まゆのまゆはまゆの繭?
ルームアイテム 「まゆのまゆ」作成決定記念SS
独自の解釈あり
原作執筆時期 2017年5月16日
お花見のシーズンも終わり、桜も散った季節。
まだ春だというのに、気温は30度近い時間帯も出てくる夏日。
作物たちにとっては天上の恵みだが、人類にとっては正直辛い。
その日、いつも通りに早朝に出社したプロデューサーは奇っ怪なものを見た。
事務所の一室。皆の私物が並ぶ場所に、見知らぬ物体が置いてあった。
「これは・・・・何だ?」
見た目は鉄の塊。それはとてもメカメカしい見た目をしている。パイルバンカーとかドリルとかで
天元突破しなければ破壊出来そうにないくらい堅牢な装甲を持っている。
プロデューサーには知る由もないことであるが、材質はタングステン合金。
仮にドリルの一つ二つ持ってきたところで、先に刃が折れて根負けしてしまうほど強固なのだ。
それは丸い。楕円形ではあるが、接地面は長方形になっておりバランス良く立っている。
その形は....卵のようなものを連想する人もいるだろう。
そして何より─────それはデカい。説明不要なくらい大きい。男性平均から見て決して身長が
高いとは言えないが、170cmはある自分の背丈がすっぽり入るほどの大きさがある。
これが地球を侵略しに来た宇宙人のUFOであると米国人キャスターに臨場感たっぷりに解説されたら
そのまま信じてしまいそうなくらい巨大で摩訶不思議な物体が出現していた。
事務所に置いてある以上、アイドル達の誰かの私物なのだろうと推測できるが...
いや今までも真顔で花粉を撒き散らす謎の物体とか十分フリーダムなのはあったのだが、
それ以上に何か危ない気がするのは・・・・果たして気のせいなのだろうか。
虫の知らせ、というやつか。第六感的な危険予知を全身で感じている。
未知ほど怖いものはないと言うが正しくその通りである。
というかうちのアイドルは謎の物体を持ちすぎじゃないだろうか。
スナック感覚で未確認物体を量産しないでほしい。ファンタジーすぎる。
「うーん・・・」
取っ掛かりとなりそうなのは扉だ。一箇所だけ、扉のようになっていて簡単に開け閉めが出来るようになっている。
中に何かがあるのは間違いない。外から見て小さいのだから探索する場所も狭い筈・・・であるが。
正直、中に入ったらそこには広大なダンジョンが広がっていて時間の止まった未来世界を救ったり、
モンスターになってしまった元人間と大活劇を繰り広げる事態になってしまっても何らおかしくない。
なんて考える辺りイレギュラーに慣れすぎてしまっている気がする。
腕を組みながら、終わらない堂々巡りの自己問答は続いていく。
色々と思索していると、ノック音と共に丁度最初の一人が事務所にやってきた。
「おはようございます、プロデューサーさん。今日は一段と早いですねえ。
あ!もしかしてボクの仕事があるからって張り切りすぎちゃってるんですか?
フフーン、まったく仕方ない人です。撮影まで時間がありますしそれまでボクと二人で...」
「丁度いいところに来てくれた幸子!頼む、俺にお前の力を貸してくれ!
こんな(奇妙な)ことはお前だけが頼りなんだ!!」
「ふえ!?あ、あの・・・・プロデューサーさん?」
部屋に入るなり、プロデューサーに急に両肩をガシッと強く掴まれたことで赤面する幸子。
常に真っ直ぐ目を合わせてくるプロデューサーの、言葉足らずの勘違いがクリーンヒット。
男の人は朝がそういうのがヤバいらしいという(何処かを致命的に履き違えている)知識が
幸子の思考を空回りさせていく。
「い、いやあ....二人でとは言いましたけど、そ、それは早いって言うか・・・。
心の準備がまだ出来てませんし、ボクはアイドルなわけですし...。
ほ、ほら....この後仕事もありますしせめて終わってからじゃないと...:」
「本当に丁度いいところに来てくれたよ、俺だけじゃ不安だったんだ。あれを見てくれ」
「・・・・へ?」
完全スルーな返しに思わず間の抜けた声を出した幸子だったが、
プロデューサーの指差す方を見てその感想は更に疑問へと変わった。
「な・・・・何ですか、アレ。あんまりカワイクないですけど....
新手の日焼けマシーンかなんかですか?」
「日焼けマシーンか・・・・。まあ晶葉ならあの手の物は作ってこれそうだけど、
肝心の持ち主が不在ってところが怪しいんだよな・・・・。
何の断りもなしにこんなところで放置しておくか普通?」
昨日事務所に最後まで残っていたのは間違いなく自分だった。
そして昨日の時点では間違いなくこの物体は存在しなかった。
当然ながら、この部屋にこんな巨大な物を隠せるスペースなどない。
つまり、このアイテムを持ち込んだ人物は深夜...或いは自分が来るよりも早朝に
これを置いたと言うことになる。・・・・『深夜』?
そう言えば以前にも、警備会社の防衛網を全て掻い潜って深夜に事務所に忍び込んだ
アイドルが一人だけ居た筈である。あれは・・・・・・
「そう言われましても....で、コレを調べるためにボクを待ってたんですか?
それならそうと最初から言ってくれればいいのに....まあ、しょうがないですね。
プロデューサーさんは案外怖がりですからね、ボクがついていてあげますよ!」
「マジで助かる。誰か一人でも居てくれるってのが心強いよ、幸子」
この奇妙な物体の持ち主は何となく掴めてきたものの、意図が分からない上に
その用途も不明なままである。もし本当に所有者が『彼女』なのであれば、
この一部始終も聞かれている可能性もある。ならば素直に従った方がいいかもしれない。
決死の覚悟で虎穴に入らずんば虎児を得ず、
通報される覚悟で高校の正門で出待ちせねば高校生をスカウト出来ずである。
「扉、開けるぞ・・・・電流ビリビリッて流れたりしないよな?」
「そんな、年に数回やる3時間超のドッキリ番組じゃないんですから...」
ガコンッ、ともキイイ、とも鳴らずに不気味なほどの静けさで扉が開く。
手触りは鉄や鉛のそれだが、羽毛みたいにドアが軽い。まるで誘い込まれているようだと錯覚する。
そして、扉を開けた先に見つけた『それ』は──────
「....また扉、だな」
二重扉構造とでも言うのだろうか。扉の先の狭い空間にあったのは
再び扉だった。だが、先程手をかけた扉とは違う。
事務所にもある、現代日本の何処にだってあるような現代風な扉だ。
鍵穴のついていない銀のドアノブがついた黒の金属製扉。
どうやら外の装甲とほぼ同じくらいの天井の高さであるらしく、
きらりでも頭を少し下げれば入れそうなサイズである。
「また扉、ですね」
扉をつけるのであれば外の物だけで十分だと思うのだが、
わざわざちゃっちいドアをつけてまで二重にする理由は何なのだろうか。
扉は円形の建物の正面にくっついている。
空間内は非常に真っ暗だが、開きっぱなしにされている扉から差し込んでくるLED照明によって明るくなっており、
中に入る際に思わずプロデューサーの腕を握り締めていた幸子も調子を崩さず余裕の表情である。
「うーん、まあ開ける以外の選択肢はないんだけど」
「ちょ、ちょっと!?開けるなら先に宣言を・・・・」
幸子の静止も間に合わずに、扉が開かれる。と同時に、扉の向こうから
思わず目が眩むほどの光が二人を包んだ。暫し五感の一つを奪われる。
やがて、閃光の中でゆっくりと瞼を開けていくと。
「・・・・カラオケボックスだな」
「・・・・カラオケボックスですね」
そこそこ座り心地の良さそうな四人掛けの赤いソファー。
清潔感ありそうな白の四角いテーブル、大型のTV。
そして丁寧に充電されている最中の1本のマイクと、
曲を送信するためのタブレットがその部屋の用途を露骨に教えてくれていた。
カラオケボックスである。機種としてはジョイサが入ってるらしい。
ゲームソングを歌いたい人はDAM推奨だが、基本的には曲数の多いジョイサが好まれるからか。
因みにアイドル達の歌はジョイサにもDAMにも入っている。
中にはPVとかが流れる曲があるのでチェックですよチェック!
....という宣伝じみた天の声がどっかから聞こえた。決して水をあげてはいけない。
「あー・・・・外のあれは防音扉?なのか。
ここで秘密裏に歌の練習とかを出来るって使い方をするのかな」
外観のおどろおどろしい異質さに比べると、中にある妙に現代チックな造形に安心感を覚える。
ソファーは寝転がるのに十分なスペースがあるものの、マイクは一人分しか用意されていないため
基本的にはソロ専用で人目を避けた場所で利用する趣旨だろうか。
仰々しすぎる馬鹿馬鹿しさと、めんどくさい程のいじらしさはちょっと好感触で
まあ可愛いのかなと思わなくもないのだった。
「まあ確かに・・・・カラオケボックスでボイストレーニングするって子も居ますけど。
それなら何もこんな物々しい見た目にしなくても....。
ボクならもうちょっとキュートに改造しますね!例え秘密の練習場でもカワイイボクには、
相応しい練習場ってのがありますからね!見えないところまでカワイイ、がボクのモットーですから!」
魑魅魍魎百鬼夜行・・・・とまではいかなくても、もっと仰々しい内観を想像していた
二人は軽く拍子抜けした思いだった。もし本当に件の『彼女』ならば天井にハートがいっぱいだったり、
マイクが真っ赤なリボンでぐるぐる巻きだったりする部屋にしていそうなものである。
しかし見たところ、そのような記号は見受けられない。もしかしたら思い違いだったのかもしれない。
....だが、何故だろうか。胸がざわめいているのを感じる。なにか空気的な物が
皮膚をピリピリと刺激している気がする。まるで爬虫類が感じ取る危険信号のように。
「んー・・・中の構造は分かったわけだし取り敢えず出るか、幸子」
「そうですね・・・・」
そうして。出口に近かった俺が先に扉の外へと一歩を切ると。
なにもしていないのに独りでに扉が勢いよく閉まった。
「は!?」
「えっ、ちょっ・・・・!?」
するとあらびっくり。どうして入る前に確認しなかったのか、建物の側面につけられていた
ピンクのリボンがシュルシュルシュルシュルッ!!!という獲物に一直線に走る蛇のような勢いで
解かれていき、建物にギュルギュルと巻き付いていく。
上は円の尖頭から、下はつま先の辺りまで。何重にも何十重にも何百重にも連なったのではないと
思うほどの量が僅か数秒で、息もつかせぬ内に巻かれていた。
最早何処にドアがついていたのかすらあやふやになってしまう程に。
最後に可愛らしく蝶結びをすると、リボンはそのまま停止した。
そのまま思考も停止してしまいそうになったが、慌てて首を振って意識を取り戻す。
あまりにもあんまりすぎる光景だが、現実逃避をしてはいけないのだ。
『プロデューサーさん、プロデューサーさん!?
な、なな何が起こったんですか!?外の方でなんか凄い音がしましたけど!
ドアに開けようとしても全然びくともしないんですが、どどどうすれば!?』
「幸子、無事か!?中にまでは巻かれていないのか?
無数のリボンでドアが完全に遮断されてしまった!外から開けるのも不可能だ!」
『えええ!?そんな、一体どうすれば・・・・』
材質が薄いことが幸いしたのか、耳を澄ませば幸子の声が僅かながらに聞こえるし、
思いっきり叫べば此方の声も向こうへ届くようである。
噛み合わせが悪いのか、携帯の電波状況は非常に悪くなっているが
なんとかコミュニケーションが通じる。アナログだとしても非常に有効な手段だろう。
このままどうにかして会話を続けていれば状況の打開も可能か。そう思案していると。
最早、正体は分かりきっていた犯人が現れた。
「あら....残念。プロデューサーさんのことですから先に部屋に入って、
奥まで進むから出るのは幸子ちゃんの方が先だと思っていたんですけど。
中に閉じ込められたのは幸子ちゃんの方でしたか」
むー、と可愛くくちびるを尖らせて此方へゆっくりと歩いてくるリボンが特徴の少女。
小柄で一見するとただただ可愛い少女に見えて、しかしそれとなく不敵な笑みを浮かべている。
正しくこの不思議な物体を持ち込んだ担当アイドル・・・・まゆである。
彼女のことをよく理解している自分だからこそ言える。
こうやってまゆが三日月を割いたような口で笑っている時は、何かを企んでいる顔なのだ。
「あー・・・・うんまゆ、やっぱり最初から聞いてた?
電話線のコンセントに盗聴器仕掛けてたりする?」
「わあ、ピンポイント大正解ですプロデューサーさん♪
あと一応外の扉が閉められた時のためにこの中にも取り付けてあります。
電話線のコンセントってあんまり頻繁に調べたりしないからちひろさんの目も誤魔化しやすいですしね」
流石プロデューサーさんですねぇ、とどこぞの最強ブラコン妹のように褒めちぎるまゆ。
ずっとまゆと歩み続けた担当プロデューサーの名は伊達ではない。
以前にも自宅に仕掛けられていたことがあったから単純に経験則とも言う。
うちの可愛いストーカーさんはその道のプロかつ常習犯なのだ。
「で、これはまゆの持ち込んだ私物・・・・私物?ってことでいいんだな?」
「はい、これはまゆが個人的に開発したアイテム....その名も『まゆのまゆ』です!」
幸子に負けず劣らずなどや顔で宣言するまゆ。
妙に古典的な洒落めいたネーミングセンスなのは某25歳児の影響なのか。
個人的に、ということは晶葉らの協力なしに彼女だけで作り上げたものなのだろう。
「まゆの....繭?如何にもそれらしい名前だが....これ、どういう仕組みなんだ?」
「そこはまゆの愛の力による技術であれこれと。これを作るのに何度も徹夜を繰り返しました」
「頼むから寝てくれ!?な!?ただでさえまゆは遅寝なんだから、
ちゃんと睡眠時間を確保すべきだと思うんだ?」
何で少し自慢気なんだ。ありすや幸子にも似たような得意気な顔のまゆ。
健康の面から見ても美容の面で見ても、徹夜というのは褒められた話ではない。
まゆは普段から弁当作りだの深夜レッスンだので睡眠時間を犠牲にしがちだ。
あとこういう奇怪なものを作るのにも割いているらしい。頼むから寝てほしい。
「むう。全部全部プロデューサーさんの為なんですけどね。
因みにこれは"まゆのまゆ2号"なんです。一応16式あるんですけど...」
「まゆの家はどうなってるんだよ....異世界?」
「うふ...今度中に入ってみます?出られなくなっても知りませんけど♪」
まゆの家にはこれに似たものや他に奇怪なものがたくさん置いてあるのだと言う。
四次元でもないのに何処に収納しているか疑問は尽きない。
いつか行こうと思っているお宅訪問は命懸けになるかもしれない。
「うーん、そうですねぇ....。取り敢えず、幸子ちゃんを出してあげないといけませんよね。
仕組みとしては案外単純です。中にカラオケボックスがあったでしょう?
タブレット端末を操作すればジョイサ対応の最新の配信曲まで網羅されているので、
そこから好きな曲を選んで機器に転送して...あとはまあ普通に一曲歌えば外に出られます」
まゆの説明によれば、採点機能は付いているものの特に点数の縛りはないらしい。
本当に何でもいいから一曲歌えばリボンは自動的に解かれ、外に出られるのだと言う。
・・・・まあ先程本音を漏らしていたように十中八九狙いは自分だろうから、
ここで嘘をついて幸子を幽閉するメリットは彼女にはないように思える。
因みにまゆの声量は完全に二人で話す時のそれであり、幸子には聞こえていない。
「幸子、歌だ!何でもいいから中の機器を操作して一曲歌えば外に出られるらしい!」
『ほ、本当ですか!?歌・・・歌・・・・じゃあ「To my darling...」にしましょう!
何といってもボクの持ち歌ですからね!高得点獲得も間違いなしです』
虚勢を張って怖いのを隠し、幸子が自信満々にフフーンと鼻を鳴らす。
因みにカラオケの採点基準はCD音源のそれと異なるので、例え歌唱力に自信がある者が
自分の歌を歌ったとしても安易に高得点が出ないというのはあるある話だろう。
『月曜日 おんなじ通りの 朝7時♪』
"月曜日"という単語を聞くだけでお腹が痛くなった者は速やかに休むべきである。
だから日曜日が終わったからと言って、駅のホームでDive・to・Railしてはならない。
そんな社畜に向けたメッセージを適当に送ったりしているうちに、
最後のサビを迎える頃になってまゆの頬が少し上がった。よからぬ笑顔である。
まるでこれから起こるであろう事柄を楽しんでいるような。
平穏なまま幽閉系ヒトリカラオケが進んでいき、いよいよ最後のサビに差し掛かった。
閉じ込められたと言っても、すぐそばにプロデューサーが居ることに安心を覚えるのか
幸子はLIVEにも劣らぬ安定感で歌い続ける。正統派力ぅ...ですかねぇ...。
『oh my....Darling☆Darling☆I love you....』
幸子のキュートな歌唱が終わりを迎える。あとは20秒ほどのミュージックを楽しんでいれば
曲は終了する。わざわざ演奏停止で急かすまでもないだろう。
─────そして、程なくして曲が完走する頃。事態は動いた。
『えっ、ええ!?何ですかこれ、天井からリボンみたいなものがたくさん出てきて・・・・
み、みぎゃああああああああああっ!!?』
「幸子ーーーー!!?」
えげつない感じの断末魔が外に鮮明に聞こえるほど響いてきた。
やはり可変式リボンだった。外にも中にも浸透し、隙を生じさせぬ二段構えである。
「ちょ、ちょっと....そこは....っ!ふあっ、や、やめっ....!
にゃあああああああああ!!」
「幸子ーーーー!!」
なんだかお嫁さんにいけなくなるような悲鳴をあげている気がする。
でもよく考えたら、大勢のファンの前で生スカイダイビングの絶叫を披露した幸子なので
案外これくらい大丈夫かもしれない。なんて、微妙にヒドイことを思ってないで助けに入る。
どうやら連動してるらしく、外を膜のように覆っていたリボンは再びシュルシュルと
元の大きなリボンの形に戻っていき封鎖が解けた。急いでドアに飛び込んだ。
すると、中には───────
「キマッタ♪」
「キマッタっていうか....極まったって感じだな...。おーい、幸子ー?大丈夫かー?」
「きゅぅ.....」
赤いリボンでラッピングよろしく、過剰な量のリボンによって包装された幸子がそこにはいた。
何故か知らないが、リボンは服の内側にまで入り込んでいるようで
リボンに身体中をまさぐられたらしい幸子が、昼間からスタバにいるOLみたいな死んだ目をしているのだった。
「....一応、説明を聞いておこうかまゆ?」
「まゆのまゆは、性別を識別するシステムが搭載されていて、
女性が入った場合はこうやってリボンでぐるぐる巻きにした状態になって出てきます。
あ、リボンは身体中のツボとかを押してくれるので健康体にもなりますよ」
さらっと原理不明な最新機能を言ってのけるまゆ。
このうねうねしているリボンは生物の触手のように意思を持っているとでも言うのか。
もう愛の力と説明されたらなんでもアリな気がする。汎用性が高すぎる文句である。
「ふむ....ところで何で着衣のままなんだ?」
一応、誤解を招かないように訂正しておくと、別に俺は安易なラッキースケベ展開を望んだわけではない。
ただ、用途として違和感を覚えたのだ。まゆのまゆは、事務所のアイドル達に使うことだけを
想定して作られた物ではないだろう。本来の用途としては、恐らくまゆ用に調整してあるはずである。
それならば、いつぞやのクリスマスのように裸リボンで自分をラッピングして「プレゼントはまゆですよ♪」を
してくる方がまゆっぽいと思ったのだ。決してピンクな期待などしていない。
「あぁ、そんなことですか。それは簡単なロジックです。
だってプロデューサーさん、着たままの方がお好きなんでしょう?」
「ばっ!?ま、まゆ言い方な!言い方大事な!
アイドルのプロデューサーとしてグラビアとかは見慣れてるから、特段際どい衣装に魅力を感じないだけだ!」
クラス内でエロ本を回し読みしてる男子高校生じゃないのだ。女性の肌色に一々反応するか。
仕事スイッチを入れれば頭は冷静に動作する。あと個人的なことを言うとまゆの指摘は正しかったりする。
何でもかんでも露出してたり狙ってたりすればいいってもんじゃないのである。
「と、兎に角幸子を運びたいところなんだが....リボンってどうすればいいんだ?」
流石に切断してしまったらご無体だろう。一つ一つ手でほどいていくべきか。
悩んでいる真横で、まゆがスイッチらしきものを取り出してポチって押した。
そして幸子の小さい身体を揺らしながら、掃除機のようにリボンが天井に吸い込まれていった。
....全自動って便利だなあ。最早ちょっとやけくそ気味の感想を漏らす。
伸びかけてる幸子を抱えて外に出る。取り敢えずの安全圏まで脱出したと言えよう。
はてさて、問題は。
「..........」
無言でこちらに訴えかけてくる目の前の危ない方の少女。
急にハイライトが消える方のリボンアイドルが、足に根っこでも生えたかのように
動かないでいて、この場から離脱することを拒否していることである。
ユラリ、とシャフ度でまゆが暗く微笑みかける。
「男性に使うと、どうなるのか....まだ見てませんよね?」
「どうなるのかは断言出来ないが、これだけは間違いなく言える!!
絶対【禁則事項です】案件になる!!朝っぱらからそれはダメだまゆ、
折角近年で正統派キュートらしさをアピールできたのにそれは色々と引っかかる」
「最近は規制が厳しすぎます!委員会に不満が溜まりすぎて爆発しそうです!
愛することが悪だと言うのならまゆ、悪徳の栄えしちゃいますからね!!」
「マルキ・ド・サドォ!それ本格的にやばい愛憎劇(やつ)だから落ち着けまゆ!
せめて四畳半の襖に収まるくらいにして!?な?」
ワーワーとお互いに譲り合うことのできぬ口論は続いていく。
どちらかにロンパが入るまで終わることはない。
「プロデューサーさんだって見たいですよね?ねぇ!?
折角そこに『はぁ....しんどい.....尊い...』系の素敵な男性が居るんですから、
やりましょう?一回くらいなら良いじゃないですか」
「因みにどんな感じになるのか教えてくれないか?」
「それは.....詳しくは言えませんけど。
....プロデューサーさんは、どうやら入ってくれなさそうですね」
「午後から仕事あるし、あんまゆっくりもしてられないんだ。
...いや、そりゃまだ時間に全然余裕はあるけど。でもその...悪いな、また今度な」
ナニを一回だけやるつもりなのか、主語を抜いてくるのはノーサンキューなのである。
しょげた顔で俯くまゆに少しだけ罪悪感を覚えたが、触らぬ神に祟りなし。
付き合ってあげたい気持ちも多いが、戻れなくなりそうで何か怖い。
あとでちゃんと埋め合わせをするよと約束しつつ、再び幸子を抱っこしてまゆのまゆをあとにする。
やはりというか、まゆに動く気はないようで一緒についてこようとはしない。
....少し強引すぎただろうか。小さい背中がどことなく寂しく見える。
とはいえ、まゆは聞き分けのない子ではないのでその内出てくるだろう。
そんな気持ちで合金(防音も兼ねる)の扉をくぐり、明るい事務所の一室に戻った。
少しだけ新鮮な空気。日常を表してくれる見慣れた風景。
なんだかずっと地に足がついていたのに、やっと足を休められるような安堵感がそこにはあった。
世にも奇妙なダンジョンの探索はこれにて終了。あとはいつもの日常が待っているだけだ。
幸子はまだダウンしている。ちょっと危ない目には遭ったものの、一時間もあれば回復するだろう。
「よっと・・・・」
そんな感じで幸子を事務所の黒ソファにゆっくりと置いて寝かせてやる。
142cmの幸子に4人掛けの長ソファと言えど、寝転がると流石にスペースがない。
少し座り心地は悪いが、デスクチェアで我慢するか。そう思った矢先に、
目が覚めるくらい真っ赤なソファーが視界に入った。
「あー....そういえばこれがあったじゃないか。ハートソファー」
個人的に購入した一人がけ用のソファー。ふかふか具合で言えば間違いなくこっちのが上である。
ちょっとした疲労感からか吸い込まれるようにして、深くもたれかかった。
眠るつもりはないが、少しクッションを枕にして楽な姿勢でいよう。
そう思って、座ったままクッションを持ち上げると。
シュルシュルシュルシュルシュルシュルッ!!!
「───────ああ、まゆったらうっかりして....言い忘れてました。
"今日はもう一つまゆのまゆを持ってきていたんでした"」
計画通り、と。少女の声が早朝の事務所の一室に木霊する。
すり替えられたハートソファーの側面から無数のリボンが飛び出して絡みつき、
糸のようなリボンは、やがて一つのサナギを形成した。
それを外から、赤い蝶が指でなぞる。愛くるしい、リボンの繭を。
「お楽しみは─────これからですよ.....?
うふ....うふふふふ.....うふふふふふふ.......♪」
これが....世界のユイマキノ....!ニコ生にあたって なんかリベンジはしてきそうだなとは思ってたけど、
まさかそのまま持ってくるとはこのリハクの目をもってしても見抜けなかった
どうも、鑑識眼:Dの欠星です インセクトイーターなまゆのまゆ、捕食されたい
タイトルは某02なアニメのサブタイトルのパロディーだったり
まゆのまゆ(固有名詞)は+まゆ(人名)の+繭(名詞)? といった組み合わせ
ルームアイテム正式実装が待たれますよネ
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