2018-05-29 15:51:30 更新


一体、いつの頃だったろうか


最後に君と会った日は




「やっほー!」



花丸「あっ、善子ちゃん!」


善子「ヨハネ!」


花丸「久しぶりだね〜!」


善子「ふっ。堕天使であるこの私にとって、たかだか数年の月日など星が瞬く程度のものでしかないわ」


善子「零れ落ちる雫が乾くまでの、ほんの余暇でしかない時の中でホニャララ…」


花丸「相変わらずずら〜」ニコッ




この夜が明けたら



きっと行ってしまうのだろうね




【Cafe 松月 】



善子「…」ズズズッ


花丸「〜♪」チュ-


善子「…大学ってさ」


花丸「ん?」チュ-


善子「大学って、どの位休みあるの?」


花丸「ん〜」


花丸「…いっぱい?」


善子「何それ!?社会人への当て付け!?」


花丸「で、でもね?実際はレポート書いたり家の事したりで、そんなに休みはないよ?」


善子「…はぁ」


花丸「善子ちゃんは、お仕事の方はどう?」


善子「あ〜…まぁ、ボチボチってとこね」


花丸「…もしかして、仕事場でもヨハネちゃんが出るの?」


善子「そんなワケないでしょ〜?」


善子「てゆーか。そんな真似した日には、次の日から仕事行けなくなるわよ」


花丸「流石ずら〜」


善子「ふん!」


花丸「…」



花丸「ねぇ、善子ちゃん」



善子「ヨハネで〜す」


花丸「善子ちゃんはさ…」


善子「ん〜?」


花丸「いつから、ヨハネちゃんだったの?」


善子「い、いつから?」


花丸「うん」


善子「…そうねぇ」


善子「物心ついた時には、もうヨハネが降臨してた気がするわ」


花丸「じゃあさ」


善子「ん?」


花丸「善子ちゃんにとってのヨハネちゃんって、どう言う存在なの?」


善子「な、なんなのよ?一体」


花丸「聞いてみたかったんだよ」


善子「う〜ん…そうねぇ」


善子「私にとってのヨハネは…」


花丸「うんうん」


善子「…言ってみれば"夜店"かな」


花丸「夜店?」


善子「そう」


善子「夜店って、真っ暗な中に屋台がいっぱい並んでて、綺麗でしょ?」


花丸「そうだねぇ」


善子「それに、普段見ないような不思議で怪しげで…面白い物ばっかりじゃない?」


花丸「うん」


善子「周りの人達も、それに釣られて一杯集まって来て、楽しそうにハシャいでる」


善子「それが、私にとってのヨハネなのよ」


善子「まぁ、要するに非日常感ね」


花丸「ふ〜ん」


善子「今考えると、私はその非日常感が欲しくて、ずっと夜店を歩いてたんだけど」


善子「こうして社会に出てみるとね。みんなが必要としてるのは、やっぱり日常の…津島善子な訳で」


善子「私にとっての非日常であるヨハネは、やっぱりお呼びじゃないって訳なのよ」


花丸「…」


善子「今日アンタに会って、久しぶりにお祭り騒ぎが出来たんだけどね」




まだ、覚えているかい?



君が空に呼びかけたあの日から


長い長い時間を、共に過ごした事を




花丸「善子ちゃんは…」


善子「なに?」


花丸「善子ちゃんは、寂しいの…?」


善子「……」


善子「…寂しさ、ねぇ」


花丸「……」


善子「あのさ」


花丸「ん?」


善子「アンタは今、楽しい?」


花丸「…え?」


善子「アンタは、アンタの人生の…本懐みたいな物を果たせてると思う?」


花丸「…」


善子「本当は、自分には在るべき姿や存在理由があって…そんな私を、何処かで待ってる人が居るかもしれないって」


善子「そんな風に考えた事…ない?」


花丸「……まるは…」


花丸「私は、考えた事ない…かも」


善子「……そう…」


花丸「まるはね?」


花丸「立ち止まってる誰かの背中を、ほんの少しだけ押してあげられれば…」


花丸「それだけで、充分幸せになれるから」


善子「…」


花丸「だからきっと、それがまるの人生にとっての本懐…なのかも知れない」


善子「……じゃあ、私は」


花丸「え?」


善子「ヨハネはこれから…」



善子「何処に向かうべきなのかな」




わたしが来る前の君は


ずっと独りで、不幸に泣いていただろう



星も見えない、真っ暗な夜空の下で




花丸「…」


善子「きっと明日の先にも、津島善子はここに居るんだろうけどさ」


善子「そこに、ヨハネの居場所は…果たしてあるのかしらね」


花丸「それは…」


善子「……あぁ。」


善子「ごめん、喋りすぎたわ」


花丸「…」


善子「今の話、聞かなかった事に…」


花丸「…まる達が」


善子「え?」


花丸「私達が、いるよ?」


善子「…」


花丸「ヨハネちゃんの居場所は…そこじゃダメ?」


善子「……」


善子「…きっとね?」


善子「この寂しさは、私じゃなくてヨハネが感じているものかも知れない」


花丸「どうして?」


善子「だって…私は今、幸せだもの」


善子「私の傍には、友達も家族もいる」


善子「だから、私が寂しさなんて感じるはずがないもの」


花丸「…」


善子「そんな訳…ないでしょ」


花丸「善子ちゃん…」


善子「…」




君の嘆きを言葉に乗せて


わたしは語り尽くした



糧はいつまでも尽きる事はなく


君の悲しみもまた、消える事はなかった




善子「私が…津島善子が、その人生を謳歌して、輝いているほどに」


善子「ふとした瞬間、ヨハネを忘れてる自分に気が付くのよ」


花丸「…」


善子「身勝手な話よね?」


善子「一人で燻ってた頃、アレだけのめり込んで散々世話になってたクセにさ?」


善子「善子としての人生がちょっと充実したくらいで、直ぐ手のひら返すんだもの」


善子「…ホント、ひどい奴だ」


花丸「…」


花丸「それは違うよ」


善子「…」


花丸「それだと、善子ちゃんは囚われてる事になっちゃう」


花丸「…ヨハネちゃんに」


善子「囚われてる…か…」


花丸「今まで、ヨハネちゃんが支えてくれたからこそ、今の善子ちゃんがあるんだよ」


花丸「辛い時や寂しい時、ヨハネちゃんはいつだって、善子ちゃんの傍にいて慰めてくれたんだと思う」


善子「……」


花丸「そんな善子ちゃんが、もう一人でも平気だって分かったから」


花丸「だから、ヨハネちゃんはもう、堕天使でいる必要がなくなったんだよ」


善子「……空から迎えに来た天使が、また空に帰って行く…か」


善子「ふふっ。これじゃ出戻りじゃない」


花丸「やっぱり、実家が一番ずら」ニコッ




そしてあの日


君は星を見つけた



わたしが放つ、淡く儚げな光などではない


夜明けを報せる、本物の輝きを




善子「…でもね」


花丸「ん?」


善子「私を迎えに来てくれた、あの日」


善子「彼女にはもう、帰る場所は無くなったのよ」


花丸「ぇ…」


善子「私がヨハネで有り続けない限り、もう何処にも、彼女を待ってる人はいないわ」


善子「みんなが忘れて、そして私さえも必要としなくなった時…」


善子「彼女の居場所は、本当に何処にも無くなるのよ」


花丸「そ、そんな事…」


善子「…」




暗い夜空の下、小さな手をかざして


その瞳に、燦然たる星の輝きを映した君は



もう、夜を望むことはないだろうと悟った




善子「長い長い夜を、ヨハネと共に過ごして来たけれど」


善子「私は一度だって、彼女を陽の光の下に誘った事はなかった」


花丸「…」


善子「だって…彼女が輝ける場所は、あの夜の中にしかないんだから」


善子「それに、闇夜の中で儚げに輝く彼女に、私は惹かれたんだもの」


花丸「…」


善子「…私はね」


善子「津島善子は、Aqoursのみんながくれた輝きを糧に、今もこうして過ごしている」


善子「でも…」


花丸「でも?」


善子「結局あの日々は、私が善子として誇れる時間だったから」


善子「だからやっぱり、堕天使ヨハネの居場所は、彼処ではないんだよ」


花丸「そう…なのかな……」




いつだって



いつだって、君の代弁者だったわたしは




善子「…ねぇ。花丸」


花丸「っ!」


花丸「な…なに?」


善子「もし、この夜が明けたとしたら…」




わたしは




善子「堕天使は」


花丸「っ」





『どこに逝くべきなのかな』



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