「これが私のお願いです」
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ホノリウスの誓いの書:第2の書 32章
【魂と肉体が再び戻る誓約について】
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「──h. t. o、」
「そして、e. x . o. r. a. b. a. l. a. y. q. c. i. y. s. t. a. l. g. a. a. o. n. o. s. v. l. a. r. t. y. t. c. e. k. s. p. f. y. o. m. e. m. a. n. a. r. e. l. a. c. e. d. a. t. o. n. o. n. a. o. y. l. e. y. o. t. m. a……」
いつだって、
「Casziel。Satquiel。Samael。Raphael。Anael。Michael。Gabriel。」
いつだってあの子は、
「七角形の第4から第6の十字架。別の神の御名。ve音節はAnaelの第1の音節の上に……」
「第2の七角形の第1の角と第2の角の間、これらの角が円と触れている所の小さな空間の真ん中に小さな十字架を描く……」
「そして、十字架の左上にはaの文字を書いて、右上にはgを、右下にはaを、左下には別のlの文字……」
俺の、大切な◾︎◾︎◾︎◾︎でいてくれた。
「そして、祈願の文言を……」
「…………これで、」
バッ
「主よ。この最も聖なる御名と印章を、祝福し聖別したまえ。」
──だから、
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○月○○日
[小泉邸放火事件]
事故の数日後に行われた調査取調べより、
上記に関する被疑者の証言からの抜粋。
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「……それで、」
「どうして、自宅に火を付けたんですか?」
花陽「……」
「事件現場である廊下に残されていた、僅かに燃料が残っていたジッポライター。家族の誰一人として煙草を吸わないのに、何故あんな物が廊下に?」
「当日の状況を鑑みても、それを使用し、貴方が火を放った事は明白です。」
花陽「……」
「子供の火遊びにしては、些か度が過ぎていると思いますよ」
「教えて下さい。何故、あんな事をしたのですか?」
花陽「……」
花陽「…………怖かったんです。」
「……怖かった?」
花陽「……」
「何が、ですか」
花陽「……っ、あ、アレ」
「アレ?アレとは」
花陽「……」
「……ハァ、」
「──小泉さん。貴方は確か、一ヶ月前にも此処へ入院なさっていましたよね?」
「横断歩道を渡る際、右折してきた乗用車に撥ねられ、そして全身打撲の重症を負った」
「一時は命すら危うかったにも関わらず、ある時期を境に急速に回復。その数週間後には何事も無く退院……」
花陽「……」
「担当医もえらく饒舌に語っていましたよ。なんせ、全身打撲で死に掛けていた患者が、後遺症はおろか傷一つすら残さずに、それもたった一月で退院したのですから」
「そして、帰宅した貴方は何故か自宅に火を放ち、その後、自分で緊急通報回線を使い、消防へ連絡した」
花陽「……」
「……正直に言いますとね、全く持って理解しかねるのですよ」
「退院したその日に、自分で自宅に火を放って、即座にそれを自身の手で通報する。」
「──なぜ、そんな事をしたのですか?」
花陽「…………ひ、」
「はい?」
花陽「火を付ける気なんて……な、無かったんです……」
花陽「私は……私は……っ」
「落ち着いて下さい。貴方を責め立てる気は毛頭ありません」
花陽「っ」
「先ずは落ち着いて、そして順序立てて話してみて下さい」
花陽「……は、はいっ」
花陽「…………あの日、お昼過ぎに病院から帰って来た、あの日。……その、」
花陽「自分の家を最初に見た時、なんだか……少し変だと思ったんです……」
「……変、とは」
花陽「な、なんて言ったらいいのか……雰囲気が少し……おかしくて、」
花陽「家の前にいるのに……な、なんだか……知らない土地に居るみたいな……そんな感じが……」
「それで、そのまま自宅へ入ったんですか?」
花陽「……玄関を開けたら、何故かお兄ちゃんの靴だけあって、……あんな時間に家にいる筈ないのに、」
花陽「それで……呼んだんですけど、全然返事しないし……なにか変だなって……それで私、二階に上がったんです。……でも」
「……」
花陽「……階段を登ってる途中で、気付いたんです」
「何にですか」
花陽「う、上から……変な、音がして……」
花陽「な……なにかをっ……その、地面に……こ、擦るみたいな……っ」
「擦る、ですか」
花陽「は、はぃ……それで……、その音が、お兄ちゃんの部屋からだって分かって……」
花陽「ぁ……こ、怖かったけど……静かに……本当に静かに、部屋まで行って……」
花陽「ほんのちょっとだけ……ドアを開けて、中を見たんです……」
花陽「そしたら……っ」
「……」
花陽「へ、部屋の中に──」
「顔の崩れた、何かが居たんです」
──私には、兄がいる。
愚図で、頭もあまり芳しく無い私とは違い
とても優秀で、家族想いの人
ご近所でも評判が良く、彼を頼って来る人達が後を絶えない
気さくで、真面目で、甲斐甲斐しい人
集う人々の中で、彼はいつでも笑顔だった
食卓ですら、いつも兄の話題が絶えない
それでも、彼は私を見ていてくれた
彼だけが、私に関心を向けてくれた
いつだって、私の兄でいてくれた
こんな私の、兄でいてくれたんだ。
──なのに、
花陽「……」
「その話が事実だったとして、貴方はその後、どうしたんですか」
花陽「…………私は、怖くて何も……出来なくて……」
花陽「そ、それで……おっきな声を出したら……あの……そ、ソレが……」
「……それが?」
花陽「ひ、ひいぃぃぃぃぃ……っっ!!!」
「落ち着いて、此処には何も居ません」
花陽「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
花陽「──うっ!」
「どうしました?」
花陽「い、痛い……っ」
「大丈夫ですか?火傷の傷が痛むんですね?」
花陽「うぅ……っ、だ、大丈夫です……」
「……」
花陽「はぁ……はぁ……」
花陽「す、すみませんでした……」
「いえ、お気になさらないで下さい」
「……しかし、あれだけの火事だったにも関わらず、その程度の火傷で済んだのは、正に奇跡としか言いようがありませんよ」
花陽「……っ」
「話によると、消防隊員が貴方を見つけたのは、二階ではなく玄関先だったと聞かされたのですが、」
「あの豪火の中、自力でそこまで向かったのですか?」
花陽「……」
花陽「……違います。」
「違う……?では、一体どうやって」
花陽「そ、それが……分からないんです」
「分からない?必死だった為に記憶が残っていない。と言う事ですか?」
花陽「……」
「──まぁいいでしょう。」
「それで、その顔の崩れた何か、と言う物に対して、貴方はその後どうされたのですか?」
花陽「……ぁぅ、そ、ソレがっ、わたしに飛び掛かってきて……っ、それで……」
「……」
花陽「わた、わたしは……っ、必死で踠いてっ、そしたら……ろ、廊下の奥に逃げて……」
花陽「そ、それで私……お兄ちゃんの部屋の、棚にあった……何かの記念品のジッポライターを思い出して……」
「なるほど、それが例のジッポライターだったんですね」
花陽「は、はい。それと……廊下の花瓶に刺してあった……が、がまほ?……それを持って、火を付けたんです……」
「……なぜ?」
花陽「えっと……ど、動物って火を怖がるじゃないですか……だから、コレに火を付けて脅かしたら……その、逃げてくれるかなって思って……」
「……」
花陽「〜っ」
「……そして、どうなったのですか?」
花陽「は、はい。それを持って……近付いたんです。そしたら……」
花陽「そ、そ、それが……きゅ、急にまた襲って来て……っ、」
花陽「わたし……っ、火を投げちゃって……それでっ、それで……っ」
「落ち着いて、ゆっくりでいいですから」
花陽「〜っ」
花陽「……そ、そしたら、ソレに火が燃え移っちゃったんですっ」
「それで、どうしたのですか」
花陽「す、凄い勢いで燃えてて……ソレが……家のアッチコッチで暴れて……っ」
花陽「わ、わたし……っ、もう……訳がわからなくなって……っ」
花陽「それで……き、気が付いたら……きゅ、救急車の中でした……」
「……分かりました。」
花陽「っ」
「今日はここまでにしましょう。また後日伺います」
花陽「は、はい……」
ガタッ
「……それと、コチラもお伝えしなければならないのですが」
花陽「え?」
「と言うより、火災の方は恐らく不慮の事故、と言う形で処理される可能性が高いので、事件と呼べるのものは、実質コチラの方だけなのですが」
花陽「な、なんですか?」
「……お兄さんの事、ご両親からは何か聞かされていませんか?」
花陽「お……お兄ちゃんのこと?いえ、何も……」
花陽「今わたし……こんなのですし……」
「……」
「貴方のお兄さんである、小泉○○さん」
「貴方が自動車事故で入院した、その数日後に」
花陽「っ」
「──彼が失踪しているんです。」
花陽「……」
花陽「…………え、」
──結局、
お兄ちゃんは私をどう思っていたんだろう
同じ家に居るだけの、
ただの同居人だと思っていたのだろうか
私が居なくなったとしても
部屋が一つ増えるとしか考えないのかな
陰気な妹が居なくなって、清々するかな
……そんな筈はないのに。
彼の気も知らずに、
頭の中で、勝手に悪人に仕立て上げる
兄がそんな事考えるわけないのに
こんな私だからきっと、愛想を尽かしたのかな
嗚呼、駄目だ。
──だから駄目なんだよ。
コンコンッ
花陽「……どうぞ、」
ガチャ
「失礼します。小泉さん、お身体の具合は如何ですか?」
花陽「えっと……まだちょっと痛いです」
「そうですか。まぁ、事件からまだ数日しか経っていませんからね。しょうがないです」
花陽「……」
「……えー。貴方の調書を読ませて頂きました」
「まず社会調査。これは所謂、調査官による保護者や学校側への面接なのですが、そちらの方は特になんの問題も見られませんでした」
花陽「……」
「いえ、寧ろとても評判が良かったです」
「一方、法的調査。つまり事件そのものの存否に関する調査なのですが、どうもこれが……」
花陽「……なんですか?」
「えぇ、今回の火災。最初は貴方の一時的な素行不良による放火、と言う観点で調査を進めていたのですが」
「貴方のお兄さんである、小泉○○さんが失踪した事件と並行して、現場の調査に当たっている内に、幾つか不審な点を見つけたんです」
花陽「ふ、不審な点……ですか?」
「…………率直にお聞きします。」
花陽「は、はい」
「小泉さん。貴方、自室で小動物を殺害した事は有りますか?」
花陽「っ!」
花陽「あ、ありません!絶対にありませんっ!!」
「……」
花陽「そんなこと……っ、絶対にしない……、出来るわけない……っ!」
「……でしょうね」
「社会調査の項でも述べましたが、貴方の人柄は至って温厚。そして、自身よりも他者を慰る。利他的行動を重んじる性格の様です」
花陽「〜っ」
「一概には言えませんが、この調査結果を見る限りでは、とてもそんな残虐行為を行える人物ではありません」
「……しかし、お兄さんはどうでしょう」
花陽「えっ……」
「小泉花陽さん。貴方のお兄さんの部屋に、多数の動物の血痕。それと、複数の香草や樹液などが発見されています」
花陽「──ッ!?」
「これを聞いて、何か思い当たる節はありませんか?」
花陽「あるわけ無いですっ!!お兄ちゃんはそんな人じゃありませんっ!!」
「……」
花陽「ッッッ」
「── 順序が逆になってしまいましたが、」
「貴方のお兄さんが失踪した理由について、何か心当たりはありますか?」
花陽「……無いです。」
「玄関にあったと言う靴。アレは確かに貴方のお兄さんの物でした。複数の人間から得た証言や購入記録がそれを裏付けています」
「しかし、失踪したその日、貴方のお兄さんである小泉○○さんは、何故か自身が持つどの靴も履かずに外出している。──そんな事ってあるのでしょうか?」
花陽「そ、それは……」
「……」
花陽「……」
「……正直に言いましょう。私どもは、拉致や誘拐の可能性はほぼ無いと踏んでいます」
「あるとすれば、たまたま小泉宅へ押し入り強盗に来た何者かと、貴方のお兄さんが偶然鉢合わせてしまい、その場で衝動的に殺害。そのまま遺体を何処かへと持ち去った」
花陽「っ」
「しかし、こんな話は可能性として考えるには余りにも陳腐過ぎますし、何より現場証拠の説明が付かない」
花陽「……じゃ、じゃあ」
「はい」
花陽「一番、可能性の高い事って……なんだと思ってるんですか……?」
「……」
花陽「っ」
「……それを知る為にも、小泉花陽さん。貴方の証言が不可欠なんです」
「そして、それがお兄さんを取り戻す為の、一番の近道でもあるんですよ」
花陽「……」
「なんでも良いんです。思い出せる事があったら、直ぐにでも話して下さい」
花陽「……はい。」
「こちら、私の名刺ですので、どうか宜しくお願いします」
ガチャ……
バタンッ
花陽「……」
花陽「…………お兄ちゃん。」
───
─
「……」
「良かったんですか?」
「……なにが、」
「いえ、もう少し何か聞き出せたんじゃ……」
「無駄だよ。あの子は本当に何も知らない」
「はぁ、」
「……」
「……しかし、ここに来て突然捜査本部の解除通達だなんて、強引すぎると思いませんか?何か、上の方で動きでもあったんですかね?それとも、別口からの圧ry」
「──関係ないかも知れないが、」
「はい?」
「あの子。小泉花陽が言っていた例の化け物」
「あぁ、アレはただの与太話でしょう?事実を隠蔽する為の、子供らしい嘘と」
「いたんだよ」
「……主語をお願いします」
「最初に現場に行った時、消火活動中の隊員ら数名から、"ソレ"を見たと聞いた」
「…………ソレ、とは?」
「……」
「燃え盛る、顔の崩れた何かが小泉花陽に覆い被さっていた……と、」
「……は?」
「それと、」
「は、はい?」
「事故現場に残されていた物に、血やら草の他にもおかしな物が混ざっていたんだ」
「おかしな物……?」
「火事での損傷が酷過ぎて、鑑識でも特定は無理らしいんだが」
「何かの記号、の様なものを描いた跡があったらしい」
「……なんか、儀式みたいですね」
「分からん。ただ一つだけ言えるのは、」
「あんなもん集めてる時点で、頭がイカれてるとしか思えん。という事だけだ」
──兄は、どう言う人だったんだろう。
今更になって、そう考える様になった
思えば、私の中のお兄ちゃんは
いつだって笑っていた
どんな時だって、笑いかけてくれた
私が困れば、直ぐにでも駆け付けてくれた
世の中にとってのヒーローは居ないけど
私にとってのヒーローは居る
いつだって、私の傍に居る
……でも、
お兄ちゃんはどう思ってたんだろう
お兄ちゃんの心は、
本当のお兄ちゃんは笑ってたんだろうか
本当は……。
コンコンッ
「どうぞ。」
ガチャ
「──ご無沙汰しております。」
花陽「……」
「その後、お身体の具合は如何ですか?」
花陽「……はい。火傷の方もすっかり良くなりました」
「それは何よりです」
ガタッ
「──それで、今日は貴方のお兄さんの件でお伺いしました」
花陽「……」
「えー、」
「これは、大変申し上げにくい事なのですが……」
花陽「…………なんですか、」
「……」
「先日、お兄さんの遺体が見つかりました」
花陽「……」
「山中の奥深くにある、人気の無い沢のほとりにて、うつ伏せになっている状態の○○さんを、登山中の方が発見されました」
花陽「……」
「崖の上からの身投げだったらしく、身体の前面が激しく損傷していたうえ、個人を特定出来るものが何も無かったので、その場での本人特定は不可能でしたが」
花陽「……」
「付近を調べたところ、○○さんの遺書らしき物が見つかりまして……」
「ご遺体の歯形とDNA鑑定も行ったところ、○○さん本人であるとの連絡が、先ほど鑑識の方から入りました」
花陽「──そんな筈ありません。」
「え?」
「そんな筈ないんですっ!!!」
花陽「兄は……っ、お兄ちゃんは!自殺なんてする様な人じゃないっ!!!」
「……」
花陽「だって……っ、入院する前はっ、あんなに……あんなに仲良くしてたのにっ」
花陽「違うっ!絶対に違うっ!!そんな事ないっ!!そんな事……っ!」
「……」
花陽「お兄ちゃんは……っ、お兄ちゃんは……」
花陽「……っ」
「……誠に、申し訳ありませんでした」
花陽「……」
「私どもの方でも、全力で捜索していたのですが、この様な結果となってしまった事、深くお詫び致します。」
花陽「……」
花陽「…………じゃあ、」
「……はい、」
花陽「兄はもう……帰って来ないんですか」
「……」
花陽「もう……逢えないんですか」
「……申し訳ありません。」
花陽「……」
花陽「…………疲れました。」
「え?」
花陽「……」
「……失礼します。」
ガチャ……
バタンッ
花陽「…………」
花陽「…………駄目だよ、お兄ちゃん」
花陽「帰って来ないと、駄目なんだよ……」
花陽「…………駄目、なんだよ……っ」
花陽「……」
……ごめんね。
ごめんね、お兄ちゃん
きっと、私のせいなんだよね
私が、お兄ちゃんを追い詰めてたんだよね
私がいつまでも、お兄ちゃんを頼ってたから
だからきっと、こんな事になったんだよね
私の中のお兄ちゃんは、いつだって笑っていた
……でも、
お兄ちゃんの心は
全然、笑ってなかったんだね。
【業務日誌】
○月○○日
[小泉邸火災事故]
今回、この事件の被疑者による、事件に対するこれまでの証言を考慮した上で、突発的に火を放ったと見られる小泉家長女、"小泉花陽"の事故当時に於ける謎の行動。
弁護側の意見にもあったが、放火した直後に緊急通報をした事実からも、彼女が行った一連の行動は、故意的ではなく、恣意的な物であったと言う可能性が極めて高い。
加えて、当時自宅内にいた何者か(動物の可能性もあり)による悪意を持った攻撃に対する小泉花陽本人の、所謂緊急回避的行動である、との見方も強い事から、コレは事件ではなく、偶発的な火災事故ではないか?と、弁護人の異議申し立てが家庭裁判所に提出された。
今回の案件である[建造物等以外放火罪]に置いて、上述にもある弁護側からの主張の一つ「今回、被疑者が取った一連の行動は、不法侵入者に対する一種の緊急回避的行動であり、現場に残された傷跡や動物の血液。そして被告人の即時の緊急通報など、これら物的証拠、状況証拠が被疑者の無罪を立証出来ると言えます。」
この主張と、それに付随した様々な証拠が決め手となり、家庭裁判所からの最終的な審判は【不処分】しかしそれ以前に、法的調査、社会調査、いずれの事実からも全くと言っていいほど当人に問題がなく、また、○週間の観護措置の間、幾度となく有った事情聴取とその間の会話に置いても、調査結果に納得の行く人柄であると自負出来る。
この事件の結末として、これは充分に合点のいくもであると言える。
──しかし、
小泉邸火災事故の数週間前に起きた、小泉○○失踪事件。
本人の自殺。と言う形で、この事件自体は一応の解決は見た
ここからは個人的見解にはなるが、この火災事故と失踪事件。全くの無関係であるとは、とてもじゃないが思えない。
先ず第一に、小泉○○の遺体を引き取った際、検案に携わっていた監察医が常駐の人間ではなく、外部の人間だったと言う事。
次に、検視に携わっていた人間(昔馴染みの同僚)が、この件について頑として口を開こうとしないと言う事。
そして、未だ明らかにされていない、現場に残された多数の動物の血痕、そして複数の香草や樹液などについて
ただの放火や、学生が一時の気の迷いで起こした自殺騒ぎで済ませるには、不可解な要素が多すぎる。
部下が言っていたように、何かしらの宗教絡みだったとして、放火自体が何かを隠蔽する為の偽装行為だったのか
または、小泉○○本人が何かしらの事件に既に関与していて、別方向からによる組織的な圧力により殺害され、それを自殺と言う形で偽装されたか
何にしろ、捜査本部が解除された今、個人的に調査するには、その規模や動機が余りにも不明瞭な事件である
これより先は、別事件からの関連性を見出しての、捜査本部の再設置を願い出ない限り
この事件の真相究明に、活路を見出す事は出来ないだろう。
……ねぇ、最近出るらしいよ
なにが?
燃えるお化け
はぁ?なにそれ?
兄貴がさ、山にドライブに行ったんだって
……その手の話は聞き飽きたよ。
本当なんだって!
新しく買ったバイクでビュンビュン飛ばしてたら、いつの間にか全然知らない所に着いてたらしいの。
……
でね?林の奥に明かりが見えたから、人が居ると思って、降りて向かったんだって──そしたら、
……燃えてる化物だったと、
なんでオチ言うの!?信じらんない!
だって、話の先が見え見えなんだもん
でもねでもね!実はこれ、続きがあるんだ!
は?
なんかね?その燃えてるお化けを見てたら、林の中から銃の音が聞こえたんだって!
銃……?
それでね!その燃えてるお化けに向かって、軍人みたいな人が何人か向かってったんだってさ!
……で?その後は?
ん、その後は……なんか逃げたんだって
お兄さんが?
うん。
あ!でもでも!なんか追っかけられたらしいんだよ!
誰に?
分かんない!多分その軍人さんにじゃない?
なんでお化けじゃなくて、その軍人に追いかけられるの?
……さぁ?
てゆーかさ、山の中で何かが燃えてたら、直ぐに地主辺りが気付く思うんだけど
んー、どうなんだろ
田舎の山なんて大抵持ち主がいるんだから、そんなのあり得ないよ
でもなぁ、嘘付いてる感じじゃなかったんだよなぁ
珍しく、すっごい必死で喋ってたもん!
気のせい気のせい。
……ほら、アイス落ちるよ?
へ?うわ!
新しいスカートに落ちるところだったね
あっぶなー!コレ、こないだの誕プレで兄貴から買って貰ったやつなんだよぉ!
早速汚したなんてバレたら、それこそなに言われるか……
あはは、優しいお兄さんだねぇ
……ふん。ただのバカ兄だよ
はいはい。
──俺には、妹がいる。
少し歳の離れた、内気な妹
本当は才能溢れる子なのに、自信がない
それは恐らく、俺の所為だ。
両親はよく、彼女の前で俺を褒める
あの子の顔も、心も見ずに、俺を褒めるんだ
本当は憎まれて当然なのに
あんな酷い目に遭う、その直前まで
俺を兄と慕ってくれていた。
あの子はいつも、笑顔で俺を迎えてくれた
いつだって、
いつだってあの子は
俺の、大切な【妹】でいてくれた
──だから、
「これが私の、お願いです」
〈本家〉
SCP-504-JP【一生のお願い】
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