2020-04-03 18:56:55 更新

概要

早霜さんがまたみんなをもてなしながら怖い話を披露するそうです。
怖い話でないときも…あるかもしれません。


前書き

2020/4/04 3話目を更新しました。
   
おそらく初投稿です。
拙作『早霜「駆逐艦早霜の、怖い話」』の続編です。

登場人物について独自の設定があります。が、説明は極力入れないフロム脳スタイルでいきます。
また、世界観や独自設定については他の艦これ拙作と同一です。

基本は台本形式ですが、別な書き方をすることがあります。
「www」や「……」などイメージしやすい表現を無限に使用します。
方言はエセです。





完全予約制のバーには秘密が一つ。


0時からの予約をとって、


お会計の際にお釣りが66円になるように払って、


領収書切ってもらうようにお願いすると、


宛名はどうするかと聞いてくる。


そこで「なるべくきれいな字で上様と」と答えると、


マスターがおもむろに鍵をかけて、


楽しいお話を聞かせてくれるそうです。




楽しめるかどうかは…保証しかねますが。




【1話目】




響「それにしても、様になっているね、夕雲…」


夕雲「うふふ…恐れ入ります」ニコ


響「バーにもう一人店員を増やすって聞いたときは、いくらか不安だったんだけど…」


響「杞憂だったみたいだ」グビ


早霜「響さんは、それを確かめにいらしたのですか?」


響「さあ…どうかな。不安だったのは、確かだけれどね…」フフ


夕雲「お眼鏡にかなったようでうれしい限りですわ」フフフ


響「……キミが来る前から、ここはいろんな艦娘が利用していた」


響「艦種の大小とか、おしゃべりだとか、無口だとか、バカ騒ぎしたいとか、しっとりやりたいとか、そういうのは関係ない」


響「共通点はお酒が好きなことだけ」チビ


早霜「……」キュッキュッ


響「私は…落ち着いてお酒を楽しめる場所が欲しかった」


響「居酒屋はお酒の種類が少ないし、そもそも一人でいると目立つ。一人にしてほしいときもある」


響「一人でやりたいからと、部屋で飲んでいるとすぐ雷に見つかって取り上げられてしまうし」


響「ひどいときは朝起きてフリーザーを開けたらお酒が全部なくなっていて、隠したなんて言われることもあるんだ」


夕雲「あら、姉想いの妹さんですこと」フフ


響「…まあね。私の体や、翌日のことを考えてくれているのもわかっているよ」


響「でも…よくあるじゃないか。いけないとわかっていても、体に良くないものを食べたり飲んだりする贅沢」


早霜「ええ…」クス


夕雲「ああ…チーズがたっぷり乗ったピッツァとか。美味しいですよね」


響「うん…背徳的だね」フフ


響「あとは…私の体だから、私の自由にさせてくれないか…とね…」


夕雲「…気持ちはわかりますが、私たちは艦娘です。任務に支障が出るような飲み方は、控えないといけないんじゃないかしら?」


響「それはもちろん。毎日好きなだけ飲ませろとは言わないよ」


響「私は誰にも何にも言われずにゆっくりお酒を飲みたい…。そんな日が、たまにあるんだよ」


夕雲「このお店に雷さんは来ないんですか?」


響「フフ…ここを予約するときに誰に連絡が行くか、知ってるよね?」


夕雲「ああ…」


響「出待ちなんてされていても平気さ。『私はちゃんと許可を取って飲んでいる。予約時間も守ってる。文句は司令官に』って言えるからね」


夕雲「…実際にそんなことが?」クス


響「最初の1回だけだったね。予約するときに雷の許可まで必要になったのは納得していないけど」


夕雲「ふふふ…」


響「その最初の1回はダブルブッキングでね」


夕雲「ダブルブッキング…ですか」チラ


早霜「オープンしたての頃は、予約が殺到して、またキャンセルも多かったので、予約を多くとっていたんです。」


早霜「その日は別な時間帯の方々と響さんが重なってしまって。」


響「正直に言うと、少しだけがっかりした。何せ隼鷹さんが居たからね」


夕雲「…そうですね~、隼鷹さんはあまり落ち着いて飲まれる方じゃないですから…」


響「カウンターの隅っこ…この席だよ。ここに案内されて、仕方なく一人で飲みだしたんだけど…」


響「誰も絡んでこなかったんだ。早霜以外はね」


夕雲「……他にはどなたが?」


響「…イヨと千歳はいたね。あと一人、えーと…。おかしいな、顔が浮かぶのに、名前が出てこない」ンー


響「秘書艦の…いつも司令官のそばにいて…えーと、髪が長くて、紺色の制服で……あれ、おかしいな…」


夕雲「ひ、響さん?本当に思い出せないの?」


響「至って真面目だよ。酔ってはいるけど」


早霜「…那智さんですね」


響「それ。那智さんが隣だったんだ」


夕雲「……ええっと、お茶目とかでは、無いんですよね?」アハハ


響「……冗談じゃなかったんだけど…信用してくれないのかい?」


早霜「ベイカーベイカーパラドクスですね」


夕雲「…?」


響「なんだい、それは」


早霜「その人の口調や職業といった、特徴は思い出せても、その人の名前が思い出せなくなる現象のことです」


早霜「パン屋ということは思い出せるのに、名前のベイカーが思い出せない、というジョークが名称の由来だと言われています」


響「…なるほど。パン屋は英語でベイカーだからか」


夕雲「……んー、日本だと服屋の福家さんが思い出せないみたいな感じなのかしら」クス


早霜「そうですね」クス


早霜「名前がつくぐらいにはよくある現象のようです」


響「ありがとう。少し恥ずかしさが和らいだ」クス


夕雲「ああ、ごめんなさい響さん。そんなつもりじゃなかったの」アセ


響「…いいよ。おかしなことを言っていたのは間違いないからね」


早霜「それで、那智さんたちと相席になった後の話ですが」


響「ん、そうだったね…」コホン


響「驚いたよ。那智さん以外はみんな絡んでくるタイプの人だ。それがみんな私を気にしないで、放っておいてくれるんだから」


早霜「私の不手際でしたから。皆さんに根回しをしておいたんです」


夕雲「なるほど…」


響「みんな、オトナだった。賑やかに4人が話してるのをぼーっと聞きながら、一人でゆっくり飲んでたよ」


響「確か…ウォッカを3杯飲んで、最後は早霜にお任せしたんだったね」


早霜「ええ。覚えています」


夕雲「何を作ったの?」


早霜「……」チラ


響「響だよ」クイ


夕雲「……ああ、ウイスキーですか」


響「そう。結構高いやつさ。最初は名前だけかと思っていたんだけど…」


早霜「水割りでしたね」


響「うん。あれは…よかった。すごく」


夕雲「響ってそんなに美味しいんですか…」


響「いや…ウイスキーの最もおいしい飲み方は…常温の水と1:1で割る…。初めて知ったよ」


夕雲「水割りというと氷も入れるものですが…」


響「水だけだよ。氷は入れない。邪道というわけじゃないけど、あれを飲んだ後じゃ、少し物足りなくなってしまうね…」


響「ニクいマスターだ」グイ


早霜「ありがとうございます」


響「それ以来すっかり常連さ」


夕雲「あらあら…。これからもごひいきに、お願いしますね?」


響「フフ……。さて、そろそろ閉店だよね?」


夕雲「あと10分ほどありますけど…」


響「寝る前にやっておきたいことがあってね…」


早霜「……」キュッキュッ


夕雲「では…。ええと…3,400円です」


響「……」チャリンチャリン


夕雲「……」


響「…領収書をお願いできるかな?」


夕雲「…どなた宛ですか?」


響「そうだね、上様で。なるべく綺麗な字で、よろしく」


夕雲「……」チラ


早霜「……」キュッキュッ


夕雲「……」スタスタ


カチャ


夕雲「では、お席にどうぞ」


響「…今日は気分がいいんだ。噂のやつを、試してみたくなってね」


早霜「…どなたから?」


響「那智さんだよ。一人で予約を取ることが多いからって、教えてもらったんだ」


早霜「ああ…」フム


早霜「……響さんは、夜がお好きでしたね」


響「うん。嫌いじゃない。日本のほうが、趣きを感じるというか…落ち着くんだけどね…」


響「たまには波止場の端に腰かけて、静かな海を見ながら、月を見ていたいんだけど、どうにも虫がうるさいんだ」


響「あと妹もかな」フフ


夕雲「雷さん…」クス


早霜「今日もそうですが…静かな場所によくいらっしゃる印象ですね」


響「うん…。ノイズ…雑音が好きなんだ」


夕雲「雑音…ですか」


響「例えばそよ風が梢を揺らす音とか、寄せては返す波の音。虫の声なんかもそうさ。羽音は苦手だけど」


早霜「……」キュッキュッ


夕雲「そういえば…響さんは耳がいいって聞いたことがあるけど、関係があるのかしら」


響「ん、そうだね。いいほうだと思うよ。ソナーみたいな高い音なら、小さくても聞き取れる。対潜も自信はあるよ」


響「だから…同じ雑踏の中でも、もしかしたら、他の人よりももっと細かい音に気付いて、それを楽しめているかもしれないね…」トントン


夕雲「絶対音感みたいなのがあるのかしら」


響「いや。そういうのじゃないと思うよ。音の質の違いは判ると思うけど、音階はわからないから」


夕雲「あら…。でしたら、単純に聴力がいいってことなんでしょうね」


響「ふふっ、そう言ったじゃないか」クス


夕雲「フフ、失礼しました」


響「それで、マスター。準備は整ったのかい」


早霜「……後味の悪いものでよければ」


響「正直だね…」


早霜「ホラー、オカルトに『そういった』要素はつきものですが」


響「構わないよ。私だって、そこまで敏感じゃない」


響「現実と作り話の線引きぐらい出来るよ」トントン


早霜「…ありがとうございます」カラン


響「ふふっ、お礼を言われるようなことかな?」


夕雲「じゃあ、そろそろ私も…。お隣、いいですか?」


響「うん」トントン


早霜「……そうですね。では、ある女性の話をしましょうか。」トクトク


早霜「その前に…」チャキ


チャカチャカチャカチャカ


響「…サービスしてくれるのかい?」フフ


夕雲「マスターの気まぐれです」ニコ


響「そうか。それは運がいいね…」


早霜「バラライカです」ス


響「へえ…ああ、柑橘系の香りがするね」スンスン


夕雲「私にはないんですか?」クス


早霜「姉さんは麦茶で」ス


夕雲「ぶーぶー」


響「……ん、おいしい。ああ、なるほど。結構辛口だね…」


早霜「口元が寂しいようでしたので。少しきつめにしておきました」


響「そうかな?ちょうどいいぐらいだけど」


早霜「それなら、いいのですが」フフ


夕雲「……」ゴク


早霜「では…始めましょうか。」






【囀り】




自然豊かな、静かな山奥の、小さな町に、大きなお屋敷がありました。

いわゆる、領主様、というものです。

そのお屋敷のお嬢様は、幼いころから、山や森、川、湖…

様々な自然の恵みに触れながら、過ごしていたそうです。


とりわけ、お嬢様は鳥が大好きで、

枝に留まって休んでいる鳥を見てはその絵を書き、

薄暗い森に入ってはその美しい囀りを聞き、

公園に行ってはパンくずを撒いて彼らとふれあい、

彼らが落とした羽を集めて、帽子に留めていったそうです。


時が経つにつれ、それはもう見事な羽飾りになっていき、

その帽子や、鳥との仲睦まじい様子から、お嬢様は「バーディ」…、

小鳥さん、と呼ばれるようになったそうです。



ある時、バーディが山の中腹にある草原で寝そべっていると、

ふと一羽の鳩が傍へ降り立ちました。

バーディはまた、いつものように帽子につられてやってきたのかと、

寝そべったまま、優しい瞳でその姿を追いました。

鳩は少したどたどしい足取りで彼女のそばをうろうろしていましたが、

ぴたと立ち止まって彼女の目を見つめ返しました。


「何か御用かしら?」…そうバーディが話しかけようとしたその時です。



『この人間、食べ物持ってそうなんだけどなあ』



バーディは驚きました。


頭の中で、少年のような声が確かに聞こえたのです。


バーディはいつも持ち歩いている小さな麻袋からパンのかけらをつまんで、

少年に見せつけるようにかざしました。


『やっぱり持ってた! えっと、食べていいのかな』


ゆっくりと鳩は近づいていますが、少し警戒しているようです。

鳩は頭のいい鳥です。いくら座っているとはいえ、

両手がほとんどふさがっていない人間に近寄ってくるのは、やはり不安な様子。


それならと、バーディはゆっくりとパンのかけらをいくつか少年の前に転がして、

鳩に背を向けるように座りなおしました。


バーディが少しだけわくわくしながら目をつぶって待っていると、

また頭の中に声が響きます。



『いい人間もいるもんだな』



同時にバサバサと翼をはばたかせる音。

バーディが振り返ると、少年は数枚の羽を落としながら、

山の向こうへ飛んでいきました。


バーディはぼうっとその様子を見つめていました。

そして、ようやく、自分の身に何が起こったのかを悟りました。


バーディは、鳥の心の声がわかるようになったのです。



それからというもの、バーディは鳥たちと一層親しくなりました。

庭園でスズメやツバメ、メジロたちと共に歌い、

草のベッドに寝そべって木漏れ日を共に味わい、

夜はバルコニーでフクロウと月灯かりの下で静かな時間を楽しみました。


ある時などは鳥害のひどい場所に数日通って、一人掃除をし続けると、

その姿を見た鳥たちが彼女に遠慮したのか、鳥たちはその場所に寄り付かないようになりました。


カラスによく襲われる少年の噂を聞けば、その少年とよく話し、

巣の材料になる枝や針金で鳥の巣のような小さなカゴを少年と一緒に作り、

カラスたちの縄張りに二人で置きに行くと、少年が襲われることはなくなりました。


バーディは鳥たちといつも共に過ごしていましたが、

バーディを見た町の人は彼女を鳥使いのようには思いませんでした。


バーディと鳥たちはとても楽しそうで、

何より、バーディは鳥たちを従えようとはしていなかったからです。


あのお嬢様は鳥の声がわかるんだ。

だから鳥たちはお嬢様のそばで囀るんだ。


バーディは何も言いませんでしたが、町の人々はそう確信していました。




しかし、あるとき。


バーディは一羽の鳩の前でうずくまっていました。

鳩の体には痛々しい大きな爪の跡と、そこから流れる真っ赤な血液と…


鳩はずっと苦しそうにうめいていました。


バーディでなかったなら、その鳩は何も言っていないように思えたでしょう。

ですがバーディにはずっと、ずっと聞こえていました。


『痛い、イタい、いたい、イタイ』


『どうしておれなんだ』


『おれはなにもしていないんだ』


『なあ、助けてくれよ』


『死にたくないよ』


バーディには何もできませんでした。

なぜなら鳩の傷跡からは、無残にも、破けたはらわたが飛び出していたのですから。


『どうして』


『助けて』


『助け』


『て』



鳩はついに動かなくなりました。

バーディはただずっと、亡骸を前に涙を流しながら、謝り続けました。



バーディは賢い娘でした。

鳥と共にはありましたが、鶏肉を食べることに抵抗はありませんでした。

草花を虫たちが食べ、虫たちを小鳥たちが食べ、そして小鳥たちを猛禽たちが食べる。

その流れの中に自分たちがいることをよく理解していました。


ですが、その一件があってから、バーディは鶏肉を食べないようになりました。


そのニワトリは果たして首を切られて締められるときに何を思っていたのだろうか。

羽をもがれ、足を千切られ、塩を刷り込まれて、炎であぶられて。


その光景を自分が見ていたら。


もしかしたら。


おぞましい断末魔が聞こえてしまうような気がして。




バーディが大人になるころ。

以前と比べると、彼女はあまり鳥たちと触れ合わないようになりました。

嫌いになったわけではありませんし、鳥たちもまた、彼女を見つけるとすぐに寄ってきます。


バーディはあの声を聴きたくなかったのです。

死にゆく鳥の悲痛な叫びを。


しかし、人間と鳥では寿命が違います。

どうしても、鳥と共にあった彼女は聴いてしまうのです。


年老いた友人の、心の声を。


夜中にうめき声が響いて目が覚めた時もありました。

恐る恐るバルコニーに行くと、羽根を数枚差し出すように散らせながら

倒れているフクロウの姿がありました。


その羽の模様や顔の形には見覚えがありました。

せめて最後は友達の傍に居たい。

そんなささやかな願いが聞こえるようでした。



だんだんと、鳥の断末魔だけが聞こえるようになり、

バーディはカーテンを閉じた屋敷の中で過ごすようになりました。

室内でも耳を隠すように大きな帽子を被っていました。


彼女の耳には絶えず小さな叫び声やうめき声、あるいは呪詛。

バーディは少しずつ、心をすり減らしていきました。


やがて、バーディは体調を崩し、

バーディの両親も心を傷ませて病を患い、空の向こうへ旅立ってしまいました。


そうしてバーディは屋敷の主人になりましたが、

昼もずっと真っ暗で、顔も見せないぐらいに帽子を深く被る女…。

夜な夜な癇癪を起こしたように屋敷を走り回ったり、叫んだり。

そんな日々を過ごすうちに、付き人や庭師も一人また一人と、屋敷を離れていきました。



あの声さえ聞こえなくなれば。

バーディは誰もいない屋敷で一人、どす黒い感情を抱きはじめていました。



そして、ある夜中に、事件は起こりました。



町の外れにあるお屋敷と、その裏山に火の手が上がったのです。

町の人が気づいたときには、もうどうしようもないほどに火の勢いは強くなっていて、

収まったのは結局翌日の昼。

お屋敷はほとんど炭と灰になり、その裏山も、まるでその一帯だけ冬が来てしまったかのように

禿げ上がった木々と土くれが残っているばかりでした。


町の人々は、ついにあのお嬢様の気がふれてしまったのだと口々に噂しあい、

わずかに残っていたお屋敷の残骸をすぐに片づけて、その跡地に教会を立てて土地を清めようとし、

この事件も、あのお嬢様の事も忘れようと努めました。



しかしバーディは、死んではいませんでした。

数年後、その町から遠く離れた場所で、行き倒れているところを発見されたのです。


その場所は、砂漠でした。

鳥が住みにくい環境に少しでも近づきたかったのでしょうか。


彼女の遺体が発見されたのは、大砂丘のどことも知れぬオアシスのほとり。


彼女の耳にはきつく耳栓が差し込まれていました。


そして、残念ながら彼女は最後まで鳥と共にあらざるを得なかったようでした。




倒れた彼女に手向けるかのように、あるいはあざ笑うように、


彼女の周囲にハゲワシの羽根が何枚か、散らばっていました。






【1話目・After】




響「……なるほど。確かに後味の良くない話だね」


夕雲「……」ムー


早霜「いかがでしたでしょう」キュッキュッ


響「……何か特別な力を持ちたいというのは、よくある願望だけれど」


響「そういう力には必ずウラがあるもの…教訓めいたものを感じた、かな」


夕雲「…でも、強く望んでいたわけでもないのに、そんな力に目覚めて…」


夕雲「大きく人生を狂わされることになってしまったのは、かわいそうね…」


響「そうだね…私たちも、似たようなものかもしれないよ」


夕雲「……」チラ


響「気がついたら艦娘になっていて、扱ったこともない砲塔を持たされて、海の上を走らされて、よくわからない化物と戦わされて」


響「そんな生活をもう何年も続けているんだ」


早霜「……」


夕雲「……」


響「鳥の断末魔が聞こえてしまうのが、バーディの能力の代償なんだとしたら…」


響「私たちのこの力の代償は、なんなんだろうね…」フフ


夕雲「……」


早霜「それは、分かりませんが」


響「うん…?」


早霜「少なくとも、いつ、いかなるときでも、戦わなくてはならないわけではありませんし…」


早霜「こうして、ある程度自由に活動をすることも許されています…」


響「……」カラン


夕雲「……ええ、そうね」


早霜「『もう何年も』…そう仰っていましたが」


早霜「未だに分からないというのであれば…気にする必要もあまりないのでは、と思います」


響「……そうだね。でも早霜」


早霜「はい」


響「私はノイズが好きなんだ。くだらないことを考える楽しみもあるってことさ」


早霜「……素敵な趣味ですね」


響「おや、辛口だね…」クス


早霜「皮肉ではありませんよ」フフ


響「どうかな」フフフ


響「さて、悪趣味な女はこれで失礼しようかな」ガタ


夕雲「また雷さんにお小言を言われに帰るんですか?」ウフフ


響「小言だけじゃないよ。水と苦い粉末も寄越してくるんだ。ひどいものさ」


夕雲「あとは替えの下着とパジャマですか?」クスクス


響「たまにね」フ


早霜「では…ありがとうございました」


響「ああ、それなりに楽しめたよ。それじゃあ、ご馳走様」


キィ…


響「…そうだ」


パタン


夕雲「どうかしました?」


響「早霜に伝えておきたいことがあってね」


早霜「何でしょう」


夕雲「私も聞いちゃっていいんでしょうか」


響「構わないよ。うわさ話だから」


早霜「噂ですか…」


響「うん。ガングートから、ウチの艦娘の中にスパイがいるかもって話を聞いてね」


夕雲「…スパイですって?」


早霜「……」キュッキュッ


響「ウチも外国の艦娘が増えてきたからね。本国に日本艦娘の機密を流しているものが居てもおかしくはない」


夕雲「機密といっても、各国とは情報共有をしているはずよね?今更何の情報を…」


響「さあね。ロシアやアメリカはともかく、完全に孤立しているイギリスや、地中海を抑えられている欧州諸国…」


響「そこに日本艦娘の技術情報を流したところで、現状どうなるものとも思えないからね」


夕雲「…つまり、その二大国の艦娘が怪しい、と言いたいんですか?」


響「そこまで悪趣味じゃない。さっき言ったよね?そんな情報を流したところでどうなるものでもない、って」


響「艦娘の建造に関しては未だに妖精たちのトップシークレットだ。知っていても作れないんじゃどうしようもないからね」


夕雲「……それは、」


早霜「姉さん」


夕雲「なに?」


早霜「響さんはスパイがいることに懐疑的だと言っているんですよ」フキフキ


響「ごめんよ。少し回りくどかったかな…」


夕雲「え、ああ、そうだったのね。ごめんなさい…」


響「それに私もロシアゆかりの艦娘だからね…。あまり悪口は叩きたくない」


夕雲「……反省します」シュン


響「いいよ。そもそもこんな話を聞かせた私に…少し不満を感じてしまうのは、しょうがない」


早霜「…悪趣味ですね」


響「早霜ほどじゃない」クス


響「…ここに来るような人たちからは、似たような話を聞けるかもしれないから」


響「早霜にはあらかじめ伝えておいたほうがいいかと思ってね」


早霜「ありがとうございます。私も、あまり信じてはいませんが」


響「まだ噂の話だからね…。出所が分かれば、真贋がはっきりするとは思うけど」


響「私が考えるよりは君たちのほうが色々コトが進みそうだから」


夕雲「……それじゃあ私たちが代わりに調査するみたいじゃないですか!」


響「おや、乗り気だね?」


夕雲「そういうことじゃなくてですね…」アワワ


早霜「そのようなサービスは提供していませんが」クスクス


響「フフ……次に来るときに、進捗を教えてほしいな」


夕雲「あっ、響さんたら本当に私たちに投げっぱなしする気よ!いいんですか受けてしまって?」


早霜「受けるも何も、響さんは私たちに依頼なんてしてないじゃないですか」


夕雲「そうかもしれないけど…」ウズウズ


響「そして早霜も依頼を引き受けたとは言っていない…」


響「私は君たちと情報共有をしただけだよ」フフ


夕雲「うぅ…納得がいきませんけど…」


響「じゃあ、そういうことで。失礼するよ」ガチャ


早霜「ありがとうございました」ペコ


響「おやすみ」フリ


パタン


夕雲「……いいの?」


早霜「まだ噂の段階ですから。もしここに来られる方々が似たようなお話をするようであれば…」


早霜「その時にまた改めて考えましょう」フキフキ


夕雲「……」フゥ


夕雲「提督に報告しなくていいんですか?」


早霜「現時点では必要ないと思います。ですが…」


早霜「姉さんもこのことは誰にも言わないでください。どこに漏れても混乱が起きる可能性があります」


夕雲「……わかりました。早霜さんが言うなら、そうなんでしょう」


夕雲「でも、何か思いついたら、教えてくださいね?」ウインク


早霜「考えておきます」フキフキ


夕雲「…もぉ!そこは二つ返事でオッケーしてくださいよぉ」プンスカ





【2話目】




ゴトランド「このお店、窓はないんだっけ」パタパタ


早霜「…申し訳ありませんが、窓は特別な場合を除いて閉め切っております。姉さん?」


夕雲「ええ。少し下げますね…」ピッピッ


ゴト「ありがとう。ふーっ、暑い…」パタパタ


早霜「ペースが速かったように思いますが」フキフキ


ゴト「そうかも。お酒飲むの久しぶりなんだー…」


夕雲「あまり飲むイメージなかったんですけど、結構イケる口なんですか?」


ゴト「イケるクチ…?」


早霜「お酒が好きなのかということです」


ゴト「うーん…体質的には大丈夫かな。でもあんまりお酒を楽しむって感じじゃないの」


ゴト「お国柄っていうのかな?」


夕雲「ああ、スウェーデンはお酒の販売が厳格なんでしたね」


ゴト「そうよ?売っていい時間も決まってて、アルコールが一定以上だったら全部専門店に行かないといけないんだから」


早霜「それに比べると、日本は緩いですね」フキフキ


ゴト「かもね…。コンビニにいっぱい並んでるの、見たよ。こっちでそうってことは、本土でもそうなんだよね」


夕雲「スウェーデンと比べたらそれは…」アハハ


早霜「それにしても、珍しいですね」ゴソゴソ


ゴト「…私が来るのが?」


早霜「ええ。そもそも、いらっしゃるのは初めてですし」


ゴト「あぁ、私、夜更かししそうなタイプに見えない?」クス


早霜「姉さんと同じですよ。あまりお酒を嗜まれない方だと思っていましたので」カリカリ


ゴト「んー……」カランカラン


夕雲「……?」


ゴト「この間、ネルソンさん達のパーティーに呼ばれたことがあってね?」


早霜「ああ、あの…」


夕雲「パーティー…ホームパーティですか?」


ゴト「ハヤシモは知ってそうだね?」チラ


早霜「はい。ネルソンさんとアークロイヤルさんが気の合いそうな方を呼んで朝まで語り明かす会だと聞いていますが」


夕雲「あ、朝まで?」


ゴト「うん。合ってるよ…」


早霜「無事に帰ってこられた方は…まだ武蔵さんしかいないともっぱらの噂ですね」カチチチチチ


夕雲「え、えぇ…?」


ゴト「途中までは何とかついていけてたんだけど、今ぐらいかな…。日付が変わったあたりから、意識が怪しくなっちゃって」


ゴト「ちょっとね、トイレで…その。やっちゃってさ」アハハ


夕雲「壮絶ね…」アセ


ゴト「フラフラで席に戻ったら、ムカエ酒?っていうのを飲まされてね?」


ゴト「あとはもう、わかんない。いつどうやって自分の部屋に戻ってきたのかも覚えてないぐらいでね…」


早霜「……」ム


夕雲「……?」


ゴト「あー、もっと美味しいお酒を自分のペースで飲みたかったなあって思ってたの。」


ゴト「もちろんその次の日かな?ずっとベッドでお休みして…」


ゴト「しばらくお酒なんて飲まないぞーって感じだったんだけど…」


早霜「最近ふとお酒を飲みたくなった、と…」キュッキュッ


ゴト「そういうこと。ネルソンさんが、ハヤシモのお店がいいって言ってたような気がして。」


早霜「司令官…提督は何か仰っていませんでしたか?」


ゴト「提督?なんで?」


夕雲「ゴトランドさんと何かあるんですか?」


ゴト「……さあ?」


早霜「……司令官はゴトランドさんに少し苦手意識があるようですから」


ゴト「ホント?傷ついちゃうなあ」クス


夕雲「あら、そうだったんですね。でも、指輪まで渡されているのに…」


ゴト「そうなの。聞いてユーグモ。提督に聞いたの。指輪渡してくれたのはなんでって。」


早霜「……」クス


夕雲「はい…?」


ゴト「そうしたら、『ゴトはスロットが多くて大型探照灯も載せられるから』って、感情のこもってない顔で言うんだよ?」


ゴト「ちょっとデリカシーが無いって思わない?」クス


夕雲「まあ、提督は女性と接するのが苦手みたいですし…」アハハ


早霜「ええ…」


ゴト「あっ、提督ってオクテ?っていうタイプなのね?」


夕雲「そうなんです。だから、秘書艦隊の皆さん以外とは、あまり話さないみたいですよ?」


ゴト「ふ~ん…いいこと聞いちゃった。なるほどなるほど…」フムフム


早霜「……」


ゴト「ん?」チラ


早霜「……」フキフキ


ゴト「見てたよね?」


早霜「お美しい方だなと、つい見とれて」シュー


ゴト「フフフ…」ニコ


夕雲「……」


ゴト「そういえば、コーヒー淹れてるよね?」


早霜「ええ。酔い覚ましにいいかと思いまして…」コポコポ


ゴト「…私のために?」


早霜「はい」コポポ


ゴト「ふふっ、嬉しいなあ。ありがとう」ニコ


ゴト「でも、今飲んじゃったら、もうちょっと眠れなくなりそうだから…」


夕雲「…そうですね。そろそろ、いい時間です」


ゴト「先にチェック、いいかな?」


夕雲「……えーっと…」


早霜「お会計です」


夕雲「ああ、そうだったわ。ごめんなさい、うっかりしてて…」


ゴト「いくら?」


夕雲「2,700円です」


ゴト「……」チャリチャリ


夕雲「……領収書、要りますか?」


ゴト「綺麗な字で、『ウエサマ』だったっけ?」クス


夕雲「……かしこまりました」チラ


早霜「……」トクトクトク


夕雲「……」スタスタ


カチャ


早霜「…合言葉はどなたから?」


ゴト「誰だと思う?」クス


早霜「……ゴトランドさんはここに来られるのは初めてでしたね」


ゴト「うん」


早霜「この合言葉を知っている人はそれなりにいらっしゃいますが、教える方は少ないです」


ゴト「うんうん」


夕雲「……」


早霜「まず、単にお酒を飲みたい方は合言葉に興味が無いでしょうから、ネルソンさん達は違うでしょう」トクトク


早霜「ゴトランドさんと仲の良さそうな欧州諸国の艦娘の方々も同様に、興味がないか、教えないはず」


早霜「最初に利用するのにいきなり秘密のメニューを教えることはないでしょうから」カランカラン


ゴト「フフフ…」


夕雲「……」ハラハラ


早霜「となると、候補に挙がるのはバーの予約を取るとき…。」ガチャ


早霜「秘書艦隊の方々や、司令官に近しい方が教えたとみるのが妥当でしょうか」パタン


ゴト「すごいね。合ってるよ?」


夕雲「え、ええと…」アワワ


早霜「ゴトランドさんが予約をとったときに、私は執務室に居ましたから」ピッピッ ピッ


早霜「あの時あの場にいた私、那智さん、足柄さん、電さん、荒潮ちゃんはおそらく違うでしょう」


早霜「あとは秘書艦隊ではないけれども、似たような役職に居る方々…そうですね、」


早霜「天龍さん、赤城さん、木曽さん、摩耶さん、明石さん、大淀さん……こんなところでしょうか」


ゴト「うんうん…」


早霜「その方たちとゴトランドさんは一緒に出撃したことがありませんが…」


早霜「性格的に摩耶さん、天龍さん、木曽さんは絡んでこないでしょうから…」


早霜「赤城さんか明石さんか大淀さん…と、予想します」


早霜「推理できるのはここまでですね」


ゴト「へえ~~…。」パチパチ


夕雲(どうしましょう、話についていけない…)


早霜「さしあたって、いかがでしょう。」


ゴト「うふふ……。そうだな~……。」


早霜「……」


夕雲「……」


ゴト「うん、惜しいかな。その6人の中にいるかもしれないってだけ。」クス


早霜「なるほど。当たらずとも遠からず…といったところでしょうか」


ゴト「当たらずとも…?」


夕雲「正解じゃないけどそんなに間違ってはいないってことです」


ゴト「へ~。そうね。ちょうどいい言葉だね」ニコ


ピーーーッ


早霜「……できましたね」


ゴト「お話ししながらいろいろやってたよね」


夕雲「もしかしてカクテルですか?」


早霜「はい。ゴトランドさんはコーヒー好きでしたよね?」ガチャ


ゴト「うん。コーヒーっていっても、甘いやつね。ラテのほうが好きかな」


早霜「もう少々お待ちください…」ゴソゴソ


ゴト「……ハヤシモって、本当に物知りだよね」


早霜「恐れ入ります」


夕雲「お酒に限らず、さっきみたいな言葉とか、いろいろ知ってるんですよ?」


ゴト「そうだよね…。何て言うんだろう。駆逐艦の子達の中だと、大人っぽいって言うのかな?」


夕雲「あら、私は子供っぽいですか?」クス


ゴト「ユーグモはちょっとセクシー過ぎるかな?」フフフ


夕雲「ありがとうございます♪」


早霜「お待たせしました。ゲーリックコーヒーです」スス


ゴト「あっ、なあにこれ。コーラ・フロートみたい…」


夕雲「ちょっとしたパフェみたいな感じですね…。コーヒーゼリーのようにも見えますけど」


ゴト「マスター、このカクテルはどういうやつなの?」


早霜「はい。砂糖を入れたコーヒーに、スコッチをステアして、電子レンジで少し温めて、生クリームを注いだものです」


早霜「スプーンをお付けしましたが、まずは混ぜずに一口召し上がってみてください」


ゴト「ふーん…私がスコッチ好きなの、わかるんだ」ス


早霜「何となくですが」


ゴト「……あっ、へえ…。そんなに甘くないんだね」


ゴト「口の中で混ざってく感じ、面白い…」


早霜「ありがとうございます」


ゴト「ふふっ、この感じ、好きかも」


夕雲「私にはないんですか?」


早霜「姉さんには麦茶を」


夕雲「ぶーぶー!」


ゴト「ふふっ…」


早霜「さて、ゴトランドさん」


ゴト「うん」チビチビ


早霜「ちょうどゴトランドさんの好きそうなお話を最近仕入れまして」


ゴト「ふうん?どんなお話?」


早霜「…端的に言えば、YESと答えたいのに…NOと答えなくてはいけない…」


早霜「そんな質問を投げかけるお話です」


ゴト「へえ……興味あるな」


早霜「ご期待に沿えるよう、頑張りますね」フフ





【隠し味】






とある王宮のダイニング。

長い長いテーブルに料理が一皿。


豪勢な椅子に深く腰掛けて、じっとその料理を見つめる女王。


「陛下。いかがでございましょうか。」


傍らの側近が問いかける。


さて、どう答えたものか。

女王はふいと視線を上げる。


真っ白な顔でいかにも緊張している若い料理人の姿。

それを見て女王は僅かに口端を上げた。






 わらわはこの座に就くまでに様々な国を渡り歩き、美食の限りを尽くしてきた。

 料理人たちよ、わらわの食したことのない食材で料理を作ってみせよ。

 わらわが全てその食材を当ててみせよう。

 

 我こそはと思うものは、三夜にかけて一つずつ、わらわに夕餉を作るがよい。

 そのうち一つでもわらわが答えられぬ食材があれば、何でも望みの褒美をやろう。


 もしも全て当てられるような料理を作るようであれば…そのような傲慢な料理人は要らぬ。

 二度と厨房に立てぬよう、その両腕、両足を切り落としてくれよう。

 





城下町の掲示板に大きく張り出されたそれを見て、初老の男は口の端を上げた。


この女王様は全てを味わってきたような口ぶりだが、

俺とて美食やゲテを問わず、世界の裏側まで料理し、味わい尽くしてきた男。

付いたあだ名は鉄の胃袋、鉄の舌。

肉、魚、野菜だけじゃない。虫や草花に至るまで、俺に知らない食材はない。

技術だってそうさ。こんな流転の料理人にも、優秀な弟子がついてきてくれる。

腕はまだ少しばかり心もとねえが、頭の切れるやつだ。店の管理はやつに任せられる。

やつには苦労をかけたろうが、この国に店を構えたのも天運ってことだろう。


どれ、一つこの女王様には…俺様の店を大々的に宣伝してもらおうか。

金や地位に興味はねえ。俺の料理でこの国の人間を、みんな虜にしてやりてえのさ。






初老の男は深く後悔していた。


昨日は島国の、限られた国でしか食べられることのない、亀の肉を選んだ。

さあ当ててみろと言わんばかりにスープ仕立てにしてやった。

だがあの女は動じなかった。



「なるほど亀の肉か。いずこかの島国で食したことがある。

 このような地域的な食材というものは、得てしてその地域の調味料を使わぬと

 味わいが崩れてしまうものじゃ。例えばこのスープには塩はもちろんじゃが…

 葱とショウユ、ミリンを入れてあるじゃろう。これもかの国特有の調味料じゃ。

 それにしてもこのような単純な料理を出してこようとは。わらわも甘く見られたものじゃな。」



それならばと、今日はとっておきの肉でカルパッチョ風の料理を出した。

しかしあの女はさして驚きもせず言ってのけた。



「これは象の肉じゃな。昔、東の国で食したことがある。

 ソースはチーズにオリーブの油、タマネギ、ニンニク、赤茄子。どれも我が国で手に入るものじゃな。

 じゃが、この肉には細工がしてあるのう。これは、ハエの蛆じゃ。

 蛆を肉に植え付けさせることで、まるで脂身が入ったように濃厚な味わいになる。

 この程度の細工では、小僧の舌は喜ばせても、わらわには通じぬぞ?」



まさかハエの蛆まで当てられるとは思っていなかった。

これで肉料理では勝ち目がなくなった。

奴は海の食材も一通り味わっているだろう。魚の類も俺と同等か、それ以上に詳しいはずだ。

三日目のために用意していた鮫の肉は使うまでもない。

ハエの蛆すら味わったことのあるゲテ女だ。昆虫食もダメだろう。


とすると残りは野菜や薬草、穀物の類だが、これも厳しい。

これまでの二夜の肉はたまたまツテで仕入れてあったものだ。

しかしこれらの食材は話が違う。風土が強く影響するからだ。


他ではじゃんじゃん収穫できるものでも、少し気候が違うだけで全く生えなくなる。

つまり地域色が強いということだ。奴が経験してきた味をすべて覚えているというのなら、

どの野菜や薬草を持って来ても無駄だろう。世界のたった一カ所でしか育たない野菜なんて知らないし、

仮に知っていたならもう出しているし、あと一日で用意できるはずもない。


甘かった。


奴と同様に世界を料理してきたこの俺が、こんなところで看板を下ろすことになるとは。

歳や金の問題じゃない、ヤツの言う通り、俺の傲慢さによってだ。

このままじゃ弟子にも顔向けできねえ。

何か手はないものか。誰も食ったことのない料理を、あと一日で作れるのか。







いや、まだ手は残っている。


あれを使えば、奴を黙らせる料理を出せるはずだ。


俺の一世一代をかけた、渾身の一皿をお見舞いしてやろう。


あとはあいつが上手くやってくれりゃ、それっきりだ。








「よかろう」


長い沈黙の後、女王はおもむろに体を起こし、料理人を見やる。


「このスープは一昨日のものと違わぬ。調味料とその配分、

 スープの量もほとんど変わらないことはわかった。

 しかし、この肉はわらわの食したことのないものじゃ。

 喜ぶがよい、料理人よ。そなたとの勝負、わらわの負けのようじゃな」


「おお、陛下…!」


「……はい。光栄の至りでございます」


料理人はぎこちなく頭を下げた。


「では約束通り、そなたに褒美をやろう、といってやりたいところじゃが…」


女王は懐から扇を取り出し、開いて口元を隠した。


「その前に教えてはくれぬか、料理人よ。

 わらわも知らぬこの肉は、いったい何ものか?」


穏やかな声色とは裏腹に、その瞳は鋭く、また獰猛であった。

料理人はガクガクと膝を震わせながら、しかし大きな声で答えた。


「お答えするのはたやすいことですが、その前に私の願いを申し上げとうございます」


ただ立っているだけの男は息を荒げていたが、その瞳にもまた力があった。


女王は扇を閉じ、その不敵な笑みを隠さずに答えた。


「ほほう。先に褒美をと申すか。愉快な男じゃ。申してみよ」


「陛下にお出しいたしましたこの肉、手に入れるには随分と苦労をいたしましたが、

 もしやするとこの国の法に触れる行いがあったやもしれませぬ。

 まこと無礼があるのは承知の上ながら、この料理の一切について、私を罪に問わないで頂きたいのです」


男の足の震えは止まっていた。


「ほう…」


女王はくつくつと噛み殺すように笑った。


「では今ここでわらわがそなたを捕えよと命ずれば、どうするかの?」


「お分かりにならぬはずはありますまい。その肉が何ものか、陛下に申し伝えぬまま朽ち果てるだけの事」


「よい覚悟じゃ」


女王はまた椅子に背を預けた。


「これ、このものに、一生困らぬほどの金貨を呉れてやるがよい」


「陛下、かの者の褒美はまだ――」


「無用じゃ。こやつの褒美はわらわには出せぬ。

 しかしわらわはこやつとの勝負に負けた。その代わりということじゃ。そなたも、それでよかろう?」


「異存はございません」


「よろしい。まこと、見事であった。行く行くも精進するがよい。ほほほほほ…」


訝しげな執事をよそに、女王が満足そうに始めた高笑いは、

男が出ていくまで止まることはなかった。






【2話目・After】




早霜「…いかがでしたでしょう」


ゴト「……ふふっ、ふふふふっ」


夕雲「……」アセ


早霜「お気に召しませんでしたか?」キュッキュッ


ゴト「…ううん。面白かったよ、とっても」ニヤ


夕雲「ね、ねえ早霜さん。その話ですけど、もしかして…」


ゴト「それはダメ」ニコ


夕雲「え、は、はぁ」


ゴト「だよね?」


早霜「……好き嫌いはあるでしょうが、私はそうしたいですね」


ゴト「フフフ…」


夕雲「……」アセ


ゴト「それで、ハヤシモ。どうしてその話を選んだの?」


早霜「ゴトランドさんが好きそうだと思いましたので。そう申しましたでしょう」フキフキ


ゴト「そうかな。違う気がする。」ジー


早霜「……」


ゴト「……私、ハヤシモと気が合うと思ってるんだ」


早霜「恐縮です」


ゴト「あなたが何を考えているのか、知りたい」


早霜「なるほど…」


夕雲「……」ハラハラ


早霜「……今、この鎮守府に不穏な噂があるのをご存じですか?」


ゴト「不穏?ああ、よくないってことね。えーと…」


早霜「……」フキフキ


ゴト「アレのことかな」


早霜「それでしょうね」


夕雲「あ、あの、お二人とも?」


早霜「はい」


ゴト「どうしたのユーグモ?」


夕雲「そこはちゃんと、言葉にしておいたほうが、いいんじゃないかしら…?」アハハ


ゴト「ユーグモはわかってるの?」


夕雲「え、ええ。多分そうじゃないかと思っているのはありますが…」チラ


早霜「……」キュッキュッ


夕雲「もう…!」ハラハラ


ゴト「なるほどなるほど。うん。そうなんだね。ハヤシモ」フムフム


早霜「いかがですか?」


ゴト「多分ハヤシモが思ってる通りだと思うな~…」


ゴト「私、提督のこと以外はあんまり興味ないから」クス


早霜「そうですか」


夕雲「……」ホッ


ゴト「だから、ハヤシモと、ユーグモに教えられること、そんなにないと思う」


早霜「…これからも、ということでしょうか」


ゴト「ごめんね?」


早霜「いえ。参考になりましたので」フキフキ


ゴト「そう。なら、嬉しいかな…」


ゴト「じゃあ、そろそろ出るね。あのコーヒー、おいしかったよ」ガタ


早霜「恐れ入ります」


夕雲「あら、いけない」パタパタ


カチャ


夕雲「ありがとうございました」ペコ


ゴト「うん。面白かったけど…今度はもっと、くだらない話、したいな」ニコ


早霜「ええ。落ち着いたときにでも、また…」


ゴト「ふふふ…。God Natt♪」



キィィ… パタン



夕雲「……ふ~~~っ、息苦しいわ。よく平然といられますね…」ハァハァ


早霜「慣れていますので。ゴトランドさんはわかりやすいほうです」ゴソゴソ


夕雲「えぇ…?途中、何を言ってるのか、私にはさっぱり…。」フーッ


早霜「ゴトランドさんはご自分でも仰っていましたが、他の方を巻き込むような方ではありませんので」トクトク


夕雲「……そうね、ゴトランドさんは、あまり他の方と一緒に行動しているイメージは無いけど…」


早霜「なので、ある程度信用してくださるようには計らったつもりです」カラン


夕雲「えっと、今日のことでしょうか」


早霜「そうです。もちろん、私とゴトランドさんが本質的に似ているというのもあるでしょうが…」


早霜「味方と言えないまでも、友好的な関係を築いておくのは重要だと思います」バタン


夕雲「……?」


早霜「私がゴトランドさんにどんなことを言っていたか、思い出してみてください」ピッピッ ピッ


夕雲「うーん……」



夕雲「あ、そうね、そうだわ…。」ナルホド


早霜「私が今回得た情報はあまりありませんでしたが…」ピーッ


早霜「今後のヒントに繋がるかもしれませんので、よしとします」ゴソゴソ


夕雲「…やっぱり教えてくれないんですね?」ムスー


早霜「…料理に例えると、まだ食材を切り分けただけです」


早霜「煮ても焼いてもいないものを姉さんに出すわけにはいきません」


夕雲「…そう言われちゃうと、うーん…」モジ


早霜「ですので、替わりと言っては何ですが」ス


夕雲「…あら!さっきのコーヒー…!」


早霜「ボトルコーヒーですから、味が劣るかもしれませんけれど」


夕雲「ありがとう早霜さん…じゃあ、いただきますね」


早霜「いえ、私の分もありますので、ここは…」ス


夕雲「…乾杯っていうのは、ちょっと違うかしら?」


早霜「スウェーデンではスコールというらしいですね」


夕雲「では、それでいきましょうか」クス


早霜

 「「Skal」」カチン

夕雲





【3話目】





足柄「スパイねえ…そんなのウチにいるとは思わないけど?」タン


電「可能性はなくはないと思うのです。外国の方も多くなってきましたので…」タン


早霜「……」


夕雲「お二人とも、心当たりはないみたいですよ、早霜さん」タン


早霜「いないに越したことはありませんから」タン


足柄「…まあ、誰が言ったか知らないけど、『全てを疑え』なんて言葉もあるからね…」タン


電「マルクスでしたか、デカルトでしたか… あー」フム


夕雲「あまり気にしても仕方ないとは思いますが、鎮守府の今後に関わることですから…」


足柄「わかってるわ。でもあたしにそういう情報は入ってこないようになってるのよ」


夕雲「…そうなんですか」


電「この人は太陽みたいな人ですから。何でも秘密にしたい人は、あんまり寄り付かないのですよ」ウーン


足柄「さすがでんちゃん。よくわかってるわ」


夕雲「…あら?ではどうして…」ハテ


早霜「足柄さんから見て… 可能性があるとすれば、どのあたりだと思われます?」


足柄「んー?印象でってこと?」


早霜「はい」


電「…うん、これにしましょう」タン


夕雲「あ、はーい……よし、こっちで」タン


足柄「……直感的には、そうねえ…やっぱり最近増えてきた子たちになるでしょうけど?」


早霜「…そうでしょうか」タン


足柄「早霜こそ、心当たりがあるように思えるけど?」タン


電「……」タン


早霜「お察しのとおり、まだ情報を集めている段階ですが…」


夕雲「……あっ」ピタ


早霜「もしかしたら、というのはありますね…」フフ


足柄「なあに二人して諜報活動ってわけ?」


早霜「そんなところです」


夕雲「違いますよ」


電「…ええと?」


夕雲「何にも教えてくれないんですもの、早霜さんたら。私にはさっぱりです」ムス


足柄「…なるほどねぇ」ニヤ


早霜「何か?」


足柄「あんたアレから進歩してないんじゃないの?」


電「足柄さん…」ジト


早霜「…今回は、まだそのような段階ではないと思っていますから」


足柄「そりゃあんたの頭の中じゃ都合いいわね。信仰の自由ってやつ?」


早霜「そうですね」


足柄「…ふっかけてきたのは早霜よね。あたしたちから情報を引き出したいってんなら、あんたからもアプローチが欲しいわ」


電「……」


夕雲「……」ムム


早霜「そもそもスパイがいるかもというのは響さんから聞いた話です」


足柄「へえ…」


電「響ちゃんが…?」


早霜「ガングートさんからそのような気配があるとのことで」


足柄「……まあ、露骨に怪しいところだわね…」ウデクミ


電「響ちゃんは何か…?」


早霜「私たちのほうがより多くの艦種と触れ合う機会があるから、と…調査を投げられました」


電「はわぁ…。ごめんなさい、お姉ちゃんが迷惑を…」ペコ


足柄「経緯はそんなところだ、と…。それで?」


早霜「さしあたってガングートさんと折り合いの悪そうな艦の誰かではないかとは思っています」


足柄「妥当なところね。それから?」


早霜「…無い袖は振れませんよ」


足柄「ふぅ~ん……」ニヤ


早霜「……」


夕雲「……」ムムム


電「足柄さん、いったんやめましょう。早霜さんも、夕雲さんも、困ってますから」ハワ


足柄「夕雲ちゃんが困ってるのは違うでしょ?」


電「え?」


夕雲「ごめんなさい、もうちょっと考えさせてください…」ムム


電「あぁ、そっちでしたか…」ホッ


早霜「姉さん」


夕雲「はい?」


早霜「変に考えるよりは直感に頼ったほうがいいかもしれませんよ」


足柄「そうそう。ビギナーズラックっていうか、ラッキーパンチがあるから」ニコ


電「変わり身が早いのです…」ハァ


夕雲「ふふっ、ではお言葉に甘えて…それっ」タァン


早霜「……」


足柄「……」


電「…あ~」


夕雲「えっ?」ビク


足柄「……次、早霜でしょ?」


早霜「…ご冗談を」パタ


夕雲「ああ…」ガク


早霜「ロンです。タンヤオドラ1。ですが…」チラ


足柄「何よ」


早霜「どうぞ」


足柄「…甘いわねえ。あたしもロン」パタ


電「…そういうことですか。じゃあ電も…」パタ


夕雲「えっ、えっ!?」


早霜「三家和で流局ですね」フフ


夕雲「……っ、そ、そうなんですね。はあ、助かりました……」


足柄「ラス親だってのにお姉さん想いね~…」ポチ ガコ


電「お一人で和了すればよかったですのに」ガラガラ


早霜「あまり目にしないでしょうから。折角ですし、いいかと思いまして…」ガラガラ


足柄「まあね。あたしこれ2回目だわ」ガラガラ


電「電も…」


早霜「私は初めてですね…」


夕雲「え、そんなに珍しいんですか?」ガラガラ


足柄「野球のトリプルプレーとか、ノーヒットノーランぐらいには珍しいんじゃない?」ピ


電「もっとだと思いますけれど…」


早霜「貴重な体験でしたね、姉さん」ニコ


夕雲「え、ええ。というよりは、平然とされてる皆さんに、ちょっと、恐怖感が…」タジ


足柄「そぉ?」


電「慣れればこんな感じになるのですよ」ニコニコ


早霜「だそうですが」


夕雲「そー、そうなんですねえ。うふふふっ」ヒキツリ


足柄「この鎮守府、いろんな人いるから。多少の理不尽はスルーできるようになんなさい」スチャ


電「ですね…」スッ


早霜「ましてや同じ環境で何年も熟成されてますからね」スッ


足柄「めんどくさいの多いからね。あたしもだけど」ス


電「電はどうなのですか?」ス


足柄「え、違うと思ってんの?」カチャカチャ


電「はい。どうですか夕雲さん」カチャカチャ


夕雲「ええっと、電さんは、とてもまじめで、優しいですし、笑顔が素敵で…」スッスッ


電「ですよね!?」キラ


夕雲「ひぃ」


電「足柄さんがスレすぎなのです。電はお二人のようにめんどくさい女じゃないのですよ♪」


足柄「どう思う?」ドラメクリ


早霜「フッ…」サッサッ


電「その反応けっこうイラっとするのでやめてください?」ジト


夕雲「あ、あはは…」


早霜「失礼しました」タン


足柄「ンフフ…。ごめんねぇみんな。ダブリーよ!」ダンッ ガコ


電「うわ…」シカメ


夕雲「えぇぇ…」アセ


早霜「相変わらず終盤にお強いようで」


足柄「実力者ってのはアガリを上手くまとめるもんでしょ」リーボウ


電「鳴けない…困ったのです…」ウーン


足柄「でんちゃん残りいくつだっけぇ~?」ニヨニヨ


電「…13400ですが」


足柄「振ったらトんじゃうかもしれないわよぉ」


電「…まさかダブリーで倍満の手なんて、都合よく入るわけないのです」


足柄「そうよねぇ。じゃあ字牌でもなんでも切ってきなさいな」


早霜「口三味線はマナー違反ですよ」


足柄「はっ。さっきお姉さんに振り込ませたコがよく言うわ」


夕雲「い、いえいえ。牌を選んだのは私ですから」アハハ


電「…はいっ」パシン


夕雲「…」チラ


足柄「はいそれェェ!!」パタ


電「うげ」


足柄「オホホホ倍満よ。残念だったわねぇでんちゅわぁん」ネットリ


電「…はぁ~~~。これだからこの人は…」ウラ


電「一発じゃなくても倍満なのです」ハイ


足柄「これがウルフの麻雀よ。小娘とは格が違うわぁ!」フホホホ


夕雲「えーと…」ジー


早霜「ダブリー一発ホンイッツーに裏ドラ一つで9飜。流石ですね」


夕雲「……」アングリ


電「よくある負け方なのです」シレ


夕雲「えぇ…」


電「ダブリーはあんまりありませんけれど」


夕雲「う、多少はあるんですね…」トオイメ


足柄「というわけで今日はでんちゃんのおごりね~」ケラケラ


電「楽しそうですね。年下に払ってもらえて」サイフ


足柄「ルールはルールでしょ。文句はやる前にしなさいな」


電「わかってます。いくらですか?」


早霜「8,400円です」


電「は~い」ピラピラ


足柄「それチャージとか入ってるの?」


早霜「入れると思いますか?」


足柄「多少は」


早霜「そこまで阿漕ではありませんよ」


電「はい夕雲さん。お願いします」チャラ


足柄「あん?」チラ


夕雲「あら…。領収書はどうします?」


電「なるべくきれいな字で上様と」ニッコリ


足柄「ちょっとー?」


電「電のお金なので文句は受け付けません」イー、ダ


足柄「まぁったく…」ヤレヤレ


夕雲「ふふふ…」パタパタ カチャ


早霜「前回はものもらいの話でしたね…」


足柄「あーあれね。あれはなかなか良かったわ」


電「怖かったですけど、小道具を使うのは良くないのですよ…」


足柄「電ちゃんビビってたもんねぇ?」ンフフ


電「笑い飛ばせるほうがどうかしてるのです。」プイ


早霜「演出も時には必要かと思いまして…」フフ


足柄「ま、ほどほどにってことね。それで今回はどんな話?」


早霜「リクエストはありますか?」


電「脅かすようなのは遠慮したいのですが…」


早霜「かしこまりました。では…しっとり行きましょうか」


夕雲「しっとりですか?」


早霜「そうですね…何でもないことがふとしたきっかけで、恐怖を感じるようになってしまう…」


早霜「そんなお話です」


足柄「フィクション?」


早霜「さあ、よその私から聞いた話ですので」


電「へぇ~っ……」


早霜「ああ、姉さん。麦茶を用意していただけますか」


夕雲「はあい」ガタ








【気づき】





その鎮守府は、ここより大きくはありませんが、

活気があって、艦娘も多い、なかなか気鋭の鎮守府だそうです。

司令官はまだ若く、20代前半。

特徴は、整った顔立ちによく通る声、スラっとした細身ですが筋肉質で、

どの艦娘にも分け隔てなく優しく接する人となりで、艦娘たちからは好かれていたそうです。



鎮守府に異変が起きたのは夏ごろだったといいます。

司令官が体調不良で半日お休みを取ることが多くなったのです。


艦娘たちは、司令官の業務が増えて、疲れを溜めるようになったのではないかと思い、

仲の良い者同士で集まって、司令官の負担を軽くするにはどうしたらよいかを話し合いました。




吹雪「やっぱり仕事が多すぎるんじゃないかなぁ。このところ、日付が変わるぐらいまで、毎日執務室で仕事してたし…」


叢雲「同感ね…。秘書艦がいるっていっても、提督じゃなきゃ処理できない書類もあるから」


白雪「では、秘書艦を増やしたほうがいいってことでしょうか…」


深雪「まずはたくさん飯食って、体動かしてさ。いっぱい寝るってとこからじゃねーかなぁ?」


初雪「お休み、大事…。お布団に包まれれば、きっと、元気出る…」


叢雲「アンタはずっと布団に入ってても訓練サボるでしょーが」


磯波「で、でも、一度まとまったお休みを取るっていうのは、いい案だと思います」


吹雪「そうかも…。半日ずつ休んで仕事するよりは、効果がありそう…」


白雪「とりあえず体調回復に専念していただいて、ってこと?」


深雪「ん。元気ねーときは何もかんも忘れてさ、のんびりすりゃいいんだよっ」


初雪「私も、とりたい…。有給休暇、1週間、インドアマイライフ…」


磯波「あ、あははは…ふぅ」


叢雲「まあ、休むなら休む、そうじゃないならそうじゃないで、はっきりさせてほしいとは思うんだけど…」


叢雲「逆に、そうできない理由があるのかもしれないわね…」


吹雪「休めない理由、かあ…」


白雪「私たちのことが心配なんでしょうか…」


深雪「もうちょっとあたしたちを頼ってほしいねぇ。1週間や2週間ぐれぇ、何ともないって!」


磯波「でも、誰かに任せっきりで、自分は休むって、ちょっと、申し訳ない気持ちになりますから…」


初雪「ワーカーホリック…。休んでいても、仕事の事ばかり考えて、休めない…。勤労は悪、QED」


白雪「んー証明出来てはいないと思うけど、今の司令官には当てはまるかもですね…」


吹雪「やっぱり仕事の量を減らせるようにみんなで案を出し合おう!それが一番だよ!」


深雪「だなぁ。気兼ねなく休んでもらうためにもあたしたちが一肌脱いでやんなきゃな!」


初雪「すごい、勢い。じゃあ後は、よろしく…」


磯波「初雪ちゃん…!」


叢雲「それで吹雪。どこから手を付けたらいいと思う?私は白雪の案がいいと思うけど」


白雪「秘書艦を増やすってこと?」


叢雲「ええ。今の秘書艦は雷と時雨の二人しかいない。秘書艦じゃなくても、秘書艦の補佐を増やすなんて方法もあるわ」


深雪「なるほどなぁ…。」


吹雪「…うん、とりあえず、司令官や雷ちゃんたちに掛け合ってみましょう!」


磯波「私たち全員で、ですか…?」


吹雪「いえ、全員で行くと、プレッシャーを与えてしまうかもしれないので…司令官たちと同じ、3人にしましょう」


叢雲「そうね。それがいいと思うわ」


初雪「誰がいく…?私は、居てもいなくても、変わらない。パス」


深雪「あたしも…説明とか上手いほうじゃねえからなー」


吹雪「いえ、初雪ちゃんは連れていきます」


初雪「えー」


白雪「ええっ?」


磯波「ど、どうしてですか?」


叢雲「なるほど。残りは私ってことね」


吹雪「はい!」


深雪「…あー、そーいうことか。わかったわかった」


白雪「えーっと…?」


叢雲「初雪を連れていけば、あの初雪が具申に来た、そんなに心配されてるんだ…みたいなインパクトがあるでしょう?」


磯波「な、なるほど…」


初雪「んー、めんどくさい…」


白雪「初雪ちゃん…!」


深雪「…プリン」


吹雪「?」


叢雲「?」


初雪「……」


深雪「晩メシについてるプリン、3日分」


白雪「……」


磯波「……」


初雪「……めんど

深雪「5日分」


初雪「……」


深雪「……」


初雪「……んん~」


深雪「1週間!」


初雪「……」


深雪「……」


初雪「…わかった」


深雪「よし。約束だぜ?」


叢雲「ん…。じゃあ、いつ行く?」


吹雪「出来れば今すぐ…ですね。もう10時半。今日も午後休を取る予定なら、急がないといけません」


初雪「んん…仕方ない…」


叢雲「わかった。じゃあ深雪たちは、留守番しててくれる?」


深雪「おうよ!頼んだぜ」


白雪「はい。よろしくお願いします」


磯波「了解しました」


吹雪「では、吹雪型一番艦吹雪、行ってまいります!」




考えのまとまった駆逐艦たちは、さっそく執務室を訪れましたが、

彼女たちはそこで、司令官の疲労の原因を悟ることになります。




雷「司令官、今日もダメそうなの?顔色がよくないわっ。何か、体が温まるスープとか、作ろうか?」


司令官「いや、いいよ。大丈夫。それよりも――」


時雨「雷、そういって何日同じスープを食べさせてるのかな。体にいいと言っても、同じメニューばっかりじゃ栄養も偏るよ」


雷「お医者さんの薬とおんなじよ。体にいいもの、足りないものは毎日でも摂ったほうがいいわ!」


時雨「食事を栄養補給としか捉えてないみたいだね。食事はエサとは違うんだ。代わり映えのしない献立はつまらないよ」


雷「栄養の話をしたのは時雨のほうじゃない。それに、健全な精神は健康な肉体に宿るっていうでしょ。まずは健康からよ」


司令官「あのな、二人とも…」


時雨「司令官、待ってほしい」


時雨「その言葉、よく使われるけど、実際は『健康な肉体に宿れかし』…そうだといいなあっていう願望の言葉だからね?」


雷「よく使われるってことは、その意味でみんなが納得してるからってことよね?じゃあ、間違ってないと思うけど」


時雨「間違った言葉を、本来の意味と違うとわかっていて使い続ける人の料理なんて効くはずがないよ」


雷「だから、言葉の意味は――」


司令官「二人とも少し黙ってくれ!」


雷「――っ」


時雨「う、ご、ごめん」


司令官「吹雪たちが来てるのにいつまで喋っているんだ、まったく…。吹雪たちと話してる間、外で頭を冷やして来てくれ」


雷「ご、ごめんなさい、司令官…」


時雨「わかった…。みんなも、悪かったね」


吹雪「い、いえ…。」




司令官「見苦しいところを見せちゃったな。ごめん」


吹雪「司令官が謝ることでは…」


初雪「うん…」


叢雲「で?いつからあんな感じなの?」


司令官「……俺が最初に半日休暇を貰った後からさ。その日は、ちょっとめまいがしたから、俺の部屋で休んでいたんだ」


吹雪「…いつ頃でした?」


司令官「一か月ぐらい前かな。その次の日は、体調もよくなって、朝から執務できたんだが…」


司令官「二人が、俺の体調を気にするようになってね…。」


初雪「……」


叢雲「……」


司令官「最初は、早く寝るように、とか、水分を取ってとか、野菜もちゃんと食べなさい、程度の軽いアドバイスだったんだが…」


司令官「そのうち、私生活にも口を出してくるようになってね…。」


叢雲「口を出す、なんて言い方、前のアンタなら使わなかったでしょうね」


吹雪「あっ…」


司令官「ああ、ごめん…。いや、アドバイスってだけなら、聞き流していてもよかったんだが…」


司令官「オフの日に雷が鍋やら野菜やら掃除用具やら一式もってやって来て、あれこれやり出してね…」


初雪「通い妻…」


司令官「そうしたら時雨と雷とで、さっきみたいに言い争うようになって、二人が頻繁に俺の部屋にくることが多くなったんだ」


叢雲「それで毎日気が休まらないってこと?」


司令官「ああ、最近は毎日だよ。まあ…規則正しい生活は出来ているんだけどね」


叢雲「最近の出勤状況、わかってるわよね?」


司令官「…ああ、もちろんだ」


叢雲「二人には強く言えないわけ?」


司令官「言ったよ。来ないでくれって。ただ…俺の家が鎮守府の敷地内にある以上、避けようがないってところだ」


吹雪「それは…ダメです!ちゃんと二人にきつく、私から伝えておきますから!」


初雪「無理、じゃないかな…」


司令官「……」


叢雲「……ええ、同感ね」


吹雪「ど、どうして!?」


司令官「今の二人は、俺から見ていてもおかしくなっている。あの子たちも俺と同じで、疲れているんだと思う」


司令官「だから、忠告するのが俺じゃなくても、聞いてはくれないだろうな…」


吹雪「そんな…」


叢雲「アンタ、そこまでわかっていながらどうして誰にも相談しなかったの?」


司令官「……言えば、また監視がきつくなるよ」


吹雪「うぅ…」


初雪「……言おう、司令官」


司令官「……」


叢雲「……」


吹雪「…初雪ちゃん?」


初雪「本当は、私たち、司令官のお手伝いをするって、言いに来た…。」


初雪「でも、わかった。お休みが必要なのは、雷と時雨も…」


司令官「……どうやって説得する?俺だってこの2週間、いろいろ考えたんだぞ?」


初雪「司令官は、その……優しい人。二人から言い寄られたら、きっと、許しちゃう」


司令官「……」


叢雲「ましてや、アンタはここ最近調子が悪くて、休みがちっていう事実がある。押し切られそうね」


吹雪「…どうなのですか、司令官」


司令官「…二人の言う通りだよ」


初雪「…だから、二人を秘書艦からいったん外して、お休みさせよう」


司令官「それは言ったよ」


叢雲「何て返ってきたの」


司令官「『司令官が大変な時に秘書艦を替えたらもっと大変になるわ。私たちに至らないところがあるなら、もっと頑張るから』…かな」


叢雲「やっぱりね。あの二人、お互い譲らないところがあるくせにそういうときだけは共闘するわけか…」


初雪「…『頑張れない』」


司令官「ん?どうした、初雪…」


吹雪「…もっと頑張るっていうけど、それがもうできないぐらい、疲れてるんだよって、伝えてあげるんだね?」


初雪「うん…」


司令官「……そうか、そうだよな…」


叢雲「……あたしたちが一緒に居てあげるわ。もし押し切られそうなら、手伝うから」


司令官「ああ、頼む」


吹雪「…!やっと、私たちを頼ってくださるんですね、司令官…!」


司令官「……そうだな。いや、改めて、やってくれるか、みんな…」


叢雲「ふん、しょうがないわね…」


初雪「本気を出せば、やれるし…!」


吹雪「お任せください、司令官!」




駆逐艦たちと秘書艦の舌戦は…司令官の強い意向もあって、駆逐艦の皆さんに軍配が上がりました。

鎮守府は2週間後に秘書艦の人数を増やして再稼働し、司令官の勤務状況も改善したそうです。


そんなある日のこと。



雷「司令官っ。その、迷惑じゃなければ、明日、お昼にお弁当を作ってきたいんだけど…ダメかな?」


司令官「…ああ、じゃあ、お願いしようかな」


雷「ほんと!?よーし、明日は期待してよねっ!」


時雨「ずるいな雷は…。ボクだって、もうすこし料理が出来れば…」


叢雲「…じゃあ二人で作ってあげたらいいんじゃない?」


雷「あ、それいいわね!」


時雨「えっ?」


吹雪「そうですよっ。時雨ちゃんも一緒に作ってみればいいじゃないですか。勉強になるでしょうし!」


司令官「なんなら夜の分の弁当も作って来てもらっても構わないぞ~」


叢雲「ですってよ」


雷「…うー、燃えてきたわっ!じゃあ時雨、明日5時に私の部屋に来てちょうだい!本気で仕込まなきゃ!」


時雨「起床時間より1時間も前じゃないか…。起きられるかな…」


司令官「なんなら俺がモーニングコールでもかけてやろうか?」


雷「だ、ダメよっ。司令官はゆっくり寝てなくちゃ!」


時雨「う、うん。これはボクの問題だから、ちゃんと起きるよ」


司令官「そうか?もし必要だったらこっそり教えてくれよ」


雷「むーっ!」


時雨「そんな顔しないでよ雷…。こ、困ったな…」



吹雪「すっかり元気そうになって良かったね」


叢雲「そうね。体重も安定しているみたいだし」


吹雪「…そう?少し太ったんじゃないかなあ」


叢雲「そう見えるだけよ。実際はほとんど変わっていないから」


吹雪「…叢雲ちゃん?」


叢雲「何?」


吹雪「司令官の体重、量ってるの?」


叢雲「んなわけないでしょ。ちゃんと見てればわかるじゃない」


吹雪「……え?」









「昨日より200グラム減ってるでしょう?」









【第3話・After】




電「………」フム


足柄「………」フム


夕雲「……っ」ブル


早霜「いかがでしたでしょう」


電「……」チラ


足柄「……まあ、身に覚えが無いとは言えないわね…」ギシ


電「ですね…。心当たりがあるのが、なんとも…。」


夕雲「え、いるんですか、そういう人…」


電「…」チラ


足柄「…」チラ


早霜「姉さんのご想像にお任せします」ニコ


夕雲「え、えええ…」ヒキ


足柄「あんたお姉さんいじめて悦に入ってるんじゃないでしょうねぇ…」ホオヅエ


早霜「そんなことはありませんよ」


夕雲「本当にそうですかぁ?」ジト


早霜「本当ですよ」


電「…胡散臭いのです」


足柄「夕雲ちゃんも大変ね、こんなめんどくさいの妹に持っちゃって」


夕雲「めんどくさくなんか…!いえ、ちょっとはありますけど」


早霜「……」ピク


夕雲「それでも『私』は早霜さんに良くしてもらってますし、私も早霜さんのこと、大好きですから」


早霜「……」


足柄「愛は盲目って言うわねえ…」


夕雲「でも早霜さんをめんどくさいって言ったのは謝ってください?」プクー


足柄「わかったわ。ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわね」オテアゲ


早霜「……」


電「それで、早霜さん」チラ


夕雲「…?」


早霜「何か?」


電「どうしてそんな話を私たちに?」


足柄「……」フム


早霜「リクエストにお答えしただけなのですが…お気に召しませんでしたか?」


足柄「あんた、いつも思わせぶりなこと言うからね。こっちも余計に詮索しちゃうってもんよ」


早霜「……まあ、意図がなかった、といえば…嘘になります」


電「やっぱり」


夕雲「……そうだったんですか?」


早霜「あまり気にしないでください。そこまで深い意図はありませんから」


足柄「…どう思う?」


電「……電は、これだっていうものはありませんけれど…」フム…


電「そうですね。しばらく放置していても問題ないのではないですか?」


足柄「あたしもおんなじだわ。ただ、早霜はある程度見当ついてるみたいね?」


早霜「……買いかぶりすぎですよ」


夕雲「……」ムー


足柄「フフ…。まあ、いいわ。あたしからも一つ応援してあげる」


足柄「この間、オフの日に鎮守府街のサイゼでランチしたんだけど…アクィラがスパイの話知ってたわよ」


電「アクィラさんが?」


足柄「ええ。たまたま隣の席になって、ちょっと話したのよ」


早霜「……」


足柄「参考になったかしら?」クス


早霜「今のところは何とも言えませんが…ありがとうございます。」ペコ


夕雲「……?」ウーン


足柄「心配ないでしょうけど、ヤバくなったらあたしや提督にちゃんと相談してね?」ガタ


早霜「心得ておきます」


足柄「まったく、いつもそうやってはいとかわかりましたとかって言わないんだもの…」ヤレヤレ


電「じゃ、そろそろ帰りましょう」ガタ


足柄「はいよー。じゃ、ご馳走様」ヒラ


電「ご馳走したのは電なのです」ム


夕雲「あっ…」タタタ


カチャ


夕雲「ありがとうございました」ニコ


電「はい。おやすみなさい」ニコ


足柄「ありがとね~」フリ


パタン



夕雲「今回は収穫ありですか?」ジー


早霜「……ええ」


夕雲「アクィラさん…確か、イタリアの正規空母の方でしたよね?」


早霜「はい。姉さんとまだ面識はなかったような気がしますが…」


夕雲「お昼に食堂でご一緒したことがあるんですよ」ニコ


早霜「フフフ…姉さんもここ以外でお友達を作られているようで、何より」


夕雲「明るくて、表情豊かな方でしたが…そんな方でも、スパイの話、ご存じなんですね…。」


早霜「……」


夕雲「何か、気になるところが?」


早霜「……アクィラさんは、姉さんの感じた通り、人当たりがとてもいい方です」


早霜「好かれてはいますが、逆に…彼女といつも一緒にいる方は限られてきます」


早霜「今回の話は非常にデリケートです。よほどの信頼関係がないと話さないはず」


夕雲「…つまり、アクィラさんと仲がいい方の中に、スパイがいる可能性が?」


早霜「少し行きすぎですね。私たちが今調査しているのは、あくまで話の出所です」


夕雲「あ…そうでしたね。そもそも、スパイなら自分からその話はしないでしょうし…」


早霜「一応、自分から疑いの目をそらすためにあえて噂を流した可能性もありますが…」


早霜「考慮に入れると際限がなくなってしまいますし、結局出所を抑えればターゲットは絞られてくるでしょう」


早霜「…ですが、まだまだ佳境とは言い難いですね」


夕雲「なるほど……」


早霜「今はまだ待ちましょう。足柄さん達も緊急性を感じていないようですし」


夕雲「……そうだといいんですけど…」


早霜「ええ。そうで…あっ」ハタ


夕雲「え、ど、どうしたんですか?何か重大な見落としとか――」


早霜「いえ、そうではなく。この雀卓、二人で片づけられるでしょうか…」


夕雲「……そういえば、お二人に手伝っていただいたんでしたね…」


早霜「……」


夕雲「……」



夕雲「明日にしましょう♪」


早霜「そうですね」





後書き

【1話目】怖い話って難しいですよね。
【2話目】こういうゴトランド好きなんですが、いかがでしょう。
【3話目】トータルでは電ちゃんのちょい勝ち越し。


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2020-04-06 23:09:11

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1: sei 2020-05-05 15:26:35 ID: S:MutDpb

2つ目の女王様に比叡カレー食わせてやろうよ


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