山雲を栽培する
山雲が好きな人は読まないでください
山雲を栽培しようと試みるだけ
「司令さんー 前に言ってたー 一緒に家庭菜園やろうってー そろそろ季節的にはー いい頃かも~」
山雲が話しかけてくる。以前に一緒に家庭菜園を一緒にやろうという約束
園芸はさっぱりなため山雲に時期を任せていたがもういい時期らしい
今日は仕事があるので明日から始めることにした
「ああ、山雲。もういい時期なのか。じゃあ明日晴れるそうだし明日から始めようか」
山雲はにっこりと快諾する
「そうねー じゃあ山雲はー 明日に向けて下準備でもしてきますねー」
そう言って山雲は執務室を出て行く。これが一昨年の話
それから私と山雲は季節の許す限り家庭菜園を行った
次第に私達は惹かれていき、初めて家庭菜園を始めた日と同じ日に私は告白した
「山雲、これを君に……受け取ってくれるか?」
「司令さんーとっても綺麗ね、ありがとう。これからもよろしくお願いしますー うふふー」
幸せだった。山雲と一緒に汗をかき、野菜を育て、時には戦果を上げて褒めて、時には失敗をしてなぐさめ、私の中で山雲はなくてはならない存在になりつつあった
同時に、こんな小さな思いがひょんとした拍子に出てきたのだ
『山雲を栽培したい』
流石に私も狂っていると思った。インターネットでよく見る絵描きの漫画じゃあないんだから、これは現実なんだからそんなことはできない。そう自分に言い聞かせた
「山雲って栽培したら増えるかなぁ……」
「えっ?」
やってしまった。ふと思ったことを口にしてしまった。良くて聞かなかったことに、最悪の場合はこれから口すら聞いてもらえなくなるだろう
「ああ、いやえっとだな今のは」
「司令さんー? 植物とー 動物はー 別ですよー?」
「そ、そうだよな!私としたことが!か、家庭菜園のやりすぎかな!ははは!」
笑ってごまかす。なんとかなったようだ
んなわけなかった
次第に大きくなる欲求を抑えられなくなり気づけば
地下室を作り
植物育成ランプを買い
地下室を耕し
いつでも山雲を育てられるようになっていた
なんてことのない日曜日、山雲とホームセンターへ出かけた。ヘチマを育てるための棒と潮を防ぐためのベニヤ板を購入し、その帰る途中で山雲を眠らせた
「んんー? ここはー?」
山雲が目を覚ます
「目覚めたか、山雲」
「司令さんー? これはーなんですかー?」
わかっている様子だがあえて聞いてきたのだろう
「見てわからないか?山雲を栽培して増やすための設備だよ」
「前にも言いましたよねー 山雲はー 栽培はできませんー ってー」
「ああ、わかってるさ。わかってるとも!山雲……もうな……抑えきれないんだよ、この昂りがさ、君を栽培して増やしたい。君が植物として花を咲かせたらどんなに綺麗だろう!って!」
「狂っていますねー で、この足のはー 解いてくださらないんですねー」
「ああ、もちろんだ。君がしっかりと根付くまでは掘り起こすこともしない。大丈夫、きっと気にいるよ。肥料も程よく混ぜた柔らかい最高の土だからね!栄養たっぷりさ!水も朝にたっぷりあげるから楽しみにしていてくれ!」
「…………」
山雲が俯くのを見て私は部屋を出た。さて、これからが楽しみだ
朝、目が覚める。水やりの時間だ
山雲の元へ向かう
部屋の扉を開け山雲にあいさつをする
「やあ、おはよう!今日は曇りだけれど雨はふらないらしいね」
「司令さんー 今ならー 水に流しますからー やめにしませんかー?」
「何を言ってるのかよくわからないなぁ?山雲は増えるために植えられているんだ。きちんと種をつけて増えないとダメだからな!ほら、今日の水だ」
そう言って私はじょうろの水を山雲の頭からかける。段々と髪が湿り気を帯びてゆく
「電熱線も完備しているから寒くはないはずだ。さて、これから楽しみだな。また後でな」
その日は山雲の様子を見ることなく床に就いた
「やぁ、元気?いい朝だな!今日も水をやりにきたぞ」
特に返事もなく俯いていたので水をやった
軽く声をかけ出ていく時に山雲が話しかけてきた
「山雲はー 信じてますからねー いつか思い直してくれるってー」
何を思い直せばいいのか私にはよくわからないが濡れた髪が顔に張り付いた山雲も可愛いと思った。この日の夜は冷え込むそうなので山雲の電熱線の設定温度を少し高めに変えて床に就いた
「いい朝だな、今日も水をたっぷりやるからな」
山雲にそう話しかけながら水をやる。すると山雲からお腹のなる音が聞こえてきた。不思議だな、きちんと栄養たっぷりの土に植えているから栄養不足になるとは思えないのだが
「やっぱりー 3日も食べてないとー お腹がと~ってもすきますねー なにか食べさせてはー もらえませんかー?」
口寂しいということだろうか、確かに一部の植物は虫を捕食する。それならば今度からは虫を持ってきてやらないとな
「ああ、私としたことがすまないな。なるべく早くは用意するが明日の朝まではかかりそうだ。それまで待っていてくれ」
そう言い、私は部屋を出た。昼過ぎ、執務が終わった後、餌用のハエが売っている店から沢山買ってきた。これで山雲は喜んでくれる。うきうきしながら私は床に就いた
「朝雲、今日はリクエスト通り食べ物を持ってきたぞ」
うつむいていた朝雲が顔を上げ表情が明るくなった。だが何故だがすぐに表情がこわばった
「あのー もしかしてー その袋の中はー」
「ああ、もちろん虫だ。よく考えたら虫を食べる植物もあるからな。そこを考慮していなかった私の落ち度だ。すまない」
そう言って私は朝雲の口の中へ虫を押し込もうとする。あれだけ食べたいと言ってたのに何故か頑なに口を開かない
「どうした?食べたかったんじゃないのか?好き嫌いはだめだぞ?」
「嫌っ!」
わずかに開いた歯の隙間に指を入れ虫を押し込む
朝雲は咳き込むように吐き出した
「オヴウッ、ウフェ……ペッ……」
「もったいない、罰として今後は一切食べ物は持ってこないからな。水も今日はなしだ」
「ウェ……ちょっと待ってください!司令さん!」
悪いことをしたら罰を与える。弁解を聞くつもりはない
それから山雲は反省したのか素直になった。だが不思議と日に日にやせ細っていった
山雲の栽培をはじめて20日が経った。最近、元気がなかったが今日はとても元気だった。少し安心した
「今日もいい朝だなー」
「ごめんなさいごめんなさい山雲が悪かったんです司令さんの思ったとおりにならなくて山雲が悪いんです許してくださいごめんなさいどうしてもできませんでしたごめんなさい死にたくないです許してくださいお願いしますお願いしますお願いですからもう私の栽培はやめてくださいなんでもしますいうことをききますなんでもやりますからどうかおねがいしますやまぐもをここからだしてくださいせいいっぱいつくしますからおねがいします」
「今日は水をたっぷりやるからな。天気が良いから乾きやすいだろう」
山雲に水を与える。降ってくる水を必死に飲もうと口を開け舌を出す
体や顔についた水を手や舌を使い必死に集め飲む
根から飲めばいいのに、私は不思議に思った
「山雲が一年草ならそろそろ何かしらの変化が起こるんだろうな。楽しみだ」
そう言って私は部屋を出る。私のことを一切見ず山雲は全身に付着した水を必死に集めていた
山雲の栽培をはじめて30日が経った。いつものように部屋にはいると山雲が嘔吐をしていた
「どうしたんだ!山雲!」
口から呼吸がうまくできないようだ、更に嘔吐をして顔が腫れていた
嘔吐は心配だが顔が腫れているということは着実に植物としての変化が起きているということだ
更には口からの呼吸がうまくできていないのなら植物としての気孔呼吸が始まったことと考えるべきであり喜ばしいことである
嘔吐した口元には多少土がついていた。手にも土がついていた。なるほど肥料を経口摂取しようと試み、体が拒絶を起こした
結果として植物に近づく変化が起こったのだろう。素晴らしい
「私は嬉しいよ、山雲。君がこんなにも私に応えてくれるなんてな」
「し……れ……」
「今日は特別に少しだけ水を多めにやろう」
そう言っていつもより多めに水を与えた
最近部屋から異臭がする。山雲が排泄物を垂れ流している分には問題ないのだがそうではなく別の腐ったような臭いがする
山雲の人間としての部分が腐り落ち植物へと変わっている証拠だろうか、きっとそうに違いない
誰も行ったことのない試みは前例がないため何が起きているかは自分で考えなければならない
「やあ、今日もいい朝だ」
山雲に話しかける。ついに反応が無くなった。ようやく山雲が完全に植物になった。栽培53日にして目標のスタート地点に立てたのだ
ここから山雲を増やして沢山の山雲を作る。山雲に囲まれて私は暮らす。きっと君も嬉しいだろう。なあ、山雲?
栽培をはじめて56日が経過した。山雲が腐り落ちてしまった。全身が膨れ上がり酷い異臭が立ち込めた。換気のためにドアを開けっ放しにして換気扇を回す。どうやら失敗だったようだ。死体の足元を見ると土に埋まっていた部分は既に骨が見えている
かなり前から腐っていたのだろうか、死体の一部には蛆が湧いていてずるりとめくれてしまう部分もあった。私の山雲が蛆なんぞに食われてたまるか。とても強い怒りを感じて私は居ても立ってもいられずに工廠へ走りバーナーを持ち出して蛆共を燃やした
一体どれぐらい燃やしたのだろうか、バーナーの燃料がなくなり火が途切れる。なんということだ、山雲も燃えてしまっていた。私はその場に立ち尽くした
私は悲しい。とても悲しい。山雲が死んでしまった。山雲が植物になれなかった。失敗してしまった。この悲しみを糧にまた、山雲の栽培を研究しようと思う
そう心に決めると部屋を後にした
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山雲を栽培する
おわり
ごめんなさい
憲兵さん、この殺人提督です!
最高に狂ってる、がそれをあまり補うほどの心理、情景描写で提督の狂気が丁寧に描かれててゾッとしながらも一気に読み進めてしまいました。
艦これ提督にはあまり面白い内容ではないかと思いますので次があるならば是非オリジナルで見たいです。
とても面白かったです!
上から目線&長文失礼しました。