2016-03-27 22:36:55 更新

概要

戦場で彼女たちを見ても味方と思ってはいけない。
攻撃をしてくるわけではないが、援護してくれるわけではない。
戦場において、彼女たちほど勇ましく凛々しい兵士はいないが同じだけ彼女たちほど悪で冷徹な者はいないのだから。
これは、帝国海軍特殊連隊第666部隊の物語である。
一部別作「艦娘は深海棲艦の夢を見るか」の内容を引き継いでいますが、読んでいなくても十分楽しめます。


前書き

半分パロですね。
未公開にした作品と関係は特にありません。

オリジナル用語が1つだけあります。
・戦闘機吶喊(ヤークト・イェーガー)
少数精鋭部隊が単独、敵本陣の奥深くにいる空母集団を殲滅すること。生存率は、高く見積もってわずか3%。しかし、第666部隊は生存率100%という驚異的な数字をほこっている。


プロローグ

MS作戦海域 日本帝国海軍所属戦艦羽馬走(はばしり)艦内


兵「艦長!もう、持ちません!」


艦長「こらえるんだ・・・・!この船はまだやれる!」

兵「ですが・・・!」


艦長「我々は、この海域を離れるわけにはいかない。ここを超えられたら後方に控えている部隊に大打撃を与えてしまう。」


兵「そ、そうだとしても!」


艦長「いいか、身命を賭してここを守るのだ!」


兵「・・・わかりました。」


艦長「砲兵に伝達!再度敵の姿が見え次第攻撃を開始せよ!」


兵2「右舷からスクリュー音です!」


艦長「なにっ!」


羽馬走が、大きな音を立てながら左右に揺れた。

続くように2発3発と揺れが続く。


艦長「被害報告!」


兵「右舷スクリュー被弾、弾薬庫からの出火を確認!航行不能です!」


艦長「くっ・・・!」


兵2「さらにスクリュー音確認・・・これは、魚雷ではありません。味方です!味方の識別信号です!」


艦長「どこの部隊だ!」



兵2「帝国海軍所属の第666連隊です!」


艦長「第666連隊だと・・・。」


兵「援軍を要請しましょう!まだ、間に合います!」


艦長「ならん。」


兵「艦長っ!メンツにこだわる場合ではありません!」


艦長「そうではない!彼女たちは・・・救援を求めたところで来ないさ。」


兵「彼女たち・・・?艦娘の部隊なのですか?」


艦長「あぁ、そうだ。いいか、よく聞け。戦場で彼女たちを見ても味方と思ってはいけない。攻撃をしてくるわけではないが、援護してくれるわけではない。

戦場において、彼女たちほど勇ましく凛々しい兵士はいないが同じだけ彼女たちほど悪で冷徹な者はいないのだからな。」


兵「馬鹿な・・・そんな部隊が・・・本当に存在するのか・・・。」


兵2「スクリュー音ロスト!去っていきました。」


兵「この状況が見えているはずなのに・・・本当に何もしてくれないのか!」


艦長「・・・そうだ。いいじゃないか、これでなんの憂いもなく戦える。下手な希望をもって、この世に未練を残すよりは・・・いいだろ?」


兵「艦長・・・。」


艦長「最後の反抗としゃれこむぞ。生きてる砲塔を起こせ!弾をけちるなよ!」


兵2「・・・砲撃準備完了!」


艦長「撃てっ!」


ーーー


年表


1941年 太平洋戦争勃発


1944年 人類史上初の未確認生物による攻撃を確認。以降、国際連盟呼称で「深海棲艦」と定める。人類と深海棲艦の戦いの始まり。太平洋戦争一時休戦。国連を中心に各国の一体化を推し進める。


1948年 帝国海軍特務機関「第五機関」による武装蜂起。首謀者である有光参謀は死亡。来栖圭吾中佐が鎮圧するも戦死。(詳細は別作、艦娘は深海棲艦の夢を見るか、にて掲載中)


同年 ドイツ国家保安省及び陸軍中野学校卒業生による、一斉粛清。通称「血気の五月雨」。帝国海軍の大部分を陸軍が吸収。日本とドイツが日独協力条約を結ぶも、ドイツ軍の駐留を認める等の内容であるドイツに偏った不平等条約。


1950年 ドイツの奇襲により、アメリカ本土へ原爆投下。連合国軍は降伏勧告を受け入れ、休戦状態であった第二次世界大戦はドイツの勝利に終わる。アジア一帯をドイツが植民地化。日本、アメリカ、ヨーロッパの主要国、オーストラリア、ソ連のみ国権回復。


1951年 深海棲艦により、人類は制海権の90%を喪失。海上物流の事実上崩壊により、各国の国政悪化。


同年 大日本帝国共同実験部隊731部隊による対深海棲艦兵器の開発が始まる。人類は、制空権及制宙権強化のため国連宇宙軌道軍配備開始。


1958年 大日本帝国共同実験部隊731部隊によって、初の艦娘完成。日本の国際的価値が高まる。


1962年 大日本帝国は、同盟国にのみ艦娘の製造方法を公開。人類の大反攻が始まる。国連宇宙軌道軍の戦略的支援及び戦術的価値の確立。


1965年 大日本帝国海軍直属実験部隊及び帝国海軍特殊連隊第666部隊発足。


1967年 

  10月 暗黒の彗星作戦(オペレーション ダークネスコメット)始動


ーーー

艦娘としての流儀


横須賀鎮守府


1967年 10月24日


吹雪「那智大尉!」


那智「なんだ。」


吹雪「私は・・・あんなこと認めません!」


那智「何の話をしている。」


吹雪「どうして・・・どうして、羽馬走を見捨てたのですか!あの船には・・・まだ、多くの船員の方が乗っていたのですよ!」


那智「・・・。」


五十鈴「ちょ、ちょっと吹雪!」


不知火「ふん・・・。」


那智「愚問だな。我々の任務を覚えているか。」


吹雪「・・・海域奥に残存する敵機動部隊の壊滅です。」


那智「そうだ。我々が早急にその任を行わなくては、帝国海軍はさらに多くの装備と人員を失っていた。一隻の船と数隻の軍艦と数百人の将兵。天秤にか    けた時、どちらを優先するかは明白だ。」


吹雪「ですが!あの時、隊を2分して・・・救助を行うこともできたはずです!」


那智「時間の無駄だ。」


吹雪「そんなことありません!人の命がかかわっているのですよ!」


那智「どちらも同じことだろう。先も言ったが、機動部隊を排除しなくては多くの命が失われていた。」


吹雪「それでも!」


五十鈴「もう、スットプストープ!一回やめよ?ね?」


Z3「くだらない。吹雪、貴官は軍人として命令は絶対だと教わらなかったのか。」


吹雪「・・・。」


Z3「命など関係ない。命令されたことか否か、それが大事なんだ。」


吹雪「・・・でも。」


那智「時間がない。話はこれで終わりだ。」


吹雪「大尉!・・・くっ。」


不知火「吹雪も早く、艦装を外しなよ。」


吹雪「不知火ちゃん・・・。」


不知火「じゃあ。」


吹雪「・・・どうして・・・どうしてみんなそうやって割り切れるの・・・どうして・・・。」


ーーー


執務室


那智「・・・だ。本作戦の最大目標であった、敵機動部隊の艦載機の漸減及び空母の轟沈に成功した。」


橋本「・・・そうか。ご苦労。」


那智「・・・。」


橋本「どうした。」


那智「また、言われた。命を軽視していると。」


橋本「・・・吹雪か。」


那智「あぁ。」


橋本「・・・まだ、新任だ。この部隊の存続意義を完全に把握していないのだろう。大目に見てくれ。それに、那智も気にすることはない。」


那智「そうは言ってもだな。」


橋本「第666部隊は、たださえ部隊損耗率が異常に激しい。それは、我々が無理難題の任務を命じているからにほかならない。だがな、補充要員が入る     たびに気にしていても仕方がないぞ。」


那智「言われなくても、わかっているつもりだ。だけど・・・。」


橋本「・・・お前のことは俺たちがよくわかっている。お前の無念も恨みも悲しみも。お前が、本当は誰よりも命を尊んでいることも。」


那智「・・・。」


橋本「苦労をかけているな。」


那智「いや、私こそすまない。提督にいらぬ心配をかけた。」


橋本「・・・。」


那智「・・・私も提督を信頼している。その期待にはかならず応える。」


橋本「その結果、全ての命をもてあそぶこととなってもか。」


那智「・・・提督が望むなら構わない。」


橋本「・・・妙高には会いに行ったのか。」


那智「・・・もちろんだ。」


橋本「嘘をつくな。お前が、会いに行くわけがないだろ。」


那智「・・・。」


橋本「・・・お前が責任を感じることではない。アイツは・・・アイツの任をこなしたんだ。」


那智「・・・馬鹿野郎。命を捨ててまで・・・どうしてあんなものを守ったんだ。」


橋本「愚問を言うな。その答えは、自分が一番わかっているだろ。お前たち姉妹の思い出の土地。」


那智「頭でわかっていても・・・心が理解してくれないものだ。」


橋本「吹雪が言いそうなことだ。」


那智「確かにな。私も、部隊長でありながら甘いところが多い様だ。」


橋本「・・・気にするな。お前たちは兵器ではない。」


那智「その言葉で十分だ。失礼する。」


橋本「大鳳が会いたがっていたぞ。」


那智「わかった。後で時間を作ろう。では。」


橋本「・・・現実はお前が思っているほど、優しくはない。だが・・・そこまで厳しくもない。いい加減自分を許せ、那智。」


ーーー


食堂


吹雪「あ、夕張さん!」


夕張「あ、吹雪ちゃんじゃんー!一緒に食べる?」


吹雪「いいですか?」


夕張「いいよ、おいでおいで。」


吹雪「また、蕎麦食べてるんですか?」


夕張「当り前じゃん。明日死ぬとしても、私は蕎麦を食べるね。」


吹雪「あはは・・・すごいですね。」


夕張「そうかな?」


吹雪「私なんて、毎日食べるモノ変えないと飽きちゃいますもん。」


夕張「ふーん。今日は・・・いつもより少ないね。」


吹雪「あ・・・はい・・・。」


夕張「なにかあった?」


吹雪「夕張さん・・。命ってどう思いますか?」


夕張「命?」


吹雪「はい・・・。命に・・・重いとか軽いってあるんでしょうか・・・。多くの命が救えればいい、だから少ない命は見殺しにしていい・・・なんてあるんでしょう     か。」


夕張「ははん・・・また、大尉の何かあったんでしょ。」


吹雪「・・・。」


夕張「MS作戦関係かな?」


吹雪「やっぱり、わかりますか・・・?」


夕張「あったりまえじゃん。私は前線にはあまりでないけれど、大尉との関係は長いのよ?」


吹雪「そう・・・ですよね。」


夕張「大尉はね、いつもあんな風に強がってはいるけど本当は繊細な人なんだよ。」


吹雪「繊細・・・。」


夕張「うん。誰よりも、命の重さを知っている。だけど、知っているから冷静に、冷酷な判断ができる。あの人は・・・そんな自分を嫌いみたいだけど。」


吹雪「・・・。」


夕張「だけどさ、誰かが判断しなきゃいけないことなんて、たくさんあるよね?でも、皆はそれを嫌がる。それでも、誰に嫌われようと恨まれようと・・・本当は    怖いはずなのに、その気持ちを隠して判断ができる大尉って・・・すごいと思わない?」


吹雪「あ・・・。」


夕張「誤解されやすい人だけど・・・吹雪ちゃん、大尉のことしっかり見てあげて。」


吹雪「はい・・・!」


夕張「って言う話をしてるんだけど・・・盗み聞きはよくないよ、五十鈴。」


五十鈴「ば、ばれてたか・・・。」


夕張「もう。」


吹雪「五十鈴中尉・・・。」


五十鈴「あー、そういう階級呼びは作戦の時だけでいいよ。私、嫌いなんだよねそれ。」


吹雪「すみません・・・。」


夕張「五十鈴はね、逆に階級呼びしなさすぎて大尉にメチャクチャ扱かれたんだよ。」


五十鈴「ちょ、余計なこと言わない!」


夕張「さぁて、何の話かね?」


五十鈴「もう、夕張なんか大っ嫌い!」


夕張「そういう事言っちゃうかー、じゃあ・・・私が何言ってもいいよね?」


五十鈴「ごめんなさい・・・!!もう、言わないから・・・!」


夕張「それでよし!」


吹雪「あはは・・・おもしろうですね。」


五十鈴「ちょっと、何笑ってんのよ!吹雪が、初陣で漏らしたこと言うわよ。」


吹雪「い、五十鈴さん!それは、やめてください!」


夕張「なになに?気になるなー。」


五十鈴「吹雪はね、初陣の時敵のト級と戦っててさ・・・。」


吹雪「五十鈴さん!!!」


ーーー


教導隊詰所


大鳳「ん?誰。」


那智「私だ。」


大鳳「入っていいよ。」


那智「・・・。」


大鳳「久しぶり、那智。」


那智「・・・1人か。」


大鳳「そうよ。まあ、座ってよ。今、お茶出すから。」


那智「・・・。」


大鳳「・・・。」


那智「・・・教導隊は忙しいか。」


大鳳「どうだろうね。前線ほどではないよ。」


那智「そう・・・か。」


大鳳「はい。」


那智「ありが・・・。」


大鳳「・・・?」


那智「なあ。」


大鳳「なに?」


那智「これは何だ。」


大鳳「お茶。」


那智「どうみても、カレーなのだが。」


大鳳「大鳳カレーだよ。」


那智「大鳳・・・カレー。」


大鳳「おいしいから、大丈夫。」


那智「そ、そうか・・・。」


大鳳「で、どうしたの?」


那智「貴様が呼びつけたのだろう?」


大鳳「あぁ・・・そういえばそうだった。で、吹雪はどう?優秀だけど純粋でしょ?」


那智「・・・。」


大鳳「当ててあげようか?」


那智「・・・?」


大鳳「あの子は、妙高に似てる。だから、放ってはおけないけど怖くて直には触れられない。違う?」


那智「・・・!」


大鳳「わかるよー。物腰はすごく丁寧なのに、たまにすごく強気に出るところとか。戦争に正義を求めるところとか。誰よりも仲間を思うところ・・・。」


那智「やめてくれ。」


大鳳「・・・。」


那智「そんな話は・・・聞きたくない。」


大鳳「・・・あれは・・・妙高自身が決めたこと。だから、いつまでも那智ウジウジしていても仕方ない。」


那智「・・・わかってる。」


大鳳「・・・まあ、いいや。で、使えそう?吹雪は。」


那智「・・・さあな。」


大鳳「戦いに感情を持ちこんじゃうからね、あの子。多分、本人もそれじゃダメだってわかってると思うよ。だけど、やめられない。ううん、やめることを怖      がっている。やめたら、ただの兵器になると思っているから。」


那智「・・・。」


大鳳「そんなことはない・・・って教えてあげるのが、部隊長の責任じゃないの?」


那智「・・・わかってる。」


大鳳「だったら・・・どうして避けるの。」


那智「くっ・・・。」


大鳳「那智・・・。あなた・・・変われないままじゃあ、誰も救えないよ?」


那智「わかってる!私だって・・・これでも変わった。」


大鳳「・・・そうだね、ごめん。那智は変わったよ。すごく強くなった。私みたいに、前線から逃げて教導隊になった人から見れば尊敬に値するよ。」


那智「・・・。」


大鳳「だけどね。私も、教導隊になって教官になって感じることが増えた。教え子には死んでほしくない。だから・・・那智大尉。吹雪少尉の成長に手を差し    のべていただけないでしょうか。」


那智「・・・もとより、そのつもりだ。」


大鳳「ありがとうございます。那智大尉。」


那智「大尉は、やめろ。私と貴様の仲だ。」


大鳳「わかったよ、那智大尉。」


那智「はぁ・・・。もう、前線にはでないのか?」


大鳳「どうかな。ついこの間、インド洋に展開していた中国軍の空母艦隊がやられたしね・・・。戦場じゃあ、私みたいなガス空母でも引っ張りだこのなるだ     ろうね。多分・・・吹雪たちの代が最後の教え子かな。現に、今は担当はもっていないしね。」


那智「いけるのか。」


大鳳「大丈夫。教導隊は、エリート中のエリートなんだよ?余裕だよ。」


那智「・・・最近、シュタージの動きが活発だ。」


大鳳「・・・国家保安省ね。」


那智「しかも、近いうちにソロモン諸島にある補給基地の奪還を行うらしい。」


大鳳「ソロモン諸島・・・?今更、どうして。」


那智「おそらく・・・真の目的は。」


大鳳「・・・ニュージランド。」


那智「あぁ・・・。ニュージランドは、今じゃ深海棲艦の機動基地だ。あそこの奪還をすれば、太平洋で動きやすくなる。ついでに、オーストラリアに恩を売るつもりだろう。」


大鳳「…馬鹿だよね。まだ、深海棲艦にまともに勝ったこともないのに戦後の世界の覇権争いをするなんて・・・。」


那智「・・・。」


大鳳「那智・・・気をつけてね。」


那智「・・・わかってる。大鳳も、死ぬなよ。」


ーーー


政治将校室


シュミット「・・・。」


Z3「申し訳ありません。」


シュミット「君の言葉は、もういい。行動で示したまえ。」


Z3「はい・・。必ず。」


シュミット「行きたまえ。」


Z3「はい。失礼します・・・。」


シュミット「そういえば・・・君の部隊は、また戦闘機吶喊(ヤークト・イェーガー)を成功させたみたいだね。」


Z3「・・・はい。」


シュミット「素晴らしいではないか。さすがは、我がドイツ帝国と日本の精鋭部隊・・・といったところかね。」


Z3「精鋭・・・ですか。」


シュミット「そうだ。さあ、君も胸を張りたまえ。その精鋭の一員であることに。」


Z3「・・・はい。」


シュミット「自信を持ちたまえ。我がドイツ帝国は、先におきた日本国内の暴動を鎮圧したがゆえに、駐留を認められているのだ。そうであろう?マックス中      尉殿。」


Z3「もちんであります!」


シュミット「そう。そして、我がドイツ帝国は今では、日本に次ぐ世界第二位の艦娘保有国となった。それは、日本とドイツ帝国の技術提供があってこそだ。      あのアメリカですら・・・我々の足元に及ばない。」


Z3「・・・。」


シュミット「長話が過ぎたようだ。すまないね。戻りたまえ。」


Z3「はっ」


マックスが部屋を出ていくの確認すると、シュミットは葉巻に火をつけた。

その顔に先ほどまでの優しさなど、どこにもなかった。


シュミット「・・・ふん。小娘め。隊1つまともにコントロールできないとわ・・・。」


ーーー


1967年10月25日


ブリーフィングルーム


那智「よし、全員そろったな。」


五十鈴「はっ、全員そろいました。」


那智「かねてより欠員であった我が隊に、補充要員が来ることになった。と、いっても彼女は何度も前線に出撃している玄人だ。戦闘機吶喊の経験もあ      る。全員、良い刺激を受けるように。」


全員「はっ!」


那智「入ってきてくれ。」


ガラッ


五十鈴「なっ!」


吹雪「・・・?」


初月「秋月型防空駆逐艦、四番艦の初月だ。よろしく。」


五十鈴「初月!!」


初月「・・・。」


夕張「知り合いなの?」


五十鈴「うんうん!」


不知火「・・・すごい人が来た。」


吹雪「すごい人?」


不知火「単機で、12隻の深海棲艦とやりあって帰ってきた人だから。有名だよ。」


吹雪「す、すごいね・・・。でも、不知火ちゃんも負けてないよね!」


不知火「・・・。」


Z3「同志中尉!うるさいぞ!」


五十鈴「す、すみません・・・。」


那智「ふむ、初月は以前は帝国海軍第45機動空母部隊に所属していたが先の戦いで主力空母が大破してな。部隊が解散したため、ここに来たということ    なのだが・・・五十鈴とは知り合いなのか?」


初月「まぁ・・・腐れ縁みたいなものです。」


那智「そうか。今日からよろしく頼む、初月少尉。」


初月「はっ!」


那智「左から順にマックス中尉。」


Z3「・・・よろしく。」


那智「五十鈴中尉。」


五十鈴「久しぶり!」


那智「夕張技術中尉。」


夕張「よろしくね!」


那智「不知火少尉。」


不知火「不知火だよ。よろしく。」


那智「吹雪少尉。」


吹雪「よろしくお願いします!」


那智「私を含めた6人が第666部隊のメンバーだ。」


初月「はっ!よろしくお願いします!」


那智「では・・・さっそくだが、次の作戦命令が下った。これより、ブリーフィングを始める。」


部屋の明かりが消され、スクリーンが下がってきた。

心なしか、全員の顔が緊張していた。


那智「今回の作戦は、大規模作戦前に行われる敵艦載機の漸減が目的だ。」


吹雪「漸減・・・?」


那智「そうか、吹雪は初めて聞くのか。初月はわかるか?」


初月「わかります。」


那智「では、吹雪のために簡単に説明しよう。知っての通り、艦隊決戦において制空権の有無は重大だ。だが、今や我が帝国海軍だけでなく世界中の海    軍が、その制空権を維持できていない。理由は簡単だ。深海棲艦の圧倒的な物量に押されているからだ。それを少しでも改善するため、大規模作    戦の前は、近海の敵空母部隊に戦闘機吶喊をしかけ次回の作戦時に参加する敵艦載機の数を減らしている。今回の作戦の目的がまさにそれ      だ。」


吹雪「なるほど。わかりました。」


那智「よし、では続けるぞ。我々の今回の作戦海域は太平洋南海だ。目標数は、3000。」


五十鈴「3000!?」


夕張「ちょ、多すぎません!?」


那智「それほど次回の作戦は、重要だということだ。」


初月「1隻の空母に約50機の艦載機があるとして・・・およそ60隻・・・。」


不知火「・・・すごい。」


那智「もちろん、この数字は目標であり最悪の場合、目標数に届いてなくても作戦終了とする。わかっていると思うが、戦闘機吶喊の際の制空権は敵が     握っている。支援砲撃はあるが、基本的にはそれぞれの部隊の地力で完遂しなくてはならない。」


初月「ほかにも参加部隊があると?」


那智「その通りだ。呉鎮守府から第22水上艦隊・第45戦闘機吶喊艦隊、舞鶴鎮守府から第33機動部隊、第2水上打撃連隊、中国海軍から第88水上大隊    が陽動及び戦闘機吶喊に参加する手はずになっている。」


Z3「補足だが、兵站に関しては今回は中国海軍との共同作戦となっている。」


不知火「・・・中国海軍。」


五十鈴「大丈夫かな・・・。」


那智「合計で90隻以上の艦艇、5000人以上の将兵が参加する大規模作戦だ。いいか!我ら第666部隊の誇りと意地、そして先だっていった者たちの屈     辱を晴らすため必ず成功させるぞ!」


全員「おお!」


那智「部隊則・・・はじめ!」


全員「己の力の限りを高め使え!」


全員「死を望まず拒み、生ある限り立ち続けろ!」


全員「我ら守護せし者なり!」


五十鈴「敬礼っ!」


五十鈴「・・・なおれ!」


那智「以上だ。解散!」


全員「はいっ!」


那智「では、これより歓迎会を開始する。」


吹雪「え?」


不知火「しらないのか?」


吹雪「はい・・・。」


夕張「吹雪が来たときは、作戦準備前だったからバタバタしてたしねー。私達の部隊では、新しい人が来たら歓迎会するっていうのがルールなんだよ。」


吹雪「なんか・・・いいですね!」


五十鈴「初月ー!」


初月「やめろ!僕から離れろ!」


五十鈴「そんなこと言うなよー!久しぶりだね!!照月と秋月は元気?」


初月「あ、あぁ・・・元気だ。」


五十鈴「そっかそっか!会いたいなー!」


初月「いいから離れろ!」


吹雪「お二人は、どのようなご関係なのですか?」


Z3「訓練学校時代の同期だそうだ。」


吹雪「そうなんですか。久しぶりに出会う戦友・・・いいですね!」


Z3「・・・どうだかな。」


吹雪「え?」


那智「では、初月の入隊に乾杯。」


全員「乾杯!」


Z3「では、私はこれで失礼する。」


吹雪「え、マックス中尉・・・。」


Z3「忙しいのだ。」


五十鈴「・・・吹雪。あんまりマックス中尉には、関わらないほうがいいよ。」


吹雪「え・・・?」


五十鈴「同じ部隊だとしても、同じ目的だとしても政治将校という立場があるから。」


吹雪「・・・。」


夕張「なに辛気臭い話してるの!ほら、初月も呑もう?」


初月「あ・・・いや、僕は。」


五十鈴「ダメダメー!初月は、こうみえてガード固いから作戦前は禁酒してるんだよー!」


那智「はっはっは!真面目なことだ。」


不知火「五十鈴中尉がチャラいだけ。」


五十鈴「なにおう!」


吹雪「お二人は、同じ訓練部隊にいたんですよね?」


五十鈴「そうだよー!」


初月「遺憾ながらな。当時軽巡というクラスは、駆逐艦と同じにされていたからな。」


吹雪「そうなんですか?!何かエピソードとかあります?」


初月「吹雪は、なかなか鋭い質問を飛ばすな。」


吹雪「初対面なのに・・・申し訳ありません、初月中尉。」


初月「いや、いいんだ。それに・・・。」


大鳳「それに、初月中尉と五十鈴中尉も私の教え子ですしね。」


吹雪「大鳳教官!」


大鳳「吹雪少尉。私はもう、教官ではありません。どうか、大鳳軍曹とお呼びください。」


吹雪「え・・・あ・・・。」


五十鈴「あれ?知らなかったの?那智大尉以外、この部隊の人はみんな大鳳軍曹の教え子なんだよ?」


吹雪「初耳です・・・!」


夕張「那智大尉、お教えなさらなかったんですか?」


那智「ん?忘れていたのだ。」


不知火「・・・でしょうね。」


那智「不知火。あとで腕立て200回。」


不知火「・・・!」


大鳳「相変わらずですな、那智大尉。」


那智「・・・貴様に言われると、なぜだか虫唾が走るな。」


初月「久しぶり、大鳳軍曹。」


大鳳「これは、初月少尉!立派になられまして・・・本当に嬉しく思いますよ。」


初月「まだまだ、大鳳軍曹の現役の時に比べればヒヨッコだ。」


大鳳「言うようになりましたね。」


夕張「軍曹は、どうしてここに来たんですか?」


大鳳「那智大尉に呼ばれたんですよ。」


那智「あぁ、正確には・・・。」


那智が言おうとしたとき、部屋の扉がゆっくりと開いた。

白い軍服を着た男が入ってくる。


那智「敬礼!」


那智の号令で、部隊員が敬礼をする。

男は、ゆっくりと見回した後ぎこちなく海軍式敬礼を行った。


橋本「すまんな、楽しんでいるところ。」


那智「いえ、そんなことはありません。」


初月「本日着任いたしました、初月であります。」


橋本「君活躍は、私の耳に入っているよ。頑張りたまえ。」


初月「はっ!」


橋本「ところで・・・。」


橋本は、目線を吹雪へ移すとフッと笑った。

その笑顔を見て、吹雪の背筋は自然とスッと伸びた。


橋本「君が、吹雪か。挨拶が遅れてすまないね。君は、着任してからすぐに任務に出てしまったからね。」


吹雪「い、いや・・・そんな。」


橋本「大鳳。」


大鳳「お久しぶりです、橋本提督。」


橋本「君の教え子だ。任官後も色々とサポートを頼むよ。」


大鳳「私は、もうただの軍曹です。そのようなこと・・・。」


橋本「謙遜することはないさ。ここにいる皆が、貴官を母のように慕っている。なあ、五十鈴。」


五十鈴「へっ?はっ?はう!」


夕張「提督がいるのに、なんでご飯食べてるの!」


五十鈴「す、すみません・・・。」


橋本「まあ、いいさ。私はね、固い軍隊式の礼儀っていうのが苦手なんだよ。さて、少し早いがお暇しようか。」


那智「敬礼!」


橋本は、再びゆっくりと部隊員の顔を見回すと敬礼をかえし出ていった。

それが、吹雪と橋本の出会いであった。


ーーー


10月26日


作戦海域


HQ『HQより、ブラッディ1(わん)。応答せよ。』


那智「ブラッディ1より、HQどうぞ。」


HQ『HQより、ブラッディ1。目標である敵空母の護衛部隊が中国海軍所属の第88大隊の追撃を開始。これにより、第22水上艦隊が敵護衛部隊への攻撃   を開始した。まもなく、第45戦闘機吶喊艦隊が戦闘機吶喊を開始する。ブラッディ隊も出撃準備を開始せよ。』


那智「ブラッディ1了解。聞いていたな、間もなく狩りの時間だ。陣形は楔壱型(アローヘッド・ワン)先鋒を五十鈴、右翼をz3中尉、不知火、左翼を私と吹雪    が、後方を初月が担当しろ。」


全員「了解!」


HQ『HQより、ブラッディ1。定刻となった、作戦行動を開始せよ。繰り返す、作戦行動を開始せよ。』


那智「ブラッディ1了解。行くぞ、お待ちかねの狩りの時間だ!一機も残さずたいらげろ!」


那智の掛け声とともに、第666部隊が一斉に行動を開始する。

その矢のような陣形は、速度を重視した矢のような形をしたものだった。

一時でも早く、敵戦闘機及び空母を叩き離脱する、という神業に近い戦闘機吶喊をする際には欠かせないものだった。

敵陣深くへ進むにつれ、当然のように深海棲艦の攻撃を激しさを増していった。


HQ『HQより、ブラッディ1。第45戦闘機吶喊艦隊が敵空母と接敵を開始。繰り返す、敵空母と接敵。』


那智「ブラッディ1了解。不知火、次の空母予測地点を割り出せ。」


不知火「ブラッディ4了解。データリンクより、敵の規模及び初動配置の予測を開始・・・距離およそ6000m先に敵空母機動部隊の姿を確認、予想通りで       す。」


那智「よくやった。五十鈴、初月。対空戦闘準備。」


五十鈴&初月「了解。」


五十鈴と初月、対空砲の準備を始める。

それに合わせ、残りの者は全周警戒を始めた。

一度艦載機の群れに見つかってしまっては、その中を抜け出すのは至難の業だった。

そのためにも、少数で来る敵偵察部隊を早くたたく必要があるのだ。


初月「5時の方角から敵爆撃部隊接近。」


那智「よし、マックス中尉、不知火迎撃開始。」


Z3「言われなくても・・・!」


高角斜砲が火を噴く。

重い爆弾を抱えている爆撃機は、為すすべなく堕ちていった。

取りのがした機体には、初月と五十鈴の更なる攻撃が待っていた。



五十鈴「あははは!どんどん行くよ!」


初月「やらせん!」


吹雪「す、すごい・・・。」


那智「ブラッディ5!ボッとするな!来てるぞ!」


吹雪「は、はい!」


吹雪も高角斜砲を構えるも、目の前で五十鈴が撃ち落としていった。

五十鈴はガッツポーズをすると、どこか嬉しそうだった。


Z3「おい、このままだと空母の群れに突っ込むぞ。」


那智「それでいい、行くぞ!全員15cm砲を構えろ!」


全員「了解!」


五十鈴はどこか不満そうに、高角斜砲での攻撃を終了させると主砲を構えた。

不知火がどこか嬉しそうにしている。

彼女は、戦闘機を狩るよりも空母を狩るほうが好きなのだ。

本当に変わり者の部隊だ、言葉に出さずに吹雪はソッと心でつぶやく。


那智「砲撃開始!」


速度を落とすことなく、空母の群れへと突進を続けながらの砲撃が始まる。

敵空母は、護衛のいない丸裸状態だ。

方向転換をして、艦爆を発艦させようとするが彼女たちの砲撃によりすでに甲板は使い物にならなくなっていた。

雑多な火器で応戦をするも、彼女たちの前には無力だった。


那智「魚雷発射用意!発射タイミングは各自に任せ。奴らの横っ腹に風穴を開けてやれ。」


全員「了解!」


すれ違う間近、魚雷が一斉に発射された。

ほぼ0距離射撃となった魚雷を、もろに食らった空母は雄たけびをあけながら沈んでいった。

那智は、轟沈を確認すると通信を始めた。


那智「ブラッディ1より、HQ。敵空母5の轟沈を確認。」


HQ「HQより、ブラッディ1。よくやった。ポイントD-5にて補給を開始せよ。」


那智「ブラッディ1了解。全員、ポイントD-5へ向かうぞ。警戒を怠るな。」


五十鈴「山場は乗り越えたー。」


初月「そうだな。あとは、別動隊が戦闘機吶喊艦隊を成功させて残りの主力艦隊をたたくだけだ。」


Z3「無駄な話をするな!くそっ・・・サル共め。」


不知火「・・・相変わらず怖い怖い。」


Z3「・・・!」


吹雪「みなさん・・・すごいです!あんなにも、いともたやすく成功させるなんて。」


五十鈴「何言ってんのさ。」


吹雪「え?」


五十鈴「吹雪も、その成功させた部隊の一員なんだよ?自信もちなよ?」


吹雪「五十鈴中尉・・・。」


初月「そうだよ。僕たちは場数をこなしている経験もあるからね。吹雪は、まだまだ新任だ。これから慣れるさ。」


吹雪「・・・はい!」


HQ『HQより、全主力艦隊に告ぐ。現時刻をもって敵戦艦級以下の殲滅を開始する。発進せよ。繰り返す、現時刻をもって・・・。』


初月「殲滅戦が始まった。」


Z3「万事順調だ。」


那智「気は抜くなよ。なにがあるかは、誰にもわからない。吹雪。」


吹雪「は、はい!」


那智「よくやった。最後の雷撃は良かったぞ。」


五十鈴「おお、大尉がほめるなんて。」


不知火「・・・ハラショー。」


Z3「キャラ違くないか?」


吹雪「あ、ありがとうございます!」


那智「よし、各小隊ごと残弾が少ない者から補給を開始しろ。」


全員「了解。」


那智「吹雪、お前からだ。」


吹雪「はい。」


吹雪は海上に浮かぶ補給コンテナから、各砲の砲弾とマガジンを取り出し、交換を始める。

先任の者たちはすでに、魚雷の換装を始めていた。

急かすことなく待っている那智に、吹雪は内心感謝した。


吹雪「大尉、補給終了しました。」


那智「よし、交代だ。警戒を怠るな。」


吹雪「はいっ。」


那智が砲弾のマガジンを交換をしようとしたその時だった。

ノイズが走り、とぎれとぎれの通信が聞こえてきた。


??『こち・・・第45・・・吶喊艦隊・・・副隊長・・・雪・・・、・・・ッディ隊返事・・・さい。』


Z3「第45戦闘機吶喊艦隊か?」


不知火「なにかあったみたいだね。」


那智「こちら、特殊連隊第666部隊旗艦那智だ。」


??『こち・・・、第45戦闘機・・・艦隊白雪です・・・。至急援軍を。』


五十鈴「白雪って・・・もしかして。」


吹雪「白雪・・・ちゃん・・・?」


那智「状況を説明せよ。」


白雪『戦闘機吶喊中、未確認・・・戦闘機に接敵・・・我が艦隊・・・滅なり・・・至急援軍を・・・。頼みます・・・急いで・・ださい。』


那智「わかった、HQに取り次ぐ。ブラッディ1よりHQ。第45戦闘機吶喊艦隊が未確認の戦闘機と接触し壊滅した模様、援軍の許可を求む。」


HQ『HQよりブラッディ1。状況は把握している。だが、援軍は許可できない。貴官らは、さらに深部へ進み敵空母を撃破せよ。繰り返す、敵空母を撃破せ    よ。』


那智「ブラッディ1、りょ・・・。」


吹雪「だめです!このままじゃ・・・白雪ちゃんたちが・・・!」


那智「・・・。」


Z3「いい加減にしろ!命令に従わないつもりか!」


吹雪「でもっ!」


初月「辛いことをさせようとしているのはわかる。だが、命令は絶対だ。」


吹雪「・・・!」


初月「多くの艦娘は、姉妹たちの危機になにもできないものだ!見捨てる決断も・・・必要なんだ!」


吹雪「私は・・・私は見捨てられません!」


五十鈴「ちょ、ちょっと我が儘はよくないよ。」


吹雪「だけど!」


HQ『HQよりブラッディ1。どうした、応答せよ。』


吹雪「大尉、私は。」


その時、那智の鋭い平手打ちが吹雪の頬にきまった。

吹雪はぶたれたまま放心している。


那智「いいか、肉親だろうと恋人だろうと親友だろうと今は忘れろ。少数の命を捨てて多くを救う。それが私たちだ。それが戦争だ。それが生き残るための、    勝つための手段だ。戦争に・・・道徳なんて無い。いいなみゆ。」


吹雪「くっ・・・!」


那智「ブラッディ1よりHQ。了解した。これより、第二次戦闘機吶喊を開始する。」


ーーー


同日 前線基地 作戦終了後


部隊の誰も口を開くことなく、ドックからブリーフィングルームへの長い道を歩いていた。

廊下には多くの負傷した将兵、艦娘が横たわっていた。

ある者は手足がなく、ある者は腹から内臓をだし、ある者は全身血まみれだった。

生と死が入り交じる場所。

まさに地獄だった。

野戦病院に入りきらない、生きながら苦しむ者たちの巣窟。

その中で一人、吹雪の姿を見つける走ってくる者がいた。


吹雪「深雪ちゃ・・・。」


吹雪が名前を言い終わるやいなや、するどい平手打が吹雪の頬の炸裂する。

恐る恐る深雪の顔をみる。

そこには怒りと悲しみがまじりあった、複雑な表情を浮かべた深雪がいた。


吹雪「・・・どうして。」


深雪「どうしてだぁ!お前が・・・お前が助けに来ないから!!白雪は・・・白雪が死んだんだ!」


吹雪「そ、それは・・・。」


深雪「白雪だけじゃない、磯波も・・・部隊のみんなが死んだのはお前のせいだ!」


吹雪「だ、だから!」


深雪「なにが特型駆逐艦だよ!なにが吹雪型だよ!妹を見捨てるような奴が、姉貴なんて思いたくない!」


吹雪「・・・。」


深雪「お前たちは・・・獣だ。味方すら見捨てて・・・それをお前たちは平気で正しいっていう。獣・・・化け物め!」


吹雪「そ、そんな・・・。」


深雪「二度と・・・帰ってくるな!お前なんか・・・お前なんか・・・大嫌いだ!」


吹雪「・・・!」


深雪はそういうと走り去っていった。

吹雪は一人涙を流していた。


吹雪「私だって・・・私だってしたくてしたわけじゃないのに・・・どうして・・・。」


初月「吹雪少尉。」


そんな吹雪の肩に初月がそっと手をのせる。

ビクッと震わせながらも吹雪は初月の顔を見た。

そこには、普段の厳しい顔つきからは想像できない柔和な表情を浮かべた初月が居た。


初月「少し、付き合ってくれないか。大尉、よろしいでしょうか。」


那智「かまわん。」


那智はそういうと部隊を引き連れどこかへ去っていった。


初月「さあ、行こうか。」


吹雪は初月の後に続き、階段を上り始める。

深雪に叩かれた頬がまだジンジンと痛んでいた。

それがただ、ぶたれただけの痛みではないことを吹雪はわかっていた。

こうなることは、薄々わかっていた。


初月「付いた。」


初月に連れられ屋上へと行く。

日は西に傾き始めていた。

きれいなオレンジ色が空に広がり、それを映すかのように海もオレンジ色だった。

美しい夕焼けだ。


吹雪「・・・。」


初月「君は今回の件について、大尉を恨んでいるかい。」


吹雪「え・・・。」


初月「大尉があの時、第45戦闘機吶喊艦隊の救援に向かっていれば、こうはならなかっただろう。」


吹雪「そう・・・ですね。だけど・・・あの時の大尉を判断は間違って・・・間違ってなんかないです・・・。私たちは・・・少数よりも・・・より多くの命を救ったんです    から・・・!救えたんですから!」


初月「そう、泣きながら言うな。」


初月の手が吹雪の頭の上に乗る。

優しくて大きくて暖かい手だった。

背も歳も大差はなかった。

それでも吹雪は、初月の姿に何か大きなものを感じていた。


初月「・・・2年前。僕がいた部隊が壊滅した。」


吹雪「え・・・。」


初月「哨戒任務を終え帰投している時だった、近くにいる部隊から救援要請が来た。あの時、僕は姉妹3人だけの弱い戦力だった。旗艦だった僕は、    秋月と照月・・・あぁ、姉妹の名前なんだけどの意見を遮って現場へ向かった。」


吹雪「どう・・・なったんですか。」


初月「救援部隊の救助に成功。あとは本当に帰るだけ・・・そんな時だった敵の主力艦隊に出会ったのは。」


吹雪「主力艦隊・・・。」


初月「みんな一生懸命に戦った。だけど3対15の戦いだった。圧倒的な戦力差の前に・・・まずは秋月が沈んで・・・照月が沈んだ。」


吹雪「目の…前で。」


初月「僕は必死になって戦った。例の1対12の噂。あれは、この時のものさ。数分だったか数十分だったのか・・・数時間だったのか、ハッキリとはわから     ない。だけど、僕は立っていた。独り・・・血まみれで立っていたんだ。」


吹雪「・・・。」


初月「鎮守府に戻って初めに思ったことは何だと思う?」


吹雪「・・・わかりません。」


初月「姉妹はいつ帰ってくるのかな、だ。」


吹雪「・・・。」


初月「現実を受け入れられなかった、受け入れたくなかった。僕の独断のせいで、僕の判断ミスで姉妹を沈めたなんて認めたくなかった。だけど・・・彼女た    ちが還ってくることはなかった。」


吹雪「・・・。」


初月「現実なんてそんなものさ。みんな、必ずどこかで大切な人をなくしている。僕は実は幸せ者なんだ。姉妹、どうして、どこで、どのように逝ってしまった    のか知っているんだから。この激戦の中。そんな些細な事、姉妹がどこで死んだかさえ知らない艦娘・・・いや人は多い。」


吹雪「・・・何も知らない人が多い。」


初月「いいかい、吹雪。助けたいって気持ちはなくしちゃだめだ。その気持ちはこれから、どんな時でも必要なものになるから。だけど、助けられなかったな    んて気持ちは忘れるべきだよ。そんな後ろ向きな思いもってても・・・誰も喜ばないからね。そうですよね、マックス中尉。」


Z3「なっ・・・!」


すっとんきょんな声が後ろから上がる。

吹雪が振り返ると、マックスがばつの悪そうに立っていた。


初月「あとはお任せします、中尉。」


Z3「お、おい!」


初月はマックスの静止を聞かずに立ち去っていく。

仕方なさそうにマックスは吹雪へ近づくと、手に持っているヘッドセットを渡した。


Z3「聞け。」


吹雪「は、はい・・・。」


ヘッドセットのスイッチを入れる。

どうやら録音の再生のようだった。

砂嵐と共に、二度と聞くことはないと思っていた声が聞こえてくる。


白雪『吹雪・・・お姉ちゃん・・・任務頑張ってね・・・。本当は最後にもう一度・・・会いたかったな・・・。だけどね、しょうがないよ。私は・・・恨まないよ。だか     ら・・・お姉ちゃんも・・・前向きに生きてね?お願いします・・・。お姉ちゃんのことが大好きだよ・・・。深雪はもしかして、お姉ちゃんにつっかるかもしれ    ない・・・だけど、受け止めてあげてください。お姉ちゃんも辛いかもしれない・・・だけど私は・・・深雪を置いてきたの・・・だから・・・彼女も辛いはずなん   だ・・・。お姉ちゃん・・・私を助けようとお願いしてくれてありがとう・・・平和になったら・・・もう一度会おうね・・・。那智大尉・・・最後の言葉を残させてく    れて・・・ありがとうございます。お姉ちゃん・・・またね。』


吹雪「く・・・・う・・・うぅ・・・。」


Z3「・・・白雪少尉からの伝言だ。確かに渡したからな。」


吹雪「白雪ちゃんは・・・幸せに死ねたのでしょうか・・・。」


Z3「・・・死ぬことに幸せなんてあってたまるか。だけど・・・彼女はきっと吹雪少尉に言葉を残せて、満足したはずだ。」


吹雪「くっ・・・はい・・・!マックス中尉・・・お優しいんですね。」


Z3「こ、これは公務じゃないからだ!・・・大尉には私から言っておく。後で来い。」


吹雪は無言でうなずくと、白雪の言葉を再び噛みしめながら録音を聞き直し始めた。

その目には大粒の涙が流れていた。


ーーー

同日 前線基地 司令室


指令室では今も、人が慌ただしく動いている。

その中、部屋の片隅にある扉の奥で橋本と那智が今日の成果の派話をしていた。


那智「私たちは、予定以上の敵を撃滅できたが・・・他の部隊は。」


橋本「あぁ、そっちも大方予定通りだ。それにしても・・・第45戦闘機吶喊艦隊が壊滅したのは・・・残念だった。」


那智「・・・。」


橋本「優秀な部隊だったと聞いている。それに・・・アソコには・・・。」


那智「その件は、初月とマックス中尉がどうにかしてくれている。」


橋本「政治将校殿が?意外だな。」


那智「通信を録音できるのは、部隊長と政治将校の特権だからな。」


橋本「なるほど。彼女も、人間らしいところがあるじゃないか。」


那智「・・・それはどういう。」


橋本「・・・この職業に就くと色々あるっていうことだ。」


那智「・・・。」


橋本は話をはぐらかすと書類へ目を通す。

彼には今、深海棲艦との闘い以上に気がかりなことがあった。


橋本「今回の大規模漸減作戦は、中国海軍が半数以上轟沈、第45戦闘機吶喊艦隊全滅。それ以外は、比較的被害は少ないと言っていい。そうはいっても、簡単に喜べるようなことではないが。」


那智「もっともだ。」


橋本「大営本部は、現在ニュージーランドへ続く海域に空母級がいない事を好機と見て3日後にNI作戦を発令することを決定した。」


那智「何?!」


橋本「驚くのも無理はない。普通、数週間は間をあけるものだからな。それほど、本部も焦らなくてはいけない事情があるということだろう。」


那智「・・・。」


橋本「さらに、今回の作戦には大洗鎮守府から第六駆逐艦を含む高速機動大隊、銚子鎮守府からは第3主力艦隊、仙台鎮守府からは第46空母機動大隊、第71整備機動師団、大間鎮守府から第21主力艦隊、第12空母護衛及び機動艦隊が徴収された。」


那智は、橋本の話をきくと眉をひそめた。

どうにもおかしな話だったからだ。

橋本は気づいたか、と言わんばかりに那智を見つめ返す。


那智「東日本ばかりだな。」


橋本「あぁ。ただの奪還作戦の割には規模がでかく、それに東日本の鎮守府からばかり選ばれている。この部隊選択には、裏でシュタージが絡んでいる、なんて噂もある。」


那智「・・・妙だ。」


橋本「あぁ。那智達には至急横須賀鎮守府に戻ってもらいたい。間もなく、横須賀にドイツ海軍から特使が来るらしいが・・・ひと悶着ありそうだ。」


那智「了解した。」


橋本「気を付けてくれ。NI作戦にはドイツ海軍も参加を表明したが、帝国海軍が断ったことにより一触即発の事態になったばかりだ。」


人か兵か?命令か感情か?


??「ふん。噂よりも汚らしい所ね。」


??「仕方ありませんよ。初戦は、野蛮な黄色の猿の国ですから。」


??「確かにな。ユーはどうした。」


??「ドックの方を見に行くと行っていたが。」


??「相変わらず勝手なやつだ。まぁ、いい。コチラはコチラで始めようか。」


??「もちろんですよ。お姉さま。」


海兵「ビスマルク大尉にグラーフ中尉、プリンツ少尉でありますね?」


ビス「あぁ、迎か?」


海兵「はっ。閣下の命によりお迎えに上がりました。」


グラ「ご苦労。」


プリ「お疲れ様です。」


海兵「・・・。」


ビス「何をきょろきょろしている。」


海兵「し、失礼いたしました!報告によると、レーベ少尉とユー特務中尉がいらっしゃると聞いていたので・・・。」


ビス「彼女たちは今、別任務に当たっていて。遅れてくるだろう。」


海兵「別に任務・・・でありますか?」


ビス「内容を知る権限は、お前にない。」


海兵「も、申し訳ありません!こちらへどうぞ。」


グラ「ふん。サルはすぐに謝る。」


プリ「ビスマルクお姉さまもグラーフ中尉も、あまりいじめてはいけませんよ。」


ビス「どうでもいいさ。仕事にかかるぞ。」


ーーー


横須賀鎮守府 近海


五十鈴「それにしてお、ずいぶん急な話だよね。」


不知火「いつもの事さ。不知火達は呼ばれればどこへでもいく。」


吹雪「大尉。中尉はどこへ行かれたのですか?」


那智「さぁな。今朝がた先に戻るとは言っていたが・・・。どうもきな臭い話だ。」


吹雪「きな臭い?」


初月「今、ドイツ帝国海軍から横須賀に特使が来ているのさ。」


吹雪「特使ですか・・・?」


五十鈴「どうせ、特使っていう名の政治指導将校でしょ?私、あの人たち苦手なんだよなー。なんか堅苦しいし、面白くないし?」


吹雪「面白くないは、五十鈴中尉の勝手な感想ですよね?」


五十鈴「面白さも大切な要素の一つだよ!」


那智「そろそろ横須賀だ。」


全員「了解。」



後書き

登場人物説明

提督(橋本)
・黒の艦隊専属の提督。陸軍から派遣された。階級は少佐。寡黙な性格で、那智・不知火から絶大な信頼を得ている。若いころに、血気の五月雨に関わっていたことから、海軍から嫌われている。

シュミット中佐
・国家保安省の高級将官。帝国海軍の内偵の命を引き受けている。マックスを政治将校として黒の艦隊に招いた本人。

郷田
・横須賀鎮守府の提督。橋本とは、親しい仲。ドイツ軍も駐留する横須賀鎮守府を上手にコントロールしている。私情を挟 むことなく、冷静な指揮をとることができる。その手腕は帝国海軍の上層部も認めるほど。階級は中佐。

黒の艦隊

那智
・黒の艦隊の旗艦を引き受けている。姉妹たちとは、もう何年もあっていない。厳格な性格の持ち主で、任務遂行のために は冷酷な判断も躊躇なく選択する。階級は大尉。

マックス(Z3)
・黒の艦隊の政治将校。階級は中尉。思考にたいして厳格であり、度々部隊内の反国家的思想に対して政治指導をくだ  す。

五十鈴
・黒の艦隊のムードメーカー。対空戦馬鹿。対艦戦は苦手。いい意味でも悪い意味でも空気が読めない。実力は、部隊内
 No2。階級は中尉。

不知火
・駆逐艦の中では、伝説とされている存在。1人で、インド洋に展開していた深海棲艦の3個中隊を壊滅したとされている。 無口。読書をこよなく愛する。先任少尉。

吹雪
・黒の艦隊の新任隊員。補充として部隊に編入された。黒の艦隊の規則である、任務遂行のためには仲間をも捨てるとい う思想に反感を持っている。新任少尉。

夕張
・黒の艦隊の全装備の整備を担当している。たまに自身も戦場へ赴くときもある。吹雪の相談相手の1人。技術中尉。

初月
・元は、帝国海軍第45機動空母部隊に所属していた。対空戦闘・戦闘機吶喊のスペシャリスト。大鳳と五十鈴とは面識が ある。不知火とは、謎の共鳴を示す。吹雪が尊敬する1人。階級は先任少尉。

(部隊則 己が力の限りを高め使え!死を望まず拒み、生ある限り立ち続けろ!我ら守護せし者なり!)


帝国海軍横須賀教導隊

大鳳
・かつて妙高型と共に敵を駆逐した戦友の一人。今は、教導隊に所属しているが有事の際には出撃もする。吹雪の教官。 那智の数少ない友。階級は軍曹。

ドイツ海軍特使

ビスマルク 大尉
グラーフ 中尉
プリンツ少尉
レーベ少尉
ユー特務中尉
その他増えるかもしれません・・・。


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2020-03-21 20:39:42

2018-04-08 17:32:42

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2016-02-26 07:31:50

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1: SS好きの名無しさん 2016-02-17 16:52:33 ID: VsRx1TSQ

いい感じですね、だんだん盛り上がって来ましたね、那智はこういう役がやたら似合いますね。続き楽しみにしております。

2: SS好きの名無しさん 2020-03-21 20:40:45 ID: S:hv1FmV

続きが欲しいですね無理は言いませんが出来るならば続きを書いて下さい


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