2016-02-14 06:10:59 更新

概要

前作「電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです」
http://sstokosokuho.com/ss/read/2666

※注意事項
・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。
・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。
・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。
・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。


前書き

本スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451576137/


※階級について
艦種を実際の格闘技における重量階級に当てはめており、この作品内では艦種ではなく階級と呼称させていただきます。

戦艦級=ヘビー級

正規空母級=ライトヘビー級

重巡級=ミドル級

軽巡級、軽空母級=ウェルター級

駆逐艦級=ライト級



明石「皆様、大変な長らくお待たせいたしました! 第二回UKF無差別級グランプリ、Bブロック1回戦の放送を開始します!」


明石「実況はお馴染みの明石、解説は大淀さんでお送りさせていただきます!」


大淀「どうも。エキシビションマッチのリクエストで1票も入らなかった不人気ファイターの大淀です」


明石「ちょっと、それはもういいじゃないですか。まだへそを曲げてるんですか?」


大淀「大会運営委員長から言われてたんですよ。『お前は9割方出場させる見込みだからしっかり準備しておけよ』って」


大淀「ほぼ全候補者の対策も考えてましたし、ファイトマネーで新しいマンションを買う予定も立ててたんです。それが全部パーですよ」


明石「まあ、その件は大会運営委員長も『えっ、大淀って人気無いの?』って戸惑ってましたね」


大淀「軽巡級王者の私が人気無いわけないじゃないですか。きっと何かの間違いです」


明石「でも、大淀さんは過去に泥仕合を演じた汚点がありますから……」


大淀「いやいや、それでも私は相当強いですよ? 榛名さん相手だろうと勝つプランはありますからね」


明石「えー申し訳ありませんが、エキシビションマッチ1回戦の出場者は決定しました! リクエストは締め切らせていただいております!」


明石「2回戦出場者のリクエストは引き続き行いますので、よろしくお願いします! 大淀さんは解説役として頑張りましょう。ねっ?」


大淀「……そこは2回戦出場のリクエストに期待しましょう、じゃないんですか?」


明石「いや、もう可能性は薄いかなって……ほら、皆さんは解説役としての大淀さんが大好きなんです! だから元気出して行きましょうよ!」


大淀「はい……ファイトマネー……」


明石「それでは早速試合を始めたいところですが、Bブロック1回戦終了後、皆様お待ちかねのエキシビションマッチが行われます!」


明石「出場者の発表は、試合直前にて行いますので、どうかお楽しみに! なかなかの好カードが組まれております!」


大淀「ええ、はい……確かに面白そうな組み合わせではありますね……」


明石「ほら、大淀さんテンション上げて! それではBブロック1回戦、第1試合を開始いたします!」


明石「赤コーナーより選手入場! 新生ファイターにして優勝候補の登場です!」




試合前インタビュー:陸奥


―――陸奥選手は長門選手に次ぐ優勝候補として名前が挙げられています。今大会への意気込みをお聞かせいただけますでしょうか。


陸奥「UKFに参加したときから、いずれ長門姉さんに勝たなくてはならないことは覚悟していたわ


陸奥「いつまでも姉さんの背中を眺めてばかりじゃ嫌だもの。それだけのトレーニングは積んできたつもりよ」


陸奥「この大会にはまだ戦ったことのない選手が多いじゃない? その方たちに勝って、それを糧に私はもっと強くなると思うの」


陸奥「戦うことになる場が決勝でないことは少し残念だけど、長門姉さんと私が戦うとき、私の実力は姉さんと並んでいるでしょうね」


―――初戦の不知火選手は全く未知数のファイターですが、どのように戦いますか?


陸奥「うーん、いつも通りでいいんじゃないかしら。と言っても、彼女のファイトスタイル次第ね」


陸奥「不知火さんって、あの吹雪と夕立を倒したんでしょう? そういう何を持っているかわからない選手こそ、私の求めていた対戦相手なの」


陸奥「彼女に勝って、色々と学ばせてもらうわ。ぜひお手柔らかにお願いしたいわね」





陸奥:入場テーマ「Dimmu Borgir/Progenies of The Great Apocalypse」


https://www.youtube.com/watch?v=40wRv4yjres




明石「絶対王者、長門選手は語ります! もし将来、自分の王座を脅かす者が現れるとしたら、それは我が妹に違いないと!」


明石「デビュー戦以来、数々の強豪を相手にして無敗! この新生アルティメットファイターの実力を疑う者は、今や誰一人いません!」


明石「その打撃は痛烈無比! 組技、寝技もお手の物! 彼女の突き進んだその後には、屍しか残らない!」


明石「この私の進撃を止めてみるがいい! ”ジャガーノート” 陸奥ゥゥゥ!」


大淀「さあ、注目の一戦ですね。陸奥さんは文句無しに強いですよ」


明石「陸奥選手は元々レスリングをされていたそうですが、それなのに打撃が強いんですよね」


大淀「そうなんです。レスリングで鍛えられた強靭な体幹が、そのまま打撃の強さに反映されています」


大淀「パワーだけでなく、キックボクシングのテクニックも中々のもので、ほとんどの相手を組み技に持ち込むことなくKOしています」


明石「普通に考えると、レスリングテクニックを活かせるグラウンドに持ち込んだほうが陸奥選手にとって戦いやすそうですよね」


明石「それなのに、彼女が立ち技で戦うのには何か理由があるのでしょうか?」


大淀「総合格闘のリングですと、立ち技で勝負するときは、常にタックルや投げを警戒しながら打ち合いをする必要があります」


大淀「その点、陸奥さんはレスリングテクニックに秀でていますから、絶対に倒されない自信がある。だから存分に打撃を叩き込めるんです」


大淀「だから、まずは打撃でダメージを与えてから寝技に持ち込むのが彼女の本当の戦法です。大半の選手は、その入口でKOされてしまうんですね」


明石「なるほど。どうにか打撃を凌いだとしても、寝技、組み技は更に洗練されたものを持っていると。まさにアルティメットファイターですね」


大淀「しかも、スパーリング相手はあの長門さんですから。陸奥さんの仕上がりは相当なものになっているでしょう」


大淀「強いて欠点を挙げるなら、選手としての熟練度が若干足りていないというか、時折、新人ファイターらしい面影を覗かせてしまうところですね」


大淀「以前に日向さんと対戦したときは辛うじて勝つことはできましたが、寝技に引き込まれたときにかなり焦った表情を見せていました」


明石「あの試合ではほとんど力だけで寝技を振りほどいての勝利でしたね。日向さんもあと一歩のところで勝機を逃したという感じでした」


大淀「ですから、そういったメンタル面に多少付け入る隙はありますが、パワーやテクニックはトップファイターの名に恥じないレベルの選手です」


大淀「このグランプリを通して、彼女もそういう精神的な強さを得ようとしています。きっと素晴らしいファイトを見せてくれることでしょう」


明石「ありがとうございます。それで青コーナーより選手入場! 注目のダークホースです!」






試合前インタビュー:不知火


―――改めてお聞きします。駆逐艦二大王者の吹雪さん、夕立さんを野試合で倒したという話は本当でしょうか。


不知火「彼女たちも認めていたと思いますが、事実です。このグランプリに出る権利が欲しかったので、非正規な手段を取らせていただきました」


―――今回、不知火さんの参戦は誰も予想していなかったと思います。そこまでして出場を決意された理由を教えていただけますでしょうか。


不知火「勝てると思ったので」


―――それは試合全般に、ということでしょうか。


不知火「いえ。長門さんにです」


―――長門選手に勝てると?


不知火「はい」


―――やはり戦艦級と駆逐艦級では体格差がありますから、パワーや身長では当然不利かと思います。

   更にテクニック面でも長門選手は非常に優れた選手ですが、勝てると思われた根拠をお聞きしてもよろしいでしょうか。


不知火「例えば、子犬が虎に勝つ見込みはまずないでしょう。それは虎の方が大きいからです」


不知火「しかし、子犬より遥かに小さくとも虎を殺しうる生き物がいます。例えば毒蛇。あるいは、毒蜘蛛。サソリなどもその可能性を持つでしょう」


不知火「彼らがなぜ虎を殺しうる可能性を持っているか。それは猛毒を持っているからです」


不知火「つまり、強大な者を倒すのに必ずしも大きい必要はありません。必要なのは猛毒に代わる技、それを刺せるだけの速さと技術があればいい」


不知火「そして、不知火はその猛毒と、速さと技術を持っているということです」


―――1回戦は長門選手に匹敵するとも言われる陸奥選手です。陸奥選手にも、今言われた猛毒を刺せると思いますか?


不知火「長門さんに刺せるということは、すべての選手に刺せるのと同じことでしょう。不知火の負けはありません。陸奥さんには気の毒ですがね」




不知火:入場テーマ「FINAL FANTASY VII/片翼の天使」


https://www.youtube.com/watch?v=rmhZMZRgFXQ





明石「会場にざわめきが起こっています! 小さい、今までの出場者たちと比べれば、その体格は明らかに小柄です!」


明石「しかし、その眼光と風格はまさに戦艦クラス! リングへの花道を堂々とした足取りで歩みを進めます!」


明石「彼女は断言した、私は長門選手を倒せると! 今、彼女が挑もうとしている相手はまさに、長門選手と同じ遺伝子を持つ陸奥選手!」


明石「この絶対的なパワーの差、体格の差を、彼女は如何に覆すのか!? ”猛毒の雷撃手” 不知火ィィィ!」


大淀「不知火さんが強い、という噂はかねがね聞いていました。まさか、本当にグランプリに殴りこみを掛けて来るとは……」


明石「人前で試合をするのはこれが初めてだそうですね。本来なら、そういう選手をグランプリに出場させることはあまりないのですが……」


大淀「ええ、本当は吹雪さんか夕立さんが出る予定だったんですよね。あの2人は強すぎて、同階級では試合が組めない状態ですから」


大淀「まさか、あの2人ともを非公式の試合で倒してグランプリ出場権を奪い取るなんて……並大抵の自信と実力がなければできない行為です」


明石「吹雪選手と夕立選手が敗けた、という話も信じられませんでした。まさか、同じ駆逐艦級を相手にあの2人が敗けるなんて……」


大淀「私もです。あの2人は既に戦艦級トップファイターとも渡り合える実力を秘めていますからね」


大淀「ですが、2人とも公式の会見で敗北を認め、グランプリ出場を辞退されていますから。その話も本当なんでしょう」


大淀「公式試合ではないので正式な形ではありませんが、現時点で、不知火さんは駆逐艦級の暫定王者ということになります」


明石「不知火選手は長門選手を倒す手段を『猛毒』に例えられていましたが、それはどのようなものだと予想されますか?」


大淀「正直なところ、わかりません。そのままの意味、つまり比叡さんのようなものとは異なるニュアンスであることは確かです」


大淀「不知火さんは何か未知の技を持っていて、それを使えば戦艦級とも渡り合える。今はそう考えるしかありません」


明石「となると、この試合は全く予想の付かないものになってきますね」


大淀「はい。階級差や選手としてのキャリアを考えれば圧倒的に陸奥さんが有利ですが、不知火さんの実力が謎に包まれたままですから」


大淀「これはもう、見て確かめるしかありません。それまでは何とも……」


明石「ありがとうございます。さあ、両者リングイン! リングの中央で対峙しております。こうして並ぶと、体格差が一層際立っております!」


明石「不知火選手が完全に陸奥選手を見上げる形になっています。しかし、不知火選手の瞳に恐れは微塵もありません! まるで氷のような視線!」


明石「対する陸奥選手も落ち着いた様子でその視線を受け止めます。さあ、両者コーナーへ! この試合、一体どのような展開になるのか!」


明石「ゴングが鳴りました、試合開始です! 両者、ゆっくりとリング中央に歩み寄る!」


明石「陸奥選手は中段にファイティングポーズを取り、重心をやや高めに構えています。これは上からの打撃で押し込もうという作戦でしょうか?」


大淀「そうだと思います。ひとまずは体格差を利用して打撃に持っていくのが一番確実ですから」


明石「さあ、対する不知火選手は……何でしょう、この構えは? 重心はやや前のめりに、両手を前にゆらゆらと絶え間なく動かしています」


明石「どこか中国拳法や太極拳の構えに通ずるものがあるように見えますが……大淀さん、これは何の構えでしょうか?」


大淀「……ちょっと思いつくものがありません。どこかで見た気もするのですが……」


明石「そうですか……えー両者、間合いを取り合うようにジリジリと互いのサイドへ回ります。仕掛けるタイミングを図っているのでしょうか?」


大淀「不知火さんがフットワークで立ち回る展開になると思いましたが、その様子はありませんね」


明石「確かに、不知火選手が陸奥選手に確実に勝るところと言えば、駆逐艦級としてのスピードのはずですよね」


大淀「ええ。ですが、不知火さんはほとんどベタ足で陸奥さんが動くのを待ち構えているように見えます。何を狙っているのか……」


明石「あっ、ここで陸奥選手が仕掛けた! 上から叩き潰すような右フック! 不知火選手、これを捌き落とした!」


明石「カウンターでボディに正拳突き! さすが駆逐艦級暫定王者、動きが素早……あっ!?」


大淀「えっ?」


明石「む、陸奥選手が後方へ大きく仰け反りました! 尻もちを付くようにダウン! まさか、あのボディへの突きが効いているのか!?」


大淀「そんな、カウンターとはいえ急所でも何でもないところに当たったのに。駆逐艦級にそこまでの打撃力は……」


明石「ここぞとばかりに不知火が仕掛ける! 助走をつけて飛んだ! と、飛び足刀踏み付けだぁぁ!」


明石「腰の捻りを加えた足刀が襲い掛かる! 陸奥選手、辛うじて転がって避けました! どうにか立ち上がります!」


明石「し、しかし体勢が安定しない! よろめきながら再び距離を取ります! 先程打たれたみぞおちの横辺りを手でかばっている!」


大淀「……やっぱり急所ではない部位です。それなのにあれだけダメージを受けているということは……肋骨が折れているのかもしれません」


明石「ろ、肋骨がですか? 駆逐艦級の不知火選手にそれほどのパワーがあるとは思えませんが……」


大淀「わかりません。ただ、現に陸奥さんは動きに支障が出るほどのダメージを負っています。これはもしかして……」


明石「あっ、更に不知火選手が追い打ちをかけます! 先程の構えのまま、一気に距離を詰めていく! 陸奥選手、重心を低く構えた!」


明石「陸奥選手は打撃を避け、組み合いを狙うようです! 果たして、この作戦変更は吉と出るか、凶と出るか!」


明石「さあ間合いが近付いていく! 陸奥選手が先に動いた! 速い! 強烈な胴タックルが不知火選手に迫る!」


明石「陸奥選手の豪腕が不知火を捉え……ああっ!? これは何だ!? 陸奥選手の体が宙を舞った!?」


明石「と、巴投げです! 不知火選手、まさかの柔道技! 投げ技で陸奥選手のタックルを制しました!」


大淀「やっぱり、この動き……!」


明石「タックルの勢いのまま、背中から激しく叩きつけられました、陸奥選手! かなり苦しそうだ! 衝撃が折れた肋骨に響いているのか!?」


明石「そのまま不知火選手、寝技に持ち込みます! 上四方固めの体勢になりました! 素早く首に腕を絡めた! 絞め技を掛けようとしている!」


明石「の、ノースサウスチョークだ! これは頸動脈に入っている! ま、まさか、このまま陸奥が落ちるのか!?」


大淀「同じ階級同士ならこれで決まるでしょうが、陸奥さんならここから……」


明石「あっ……む、陸奥選手が起き上がります! 首を不知火選手に取られたまま、力づくで強引に起き上がる!」


明石「た、立ち上がった! 首には不知火選手をぶら下げたまま! さすがは長門、武蔵に並ぶパワーファイター! 首と腰の筋力が尋常ではない!」


明石「不知火選手の腕を掴んだ! これも強引に引き剥がすつもりです! 戦艦級のパワーが不知火選手に襲い掛かる!」


明石「しかし、絞めの体勢は既に裸絞めに移行しております! 両足も陸奥選手の胴に巻き付いている! これは容易には振りほどけない!」


大淀「腕が完全に首へ入っています。陸奥さんは筋力でどうにか耐えていますが、落ちるまで後、十数秒……」


明石「どうする陸奥! このまま終わるのか!? 陸奥選手の豪腕とはいえ、やはり完全に首を極めている腕は外せません!」


明石「あっ!? む、陸奥選手が走り出した! 何をする気だ? そのままフェンスに叩きつけるのか!?」


明石「いや、跳んだ! フェンスを蹴って跳び上がりました! 自分をマットに叩きつけ、背中で不知火を押し潰すつもりだぁぁ!」


明石「さあどうする不知火!? 裸絞めを……解いた! 着地寸前にエスケープ! あっさりと絞め技を捨てて離れます!」


明石「陸奥選手は音を立てて背中から着地! 素早く体勢を立て直します! 不知火選手もすぐには攻めて行きません!」


大淀「不知火さんは危険を冒してまで決めに行く必要はないと判断したみたいです。今までに十分なダメージを与えていますから」


大淀「それに、今の着地で陸奥さんは更なるダメージを蓄積させたんじゃないでしょうか。何と言っても、肋骨が折れてますからね」


明石「確かに陸奥選手、全身に疲労とダメージが色濃く浮き出ています! 肩を上下させながら激しく呼吸し、大量の脂汗を掻いている!」


明石「今の攻防で大きく体力を消耗したようです! しかも回復する気配がない! もはや陸奥選手のスタミナは限界に近いように見えます!」


明石「対する不知火選手は冷静そのもの! ダメージも一切なく、氷のような視線で陸奥選手を注意深く観察している!」


明石「スタンド状態には戻りましたが、両者のダメージの差は明白! 不知火選手、完全に陸奥選手を圧倒しています!」


明石「この状況に会場は驚きを隠せません! まさか不知火選手の実力がこれほどとは! 階級差をまるで感じさせない戦いぶりです!」


大淀「……不知火さんの流儀がわかりました。あれは太気拳です」


明石「太気拳? それは確か、日本人中国拳法家が国内で創始したという……」


大淀「はい。中国拳法の1つである意拳に加え、空手や柔術の要素を含んだ極めて完成度の高い格闘技の流派です」


大淀「だから不知火さんはあれだけの打撃に加え、投げや寝技も扱える。太気拳はいわば日中の合作格闘技ですから」


明石「それでは、あの陸奥選手の肋骨を折ったと思われる打撃も太気拳の技なのでしょうか?」


大淀「……多分、あれは『発剄』による打撃だと思います」


明石「発剄? それって寸勁とかの、中国拳法でよく聞く技ではありますが……架空の技術じゃないんですか?」


大淀「発剄は実在する技術ですよ。単に体重移動と全身運動をスムーズに行うことにより、打撃の速度と威力を上げるというものです」


大淀「打撃系格闘技では、威力のあるパンチを打ちたければ腰を入れて打て、というのは基本中の基本です」


大淀「ですが、発剄はそれを更に高度にしたものです。打撃の際、足先から腰、全身の筋肉全てを連動させて、一撃に全体重を叩き込むんです」


大淀「ジークンドーのリード・ストレートも似たような打ち方をしますが……きっと、不知火さんはその発剄の技術を極めているんでしょう」


大淀「あれだけ最小限の動きで、陸奥さんの肋骨を折るほどの突きを放てるなんて。信じられないほど高度なテクニックです」


明石「試合前に不知火選手が発言していた『猛毒』の正体とは、その『発剄』ということですか?」


大淀「そうだと思います。あの夕立さんに迫るほどの一撃を、不知火さんはあらゆる打撃で使うことができるのでしょう」


大淀「更に不知火さんは陸奥さんを投げるほどの柔術のテクニックも持ち合わせています。ここまで隙のない実力を持っているなんて……」


明石「どうやら、徐々に不知火選手の正体が明らかになってきました! その流儀は太気拳、発剄の打撃と柔術を使いこなす小さな達人!」


明石「その不知火選手が再度、動き出しました! 手負いの陸奥選手に止めを刺さんと、ジリジリと距離を狭めて行きます!」


明石「陸奥選手は未だ苦しそうに荒い息をしています! 長門選手を超えるという夢は、ここで儚くも散ってしまうのか!?」


大淀「肋骨が折れれば腰の捻りが効かなくなりますから、あらゆる動きに支障が出ます。陸奥さんがここからどう反撃するか……」


明石「……おや? 陸奥選手が再び構えます! 先程より更に重心が低い! 開手を前に突き出した、襲い掛かる猛獣のように前のめりの構え!」


明石「これはキャッチ・アズ・キャッチ・キャン・スタイル! 陸奥選手、己の根底であるレスリングの構えを取りました!」


大淀「陸奥さんの状態からして、全力で動けるのはせいぜいあと1回くらいでしょう。これで決めるつもりですね」


大淀「というより、これで決めなければ次はありません。陸奥さんは一か八かの賭けに臨む気です」


明石「さあ、陸奥選手が猛獣のように待ち構える! 不知火選手はペースを落とさず詰め寄っていく!」


明石「陸奥が動いた! 地を這うような低いタックル! これで不知火を仕留められるか!」


明石「ああーっ! か、カウンター! 肘鉄が顔面に突き刺さったァァ! 不知火選手、無情なる必殺の発剄! 凄まじい一撃が叩き込まれ……!?」


明石「む……陸奥選手がダウンしない! 勢いをそのままに、不知火選手を押し倒した! 腕はガッチリとホールドしています!」


明石「テイクダウンに成功! いや、というより不知火選手を道連れにダウンしたのか!? 陸奥選手、そのまま動かない!」


明石「マウントポジションを取ろうとする気配もありません! 不知火選手を抱き締めたまま、陸奥選手、ピクリともしま……!?」


明石「ち……血です! マットに流血! 陸奥選手の顔面から激しい出血が見られます! 陸奥選手、果たして意識はあるのか!?」


大淀「タックルの勢いのまま、あの不知火さんによる肘打ちを受けたなら、顔面は潰れてしまったでしょう。でも……」


明石「おっ? う、動いています! 陸奥選手が動いている! 捉えた不知火選手を逃すまいと、腕の位置を調整しているようです!」


明石「ならば、不知火選手の様子はどうか? これは……陸奥選手にホールドされて、ほとんど身動きが取れていません!」


明石「どうにかもがいて逃れようとしていますが、ここはパワー差が顕著に出ています! 陸奥選手の締め付けをまるで振りほどけない!」


明石「しかし、陸奥選手はここからどうやって不知火を仕留めるのか! まさかサバ折りで……あっ、腕の位置を動かしました!」


明石「か、肩固めです! 腕と肩で不知火選手の首を絞めている! 戦艦級の腕力が、まともに駆逐艦級を襲います!」


明石「不知火選手は必死にもがいていますが……陸奥選手、びくともしない! 卓越した技術も、この状態では使いようがありません!」


大淀「発剄は地面に足をつけて、腰を回さないと使えませんからね。あんな風に覆い被さられてはどうしようもないでしょう」


明石「じょ、徐々に不知火選手の動きが弱まっていきます! マット上の血だまりも広がりつつありますが、陸奥選手は締め付けを緩めない!」


明石「あっ……不知火選手が動かなくなりました! これは……完全に落ちている! あの小さな達人がピクリとも動きません!」


明石「レフェリーが不知火選手の失神を確認しました! 試合終了! 勝ったのは陸奥、陸奥選手です!」


明石「序盤でKO寸前まで追い込まれるも、圧巻の逆転勝利! 予想以上の強敵、不知火選手の技術をパワーとタフさでねじ伏せました!」


明石「陸奥選手、やはり強い! 優勝候補としての矜持を守り抜きました!」


大淀「ここまで接戦になるとは思いませんでした。途中、もう陸奥さんに勝ち目はないんじゃないかと思いましたが……」


明石「大逆転でしたね。やはり勝因は階級差にあると思われますでしょうか?」


大淀「それも大きいとは思いますが、最期まで心を折らなかった陸奥さんの精神的な強さが一番大きいとは思いますね」


大淀「本来なら、不知火さんによる迎撃の肘で終わっているはずだったんです。ほら、やっぱり顔の骨が折れてるみたいですね」


明石「うっ……うわ、左目がほとんど潰れていますね。かなりの出血が見られます。これは骨も折れてそうですね」


大淀「おそらくは眼底骨折、および眼球破裂もあるでしょう。首の筋力があるので脳震盪は起こりませんでしたが、致命傷には違いありません」


明石「あっ、立とうとした陸奥選手がよろめきました。やはり体力の限界だったようです。あの状態で、よく勝利をもぎ取りましたね」


大淀「普通、あんな一撃を貰えば戦意喪失するはずですけど、陸奥さんは耐え抜きました。きっと、致命傷を覚悟のタックルだったんでしょう」


大淀「階級差を利用したのは事実ですが、勝利に直接繋がったのはその覚悟の強さなのだと思います」


大淀「きっと、今は陸奥さんも感じているじゃないでしょうか。これで1歩、長門さんに近付いたと」


明石「まさにそうですね。不知火選手も予想以上の実力でしたが……」


大淀「最後の最後で詰めの甘さが出ましたね。おそらく、自分の一撃を過信してしまったんだと思います」


大淀「肘をクリーンヒットさせて、これで決まったと隙が出てしまったんでしょう。普通はあれで終わりでも、勝負に絶対はありませんからね」


大淀「ですが、どちらが勝ってもおかしくない大接戦だったと思います。非常にハイレベルな試合でした」


明石「はい、どちらも素晴らしい選手でした。観客の皆様、今一度、両選手に盛大な拍手をお願いします!」





試合後インタビュー:陸奥


―――初戦から予想以上の苦戦を強いられたかと思いますが、終わってみて今はどのようなお気持ちですか?


陸奥「……不知火さんは本当に強かったわ。仮に10回戦ったら7回は私が敗けるんじゃないかしら……もう一度戦って、勝てる自信がないわ」


陸奥「長門姉さんを超えるって目標なのに、最初からこんなに追い込まれてしまうなんて……先が思いやられるわね」


陸奥「でも、今の戦いでまた一回り強くなれた気がするの。こういうファイトスタイルもあるんだって勉強にもなったわ」


陸奥「うん。勝ったくせに弱気になるなんておかしいわよね。もっと強気で行かなくちゃ。相手をしてくれた不知火さんにも失礼よね」


陸奥「よーし、次の試合も敗けないわよ! このまま勝ち続けて、長門姉さんも倒して、必ず優勝するわ!」


―――ちなみに長門選手ですが、試合に勝ったということでお祝いのコメントなどは伺っていますか?


陸奥「いいえ。このグランプリ中はお互いに会わないって決めてるの」


陸奥「だって、今は姉妹じゃなくて、戦うべき敵同士だもの。次に会うのはリングで、って長門姉さんと約束したのよ」


陸奥「私はこのグランプリで、本気で長門姉さんを超えるつもりだから。そのために出場したんだものね」


陸奥「姉さんは間違いなくトーナメントを勝ち上がってくる。だから、絶対に途中で私が敗けるわけにはいかないわ」



試合後インタビュー:不知火


―――優勝候補の陸奥選手を相手に、素晴らしい戦いぶりでした。惜しくも敗北となりましたが、試合をしてみてどのような感想をお持ちでしょうか。


不知火「……不知火の落ち度です。それ以上、敗けた不知火に語る言葉はありません」


不知火「いえ、1つだけ……吹雪さんと夕立さんに、済まなかったと伝えてください」


(不知火選手の取材拒否により、インタビュー中止)




明石「さあ、異色の対決で幕を開けたBブロック! 続く第2試合、これもまた注目のカードです!」


大淀「先程の試合も事前の予想が難しい対決でしたが、これもまた何が起こるかわからない選手同士の試合ですね」


明石「それでは入場していただきましょう! 赤コーナーより、UKF屈指の問題児ファイターの登場です!」




試合前インタビュー:龍田


―――今大会に向けて、目標などはありますか?


龍田「ないわねぇ。優勝もしたいと言えばしたいけど、やっぱり単純に試合を楽しみたいわ~」


龍田「私たち格闘家はエンターテイナーだものね。勝ち負け以上に、お客様を楽しませることが大切だと私は思ってるの」


龍田「誰かに楽しんでもらうには、まず自分が楽しまなくちゃいけないじゃない? だから今日はうんと試合を楽しむつもりよ~」


―――無差別級の試合に臨むのは初めてかと思いますが、自分より階級が上の選手と対戦するにあたり不安は感じていらっしゃいますか?


龍田「もちろん怖いし、不安よ。階級差があると色んな面で不利だし、階級が上ってだけでちょっと萎縮しちゃうわ」


龍田「だけど、逆に安心な点もあるわね。だって、階級が高いってことは、それだけ壊れにくいってことじゃない?」


龍田「今まで戦ってきた軽巡級の子たちは壊れやすくて、いい加減ウンザリしてたのよ~。今日はもっと雑に扱っても大丈夫よね?」


龍田「手心を加えなくてもいいなんて気が楽だわ~。ドイツ人ってどんな声で泣いてくれるのかしら~」




龍田:入場テーマ「Mayhem/De Mysteriis Dom Sathanas」


https://www.youtube.com/watch?v=uZmDL_PzvdY




明石「軽巡級グランプリ準優勝! 彼女の恐ろしさを語るには、その程度の肩書ではあまりに物足りません!」


明石「曰く、真性のサディスト! 曰く、その身に悪魔を宿す女! 曰く、合法的に相手を虐めるためにリングへ立つ残虐ファイター!」


明石「格闘家が選ぶ最も戦いたくないUKF選手堂々の第1位! ”悪魔女王” 龍田ァァァ!」


大淀「今日もいい笑顔ですね。内面はドロッドロのくせに」


明石「龍田選手といえば、軽巡級王者の座を勝ち取った大淀さんにとってはライバルに当たる存在ですよね?」


大淀「そうですね、大っ嫌いです。死ねばいいと思っています」


明石「あの、解説者なんですから、思ったことをそのまま言うのは控えてください」


大淀「ああ、すみません。ただ彼女さえいなければ、私が格闘雑誌でボロクソにこき下ろされたり、ブログも炎上せずに済んだと思うと……」


明石「えーっと、そろそろ龍田選手の解説をしていただきたいんですが」


大淀「あーはい。龍田さんはいわゆる日拳、日本拳法の使い手ですね。打投極から組み討ちなども重視した、総合格闘の先駆けとも言える流派です」


大淀「技のバリエーションは豊富なんですが、日拳には1つ弱点がありまして。防具を着用して練習する性質上、防御技が身に着かないというものです」


大淀「これを龍田さんは天性のセンスと常に攻め続けることでカバーしています。実際、彼女が受けに回った試合というのは今までありません」


明石「というより、龍田さんが苦戦した試合というもの自体がないに等しいんですよね?」


大淀「ええ。龍田さんは戦績としては今までに3敗していますが、うち2敗はレフェリーストップを無視して追撃をしたことによる反則負けです」


大淀「彼女は相手がタップしても殴り続けますし、関節を極めたら折れるまで離しません。それに関しては何度指導されても改める気はないようです」


大淀「そのドSぶりは早々に知れ渡りましたから、大半の選手は龍田さん相手だと早めにギブアップします。だからこの程度の黒星で済んでいます」


明石「龍田選手を相手に頑張り過ぎると目も当てられないことになってしまいますからね……」


大淀「もう1つは私との試合ですね。時間切れによる判定負けです。軽巡級グランプリは10分3ラウンド制の試合でしたので」


明石「あの『史上最低の泥仕合』と言われた決勝ですね。これに関しては大淀さんも色んな所から散々言われたかとは思うんですが……」


大淀「……龍田さんはですね、普通の選手と根本的に違うんですよ。そもそも、試合に勝とうとしていないんです」


大淀「あの人は試合の過程で対戦相手を痛めつけて、自分の嗜虐心を満足させることが目的なんです。だから戦い方も普通とは全く違います」


大淀「私は勝つための手段に目突きを使いますが、龍田さんが目突きをするのは、単に相手の目を潰したいからです。手段と目的が一緒なんですよ」


大淀「龍田さんが試合に勝つのは、下手に実力が高いせいで結果的に勝っているというだけなんです。本当は勝敗なんてまるで興味がないはずです」


大淀「私は逆に、何としても試合に勝ちたい。だからあの決勝では、初めから『判定勝ち』を狙いに行かせていただきました」


明石「体重の乗らないジャブやローキックをたまに繰り出してはすぐ離れる、超消極的ヒット&アウェイと呼ばれたあの戦法ですね」


大淀「ええ。こっちは一応攻め続けているから膠着ではないし、攻撃も受けてないんですから、判定で私が勝つと思いました」


大淀「龍田さんは何度も攻め込んできましたけど、私が上手いこと逃げましたからね。作戦通り、途中でやる気をなくしてくれました」


明石「あれは方々から大批判でしたね。とうとう龍田さんの本気が見れると期待の大きい試合だったばっかりに」


大淀「確かに申し訳なかったとは思います。でもですね、趣味で相手の指を折ろうとするような人とまともな試合なんて、誰もしたくありませんよ」


明石「そうかもしれませんが……ともかく、龍田さんの実力に関して1つ言えるのは、『未だに底が知れない』ということでしょうか」


大淀「はい。さっき言った通り龍田さんは勝とうとしていませんから、今まで本気で戦った試合がないんです」


大淀「日本拳法の人ですから、打撃から関節技まで何でもできることは確かです。ですが、どの程度できるかは戦った私にもわかりません」


大淀「ですから、もしかすると……この試合でそれが明らかになるかもしれません。その役目を務める対戦相手は不幸としか言いようがありませんが」


明石「わかりました。それでは不運にも悪魔女王に挑むのはこちらの選手です! 青コーナーより、対戦者の入場です!」




試合前インタビュー:ビスマルク


ビスマルク「Guten Tag. コ……コニチハ。アタシ、ワタシは……」


―――通訳の方に来ていただいていますので、ドイツ語で話されて大丈夫ですよ。


(以下、ドイツ語による会話を日本語に翻訳したものになります)


ビスマルク「あら、そうなの? でもかなり日本語上手くなったたでしょ! 空いている時間にすっごく練習したのよ!」


ビスマルク「えーっと通訳のあなた、ろーちゃんだっけ? 後でもっと日本語教えてよ! 帰国する前にはペラペラに喋れるようになりたいの!」


ビスマルク「観光もしていきたいし、よろしくね! 大丈夫よ、講習料はちゃんと払ってあげるから! 優勝賞金の10億円でね!」


―――そのご様子では随分と日本のことを気に入ってくださっているようですが、アウェイの地で戦う緊張や不安などはありますか?


ビスマルク「緊張? 全くないわね。むしろすっごく調子がいいわ。この国の空気は私に合っているみたい」


ビスマルク「気候も過ごしやすくて、風土や町並みも素敵だわ。美味しそうな食べ物もあるし、しばらくこっちに滞在するのもいいかもね」


―――対戦相手の龍田選手について、何か対策などは立てられていますか?


ビスマルク「うーん。実は私、その子のことを全然知らないのよね。この国の軽巡級グランプリ準優勝者ってこと以外はさっぱり」


ビスマルク「第一回UKF無差別級グランプリの映像は見たんだけど、彼女は出場してなかったじゃない? だから、対策なんて立てようもないわ」


ビスマルク「でもまあ、いつも通りにやるわよ。龍田さんってキレイな子なのかしら? だとしたら、すごく楽しみね」


―――ビスマルク選手の本国における経歴、戦績などは一切非公開となっていますが、ここで何か明かしていただける情報などはありますか?


ビスマルク「ごめんなさい。そういうことは言うなって上から止められてるの。せっかくのインタビューなのに申し訳ないわね」


ビスマルク「ちょっとだけ本当のことを言うと、実は人前で戦うのって初めてなの。だから、さっきからワクワクが止まらないわ」


ビスマルク「みんなに見られてる前で戦うなんて、変な感じ。あんまり意識しないよう気を付けないといけないわね」


(通訳は呂-500さんにご協力していただきました)




ビスマルク:入場テーマ「SAW/Hello Zepp」


https://www.youtube.com/watch?v=vhSHXGM7kgE




明石「今や艦娘格闘界最高峰と呼ばれるUKF! 最強を決めるこの舞台に、ついに海外選手の参戦です!」


明石「第三帝国ドイツから放たれた謎の刺客! ハーケンクロイツの印を背負うその身には、如何なる実力が秘められているのか!」


明石「ドイツ最強の戦艦級ファイター、万を持して日本襲来! ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルクゥゥゥ!」


大淀「初の外国人選手ですね。彼女は経歴が非公開なので、残念ですが私から解説できることはほとんどありません」


明石「見たところはアレですね。例の紋章が……」


大淀「ああ、ドクロのマークを着けてますよね。ということはナチスの親衛隊の方で、軍隊格闘か何かをやってらっしゃるのかなと思います」


大淀「わかるのはそれくらいです。後はそうですね……彼女の参戦にあたり、ドイツ本国のほうで随分と揉めた、という噂くらいしか」


明石「それは私から説明させていただきますが、私自身もよくわからない話なんですよね。何だか情報が曖昧過ぎて」


明石「何でも、運営が第二回グランプリの開催にあたり、同盟国のイタリア、ドイツにぜひ貴国の選手を招聘したいと打診したそうなんです」


明石「イタリアのほうは大会のVTRを見て、間もなく出場を見送る旨が伝えられてきました。長門選手には敵わないと判断したようです」


明石「ですが、ドイツは逆にすぐさま出場を表明したんです。そのときこちらに伝えられた艦娘がビスマルク選手でした」


大淀「大会の内容を見た上でビスマルクさんを推したということは、それだけ彼女の実力が信頼のおけるものだということでしょうね」


明石「そのはずなんですが、出場表明のわずか数日後に、突然それが取りやめになったんです。何でもこれ、ドイツ軍部からの圧力だそうです」


明石「最初に出場を決めたのも同じ軍部なんですが……どうやら、軍部内で意見が分かれていたようなんですね」


明石「ビスマルク選手をドイツの威信を示すに相応しいとする派閥と、相応しくないとする派閥。この2つが揉めに揉めたらしくて」


大淀「そもそも揉めた理由は何なんでしょう。実力は十分なはずですよね?」


明石「はっきり言ってそれすらわからないんです。ドイツ側も何が理由でビスマルク選手の出場をためらっているのか教えてくれませんでしたから」


明石「でも、結局は出場という運びになりまして。その代わり、経歴などに関しては一切公開しないということになってしまいました」


大淀「UKFの運営側はさぞかし困ったでしょう。せっかく大会の目玉選手のつもりで外国人選手を招聘したのに、公開できる情報がないなんて」


明石「まあ……そんなビスマルク選手を龍田選手にぶつけるっていうこと自体、運営からドイツへの当て付けみたいなものですよね」


大淀「ええ、ちょっと悪意を感じます。ビスマルクさんは龍田さんのことを何も知りませんからね。それは龍田さんも同じではありますが」


明石「何もかも未知数のこの試合ですが、大淀さん。何か見どころというか、予想などはありますか?」


大淀「予想は勘弁してください。とにかく、実力未知数の2人がどんな試合をするのか。私自身もそれが楽しみではあります」


明石「ありがとうございます。さあ、両者リングイン! どちらも今からお茶会でも始めるのかというような穏やかな笑顔!」


明石「しかし、ここから始まるのは究極のバーリ・トゥード! あらゆる技が許されるこの舞台で、この2人はどんな戦いを繰り広げるのか!」


明石「今このとき、地獄の門は開かれる! ゴングが鳴りました、試合開始です!」






※注意事項

・一部に過激な暴力表現、グロテスクな描写を含みます。予めご了承ください。

・特定のキャラクター、及び国家、人種、格闘技を貶める意図がないことをご理解ください。

・あなたの嫁が顔面を割ったり割られたり、あるいはもっと酷いことになる恐れがあります。ご注意ください。

・一部に著しいキャラクター崩壊が見受けられます。ご容赦ください。






明石「さあ両者、ゆっくりと間合いを詰めて行きます。龍田選手は日本拳法家らしく拳を水月に置いた、中段の構え!」


明石「対するビスマルク選手は……これはどうしたことでしょう、構えを取りません! まるで散歩のような足取りで龍田選手に歩み寄ります!」


大淀「油断……という感じではないですね。もしかしたら構えなんてないのかも……」


明石「いよいよ互いの射程距離に入ります、両選手! その表情は相変わらずの微笑! さあ、どのような攻防が繰り広げられるのか!」


明石「おっと、龍田選手が先に動いた! 顔面へ直突き! 目にも留まらぬさすがのハンドスピード!」


明石「ビスマルク選手、これを難なくウェービングで躱しました! なかなか鋭い打撃反応です!」


大淀「打撃戦になりそうな雰囲気ですね。ビスマルクさんに攻める気配がないのが怪しいですが……」


明石「さて、躱された龍田選手ですが、動じている気配はありません。今のはほんの挨拶だと言わんばかりの余裕の表情!」


明石「龍田選手が更に打撃を重ねます! 横打ち! 揚げ打ち! 軽巡級ならではのハイスピードで果敢に攻め立てる!」


明石「しかしビスマルク選手、打撃のラッシュを巧みに捌く! 中段への回し蹴りも容易くブロックしました!」


明石「再び直突き! これも躱す! 前蹴り! 片手で弾く! ビスマルクのディフェンステクニックが冴え渡ります!」


大淀「階級差があるのに、ビスマルクさんはスピード負けしていませんね。むしろパワーで劣る龍田さんが不利でしょうか」


明石「続けざまに攻め立てる龍田選手に対し、未だビスマルク選手、反撃の気配なし! わずかにガードを上げて攻撃に備えるのみです!」


明石「それでも龍田選手は攻撃の手を緩めない! 顔面に左のジャブ、ジャブ、ジャブ! そして直突き! これも当たらない!」


明石「またもやウェービングで躱されました! さすがに疲れたのか、龍田選手が距離を取ります。ビスマルク選手、やはり非常に動きが……」


大淀「……いえ、違います! 今のが龍田さんの狙いだったんです!」


明石「えっ? 何が……あっ!? しゅ、出血です! ビスマルク選手の側頭部からおびただしい量の血が滴っています!」


明石「こ、これは……耳です! ビスマルク選手の片耳がありません! 龍田選手の直突きがかすめたほうの耳です!」


明石「無くなった耳はどこに……ああっ! 龍田選手、これ見よがしに手の中の耳を見せつけました! その表情は満面の笑み!」


明石「なんと龍田選手、打撃の攻防に見せかけて耳を引きちぎりました! これが悪魔女王と呼ばれる、サディストファイターの戦い方なのか!?」


大淀「最後の直突きを引いた瞬間です。あえて自分の打撃に慣れさせておいて、躱される間際に耳をもぎ取ったんです」


明石「なるほど、先ほどの攻防はこのための布石! これが『何でもあり』ルールの恐ろしさ! 龍田選手、早くも試合のペースを握りました!」


大淀「……あの人、何なの? 笑ってるなんておかしい……」


明石「いやあ、本当にそうですね! こんなことをしでかして笑顔だなんて、どこまでサディストなんだっていう……」


大淀「いえ、違います。龍田さんはいつも通りです。今まで控えめにしていた本性を今日はあからさまにしてるっていうだけです」


明石「え? じゃあおかしいって何が……」


大淀「ビスマルクさんですよ……あの人、耳をちぎられた瞬間も、そして今も、ずっと笑っているんです」


明石「あっ……ほ、本当です! 自分の耳を奪われたにも関わらず、ビスマルク選手、開始直後と変わらぬ微笑! まったく動じていません!」


明石「これには龍田選手も眉をひそめています! せっかく悲鳴が聞けると思ったのに、なんだこいつはというような不機嫌な表情!」


明石「うわっ、龍田選手が耳をビスマルク選手に投げ渡しました! 明らかな挑発行為です! ビスマルク選手、微笑を浮かべてこれを受け取る!」


明石「さあビスマルク選手、受け取ったとしても耳をどうするのか。当然くっつくわけもなく……うげぇ!?」


大淀「ちょっ、何してるの!?」


明石「し、信じられません! ビスマルク選手、渡された自分の耳を口に含みました! こめかみが動いている、明らかに咀嚼しています!」


明石「の……飲み込みました! 何ということでしょう! ビスマルク選手、ちぎられた自分の耳を食べました! これには龍田選手もドン引きだ!」


大淀「ひ……人喰い鬼って、ただの通り名じゃないの……?」


明石「これはにわかに不穏な気配が立ち込めて参りました! いつになく険しい表情の龍田選手、そして笑みを崩さないビスマルク!」


明石「あっ、ビスマルク選手がファイティングポーズを取りました! ここに来てまともに打ち合おうというのか!?」


大淀「耳の出血がありますから、現時点ではビスマルクさんが不利です。龍田さんなら、容赦なく傷口を狙うはずですし」


大淀「ただ、今の行動でビスマルクさんがまともな選手ではないことがわかりました。今から何を仕掛けるのか、不気味です」


明石「さあ、笑う人食い鬼が悪魔女王へと詰め寄る! 龍田選手は気圧されることなく、中段の構えで迎え撃つ体勢!」


明石「再び打撃戦となるか!? 先に動くのはやはり龍田! 牽制気味の直突きが放たれ……なっ!?」


大淀「うそ、カウンター!?」


明石「龍田選手がカウンターを取られた! 顎へ突き上げるような掌底! そのまま足を刈った! この動きは大外狩り!?」


明石「あの龍田選手があっさりテイクダウンを取られました! いや、しかし胴との間に足を挟んでいる! 辛うじてガードポジションを取ります!」


明石「そのままビスマルクが腰を下ろした! グラウンド戦に移行……あっ!? 龍田選手が目を手でかばっています! 僅かに出血もある模様!」


明石「龍田選手、どうやら目にダメージを受けたようです! 視力を失っている! 一体、いつの間に攻撃されていたのか!?」


大淀「掌底を顎に入れた時、ビスマルクさんは同時に虎爪の形で目に指を入れたんです。やっぱりこの動き、軍隊格闘術……!」


明石「これは龍田選手、圧倒的不利な状況に立たされました! 目を開けられない状態で、ビスマルクの攻撃をどう凌ぐのか!?」


明石「さあ、ビスマルク選手が拳でパウンドを仕掛け……いや、龍田選手が腕を抱き込みました! 両足も胴をガッチリとホールドしています!」


明石「目はまだ開けられないようですが、どうにかディフェンスできています! このまま視力の回復を待つつもりでしょうか!」


大淀「寝技の攻防なら、目は見えてなくても感触で相手の動きがわかります。一旦膠着させて、打撃に持ち込まれなければ何とか……」


明石「あっ、これは……龍田選手がビスマルクの腕を取ろうとしている! 絡めた足も徐々に首へ近づけています!」


明石「どうやら、このまま腕ひしぎを狙う気です! さすがは龍田選手、この状況でも守りに入るという選択肢はありません!」


大淀「やっぱり龍田さんは寝技も相当上手いです。もしかしたら決められるかも……」


明石「さあ、どうするビスマルク! 上半身を抑え込まれたまま、動くことができません!」


明石「このまま腕ひしぎを決められてしまうのか! 今のところ抵抗する様子もなく……なっ、なんだ!?」


大淀「えっ! ど、どうしたの!?」


明石「龍田選手が悲鳴を上げています! 何が起こった!? あの悪魔女王が絶叫している! こんな光景はありえない!」


明石「ち、血です! マット上に血が! これは……噛み付きです! ビスマルクが龍田選手の脇腹に噛み付いている!」


明石「衣服の上からだというのに、恐るべき咬筋力です! 龍田選手の脇腹から血が……か、噛みちぎった!?」


大淀「ひっ……!」


明石「ビスマルク選手、脇腹の肉を服ごと食いちぎりました! し、しかも吐き出さない! 咀嚼して……く、食った!」


明石「目を疑うような光景が繰り広げられています! 噛み付きというよりは猛獣の捕食! このビスマルクという選手、何を考えているんだ!?」


明石「龍田選手はおびただしい出血! しかも傷口に再びビスマルクが顔を……あっ、絞めを解きました!」


明石「ビスマルク選手の顔面を蹴り飛ばした! 龍田選手、ガードポジションから脱出! 一旦距離を取ります! 視力は回復しているようです!」


明石「再びスタンド状態に戻りました! ですが……このダメージは甚大! 手で抑えた脇腹からは、今も流血が止まりません!」


明石「対するビスマルク選手、蹴りで目の下が腫れていますが、ダメージを感じている様子はありません! 唇を血で濡らし、相変わらずの微笑!」


明石「これは大変なことになって来ました! 龍田選手、ここから逆転する術はあるのか! ビスマルク、こいつは一体何なんだ!?」


大淀「ま、まさか龍田さんがここまで追い詰められるなんて……」


明石「さあダメージを負っている龍田選手、さすがにその表情は険し……い、いや違う! その目付きに疲労や恐怖はまるでありません!」


明石「笑みの掻き消えた顔に人間らしい感情は何も浮かんでいません! 寒気のするような無表情! 眼差しに宿すのは、氷のように冷徹な殺意!」


明石「未だかつて見たことのない龍田選手の顔つき! 殺意を超えて妖気すら感じさせる、これこそが本気になった悪魔女王の姿なのか!?」


大淀「こ、こんな龍田さんは初めてです。ビスマルクさんが龍田さんを本気にさせた……!」


明石「あっ、脇腹から手を離しました! 出血にも構わず、再び中段の構えを取る! 悪魔女王、健在! なおもビスマルクに挑む気です!」


明石「ビスマルク選手、これに応えるようにファイティングポーズを取りました! 悪魔と人喰い鬼、果たしてこの勝負を制するのはどちらか!?」


大淀「凄い気迫……龍田さんはもう遊ぶ気はまったくありません。相手を殺す気になってる……!」


明石「さあ龍田選手が軽快なフットワークで間合いを詰める! その足取りにダメージの色はまったくありません!」


明石「サイドに回り込んで回し蹴り! これは捌かれた! 続けざまにレバー打ち! 肘でブロックされる!」


明石「それでも龍田選手、一歩も引かない! 序盤の打撃戦を上回るスピードでビスマルク選手を攻め立てています!」


明石「今度は顔面にジャブ! 横打ち、いやこれはフェイント! 直突きがみぞおちに入った! 初めてまともに打撃が当たりました!」


大淀「速い、この動きなら行ける!」


明石「しかし、ビスマルク選手もスピードで龍田選手について行く! 続けざまに襲い掛かる打撃を避ける、避ける、避ける!」


明石「あっ、バックハンドブロー! 龍田選手がカウンターを食らった! 裏拳がまともに顔面へ入りました! 龍田選手、ダウン!」


大淀「まずい、立って! 今、足が止まったら……!」


明石「いや、すぐに立ち上がりました、龍田選手! 体勢を立て直し、再びビスマルク選手へ向かっていく!」


明石「また顔面に直突き! パリィで防がれた! 続けて連打! 激しい拳と拳の応酬です! しかし、ビスマルクには1発もヒットしない!」


明石「むしろ龍田選手が徐々に押され……あっ、ここでハイキック! ビスマルクは辛うじてスウェーで回避! 龍田選手の打撃をものともしません!」


大淀「惜しい! 今のはちぎった耳の傷口を狙ったんです。あれが当たっていれば……!」


明石「そろそろ龍田選手の息が上がってきました! 対するビスマルク選手は未だ余裕を残した動き! ダメージや疲労は一切ありません!」


明石「それでも龍田選手は休まない! 再び打撃戦を仕掛けます! また中距離での打ち合い! やはりビスマルクのディフェンスを突破できない!」


明石「回し蹴……ああっ、先にビスマルクのミドルキックがヒット! 脇腹の傷口に蹴りが入った! 龍田選手、再び大きくバランスを崩す!」


大淀「嘘でしょ、もう動きを読まれているの!?」


明石「ビスマルクが追い打ちを掛ける! 容赦のない右フック! いや、ダッキングで躱しました! 龍田選手はまだ動けています!」


明石「打撃を逃れ、龍田選手がクリンチを仕掛る! ここで組み合うか!? あっ、ちぎった耳の傷口を狙っ……な、何だ!? 何が起こった!?」


大淀「そんなっ!? あんな反撃……!」


明石「龍田選手が再び絶叫! ビスマルクから大きく距離を取ります! い、今のは何が起こったのでしょう!」


大淀「た、龍田さんはちぎった耳の穴に指を突き入れたんです。三半規管に直接ダメージを与えるために……」


大淀「だけどビスマルクさんはあえて指を入れさせて、頃合いを見計らって頭を捻ったんです。それで、てこの原理で龍田さんの指を……」


明石「あっ……た、確かに、龍田選手の右の人差し指があらぬ方向に曲がっている! 指の骨折です! またもや重大なダメージを負ってしまった!」


明石「し、しかし……龍田選手、折れた指を仕舞い込んで無理やり拳を作りました! 悪魔女王、未だに交戦の意思あり!」


明石「ビスマルク選手はその姿を悠然と眺めている! 一体、こいつはどういう神経をしているんだ!?」


大淀「あれだけ深く耳の穴に指を突き刺されたら、鼓膜の損傷くらいはあるはずです。なのに、何でダメージがないの!?」


明石「再び龍田選手、間合いを詰めに行く! 果たして、ここから為す術はあるのか!?」


明石「今度は自分からは仕掛けません! 軽くステップを踏みながら、ビスマルクから仕掛けてくるのを誘っている!」


明石「さあビスマルク、どう出る!? ジャブを打った! 龍田選手はバックステップで躱す!」


明石「ビスマルクは更に前へ出て行く! フック、ショートアッパー! サイドステップで躱す! ビスマルク、ここは決めに行くか!?」


大淀「た、龍田さんが受け身に回ってる……何をする気なの?」


明石「ビスマルクの前蹴り! これは捌いた! 龍田選手、一転して防戦一方! ここから如何に反撃を繰り出すのか!」


明石「ここでビスマルク、ワンツーのストレート! 躱した! 龍田選手、再び懐に飛び込……うわっ! ゆ、指を唇に引っ掛けた!」


明石「龍田選手、左手をビスマルクの唇に……いや、頬裏に差し込んでいる! こ、これはどういう攻撃なんだ!?」


大淀「き、禁じ手の投げ技です! 頬裏に手を入れれば噛み付きもできない! 行ける!」


明石「そのまま龍田選手が足を刈っ……あれっ!? ビスマルクが離れた! あっさりとビスマルクがエスケープに成功……ひぃい!?」


大淀「な、何なのこの人……!」


明石「ほ……頬がぱっくりと裂けています! 裂け目から歯茎がむき出しに! 一体何が起こった!?」


大淀「……まさか、投げられる瞬間に自分で逆向きに顔を振って、あえて頬を裂いたの!?」


明石「い、イカれています! まるで口裂け女のようなおぞましい形相! そして、血を滴らせながら、なおもこの女は笑っている!」


明石「なぜこんな逃げ方ができる!? 痛みを感じていないのか!? まるで何事もなかったのように再度構え直します、ビスマルク!」


明石「さしもの悪魔女王にも驚愕の色が伺えます! 龍田選手、まだ手は残っているのか!」


明石「詰め寄るビスマルクに龍田選手、距離を取るように前蹴……か、カウンターァァァ! 顎に右フックが完全に入ったぁぁぁ!」


明石「蹴りを躱しざまにフックがクリーンヒット! 頭部が大きく揺れました! 龍田選手、ダウン! ダウンです!」


大淀「そんな、あんな簡単にもらうわけが……!!」


明石「さあビスマルクが踏み込んでいく! 止めを刺すつもりです! 足が振り上がった! 踏み付ける気だ!」


明石「龍田選手危うし! これで終わるのか……あっ! 動いた! 龍田選手が動いています!」


明石「踏みに来た足を捉えました! 龍田選手、はっきりと意識があります! ビスマルクを引き倒し、そのまま足関節に移行する!」


大淀「さっき右フックをもらったとき、自分から顎を振ってダメージを逃がしたんです。そのままダウンする振りをして、ビスマルクを誘った……!」


明石「龍田選手、ビスマルクの足首を脇で抱えました! これはヒールホールドの体勢! 技は入っている! 決まるか? 決められるか!?」


明石「決まったァァァ! 足首の折れる音が聞こえました!ビスマルク選手、利き足首を骨折! これは致命的なダメージ……!?」


明石「な、なんだ!? ビスマルクが逆に龍田選手の足を掴んだ! 何をしている!? 骨が折れているのに、痛みがないのか!?」


大淀「こ、こんな馬鹿な!」


明石「ひっ!? あ、悪魔女王が三度の絶叫! ビスマルク、龍田選手のつま先に噛み付きました! 裂けた頬から龍田選手の血が溢れ出ている!」


明石「く、食いちぎったぁぁぁ! 龍田選手、つま先を丸ごと喪失! 足指の付け根から骨がむき出しになっています!」


明石「ビスマルク、またもやこれを食う! うげっ、頬の隙間から指がこぼれ落ちた! 血を口から滴らせながら笑う、その姿はまさに人喰い鬼!」


明石「そのまま龍田選手に覆い被さった! 龍田選手、足の痛みで動きが鈍い! とうとうマウントポジションを取られました!」


大淀「も、もうスタンド勝負はできない……グラウンドで逆転するしか……!」


明石「龍田選手、絶体絶命! ビスマルクが腕を振り上げてパウンド! 辛うじてガードしますが、やはり戦艦級と軽巡級! パワーが違いすぎる!」


明石「ガード越しでも明らかにダメージが蓄積されています! このままでは……あっ、龍田選手がガードを解いた! ビスマルクの頭を抱えました!」


明石「このまま密着させて打撃を凌ぐつもり……じゃ、じゃない! サミングです! 頭を抱えたのは防御のためではありません!」


明石「龍田選手、ビスマルクの右目に親指を突き入れた! 人喰い鬼の右目が潰れました! これはさすがに効いたはず!」


大淀「……ありえない。あの人、痛覚がないの!?」


明石「なっ!? ビスマルク、平然と拳を振り下ろした! 目に指が入っているにも関わらず、お構いなしの下段突き!」


明石「顔面に痛烈な一撃が入りました! 目に入れていた指も抜けてしまった! ここで追撃……いや、ビスマルクが顔を覆い被せた!?」


明石「な、何なんだこいつ!? 龍田選手、4度目の絶叫! ビスマルクが肩、いや鎖骨に噛み付いています! こいつはどこまでイカれてるんだ!?」


明石「肉ごと鎖骨を食いちぎった! こ、これで右が完全な死に腕と化しました! 龍田選手、もう右腕は動きません!」


明石「ああっ!? なおもビスマルクが顔を覆い被せる! 今度は耳だ! 龍田の耳を食いちぎった! 悪魔女王が5度目の悲鳴を上げる!」


明石「肉と骨を咀嚼する生々しい音が聞こえます! 自分と龍田選手の血で赤く染まったビスマルクのこの表情! 楽しそうに笑っている!」


大淀「も、もう無理です! レフェリーストップを!」


明石「あっ!? た、龍田選手がブリッジした! 一瞬の隙を突き、マウントポジションからエスケープを図る! まだ諦めていません!」


明石「バックマウントから立ち上がろうとしています! 左の肘鉄でビスマルクの顔面を強打! このまま逃げられるか!?」


明石「いや、ビスマルクの腕に顔を挟まれた! これは……フェイスロックです! ビスマルク、このまま龍田選手の首を捻るつもりだ!」


明石「腕の締め付けが強すぎる! 龍田選手、これは逃れられない! しかしタップはしない! 悪魔女王の意地がタップを許さない!」


大淀「目です、もう一度目を狙って!」


明石「あっ! 龍田選手の左手が何かを探っている! ビスマルクの顔をまさぐっています!」


明石「うわっ……ふ、再びサミング! 潰れていない左目に、親指が深々と突き刺さったァァァ! ビスマルク、これで両目を完全に失明!」


明石「いや、それだけではない! お、親指で目の中をかき回している! 背筋の凍るような光景です! これは想像を絶する痛みのはず!」


明石「な、なのに……ビスマルクは動じない! 眼窩に指を入れられても、まるで意に介していない! 本当に痛覚そのものがないのか!?」


明石「ビスマルクが更に首を捻り、頸骨が軋みを上げる! 龍田が更に深く目に親指を入れ、眼窩をかき回す!」


明石「こ、これはもう戦いではありません! 殺し合いですらない! 悪魔と鬼、怪物同士の喰い合いだぁぁぁ!」


大淀「な、なんで……なんでビスマルクさんは笑っていられるの!?」


明石「す……既に親指は根元近くまで目の中に入っています! もう痛いどころではないはず! なのに、ビスマルクはうめき声1つ……!?」


明石「な、何だ!? ビスマルクが笑い出した! 声高らかに、不気味な哄笑が会場に響き渡っている!」


明石「これはこの世の光景なのか!? 一体、何がそんなにおかしいのか! もはや見ているこちらのほうが頭がおかしくなりそうです!」


大淀「だ、だめ……! もうやめて!」


明石「あっ! た、龍田選手の首が限界に近い! もう90度近く回っている! これ以上は本当に首の骨が折れてしまう!」


明石「それでも龍田選手はタップしない! なおも親指をビスマルクの目に突き刺し、眼球をかき回している! もはや執念を超えた狂気の領域!」


明石「しかし、ビスマルクは笑っている! 龍田選手の抵抗をあざ笑うかのように、さも嬉しそうな高笑いを上げている!」


大淀「く、狂ってる……!」


明石「ああっ……! お、折れた! 龍田選手の首が! まるで赤ん坊のようにくったりと頭が垂れています!」


明石「左腕も力なく垂れ下がりました! もうぴくりとも動きません! ま、まさかあの龍田選手がこのような敗北を喫するとは!」


明石「とうとう終わってしまった! 悪魔女王、陥落! 真の実力を見せつけるも、ビスマルクの狂気にねじ伏せられました!」


明石「ゆっくりとビスマルクが立ち上がります! 潰された両目から血の涙を流し、頬まで裂けたビスマルクの形相は、鬼以上の化物に見えます!」


明石「一体、こいつは本当に私たちと同じ艦娘なのか……なっ!? 何をしている!? ビスマルクが龍田選手に再び覆い被さった!」


明石「く、食っている!? 意識のない龍田選手に噛み付いています! ち、乳房を食いちぎろうとしている!」


明石「あああっ、食いちぎった! もはや完全に肉食獣の捕食です! もう龍田選手に意識はないのに!」


大淀「何しているの! 止めなさい、早く!」


明石「あっ、ようやくレフェリーストップが掛かりました! レフェリーの妖精さんも、驚愕のあまり呆然としてしまっていたみたいです!」


明石「たった今、ゴングが鳴りました! 試合終了です! ビスマルクもさすがに攻撃をやめ、レフェリーの指示に従っています!」


明石「しょ、勝敗の結果をお伝えします……勝者はビスマルク、ドイツのビスマルク選手です」


明石「試合終了後の追撃はルール上では反則負けですが、あの時点でレフェリーストップは掛かっていませんでした」


明石「ですので、先ほどの行為は反則には当たりません。勝敗に変更はなく、ビスマルク選手の勝利となります」


明石「両目が潰れ、頬の裂けたままビスマルク選手は再び微笑を浮かべています。その姿に、会場は水を打ったように静まり返っております……」


明石「壮絶な試合でしたが……大淀さん。何かその、ご感想などを……」


大淀「……正直なところ、大きなショックを受けています。龍田さんがこんな形で敗れるなんて思ってもみませんでした」


大淀「龍田さんは本物の実力者です。ビスマルクさんの状態を見てもらえばわかる通り、階級がはるか上の相手にあれほどの手傷を負わせています」


大淀「なのに、終わってみれば完敗に等しい有様です。試合内容では切迫した場面もあったのに、こんな結果になるなんて……」


明石「ビスマルク選手は……一体何なんでしょう? あれだけの傷を負って、痛みを感じている様子が一度もありませんでしたが……」


大淀「わかりませんが、トレーニングなどでは得られない何かを持っているのは確かです。明らかに常軌を逸していました」


大淀「しかも、動きを見る限り、基本的な格闘技術も極めて高いものを持っています。打撃に関してはトップクラスと見ていいでしょう」


明石「それに加えて痛みを意に介さず、噛み付き……というより食いちぎる攻撃まであるわけですか。本当に恐ろしい選手です」


大淀「……個人的な感想ですが、レフェリーストップが掛かった瞬間の様子が一番ゾッとしました」


明石「えっ? そのときはキチンとレフェリーからの制止に従っていましたが……」


大淀「だからですよ。例えば龍田さんはレフェリーストップを無視して攻撃するときがありますが、それは興奮していて制止が聞こえないからです」


大淀「ビスマルクさんは制止を受けて、ピタリと追撃をやめました。あの異常な攻撃の全てを、興奮状態ではなく冷静なまま行っていたんです」


大淀「私にはそれが一番恐ろしく感じました。理性を保ったままあんな戦い方ができるなんて、考えられません」


大淀「しかも、龍田さんがあれほど底を見せたにも関わらず、ビスマルクさんの底は見えませんでした……恐ろしい選手、その一言に尽きます」


明石「……ありがとうございます。しかし、とんでもない試合でした……」




試合後インタビュー:ビスマルク


―――人前で戦うのは初めてだったそうですが、対戦を終えてどのような感想をお持ちですか?


ビスマルク「すっごく楽しかったわ! 最初は慣れない感じがしたけど、ああいう場で戦うのも新鮮でいいわね!」


ビスマルク「すぐにでも次の試合がしたいくらい! もう楽しみで仕方がないわ!」


―――試合で見せた噛み付き攻撃について教えて下さい。


ビスマルク「噛み付き? 変な言い方するのね。日本語じゃパンを食べることをパンに噛み付くって表現するの?」


ビスマルク「あれは普通に食べてるだけよ。実戦だったら終わった後にゆっくり食べるんだけど、今日は試合だったから難しかったわ」


ビスマルク「なるべく戦ってる間に食べなくちゃいけないから、食べたいところがなかなか食べられなかったの」


ビスマルク「ああ、もっとおっぱいを食べたかったなあ。ほっぺを食べ損ねたことも残念ね」


―――なぜ対戦相手を食べるんです?


ビスマルク「なぜって、美味しいからよ。私、戦う相手以外に美味しい食べ物を知らないの。他は何を食べても美味しくないのよね」


ビスマルク「よく変わってるって言われるけど、好き嫌いは誰だってあるでしょ? 私はそれがみんなより少し激しいだけよ」


―――試合中、ダメージを感じていないご様子でしたが、痛みはなかったんですか?


ビスマルク「えっ? そりゃもう、すっごく痛かったわよ! 最初に耳をちぎられたときなんて、ビックリしちゃったわ!」


ビスマルク「あそこからどんどんテンションが上ったわね! 凄いわよあの子! 頬を裂いたり、足首を折ったり、色んな事を私にしてくれたの!」


ビスマルク「最後に目の中をかき回されてたときなんて、もう痛くて気持よくて、何度もイっちゃった! ショーツがビショビショよ!」


ビスマルク「強いし可愛いし、最高の選手だったわ! できることならドイツに持って帰りたいわね!」


―――イっちゃった、とはどういうことですか?


ビスマルク「あら、あなた処女? オナニーとか自分でしたことないの? ほら、いわゆる絶頂よ。オーガニズムとも言うけど」


ビスマルク「私は自分でするとき、クリを指で潰したり、子宮に針を刺したりするんだけど、やっぱり自分でするのと人にしてもらうのじゃ大違いね!」


ビスマルク「あなた、そういう経験ってまだないの? 何なら私がやってあげましょうか! 大丈夫よ、初めてなら優しくしてあげるから!」


ビスマルク「ちょっと、どこ行くの? 逃げないでよ、ねえ! 待ちなさい! 私の話はまだ終わっていないわ!」


(呂-500さんの逃亡により、インタビュー中止)




試合後インタビュー:龍田


―――今のご気分はいかがですか?


龍田「……それを言わせるの? 最悪に決まってるでしょう。イライラして、誰でもいいから殺してやりたいわ」


―――ビスマルク選手と戦った感想をお聞かせください。


龍田「……途中から、自分はどうなってもいいから、こいつだけは殺してやろうと思って戦ってたわ」


龍田「それでも、何も通用しなかった……強いとか、頭がおかしいとか、そういうレベルじゃないわ。あいつ、一体何なの?」


―――リベンジしたい、という気持ちはおありでしょか。


龍田「……今は何も考えたくないわ。特に、あいつのことは何もかも忘れてしまいたい気分よ」


龍田「もう放っておいてくれない? 今は気分が悪いから、何ならあなたでストレス発散してもいいのよ」


(龍田選手の取材拒否につき、インタビュー中止)






明石「大淀さん。良いニュースと悪いニュースがあるんですが、どちらから聞きます?」


大淀「えっ、何ですかそれ。じゃあ……悪いニュースから」


明石「このグランプリ、国営テレビに生放送されてるのは知ってますよね。今、そのチャンネルではボートの映像が流れています」


大淀「ああ……やっぱり放送コードに引っかかりましたか。どの当たりからですか?」


明石「ビスマルク選手が龍田選手のつま先を食いちぎったところからですね。今もずっと運営に各方面からクレームの電話が殺到しています」


大淀「運営としては逆にクレームを入れたい気分でしょうね。ビスマルクさんを派遣したドイツ軍部に」


明石「全くその通りです。で、良いニュースなんですけど、放送が止まっているわけですから、今は何を話しても大丈夫です」


明石「血まみれになったリングの清掃もありますので、ちょっとした息抜きタイムですよ」


大淀「そうなんですか? じゃあ、今は気を抜いて喋ってもいいわけですね」


明石「そういうことです。いやー私は最初から嫌だったんですよ。ナチ公の選手をUKFに出すなんて」


大淀「軍部で揉めたのって、明らかに精神面の問題ですよね。あの人、どう見ても精神に異常をきたしてるじゃないですか」


明石「今すぐ本国に送り返せないもんですかね。何か適当な理由をつけて」


大淀「私としては反対です。だって、やられっぱなしで帰国させるなんて嫌じゃないですか。他の選手に敵討ちをしてもらってからでもいいでしょう」


明石「それもそうなんですが……陸奥選手は勝てますか?」


大淀「気持ちの面で負けなければ可能性はあります。彼女の実力を信じましょう」


明石「そうですね……何だか疲れました。大淀さん、何か放送禁止用語でも言ってくださいよ」


大淀「えっ、嫌ですよ。誰が聞いてるかわからないんですし、VTR用に録音はしてあるんでしょう?」


明石「いいじゃないですか。編集でカットできますし、こんな場で放送禁止用語を言える機会なんて滅多にありませんよ」


大淀「そうですか。じゃあ……フェラチオ」


明石「ちょっ、何を口走ってるんですか! やめてくださいよ!」


大淀「えっ、だって明石さんが言い出したんじゃないですか。放送禁止用語を言えって」


明石「だからって、いきなりド直球過ぎるじゃないですか! もっと試合のときみたいにジャブから入ってくださいよ!」


大淀「何ちょっと上手いこと言おうとしてるんですか。だいたい、放送禁止用語のジャブってなんです?」


明石「それはその……おちんちん、とか」


大淀「男性器の名前を口にしてる時点でジャブでもないと思うんですけど。だったらペニスって言ったほうがもう少しライトなんじゃないですか?」


明石「えーそうですか? むしろそっちのほうが生々しい気が……」


青葉「あのーすみません。ちょっといいですか?」


明石「ああ、青葉さん。もう放送再開します?」


青葉「再開はするんですけど、さっきからお2人の会話、ラジオ放送で垂れ流しですよ」


大淀「えっ?」


明石「えっ……えぇえええっ! 嘘でしょ!?」


大淀「きゃっ、何を言わせるんですか明石さん! はしたないですよ、もう! ああっ、恥ずかしい……!」


明石「なに自分だけ取り戻そうとしてるの!? もう手遅れですから!」


大淀「それもそうですね。明石さん、放送終了後に1発だけ殴らせてください」


明石「私のせいじゃないですよ! そりゃラジオ放送のことを忘れてたのは私ですけど! 言ったのは大淀さん自身ですから!」


大淀「あっ、やっぱり2発殴らせてください。大丈夫です、ボディで済ませてあげますから」


明石「え、ええー……勘弁して下さいよ……」


青葉「はーい、それじゃあテレビ放送再開しますよー。5,4,3……」


明石「え、えーっと……はい、中継が戻りました! 申し訳ございません、試合内容があまりに過激だったため、放送が中断されてしまったようです!」


明石「壮絶な死闘を制したのはビスマルク選手! 龍田選手も凄まじい奮戦ぶりでしたが、あと一歩及びませんでした!」


明石「試合内容は後ほど編集したものが放送されるかと思いますので、そちらでご確認ください!」


大淀「いやあ、凄い試合でした。まだ余韻が抜け切りませんね……」


明石「死闘の衝撃も冷めやらぬままですが、続けてBブロック第3試合を行います! 第1試合に続き、こちらもまた戦艦級VS駆逐艦級!」


明石「まずは駆逐艦級の選手から登場していただきましょう! 赤コーナーより選手入場です!」




試合前インタビュー:島風


―――前大会に引き続き、グランプリ出場を決意された理由をお聞かせいただけますでしょうか。


島風「前回はみんなの前で大恥を掻かされたわ! そのリベンジに決まってるじゃない!」


島風「わかってるわよ、みんな私がまた負けると思ってるんでしょ? 今度こそやるわよ! 絶対に優勝してやるんだから!」


―――島風選手には非常に多くのファンがいらっしゃいますが、そういったファンからの期待はどのように受け止められていますか?


島風「普通に応援してくれてる人はいいけど、なんか今回はアレよね。どうせ別のことを私に期待してるファンが多いんでしょ?」


島風「言っておくけど、そんな期待に応えるつもりは全然ないわ! 私、負けないから! 負けない方法も色々考えてきたし!」


島風「何だったら応援なんてなくても勝ってやるわよ! 私は私のために戦ってるんだから!」


―――やはり駆逐艦級ですと階級差の不利が大きいと思いますが、どのような対策をされてきていますか?


島風「もちろんスピードで勝負よ! 疾きこと島風の如しなんだから、私のスピードで引っ掻き回してやるわ!」


島風「あーはいはい! 言わなくていいわよ! 前回も同じこと言って惨敗したって思ってるんでしょ!」


島風「今日の私は今までとは違うわよ! 本当のスプリントファイターの実力を見せてやるんだから!」




島風:入場テーマ「Michael Angelo/Double Guitar」


https://www.youtube.com/watch?v=rutyA12z3Ok




明石「強さとは力? 強さとは技? 否、強さとは速さなり! 最強の艦娘とは、すなわち最速の艦娘である!」


明石「ならば最速の艦娘とは誰か!? それはもちろん、疾きこと島風の如し! この私の素早さについてこれるのか!?」


明石「最速の強さを今こそ証明するとき! 超高速のスプリントファイター! ”神速の花嫁” 島風ェェェ!」


大淀「相変わらず可愛いですよね。さっきの試合内容を忘れさせてくれる可愛さです」


明石「ええ、可愛いです……よく再出場を決意されましたよね、島風選手は」


大淀「そうですね。前回の島風さんは1回戦で霧島さんと当たり、マウントを取られて衣服を下着ごと剥がされるという屈辱的な惨敗を喫しました」


明石「島風選手は出場者の中で唯一の駆逐艦級ということで注目を集めていましたので、あれは衝撃的な事件でしたね」


大淀「立ち回り次第で駆逐艦級でも戦艦級に勝てるのではないか、という期待が打ち砕かれた瞬間でした。やはり階級の有利というものは絶対です」


大淀「そもそも、島風さんは駆逐艦級としてトップファイターかと言えばそうではありません。駆逐艦級には吹雪、夕立という二大王者がいますから」


明石「実際、島風選手はそのどちらの選手にも王者の座を賭けたタイトルマッチに挑んでいますが、両方とも敗北を喫していましたね」


大淀「ええ、実力としてはその2人には及ぶべくもないと言わざるを得ません。それでも彼女はこの無差別級グランプリへの出場枠を与えられています」


大淀「それはファンからのアイドル的な人気という面もありますが、何より、本人による『私は無差別級でこそ実力を発揮できる』という主張です」


明石「同じ駆逐艦級との戦いより、スピードで上回れる戦艦級相手のほうが戦いやすい、という理屈ですね」


大淀「そうなんですが、現実はそこまで甘くありません。いくら素早いと言っても、漫画のように残像が見えるほどの速さで動くことはできませんから」


大淀「やはり階級が高いほうが打撃力もありますし、捕まえられてしまえば速さも意味を成さなくなります。それは霧島さんが既に実践しています」


大淀「こういった情報を並べてみると、島風さんに勝機はほとんどないんですが、本人は自信満々なんですよね」


明石「前回も島風選手はそんな感じでしたよ。相手が霧島選手と知っても揺らぐ気配はまったくありませんでした。試合結果はご存知の通りですが」


大淀「あんな負け方をすれば、いくら島風さんでも相当なショックだったはずです。また無策に試合へ臨むとは思えません」


大淀「ですから、自信満々なのは前回にはない策を講じてきている……と考えたほうが自然でしょう」


明石「島風選手のファイトスタイルは、一応テコンドーということになっていますよね?」


大淀「ええ。ただ、格闘技を身に着けるために一通りやったという程度らしく、最近は総合格闘ジム通いや走り込みを主にされているようです」


大淀「実態は格闘技を多少かじった一流の陸上選手という感じですね。体のバネや脚力は素晴らしいものをお持ちですが、もちろんパワーはありません」


大淀「打撃は足技こそ強力ですが拳打はなく、寝技や組み技のテクニックもありません。残る武器はやはり相手をかき乱すスピードだけです」


大淀「それらの武器でどこまで戦えるのか……前回のような結果にならないよう、頑張って欲しいですね」


明石「ありがとうございます。対する島風選手の相手は、またもや戦艦級! 青コーナーより選手の入場です!」




試合前インタビュー:金剛


―――現在はシュートボクシング界で主に活躍されているとのことですが、再びUKFグランプリに出場を決意されたのはどういった理由ですか?


金剛「確かにシュートボクシングは私にとって一番戦いやすい舞台ネ。でも、やっぱり格闘界最強といえばUKFデース!」


金剛「K-1もシュートも好きだけど、やっぱりUKFのチャンピオンベルトが私にとって最大の目標ネ! 今日はそいつを貰いに来たデース!」


金剛「今度こそ赤城も長門もぶっ倒して、艦娘最強の座をいただいてやるデース!」


―――もし優勝されたら、優勝賞金はどのように使いますか?


金剛「もちろん決まってるね! まずは私と提督が一緒に住む新居を買うネ! いわゆる愛の巣デース!」


金剛「新婚旅行はその後ネ! イギリスには何度かデートで行ってるから、世界一周旅行に行ってみたいと思ってマース!」


金剛「私は他のファイターにはないものを持ってるネ! それは愛する提督デース! 他の選手は恋の味すら知らない奴ばかりネ!」


金剛「恋の力を得た私がどこまで強いか! このグランプリで魅せつけてやるネ! 期待してるデース!」


―――今日は金剛選手のファンである方々がたくさん見に来られていますが、何か一言お願いします!


金剛「あなたのハートにBurning Love! 私の試合、期待して観ててほしいデース!」




金剛:入場テーマ「Deep Purple/Burn」


https://www.youtube.com/watch?v=LCnebZnysmI



明石「K-1無差別級初代王者! シュートボクシング暫定王者! 数々の戦場を渡り歩いた彼女が、再びUKFの舞台に戻ってきた!」


明石「イギリス仕込みのボクシングに、K-1で磨かれた多彩なキック! 今はレスリングの技術も学んでいると聞きます!」


明石「常に成長し続けるその上昇志向は天井知らず! 彼女の目的はK-1、シュート、そしてUKF、全てのチャンピオンベルトを勝ち取ることだ!」


明石「この無差別級グランプリで、今日の彼女はどんな成長ぶりを見せてくれるのか! ”恋のバーニングハリケーン” 金剛ゥゥゥ!」


大淀「K-1初代王者の金剛さんですね。赤城さんはK-1との契約が切れた際にベルトを返還しているので、今は金剛さんが暫定王者でもあります」


大淀「その実績からわかるように、やはり金剛さんと言えば赤城さんに次ぐ立ち技の強さですね。技の多彩さでは赤城さん以上かもしれません」


明石「元々はボクシングから格闘技のキャリアを始められたそうですが、今の得意技はキックなんですよね」


大淀「ええ。まずはパンチを繰り出して、相手の意識を拳に集中させたところで強力なキックを決める、というのが彼女のファイトスタイルです」


大淀「特に強力なのはバックスピンキックですね。『馬蹴り』とも称されますが、食らうとボディでも痛みで動けなくなるほどの威力を持っています」


大淀「こういう大技を試合で出すのは難しいんですが、金剛さんの併せ持つスピードとテクニックがその戦法を可能にしているんですね」


明石「やはり強みはスタンドの強さにあるということでしょうか。赤城選手とのK-1における戦績は負け越しではありますが……」


大淀「そうですね。初戦は金剛さんの王座防衛戦で、これは両者ともに5ラウンド戦い抜き、判定なしのルールだったので決着が付きませんでした」


大淀「2度目の防衛戦では、赤城さんは徹底的に金剛さんのファイトスタイルを研究してきたようでしたね。終始金剛さんが押される展開でした」


大淀「結局、ハイキックをもらった金剛さんがKO負け、逆に金剛さんが王座奪還をかけたタイトルマッチでも、同じハイキックでKOされてしまいました」


明石「赤城さんは1度勝った相手には2度と負けませんよね。ファイトスタイルを覚えてしまうそうなので」


大淀「ええ。だから金剛さんは戦績としては負け越しですが、あの赤城さんと唯一引き分けた選手だと考えれば、その実力の高さが伺えます」


大淀「当然、金剛さんはリベンジを希望しています。あれから自身のファイトスタイルを更に磨いたそうで、使える技も劇的に増やしています」


大淀「赤城さんが主戦場をUKFに移してからは投げや関節技にも力を入れ、徐々に隙のないファイターへと成長しつつあります」


大淀「金剛さんはいわばトータルファイターの卵とも言うべき存在で、グラウンド技術に関しては練習中の身ですが、スタンドには既に隙はありません」


大淀「学んでいるレスリングに関しても、寝てからの攻防より、倒されずに倒すスタンドレスリングの技術を重点的に磨いているそうです」


大淀「このグランプリではその成長ぶりを存分に見せつけてくれるでしょう。皆さんも期待していいと思います」


明石「それでは大淀さん。そんな金剛選手と島風選手、どのような試合展開になると予想されますか?」


大淀「そうですね……はっきり言ってしまうと、島風さんが圧倒的に不利です。彼女にとっては最悪の相手でしょうね」


明石「それは……もちろん階級差という点もあるのでしょうが、他にも不利な要因があるんでしょうか?」


大淀「はい。島風さんの武器は何といってもスピードですが、対する金剛さんも同じくスピードに秀でた選手なんです」


大淀「戦艦級としての足回りは最速といっても過言ではないでしょう。パワーは損なわず、フットワークの軽さは軽巡級にも劣りません」


大淀「スピードだけで比べれば島風さんのほうが上でしょうが、それが金剛さんを引っ掻き回せるほどだとは思えません」


明石「となると、スピードで戦艦級を圧倒するという島風選手の戦法がそもそも破綻してしまうと……」


大淀「そういうことになります。極端な話、島風さんにとってはいっそのこと長門さんのほうが戦いやすいのかもしれませんね」


大淀「ただ、だからといって島風さんがあっさり負けるようなことはないと思います。今大会にかける彼女の意気込みは相当なものですから」


大淀「厳しい戦いになるでしょうが、彼女の健闘を期待します。もう以前のような敗北は経験したくないでしょうしね」


明石「ありがとうございます。さあ、両者リングインしました! やはり体格差は目に見えて明らか! 島風選手、傲然と金剛選手を見上げている!」


明石「金剛選手は余裕の表情です! まるでお前など、私の通過点に過ぎないのだとでも言いたげに見下ろしています!」


明石「さあ、駆逐艦級最速VS戦艦級最速! この戦い、どのような決着を迎えるのか!」


明石「ゴングが鳴りました! 試合開始です! 両者、颯爽とコーナーから飛び出していく!」


明石「どちらもすぐには仕掛けません! やや広めに間合いを取って、フットワークで互いのサイドに回り込もうとしています!」


大淀「この試合、間合いが重要なポイントになると思います。特に島風選手にとっては」


明石「間合いですか。それはどういうことでしょう?」


大淀「島風さんの攻撃方法は主に蹴りですが、彼女の蹴りが届く間合いは、金剛さんの蹴りと拳、両方の射程距離範囲内になってしまいます」


大淀「駆逐艦級と戦艦級ですからね。それだけリーチ差があります。島風さんが攻撃を当てるには、かなり間合いに踏み込まないといけません」


大淀「その瞬間に金剛さんも攻撃に転じるでしょう。島風さんの蹴りは届かず、自分の蹴りは届く間合いに入られたときにね」


明石「なるほど。島風選手はそのギリギリを見極めなければならないと」


大淀「金剛さんの打撃力なら、一撃で島風さんを沈められるでしょう。島風さんはその一発を貰わないよう、慎重にならざるをえないでしょうね」


明石「確かに島風選手、金剛選手の周囲を回りながら、なかなか攻めて行きません!」


明石「金剛選手もサイドを取られないよう動くばかりで、自分から踏み込もうとはしないようです。やはり、島風選手を待ち構えているのか!」


明石「おっ? 島風選手がやや間合いを詰めました! 金剛選手の出方を伺うように、射程ギリギリの間合いに出入りを繰り返している!」


明石「それに金剛は応えない! あくまで島風選手から仕掛けるのを待つようです! お互い、慎重に探り合っている!」


大淀「どちらも寝技はない選手ですからね。打撃戦になるとは思いますが、それがどのような形でかは……」


明石「あっ、とうとう島風が踏み込んだ! サイドステップから一気に金剛へと突っ込んでいく! 速い! 自分の間合いへと一息で詰め寄りました!」


明石「島風の痛烈なローキック! 金剛はショートアッパーで反撃! 島風、軽快なバックステップでこれを躱します!」


大淀「さすが、最速を自負するだけのスピードですね。でもそれだけじゃ勝てない……」


明石「一旦距離を取った島風、また突っ込んでいった! またもやローで金剛の膝を叩く! まずは相手のスピードを殺そうという作戦か!?」


明石「金剛もやられてばかりではない! バックステップで逃げる島風に追いすがる! ジャブ! 右フック! ボクシングの打撃を繰り出していく!」


明石「これを島風、フットワークで巧みに避ける! さすがのスピードだ! しかし金剛もそれについて行っている!」


明石「ジャブ、ストレート! これも避けた! ハイキック! これは危なかった! どうにかダッキングで躱します!」


明石「打撃のラッシュが更に続く! どうやら金剛選手、このまま攻め続けてコーナーに追い詰めるつもりだ!」


大淀「コーナーに追い詰められるのは島風さんとしては一番避けたい展開ですね。フットワークを生かしての回避ができなくなりますから」


明石「今は逃げ続けている島風選手ですが、これはもしかして、金剛選手のスタミナ切れを狙っているんでしょうか?」


大淀「うーん、だとしたらその作戦はおすすめできませんね。金剛さんはスタミナも戦艦級トップクラスですから」


明石「確かに金剛選手、休みなく打撃のラッシュを放っていますが、未だ息切れすらしていません! 島風選手、いつまで逃げ続けられるのか!」


明石「金剛選手のミドルキック! これは躱し切れない、肘でブロック! 島風選手の足がわずかに止まった!」


明石「そこに金剛が回り込む! とうとうコーナーに追い詰められました、島風選手! さあ、ここから金剛選手の攻撃をどう凌ぐ!?」


明石「ジリジリと金剛選手が間合いを詰める! 千載一遇のこの好機、逃してなるものかという気迫が伝わってきます! 金剛、ここで決められるか!」


明石「対する島風、フェンスを背にして逃げ場がない! 下手に動けば金剛のキックの餌食! この窮地、自慢のスピードでどう脱出する!?」


明石「さあ金剛が仕掛けた! まずはジャブ! 島風はダッキングで……あっ!? 島風選手がタックルを仕掛けた!」


大淀「えっ、タックル?」


明石「まさかの島風選手、胴タックル! グラウンド勝負を狙うのか!? だが、そう簡単にテイクダウンを許す金剛ではありません!」


明石「金剛選手、腰を引いてタックルを切った! これでは倒せそうにありません! むしろ、組み合いになれば階級差の……なっ!?」


明石「こ、これは……痛烈な一撃が決まったぁぁぁ! 金剛選手、悶絶! あまりの痛みに、体をくの字に折り曲げている!」


大淀「なるほど、タックルはこの攻撃のための……」


明石「決まったのは膝蹴り! 金剛選手の下腹部を狙った膝蹴りです! 筋肉の薄い下腹部に、走り込みで鍛えた島風の脚力がまともに叩き込まれた!」


明石「島風選手、えげつない一撃を決めました! あっ、更にもう一撃! 今度は顔面に膝を打ち上げた!」


明石「痛みで体をくの字に折っていたことが災いしました! 下がった頭を抱えられての膝蹴り! 金剛選手の顔から鮮血が吹き出す!」


明石「ここで島風選手、更に決めに行く! フロントチョークを掛けた! 金剛選手、意識が鮮明でないのかディフェンスできない!」


明石「金剛選手がとうとう膝を着いた! 四点ポジションの体勢になってしまいました! そのまま島風がフロントチョークで首を絞める!」


大淀「島風さん、ちゃんと極め技も練習されてたんですね。ただ、やっぱり技のレベルがまだ……」


明石「あっ、ここで金剛選手の動きが戻りました! 首を抜こうとしています! 島風選手、ここは逃すまいと更に締め上げる!」


明石「だが、まだフロントチョークに慣れていないのか!? 徐々に首が抜けています! 金剛選手、脱出まであと僅か!」


明石「首が抜けました! しかし島風、抜ける間際の金剛に膝蹴りをもう一発! 再び顔面にもらってしまいました、金剛選手!」


明石「しかし、なんとか立ち上がりました! 回復のため一度距離を取ります! 膝蹴りで皮膚を切ったのか、顔面にはかなりの出血!」


明石「島風選手、予想を覆す大健闘です! 金剛選手にこれだけのダメージを負わせるとは! しかも、本人はノーダメージです!」


大淀「私も驚いています。自分の持っているものでどうすれば戦艦級を仕留められるのか、入念に研究されてきたのだと思います」


大淀「あの下腹部への膝蹴りなんて、その最たるものですね。あそこに貰えば、階級なんて関係なしに凄まじく痛いですから」


明石「顔面への膝も凄まじかったですね。その後のチョークがもっと深く入っていれば決まっていたかもしれませんが、それでも以前、島風選手優勢!」


明石「金剛選手は苦境に立たされました! さあ、ここから駆逐艦級が戦艦級を倒すという、大番狂わせがとうとう起きるのか!」


大淀「その可能性はないわけではありませんが、これでだいぶ薄くなりました。島風さんは勝機を逃しましたね」


明石「えっ? あの、金剛選手はかなりダメージを負っていると思うんですが……」


大淀「下腹部への膝蹴りは非常に効果的な打撃ですが、あそこは打たれるとものすごく痛いというだけで、時間が経てば痛みも収まります」


大淀「頭部への膝もそのときは効いたでしょうが、脳のダメージも時間で回復します。今の金剛さんにそれほどダメージは残っていません」


大淀「金剛さんが立ち上がって距離を取ったとき、島風さんは間を置かず攻めるべきでした。勝負は振り出しに戻ってしまったかもしれませんね」


明石「な、なるほど……言われた通り、島風選手は逃げる金剛選手を追いませんでした! 有効打を浴びせて油断してしまっていたのか!?」


明石「対する金剛選手、やや揺らいでいた意識もはっきりしてきたようです! 出血はありますが、大きな疲労は見られません!」


明石「ダメージ差はありますが、状況は試合開始時にほぼ戻ってしまいました! 島風選手、ここからどう攻めていくのか!」


大淀「金剛さんも一流のファイターです。同じ手は通用しませんから、この時点で不利なのは島風さんになるでしょうね」


明石「さあ、再び金剛が動き出す! 表情には若干険しいものがありますが、熱くなっている様子はありません!」


明石「さっきのお返しをしてやろう! そう言わんばかりに金剛が間合いを詰める! もはや様子見はありません、まっすぐ島風に迫っていく!」


明石「あっ!? し、島風選手、それに応えるように前へ出て行く! 何かを決意したようなその表情、フットワークを使う様子もありません!」


明石「まさか、金剛選手に真っ向勝負を挑むのか!? それはあまりに無謀! それとも何か策はあるのか!?」


大淀「……島風さんに正面から打ち合えるほどの打撃はないはず。何をするつもりなんでしょう……」


明石「さあ間合いが狭まっていく! 金剛の足が跳ね上がった! 風を切るような鋭いミドルキックが島風を襲う!」


明石「おおっ!? な、なんだ!? 当たっていない! 逆に島風選手、金剛の足にローキックを叩き込んだ! 今、ミドルキックをどう避けた!?」


大淀「い、今の動きって……!」


明石「島風選手、深追いはしません! 蹴ってすぐ離れました! 金剛はそれを許さない! 再びミドルキックが放たれる!」


明石「ま、また避けた! 同じようにローキックを入れて離れます、島風選手! 金剛のキックがかすりもしない!」


明石「金剛選手にも戸惑いの色が見えます! 大淀さん、あの島風選手の回避はどういう動きなんでしょう!?」


大淀「信じられません……島風さんは、蹴りが形になる前に初動を見切って、前方に走り抜けているんです」


大淀「そのまま金剛さんの脇をすり抜けつつ、ローキックを入れています。よほどの反応速度とスピードがないとできない芸当です」


明石「あっ、また金剛選手が蹴りを放った! 今度はハイキックだ! 島風選手、これもすり抜けるように躱した!」


明石「またローキックを叩き込む! 金剛選手にとって嫌な展開になってきました! 一発入れれば終わるのに、それがかすりもしない!」


明石「ローキックもじわじわと効いてくる頃です! 足のダメージを蓄積させれば、金剛選手には大きな危機が訪れます!」


明石「おっと、金剛選手が一歩踏み込みました! これは蹴り技を捨てて殴りに行こうというのか! 島風、これにはどう対応する!」


大淀「パンチはキックより遥かに少ない動きで打つことができます。初動を読んで脇をすり抜ける、あの避け方はもうできないでしょう」


明石「さあ、島風選手に後退する様子はない! あくまで金剛選手を真っ向から倒すつもりだ!」


明石「まずは金剛、ジャブ……か、躱した! 島風、ウェービングと共に踏み込む! またもやローキックを入れた!」


明石「しかし金剛も引かない! 立て続けにショートフック! こ、これも躱す! 島風がダッキン……いや、地面に伏せてフックを回避!」


明石「そのままマットに手を付いてカポエイラのようなキック! これは子安キックだ! またもや膝にクリーンヒット! 金剛がぐらついた!」


大淀「すごい、なんて反応速度……!」


明石「金剛選手、表情に焦りが見え始めました! 更にパンチで打って出る! ジャブ、ワンツーのストレート! 手数で押し切るつもりか!?」


明石「戦艦級最速のパンチが吹き荒れる! しかし島風はそれを避ける、避ける! しかもことごとくカウンターでローキックをお見舞いだ!」


明石「まさか、こんな光景を目にするとは! 島風選手、宣言通りスピードで戦艦級を圧倒している! しかも、あの金剛選手を!」


明石「またローキックを打って離れる! あっ、金剛のバックスピンキック! これはスウェーバックで躱した! あの必殺の蹴りも空振り!」


明石「更に追撃のフック! いや、フックはフェイント! 殴りに行く勢いのまま、金剛がタックルに行く! テイクダウン狙いだ!」


明石「これが決まれば再び状況が変わる! どうなる!? き……決まったぁぁぁ! き、決めたのは島風、島風選手です!」


明石「金剛選手の胴タックルに合わせて、カウンターの飛び膝蹴りだぁぁ! 強烈な一撃が顎を打ち抜いた! これがスプリントファイターの脚力!」


明石「金剛選手、糸が切れた人形のように力なくマットに伏した! ダウン、ダウンです! これはもう立ち上がれない!」


明石「レフェリーストップです! 試合終了! 大番狂わせが起こりました! 島風選手、まさかの大勝利です!」


明石「戦艦級の強豪選手、金剛を相手に真っ向からの打ち合いを制しました! 誰がこの結果を予想したでしょう! 勝ったのは島風、島風選手です!」


大淀「いやあ……今日の試合は驚かされてばかりです。始めのうちは、島風さんの勝率は1割もないと思っていました」


明石「私もそう思っていました。この試合はその1割が出たというよりも……」


大淀「ええ、文句無しに実力で勝利を掴み取られました。島風さんはこの日のために、相当な激しい練習に臨まれたのだと思います」


明石「打ち合いになってから島風選手が見せた回避が凄かったですね。何をしてもまったく当たる気配がないというか……」


大淀「途中からなんですけど、からくりに気付きました。島風さんの目線が重要ですよ」


明石「目線、ですか? それはどういう……」


大淀「ちょっとVTRで確認してみましょう。ほら、これはミドルキックをすり抜けたときのシーンですね」


明石「はい。やっぱり足が動くと同時に回避運動を始めていますね」


大淀「少し先に飛ばしてください。これがパンチを躱しているときのシーンです。目線に注目してください」


明石「……飛んでくる拳を見てませんね。というか、やけに目線が下に行っているような……」


大淀「そうなんですよ。小柄な選手が体格差のある選手との打ち合いに臨むと、大抵は視界外からの一発をもらってしまいます」


大淀「パンチやキックを目で追うことで視界が狭められ、別方向からの打撃が見えなくなってしまうんですね。打撃戦ではよく起こる現象です」


大淀「じゃあ、島風さんの場合はというと、パンチやキックは見ようともせず、目線を下げて相手の足腰の動きだけに注目しているんです」


大淀「キックだけでなく、パンチを打つときも足腰が先に動きます。だから島風さんは足腰の動きで初動を見切り、攻撃を読んでいたんです」


大淀「唯一、ジャブは手だけで打つパンチですが、これは正面から飛んでくるので目線を下げても見えます。ジャブだけは反射だけで避けてますね」


明石「……そんなことが可能なんですか? つまり、足腰の動きだけを見て次の攻撃が何かを予測して回避してるってことでしょ?」


大淀「私がやろうと思ってもできません。生来のスピードと反射、そして膨大な練習量で可能になる戦法です」


大淀「島風さんは自分の持っているもので戦艦級に勝つための方法を考え抜き、それを実践できるよう過酷なトレーニングに耐え抜いたんだと思います」


大淀「その結果がこの勝利です。島風さんが勝ったのは運ではありません。正真正銘、実力で金剛さんを倒したんです」


明石「ということは……断言しても構わないでしょうか!? 島風選手は、無差別級トップファイターの仲間入りを果たしたと!」


大淀「はい。もう、どんな選手と戦っても引けを取らないでしょう。かつての敗北を糧に、素晴らしい成長を遂げられました」


明石「これはUKF史上、記念すべき一戦になりました! 駆逐艦級が戦艦級選手を倒した、初めての試合です!」


明石「駆逐艦級の中堅選手から一転、島風選手はトップファイターの仲間入りです! 彼女は実践しました、速さこそ強さだと!」


明石「あるいは、彼女こそUKFの歴史を変える選手になり得るかもしれません! 皆様、もう一度島風選手に盛大な拍手をお願いします!」



試合後インタビュー:島風


―――1回戦突破、おめでとうございます。今はどのようなお気持ちですか?


島風「最高! やったわ、勝ったわよ私! 言ったでしょ、絶対に勝つって! 私、本当に戦艦級に勝ったのよ!」


島風「今日までいっぱい練習したんだから! 私を馬鹿にした奴らを見返してやりたくて、ものっすごく頑張ったのよ!」


島風「もう絶対に負けないって決めてたから! 本当は出場するのも怖かったけど、負けっぱなしじゃ……い、嫌だったから……」


島風「……ぐすっ、ううっ……ご、ごめんなさい。勝てたのが嬉しくて……負けちゃったらどうしようって、ずっと不安だったから……」


島風「わ……私、絶対優勝する! 長門さんだって倒して、駆逐艦級でも最強になれるんだって証明してやるんだから!」


島風「次の試合も絶対に負けないわよ! だから……応援よろしく!」




試合後インタビュー:金剛


―――初戦敗退、という今の結果は予想されていましたか?


金剛「まさか。夢にも思わなかったネ……正直、組み合わせが決まったときはラッキーだと思ったくらいデース。提督に合わせる顔がないネ……」


金剛「今も悪い夢を見てるだけじゃないかと疑っている最中ネ……私、もう寝るデース。しばらく起こさないでほしいネ」


(金剛選手の取材拒否につき、インタビュー中止)





明石「激闘、死闘の続くBブロック! とうとう第4試合の始まるときがやってまいりました!」


大淀「ようやくあの2人の登場ですね。最強を決めるグランプリなら、彼女たちがいないと話になりませんから」


明石「Bブロック最終試合にして、超弩級戦艦同士の頂上決戦! まずは赤コーナーより選手の入場です!」




試合前インタビュー:大和


―――大和選手は国内ではなく、今まで深海棲艦の領域での試合に参加されていたそうですが、それはなぜでしょう?


大和「理由は主に2つです。艦娘の強さを広めるため、そしてより強い方とルールのない形で戦いたいと思ったからです」


大和「私が日本を出た頃にはUKFも世間にあまり浸透していなくて、私自身もよく知らなかったので、国内で戦う理由はないと感じていました」


大和「今は少しだけ後悔しています。日本にもまだ、強い方はそれなりにいらしたみたいですね」


―――今大会に出場するにあたり、運営側に条件を付けさせたとお聞きしました。


大和「はい。初戦で長門選手と戦わせてくれるなら、とお願いしました」


―――それはどういった理由でしょうか?


大和「トーナメント方式ですから、何が起こるかわかりません。もしかしたら、長門さんが途中で負けてしまう可能性だってありえると思うんです」


大和「それで私が優勝したら、すごく心残りができてしまいます。だから確実に戦えるように、と」


―――長門選手に勝つ自信はありますか?


大和「当然です。でなければ、こんなお願いはしていません」


大和「長門選手のことを知ってから、ずっと気になっていたんです。どうして私と戦っていないのに、最強を名乗っているのかなって」


大和「ルールのある戦いはあまり得意ではありませんが、このUKFのルールなら問題なさそうです。私らしい戦いができそうですね」


大和「優勝賞金やチャンピオンベルトには興味はないんですけど、今日は私が勝って、はっきりと証明させていただきたいと思っています」


大和「最強の艦娘はこの大和です。私は誰にも負けません」




大和:入場テーマ「大神/太陽は昇る」


https://www.youtube.com/watch?v=aH8HIebZlyg




明石「とうとう彼女が公の舞台に現れました! 武に携わる者なら誰もがその名を耳にする、無敵の武人がUKFへついに降臨!」


明石「100を超える格闘試合に臨みながら未だ無敗! 深海棲艦とのデスマッチに艦娘として単身挑み、全戦全勝!」


明石「敗北を知らぬのは長門だけではない! 今このとき、貸していた最強の名を私に返してもらおう!」


明石「無冠の帝王がグランプリ制覇に挑む! ”死の天使” 大和ォォォ!」


大淀「ようやくUKFに参戦してくれましたね。オファーはずっと前からあったはずなんですが」


明石「大和選手は深海棲艦の領域で行われているという格闘大会にずっと出場されていたそうで。なかなかUKFには出場してくれませんでした」


大淀「らしいですね。なんでも向こうの大会は本当のデスマッチで、ルールも武器なし以外には何もないということです」


明石「UKF以上に実戦的な戦いをずっとしてこられたということですね……しかも、完全なアウェイの地で」


大淀「その上、試合は全戦全勝。強者として知られていた戦艦棲姫や港湾水鬼も彼女が轟沈させたそうです」


明石「大和さんは国内での実績が皆無なので『無冠の帝王』などと呼ばれておりますが、実際にはそのデスマッチのチャンピオンになるんですかね?」


大淀「いえ、どうもあれは大会というより、観客と賭博があるストリートファイトみたいなもので、そういった称号などはないようです」


大淀「ただ、そこで大和さんは深海棲艦からも畏怖される存在だったということです。そして付いた通り名が『死の天使』」


大淀「戦いぶりは優雅に、仕留めるときは容赦なく、確実に息の根を止めることからそう呼ばれたと聞いています」


大淀「その話の全てが本当だとしたら、戦艦級の中でも間違いなく最強クラスの実力を持つファイターでしょう」


明石「つまり、長門選手にも匹敵しうると?」


大淀「おそらくは。彼女のファイトスタイルは柔道らしいので、組み技や投げにおいては並ぶ者はいないんじゃないでしょうか」


明石「柔道ですか。総合格闘の舞台に上がるなら、多くのファイターが学ぶ格闘技ですが……」


大淀「既に周知の事ですけど、柔道は実戦において非常に優れた格闘技です。特に着衣ありなら最大限の殺傷力を誇ります」


大淀「今の柔道は普及のためにスポーツ化が進んでいますが、大和さんが用いるのは柔道の元となった古流柔術に近い、より実戦的なものだそうです」


大淀「投げるときには頭から落としますし、相手の体勢を崩すための当身も使います。寝技に入れば素早く関節を取り、そのまま折ってしまうでしょう」


大淀「実戦を知っている柔道家ほど怖いものはありません。今までやってきたのがデスマッチなら、そういう戦い方をするでしょうね」


明石「そういう戦い方とは、つまり……」


大淀「ええ。最低限のルールは守りつつも、スポーツ格闘技ではなく、殺し合いとして彼女はリングに上がるでしょう」


大淀「彼女は長門さんの強さを知った上でこの試合を望んだと聞いています。よほどの自信と実力の持ち主でなければできない決断です」


大淀「実戦格闘家の大和さんにとって、敗北とは死ぬことと等しいはず。ならば、彼女は確信しているんでしょう。自分は長門さんに勝てると」


明石「観客の方の大多数は、UKFの絶対王者である長門選手の勝利を予想しているとは思いますが……」


大淀「わかりませんよ。長門さんも強いですが、大和さんの実力も底知れないものがありますから」


明石「ありがとうございます。では、続いて青コーナーより選手入場! とうとう絶対王者が姿を現します!」





試合前インタビュー:長門


―――今大会では長門選手の連覇が期待されています。自信の程をお聞かせいただけますでしょうか。


長門「特に気負うところはない。前回は全力で戦い、そしてすべて勝利した。今回も同じだ」


―――今日までのトレーニングはどのようなものを行ってきましたか?


長門「特別なことはしていない。私は常にあらゆる相手、あらゆる場面を想定し、妥協のない修練を積んでいる」


長門「自分の才能に溺れるつもりはない。勝利とは強い者だけに与えられ、強さとは厳しい修練に耐えたものだけが得られるものだ」


―――練習の質と量こそ、長門さんの強さの秘訣と思ってもいいのでしょうか?


長門「そうとも言える。だが、私以上の練習をこなしてきた選手もおそらくいるだろう」


長門「それに、試合では何が起こるかわからない。戦う相手との相性というのもある」


長門「私の強さに秘訣があるとすれば、どんな相手でも、どんな局面でも全力を尽くすことができる、というところだろうな」


―――初戦の大和選手に対する印象をお聞かせください。


長門「強い。今まで戦ってきた選手の中でも最強に位置する相手であることは間違いない」


長門「それでも私が勝つ。なぜなら、私はそれ以上に強いからだ」





長門:入場テーマ「クロノトリガー/魔王決戦」


https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=1y_DS691Vhc#t=48





明石「絶対は存在する! 最強の艦娘が今、絶対王者の名を引っさげて無差別級グランプリ連覇に挑む!」


明石「百戦錬磨のトップファイターたちに全勝! 強靭な肉体とあらゆるテクニックを併せ持つ、彼女こそ正真正銘のアルティメットファイター!」


明石「最強の座は誰にも渡さない! 第一回UKF無差別級グランプリ覇者! ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門ォォォ!」


大淀「……とうとう長門さんの登場ですね。会場も大きく沸き立っています」


明石「大淀さんにとっては複雑な想いのある選手ではないでしょうか。前大会では3回戦まで勝ち抜かれた末に長門選手と対戦されて……」


大淀「ええ、瞬殺されました。苦い思い出です。私がもっと違うタイプのファイターなら、もう少し戦えたのですが……」


明石「タイプと言いますと、大淀さんは長門選手のファイトスタイルとの相性が悪い、ということでしょうか」


大淀「そうとも言えますが、少し違います。私はいわゆる、コンピューター型ファイターなんですよ」


大淀「相手の能力とファイトスタイルを分析して、あらゆるケースを想定したプランを予め立てて、入念に準備した上で試合に臨みます」


大淀「それから試合の中でプランに修正を加えつつ、詰将棋のように相手を私に型にはめて戦う、これが私のファイトスタイルです」


大淀「で、長門さんと戦ったときも色々プランを用意して臨んだんですけど……対峙した瞬間、『えっ、何これ?』って思ったんです」


明石「えーっと、『何これ?』とはどういう意味なんでしょう?」


大淀「あの印象をなんて説明したらいいか……登山の用意をして目的の山に来てみたら、巨大な絶壁がそそり立っていた、とでも言いましょうか」


大淀「構えを取った立ち姿に、付け入る隙がどこにもないんです。その時点で全てのプランが破綻して、動けなくなってしまいました」


明石「それで、そのまま投げられて終わってしまったと……」


大淀「ええ、衝撃的でした。舐めていたつもりはないんですけど、戦った人にしかわからない、想像を超える強さでした」


明石「なるほど……もう多くの方がご存知ですが、一応長門選手のファイトスタイルについても解説をお願いします」


大淀「わかりました。長門さんは相手に合わせて戦い方を変えますが、基本的なファイトスタイルはそこまで特徴的なものではありません」


大淀「長門さんの戦い方は打撃やタックルでテイクダウンを取り、パウンドか寝技で確実に仕留めるという至ってオーソドックスなものです」


大淀「ただ、彼女の恐ろしいところは打、極、投、そして身体能力。全てにおいて最高クラスのものを持っているということです」


大淀「だから長門さんは相手に合わせてどんな戦い方もできます。打撃で圧倒することもできるし、寝技に引き込む戦い方もできる」


大淀「とにかく弱点が一切ないんです。並外れたパワーを持ち、それを叩き込むあらゆる技とテクニックを持っている。それが長門さんです」


明石「流儀のようなものもあまりないんですよね。格闘技は色んなものを一通りやっているとか」


大淀「ええ。最近はコマンド・サンボが気に入ったらしくて、そちらの道場によく足を運んでいらっしゃるそうです」


明石「サンボ、といえば柔道から発展した組み技系格闘技ですね。コマンド・サンボというのはつまり……」


大淀「ソビエト軍がサンボを元に開発した軍隊格闘術です。相手を制圧することを目的とし、組み技だけでなく、急所を狙う打撃も取り入れています」


大淀「大和さんが実戦に基づいた戦い方をするなら、長門さんもそれに対応できるでしょう。激しい戦いになると思います」


明石「試合の展開としては、どのようなものになると予想されますか?」


大淀「何でもできる長門さんですが、さすがに柔道家の大和さんと組み合いたくはないんじゃないかな、と思います」


大淀「同様に、グラウンド勝負も大和さんの専門分野です。やはり長門さんは打撃に持って行きたいんじゃないでしょうか」


大淀「そして、大和さんは当然それを予想しているはずです。打撃対策は万全を期していることでしょう」


大淀「それらを考えると、ハイレベルな攻防になる一方で、試合が膠着する可能性もありますね。共に技量は最上級者同士ですから」


大淀「お互い、最強の看板を賭けた戦いです。どのような試合になるか、私自身、とても楽しみです」


明石「ありがとうございます。さあ、とうとう両選手がリング上で対峙しました! どちらも極めて落ち着いた様子に見えます!」


明石「まるで嵐の前の静けさ! 冷たい視線が交錯しています。その心中にあるものは、互いに最強としての誇り!」


明石「決着のそのとき、どちらの最強の名が残るのか! 果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのか!」


明石「両者、ゆっくりとニュートラルコーナーに戻ります! ゴングが鳴りました! 試合開始です!」


明石「コーナーに戻ったときと同じように、両選手、ゆっくりとリング中央に歩み寄る! どちらも非常に落ち着いている!」


明石「長門選手が静かにファイティングポーズを取りました。対する大和選手、ガードを上げる気配はありません!」


明石「右半身を前に出した立ち姿、これは柔道で言うところの『右自然体』! やはり大和選手、柔道で長門に挑む気だ!」


大淀「ガードは上げませんか。打撃にはどう対応してきますかね……」


明石「さあ、どちらもベタ足でゆっくりとサイドに周り、間合いを維持しております。互いに出方を伺っている!」


明石「いや、長門選手が一歩踏み込んだ! やはり打撃を仕掛けるつもりです! 大和選手、右自然体のまま下がらない! 受けて立つのか!?」


明石「長門選手が仕掛ける! 鋭いローキック! 空振り! 大和選手、ヒラリと足を引いて躱しました!」


明石「続けて長門選手の右ストレート! これも当たらない! 大和選手がサイドステップで回り込みます!」


明石「長門選手、サイドを取られることを嫌ってやや後退! さすがは大和選手、打撃にも的確に対応しています! 長門選手も慎重だ!」


明石「大和選手は自分からは仕掛けて行きません! 長門選手も積極的には攻め込まない! 互いに様子を探り合っている!」


大淀「長門さんはどう攻めるべきか、まだ決めかねているようですね。大和さんは既に何かを狙っているみたいですが……」


明石「さて、大淀さんが言われた通り、試合は少々膠着の様相を呈して来ました! 両者、間合いを取り合って仕掛けない!」


明石「長門選手も最初の打撃を躱されてから、次の攻勢に移る様子がありません! 何かを警戒しているのか!」


明石「……おや? 大和選手が奇妙な動きを見せております。開いた右手を長門選手に向けて差し出しました!」


明石「まるで握手を求めているかのよう! これは何を意味するのか! 大和選手、何を狙っている!?」


大淀「まさか本気で握手しようなんてわけもないでしょう……誘っていますね。長門さんはそれにどう応えるか……」


明石「この挑発じみた行為に、長門選手は眉一つ動かしません! 視線は大和をしかと捉えたまま、冷静に観察して……」


明石「い、いや! 長門選手がガードを下ろしました! 同じように右手を差し出した! これはまさか、大和の誘いに応えるというのか!」


明石「ゆっくりと両者が歩み寄る! 今、互いの右手が触れ合おうとしています!」


大淀「まさか長門さん、組み技で勝負する気なの……?」


明石「とうとう両選手の右手が触れた! 試合中とは思えない、友好の握手が……あっ、長門選手が踏み込んだ!?」


明石「大和の右腕を掴んで捻じり上げた! アームロックです! 真正面からアームロックを仕掛ける! 長門選手が決めに掛かった!」


明石「これに対し、大和選手が身を翻して逃れ……いや、違う! 技を返しつつ腕に跳び付いた! と、跳びつき腕十字だ!」


明石「大和の足が首に掛かる! 四肢の動きが異常なほど速い! 腕が極まった! 大和選手、あの長門選手の不意を突きました!」


大淀「あ、あんなにあっさり長門さんへ関節を決めるなんて……!」


明石「長門選手、完全に腕を取られている! どうにかスタンドを維持していますが、その右腕を大和が全身で折りに掛かる!」


明石「いや、しかしそこは王者長門! 腕を取られたまま大和の顔を踏み付けに行った! 大和選手、あっさりと腕を放して逃れ……あっ!?」


明石「か、蟹挟みを仕掛けた! 大和選手が両足で長門選手を倒しに行く! 長門選手、前のめりにぐらついた!」


明石「マットに手を着いた! 倒れることは阻止しましたが、そのまま大和選手が流れるように動いてバックを取っている!」


大淀「なんてスピード……技のキレが桁違いだわ……!」


明石「襟を掴んだ! 送襟絞めを狙っている! 長門選手、これは読んでいた! 背後から回される腕を掴み取り、襟絞めを阻止!」


明石「そのまま腕を取って一本背負いを仕掛ける! だが、そこは柔道家の大和選手! 長門選手の投げでも微動だにしません!」


明石「立ち上がる長門選手ですが、腰に大和選手が腕を回している! 以前、バックを取られたままの状態です!」


明石「長門選手は振りほどこうと腕を外しに掛かりますが、大和選手もそう簡単には逃さない! さあ大和、ここからどう仕掛け……あっ!?」


明石「長門が腕を掴んだまま体を反転! 大和の腕を再び捻じり上げた! 背面からのダブルリストロックです!」


明石「腕を掴んでいたのは防御のためではない、これを狙っていた! 大和選手の腕が不自然な方向へ捻じ曲げられていく!」


明石「大和選手、反射的に身をよじっ……いや、宙で体を捻った! 着地! わ、技が解けています! 大和選手、華麗にエスケープ!」


明石「鮮やかな身のこなしで、極まったかに見えたダブルリストロックを難なく外しました! やはりこの選手、底が知れない!」


大淀「聞きしに勝るテクニックです。戦艦級であんなに繊細な動きができるなんて……」


明石「再び正面から右手を取り合った状態で対峙しました! ここで長門選手、首相撲を仕掛ける! 大和もこれに応え、両選手が組み合った!」


明石「長門選手、すかさず膝蹴りを放つ! 大和選手はこれを手のひらでブロック! やはり打撃慣れしています、ディフェンスは万全!」


明石「互いに身動きが取れなくなりつつあります! 組み合ったまま動けない! 試合は再び、膠着状態に入りました!」


大淀「本当にレベルの高い戦いですね。下手に動けば逆手に取られる、それをお互いがわかっているからこその膠着です」


大淀「ここまで攻めあぐねている長門さんは今まで初めて見ます。それほど大和さんの技量が高いということでしょう」


明石「長門選手は最初にローキックとストレートを打った以外、ほとんど打撃を使いませんね。組み技で勝負しようとしているんでしょうか?」


大淀「というより、今のところそれしか手がないんだと思います。多分ですけど、大和さんは打撃が来るのを待っているんです」


明石「それはつまり、カウンター狙いというか……打撃に来た腕や足を取って柔道技に持ち込もうとしている、ということでしょうか」


大淀「はい。長門さんは序盤の打撃に対する大和さんの反応を見て、そう判断したんだと思います」


大淀「うかつに打撃を使うと投げや関節に引き込まれる、ならば組み合いに勝機を見出す。そう考えた上で今の状況があるんでしょう」


明石「ということは、この時点では勝負は互角と見てもいいんでしょうか?」


大淀「いいえ。組み合いならやはり柔道家の大和さんに分があります。それを承知で長門さんは、相手の土俵の上で戦っているわけです」


大淀「今の状況では長門さんが不利です。ここから、彼女がどう大和さんに対処するのか……」


明石「なるほど……あっ、長門選手が動きました! 頭を押し下げようとしている! これはおそらく、顔面への膝蹴りを狙っている!」


明石「それに大和選手も抵抗! 両者、激しい揉み合いに……いや、大和選手が逆に仕掛けた!」


明石「お、大外刈りだぁぁ! 大和選手、豪快に足を刈った! 長門選手を背中から勢い良くマットに叩きつける! て、テイクダウンに成功!」


大淀「な、長門さんからテイクダウンを奪った……!」


明石「しかし、長門選手も受け身を取った! 素早くガードポジションに移行……いや、それ以上に大和の動きが速い! 一気にパスガードを狙う!」


明石「どうにか左足だけ挟み込みました! 辛うじてマウントを阻止! ですが、依然として大和選手はトップポジションを維持しています!」


明石「体勢は大和選手が上になったハーフガードポジション! 長門選手、大きな危機が訪れました! 大和とのグラウンド勝負を制せるか!?」


大淀「まずいですね。ハーフガードでも、大和さんなら十分技を掛けられる……」


明石「まずは大和選手、左足を抜いてマウントを取ろうと試みる! しかし長門選手の脚力がそれをさせない! がっちりと挟み込んでいます!」


明石「防戦にならざるを得ない長門選手、まずは大和との密着を試みる! 襟を掴んで抱き込もうと……あっ! や、大和選手が殴った!」


大淀「やっぱり、大和さんは打撃も……!」


明石「顔面に鉄槌打ちを入れました! ハーフガード状態のまま、大和選手が猛然と拳を振り下ろしています! 肉と骨のぶつかり合う音が響く!」


明石「長門選手、抱き込みをやめて頭部へのガードを固める! しかし大和はガードの空いたボディにまで拳を落とす! 長門選手、防戦一方!」


明石「もはや柔道技など知った事かと言わんばかりの大和選手のパウンドラッシュ! このまま打撃で仕留めるのか!?」


大淀「長門さんは打たれ強さもありますから、このまま終わるはずはありません。だけど、この状態が長引けば……」


明石「強烈な拳が雨あられと降り注ぐ! 大和選手はガードの空いたところを手当たり次第殴っています! 長門選手、ひたすらそれに耐える!」


明石「更に心臓目掛けて大和が肘を振り下ろした! これは長門選手、手のひらでブロッ……あっ! その手を大和が取った!」


明石「ここで大和選手、腕がらみを敢行! 長門選手の左腕を一気に脇から背中まで捻った! 大和の全体重が腕一本にのしかかる!」


大淀「今までの打撃は、この関節技に繋げるためだったんです。ガードさせて、付け入る隙を作るために……!」


明石「長門選手、絶体絶命! このまま決められてしま……いや、ブリッジした! 腰の力で大和選手を浮かせました!」


明石「素早く身を返して大和を引き剥がします! 腕がらみに大和選手が集中した瞬間を狙って、長門選手、ハーフガードポジションから脱出に成功!


明石「同時に腕がらみからもエスケープ! 長門選手、危ういところで難を逃れました!」


明石「やはり絶対王者、このままでは終わらない! 再び両者が立ち上がる! これで勝負は振り出しに……」


大淀「立ち上がってはダメ! 大和さんはまだ手を放していない!」


明石「あっ!? 大和選手がタックル、いや顔面へ頭突きを食らわした! 動きが速い! 長門選手、対応が遅れました! 足元がわずかにぐらつく!」


明石「そのまま大和が襟を捉える! こ、この体勢は! 頭突きで長門選手のバランスが崩れている! これはまずい!」


大淀「ああっ!」


明石「なっ……投げたぁぁぁ! い、一本背負い炸裂! 轟音が鳴り響きました! 長門選手の頭部がマットに叩きつけられる音です!」


明石「完っ全に投げが決まった! 数多の深海棲艦を葬ってきたという大和選手の投げが頭頂部に炸裂! まさか、まさかの王者かん……ら……?」


大淀「……はあ?」


明石「あれ? えーっと……ちょ、ちょっと待ってください! 大和選手が……あれぇ!?」


明石「わ、私たちは幻を見たのでしょうか! 今、この状況は……大淀さん! 一体何が起こったんですか!?」


大淀「ちょっと、待ってください。頭の整理が……」


明石「し、信じられません! 私たちは確かに、長門選手の頭がマットに打ち付けられる姿を目にしました! しかもリングを揺るがすほどの勢いで!」


明石「それなのに……なんだこれは! 今、リングでは長門が大和選手にマウントポジションを取っています! そして、ひたすらに殴っている!」


明石「今までのツケを返すというような情け容赦ないパウンド! 大和選手は防戦……いや、もうほとんど意識がありません!」


明石「あっ、今レフェリーが試合をストップしました! 大和選手を戦闘続行不可能と判断し、レフェリーストップです!」


明石「ゴングが鳴りました、試合終了! 劇的な幕切れです! あわや長門選手の敗北かと思われた矢先、まさかの逆転勝利!」


明石「観客席からもどよめきが起こっています! 私自身、狐につままれたような気分です! 何が起こった!? なぜ長門選手が勝ったのか!?」


大淀「大急ぎでVTRを見せてください。スローモーションでお願いします」


明石「えーはい! VTRが来ました! 先ほどの一本背負いのところからです!」


明石「頭突きを入れて、長門選手の体勢を崩して、そこから襟を取って一気に一本背負いを……完全に決まってますよね、これ」


大淀「ええ、マットに頭から激突しています。もし路上のコンクリートなら即死、マットでも脳挫傷は避けられない勢いの落ち方です」


明石「で、ここから長門選手は……何ですかね、この動き」


大淀「体操の前転に似てますね。投げ落とされた頭を起点にしてエビ反りから体を起こして……そのまま振り向きざまに大和さんへフックを入れてます」


大淀「大和さんには不意打ちだったでしょう、あっさり顎に入れられてますね。脳震盪を起こしてぐらついたところを長門さんが押し倒して……」


明石「マウントポジションを取って殴りに殴ったと……えっと、これはスロー再生してますから、実際の時間だと……」


大淀「投げから立ち上がってマウントを取るまで、1秒にも満たない一瞬でこれらの攻防が行われたわけですね。凄まじい運動能力です」


明石「……つまり、長門さんは投げ落としのダメージがまったくなかった?」


大淀「……そういうことになってしまいますね。ほら、長門さんがリングから降りて行きますよ。自分の足で。観客にも手を振っています」


明石「ほ、本当ですね……足取りもしっかりしてます。ダメージなんて何一つないみたいに……」


大淀「普通なら頭蓋骨が割れるか、首の骨が折れていてもおかしくないんですけどね。でも……長門さんは脳震盪すら起こさなかったようです」


明石「あっはっは……そんなわけあります?」


大淀「私にも信じられません……もう一度VTRを見せてもらっていいですか」


明石「はい。えーと、一本背負いに入られて、頭から落ちて、そこから前転して……」


大淀「……あっ、待って! ちょっと戻してください! 投げ落とされた瞬間のところです!」


明石「えっ? えーはい、ここでいいですか? この、長門さんの頭がちょうどマットに……」


大淀「よく見てください。長門さん、この時点で右手をマットに着いてるんです」


明石「あっ……! 本当ですね。頭がマットに激突すると同時に手を……」


大淀「あの頭が叩きつけられたと思った音は、この手を着いたときの音だったんじゃないでしょうか。長門さんは投げに受け身を取っていたんです」


大淀「だからダメージもなく、そこからあの流れるような動きで大和さんに打撃を決め、マウントで仕留めることができたんじゃないでしょうか」


明石「ああ、なるほど……いやでも、これはつまり、長門さんは投げられることを読んでいたということですか?」


大淀「……そうじゃないと思います。投げられたのは長門さんにとっても不意を突かれたことだったんじゃないでしょうか」


大淀「長門さんは投げられながら即座に状況を判断し、その一連の動きをやってのけたんです。対応速度が並の選手の比じゃありません」


明石「それは……凄いですね。大淀さんが試合前、長門選手の恐ろしさは『付け入る隙の無さ』とおっしゃっていましたが……」


大淀「正直、ここまでとは思いませんでした。完全な不意打ちに対しても冷静に対処し切るほどの対応力まで持っているなんて……」


大淀「もしかしたら、これこそが長門さんの一番恐ろしいところかもしれません。あらゆる状況でも冷静さを失わず、最善の行動を取り続ける」


大淀「まさしく、究極のファイターです。このグランプリで、彼女を倒せる選手は現れるんでしょうか……」


明石「ありがとうございました……大和選手も素晴らしい攻防を見せましたが、長門選手はそれを上回りました!」


明石「絶対王者、最強の艦娘の看板に偽りなし! 最強を名乗る艦娘同士の対決は、長門選手に軍配が上がりました!」


明石「この試合を持ってBブロック1回戦、全試合を終了します! 観客の皆様、激闘を終えた選手たちを讃え、もう一度拍手をお願いします!」




試合後インタビュー:長門


―――試合の展開では危ない部分もあったように見えましたが、大和選手のことはどのように感じましたか?


長門「さすがに強かったな。奴の打撃対策が完璧すぎたせいで、組み技で勝負に出ざるを得なかった。展開としては終始大和にペースを握られていたな」


長門「投げられたときは一瞬、しまったと思ったが、うまい具合に反撃できた。なかなか面白い試合ができたと、私自身は満足している」


―――仮にもう一度、大和選手と戦って勝つ自信はありますか?


長門「当然だ。大和は確かに強い。このグランプリ出場者でも、あいつに勝てる選手は皆無と言っていいだろう」


長門「だが、私のほうが強い。もし大和と再戦する機会が訪れたとき、奴は今以上に強くなっているだろうが、私もそのときは更に強くなっている」


長門「リベンジを奴が望むなら受けて立つ。そのときは、今日よりも徹底的に叩きのめしてやろう」


―――今回のグランプリ出場者の中で、長門選手が一番警戒している選手はどなたですか?


長門「警戒……というよりは期待だが、陸奥だな。私の妹だ」


長門「あれはまだ未熟だが、私を超える資質をその身に秘めている。このグランプリを通して、陸奥も大きく成長するはずだ」


長門「正直、陸奥が私の前に立ちはだかる瞬間が楽しみでたまらないな。あいつが私の期待に応えてくれるよう、祈っているよ」




試合後インタビュー:大和


―――非常に惜しいところで敗北してしまったという印象の試合でしたが、今はどのようなお気持ちですか?


大和「……敗北感より、今は驚きで頭の中がいっぱいです。あの投げを受けて立ち上がった相手なんて、今まで1人もいませんでしたから……」


大和「気持ちの整理には時間が掛かりそうです。しばらくは山にでも篭って、一から修行のし直しですね」


―――長門選手についてはどのように思われましたか。


大和「凄い方ですね、長門さんは。何がどういう風に強いというより、ただただ強い。そんな印象です」


大和「私が狭い世界で最強を自負していたことを恥じます。確かに彼女は最強の艦娘です。多分、誰にも倒せないと思います」


大和「いえ……今は無理ですが、いずれ私が倒します。武道家にとって敗北とは死と同義ですが、私はまだ生きていますから」


大和「ならば、このままでは終われません。いつか、彼女には再挑戦させていただきます。それまでどうか、彼女が最強で在り続けるよう願っています」




明石「さあ、これにて第二回UKF無差別級グランプリ、第一回戦の全てが終了となりました!」


明石「しかし! 本日はもう1つメインイベントが残っています! 今夜限りのスペシャルワンマッチ!」


明石「UKF無差別級グランプリ、エキシビジョンマッチ第1戦目を開催させていただきます!」


大淀「試合のルールはグランプリのものと同じですが、一点だけ異なる点があります。それはファイトマネーに関してです」


大淀「トーナメントでは1試合につき1000万円、勝者総取りとしていましたが、エキシビジョンマッチにおいては、3000万円に増額致します」


大淀「もちろん、これも勝者総取りです。負けた方には一銭も入ってきませんので、両選手、全力で勝利を目指してくださいね」


明石「ルール変更の説明も終わったところで、それでは早速参りましょう!」


明石「8名の候補者からリクエストにより選ばれた、エキシビションマッチ1戦目の出場者! まずは赤コーナーより選手の入場です!」




試合前インタビュー:愛宕


―――エキシビションマッチの出場者にリクエストで選ばれたことについて、どのように受け止められていますか?


愛宕「うふふ。なんだか期待されちゃってるわよねえ。なら、ちゃんとみんなの期待に応えないとね」


愛宕「私にとっても、この試合は大事なものなのよ。注目度も高いし、勝てばもっとたくさん試合を組んでもらえるようになると思うの」


愛宕「目指すは無差別級トップファイター! そのために、たくさん試合をさせてほしいのよね! だから頑張るわ!」


―――勝つ自信はどれくらいありますか?


愛宕「重巡級グランプリでは決勝で足柄さんに負けちゃったけど、あれからしっかりトレーニングしたのよ。今なら足柄さんにだって勝ってみせるわ」


愛宕「打撃も寝技も対策は完璧! 組み合いなら絶対に私が勝つから、相手の子はすごく戦いにくいと思うわよ~!」


愛宕「今日はきっちりと勝って、ファンのみんなを喜ばせてあげるから! 応援、よろしくね~!」




愛宕:入場テーマ「機動武闘伝Gガンダム/我が心 明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く」


https://www.youtube.com/watch?v=BvKWpyGQCK0




明石「怪力! それが戦艦級選手だけの武器だと誰が決めた!? 艦娘一の怪力の持ち主とは、この私のことだ!」


明石「その握力は自然石を握り潰し、一度掴めば二度と離さない! そして組み合ったなら最後! 誰であろうと盛大に大地へ叩きつけてやろう!」


明石「無差別級においても、その怪力が猛威をふるう! ”肉弾魔神” 愛宕ォォォ!」


大淀「面白い選手が出てきましたね。彼女のファイトスタイルは非常に特徴的ですから」


明石「愛宕さんはオイルレスリングの出身だそうですが、それはどういった格闘技なのでしょう?」


大淀「別名、トルコ相撲とも言われる通り、相撲と似たルールで行われる格闘技ですね。相撲のように組み合って、相手を地面に倒せば勝ちです」


大淀「上半身裸で試合を行う、打撃や急所を掴む行為が禁止されているところも相撲と似ていますが、異なる点が2つあります」


大淀「相撲では必ず回しを着けますが、オイルレスリングに回しはありません。ですので、掴めるのは相手の体だけです」


大淀「それともう1点。これが一番特徴的なのですが、全身にオリーブオイルを塗りたくって組み合いに臨むというところです」


明石「ルールだけ聞くと、深夜のバラエティ番組でたまにやる、お色気企画みたいな内容ですよね。いわゆるローション相撲みたいな」


大淀「まあ、似てはいると思います。ですけど、オイルレスリングは極めて高度な技術と身体能力を求められる格闘技なんですよ」


大淀「皮膚が露出してる部分しか掴めないのに、そこにはオイルがべったり塗られているわけですから、当然手がツルツル滑ります」


大淀「というか、組み合うだけでも全身が滑りますから。掴むにせよ、組むにせよ、それにはとてつもない技術と筋力が必要になってきます」


大淀「しかも体が滑ることで大抵の勝負が長丁場になるので、持久力も求められます。結果、超人的な肉体が出来上がってくるわけです」


大淀「愛宕さんはそのオイルレスリングの一流選手だそうです。身体能力、技術ともに凄まじいものを持っていることは間違いありません」


明石「ですが、愛宕選手の戦績はそこまで秀でたものではありませんね。11勝3敗と、優れた成績ではありますが……」


大淀「そうなんですよね。角界出身の総合格闘家の大半が良い戦績を残せなかったのと同じく、愛宕さんは優れた点と弱点がはっきりしています」


大淀「強靭な体幹と握力があり、打撃の威力と組み合いの強さは飛び抜けています。ですが、フットワークは全くと言っていいほどありません」


大淀「スピードのある打撃の攻防にも不慣れですし、組み合って倒してからのグラウンドでも、上から殴るくらいのことしかできないでしょう」


大淀「実際、重巡級グランプリ決勝の際にも、足柄さんに打撃反応のなさを突かれて瞬殺されています。足柄さんは打撃の連携に長けていますから」


明石「それでもエキシビションマッチ出場者として選ばれたということは、その弱点を補って余りある実力を持つ、ということでしょうか?」


大淀「ええ。やはり、彼女の組み合いの強さは驚異的です。今までオイル塗れの悪環境での組み合いを制してきた人ですからね」


大淀「着衣を掴んでいいとなれば、彼女から見れば相手の全身に取っ手が付いているようなものでしょう。だから誰であろうと簡単に投げてしまいます」


大淀「それに、今は打撃、寝技に対する攻防を積極的に学んでいると聞きます。弱点さえ克服すれば、彼女は戦艦級相手にも通用するファイターです」


大淀「この試合は彼女がトップファイターに駆け上がるための、重要な一戦になるでしょう。ぜひ頑張ってほしいですね」


明石「ありがとうございます。それでは、赤コーナーより選手入場! 駆逐艦級二大王者の一角が、ついに無差別級へ挑みます!」




試合前インタビュー:吹雪


―――ご自身を負かされた不知火選手がグランプリで敗退されてしまいましたが、何かコメントはありますか?


吹雪「まあ当然ですよね。だってあの人、そんなに強くないじゃないですか。しかも、私に勝ったときに一生分の運を使い果たしましたからね」


―――吹雪選手が敗北したのは、運が悪かったからだということですか?


吹雪「そりゃ勝負の世界に幸運、不運は確実にありますよ。不知火さんは私に一生分の幸運を使って勝ったんです」


吹雪「実力で言えば私が圧倒的に上ですよ。1万回戦って1回負けるかどうか、ってところでしょう。不知火さんにはその1回を引かれちゃいましたね」


吹雪「弱いなりに頑張った、ってのが試合を観た感想です。私なら間違いなく陸奥さんに勝ってますよ」


―――もし吹雪選手がグランプリに出場していたら、どのような結果になると思いますか?


吹雪「もちろん優勝しますよ。えーっと、誰でしたっけ? ほら、絶対王者とか呼ばれてる、あの筋肉だけの雌ゴリラみたいな人」


吹雪「そうそう、長門さんですね。なんていうか、いつまであんな木偶の坊をチャンピオンにのさばらせておくんだって感じです」


吹雪「今回はお情けで不知火さんに出場枠を譲ってあげましたけど、次があるなら私が長門さんを倒しますよ。ボッコボコにしてやります」


―――長門選手もそうですが、対戦相手である愛宕選手も階級としては吹雪選手を上回ります。階級差の不利はどのように捉えられていますか?


吹雪「もうね、そんな質問をすること自体がおこがましいんですよ。階級差とか、弱いやつらの言い訳に過ぎませんから」


吹雪「強いやつは強い。弱いやつは弱い。そして私は強い。それだけです。愛宕さん? あんなの、牧場から逃げ出してきた、ただの肉牛でしょ?」


吹雪「私、試合後に焼肉屋さんの予約を入れてるんですよ。私がお肉を直接持って行くから、それを焼かせてくれって」


吹雪「あーでも愛宕さんって脂身が多そうだから美味しくないかも? ま、試合中にできるだけ叩きのめして、柔らかくしてから持って行きますよ」




吹雪:入場テーマ「聖剣伝説Legend of Mana/The Darkness Nova」


https://www.youtube.com/watch?v=Elu5LoFiiXE




明石「小さな体格に似合わぬビッグマウス、しかし実力は超一流! その強さと大言壮語は留まるところを知りません!」


明石「究極の域にまで練り上げられた無限の格闘テクニック! 多彩な技を目まぐるしく繰り出すその様は、まさに万華鏡!」


明石「今宵も『圧勝』という有言実行を成し遂げられるのか! ”氷の万華鏡” 吹雪ィィィ!」


大淀「こちらもまた特徴的なファイターですね。言わずと知れた駆逐艦級二大王者の一角です」


明石「この度は不知火さんに敗北したことでグランプリ出場を辞退されましたが、内心は敗北を認めていないらしいですよ」


大淀「でしょうね。というか、彼女が本心から敗北を認めるような発言をしたことは、今まで1度もありません」


大淀「往生際の悪い言い訳や屁理屈と言ってしまえばそれまでですが、それほどまでに彼女は度を越した負けず嫌いないんですよ」


明石「吹雪選手は試合前に度々相手を侮辱する発言を非難されていますが、それも己を追い込むためだそうですね?」


大淀「はい。彼女は絶対に後には退けないような状況を自ら作って、徹底的に自分を追い込んで過酷な練習に臨み、試合では命を賭けて戦います」


大淀「吹雪さんの技の多彩さは艦娘格闘界一だと言われていますが、おそらく練習量についても彼女が一番になるでしょうね」


大淀「彼女はボクサー相手にカウンターパンチを決め、柔術家をガードポジションから絞め落とすほど、あらゆるテクニックを持ち合わせています」


大淀「同階級では既に試合が組めないというのも頷けます。夕立さんは例外ですけどね」


明石「その練習されている格闘技の流儀ですが、吹雪選手の使うクラヴ・マガとはどんなものなのでしょうか?」


大淀「クラヴ・マガとは、イスラエルを発祥とする、様々な武術、格闘技のいいとこ取りをする形で作り上げられた軍隊格闘技です」


大淀「『最強の格闘技とは何か』という問いに答えるのは難しいですが、『最新の格闘技は何か』と聞かれたら、私は迷わずクラヴ・マガと答えます」


明石「やはり軍隊格闘技ですと、打撃から寝技、投げから関節まで、あらゆる技があるということでしょうか」


大淀「はい。クラヴ・マガは『日常における脅威の排除』という基本理念を持っていて、そのために急所攻撃も含めたあらゆる技を使用します」


大淀「また、これは吹雪さん個人の強さにも関わってきますが、クラヴ・マガで特徴的な動きが『条件反射と護身術の一体化』です」


大淀「例えば、顔面に拳が飛んでくれば誰でも反射的に避けるか、手で顔を庇います。これは生物として本能的な反射です」


大淀「普通の格闘技だと、こういう本能をなるべく抑制しようとしますが、クラヴ・マガではむしろ活用するんです」


大淀「顔に拳が来る。反射的に手を出す。その手でそのまま素早く拳を捌き、攻勢に転じる。そうした動きがクラヴ・マガでは研究されています」


明石「そういえば、吹雪選手と対戦したファイターからは『凄まじいスピードを持つ相手だった』という感想をよく耳にしますね」


大淀「ええ。吹雪さんはクラヴ・マガとしてだけでなく、膨大な練習量によってのみ得られる、鋭い反射神経と瞬発的な思考速度に長けています」


大淀「相手が一手仕掛ける間に、吹雪さんは三手仕掛け、しかもその後の攻防を十手先まで読んで相手に何もさせず圧倒する。それが吹雪選手です」


明石「では、吹雪選手とは対象的なパワーファイターの愛宕選手、この2人の対戦はどのような展開になると思われますか?」


大淀「パワーVSスピード&テクニック、という図式ですが、島風VS金剛のような試合とはまた違う展開になるでしょうね」


大淀「階級とパワー差を考えて、愛宕さんは掴めば勝てるでしょう。しかし吹雪さんは容易には捕まりませんし、おそらく、捕まった後のプランもある」


大淀「愛宕さんはとにかく掴むことでしか勝負を決められませんが、吹雪さんは愛宕さんを仕留めるあらゆる手段を用意しています」


大淀「となると、まずは主導権の握り合いから始まりそうですね。吹雪さんが捕まらないよう逃げまわるか、愛宕さんが防戦一方になるか」


大淀「実力的には階級差を考えても互角だと見ていいでしょう。白熱した試合になると思いますね」


明石「ありがとうございます。さあ、両選手がリングインしました! やはり体格差が際立っている! 特に体の厚みがまるで違う!」


明石「吹雪選手は射抜くような視線を愛宕選手から切りません! その殺気に愛宕選手も押し負けない! 不敵な笑顔でそれに応えている!」


明石「両者、視線を全く切らないままコーナーへ! ゴングが鳴りました、試合開始……あっ! いきなり吹雪選手が突っかけた!」


明石「ゴングが鳴るや否やの先制攻撃! 吹雪選手、助走をつけて顔面へ跳び膝蹴りだぁぁ! 愛宕選手、不意打ちを食らっ……いや、防いだ!」


明石「間一髪、手のひらでガードしました! そのまま吹雪選手の膝を抱える! 愛宕選手、早くも吹雪選手の捕獲に成功!」


明石「全身をしかと抱き締めた! 吹雪選手を持ち上げたまま、体を後ろに反る! ぱ、パワーボムです! マットに叩きつける気だ!」


大淀「……これも吹雪さんの計算通りですね」


明石「あっ!? 愛宕選手がよろめくようにして前かがみになりました! 叩きつけにいきません! 愛宕選手の動きが止まった!」


大淀「吹雪さんを見てください。あの体勢で愛宕さんの首を絞めているんですよ」


明石「えっ? ほ、本当です! 吹雪選手、襟を取って頸動脈を締め上げている! あの跳び膝蹴りの真の狙いはここにあった!」


明石「愛宕選手、首にしがみつく吹雪選手を振りほどけない! 顔面が鬱血していく! こ、これで決まってしまうのか!」


明石「更に前方へ倒れ込んだ! まだ試合開始から20秒も経っていない! 愛宕選手、そのまま前のめりに倒れ……っ!?」


明石「いや、勢い良く仰け反った! 愛宕選手、最後の力を振り絞ってスープレックスを敢行! 吹雪を頭からマットへ落としに行ったぁぁぁ!」


明石「轟音が鳴り響いた! こ、これは愛宕選手の頭がマットに激突した音です! 吹雪選手は直前でエスケープ! ノーダメージです!」


明石「絞めを解いて脱出した吹雪選手、即座にマウントポジションへ移行! 愛宕選手はやや意識が揺らいでいるのか、対応が鈍い!」


明石「吹雪がマウントを取った! ここからはグラウンドの攻防、吹雪はどう仕留める! 愛宕はどう対処するのか!」


明石「まずは吹雪選手、慎重に拳を顔面に落としていく! 腕を掴まれないよう、一発づつ確実に! 愛宕選手はひとまずガードを固めた!」


明石「顔面だけでなく、ボディにも打撃を入れる! 愛宕選手は防戦一方! 吹雪選手が終始、主導権を握っています! ここから逆転はあるのか!」


大淀「さすが吹雪さん、堅実に決めてきますね。ただ、ちょっと愛宕さんを甘く見ているじゃないでしょうか」


明石「はい? それはどういう……」


大淀「マウントポジションでは、上になっている選手が圧倒的に有利です。吹雪さんなら、トップポジションを維持する技術も持っているでしょう」


大淀「ですけど、技術ではどうしようもないパワーというものが存在します。そろそろ、愛宕さんがダメージから回復する頃ですね」


明石「えー、以前、吹雪選手はマウントで打撃を入れ続けています! 愛宕選手はガードを固め、ひたすら耐えており……いや、愛宕が動いた!」


明石「こ、これは!? なんと愛宕選手、普通に体を起こしました! まるで寝床から起き上がるように! あっさりマウントポジションを破った!」


明石「吹雪選手、立ち上がらせまいと顔面へ肘打ち! ガードされた! 愛宕選手、そのまま吹雪の襟へ手を伸ばす! つ、掴んだ!」


明石「な、なんという怪力! 腕だけで振り回すようにして吹雪選手を引き剥がしました! 愛宕選手が立ち上がる! 意識も回復しています!」


明石「さあ、このまま吹雪を投げに掛かる! いや、先に吹雪選手が動いた! 襟を掴ませたまま、その腕に足で跳び付く!」


明石「跳び付き腕十字です! これが万華鏡と呼ばれる吹雪選手! あらゆる状況で絶え間なく技を繰り出し続ける! 再び愛宕にピンチが訪れた!」


明石「なっ!? う、腕を振り回しました! 技を極められている腕を、腰を入れてぶん回した! 吹雪をフェンスに叩きつける気だ!」


明石「これも吹雪選手、間一髪でエスケープ! フェンスの激しく揺れる音だけが響きました! しかし愛宕選手、掴んだ襟を放さ……あれっ?」


明石「愛宕選手、いとも簡単に襟を放しました! これはどうしたことでしょう! 両者、一旦距離を取り合います!」


大淀「今のはですね、吹雪さんが肘鉄を拳に落とそうとしてたんですよ。それを読んで、愛宕さんが仕方なく襟を放したんです」


明石「ああ、なるほど。吹雪選手の肘はかなり強力ですからね。下手に受けて拳を砕かれるのを避けたと」


大淀「そういうことです。しかし……まさにパワーとテクニックですね。非常にいい勝負をしています」


明石「凄まじい力と技の応酬ですよね。吹雪選手もすごいですが、愛宕選手も敗けては……うわっ、フェンスがへこんでる」


大淀「さっき、吹雪選手を叩きつけ損ねた場所ですね。愛宕選手の怪力がどれほどのものか伺い知れます」


大淀「吹雪さんも、ここまで愛宕さんの力が凄まじいとは思わなかったんじゃないでしょうか。今、作戦に修正を加えている最中でしょうね」


明石「今のところは愛宕選手のダメージが大きいように見えますが、どちらが優勢と思われますか?」


大淀「点数を付けるなら吹雪さんが優勢でしょうけど、愛宕さんは吹雪さんを一発で仕留める怪力を持っていますからね」


大淀「愛宕さんにダメージはあっても、まだ動きに支障が出るほどではありません。今のところは互角と見てもいいんじゃないでしょうか」


明石「なるほど。さあ、両者スタンド状態で対峙! こうして構えを取って向かい合うのは、この試合では初めてです!」


明石「吹雪選手は開手を顔の前に出したクラヴ・マガの構え! 対する愛宕選手は……これはちょっと、変わった構えを取っています!」


明石「重心は低く前かがみに、手のひらで顔面をガードしています! 明らかに打撃を警戒しつつ、相手へ組み付こうとする構えです!」


大淀「この構えは……厄介ですね。あそこまで前かがみだと、ローキックも入れづらいでしょう。ガードの固い顔面への打撃も通りません」


大淀「重心が低いから倒すこともできないでしょう。となると、ガードの空いている下や側面を通すような打撃か、もしくは組み合うか……」


明石「しかし、組み合いとなれば愛宕選手の領域です。吹雪選手はここからどう攻めるのでしょう?」


大淀「難しいです。愛宕さんは相手の取れる選択肢を狭めて、自分にとってやりやすい戦い方を相手に強いるのが狙いでしょう」


大淀「何でもできる吹雪さんでも、やはりパワーと体格はありませんから。これを正面突破するのはとても困難ですよ」


明石「さて、愛宕選手はジリジリと前に詰め寄るだけで仕掛けようとはしません。やはり、吹雪選手が動くのを待つつもりのようです!」


明石「ならば吹雪選手はどう応えるか! あっ、その場でステップを踏み始めました! フットワークを使うようです!」


大淀「やはりそこを突いてきますか。どうあがいても、愛宕さんはスピードにおいては劣っていますからね」


明石「軽快なフットワークで距離を縮めます、吹雪選手! 慎重に間合いを計りながら、愛宕選手の周囲を回り始めた!」


明石「愛宕選手もそれに合わせて動く! 吹雪選手に狙いを定め、仕掛けてくるのを待つ! さあ、ここからどのような攻防が繰り広げられるのか!」


明石「吹雪選手が踏み込んだ! ローキッ……フェイント! 蹴る振りをしてすぐ離れた! 愛宕選手、動かしかけた体勢をすぐに立て直す!」


大淀「愛宕さん、打撃への反応が速くなっていますね。あのまま蹴っていたら足を取られていたでしょう。これをどう切り崩すつもりなのか……」


明石「再び吹雪選手が踏み込む! またローキックのフェイント! 実際に蹴りには行かない! またもやすぐ距離を取る!」


明石「更に吹雪選手、フェイントをかます! 愛宕選手はフェイントにも反応していますが、さすがに3度目ともなると苛立ちがあるか!?」


明石「また吹雪選手がフェイ……あっ、愛宕選手が踏み込んだ! これに対し、吹雪選手はさっさと離れる! まだ直接は仕掛けない!」


明石「愛宕選手も深追いはしません! これはお互いに手が出せないのか、それとも吹雪選手が何かを狙っているのか!」


明石「またもや吹雪選手が踏み込む! ローキック! やはりフェイ……あっ、殴りに行った! ローキックをフェイントにした右フック!」


明石「拳がガードの脇をすり抜けた! 愛宕選手の顔面にヒット! し、しかし効いていない! 間髪入れずに愛宕選手がタックルに行った!」


大淀「そりゃあ、この階級差ですから……」


明石「愛宕選手、打撃のダメージがまるでない! 至近距離に捉えられた吹雪選手、とうとう捕獲され……ああっ!? ぎゃ、逆に掴んだ!」


明石「指です! 吹雪選手、掴みに来た愛宕選手の指を取った! まさか、これを狙っていたのか! 吹雪選手が指関節を極めました!」


大淀「あえて掴ませに来させたんですね。どのタイミングで掴みに来るか、打撃反応を見てずっと計っていたんでしょう」


明石「吹雪選手が掴んでいるのは右手の小指! これを一気に捻じり上げた! 愛宕選手、さすがに痛みで攻勢に移れない!」


明石「しかし、吹雪選手は未だに掴んだ指を折りません! もてあそんでいるのか、それとも何か狙いがあるのか!」


大淀「吹雪さんは戦いの中で遊ぶような選手ではありません。もしかしたら、単純に折れないのかもしれませんね」


明石「それはつまり、愛宕選手が小指一本で指折りに耐えていると?」


大淀「愛宕さんほどの握力だと、小指だけでも相当な力がありますから。掴まれても簡単にはへし折られません」


大淀「まあ、もっと吹雪さんが力を入れれば折れるとは思いますが……吹雪さんも、何か狙いがあって折らないのかも」


明石「なるほど、しかし状況は圧倒的に愛宕選手が不利! 小指を折られれば、右手では掴むことができなくなります! これは避けたいところ!」


明石「また吹雪が小指を捻った! 愛宕選手、苦悶の表情! しかしまだ折れていない! これはやはり、吹雪選手が意図的に折らないでいる!」


明石「これは何を狙っているのか! 主導権は文字通り吹雪選手が握っている! このまま痛みを与え続け、ギブアップさせるつもりなのか!?」


大淀「……吹雪さんは待っているのかもしれません。追い詰められた愛宕さんが軽率に動くのを」


大淀「かといって、愛宕さんが耐え続けても状況は好転しません。ここは仕掛けるしかありませんが……」


明石「愛宕選手の額に玉のような脂汗が滲んできた! やはりこの激痛は耐え難い! 対する吹雪、冷徹にそれを観察している!」


明石「もはや一方的な展開になりつつあるこの状況! 愛宕選手に逆転の目は……あっ! 愛宕選手が指を振りほどいた!」


明石「というか、自ら指を折らせて手を引っこ抜いた! 右手の小指は骨折! しかし左手は健在! まだ愛宕選手は戦意高揚!」


明石「左手を伸ばす! 掴んだ! 吹雪選手の襟を捉えた! 今度こそ捕獲成功! さあ、ここから愛宕選手の逆転……えっ!?」


大淀「うわっ!?」


明石「か……担ぎ上げた! 吹雪選手が愛宕を両肩に担いだ! か、肩車です! そのまま頭から投げ落としたぁぁ!」


明石「まさか、あの小柄な吹雪選手がこれほど豪快な投げ技を繰り出すとは! 愛宕選手、受け身を取り損ねた! すぐには立ち上がれない!」


明石「吹雪選手、即座に寝技へ移行! なんだこれは!? 愛宕の首に両足を絡ませた!」


大淀「は、裸絞めです! 柔道では禁止技になっている、足を使った裸絞め……!」


明石「完全に締め付けが入った! 愛宕選手の首に、両足が深く絡みつく! 愛宕選手の怪力でも、これは外せない!」


明石「メリメリと頸動脈が締まる! 愛宕の顔が赤黒く染まっていく! パワー対テクニック、この勝負を制したのはやはりテクニッ……」


明石「い……いや! まだ終わっていない! 愛宕選手が起き上がる! 序盤で襟絞めを使われたときのように、むくりと身を起こした!」


明石「しかも立ち上がった! 首には吹雪選手が足を絡みつけたまま! 相手が小柄な駆逐艦級とはいえ、なんという体幹の強さ!」


明石「前のめりになった! これはバランスを崩したのではない! またアレをやる気だ! まだそんな力が残っているのか!?」


大淀「すごい、なんて執念……!」


明石「やれるか!? 愛宕選手、やれるのか!? 吹雪選手は締め付けを緩める気配はない! このまま落とす気だ! 間に合うのか!?」


明石「いっ……行ったぁぁぁ! 勢い良く仰け反って、再び豪快なスープレックス! しかも、今度は吹雪選手、脱出に失敗!」


明石「マットを揺るがしたのは、吹雪選手が頭を打ち付けた衝撃に違いありません! 吹雪選手、まともにスープレックスをもらってしまった!」


明石「パワー対テクニック! 終始追い込まれながらも、その勝負を制したのはパワー! 愛宕選手、ここに来て大逆転だぁぁ!」


大淀「待ってください、吹雪さんが落ちてない!」


明石「えっ? ま……まさか! ふ、吹雪選手、絞めを解いていない! た、耐えた! あのスープレックスを耐えていた!」


明石「いや、たった今、絞めを解きました! さすがにダメージがあるのか、肩で息をしながらゆっくりと立ち上がります!」


明石「愛宕選手は……立ち上がらない! こちらは完全に落ちている! まさか、こんな結末になるとは!」


明石「ゴングが鳴りました! 試合終了! この激闘を制したのは吹雪……あっ!? ふ、吹雪選手が倒れました!」


大淀「吹雪さんは頭部にダメージが行かないよう、首と腰で受け身を取っていました。ですが、あの勢いですから……脊椎に損傷があるかもしれません」


明石「どうやら吹雪選手、ダメージで立てないようです! しかし、ゴングの鳴った時点では吹雪選手は確かに立っていました!」


明石「よって、ダブルKOという形にはなりません! 勝者は吹雪、吹雪選手です!」


大淀「凄まじい試合になりましたね。どちらも一歩も譲らず、死力を尽くし合うような展開でした」


明石「勝ったのは吹雪選手ですが、愛宕選手も凄かったですね。あそこまで力があるとは……」


大淀「今までの愛宕さんの敗けパターンは、怪力を発揮する機会を与えられずにやられてしまう、というものが多かったんです」


大淀「それが今回は違います。存分に自分の戦い方ができるよう、しっかりと弱点を補い、ファイトスタイルを整えて試合に臨まれていました」


大淀「精神的にも非常に強い意志を感じました。おそらくはトップファイター級の実力かとは思いますが……吹雪さんは全てを上回っていきましたね」


明石「なんていうか、小さな長門選手を見ているようでした。吹雪選手は加えて、冷酷さも持ち合わせているようですけど」


大淀「勝つためなら何でもしますからね、吹雪さんは。彼女がグランプリに出場されなかったことが悔やまれます」


大淀「彼女は長門さんを倒せると度々豪語していますけど……もしかしたら、本当にそんなことが起きるかもしれませんね」


明石「ええ、そんな期待を抱いてしまうほど、凄い選手でした……愛宕選手の将来にも同じく期待ですね」


大淀「ええ。エキシビジョンにはもったいないくらいの試合でした」


明石「両選手とも、素晴らしいファイトでした! 皆様、愛宕選手、吹雪選手の健闘を讃え、今一度拍手をお願いします!」



試合後インタビュー:吹雪


―――かなりの接戦になったかと思いますが、対戦してみて愛宕選手のことはどのように思われましたか?


吹雪「ん? 予想通りですよ、もちろん。しいて言えば、焼肉屋さんに持ち込むのはやめておこうと思ったくらいです」


吹雪「あの人、脂身ばっかりかと思ったら筋肉ばっかりじゃないですか。そんな筋張ったお肉なんて、美味しくないでしょう」


―――試合終了の時点では非常に大きなダメージを負っていたように見えましたが、やはりあそこはダメージ覚悟で決めに行ったのでしょうか?


吹雪「ダメージ覚悟なんて、そんなの考えていませんでしたよ。だって、そんな苦労しなくたって勝てる相手ですからね」


吹雪「あれはちょっと、受け身を取り損ねただけです。あの体勢からのスープレックスは経験したことがなかったので、変な受け方をしてしまいました」


吹雪「ま、試合内容をどう見られたかは知りませんけど、あれは私の圧勝です。100万回やっても愛宕さんは私に勝てませんよ」


吹雪「ていうか、もうこの世に私に勝てるなんて人いるの? って思ってます。もう、不知火さんや夕立のときのような不運は許さないつもりなので」


吹雪「長門さんだろうと誰だろうと掛かって来い、って記事に書いておいてください。どうせみんな、私より弱いんですから」




試合後インタビュー:愛宕


―――大健闘でしたが、惜しくも敗けてしまいました。今のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。


愛宕「ショックだわ……あれだけやったのに勝てなかったなんて。吹雪さんって、小さいのにものすごく強いのね」


愛宕「技も凄いけど、やっぱり気持ちで負けちゃったんだと思うの。絶対に勝つ、って気迫が彼女からビンビン伝わってきてたもの」


愛宕「私だって絶対勝つつもりでいたのに……UKFには凄い選手がまだまだたくさんいるのね」


―――これから先の目標などはありますか?


愛宕「もっと強くなりたい、としか今のところは言えないわ。だって階級が下の選手に負けちゃったんだもの」


愛宕「吹雪さんってすごく練習するんでしょ? なら、私も練習量をもっと増やそうかしら」


愛宕「とにかく頑張るしかないわね。もう2度と負けないよう、気を取り直して一からトレーニングに励むわ」






明石「皆様、お疲れ様でした! Bブロック1回戦、およびエキシビションマッチ1戦目、これにて全て終了です!」」


明石「次回の放送は、A&Bブロック2回戦を一挙に開催! 計4試合に加え、エキシビションマッチ2戦目を行います!」


明石「お別れの前に、2回戦の対戦カードを確認してみましょう! こちらです!」



Aブロック第1試合


正規空母級 ”緋色の暴君” 赤城 VS 戦艦級 ”破壊王” 武蔵



Aブロック第2試合


戦艦級 ”不沈艦” 扶桑 VS 戦艦級 ”蛇蝎の瘴姫” 比叡



Bブロック第1試合


戦艦級 ”ジャガーノート” 陸奥 VS 戦艦級 ”ベルリンの人喰い鬼” ビスマルク



Bブロック第2試合


駆逐艦級 ”神速の花嫁” 島風 VS 戦艦級 ”ザ・グレイテスト・ワン” 長門



エキシビションマッチ2戦目


出場者未定




大淀「まだ2回戦なのに、非常に豪華なマッチメイクですね。どの試合も目が離せません」


明石「Bブロックは波乱だらけでしたが、2回戦もどこで波乱が起こってもおかしくありませんね」


大淀「そうですね。あるいは、とんでもない大番狂わせだって起こるかも……とても楽しみです」


明石「エキシビションマッチも楽しみですね。大会運営委員長によると、一方の出場者はほぼ確定だそうですが、もう一方を迷っているようです」


大淀「私の出番はありそうですか?」


明石「……さあ」


大淀「お願いしますよ。最近、FXに失敗して、秋刀魚漁で稼いだ貯金が8割吹っ飛んだんです。ファイトマネーで稼がないとまずいんですよ」


明石「私に言われても……それは視聴者が決めることですから」


大淀「そういえば、ラジオ放送で猥語を言わされたお礼がまだでしたね。視聴者アピールも兼ねて、明石さんのボディに自慢のハンドスピードを……」


明石「それではこれにて放送を終了します! 次回放送日は追ってお知らせしますので!」


明石「次回、A&Bブロック2回戦でお会いしましょう! さようなら!」


大淀「ちょっと、逃しませんよ! 明石さん! せめて1発は受けてもらいますからね!」



―――UKF無差別級グランプリ2回戦。激闘は更に苛酷さを増し、音に聞こえた強者たちが次々と消えていく。


―――次回放送予定日、現在調整中。


後書き

ありがとうございました。


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1: フィッシュ藤原 2016-03-05 11:05:37 ID: XlVyCtFm

作者ですが、なんでこの回だけPV数がとび抜けて多いの!?


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