自業自得な提督 2
前回である「自業自得な提督」の続きです。
提督は、名前で登場します。
何人か艦娘たちが登場します。
突然仮想世界に連れて行かれ、何もかもわからない提督。
あれこれ脱出を図ろうとするも、失敗する。
今日も提督は、脱出を図ろうと決意するのだが・・・・・・。
深夜の鎮守府。
大きな雨粒が、ぴしゃりと頬を叩かれる。レインコートを着た長身の男は、濡れた地面をびちゃびちゃと音を鳴らしながら走る。右手には懐中電灯を持って、数歩先の地面を照らす。男はその都度後ろを振り返っては、さっきまで男がいた庁舎を見る。庁舎との距離がだんだん離れていくことを確認して、足を動かそうとしたとき靴先が何かにつまずき、男は地面にうつ伏せになって倒れる。
この男、黒井兼雄。少し前、ひょんなことから鎮守府に着任したばかりの提督だ。黒井は、この鎮守府からとにかく逃げ出そうとしていた。
雨音が黒井の耳を支配する。レインコートを着た背中には、のしかかるような雨粒が降り注ぐ。黒井の頭のなかで、あらゆる思考回路が駆け巡る。
そうこうもしてられないうちに黒井は立ち上がり、また一目散に走る。むしゃくしゃな気分になり、フードをがしりと掴んでまくりあげた。髪の毛が、瞬く間に雨水を染み込んでいく。
しばらく走っていると、向こうにわずかであるが電灯の光が見えた。あそこまで行けば門だ。これでようやく出られる。ぼんやりと見えるゴールが、レインコートの湿気で全身汗だらけになった感触を忘れさせてくれる。
だが、黒井の足は動こうにも動けなかった。電灯の下には黒い塊が見える。黒井は背を屈んで息を殺し、懐中電灯を消した。その目つきは、獲物を捕らえるようにも見え、捕らわれるようにも見える。なにせ、下手に行動することが出来ない。
黒井は、得体の知れないものに気付かれぬよう全神経をフル稼働させる。すると、黒い物体から、小さな光がついた。まるで、光る眼のように見えて不気味だ。男は瞬時に、こちらの正体を暴こうとして照らしてきたと察知する。
その瞬間、黒い物体と小さな光が黒井に襲い掛かってきた。黒井は来た道を引き返す。うまくいっていた行動が全て台無しになり、次の策を練るのに必死になる。獣の標的にされている黒井は逃げる恐怖のあまり、足が思うように動いてくれない。
やがて、黒井の思考は完全に機能停止を果たし、ただ退避する行動しか選択できなくなった。庁舎の入り口が見えてきた。だが、いつのまにか仲間を呼んだのだろうか、前方にも小さな光が見える。挟み撃ちされてしまった。ならば、入渠施設か、工廠施設に身をひそめるしかない。そう思い、足を方向転換させようとしたのだが、濡れた地面に足を滑らせてしまい、転倒させてしまった。
二つの小さな光が、どんどん近づいてくる。黒井はもう動けない。突然、レインコートを何者かがつかみ、小さな光であった懐中電灯を、黒井の顔に当てる。
「提督、どうして逃げようとするの?」
捕まえた者は、よく見ると二人の人間。
「提督。こんな時間にどこに行こうとしてたのですか。しかも、こんな大雨の中で」
「また逃げようとしたでしょ。ムダって、何度も言ったじゃない」
黒井はおもむろに懐中電灯をつけて、二人の顔を照らす。二人ともレインコートを着ていた。至近距離での光を浴びるまぶしさから、二人とも手で光を遮る。
「朝潮に雷か。君たちこそ、こんな時間に何をしているんだ。就寝時間をとっくに過ぎているはずだぞ」
「私は、司令官がこれ以上逃げないようにするために、門番をしていました」
「こんな大雨の中で?」
自分の仕事だから当然であるかのように答える朝潮に、黒井と雷は驚いた。
「朝潮、いつまであそこの門にいるつもりだったんだい?」
「朝までです」
「いやいや、風邪ひくわよ、朝潮」
「暖かい服装をしていますので心配いりません」
「そんな問題じゃないよ!とにかく司令官、帰るわよ。立てる?」
「ああ、ありがとう・・・」
雷に引っ張ってもらい、なんとか立てることが出来た。三人は、庁舎の玄関まで帰っていく。
「ひっ!?」
突如、雷がおびえた。
「どうしたんだ雷?」
黒井の問いに、雷は前方を指でさした。
玄関に人が見える。それも、両手を腰に手を当てて仁王立ちしている艦娘であった。にっこりとした表情を浮かべているが、同時に相手を威圧させる雰囲気も漂わせている。
「提督、こんな夜更けにどちらまで行かれていたのですか?」
「なんでまた鳳翔がここにいるんだ・・・」
黒井は頭の中で、言い訳を考えようとしたが、なかなかうまい言葉が見つからずにいた。鳳翔はさらにしゃべり続ける。
「言いたいことは山ほどあります。あとで、私の部屋までいらしてください。お話がありますので。それに、あなたたちもですよ」
「な、なんで!?」
「あなたたちも、夜遅くに何をしているというのですか?とっくにおねんねの時間じゃないですか」
朝潮と雷はしゅんとなった。
黒井の脱出が失敗して、鳳翔の説教が待っていた・・・・・・。
鳳翔はため息をついた。
「またですか、提督。これで何度目になると思っているんですか」
黒井は正座していた。
鳳翔の説教はとにかく話が長い。相手の心を改心させようとするまで説教をするが、とにかく話が長い。
一時間では済まされるのならまだいいほう。たいていは二時間以上であり、何度も説教を受けている黒井は知っている。隣で正座している朝潮と雷は、長時間の正座に苦痛を感じつつもそれを我慢して聞いていた。
鳳翔の長い説教が終わると、時刻は午前二時を回っていた。黒井は部屋に戻って、すぐにベッドにもぐった。相変わらず外は雨が降り続けていた。黒井は、泥のように眠りについた。
翌日になってから、黒井は風邪をこじらせた。原因は、昨晩の大雨に打たれたことによるのはいうまでもない。
朝潮も体調を悪くしていたが、暖かい恰好をしていたおかげか、軽い頭痛程度である。
黒井は、ベッドで横たわっていた。
「まったく、自業自得な提督なんだよねぇ・・・。鳳翔さんから聞いたよ、昨日の晩に大雨の中にもかかわらずここを抜け出そうとしていたってことを」
たまたま看病しに来ていた伊勢が、ぶつぶつ文句を言っていた。
「いい加減あきらめて、ここの提督になってほしいんだけどなぁ~。ほい、口をあけて~」
「ゴホッゴホッ、それぐらい、自分でやるよ・・・ゲホゲホ」
「わたしのいうことを聞いてくれないと、提督の病気が完治するまで、鳳翔さんに看病の相手をしてもらうぞぉ~」
「それだけはやめてください!」
鳳翔に相手にされると、看病の傍らで説教も起こり得るし、ストレスになるだけだ。
「ふふっ、それならなおさらわたしのいうことをきかなくっちゃ」
黒井は看病するまでの間、艦娘たちにおとなしく看病してもらっていた。
とりあえず、ここまで書くのが限界でした・・・。
このss結構好きですよ
コメントありがとうございます。
気に入っていただきまして、ありがとうございます!