零の艦隊 #3 不幸、あるいは幸運
血湧き肉躍る大海戦の物語
その3話
♯2の続きです
敵の放った砲弾は、幸運にも我が艦を外した。
すぐさま敵に砲を指向し、発射薬に点火する。
付近一帯には轟音が轟いた。しかし音がおかしかった。
「艦後部で爆発発生!火災はありませんが四番砲が大破!」
腔発というやつだった。
四番砲はぶっ飛んだが主砲はまだ4基残っている。
十分戦えるはずだ。
「敵艦に命中!炎上しています!」
初撃は当たった。弾着修正せずに命中弾を得られたのは不幸中の幸いか。
先の戦いで観測機が全滅しているため射撃には難が生じるだろう。
「砲撃続けろ!副砲は水雷戦隊を狙え!撃つなよ!」
扶桑は撃って来たが水雷戦隊は敵かわからない。ここがどこかわからない以上、敵以外に無闇にぶっ放すのは避けるべきだろう。
再び轟く咆哮。自動装填装置を搭載した我が艦は51センチ砲でありながら1分に3発という驚異的な発射レートを誇っている。
第二撃の着弾直前、敵艦隊は2度目の斉射を行った。
「砲撃来るぞ!衝撃に備えろ!」
途端、雷のような音と共にあたりに水柱が立ち上る。艦首に被弾したようだ。
「被害は!」
「対空機銃2基が撃破された模様!装甲は貫通していません!」
被弾時の爆炎が晴れると報告が上がった。
「第二射命中!敵戦艦沈黙!艦隊から落伍しています!」
「標的を後続の艦に変えろ!装填出来次第撃て!」
「正面水雷戦隊!我々に砲撃を開始しました!」
「副砲全門撃ち方始めー!」
この号令と共に我が艦の火砲全てが火を吹いた。
「敵巡洋艦に命中!大爆発が発生しています!主砲弾は命中なし!」
「副砲は各個駆逐艦を狙え!主砲は扶桑型へ攻撃を続けろ!」
我が艦の副砲には14センチ砲を採用している。我々の自動装填装置との相性がよく、対空砲弾を大量にばら撒けるからだ。
これに榴弾を込めて小型艦へ平射した場合、敵艦は火だるまになることとなる。
「敵駆逐艦は特型駆逐艦と思われます!いずれも損傷が多いです!」
「砲撃を続けろ!殲滅するんだ!」
激しい砲戦の最中、珍しく静かにしていた通信手が口を開いた。
「所属不明部隊より入電!現在交戦中の艦隊とは異なる部隊のようです!」
まだ増えるのか!!
『われ第一航空戦隊赤城、汝は何者なるや』
…どうやらいきなりぶっ放してくるような奴らではなかったらしい。敵には回したくないものである。
『われ帝国海軍第零遊撃隊旗艦、常磐なり。所属不明艦隊と交戦中なり』
一航戦赤城…私の知るところでは戦前世界最強と謳われながら開戦劈頭の頃に撃沈されているはずだ。
その後日本は本土上陸からの降伏の憂き目に遭うことになる。
『汝の正しき所属を答えよ』
ダメだ…話が噛み合わない。やはり何かおかしい。
『われ帝国海軍戦艦、常盤なり、貴艦隊との交戦の意思なし』
少なくとも健在の一航戦ならば我々諸共ここにいる8隻全てを海の藻屑にできるだろう。絶対に交戦すべきでない。
『貴艦の敵への攻撃部隊が飛行中なり、誤射の無きよう』
どうやら援護してくれるらしい。
「西側5浬に所属不明の航空機部隊!規模は30!」
「恐らく味方だ!撃つなよ!」
ここに互いに何者かわからないまま、奇妙な共闘が始まった。
やっと戦いになりました。まだまだ続きます。
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