【艦これ】帝国海軍興亡記1924~その2
第二次世界大戦を題材とした仮想戦記(史実はあくまで参考程度です)アルペジオ形式で艦娘が多数登場。
初めまして&お久しぶりです。
前作「帝国海軍興亡記1924~」の続きです。
登場キャラがうまく足せなくなったので、「艦娘」でひとまとめにしてます。
開戦時点で史実より、軽空母が4隻ほど多い形です。(オリジナルの飛燕、天燕と本来ならもう少し後に完成の龍鳳、大鷹)
また、超理論により独逸艦娘が参戦。(ビスマルク、グラーフ、プリンツ、Z1、Z3)
世界観は作中で説明しつつ進めていこうと思います。
後書きで書いていた補足やキャラ紹介は別に「備忘録」を作りましたのでそちらをご覧ください。
順次そっちへ補足や紹介は移行予定です。
※随時加筆修正中
※前作「天一号作戦」との直接的なつながりはありません、パラレルワールドです。
【艦これ】帝国海軍興亡記1924~の続編です
久しぶりの本土。
国全体が連戦連勝に沸いており、軍服を着て歩けば万歳三唱の声が聞こえるほどだ。
街路には戦勝祝いと鮮やかな旗が翻り、軍需に潤う企業は高らかに軍との協力を謳っている。
そんな空気の傍ら、会議室の空気の悪い事、悪い事。
海、陸の要人が外地帰りを囲んで手柄の横取り責任の押し付け合い。
一介の大佐如きには雲の上の会話だが、現場で踏ん張っている長官達や艦娘達、そして快く協力してくれた山下閣下を始めとする陸軍に少しでも恩が返せるのならばと、報告書を書いては提出、発言を繰り返している。
味方であるはずの海軍には「なぜ陸軍の肩を持つような発言を」と睨まれ、陸軍からは「何か裏があるのではないか」と猜疑の目を向けられている始末だが。
栄華栄達を夢見ている訳ではないが、自身の立場には頭を抱え込みたくなる。
「いっそ、陸上勤務でも希望するかい?」
「……はっはっは、私の場合は隠居の方になるでしょうね。」
随分と長い付き合いとなった三井少将に誘われて彼の馴染みだという飲み屋に入って1時間ほど、互いの近況を報告し終えた頃には相応に酒も進んでいる。
「軍人さん、お連れ様がお見えですよ。」
仲居に案内された三人の姿を確認し慌てて敬礼をする。
「堅苦しい挨拶は不要と言いたいが、仕方ねぇか。」
「ご無沙汰しております、山本長官。」
「おう、元気そうでなによりだな。」
快活に笑いながら、座敷に座ると護衛も兼ねているのであろう二人に座るよう促す。
「両手に華ですか、羨ましい事で。」
「そうだろうとも、艦も華やいで見えるほどだ。海野は初対面だな?」
「はい、お一方は存じてはおりますがお話をしたことはありませんね、そちらの方は完全に初対面です。」
連れの一人は、おそらく世界中でも名の通った艦の艦娘。
もう一人は、知らない女性……まさか。
「……彼女が第一号艦ですか。」
「ご名答。」
「お初にお目にかかります、大和型戦艦一番艦大和です。」
細かな性能は知るすべがないが、長門型を超えている事は間違いなく世界最強を謳ってもおそらく誇張でも驕りでもない事実。
「無事に、宿ったのですね。」
「あぁ、第二号艦武蔵も同様にな。」
冬の寒さも終わり、桜も見頃を終える頃、自身の改装と公試は終わった。
海軍の象徴としての役割は既に終えている。
しかし自身の名は変わらず国内外に響いており、記念艦として飾られている事にも意味があったのだろう。
「戦える艦に戻っただけ良しとするしかありませんか。」
胸元を飾る略綬を弄ぶように指で弾く。
小さく口元に笑みが浮かぶ、陸で浴びる潮風と海で浴びる潮風、同じものであるはずなのにこんなにも心が躍る。
自身が所属することになる艦隊が見えてくる。
≪こちらは第一戦隊旗艦長門、着任を歓迎する。≫
「……戻って来たわ、ここに。」
≪二番艦、陸奥よ。お帰りなさいと言うべきかしら?≫
後輩たちの声に口元の笑みが大きくなる。
艦は近代化され、全て入れ替えたような有様。
あの頃の装備など残っていない。
戦艦であった名残は、艦名と艦娘としての姿と腰に下げられた二振りの三笠刀のみ。
戦う艦として戦の最中に陸に繋がれたまま朽ちるなど我慢ならなかった。
「敷島型戦艦四番艦三笠あらため三笠型重巡洋艦三笠、本日より軍務に復帰するわ。」
試作品の仕様書やら演習報告書の束が目の前の机の上に積まれている。
帝国が懐疑的だった航空機運用について成果を上げた結果、はみ出し者やら厄介者やら本流とは違う「ズレた」連中からアレコレと仲間意識を持たれた結果であり、荒唐無稽な夢物語から実用性に富んだモノまで何でもアリだ。
(怪力光線照射機ってなんだよ……)
「提督、こんなの独逸が作っていたなんて信じられないのだけれど。」
「どれだ?」
「これ、『独逸触手機雷に関する報告書』。」
「……捨てとけ。」
「Ja、了解よ。」
「提督、こっちの『三式50mm対空竹槍』って何?」
「…………」
レーベやマックスにも手伝ってもらっているのだが、どうにも珍兵器に気を取られてしまっているようだ。
「『寒冷地用軍刀に関する研究』に『熱帯地域での軍刀の損耗に対する考察』ってどれだけ軍刀が好きなの、この人。」
「使えそうなのは無いのか。」
「さぁ?」
ビスマルクに搭載した噴進弾はなかなか有用と判断され改良と試験が繰り返され、正式配備を待つばかり。
そのような傑作も埋もれている可能性がある。
「これは、どうかな?」
「『吊下式砲塔』か。」
大口径砲塔を吊り下げて陸海上の構造物を叩くという案。99式艦爆なら250㎏まで積載できることを考えれば積むだけなら積めるはず。
「う~ん……九〇式五糎七戦車砲を搭載か。」
仕様書に書かれている図案や搭載予定の砲を見ていくが、芳しくなさそうだ。
「反動で機体が分解しかねないな、強度を上げたとしたら今度は運動性やらが犠牲になる。」
「う~ん……爆弾一発より継続的に戦えるから良いと思ったんだけどなぁ。」
「いっその事、双発機に積んだら?」
「ダメって訳ではなさそうだが専用機を作るほど効果的かと言われるとキツイな。」
「あ、だったら7,7mmとかを砲塔式にして一杯積むのは?」
「弾幕はパワーだぜ?弾薬が潤沢ならそれも良いだろうけれど。」
「20mmの弾数が少ない、使いにくいって話は出てるんだが、追加で積んだら運動性が落ちるって言ったら拒否反応を起こすパイロットは多いだろうな。」
「じゃ、じゃあ20mmを外して弾数の多い他のにしたら?」
「上が怒るな。」
「めんどうくさいわね。」
ごもっともな意見だ。
上層部は20mm機銃を絶対必要だと考えている節がある。
開発に苦労したという点もあるだろうが、何より一発の火力に憑りつかれている。
噂ではさらに大きい30mmや40mmなんかも開発しているらしいのだが……
物資に余裕がない以上、小口径弾をばら撒くような使い方は賛成されない、だから一撃必殺出来る火力を。
考え方は間違ってはいないハズだが、柔軟性を欠いてはいないだろうか?
浦賀水道を抜け、相模湾へ。
周囲に眼を向ければ、同じように訓練の為に海上を走る艦。
海を満喫しているのは私だけではないのだろう。
≪それでは訓練を開始する、扶桑、山城両艦は所定の進路を取りつつ艦載機の発艦を。≫
「はい、発艦はじめ!!」≪さぁ、行って!!≫
射出機は開発が難航しており、今回は火薬式の補助推進剤を使用した連続発艦。
一機、また一機と次々と空へ上がっていく機体の操作に苦心しながらもなんとか予定通り8機の96式艦戦を発艦させ編隊を組ませていく。
≪あ……上がりなさい、上がって!!≫
後方、山城の声に視線を向ければ海面スレスレで上昇し始めた機体が目に入る。
≪扶桑さん、編隊が乱れてます!!≫
「っく!!」
気を取られた一瞬で操っていた機体は組み終えた筈の編隊が乱れている。
(しっかりしないと。)
立て直す、元々の艦種もあるのだろう。
艦の制御を人に任せているのに艦載機を操る消耗は酷く重い。
≪よし、それでは訓練を第二段階へ移行する。扶桑、山城やれるな?≫
≪矢でも鉄砲でも来なさい!!≫
「山城、落ち着いて。」
≪……はい。≫
声を掛けながら、自分も大きく深呼吸し心を落ち着ける。
第二段階、模擬空襲。
私達二人で、龍鳳さんの攻撃を凌ぐ事。
艦載機を使っても良い、艦の運動で投弾された爆弾を避けても良い、機銃で迎撃しても良い。
実戦を想定した形式でなければと、海野提督の意見によって変更された内容。
艦載機の損失を考え渋い顔を浮かべる人も大勢いた中で、後輩の訓練にもなるのでと鳳翔さんが賛成し実現した演習。
私達姉妹の艦載機運用技術は確実に龍鳳さんに劣っている。
艦載機の操縦に集中してもダメ。
天龍さん達が演習で行ったように細かな操舵で潜り抜けるのも船体の大きさから言って不可能。
機銃による防御も、かなり厳しいだろう。
では、勝ち目がないのか。
違う、自分たちの長所を生かせばいい。
私達は戦艦であり、一発や二発じゃ撃沈判定は出ない。
操艦技術は磨いている。
機銃だってそれなりに当てられる。
要は、艦載機や機銃で妨害をして粘れば良い。
≪姉様、頑張りましょう。≫
「えぇ、我慢するのは慣れっこだものね。」
空を見上げる、視線を走らせる。
何処から来るのか、狙いはどちらか。
訓練は厳しい。
一線級に至らなければ、また無用の長物とされてしまう。
それなのに、どうしてだろうか。
「期待されているって、嬉しいものね。」
≪……そうですね。≫
攻撃隊発艦。
最後の一機が空を駆け上がるのを見送り、構えていた弓を降ろす。
番え、放った矢は虚空に溶ける様に消えている。
今回の演習では操艦に気を使う必要はなく、予定の航路をゆっくり周回するだけの人任せ。
桜色の衣にようやく慣れ始めた自分の艦載機運用技術はまだまだ未熟。
対する相手は、自分よりずっと先輩であり、その練度は計り知れない。
集中あるのみ。
心の中で鳳翔さんの教えを反芻していく。
(笑顔を忘れずに。)
目を閉じ、操縦に集中していく中で口元を意識して笑みの形へ。
空を往くのは艦爆12機に艦戦8機と今の自分が操れる最大機数。
「敵艦載機補足、龍鳳戦闘機隊……攻撃開始!!」
先行させた戦闘機隊の視界に映った敵機に迷う事なく突入させ、機数を数えていく。
攻撃する素振りを見せながら、後ろを取られないように細かく旋回させる。
(速度を大事に。)
無理な上昇はさせず、敵機の撃破も無理に狙わない。
タイミングを見計らいながら、全機の高度を少しずつ落として。
よし、釣られてる。
高度差を勝機と読んだのだろう、急降下して襲い掛かってくる。
圧倒的な不利。
いくら相手二人が不慣れとはいえ……操る機体に衝撃が走り被弾した事を伝えてくる。
被弾した機体に大きく翼を振らせ、戦力外である事を伝えながら戦闘空域を離れさていく。
残り3機。
何とか潜り抜けた機を逃がすまいと追い縋ってくる敵機を確認。
高度計を確認、敵機との速度差は……
確認した直後に、左の補助翼を一気に動かす。
機体を振りながら滑り落とさせる。
敵機集団がこちらを追い越したことを確認、即座に右の補助翼を動かし敵機の後ろへ。
水平を保つ事に苦心しながらも成し遂げる。
速度を上げずに、高度を落とす、更に落ちていく勢いを利用して機体を戻す。
相手から見れば横に流れた機体が突然、下後方に現れた様に見えた筈。
木の葉落とし、そう呼ばれる特殊機動。
敵機の後ろに戻りながら銃弾をばら撒き、反転離脱。
(鳳翔さんなら、この交叉でまとめて落としますよね。)
当たったのは何発だろう?
引き金を引きっぱなしにしてばら撒いた結果、20mmは弾切れ、7,7mmもかなり浪費。
離脱したのは……2機だけ。
とはいえ、当初の目的は達した。
艦爆の邪魔をさせない。
それが戦闘機隊の目的であり、敵機隊を戦闘機で釣る事で艦爆が通る予定路から離し、更に高度も十分に下げさせた。
「今から追撃しても、間に合いません。」
戦闘機隊に注力していた意識を、艦爆隊に向ける。
慌てて高度を稼ごうとしている敵機も見えるが、こちらが攻撃に移る方が速い。
海原を行く二隻の戦艦。
狙うは先頭、一斉に艦爆を急降下へ。
演習を終えた機体を着艦させながら、飛行甲板で肩を回す。
戦術的勝利……だと良いなぁ。
帰って来た機体の多くはペイント弾に撃たれ斑模様。
爆撃こそ当てたものの、撃沈判定は取れず。
「どんなもんだ?」
声に振り返る。
今回の演習の仕掛け人、海野大佐。
「作戦立案から全部とのお言葉だったので、大変でした~……」
本来であれば、私達艦娘は指揮官が立てた作戦に従って戦えば良い。
それを、全部自分で考えてやってみろと彼は放り投げた。
搭載機体の割合から、どう攻撃するのか、何を目標とするのかまで、全部丸投げ。
「くっくっく、打ち合わせぐらいはしたんだろ?」
「しましたよ、でも艦載機操るのは私ですし、機関長さんや航海士さんと航路の話ぐらいでしたよ?」
ん??
え~っと、どういう事だろう。
「空母、特に艦載機の行動に関して俺達はお前たちの報告を聞くしかない。戦闘海域で残っている機体をどう使うのかの判断ができるのは?いちいち、艦橋に意識を戻して聞く訳にもいかないだろう?お前達空母は特に広い視野や判断力が必要だと考えている。だから、少し意地悪もした。」
「つまり、ダメだったって事ですか?」
「演習に関して言えば、扶桑へ爆撃を成功させているから及第点だな。演習計画書の編成表を見直してみろ、意地悪に気付くかもな。」
意地悪??
艦橋に身体を飛ばし、計画書を引っ張り出す。
私に渡された計画書には『戦艦二隻に対する攻撃演習』と印字されている。
うん、間違っていない。
目的は私が設定した通り敵艦隊の撃破。
それから……あった、編成表。
≪時津風たちは何時まで待ってればいいの~?≫
≪時津風!!連絡があるまで通信は禁止って言われたでしょ!!≫
≪でもさ~演習終わっちゃったみたいだよ?≫
…………『第16駆逐隊は旗艦龍鳳の指示があるまで待機』
注意書きのような一文。
二度、三度とその一文を読み返してようやく意味を飲み込んだ。
「旗艦って事は、彼女たちへの指揮権があった?」
そして彼女たちは、演習開始前に『私の指示を待て』と命令を受けていた。
それに気付かず私は単独で扶桑さん達を相手取り……
≪龍鳳、演習は終了で構わないな?≫
「はい……あの……」
≪現場だとそういう気付かなきゃいけないことが多くある。十分に話し合いをしていれば誰かが指摘してくれたはずだ。≫
「……腑に落ちませんよ~」
≪だろうな、こういう理不尽もあるって事だけ覚えとけ。さっきも言っただろう?演習自体は及第点、後は、もう少し狡さを身に着けろ。≫
「は~い。」
横須賀の船渠に駆逐艦が繋がれている。
睦月型駆逐艦2番艦如月。
海戦で沈没したはずの艦。
応急修理によって持ち堪えた訳ではなく、龍田以下複数の艦が沈みゆく艦にロープを繋ぎ無理矢理に曳航、トラック泊地を経由し本土へ帰還を果たした。
宿っていた艦娘は昏睡状態で今も眠り続けている。
ビスマルク達が大破着底していたにも関わらずその姿を保ち続けていたのとは対照的と言えるかもしれない。
ボロボロであった船体は修繕が進み、後数日で完了予定。
「如月ちゃん、いい加減起きてくれないかにゃ~?」
眠る彼女と良く似た服を纏った少女が寂しげな顔をしながら声をあげる。
毎日顔を出しては世間話を重ね、眠ったままの彼女の手を握る。
数日前に持ち込んだ桜の枝は、花を散らし僅かに残った花弁も色褪せてしまっている。
「お花見、楽しみにしてたのに。」
盛り上がる涙が零れる前に袖で拭うと勢い良く立ち上がる。
「明日は皐月ちゃんと文月ちゃんも一緒に来……空襲警報?」
唸り声のような、低い音が響く。
訓練だろうかと困惑した表情を浮かべた睦月は、状況を確認する為に部屋を後にした。
響き渡る空襲警報。
慌ただしく走り回る人々が、それが誤報ではないことを告げている。
「敵襲、敵襲だ!!訓練じゃない、米軍機が来るぞ!!」
叫ぶ声は必死の色を帯びている。
それでも、対応は遅い。
ここは本土で戦火は遠く遥か彼方。
そう、遥か彼方のはずだった。
自身を艦に飛ばして電探に電源を入れていく。
「……そんな。」
艦の機関は停止中、最低限の電力だけを陸上からの供給している状況では各種装備を動かすだけの電力は無い。
「睦月乗員に通達、電力供給不足の為、電灯消えるから注意にゃし!!」
通信が終える前に次々と明かりが消えていく。
艤装は何処まで動かせる?
一番主砲、よし。
二番主砲、よし。
何とか二門は動かせる。
機銃は……任せるしかない。
≪敵機来襲、敵機来襲!!対空戦闘用意!!方位90から……あぁくそ!!!!市街地だぞ!?≫
主砲を向けていく。
機銃座にも走り込んだ乗員が準備を整え始めている。
上空に黒い点……敵機!!
「……こちら睦月、市街地上空への発砲になります、どうすれば!?」
≪市街地への砲撃は認められん!!何とか海上で迎撃を!!≫
「港の狭い範囲だけで迎撃なんて……」
≪………砲撃許可が出た、可能な限り市街地への被害は押さえろとの事です!!≫
「無茶な……あぁ、もう機銃撃て!!」
主砲は撃てない。
機銃弾なら、建物に避難していてくれれば大丈夫……だよね?
火線が伸びていく。
「敵機、投弾体勢!!衝撃に備え!!」
落せない。
大きく開いた爆弾槽からポロポロと爆弾が降ってくる。
駆逐艦に装甲なんて無いに等しい。
連続する爆発音。
小さくない衝撃が艦を揺さぶるが、自分の身体に走る痛みは軽微。
「敵機、更に来ます!!」
「迎撃、撃っ…射撃停止、あっちは味方機!!撃つな、撃っちゃダメ!!」
迎撃に上がった機なのか、日の丸を描いた機体が艦の上空を通り過ぎ敵機を追いかけていく。
追いかける様に走っている火線が消えない。
「撃ち方止め!!止め!!止めって言ってるのに!!あぁ、もう!!」
「止めてきます!」
「殴ってでも止めて来て!!」
艦橋から乗員が飛び出していくのを見送り、周囲に注意を払う。
第二波は来るのか。
砲火で黒く汚れた空を睨み付ける。
「なんだと?」
訓練を終えた。
そんな最中に入った緊急電は、驚愕に値するモノだった。
困惑し上手く頭が回っていない、焦っている自分を自覚しながらもなんとか体裁を保つ。
「龍鳳、すぐに艦戦を上げてくれ。艦隊所属艦に通達、対空警戒を厳にせよ!!扶桑、山城は有人で艦戦を上げて横須賀へ向かわせろ!!」
まだまだ扶桑達の艦載機の操縦には難がある。
搭乗しているパイロット達に任せてしまった方が良い。
「大本営より入電、敵空母群を補足せよとの事です!!」
≪提督、艦載機の搭載弾が模擬弾なのですが……交換には時間が。≫
……まずい。
冷や汗が噴き出す。
「全艦、武装内の弾薬を確認せよ!!艦載機は……偵察機だけでいい、出せ!!」
模擬弾ではどうにもならない、想定外に過ぎる。
落ち着け、落ち着けと念じながら広げたままの海図に眼を落とす。
敵機は何処から来た?
「提督、大本営より重ねて敵艦隊を大至急補足せよと!!」
「解っている……大本営はこちらを名指ししているのか?」
「いえ、周辺海域にいる全艦艇に対しての命令のようです。」
横須賀への奇襲。
第二波が来る可能性も捨てきれない。
だが、模擬弾しか積んでいない艦戦では戦えない。
「敵機の来襲した方位は?東か、南か?」
「ほぼ東から来襲して……北西に離脱したと。」
「北西?日本海にでも艦隊が居るとでも言う気か?」
「情報が錯綜しているようです……偵察機発艦用意完了しました!!」
「負担を掛けるが……龍鳳、偵察機は方位20から10度毎に出してくれ。」
「了解です≪所属不明機!!東から来てるよ!!≫」
発艦の為に艦は風上に向かって走り始めたばかり、転舵を終えたばかりで速度は……
≪双発機………だから味方だよね?≫
時津風の報告に緊張が緩む。
≪ちょっと、あれ……96式にしては変よ!?≫
≪えぇ!?そんなバカな……陸軍の機体じゃないの!?≫
≪提督、迎撃許可を!!≫
「……味方の可能性が捨てきれん、機種特定急げ!!」
みるみる大きくなる機影。
望遠鏡で睨み付けるが、機種特定は難しい。
「龍鳳、偵察機の発艦は?」
「合成風力、よし行きます!!」
龍鳳の声と大きくなったエンジン音を聞きながらも視点は向かってくる機影から逸らせない。
まだか、と焦る内心を必死に抑える。
同士討ちなんて無様は出来ない、仮に陸軍機だった場合はますます陸海に溝が出来る。
間違ってはいないはずだ。
≪提督、横須賀を襲った機は双発機です!!あれも……≫
「ダメだ、機種特定を……頼む、堪えてくれ。」
撃たねばやられる。
解っている、緊急事態なのだ。
≪米軍機、米軍機だ!!爆弾槽を開いている!!対空!!≫
「ぐ……対空戦闘!!撃て!!」
声を張り上げたのは、すでに遅かった。
いつでも撃てるようにと構えていたはずの主砲は既に懐に入られており。
追い縋る機銃弾の線は敵機を掠めるものの、撃墜には至らず。
「敵機、爆弾投下!!」
「衝撃に備えろ!!くそ!!」
降ってくる爆弾が随分とゆっくりと見えた。
先の空襲についての被害報告
被害
東京市街地にて爆撃による家屋の倒壊及び火災
横須賀乾ドッグに直撃、同地にて修繕中であった駆逐艦が大破
横須賀港に入港中の艦艇、数隻に損傷
迎撃に上がった航空機他、5機全損(一部、友軍による誤射があったとの報告あり)
相模湾にて訓練中の軽空母に直撃弾多数、中破
戦果
相模湾上空にて、敵機を1機撃墜せり
補足
駆逐艦如月が大破、また艦娘も消失したとの報告あり
軽空母龍鳳が中破の為、呉へ回航の上入渠。艦娘は健在なるも同艦にて指揮を執っていた海野提督が重体
被害以上に、人々へ与えた心理的影響は大きく帝都防衛に多くの兵器が回される事となる。
例えば、早期警戒用の各種電探。
一面では、電探の開発研究に大幅な増員が図られた訳だが艦載用ではなく基地に設置する大型の研究が優先される事となる。
そうした中で最も前線に影響が出たのは、防空の要として迎撃用の局地戦闘機の開発と量産が優先される事となったことである。
この決定は、ようやく量産体制に入った新型爆撃機及び攻撃機の配備に大きな打撃を与えた。
艦載機に飛ばしていた視界や感覚を身体に戻す。
模擬戦の為に集中していた身体は微かに汗をかいている。
(ようやく、ですね。)
教え子達の練度は合格ラインだろう。
とはいえ、まだまだ粗さや未熟さが見える。
着艦の為に降下させている事を片隅に置きながら周囲を見渡す。
赤城や加賀ほどではないとは言え自身に比べれば十分に大きな艦が3隻。
甲板上か艦橋か、どちらかで大の字に転がっているであろう娘達を思い描いて笑みを零す。
着艦体勢に入る艦載機の操作をこなしつつ、通信を繋ぐ。
「ご苦労様でした。本来であれば本日をもって貴女方三名は訓練課程を修了し実戦配備に移るハズでしたが艦載機の配備が遅れ、半月ほど予定が空いている状況です。私は明後日より新たな子達の教導に入りますがくれぐれも、怠けて腕の鈍る事が無いように。」
≪了解です、鳳翔さん。≫
≪了解だよ~、いやー頑張ったねぇ、私ってば。≫
≪……新しい機体、早く来ると良いのだけれど。≫
送り出すのはこれで何度目だろうか。
眼前に見え始めた呉の街と何かと縁のある一隻の艦。
こちらに気付いたのだろう、通信が飛んで来ている。
≪鳳翔さん、お帰りなさい。≫
「まったく、困った子ですね。」
≪今日は皆で飲もうぜ~訓練終了祝いにぱーっとさ!!≫
≪ちょっと、隼鷹!!真っ直ぐ航行しなさいよ!!≫
≪私は真っ直ぐ進んでるよ~飛鷹がふらふらしてるんだろ~≫
「私は少し用事がありますから、20:00からで良ければお付き合いします。」
≪いよっし、決まり!!誰誘うかな~千歳だろ、それから~≫
東京が空襲を受けて数日がたった。
当初は士気に関わると情報を統制する動きも見られたが、あまりに多くの人々が目撃しており無意味と悟ったのか、ある程度の報道はされている。
損傷した数隻は呉の港で修理を受けている。
決められた場所に錨を落し、内火艇の準備を整える。
「投錨を確認、本日の任務を終了します。私も陸へ上がりますので何かあれば呼び出しをお願いしますね。」
当直で残る者へ声を掛け、内火艇へと乗り込む。
艦上へ身体を飛ばす事は出来る一方、艦から離れる場合は人とそれほど変わらない。
飛行甲板と艦橋への直撃弾。
投下された爆弾が不発でなければ私を始め艦橋に居た人員は二階級特進していた事だろう。
頭はしっかりしている、四肢も動く。とは言え、軽傷と言うには身体に巻かれた包帯が邪魔だろう。
爆撃を受けた記憶を最後に、気付けば呉の病室。
医官の話では部下達は軽傷、龍鳳の損傷も軽微だそうだ。
正式な辞令は後日になるそうだが、兎に角自分は怪我の療養となるらしいと聞き、なんとも言えない心持になる。
預けられた部下や艦娘達の指揮はどうなる?
そんな不安の中、ノックの音と入室を希望する声が聞こえてくる。
「海野大佐、入室許可を頂きたいのですが。」
懐かしい声だ。
「あぁ、構わない……久しぶりだな、鳳翔。」
返答を待ってからゆっくりと開いたドアの先には、以前と変わらない姿で彼女が立っていた。
「お久しぶりです、お怪我は障りありませんか?」
「問題ない、と言いたいがしばらくは無茶するなと言われたよ。」
「そうしてください、貴方達は私達ほど頑強では無いのですから。」
「耳が痛い、龍鳳の方は問題無いか?」
「はい、こちらへ寄る前に顔を合わせて来ていますが飛行甲板さえ張りなおせば動けますよ。」
「……すまな「謝ったら怒りますよ?」……あ~。」
有無を言わせぬ笑顔と言葉。
変わっていないと喜ぶべきか。どうやら私は鳳翔の感覚では未だに若造扱いのようだ。
「今は軍務中ではありませんので。」
「っとに、敵わないな。」
「ふふふ、皆は元気でしたか?」
「赤城達とは会っていないが、龍驤、翔鶴、瑞鶴とは会ったよ。」
「まぁ、五航戦の二人とも会えたのですか。」
「指揮下で動いてもらった。良い腕をしてたよ。」
「それは何より。」
「責任感が強過ぎるのが、問題と言えば問題だったか。」
苦笑交じりに返す言葉に「人の事は言えないでしょう」と少しばかり険しい顔で返してくる。空母部隊の錬成という後方任務を蹴って前線勤務をしている身には否定は出来ない。
しばらく雑談を重ねていく中で、よろしければと誘われた宴会に出向いたのは……まぁ久々の失態だったようだ。
出撃命令。
今しばらくかかると思われていた航空機の補充は隼鷹、飛鷹の二人の分を引き抜いて急遽定数を満たす形となった。
「新鋭機……」
大急ぎで運び込まれた機体は塗装すら終わっていない。
整備士達がペンキを片手に動き回っている格納庫の様子を眺めていると呼び出しがかかる。
≪雲龍、艦橋まで。≫
「……解った。」
艦橋に意識を飛ばすと乗りこむ事となった海野提督が、お茶を入れていた。
「何?」
「予定の確認やら諸々の摺合せだよ、後は個人的な質問。」
予定、と言われて命令書を思い出す。
ラバウルにて前線部隊と合流、それから……印度。
呟くように零れた言葉に目の前の提督は大きくため息をついた。
「何か、問題?」
「雲龍、攻略目標は何処で聞いた?」
「命令書に書いてあったわ。」
「……そうか。」
受け取ったお茶を啜り、お茶請けとして出されているカステラをつまむ。
「甘い。」
「そりゃ良かった。」
「新型機、飛ばしてみた感想は?」
「すごい子、とっても速い。でも……重い。」
素直な感想。
「重いってのは?」
「そのままの意味。」
「あ~……扱い辛いか?」
「零戦と一緒に操ったりするのは難しくなった。速くなったのもあるけど、動かした感覚が違い過ぎて。」
「艦攻と同時に動かすのは?」
「出来なくは、無い。でも……」
「そうか、となると雲龍に任せるのは一種類にした方が良いのかもしれないな。」
鳳翔さんは操艦、艦爆、艦攻、艦戦、艦偵それどころか水上機さえ同時に難なく操っていた。
出来ないのは練度が足りていないから。
少しだけ、悲しい。
「二航戦の二人、知ってるか?」
「知ってる。」
「蒼龍は艦攻の扱いが滅茶苦茶だし飛龍は艦爆の扱いが下手なんだぞ、知ってたか?」
「……え?」
「全部が得意なんて奴は……少ない。一航戦の二人は苦手を克服した、二航戦の二人は得意を伸ばした。お前はどうしたい?って聞いてやれれば良いんだが、生憎と前線でそれをする余裕は無い。生き残れる可能性の高い方を指示するのが俺の役割だと思うんだがどうだ?」
「……指示に従うわ。」
「すまんな、思いっきり訓練させてやれれば良いんだが。」
「大丈夫、出来る事をやるから。」
その2になりました。
読んでくださっている方、ありがとうございます。
不定期更新になり申し訳ありません。
桜の散る頃に~空襲 困惑と葛藤と
有名な東京空襲、「ドゥーリットル空襲」です。
連戦連勝であった日本軍に冷や水を浴びせた米軍の奇策。
空母の喪失や奇襲がバレる可能性を考えた結果、まさかの双発機を空母から飛ばすというトンデモ作戦を実行。
結果的に奇襲は成功、16機のB-25は喪失1機のみで中国大陸へ逃げ切りました。(その後捕虜となった方や抑留された方もいましたが)
空母の運用について知っていたからこそ、「こんな所に敵の双発機が飛んでくるわけがない」と見誤ったそんな感じです。
三笠
日本海海戦時の旗艦、敷島型戦艦四番艦。
記念艦として横須賀にあったのを魔改造したと思ってください。
全長130mちょっとで長門の半分ぐらいのサイズしかありません、なんと秋月型駆逐艦より小さい。
ちなみに、三笠刀は三笠の主砲の残鉄を使った刀で実在します。
余談ではありますが、彼女は今回(3月20日更新分)が初登場ではありません。
大和
世界最大46センチ砲搭載の最強の戦艦。
艦これでも最終兵器として運用されている事でしょう。
史実では機会に恵まれず活躍する事は少なかった彼女、どうか本家で活躍させてあげてください。
世界最強(異論もありますが)最大の戦艦、それを日本が建造し運用した事は誇るに値する事でしょう。
龍鳳
祥鳳型(瑞鳳型)軽空母として大鯨から改装された子です。
史実では1942年11月30日改装完了でしたが、拙作では開戦直後ぐらいに改装が終わった感じになっております。
練度未熟だったので飛鷹や隼鷹と一緒に瀬戸内海辺りで鳳翔さんに師事していた感じです。
軽空母の練度的にはそろそろ前線に出ても大丈夫。
素直過ぎる性格から海野提督の意地悪に嵌りました。
出来てて即、入渠→改装へ
木の葉落し
零戦のお家芸と言われた(?)特殊機動。
その実、空想上の産物なのでは、と言われたりするロマン技。
それを龍鳳がやったという点で彼女も練度を上げているんだと思って貰えれば嬉しいです。
巣立っていく娘達
久々の出番の鳳翔さん。
初登場の艦娘も三人と、またキャラが増えました。(ぇ
何かと縁のある子は大和です。建造時に一般の目に晒さない為に身体を張っておりました。
飛鷹、隼鷹は史実的にも問題は無いのですが中型空母のあの娘は……かなり前倒しで竣工した形です。
妹達や装甲空母も建造中……工業力半端ねえな。(汗
一方で艦載機不足が表面化、生産バランス崩れてるね。
雲龍&新型艦載機
新登場の三人から誰を出すかと悩んだ結果、雲龍に。
艦載機にご執心ですし・・・ね?
新鋭機=彗星です。
史実では1943年辺りでようやく量産開始。
一年ほど前倒しで量産中・・・・(ドゥーリットルが1942年4月初旬で「新鋭機と新鋭空母」が1942年5月頃を目安にしてます)
※後書きで書いていた補足やキャラ紹介は別に「備忘録」を作りましたのでそちらをご覧ください。
順次そっちへ補足や紹介は移行予定です。
各種、有名海戦やエピソードは拾っていこうと思っています。
登場済みの艦娘で「物語の語り手」にして欲しい子が居ればリクエスト下さい。
技術レベルが限界突破したり、そんだけ資材あったら戦争しなくていいだろ、とかならないように注意しながら書きます。
ご意見、ご感想、誹謗中傷、出して欲しい艦娘などコメント頂ければニヤニヤしながら頑張ります。
更新お疲れ様です。その2になっても頑張ってください!
コメントありがとうございます。
更新頑張ります。
更新お疲れ様です。そうか・・・そう来たか・・・
作者様の発想力の前にはただただ脱帽するばかりです。
これからも更新頑張ってください。
更新お疲れ様です。やった!扶桑姉妹再登場(゚∀゚)キタコレ!!
ありがとうございます!!
これからも更新頑張ってください。
コメントありがとうございます。
なんとか一週間に一回ぐらいは更新を……出来てる?
扶桑姉妹再登場です。
四月の関東地方と言う訳で、あの事件がもうすぐです。