2015-04-22 17:44:57 更新

概要

色々な那珂ちゃん
みんな那珂ちゃんになれないifなお話でした


前書き

那珂ちゃんのことが嫌いなわけではありません


艦娘になれない那珂ちゃん


「あーあ、艦娘になれなかったなあ」


誰もいない部屋でベッドに寝転がりひとりごちる

服は脱ぎ捨てられ代わりに彼女はジャージを着ていた


「あはっ……これから私、どうすればいいんだろう」


「高卒、フリーター、20代後半、やりたいこともあったけれどどれも行動に移せない。移した行動もさっき無駄になった。はあーあ……」


自分に言い聞かせるように割と大きな声で言う

もう何度も言った言葉。自分の状況をより一層認識するための言葉

いつもこの言葉を免罪符に次の一言を発する


「やっぱ私って行動を起こしても起こさなくても同じだね」


「一応、適正は那珂だったんだよね。もしかしたら艦娘としてしっかりと人の役に立ったりしてたのかな。そんな私がいる世界もあったのかな。そうだったらいいなあ」


薄暗い部屋で目元を腕で隠しこの後も自虐を続けた

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた


認めてもらえない那珂ちゃん


「みんなー!ありがとー!」


そう言って路上ライブを開催する

もちろん客なんて一人もいない


「それじゃあ1曲目!聴いてください!」


イントロが流れ歌い出す

立ち止まる人はいない

それどころか


「うるせえんだよ!ヘタクソな歌聴かせるんじゃねえ!カラオケでも行ってろ!」


「お前本当に那珂かよ、そんなに音痴なやつ初めて見たわ」


と言った罵倒しか飛んでこない

特に今日は酷く


「チップやるよ、しっかり受け取れ。ほらよ!」


「痛っ……!」


チップと称して10円玉を投げつけられる

更に風が強いせいか


「あっ!」


販売しているCDが風で飛んでいく

飛んだ衝撃でカバーが開きディスクが飛び出す

急いで拾いに行くが


「……」


傷だらけになっていて売り物にならなくなっていた

更に風が吹きもう何枚かが吹き飛ぶ

道行く人は誰も拾わず通り過ぎてゆく

しゃがみ込み一人で拾う姿は物乞いのような痛々しさがあった

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた


聞こえる那珂ちゃん


「嫌……うるさい……っ!」


布団を被り震える


ロセンヘンコウシナインダカラッ!


「うるさい!うるさい!うるさいうるさいうるさい!!私は私なの!!」


自分は那珂だ、しかし自分の心当たりのない記憶が自分の中で流れる

自分と同じ那珂の記憶

しかし自分の体験したことのない記憶だ


「私は私……そう、私なんだ……えへへ」


−−−−−

−−−−

−−−


「……こちらです」


軍服を着た男が白衣の男二人を部屋に入れる


「うわ、こりゃまた綺麗に……」


「ええと、那珂さんでしたっけ?詳しくお聞かせ願います」


白衣の男が尋ねる


「はい、彼女は時々ひとり言をしていました」


「具体的にはどのような?」


「私が那珂だ、とか……うるさい、とか……です、ね」


「わかりました、残りはこちらで調査しますので」


「はい、よろしくお願いします」


そう言って軍服の男は部屋を出る


「ここの那珂の以前のデータはあるか?」


「ありますよ、まとめますとメディア露出の多い那珂のファンだったようっす」


「艦娘になるにあたって人間の時の記憶は消えるはずだが」


「それがまだよくわかってないんすけど、強い記憶は残るみたいなんすよね」


「彼女は憧れの那珂になったんだな」


「その記憶が裏目に働くこともあるんすね。けどまあ……」


言葉を続ける


「不思議な死に方っすね」


那珂は首を吊っていた

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた


辞めた那珂ちゃん


「……」(ニコッ


何も言わずに提督へ笑いかける


「ああ、那珂。おはよう」


提督が返事をする。那珂と提督がケッコンをしてから那珂は一言も言葉を発さなくなった


「今日の朝ごはんは……おっ!俺の好きなフレンチトーストか!那珂のフレンチトーストは格別だからな!」


「///」(テレテレ


提督に褒められ頬を赤く染める


「早く食べよう、冷めちゃもったいないからな!」


提督と那珂が席につくと手を合わせて


「いただきます」


提督が言う


「イタダ、マス」


酷く掠れ、空気が抜けるような音を出しながら那珂も言う

その瞬間、提督は目を見開き


「なに声出してるんだ?あ?」


那珂を椅子から引き摺り下ろす


「また約束を破ろうとしてるのか?約束したよな?お前はもう二度と歌わないって」


「コヒュッ……ゴメ……ナサイ」


提督は怒りに震え顔を歪める


「俺以外のなにも求めないって言ったよな?おい!なのにお前は声を出した、また俺を置いて歌おうと思ってるんじゃないのか?なあ!」


腹に執拗に蹴りを入れる、強くはないがつま先を押し付けるようにするその蹴りは精神的な屈辱が大きかった


「なあ、那珂。俺はお前しか見てない、お前しか愛せないんだ。だったらお前も俺だけを見て俺以外を求めないでくれ。お前が声を出したら誰かが振り向いちまうんじゃないかって心配なんだ。お前のことを思って声だって潰したんじゃないか。それに二人で決めた約束事を破るのはよくない。お仕置きが必要だな」


「ヤメテ……ゴメン……ナサイ」


腕で頭を守りうずくまりながら那珂は必死に謝罪をする

意にも介さず提督は執拗に腹を蹴る

はたから見ればただの暴力

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた


厳しい那珂さん


「ただいまー」


ガサゴソとレジ袋の音を立てながら帰宅する


「おかえりー」


自分で返事をする


「つーかーれーたー」


スーツを脱ぎ捨てベッドへ倒れ込む

ベッドのそばにあるメイク落としシートを手に取り手早くメイクを落とす

ベッドの下にあるゴミ箱へ役目を終えたシートを捨てる


「今日は祝杯祝杯♪」


ベッドから起き上がるとレジ袋を漁り飲み物を取り出す


カシュ、と音を立てて缶が開封される


「……っあぁー!うまいっ!やっぱりビールは染みるなぁ!誕生日おめでとう!私っ!」


一人で自分の誕生日を祝い酒を飲む

アパートの一室でただ一人で


「私もついに30歳かあー、ズルズル来ちゃったなあー」


ほんのり赤く染まる頬、懐かしむような目をして上を見上げる


「昔はもっとキャハ☆とか言ってたなあ……」


一口ビールを飲む


「今じゃアイドルみたいな振る舞いさえも私がやるにはキツいよね」


「昔はもっと人気になれる、アイドルと艦娘両方を極められるって思ってた」


レジ袋を漁りサラミを取り出す。袋を開けながら続ける


「けれど現実は遠征ばっかり、戦闘には参加できなかったしアイドル活動の時間もなかった」


小包に入ったサラミを開け口へ放り込む


「気づけば20代後半、提督に気を使われて指定服でなくてもよくなって、事務仕事中心になって、これじゃあただのOLだね」


ビールを一気に煽る


「っかー!……あー、時間は作れるようになったけれどアイドルとしても艦娘としてももう衰えでまともにできないし」


次のビールを開ける


「私ってなんの為に軽巡洋艦那珂になったんだろうね」


缶を揺らしながらため息をつく


「私は結局、何者にもなれなかった。もし、現役時代に少し無理をしてでもアイドルとして活動をしてたら、少しは変わったのかなあ」


ベッドに腰掛け、うなだれて、縋り付きそうな声で小さく「もう嫌だ」と吐き捨てた

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた


武神の那珂ちゃん


「そこ、なにやってるの?」


冷ややかな口調で語りかける

ビクリを肩を震わせゆっくりと振り向く駆逐艦


「ら、雷撃……です」


眉一つ動かさず、淡々とした表情でその返答を聞く


「これが?魚雷を流してるだけじゃん」


「そ、そんなこと!」


自分は必死にやっているのにそれをまるで無価値だと言わんばかりの反応に駆逐艦は憤る


「こんなんじゃeliteにはかすりもしない、やめたら?第二水雷戦隊」


そう言うと少し先行し那珂は魚雷を放つ

4方向に流れる魚雷はそれぞれ的へ命中


「それでも続けるなら、いつもの箱に入れておくこと」


返事を聞かずに陸へ上がる


「な、那珂!いくらなんでもその言い方は…!」


神通が呼び止める


「なに?私なにも間違ったこと言ってないよ?お姉ちゃんも最近駆逐艦に優しすぎるんじゃない?そんなんじゃこの艦隊は壊滅するよ」


言うだけ言って那珂は立ち去る

風呂を済ませ、部屋に戻ると部屋の前の箱にレポートが入っている

それを取り出し部屋に入る


「…………」


黙々と駆逐艦のレポートを読むとペンを取り出し評価を書き始める


「もう少し、あと少し」


その表情には普通の那珂という軽巡洋艦の面影は一切感じられない

だが、彼女の口元は少しだけ笑っていた



那珂ちゃん


「みーんなー!なっかちゃーんだよー!」


『ウオアアアアアア!』


「キャハッ☆声援ありがとー!」


沢山のファンに囲まれ大きな会場でライブをする

彼女は那珂、沢山のファンを持つスーパーアイドル

それと同時に艦娘でもある


「アンコールありがとー!それじゃあー、今日は特別に新曲を歌っちゃうよー!」


『やったあああああああああ!!』


「それじゃあ聴いてください!『2-4-11なんて言わせないっ!』」


−−−−−−

−−−−

−−


「どっかーん☆」


主砲を敵艦へ放つ

放物線を描いたそれは直撃、そのまま敵艦が沈む


「なっかちゃーんいっちばーん!」


当然のようにMVPを取る

那珂はこの鎮守府のエースでもあるのだ


「ウゥー、また那珂にMVPを取られマシター……」


「金剛さんも最近は那珂ちゃんに追いついてきてると思うなー」


金剛と那珂が帰投中に会話をする


「まじですかスカ!それまじですかスカ!」


「まだまだ那珂ちゃんにはかなわないけどね!」


「あの、お二人とも……帰投中とはいえ気を抜いては……」


言いにくそうに翔鶴が話しかける


「えー?那珂ちゃんはー、特に気はぬいてないけどー?」


「しかし、現に索敵もなにも……」


「んー、金剛さん見える?」


「ハイ!バッチェ見えるネー!」


「え?艦載機はなにも見つけてないようですが……」


二人が同じ方向を見つめる。翔鶴の艦載機はまだ発見していない


「直進するなら40分後ってトコロですかネー」


「せーかいっ!まだ見つかってないし回避できるけどみんなはどうしたい?」


「ワタシは叩きたいデスネー、テイトクに褒めてもらいたいデース!」


「僕も同じ意見かな、三隈もでしょ?」


「モガミンと同じですわ」


「翔鶴姉ぇ、あの二人より先に叩きのめしちゃいましょ!」


金剛、最上、三隈、瑞鶴も賛成する


「じゃあ那珂ちゃんも!」


「えっ、えっ?で、では第一次攻撃隊の準備を」


「翔鶴姉ぇまだ早いって!」


そんな雑談をしていると


「あっ」


那珂が声を漏らす


「oh......」


金剛も落胆する


「他の艦隊が接敵してマース……これは出番ありまセンネ……」


「じゃあ帰ろっか!今日の夕飯なんだろうなー」


最上が話題を切り替える


「モガミン汁が飲みたいですわ」


三隈は黙らせたほうがいい


−−−−−−

−−−−

−−


「おっしごとしゅーりょー!」


「おかえり、那珂」


提督が出迎える


「提督ただいまー!」


「テイトクゥー!」


金剛が抱きつく


「おっとと、女の子がそんなはしたない飛び込みをするんじゃない」


「じゃあ那珂ちゃんは補給してくるね!」


「あっ、那珂!まて!」


「那珂ちゃんはみんなのものだから提督にも縛られないんだよー!」


走り去る


部屋に戻ると小さくため息をついた


「はぁ、ふふっ」


「なかなかなれなかったけど、やっとなれたのかな」


「那珂ちゃんにすらなれなかったのに、今は大人気でエースの那珂ちゃん。やっぱり努力は実を結ぶんだね」


誰に言うでもなく、ひとりごとを言う


「今日は私が私になるって頑張り始めた日」


クルリと振り返り目元でピースをしながら満面の笑みでこう言った


「艦隊のアイドル!那珂ちゃんだよー!那珂那珂なれなかったけど、やっと那珂ちゃんになれた!アイドルとしても!艦娘としても!那珂ちゃんはとっても幸せ!これからもよっろしくねー!」



那珂那珂なれない那珂 おわり


後書き

これにて那珂那珂なれない那珂はこれにて終わりです

ありがとうございました


このSSへの評価

1件評価されています


SKさんから
2015-04-15 02:22:43

このSSへの応援

2件応援されています


SKさんから
2015-04-15 02:22:09

らんぱくさんから
2015-04-14 04:15:52

このSSへのコメント

3件コメントされています

1: らんぱく 2015-04-14 04:18:39 ID: Ry1Z_kiF

なんだかこう…胸が締め付けられる気持ちになりました。

更新楽しみにしております。

2: SK 2015-04-15 02:22:36 ID: lAjliyZV

病みそう笑

更新楽しみにしてます!

3: よっこー 2015-11-28 20:34:17 ID: hAEZmN-2

なるほど、そういうことか

おつかれさんっす


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