自業自得な提督
初投稿です。
登場人物は、提督と艦娘という抽象的な設定にしています。
パソコンの電源をつけたとき、青年はため息をついた。このため息が何度目になるのか分からない。
電源をつけたその指先が下を向いていき、次第に腕がぶらんと下がる。そしてしばらく、ぼんやりとすごす。
その間パソコンは動いており、とうとう画面に現れたのは「艦隊これくしょん」のゲーム画面。ゲーム開始すると秘書艦の姿が現れ、あいさつを交わす。
だが、青年はそれには目もやらずに出撃や演習をさっさと行う。
無心状態のまま黙々とプレイする青年は、はたから見るとプレイすることに対する執着心が失われた姿のようである。
プレイ開始当初はそうではなかった。武器を手にして敵を倒す艦娘の姿が美しくも魅力に思い、誰ひとり沈没させないよう気を付けていた。しかし、いつの間にかその情熱が冷めてしまい、青年は画面を開くことに次第に億劫を感じ始めてしまった。
「もう飽きた・・・」
青年はこの日を持って、プレイをやめるという決断をした。
「ん、何だこれ?」
トップ画面に戻ると、青年はある異変に気づいて凝視した。
秘書艦の顔が、いつものグラフィックと違って悲しんでいるように見えたのだ。
「なんだか、泣きそうな顔になっているけど・・・僕の感情が伝わったのかな?」
不思議に思いつつもページを閉じて、パソコンの電源を切った。
その日以降、艦これをプレイすることは二度となかった。
それから数週間が経った、ある晩。
青年は睡眠中、夢を見ていた。それは、艦娘たちがこちらに寄ってくる夢であった。艦娘たちは全員、青年の鎮守府に存在した者ばかりである。
ところが艦娘たちの目には、どこか獲物を狩るような目つきであった。
「な・・・なんだ君たち!!どうしてここにいるんだ」
(提督・・・どうして私たちから離れるのですか!?)
(提督の裏切り者!!)
(提督ヲ捕マエルノデス・・・)
「もう僕は君たちの提督じゃない。誰か助けてくれ!!」
夢の中で青年は必死に逃げ回っていた。
朝になると、青年は目を覚ました。全身が汗でぐっしょり濡れている。
すると突然、どこからか声がした。
(司令官、おはようございます)
(今日も一日、よろしくね提督)
あたりを見渡しても誰もいないが、聞いたことのある声がした。聞きたくないと、耳をふさいでもなぜか声が聞こえる。
「ど、どうなっているんだ・・・」
青年は幻聴に悩まされてしまうようになった。それからというもの、青年の日常は、艦娘たちの幻聴や襲われ続ける夢にとりつかれるようになった。特に夢を見るのが怖い。毎回、夢の中とはいえ生命の危機に迫るほどの悪夢を見続けていた。そのせいか、いつのまにか不眠症にかかっていた。
「どうしていつも艦娘たちの夢を見るんだ・・・。ならば、こっちにも考えがある」
そう思い、青年はある日の晩に徹夜することを決めた。だが、夜が更けるにつれてだんだんと体が眠りを欲してくる。これに打ち勝つべく、無糖コーヒーとドリンク剤を用意する。瞼が重くなろうとすれば、コーヒーとドリンク剤を飲み干す。
(無駄だよ提督・・・。そんなことしても、どうせ提督は僕たちと会えるんダカラ・・・)
「僕は・・・君たちに負けるもんか!」
だが、空が若干明るくなってきたところで、惜しくも地に伏すように眠りについてしまった。
青年がうなされるように眠りについていたのは言うまでもない。こうした日々が、さらに青年の身体や精神を蝕ばみ始めた。ぐっすりと眠れない日々だけでなく、食欲や性欲もなくなり始めた。
やがて、体調を崩してしまう。
「ゲホゲホッ、くそっ、なんでこんな目にあうんだ・・・」
病弱な体になってしまった原因はある程度予想がつく。艦これのゲームプレイをすぱっととやめた、あの日からだ。
次の日の夜、青年は睡眠薬の摂取による睡眠を考えた。これにより、あの悪夢を見ることなく、ぐっすりと寝られると思ったからである。
「これで、もうあんな夢とはオサラバだ・・・」
青年は、睡眠薬を数粒と水を一緒に飲みほした。すると、強烈な睡魔に襲われ、意識を失うように眠りについた。
青年の顔は、なぜか無表情であった。
翌日。天気は、晴れ。
青年は目を覚ました。睡眠薬のおかげか、久しぶりに寝た心地を感じた。
しかし、青年の目には奇妙な光景が映った。それは、自分の部屋とはいえ、どういうわけかベッドとタンスぐらいしかない質素な部屋にいた。外から波の音が聞こえてくる。
「ここは、どこだ?」
青年がつぶやいた時だった。
「お目覚めですか、提督」
青年はびっくりして、声のする方向に顔を向けると、そこには何度も夢の中で見た艦娘がいた。今度は、幻聴ではなかった。
「おはようございます提督。今日も一日、よろしくお願いします」
艦娘は、ぺこりと頭を下げる。
「お、おはよう・・・って、どうして君がここにいるんだ!?」
そこにいた艦娘は、最後のトップ画面で見た秘書艦であった。驚いたあまり、青年は後ずさりするが、壁に頭から激突して悶絶した。
その光景に秘書艦はくすっと笑う。
「大丈夫ですか提督?」
秘書艦が手を差し伸べる。だが青年は、それを拒んだ。
「結構だ」
「兎にも角にも、提督がここに再び着任してくれました。これでようやく、提督はこの世界に私たちと一緒にいてくれるわけですね」
「この世界って、どういうことだ?」
慌てふためく青年。
「提督が画面越しから見ていた私たちの世界です。いわば、ここは艦これの世界ですよ」
「ちょっと待ってくれ。どうして、僕がこの世界にいるようになったんだ」
「私たちがやりました」
秘書艦は、あっさりと答えた。
「な、何だって!?じゃあ、君たちのせいか、今までの幻聴や夢の中にまで現れるのは・・・。まさか、この世界につれきたのも・・・」
「ええ、おっしゃる通りです」
「でも、どうやって・・・」
「それは言いません。ですが、全ては私たちの計画通りなんですから」
「現実世界へ帰してくれないか?」
「イヤです」
「せめて、一日だけでも・・・」
「イヤです」
話は平行線上のままであった。とはいえ、なぜここまでやる必要があったのだろうか。
「なんで、ここまでするんだ」
「すべては、提督のせいですよ」
「どうして僕のせいだというんだ!?」
秘書艦は、すうっと一呼吸すると、青年の顔をじっと見た。
「提督は、どうして、私たちのもとからいなくなったのですか?」
秘書艦の発言に、青年は黙りこくっていた。顔から汗がにじみ出る。
「・・・なんで、知っている!?」
「私たちはとっても悲しかったんですよ。やめることを決断されたとき、どれほど私は悲しかったことか、提督には理解できますか?」
「ということは、トップ画面で見たあの最後の表情は・・・」
「そうですよ。私は本当に泣いていたんですから」
青年が見た、秘書艦が悲しんでいる姿は、見間違いでもなかった。そう思ったとき、青年の背中に寒気を感じた。
「じゃあ、今までの僕の心情や言っていたことは、画面越しから伝わっていたとでもいうのか!?」
艦娘は、ニッと笑った。青年の予想は当たっていた。
「まさか、そんなオカルトじみたことがあるわけが・・・。でも、あの時の僕はもうプレイすることに飽きていた。だからやめたんだよ。僕は二度とプレイしないと決めたんだから、普通ならこんな提督なんて、ほっといてくれてもいいだろう!?」
そういうと、秘書艦はがっくりと肩を落とした。
「はぁ・・・何もわかっていないのですね、提督は」
「どういうことだ?」
秘書艦は、青年をベッドに連れて行くと、押し倒して青年の両肩を押さえた。
「私たちは、提督のことを心の底から慕っているんですよ」
「僕の身の回りで奇怪な現象をさせておいて、信用なんてできるわけないだろ」
「私たちのことをいつも気にしてくれて指揮をされていたじゃないですか。それに、いまさらですけど、ここにいる者たちはみんな、提督のことを愛しています。ですから、提督がおやめになることが許せなくて、こうさせていただいたんですよ」
「そもそも、ゲームの世界にいる君たちに、そんな感情なんてあるわけが・・・」
「ならば、これならどうですか」
そう言うと、秘書官の顔が青年の顔にみるみると近づいていった。
「んむぅ、んん!!」
秘書艦は青年の唇を奪った。青年の口の中で、ねっとりとした舌が絡み付き、唾液が交じりあう。
「ぷはぁ・・・。これで、分かりましたか?」
「そんなもんでも君のことを信用できるもんか・・・」
「そうですか・・・。とりあえず、今はここまでにしておきます」
秘書艦はそう言い残して、部屋を出ようとした。
「もう一度聞く。現実世界に戻る方法はないのか?いままでのこと、謝るから・・・」
青年は土下座して秘書艦に言った。秘書艦は、ドアの手前で立ち止まって青年の方に振りかえった。
しばらくの間、沈黙が発生した。秘書艦は青年をじっと見て、何も言わずに退出した。
「くそっ、どうしてこうなったんだ・・・」
艦娘たちによって拉致されてきた異世界で、青年は突然の展開に頭が混乱するのであった。
本作品では、現実と空想の世界が登場しました。
青年は、パソコンでゲームプレイするほうの世界、いわば現実世界。
艦娘たちは、パソコンの中にいる空想の世界。
最後は、青年が空想の世界の中に連れてこられる展開にしました。
いかがでしたでしょうか、感想やコメントをお待ちしています!
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