提督「俺が鎮守府の提督に?」
陸軍から異動してきた提督が戦ったり恋愛したりほのぼのしたりするお話。
提督「大佐、こちら提督。これよりミッションを開始する。」
大佐「遊んでないで早く行け。」
提督「(*´・ω・)ウィッス」
「はあ……」
セミも文句を言いそうなほどの暑さの中、俺はとぼとぼ歩いていた。
目的地であるこの半島の鎮守府はまだまだ先のようで、考えるだけでさらに暑くなってくる。
訓練での暑さならば大したことはないが、今回ばかりは事情が違う。
もともと俺は陸軍の兵士なのだ。
だが、諸事情により本日付でこの半島の鎮守府に提督として着任することになった。
なんでそんなキテレツなことになっているのか、説明するのならば少し時間を遡る。
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ある日の訓練終わり。
「よう、提督」
「大佐、お疲れさまです」
同じ基地に所属している大佐が俺に声をかけてきた。
この人は基地の中でもかなりの古株で、昔から世話になっている。仲間や上層からの信頼も厚い、優秀な士官だ。
そんな彼からの頼みとすれば、心当たりはひとつ。
「お前に特別任務だ」
「またコンビニにお使いですか? 教官にばれて俺らがどうなったか知ってますよね?」
ダッシュ30キロに腕立て腹筋スクワット1000回。本当に死ぬかと思った。
「いや、そうじゃない。お前な、海軍に異動することになった」
「……は?」
このハゲは何をいってやがるんだ?
同人誌で滑ってコケて頭でも打ったんじゃないのか?
「なんですかそれ、意味不明なんですが」
「そのままの意味だ。今期の任務を持ってお前は海軍に異動になる」
「俺を売ったんですか?」
「な訳あるか。それに異動とはいってもただ向こうの兵士になるって訳じゃない」
じゃあ何になるってんだ。士官なんかは絶対にごめんだが。
「艦娘、鎮守府、深海棲艦。ここら辺の話は聞いたことあるだろ?」
「……」
艦娘。聞いたことはある。女の子の姿をしていて、一人一人が軍艦一隻レベルの戦闘力を持ち、人類を脅かす敵と戦っているとかなんとか。
「まさか……」
「そのまさかだ。お前には新しく提督として着任してもらう」
「あ、そっちか」
「なんだと思ったんだ?」
「いや、てっきり俺も一緒に戦わされるのかと」
正直そっちの方が気楽ではある。艦娘とかいうのがどんなのかは知らないが、自分の能力でどうにかなるのならやりようはある。
「まあそんなところだ。せいぜい頑張れ」
いやいやいや、このまま引き下がれるわけがない。
あらゆる手を使って大佐を揺さぶらねば。
「へえ~、いいんですか? 大佐、俺を飛ばしたらもう二度とコレクションを拝むことはできないんですよ?」
ちなみにここで言うコレクションとは大人気サークルの書いている同人誌のことである。入手方法は企業秘密。
付け加えるとこの大佐は重度のロリコン野郎である。
「な、貴様、それは卑怯だぞ!」
「いや俺がいないところで勝手に決めといて何言ってるんですか!」
「まあ聞け。早まるな。軍義中にお前を推薦したのは准将だ。オレジャナイ」
「あの野郎……」
准将はこの基地の基地指令も同時にこなしていて、当然ながら買収済みである。そのため、俺たちは基地のなかでもある程度自由が利く。
追記、准将はおねショタ専門家である。
「どうにかならないんですかそれ……」
「無理だな」
「なんてこった……」
ここ以外の場所で、このメンバー以外の連中と一緒に戦うことなんて考えても見なかった。とてつもなく憂鬱になる。
「ま、准将がお前を推薦したのにも理由はある。それをよく考えてやるべきことをやれ」
「……」
「それとこれ、今後の予定だ」
大佐から受け取った紙には、いくつかの今後の行事が書かれていた。
「なんですかこれ、研修?」
「ああ。いきなり着任って訳にはいかないらしい。まずは二、三ヵ月の研修を経てから着任しろとのことだ」
「めんどくせ」
何が研修だ。戦いもしない上のやつらが作ったマニュアルなんて役立たずに決まっているではないか。
「俺が言うのもなんだが、まあつまらないだろうな。既知の知識ばかりだろうし、周りは士官学校卒のお坊っちゃんばかりだ」
「うわあ素敵」
「ま、寝てりゃ終わるだろ。今日の夜にでも飲むぞ。俺からの餞別だ」
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その日は、大佐としばらく酒を飲んで話をしてから就寝した。
次の日。
「やれやれ、いよいよか……」
「ま、気楽にやってこい。そんなに気負うようなことでもないだろう」
「うっす」
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一ヶ月半後。
「ただいま戻りました」
「おう、早かったな」
予定よりも遥かに早い帰還。それを出迎える大佐の顔はいつも通りだった。
「話は聞いた。災難だったな」
「……怒らないんですか?」
「俺がか? 確かに喧しいやつらはいたが、俺は怒ってなんかいないぞ。むしろおまえのやったことは誇らしく思っている」
「……ありがとうございます」
何があったか説明しようか。
最初の一ヶ月ほどの期間は、研修学校で座学を中心とした研修を行っていた。
それは予定通りに終わったのだが、次の研修が実際に鎮守府で提督の業務を手伝うという内容だったのである。
そして幸か不幸か、俺の研修先の鎮守府の提督は絵に書いたようなクソ野郎だったのである。艦娘をまるでモノのように扱い、進撃時の犠牲も厭わない、挙げ句の果てに軍法会議モノの不正も数多く働いているようだったのだ。
その事実を知った俺はその日のうちに決断し、不正の証拠を集めた後にそれを上層部に叩きつけ、その提督と取り巻きの連中をぶん殴った。
結局、予定では3ヶ月ほどだった研修は1ヶ月半で終了し、今に至る。
思い返せば、我ながらやりすぎたかもしれない。もっと他の方法もあったのかもしれない。
だが、あの鎮守府の状況を目の当たりにして見過ごすことなど俺にはできなかった。
自分を殺してまで研修を続ける利益なんてない。そう思った。
少なくとも、海軍の内部がこれほどまでに腐っているうちは。
「で、これが大本営からの通達だ」
大佐から渡された通達書には、こう書いてあった。
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通達
第二支部東基地所属〇〇中尉
貴殿ノ着任ス鎮守府決定ノ旨ヲ伝エル
明日、モシクハ明後日マデニ着任スベシ
尚、研修中ノ貴殿ノ行動二関シテハ称賛ノ意ヲ表スルモノトスル
鎮守府ニハ既二一定量ノ資材及ビ秘書艦ヲ待機サセテイル。早急二向カワレタシ
大本営
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相変わらず機械的な文面に苛立ちを覚えつつ、俺は小さくため息をついた。
「見ての通り、特にペナルティもなしだ。よかったな」
「そうですね」
「必要な物の手配は済ませてある。お前は早く自分の持ち場へ行け」
「……はい」
「迎えの車もそのうち来る。それじゃあな」
「……」
大佐はいつもと変わらない様子で、用件だけ告げるとさっさと歩きだした。
そんなもんか、と半分飽きれ、半分苦笑いしながら俺も歩きだす。すると、少ししてからまた大佐の声が聞こえた。
「おい、提督」
「……?」
「頑張れよ」
大佐のくれたその一言が、俺にはものすごく大きくて、大切なものに感じた。
「……長きにわたりご指導ご鞭撻、本当にありがとうございました。行ってきます!」
「おう」
そうして、俺は大佐の用意してくれたタクシーに乗り込んだ。なんでタクシーなのかは知らんが。
さて、このままいけば俺は今ごろ目的地の鎮守府に着いていたはずだ。
そう、着いていたはずだったのだ。
あれさえなければ。
基地を出発してから二時間ほど経った頃だろうか、突如として俺の乗ったタクシーの前方に暴走族たちが現れた。
まあまあ時代遅れなそいつらはなぜかタクシーの前で煽り運転。運転手は激怒し、おいかけっこ開始。
挙げ句にガソリンは底をつき立ち往生。
さすがに申し訳ないと運転手は言ってきたが、俺は一刻も早くこの運転手から離れたかった。
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そうして、今に至るというわけだ。
まったく、運がないというかなんというか……。
「ん、あれか……?」
項垂れながら歩く俺の視界に、ようやくそれらしき建物が目に入った。
「や、やっと見えてきた……」
俺は悲鳴をあげる足に鞭打ってさらに歩いた。
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「鍵は……開いてるか」
静まり返った鎮守府の扉を開き、中に入る。
そういえば既に秘書艦を待機させてるとか言ってたな。未知の敵と戦う女軍人など、どんなゴリラ女なのか……。
この世に教官より恐ろしい女などいないと思っていたが、間違いかもしれない……。
「それにしても広いな、ここ……」
見た目通りのかなり立派な建物だ。基地ほどではないにしても、かなりの広さでなかなか目的の部屋が見つからない。
何やら執務室なる場所へ行けと通達にはあったが、そもそも執務ってなんだ?
「お、あそこか?」
しばらく歩いていると、ようやく執務室と書かれたプレートのある部屋を見つけた。
通達通りなら、既に秘書艦が待機しているはず。
「すー、はー……」
軽く深呼吸。
果たして、一体どんなゴリラ女が待ち構えているのだろうか。
「第二支部東基地の○○二等陸尉、ただいま到着した。入ってもいいだろうか?」
ドアをノックしながら言う。
「は、はい! どうぞ!」
返事をした声はとても綺麗だった。軍人にしては珍しい。
そして何やら慌てているような様子だが、どうしたのだろうか。
「失礼す、る……?」
とりあえず入ろう、と思いドアを開けた俺は、目の前の光景に愕然とした。
「は、はじめまして! 白露型駆逐艦六番艦の五月雨っていいます! よろしくお願いします!」
俺はてっきり幻覚でも見てるんじゃないかと、何度か目を擦った。
拝啓、教官殿。
どうか安心して欲しい。やはりあなたより恐ろしい女性などこの世には存在しません。
そこに立っていたのは、五月雨と名乗る青髪の綺麗な少女だった。
大佐が喜びそうな子だな……。
じゃなくて。
「あ、あの……提督?」
「あ、ああ、済まない。ええと、君が通達にあった秘書艦、でいいのか?」
「はい! 一生懸命頑張ります!」
「お、おう。じゃあ、これからよろしく頼む」
「はい!」
艦娘って可愛いのか……。
これはもしかしたら、とんでもなく役得な仕事に就いたのかもな……。
……ん?
疲れているのだろうか、何やら五月雨の肩に小人のようなものが乗っている。
今度こそ幻覚なのだろうか。
「な、なあ、五月雨くん?」
「はい、何でしょうか? あの、提督、五月雨でいいですよ?」
五月雨は笑顔でそう言った。
な、なんだこの可愛い生物は! 持って帰りたい!
いや、これからはここが帰る場所なのか。
じゃなくて!
「ああ、変な事言うが、五月雨の肩に乗ってるのは……?」
「……え?」
五月雨は驚いたような顔をした。
やはり幻覚のようだ、やばい……。
「すまん、忘れてくれ。ちょっと疲れてるみたいだ」
「あ、待ってください! この、カチューシャをつけた制服の女の子の事ですか!?」
「ああ、そうだ。やっぱり五月雨にも見えてるのか?」
「はい! むしろ、なんで提督に見えるのでしょうか? 普通の人たちにはこの子達は見えないはずなのですが……」
「な、何で俺に……? というか、その子は一体……?」
五月雨の肩にちょこんと座る子人は、不思議そうに俺の顔をマジマジと見つめている。
「この子は私の出撃のお手伝いをしてくれる妖精さんの1人で、機銃の取り扱いを手伝ってくれる子です」
「よ、妖精……?」
リアリズムの塊である軍隊の中での、突然のファンタジー。
俺でなくても混乱するだろう。
「妖精さんっていうのは、私たち艦娘の戦闘や修理を手伝ってくれる特別な小人さんたちのことです。本来は私たち艦娘にしか見えないはずなのですが……」
「なんで俺に見えるんだろうな……」
「うーん、全然分かりません……」
五月雨も難しい顔をした。話してくれたとおり、俺が妖精さんを見ることが出来るのは極めて特異的なことらしい。
それにも何かしらの意味があるはずなのだが……。
「まあ、何はともあれこの子も戦友なんだよな。よろしく頼むよ」
五月雨の肩に乗る妖精さんにそう語りかけると、妖精さんは自信に満ちた顔でビシッと敬礼をした。
「はは、いい敬礼だ」
軽く笑いながら人差し指で妖精さんの頭を撫でる。妖精さんは満足気だ。
視覚できるのと同じく、触れることもできた。
すると、五月雨が異論の声を上げた。
「あ、ずるい、私も!」
「え?」
「私も撫でてください!」
「お、おう……」
謎の勢いに押し切られ、五月雨の頭もぐりぐりと撫でる。
艶々とした青髪はとても触り心地が良く、何やらいい匂いまでしやがる。
女性慣れしていない俺のOSは既にオーバーヒート寸前だ。
「なんだこの状況……」
軍人らしからぬ、ゆったりとした雰囲気に苦笑いしつつも、何とかなりそうだと俺は思った。
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「ぐおお、重い……!」
「よいしょ、よいしょ」
「悪いな、力仕事なのに手伝わせて」
「いえ、これも秘書艦の務めです!」
俺と五月雨は今、大本営から送られてきた鎮守府運営のための書類やら何やらの整理に追われていた。
鎮守府稼働初期と考えれば仕方の無いことだが、如何せん量が多い。
クソ、基地にいた時はこういう雑務は賭けに負けた奴(9割が大佐)がやってたからな……。
すぐに使いそうな書類はデスクへ、そうでないものはファイリングして棚へ。備品は押入れや倉庫へ。
暫くの間二人がかりで作業したのち、ようやく一段落することが出来た。
「ふう、こんなもんか」
「お疲れ様です!」
「ああ、五月雨もありがとな」
椅子に腰掛けながら軽く礼を言う。
可憐な見た目もさることながら、五月雨は本当にいい子だ。
秘書艦だから、と本人は言うが、文句のひとつも言わずに小さな体でせっせと作業を手伝ってくれた。これは絶対に大佐には言えない。
すると、五月雨が再び声をかけてきた。
「あ、提督、もうひとつ開けてないダンボールがありますよ? 送り主は……提督のいた基地?」
「え?」
基地からのダンボール?
「これも開けt」
「ストオオオオオップ!」
「きゃあ! ど、どうしたんですか!?」
五月雨の手元から強引にダンボールを奪い取った。
ダメ、ゼッタイ。あいつら碌でもないもの入れたに決まってる。
薄い本とかだったら初日に俺の提督生命が終わる。
「い、いや、これは俺が開けるから! な!?」
「は、はい……」
恐る恐る、ダンボールを開けてみた。
すると。
「あ……すまん五月雨、大丈夫だ。見ていいぞ」
「わあ、これって……」
ダンボールの中には、基地の仲間たちが入れたであろう彼らと俺の写った写真や、思い出の詰まった物が沢山入っていた。
「ああ、俺がいたとこの連中だ」
「みんな楽しそう……! すごくいい人達に見えます!」
「ああ。バカなことばっかやる連中だが、一般的なイメージみたいに悪い奴らはいないさ」
アホ面で笑う仲間たちを見ると、少しだけ寂しく感じる。
もう会えない訳でもないが、なんだかんだで大佐に拾われてからアイツらとはずっと一緒にいたのだ。
「またみんなで飲みてぇなぁ……」
ポツリと呟くと、五月雨が不安そうな顔でこう言ってきた。
「あの、提督……」
「どうした?」
「提督は、ここでお仕事をするのは嫌ですか……?」
五月雨の顔は、先程までの明るい顔とは打って変わって、寂しそうになっていた。
我ながらデリカシーに欠けた発言だったかもしれない。
「まあ正直、いきなり異動って言われた時はふざけんなと思ったけどな。でも俺は、これからたくさんの仲間と出会って、たくさん笑って……」
大佐は、ここに来る前にそうなった意味をよく考えろと言っていた。
そんなもの俺に分かるわけがない。
使えない頭を使おうとしてもしょうがない。だったら、俺は俺に出来ることをする。
基地のみんなが俺にしてくれたみたいに。
「誰にでも胸張って最高だって言える鎮守府にしたいと思ってる。もちろん、五月雨も一緒に」
俺は、基地の仲間たちは誰にでも誇れる最高の友だと思ってる。
だから、ここもそんな場所にしたい。
「……提督!」
「ん?」
「私、頑張ります! 提督がこの場所を皆さんに自慢出来るように! この鎮守府を、最高の場所に出来るように!」
五月雨は、もう暗い顔はしていなかった。
「……ああ、よろしく頼む」
さて、ここで終われば( ;∀;)イイハナシダナ-で終わるんだろうが、そうは問屋が卸さなかった。
あのハゲがこのままで終わるはずが無いということを、愚かにも俺は忘れていた。
「よし、じゃあそのダンボールも空にして畳んでくれ」
「分かりました! え、これ……」
「ん、どうかしたか?」
「て、て、て……」
「て?」
「提督のえっち!!!」
「ブヘァッ!!!」
右頬にとてつもない衝撃を受け、徐々に薄くなっていく視界に写ったのは、大佐が直々に選りすぐったコレクション(18禁)だった。
そ、そりゃこうなるわ……。あのハゲ、いつか性癖暴露してやる……。
決意虚しく、俺は冷たい執務室の床に受け止められながら意識を失った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「む……」
目を覚ました俺の視界には、見覚えの無い天井が映った。
「あ、提督。気分はどうですか?」
声のする方を向くと、そこにはうたた寝をする五月雨と、その五月雨に膝枕をしている少女がいた。
確か俺は、五月雨にビンタ食らって……。
あのハゲ、次にあったらタダじゃ済まさんぞ……。
じゃなくて。
「えーと、君は?」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。兵装実験軽巡、夕張です。よろしくね」
「兵装実験……プロパガンダみたいなやつか?」
「あー、そうかも。でも実験データは機密扱いだから、ちょっと違うかな?」
ちなみに、プロパガンダってのは宣伝とか広告とか、見た目的な意味合いになる。
「なるほど……で、なんでここに?」
「あれ、着任の書類見てませんか?」
「書類……纏めたぞ、ちゃんと」
中はまだ見てない。だって量多すぎるんだもん。
「あはは、災難でしたね。五月雨ちゃんから事情は聞きましたよ」
「はは、面目ない……あ、それと夕張、でいいか?」
「はい、何でしょう?」
「敬語なんて使わなくていいぞ。俺的にはあんまり上下関係とかも作りたくないし、リラックスしていこうぜ」
「提督……分かりました、じゃあ、これからよろしくね」
ニコッと笑ったその顔は、とても綺麗だった。まだ二人目だが、やっぱり艦娘って可愛い。
「ところでさ、提督ってこういうの好みなの?」
夕張は若干悪そうな笑みを浮かべて、懐からコレクションを取り出した。
それと同時に俺の体から汗が噴き出す。
「い、いや、違うんだ。五月雨には説明する間もなくぶっ叩かれたけど、それは俺のじゃなくて基地の仲間のおふざけなんだ」
本当は俺のだけど!
「へぇ〜。でもさ、提督」
コレクションを近くの机に置き、五月雨の頭をそっと椅子に下ろすと、夕張は俺のいるベッドに身を乗り出してきた。
「私、提督がしたいって言うんならこういうコト、してもいいんだよ?」
なすがままに上を取られ、そのままベッドに押し倒される。
如何せん女性との関わりなど皆無だったため、俺のOSは全く役に立たない。
教官は別。アレは人間じゃない。こんなこと言ったら殺されるが。
「い、いや、夕張……?」
「いいから、じっとしてて……」
夕張は目を閉じ、どんどん顔を近づけてくる。
綺麗な髪や整った顔立ちがますますハッキリと視認できる。丹念に手入れされたであろう髪からいい匂いまでする。
押し倒されているためか、体中が柔らかな感触に包まれていて、俺の理性を飛ばそうと躍起になっている。
だが、ここで勢いに任せる訳にはいかない。
「なあ、夕張、ちょっと待ってくれ。な、何でこんなことするんだ?」
なるべく優しく肩を掴み、少し体を離す。
クソ、肩まで触り心地良いとかヤバすぎるだろ!
「理由……か。確かに、提督は分かんないかもね」
夕張は改めて座り直し、話してくれた。
「私ね、ここに来る前は、提督が研修しに来てたあの鎮守府にいたの。本当に毎日が辛かった」
あの鎮守府。俺が研修に行き、そこにいた提督をぶん殴ってクビにしたあの鎮守府。
「でもある日、提督が研修しに来た日に、駆逐艦の子が泣きながら、でも凄く嬉しそうに皆に提督の話をしてたの。自分の話を真剣に聞いてくれた。泣いてた自分を抱き締めてくれた。心から怒ってくれたって」
泣いていた駆逐艦。名前は、電。廊下で泣いてるのを見つけて、色々と事情を聞いた。
「あの時は私は提督と口を交わすことは無かったけど、提督ならきっと私達を救ってくれるって皆が思ってたの。それが今、期待通りになってる。もうあの元提督はいないし、皆それぞれ自由になった」
確かに、思い返せばあの時は艦娘とはあまり言葉を交わさなかったな。と言うよりは俺が避けてたんだが。
「私は……私は、提督に感謝したくてもしきれない。だから、ここに来たの。貴方の力になりたくて。提督になら、何をされても平気」
夕張はまた俺に近付き、俺の首元に腕を絡めてきた。目元にはうっすらと涙が浮かび、顔は少し赤くなっている。
だが。
確かに、彼女たちからすれば俺は感謝の対象になるかもしれない。
だが、だからって俺はこのまま夕張の言う通りにするわけにはいかなかった。
「ダメだ」
俺はさっきよりも少し強めに、夕張を引き離した。
「え……?」
絶対にダメだ。
夕張がそういう事をしてもいい、されてもいいと思うのは、俺だから、じゃない。
俺が恩人だからだ。
あの出来事が、結果として彼女たちを救う結果になったとしても、それは俺じゃなくても出来ることだ。
仮にあの騒動を起こして、艦娘たちを救ったのが俺じゃなかったとしても、夕張はきっと恩を感じてこのような行動をするのだろう。
それじゃダメなんだ。
いや、キッカケに関しては誤解だが。
「夕張、聞いてくれ。お前がそういう風に思うのは、きっと俺が恩人だからだ。けど、あれは俺じゃなくてもできる。だからこういう返し方はして欲しくない」
夕張は真面目な顔で聞いていた。
これだけは伝えなければならない。
「もっと自分を大切にするんだ。夕張だって女の子なんだから」
俺は夕張の気持ちを受け取れるほど立派な人間じゃない。
「えーと、長くなっちまったけど何が言いたいかっていうと、そんなに気を遣わなくていいんだ」
また涙目になる夕張の頭を軽く撫でる。サラサラとした髪はやっぱり触り心地が良い。
すると、夕張は啜り泣きながら俺の体に抱きついてきた。
「夕張、大丈夫か?」
「うるさい、バカ……」
(分かってるよそんなこと……そう言ってくれる提督だから、私は……)
「……ありがとな」
腕の中で震える夕張を軽く抱きしめる。やっぱり女の子なんだな、と思った。
この子たちが深海棲艦どもに対抗するための兵器だとしても、俺はそんなことは思わないし、この子たちだって人間と一緒だ。
だから、俺が守らなきゃいけない。
もう二度と、あの鎮守府みたいな場所を作らないためにも。
「う、ん……」
すると、俺と夕張の横で五月雨が目を覚ました。
「お、五月雨起きたか」
「……」
五月雨は半分ほど体を起こした状態で静止し、驚いたような顔をしている。
俺も夕張もそれを見て静止。そして自分たちの状況を確認。
「「あっ」」
五月雨が再びパタリと倒れた。
「五月雨ぇぇぇぇええ!」
「五月雨ちゃん! 誤解だよぉぉおお!」
そこから誤解を解くのに数時間以上かかったのはまた別のお話。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
「くあぁ……ふう」
起床時刻はマルナナマルマル。いつも通りの時間だ。
さて、トレーニングしに行くか。
つっても、トレーニングルームなんかないよなここ……。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「はっ、はっ……」
俺は海岸沿いを走っていた。
散歩する市民と挨拶を交わしつつ、少し足を止めた。
「ふう、これからはこの海を守るんだな……」
海からの風が火照った体を通り過ぎてゆく。
これから、鎮守府で提督としてやっていくことに関して、自信はあまりなかった。
戦線で小隊を率いたりする経験はあるが、仲間たち全員に常に気を配ったり、上とコミュニケーションを取ったりするのは大佐たちの役割だった。
だが、今は違う。
五月雨や夕張は、俺が守らなければならない。
この海軍の現状から。
「やるしかない、よな……」
改めて覚悟をしていると、空気を読まずに腹の虫が鳴いた。
時刻はマルナナサンマル、帰路の時間も考えれば、そろそろ引き返すのが妥当だろう。
そう思ったその時だった。
「ん……?」
ふと目をやった海面に、何かが浮かんでいる。
人、か……?
いや、そんなわけ……。
いや人だ!
「クソッ!」
上着を脱ぎ捨て、俺は一目散に海に飛び込んだ。
意識があるようには見えなかった。
漂流者か何なのか分からないが、溺れているのだとしたら一刻を争う。
頼む、間に合ってくれ、と必死に泳いだ。
ーーー ーーー ーーー ーーー
マルハチマルマル、鎮守府にて。
俺は海に浮かんでいた女性を背負い、息も整わないまま五月雨たちに助けを求めた。
「ゲホッ、五月雨、夕張! 頼む、来てくれ!」
「は、はい! どうしたんですか!?」
「提督、どこ行って……どうしたの!?」
二人とも、ビショ濡れになった俺と女性を見て困惑した。
だが、今は一刻を争う。
「この人を、医務室に早く! 水は吐かせた、から……!」
急いでいたこともあってか、俺自身、なかなか呼吸が落ち着かない。
しかし、夕張が女性を運ぼうとする俺と五月雨を止めた。
「ちょっと待って、提督……この人、やっぱり……」
「な、なんだ、何か知ってるのか?」
「提督、この人は艦娘だよ。間違いない。だから、医務室じゃなくて入渠ドックに運んで! こっち!」
思わぬ事実に驚きながらも、俺たちは急いだ。
助けた女性の体温はかなり低かったのだ。
まさに、この1秒が生死を分ける。
「くそ、間に合え!」
ーーー ーーー ーーー ーーー
「ここだよ、入渠ドック!」
入渠ドック、と書かれたプレートのある部屋に辿り着いた。
「この湯船の中に! 服は着たままでいいから!」
「よし、そっとな。よい、しょ」
迅速に、体に与える負担を最小限に抑えて湯船に女性を寝かせる。
すると。
「あ、提督、そのお湯に触っちゃ」
「えっいでででででで!」
湯船に張られていたお湯にしか見えない液体に俺の手が触れた途端、ビリビリと痺れるような痛みに襲われた。
俺は驚いて咄嗟に手を引っ込めた。
「いってぇ! なんだこれ!?」
「これ、艦娘の入渠用のお湯は人体に有害なんだよ! 手、大丈夫?」
「ああ、大丈夫そうだ……気を付けるよ」
「本当に? 溶けたりしてない?」
「溶ける? 怖っ……大丈夫そうだが……」
「なら良かった……」
俺は目線を手から女性に移した。
これだけ近くで騒いでも、全く起きる気配がない。
見た目以上に傷は深そうだった。
「このまま待ってればいいのか?」
「はい、そうです」
「提督、そろそろ事情聞いてもいい?」
「ああ、急に悪かったな。着替えてくるから執務室で少し待っててくれ」
濡れた服を洗濯カゴに入れ、執務室で事情を説明した。
「そうだったんだ……」
「ああ、俺が見つけられて良かったよ……」
「とりあえず! 提督、勝手に出ていかないこと!」
「え?」
「居なくなってて、すごく心配したんだから。五月雨ちゃんまた泣きそうになっちゃうし」
「な、泣いてないですよ!」
「はは、悪いな、次からはちゃんと声をかけるよ」
俺なんかのことを心配してくれるとは、嬉しい限りだ。
何にせよ、まずは女性が目を覚ますのを待つしかなかった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「なあ夕張、あの様子だと完治までどのくらいかかりそうか分かるか?」
「そう、だな……」
夕張は手元の資料をパラパラとめくり、電卓を慣れた手つきで扱う。
「顔が髪に隠れて見えなかったから確証は持てないんだけど、たぶんあの人は戦艦。それがあそこまで重傷だと、六、七時間はかかるかな……」
「長いな……」
「高速修復材があれば話は別なんだけど……」
俺と夕張が現状に頭を悩ませていると、五月雨が思わぬ一言を発した。
「あれ? 提督、確か資材と一緒に開発資材と高速修復材もたくさん届いてませんでした?」
「え、そうだっけ?」
鋼材やらボーキサイトやらは山のように送られてきて今は倉庫の中だが、高速修復材はどれかよく分からなかった。
「高速修復材って、緑色のバケツみたいなやつだよ?」
「え、ああ、あれか。オイルか何かだと思ってたが」
「良かった、備蓄はあるんだね。じゃあ使ってくるよ」
思わぬ幸運に感謝しつつ、俺も席を立った。
「俺も行くよ。傷が治ったら空いている部屋に運ぼう。五月雨も来てくれ」
「は、はい!」
廊下を歩きながら、俺は不安を胸に募らせていた。
傷が治っても意識が戻るとは限らない。
ずっと昏睡状態のままの奴も見てきた。
今はただ、そうならない事を祈るしかなかった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「よいしょっと。じゃあ入れるね」
湯船の中に緑色の液体が注がれていく。まるでメロンソーダみたいだ。
「おお、すごいな……」
あっという間に傷が治っていく。切り傷も火傷跡も、綺麗に無くなった。
「よし、これで完治したはず」
「医務室まで運ぼう。せーのっ」
ーーー ーーー ーーー ーーー
鎮守府の構造上は、おおよそ学校に近しいものがある。
食堂や医務室、執務室など、業務に関わる部屋は多くが一階に集まっている。
そしてその上の階には、主に艦娘達の部屋がある。今は空き部屋も多く一人一部屋を利用しているが、大所帯な鎮守府では艦種ごとに階が分かれていたり、相部屋があったりするそうだ。
ちなみに、俺の自室は執務室の隣にあって、普通の部屋よりは狭めに作ってある。もともと置く物もないから何ら問題は無い。
今は、入渠ドックと医務室が近い事をありがたく思う。
一番手前のベッドに、女性の体をそっと横たえた。
「……くそッ」
まだ目は覚まさない。
嫌な記憶が頭をよぎる。
「……夕張、悪いがしばらくこの人に付いていてくれないか」
「うん、分かった。任せて」
夕張は快く了承してくれた。
いくら女性の容態が気になるとはいえ、鎮守府はもう稼働している。報告書も書かなければならない。
その日1日、付きっきりになることは出来なかった。
俺は執務室に戻り、五月雨を秘書艦として執務をこなしていった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「ふう、こんなもんか……」
業務日誌に資材計算、作戦通告書類と、なかなかにボリュームのある仕事だった。
今までは体を動かすようなことしかしてこなかった分、この先ずっとこんな感じだと思うと少なからず気が重くなる。
「お疲れ様です、提督」
「ああ、五月雨もありがとな。助かったよ」
「えへへ〜!」
五月雨の手際はかなりのものだった。他のことに関してはドジっ子属性が目立つのだが、重要な仕事に関してはミスがないようにインプットされている、と書類にはあった。
その言い回しが気に入らず、その紙を破り捨てたのは言うまでもない。
すると。
「提督! ちょっと来て!」
夕張が焦りを露わにして執務室に駆け込んできた。
「何だ、どうした?」
「助けた女の人、段々呼吸が弱くなってきてて……このままじゃ……!」
「ッ……!」
ゾッと、得体の知れない悪寒が体を伝う。
俺たちは医務室へと走った。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「クソ、何でだ……!」
傷は治っている。それは間違いない。
俺は力強く手を握った。
「頼む、そんな簡単に居なくならないでくれ! 俺から離れていかないでくれ……!」
「提督……」
何故かは分からないが、無性に胸が痛くなる。
誰かが目の前から居なくなってしまうことが、初めてではないかのように。
「目を覚ましてくれ……!」
ドクン
ドクン
昏睡状態に陥っていて、目覚める兆しが無いと言われていても、意識を取り戻すことはある。
科学的、医学的に説明が出来ないとしても、何処かにあるその人の心が、生きたいと、強く願えば。
心臓は、熱く鼓動を刻み始める。
「……」
俺が手を握ったまま、女性は目を開き、起き上がった。
俺も夕張も五月雨も、静止してしまった。
女性は柔らかい目で俺を見つめている。
「あなた、なのね。私を呼んでくれたのは」
「呼んだ……?」
「ありがとう……」
彼女はとても嬉しそうに、俺の手をギュッと握り返してきた。その手はしっかりと暖かかった。
だが、俺はその時、目の前の状況に頭の整理がついていかなかった。
それは後ろの二人も同じようだった。
「とりあえず、名前を聞かせてくれないか?」
「扶桑型超弩級戦艦、姉の方、扶桑です。提督、私を呼んでくれてありがとう」
「呼んだっていうのは……?」
俺は扶桑の名前を知らなかった。
それは確かだ。
扶桑は握った俺の手を見ながら話してくれた。
「暗い暗い海の底で、ずっと助けを待っていた。けれど、ようやく助けに来てくれたその艦隊の指揮官は、私を必要としなかった」
通常、出撃後の戦況判断や撤退指示は旗艦に一任されている。だが、扶桑の言い方だと、鎮守府の提督が見捨てろと指示を出したことになる。
別段不思議なことでもない。トランシーバーひとつ持たせておけばできることだ。
通信することだけなら。
「やっと陽の光を見られたのに、何も出来なくて、悔しくて、寂しくて、辛くて……燃料も尽きて、意識も体も、また海の底に沈んでいった」
全身がザワつくのを感じた。
戦場ならば、たとえどんなに気に食わない部隊がいたとしても助け合うのが常識だ。ミスをすれば死ぬのだから。
助けを乞う艦娘を見捨てるなんて、俺は絶対に許せない。
「もう、疲れたなぁって。ここで終わってもいいんじゃないかって思った」
傷が治っても目が覚めなかったのは、そういうことか……。
「けれど、上の方から、小さな光が私を照らしてきた。それは、どんどん大きく、力強くなって……私に優しい言葉を、力強い言葉を、沢山くれた。あの光はきっと、いえ、間違いなく……」
扶桑は再び俺の方に向き直って、言った。
「提督、あなたのものだった」
「そう、か……」
届いていた。
俺の声は、ちゃんと。
今度こそ……。
ん、今度こそって何だ……?
「とにかく、目を覚ましてくれて良かった……何処か体に不調とかはないか?」
「大丈夫です。少し気だるいくらいで」
「そうか……まだ体調も心配だし、ゆっくり休んでくれ。細かいことは明日でいい」
俺自身、相当疲れが溜まっているのが分かる。
トレーニングそのものはいつも通りだったとしても、そこから全力で海を泳ぎ、人ひとりを背負って走り、慣れない執務をこなした。
既にかなりの眠気が襲いかかってきている。
「夕張と五月雨も、今日は上がってくれ。色々ありがとな。助かった」
「わ、分かりました。お疲れ様です」
「提督も、ちゃんと休んでよ?」
「おう。おやすみ」
軽く手を振って、医務室を出ていく二人を見送る。
「さて、俺もそろそろ……」
二人に続いて医務室を出ようと立ち上がると、扶桑が俺の手を名残惜しげに握り直した。
「ど、どうした? 扶桑」
「あっ、す、すみません。何でもないです……」
無意識の事だったのか、扶桑は恥ずかしそうに手を離した。
「……」
俺は大佐ほど空気が読めないわけじゃない。
1人は寂しいのかもしれない。
目の前で自分が見捨てられたトラウマなんて、そう簡単に消えるものじゃない。
今日くらいは、本人が良いと言うのなら一緒にいてあげてもいいかもしれない。
「なあ、扶桑。今日は俺もここで寝ていいか?」
「えっ……?」
「1人は寂しいもんな。それくらい、俺にも分かるから」
「提督……もちろんです」
着替えと支度をするために、俺は一旦医務室を離れた。
そして、その間にスマホでやるべき事をやっておいた。
ーーー ーーー ーーー
「よし、じゃあ寝るか」
「は、はい……」
もちろん、ベッドは別々だ。
扶桑の要望でくっ付けてはいるが。
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
あ〜、本当に一瞬で眠れそうだ……。
ウトウトとしていると、左手に柔らかい感触を感じた。
「扶桑……?」
隣を見ると、扶桑が口元まで布団をかぶってこちらを見ていた。
「ごめんなさい、あの、眠るまででいいので、こうしていてもいいですか……?」
見た目に似合わず幼げなその要望に、俺は思わず微笑してしまった。
「ああ、もちろん」
そう応え、扶桑の手を握り返したのを最後に、俺の意識はどんどん遠のいていった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
次の日。
時刻はマルナナマルマル。
普段の起床時刻と比べると幾分か遅いが、おおかた夕張と五月雨が気を遣ってくれたのだろう。
「ぬぅ……」
暖かい……。
あれ、俺は確か昨日……。
五感が周りの状況を知覚し始める。
何となく寝返りをうつと、ふにゅん、と柔らかいモノが俺の顔にあたった。
「ん、何だこれ……」
目も半開きのまま、顔に当たった何かを手で退かそうとする。
モニモニ。フニフニ。ぽよん。
なんとも言えない柔らかさ。
マジでなんだこれ。
「んぅ、提督、そんなに触っては……」
すぐ側から恥ずかしそうな声が聞こえてくる。
そして段々と俺の血の気が引いていく。
「……」
「お、おはようございます、提督」
アカーン!!!!!!!
これはアカーン!!!!!!!
あ、あの柔らかいモノはおおおおお、おっ……!
俺はすぐさまベッドから飛び退き、鮮やかに土下座をした。
「本当にすみませんでした。どうか一思いにやってください」
一度、夏の水泳訓練中に教官の胸に触れてしまった同僚がいた。
不慮の事故なのは誰の目にも明らかだったのだが、次の日、彼は1週間分の記憶と眉毛を失って戻ってきた。
それ以来、俺たち東基地の中では女性(胸部)への接触をタブーとしている。
「あの、提督、よく見てください……」
申し訳なさそうな扶桑の声に、ベッドの方に目を向けてみた。
「その、提督ではなくて私が、提督のベッドに入ってしまって……」
言う通り、扶桑は俺が昨日眠ったベッドの上にいた。
つまり、俺は全く気付いていなかったが、ほぼひとつのベッドで添い寝していたらしい。
「……」
「……」
二人して顔が真っ赤になった。
「……ぷっ」
「ふふふ」
「あははは」
なんだか可笑しくて、二人して笑ってしまった。
「いや、本当に済まなかった。何だったら殴ってくれていいぞ」
「もう、だからさっきのは私が悪いんですよ」
とりあえず、命があってよかった(俺の)。
扶桑の体調も大丈夫そうだ。
「起きられそうか?」
「はい、大丈夫……です」
手を貸しながら、扶桑が立ち上がるのを見守る。
立ち上がってから気付いたが、扶桑は中々に高身長だ。それでいて体はすんなりとしていて、肌も綺麗だ。
間違いなく美人の部類に入るだろう。
「……柔らかかったな」
扶桑には聞こえないように、俺はボソッと呟いた。
ーーー ーーー ーーー
マルハチマルマル、鎮守府正面玄関前。
「中尉、おはようございます」
「来たか。わざわざ済まないな」
軍用車で現れたのは、東基地所属の少尉だ。同じ小隊長で、いわゆる親友みたいな関係だ。
俺がそんな少尉を呼んだのには理由があった。
「本当ですよ! 中尉が海軍の連中は信用出来ないとか言うから〜」
今回は急ぎなのもあって、信頼出来る奴に任せたい内容だったのだ。
本来ならば自分で取りに行くべきだったが、現状、鎮守府から離れるのは気が引けた。
「俺だってアイツらから荷物受け取るのめっちゃ気まずかったんですからね!」
「ははは、悪いな。今度飲みにでも行ったら奢るわ」
「マジっすか! ゴチになります!」
基地の中でも明るい少尉。飯ひとつで簡単に機嫌が治る。
「それじゃ、これ。品物と受け取り書類です」
「おう、ありがとう」
「じゃ、帰りますね」
「ああ、また遊びにでも来てくれ」
手を振る少尉を軽く笑って見送る。
ここに来てからまだ1ヶ月も経っていないが、やっぱり仲間の顔を見ると安心できる。
ちなみに、あいつはレイ〇系専門家。
見た目は大人しいが性癖はヤバい。
本当にやったりは絶対しないけど。
ーーー ーーー ーーー
時刻はマルキューマルマル。執務室には、俺と扶桑、夕張、五月雨。
現状の鎮守府に所属する全員が集まっていた。
「じゃあ、本当にいいんだな?」
「はい。提督に許して頂けるのなら、私はここで戦います」
少し調べてみたが、扶桑はいわゆる「ドロップ艦娘」と呼ばれる、深海棲艦を撃退した時に現れる艦娘らしい。
扶桑は見捨てられた後に漂流していたから少し違うが、そもそもドロップ艦娘自体が報告数が非常に少なく、都市伝説のようなものだそうだ。
敵である深海棲艦の特徴、艦娘の人間との特異性、その両者の関係性。
気になる事は数え切れない。
ドロップ艦娘はその鎮守府の提督の判断でどうこう、と記述されていたが、結局「要らないコマなら捨てておけ」ということだろう。
深く考えれば考えるほど苛立つだけだ。
とりあえずこの話は後でいい。
「ありがとう。戦艦扶桑、心から歓迎する」
帽子を脱ぎ、扶桑と固い握手を交わす。
方式は陸軍の、というより東基地の規則に則っている。これが一番慣れてるからな。
夕張と五月雨の、パチパチと控えめな拍手が新しい仲間の加入を祝った。
「よし、それじゃこの書類にサインしてくれ」
鎮守府に艦娘を迎え入れる場合、その艦娘の同意、並びに提督の同意を記した書類を本営に提出する決まりになっている。
表向きは艦娘の所属人数の確認と不本意な戦線投入を避けるためだと言われているが、実際は誤魔化されているのがほとんどだろう。
その証拠に、研修でもこのことはほとんど触れていなかった。
まあ俺がこれを適当にやれば間違いなくそれを理由にあれこれ文句を言ってくるのだろうが。
「あの、提督……?」
「ん、どうした?」
ふと顔を上げると、扶桑が不安げな様子で言った。
「あの、本当に私の着任で御迷惑がかかったりしませんか? 私は他の戦艦よりも劣るだろうし、不幸艦なんて呼ばれてきたのに……」
「……」
俺は小さく息を吐いた。
「大丈夫だ」
そして強く言った。
「俺はお前たち艦娘に迷惑をかけてもらうためにいるんだからな。それに、扶桑が他の戦艦に劣るんなら、扶桑を上手く運用できてない俺の責任になるだろ?」
「いえ、そういう訳では……」
「確かに戦場では運が影響を及ぼすこともあるさ。けど、結局は指揮官の采配だ。どうか安心してほしい。俺が、お前を輝かせてやる」
鼓舞にも近い。
戦場では、モチベーションの持ちようが大きく戦績に関わってくる。
ネガティブ思考な奴は死にやすい。
生き抜く、勝ち抜く、戦い抜くという気持ちがなければ生き残れない。
「提督……!」
「もう二度と、欠陥戦艦なんて呼ばせないさ」
「ありがとう、ございます……!」
扶桑は涙目になり、目元を擦った。
その姿が予想外に綺麗で、俺はそっと目を逸らした。
「あー、提督が扶桑さん泣かせたー」
「提督悪い人ですー」
「お、俺のせいか!?」
思わぬ方向から口撃をくらい、若干焦る俺。
そんな俺たちを見て笑う扶桑。
俺がネタにされてるのはともかく、こんな光景が普通になってほしい。
夕張のいた、研修に行ったあの鎮守府。
あの鎮守府のような状態が、現状のほとんどの鎮守府と同じ。
俺はそれが許せない。
五月雨と扶桑はともかく、夕張はこれだけで幸せだと思っているのだろう。
今ある当たり前に幸せを感じることは良いことだ。それは間違いない。
だが、なるべきじゃない不幸の中にいる奴は、絶対に助けなきゃいけない。
それを成すのが、准将が俺をここに送った意味だと、そう思っている。
「あ、そうそう。扶桑、これやるよ」
ふと思い出し、今朝、少尉から受け取った小包を手渡した。
「何でしょう、開けてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
茶色の質素な包装紙を取り除く。
「あ、これ……」
すると、中からは扶桑型の為の髪飾りが出てきた。
かんざしと扶桑型戦艦の艦橋がモチーフになっているものだが、扶桑の髪にはそれがなかった。
「私の、髪飾り……」
「流されてる時に取れちまったのかと思ってな、取り寄せておいた。俺からの着任祝いだ」
扶桑はそれを愛おしそうに、ギュッと握り締めた。
そして俺の方に向き直り、
「嬉しい……! 提督、本当にありがとう……!」
「おう」
めっちゃ可愛い。
めっちゃ可愛い。
扶桑はその髪飾りを早速付けようとした。
だが、鏡もないのでなかなか上手くいかないようだ。
すると、夕張が不満げに言った。
「もー、提督! こういうのは提督が付けてあげるものでしょ?」
「え、そういうもんか?」
「そういうものです! もう、乙女心が分かってないんだから」
夕張さん無茶言うなぁ……。
とりあえず、言われるがまま扶桑の髪をいじってみた。
髪を結うわけでもないので、多少手間取ったがすぐに付けることが出来た。
「よし、出来たぞ」
「わあ、可愛いです!」
「うん、よく似合ってるよ!」
「そ、そうかしら。提督、どうですか?」
恥ずかしそうに照れる扶桑。
うん、可愛い。
「よく似合ってるぞ。凄く綺麗だ」
「あ、ありがとうございます……」
扶桑は再び顔を赤くして俯いてしまった。
綺麗な黒髪に髪飾りがよくマッチしている。
「ま、まあそんな感じでな。これからよろしく頼むよ、扶桑」
「は、はい。よろしくお願いします」
こうして、また1人新しい仲間が鎮守府に増えた。
いつか、艦娘たちの笑顔でこの鎮守府を埋め尽くせたら。
そんな風に、考えたり考えなかったり。
ーーー ーーー ーーー ーーー
数日後。時刻はヒトヒトマルマル。
「……」
俺は執務室で、明日の出撃に向けて開示されている情報の最終確認を行っていた。
制圧目標は鎮守府正面海域。
その名の通り、鎮守府から一番近い海域だ。
偵察艦かはぐれ艦程度しか索敵にかかった報告はないが、余念は欠かさない。
基地にいた時からの教えだ。
「敵にも艦艇分類があるのか……」
情報によると、この海域の主戦力の敵戦隊には軽巡洋艦も確認されているらしい。
ますます艦娘との関連性が引っかかる。
幸い、夕張はそれなりに練度が高い。
五月雨と扶桑はまだ練度は低いが、夕張がしっかりカバーしてくれるだろう。
「提督、失礼します。艤装の最終確認、終了しました」
「おう、おつかれ。五月雨と夕張は?」
「ああ、五月雨ちゃんがオイルの缶を被っちゃって。今は二人でお風呂に」
「はは、五月雨らしいな」
相変わらずのドジっ子具合に苦笑い。
「じゃ、二人が戻ってきたら昼飯にするか」
「そうですね」
ちなみに、まだこの鎮守府には補助人員を補充していない。
補助人員というのは、艦娘や提督の食事を作る調理師や艤装などの整備をする整備士のことだ。
だが、俺はそういう奴らにいい印象がない。
過去のことをズルズルと気にするのも良くないと分かってはいるが、中々補充する気になれなかった。
なので、今は艤装の整備は夕張を中心に扶桑たち本人に任せ、食事は俺含めみんなで協力して作っている。
「あ、もし良かったら今日は私が作りましょうか? カレーくらいなら私も作れますから」
「扶桑特製のカレーか、いいな。そうしよう」
「食材は自由に使っていいですか?」
「おう、いいぞ。出来たら呼んでくれ、二人も連れてくよ」
「分かりました、楽しみに待っててください!」
機嫌良さげな扶桑を見送りながら、俺は小さく息をついた。
どうしても、明日のことが心配になってしまう。
編成、練度、海域難易度などを考えれば決して難しい出撃ではないが、それでも、だ。
自分で戦う方がよっぽど楽だ。
教官、あなたがあんだけ強いのに胃薬を常備していた理由が分かりました……。
そう考えると大佐あの野郎いつも平気な顔してやがったな……。
そんな時、ドアの開く音といつも通りの元気な声が俺の耳に入った。
「提督、お風呂上がりましたー!」
「おかえり。俺は艤装の点検を頼んだんだが?」
「ご、ごめんなさい! オイルをこぼしちゃって、ええと、それで……」
「はは、冗談だ。事情は扶桑から聞いた。怪我はないか?」
「はい、大丈夫です!」
ところどころ跳ねてる髪は、やはりドジっ子ならでは。
恐らくドライヤーを使うのは苦手なのだろう。
レーダーか何かのようにホワンホワンしている。
「ん、夕張は?」
「あ、夕張さんはもう少し艤装を見ておくって言ってました」
「そうか。今は扶桑がカレー作ってくれてるから、夕張が戻ってきたら食堂に行こう」
「えっ、じゃあ私もお手伝いしてきます!」
「えっ」
「大丈夫です! 行ってきます!」
有無を言わさず執務室を飛び出て行く五月雨。
ものすごく心配だが、まあ扶桑もいるしたぶん大丈夫なはず……。
ーーー ーーー ーーー ーーー
少し経った後。
「提督、装備点検終わったよ〜」
夕張が肩を回しながら執務室に入ってきた。
「おう、ご苦労さん。艤装はどうだ?」
「バッチリ! 明日の出撃も問題無いと思うよ」
「そうか……」
「……やっぱり心配?」
ぬ、バレてたか。
表には出さないようにしようと思っていたのだが。
「ああ。自分で戦うより全然キツい。既に胃が痛いよ」
「ふふ、そんなこと言うの、たぶん提督ぐらいだね」
「……そうか」
「ま、提督の為なら私も五月雨ちゃんも扶桑さんも頑張れるからさ! もう少し信用して!」
「……そうだな。俺がビビってちゃ話にならないな」
俺はきっと、夕張たちの明るい部分しか見ていない。
ここに来て以前より明るくなったのは間違いないだろうが、トラウマというものはそう簡単に消えるものじゃない。
俺が、この鎮守府の提督として皆を助けなければ。
前線で戦えない俺に出来ることはそれくらいなのだから。
テートクデキマシタヨー!
すると、遠くから五月雨のものであろう声が聞こえた。
「ん、昼飯も出来たみたいだな。行こうぜ夕張」
「五月雨ちゃんが作ってる、の?」
「いや、五月雨はアシスタント。扶桑がカレー作ってくれてる」
「ほっ、それなら安心」
「だな」
予想通り、扶桑が主体となって作ってくれたカレーはとても美味かった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
しばらくして、時刻はヒトヨンマルマル。
「ふう、こんなもんか」
作戦書類の作業や敵艦隊の予想図など、出撃のための準備をあらかた終えた俺は小さく息をついた。
あとは、明日を待つのみ。
「お疲れ様です、提督。緑茶を持ってきましたが、お飲みになりますか?」
「お、ありがとう扶桑。頂くよ」
湯のみに注がれた緑茶の、心地良い苦味と温かさが口に広がる。
訓練後に水を奪い合って汚く飲むのも良いものだが、こういうのは何だか管理職っぽくていい。
その時、鎮守府のインターホンが来客を知らせた。
「ん?」
「お客様、ですか?」
「いや、そんなの聞いてないが……」
とりあえず出ないわけにもいかないので、俺は鎮守府の正面玄関に向かった。
ーーー ーーー ーーー
「あ、こんにちは。本営からの書類を届けに来ました」
「ありがとう、ご苦労さん」
来客、ではなく配達員だった。何やら本営からの書類らしい。
ーーー ーーー ーーー
「本営から……?」
執務室に戻った俺は、目の前の封筒と睨み合いながら開けるのを躊躇っていた。
「まさか、私のことで……?」
「いや、今更それについては言ってこないと思うが……」
扶桑も不安そうだし、とりあえず開けるしかないか。
「……ん?」
「これは……」
封筒を開けると、中からは馴染みのない書類が何枚か出てきた。
「着任許可願、か?」
中に入っていた書類は、着任許可願だった。
無論、艦娘からのものである。
しかし、なんで俺の元に届けられたのだろう。
普通ならもっと強くて、知名度のある鎮守府に届くと聞いているが。
「もしかしてこれ、届け先間違ってるんじゃないか?」
「いえ、でも住所はちゃんとここになってます……」
二人して疑問を感じていると、夕張がタイミングよく執務室に入ってきた。
「なになにー、どうしたの?」
「お、夕張。なんか着任許可願ってのが届いたんだけど、これ宛先間違ってないか?」
「ん〜、どれどれ……?」
封筒と着任許可願を夕張に手渡す。
すすすっと一通り読んだ後、夕張は「あっ」と何かに気付いたような声を上げた。
「提督、これ宛先間違ってないよ。私の元同僚からだもん」
「って言うと、あの鎮守府にいた……」
「そうそう」
あの鎮守府。
俺が研修で訪れ、あの提督をクビにしてやった鎮守府。
「まさか、俺のせいで居場所が無くなったとか……?」
だとしたら、俺は自分のエゴで最低なことをしてしまったことになる。
身勝手な正義感で、苦しむ艦娘たちを余計に苦しめてしまったのだ。
「てい」
「あたっ。何すんだよ」
自分のしたことを思い出して焦っていると、夕張が頭を軽く叩いてきた。
「そんなわけないでしょ? 私もみんなも、提督の元で戦いたいからそれを出したんだよ。本当に戦いたくないなら自由にしてもらうことだって出来るんだから」
夕張は改めて許可願を俺に手渡した。
「それでも、あなたに感謝したい。あなたの力になりたい。あなたと一緒にいたい。そう思って、みんなそれを出したの」
「そう、か……」
夕張の言葉が本当ならば、それほど嬉しいことはない。
俺の行動は、ちゃんと彼女達のためになったんだ。
そして、彼女達がそう思ってくれているのなら、することはひとつ。
「よし、じゃあ全員受理してくれ」
東基地と同じだ。
来るものを拒んだりしない。
「あ〜、あの。提督ならそう言ってくれるって分かってたんだけど、ちょっと問題があるの」
「問題?」
「うん。規則があって、1つの鎮守府には艦娘は8人までしか着任できないの」
「8人?」
「1つの鎮守府に戦力が固まって深海棲艦に集中的に狙われたり、逆に他の場所が手薄になるのを防ぐ為って言われてる」
「そうなのか……でも、いや、うーん……」
理にかなっている……のか……?
妙に丸め込まれてるような感じがするが……。
「あの、提督。私だけ先に来ておいて勝手なのは分かってるけど、先の事も考えると今、人数いっぱいにするのは得策じゃないと思う。だから、その中から3人、ランダムで選ぶのはどう?」
「ランダム、か……」
それしか手はない、か……。
確かに夕張の言う通りだ。
まだ経験の薄い俺が、何かトラブルがあった時に柔軟に対応できるとは限らない。
空席はあった方がいいに決まっている。
「……分かった」
そうするしかない。
少なくとも、今は。
「じゃあ、着任許可願を半分に折ってくれ。くじ引き方式でやっちまおう」
着任許可願は全部で8枚。そこから3枚を引く。
「準備できました、どうぞ」
まず、1枚。
「えーと、1枚目は電ちゃん」
「ん、電って……」
「あ、やっぱり覚えてるんだ。そう、提督が廊下で声掛けてあげた子」
「そうか、あの子も……」
駆逐艦、電。
俺が、あの鎮守府で最初に会話した艦娘。
助けると誓った艦娘。
彼女を選んだのは必然だったのかもしれない。
「よし、次だ」
「次は……げ、足柄さんだ」
「なんだ、げって」
「いや、あの人も着任許可願出てたんだなって。足柄さん、みんなの為に前提督に意見してたから。すごいおっかなかったよ」
「なるほどな……」
残りはあと1人。
「じゃあ最後だ」
「えーと、最後はっと。あ、鳳翔さんだ!」
「何だ、そんなに嬉しいのか?」
「提督覚えてない? 鳳翔さんって、あの食堂にいた……」
食堂……ああ、あの割烹着みたいの着てた……。
「ああ、あの優しそうな人か?」
「そうそう! やった、また美味しいご飯食べられる!」
「また五月雨みたいな感想を……」
「聞こえてますよ提督!」
「うおっ! いつからそこに!」
「ちょっとトイレに行ってたんです! もう、失礼しちゃうんだから!」
喜ぶ夕張に憤慨する五月雨、それを困った顔で見つめる俺と、またそれを穏やかに見守る扶桑。
東鎮守府は今日も平和だ。
ーーー ーーー ーーー ーーー
そして、次の日。時刻はマルキューマルマル。
「よし、時間だ。全員出撃ブースへ移動しろ」
「了解」
「オッケー」
「ん、五月雨は?」
「ここです! すみません、行けます!」
海のすぐ近くに位置する鎮守府には、艦娘の出撃をスムーズに行うために直接海面へ出られるブースが組み込んである。
立地的に言えば、出撃地点に通じる僅かな内陸部分を掘り進め、屋根付きのブースに繋げている。
さらにこのブースは加工場、整備場ともダイレクトに繋がっているため、艤装の運搬や装着もよりやり易くなっている。
「よし、準備は出来たな」
海面と繋がっているため、ブース内部は他の部屋よりも若干冷えている。
まるで戦場の緊張感が既に伝わってくるようだ。
「総員、準備完了」
旗艦である夕張が告げる。
出撃する際、艦隊には必ず1人旗艦を任命することになっている。
旗艦とはすなわち部隊長で、提督の指示が得られない出撃後に各種判断をする責任者となる。
今回は一番連弩が高く、実戦経験もある夕張に務めてもらう。
「それじゃ、ミーティングで言った通りだ。敵主力も軽巡洋艦しか見つかっていないし、お前達ならまず問題ない。だが、くれぐれも油断するな。作戦海域に突入し次第索敵、警戒を怠らずにな」
「「「はい!」」」
「とにかく、無事に戻ってきてくれ」
ゴウンゴウン、と重苦しい音を立ててハッチが開かれた。
「よーし、やりますか!」
「頑張ります!」
「扶桑、頼むぞ」
「任せてください。必ず、あなたに勝利を」
練度が高いとはいっても、夕張も年頃の女の子。性格的な面では扶桑がお姉さんポジションで頼りになる。
万が一トラブルが起きても、きっと二人を落ち着かせてくれるだろう。
性格的な面といえば少しばかりネガティブなところが気になったが、そんな様子も無かったので一安心だ。
正面海域程度で大袈裟だと言われればそれまでだが、実戦では何が起こるかなど予想不可能だ。
少し前まで話していた人間が一瞬でただの肉塊に変わる。それが戦場だ。
だからこそ、どんな小さな作戦でも万全の体制で臨む。
どんな小さな作戦でも参加する人間には敬意を払う。
俺の中の、いや、東基地のルールだ。
「よし、出撃!」
ーーー ーーー ーーー
時刻はヒトヒトマルマル。
三人が出撃してからおよそ二時間。
天候や風向きに問題が無く進軍出来ていれば、そろそろ戦闘が始まるはず。
「あ〜、クソッ」
自分が戦えないことの苦しさを改めて実感した。
こんな精神状態では慣れない書類仕事など進むはずもなく、時間だけが過ぎていく。
そんな時だった。
ピンポーン、と鎮守府のインターホンが鳴った。
来客の予定など無いのでどうせまた本営からの書類だろうと思いながらも、配送員を待たせるわけにもいかないので俺は玄関に向かった。
「ご苦労さん、今日は何の……」
「あっ」
「え?」
そこに立っていたのは配送員ではなく、旅行用のキャリーバックを持ち可愛らしいリュックを背負った、茶髪にセーラー服の背の低い女の子だった。
「あれ、君は……」
「中尉さん! お久しぶりなのです!」
セーラー服の少女は、嬉しそうな顔でビシッと敬礼をした。
「電、か……?」
そして、俺が名前を呼ぶと分かりやすく表情がパァァっとますます明るくなる。
「はいなのです! 中尉さんの鎮守府に着任できて嬉しいのです!」
「……ああ、俺も来てくれて嬉しいよ。元気にしてたか?」
「もちろんなのです!」
初めて会った時とは打って変わって明るいその様子に、俺はすごく嬉しかった。
「随分早かったな。許可願を受理してからまだそんなに経ってないが」
「なのです! 本営から連絡が来て、すぐにこっちに向かったのです!」
「はは、そうか。忘れ物とか無かったか?」
「大丈夫なのです! えっと、ここには夕張さんが先に来てるって聞いたのですが」
「ああ、いるぞ。他にもう二人いて、今は出撃中だ」
初めて会った時、電は俺を含めてあらゆる人間を恐れているように見えた。
笑顔なんて欠片も無く、常に怯えていた。
それが、ここまで変わるとは……。
「あはは、夕張さんったら本当に抜け駆けしたのですね」
控えめに言って可愛い。うむ。
いや、俺はロリコンじゃない。
大佐とキャラ被るだろそれ。
ーーー ーーー ーーー
執務室にて。
「けど、本当にいいのか?」
俺は電の着任用の書類を整理しながら、もう一度聞いた。
「何がです?」
「ここにいたら、また戦うことになるんだぞ?」
夕張に言ったのと同じことだが、俺に対して恩を感じて、その為に戦うのはあまり褒められることじゃない。
結局、嫌々戦っていることに変わりないのだから。
「もちろん、平気なのです! 電は強いのです!」
「……俺は、無理して戦う事は褒めないぞ」
「むぅ、だから無理なんてしてないのです。電は、司令官さんの為ならたとえ火の中水の中、なのです!」
「……そうか」
これ以上聞くのは野暮ったいな。
「駆逐艦電。心から歓迎するよ。こんな出迎えで申し訳ないが」
「はい、よろしくお願いしますなのです!」
ーーー ーーー ーーー
ヒトゴーマルマル、鎮守府出撃ブースにて。
「よし、ハッチを開いてくれ」
朝と同じ、重苦しい音が響く。
そして見慣れた姿が三人、笑顔で歩み寄ってくる。
「おかえり、みんな」
「提督ー!」
「五月雨、苦しい」
五月雨が真っ先に抱き着いてきた。
俺の肩に腕を乗せて、器用にぶら下がっている。
すぐ後ろから電の不満げな呻き声が聞こえないでもないが、振り向く度胸はない。うん。
「ただいまー!」
「おう、お疲れ様」
五月雨に比べれば夕張は幾らか易しい。
胸が当たってるが無心になればどうということはない(無心になれてるとは言ってない)。
「提督の作戦、バッチリだったよ! 敵の出現位置も編成も予想通りだった!」
「そりゃ良かった。で、そろそろ離れてくれるか?」
「えー……」
五月雨が不満げに言う。
勘弁して、後ろからの視線が痛いの!
しぶしぶ二人は離れてくれた。
「扶桑も、お疲れ様。怪我ないか?」
「はい、提督のおかげです」
「はは、俺は何もしてないさ。ありがとな」
「提督……」
「んむ」
あかん。
扶桑さんはあかん。
柔らかい。
「もう少し、こうしててもいいですか?」
「おう、いいぞ」
「ん、暖かい……」
扶桑さん身長高いからモロに胸が顔の位置に来るんだよなぁ……。
少しでも意識を下半身に向けたら一瞬で俺の提督生命が終わる。
ふと後ろをチラ見すると、電が事務所NG間違いなしの絶望的な顔をしていた。
「あれ、電ちゃん早いね」
「夕張さんに言われたくないのです。馴染みすぎなのです」
「あはは、言われちゃった」
「足柄さんが来たらきっと怒られるのです」
「うわ、嫌だそれ」
「よし、とりあえず執務室へ行こう。詳しい戦績を聞きたい」
ーーー ーーー ーーー
執務室にて。
「じゃあ夕張、報告を頼む」
「はい。出撃から二時間で戦闘海域に突入、駆逐ロ級一隻と遭遇、撃沈。そこから三十分後、敵主力戦隊と思しき軽巡ホ級、駆逐イ級二隻と遭遇、撃沈。二戦とも完全勝利!」
夕張はドヤ顔で言った。
可愛い。
「さすがだな。怪我はないにしても疲れは溜まってるだろう。ゆっくり休んでくれ」
「「は〜い」」
帰還した三人を労り、話をしていると電がムスッとした顔で俺の袖を引っ張った。
あ、電のことすっかり忘れてた……。
「すまん、その前に。電、自己紹介してくれ」
「駆逐艦電なのです! よろしくお願いするのです!」
「よし、じゃあ解散! お疲れ様!」
四人は満足気な様子で執務室を後にした。
残された俺はというと、戦果報告やら消費資源申告やらとやることがあるのでまだ休めない。
だが、帰還したばかりの三人と着任したばかりの電に手伝ってもらうのも何だか申し訳ない。
もちろん言えば彼女らは喜んで手伝ってくれるだろうが、俺に出来ることはこれくらい。
やはり、ただ座って待っていることが性にあわないことは明白だった。
ーーー ーーー ーーー
数日後。
時刻はヒトヨンマルマル。
「〜♪」
俺はスマホに入ったお気に入りの音楽を口ずさみながら、書類のチェックをしていた。
オススメはずばりケツ〇イシ。
すると、アップテンポなリズムの中にコンコン、というノック音が混じった。
「ん、どうぞー」
「失礼します。提督、お客様のようですが」
執務室に来たのは、畳まれた洗濯物を持った扶桑だった。
「ああ、悪い。インターホン聞こえなかった。すぐ行くよ」
書類とスマホを作業机に起き、玄関へ。
ーーー ーーー ーーー
「はいよ、お待ちどーさん。どちら様で?」
「あ、中尉さん……お久しぶりです」
玄関にいたのは、二人の女性だった。
その二人のうち、背の低い方の、優しい面持ちをした人には見覚えがあった。
恐らくもう1人も艦娘だろう。
「あ、食堂の……鳳翔さん?」
「覚えていてくださったんですね」
「もちろん。来てくれて嬉しいです」
あの時から思っていたことだが、鳳翔さんも中々、というよりかなり美人だ。
今の柔らかい笑顔だと余計にそう思う。
夕張や五月雨よりは扶桑に近い、まさに大和撫子。
可愛い、というより綺麗だという言葉が適切だろう。
「えーと、そろそろ私も自己紹介していいかしら」
「あ、すまない。どうぞ」
「足柄よ、砲雷撃戦が得意なの。よろしくね」
「ああ、君が足柄か。よろしくな」
いよいよ艦娘は美人揃いだなおい。
夕張がビビってたからてっきり足柄は厳つい奴かと思ってたが、普通に綺麗な女性だ。
何となくだがOL姿が似合いそう。
そんな下心を知ってか知らずか、足柄は突然訝しげな顔をした。
「ど、どうした?」
「提督……どうして私を咎めないの?」
「はい?」
咎める?
何だ、美人は罪だとでも言わせるつもりか。
性格の悪い童貞じゃあるまいし。
いや俺童貞だけど。
「咎めるって何をだ?」
「だって、私は艦娘。貴方は提督。私は貴方にタメ口で喋ってるのよ?」
「ああ」
「え?」
「え?」
え?
なんか会話が噛み合わないんだが。
「え、おかしいと思わないの?」
「え、おかしいのか俺って」
うそ、私の年収低すぎ……?
じゃなくて、私っておかしいの……?
そんな時、イマイチ噛み合わないやり取りを見ていた鳳翔さんがクスクスと笑い出した。
「ほ、鳳翔さん?」
「どうしたの?」
「ふふ、足柄さん、言った通りでしょう? 中尉さんは、そういう人なんですよ」
そういう人ってどういう人?
おかしい人ってこと?
「は〜……」
俺が相変わらず「ヨクワカラナイ」という顔をしていると、足柄は大きくため息をついた。
「変人!」
「やっぱりそうなのか!?」
「良い意味で、よ。提督、これからよろしくね!」
変人と言われたことはショックだったが、吹っ切れたように笑う足柄はとても綺麗だった。
「お、おう、よろしく頼む」
二人と握手を交わしている時。
ふと、足柄の視線が鎮守府内部に止まった。
俺も釣られてそっちを見てみると、そこにはお菓子を抱えた夕張が。
目と目が合う〜瞬間〜好〜きだ〜と(ry。
「あっ」
「夕張あんたァ、よくも抜け駆けしたわねえ"え"え"え"え"え"え"え"え"!!!!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
流石は艦娘。一瞬で後ろ姿は消えていった。
「と、とりあえず入りますか」
「そ、そうですね」
その後、手続き一式も終え、東鎮守府にまた新たな仲間が増えた。
ーーー ーーー ーーー
その後、出撃や演習を重ね、俺たちは着実に戦果を積んでいった。
だが、未だに納得がいかないことがあった。
ーーー ーーー ーーー
ある日のマルキューマルマル。
「ふぅ……」
今日は金曜日。週末に面倒事を持っていくのは趣味ではないので、今週分の執務は既に終わらせてある。
今日は別の用事だ。
小さなため息をつきながら提督服を着る俺の隣に立っているのは扶桑。
「本当に済まないな、扶桑。せっかくの休みを潰しちまって」
「いえ、提督のお願いとあらば私はいつでも構いませんよ」
他の鎮守府がどのような方式を採用してるかは知らないが、俺は出撃や演習がない時は基本的に艦娘たちに休暇を与えている。
もちろん、不測の事態に対応できるだけの準備をした上で、だ。
出撃や遠征、演習の日程も扶桑たちに手伝ってもらいながらしっかりと管理している。
そんな中、今週は出撃などの予定も無いので艦娘たちは休暇。
だが、俺は少し野暮用があり、扶桑の協力が必要だった。
「ありがとな。今度何かしら埋め合わせするから」
「ふふ、それは楽しみですね」
目的地は本営基地だ。
ふんぞり返っているお偉いさんと話をつけるためだ。
書類のやり取りじゃ埒が明かないことはよ〜く分かった。
「よし、行こう。それじゃ、鎮守府のことは頼んだぞ」
提督机の上で敬礼する妖精さんにそう告げ、俺と扶桑は鎮守府前に待機している迎えの車の元へ歩いた。
「よう、度々悪いな」
「いえ、大丈夫ですよ」
少尉だ。立場上、大佐は簡単に基地を離れるわけにはいかない。
と言うよりはあの人のジェットコースターに付き合うつもりはない。
教官は論外。はっきりわかんだね。
「今日アイツらと話すのは中尉なんですよね?」
「おう、そうだ」
「なら全然……所で、隣の美人さんはどちら様ですか?」
少尉は扶桑を不思議そうに眺めた。
「ん、俺の仲間の扶桑だ。艦娘のな」
「ほえ〜……。本当に普通の人と変わりないんですね。本営の奴らよりよっぽど人間らしいや」
「人間らしいも何も、俺は変わりないと思ってるんだがな。そこら辺はよく分からん」
他愛無い話も程々に、俺たちは車に乗り込んで本営へと向かった。
ーーー ーーー ーーー
しばらくして。
少尉の趣味であろうジャズミュージックが流れる車内で、ふと扶桑が口を開いた。
「あの、少尉さん」
「はい、何でしょうか?」
「提督って、以前はどんな方だったんですか?」
「え?」
扶桑さんちょっと何聞いてらっしゃるの?
「ああ〜、基地にいた時のことですね?」
「ぜひ聞きたいです」
「えっ、マジかよ」
あまり良いことをしていた覚えはないが……。
「はは、懐かしいなぁ。今思うと、ほんと俺たちバカばっかりやってましたね」
「まあ否定はしない。ってかお前は今もだろ?」
「大佐のお使いでコンビニ行ったら教官にバレてクッソ怒られたり」
「あんなに走ったのは人生初だな……俺もお前も一応は小隊長クラスだったのに」
「雑用係決める大富豪で大佐が連敗記録打ち立てたり」
「あの人ほんと弱かったな……」
「今も弱いですよ」
「だろうな」
「前支えのトレーニング中に軍曹が屁こいて全員やり直しになったり」
「あれ以来芋類は禁止してるな」
「デスドリンク作ったり」
「あの時お前らが俺を嵌めたことは絶対に忘れない」
ちなみにデスドリンクとは、オレンジジュース、マスタード、麦茶、コーラ、タバスコ、レモネード、七味唐辛子からなる文字通り飲んだ人間を死に誘う飲み物である。
「闇鍋やってたら1人ずつ教官に連れ去られたり」
「あれはマジで怖かったな……」
「ふふ、ふふふ……」
思い出に浸りしみじみと喋っていると、扶桑が耐え切れなくなったのか笑い出した。
「扶桑?」
「いえ、お二人ともとても楽しそうにお話になるので。素敵だなぁって思って」
「……」
「……」
可愛い。
凄く、可愛い。
「あの、中尉」
「なんだ」
「扶桑さんをぜひ俺の嫁さんに」
「えっ!?」
「やらん。扶桑は俺のもんだ」
「えっ!?!?」
よく分からない茶番を繰り広げ、困惑する扶桑を他所に俺たちはまた話し始めた。
「いいなぁ中尉……提督業務なんてめっちゃ役得じゃないですか」
「まあ今回みたいなことが無ければ否定しないけどな……」
そんなこんなで、しばらく三人で喋っているうちに本営に到着した。
ここからは俺と扶桑の二人だ。
さ〜て、座ってるだけのアホどもを説得しに行くか……。
ーーー ーーー ーーー
無機質な廊下に、コツコツと三人の歩く足音が響く。
そして、途中の部屋や脇道から聞こえてくる職員たちのヒソヒソと話す声が鬱陶しい。
奴らから見れば俺は邪魔で邪魔で仕方がない存在だからだ。
「チッ……」
思わず舌打ちをしてしまった。
すると、扶桑が何時に無く真面目な顔をして言った。
「大丈夫です、提督。気にせず行きましょう」
「ああ」
扶桑も、きっとこの現状に憤りを感じているのだろう。
ーーー ーーー ーーー
「ここです。元帥は中にいらっしゃいます」
暫く歩いた後に、元帥の待つ部屋に到着した。
「失礼します。東鎮守府、○○二等陸尉です」
ドアを開く。すると、そこには元帥ともう1人、俺の大嫌いな人物が立っていた。
「おお、来たか。まあ二人とも座りたまえ」
「いえ、すぐに済む話なので」
「元帥が座れと仰っているのだ! さっさと座れ!」
俺が断ると、元帥の隣に引っ付いた男は怒鳴った。
コイツは本営に所属している二等海将、分かりやすく言えば中将だ。
「はぁ……」
そして、俺はコイツが大嫌いだ。
正直な話、元帥はコイツらほど間抜けな訳では無い。
研修後に二人で話をしたこともあるが、艦娘への理解もある。
だが、中将のような人間の方が本営には多い。
だから、元帥が何かを提案しても議会を通ることがほとんどないのだ。
その結果、元帥としての地位などもはや飾りに近く、ある程度纏まったこういう奴らに好き勝手やらせてしまっているのが現状。
「あんたに用はありません。黙っててください」
ありったけの敵意を込めて中将を睨み付けてやった。
中将は一瞬怯んだようだが、すぐにまた喚き出した。
「何だと!? 陸軍風情が調子に乗りおって! 貴様もあのゴミ溜めから来たくせにその態度は何だ!」
「ゴミ溜めだと……?」
イライラが頂点に達しそうだった。
こんなクズに俺だけじゃなく仲間たちまで貶されたことに。
「二人ともやめないか!」
すぐにでも理性を失いそうだった俺を抑えたのは、意外にも元帥だった。
「すみません」
「チッ……」
「あんたこそ何ですかその態度は」
「いい。二尉、何も言い争いをするために来た訳では無いだろう。二将も同席しているからといって好き勝手な言動は慎みなさい」
「……申し訳ありません」
珍しく怒りを顕にした元帥を見て、間抜けな中将も渋々謝罪した。
「座らなくてもいい。二尉、話というのはなんだね?」
「回りくどいのは嫌いなので簡潔に言います。俺の鎮守府の艦娘の着任人数制限を無くしてください」
「何だと!?」
この反応は予想の範疇だった。
「それは、やりたいと言って許せるほど容易なことではないと分かっているだろう?」
「何も艦娘全員を集めようなんて思ってないです。ただ、着任許可願を拒否するのは俺の理念に反する。それにドロップ艦娘を見捨てるなんて俺にはできない」
目的を告げ、元帥は低く唸った。
それと同時に、再び間抜けが口を開いた。
「本当に貴様は我儘ばかりだな。そもそも、ドロップ艦娘など所詮噂に過ぎないだろうが」
「ここにいる扶桑がそうです。申請もしてあります。二将の癖に情報も把握してないんですか?」
「黙れクズが。いいか、艦娘の役割は戦闘だけじゃない。他にも需要がある。だからお前達提督には八人までしか回せないんだよ」
「何だと……?」
調子に乗って口走ったその一言に、俺よりも先に元帥が反応した。
だが、間抜けは気にせず話し続けた。
「男を満足させる女の役割もあるんだよ。分かるか?」
「二将、どういうことだ!」
「落ち着いてください、元帥。貴方にだって得しかないんですから」
中将は焦る様子もなくニヤニヤと続けた。
「おい、入ってこい!」
そう一言、奴が発すると、ドアを開いて一人の艦娘が入ってきた。
「日向……?」
「……」
知り合いだろうか、扶桑がそう言ったが、日向と呼ばれた彼女は辛そうな顔で俯いたまま応えない。
明らかに様子がおかしい。そう思った矢先、間抜けが言った。
「さあ日向、我らが元帥殿と陸軍の猿に自己紹介しろ」
また貶されたのは非常に腹立たしいが、今はそれよりも彼女の方が気になっていた。
「……ッ」
「なっ」
中将が言うと、日向は一層辛そうな顔をしてスカートを捲り上げた。
恐らく中将からの命令だろう、下着は履いておらず、秘所に玩具を入れられ、綺麗な太ももには黒ペンで「正」の字が幾つか書かれていた。
そして、今にも泣き出しそうになりながらこう言った。
「わっ、私は、私は人間様専用の玩具です……! ど、どうかお楽しみくださいッ……!」
「ひ、日向……!」
日向はそのまま涙を流し始めた。
扶桑もかなりのショックを受けたようだった。
「ははは、こういう事だ! どうです元帥、コイツは中々の名器ですよ!」
「二将、これは……!」
元帥も驚き過ぎて言葉に詰まっていた。
「ひぐっ……うぐぅ……!」
そして。
俺はその時、自分の中で何かが切れるのを感じた。
よく言う「プッツン来た」ってやつだ。
俺の目には中将しか映っていなかった。
最速の動きで間合いを詰め、爪がくい込んで掌から出血するほど拳を握りしめた。
震えが止まらなくなるほど腕に力を入れた。
基地にいた時は普段から「近接格闘術は絶対にケンカとかでは使うな」と言われていた。
俺達が使う格闘術は、いかに素早く相手を無力化するかを突き詰めたスタイルだった。
ケンカの中で使えば死人が出かねない。
このパンチもその中のひとつだった。
姿勢を低くし、最速で間合いに入って標的のみぞおちを狙う。
殴る場所が腹の近くなのに、姿勢が低いのでアッパーのような形になる。
まともに受ければ数分は動けず、良くて嘔吐、大概は臓器に損傷を引き起こす。
実戦でしか使うことの無かった技。
そのタブーを破るほどに俺はキレていた。
「ぬおあぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁッ!!!!!!」
今までで一番早い動きで、腕がちぎれるんじゃないかと思うほどの力で中将の腹をぶん殴った。
「ぐほあぁッ!!!!」
中将は唾液を撒き散らしながら吹き飛び、後ろにあった勲章やら何やらが飾ってあった棚に突っ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
場に静寂が流れた。
中将は完全に意識を失い、扶桑と日向はものすごく驚いたような顔をしていた。
元帥も同じだった。
俺だけが、尋常じゃないほどの冷や汗をかいていた。
(やっちまったああああああっ!!!!!!)
脳内で叫びまくった。
いくらキレたとはいえ、中将を殴ったら流石にまずい。それくらい俺にも分かる。
研修の時とは違う。
あの時は確実な証拠を掴んでいたからこそ奴を悪役にできたが、今回はその確証がない。
日向の存在を否定されてしまえば、俺や元帥が見ていたことなど全て嘘だとされるだろう。
それでも、こうせずにはいられなかった。
それくらい、かつてないくらいプッツンきてしまった。
「……」
グギギ、と音が出そうなほどゆっくりと元帥の方を振り向くと。
「……分かっている。今回は中将のやりすぎだ。君が悪くないことは私が説明する」
「ありがとうございます」
ホッとしつつ、人が集まってくる前に逃げる準備をした。
「よし、扶桑、日向、逃げるぞ!」
二人の手を握り、部屋を出ようとした。
「えっ……」
日向は困惑したような顔をした。
それはそうだろう。
今まで散々奴らに嬲られてきたのだ。
だからこそ。
「元帥、日向は貰っていきますんで」
「……うむ」
「よし、許可ゲット。ほら、帰ろうぜ日向」
手の痛みなど気にせず、右手で日向を引っ張った。
すると、扶桑もフォローを入れてくれた。
「大丈夫よ、日向。行きましょう」
「……分かった」
流石は艦娘同士、そして二人はやはり知り合いだったらしく、扶桑のその言葉で日向は動いてくれた。
一先ず、俺たちは少尉の元へ向かった。
「あ、おかえりなさい」
「おう」
少尉はいつも通りの顔で俺たちを一瞥した。
「交渉決裂、ですか」
「はは、分かるかやっぱり」
俺は少尉の相変わらずの察しの良さに苦笑いした。
「そりゃ、顔見れば分かりますよ。どんだけ長い付き合いだと思ってるんですか」
少尉とは、俺が物心付いた時からずっと一緒にやってきた。
そりゃ分かるかもしれない。
「そうとう癪に障ること言われたんですね」
「まあ、な」
中将のことは知っていた。
海軍の内情が腐っていることも知っていた。
いや、知っているつもりだった。
だが、実際はまだこんなにも苦しんでいる艦娘たちがいる。
なんとしても救わなければならない。
とは言え、毎回毎回ぶん殴っていてはいつか俺のクビが飛ぶ。
冷静に、確実に、追い詰めなければ。
「少尉、車を出してくれ」
「うっす。鎮守府でいいですか?」
「いや、基地へ向かってくれ」
「基地ですか? 分かりました」
本当はこの手は使いたくなかったが、やはりあの様子では元帥は当てにならない。
誤魔化してくれるのは助かるが、もう一押し必要そうだ。
「扶桑、悪いが鎮守府に今日は帰らないって連絡しておいてくれるか」
「分かりました」
俺は助手席へ、扶桑と日向は後ろの席へ。
日向は何も言わずに俺に従っているが、目を合わせようとはしなかった。
ずっと怯えているように見える。
助けなければ。
一度付いた傷は簡単には消えない。
だが、そう分かっていても手当てをしなければどんどん悪化していく。
傷ってのはそういうものだから。
ーーー ーーー ーーー
これはどこの軍隊の基地にも言えることだろうが、入口にはセキュリティゲートがあり、人の手で出入りする車を管理している。
機械化の声もあったらしいが、こういうことは人がやるのが一番安全だ。
「うーす、お願いしまーす」
少尉がIDカードを提示した。
それを見て、担当の兵士が敬礼をする。
「お疲れ様です、少尉。今日は遅かったですね」
すると、少尉はニヤッと笑いながら俺の方を指さした。
「あ、中尉!? おかえりなさい!」
「おう。ちょっと邪魔するぞ」
「はい、どうぞ!」
ーーー ーーー ーーー
一先ず、俺たちは今日使わせてもらう部屋に行った。
「おお、そのままとっといてくれたのか」
そこは以前、俺が使っていた部屋だった。
しっかりと掃除が行き届いていて、ホコリのひとつもない。
「はい。すみません、布団が二つしか用意出来なくて」
「いや、助かるよ。ありがとな」
きっと移動中に連絡を入れてくれたのだろう、少尉は相変わらず頼りになる。
「どうします? この時間からたぶんみんな食堂にいますけど」
「あ〜、そうだな……とりあえず顔見せに行くか」
ここに来た目的は准将と話すためだが、そこそこ腹も減っていたし懐かしいメンツにも会っておきたかった。
「扶桑、日向、行こーぜ」
俺が二人にそう言うと、日向はまた俯いてしまった。
「日向……?」
扶桑が心配そうに言う。すると。
「私は、ここにいます」
かろうじて、といった様子で日向はそう言った。
「……分かった。あとで食事を持ってくるよ」
これ以上はとやかく言わない方がいい。少なくとも今は。
そう思った。
ーーー ーーー ーーー
基地の中でも上位に入るほどの広さを持つ食堂には、一日の厳しい訓練を終えた男たちがおのおの食事や会話を楽しんでいた。
もちろん、俺が慣れ親しんだ光景だ。
見覚えのある奴らも沢山いる。
そんな彼らに、大きな声で一言。
「おうお前ら、戻ったぞ!」
仲間たちが一斉にこちらを向く。
そして一瞬の静寂と、大きな歓声。
「「「「中尉〜!」」」」
「うお、うるせっ」
屈強な男達の大きな声に、少尉が耳を塞ぐ。
そして集まってくる仲間たち。
「お久しぶりです中尉!」
「中尉、おかえりなさい!」
「中尉、また飲みましょうよ! 良いやつ仕入れてますよ!」
中尉〜!
中尉〜?
「あ〜……」
仲間たちにもみくちゃにされながらも、俺はこの賑やかさに身を任せた。
やっぱり、ここが一番落ち着く。
すると、賑わいの元にあの人がやってきた。
「よう、提督」
「あ、大佐。ただいま戻りました」
「おう、今日はどうした? 来るとは聞いてなかったが」
「ちょっと野暮用が出来ちまいまして。准将はいます?」
「ああ、司令室にいるぞ。この時間ならコレクションを堪能してるだろうから、行くなら後にしてやれ」
「はは、分かりました。大佐、飯はもう食いました?」
「いや、今からだ」
「じゃあちょうどいいや、一緒に食いましょうよ。話したこともありますし」
ーーー ーーー ーーー ーーー
「へえ、じゃあそいつが?」
「はい、艦娘です。紹介するよ扶桑、俺の上司の大佐。因みに重度のロリコン」
「超弩級戦艦、扶桑です。あの、提督、ロリコンとはなんですか?」
「「……」」
まさかの純粋っぷりに、俺も大佐も思わず目を逸らす。
「た、大佐、ほら教えてあげてくださいよ」
「ふざけんなお前の部下だろ、お、おおおお前が教えろよ」
「……?」
流石に説明するのは気が引けるので、適当に誤魔化しておいた。
俺まで白い目で見られかねない。
「にしてもえらく美人だな。お前手ぇ出したりしてないよな?」
「してねぇわハゲ」
「もっと幼い子はいないのか?」
「大佐本音出てますよ。大佐のドストライクな子もいますけど」
「なんで連れてこないんだ!」
「そういう反応するからでしょうが! あと本音が出てるんだよハゲ!」
「「「あははははは!」」」
ーーー ーーー ーーー ーーー
「扶桑さん、で合ってます?」
「はい、そうです」
場所と時間は変わり、食堂の少し端で、1人の兵士と少尉、それに扶桑で話していた。
ちなみにその時の俺と大佐は食堂のド真ん中で痴話喧嘩。
「扶桑さんが、噂の艦娘なんですよね」
「はい」
「海へ出て未知の敵と戦ってるんですか?」
「そうです。深海棲艦と呼ばれる、未知の存在です」
「マジか……」
「こんな美人なのにな……」
ここで颯爽と少尉登場。
「少尉もしかして扶桑さんのこと狙ってます?」
「えっ」
「いや、俺じゃ無理だよ。あ、そうだ扶桑さん。一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「中尉のことってどう思ってます?」
「提督、ですか? 素晴らしいお人だと思います。私たち艦娘にも真摯に接してくれますし、作戦立案や執務も優秀で……最高の提督です」
「なるほど……さすが中尉」
感心する兵士を他所に、少尉はさらに言う。
「うんうん、それもあるんですけど。異性としてはどう思ってます?」
「またこいつはデリカシーのない質問を……あんたもう酔ってんの?」
「提督を、異性として……」
「まだ飲んでもいないよ。ていうか俺上官!」
「お、お慕いしています……」
恥ずかしそうに言う扶桑に、少尉は更に突っ込んでいく。
「つまり?」
「す、好き、です……」
「よしあの野郎シバいてやる」
「あんたじゃ無理だから! やめろって!」
ーーー ーーー ーーー
食堂でのバカ騒ぎがひと段落したころ。
俺は少尉とともに准将のいる指令室に向かっていた。
「はぁ……」
「あの人も、ワケありですか」
相変わらず察しのいい少尉。ため息一つで言いたいことが分かるらしい。
「ああ。中将に奴隷じみた扱いをされてたみたいでな。あのクソをぶん殴って連れてきた」
「えっ、中将さんをぶん殴ったんですか」
「つい……」
「あはは、中尉らしいや」
笑ってはいるが、少尉も真面目に考えてくれている。
そういうやつなのだ、こいつは。
「まあ、たぶん日向さん? は中尉が何とかするしかないですね」
「そうなんだよなぁ……けどトラウマってのは簡単に消えるもんじゃないしな……」
「中尉なら大丈夫ですよたぶん。何か困ったことがあれば言ってください、力になりますから」
「少尉……ありがとな」
少尉の頼もしさに感心しつつ、俺は准将のいる司令室に入った。
ーーー ーーー ーーー
「失礼します。准将、ご無沙汰してます」
そこには、高級そうな椅子に座る准将がいた。
何故か若干右頬が腫れているが、気のせいだろう。
「おお、久しぶりだな提督。お前も苦労してるみたいだな」
「いやアンタが言いますか……」
「ははは、オレハワルクナイ。で、頼みってのは?」
「大分面倒なんですけど……」
依然として適当な准将に若干呆れつつも、今日あった事と趣旨を伝えた。
准将は快諾してくれた。
「よし、分かった。あいつらは早めに黙らせておこう。そのうち書類が届くはずだ」
「助かります」
「今日はゆっくりしてけ。みんなも喜んでただろ?」
「そうですね」
「……」
「……」
「……ちゃんと新作話題作は金庫の中に入れておきましたよ」
「ありがとうございます!!!!!」
事後報告をすると、准将は満面の笑みでスライディング土下座をしながら感謝した。
とても基地司令には見えないアホっぷり。
「ははは、それじゃおやすみなさい」
相変わらずの准将に苦笑いしながら、俺は指令室を後にした。
ーーー ーーー ーーー
准将に頼み事をしてからしばらく。
俺は再び少尉と合流し、屋外の演習場そばのベンチで軽く飲みながらくつろいでいた。
基地の中にいるとまたアホのように飲まされて明日グロッキーになるからパス。
「くああ……中尉良いなぁ……俺も提督やりたい……」
「簡単に言うなぁ……楽しいことばっかでもないぞ?」
「それはそうかも知れませんけど……」
既にお気づきかもしれないが、少尉は眠気で軽くダウン。
「ぬうう、中尉の癖にあんな美人さんと……中尉の癖に……」
「お前それシラフじゃねえよな?」
眠気のあまりか容赦なく俺に突っかかる少尉。
そんな少尉の相手をしていると、ただ事じゃない様子の扶桑が走ってきた。
「ん……?」
「はあっ、はあっ、提督!」
「なんだ、どうした扶桑?」
明らかに様子がおかしい。何かあったのか。
「日向、日向を見てませんか!? お手洗いに行くって言って帰らないんです!」
「いや、見てないぞ……? 扶桑、それ何分前の話だ?」
「もう、1時間も前で……もちろんお手洗いにもいなくて……」
嫌な予感がした。
日向が1人で東基地から出ることは出来ないが、それでも早く探さなければならない。
そんな気がしてならない。
「分かった、俺も探すよ。皆にも声掛けとく」
「ありがとうございます!」
「少尉、行くぞ。緊急の迷子探しだ」
「ういっす」
少尉も事の重大さを察してくれたのだろう、すぐに真面目な顔になった。
「日向、どこだ……!」
俺たちは基地中を探した。
ーーー ーーー ーーー ーーー
ヘリコプターや戦闘機が離着陸する滑走路から少し離れた、何も無い草原。
人工的な明かりはないが、月明かりで視界は容易に確保できた。
そして、彼女はそこにいた。
何故かは分からないが、分かった。
「日向……?」
ゆっくりと歩み寄る。
まだおかしな様子は見えない。
「ああ、貴方か……」
「急にいなくなってどうしたんだ? みんな心配してるぞ?」
「……だろうな」
表情は穏やかだ。だが、すごく冷たい。
そう表現するのが1番正しいと思う。
「ほら、戻ろうぜ。まだ夜は冷える」
「……」
日向は応えず、動こうとしない。
「日向……?」
「近寄らないでくれ」
その一言で俺の足が止まる。
「もう、もういいんだ。もう……」
「日向……」
「艦娘と言っても体まで鉄で出来ているわけじゃない。死にやすい体で助かるよ」
穏やかに、まるで「おやすみ」と言うかのように日向はナイフを取り出し、首にあてがおうとした。
艦娘と言えども、艤装を装備していない時の肉体強度は人間と変わらない。
苦痛もダメージも人間と同じく受ける。
「やめろ!」
咄嗟に足に力を入れる。
が、日向は静かに手を止め話し出す。
「君は……私をどうしたいんだ?」
「は……?」
「こんな穢れきった体の、大した戦力にもならない私を連れてきて……また戦わせるのか?」
日向は自嘲気味に言う。
「俺は」
「扶桑から聞いているさ。君がどれだけ素晴らしい人間かは」
俺の言葉を遮りながら言う。
「けれど、私には何もない。戦う理由も、守りたいものも、何も無いんだ」
俺は立ち尽くしていた。
今は迂闊には動けない。
「今の私は『日向』として生きていくのに相応しくない。だからさっさと死ぬべきなのさ」
そうか……。
そういうこと、か。
俺は再び歩き出した。
「来るな、と言っているんだが」
日向はナイフを首元にあてる。
「やめろ」
「止まれ」
「日向」
「止まれ!」
手が届く距離まで近づいた。
日向は一歩引いて逃げようとするが、俺はナイフを持っている方の腕をがっちり掴んで離さない。
「はあっ、はあっ……」
「……」
明らかに取り乱している。
「貴方は、何がしたいんだ? こんな私を助けて……良いことをしたとでも思ってるのか?」
「良いこと、か……」
物事の善し悪しなんて誰が決めるんだ?
そんなものに明確な定義は無い。
「日向、やっぱりうちに来いよ」
俺は軽く笑って言う。
それを聞いた日向は一瞬驚いたような表情をし、すぐに俺を睨み付けた。
「断る……!」
「よっと」
「うっ……!」
日向の手からナイフを奪い、遥か遠く投げ捨てた。
「……私が、貴方を信じられるとでも?」
「信じろなんて言わないさ。ただ、一緒に居ようって言ってるだけだ」
「分からない……何でなんだ? なぜ貴方は、そうも私にこだわる? それで貴方に何の得があるんだ?」
日向は苦しそうに言う。
「うーん、鎮守府に強くて美人の仲間が増えるから、か?」
「は……」
もう一歩、日向の傍へ。
「お前さ、もう私には何も無いって言ったよな」
「……ああ」
「だったらこれから作ればいいんだよそんなもん。俺だって何のために生きてるかなんて説明出来ないし」
「……」
「おい!」
俺は日向を思い切り抱き締めた。
「なっ……」
「俺には日向が必要なんだよ! お前がうちの鎮守府に居なきゃ嫌だ! だから一緒に来い!」
「やめて、くれ……」
日向は俺から離れようとする。
が、その腕には力が入っていない。
「私は、貴方まで穢したくない……」
「お前は穢れてなんかいないよ」
「嘘だ……」
「嘘じゃない。綺麗だぞ」
「貴方の力になれない……」
「なれるさ。お前なら絶対になれる」
涙がポタポタと地面に落ちる。
「もう大切なものを守れないのは嫌なんだ……!」
「だったら俺が、俺達が一緒に守るよ。日向の大切なものを。もう二度と失わせない」
「うっ、うぅ……!」
「もう大丈夫だ。良く頑張ったな、お前はもうひとりじゃない」
「うあぁぁあ……!」
日向はもう逃げようとはしなかった。
そのまま俺の腕の中で暫く泣いた後、気を失ってしまった。
俺は日向を背負い、部屋まで戻った。
ーーーーーーーーーーーー
フタサンマルマル、第二士官室にて。
俺はすやすやと眠る日向をそっとベッドに降ろした。
「良かった、日向……」
扶桑がほっとした様子で胸を撫で下ろす。
「なんだ、俺達は要らなかったみたいですね」
「悪いな、こんな夜間に動かしちまって」
「いえいえ、中尉たちのためなら。じゃあ俺は行きますね」
「おう、助かった」
結局無駄に頼ってしまったにも関わらず、一切嫌がる様子のない少尉に感謝しつつ、俺は日向に向き直った。
「やれやれ、本当にお前ら艦娘は……」
「提督……?」
扶桑が不思議そうに言う。
「なんでもっと自分たちの幸せを考えようとしないんだ……」
「……」
扶桑は少し悲しそうな顔になった。
「ん……」
日向が目を覚ました。
その目は少しだけ安心しているように見える。
「おはよう日向、体調はどうだ?」
「あ……だ、大丈夫です……」
ゆっくりと体を起こした日向は俺と扶桑を見るなり、申し訳なさそうに俯いた。
「はは、今更敬語なんて使わなくていいって」
「ですが、私は……みんなに迷惑を……」
一層申し訳なさそうにする日向。
そんな日向を見かねて、扶桑が日向を抱き寄せながら言った。
「いいのよ、日向……。そうですよね、提督」
「おう。前に扶桑にも言ったがな、俺はお前らに迷惑かけられるためにいるんだからよ。遠慮せず……あの、あれだ」
テキトーに喋ってたらなんか話がズレてきた気がする。
これだから脳筋ゴリラは……。
「ふふ、なんです?提督」
扶桑もクスクス笑っている。
「だからその、あれだ! 自由に思いっきり楽しめばいいんだよ今を! 皆と過ごせるこの時を!」
「あはは、私の時そんなこと言いました?」
ますます笑う扶桑。なんだか俺がアホの子みたいじゃないか。
「いや僕国語苦手だからさ……」
「ふふ、あはは……」
「「……!」」
出会ってから初めて、本当に笑った日向を見た。
見惚れてしまうほどに綺麗だった。
「やっと笑ったな、日向」
「あ、す、すまない……」
日向はすぐに顔を赤くして背ける。
もう、大丈夫だろう。
「いや、いいんだ。これから沢山その笑顔を見せてくれ」
「あれ~、提督、なんか日向にはやけに優しくないですか?」
「えっ、そんな、扶桑にも優しくしてる……ぞ?」
なんでこのタイミングでキャラ変するんですか扶桑さん!?
「今の間はなんですかぁ?」
「……よし」
「よし?」
「に~げるんだよぉ~!」
こういう時は逃げるが勝ち。大佐が言ってた。
「逃っがしません!」
「ぬおお!」
扶桑に取り押さえられる俺。
あかん、柔らかい。
「ふふ~、いくら艤装がなくても、上を取ればこちらのものです!」
扶桑さん全身が柔らかい! やばい!
「扶桑さん、一度落ち着きませんこと?」
「……じゃあ提督、ひとつお願いを聞いてください。そうすれば許してあげます」
「お、お願い?」
扶桑がこうも我儘を言うのは珍しい。
日向がいるから、いつもよりも自分を出しているのだろうか。
「今日は3人で寝ましょう!」
「え?」
「なっ……!?」
突然何を言い出すんですか扶桑さん。
「いや、ベッド2つしかないぞ?」
「3人なら入りますよ」
「いやでも日向もいるし……」
「いいわよね、日向?」
「いや、流石にそれは……」
「いいわよね?」
ゴリ押し!
扶桑さんゴリ押し!
「は、はい……」
「はい、日向の許可も得たことだし、今日は3人で寝ましょう!」
「なんか、今日テンションすごいな扶桑……」
そんなこんなで3人でベッド・イン。
扶桑、俺、日向の順番だ。
「あったかい……」
「日向、狭くないか?」
「ああ、大丈夫だ……」
嫌な気はしない。
全くしない。
むしろ美味しすぎる状況だ。
控えめに言っても日向も扶桑に引けを取らないスタイルの良さだし、いい匂いまでする。
正直、俺の理性がやばい。
「なあ扶桑、やっぱりさ……」
「すぅ、すぅ……」
「こ、こいつもう寝てやがる……」
「あはは……幸せそうな寝顔だな」
「そうだな……なあ、日向」
「む、なんだ?」
今ならまたゆっくりと話が出来るだろうか。
「身勝手な事して無理矢理連れてきたことは謝るよ、済まなかった」
「そ、そんな……謝るなんて……」
「けどな、これだけは約束する」
ギュッと、日向の手を強く握る。
「上手く言えないが、絶対に良くなる。俺達が、必ずお前を幸せにするから」
「……ああ、ありがとう」
そう言って日向は再び笑った。
うん、可愛い。
やばいなコレは。
「なあ提督、ひとつお願いがあるんだが、いいか?」
「ああ、なんでも……ふっ、提督って呼んでくれたな」
「これからはそう呼ばせてもらうさ。眠るまでの間だけでいい、このまま、手を、君の手を握っていてもいいか?」
「もちろんだ」
「ありがとう……暖かいな、君の手は」
「こんな手でよければいつでも貸すさ」
「ふふ、そうか……それじゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
過去は消すことができない。
癒えることのない傷もある。
だが、それでも前を向いて生きなければならない。
俺達は、進まなきゃいけないんだ。
道の先に光が無くとも、決して歩みを止めてはならない。
希望を捨てず、仲間と共に進むのだ。
そうすれば、いつかは必ず……。
ーーー ーーー ーーー ーーー
時刻はマルロクマルマル。
兵士たちの起床時刻はマルロクサンマル、宿舎の中はまだ静かだ。
「うむぅ……」
カーテンの隙間から差し込む陽の光が目に入り、目を細めつつも体を起こそうとする。
「あっ……」
すると、横から名残惜しそうな彼女の声が聞こえた。
「日向……おはよ……」
「お、おはよう」
「扶桑は……まだ寝てるか」
反対側を見ると「んふふ~」と満足気な笑みを浮かべた扶桑が俺のTシャツを抱きしめながら眠りこけていた。
いつ脱がしたの……?
「扶桑は……いつもこんななのか?」
日向が苦笑いしながら言う。
「いや、そんなことは……無いはず……」
「ふふ、よっぽど貴方のことを好いてるんだな」
「……日向、今何時だ?」
照れ臭くなり、話題を変えようとする。
「今か? 6時だ、まだ早朝だな」
「6時……まだ寝るか……」
俺は再びベッドに倒れ込み、こちらを向く日向に抱き着いた。
寝惚けてたからしょうがない。
悪気は無い。
本当に。
「な、提督!?」
「あったけ~……」
「……やれやれ、君にも案外子供らしいところがあるんだな」
日向は穏やかに笑いながらそう言った。
たった一晩で随分と変わったものだ。
「まあな……こうしてると安心するんだ……」
抱き着いたまま目を瞑る。
すると、日向も枕に頭を戻したのだろう、ポフンと音がした。
「助けてくれて、本当にありがとう。私の胸で良ければ、ゆっくり休むといい……」
穏やかな言葉で、ますます眠気が増す。
いずれにせよあと30分程度で起床時刻だが、今はこの眠気に勝てそうにない。
このまま眠らせてもらおう……。
「母さん……」
「……?」
その一言は、日向以外の誰も、俺でさえも耳にすることはなかった。
ーーー ーーー ーーー
30分後。時刻はマルロクサンマル、起床時刻だ。
「全隊起床ーーーーッ!!!!」
「ッ!?」
「な、なんだ!?」
朝会担当の小隊員たちが一斉に宿舎を回り始める。
さすがに士官室には怒鳴りに来ないが、このデカい声で士官達が兵士たちと同じく起床しているのもまた事実だ。
「はは、2人はやっぱり驚くよな」
怒声に飛び起きた扶桑と日向を見て軽く笑いながら、ぐぐーっと伸びをする。
「ここでは毎朝こうしているのですか?」
「ああ、そうだぞ。軽いモーニングコールみたいなもんだ」
「あれで軽いのか……」
二度寝のお陰もあってか、目覚めは良い。
2人も完全に起きたようだし、トレーニングに顔を出すのもいいかもしれないな。
ちなみに、本来俺や少尉クラスになればトレーニングはやる側よりもやらせる側の方が多いはずなのだが、俺がまだここにいた頃は普通に参加させられてた。
鬼教官に。
さすがにもう大丈夫だとは思うが……。
「扶桑、日向、動けるか? ちょっと演習場に顔を出そうかと思ってるんだが」
「はい、すぐ支度しますね」
「分かった、すぐ着替えよう」
ロッカーから提督服を取り出し、隣の空き部屋へ。
基本的に更衣室などは用意されていないので、まあ必然的に俺が退く必要がある。
ーーー ーーー ーーー
時刻はマルナナマルマル、第二演習場にて。
いーちっ!
にーいっ!
屈強な男達の声が無機質なコンクリートの上で響いている。
トレーニングメニューも様々で、隊長たちの性格がよく表れる。
「はは、懐かしいなぁこの空気」
「あ、3人とも、おはようございます」
トレーニングウェアに着替えた少尉だった。
もう強制はされていないようだが、やはり参加はしているようだ。
「おう、はよっす」
「おはようございます」
「おはようございます」
「中尉もまたトレーニングするんですか?」
「まさか。ちょっと見に来ただけさ」
そこで参加すると言っておけば少しはマシだったのだろうか。
「ほーう……いい度胸じゃないか貴様」
「げっ、教官!?」
音もなく俺たちの後ろにいたのは、俺たちをシゴいていた教官本人だった。
見た目も変わりなく、安心したのも束の間。
「久々に帰ってきた癖に挨拶にも来ないとは……覚悟はできてるんだろうな?」
「いや、その、ほら、僕今制服ですし……」
「脱げェそんなもの! 彼女たちに持たせておけ!」
「はいっ!」
一瞬で上着を脱ぎ捨てる。
この人の言葉には逆らえないのだ。
「よし! 今日は特別メニューだ!」
その言葉を聞くや否や、トレーニングをしていた兵士たちの視線がこちらに集まる。
隊長たちも悲壮な目線を送ってくる。
「ほら行け! まずはダッシュ1キロだ! ははははははははは!」
「ぬおあああああ!」
「勘弁してくださいよ中尉ー!」
「俺のせいじゃねー!」
俺やトレーニングを指示していた隊長たちを含め、全員が教官の言う通りに走り出す。
この人のカリスマはどうなっているのか。
「あーあ、中尉たち可哀想に」
そしてさりげなく逃げようとする少尉。
まさか逃げられる訳もなく。
「何をしてる少尉! 早く貴様も行けェ!」
「イエッサー!」
少尉の後ろ姿も消え、その場には教官、扶桑、日向の3人が残された。
少しの静寂のあと、口を開いたのは教官だった。
「なあ、君たち。提督は……どうだ? ちゃんと仕事はできているか?」
「あっ、はい! 執務もしっかりこなしていらして、作戦や装備の相談もよくさせて頂いています」
扶桑が慌てて答える。
それを聞いて、教官は小さく笑った。
「そうか……それなら何よりだ」
「ほう、鬼教官を笑わせるとはやるじゃないか扶桑よ」
「なんだポンコツハゲ」
ニヤニヤしながら現れたのは大佐。
教官にこんな口を聞けるのはこの人くらいだ。
准将は無理。ビビリだから。
「黙れゴリラ女。アイツが帰ってきたのがそんなに嬉しいのか?」
「別に? そういうお前こそ、昨日は随分と飲んでたみたいじゃないか」
扶桑と日向を蚊帳の外に、ギラギラと張り合う2人。
「たまたまだ。なあ、扶桑」
「は、はい!」
「提督は、ああ見えて案外寂しがり屋なんだ。どうか、そばに居てやってくれ」
「はい……! 任せて下さい!」
「私からも頼むよ。提督は、まだ子供だからな」
「それは分かる気がするな」
日向が小さく笑う。
「お、綺麗に笑うじゃないか」
と大佐。
「そ、そうだろうか」
照れる日向。
4人は暫く語り合っていた。
ーーー ーーー ーーー ーーー
ヒトヒトマルマル。
「じゃ、じゃあそろそろ帰ります」
息も絶え絶え、何とか俺は言った。
甘かった。考えが甘かった。
普段やってたトレーニングより数百倍はキツかった。
マジで死人が出るレベルだぞあれ。隊長が泣き出すとか実戦よりひどいからな。
「やれやれ、もう帰るのか」
教官が不満げに呟く。
勘弁してくれ死にたくないんだ俺は。
「そうだ、提督。准将からの伝言で、任務完了だそうだ」
とてつもない仕事の速さに驚いた。
今も起きてこないのは仕事をしていたからなのか、コレクションを楽しんでいたからなのか。
どっちでもいいが。
「じゃ、そろそろ出ますよ~」
例によって運転は少尉だ。
「じゃ、また来いよ。今度は小さい子を連れてな」
「アンタそれマジで憲兵が来ますよ」
「次はもっと鍛えてやるからな」
「期待しておきます」
二度と来たくない。
「それじゃ、また」
「ああ」
「おう。扶桑、日向、提督を頼んだぞ」
「「はい!」」
エンジンがかかり、車体が軽く揺れる。
音楽が流れ始め、2人がだんだん遠ざかってゆく。
後ろは振り返らない。
また会える。
必ず、また。
ーーー ーーー ーーー
「あいつも、立派に育ったもんだ」
「ああ」
「どうだ? やっぱ息子が離れてくのは寂しいのか?」
「バカを言うな。血が繋がっている訳でもないだろうに」
「それでも、アイツにとってはアンタが母親がわりだったことには変わりないぞ」
「そんなことは分かってる。ろくに甘えさせもできなかった、碌でもない母親さ」
「……」
「私だって軍人の端くれだ、いちいち悲しんだりはしない」
「そうか」
「お前こそ、いつになったら提督に本当のことを伝えるつもりだ?」
「……俺からは伝えないさ。それがアイツの頼みだからな」
「提督が、自分で答えを見つけると?」
「ああ。提督ならできる。必ずな」
「……そうか」
「くく、ははは」
「ははははははははは!」
「ははははははははは!」
まだ日も高く、明るい空に、2人の軍人の声が響いて消えていった。
仲間の意思を紡ぎ、新しい炎を育て、見送りながら。
吹き荒れる逆風の中でも自分を見失わぬように、と願いながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
時刻はフタヒトマルマル。
交通状況の影響で行きよりも時間がかかってしまったため、夜遅くの到着になった。
「ふう、着きましたよ」
少尉が車のエンジンを止め、軽く息をつく。
あの訓練後に長時間の運転だ、いくら少尉とはいえ疲労は溜まっているだろう。
「おう、ありがとな。今日泊まってくか?」
「あー、助かります」
「2人とも、着いたぞ」
後部座席を見る。
すると、疲れてしまったのか、扶桑は日向に寄り掛かりながらすやすやと寝息を立てていた。
「あ~、寝ちまったか……」
「そのようだな」
「仕方ない、よっこらせ」
車から降り、後部座席のドアを開けて扶桑をお姫様抱っこする。
本音を言えば世間体的にも背負う方が良いのだが、寝てる相手には難しいから仕方ない。
「おお、羨ましい……」
「お前のその素直なとこほんと好きだわ」
「そりゃどーも」
「さて、戻るか」
鎮守府の正面玄関のドアを開ける。
館内の電気は付いているが、昼間に比べればかなり静かだ。
執務室に向かう前に、そのまま扶桑の部屋へ。
入るのは初めてだが、扶桑らしい、シンプルな部屋だった。
明日にでも、何か欲しいものとか無いのか聞いてみよう。
「よっ、と」
起こさないように、静かにベッドに下ろす。
「おやすみ、扶桑」
そーっと部屋を出た。
「さて、日向の部屋は……どうすっかな」
空き部屋は沢山あるのだが、布団の場所が分からない。
宿直当番用の仮眠室だかがあるらしいが、そこは少尉に使わせようと思ってたからな……。
「そんなに気を遣ってくれなくても、何だったら車の中でも私は平気だぞ?」
「いや、流石にそれは、な」
「だったら……提督と一緒に寝てもいいか?」
「え?」
真顔で言う日向さん。
「え、いや、それは……」
「ダメか?」
「いや、ほら、やっぱり年頃の男女がそういうのはさ……?」
「あんたもう二十歳過ぎてるだろうに」
少尉がボソッと呟く。
「私と寝るのは、嫌か……?」
少しだけ俯いて言う日向さん。
そんなキャラだったっけ?
しかしまあ、Dの意思を継ぐ者である俺が断れるはずもなく。
30分後。
途中で会った夕張に事情を話し、日向と共に俺の私室へ。
不満げな目で見られたのは言うまでもないが、まあ何とか認めてくれた。
「だー、疲れた~」
提督服を脱ぎ、ベッドに倒れ込む。
見た目こそ威厳が出ていいのだが、白いから汚れが目立つのと動きにくいのが制服の難点だ。
軍人たるもの、勤務時間中は正しい服装をするのが礼儀だとかなんとか。
「これからは、ここで戦うんだな……」
ベッドから起き上がり、提督服をハンガーに掛けていると日向が窓から海を見下ろしながら呟いた。
今は静かな戦場を見据えるその目は、様々な思いが渦巻いているように見えた。
「不安か?」
「ああ、不安だ。守りたいものがあるからこその、不安だよ」
よく分かる。
俺も、提督になってから何度も味わってきた不安だ。
「大丈夫だ。俺達がついてる」
「……そうだな」
日向は嬉しそうに言った。
「不安だが、それ以上に嬉しいんだ。守りたいものが出来たことが」
こちらを向き、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「扶桑も、夕張も、他の仲間たちも、この鎮守府も、基地のみんなも。私が守るべき、守りたいものなんだ」
東基地が入ってるのは少し意外だったな。
「そして、なにより」
日向が俺と向かい合う形でベッドに乗った。
抵抗せず、されるがままにベッドに倒れる。
「私は、貴方を守りたい」
今まで見た中で1番穏やかな、綺麗な笑顔だった。
儚さすら感じるほどに。
「それは心強いな」
日向の唇が近付いてくる。
拒む気にはなれなかった。
「んっ……ちゅっ……」
「んむ……はっ、はっ……」
柔らかく、暖かく、甘い。
このまま溶けてしまいそうだ。
「提督、好きだ……!」
「日向……んっ……」
想いを吐き出した日向は必死に俺を求めていた。
まるで今までの地獄を忘れ去ろうとしているかのように。
「はあ、はあ……」
ひとしきりお互いを求め合い、息を整える。
そして日向がゆっくりと自らの衣服を脱ごうとする。
俺はその手を優しく止めた。
「提督……?」
日向が寂しそうな目でこちらを見つめる。
頬は赤く染まり、かなり色っぽい。
正直俺も余裕はないが、ここで止まらないと本当に止まれなくなる。
それは日向に悪い。
「この先はまだ、な。これからここで戦って、笑って、たまに泣いて……」
体を起こす。
「色んなものを見て、世界を見て、それでも気持ちが変わらなければまた言ってくれ。その時は俺も応える」
「提督……」
「今はまだ、可能性を狭める必要はないんだ」
「私は……いや」
何かを言いかけたが、それを抑え日向もまた体を起こす。
「分かった。今はそうするよ」
「日向……おっと」
先程とは違い、ゆっくりと、優しく、日向が抱き着いてきた。
「提督、好きだ、愛している」
「……」
胸が締め付けられる。
当然ながら、誰かに告白されるなんてのは生まれて初めてだ。
「今は貴方の言うとおりにするよ。けれど、私はずっと貴方を愛し続ける。今度こそ、守ってみせる」
「……ああ、よろしく頼む」
そのまま再び横になり、俺達は眠った。
お互いを離さず、どこにも行かぬように。
ーーー ーーー ーーー ーーー
次の日。
「つーわけで、今日から俺たちの仲間になった日向だ」
「伊勢型超弩級戦艦2番艦、日向だ。よろしく頼む」
「「「「よろしく~」」」」
執務室には俺と少尉を含めた、この鎮守府に所属する全員が集まっていた。
日向のことと、俺が本営でやったことを説明するためだ。
結果がどうであれ、やったことは説明しなければならない。
「にしても、無茶したわね~」
呆れ顔の足柄。
「無事に帰ってこられて良かったよ……」
ホッとする夕張。
「後先考えずに無責任な事をしたってのは分かってる、謝るよ。ただ、あれを見過ごすなんてことは俺には出来ない」
「提督らしいですね」
いつも通りの、穏やかな笑顔を浮かべる鳳翔さん。
「あ、司令官さん。ポストに書類が入っていたのです」
「ん、サンキュー。書類?」
電が持っていた封筒を開ける。
すると、中からは1枚の紙が出てきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
東鎮守府所属〇〇中尉
貴殿及ビ貴殿ノ上官ノ強イ要望ノ為、東鎮守府ノ艦娘着任人数制限ノ規則排除スルモノトスル。
尚、本件ハ東鎮守府ノミ特例デアル。
注意サレタシ。
大本営
ーーーーーーーーーーーーーー
「マジか。相変わらず仕事が早いなあの人は」
准将の手際の良さに感心しながら通達を眺める。
「これは……もしかして、このために皆さんの元へ?」
「ああ、そうなんだ。俺らのボスは色々と顔が広くてな」
准将、お礼は今度改めてするぞ。
既刊新刊話題作、色々と用意してやるからな。
「よし、これで人数制限は消えた。みんな、受理出来なかった着任許可願の再手続きを頼む」
「「「「「はい!」」」」」
そうして、最初のタイミングで許可願を受理出来なかった艦娘たちに連絡をして、彼女らの到着を待った。
ーーーーーーーーーーーーーー
次の日。
ヒトヒトマルマル、執務室にて。
「……」
「……」
俺は今日の秘書艦である電と共に執務に追われていた。
日向のこと、改めて着任許可願を受理した艦娘たちのこと、業務日誌など、やることは山積みだ。
ちなみに、ここ東鎮守府では秘書艦はローテーション方式となっているそうだ。
出撃などの予定が無くても秘書艦は1日提督である俺に付き従い、各種業務をサポートするらしい。
カリカリ、カリカリとペンの音が執務室に響く。
すると。
ピンポーン。
「あっ」
「ん?この音ってインターホンか」
「なのです。お客様なのです?」
「んにゃ、特にそういう予定は無いが……」
とりあえず席を立ち、正面玄関へ。
電も後に続く。
ーーー ーーー ーーー ーーー
「ほいほい、お待ちどーさん」
正面玄関というだけあり、なかなか大きめの扉を開く。
すると、そこには4人の艦娘が立っていた。
「中尉サーン! 会いたかったデース!」
その中の1人が、俺と目が合うなり飛びかかってきた。
知っている顔だから避けはしなかったが、まあそれなりに驚いた。
「ぬおっ! 金剛?」
「モー、着任許可願の返事が遅いネ! 凄く心配だったんだヨ?」
「ああ、悪かったな。色々トラブっててさ」
金剛は夕張が元いた鎮守府の艦娘のうちの1人だ。
言葉を交わしたこともあり、明るくなっていて内心ホッとした。
「許してあげるネ! その代わり末永くヨロシクネー!」
「あ、お、おう。よろしく」
なんか不穏なワードが混じっていた気がしないでもないが、面倒だからスルーで。
「お久しぶりですね、中尉さん」
そして、また1人が口を開いた。
白いバンダナに背中まで伸びた綺麗な黒髪、そして下縁メガネ。
忘れるはずがない。
「え、大淀先生!?」
大淀先生だった。
研修期間、その中の最初のひと月で提督候補たちの各種座学を担当していた本営付きの優秀な艦娘。
研修生たちの間でもよく噂されていた。
「えっと、何故ここに?」
今もまだ本営で仕事をしているのだと思っていた。
「いえ、ある不出来な教え子があろうことか中将殿に殴り込みをかけたと聞きまして」
「あっ、いや、それは……」
爽やかな笑顔とは裏腹にとてつもない迫力。
相変わらず冷や汗が止まらない。
「なんて、冗談ですよ。相変わらず無茶をしているそうで、気になって来たんです」
「マジですか……」
座学担当のポンコツ共にはよく口答えしていたが、この人にだけは逆らえる気がしなかったのだ。
授業も寝てるとチョーク飛んでくるし。
「え、えーと、君は?」
とりあえず話を変える。
これ以上残りの彼女たちを放置しても失礼だろうし。
「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」
「おう、よろしく頼む」
差し出された右手を握る。
「……」
不知火は嬉しそうに俺の手を握り返した。
「それと、君は……」
「暁よ。あの時はありがとう」
「……よく来てくれた。電も喜ぶよ」
暁だった。
電に助けてくれと頼まれた、電の姉。つまりは暁型の長女だ。
この子を見ると、ついでにアイツのことも思い出す。
「覚えてて、くれたの?」
「当たり前だろ? ありがとな、来てくれて」
帽子を取って頭を撫で回す。
まだ控えめに見えるが、それでも前よりは格段に人との触れ合いができるようになっていて良かった。
「えへへ……」
で、それはいいのだが。
「おい金剛、いい加減離れてくれ」
長い。柔らかい。
勘弁してくれ大淀先生もいるんだマジで殺されかねない。
「嫌ネ」
「おい」
「金剛さん?」
「分かった、離れるヨ!」
「……」
大淀先生マジで何者……?
そんな俺の気も知らずに、大淀先生はペラペラと書類を捲る。
「えーと、〇〇鎮守府からの着任艦娘はあと2名ですね。到着は明日以降になるそうです」
「はい、分かりまし……ん、あと2名?」
おかしい気がする。
夕張、電、足柄、鳳翔さん、金剛、暁、不知火だろ?
それとあと2名?
「人数オーバーしてません? 俺が言うことでもないですけど」
奴の鎮守府にも人数制限はあるはず。研修の時にそう説明された。
「ええ、彼は在籍艦娘申請を不正に申請していたようですね。暁ちゃんと電ちゃんの在籍表はありませんでしたから。それに鳳翔さんは戦力としてではなく単なる労働力として無理矢理登録していたようです」
「なっ……なんじゃそりゃ……」
「まあ、それが海軍の現状だということです」
大淀先生は何でもないかのように言う。
俺は何も言わない。
この人も、分かっているから。
「……とりあえず、中へ行こう。色々とやってもらうことがある」
複雑な気分になりながらも、俺達は新たな仲間たちを迎え入れた。
ーーー ーーー ーーー ーーー
ヒトフタマルマル。
廊下にて。
「だああ、だから離れろって!」
「ヤダー! 離さないネ!」
「なんでだよ!」
「提督がワタシを見てくれないからヨ!」
「そんなことないって!」
金剛がヤバいです、はい。
隙あらば抱き着いてくるし、あと控えめに言ってうるさい。
嫌な気はしないが、そのうち俺のクビが飛ぶ。
「金剛さん、そろそろ司令の迷惑になる行為は慎んだ方がいいかと」
「……」
不知火は不知火で俺の右手を離してくれない。
執務室を出てから繋ぎっぱなしだ。
するとそこへ彼女が。
「あ、提督やっと来た……って金剛さん! 何してるのよ!」
「夕張ー! 久しぶりネー!」
夕張だ。どうやら俺達が食堂に来るのを待っていたらしい。
「お久しぶりです! 提督から離れて~!」
「ぬおおお」
夕張が必死に金剛を引っ張っているが金剛の吸着力が強く、俺まで引き摺られる。
「あらあら、モテモテですね~」
「見てないで助けてくださいよ大淀先生……」
「私には難しいかと。いいじゃないですか貴方だって嬉しそうなんだから」
何でこの人は不機嫌になってるんだ……。
「だから! 提督は独り占めしちゃダメなの!」
「嫌ヨ! 提督のことはワタシが1番愛してるネ!」
「ケンカしてないで昼飯を食わせろおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
またまた賑やかになった鎮守府に、俺の悲痛な叫びが響くのだった。
ーーー ーーー ーーー ーーー
次の日。
ヒトマルマルマル、執務室にて。
「ん、何だこれ」
俺はある1枚の書類を見つけて執務の手を止めた。
「ん、何か特別な書類?」
今日の秘書艦は夕張。
昨日来た連中には扶桑と日向に各所の案内を頼んである。
「海外艦派遣通知……これなんて読むんだ?」
肝心な艦名の部分が読めない。ただの英語ではないようだが……。
「どれどれ……ああ、これはグラーフ・ツェッペリンって読むのよ」
「グラーフ……?」
「うん。グラーフさんはドイツの正規空母ね。どんな人かは私も知らないけど」
「ドイツの艦娘……そんな貴重な戦力をわざわざここに……?」
どうにも裏がありそうだな……。
「なんかどんどん大所帯になってくね、この鎮守府も」
勘繰る俺とは違い、夕張は嬉しそうに笑った。
「はは、そうだな。大変なこともあるだろうが、頼りにしてるよ」
「うん、まっかせといて!」
ーーー ーーー ーーー ーーー
ヒトゴーマルマル。
工廠にて。
「なるほど、それが35.6cm連装砲で……」
「はい、ではこれは?」
「えーと、20.3cm連装砲?」
「はい、正解です」
俺は大淀先生と、手の空いていた不知火に手伝ってもらいながら装備についての勉強をしていた。
本来ならば執務室でデータを元にどの装備使わせるか指示するだけらしいが、実際に装備を見て、触って、使う本人達の意見を聞くことはとても大事だと思う。
戦場で命を預ける相棒そのものなのだから。
だからこそ、厳しくされることも覚悟の上で大淀先生に教えを乞いた。
「魚雷に関しても、ただ発射管数が多ければいいというものではありません。結局命中しなければ意味がありませんから」
そういう性格なのだろう、大淀先生と一緒になって色々なことを教えてくれる不知火はとても生き生きとしている。
「ふむ……ちなみに不知火は使いやすい装備とかはあるのか?」
「あ……も、申し訳ありません。不知火は12cm単装砲しか装備させてもらったことが無いので……」
「……」
奴の顔を思い出した。
暁たちが元いた鎮守府の提督だ。
怒りを抑える。
ここで怒ってもどうにもならない。
まあ大淀先生にはバレてるだろうけど。
「そっか。ならこれから一緒に使いやすいやつとか探していこうな」
「司令……はい!」
不知火はまだ出撃も演習もさせていない。
着任したばかりだ、これから訓練を見に行ったりしながら一緒に装備構成を考えよう。
「えーと、主砲副砲魚雷に対空装備、あとは……?」
「対潜装備に艦載機、それと索敵装備。輸送用のドラム缶や特殊装備もありますが、とりあえずこのくらいでしょう」
「は~、先が思いやられる……」
主砲や機銃などは、まだ基地で似たようなものを触っていたから経験でなんとかなっている。
ただ、対潜装備や艦載機なんてさっぱり分からない。
勉強嫌いな俺の頭は既にオーバーヒート気味。
「まあ今回は私以外にも皆さんからも教われますし、焦る必要も無いですから」
「ですね。しっかり覚えないと」
厳しいことに変わりはないが、こういうことでは本当に大淀先生は頼りになる。
「司令は、なぜわざわざ装備の視察を?」
不知火が不思議そうに聞く。
「基地にいた時からそうだったんだ。使わせる物はデータだけじゃなく見て、触って、話を聞いて、判断する。俺の基地はみんな使ってる銃が違くてな」
もちろんある程度の種類はあるが、その中からはデータと本人の意見をもとに、ある程度自由に選ぶことが出来る。
弾薬は共有できた方が便利だから、銃の口径別で小隊を組んだりもする。
更にそこから様々なカスタムが入るから、実戦に出る頃にはアタッチメントも含めて完全なオーダーメイドの銃になる。
こんなアホな事をしてるのは東基地くらいだろう。時間も金もアホみたいにかかる。
「一人ひとりに教官や工場の親方が相談に乗ってくれて、1番使いやすい銃を作り上げてくれるんだ。だから、それに倣ってる」
「出撃前には最善の準備を。教えをしっかり守っていて安心しました」
大淀先生が少し笑う。
時々見せる、機嫌のいい時の本気笑いだ。
めっちゃ可愛い。
「……司令らしいです」
そこからまたしばらく、俺は2人に色々なことを教わった。
ーーー ーーー ーーー
ヒトキューマルマル。風呂上がり。
緩いトレーニングウェアを着て、肩にタオルを掛けながら廊下を歩いていた。
わざわざ寝巻きなんて買うより、山のように基地から送られてきたコイツらを着る方が楽なのだ。
「ふー、まだ暑いな……」
9月に入り、昼間の猛暑は多少なりマシになってきた。
とは言え、まだこの時間でも外は明るく、エアコンのない廊下などは蒸し暑い。
早く涼しい執務室へ……と歩いていると、少し前の方に大きな袋を1人ひとつずつ持ってトテトテ走る姿が2つ。
電と暁だ。
可愛らしいパジャマに身を包み、何やら嬉しそうに話している。
恐らく行き先は俺と同じだろう。
執務室まで着くと、電が袋を置いてコンコン、とドアをノックした。
「あれ、いらっしゃらないのかしら……」
「お風呂かお夕飯なのです……?」
「よっす、どうしたお二人さん?」
2人の頭をポンと叩く。
「あっ、司令官」
「司令官さん! 良いニュースなのです!」
「良いニュース?」
とりあえず蒸し暑い廊下で話すのもなんだし、執務室の中へ。
来客用の長椅子に3人で座る。
「で、良いニュースってのは?」
「なのです!」
2人が袋からそれを取り出す。
「花火か。どうしたんだ?」
それは大小様々な種類の花火が入った、大きなファミリーパック花火だった。
「昼間に足柄さんと3人でお買い物に行ったんだけど、そこの福引きで当たったの」
「なのです!」
ふんす、と電がドヤ顔をする。
「ほお、すごいじゃんか。足柄は?」
「ポケットティッシュとたわしなのです」
「ぶふっ!! 2回引いたのか……!」
負けず嫌いというか何というか……。
足柄らしいな。
「それで? 今からやるのか?」
「なのです! でも足柄さんがやる時は大人の人とって言ってたのです」
「だから、良かったら司令官、一緒に花火しない?」
俺はロリコンじゃない。
俺はロリコンじゃない。
俺はロリコンじゃない。
よし、オッケー。
「おう、もちろんいいぞ。暗くなりすぎる前に行くか」
「なのです!」
「えへへ、司令官と一緒……」
花火をやるのはいいんだが、誰かもう少し俺の理性を抑える人員が欲しい。
いや、手は出さんが。
絵面もヤバいしな。
2人を連れて鎮守府内を歩く。
花火なら工廠の外くらいが丁度いいだろう。
水も確保出来るし、最低限の明かりもある。
そんな事を考えていると。
「あ、提督。電ちゃんと暁ちゃんも」
「どこか行くのか?」
扶桑と日向に会った。
相変わらず仲がいいようだ。
「ああ、2人が街の福引きで花火当てたって言ってな。じゃあ今からやるかって」
「花火……というのは、あの空でドーンとなるアレか?」
日向が普通そうに言う。
手持ち花火も知らないことには少し驚いた。
「いや、あれは打ち上げ花火って言ってな。そうじゃない、手で持つ種類もあるんだ。良かったら2人も来ないか?」
「む、それは興味深いな」
「電ちゃんたちがいいなら、ぜひ」
「もちろんなのです! みんなでやれば楽しいのです!」
「暁も、みんなでやりたいわ」
目を輝かせる子供2人に大人2人。
俺はクスリと笑った。
「決まりだな。行こうぜ」
ーーー ーーー ーーー
「よっと」
水を張った一斗缶を置く。
火が消えた花火を入れておく、よくある消化装置だ。
それとロウソク。ライターは持ってないからマッチで点火。
「綺麗なのです!」
「おお、これは……!」
花火を手に、大はしゃぎする電とかつてなく興奮する日向。
見ているだけで楽しくなる。
「ふふ、日向も楽しそう」
「だな。息ピッタリだあの二人」
小分けになった1袋をあっという間に使い切ったと思いきや、今度は2人で火を分け合いながら両手に持ってグールグル。
よくやるやつだ。
扶桑もいつの間にやら近くへ行き、混ざったり見守ったり、少しずつ花火を使う。
それとは対象的に、暁は俺のそばで控えめな花火を何本か楽しんでいる。
「綺麗……」
「暁、もっとアイツらみたいにデカいやつ使っていいぞ?」
「ううん、暁は……これくらいでいいの」
「……そうか」
俺も暁が使っているのと同じものを1本持ち、暁のすぐ隣へ。
「火、貰っていいか?」
「ええ、もちろん」
火のついた花火とついていない花火。
ゆっくりと近付ける。
煙を上げながら光り輝く。
控えめでも、十分美しい。
「楽しいか?」
「うん、すごく楽しい……!」
また暁が「えへへ」と笑う。
それを見てると俺も暖かい気持ちになる。
「なあ、暁」
「なあに……?」
空いている方の手で、優しく暁の肩を抱き寄せる。
「また、みんなで花火しような」
「うん……!」
火の消えた花火を一斗缶に投げ、暁は両手でギュッと俺に抱き着いた。
はしゃぐ3人を、2人で見守る。
綺麗な光が、点いて、消えて、また点いて。
いつか、こんな日々が当たり前になったら。
いつか、この海を、この世界を、平和にできたら。
それはきっと、こんな風に暖かいことなんだろう。
ーーー ーーー ーーー
数日後。
時刻はヒトヒトマルマル、鎮守府正面玄関にて。
「グラーフさんか、どんな人なんだろうね」
俺たちは新たな仲間、グラーフの到着を迎え入れる準備をしていた。
と言っても正面玄関で出迎えるくらいだが。
パーティはこっそり、やらないとな。
「こちらの言葉は通じるのでしょうか……?」
扶桑が言う。
まさか通訳でも付いてくるのだろうか。
「来ましたね」
大淀先生の声に前方を見守っていると、大型の軍用車両が1台鎮守府の敷地に入ってきた。
大きめの音を立て、停車。中から運転手が出てくる。
「○○二等陸尉殿、ご苦労様です。ドイツ海軍所属、正規空母グラーフ・ツェッペリンをお連れ致しました」
服装から見るに、彼は日本兵士ではなくドイツ海軍だろう。
日本語が喋れるのは驚きだ。
「ご苦労様です。東鎮守府、○○二等陸尉、確かに確認しました」
若い兵士は1度俺たちにペコッ、と頭を下げ、車両の後方に向かう。
「グラーフさん、到着しました」
「ああ」
車両から出てきたのは、透き通るような美しい銀髪を靡かせた、とても肌の白い綺麗な女性だった。
だが、帽子の僅か下から見えるその目付きは鋭く、あまりいい感情は感じられない。
「航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。よろしく頼む、Admiral」
「東鎮守府、○○二等陸尉だ。よろしく頼む、グラーフ」
右手を差し出す。
だが、グラーフはそれを一瞥し、手を取ることなく兵士に向き直った。
「長距離の移動、感謝する」
兵士はグラーフに返事をすることなく「それでは自分はこれで」と言って車を出してしまった。
明らかな違和感に、扶桑たちは何も言えずにいる。
「執務室に来てくれ。手続きを済ませよう」
とにかくこのまま外にいる訳にもいかない。
俺は黙って後ろを付いてくるグラーフに何とも言えない不安を感じていた。
ーーー ーーー ーーー
「以上で、着任手続きは完了だ」
「ああ」
「……」
空気が重い。
グラーフは相変わらずの塩対応だし、秘書艦の夕張も顔が引きつっている。
どうにか打ち解けられないだろうか。
「な、なあグラーフ、良かったら一緒に昼飯食いに行かないか? 他のみんなにも紹介できるしさ」
今が昼飯時で助かった。
鳳翔さんの美味い飯を食べながらなら、もう少し皆とも打ち解けられるはず。
だが。
「……気安いな」
「え?」
答えは予想よりも遥かに冷たいものだった。
「気安く食事を共にするなど言わないで欲しい。他の艦娘たちもそうだが」
この鋭い目は何なのだろうか。
「ここはAdmiralと艦娘の距離が近すぎる。我々が何か分かっているのか」
一体何が、彼女をここまで駆り立てるのか。
「何だ? お前の意見を聞きたい」
「……私たちは艦娘。戦争の為の道具だ。代わりなどいくらでもいる、使い捨ての道具」
「……それで?」
「道具に飯を食わせるなど金の無駄だ。私たちは燃料と弾薬があればいい」
こいつ……。
「何が仲間だ。勘違いさせる様な事を言うな」
「あっ、グラーフさん……!」
夕張が止めようとするが、グラーフはそのまま執務室を出ていってしまった。
「ふー、やれやれ」
とんだじゃじゃ馬が入ってきたもんだ。
「提督……グラーフさんって……」
「……」
まあ、向こうではそういう扱いをされてきたのだろう。
こっちでも別段珍しいことじゃない。
許せることでもないが。
問題はそこじゃない。
夕張や電たちは、あの酷い環境から助け出すことで心を開いてくれた。
だが、グラーフの考え方は向こうの鎮守府、提督から解放されても変わっていない。
そう教えこまれている。
「何とかしてやらないとな……夕張、また手を貸してくれるか?」
「うん! もちろん!」
あの言い方では、出撃させたら何をするか分からない。
この鎮守府に来た以上、必ず何とかしなければ。
ーーー ーーー ーーー
またまた数日後。
時刻はヒトキューマルマル。
「はあ……」
「提督、大丈夫か?」
今日の秘書艦は日向。
慣れたもので、書類仕事をする時はすごく頼りになる。
だが、俺の今の悩みの種は別にある。
「上手くいかねぇなぁ……」
無論、グラーフのことだ。
相変わらずの冷たい態度。
予想してはいたが、周りの艦娘たちとも上手く打ち解けられず、コミュニケーションに支障が出ている。
訓練が上手くいかないのもそれが理由だ。
「グラーフ・ツェッペリンか……確かに、彼女は冷たい目をしているな……」
「前の日向とも違う感じなんだよな……無理やり何かを押さえ付けてるっつーか……」
掴めそうで掴めない。
そんなモヤモヤがここ数日、俺を悩ませている。
ため息をついていると、日向がそっと俺の頭を抱き寄せた。
俺は座っているから、日向の胸がモロに顔に当たる。
「大丈夫だ。私の事だって、こうやって救い上げてくれたじゃないか」
「日向……」
「あなたなら、できるさ」
そうだ。
何を弱気になっているんだ。
それが出来なきゃ、俺がここにいる意味なんてないじゃないか。
「ありがとう、日向」
絶対に、何とかする。
必ず、アイツを助けてみせる。
ーーー ーーー ーーー
次の日。
時刻はヒトハチマルマル。
たまたま鎮守府の外へ出て行くグラーフを見つけ、俺はその後を追った。
グラーフが来たのは海岸だった。
鎮守府の前に広がる海、鎮守府と繋がった出撃ブースから少し離れた場所。
俺が扶桑を見つけた時に走っていた、海沿いの道だ。
夕日に照らされ、海は蒼と朱の点在する、何とも幻想的な風景を醸し出していた。
「……何の用だ、Admiral」
バレてた。
それなりには気配消してたはずだが。
「いや、特に用はないんだがな」
「……なら私はもう帰るぞ」
「いや、待ってくれ」
「なんだ」
「……お前は、何を我慢しているんだ?」
上手く言葉が出なかった。
まだ違和感の正体を明確に感じたわけじゃないからだ。
だが、幸か不幸かこの言葉は革新に近い部分を突いていたようだった。
「ッ!!」
突然、グラーフが俺の胸元に掴みかかってきた。
「……ぐっ」
首元が絞まる。
「貴様、何も知らない癖に……!」
この時はハッキリとグラーフの感情が伝わった。
怒りだ。
「ああ、何も知らないさ……!」
そして悲しさ。
「けどな、グラーフ……! お前だって、ここに来たからには幸せになってもらわなきゃ困るんだよ!」
「何が幸せだッ……!」
締め上げる力が増す。
目がチカチカし始める。
「がっ、はっ……!」
その時、あるものが俺の目に入った。
俺の襟首を締め上げるグラーフの右手。
白い手袋が、少し赤く滲んでいた。
外からではなく、内側から何かが染み出ているように思えた。
「ぐっ!」
何とか手を振り払う。
「はあ、はあ……」
「勝手なことばかり……貴様ら人間は……!」
グラーフの目元には涙まで浮かんでいた。
「グラーフ、その右手……」
言われて気付いたのか、グラーフは右手をバッと隠した。
そして少しずつ後ずさりし始める。
グラーフはここに来てからはまだ出撃を経験していない。
訓練には何度が参加させたが、怪我の報告は無いし、そもそも怪我をするような戦闘訓練はしていない。
「……ッ!」
「なっ、待てグラーフ!」
グラーフは耐え切れずに走り出した。
ここで逃げられちゃダメだ。
そう思った。
「グラーフ!」
「付いてくるなァ!」
痛い。
グラーフの悲しげな声が胸に刺さる。
「クッソ……!」
鎮守府が見えてきた。
さすがに鎮守府の中でまで追いかけっこをする訳にも行かない。
すると、その時。
「あっ、ぐっ!」
グラーフが躓いて地面に転んだ。
幸い、とは言えないが追い付いた。
「はあ、はあ、大丈夫か?」
「近寄るなぁッ!」
完全に泣いている。
お互い息も切れている。
今の大きな声で、何人かが鎮守府から様子を見に出てきた。
「お前は、なぜ、なぜ……!」
「何だ」
「私が、今までやってきた事を否定するな!」
「……!」
ようやく合点がいった。
グラーフは、怖かったのだろう。
ドイツの鎮守府で、物のように扱われ、それでも必死に耐えてきた。
自分は物だと割り切り、それでもなお、戦い抜いてきた。
それが普通だと思っていたから。
だからこそ、ここの、東鎮守府の普通が、普通だと信じたくなかったのだろう。
今までの自分否定されてしまうのではないかと恐れて。
「グラーフ、右手、見せてみろ」
「やめろ! 触るなぁッ!」
左手から投げられた石がこめかみに当たる。
血が出る。
白い提督服に赤い点がポツリとできる。
「あっ、ああ……」
「……」
当たるとは思っていなかったのか、俺の血を見てグラーフの力が弱くなった。
俺は黙ってグラーフの右手の手袋を取った。
「これは……」
「ッ……!!」
グラーフの右手。その手の甲には、バツ印の大きな切り傷が付いていた。
かなり深くまで切られたのだろう傷は塞がりきっておらず、周りは黒く変色してしまっていた。
「お前、これ……」
だが、艦娘ならば。
この程度の傷は入渠で治せるはずだ。
「……!」
グラーフは必死に右手を隠した。
表情は一層辛く見える。
俺は再び立ち上がった。
グラーフの右手を掴んで。
「……来い」
「はな、せっ!」
「いいから来い!!」
「ッ!」
無理やグラーフを引っ張っていく。
抵抗する力は弱々しい。
玄関から俺たちを見守っていた夕張や金剛、不知火たちをスルーして、俺はグラーフを入渠ドックに連れて行った。
普通の浴場とは違い、入渠ドックには常に治療用の湯が張られている。
扶桑の一件から、多少の出費は覚悟の元で俺がそうするように指示を出した。
不測の事態にも対応できるように、だ。
俺はドックに入る時、1番目の浴槽の高速修復材のスイッチを押した。
「おい、Admiral! やめろ、離せ!」
「うるせぇ! いいから来い!」
そのまま、1番近い浴槽にグラーフの右手を突っ込んだ。
俺の右手もろとも。
「ぬぐあああぁあぁああぁああっ!!!」
突き刺すような鋭い痛み。
火傷にも似た痛みだ。
「なっ、何やってるんだAdmiral! よせ!」
「うる、せぇえええぇええぇええっ!」
お前は、お前はもっと痛い思いしてきたんだろうが!
グラーフの右手が完全に治ったのを確認してから、湯から手を抜く。
「はっ、はっ……」
グラーフの右手は完全に治った。
同じように白く、綺麗な肌だ。
それに比べ、俺の右手は酷い有様だ。
未だにビリビリと痺れ、皮膚は爛れ、真っ赤に腫れ上がり、指先はマトモに動かない。
「なんて事を……Admiral、一体何考えて……!」
グラーフは悪態を突きながらも、手際良く俺の右手を応急処置してくれた。
消毒の時にまた叫んだのは割愛。
「おい、グラーフ」
「……なんだ」
「お前は物なんかじゃない。俺の仲間で、代わりなんていないかけがえのないただ一人のグラーフ・ツェッペリンだ」
「……」
「よく聞け! お前は俺の大事な仲間だ! 命を懸ける価値だってある!」
「……!」
「また自分のことを物だなんて言ったらぶっ飛ばすからな!」
言いたいことを全部言った。
涙目だが。
だって右手痛いもん。
「……ふふ」
「……!」
笑った。
「そんな、涙目で言われても説得力はないな」
初めて、グラーフの笑顔を見た。
「うるせぇ。誰のせいだ」
「すまなかった。詫びる」
「いい。けど、分かってるな?」
「ああ。私は、もうAdmiralの物だ」
「そうだ。お前はもう……ん?」
何かおかしかったような。気のせいか?
「すまん、なんて?」
「私はもう、身も心も貴方のものだ。これから、ずっとよろしく頼む」
うんうん、その笑顔はめっちゃ可愛いんだけどさ。
なんかおかしくないか?
「いや、だからなん か お か……」
おあ?
俺もおかしい?
頭が、ふわふわしてる。
意識が、とおのいて……。
ーーー ーーー ーーー
「ふむ……」
ここは、一体何処なのだろうか。
見渡す限りの草原。
そよ風に揺れる短い草。
ポツポツと咲く花。
夢か、それとも幻か。
それにしては頬を撫でる風の感覚がリアルだ。
「お目覚めですか?」
声の方に振り向くと、黒髪の綺麗な女性が立っていた。
どこかで見たことがあるような、そんな気がするが、霧がかかったように思い出せない。
「ああ。君は? ここは、一体何処なんだ?」
ニッコリと、彼女は微笑んだ。
なぜかとても安心できる。
「立ち話もなんですから、お茶にしませんか? 時間なら、ありますから」
断る気にはなれなかった。
どこからともなく現れる机と椅子。
紅茶セットに洋風なお茶菓子。
やっぱり、何処かで見た気がする……。
「どうぞ。私のお姉様も、この茶葉がすごくお好きなんですよ」
手際よく紅茶を用意してくれた。
俺は彼女の向かい側に腰掛ける。
「このクッキーも。ティータイムには、よく一緒にお茶をしたものです」
言い方から察するに、今は会えないのか、もう亡き人なのか。
話す彼女は嬉しそうでもあり、寂しそうでもあった。
「君にはお姉さんがいるのか?」
「はい。姉が2人に、妹が1人。私は三女です」
やっぱり、昔話をする彼女は楽しそうだ。
しばらく、このまま聞いていたい。
「どんな人達だったか、聞かせてくれないか?」
「ええ、もちろん」
紅茶のお代わりを貰う。
「まず、妹は何でも完璧にこなそうとする子でしたね。メガネがよく似合ってて、末っ子なのに姉妹のお目付け役みたいだねってよく笑ってました」
呆れ半分、楽しそう半分。
その目はどこか遠くを見ているようだった。
「次女の姉様は、とにかく頑張り屋さんでしたね。よくお料理をしようと頑張っていたのですが、どうも上手くいかないようで。妹と私で必死に手伝っていました。そうしないと、食べた人が次から次へと倒れてしまって大変だったんですよ」
やれやれ、と言ったふうに笑う。
苦労話のようなものもあったが、それでも姉妹の話をする彼女は楽しそうだった。
俺には、縁のない話だ。
「いいもんなんだな、兄弟姉妹ってのは」
信頼出来る仲間はいる。
けど、俺には家族はいない。
血の繋がった、本当の兄弟は俺には分からないんだ。
「大変な事とか、喧嘩したりもしますが、困ってる時はいつも頼りになります。逆に頼ってもらえた時も、凄く嬉しいですね」
「そっか……」
「1番上のお姉様は……今は貴方の方がよく知っているのではありませんか?」
「え……?」
彼女の姉を、俺が……?
そもそも、俺は……。
分からない……。
何も思い出せない。
俺は、ここで……。
いや、今まで何を……?
「残念ですが、今日はもう時間ですね」
彼女は手に持った懐中時計を見て、寂しそうにそう言った。
「時間……?」
「お別れの時間です。でも、きっとまた逢えますよ」
彼女が椅子から立ち上がる。
「待ってくれ。まだ聞きたいことが」
「仲間のところに、戻ってあげなさい。みんな心配していますよ」
仲間……?
俺の、仲間……。
そうだ。
帰らなければ。
俺を待ってくれている、仲間たちがいる。
「分かった。けど、その前にさ。君の名前を教えてくれないか?」
「……」
背を向けたまま応えてくれない。
少し歩き、クルッとこちらを振り向いた。
その顔は、穏やかな笑顔で、満足そうに見える。
「では、次に会えた時にお教えします。きっとまた、会えますから」
「……そうか」
これ以上、とやかく聞く気にはなれなかった。
彼女が嘘をついているようには見えなかった。
「じゃあ、また会えた時に」
「ええ」
だんだんと、周りの景色が変わっていく。
草原は消え、真っ暗闇の中だ。
俺と彼女以外、何も見えない。
気を抜いたら闇の中に飲み込まれてしまいそうだ。
「怖がらないで。ほら、上を見てください」
暗闇に差す、一筋の光。
「仲間たちの声が、光が、見えますか?」
幾つもの光が重なって、ひとつの光になっていた。
俺を照らすその光は、暖かく、心地いい。
「ああ、見える……暖かいな……」
「それでは、また逢う日まで、お元気で」
彼女の姿が、だんだん闇の中に消えていく。
きっと、また会える。
彼女も言っていたとおり、そんな気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぬ……」
眩しい……。
ここは、どこだ……?
確か俺は、グラーフを入渠ドックへ連れて行って……。
夢か何かを見ていた気がするが、思い出せない。
「あ、提督! 良かった、目が覚めた……」
「あ、Admiral……」
体を起こしながら横を見ると、心配そうな顔をした夕張とグラーフが椅子に座っていた。
俺が寝ていたのは、執務室の隣の俺の私室だった。
恐らく、倒れた後に誰かが運んでくれたのだろう。
「おはよう2人とも……うっ、気持ち悪ぃ……」
まだ妙な目眩が残っている。
二日酔いに近いが、なんだかこう、脳味噌を揺らされている感じだ。
「倒れる前のこと、覚えてる?」
「ああ、一応な……」
「そっか、記憶障害とかは無いのね……」
艦娘の入渠用のお湯、それと高速修復材の副作用か毒性か。
いずれにせよ人間に有毒というのは本当のようだ。
よくよく見れば右手も包帯でぐるぐる巻き。
「あー、ヘタこいたなぁ……」
感情的になりすぎた。
こんな手じゃ執務も出来ない、大淀先生に何言われるか……。
「Admiral!」
「ぬおっ」
俯いて黙っていたグラーフが、突然抱き着いてきた。
同時に軽い目眩も起こり、俺は再びベッドに倒れる。
「すまない、私のせいで……」
「いいんだよ俺が勝手にやったことなんだから……そのくらい気にすんな」
「バカ者、気にするに決まっている……やっと貴方のような人間に出会えたというのに、また離れることになったら……」
消え入るような声。
微かに震える腕。
誰だって、孤独は怖い。
俺だって怖い。
「大丈夫だっての、俺も皆も、お前を独りにしたりしないから。なあ夕張?」
「……うん、もちろん」
すると、少しだけ俺を抱き締める力が強くなった。
「グラーフ?」
「……右手の傷のことだ」
「……!」
右手の傷。
今はもう綺麗に消えたが、手袋の下にあった、深い十字の切り傷。
「ドイツのAdmiralに付けられたものだ。入渠で治すことも許されなかった」
提督がグラーフに付けた傷。
巫山戯ている。
「彼は私に『いいか、忘れるなよグラーフ。所詮貴様ら艦娘は消耗品だ。人間になどなれはしない。その傷がお前である証だ』と……」
そこまで言って、グラーフは泣き出した。
「わ、私は、私は……そうじゃなければ、どうして今まで……こんな……」
俺はそのままグラーフを抱き寄せた。
左手1本では頼りないが、今は致し方あるまい。
「だったら聞け、グラーフ」
「……?」
痛みに、苦しさに、辛さに歪んだ顔。
こんな顔、二度とさせてたまるか。
「いいか、忘れるなよグラーフ」
「えっ……」
「お前ら艦娘は消耗品なんかじゃない。俺たちと同じで、かけがえのない大事な仲間だ」
左手でグラーフの体を少しだけ起こし、そのままグラーフの右手を取る。
そして俺の口元へ。
「ちゅっ」
「なっ……!?」
「わぁ、提督やるぅ」
「これが、お前がお前である証だ。また辛いことがあったら思い出せ」
再びグラーフを胸の中へ。
「あ、ああ、あっ……」
「いいさ、泣け。俺がずっと支えてやる」
「うあぁ……!」
グラーフはそのまま、右手を胸元に当てたまま泣き続けた。
俺と夕張は静かに傍に居た。
ーーー ーーー ーーー
数分後。
「すぅ、すぅ……」
泣き疲れて眠ってしまったようだ。
そっと、ベッドに横にする。
「はあ、やれやれ……」
「お疲れ様。立てそう?」
「ああ、もう大丈夫そうだ。ありがとな」
夕張に手を借り、立ち上がる。
もう目眩は収まったようだ。
「……」
すると、執務室と繋がるドアに手をかけようとしたところで夕張が抱き着いてきた。
「夕張……?」
「無茶しすぎ。バカ」
「……すまん」
「みんな心配してたんだから……」
時計を見る限り、丸一日は寝ていたようだ。
それにしては執務室が静かだが。
「みんなは知ってるのか?」
「うん。けど私と鳳翔さんで、医務室で寝てるってことにしてる。そうしないとゆっくり休めないかなと思って」
相変わらず気が利く。
夕張は本当に出来た子だ。
「……決めた」
「えっ、何をんむっ!?」
左手で夕張の肩を寄せ、唇を重ねる。
柔らかい。
暖かい。
「……ぷはっ、はぁ、はぁ」
「て、提督!? どうしちゃったの……?」
夕張は恥ずかしそうに後ずさる。
押しには弱いタイプみたいだ。
「決めたんだよ」
「な、何を……?」
「俺は、お前ら艦娘を一人残らず幸せにしてやる」
「……!」
「どいつもこいつも辛い思いばっかりしやがって。国を守るために最前線で戦ってるのになんだそりゃ。割に合わないなんてもんじゃねぇ」
いつ死ぬか分からない。
だからこそ、軍人は思い切り人生を謳歌する権利がある。
東基地でよく言われていたことだ。
「ここに来たからにはもう辛い思いなんて望んでもさせない。必ず俺がみんなを幸せにする」
「……提督らしいや」
提督服を羽織る。
気合を入れ直す。
夕張がそっと左手を握る。
「ずっと、隣で助けるよ。提督が挫けそうになっても、私たちが隣にいるから」
「ああ。頼むぜ」
漠然とした目標だ。
終戦させることよりも難しいかもしれない。
けど、これが俺のやるべき事だ。
何があっても、何年かかってでも、きっと……。
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しばらくして。
とある日、ヒトマルマルマル。
「てーとくー! 本部から入電デース!」
金剛が一枚の紙を持って執務室に入ってきた。
「お、ありがとな。そこ置いておいてくれ」
「テートク、そろそろ休憩にシナイ? ほら、私の膝枕とかドウ?」
「いや、まだ10時だぞお前」
「モー、いいじゃないデスカ! テートクニウムが足りないネ!」
いや何だよテートクニウムって!
怖いわ!
「金剛さん?」
「失礼シマシター!」
「逃げるの早っ!」
お察しの通り、秘書艦は大淀先生。
金剛だけじゃなく、グラーフ以外のほぼ全員が逆らえないようだ。
無論、俺も含めて。
「全く、貴方という人は……」
「えっ俺のせいですか今の」
「皆さんから慕われるのは結構ですけど、鎮守府の風紀が乱れるのは良くないですね」
まあ一理ある……かな。
「んー……風紀委員でも決めます?」
「それはそれで仕事が増えるので」
いやバッサリ言うなぁ……。
確かにそういうのって大淀先生が一番適任っぽいし。
「でも大淀先生が近くにいれば金剛たちも自粛率上がりますよね」
「えっ、そ、それは……」
急に照れる大淀先生。
どこに照れるポイントがあったのか。
「いつも大淀先生が近くにいればアイツらも大人しくなりそうですけど、流石にそれは負担が大きいですもんね」
「あ、いえ、でも貴方がそうしろと言うなら私は……」
相変わらず仕事熱心だなぁ……。
「いや、冗談ですよ。そこまで負担を掛ける訳にもいきませんし」
「……そうですね」
あれ?
なんで今度は不機嫌に?
「あの、大淀先生?」
「はい?」
「なぜ不機嫌になっていらっしゃるので……?」
「知りません。御自分で考えてください」
「……」
提督って、大変です。
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「……これが、今回の作戦要項だ」
「そんな……いくらなんでもこれは……!?」
「何か異議でもあるのかね?」
「認められません! こんな、轟沈させることを前提とする作戦なんて……!」
「それは君が決めることではない」
「それでも……!」
「……いいか、大淀」
「……」
「彼が君たち艦娘を愛していることなど知っている。その逆もな」
「……はい」
「だがそれでは勝てん。アイツがそうだったように」
「……」
「深海棲艦を生み出す原因は『憎しみ』だ。我々に対する、全ての憎しみだ」
「だからこそ、あの人のような人が……」
「彼のような提督が増えれば憎しみは消えるか?」
「それは……」
「既に沈んだ彼女たちの憎しみが消えるか? 環境に恵まれた者達が幸せそうに過ごす様を見せつけられて、それで彼女が納得すると思うのか!」
「ッ……!」
「……とにかく、これは命令だ。戦いを終わらせるために」
「……私たちは、なぜ戦うのですか」
「憎しみを殺すにはそれを超える憎しみを持たねばならない」
「私たちは、守るために……」
「愛では救えない。分かるな?」
「それで何が残るのですか……」
「全てが憎しみの中に消え去るよりは良い。編成の変更は許さん。いいな」
「……」
「君たちの絆に憎しみが重なれば大きな戦力になる。そうすればこの戦いは終わりに近づく」
「……」
「くれぐれも頼んだぞ。大淀よ」
「はい……」
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こんなこと、どうやって彼に伝えればいいのか。
納得するはずがない。
彼はそういう人だ。
不真面目で、生意気で、仲間思いで、優しくて、格好良くて、明るくて……。
私たちのことをいつも1番に考えてくれている。
今まで提督学校でたくさんの時間を見てきたが、彼のような人は初めてだった。
だから、興味を持った。
だから、声を掛けて色々と教えた。
だから、私は彼を……。
好きになった。
予想通りといえばそうだが、やっぱり他の艦娘たちにデレデレしているところは見ていて楽しいものではない。
私みたいな可愛げのない女はそういう対象にはならないだろうけど。
私は彼が好きだ。
彼が好きなこの鎮守府が好きだ。
けれど、私は艦娘だ。
そうして、私は今日もまた冷たい私を演じる。
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時刻はマルハチマルマル。
おかしい、いつもならばこの時間、提督は普通に執務室にいるはずなのですが。
一行に部屋から出てくる気配がありません。
「……留守でしょうか?」
物音が全くしないのです。
着替えや身支度をしているのなら物音なり返事なりあるはずなのですが。
「提督、いらっしゃいませんか?」
コンコン、とドアを軽くノックしてから開ける。
すると。
「あら、珍しい……」
「すぅ、すぅ……」
まだ寝ていたとは、少々驚きました。
普段から提督は早い時間に自力で起き、トレーニングなどに勤しんでいます。
そんな提督が寝坊とは。
何かあったのでしょうか?
夜遊びでもしていたのならば説教しなければいけませんね。
「提督、起きてください? もう朝ですよ」
「ん、むぅ……もうちょっと……」
「もう……らしくもないこと言わないでくださいよ」
まだ寝惚けているのか、目も開いていない。
「今日は日曜日だろ母さん……」
「えっ……?」
今、提督は母さん、と……?
ちなみに今日は木曜日です。
夢でも見ているのでしょうか?
けれど、提督は天涯孤独で東基地で育ってきたはず。
私は、私たちはまだ提督のことなど何も知らないのかも知れません。
「ん……あれ、大淀先生……?」
「あ、おはようございます。ようやく起きましたか」
「……」
みるみるうちに提督の顔が赤くなっていく。
どうやらさっきの発言を思い返しているようです。
「あ、あのっ、すみません、間違えて……!」
慌てて取り乱す。
顔も真っ赤で、正直とても可愛い。
思わず笑ってしまいました。
「ふふ、構いませんよ。それより、早く身支度をして執務室に来てくださいね。もう時間ですよ」
「あっ!? もうこんな時間!?」
布団から飛び出し、バタバタと支度をする提督。
これならもう大丈夫でしょう。
そうして私は執務室に戻った。
やっぱり、言える訳がありませんね。
私は、彼を傷付けたくない。
好きだから、なんて理由じゃない。
それもあるけれど、無性にそれだけはやってはいけない気がする。
だったらどうする、となります。
あんな作戦を決行するわけにはいかない、けれどやらなければ提督が何をされるか分からない。
ならば、やることは1つ。
私が、私だけで片付ける。
単艦で出撃し、敵戦隊を撃滅し、書類を偽装して報告する。
任務の難易度としては最高の更に上といったところでしょうか。
昔の私だったら、こんなこと考えもしなかったでしょうに。
人と同じく、艦娘も変わるようです。
鎮守府の誰にもバレてはいけない。
やるならば夜戦で仕留めるしかありませんね。
提督に見つかったら大目玉でしょうが、これは私がやるべき戦いですから。
さあ、作戦を練りましょう。
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「はいはーい、提督にお届けものですよ~」
「ん、サンキュー足柄」
本日の秘書艦は足柄。
出撃の予定も無く、緩やかな日だ。
「ん、新しい通達か?」
もう見飽きた本営からの茶封筒。
その中には1枚の紙が。
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東鎮守府○○二等陸尉
貴鎮守府二対スル休暇ヲ与フ
制海状況ノ安定化及ビ艦娘達ノ英気ヲ養フコト
休暇終了ノ旨ハ後日伝フ
大本営
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「……え?」
なんだこりゃ。
「どうかしたの?」
「……」つ◻️
足柄一読中……。
「えっ、何これ」
「ってなるよな」
それはそうだ。
制海状況がどうとか細かい戦況は東基地からの情報が主な情報源になっているが、少なくとも休暇なんて取れる状況ではない。
新海域の奪還の延期はまだしも、現状維持の戦闘は続けなければならないはずだ。
「うーん、何考えてるんだあのジーさん連中は……」
休暇自体は喜ぶべきものだろうが、その意図が読めずに俺たちは困惑していた。
「とりあえず、みんなにはまだ黙っておいた方がいいかしら」
「ああ、そうしてくれると助かる。またこっちから本営にも確認してみるよ」
出撃の予定は一番早くても三日後。
それまでに念の為確認しておくべきだろう。
その日はそれ以外は特に問題無く……五月雨が主砲にオイルをぶちまけた以外は問題無く過ぎた。
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にゃんだふる「はいはいどうも皆様ご無沙汰しております、にゃんだふるです」
提督「何だ、更新サボりのクソ猫じゃないか」
にゃんだふる「久々なのに口悪いなぁ」
提督「で? 今日はサボり猫が何の要件なんだ?」
にゃんだふる「……はい、提督の機嫌が宜しくないので本題をば」
にゃんだふる「当作品『提督「俺が鎮守府の提督に?」』ですが、スクロールが面倒になってきたのでセカンドシーズンに入ります、詰まりスレを立て直します」
提督「つまり更新する気はあるんだな?」
にゃんだふる「そりゃあもちろん! 僕の艦これがデータ破損して、拗ねて艦これそのものから離れたりもしてたけどもう大丈夫!」
提督「なんだそりゃ、何があったんだ」
にゃんだふる「僕が聞きたいよ! もう加賀さんに会えないんだよ!」
提督「そ、そうか……俺の鎮守府にはまだ着任してないが……」
にゃんだふる「だって僕のお嫁さんだもん! 」
提督「……とゆー訳だ。読者のみんな、これからも俺達の物語をよろしく頼むぜ」
陸軍提督、いいゾ~これ。
楽しみにしてるから続き書いてくれよな~、頼むよ~。
Re.1
コメントありがとうございます!
出来るだけ早く更新します!
期待。
じゃんじゃん更新しちゃってぇ~←
即デレとは…この提督、出来る!
今後の展開に超期待。
Re・うたや様、春雨麻婆豆腐様
な、なんか超プレッシャーかけられた気が!w
頑張って書くので読んでいただけると嬉しいです!
続きが楽しみです!
更新待ってます!頑張ってください!
こいつ、俺のなりたい提督像にほぼそっくりな提督を書いていらっしゃる
応援しています
頑張ってください
応援してる俺の図→ズイ(ง ˘ω˘ )วズイ
Re・brack様、のびかけ尋様
応援ありがとうございます!
自己紹介にも書いてますが、コメント頂けると本当に発狂しそうなほど嬉しいです!ありがとうございます!
のびかけ尋様はコナン君の方も頑張ってください!
提督の戦闘シーンはあるのかな?
あったら期待、無くても期待。頑張ってください!
続きに超期待! 艦これssのなかでも一番好みのタイプのss これから(恐らく来週前後)寒くなってくると言うので御身体に気をつけて...応援してます!
Re・春雨麻婆豆腐様、10様
コメントありがとうございます!
戦闘シーンは考えてるのですが、如何せん文章力がないので………。
10番様、お互い風邪など引かぬよう、気を付けましょう!
五月雨かわいい妖精さんかわいい
個人的に8人縛りの設定はいらなかったなー
選ばれなかった子が可哀想ってのが先にきちゃうわ
Re・12様
やっぱりそう思いますよね!
でも大丈夫です!八人縛りの対応策は考えてあるので、楽しみにしててください!
陸軍いい人しかいねぇ!趣味があれだけど!
研修中の話を番外編として描いてくれないかなぁ(チラッ)
無理せず続き頑張ってください!
あ、全然関係ないけど中将の中将はチョッキンしちゃおうねー
さーて、中将は撃っちゃおうねー
(`・ω-)▄︻┻┳═一
Re・14様、のびかけ尋様
中将はいずれ目に物見せてあげるのでそのくらいでw
番外編の案はぜひやらせていただきます!
なるはやで書くのでお楽しみに!
よくも私の嫁を…
ゴミ(中将)は掃除だ
ありがとうございます!(吹雪みたいに)
このSSの艦娘が好きです
このSSの提督も好きです
ただし轟沈だけはさせないように
ご注意ください
このSSの艦娘が好きです
このSSの提督も好きです
無理せず頑張ってください!
続き楽しみにしてます!
いいコンテンツだ(ス並感)
お大事に・・・
はよよくなって更新してください
お大事に
楽しみにしてます
続きが気になりますね〜。
続きが楽しみです!
面白いです。
すごく面白いです。
待ってましたよ!?
待ちわびて…
待ちくたびれました!!
復活おめでとうございます!!
待っててよかった
続き、待っています!
復活おめでとう
[壁]ω°)ゝ ガンバレチュウイ~
更新待ってます♪
同人誌出すのはいいと思います。
ただ、ここでの投稿は続けてほしいと思います。
一気読みしてしまったw
提督たる者艦娘から慕われる存在でなくてはならない!
次の更新まってます!
同人化賛成です!一周目からみてるので是非とも買って読みたいです!
同人誌化賛成です!
35さんと同じで1週目から楽しませてもらってます。
2ndseasonも見ました。
自分もこの作品を買って読んでみたいです。
このコメントは削除されました
続きが気になります!頑張ってください!o(・`д・´。)ヵ゛ンハ゛レ !
以外とドロリコン大佐と世界一怖い女性(教官)がこのssを引き立てている
大本営をどうにかする方法は簡単さ。
壊せばいいんだよ、物理的に。つ「ソーラービーム装置」
このSSいいセンスだ!!
すばらしい( ´∀`)
何言ってんだ母ちゃん、今日は日曜日だぜ?も~おっちょこちょいなんだから~←大淀先生ェ…ツッコミがイマイチだな…