差し出された手
思ったことと自分のしたことにおける同時系列のお話です。海未ちゃんとことりちゃんの悩みを聞いたのぞえりについて、2人の視点から話を進めます。
後輩の悩みを聞いたのぞえり。2人はその時のことを振り返るように話し合います。
大切な時間はあっという間に過ぎ去り、今年ももう夏になっている。
高校生活は3年という月日よりも、自分に素直になれたあの時から始まっていたのかもしれない。
だからこそ、余計に短く感じてしまった。
いえ、あまりにも充実していたからかもしれない。
私の宝物。
大学生活も始めこそ緊張もしていたけれど、今となってはそれほど大変でないことにも気づき始めた。
サークル活動もせずに必要な授業に出ていればいいだけの生活。
不満があるわけではなのだけど、やはりどこかで物足りなさは感じてしまう。
それはやっぱり・・・
希「えーりち見っつけたー!」
昔とは違う形で長い紫色の髪をまとめた女の子。私の親友。
絵里「希、約束の時間はまだ先よ?」
希「ふふ、絵里ちに早く会いたかったんよ。だから来ちゃいましたー」
こんなことを男性に言ったらきっとその男性は虜になってしまうのではないのかしら?
それほどにこの半年で希は綺麗になった。女の私から見てもそれは明らかに分かる。
希「絵里ち、まだ学校終わらない感じ?」
絵里「いえ、後はこのレポートを出して帰ろうと思っていたところよ。それから向かおうと思っていたから」
希「ウチもレポート出すのついて行ってもいい?」
絵里「いいけど、あんまり変なことしないでよ」
希「ウチがそんなことするはずないやん。絵里ちは相変わらず心配性やね」
希とは音ノ木坂を卒業してからもこうして会って話をしている。本当は、にことも話したいのだけど、何かと忙しいみたいなのよね。
先生の下へレポートを出しに行く際、普段は学校にいない希はそれなりに目立つ。
人数が多いとはいえ、見知らぬ人がいれば目に付くみたい。
あちこちから視線を感じたのはたぶんそのせいなんでしょう。
希「絵里ちの大学はまた違った雰囲気で楽しそうやなぁ。ウチも絵里ちと一緒のところにすれば良かったかも」
絵里「といっても希と私では目指す進路が違うのだから、同じところは無理だったでしょう?」
希「絵里ちも一緒に保育士さん目指せば良かったんよ」
絵里「私に保育士は似合わないわ。それに私はやりたいことがあるのだからそれは無理なのよね」
希「そうやね、絵里ちはしっかりやりたいこと見据えてるんやもんね」
私のやりたいことは決まっている。今はそれに向かって日々知識と経験を増やすしかない。
希「でも、いっつも気張ってたんじゃ疲れてまうよ?絵里ちは無理しちゃうところあるから」
絵里「ええ、確かにそうかも。変わらないわね私も」
希「ううん、絵里ちは変わってくれたよ。前の絵里ちも好きやったけど、今の絵里ちはウチもっと好きなんよ」
こういったことをさらっと言えるのが希の凄いところよね。
絵里「ありがとう、希」
素直になることは昔の私には難しいことだった。
自分でどうにかするしかない。自分以外の誰かを頼ることもせず、一点だけ見て回りも見えていなかった。
結局私は自分が思っているほど何でもこなせるわけでもなく、ただ空回りしていた。
そんなときでも希は傍にいて、私を支えてくれていた。
そんな私でも好きと言ってくれた。
ありがとうとは言っているけれど、
本当は感謝してもしきれないの。
なんてあなたに言ってもどうせ、はぐらかされてしまうのでしょうね。
だってそれが私の大好きな希なのだから。
希「絵里ちどうしてそんなに笑顔なん?どうかした?」
絵里「いいえ、なんでもないわ」
いつの日になるかは分からないけど、それでもいつかきっと
希にはしっかり感謝の気持ちを伝えよう。
いつの日かきっと。
同日 大学外
希「さーて、絵里ち今日はどうしようか?」
絵里「そうね、希さえよければちょっとお茶でもしながら例の件の話をしてもいいかしら」
希「例の件?ああ!絵里ちが結婚するって話やね」
絵里「希、そんな話があるのならばぜひとも聞きたいところね」
希「ははは・・・冗談やん。ウチが相談したことについてやろ?」
絵里「そうよ、私なりに考えてことりに話をしてみたわ。多分予想は外れていなかったみたい」
希「そっかー、なら詳しい話はいつもの場所でしよか」
その後、私たちはいつものカフェへと向かう。
希「海未ちゃんと凛ちゃんにもこの前相談乗ったときにここ教えといたんよ。2人ともまた来たいって言ってたなぁ」
絵里「2人にも気に入ってもらえて良かったわ。いずれμ's全員で来られたらいいわね」
希「μ's全員か・・・」
希は急に暗い顔になりつぶやくように声を出した。
絵里「どうしたの希?」
希「えっとね、絵里ち。ことりちゃんの件もそうなんだけど実はもう一つ心配事が出来てしまったんよ」
絵里「あら?さしずめ穂乃果ってとこかしら」
希「絵里ち知ってたん!?」
絵里「いいえ、海未、ことりとくれば後は穂乃果でしょう?」
希「もう・・・絵里ちには敵わんなぁ」
絵里「そんな気もしていたのは事実だけど、実はことりから相談受けていたのよ、穂乃果のことで」
希「なんやそういうことかぁ。ウチは海未ちゃんから聞いたんやけどね」
絵里「状況を聞いただけでは穂乃果の状態は分からなかったけど、ことりの様子では今の穂乃果は私たちの知らない部分のある穂乃果らしいわ」
希「ウチ達の知らない穂乃果ちゃん?あの2人からすればウチらなんて穂乃果ちゃんのこと全然知らないけどなぁ」
絵里「ええ、でもそういう類のことではなくて、穂乃果自身が自分を見失っている可能性があるみたい」
希「海未ちゃんもそれらしいこといってたかもなぁ。」
私が変わることが出来たのは希の影響が大きい。
だけど、躊躇する私にその手できっかけをくれたのは穂乃果あなたなの。
そんなあなたが自分を見失うなんて、
私にはどうしても不安になってしまう。
目標に向かってただ前進をしているあなたは、
私とは違って、無意識に皆を引っ張り、皆に勇気をくれた。
あなたは今何を思っているの?
あなたは今何と戦っているの?
私ではダメかもしれない。
私ではあなたを助けられないかもしれない。
それでも・・・
希「絵里ち、ウチもいること忘れんといてね」
絵里「ごめんなさい、ちょっと考え込んでしまって」
希「違う違う。絵里ちが1人で悩むことはないんよってこと。ウチもいるんだから一緒に悩もう?」
希は本当に温かい。私にはもったいないくらい。
絵里「希、穂乃果の件、私たちも海未とことりの手助けをしましょう」
希「そうやね。大切な後輩を助けるのも先輩の役目。それと・・・」
絵里「それと?」
希「ウチの大切な友達が困ってる。ウチが動くにはそれだけで十分」
絵里「ふふふ、ことりも同じようなことを言っていたわ」
希「えー、同じ理由ならことりちゃんには敵わないやん」
穂乃果が私を大切に想ってくれたように
私も穂乃果を大切にしたい。
今でも鮮明に覚えているあの時。
あなたから差し出された手。
今度は私が。
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