夜空「地獄通信?」
理科「はい、なにやら巷で話題になってるみたいですよ〜」
そう言って理科は宛にもならない情報を、珍しく2人きりしかいない部室で私に持ち出してきた。
とりあえず適当に流すつもりだが、本を忘れてしまった私は暇つぶしにこの話題を掘り下げてみた。
後々、大変な事になるとも知らずに。
夜空「どこ情報だ?」
理科「2chです」
2ch…その辺の知り合いよりもアイツらの方が情報力はあるだろうし、意外と信用できるな…
だがまあ信じる訳にもいくまい。
夜空「曖昧だな…というか地獄少女ってなんだ、妖怪の類なら私は信じないから無意味だぞ?」
理科「違います違います、いえ、妖怪なのはたぶん正解なんですが、どうにも夜中の0時丁度に地獄通信というサイトにインして地獄送りにしたい相手の名前を打ち込んで契約したら地獄送りにできちゃうみたいな話らしいです、物騒ですよね、まあ理科はそんな非科学的な事は信じません、理科でもそんなシステムは作れなかったんですから。」
ふむ……地獄通信…地獄送り…か…
夜空「……」
理科「夜空先輩……?」
しまった、突然黙ってしまって理科を不審がらせてしまったか。
夜空「あ、あぁ、すまない、とても物騒だと思ってな…そうか、地獄通信か。」
理科「はい、本当に、噂話も進化していきますねぇ。」
全くその通りだ、噂話という物は。遂に友達すらいない奴にまで広まってしまうようになるとは。
【同時刻頃教会にて】
俺は今日、星奈に校内にある教会に呼ばれた。
なんとなく色恋沙汰な事なのではと思っていたが、またどうせ小鳩と遊園地に!みたいな話かなと思いつつ俺は呑気に教会に向かっていった。
すると美しい金髪の少女が、改まった口調で、泣きそうな目で、震えた声で、折れてしまいそうな程に脚を震えさせ、頬を紅く染め、天然の上目遣いでこちらを見つめて、言葉を解き放った。
星奈「小鷹…私ね、どうしても小鷹に伝えたい事があるの。」
小鷹「な、なんだよそんなに改まって… 」
星奈「あのね……はぁ……」
あのねと言い顔を赤らめながら勢いをつけた星奈が放つ言葉は、もう流石の俺でもわかった。いつもなら止めていただろうでも何故だか、この日は止めたくなかった、隣人部の崩壊が怖くても…なぜか最後まで聞きたくなってしまった。そうして勢いをつけた星奈が放った言葉は予想通りのものだった。
星奈「私、小鷹の事がプールに行ったくらいからずっと気になってて、段々はっきりわかってきてたんだけど、やっぱり私、小鷹の事が大好きなの!だからお願い、付き合ってください!!」
ああ、さっきも言ったとおり予想は出来ていた。でも驚いた、本当にこうなるとは。
悩んだ、隣人部を選ぶか、星奈を選ぶか。だがここまできたのにやっぱり結論はだせなかった。出したくなかった。だから俺はまた、あれで解決しようとしたんだ。
小鷹「え、えっと…なんだって?」
ユーゲットメールユーゲットメール
だが、神はこんな事は許さなかった、教会だからバレたのか、だとしたら星奈はとんだ策士じゃねぇか…そう言って頭をぽりぽりと掻きながら、メールを確認するとそれは
[幸村]
titleあにき、せなのあねごのきもちにしんけんにむきあってあげてください。せなのあねごはほんきです。
という内容だった。そうか、幸村のやつ目ざといな…
小鷹「なにがあったんだよ…全く…ははっ…」
それにしてもタイミングが完璧すぎて、思わず笑ってしまった。
星奈「は、恥ずかしいんだから…早く答えてよ…」
そう言って星奈は顔をふせながら急かしてきた。そうだ…俺の答えは決まっていた。俺の答えは───
小鷹「正直言って無理だ。」
星奈「!?」
小鷹「って、以前なら言ってたかもんないけど、ありがとう星奈、俺も、最近になって星奈が好きで好きで仕方が無くなっちまったんだ…だからこちらこそ頼む!俺と付き合ってくれ!!」
星奈「……ぷふっ…なにそれ!マジ意味わかんないわよ小鷹!」
小鷹「んなっ…!」
星奈「でも……ありがとっ…」ちゅっ
小鷹「せ、せせせせ、星奈さん!?」
星奈「これからもよろしくねっ♪」にこっ
小鷹「星奈…」
そう言って俺は、金髪でスタイルが抜群で、更に頭も良くて、実はとても 優しい。そんな最高な彼女と、覚悟を決めて隣人部部室へと戻っていった。
【再び隣人部部室 】
はぁ…今日はタカは来ないんだろうか…なんて、昔のあだ名で読んでみてしまいたくなる程に、妄想に耽っていた私に、史上最悪の金輪際ここまでの凶報はないと断言できる程の最悪のニュースが飛び込んできた。
あの肉と小鷹が、2人仲良く一緒に帰ってきたのだ、そう、手を繋いで。わかってしまった。理解したくなかったが、流石の私でもわかってしまった。
肉の…柏崎星奈の、あれだけ嬉しそうに頬を赤らめている姿を見ては。
─流石の私もわかってしまった。
小鷹「……すまん夜空、理科」
あああやめろ!やめてくれ!それ以上口を開くな!私は…私はどうすればいいんだ…やめて……やめてよ…タカぁ…
小鷹「突然なんだけど、俺、星奈と付き合うことにしたんだ。」
嗚呼……言ってしまった…言われてしまった…もうダメだ…身体が言う事を聞きそうにない。
小鷹「でも俺は二人とも友達で、仲良くしたいと思ってる、こんな事考える必要───」
夜空「ふざけろ………ふざけろっっ!!!!」
ばんと、すべての音を消し去るように、強く机を叩き私は立ち上がった。そしてそんな暴言を吐いた。やってしまったなぁ、私。
夜空「ふざけろ!ふざけろふざけろふざけろふざけろふざけろっ!!」
星奈「よ、夜空…?」
夜空「ふざけるな!この腐れ肉め!なんだよ、なんなんだよ!貴様はスタイルも、学力も、運動能力も顔も。更には家系だって恵まれた、それに比べて私はさしてなにも恵まれなかった!なのにだ!それなのに…そんな私から小鷹まで奪うなんて…どうかしている!本当にふざけるな!!!」
小鷹「よ、夜空…」
夜空「大体貴様もだ小鷹!なんで…なんで私を選んでくれなかった…私だって…こんなにお前を好いているっていうのに!」
あぁ…だめだ…こんな事こんな場面で言うなんてどうかしているな私は。
次の瞬間、私の体は全速力で、部室のドアをぶち開けて走って去っていていた。カバンの存在すらも忘れて、一心不乱に。
途中、マリアにぶつかりなにか文句を言われていたが、そんなの気にならないくらいに夢中に走っていた。
ああ…私は…たった1人の人間とすら上手く関係が築けないのだな。
──本当に憐れだ。
私は自宅に到着していた。自暴自棄になって街に繰り出していた私は、無性に家に帰りたくなくて、かろうじてあった所持金でネットカフェにきていた。
《…知っていますか夜空先輩、地獄少女の噂…》
だめだ…これは流石にマズい…
《 地獄送りにしたい相手の名前を打ち込んで契約したら地獄送りにできちゃうみたいな話らしいです》
やばい…しまったなぁ…あんな噂…聞くもんじゃなかった……
それになんで…ちゃんとこんな日でさえ、時計は夜中の0時を指してしまうんだ。
やばいとは言っていたが私の手はもう勝手に、部屋のパソコンのキーボードを打ち始めてしまっていた。
zigo…カタカタ
ケータイが光っている、小鷹と肉からのメールや電話の荒らしだ、ああ嫌だ嫌だ。リア充が移る、やめてくれ。
kutuu…カタカタ
ははは、どうやら理科や幸村からも来ているのか…なんだ私は、人気者なのか?遂に念願のリア充だ、やったなぁ私。着信履歴がびっちり埋まっている事だろう。
sin…カタカタ
enter……カタッ
そうして出てきた一番上のサイトに…私は入っていってしまった
そこには名前を入れる空欄があった。
何故だろう、疑り深い事で定評のある私が…自暴自棄だったのもあるかもしれないが、なにも気にせず、1人の名前を打ち込んでいた。
hasegawakodaka
はせがわこだか
羽瀬川小鷹
そうして私は………左クリックで、契約を交わした。
閻魔あい「 私は、閻魔あい。
受け取りなさい。
あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。
糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。
怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ。
ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう。
人を呪わば穴ふたつ。
あなたが死んだら、その魂は地獄へ落ちる。
極楽浄土へは逝けず、あなたの魂は痛みと苦しみを
味わいながら、永遠に彷徨うことになる。」
私は夢でも見ているんだろう、そりゃああれだけ疲れていたんだ、仕方がない、今日くらいはこんな変な夢でも許してあげよう。
夜空「それくらいかまわないさ、もしもこれが叶うなら、私は地獄でもなんでも行ってやる。生きている間の方が、死んだ後よりも大事なんだ。」
適当な台詞を吐き捨て地獄少女から藁人形を受け取り……そこで私は目が覚めた。
そこにはネットカフェの天井が、私は上を向いて寝ていたのか…そうか…でもやはり夢…
そう思った私の手にはしっかりと。藁人形が握られていた。もちろん、赤い糸がついていた。
そうか…噂話というのも、意外と宛になるものなんだな。
────その恨み、聞き届けたり。
翌朝…肉は学校に来なかった。どうやら小鷹が行方不明になった事にショックを受けている、訳ではなく、最愛の者が目の前で消滅した事に、衝撃を受け、理解が追いつかなくなり、泣き出して辛くなって部屋から出られなくなっているらしい。
ザマァ見ろ。そう思うと私は無性に柏崎星奈の泣きっ面が見たくなった。
理事長に「柏崎星奈さんの友人として…お話を…させて欲しいです…私でもきっと、力になれると思います…」等と私史上最高傑作ともいえよう完璧な演技で頼むとすんなり自宅に招待してくれた。
そして私は遂に柏崎星奈の部屋に辿りついた。
しかし本当に、こいつは家柄までもが恵まれすぎだろう。これくらいの不幸では、本当にイライラが収まらない。
…こんこんこん…
夜空「肉…柏崎星奈。居るか。私だ、夜空だ。」
そう言うと肉は、顔を見せずにドアを開き手招きしてきた、もちろん私は大人しく部屋に入った。
部屋中に、写真かポスターでも張り付けていたかのような跡がたくさんついていたのも気になったが、それ以上に、とてつもなく悲惨な程に部屋の中が荒れていた。
タンスの引き出しは全開になり、中身が散らかされ、ベッドの布団は中身が完全に外に放り出され、更には鏡が割れていて、そこには柏崎星奈のものだと思われる血が大量についていた。肉がふらふらしていたのはきっと、このせいだろう。
星奈「夜空…なんでなの…なんで…小鷹は突然消滅したの?」
夜空「知らん、知るか。私だっていみがわからないんだ、そんな事を私に問うな。」
嘘だ、事情どころか、犯人は私だろうに。だがなぜだろう。こんな肉の絶望している姿を見ると、最高に私の心が満たされていく感じがした。
星奈「私…もう耐えられない…」
夜空「そうか、本当にそう思うなら好きにしろ。だがそうしても小鷹も私も喜ばないがな。」
そうだ、小鷹ならきっと、貴様には死んでもらいたくないと思っている、そして私は…もっと苦しんで欲しいと思っている、つまりあっさり死んでしまっては誰も得をしないのだ。
それをどう受け止めたのかはしらないが、肉は泣きながらも少し嬉しそうに、決意を固めた表情で私を見つめて強く。
星奈「そうよね。小鷹の分も頑張って、それにひょっとしたらどこかに小鷹がいるかもしれないし、死ぬなんて考えは良くないわよね。ありがとう…夜空…」
キモチワルイ。キモチワルイキモチワルイキモチワルイ。
ホホエムナ。ワタシ二ソンナキモチノワルイエガオヲミセツケルナ。
私は。持参していた縄を結んで、史上最高の満面の笑みを浮かべて立っていた。我ながら、自分自身のクズさに呆れてくる程だ。
柏崎星奈が怯えながら私を見つめて震えている。
ザマァ見ろ。
ザマァ…見ろ…
次の瞬間、私は組み伏せられていた。
そう、柏崎星奈のメイド、ステラだ。
その後ろに原因がいた。
楠幸村と志熊理科だ。
あいつら…本当に私の邪魔ばっかりしてくる…
理科「夜空先輩、失礼します。 」
そう言って志熊理科はステラに耳打ちをし、ステラがその指示に従い私の服を剥いだ
ああ…バレた…
志熊理科が確認したかったもの、それは契約成立時に、契約の証として胸元に残される、気味の悪い印だった。
こいつは、信じていない癖に、知っていたのだ。きっと、研究するために。
そしてもちろん、紐を解いた私の胸には印がくっきりと浮き上がっていた。
理科「やっぱり、先輩が小鷹先輩を流したんですね。」
幸村「あねご、最低です。」
柏崎星奈の縄をときに行っていた幸村が、そう口を開いた。
星奈「…あんた…本当にそんなことして、平気であたしの前に出てきて、あんな事言って、こんな事をしたの?」
夜空「ああ…そうだ…肉、貴様の絶望する顔が見たかったからな。」
次の瞬間、私は志熊理科にスタンガンで気絶させられていた。
ガコン…ガコン…
なんだ…ここは……
閻魔あい「ここは地獄へと繋がる道、貴方は恨まれて流された。それだけの事よ。」
夜空「そうか…まあ私はなかなかクズだったからなぁ…流されても違和感はないか。」
そうして沈黙が流れる
その沈黙を破るように、私は口を開いた。
夜空「誰に…なんで流されたんだ…」
閻魔あい「それは…貴女が流した彼の妹、彼女が貴女が犯人だと知られて、それで怒り狂った彼女が貴女を流す事にしたそうよ。」
夜空「そうか…肉は…結局また私になにも出来なかったんだな…」
こんな場面でも柏崎星奈という、なんでも持っている腐れ肉に勝ったと思い優越感を浸っている私は。本当に気持ちが悪い。
それになんだか、これから地獄に行くというのに妙に落ち着いている。
以前はこんなに、ここまで汚れて等いなかっただろうに。
友情は人間強度を弱くして、恋愛は全ての関係を壊しうる。全く、人間関係とは本当に…面倒くさいものだ。
このSSへのコメント