響「お酒を手に入れて海人に飲ませてみるよ」
【海から来た人】の番外編となります。
本編読まないと分からないかもしれません。
「響だよ。海人の弱点を探った結果お酒だと判明したから、今日はなんとかして海人に飲酒させてみるよ」
「お酒を手に入れて海人に飲ませてみるよ」
唐突に響はそう宣言した。
夕方の自室でのことである。
部屋には電と雷と暁のいつもの面々がいて、電だけが訳知り顔の苦笑いでこちらを見ていた。
「本当にやるつもりなのです?」
「なになに? なんの話?」
「いやいや、暁は一応察しがつくだろう?」
海人の弱点の件では(本人は無自覚に)大活躍した暁が分からないとは思えない。
この場で本当に分からないのは不思議そうに首をかしげている雷だけの筈なのだ。
「という訳で仲間を探しにいくよ」
だからといって説明するような響ではない。
彼女はマイペースに言い残すと、部屋を意気揚々と出ていった。
「いったいなんなのよぅ……」
「自由気ままなのです」
「訳が分からないまま出ていったじゃない」
「さて、……なるべく面白い仲間を引き入れたいところだね」
響がそう呟きながら歩いていると、夕立と時雨が立ち話しているのを発見する。
「忠犬コンビ。……あの二人は冗談でも海人の意思に逆らう行為はしないだろうからパスだね」
悪戯心の面白半分で海人に酒を飲ませようと計画しているのだ、夕立はともかく時雨が賛同するとは思えない。
賛同すると見せかけて裏で海人に密告する可能性すらある。というか濃厚だろう。
なるべく気配を殺して静かに通りすぎる。
続いて見かけたのは一人でゆっくりと休憩している山城だった。
面白そうなので連れていくことにする。
「出番だよ」
「は? え? ちょっとなに!?!?」
なんの説明もなしに手を掴んで引っ張っているのにも関わらず、抵抗らしい抵抗もすることなくついてくるのは彼女の懐が広いからなのか、それとも突然の不幸に馴れすぎている故にか。
「どこにいくのよ!?」
「仲間探しだよ。あと最低一人は欲しいかな」
「……こっちが分かるように説明する気がないことだけよく分かったわ」
「悪いようにはしないさ」
「悪い予感しかしないのだけれど……」
文句を言いながらも渋々ついてくる山城に響はお人好しだと内心感心しながら同時に同情もする。
苦労する性格だと悟ったからだ。
流石にこのまま引き連れるつもりもないので、歩きながら説明する。
「あの人はお酒が弱いってことを突き止めたから、今日はなんとかお酒を飲ませてどうなるのか見てみたいって話なのね?」
「興味あるだろう?」
「なくはないけど、私、彼の嫌がることはしたくはないわよ?」
「そこは笑って許される範囲の空気は読むさ。……それにしても随分と惚れ込んだものだね」
「ほ、ほほほ、惚れてなんてないわよっ!!」
「顔真っ赤にして叫んでも説得力がないね。あー、言い訳は重ねなくて結構だよ。初な処女のめんどくさい主張に耳を傾ける程心が広くはないからね」
さらに顔を赤く染め、口をパクパクさせながら方を震わせる山城が気の毒になる程の毒舌である。
ちなみに響は山城のことも相当好きだ。
彼女は好意を持った相手のなかでも、いじめることで輝く素質を持った相手にはかなり辛く当たる悪癖があるのである。
付き合いが短くない山城はこのまま口論しても響にやり込められることを知っている。故に話題を素早く変えることにした。
「どうやって提督にお酒を飲ませるつもりなのかしら。そもそもこの島にお酒なんてないと思うけど」
「それを一緒に考えるための仲間を探すんじゃないか」
やれやれといった様子でため息を吐いた響は、前方に島風と天津風を発見する。
「もしかしてあの娘たちを引き込むの?」
「面白要員はもう確保したからね。島風や天津風はパスだよ。出来れば優秀な艦娘を狙いたいところだ」
「……面白要員って誰のこと?」
山城がトゲのある声色で問い詰める。
「さて、仲間探しを続けようじゃないか」
「ねぇ、面白要員ってなによ? いまここには響と私しかいないのだけど?」
「加賀さんとかどうだい?」
「貴女面白いって理由で私を選んだの?」
「山城はもっと自信を持っていいよ。君は暁の次くらいには見ていて面白いからね」
「開き直ったわね……」
呆れる山城はもう色々と諦め、いっそ早く終わらせようと仲間探しを真面目におこなうことにした。
さらに歩くと今度は鈴谷に遭遇する。
悪戯心あり。面白い上に響との相性も良い。おまけに優秀だ。ここら辺で響には満足してもらいたい。
「鈴谷を仲間にするのはどうかしら?」
「悪くないね。この三人でやるとしよう」
「鈴谷の意思は?」
「面白いことを聞くね」
「聞いた私が馬鹿だったわ」
どうやら鈴谷も山城同様に無理矢理連れていくらしい。
ただ鈴谷は山城とは違った。
「鈴谷、出番だよ」
「なんだよー、やっと鈴谷の出番かー。任せてよっ!」
「!?」
山城は滑って転けた。
「どうしたの山城さん!?」
「いつもの不幸なドジだよ、気にする程じゃない」
驚きすぎて響の辛辣な毒舌も耳に入らない。
「す、……鈴谷は事前に聞いていたのね?」
「いんやー、全然意味が分からなかったよ?」
「なら、どうして?」
「え? 出番だって言われたから……」
ノリで生きているタイプの思考回路は山城には理解に苦しむ。
「訳が分からないわ……」
「鈴谷、海人にお酒を飲ませる計画の仲間に入れてあげよう」
「面白そうだねぇ。おーけー、鈴谷の力を貸してあげよう」
もうこの時点で山城は今日一日が疲れる日だと確信した。
「まずはそうだね、お酒の入手方法を探すのが一番の問題だ」
またもや海人に秘密で会議室を借り、その室内で響が二人に向かって問う。
「誰か名案はないかい?」
「名案というか、鈴谷お酒のある場所なら知ってるよ?」
「嘘!?」
「それは本当かい?」
山城と響でさえも驚きを隠せなかった。
「提督が……、あ、提督って海人じゃなくて前の方ね。が、お酒好きでさー」
「初耳だね。彼はお酒を好む素振りなんて一回も見せなかったけど」
「隠れて飲んでたんだよ。なんでもイメージがどうたらこーたらって話だけど、詳しく覚えてないかなー。それで偶然鈴谷がそれを見つけちゃって、それ以来黙っている代わりにちょっと分けてもらってたんだよ」
「そのお酒は?」
「昔の宿舎の裏、ちょっと森入ったところの地面に隠し倉庫があって、そこは爆撃されてなかったから今でも残っていると思うな」
本当に残っていた。
鈴谷に連れられ、彼女の記憶を頼りに調べた地面には確かに隠し扉があり、その先には地下倉庫があった。
そこには様々な種類のお酒がかなりの量保管されていた。
焼酎、ウイスキー、ワインに日本酒。どうやらあの提督はかなりの酒好きだったらしい。
「見る人によっては宝の山だね。レアものや高級品も少量だけど混じってる」
「うわー、響よく分かるねー。鈴谷お酒は好きだけど詳しくないから、テキトーに飲もうとしたら味が分からない奴には勿体ないって提督に怒られたことあるんだよね。普段は優しいけど、お酒のことになるとちょっち短気だったかなー」
響は適当な代物を一本手に取ると自分用に数本ついでに持っていく。
「多くないかしら?」
小さい体で両手一杯に酒瓶を抱える彼女を見て山城が言う。
「ほとんど自分用だよ」
「見た目小学生なのにお酒飲むの?」
「嗜む程度だけどね」
「の割には提督が大切にとっておいたやつばかり迷わず取っていったような……」
「気のせいだよ。それよりももう一度会議室に戻ろう。今度はどうやって海人に飲ませるかの作戦会議をしなくちゃね」
「強引に話を逸らすなー」
苦笑いしながら鈴谷も響に続く。
おお、鈴谷が幻覚から立ち直ってる!
1>そうなんですよねー。本当はこの短編も大分前からネタはあったんですけど、本編が鈴谷立ち直りまで進んでから書く予定だったんですよ。