鉄血の御旗と共に
あの日僕は琥珀色の瞳を持つ少女とある約束をした。
需要があるかはわかりませんがアズールレーンのSSです。
以前クロスオーバーものを書いていた際に「アズールレーンだけで書け」との意見を頂いたのでとりあえず書き初めてました。
※設定や背景に関しては独自の解釈や改変を多く含んでいるので苦手な方はごめんなさい
PCでの更新をしているためスマホでは読みにくいかもしれません
駄文ですが フィーゼと凪の物語に最後までお付き合いいただけたら幸いです。
prologue <出会いと約束>
人の一生には途方も無い数の出会いと別れが詰まっている。
一口にそういっても一生のうちに一度しか体験することの無い出会いと別れは確かに存在している。
親との別れ、故郷との別れ、そんな希少な別れを物事を理解するよりも先に網羅してしまったらしい僕だからだろうか、変わりに人生において希少ではないものの貴重な出会いは人よりも多かった気がする。
両親を失い海上最強のメイドに拾われ、その知り合いの屋敷に引っ越して来てすぐのことだった。
メイドは優しかったけども知らない街や慣れない環境に子供ながらに居心地の悪さを感じた僕は暇さえあれば屋敷を抜け出し近くを散策していた。散策と言っても子供の足だ、行ける距離など限られていて日が傾けばすぐにメイドに
見つかってしまうそんな距離だった。
彼女と初めて出会ったその日は念願の自転車を手に入れ、散策の範囲を大きく広げたそんな日だった。
初めて辿り着いた場所に気分が高揚し気がついた時には日も沈み、少しずつ暗くなっていく辺りを見ながらこれは怒られたなっと説教を覚悟で帰路についていた時のことである。
屋敷から徒歩でも辿り着ける公園で僕は沈む夕日に淡く輝く銀色の光を見た。
門限のこともすっかり忘れて光の正体を確かめに行くとそこには腰まで届く銀色の髪に琥珀色の瞳を持つ少女が興味が無さそうに寂しげな音と共にブランコを揺らしていた。
そのどこか神秘的で怪しげな光景に僕はすっかり魅入られてしまって物陰からその様子をしばし伺った後、ついに声をかけた
「ブランコ好きなの?」
今思えばもっと他に声のかけようもあるだろう。日が沈んでもなおブランコをこぎ続けるブランコフェチなどいるはずも無い
少女は一瞬驚き、露骨な警戒の色をこちらに見せた後、首を横に振った。
「このあたりに住んでるの?」
少女が首を横に振る。
「僕、すぐそこのお屋敷に住んでるんだ。今度会えたら一緒にブランコしようよ」
子供心に初めての同年代の異性との会話にすっかり舞い上がってしまっていた僕はそんな突拍子もない提案を打ち出した。
この提案に少女は首を縦にも横にも振らずただじっとこちらを見つめていた。琥珀のような橙色の瞳に見つめられた僕は睨まれたような錯覚を覚え、意識はしてなかったものの初めてのナンパに失敗したという苦汁を胸に僕は屋敷へと帰った。
案の定メイドのお叱りの嵐に直撃し一週間の外出禁止令&自転車没収の刑に処された僕だったが昨日の少女が気になり気がつけば屋敷を抜け出し例の公園にいた。
今日はまだしっかりと太陽が仕事をしているというのに公園には人影がなく静寂に支配されていた。諦めてメイドへの言い訳を考えながら帰ろうとしたとき僕の耳が金属が寂しげに擦れるような音を捕らえた。胸の高まりを感じながら向かうと昨日の少女がそこにいた。
「こ、こんにちは」
僕が声をかけると昨日と同じく驚かれはしたものの警戒はされてはいないように思えた。
この日から僕は彼女と頻繁に会うようになった。会うといっても何をするわけでもない挨拶をして二人でブランコに揺られながら僕が一方的に話す。ふつうなら嫌われているとか煙たがられていると思いそのまま終わる関係だったが子供だった僕は空気が読めず毎日暇さえあれば公園へと足を向けた。そんなことを続けていたある日のことだった。
「今日はもう帰るね、僕の家怖いメイドさんがいて門限すぎるとヤバイんだ」
そう告げて帰路につこうとした僕の服の裾を少女が掴んだ。
「どうしたの?えっと」
ここで僕はあることに気がついた。こうして会うようになったものの未だにお互いの名前すら知らなかったのである。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は凪、君の名前は?」
「名前は・・・ない」
これが僕が彼女の声を始めて聴いた瞬間だった。
「名前ないの?」
少女が頷く
「じゃあ、いつも家族からなんて呼ばれてるの?」
「家族・・・私を知る者は皆私をフィーゼと呼ぶ」
「じゃあ僕もフィーゼって呼べばいいのかな?」
この問いにフィーゼは琥珀色の瞳で僕の顔を見つめながら今まで見たこと無いほどに首を激しく横に振った。
鈍感で子供な僕でもハッキリと拒絶の意が伝わる。
「貴方に私の名前を考えて欲しい」
「僕に?急に言われても難しいよ」
まさかの注文に僕が驚きを隠せないでいると彼女表情が曇る。さきほどまで力強く握られていた裾もいつの間にか解放され自由を手にしていた。
「あ、明日またここで!」
急に大きな声をだしたからだろうか、初めて出会った時以上に少女の驚きの表情を浮かべる。
「明日またここで、その時までにきっと考えてくるよ。君の名前」
「本当?」
「うん。でも、可愛いの思いつかなかったらごめんね」
「問題ない、貴方が私につけてくれた名なら」
「じゃあ約束、ゆびきりしようよ!」
「ゆびきり?」
「そう、約束事をするときにするんだ」
「契約の類か、わかった」
「こうやって小指をだして・・・・」
この会話が僕と彼女の最初で最後の会話となった。彼女との会話の余韻に浸る僕を屋敷で待っていたのはいつものメイドではなく見知らぬ大人達だった。
この日の夜、僕はある才能を見出されてメイドと共に軍の車で屋敷を後にした。
僕の頭の中はゆびきりを交わした時の少女の笑みとその笑顔を裏切ることになってしまったことへの後悔の念で一杯だった。
chapter1-1 <襲撃>
「凪、忘れ物はありませんか?」
「大丈夫だよベル。もう子供じゃないんだし」
「いいえ、凪はまだ子供です。ほら、ネクタイが曲がっています。」
そう言って僕を育ててくれた海上最強のメイドベルファストが僕の首元へと手を伸ばす。
その際に豊満な胸を視界が捉えてしまい健全な男子としてはドキっとしてしまう。
ベル「最近は物騒でございますから凪がまた誘拐されたらと思うとベルファスト心配で家事も手につきません」
凪「一体いつの話をしているのさ、僕だって今日から一応正式に軍人なわけだし自分の身くらい自分で護れるよ」
ベル「あら、ずいぶん可愛らしい軍人さんですこと」
凪「似合ってないのは否定しないけど傷つくなー」
このメイド、最近は僕をからかうことを生きがいとしているようにも見える。そう接してくれるように頼んだのは僕自身だし、業務的に接されるよりは全然マシだが男らしく見られたい年頃の僕としては可愛らしいという言葉は予想以上に心に響いた。
ベル「凪、早く行かないと遅刻しますよ」
凪「誰のせいだと思ってるのさ」
ベル「せっかくベルファストが1時間早く起こしたのに二度寝をした凪のせいかと」
正論を突きつけられた僕はぐぅの音もでなかった。
一応今日は僕にとって特別な日だった。入りたくも無かった軍の学園に入れられて4回目の春。今日という日こそ苦痛でしかなかった座学から解放され、一定の成果さえあげればある程度までの自由が許される身分へと昇格する日。つまり、栄えて指揮官となる日である。
個人としては終業書でも辞令でもさくっと渡して終わりだとありがたいのだがそうもいかず、新技術が導入された3隻の駆逐艦のお披露もかねて現在世界を代表する4大国家うちのユニオン、ロイヤル、重桜、の今期指揮官となるものたちへの着任式を盛大に執り行う予定となっていた。
ここで出てきた3隻の駆逐艦とは当然世間一般的にいう戦艦のことではない。艦船少女のことである。
艦船少女のことを簡単に説明してしまうと現在人類の脅威となっているセイレーンに対抗するために作られた切り札のことである。
その実態は「毒をもって毒を制す」つまりはセイレーンの技術を用いて作られたいうなれば敵の模造品(コピー)である。しかし所詮は模造品、原型(オリジナル)と比べればその性能には圧倒的なまでの違いがある。だが、それはあくまでも個としての戦力差を見たときである。
この革新的技術を得た当時の4大国家はそれまでのいざこざは一旦保留とし手を取り合い超国家軍事連合アズールレーンを結成。なんとか戦線を押し戻すことに成功した。のだが、次に待っていたのはセイレーンの反撃ではなく4大国家内での意見の対立である。そして事態は口論で解決しないなら力で通す、人類全体の脅威となるセイレーンを一旦保留とし艦船少女を用いた武力衝突へと発展したのである。
人類の存続と繁栄の為に結成された超国家軍事連合アズールレーンの理念は脆くも崩れ去り、後に残ったのは鉄血、重桜が属するレットアクシズとロイヤル、ユニオンが残った元アズールレーンである。
当初こそ派手な軍事的衝突を繰り広げていた両勢力であったが、昨今再びセイレーンの侵攻が活発になったことに対し各国ともに警戒の色を強め、とりあえずセイレーンだけはなんとかしようと再度協力の姿勢を見せ始めたのが現在の世界情勢となっている。
この合同着任式もそんな形だけの協力のアピールの一つだったりする。
式の会場は前述した通り新型艦船少女のお披露目も兼ねているため海を背にする形となっている。普段ならばこの辺りの海岸線一帯にはセイレーンの襲撃を想定した一定水準の武装が行われているのだが本日は式典ということもあり物々しさは消え去りお祝いムード一色となっていた。実態はお祝いの為というよりは国家間の協力体制のアピールの為なのだがそれは凪には知るよしもない。
会場には多くの人の姿があった。人ごみが苦手な僕としては嫌気のさす光景だ。つい、もしこの場にセイレーンが攻めてきたりしたらどうなるだろうか?なんて小学生みたいな考えが脳を過ぎる。
凪「あほらし」
自分の考えを口に出して否定したそんな時だった。
突然の轟音、否、この会場にいる大多数がこの轟音の正体をすぐに特定したであろう。
凪「砲撃、まさかほんとにセイレーンが来たっていのうか!?」
会場は指揮官となるため学んだことが何一つ生かされず大混乱の中にあった。無理もない、なぜならこの場にいる者のほとんどが今日から指揮官になるとはいうものの実践経験は一切無い烏合の衆なのだ。逃げようとするもの、この事態を自分手でなんとかしようとするもの、両名が異なる方向に流れを作ろうするものだから別に会場に向かって砲撃がなされたわけでもないのに人の波に揉まれた大勢のけが人が出ていた。
一方で一部の者たちは事態の収拾に向け行動を開始していた。
上官「セイレーンか!?」
部下「いえ、反応はありません」
セイレーンが現れるとき、決まって謎のエネルギーが観測されていた。研究家によればセイレーンが異なる次元から現れる際に発せられる莫大なエネルギーの一部らしいが真相はハッキリとはしていない。
「なら一体誰がこの大切な時に砲撃なんてしたりするんだ!」
上官の一人が誰もが知りたい疑問を声を荒げて叫んだときである。部下の一人が困惑の色を露わにしながら疑問に答えた。
部下「そんな、この旗は・・・でもどうして」
上官「正体がわかったのか?わかったのならさっさと報告しないか」
部下「て、鉄血です!鉄血の旗を掲げた艦船少女が4人会場へ向かってきます!」
上官「会場にだと?狙いは新造艦の3人か!急いで迎撃の用意をしろ!」
部下「その、まことに言いにくいのですが.・・・」
上官「ああ、式典ということで武装は解除していたのだったな!だから上には何度も式典だからこそ警戒しろといったんだ!無駄な予算ばかり使いやがって!やむをえん、待機している新造艦3人を迎撃に向かわせろ!」
それでは本末転倒なのではいう周りの空気を感じとったのか上官が早口気味に続ける。
上官「彼女たちの場合陸にいるよりも海に出たほうが安全だろう!それに時間を稼げば応援もくる」
このとき上官の頭の中にも混乱の津波が押し寄せていた。無理も無い、彼もまたロクに実戦経験の無い烏合の衆の一人なのだから。
仕事がシフト制なので不定期更新です。
かたつむりのような更新速度になる予定ですが今度こそ完結させますのでご意見、ご感想、改善案などございましたらよろしくお願いいたします。
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