なぜ主計科の私が提督に…
海軍経理学校を卒業した主計科のエリート士官は、なぜか鎮守府に飛ばされてしまう。指揮の事など何も分からぬ司令官と艦娘たちの奮闘の物語。
小山浜鎮守府所属艦娘(初期) 8名
・重巡洋艦:鈴谷
・軽巡洋艦:川内・大淀
・駆逐艦:漣・霞・叢雲・島風
・工作艦:明石
「はいぃぃぃ?」
金田主計は素っ頓狂な声を上げた。
「海軍主計大尉カネダ カズエ 海軍小山浜鎮守府司令長官に任ずる。」
「えぇぇぇ?鎮守府司令長官が『大尉』っておかしくないですか?」
「ああ。だから、本日付でお前は少佐に昇進の上、『提督』だ。」
「『提督』って、大雑把すぎません?」
「艦娘を指揮できる能力は特別なものだ。能力者は貴重だから、鎮守府に着任させたい。だから『提督』と呼んで、名目上将官だということにしたのだ。キミは将官相当の少佐ということだよ。」
「はぃぃ? 百歩譲ってそれでいいことにしても…。私、主計科なんで、指揮なんてできません。」
「ああ、それか。手伝ってくれる艦娘がいるそうだ、安心しろ。」
なんて適当なんだ。こんなのだから、作戦も失敗するんだろうが!
どうせうまくいかない大規模攻勢を毎回毎回、準備させられる”我々”の気持ちにもなれ!
はぁ。いらいらしすぎて疲れた…。
あの人適当過ぎるだろ。あれで海軍人事局につとめられんのかよ。
で、鎮守府はどこにあるんだ?
ホームは無人。駅の周りは、シャッター街と商店街が半々で、向こうに見える灰色の建物が鎮守府か?
「こんにちは。もしかして、金田大尉ですか?」
突然声をかけるとは、なかなかに失礼な少女だな。
軍服を見れば大体わかるだろ。こんな小さい町に海軍が来る事もなかろうに。
「そうだが?」
「綾波型駆逐艦『漣』です、ご主人さま。こう書いて、さざなみと読みます。」
いや、俺は主計科出身で、奇名珍名難読漢字を読んで物資・給料を分配して来たんだぞ!
漢字なんか書かれなくてもわかっとるわい!
あと、『ご主人様』って、なぜ?
そりゃ見た感じ私の部下だろうけど、主人になった覚えないよ?
「さあ、行きましょう。あそこに見えるのが私たちの鎮守府です!」
はぁ。コイツに俺の補佐ができるのかなぁ。俺も素人、コイツも頼りにならない…。
まあ、とりあえず行ってみるしかないでしょ。
「御主人様、こっちです!」
はいっ?そちらには迎えの車も何もありませんが…。
「迎えは来ていないのか?」
「もちろん来てませんよ。車があると思ったんですかwww」
えっ………。あの建物、どう見てもかなり遠いところにあるんですけど…。
しかも、森突っ切って行くの?
「ええっ…。将官相当なのに車ねぇのかよ…。」
「シーレーン――海上交通路――が深海棲艦によって立たれたいま、物資の補給は非常に困難になっています。
特に、化石燃料は日本国内でほとんど産出しないため、節約令が政府より発布されています。
このような状況下において、海・そして国民を守る私たち海軍こそが、市民の模範となるべく責任感をもって行動するべきではないでしょうか。」
はいっ? あなたキャラ変わりすぎでしょ…。さっきまで、言っちゃ悪いけど、バカっぽかったよ。
「ということで、お散歩です!キタコレ」
いや、なんもキテないから。俺の体だけはガタがキテるかもしれないけど…。
そして、歩く。
アルクアルクアルク
もう疲れた…。
森林を貫く軍用道路第678号を抜けると、眼前には鎮守府きたぁぁぁ!
やっとだよ。
でも、ずいぶんすすけてるというか、ボロっちいね。
ん?何人か並んでるぞ。
「「「「「「「司令官閣下、始めまして。どうぞよろしくお願いいたします。」」」」」」」
おお! 一同そろってお出迎えですか。ありがとうございます。
「本日付で、小山浜鎮守府司令長官に任ぜられた、提督・海軍主計少佐 金田主計である。よろしく頼む。」
いや、もう指揮とか全然わかんないんでよろしくお願いします。
少佐とは言っても、兵科将校としては新人、というかまだ主計科所属のままなんだよね…。
お、ざわついてんな。やはり、主計科が来るとは思ってなかっただろう。
俺もなんでこんな人事なのか、困ってるよ。
「提督、こちらがこの鎮守府の概要です。」
大淀?だっけ?ありがとう。
ふむ。資源は十分にある。食料もある。問題はなさそうだ。
所属する艦娘は、8隻。重巡1、軽巡2、駆逐4、工作艦が1。最先任なのが、あの漣とかいうやつだな。
「前の提督は?」
「実は…。」
なんだ?急に声を潜めて。
「私と漣さんしか知らされていないのですが、小山浜大規模基地(仮)の建設に伴って転任した、ということです。」
「ああ。なるほど。」
主計科は、物資関係も統括している。
何らかの作戦や基地建設などがある場合、要求される物資の量の変化で、察することができるわけだ。
作戦が始まる場合に一番早く知るのは、前線の兵科将校ではなくて、俺たち主計科なわけだよ。
最近、要求物資が増えて大規模攻勢に出るかもしれない、と言われていた。
その補給の策源地――補給の総基地でもいうべきか――を、小山浜に設定するといううわさも流れていた。
「”小山浜”のうわさは聞いている。」
まずいぞ。とてもまずい。
戦闘、ましてや大規模攻勢はまだ先、あったとしても自分には関係ないと思っていたが…。
この鎮守府は、策源地の警備と物資管理を任されるわけだ。
ならば、同じ主計科の人間を配置した方がうまくいく、となって俺がここに配属されたのか。
つながった。つながったけど、うれしくない。まずいぞ。
すぐに指揮を身につけなければ!
大規模攻勢の前に戦闘指揮ができるようにならなければ、俺の首どころか、敵襲で小山浜策源地、ひいてはこの国の未来まで吹っ飛ぶ。
ヤバイぞぉ!
指揮を身につけるためには、まず演習の様子を見てみるべきだろう。
この演習場広いなぁ。
戦っているのは、重巡1 VS 軽巡1・駆逐3 のようだ。
「さてさて…… 突撃いたしましょう!」
重巡の主砲が火を噴く。たしか、鈴谷だったか。
20.3cm砲はダテではないらしく、相手側の軽巡が吹き飛ぶ。
「ふぁぁぁあぁ! 突撃よ!」
攻撃を食らった軽巡――川内――も負けじと攻撃開始を命令する。
砲弾をくらって、痛くないんだろうか。
「痛いしぃ……!」
川内の一撃が命中した鈴谷は文句を言いながらも反撃した。
「みじめよね!」
駆逐艦たちも攻撃を開始する。
駆逐艦の放った渾身の一撃、魚雷が重巡に命中する。
重巡が大きく吹き飛んで、演習は終わった。
ここは、労いの言葉をかけるべきだろう。
「よくやっていたな。頑張って精進してくれ。」
「言われなくても精進するわよ。」
この娘は、たしか…。そうだ、霞だ。
キツイこと言いやがるなぁ。
「ははは、良い心意気だ。俺は素人だから、サポートを頼むぞ。」
艦娘たちの練度は十分。装備も充実しているようだ。
前の司令官は几帳面で真面目な人だったのだろう。
問題は、俺の指揮能力だけだ。
とりあえず、簡単な任務でなれるとするか。
「提督、海軍司令部より命令です。
『小山浜鎮守府は、周辺海域に展開する敵前哨部隊を撃破せよ』
とのことです。
詳細はこちらになります。」
大淀さんありがとうございます。
敵は3隻。ちょうどいい任務が来たものだ。出撃させるとするか。
「鈴谷を旗艦にして、島風、叢雲が出撃だ。
大淀、川内、漣、霞は鎮守府で敵の急襲に備えろ。」
こんな感じでいいのかな?
「ほいさっさー」
「了解しました。すぐに放送を入れます。」
敵は3隻。普通に考えれば、勝利確定だな。
だが、慢心は禁物だ。
「最上型重巡、鈴谷。いっくよー!」
「ああ、頑張ってこい。そして、叩きのめせ。」
頼むぞ。
「りょーかい!」
――――――――――
まだか、まだ会敵しないのか?
まだか?
『ちーっす!無線機から鈴谷だよ!敵艦隊はっけーん!』
やっとか。待ちくたびれたぞ。
「敵の勢力は?」
『駆逐ハ級が2隻と軽巡ト級が1隻。少し、片付けるのに時間がかかりそう。』
「叩きのめして差し上げろ!」
『りょーかい! 突撃いたしましょう!』
頼んだぞ。俺にはどうすることもできないからな。
『あれぇ、相手は結構弱いよ。すぐにカタが付きそう!』
いいねぇ。さっさとぶちのめしちまえ、ってところだな。
戦果報告を待ってるぞ。
『はい勝利!一発KOだったね!』
それはいいことだ。
「分かった。帰投を待っている。警戒を怠るなよ。」
『りょーかい!』
よしっ!初戦闘初勝利!!
もちろん、めちゃくちゃ小さな戦闘なんだけど、やっぱり嬉しい。
この調子で頑張るぞぉ!
漣はああ見えて切れ者だよ。
指揮など長く勤めてれば自然と判るようになるさ。
せめてサイクリングの自転車くらいあげようよw健康にも良いよ。
名前が主計って主計官になるためだけに生まれてきたような。主計主計 主計大尉だったらもっと良かったw