは今後、『生半可な戦力では勝てない』と考えてさらに兵力を増強し、本気で潰しに来るーーー或いは、『迂闊に手を出してはいけない』と考え、二の足を踏むーーーこのどちらかを選択するだろう。



前者は相手を一網打尽に出来るチャンス、後者は時間を稼げるーーーこちらとしては、どちらに転んでも利点があるので、この場合は寧ろ正体をバラした方が都合が良い。



…………だが、それは俺が『タイムファイヤーに変身できる場合』の話だ。



ギエンが、俺がタイムファイヤーであり、且つ今変身出来ない事を知れば………?




直人(奴にとっては好機でしかない、躊躇わずに即座に攻め込んでくるだろうな。)



直人(そして、俺はゼニットについてある程度の知識がある。それを元に対策も講じる事もある程度出来る。)



直人(それを知れば、こちらが対策を講じられない様に、ギエンは戦力増強なり、ゼニットの改造なり、何かしらの対策を更に上から講じてくるだろう。)



直人(どちらにしろ、状況が好転する事は絶対に無い。)




メリットしか無かった話が、あっという間にデメリットしか無い話へと早変わりする。



よって今正体がバレるのは不味い。



……だが逆に、今正体がバレない事は俺達に利点をもたらす。




直人(今のギエンは、『艦娘達はゼニットに歯が立たない』『別世界の未来技術の塊であるゼニットに、この世界の現代人は対応し切れない』と、考えている筈。)




あの傲岸不遜な性格だ、恐らく今のギエンは、俺達を少なからず舐めているだろう。




直人(ならば、漬け込む隙は、ある。)




俺の持つゼニットの知識を軸に、大本営の資源、人員のバックアップを受けつつ、大規模な作戦を展開し、こちらを見くびっている敵に再起不能になる程の大打撃を一気に与える。




そこに…………いや。




直人(そこに『しか』、俺達のーーーひいてはこの世界の勝機は無い。)




俺は今までの事実、考察を全てまとめて、そう結論付けた。



----



夕張『八つ当たりが理由で、私達を攻撃するとか…………ふざけてるの?』




俺が考え耽っている一方、夕張は苛ついた声でギエンに問いかけていた。


成る程、事情を全く知らない彼女達からすれば、今のギエンの話はふざけた物にしか聞こえなかったのだろう。



………まあ、事情を知る俺から見ても、奴の話は狂っている物にしか聞こえないが。




ギエン『いや?私は至って正気だ。』



直人「……ハッ」



ふと溢すのは失笑。



直人(……一体、どの口が言うんだろうな?)


直人(初めから狂っている人間にとっての『正気』など、『狂気』以外の何物でも無いだろうに。)



そう思った矢先、ギエンは…………




ギエン『まあ良い、どう受け取るのかはそちらにお任せしよう。何にせよ……………』




遂に、『本性』を見せた。




ギエン『………3日後に君達の『家』とも言うべき場所には、鮮血と阿鼻叫喚が舞う事になるがな‼︎‼︎』



ギエン『……………ハハッ』



ギエン『アハハハッハハハハッハハアヒャハハヤヤアヒャハヤハヤヤ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』




ギエンの狂った嗤い声が、耳に五月蝿く響き渡る。


俺にとっては、幾ら聞いても慣れることは無い、不快なノイズ音。




第2艦隊『………………。』




そして、ギエンの嘲笑はアイツらにも同様に聴こえたらしい。




夕張『………………ねえ。』




………その結果。



彼女達にとって大切な仲間を、唯一無二の居場所を、平和な時間を嘲笑う、ギエンのその声は。





ギエン『ん?』




夕張『…………私達は、貴方が何者かすら知らない。貴方と提督の間に何があったのかも分からない。』




夕張『けれど貴方が、私達の居場所を、幸福な時間を………そして何より、大切な仲間を脅かすと言うのなら…………』





……………………彼女達の堪忍袋の緒を、完全に断ち切った。





夕張『貴方は、紛れも無く私達の敵よッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』




夕張『全員‼︎‼︎‼︎目標正面、一斉射…………始めッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』



第2艦隊『了解‼︎‼︎‼︎』




バァァァァァァァァァァァァン‼︎ズガガガガガガッッッッッッッ‼︎‼︎‼︎




夕張の一声によって、ありったけの弾薬、魚雷が一斉にギエンに向かい放たれる。



つんざく轟音。



ギエンが立っていた所には水柱が発生し、その周囲に硝煙も発生する。



視界が遮られ、画面には何も映らなくなる。




夕張『……やった⁉︎』



武器を撃ち尽くした夕張が、切れ切れな息でそう口にする。



直人(………いや、それは無い。)




だが、夕張の希望的観測を俺は即座に否定した。



直人(奴が、こんな事でくたばる筈が無い。)



(夕張達からすれば酷い言い方だが)あの程度でくたばるのであれば、俺が----そして『アイツら』が----血を流し、苦痛や葛藤を味わう事も無かっただろうから。




そんな俺の予想は、水柱がおさまり、煙が晴れた次の瞬間に、肯定された。



ギエン『……フッ』


ギエン『そんな原始的な武器で、私を倒せるとでも思ったのか?』



ゼニット達『…………………。』



第2艦隊『⁉︎⁉︎⁉︎』



夕張『嘘……………⁉︎』




第2艦隊を襲う驚愕。



…………そこに在ったのは、大量のゼニットに守護され、無傷のまま立つギエンの姿だった。




ギエン『ふむ…………随分派手なもてなしだな。』



ギエン『これは、私からのささやかなお返しだ。』




そこまで言った後、ギエンは短く、そして無慈悲に言い放った。





ギエン『…………やれ。』






…………そこから先は、一方的な蹂躙だった。



ゼニットが艦娘達に向かってマシンガンを連射する。


守る手立てが無く、蜂の巣にされた艦娘達の服が、肉が裂け、あらゆる部分から出血する。



上がる悲鳴。舞う鮮血。



だが、ゼニット達は決して急所を射抜かない。




ギエン『ハハハハハハハハハ‼︎‼︎‼︎』


ギエン『良いぞ…………もっと、もっとだ‼︎‼︎‼︎‼︎』




直人(……………………ああ。)




………そこで俺は、ギエンのその下卑た笑みで、判ってしまった。




直人(ギエンの奴、わざと急所を外す様ゼニットに命じている。)



直人(アイツらをメッセンジャーとして鎮守府[此処]に帰す為に。)




……そして何より。




直人(……アイツらの苦痛に歪む表情を見て、悦楽に浸る為に。)



直人(………………。)




そこまで考えた直後、何かの破砕音が聞こえ、突如画面がブラックアウトした。



直人(……⁉︎)



ザァァァーーーーーー



先程まで聞こえていた銃声、阿鼻叫喚は完全に消え失せ、今代わりに流れているのは、連続的に流れる無機質なノイズ。



……どうやら、ゼニットの放った流れ弾がカメラのレンズに直撃し、一緒にマイクも破損させた様だ。



ただ、まだ映像が再生され、ノイズが残っている事からして、カメラの動力源が破損した訳では無いらしい。



だがそれ以降、パソコンの画面が、第2艦隊が見た真実を映す事は無かった。




-----




直人「………………。」




映像の再生が終わった後も、俺は暫く椅子に座っていた。



直人「………フゥ………」




溜息を一つ、大きく吐く。




直人(……………一体、どうするか………)




青葉が俺に託したこの映像は、様々な事実を伝えてくれた。



そしてそれらを踏まえ、私見を述べるとすると…………



…………正直、状況は最悪と言ってもいい。




まず映像を見るに、艦娘達の魚雷、機銃、中・小口径主砲等の低・中威力の兵器では、ゼニットを倒す事が出来ない。


数ヶ月前に俺が始末したゼニット達は、魚雷よりも圧倒的に威力不足である筈の『全長2センチ程の小さな銃弾』で簡単に倒れたのに、だ。


そしてあれだけの兵器を打ち込んで、ゼニットに『全く当たらなかった』『全て掠るだけだった』なんて事があるとは考えにくい。


実際、(ギエンには無かったが)ゼニットのボディにも幾つかの小さな傷が入っている事は視認出来た。


だが、誰一人として倒れてはいなかった。


それはつまり…………



直人(ゼニットの装甲が、強化されているのか?)




……どうやらこの3ヶ月の間に、ギエンはゼニットに改良を施したらしい。


30世紀にはタイムロボ、ブイレックス等の頑丈な巨大ロボも存在するのだ、ギエンが未来技術を駆使すれば有り得ない話では無い。


そんなゼニットを倒すとすると、生半可な兵器では太刀打ち出来ないだろう。



そして看過できない新事実がもう一つ。




直人(……ギエンとゼニットは、艦娘と同じ様に海上に『立っていた』。)




これは俺自身初めて見たので驚いた。


元からある機能なのか、今回の改良に伴って付け加えられた機能なのかは定かでは無いが、これは大きな脅威だ。



ギエンは、ゼニットという『数の暴力』を行使する事が出来る。


そして水上で戦うとなると、こちらの戦力はゼニットと比べ圧倒的に少数の艦娘のみ。人間が介入する余地は無い。(まあ、介入した所で意味は薄いのだが)


それに加えて、海上は遮蔽物が一切無く、攻撃を回避する事が難しい。


今まで艦娘達は、そんな状況下で深海棲艦と戦い勝利を収めてきた訳だが、それは『深海棲艦の攻撃の照準がブレる』『深海棲艦の行動パターンが一定では無い』等の不確定要素等があったからこそ。



ゼニットには、その様な不確定要素は存在しない。


奴等は文字通り『精密機械』。ギエンの命令に忠実に動き、照準も狂わない。



さらに、奴らの武器は剣とマシンガン。


マシンガンでの攻撃は、深海棲艦の砲撃とは訳が違う。



その最たる相違点は、一発自体の威力が戦艦主砲等と比べてやや落ちる事すら物ともしない程の『手数の多さ』だ。


前述の通り海上には遮蔽物が一切無く、身を隠す事は不可能。


そして、艦娘達は艦種問わず常に重装備を抱えているので、身軽な動きも出来ない。



そんな状況下で迂闊にマシンガンの射程圏内に入れば、ロクな回避行動も取れないままゼニットの正確且つ無慈悲な射撃が彼女達を襲うだろう。



接近戦などもっての外。ゼニットの剣でズタズタに身を引き裂かれるだけだ。


何より、近距離装備が無い艦娘達に接近戦は出来ない(槍、剣、徒手空拳等を使うごく一部の例外はいる様だが、アテにしない方が良いだろう)。



敵の総戦力も分からない。


もし手元に有れば、唯一無二の強力な切り札になったであっただろうVコマンダーも無い。


何か手を打とうにも、俺達にはその為の時間も資材も殆ど無い。



…………八方塞がりとは、まさにこの様な状況の事だろう。




だがこんな時だからこそ、心を落ち着かせ、冷静な思考回路を持たなければならない事を俺は知っている。




直人「………スゥ…………ハァ…………」




もう一度深く深呼吸する。酸素を取り込んだ血が脳に回り、脳が研ぎ澄まされる。


そして、今後の対策を講じようとして………




直人(ん?)




……ふと両手に違和感を感じた。


視線を手元に移す。



そこにあったのは、『無意識のうちに』握り締められた両拳。




直人(…………いつの間に。)




静かに拳を開く。


爪が食い込んだのだろうか、俺の両掌からは血が滲んでいた。



………どうやら、俺の中には、大事な部下を散々痛ぶられた『上司』として、烈火の如く怒りを燃やしている自分が居るらしい。




直人(ここに来てから、本当に俺は変わったな………)



直人(……昔は、こんなにも情動的じゃなかった筈なんだが。)



直人(まるで、赤の他人の人生を追体験している気分だ。)




まるで、鏡に映った自分が1人でに動いているのを見ている様な、奇妙な感覚に囚われる。




直人(だが…………まぁ………)



直人(『ギエンにはたっぷりと礼をしてやる』っていうのには共感出来るな。)




………しかし、鏡の中のもう1人の俺は紛れも無く俺自身で。



血の滲んだ両掌がそれを物語っていた。




俺の部下は、奴の下衆な趣味の為に嬲られ、蹂躙され、痛めつけられた。


そして、部下達は自分達ではどうにも出来ないと悟り、俺に後を託した。



………その事実だけで、この尽きた筈の命を懸けて奴に真っ向から立ち向かう理由としては十分だ。




直人(………奴に思い知らせてやる。)


直人(一体、誰の部下に手を出したのか。)




直人(………一体、誰の怒りを買ったのか。)




『正義』なんて大それた物を貫く気は毛頭無い。



直人(俺には、『正義の味方』なんて似合わないし、第一なろうという意思も無いしな。)



直人(だが、自分の『信念』くらいは、最後まで貫き通してやる。)



直人(最悪の状況?勝算が薄い?…………そんな事知るか。)



直人(俺はどんな事からも決して逃げないし、諦めない…………‼︎‼︎)




血の滲んだ拳を、再び握り締める。


今度は、意思を持って。




そして、俺は懐からスマホを取り出して、ある番号に掛けた。



数回のコール音。



暫く後、コール音が不意に途切れ相手の声がスピーカーから流れてきた。




剣持『剣持だ。何か用か、滝沢君?』



直人「どうも、ご無沙汰してます…………剣持元帥。」




剣持『久しいな、滝沢君………息災かね?』


直人「ええ、優秀な部下に恵まれたお陰で。」


剣持『……そうか。』



剣持『その様子からすると、余程の急用が出来ている様だな。』




剣持元帥のその図星である一言で、一瞬目を見開く。




直人「………何故そうお考えで?」



俺はつい問い返した。


元帥の分析が語られる。



剣持『君は無自覚かもしれないが、少し早口になっているぞ。口調も緩み切った物とは程遠いな。』




直人(…………この数十秒で俺の心情を見透かす程の元帥の観察力には、本当に驚かされる。)



内心密かに敬意を抱きながら、自分自身も見つめ直す。


俺としては一応冷静を保っていたつもりだったのだが、どうやら無意識の範疇内では違ったらしい。



剣持『改めて聞くが、何があった?』



元帥の心配の声が聞こえる。


ギエンについて、現状についてなど、詳しく説明したい事は山ほどあるのだが………今の俺達には時間が無い。


よって俺は、即座に話を切り出した。



直人「……単刀直入に言います。」


直人「剣持元帥、貴方のーーーひいては海軍の御力をお借りしたい。」


剣持『……理由を聞こうか。』





俺は手短に事情を説明する。


元帥の元を襲撃した犯人が、今回俺の部下に接触を図り、散々に痛めつけた事。

犯人が、『この横須賀鎮守府を3日後に襲撃する』という声明を出した事。

……今の横須賀鎮守府では、これを迎え撃つには圧倒的に力不足である事。





剣持『……成る程、大体は把握した。要するに、海軍の総力を挙げたサポートを望むという事だな?』


直人「そう受け取って頂いて結構です。」


剣持『フム………だとすると、いくら私の立場でも独断専行は許されない案件だな、これは。」


剣持『一度、私を含めた海軍の要人を集めて軍議を執り行う必要がある。』


直人「……今から軍議の準備を始めるとすると、準備にはどれ程の時間が掛かりますか?」


剣持『まず私の権限で緊急招集を掛け、それを各地の要人が承諾、その後、近場の者は大本営会議室に招集、遠地の者はネットワーク回線を大本営会議室と繋ぎ、全員揃った事を確認した後ビデオ通話で軍議を開く……………各人の都合もあるだろうから、5時間は見積もった方が良いな。』




時計を見る。現在時刻は----午後3時丁度。


正直、5時間のロスはかなりの痛手となるのだが………致し方ないだろう。




直人「……分かりました。」


直人「謹んでお願い申し上げます、剣持元帥。どうか軍議の緊急招集を、掛けては頂けませんか。」




束の間の沈黙。


……それを破ったのは、剣持元帥の質問だった。




剣持『一つだけ、聞かせてくれないか?』


直人「なんでしょう?」



剣持『君は何故、自分で敵を迎え撃とうとしているんだ?』



直人「…………………。」




剣持『君は、まだ海軍に入って日が浅い。』


剣持『………歯に着せぬ物言いをするのなら、海上戦では君よりも場数を踏んでいるベテランがーーー今回、君よりも適任の人材が、海軍にはごまんといる。』


剣持『それに、提督として無名の君が今回の一大事の全体指揮を取る事を良く思わない人間も居るだろう。』


剣持『そしてそれらに気付かない程、君は鈍感では無いだろう?』


剣持『…………それなのに、何故?』



直人「……………。」




暫く考え込む。


元帥の言う事はもっともだ。


海軍要人からすれば、まだヒヨッコである俺が出しゃばり、下手をすれば大惨事になりかねない程の重要な作戦の指揮を執る事など、面白くないに決まっている。


なにより、今俺が言っているのは、誰から見ても明らかな『我が儘』なのだ。


それを採用する程、海軍も甘く無いだろう。


だが世間体を気にして、綺麗事や建前を不恰好に貼り付けた考えを語る事では、電話越しの人物を動かす事は出来ない。



一体、どちらを選択すべきか。


短時間の間に、必死に考え抜いた俺の答えは…………



直人「俺はただ………アイツを叩きのめしたい。」




元帥の質問に、本心で答える事だった。





直人「俺の部下に危害を加え、自身の下衆な趣味に付き合わせたアイツを。」


直人「部下達の崇高な誇りを粉々に砕いた、アイツを。」


直人「俺の----いや、『俺達の』人生を狂わせたアイツを、俺の手で叩き潰したい………‼︎」



それは、紛れもないギエンに対する『怒り』。



剣持『それは、ただの私情でしか無いな。』



電話越しに聞こえるのは、元帥の淡白な一言。



直人「ええ…………しかしそれが、俺の紛れも無い本音です。」



……これは最早、みっともない開き直りでしか無い。


だが、本心を嘘で塗り固めるよりは、何十倍もマシだと思った。



剣持『……………。』


剣持『………どこまでも真っ直ぐだな、君は。』


直人「裏でコソコソしたり、己を嘘で塗り固めるのは自分の信念に反するので。」


剣持『………………そう、か。』




次に元帥が発したのは……………怒号だった。




剣持『………この馬鹿者っっ‼︎‼︎』


剣持『[軍]とは、国民の命を何に代えても守り抜く組織である‼︎そこに私情を挟むなど言語道断‼︎‼︎‼︎』


剣持『我々は、国そのものを、大勢の命を、背負っているのだ‼︎‼︎貴様1人の私情などという些事に、振り回される訳には行かんのだ‼︎‼︎』



直人「…………返す言葉も、ございません。」



実際、元帥の言葉は正論だ。


俺が何を言っても、それは見苦しい言い訳にしかならない。



直人(……………駄目、だったか……………)



そう思い、諦めかけていると……………



剣持『………だがその意気や良し‼︎』




元帥から、予想だにしない一言が聞こえた。



直人「……………え?」



剣持『良いだろう、軍議を開く手筈をこちらで整えるとしようか。』



暫く思考が停止する。


現実を何度も咀嚼し、ようやく落ち着いた脳が再び動き出し、現状を理解する。



直人「…………‼︎‼︎」



そして俺の口から飛び出たのは、感謝の言葉だった。



直人「有り難う、御座います……………‼︎」



剣持『……私も、ギエンとやらには大きな借りがあるからな。』


剣持『それに…………』


直人「………?」



暫しの静寂の後、元帥の『本音』が漏れ聞こえてきた。


剣持『………私は、海軍元帥だ。海軍に関してはある程度の融通を効かせる事が出来る。』


剣持『その立場上、今までずっと私の周りには、顔色を伺い、心にも無い事を口にし、私に取り入ろうとする人間ばかり居た。』


剣持『私も、声色で嘘か本心かを見分けられる様になる程には、その環境に嫌気が差していたものだ。』



剣持『だから、本当に久しぶりだった…………真っ直ぐな本音を、正面からぶつけられたのは。』



剣持『君のその態度を、快く思った。』



剣持『…………君のその信念に、賭けてみようと思った。』



剣持『…………勝算は、あるのだな?』


直人「ええ、有ります。」



電話越しに居る『味方』に対し、俺はハッキリと断言する。



剣持『よろしい。ならば私も最善を尽くそう。』


剣持『それと滝沢君、今回の軍議は必然的に君にも参加してもらう事になる。構わんな?』


直人「ええ、承知しました。」


剣持『うむ、それでは3時間後にそちらに迎えの車を寄越す。それまで準備を整えておいてくれ。』


直人「了解しました、それではまた後ほど。」



そして、俺は通話を切った。



直人(何とかなった、か…………)


直人(…………いや。)


直人(何とかするんだ…………これから。)




直人(………さて、と。)



直人「…………もう良いぞ、入ってこい。」



一度深呼吸した後、俺は先程からずっと感じていた『気配』に向けて声を投げ掛けた。


数秒後、執務室のドアを静かに開け、室内に入って来たのはーーー大淀と翔鶴だった。




直人「………まさかずっと待っていたのか?」



大淀「ええ、翔鶴さんと話して『ここで待とう』と勝手ながら決めさせて頂きました。」


翔鶴「普段から即断即決の提督の事ですから、いつでも指示を飛ばせる様に待機していた方が、都合が良いでしょう?」




………どうやら俺の考えは、鎮守府の中でもかなり聡い2人に見透かされていた様だ。



直人「…………フッ」


直人「お前達、まるでこき使ってくれとでも言わんばかりの表情をしているな。」



その言葉に対し、2人はただ微笑んでいるだけ。



直人「………良いだろう。望み通りにしてやる。」



それを肯定と受け取った俺は、目の前の部下達に指示を飛ばし始めた。




直人「翔鶴‼︎」


翔鶴「ハイ‼︎」


直人「現在鎮守府に残っている艦娘をまとめ上げて、防衛準備の指揮を執れ‼︎備蓄確認、兵装のメンテナンス、周囲の警戒も怠るな‼︎」


翔鶴「御命令、承りました‼︎」




直人「大淀‼︎」


大淀「ハイッ‼︎」


直人「現在、遠征及び休暇で鎮守府を離れている奴らに大至急帰還する様通達‼︎そして全員の点呼が済み次第、帰還した者達を引き連れ翔鶴と合流、これの補佐に当たれ‼︎」


大淀「了解しました‼︎」




直人「よし。これ以上ややこしくならない様、他の奴らには『緊急事態』とだけ簡潔に説明しろ。今晩、俺が大本営から戻った後の集会で全て詳しく説明する旨も一緒に伝えておけ。」



直人「この先、状況がどう転ぶかは全く分からない。だからこそ俺達は、各々が今出来る事を全力で成し遂げる、いいな?」



大淀・翔鶴「ハイ‼︎‼︎」




2人が覚悟と気力を滲ませた声で応える。


そして、俺は息を大きく吸い……………力強く号令を発した。



直人「-----行動、開始‼︎‼︎」



そこから、横須賀鎮守府内は慌ただしく動き始めた。






このSSへの評価

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Zekeさんから
2021-08-27 16:27:26

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2021-08-05 07:50:07

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2021-07-02 18:36:40

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竜角さんから
2021-07-02 18:37:33

SS好きの名無しさんから
2021-06-29 18:05:20

このSSへのコメント

6件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2021-07-14 17:39:03 ID: S:8W9kDv

肝心の戦闘シーンはまだでしょうか.....

2: 一条玲 2021-07-15 21:42:43 ID: S:CjaimZ

>>1
お待たせして本当に申し訳ありません。

あと1、2日で直人が力を手に入れる『ターニングポイント』に差し掛かるのでもう少しだけお待ち下さい。

3: 一条玲 2021-07-15 21:43:18 ID: S:AO3KpL

そして少しだけ言い訳を。(ここからは見なくても結構です。)
今回直人と翔鶴との絡みに重きを置いたのは、1話の最後辺りに書いた『伏線』に関係がありまして、この辺りはどうしても削る事が出来ませんでした。

そして、それは『ターニングポイント』にも同じ事が言えます。

直人を復活させる道筋は執筆開始時から考えていたのですが、考え抜いた末、『直人を思い切り戦場で動かすには、過去のしがらみから吹っ切れさせる必要がある。』という結論に至りました。(『ご都合主義』をあまり好まない偏屈な筆者ですみません……)

…………と言う訳で、直人には『決着』をつけて貰います。

恐らく、直人が復活するのはまだ数週間程先だと思います。(仕事の片手間になってしまうので、どうしても執筆スピードが……)

しかしそこに至るまでの内容もしっかり楽しんで頂ける様、自分なりに精一杯努力していくので、今後ともこの作品をどうか宜しくお願いします‼︎

4: Zeke 2021-08-27 16:27:31 ID: S:ibmhbN

まだですか?

5: 一条玲 2021-08-30 01:42:34 ID: S:3_-ocQ

Zakeさん、返信遅くなってすみません。

そして、数週間音沙汰の無い作品を評価、応援して下さり、待ち続けて頂き、本当にありがとうございます………m(_ _)m

お待たせしました、本日より『炎の提督』再開します‼︎‼︎

6: 一条玲 2021-08-30 01:49:07 ID: S:8Plawi

そして、これは読者の皆さん全員に向けた謝罪文です。

筆者は、連絡もせずに3週間以上活動を休止していました。

こんな作品を読み続けて下さっている読者の皆さんに期待を裏切り、本当にすいませんでした。

筆者自身、今回の事を深く反省しています。

今後こういう事が無い様に細心の注意を払っていきますので、どうかもう一度、自分にやり直すチャンスを下さい。

自分からは以上です、長文失礼しました。


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