『青葉の笛』 あの頃はまだ…
青葉の話(回想メイン)
一応「泣ける艦これ」目指してます…。
問題点・改善点・誤字脱字等ございましたら、コメントなどでご指摘ください。速やかに修正いたします。
なお、完結済ですが、時々誤字脱字の修正などを行っています。
「何ですか、これ? 篠笛、ですか?」
「ああ、そうだ。ためしに、この曲でも吹いてみろ。」
「あおばのふえ? 面白い題名ですね。」
「おまえ、リコーダー吹かせたら上手かっただろう。」
「リコーダーと篠笛は全然違いますよぉ。」
あのとき、プレゼントをもらって、私は浮かれていたのかもしれません。
ああ、あの頃に戻りたい。あの頃は…。
もし私があんなことをしなければ…。
青葉「またいい記事書けました~。ウヒヒヒ。」ニヤニヤ
大淀「笑いながら歩いているなんて気持ち悪いですよ。何々、『提督、大規模攻勢を計画』?」
青葉「そうそう。確かな情報源からですよ。」
大淀「これ、重要機密ですよ。書いてしまってはまずいのでは?」
青葉「大丈夫、大丈夫。司令官なら許してくれますから。」
あの時、あの記事を掲載するのをやめていれば。
大淀の言葉に従っていれば。
悔やんでも悔やみきれぬ過去…。
提督「青葉、なんでこんな記事を書いたんだ。軍機だぞ。」
青葉「エヘヘ、青葉、どうしても書きたくなっちゃてぇ。」
提督「はぁ。まあいい、今回だけは許してやる。今度からちゃんとした記事を書けよ。」
青葉「はいっ、取材も編集も校閲も青葉にお任せ。」
提督「しっかりやれよ。」ニコニコ
あの人は決して怒らなかった。
厳しく注意をしながらもニコニコとほほ笑んでいた。
悪いことばかり仕出かす私にも解体しないどころか、贈り物までくれたのだ。
私はそこに甘えていたのだ。
もっと、しっかりと考えていれば、あんなことにはならなかったのに…。
青葉「そろそろ例の大規模作戦。取材しちゃいますよぉ。」ニシシ
青葉「どうも、司令官!恐縮ですっ!」
提督「おお、青葉か。」
青葉「今日、近くの鎮守府で行われている演習に、みんな参加したのも作戦のためですか?」
提督「青葉、取材したいのはわかるが、一応軍事機密なんだ。気を付けてくれよ。」
青葉「大丈夫ですって。」
提督「さて、青葉。君が取材しているこの作戦、情報がカギだ。敵海域に単艦で侵入して探ってきてくれないか。」
青葉「はいっ。索敵も偵察も取材も青葉にお任せ!」
ああ、あの時断っていれば。
鎮守府に残っていれば…。
後悔しても何にもならない。
だけど、後悔しても後悔しきれません。
スピーカー「敵襲、敵襲。敵、鎮守府近海に展開しつつあり。」
青葉「よしっ。いっぱい情報が取れました。司令官、喜んでくれますかね。」ワクワク
ああ、あの時はまだ何も知らなかった。
もう少し、もう少し早く帰っていれば。
青葉「あれっ?そろそろ見えるはずなのに、鎮守府がないですね。」
青葉「燃えてる? 燃えてるっ!鎮守府が!」
炎をまとった鎮守府に駆け込んだ私は、衝撃的な光景を目にしました。
青葉「提督! 司令官はいますか!」
提督「ぁあ…。」
青葉「司令官!」
提督「あ、お、ば…。敵襲を、受けた…。もう、私は助かるまい…。」
青葉「司令官!しっかりしてください!」
提督「青葉、逃げろ…。俺を置いて逃げろ!すぐにまた奴らが来る!」
青葉「すみません。青葉が、青葉があんな記事を書いたばかりに、秘密が漏れて。」
提督「ああ、大丈夫だ…。ゴホゴホッ お前のせいではない…。」ゴホゴホッ
提督「青葉、逃げろ…。逃げて助かれ…。」ニッコリ
あんな時でも、あの人は私を責めずに微笑んでいました。
そして、元凶である青葉を、助けようとしていました。
青葉「出来ません。司令官を置いて逃げるなんて。」
提督「行けっ!私は、もう助からない。命令だ!」
青葉「でもっ「重巡洋艦青葉、直ちにここを去れ。そして、生き延びよ。」」
青葉「司令官…。」
司令官は、どこにそんな力が残っていたのかと思うほどの力で、私を押しました。そして、私は進んでしまった。
もし、あの時、司令官を担いで逃げていれば。
司令官と、ともに残っていれば。
こんなに苦しまずに済んだかもしれないのに。
燃え盛る炎の中、振り返ると、何度も何度もあの人は『行け』とでもいうように手を振りました。
それが、司令官を私が見た最後の瞬間でした。
あの後は、夢中で逃げました。敵が次々と現れて、それを倒して逃げるだけで精一杯でした。
もう、助けることなんてできなかった。
戻ることなんてできなかった。
ああ、もしあのときに戻れるなら。
戻ってやり直せるなら。
私は何でもします。
でも、その願いはかないません。
わかっています。
だから、せめて、…。
あなたのところへ、行かせてください。この笛を抱いて。
「青葉、取材、…いえ出撃します。 あなたのもとへ。」
一之谷の軍破れ 撃たれし平家の 公達あわれ
暁寒き 須磨の嵐に 聞こえしはこれか 青葉の笛
更けくる夜半に 門を敲き わが師に託せし 言の葉あわれ
今わの際まで 持ちし箙に残れるは 「花は今宵」の歌
『青葉の笛』(『敦盛と忠度』) 作詞:大和田建樹 作曲:田村虎蔵
作詞者、作曲者ともに死後50年たってますので、著作権は大丈夫と信じたい。アウトだったらご連絡ください。該当部分を速やかに削除いたします。
生き残ったものは思い出を語り継ぐ義務が有るんだね。青葉くん。死ぬことはゆるされんぞ。死ぬことは望んでいないぞ
生きてお祖母ちゃんになり生きた記憶を
先に行った者に楽しく語ることが。
生き残ったものだけの義務で権利だ
コメントありがとうございます。
しかし、生きることはつらく、死ぬことは英雄的に見えて、(比較的)楽です。帝国海軍の伝統から見ると、生き残れば非難され、左遷、悪ければ解体でしょう。
ですが、おっしゃる通り語り継ぎ反省を生かすことは大事だと思います。
何故か感動してしまう...
他の作品も見さして頂きましたが、構成なんかもしっかりしていて読みやすいです。自分も書いてはいますが、設定も構成もガバガバで...。
これからの作品を楽しみにしています。
コメントありがとうございます。
長編の方は、最近忙しくてなかなか更新できておらず、申し訳ございません。
無陰暴流さんの作品も大変面白かったです。
ありがとうございます。励みになります。
民謡は良い、フォークは良いぞ。
サバイバーズギルトとでも言いますか。
この青葉にとって一番不幸なのは、司令ももちろんですが、間違った罪悪感を払拭してくれる仲間すらもいなかったことでしょう。
彼女の抱えた笛は誰かに届けられるのでしょうか。
箙に入れたまま海の底に沈んだのでしょうか。
彼女が敦盛であることを願うばかりです。