少しおかしな鎮守府日記
謎が多い提督と問題を抱えている艦娘たちにのほのぼのとした日常、そしてたまー泣ける?そんな物語を目指したいです。
登場人物紹介
提督 (風咲一心)
通称 窓際鎮守府 の司令、整った顔立ちをしており色白。もとは別の鎮守府で活躍していたらいが詳細は不明。細かいことは気にしない性格でよく艦娘たちに呆れられている。
榛名
窓際鎮守府に咲く可憐な華、しかしドジっ娘。特技は何もないとこで転ぶこと
瑞鶴
とある問題を起こし窓際鎮守府へ左遷された、シスコンという風潮を気にしているが実際にシスコン。
翔鶴
瑞鶴と共に窓際鎮守府へ左遷された、理由は不明たが瑞鶴の問題行動に関係があるらしい。
ちなみに作者の嫁
霧島
特技 マイクチェック
やまと
なぜか小さいリトル大和。46cm砲とかつんだら多分つぶれる
シャルンホルスト
オリジナル艦娘。 雪のような純白の長髪に精巧なビスクドールのような美しい肌を持つ美少女
戦艦時代から戦争の為に作られたのは勿体無いと言われるほどのドイツの戦艦でビスマルクとは知り合いらしい
伊58
ヒロインみたくなってるけどあくまでも違う、このSSだとでち公感は0
伊19
エロすぎるので窓際鎮守府に左遷された
鳳翔
通称窓際鎮守府の中では1番提督と古くからの仲、提督の過去や秘密も知っているようでそのうえで支え、隣にいる1番の理解者
「知ってる、例の鎮守府の噂?」ヒソヒソ
「例の鎮守府って・・・・・・あの問題児組のこと?」ヒソヒソ
「そうそう、軍から見限られた通称窓際鎮守府さ」
「それがどうしたんだ?」
「それがね、どうやらでたらしいんだよ」
「でたってなにが?」
「この鎮守府から窓際鎮守府へ左遷される人が」
「一体誰なの?」
「決まってるだろう、例の妹さ」クス
「ああ、なるほど」クスクス
「可哀想に、姉まで道づれさ」
「大好きなお姉ちゃんも一緒か、流石幸運の空母様だ」クスクス
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?「かく、・・・・・・ずいかく、瑞鶴ってば!」
瑞鶴「ふぇ!?、急にどうしたのよ翔鶴姉」
翔鶴「急にじゃないわ、さっきから呼んでるのに貴女ったら返事もしないでぼーっとしてるんだもの」
瑞鶴「あー、ごめんなさい、少し考えごとしてたんだ」
翔鶴「考えごと?」
瑞鶴「大したことじゃないから気にしなくても平気よ。それよりもどうかしたの?」
翔鶴「私のほうも大した用事じゃないわ。ただ、もうすぐ到着するみたいだからどんな場所だと思うか少しお話しようかと思って」
瑞鶴「あまり良い場所じゃないと私は思う
・・・・・・」
突き刺すような寒さに襲わる冬のとある日、私と翔鶴姉はお世辞にも乗り心地が良いとは言えない軍の車に揺られてとある場所に向かっていた。
翔鶴「そういうことは言うものではないわ瑞鶴、噂なんて案外あてにならないものよ」
そう言って翔鶴姉は指をたてた。私は一言も噂のことなんか言ってないのにその単語がでてくるということは翔鶴姉自身が噂のことを気にしている証拠だろう。無論、私が気にしていないかと言えば嘘になるのだが
瑞鶴「じゃあ、翔鶴姉はどんな鎮守府だと思うわけ?」
翔鶴「さあ、行ってみないとわからないわ」
瑞鶴「何よそれ」クスクス
翔鶴「ふふ、でも提督はとても変わった人らしいわ」
瑞鶴「・・・・・・そうなんだ」
翔鶴「瑞鶴、そろそろ到着するらしいわ、降りる準備をしましょう」
言葉を交わした私たちは二人分あわせても大した量にならない荷物をまとめて車を降りる準備をするのだった
翔鶴「素敵なところね」キラキラ
瑞鶴「そ、そうだね」
私たちを置いた車は早々とその場を後にした。取り残された私たちの目の前に広がっていたのは・・・・・・
翔鶴「見て、瑞鶴!あれがくりすますつりーってものかしら!」パァァ
瑞鶴「・・・・・・楽しそうだね翔鶴姉」
翔鶴「瑞鶴は楽しくないの?、とっても綺麗じゃない」
瑞鶴「まぁ、綺麗だけど、ここ鎮守府なんだよね」
しかも噂の窓際鎮守府。とは口にはしなかったが、私たちの目の前に広がっていたのは色とりどりの電球で装飾された建物と翔鶴姉を童心に帰しているクリスマスツリーだった。よくよく周りを見てみれば雪だるまや誰が作ったか知らないがやけに精巧な戦艦大和の雪像までたっている
?「あの、翔鶴さんに瑞鶴さんですか?」
瑞鶴「はい、私が妹の瑞鶴で、向こうにいるのが姉の翔鶴ですが。貴女はこの鎮守府の方ですか?」
榛名「挨拶が遅れましたね、私はこの鎮守府の秘書艦を勤めさせていただいている榛名といいます」お辞儀
翔鶴「御丁寧にありがうございます、榛名さん」お辞儀
榛名「榛名で構いませんよ、ここでは寒いですし、そろそろ提督を呼んで中に行きましょうか」
瑞鶴「呼ぶ?傍にいるんですか?」
榛名「はい、提督ー、翔鶴さんと瑞鶴さんがご到着なされましたー、そろそろ中に入りましょー」
提督「了解だー、チビどもが作った星を付けたらいくー」
榛名さんの呼び掛けに確かに男性のものと思われる声が返事をした。しかし、依然として姿は見えないままだ
翔鶴「!瑞鶴、あそこ」
瑞鶴「どうしたの翔鶴姉?・・・・・・あ」
翔鶴姉が指差したのはクリスマスツリーの先端付近。そこには軍服を着た男性が手にした星を付けようと悪戦苦闘していた
提督「よし、はるなー!俺もすぐ行くから先に中に行ってていいぞー」
榛名「っと、おっしゃっているので中に参りましょうか」
翔鶴&瑞鶴「は、はい・・・・・・」
唖然とする私たちを連れて榛名さんは鎮守府の中へと向かった、私が振り向いてクリスマスツリーを見たときに提督の姿はすでにそこにはなくただ星の飾りだけが爛々と輝いていた。
瑞鶴「きれい・・・・・・」
鎮守府内を見て私は思わず口にしてしまった。外観だけではなく鎮守府の中も色で溢れていた、きっと鎮守府としては正しくない姿なのだろうが少なくとも古巣よりは心の踊る景色だった。
瑞鶴「この飾りとか装飾は榛名さんがしてるんですか?」
榛名「私もしますけど基本的には皆さんが気の向くままに飾ってますね」
提督「なんなら瑞鶴たちもしてもいいんだぞ」
瑞鶴&翔鶴「!?」
私たちが驚き振り替えるとそこには先ほどの軍服の男性の姿があった。
瑞鶴(この人、随分肌が白いわね。まるで女の人みたい・・・・・・)
提督「俺の顔になにかついてるか?」
瑞鶴「いえ、申し訳ありません」
提督「謝らなくてもいいだろ、謝罪は己の非を認めるってことだぞ」
瑞鶴「は、はぁ・・・・・・」
瑞鶴「どうしよう翔鶴姉、私この人苦手かも
」ヒソヒソ
翔鶴「そう?私は嫌いではないけど」ヒソヒソ
提督「さ、早く執務室に行こう。簡単なものたがお茶菓子も用意してあるからな」
私たちは促されるがまま執務室へと向うのであった
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提督「さて、改めて我が鎮守府へようこそ。瑞鶴、翔鶴」
瑞鶴&翔鶴「宜しくお願いいたします!」敬礼
榛名「畏まらなくても平気ですよ、この鎮守府では提督に敬語を使う人のほうが珍しいですか・・・・・・キャ」
何もない場所でお茶を用意してくれていた榛名さんがつまづく
提督「っと、今回はテーブルまであと一歩だったな。進歩したな榛名」
榛名「申し訳ありません・・・・・・」
提督「悪いな、我が家の榛名は少しドジっ娘でな。これでもよくなってはきてるんだが」
しっかりとキャッチしたお茶を榛名さんの代わりに提督が私たちの前に用意する
提督「さて、二人は何が質問があるか?」
翔鶴「では、この鎮守府では週に何回ほどの出撃があるのでしょうか?」
提督「週?週には0だな」
翔鶴「え?」
提督「出撃なんかないぞ、1ヶ月に一回あればいいほうだな」
瑞鶴(さ、流石窓際鎮守府ね・・・・・・)
提督「だが演習はあるからなー、演習を出撃としてカウントするなら週に3回ってとこだろうな」
瑞鶴「演習相手がいるのね・・・・・・」
翔鶴「ず、瑞鶴!申し訳ありません!」
提督「気にするな、気にするな。俺としてはそうやって思ったことは口にしてくれたほうが助かる」
瑞鶴「お言葉に甘えさせてもらおうかしら」ニヤリ
提督「お手柔らかにな」
翔鶴「妹が申し訳ありません、悪い子ではないのですが」ヒソヒソ
榛名「安心してください、提督は暴言くらいで罰をあたえるような人ではないので」ヒソヒソ
提督「さてと、それじゃあ解散だな。部屋の外に案内役を呼んであるから二人とも部屋まで案内してもらってくれ。あと今夜はヒトハチマルマルから歓迎会が予定されているから主役は遅刻しないようにな」
瑞鶴&翔鶴「了解」敬礼
バタン
提督「想像してたのとは少し違ったな」
榛名「っといいますと?」
提督「姉のほうはしっかりと会話できたし、妹も良いこっぽいじゃないか」
提督「上官を爆撃して半殺しにしたって聴いたからどんなコマンドーがくるかドキドキしていたが心配して損した」
榛名「あら、意外にしっかりと書類を読んでいるんですね」
提督「まあな。しかし、そうなると姉のほうが心配だな」
榛名「そうでしょうか?榛名は大丈夫だと思いますが」
提督「おい、よそ見してるとまた転ぶぞ」
榛名「榛名は大丈夫で・・・・・・キャあ!」ガシャーン
提督「・・・・・・ハァ」
片付けようとしていた食器と共に宙を舞った自分の秘書艦を見て提督は大きく息をついた
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瑞鶴「もう!部屋までの案内役をつけておくな ら歓迎会の会場までの案内役もつけておきなさいよ!」
翔鶴「少し迷っちゃったけどなんとか遅刻せずにすみそうね」
瑞鶴「そもそもあの案内役は誰よ、あんな艦娘みたことないんだけど」
翔鶴「シャルンホルストさんって言っていたかしら。あ、会場あそこみたいよ瑞鶴」
パーン!!
「「「鎮守府へようこそ!!」」」
翔鶴姉が扉を開けると同時にクラッカーの音と歓迎の言葉が私たちの耳に押し寄せてきた
やまと「瑞鶴さん、翔鶴さん。貴女たちの席は向こうに用意してあるわ。」
瑞鶴「え?え?」
翔鶴「・・・・・・はい?」
私も翔鶴姉も思わず奇妙な声をあげてしまった。頭がイマイチ状況を呑み込めていない、それもあると思う。ただ、一番の原因は私たちの目の前で丁寧なお辞儀をする連合艦隊旗艦として有名な大和の存在だろう。
やまと「さあ、参りましょう」
そう言うと懸命にのばした手を繋ぎ私たちを案内してくれる
そう、私たちの目の前にいる大和はなぜか小さかったのである。向こうでクラッカーのゴミを榛名さんと片付けている駆逐艦の娘たちと大差のない身長だ。
瑞鶴 (提督が言ってたチビどもって大和さんのことなの?)
案内されたテーブルには隙間がないほどに料理が並んでいた
提督「お、主役の登場か。それじゃあそろそろ始めるか」
「はやくしろー」「待ってましたー」「呑むぞー」「うずうずするのね!」
提督「霧島、頼む」
霧島「こほん、では。あーマイクチェックマイクチェック」
瑞鶴「?」
提督が此方を見てしきりに耳を指さすので首傾げてしまう。
霧島「歓迎会の始まりだぁあああああああ!!」ビリビリ
瑞鶴&翔鶴「ぴぃ!!」ビクゥ
大地を揺るがすような開会の言葉に飛び上がる私たちを見て提督は笑った。
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瑞鶴「うー、疲れたわ・・・・・・」
歓迎会が始めると同時に私たち姉妹は質問攻めの餌食になった。悪い気はしなかったが返事に疲れた私は翔鶴姉を身代わりに一旦会場の外に退却していた。・・・・・・ごめん翔鶴姉
提督「ん、パーティーの主役がこんなとこで何してるんだ?」
瑞鶴「ぴぃ!」ビクゥ
瑞鶴「なんだ、提督じゃない。驚かせないでよ」
提督「驚かせるつもりはなかったんだけどな」
瑞鶴「私は少し涼みに来たのよ。鎮守府の主役の提督はこんなところで何してるのかしら?」
提督「まあ、俺も似たようなものだな」
瑞鶴「ふーん」
暫しの沈黙の後に先に口を開いたのは提督だった
提督「どうだ、上手くやっていけそうか?」
瑞鶴「まだわからないわ」
そりゃそうか、と提督は笑った。
提督「瑞鶴、知ってるとは思うがこの鎮守府は少し特殊でな」
私は無言で続けるように促す
提督「まず、建造が禁止されてる。人員は上から派遣されるから貴重な資材を無駄にする必要はないって話だが・・・・・・まぁ間違いなく違う理由だろうな」
提督「次にこの派遣される艦娘なんだがな、これがまた少し愉快な奴らばかりで なぜか小さく建造された奴や 致命的にドジな奴に 恐怖から戦場にでれない奴と軍からみればそれこそ致命的な奴らばかりだ」
瑞鶴「・・・・・・」
提督「部屋を案内させたシャルンがいただろ?アイツなんて見たことのない艦娘だからって理由だけで棄てられてうちに来たんだ」
提督「奇妙なもんだ、人の人生も価値もごく少数の人間が決めてレールを敷くどころか箱にしまっちまう」
瑞鶴「提督は違うって言うの?」
提督「どうだろうな。少なくとも命令なんてするのは柄じゃないし、そういった連中になりたくないとは思っているな」
瑞鶴「信じてあげるわ」
提督「・・・・・・ありがとな」
瑞鶴「提督の言葉をじゃないわ。この鎮守府を見て思ったのよ!」
提督「怒ってるのか?」
瑞鶴「そ、それより奇妙な連中に提督も含まれてるのかしら?」
提督「俺か?」
提督「俺はな、化け物なんだよ」
提督はそう言うと自虐的な笑みを浮かべた
提督「さて、お互いそろそろ戻るとするか」
そう言って私に背を向けた提督の瞳が一瞬見覚えのある色に光ったような気がした
瑞鶴「あ、あのさ」
提督「ん?」
瑞鶴「これから宜しくね提督さん」
私がそう言うと提督は笑みを返してきた。その笑みは先ほどの物とは違い真っ直ぐなものに私には見えた。
こうして私たち姉妹の奇妙な鎮守府での生活は始まったのだった。
ーーー 潜れない潜水艦でち ーーー
瑞鶴「提督さんいるー?」扉バーン
榛名「あら瑞鶴さん。提督なら多分プールのほうに居ると思いますよ」
瑞鶴「えー、この寒いのにプール?提督って変な人だとは思ってはいたけど実は馬鹿なだけなの?」
榛名「提督は馬鹿ですよ」
瑞鶴「榛名さんに言われると提督も末期ね」
榛名「提督になにか用なら私はから言っておきますよ?」
瑞鶴「平気、自分で直接いくわ」
そう伝えると私は部屋をあとにした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊19「ゴーヤ頑張るのね!」
伊58「で、でち」
瑞鶴「あれ、なにやってるの?」
プールの中央でなにやら声を上げる二人のほうに視線を向けながら提督に質問をする
提督「潜水練習だな」
瑞鶴「ふーん・・・・・・で提督は何してるのよ?」
提督「やいてた」
瑞鶴「・・・・・・」
プールサイドに寝転んだ提督は上は裸にパーカー、下は短パンという格好で律儀にもサングラスまでかけている
瑞鶴( 提督って結構いい身体してるのね。色白だしもやしかと思ってたわ)
提督「・・・・・・瑞鶴」
瑞鶴「な、別に提督の身体なんて見てないわよ!」
提督「さむい」
瑞鶴「早く服を着なさい!」
私は畳んで置いてあった軍服を提督の顔面に叩きつけてやった
伊58「てーとくー」
提督「お、どうしたゴーヤ。少しは進展があったか」
伊58「水中で目があけられたでち!」
提督「おー、凄いじゃないか」
伊58「えへへ」
瑞鶴( いい笑顔ね )クス
提督に頭を撫でられ満面の笑みを浮かべる伊58を見て私も思わず笑みをこぼしてしまう
伊19「まだまだなのね!」
伊19「まだ1mmも潜れてないのね!本番はこれからなの!」
提督「頭まで潜った段階で1mm以上は潜ってるだろ」
伊19「提督は黙ってるの!」
伊19「さあ、ゴーヤ。いくのね!」
伊58「でち!」
提督「怪我はするなよー」
再びプールに向かう二人を見送ると提督が私のほうをむいた
提督「ところで瑞鶴はどうしてここに来たんだ?」
瑞鶴「あ、忘れてたわ。鳳翔さんに提督を呼んでくるように言われたのよ」
提督「・・・・・・な、何分前の話だ?」
瑞鶴「えーっと、30分くらい前かな」
提督「(;・∀・)」
瑞鶴「提督?」
提督「忘れてたぁぁぁ!!」猛ダッシュ
瑞鶴「ちょ、ちょっと提督さんどこ行くのよ?外に出るなら服を着なさーい!!」
後日、妙に笑顔の鳳翔さんに話を聴くと、どうやらこの日二人は買い物に行く約束をしていたらしい。デートですか?と聴いたときの鳳翔さんの困ったような嬉しそうな顔を私は多分忘れないだろう。余談になるのだけど、この時水着で猛ダッシュする提督の写真は一部の艦娘の間でお宝として保管されたらしい
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提督「っと終わったか」
時計を見てみると既に0時をまわっていた。鎮守府を運営する立場としてデスクワークをするのは仕方ないのだが、やはり自分には向いていないようで気が付けば榛名を帰してから既に2時間以上たっていた
提督「さて、一応見回りしてから俺も寝るとするか」
机の引き出しから懐中電灯を取りだし、立ち上がったその時、執務室の扉がゆっくりと開かれた
伊58「てーとくー、居るでち?」
提督「そういうのは普通扉を開ける前に聴くもんだぞ」
伊58「ごめんなさい」
提督「次からはやるなよ。もし俺が着替えてたりしてたらどうするんだ?」
伊58「嬉しいでち!」
提督「馬鹿いえ」デコピン
伊58「痛いでち・・・・・・」
提督「それで、こんな時間にどうしたんだ?まさかトイレに着いてきてほしいとかじゃないだろうな?」
伊58「ち、違うでち!もっと大人な理由でち!」
提督「ほぅ、その大人の理由とやら聞かせてもらおうか」
伊58「眠れないから一緒に寝てほしいでち」
思わずゴーヤに聞こえるようなため息をついてしまう。なるほど、夜中に男性の部屋を訪ねて一緒に寝てほしいとはたしかに大人だ。まぁゴーヤにその気はないのだろうけど。無論俺にもそう言った趣味はない
伊58「駄目・・・・・・でち?」
提督「なぜ今日来たんだ?」
提督「ゴーヤ、お前ここ最近あまり寝てないよな、どうしてもっと早く来なかった?」
伊58「な、なんで知ってるでち?」
提督「見回りの時いつもお前の部屋だけ電気が点いてたからな。夜更かしして遊んでるなら黙認してやるがどうやら違うみたいだな」
伊58「そ、それは・・・・・・」
提督「・・・・・・俺の部屋に枕は二つないからな、さっさと取ってこい」
伊58「提督を枕にしたら駄目でち?」
提督「馬鹿いえ」デコピン
伊58「痛いでち」
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伊58「てーとく、もう寝ちゃったでち?」
提督「布団に入って3分で寝ついてるわけないだろ」
俺とゴーヤは二人仲良く天井を見る形で布団に入っていた。色々考えたが多分この形が一番無難だろう
提督「なぁ、ゴーヤ。まだ海は恐いか?」
伊58「海は恐くないでち・・・・・・ただ」
提督「ただ?」
伊58「暗いのが恐いんでち。静かなのが不安になるんでち」
提督「そっか」
潜れない潜水艦、それがゴーヤがこの鎮守府に送られてきた理由だ。だが、ゴーヤは最初から潜れなかったわけじゃない、潜れなくなったのだ
伊58「どうしても海の底を思いだすでち・・・・・・」
ゴーヤが居た鎮守府はいわゆるブラック鎮守府だった。その日ゴーヤたちの部隊はろくな補給も受けないままとある海域へと出撃をした。その海域には豊富な海底資源が眠っているとされていたが同時に敵の戦力もまた未知数とされる危険な海域だった。
任務の結果は今のゴーヤを見ればわかるように失敗だった。それは最悪ともいえる失敗だった。敵を発見したゴーヤたちだったがその数は味方の何倍もあったという。体調や補給が万全なら応戦しつつの退却もできたかもしれない、しかし連日の出撃により疲れきっていたゴーヤたちは一人、また一人と海の底に沈んでいった。
沈みかけたゴーヤを助けてくれたのは部隊の旗艦をつとめていたイムヤと言う少女だったらしい。彼女は自身の身体を盾にして仲間を守ろうとした、彼女は最後まで来るはずのない救援を信じ仲間を逃がそうとした。
そして数日後 彼女に抱き抱えられた形でゴーヤが俺の鎮守府に流れついた。
俺にイムヤと名乗った少女は俺に事情を説明すると
イムヤ「ゴーヤを助けてあげて、この娘寂しがり屋なのだから貴方がそばにいてあげてほしいの」
提督「いくらでも居てやる!だが君も一緒だ!」
イムヤ「・・・・・・ねぇ、知らない提督さん。最後にもう一つだけお願いしていいかしら?」
少女の声は既に微弱なものになっていた。それが彼女自身にもわかったのだろう。彼女は俺の耳元で最後の願いを口にした
ー 私が眠るまで頭を撫でてほしいの ー
提督「頑張ったな、イムヤ」
イムヤ「提督、イムヤ頑張ったよ」
その言葉は俺ではない誰かに向けられた言葉だった。 そして、それを最後に彼女が瞳を開けることはなかった。イムヤの頬には海水とは違う液体がつたっていた。
伊58「昼間の鎮守府には皆の声が溢れてて眩しいくらい明るいでち、でも夜になると誰の声も聞こえなくて暗くて・・・・・・てーとく?」
提督「大丈夫、大丈夫だ」
気が付けば俺はゴーヤを抱きしめていた
提督「俺がそばにいてやる。俺の手は小さいけどな、それでもお前の小さな身体は抱いてやれるくらいはあるんだ」
提督「不安なら俺を呼べ、恐いなら俺を頼れ、恐怖を超えるくらいの喜びが見つかるまで俺が手を握っててやる」
伊58「てーとく・・・・・・」
提督「だからなゴーヤ、 恐れと悲しみだけでお前の世界を満たさないでくれ、潜れなくていい泣き虫でもいい、だからこれだけは約束してほしい」
伊58「提督、喜びならもう見つけたでち」ギュ
伊58「提督、今日だけはこのまま眠ることを許してほしいでち」
提督「お前が望むなら」
伊58「嘘ついたら酸素魚雷呑ませるでち」
そういうとゴーヤは静かな寝息をたて始めた。よほど疲れていたのか寝つくまでさほど時間はかからなかった
提督「おやすみゴーヤ、せめて夢の中では平和を・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「ふわぁーーあ」
榛名「提督、もしかして昨日あのあともずっと仕事をなさってたんですか?」
提督「あー、まぁ仕事なのかな?」
榛名「?」
伊19「てーとくー」扉バーン
伊19「ゴーヤが、ゴーヤが普通に泳いでるのね!」
提督「そうか、そいつは一大事だな」
伊19「・・・・・・それだけじゃないのね」
提督「まだあるのか?」
伊19「ゴーヤに理由を聴いたら てーとくーに大人にしてもらったでち! って言ったのね!これはどういうことか説明してほしいの!」
榛名「!!」
提督「んな!?」
伊19「返答しだいではお仕置きなのね」ゴゴゴ
提督「俺にそんな趣味はない!榛名からも何か言ってやってくれ」
榛名「提督、榛名は大丈夫じゃありません・・・・・・」ハイライトオフ
提督「お前もか!」
てーとく、ゴーヤは喜びを見つけたでち。でもこの喜びはみんなの喜びでゴーヤが独り占めできるものじゃなさそうでち。 でも絶対に譲らないから覚悟してほしいでち
鎮守府内が提督ロリコン疑惑に沸く中ゴーヤはプールの中から空を見上げ微笑んだ
潜れない潜水艦
ー断章 迫る闇ー
中央総司令府
「元帥閣下、また一つ鎮守府が深海凄艦に襲われ壊滅しました」
元帥「被害は?」
「所属していた艦娘は全滅。資材や施設も回収できませんでした」
元帥「艦娘は非常に残念だが施設は仕方あるまい 」
「しかし、最近の深海凄艦の勢いは異常です。限られた物資で戦うことを強いられる以上黙視するのもそろそろ限界では?」
元帥「ならばどうする?敵の拠点の場所もわからんのに大規模な討伐作戦でも行うか?それこそ資材と時間の無駄ではないのか?」
「しかし・・・・・・」
元帥「奴らの目的はわかっている、奴らは探しているんだ」
「探している?」
元帥「ああ、自分たちの提督をな」
「提督ですか?しかし、深海凄艦にそういった高度な思考があると?」
元帥「あるとも、なぜならアレらは艦娘の成れの果てだ」
「!!そ、それは」
元帥「君、階級はいくつだったかな?」
若い海軍の驚きの声は元帥の質問によって遮られた
「先日准将になりました」
元帥「ならばそれ以上の疑問はもつな、死にたくなければな」
准将「っ!」
元帥(しかし、奴らはなぜ今頃になって彼を探す?)
元帥(やはり計画通りことを進めるか)ニヤリ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「はくしょん!!」
瑞鶴「うわ、きたな!」
翔鶴「風邪ですか?」
提督「知らん、自分の身体のことなどいちいち気にしてられるか」
瑞鶴「気にしなさいよ・・・・・・」
翔鶴「無理はしないで下さいね」
断章終
ーーーーー 翔べない(とべない)鶴 -----
瑞鶴「何よこの騒ぎは・・・」
窓際鎮守府の食堂は常に賑わっている、朝昼晩は当然食事のために賑わい、それ以外の時間も私たちの憩いの場所として開放されている。
それにしても今朝の賑わいは異常だ、集まっている人数は普段と変わりないがなにやら食事をとるには似合わない気迫のようなものをまとっている
翔鶴「限定のメニューでもでるのかしらね?」
瑞鶴「わからないけど・・・席空いてるかしら?」
?「おー、お二人さんや、おはよー」
人の波をかき分けて進んで行くと不意に声をかけられる
瑞鶴「え、えっと」
さりげなく視線を翔鶴姉のほうに向けるが首を横にふられてしまった、どうやら私だけではなく翔鶴姉も知らない顔らしい
北上「あー、会うのは始めてだったね、私は北上よろしくね」
瑞鶴&翔鶴「「よ、よろしくお願いします」」
北上「そんなに畏まることはないよ。まぁ、とりあえず座りなよ」
促されるままに私たちは北上さんの腰をおちつかせる
瑞鶴(なんだか感じが提督に似てるなぁ・・・)
飄々としていてつかみどころがなくそれでいて此方の全てを見透かされているような感覚、お世辞にも心地の良いの感覚とは言い難いものだ
北上「あんまり見つめられてもお姉さん困っちゃうぞー」
瑞鶴「ご、ごめんなさい」
翔鶴「北上さん、今日はなにか行事がある日なのでしょうか?」
北上「くじ引きをやるんだよ」
翔鶴&瑞鶴「「くじ引き?」」
北上「そ、至って普通のくじ引きさね」
瑞鶴「それにしては随分みんな気合いが入ってるみたいだけど、賞品が豪華なの?」
北上「豪華ではないよね」
翔鶴「では・・・・甘味処間宮のお食事券とか?」
北上「いいねー、それなら私も参加したかな」
北上「正解はね、一か月秘書艦をやる権利だよ」
北上さんの話によるとこの鎮守府の秘書艦は基本的には榛名さんなのだが、三か月に一度 榛名さんに休暇を与える意味も兼ねて秘書艦
を一か月だけ別の人にするらしい。当初は鳳翔さんに一任されていたのだがやってみたいという人が増えたために公平にくじ引きという形をとることで落ち着いたとのことだ
瑞鶴「なにそれ罰ゲームじゃ・・・」
提督「罰ゲームで悪かったな」
瑞鶴「ぴぃ!!」ビクゥ
いつの間にか背後に立っていた提督に肩に手をおかれる
瑞鶴「な、なにするのよ!セクハラよセクハラ!」
提督「お、北上か久しぶりだな」
瑞鶴「無視するなー!!」
翔鶴「瑞鶴落ち着いて・・・」
北上「うん、久しぶりだね提督」
提督「ほら、あと引いてないのはお前らだけだ、さっさと引いてくれ」
そう言うと提督は穴の開いたダンボール箱をこちらへ差し出してくる
瑞鶴「はいはい」ッス
翔鶴「では失礼して・・・」ッス
北上「私はパスで」
瑞鶴「パスできるの!?」
提督「嫌がるヤツに無理やりやらせるわけにはいかないだろ」
瑞鶴「へ、返品は?」
提督「認めん」
瑞鶴「うう」
おそるおそる引いた用紙を見てみるとそこには那珂ちゃんがミ○キーの包み紙のように所狭しとプリントされていた
瑞鶴「なにこれ?」
北上「那珂ちゃんの顔がきれずに10個プリントされてたら当たりだよ」
瑞鶴「めんどくさいわね・・・あ、8人しかいないわ」
提督「ふむ、ハズレだな」
瑞鶴「今だけは幸運艦である自分を誇ってあげたい気分だわ」
幸運艦、この単語を口にしてみて私の中に一つの仮説が生まれた、秘書艦は一人だけしか選ばれない。ならば当然ダンボール箱の中の10那珂も一枚しか入っていないはずだ。さて、ここで先ほどの提督の言葉を思いだしてみよう・・・
「引いてないのはあとお前らだけだ・・・・」
もし他の人が私のように引いた瞬間にクジの当たりハズレを確認していたとしたら当たりがでた瞬間くじ引きは打ち切りとなるはずだ。そうなるとパスした北上さんのぶんも含めたとしても翔鶴姉が10那珂を引く確率は二分の一、50%である。
翔鶴「みてみて瑞鶴、那珂ちゃんが11個もプリントされてるわ」
北上「当たりだねー」
提督「当たりだな」
この瞬間、提督の臨時の秘書艦が決定した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瑞鶴「提督!」
くじ引き騒動のあと簡単な食事を済ませ仕事に戻ろうとしていた提督を私は呼び止めた
提督「どうした瑞鶴、なにか用か?」
瑞鶴「あのね、秘書艦の話なんだけど」
私の言葉を聞いた提督は右手の親指を額にあて小さく息をついた。そのしぐさはまるで
今、お前の言いたいことに対しての返答を用意するから少し待っていろ
とでも言いたげなものだった
提督「翔鶴が心配か?」
提督の返答に私は思わず息を呑んでしまった。提督の予想した返答はまさに私が聞きたいことと一致していたからだ
瑞鶴「秘書艦なら私がやるわ」
提督「それは翔鶴が了承済みか?」
瑞鶴「まだよ・・・でもきっと了承してくれるわ」
提督「きっと了承してくれる・・・あんなことがあったから」
瑞鶴「ッ!!やっぱり知ってるのね」
提督「詳しくは知らない、書類に書いてあったことがお前たちにあった全てではないのだろう?」
瑞鶴「知らないなら素直に言うことを聞いて!!」
提督「お前のソレが翔鶴に対する優しさなら考えてやったが、今のお前の行動は自己満足、あるいは自身の行為に対する自分勝手な贖罪にしかなっていない」
瑞鶴「何も知らないのに口をはさまないで!!」
提督「俺はそんなに器用な人間ではないのでな、お前がなにを考えているのか、お前たちに何があったのかなんてのはお前が自分の言葉で教えてくれなきゃ知る由もない。翔鶴の気持ちだってアイツが自分の言葉で形にしてくれなきゃ誰にもわからない、勿論お前にだってだ」
瑞鶴「ッこの!!」
ついッカっとなって この時の私に一番似合う言葉だと思う。提督の指摘は当たっていた、当たっているからこそ頭に
血が上ったのだ。わかっているのならどうして言うことを聞いてくれないの?わかっているならどうして・・・
助けてくれないの?
私が提督に向けて握った拳は第三者の静止によって止められた
鳳翔「瑞鶴さん、貴女はなにをするつもりなのかしら?」
瑞鶴「鳳翔さん・・・・・・」
気が付いたときには私はその場から逃げだしていた。子供みたいに喚き散らして提督に諭されて私の気持ちを理解してくれない
正論に腹が立って・・・・・そんな私自身が一番苛立たしかった。
鳳翔「なにをなさっていたのですか提督?」
提督「俺が不甲斐ないからな、瑞鶴が喝をいれてくれていたところだ」
鳳翔「・・・・・・はぁ」
提督「露骨に呆れないでくれ、お前に見捨てられると困る」
鳳翔「見捨てなんてしませんよ。提督もこれで見限るつもりはないのでしょう?」
提督「・・・・仕事に戻る。このことは他の奴らには内密に頼むぞ」
鳳翔「了解しました、それと少し待ってください」
提督「どうしッグ!?」
鳳翔「喝を入れてもらっている途中だったでしょう?かわりに私が居れておきました」
提督「・・・ほうしょ・・・みぞおち」プルプル
鳳翔「提督、ご武運を」クス
提督「まかせておけ」
俺は絶えず激痛を送り出してくるみぞおちをさすりながら翔鶴が待つであろう執務室へ向けて歩きだした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翔鶴 「提督、こちらの書類はどちらにしまっておけばよいでしょうか?」
提督「ん?ああ、そこらに置いてくれればいいよ」
提督(翔鶴のほうは変化なしか・・・瑞鶴の態度からしてなにかあると思ったんだが)
翔鶴「あ、あの提督なにか?」
提督「あ、いや、榛名にやらせると既に4個はものが壊れているからな、感慨深くてな」
無意識のうちに翔鶴を凝視していたようで疑問の目を向けられてしまう
提督(翔鶴の問題はすでに自身で解決済みと捉えるべきかそれとも・・・)
上層部から届いていた報告書には瑞鶴のことしか書いていなかった。
それならば左官の対象となるのは瑞鶴のみのハズだ。しかし、結果として翔鶴も含めた二名が
我が鎮守府へと左官されてきた。報告書の内容に違和感を感じた俺は「瑞鶴上官爆撃事件(仮)」
の調査を担当した憲兵に手を回し真相の調査を行った。その結果が届いたのはつい先日のことだ
瑞鶴と接し初めてまだ日は浅いが少なくとも理由もなしに誰かを傷つける人間ではないというのは
わかった。では、事件当日瑞鶴が上官を半殺しにした動機とは?その動機こそが姉である翔鶴だった。
結論から言えば姉の翔鶴は上官から日常的に暴行を受けていた。そのことを知った瑞鶴が上官を半殺しにしたのだ。同情する気は一切ないし、今は無事に退院をして提督業に復帰したとのことだ。
~ 翔鶴 視点 ~
なにやら先ほどから視線を感じる。当然、視線の正体は提督なので恐怖はあまり感じないのだが突然秘書艦をやることになった身としてはなにか粗相をしてしまったのではないかと不安にはなる。そういった理由から私は提督は目を会わさないようにし、手元の作業にのみ全神経を集中させていた。
( なにかしらこれ? )
棚の掃除をしている手を止める、よく見れば後ろになにかが落ちているようだ、手をのばしてみるがあと少しのとこで届かない。
「手に持ったはたきでこっち側に引き寄せてみたらどうだ?」
言われてみれば確かにその通りである。私ははたきの向きを持ちかえ何かの端に引っかけて引き寄せた。
翔鶴「提督、とれました!・・・・・・何を笑っているんです?」
提督「いや、急にピタッと動かなくなったと思ったら懸命に手をのばしている姿が可愛いくってな」
翔鶴「うぅ」
提督「それで、お目当ての物はなんだったんだ?」
羞恥から目をそらすように引き寄せた物を見てみるとその正体はどうやら写真たてのようだ
翔鶴「写真?」
提督「写真・・・・・・あぁ」
提督はどこか納得したように微笑を浮かべると私の手から写真たてを取り棚に戻した
提督「無いとは思ってはいたんだが、あいつこんな場所に落としてたんだな」
翔鶴「これは提督と・・・・・・えっと」
提督「扶桑と加賀、俺を人形から人間にしてくれた奴らだよ」
翔鶴「扶桑さんと加賀さん」
提督「わからなくて当然、この鎮守府にはいないからな」
提督の表情からなんとなく悟った私は二人のことにそれ以上の追求はしなかった
翔鶴「大切な物なんですね」
私の言葉に提督は躊躇したような様子をみせてから口を開いた
提督「過去の時間に縛られて今を見ることができないのならそれは死んでいるのと変わりがない」
翔鶴「え?」
提督「昔な、そう言って鳳翔に捨てられかけたんだよこの写真。まぁ、俺が悪かったんだけどな」
提督「思い出ってのは過去に留まるための枷じゃないって叱られたんだよ」
翔鶴「それでも私は思い出に留まりたいです・・・・」
提督「そうか」
そう言って提督は私の頭を優しく撫でた。
あぁ、今なら妹の言っていたことが理解できる気がする。言葉にせずとも理解してくれているような心地良さ、それはこんなにも嬉しく、かくも恐ろしいものなのか
提督「さーて、今日も仕事はないが働くとするか」
背伸びをする提督に私は簡単な返信を返した
そんな私を見て提督は笑みをうかべた、その笑みに私はある言葉を口にしかけて呑み込んだ。
翔べない鶴(想い編)続く
ーーー オデカケ ーーー
この話は潜れない潜水艦の話にあった鳳翔と提督が出掛けた話です。
その日、鳳翔は鏡の前で念入りに自身を飾っていた。ある意味戦闘を前にしてもここまで念入りな準備はしないかもしれない
鳳翔「可笑しくないかしら?」
当然目の前の鏡が返事をくれるわけはないのだが、つい言葉にしてしまう。
返事のない鏡を前に本日何度目かの髪のセットをしたあと私は自室をあとにした。
廊下の窓に少しだけ普段と違う自分の姿が映った、あの人は気がついてくれるだろうか?もし気がついたらなんと言ってくれるだろうか、そんなことを考えたら私の頬は自然と緩んでいた。
鎮守府の玄関先、約束の時刻になっても提督の姿はなかった。実際は約束の時刻から5分もたっていないのだが、短い間隔で何度も時計を確認しているせいか体感的にはとても長く感じる
瑞鶴「あ、鳳翔さんおはようございます」
鳳翔「おはようございます瑞鶴さん。提督を見なかったかしら?」
瑞鶴「提督ですか?見てないですよ」
鳳翔「そう、もし提督を見かけたら私が待ってたと伝えておいてくれないかしら?」
瑞鶴「了解しました」
会釈をしたあと一度こちらに背を向けた瑞鶴さんがなにかを思い出したかのように立ち止まった。
瑞鶴「あまり美人を待たせるな!って私からキツく説教しておきますね」
それだけ言い残すと彼女は執務室のほうへ走って行ってしまった。
それから水着姿の提督が私のもとに現れて
「すまん!着替えてくるからもう少しだけ待て」っと謝罪するまでそんなに時間はかからなかった。
鳳翔「結局10分遅れの出発ですね」
提督「面目のしだいもございません」
水着姿から一転、見慣れた軍服姿から年相応の私服姿になった提督がこちらに頭を下げる
鳳翔「別に怒ってはいませんよ。ただ、軍人たるものもう少し時間には厳しく行動していただきたいだけです」
提督「終わったことを気にしてもしょうがない、さ行こうか鳳翔」
提督がこちらに手を差し延べてくる。本当は目的地に着くまで説教してやろうと思っていたのだが・・・
鳳翔「遅れてきたあなたがそれを言うんですか」クス
差し延べられた手を握るとそんなことはどうでもよくなっていた。
提督「しかし、面倒なもんだ。資材は支給されるが食材は自分で買いに行かなきゃいけないとはな」
鳳翔「その分の経費は軍からででるわけですし我慢しましょう」
提督「それもそうか・・・」
私達の鎮守府は比較的に上層部から冷遇されている・・・・・・のだと思う。思うというのは実際には私はそう思っていないからだ。資材面や食料面で不自由したことはないし、他人からの評価も私にとってはそこまで気に留めることでもなかった。ただ他所の鎮守府から左官されてきた娘たちの話によればうちの鎮守府に支給されている資材の量は少ないとのことだ
恐らく向こうの八百屋で野菜を吟味している人が私の知らないところで尽力しているのだろう
提督「ん?どうした鳳翔」
鳳翔「大したことじゃありません。私は向こうで肉類を買い付けてきますね」
提督「ん、任せた」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「さて、これで暫くはもつだろう」
鳳翔「急な出撃でもない限りは平気ですね」
提督「嫌なことを言うな、俺たちが暇なのはいいことだろう?」
鳳翔「戦っている方々には少し申し訳ない気もしますね」
提督「善処したって無理なものは無理だし、手の届かないところにはいくら伸ばしたって届きはしないさ」
鳳翔「随分と詩的な言い回しをしますね提督」
提督「恰好いいだろう?」
鳳翔「似合ってませんよ」クス
提督「む・・・」
二人で会話をしながら辿る帰路はあっという間だった。
鎮守府の建家が遠目に確認できるかと言ったところで提督が口を開いた。
提督「鳳翔、今の俺を見たら彼女たちも少しはうかばれるのだろうか・・・・・・」
鳳翔「私はあの娘たちではありません、ですのでわかりません」
提督「そうか」
鳳翔「ですが、あの二人は貴方がそんな顔をする為に命をかけたわけではないはずです。あの娘は誰よりも貴方が笑うところを楽しみにしていました」
提督「・・・・・・」
鳳翔「提督、人は考えなくても生きていけます。ですが、死ぬには考え、自らの意志が必要です。ですからどうか難しいことを考えるのなら何も考えず少しでも永く生きてください」
提督「詩的な言い回しだな」
鳳翔「似合いませんか?」
提督「いや、似合ってる」
一言だけ返すと提督は無言になってしまった。だが、鎮守府まであと僅かといったところで再び口を開いた
提督「俺だけが生き残っても意味がないんだ・・・だから、長生きするならお前も道連れだからな」
鳳翔「提督がそれを望むなら・・・」
互いの顔は見ないままただ短く会釈をした。すぐそこに見える鎮守府の玄関には見慣れた人影が待っていた
榛名「提督、少し遅かったので榛名心配しました」
シャルンホルスト「おなかへった」
やまと「提督も鳳翔さんもお疲れ様です」
提督・鳳翔「「ただいま」」
私たちは互いの顔を少し見てから短くかえした
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提督「あ、鳳翔」
鳳翔「はい?」
みなにお出迎えされ執務室へ戻る途中、提督が不意に声をあげた
提督「よく似合ってるぞ」
鳳翔「あ、ありがとうございます///」
提督「たまには出掛けてみるもんだな、良い物が見れた」
鳳翔「それはなによりです」
提督「今度はみんなで行くか」
鳳翔「提督、こういう時は普通また二人でって言うところですよ」ッム
提督「はは、ならまた二人で行こうか鳳翔」
鳳翔「ふふ、喜んで・・・」
おわり
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空が白い、きっと実際の空は違うのだろうけど俺にとっての空はこの白い天井だった。
自分が何者かさえ知らぬまま倒すべき敵を教わった。
父の名も母の顔も知らぬまま銃の撃ち方を知った。
初めて他人を知ったとき、自分が特別なことを知った。
榛名「提督!!」
提督「ん、すまん少し寝てた」
榛名「具合でも悪いんですか?」
提督「心配するな」
榛名の休暇が終わり、秘書艦として復帰し鎮守府もいつもと変わらぬ雰囲気を取り戻していた
榛名「そういえば、今回は誰が秘書艦をしていたのですか?」
提督「いつもどおりのくじ引きの結果翔鶴がやってくれたよ」
榛名「へんなことしてませんよね?」
休みあけの榛名は決まってこの質問をしてくる
彼女の目には俺が色欲魔かなにかに映っているのだろうか
提督「してないよ、安心しろ」
榛名「知ってます、言ってみただけです」
なら聴くなっと心の中で返しつつ窓の外を見る、空は春陽気の綺麗な青空だった。
ー食堂ー
瑞鶴「本当になにもなかった翔鶴姉?」
翔鶴「大丈夫よ、瑞鶴はもう少し提督のことを信用したほうがいいわね」
瑞鶴「艦娘の私が言うのも変だけどさ、私は軍人は嫌いだよ」
翔鶴「そう、私も苦手よ。でも」
瑞鶴「でも?」
翔鶴「あの人は提督っていうより、お父さんって感じがするわ」
瑞鶴「・・・・翔鶴姉、ほんと何もされてない?」
翔鶴「心配しすぎよ、瑞鶴も一度提督とゆっくり話してみたらどうかしら?」
瑞鶴「二人になった瞬間とって食われそうな気がするわ・・・・」
誠に不本意だけどそれこそ焼き鳥のようにむしゃむしゃと
提督「あー、みんな揃ってるかー」
私たちのように各々が色とりどりの雑談の花を咲かせていると提督がおさまりが悪い軍帽の位置を直しながら入ってきた
提督「来月の同日マルハチマルマルより大規模作戦が展開されることになった」
やまと「私たちもその作戦に参加するのですか?」
提督「いや、作戦の詳しい内容は書かれていなかった、ただ・・・・」
やまと「ただ?」
提督「この大規模作戦をとるにあたり、安全な進路を俺たちで確保しておくようにっだそうだ」
提督の言葉に食堂がざわめく、安全な進路の確保。つまりは戦闘が予想される任務だ。わたし達が来てから数回あった近海に資材を取りに行く任務とはわけが違う
提督「出撃は明日の日の出マルロクマルマルとする、集合は二時間前のマルヨンマルマルに会議室だ、メンバーもそのときに発表する、各自用意を頼む以上だ」
いつになく真面目に自己の用件を述べると提督は食堂をあとにした。さり際に見えた横顔には若干の苛立ちが見えた気がした
翔鶴「おかしなものね、わたし達の仕事は戦うことで、少し前まで毎日仕事をしていたのにここに来てからはそれがこんなにも珍しいことになってる」
瑞鶴「そうだね、でも」
瑞鶴「わたし達がいつまでも暇をしてられるならそれが一番だよ・・・・」
ー執務室ー
鳳翔「提督、失礼します」
提督「鳳翔か入っていいぞ」
鳳翔「あら、榛名さんはいないんですね」
提督「ああ、先に帰らせたよ」
鳳翔「先に帰らせたって、まだ日も沈んでないでしょうに」
提督「いつものことだ、仕事がないのに無理にここにいる必要もないだろう」
下を向き、ペンを動かす手を止めることなく提督が答える。
鳳翔「勝てますか?」
私の問いに提督はやはり作業の手を止めることなく返答をした
提督「勝つ負けるじゃない、大切なのは死なないことだ。だが、生き残る為には勝たないといけない。」
提督「勝利を誰かが保証してくれる戦いなら司令官としてはこれほど楽なことはないんだがな・・・」
鳳翔「無敗の名将がよくいいますわ」
提督「・・・鳳翔、俺は負けないんじゃない。負ける戦いは最初からしないだけだ」
鳳翔「そうですか・・・でも提督」
提督「なんだ?」
鳳翔「この鎮守府にいる人はみんな、貴方が一言勝ってこいっといえば例え相手が何人いようとも勝利を掴み取ってきますわよ」
提督「ありがたいことだ、俺はいい戦友たちに恵まれたよ」
鳳翔「無茶だけはしないでくださいね」
提督「わかってる。ちゃーんと全員無傷で帰ってくるから美味い飯つくって待っててくれ。これは勅令である」
鳳翔「ふふ、御意ですわ。閣下」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日 マルヨンマルマル会議室
提督「揃っているな・・・」
一巡部屋を見渡してみるがいない者は見受けられない。
伊19「デートの集合は30分前集合が基本なのね」
提督「少しは俺を寝かせてくれ・・・」
緊張していた部屋の空気が緩み、微かな笑いが生まれる。伊19達ムードメーカーのこういった何気ない仕事には頭が上がらない。本人に自覚があるかは謎だが
提督「というわけで、メンバーを発表するぞ」
「シャルン」
「北上」
「雷」
「榛名」
「翔鶴とあと妹」
瑞鶴「私の名前もちゃんと呼びなさいよ!!」
提督「出撃は二時間後、行きたくないものがいたら遠慮なく言ってくれ。解散!」
瑞鶴「まったく、あの提督ときたら・・・」
翔鶴「ふふ、瑞鶴は本当に提督と仲がいいわね」
瑞鶴「誰が!!」
提督「出撃前だっていうのに元気なやつらだ・・・」
榛名「ふふ、でも提督なんだか嬉しそうにしてるじゃないですか」
提督「馬鹿言え、出撃前だぞ。嬉しいわけあるか」
榛名「そのことなら榛名におまかせください!」
提督「おう、頼りにしてる」
そう返すと俺は榛名の髪をなでた。誰かの髪をなでると不思議と落ち着く。何故かは自分でもわからないが力がわくような気がするのだ
提督「さて、行くか・・・」
似合わない軍帽を俺は深くかぶり直した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マルロクマルマル ー母港ー
提督「さて、いるな」
俺の一言に6人が敬礼をする
提督「いつも通り崩していいぞ、むしろやりにくい」
提督「それじゃ、行くか」
瑞鶴「ちょっと待って提督、さっきから提督も行くような言い方なのが気になるんだけど」
提督「まあ、俺も行くからな」
瑞鶴の言葉に翔鶴を除いた4人は何を言ってるんだ?っと言った表情をする
翔鶴「行くとは、いったいどうやって?」
雷「そっか、二人はまだ知らないのね」
シャルン「普通は知らないわ」
瑞鶴&翔鶴「???」
提督「まぁ、どうやってって言われたらこうやってだなっと!」
そう言って提督は母港から海に目掛けて飛んだ
瑞鶴「ちょっ、ばか!!」
しかし、いつまでたってもドボンっというなにかが水に落ちた音は聴こえてこなかった。かわりに
提督「よく見ろ」
瑞鶴「うそ・・・」
提督が海面から話かけてきた
提督「これくらい造作もないことさ」
そう返した提督を見て、以前提督が言っていたことが脳裏に浮かんだ
俺は化物だよ
提督「さ、行こうか」
結局私はこれ以上はなにも追求できなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー作戦海域近海ー
伊19「提督、距離3000に艦影らしきものがあるのねー」
提督「こっちに気づいてるっぽいか?」
伊19「回頭する様子はないのね」
提督「そうか、じゃあ回り道するぞ」
瑞鶴「え?戦わないの?」
提督「今回の任務は安全な海路の確保だ、敵の殲滅じゃない。」
翔鶴「ですが、敵艦を発見して放置というのは危険ではありませんか?」
提督「奴らは一部を除けば一定の縄張り的なとこを中心にしか行動しない。敵を殲滅しながら海路を確保するのもいいが、今回は元々敵がいない道を探すほうが効率的だろ」
私たちは提督に促されるように回頭すると別の海域へと向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「榛名、目標海域までの距離は?」
榛名「あと少しですね」
海図を片手に榛名さんが返答する。あの後も回り道を重ねた私たちは恐らく通常の何倍もの時間をかけて目的地に近づいていた。
提督「・・・いるな」
瑞鶴「え?」
不意に進行方向へと目を細めた提督が呟く、その言葉に私と
翔鶴姉も目を細めるが僅かになにかの輪郭が揺れるだけでは
っきりとは確認はできなかった。
翔鶴「偵察機を飛ばしますか?」
提督「いや、その必要はないな、数は4、空母の姿も無い。飛ばすなら素直に攻撃を開始してくれてかまわない」
北上「一戦やるのかい?」
提督「ここばっかりはな・・・ゴール地点にいるんじゃ仕方あるまい」
北上「ほいさー」
提督「空母の二人は無理に当てなくてもいい。相手の回避範囲を制限するように爆撃をたのむ」
提督「榛名、シャルン、お前らはいつもどおり狙って砲撃してくれればいい」
提督「北上、雷、二人はこちらに向かってくる敵の迎撃だ」
提督「ある程度撃ち減らしたら凸陣形を作って殲滅するぞ」
帽子をかぶりなおした提督は一度やれやれとため息をつくと左手を振り上げる
提督「撃て!」
イチサンマルマル、瑞鶴と翔鶴を加えての窓際鎮守府による戦闘が開始された。
合図と共に空母を筆頭とした攻撃が開始された。完全に不意をつかれた深海凄艦たちは爆撃に飲まれて海面を踊る。
当初こそ初陣ということもあり緊張していた瑞鶴姉妹であったが、沈みはしないまでも無抵抗のまま波間に揺られる敵をみて安堵したのか次第に表情からは緊張の色が消え兵士特有の緊張感と高揚感の入り混じった独特のものへと変貌していた。
その変化を確認してかしないか提督により戦艦による追撃が指示される、この間にも提督により細かい陣形の変形が指示される、生き残る
為とはいえろくでもないことばかりがうまくなる物だと提督は誰にもばれないようにそっとため息をついた
イチサンヨンマル、戦闘はまさに窓際鎮守府の完勝で幕を閉じた。
榛名「敵反応の消滅を確認、これよりは掃討戦 となりますが、如何しますか提督?」
提督「戦う意志のない敵と戦ってもなんにもならないさ、案山子相手の武勇を誇るのは馬鹿どもだけで充分だ」
胸ポケットからペンを取り出し海図に〇をつける。
提督「さて、任務完了だ。心配される前に帰ろう」
雷「司令官、帰る前に間宮に行きたいわ!」
北上「おーいいね、さんせー」
提督「許可する、財布は渡すから好きに食え」
北上「およ、提督はこないのかえ?」
提督「すぐに行くよ、先に行っててくれ」
榛名のほうを軽く見て意思の疎通をはかる。
なんか頬を赤くして俯いてしまった。どうやら失敗らしい
シャルン「先に行きましょう、提督も早めにお願い」
提督「俺の財布が大破するまでには行くさ」
シャルンの助け舟を得てなんとか人払いに成功する。本来俺は面倒事は極力避けて行動をする人間だが、流石にこればっかりは確認せずにはいられなかった。
提督「人払いはしたぞ、姿を見せろ」
? 「ヤッパリバレテイマシタカ」
姿を現したのは雪のように白い肌にそれとは相反した激しく紅く燃える瞳を持った女性だった
もちろん人間ではない。棲姫や姫などと呼ばれる特殊な深海棲艦だ。
提督「あいにくと俺の身体は特別製でな、あんたらの気配っていうのは嫌でもわかるんだよ」
棲姫「ソレガワカッテイテナゼヒトバライヲシタノデス?」
提督「アイツらに危険な橋は渡らせないさ。安全の確認は大人の義務だ」
棲姫「アナタガシンダトシテモ?」
提督「その時はその時だ。死ぬのは構わないが後悔はしたくない性分でね」
提督「それに、勝算がないわけじゃないんでな。言ったろ?特別製なんでな」
棲姫「ヤメテオキマショウ。イタイノハキライダワ」
提督「気が合うな、俺もだよ」
棲姫「フフ」
提督「どうした?」
棲姫「ナンデモナイワ。ソレヨリモナカマガマッテイルノデショウ?」
提督「声を掛けておいてなんだが、俺をこのまま逃がしていいのか?」
棲姫「エエ、モクテキハタッセイデキマシタモノ 」
提督「お言葉に甘えるとするよ。アイツらは甘味になると節操がない。破産はごめんだ」
俺のため息を見て棲姫は再び笑みを浮かべる。どこか懐かしいような優しいそんな微笑みだ。
棲姫に背を向け帰路に着く、文字通り敵に背を向ける。たが、不思議と不安も恐怖もなかった
?「わかってもらえましたか?」
棲姫「いいえ、でも満足よ」
?「笑っていましたね」
棲姫「ええ、海の底から見上げる空は暗くても海の上から見上げた空はこんなにも青くて美しいのね」
?「どういう意味です?」
棲姫「幸せってことよ」
次に会う時は砲弾の飛び交う戦場だったとしても、それでも今は満ち足りた気分だった。
棲姫「さよなら提督。お元気で・・・」
二つの影は深海へと消えていく。
この数週間後、この海底に無数の屍が築かれることを今はまだ誰も知る由はなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人類史に深海棲艦という単語が現れて既に3年という月日が流れようとしている。
深海棲艦との邂逅の歴史は戦いの歴史と言っても遜色はないだろう。当初こそ自国の海域を護るという形でのみ行われていた深海棲艦との戦闘であったが、彼等の支配下がほぼ全海域に及ぶ今となっては自衛と呼ばれるものは姿を消し文字通りの戦争へと姿を変えていた。
鳳翔「なにをしていらしゃるのです?」
提督「ちょっとした歴史の勉強をな」
軽い返信をしながら目を通していた本を閉じる
提督「領地、宗教、権力。様々な理由で人間同士争って、それがようやく表面上での平和を迎えてそしたら今度は人外のものとの戦争だなんてな」
鳳翔「どうしたのですか?」
提督「いいや、なんでもない。それよりも何か用があったんじゃないか?」
鳳翔「はい、老大将閣下がおみえになっています」
提督「老大将殿が?」
老大将とは古い付き合いだ。古いっといっても中央で指揮をとっていた頃によくしてもらった間柄というだけだ。ほぼ等しく上官が嫌いな俺だが例外を認めるとすれば彼しかいないだろう
提督「老大将殿なら何も問題はない。すぐに俺も行くからお通ししてくれ」
鳳翔「すでに榛名さんが応接室にて対応をしているのですが・・・」
提督「最悪の人事じゃないかそれは・・・」
紅茶を派手にこぼした榛名を見てほがらかに笑う老大将殿の姿が脳裏に浮かびながら俺は急いで応接室へと向かった。
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俺が応接室の扉を開けたときにはすでに顔を青くした榛名が老大将に頭を下げている真っ只中だった。
提督「一足遅かったようですね、申し訳ありません」
老大将「なぁに気にしとらん、美少女に紅茶をかけられるというのも貴重な体験じゃ」
榛名「申し訳ありません!」
そろそろ新調の時期だったからと榛名をなだめると濡れた上着をたたんで老大将は座りなおした
老大将「服のことよりも榛名君の絶品の紅茶を飲み損ねてしまったほうが無念でな。すまないがもう一杯いれてもらえんかの?」
榛名「はい、喜んで」
ぱたぱたっと音をたて榛名が部屋を後にする。そんなに急いだらまた転ぶなりぶつかりなりすると思うのだが・・・
提督「お久しぶりです大将閣下」
老大将「元気そうでなによりだ」
提督「おかげさまで今日も惰眠にいそしんでいます」
そう言って肩をすくめて見せると老大将は声をあげて笑った
老大将「そうかそうか、それならわしもここを造った甲斐があったというものじゃ」
この窓際鎮守府の設立案をだした人こそ目の前にいる老大将その人だった。多くの避難がありながらも今もこの鎮守府が生き残れているのはひとえにこの人の尽力の賜物だろう、そういった意味でもこの人には頭が上がらない
老大将「じゃが、どうやら昼寝が楽しめる時間もそう長くないらしい・・・」
提督「といいますと?」
老大将「上のほうがな、なにやら企んでいるようでな」
この場合の上とはおそらく元帥号をもつ者たちではなく、もっと根源的なお偉いさん方政治家のことを指しているのだろう
老大将「どうやら彼らは新たな海路を拓くつもりらしくてな」
提督「海路をですか?」
老大将「先日君がこなした任務もその下準備じゃ、言っておったじゃろ大規模遠征っと」
提督「お言葉ですが閣下。あの海域は未知数です。敵の数もその強さも目処がついていません」
老大将「上にはそれすらもわからんのだ。いや、わかっているのかもしれん。わかった上で将兵の生命と艦娘の生命よりも政治的地位や日本の国際的な立ち居地を優先しているのだろう」
提督「民主主義の国家でもっとも尊いとされるものは国民の人権と生命であって国家の繁栄と権威ではなかったはずではありませんか?」
老大将「それは口実じゃな、戦いをやめるときのな」
沈黙が応接室を支配した、言いたいことは互いに山ほどあるだろう。しかし互いにそれを口にできる立場ではないのだ、上の命令いえど最終的に将兵と艦娘たちに命令を下すのは自分たちなのだそこに大きな違いはない。
提督「つまり、その作戦に私も参加しろとのことですね」
老大将「心苦しいがそういうことじゃ」
提督「私も軍人です。良かろうが悪かろうが命令には従わざるを得ません。老大将閣下が気にすることではありません」
老大将「正式な招集は後日くるだろう。」
榛名「お茶をお持ちしました」コンコン
提督「茶菓子の用意をしてきます。美味いお茶には美味いお茶請けが欠かせませんから」
老大将「それは楽しみじゃな」
提督「よければ夕飯などもいかがです?絶品の料理をつくる空母を私は知っていますよ」
老大将「嬉しい申し出じゃがわしもヤキモチやきの空母をよーーーく知っていてな。名残惜しいが帰るとするよ」
提督「なら、急いで茶菓子を用意しなければなりませんね」
提督宛に命令が届いたのはそれから4日後のことだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深海棲戦姫との戦いが始まって以降軍部の成長は頭打ちを知らないものとなっていた。
しかし、それは戦場となる海軍のみであって現状維持を続ける陸軍と海軍の間では度々衝突が起きていた。
そうした背景から大規模な作戦会議などには陸軍の将校を参加させることが原則となっていた
提督(とは言っても、まさか陸軍のトップがでてくるとは・・・)
この日大規模作戦の会議に呼ばれた者は海軍だけでも大将3人中将2人そして提督を含む将官たち8人だった。
対する陸軍の参加は義務ではあるが出席する人物の階級などは問わないこととなっており大体は貧乏くじを引いた大尉、よくて准将などが参加していたのだが今回はそのどちらでもないようだ。
提督(陸軍元帥のお出ましとは陸軍もなにか企んでいるようだな・・・)
「本日はお忙しいなか将官の皆様にお集まりいただきありがとうございます」
「今回皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。我々が救国、否!世界を救う為に皆さんの力を借りたいのです」
「世界とはまた大きい。自国の領海を守護する我々には到底手にあまりそうな話だな」
口を開いたのは中年の中将だった。
中将の発言に一瞬顔をしかめた作戦参謀だったが時を待つことなく演説が再開される
「今回の作戦が成功すれば今までの細い糸をたどるような交易は解消され、以前のように自由かつ安全な貿易が再開されるでしょう」
耳を澄ませば将官たちのため息が聴こえてきそうだった。作戦参謀はどうやら病気を患っているらしい。自己陶酔という不治の病だ。
埒が明かないと感じたので提督は渋々口を開いた
提督「救国の英雄とはなんとも魅力的な言葉だがまずはその作戦とやらを聞いてみないと私たちとしては身動きがとれないのだが」
思ってもいないことを口にするのはかくも体力を要するのか。
提督の質問に作戦参謀は待ってました!っと言わんばかりに喜々として口を開いた
「簡単な話です。提督方の持つ艦隊をもちいて敵陣深くにのりこみ秩序を回復するのです。」
「合計13の艦隊78の艦娘と提督方の乗る指揮艦艇を含めた39隻の軍艦の前には勝利以外のなにものもありえません」
「たしかにそれだけの戦力を導入すれば敗北は許されんだろうな。たが今いちど具体的な作戦案が聞きたいのだが?」
口を開いた大将は呆れ顔だった。
「13の艦隊を作戦海域を包囲するように展開し、包囲網を徐々に狭めていき敵を一網打尽にするのです」
「成功するのかね」
口を開いたのは意外な人物だった
「おっしゃっている意味が小官にはわからないのですが、陸軍元帥閣下」
陸軍元帥「ならばもう一度問うてやろう。成功すると思っているのかね」
「我々海軍を侮辱するおつもりか!」
陸軍元帥「失礼、侮辱するつもりは毛頭ない。ただ、陸を戦場とした場合こういった大規模な包囲作戦はまず成功しない。各個撃破のよい餌でしかないからな。私は海戦のことはわからないが海では包囲されようとされてる敵は無抵抗で包囲されてくれるものなのかな?」
パチパチ
乾いた手を叩く音が室内に響いた。音の招待は老大将だった。
老大将「お見事。まさにその通りじゃな。陸軍元帥閣下は海戦のことはわからないとおっしゃったがどうやら作戦参謀よりは何倍も海戦のことに博識らしい」
「我々の多大な戦力を見ればその戦力差に敵は逃げ出すでしょう。包囲殲滅はあくまでも保険です。それに何故閣下たちは失敗ばかりを意識するのか小官にはわかりかねます」
老大将「将兵と艦娘たちの生命がかかっているからじゃよ」
「たしかに将兵たちの生命は尊いものです。しかし、大日本帝国海軍に身を置く以上自身の生命よりも国の繁栄と平和こそがもっとも尊重されるべきではありませんか?」
陸軍元帥「どうやらここは私には場違いの場所のようだ。陸軍では将兵の生命と国家など天秤にかけることすら馬鹿らしいからな。会議の途中だが失礼するよ」
陸軍元帥の背中をふんっと鼻を鳴らすように一瞥すると作戦参謀は口を開いた
「なにか他に質問のある方はいますか?いないようでしたらこれで作戦会議を終了します」
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老大将「なにか言いたかったんじゃないか?」
会議終了の帰り道老大将が私に問うた。
提督「言いたいことは山ほどありますが口にしても無駄でしょう。病人に対してあなたは病気だと言ってもなかなか理解してもらえないものです。」
老大将「それでも誰かが教えてやらねば手遅れとなってしまう。今回のようにな」
提督「まだ作戦議案が国会を通過したわけではありませんよ。悲観するには早すぎます」
老大将「通るさ。奴らはこの海域を占領し世界の貿易の中心を日本にすることしか頭にない。そうすれば冷えこんでいた経済と共に支持率は回復し自分たちの保身はできるわけじゃ。多くの将兵と艦娘の生命と引き換えにな」
提督「こんな馬鹿な戦いで死ぬことはありませんよ」
老大将「それはお互い様じゃな。それにまだ決まったわけじゃないじゃろ。私も君の意見を信じることにするよ」
二人の思惑とは裏腹に翌日12時にこの出兵案は可決された。
この戦いが後の日本や世界に及ぼす影響をこの時点ではまだ誰も知る由はなかった。
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※今回から提督の数が増えどの提督か区別がつかなくなるなるので一部提督に名前をつけました。ご了承ください。
今までの窓際鎮守府の提督は 一心(いっしん) 老提督は 安綱(やすつな) となっています。時間をみて過去のとこも修正していきたいと思います。
大本営の敷地内には負傷した将兵たちの為の病院がある。非常時以外は一般人の立ち入ることの許されないこの病院の一角に一般人どころか下級兵も立ち入ることのできない特別な病棟がある。艦娘専用の病棟だ。現在でこそ一般人にも広く認知されるようになった艦娘だがもともとは秘匿されるべき軍事機密の産物であり未だにその実態の全ては国民を含め提督にでさえも秘密とされている。その一環として各鎮守府で処理しきれないほどの傷を負った艦娘達はこの閉鎖された病棟へとひそかに運ばれていた。
その病棟に提督の姿があったことには当然理由がある。とある病室の前で足を止めた一心は部屋の主の機嫌を伺う為ににさんど扉を叩いた。
「どうぞー」
一心「久しぶりだな金剛」
金剛「おーーー!提督じゃないですか!久しぶりねー!」
部屋の主である金剛はベットから跳ね起きると大きく手を広げ一心へと弾丸のように飛びついた。しかし、大きく広げられたその手は一心の背にまわされることはなかった。
一心「あまりけが人が暴れるなよ」
金剛「もー提督、そんな顔しないでください。例え左腕がなくとも私は元気です」
金剛の屈託のない笑顔は余計に一心の胸を締め付けた。その胸の痛みこそが一心がかつての仲間であった金剛の様子を見に行くことに対して足が重くなる理由のひとつでもあった
金剛「そんなことより提督、いささか久しぶりすぎじゃありませんか?」
一心「悪いな、今の俺の地位だとここに来るにも色々と手続きが必要でな」
金剛「冗談でーす。こうして会いにきてくれるだけでも感謝感激です」
飛びついてきた金剛を抱きかかえベッドに戻した一心はそのまますぐ傍に置いてあった椅子へと腰をおろした。
一心「元気そうでなによりだよ金剛」
金剛「おかげさまで全快バリバリです!ドクターの話だと現役復帰ももうすぐだそうです」
一心「・・・そうか」
金剛「なにか言いたげですね?」
一心「元気になってくれるのは嬉しいんだが現役には戻ってきてほしくないな」
金剛「軍を辞めて提督と二人新婚生活ですか。それも悪くないねー」
一心「茶化すな。第一その身体じゃ日常生活はできても戦場ではなにかと不便も多いだろうし危険だって多いだろう」
金剛「提督もここのドクターも少し私を甘く見すぎね。現状でも私はそこらへんの戦艦の10倍は戦えるよ」
一心「そいつは驚きだ。じゃあなおのことそんな秘密兵器を復帰させる前に戦いを終わらせないとだな」
金剛「・・・老提督から聞いたよ。大きい戦いがあるみたいですね」
一心「戦いにいくわけじゃないさ。敵がいなければ大軍率いた陽気なピクニックで終わる」
金剛「勝算は?」
そう短く聞いた金剛の瞳からは先ほどまでの年相応の少女の明るい色は消えていた。「勝算はあるか?」艦隊を指揮する立場の人間にとってこれほど返答に困る質問はない。例え自信のない戦いであっても「勝てません」と答えるわけにもいかずそれでいて偽りを告げることも彼の性に会わなかった。
一心「俺は負ける喧嘩は嫌いだし、喧嘩をする以上負けるつもりもないがね」
金剛「それなら安心ね」
一心「勝ちすぎてお前の倒す敵がいなくても恨まないでくれよ」
金剛「提督、御武運を・・・」
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鳳翔「提督そろそろ・・・」
一心「仕方がいない。ぼちぼち行くか・・・第6艦隊出撃!」
金剛と別れた翌々日6月5日 2000人あまりの将兵は艦列をつらね、連日、大日本帝国海軍や各鎮守府から遠征の途にのぼっていった。
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遠征が開始されて一ヶ月、艦娘を含めた将兵たちは形容しがたい高揚感の中にいた。しかし、刻一刻と時は流れついには作戦海域にたどり着きそれでもなお姿を現さない敵に対していささか興ざめしたような虚無感や、またもっと悪い焦りや不安と友人関係を気づきつつあった。
先頭を務める青年提督率いる第四艦隊も例外ではなく大日本帝国海軍の旗を掲げ敵と放火を交えることを望みさえしていた。
当然一心や彼の指揮下である第6艦隊も不安や焦りに駆られていた。しかし一心の不安は他の将兵たちとはいささか違うベクトルを向いていた。
一心「こいつはまずいな・・・深海棲艦がある程度の知能と組織力を有しているのは承知の上だったがここまでとはな」
翔鶴「それはどういうことです?」
一心「翔鶴、今回のような大規模な作戦は正面の敵ばかりを気にしていれば勝てるものじゃないんだ。むしろ後背の補給艦にこそ大きな注意を裂く必要がある。正直深海棲艦相手には足手まといにさえなる戦艦が未だにこういった遠征に必要な理由はわかるね?」
翔鶴「長期の戦闘を見越した艦娘の補給や弾薬などの保存ですね」
一心「そのとおり。ましてや今回のここに2000人あまりの将兵の食料や水。当然戦艦本体の燃料もおまけで補給しなくてはいけないわけだ。となれば当然補給線の確保は最重要といってもいい」
翔鶴「敵がそこを狙うと?しかし最前線にも敵の姿はなくそれは考えにくいのでは?」
一心「ああ、そこが罠なわけだ。俺たちは正面での戦闘がないのをいいことに奥深くまで進みすぎたんだ。このままいけば本来は確保された安全な海路にあった補給線も作戦海域に大きくはいってしまう」
翔鶴「それでは・・・
」
一心「まぁ一度帰還するべきだろうね、ここまでこれたのだから満足すべきだ」
本国や作戦参謀がそれをよしとしないことを知りながらも一心はそれを口にした。
一心「それよりも妹のほうはどうしたんだ?」
翔鶴「それが・・・その申し上げにくいのですが」
一心「どうした、つまみ食いでもしてるのか?怒らないからいってみろ」
翔鶴「では・・・どうやら第9艦隊の軽空母たちと仲良くなったようで・・・そのそちらのほうに」
一心「なにをやってるんだ・・・」
大きなため息をつくとともに一心のなかに一つの試みが生じた。
一心「第9艦隊か・・・たしかあそこは中将が率いていたな・・・。よし、うちのがお世話になってるだろうし一度通信をとってみるか翔鶴、鳳翔を呼んできてくれ」
翔鶴「はい」
この時一心は一つの仮説を立てていた。その仮説は約36時間後に敵の戦術を完璧に捕らえていたことが判明するのだがこの時一心はあえてその仮説を秘書艦の鳳翔や今作戦で副官に任命した翔鶴には口にしなかった。なぜなら自己の立てた仮説が真実ならば海軍は全滅の危機に瀕しているのだから。
鳳翔を呼んだ一心は中将の率いる第9艦隊とのあいだに高速通信の直通回路を開かせた。
中将「ん?一心か珍しいな。どうした?」
一心「中将閣下、お元気でなによりです」
形式ばったお世辞を終えると一心は自身の提案を中将に告げた。
中将「ほう、撤退か。これだけの軍勢を率いて一戦も交えずに引けば末代までの笑いものだろうな。して、そんな道化を演じろというからにはそれなりの理由があるのだろう?」
一心「おそらくですが敵は逆U時の陣形をしきこちらをその中央に誘い込んでいるものと思われます」
中将「なるほど・・・しかしこちらも敵を包囲すべく今回は各艦隊間の距離を大きくとっている。そのさらに外側に包囲陣をしくというのはいささか非現実的ではないか?」
一心「まさしく今回は各艦隊の距離を大きくとっているそこに問題があるのです。我々を誘い込み補給線を断ったあと敵としてはわざわざこちらを包囲する必要はありません。逆U字の陣形を3艦隊程度にわけ各個撃破すればそれでよいのです仮に我々がどこかの部隊を救出に迎えば別の艦隊の背後をとられてしまいます。」
中将「なるほど、そうしてある程度こちらの数を減らしてから包囲殲滅するというわけか。」
一心「まだ将官の推測でしかありませんが犠牲をだしてからでは遅いでしょう」
一心の意見に中将は一瞬眉をしかめた
中将「敵の攻勢の前に引いておけば仮に後退中に攻撃されても前者よりは被害を出さずに済むか。わかった、第九艦隊は撤退の準備を始めるとしよう」
一心「お聞き入れいただきありがたく思います」
中将「して、貴殿はこれからどうするつもりだ?まさかこのまま進攻を続けるつもりでもあるまい?」
一心「まず安綱提督にもこの意見を述べるつもりです。その後はこちらから数人艦むすを後背の補給艦の護衛にまわすつもりです」
中将「なるほど、安綱提督への連絡は私がしておこう。貴殿は他にも色々とやることがありそうだからな」
一心は一瞬考え込んだが決断を出すのにそう時間がかかることはなかった
一心「是非お願いいたします。私のような小僧が言うより説得力もあるでしょう」
一心との通信が終わると中将は自身の副官である日向を前方の艦隊から旗艦に呼び出した
日向「なるほど、心得た。ほかの子たちにもそう伝えておくよ」
中将「すまんな」
日向「いや実を言えば私も提督とおなじでこの作戦に反対していたからね。さっさと帰れるならそれに越した事はないさ」
中将「あまりそういうことを大声でいうものではない」
日向「なぜだい?今の日本は私の生きた時とは違い自由の国のはずだろう?言論の自由があるはずだ」
日向の回答に中将は苦笑まじりに返すと安綱提督の指揮する第3艦隊に通信をつなぐように日向に伝えた。
一心「中将提督はさすがだな。ただ年をとっているだけではなくしっかりと年を重ねてきている。俺もああなりたいものだ」
翔鶴「提督・・・」
声をかけてきた翔鶴の顔には不安の表情が浮かんでいた
一心「そんな不安そうな顔をするな。私の小さな手でもお前達くらいはしっかり守ってやれるさ」
そういうと一心は翔鶴の頭を優しく撫でた。それから鳳鶴率いる分艦隊に後方の補給部隊の援護に向かうように伝えるようにという旨を命令した。
どうやらただのピクニックでは終わりそうにはないな。翔鶴たちには悟られないよう内心のため息をついた彼は生き残るべく艦隊の再編成にのぞんだ。
一心の予想を中将から聞いた安綱はすぐに安全な総司令部に連絡を取り次いだ。しかし返答は安綱の納得いくものではなかった
長門「上はなんとかえしてきたんだ?」
副官である長門は安綱の表情からある程度の事態は把握していたがあえて質問をした。安綱はそれに返事をすることはなくただ無言で首を横に振るのみだった。
長門「だろうな。私が奴らのように安全な場所から権威のみを振りかざせばいいような立場の人間ならこの具申を是とするわけがない」
安綱「しかたあるまい、こうなってしまった以上指揮官として、部下の生命に対する義務を遂行するまでだ」
安綱はまさしく名将と呼ばれるにふさわしい人物であった。だが今回の戦いにおいて一つの失策を犯すこととなる。それは一心の意見を含んだこの具申を深海凄艦側に傍受されたことだった。
翌朝マルロクマルマル時、一心たち帝国海軍の朝は敵襲を告げる警告音とともにはじまった。
最初に火の手があがる場所となる補給艦隊の指揮をまかされていた提督は気楽なものであった。本土出発前には飲酒をし、それでいて女性士官の一人を自室へと招くと淫靡な夜をすごしていた。
彼にとって補給艦隊の指揮とはその程度の価値のものでしかなくまたこの価値観は敵に出さえも通用すると思っていたからである。彼にとって前線の味方をよりも後方の自分たちが攻撃されるなど在り得ないことだったのである。
無論この日まではであるが
血相を変えた艦隊参謀が彼を呼びにきた時、一夜の夜の相手を小脇に抱えた提督は不機嫌に問いかけた。
「前線でなにかあったのか?」
「前線ですと?」
艦隊参謀は一瞬唖然とすると提督を見かえして声を大にして答えた
「ここが前線です。あれがお見えになりませんか、閣下?」
彼が指差す先にある窓の外では海面から無数の黒煙が立ち上っていた。
流石の提督もこの事態が理解できないほど無能ではなかった。驚くべき敵の大部隊に包囲されている!
「こんな馬鹿なことがあるか!」
提督は半ば寝間着のまま廊下へ飛び出した。すると廊下のスピーカーからオペレーターの叫び声がはしった。
「敵艦隊より艦載機多数、本艦に接近!」
その声は一瞬後悲鳴に変わった。
「クウボスイキカラノレンラク、テキホキュウカンタイハイチブノゴエイヲノコシカイメツ」
ヲ級からの連絡を受けた泊地棲姫はこの次点で己が軍の勝利を確信して笑みをこぼした。
「ゼンカンタイニツゲルコレヨリコウセイにウツル!」
泊地棲姫の周りにいた数人の姫クラスたちはその命を受けると自己の艦隊を率いて次々と深海をあとにした。
7月7日
補給艦隊襲撃の報から数時間後あらかじめ周囲に散開させておいた無人の偵察艇の数隻の反応がなくなった。
中将「きたか・・・」
中将はつぶやきながら身体の隅々まで緊張の電流が走るのを感じた。
中将「瑞鳳、敵と接触するまで、時間はどのくらいか?」
瑞鳳「6分ないし7分です」
中将「よし、全艦隊、総力戦用意。瑞鳳、総司令官および第六艦隊に連絡しろ。われ敵と遭遇せり、とな」
警報が鳴り響き旗艦の艦橋内を命令や応答が飛び交った。
瑞鳳「大丈夫、すぐに瑞鶴さんたちが来てくれるわ、だって約束したんだから・・・」
瑞鳳のつぶやきに中将は無言で頷いた。
中将「すぐに第六艦隊が救援に駆けつけて来るぞ。そうすれば敵を挟撃できる。我らの勝利は揺るぎないものだぞ!」
ときとして、司令官は自身さえ信じていないことを部下に信じさせなければならない。おそらく一心の第六艦隊も時を同じく多数の敵との戦火の中にあり、他人の心配をすることはできてもそれをどうこうする余裕はないだろうと中将は思う。それでも絶望の中で戦うよりは偽りの希望でもそれを持って戦う方が幸せだろう。
深海凄艦たちの大攻勢がはじまったのである。
翔鶴は白い顔に緊張の色を浮かべて司令官を見上げた。
翔鶴「提督!中将の第九艦隊より連絡がはいりました」
一心「敵襲か?」
翔鶴「はい、十時八分、敵との戦闘状態にはいったそうです」
一心「そりゃ味方と戦闘状態にはいっても仕方あるまい。さて、いよいよ始まったな」
一瞬おどけてみせたものの一心の心境は穏やかではなかった。こうなることを予測しておきながらなんの対処策をうつことのできなかった自分自身への情けなさがこみあげて来る。
しかしそんな思考さえも吹き飛ばすように警報の叫び声が艦橋に響き渡った。五分後第六艦隊は飛行場姫の率いる艦隊とのあいだに戦火をまじえていた。
「十一時方向より敵砲火きます!」
オペレーターの叫びに、制空権の確保に向かった翔鶴の代わりに副官に任じられたやまとが鋭く反応する
やまと「九時方向に囮(デコイ)をだして!」
一心はただ沈黙して艦隊レベルの作戦指揮に没頭していた。艦単位の防御や応戦にまで司令官が口をだしていたのでは脳みそがあとなんダースあっても足りる気配はない。
ひとたび発射された砲弾が第六艦隊に雄々しい猟犬のように襲い掛かる。
「空母部隊、制空権の確保に発進せよ!」
命令が伝達され、いままで艦の守りに艦載機を割いていた空母部隊たちは一度艦載機を収容するとともに戦艦や巡洋艦の陰に隠れる形で前へとでた。
戦闘機を操る妖精さんたちには心地のよい緊張感がはしり、それとは真逆に空母隊には顔を青くするような緊張感が浮かんでいた。その中に第六艦隊一番の新入りである翔鶴、瑞鶴の姿もあった。
一心「ずいぶん緊張してるみたいじゃないか瑞鶴」
翔鶴「提督!?どうしてこんな場所に、ここは前線ですよ!早く安全な場所にお戻りください!」
一心「前線のほうが戦況がよく見える分的確な指示がだせる。それには翔鶴。戦場なんてどこにいたって死ぬときは死ぬんだ。どうせ死ぬなら後背で臆病者として死ぬよりは前線で勇者として死んだほうが恰好もつくだろう?」
翔鶴「ですが・・・」
一心は翔鶴の言葉をさえぎると胸で弓を抱きいまだに沈黙を続ける瑞鶴に一歩歩み寄った。
一心「いいか瑞鶴。いつも演習で出している実力の62.2%ほどが出せればお前は死なない、もし出せなかった時は足りない部分は俺が出しといてやるから後で返しにこい。いいな?」
瑞鶴「ふふ・・・どう返せっていうのよ。おーけー。じゃあ120%だせば余剰分はあとで提督からなにか謝礼がでると思っていいのかしら?」
一心「その意気だ。行ってこい!」
瑞鶴「提督さん。五航戦、瑞鶴いってくるね」
瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」
瑞鶴の掛け声に続き次々と他の空母たちからも艦載機が大空に踊りだしていく。戦闘機の翼が爆発光を反射して虹色に輝く。対空砲の群れや敵の艦載機たちが悪意を込めて殺到した。
やまと「提督!いったい何処をほっつき歩いてたんですか?」
一心「いやちょっと部下の鼓舞にな」
やまと「それなら艦橋(ここ)でやってください!」
艦橋に戻ってきた一心を待っていたのは副官の説教だった。敵の砲火と味方の言葉による集中砲火どちらにも対処しなければならないのだから司令官とは激務である。
一心「この様子でいけばまもなく制空権はとれるだろう、そうなれば本格的な砲雷撃戦にはいるから榛名や北上に数時間は働き張りになってもらうことになるな」
やまと「砲撃戦ですか?なら私が」
一心「馬鹿いうな。お前は身体は小さいくせに食う量は一人前なんだから後背の補給線が分断された状態で運用できるわけないだろ」
やまとの反感が聞こえてきたがそれは一心の耳には届かなかった。口に出してみて改めて認識したが現在海軍全体は消耗戦の中にいた。現在こそ各所で善戦を続けてはいるが補給線が断たれた以上組織的な抵抗の限界は刻一刻と近づいている
飛行場姫「ズイブンテマドルジャナイ」
舌打ちしたのは敵の司令官である飛行場姫である。
飛行場姫「ミテルダケデオワルヨテイダッタガシカタガナイコウホウカラハンホウイノタイセイヲトッテカンホウノシャテイナイニサソイコメ」
その支持は的確だった。今まで敵なしと大空を舞っていた瑞鶴たちの戦闘機に対空砲が突き刺さり一撃でこの世からかき消した。
この数分後一心は空母隊の補給のための一時退却とそれにともない艦載機の収容を命令した。以前として戦況は第六艦隊にとって有利なものではあったが、この場での勝利が海軍全体にとって有利に働くものではないことを悟っていた一心はこの海域での戦闘の早期決着の方法を模索しその準備を進めた。
翔鶴「見送った子が帰ってこないのはやっぱり何度体験しても辛いものね。」
疲れ果て着艦とともに寝てしまった妖精さんを指先で撫でながら翔鶴は嘆いた。もし、これが艦載機ではなく妖精たち同様に疲労の色を隠せないでいる仲間たちだったら私はその時事実を受け入れることができるだろうか?
一瞬脳裏に浮かんだ最悪の映像を翔鶴は手渡された水と共に飲み干した。
中将の第九艦隊への攻撃を指揮しているのは深みのある白い髪をツインテールにした棲鬼だった。紅い眼光を鋭く光らせ揮下の艦隊に突撃を命じている。この何の芸当も無い力任せの突撃は中将率いる第九艦隊にしたたかな損害をあたえた。この間に第九艦隊は策を持って同数かそれ以上の損害を敵艦隊に与えてはいたが第九艦隊と棲鬼の艦隊とでは棲鬼の艦隊のほうが数で勝り、それなりの犠牲を払いながらもついには第九艦隊を包囲することに成功したのである。
棲鬼の命令とともに密集した第九艦隊に文字通り山ほどの砲撃が豪雨のように降り注いだ、艦艇の外郭にたえがたい衝撃が耐えることなく押し寄せる。それが艦内に到達すると爆発ともに殺人的な熱風が巻き起こり一瞬のうちに将兵たちをなぎ倒していった。
第九艦隊の戦力は尽きかけていた。艦艇の4割を失い、艦娘のうち数人とも連絡がとれなくなっている。残った艦艇や艦娘たちも心体ともに戦闘を続けられるほどの余力を残すもの少なかった。
中将「降伏するか逃亡するか、不名誉な二者択一じゃないか」
自虐的な笑みを浮かべる。もし中将や一部の将兵のみが集められての出兵だったならば中将の選択肢のなかに玉砕という第三の選択肢が追加されていたかもしれない。だが最前線で戦闘を続ける艦娘たちの姿が脳裏に浮かんだときにその選択肢は消えたのであった
中将「他人に頭を下げるのは小さなプライドというやつが邪魔をしていかんな、逃げるとしよう。全艦隊に伝達してくれ。それと島風をここに呼んでくれるか?」
第九艦隊に後退の命が伝えられるのと同時に前線から島風が艦橋へと呼び戻された。
島風「提督、どうしたの?」
島風の表情には明らかに疑問の色が濃く浮かんでいた。後退をするのであれば道を開かねばならない。それは自分たちの役目であることを彼女は知っていた。知っていたからこそこの状況下で自分だけが旗艦に呼び戻されたことに彼女は疑問と同時になにか形容しがたい不安を感じていた。
中将「いや、そう難しいことじゃない。そんな不安そうな顔しなくてもいいさ」
中将「島風、久しぶりに私とおいかけっこをしようじゃないか。私があとからおいかけるから捕まらないように島風がみんなをつれて逃げる。簡単だろう?」
それは抽象的ではあったが何を伝えようとしているのか島風にはすぐに伝わった。だからこそ今までにみたことのない笑みを浮かべる中将を島風はいつもどおりに見上げることはできなかった
中将「おいおい、泣くなよ。まったく・・・」
島風「おいかけっこだからね、絶対に、絶対にあとから追いついてきてくれなきゃ駄目なんだよ」
中将「もちろんだとも。約束しよう」
島風と目線があうように中将は腰を落とすと小指を立てた左手を島風の前に差し出した。
逃亡するための道を開くべく中将は残存戦力を紡錘陣形に再編すると包囲網の一角に残った弾薬の全てをたたきつけた。棲鬼の戦力も当然無限ではない。とするならば包囲網を作ったときにその厚さに違いが生じるのは当然のことであった。中将が放火をたたきつけたその一角は最も包囲が薄いその場所だった。
この巧妙果敢な戦法で生まれた包囲網の綻びに島風を先頭に脱出部隊が一挙に押し寄せた。艦隊随一の速さを誇る島風の艦隊運用に一部の艦は着いていけずに脱落したものの味方の約半数は死地よりの脱出に成功をした。
中将「味方はどれほど脱出できたか?」
中将の問いに艦隊参謀は実際とは異なる数を返した。
「この艦を殿にすでに9割近い味方が脱出済みです閣下」
中将「そうか・・・」
満足気な笑みを浮かべたのち彼はすぐに怪訝そうな顔を浮かべた
中将「おい、日向は何をしている?」
中将が見つめる先には日向の姿があった。取り残されたわけではなくむしろこちらに合流しようとしているように中将の目には映ったのである。
半ば怒声にも近い疑問に対して日向は通信回線の向こうから短く返した
日向「殿をするのにその艦だけじゃ役不足だろ?」
中将「馬鹿者が・・・」
日向「それに、君と一緒にあの世を見るのもそう悪くはないさ」
この通信の数分後中将は戦死した。
彼の旗艦は最後まで包囲下にあって敵と戦っていたが、至近弾による直撃を受け爆発したのである。時を同じくして彼の副官でもあり着任時から秘書艦として同じ時を過ごした日向も海底へと姿を消した。
戦線のいたるところで海軍は敗北の苦汁をなめつつあった。
中将の艦隊のように組織的な抵抗を続けることが出来ずに結果として全滅をするもの。
敗北を重ね後退に後退を続けるもの、置かれた状況は違うものの辿り着く結果は誰の目が見ても明らかなものだった。
一部の例外な艦隊として一心の率いる第6艦隊と安綱提督の率いる第3艦隊があった。
第三艦隊は敵の攻勢が始まると同時に一戦も交えることなく後退を開始し深海凄艦の追撃によりわずか損害はあるもののほぼ無傷で戦闘海域からの脱出に成功していた。
もう一つの例外である第6艦隊は巧みな半月陣形を使って敵の攻撃をかわし、左右両翼を交互に攻撃し敵艦隊に多大とまではいかないものの確かな出血を与えることに成功していた。
飛行場姫「ナサケナイ、コノママヤッテモタダノドロイクサネ」
意外な損害に飛行場姫は驚きを隠せずにいたそれと同時に味方からもたらされる各地での戦勝報告に焦りも感じていた。
飛行場姫「ビンボウクジヲヒカサレタカシラ?シカタガナイイッタンジンケイヲサイヘンシナヲシマショウ」
状況は確実に深海凄艦側に有利なものであった。しかし、自分は勝利どころか苦戦を強いられている。その原因はほかならぬ指揮官の能力の差であろう。自信を無能とすることをプライドによって邪魔された飛行場姫は相手を好敵手と認めることでこの結果を己に認めさせたのである。
飛行場姫「第6艦隊か・・・私もあんな指揮官の元にいれば違う未来を歩んでいたかもな」
敵が引くのを見た一心は追撃をせずそれどころか全速力での後退を開始した。それは勝つことよりも生き残ることに意義があるとする一心の考えから生まれたものだった。それとここでの戦いに勝利したとして海軍全体での不利は変わらずやがては袋叩きにあうことは間違いないだろう。
一心「よし、逃げるぞ!」
力強く一心は命令を下した。第6艦隊は逃げ出した。ただし整然と。
敵艦隊から胸を張って逃走した第6艦隊はC3海域と呼ばれる海域まで撤退していた。この海域で第6艦隊が遁走の足を止めたのにはある理由があった。
それは敗走した第9艦隊からの救援信号があったからである。
戦闘開始直後にあった救援信号を無視し自己の艦隊の生存に対しての義務を果たしたことに対して一心は何一つ悔いは無かった。
だが、自己の艦隊の安全が確保された今でなら救える限りは救いたいと考えるのは自己満足だろうか?
信号を頼りに捜索を続ける間に一心は考えざる得なかった。
あと何回命を天秤にかけた選択をしなければならないのだろうか?
敵艦隊からの逃走を続け、敗走当初の数の約6割まで減った島風率いる艦隊が第6艦隊と合流したのは捜索を開始してすぐのことだった。
瑞鶴「瑞鳳ちゃん達がぶz・・・ッ」
無事だった。その言葉は彼女の口から発される前に彼方へと飛散した。
彼女の眼前に広がった光景は無事だったといえる光景とは正反対でありむしろここまで辿り着いたのが奇跡とも言えるような風貌の者達で
構成されていたからである。
そんな光景のなかに瑞鳳の姿を確認し安堵と共に駆け寄ろうとした瑞鶴を同伴していた姉の翔鶴が制止したのと島風から状況の報告を
受けていた一心にその瑞鳳が掴みかかったのはほぼ同時のことであった。
瑞鳳「どうして!どうして中将提督を助けに来てくれなかったのよ!」
彼女の問に対し一心は無言という返答を返した。否、普段と似ても似つかない彼女の勢いに対し周囲の者たちと同様に気圧されたといって
もそれは誤りではないだろう。
彼女の糾弾はなおも続く。それが的を射ていないことは第9艦隊の艦娘たちや隊員たちにも理解は出来ていた。が理解はできていてもそれ
を納得することができるのは個人の器量によるところであろう。そういった意味では瑞鳳の叫びはそういったもの達全ての代弁だったのかも
しれない。
瑞鳳「提督は言っていたわ、必ず第6艦隊が援護にきてくれるって。みんな信じて戦っていたのに!」
瑞鳳「来てくれていたら、日向さんも提督だって・・・」
一心「だって、助かったのにか?」
ここにきて一心は初めてその口を開いた。それは自分の部下たちの不満を孕んだ視線を感じ始めたからである。
一心「中将閣下が君たちの生命に対しての責任を果たしたように私にも自分の部下たちの生命に対する責任を果たす義務がある。その義
を放棄することは私には出来ない」
瑞鳳「なによそれ、そんなの自分たちさえ助かればいいって我が侭を理が通ってるように言い換えただけじゃない!」
一心「そうだな、仮に君たちの救難に駆けつけるということを正義とするのであれば私は自分の部下を助けたいという自分勝手な悪を選択
したわけだな」
瑞鳳「ッ!」
島風「やめてよ!」
なおも糾弾を続けようとする瑞鳳を止めたのは島風だった。
島風「私もみんなも疲れちゃった、だからお願い少し休ませてよ・・・」
島風の言葉は熱くなっていたものたちを冷ますには十分な叫びだった。疲れた、たったその一言には多くの意味が籠められていることは語
るまでもなく周囲に伝わった。
第9艦隊の面々が翔鶴と瑞鶴が医務室などに案内し辺りには静寂と自分たちしかいなくなったあとで鳳翔は口を開いた
鳳翔「ずいぶんと意地悪をしましたね」
その言葉には一切の怒気は含まれてはいなかった。どちらかといえばどこか呆れた様にみえた
一心「自分でもわかっているよ。あれは少し言い過ぎた。素直に一言謝罪をすればそれでその場は収まるとわかってはいるのだがな」
鳳翔「提督の考えも勿論私には理解できているつもりですよ。それでも女性にはもう少し優しく接してあげないといけませんね」
一心「やれやれ、今回はずいぶんと彼女たちの肩をもつな。悩める司令官の周りには敵だらけか、まったく。誰か変わってくれないかな」
鳳翔「私はあの子たちのお母さんですもの娘はどうしても可愛いものですよ」
そういうと鳳翔は曲がっていた一心の軍帽を直した。
一心「少し話し合うか・・・」
そう呟くと一心は瑞鳳が案内された部屋へと歩き出した。
一心が辿り着いた部屋には一切の明かりが灯っていなかった。それほど広い部屋ではない部屋の隅にうずくまる彼女を見つけるまでに
そう時間はかからなかった。
一心「瑞鳳」
彼女がこちらへと顔を向ける。その瞳はまるで深海のように深く一切の光を拒絶しまた、それを必要としていないように見えた。
瑞鳳「なによ」
一心「こんなことを今君に言うべきではないとはわかっている。それでも結論から言わせてもらえば君たちに近いうちに行われるであろう
敗走戦に参加してもらいたい」
瑞鳳「なに?中将提督だけでなく私達にも死ねって言いにきたの?自分の部下たちのために?」
一心「自分のためではないと思ってくれているのなら褒められたと思っておこう」
瑞鳳「皮肉も理解できないほどに追い詰められているのなら話くらいは聴いてあげる」
一心「まず飾っても仕方が無い、このまま行けば近いうちに俺たちは全滅する。子供にでも予測できることだが対策できることはあまり
にも少ない、だからこそ打てる手は全てうっておかねばならない。生き残る為に」
瑞鳳「だから戦ってくれと?」
一心「そういうことになる」
この説得がなんらかの益を生むことを彼自身期待してはいなかった。打算がない行動かといえば嘘にはなるのだが、この行動はいうな
れば打てる手の一つであり彼女が参戦することよりも彼女を中心に離反されることを防ぐための保険だった。
瑞鳳「いいわ、戦うわよ」
故に彼女の思いも寄らぬ回答に驚きと共に喜び似た不安を覚えたのである。
瑞鳳「中将提督が死んだ原因をつくったのはアイツらよ、中将提督の敵討ち。本来ならこっちからお願いしたかったくらいよ」
一心「ありがとう」
彼の褒められたものではない対人能力がたっぷりと数秒洒落た返答と復讐に駆られる者への戒めの言葉を捜したが結局彼が返した
返事は一言の感謝の言葉だった。
このやりとりを瑞鳳の部屋から帰ってきた一心を少しの酒と共に出迎えた鳳翔が知り得たのであれば、彼女は手に持った酒と浮かべ
た笑みをしまい込み子一時間彼への説教に時間を費やしたことであろう。だが、それは仮定の話で終わることとなる。なぜなら必死に
退却作戦を考える前線の将兵たちに彼らの意図とは異なる命令が下されたからである。
海域E-3 フロリダ諸島南方に全艦隊の集結を命ず
一心「言うは易しってやつか」
この命令を聞いた一心は大きなため息と共に多少の悪態をついたあとに艦隊へ指定されたポイントへの移動を命じた。
7月13日
指定されたポイントには覇気と陽気さを失った多数の艦隊の姿があった。当初の半数に近い数字まで数は減っているもののそれでも
組織的な行動がとれているのは安綱提督らの優れた艦隊司令たちの功績の賜物であろう。
一心「それで、上はなんと?」
安綱「二階級特進の前払いをしてやるから遠慮なく死んで来いだそうだ」
冗談まじりに答えた老提督の声は暗い。海軍上層部は前線の意向とは異なり交戦の意を打ち出した。
その裏にある彼らの保身と値打ちの無いプライドを感じた一心は怒りの声を上げるよりも先に厭きれてため息をついた
一心「特進の先で待っているのが彼らのように人命と地位を天秤にかけるような作業であるのであれば私は今すぐにでも辞表を提出した
いものです」
安綱「そう焦ることもあるまい、この戦いが終わればどちらにせよ今までと同じ水準の権力を海軍が掌握するのは難しくなる。そうなれば
自然と仕事も減り胸を張って給料泥棒ができるというものじゃ。退職金をもらうのはそれからでも遅くあるまい。」
一心「私はもともと給料泥棒をしていた身なので今更未練もありやしませんがね。まずは目の前の宿題を片付けてからではないと明日の
行楽の話はできぬというものです。もっともこの場合提出しなければならない宿題が無理難題なわけですが」
この宿題に対する回答を一心は全く用意していないわけではなかった。だがそれは通信先でおどけてみせている老提督も同じことで各
提督それぞれが自分なりに策というものは一応用意してはいた。しかしその回答を白紙に戻し無策のまま指揮を執らねばならぬ事態は
すぐに彼らの元へと訪れた。
「ぜ、前方に深海凄艦!偵察機からの情報によると数はおよそ・・・に、二百二十!」
集結した帝国海軍の総数は艦娘を含め約90、戦闘不能な艦を除けばその数は実質70にも満たないであろう、この通信を耳にした将兵
達は絶望しそれと同士に勘違いや見間違いという僅かな希望を胸に抱くものの、その希望は彼方を埋め尽くす黒い影によって砕かれ
彼らの胸には絶望のみが堂々と鎮座することとなった。
この通信を耳にした一心はただ一言誰にも聞こえないように呟いた
一心「どうにも・・・まいったなこれは」
艦の中は死と恐怖に支配され、絶えず悲鳴と嗚咽の構想曲が演奏されていた。恐らくこの海域にいる艦隊において例外は無いだろう。
深海凄艦との戦闘が始まりどれほどの時がたっただろうか、精神が悠久の時と感じているこの地獄も実際に時計を見てみればほんの
数刻の出来事かもしれない。もっともその真偽を確かめる余裕を今の一心は持ち合わせていなかった。
深海凄艦は一定の周期でこちらに波状攻撃を仕掛けてきていた、本来ならば敵の波状攻撃の引き際に合わせるように突撃をし、敵の
陣形を乱し各個撃破するのが定石なのだが敵の多さにそれさえ儘ならず敵の引き際に合わせこちらも引き、なんとか次の攻撃で全滅
しないように陣形を再編成するという消耗戦を海軍は強いられていた。
やまと「提督、敵が一旦引きました。この隙に多少なりでも休息をおとりください、身体を壊してしまいます」
一心「この程度で壊れるような身体ではない・・・はずだから安心してくれ、それよりも君を含めみんなは大丈夫
なのかい?戦闘が始まってからそれこそ最低限の補給のみしかできていないと思うのだが」
やまと「私達のほうが提督よりよっぽど頑丈にできていますわ」
小さな身体で胸をはり精一杯余裕を演じるやまとではあったがやはり滲み出る疲労の色は隠しきれてはいなかった。
やまと「さぁ提督、この際仮眠とまではいいません、永眠になりかねませんからね。ただし食事だけはとっていただきますよ」
一心「どうして君はへんなところに強情なんだい?私の分は他の人に回してくれて構わないよ」
やまと「榛名さんにいわれてるんですよ、しっかり食べさせてこれ以上体重を減らさせないようにって」
一心「なるほど、生きて帰れたら余生は健康に気を使うことにするよ」
やまと「今、気にしてください、帰ったときに提督の体重が目に見えて減ってたら私が怒られるんです」
「敵、警戒距離をを突破しつつあり!繰り返します、敵警戒距離を突破しつつあり!」
一心「そのときは私がしっかりと護ってやるさ。さて、もう一仕事するとするか」
敵の何度目かの攻撃を辛くも退けた後、一心は安綱のもとへと通信を開いた。
安綱「むぅ、一心か久しぶりだな」
一心「ええ、最後にお話したのは多分数日前のことのはずですが数年前のことに感じますね」
安綱「たった数日、たった数日でだ、この艦隊もずいぶんと静かになってしまったものじゃ」
一心「そうですね、ですが私達はまだこうして生きています、生きている以上部下と、そして死者に
最低限の義務を果たさなくてはなりません」
安綱「そうじゃったな、どうも年をとると悲観にくれるのが趣味になっての困ったもんじゃ」
一心「年に関わらずこの状況は悲観したくもなりますよ、ですが悲観してばかりもいれません。
安綱提督にもその準備を手伝っていただきたいのです」
安綱「最近の若者は年寄りを労わる事を知らなくて困るの、なぁ長門」
長門「労わられるにはそれなりの理由がないとな、それで一心提督具体的に我々はどう動けばよいのだ?」
一心「簡単です、撤退の為の艦隊の編成とその指揮をお願いしたいのです」
安綱「心得た、そのあたりはこの老体に任せてもらおう。して、肝心のおぬしはどうするつもりじゃ?」
一心「殿をつとめさせていただきます。ですが生憎名誉の戦死や玉砕は私の好む所ではないので適当に時間を
稼いだら尻尾巻いて逃げ出すつもりです」
安綱「一心、帰ったら一杯奢らせてくれよ」
一心「死亡フラグを立てるのはやめてください」
安綱「ふむ、お互い無駄口を叩けるうちは騒がしくて死神も近寄ってくるまい。では、健等を祈る」
やまと「お話は終わったのですか?」
一心「うん、まぁ後半はただの無駄話だけどね。それじゃあ最後の仕事に取り掛かろうか
それとやまと、今回は君も艦をおりて戦闘に参加してくれ」
やまと「了解いたしました提督」
「テキガカンタイヲヘンセイシドウヤラテッタイノジュンビヲハジメタヨウデス」
部下の報告をうけ泊地棲姫は驚きの表情を浮かべた。
「イマサラカ?テッキリコチラハギョクサイシテクルモノトオモイマッテイタノダガナ
オオジョウギワノワルイ」
「イカガイタシマス?」
「アイニクコチラハセヲムケルテキニハコウゲキシナイナドトイウニンジョウはモチアアセテイナイノデナ
ホウイジンニサイヘンシセンメツセンヲカイシスルゾ」
第六艦隊旗艦
一心「さて、やっとこの戦場から離れられるわけだが、そのためにはとりあえず逃げなければならないわけだ」
撤退作戦を前に一心は自身の部下たちを集め形だけでも作戦会議を開いていた。
瑞鶴「逃げますって言っても素直に逃がしてはくれないわよね」
一心「試してみても面白いかもな、そのときは瑞鶴にお願いすることにしよう」
瑞鶴「ねぇ提督さん、昔は降伏するときとかに相手方の司令官に自分の司令官
の首を持参したそうよ」
翔鶴「こら、瑞鶴!」
一心「首1つで許してもらえるなら悪くはないかもな。だが、現実はそうもいかない。1つの命と引き換えに多くの命を救えるのは神様だけに許された特権だよ。人間出来ないことはするものではない。」
時間と労力の無駄だからね、と短く付け足すと一心は既に冷めてしまった珈琲に口をつけてから机の上に海図を広げた。
一心「人間出来ることをやるのが一番だよ。たとえば 命を使って救えないのなら頭を使って生き残る とかね」
瑞鶴「それなら私も降伏するのはまた今度にしておいてあげる」
そんなやり取りがあったのが数分前。その後一心から具体的な作戦の指示があったものの瑞鶴の心中には不安の雲が暑く広がっていた。
瑞鶴「やっぱり素直に降伏するのが一番よかった気がしてきたよ翔鶴姉」
翔鶴「たしかに素直というのは人間の美徳の1つね。でも、私たちは人間ではないわ。敵に対して素直に頭を垂れることよりもやるべきことがあるはずよ」
瑞鶴「提督を信じて戦うこと・・・」
私の決意を後押しするように視界の彼方に見えていた艦が黒煙を上げて爆発する。
その艦は数分前に安物の珈琲を飲みながら提督の話を聴いた艦だ。
心臓の鼓動が早くなり不安とも高揚感とも形容しがたい感情が全身を駆け巡り身体を支配していく。
あの艦の爆発こそが瑞鶴たちの作戦の始まりを意味していた。
鉄底海峡、多くの生命が重なり積もってできたその海峡を人々はいつしか戒めの意を込めそう呼んだ。
記憶と共に風化し偽りの平穏を取り戻しつつあったその海峡にまた新たな生命たちがゆっくりと積もってゆく
次回「第四次ソロモン海戦」
面白そうですね。続きを期待しています!
おもしろかったです
続きもお願いしますー
提督の言葉が意味深でなんかワクワクしてきた。
やっぱりSS書ける人は特殊な訓練積んでるな
面白いっていってくれる方がいて嬉しいです!
瑞鶴&翔鶴をメインヒロインにするはずだったのになぜか影が薄くなってゆく・・・・・・
続きを待っています。
左官てなんだよw壁塗り職人なのかwww
ほんとだwww馬鹿丸出しすぎるwww
続きが気になりますー。
打ち切らないでいただけると嬉しいです。
とんでもねぇ、待ってたんだ
更新を楽しみに待ってますぜダンナ
打ち切る何て勿体ないです。更新待ってます(*^_^*)
続き書いて(o_ _)o
面白い!頑張ってください!
続き書いて!
遂に続きが来たのか
面白いです!
更新頑張ってください(*^^*)
まんま銀英じゃまいかん(´・ω・`)
続きが気になってハゲそうです…σ(´・д・`)