2015-06-21 00:42:06 更新

概要

ため息をつく提督と第9鎮守府の艦娘たちの話

続きます。続きは「名無し提督と箱舟に乗った艦娘」にて・・・

シリアス目指してるけど・・・・どうなるのか、あとまったくの初心者なのでアドバイスいただけたら助かります

前書きに登場人物の設定を追加しました。
後書きに艤装の設定を追加しました。

キャラの口調がおかしいのとキャラ崩壊もあります。独自設定もあるよ


前書き

登場人物


提督 名前: 不明、自分でもわからない

元特務機動戦隊一番隊隊長、天龍と雲龍とはその時に知り合った。謎が多く、軍の中でもある程度の影響力があるらしい。また本人に曰く2週間前まではヨーロッパ方面に出向していた。戸籍上存在しない人間。 

時雨
白露型駆逐艦2番艦、着任は2年前で第9鎮守府では山城に次いで新任だが戦闘能力は1番高い。一応成人している。生き別れた兄がいる。

最上
最上型航空巡洋艦1番艦、着任は4年前、不知火とは同期であるが第9鎮守府に所属するまで面識は無かった。無駄を抑えた”スマートな戦い”を喜びとする。

不知火
陽炎型駆逐艦2番艦、上記の様に最上と同期。戦うこと自体に喜びを感じており、強敵と戦うことも弱者をいたぶることも楽しんでいる。

雲龍
雲龍型航空母艦1番艦、艦娘として着任したのは3年前だがそれ以前から軍に所属しており、第9鎮守府の艦娘の中でも年長である程度は信頼されている。また代替品であるらしく艤装の能力を発揮できていない、だがそれでもサポートに徹することで高い戦果を上げている。元特務機動戦隊所属

山城
扶桑型航空戦艦2番艦、第9鎮守府ではもっとも新任で着任て1年しか経っていない。戦場に出るとゾワゾワとした寒気を常に感じてしまう、だがその寒気のおかげで敵の位置や攻撃を予測することができる。最も錬度が低い。

天龍
天龍型軽巡洋艦1番艦、3年前の海戦で勝利の立役者となった艦娘、その際雲龍や提督と知り合う。その後所属していた第4鎮守府ではそこの提督との折り合いが悪く、演習教官とされ冷遇されていた様だ。元第1艦隊所属にふさわしい高い実力と旗艦としての能力ををもつ。



海?




耳を劈く轟音、目の前に浮かぶ肉と鉄の塊、すうっと深呼吸をする。

嫌なニオイだ、血の臭いと火薬の臭い、磯の香りも混じったこの世のモノとは思えないにニオイ。



地獄…そうだ地獄の臭いってたぶんこんな感じだろう。ふとあたりを見渡す、これがあの子が言ってた地獄なのだろうか。



ポツリ…



ふと考えていると雨が降ってきた。



雨は好きだ、この身にかかった穢れを洗い流してくれるから。

雨は嫌いだ、この身にかかった不幸を思い出すから。



そんな相反する感情を吐き出すようについ口癖が出る。



      















??「良い…雨だね」























1






 第9鎮守府 艦娘寮 


??「ん…またこの夢か」



???「おはようございます。いつも通りですね」



??「不知火、キミこそいつも通りだね、流石だよ」



不知火「ええ、いつも通りが一番ですから」



??「そうだね、ボクもそう思うよ…っと」



不知火「時雨、そんなあなたに悪い知らせがあります」



時雨「ん?なんだい?悪い知らせって…」



不知火「今日はいつも通りではありません、新しい提督がこの鎮守府に着任されるそうですから」






 車中 


今日は良い天気だ、雲ひとつない快晴というヤツだろう。だが俺の心は晴れない、それはこの車が第9鎮守府というところに向かっていることが原因だ。



これは所謂厄介払いだ、扱いづらい鎮守府に扱いづらい将校を送りひとまとめにしておく。戦果を挙げればそれで良し、問題を起こすようなら一緒に処分すれば良い、そんな魂胆だろう。



提督「ふう…まぁ仕方ないよな」



そう呟くと荷台に積まれた荷物に目を向けた。



提督「これ、使う機会ないよなぁ提督になるわけだし」



そうやってまたひとつ呟くと今度は前方に現れた、鎮守府に目を向けため息をついた。









第9鎮守府 執務室


???「提督、空母雲龍以下4名到着しました」



提督「わかった、楽にしていいぞ。それでは自己紹介を頼めるか?」



雲龍「雲龍型航空母艦一番艦の雲龍よ、よろしくお願いするわ」



山城「扶桑型航空戦艦二番艦の山城です、よろしくお願いします」



最上「ぼくは最上型航空巡洋艦一番艦の最上さ、よろしくね提督」



不知火「陽炎型駆逐艦二番艦不知火です、ご指導、ご鞭撻よろしくです」



時雨「白露型駆逐艦二番艦時雨、よろしく」



提督「うむ,ありがとうでは俺も自己紹介をしよう」



提督「俺が今日からこの鎮守府に着任する真田だ。新任ゆえ未熟だが1日もはやく君達に見合う提督となれる

よう努力するつもりだ、これからよろしく頼む。」



艦娘「はい、よろしくお願いいたします!」



提督「あーそれでは今日はもう解散にしよう、明日は0900には此処に

集まってくれ。それでは解散。」



そう告げると1人の艦娘を除き皆執務室を出て行った。俺としては1人になりたかったが仕方ない、そう思い

顔を上げると雲龍と名乗った艦娘はニヤニヤしながらこっちを見ていた。



提督「なんだ?何か用事でも雲龍?」



雲龍「ふふっ、いつからあなたは真田さんになったんですか?」



提督「いつから?、なにを言っているんだい?」



雲龍「とぼけるならもっと上手にとぼけたほうがいいわ隊長さん?」



提督「…まったく」



と俯きそう呟く、そして再び顔を上げると今度は真剣な顔をした雲龍がいた。これではごまかせないなと

ため息をついた







第9鎮守府 廊下


最上「今回の提督はよさそうじゃない?」



山城「そうねぇ夜逃げした前回の提督よりはマトモそうよね」



最上「うん、なんていうか軍人って感じだよね…あ、でも新任だって言ってたけど何をやらかしたんだろうね?」



山城「ふーん、此処配属されたって事はそうね…気になるわね…セクハラとかじゃなければいいけど」



今は新任の提督への挨拶が終わり自室へと戻る途中だ。最上と山城は新任の提督の話で盛りあがる。いつものことだなんて思っていると不知火が前を向いたまま話しかけてきた。



不知火「時雨はどうおもいます?今度の提督のこと」



時雨「うん…特にはなんとも?」



不知火「そうですか…ふむ、もしかして時雨はレズビアンなのですか?」



時雨「は?」


最上「え?」


山城「なっ?」



不知火があまりにもおかしなことを言うものだから僕は思わず変な声を上げてしまった。一緒に居た最上と山城も予想外の展開だったらしく目を見開き驚いていた。



時雨「ちょっと不知火何を言ってるんだい?」



不知火「はい、時雨は今までのどの提督にも興味を示さなかったので男性に興味がないのかと」



不知火「ですから女性に興味があるのでは思ったのですが…違いましたか?」



時雨「うん…違うよ、急に変な事言うから驚いたよ」



最上「うーん時雨が女の人とねー、おもしろそうだね」



山城「うん、時雨には悪いけどちょっと否定できないわね…ふふ」



最上「けっこうイケメンな事してそうだよね」



時雨「まったく僕を何だと思ってるんだい」



僕はやれやれといった手振りを付け加える



不知火「まぁ安心してください、もし本当に時雨がレズビアンでも不知火は気にしませんから」



こちらに振り向きまるで落ち度なんて何もないかの様に言い残して不知火はそそくさと去って行った。



時雨「なんだかなぁ…」



僕はそう呟くと、僕の妄想話に花を咲かせる最上と山城を背に自分の部屋へと戻ることにした。

昼食までまだ時間がある面倒だしひと眠りしょうか考えふけっていたが4、5歩ほど進んだあたりでその予定が覆されることになった。



 第9鎮守府 執務室

雲龍が去り一人となった執務室で嫌な音を聞くことなった。それは不快な音、それはよく聞きなれた音、そしてこんな世界になってしまったあの日を思い出す音。そう警報だ、深海凄艦が現れたのだ。俺は素早く立ち上がると司令室へと走った。


提督「出来るなら聞きたくなかったがな…」


そう呟く、ため息と一緒に。








 出撃ポート



出撃だ、提督から指示は無いがこういう危機的状況では出撃が先になることが多い、それが普通なのかそれとも第9鎮守府特有の異常性なのかわからないが、それは私が山城となって始めて着任した鎮守府がここだからである。準備を終え出撃ポートに着くとすでに最上が不知火が準備終えていた。



最上「ふふふ…久しぶりだね敵襲なんてさぁ、ボクは楽しみだよ。ねぇ?不知火?」



不知火「ふふふ、さぁ今日はどのように殺してあげましょうか…主砲では面白くありませんね…魚雷を口の中に?、いや手を突っ込んで内臓を…」



先ほどまでの落ち着きは何処に言ったのか不知火は実に楽しそうな笑みを浮かべながらブツブツ言ってる



最上「あーあー不知火ったらもう出来上がってるじゃーん、でもわかるよ?楽しいもんね」



そういう最上も実に楽しそうだ、この二人は戦いになると明らかにおかしくなる。正直こうなった二人は怖い普段は面白いのだけど。



山城「私はそんな余裕ないわよ、楽しむなんて頭オカシイんじゃない?」



最上「えーそうかなー?、まぁ山城は艦娘になったばかりだから仕方か無いか」



不知火「ふふ、山城もいずれこの快楽に気づきますよ?あと少しの辛抱です」



山城「はぁ…沈むのはごめんだけどこうなるのもごめんだわ」



不知火「そんな事言わずに…ふふふ、待ってますよ?では出撃します」



山城「あっ勝手に行かないでよ!…まったくどっちの意味よ」



最上「いつものことじゃない、じゃあボクも行くよー」



そういうと二人とも元気良く出撃していった。例えるならば…そう友達の家に遊びいく子供、そんな感じだ。



山城「まったくせめて陣形とかいろいろ決めることあるでしょうに…」



雲龍「いつもの事よ、私達も行きましょう。作戦はいつもどうりでね?」



山城「私達で戦場を把握してあの二人に敵が集まるように敵を動かす…ですね」



雲龍「ええ、支援も忘れずにね」



山城「必要ない気がしますけどね…あの二人」



雲龍「保険と言うヤツよ、あるに越した事は無いわ…山城行くわよ」



山城「はい、出撃します」



この作戦はもはや作戦ではない。だ私はが口を挟むことはしない、これが一番うまくいくと知っているのだから。先ほどとは違いこれは第9鎮守府特有の異常だとわかる、いくら新任の私でも。



 鎮守府 司令室



司令室に入ると士官はすで到着しておりいつでも作戦指揮が可能となっていた。一瞬驚いたが緊急事態であるため気を取り直し用意された席に着いた。艦娘達の位置、損傷具合、弾薬や燃料など様々情報目の前のモニター映し出されている。陣形も何もなくバラバラだが出撃は出来ている。確認を終えると1人の仕官が近づいてきた。



副官「真田提督、私は副官の田中孝則大尉です早速ですが防衛戦の指揮をお願いします」



提督「わかった、まずは自動操縦型の彩雲を出撃させてくれ。数は10機ほど、敵の数や後詰の有無を確認したい。」



副官「了解、彩雲の出撃を」



そういうと鎮守府から彩雲が離陸していった。この自動操縦型彩雲は物自体艦娘の使う物と同じだが艦霊の加護を得られないため能力が低い、速度が出ないこと、索敵範囲が狭いといったことだ。



副官「提督、敵艦隊の情報が入りました、駆逐艦型10、軽巡型5、重巡型3、戦艦型2、合計20隻です」



対するこちらは艦娘が4隻…戦力比は1:4となり一見するとこちらが不利に思える。だが艦娘の戦闘能力は高く、個人差はあれど艦娘1人で深海棲艦5隻ほどに匹敵する。それにこちらは配備されている防衛用の兵器使用できるし、通常艤装兵も居る為思うよりも状況は悪くない。問題があるとすれば艦娘側に統率が無いことか…通信を開いて連絡をとるしかないか。



提督「雲龍、状況は?」



雲龍「提督?ええ不知火、最上は先行しているわ、私は山城とともに二人のサポートに当たるから」



雲龍は通信開くと,とりあえずの状況を報告してくれた。少なくとも今は彼女が旗艦で間違いないようだ。



提督「わかった…うん?時雨はどうしたんだ?」



雲龍「時雨?あの子はいつも最後に出てくるわ、もうそろそろ出てくると思うけど」



そう話してるとちょうど出撃したのか時雨が通信を開いてきた。



時雨「ごめん、提督とみんなも待たせたね。今行くよ」



提督「わかったそれでは時雨も防衛に加わってくれ。作戦は…」



時雨「いらないよ」



提督「なに?」



時雨「きみの作戦はいらないって言ったのさ、聞こえなかったのかい?」



提督「ほう、相当自信があるんだな…では君達のやりたいようにやってくれ」



時雨「きみが話のわかる提督でよかったよ。じゃ通信切るね」



そう言うと時雨は通信を切った。正直ここまで言われるとは思っていなかったから驚いた。まぁ…ある程度は予想していたが。



副官「よろしいのですか?」



提督「かまわないさ、姫や鬼クラスがいない以上そこまで苦戦する数でも無いでだろう。それにあの口ぶりだと今までの提督はマトモに指揮してこなかった様だからね」



副官「それは…まぁ今までも彼女たちだけで戦ってきた様なものでしたから」



提督「それにもし突破されても切り札があるからね」



副官「はぁ…切り札ね…」



提督「さてどれほどの物か見せてもらいますかね」



そう呟くと不思議そうな顔した副官を尻目に目の前のモニターに目を向けた。そこにはもうそろそろ会敵する最上と不知火が映っていた。




 鎮守府正面海域



山城「時雨も言いますね、あんなこと言って処罰されないかしら?」



さっきの話を聞いていたらしく山城は少し心配そうに言った。



雲龍「大丈夫よ、あの提督はあんなことではなんとも思わないから」



山城「あれ?お知り合いでしたか?」



山城は驚いたようでキョトンとした顔でこっちを見て言った。これは少しまずかったかもしれない、バレても別にそこまでの影響は無いだろうが面倒なことになるのは避けたい,ここは話題を変えることにした。



雲龍「ん…まあね、それよりも時雨に関してもいつもどうりで行くわよ」



山城「あっ…はい、ほっとけばいいんですね?」



雲龍「支援ぐらいはつけてあげなさい…」



 戦闘海域



敵が見える、駆逐艦5、軽巡3…まっすぐこちらに向かってきている。軽巡の主砲ならもう届く距離だろうか、ここで目を瞑る。来た…轟音、水柱、これが合図だ。



不知火「さぁ…楽しみましょう?」



そう呟くと自然と口角があがってしまう。いけないいけない、もう少し冷静にならないと楽しみがすぐ終わってしまう…今日は数が少ない、いつもよりゆっくり楽しまないと。気を取り直し敵に目を向ける。まずは軽巡?いや楽しみは後に取っておくものだ、では駆逐艦を仕留めよう。ではさっさと仕留めるか。



不知火「突撃…ふふふ」



先頭の軽巡を無視して少し後方の駆逐艦に向かう、まずはうるさいハエ叩きだ。主砲を打つ、まずは1隻大破、ダメ押しでもう1発。1隻は仕留めた。残りの4隻が円を描いて私を取り囲む、雷跡が見えた…包囲殲滅か、作戦としては悪くないむしろいい判断だ。



不知火「包囲殲滅はいい判断です…ですが今回の戦法は問題点が2つあります」



不知火「まずひとつ、たかが4隻の魚雷だけでは私を捉えることが出来ないこと」



魚雷は近づいてくる。直撃まであと少し、ここで主砲を水面に向ける。引き金を引く瞬間に水面を蹴り上げ飛ぶ、主砲の反動で2メートルほどは飛ぶことが出来た。魚雷はただ私の下通りすぎていった。



不知火「もう一つは連携がまったく取れていないため同士討ちの可能性が高いこと」



着地すると轟音とともに水柱があがる。駆逐艦は同士討ちで全滅したようだ。



不知火「次は軽巡ですか…もう少し楽しめるといいのですがね?」



軽巡3隻に目を向ける。恐怖しているのだろうか?動きが止まり砲すらこちらに向けてない。…どうでもいいか、恐怖で動けないならこちらも一方的にいたぶるのを楽しませもらうだけだ。



不知火「ふふふ…」



自分は今とても醜い顔をしている、誰に見せられないようなとても醜い笑顔だ。こんな戦いしかないような場所なのだ、楽しむことぐらいならバチは当らないだろう。私はゆっくり進むこの後のお遊びを楽しみにしながら。








最上「不知火はいつも通りだねぇ」



周辺に飛ばした瑞雲から送られる情報をみてそう呟いた。不知火は強い、全艦娘の中でも上位に値するはずだ。だが虐殺を楽しむところがある。ボクはあまりそういうのは好きでは無いが不知火には何も言わない。人には人の楽しみがあるのだ、ボクも自分の楽しみを馬鹿にされるの嫌だ。



最上「さぁてこっちはこっちで楽しみますかぁ」



駆逐艦5、重巡3、ふむ戦艦はこちらではないようだ。どうせ雲龍が時雨の方に向かわせたのだろう。



最上「いいなぁボクは今回もはずれだよ」



そう呟き瑞雲を呼び寄せる、瑞雲は爆撃もでき、空戦もこなしおかつ観測機としても活躍できる傑作機だ。今回は爆撃に5機、観測に1機だ…動きをイメージして瑞雲に伝える、まずうっとうしい雑魚からだ。飛んだ、敵の対空砲をかわす、そして敵の弱点めがけて爆撃、敵は言葉にならない叫びをあげた。



最上「駆逐艦は4隻轟沈…悪くないね」



5機の瑞雲が爆撃を終えると観測係の瑞雲による弾着観測射撃を行う。20.3cm連装砲3号は強力だ、重巡型と言え上手いところに当れば一撃轟沈だ。観測係の瑞雲から送られるイメージを元に射撃を行う、相手は浮き足立っているようでこのままなら一方的に狙い撃ちできるはずだ。



最上「無意味な被弾と無駄弾は嫌いなのさ、戦闘はスマートにね」



敵の悪あがきの砲撃をよけつつ弾着観測射撃をおこなう、その一撃ごとに敵が沈んでいく。楽しい。今日も無駄弾も無意味な被弾もない”スマートな戦い”が出来ている。実に楽しい、これもまた戦いおける一つの快楽なのだ。








 不知火と最上は実に上手くやっている。これで駆逐艦型と重巡型は全滅、残りは軽巡型2隻と戦艦型2隻だ。あとはそれを山城と私で仕留めればいい。相手方は軽巡2隻を先行させている。恐らくは軽巡型と交戦している所をアウトレンジからの砲撃で仕留めるといった作戦だろう。



雲龍「さてこちらはどんな手を打ちましょうか…」



敵の数は?味方の数は?こちらの消耗度は?敵方に援軍の可能性は?艦載機の位置は?味方の位置は?敵の位置は?一瞬で頭を駆け巡る。決めた。私は急ぎ山城と連絡を取り作戦を伝える。



山城「わかりました、山城突貫します」



作戦はこうだ、私が艦載機を発艦させ軽巡型を迂回しながら戦艦型に向かわせる。それと同時に山城は突撃し軽巡型と交戦、戦艦型が山城に気をとられているうちにわたしの艦載機が急降下爆撃で奇襲、混乱した所を山城と合流した私でしとめると言ったものだ。



雲龍「この程度の数ならここまでしなくても問題ないのだけれど…どうせなら作戦を立てる楽しみぐらいあってもいいでしょう」



そう言って艦載機を発艦させた。私も不知火や最上のことを狂ってるなんて言える立場ではないのだ。





山城「まったく…これじゃ私はただの壁役じゃないの、雲龍は先任だし、年上だし、なんか怖いし反論しづらいのよね…ううっ」



寒気…私は戦場に出ると寒気がとまらない。かなり不快だ、ストレスも余計にたまる、こんな所が楽しいなんて私には理解が出来ない。では寒気をとめるにはどうすればいいのか…それは簡単だ、敵を全滅させればいい。眼前にいる軽巡型とその奥にいる戦艦型を沈めればいいのだ。交戦する。軽巡2隻だ、正直言えばすぐに終わる。だが今回は雲龍のお楽しみのため、合図が出るまで沈められない。不快だ…



山城「ううっ寒気が…右ね?ん…今度は左?でかい寒気がきたわね…雷跡?後ろからね」



確かに寒気は不快だ…だがその寒気のおかげで自分に降りかかる危険を察知することが出来る。つまり敵の攻撃が何処から来るのかわかるのだ。攻撃が何処から、どのタイミングでくるかわかれば避けるのは簡単だ。軽巡型は明らかに困惑している…低速の戦艦相手に一撃も当てることすら出来ていないのだから。すると後方から轟音と水柱がおきた。これが合図だ。



山城「これで寒気がおさまるわね…不快なのはいやなのさっさと終わらせるわ、主砲全砲門斉射!」



軽巡型は消し飛んだ、そのまま浮き足立った戦艦に照準を合わせる。発射。弾着観測射撃は必要ない、寒気がする方向に敵はいるのだからはずすことは無い。砲撃は命中し戦艦2隻轟沈確認…あれ?寒気がおさまらない?



雲龍「司令室より入電、後方海域に補給艦型を確認したそうよ。また生み出す気ね…」



山城「ううっ…これでやぁっと寒気が収まると思ったのに…不幸だわぁ…」



雲龍「すぐ収まるわ、その海域にはすでに時雨を向かわせているから」



雲龍がそういうと私は寒気がする方向に目を向けた。そして時雨が寒気の元を早く沈めてくれるように祈ることにした。






補給艦型が確認された海域に向かう。補給艦型厄介だ、手当たりしだいに深海凄艦を生み出していく。大体の補給艦型は護衛艦隊を組んでいることが多く、それだけ深海凄艦にとって重要な艦なのだろう。だが今回は違ったようだ、1隻しかいない。罠?何かがおかしい。




時雨「こちら時雨、補給艦型を確認」



雲龍「了解、編成はどうかしら?援護は必要?」



時雨「いならないよ、いるのは補給艦型1隻だけだ」



雲龍「?電探に反応は?」



時雨「ないね、そっちの心配をしたほうがいいんじゃないかな」



雲龍「そうね、提督にも索敵体制を強化するように言うわ」



時雨「じゃあ僕はさっさとこいつをしとめて戻ることにするよ」



今まで深海凄艦が戦術的な戦いをしたなんて聞いたことが無い。気のせいかもしれない。だが気をつけるに越したことは無いだろう。常に電探に意識を向けながら接近。主砲を構える・・・発射。命中、轟沈。索敵・・・反応2つ。信号確認、味方か。罠ではなかったのか・・・?



不知火「時雨、終わりましたか?」



時雨「不知火?終わったよ、どうしてここに?」



不知火「提督からの指示ですよ、最上も向かってます」



時雨「そう・・・僕達3人で周囲を哨戒するんだね?」



不知火「はい、最上を中心にして陣形を組んで哨戒です。不満ですか?」



時雨「いいや?妥当な判断だと思うよ、彩雲の配置も穴が無くて良かったと思うし」



最上「そうだねぇ、索敵範囲がいつもより広く取れたから今回は補給艦型を見つけられたし」



時雨「最上お疲れ、確かにそうだね。今回の提督はまだ信頼できそうさ」



不知火「お疲れ様です」



最上「不知火と時雨もお疲れだねー。あ、時雨ちゃんもしかして興味持っちゃった?」



不知火「…では時雨はレズビアンじゃなかったのですね」



時雨「そういえばそんな話してたね、僕は忘れてたよ…」




はぁ…とため息をついた。だがすぐに気を引き締める。この哨戒任務の結果次第では深海凄艦との戦い方を改めなければならないからだ。もし今回の攻撃に戦術的な動きが認めれられれば、相手はただ本能で戦うだけの化け物ではないと言うことになる。



時雨「まったく…面倒だね」



そう呟き,索敵に集中する、難しいことは後で考えればいいのだ。それに難しいことを考えるのは僕の仕事じゃない。そうゆうのは今日着任した提督さんが考えることなのだから。






司令室



予想以上だった。彼女達5人の戦闘データを見ての感想はこの一言に尽きる。第9鎮守府に所属する艦娘は、皆能力は高いが各鎮守府で問題を起こした者達であり、正直まともな戦闘が出来るとは思っていなかった。だが今は命令通りに陣形を組み、海域哨戒任務についている。



提督「予想外のことが多すぎて驚いているよ…」



副官「ええ、私もです」



提督「ん?なぜ君がそう思う?」



副官「今まで着任された提督は、皆名ばかりの役立たずでしたから」



提督「ほう・・・そうだったのか?」



副官「ええ、前任なんて時雨をレイプしようとして海の藻屑になりましたし、その前のは酒の飲みすぎで・・・・」



そう話す副官の顔は呆れ顔で今までの提督が如何に役立たずであったかを語るものであった。



副官「なんにせよ私達士官一同は提督を歓迎します」



提督「そうか、ありがとう。早速だが・・・」



副官「はい・・・最上、不知火、時雨の3名が哨戒にあたってますが今のところは特に異常は無いようです」



提督「そうか・・考えすぎだったか?」



副官「そうかもしれませんね」



提督「ふむ、では哨戒にあたっている3名を帰還させてくれ」



副官「はい、ではそのように伝えます」



副官が艦娘たちに指示を伝えようと通信を開くと敵艦発見の信号が届いた。敵の作戦か・・・それともただ単に第二波が来ただけなのか。副官の顔が曇る。恐れていた事がおきたようだ。


副官「報告します。哨戒にあたっている最上以下2名は突如水中から現れた深海凄艦に包囲されたとのことです。」



副官から通信機を奪い取り最上へとつないだ。



提督「最上、状況はどうか?」



最上「ん、提督かい?こっちは問題ないよ、ただそっちに何体か向かったけど...どうする?」



提督「数はわかるか?」



最上「うーん4隻ほどかな、確かそのうち2隻が戦艦型だったかな」



提督「了解した。こっちは何とかする。最上たちはそのまま交戦中の艦隊を撃退し、鎮守府に帰投せよ」



最上「ん?あぁわかったよー」



副官「どうしますか?雲龍と山城は補給作業中で出撃には時間がかかりますが」



提督「そうだね、防衛用のレールガンの準備と通常艤装兵の出撃準備をたのめるか?」



副官「時間稼ぎですか?」



提督「ああ、死なない程度に戦ってくれればいい。補給が終わりしだい雲龍、山城は出撃で」



副官「無理です、部下を無駄死にはさせたくありません」



提督「なに?」



副官「通常艤装兵では駆逐艦型は相手にできても戦艦型は無理です」



提督「・・・戦艦型が居るとはいえ時間稼ぎだけだぞ?当らないように避けるだけでいい。攻撃はレールガンで行うし」



副官「簡単に言いますね・・・なら提督自身がやってみてはどうです?指揮ならわたしでも出来ますから」



副官はそう言った。部下を死なせたくない。この気持ちは本物のだろうが恐らくは試しているのだろう。ここで自分がどの様な判断をするのか、安っぽい挑発に乗るような短絡的な人間で感情的な判断を下すのか。どんな状況でも冷静で最良とおもえる判断を下すのか。



提督「わかった」



副官「はい。どうされますか?」



提督「出撃してこよう、俺ひとりでな」



副官「なっ」



提督「じゃ行ってくるぞ?指揮は頼んだ」



普通この判断は間違っている。指揮官が指揮をほっぽりだして出撃するのだから。だが今回は間違っていない、こうすることが被害が一番少ない最良の判断なのだから。俺は駆け出した。私室に置いといた艤装をとりにいくために。少しばかりため息とともに。



海域



最上「提督が出撃!?何いってんのさ副官さん」



最上に司令室から通信が入った。内容は提督が出撃したと言うものだった。最上は明らかに動揺している…それもそうだ提督が指揮を放棄して出撃するなんて古今例が無い。それを聞いた不知火も明らかに不機嫌になった。



不知火「ちっ…マトモだと思ったらこれですか」



確かにそうだ…今までの指揮は完璧とまではいかないにしても間違ってもいない。実際僕達は包囲されたが、鎮守府から艦攻と艦戦が随伴しており、包囲されることを前提として準備もしてある。もしもの時にそなえて山城と雲龍が補給中だ。補給作業中でも時間を稼げるほどの戦力を置いてある。なぜそこで提督が出撃するのか…



時雨「…僕が行くよ」



最上「時雨?…ならお願いするけど?」



不知火「不知火は馬鹿を守るのは嫌ですから、時雨にお願いします」



時雨「うん、いってくるよ」



そう考えると答えは一つ…提督1人で時間稼ぎを出来ると言うことだ。しかも通常艤装兵よりも安全に確実に…もしそうなら見てみたい。そう思って救援を申しでたのだ。




鎮守府正面



久しぶりの出撃だ。演習や遠征の随伴としては出撃したが実戦は久しぶりだった。戦場独特のこのにおい、実戦でしか味わえない恐怖と快楽が混ざり合った感情…癖になる。すぅっと息を吸い込み集中する。敵は4隻、戦艦型2隻と…駆逐艦型2隻か。これぐらいなら問題ない。フェイスアーマーを下げ、安全装置を解除する。制限時間は30分。電磁ブレードを構え突撃する。




提督「うおぉぉぉぉぉぉ!!」



敵も気付いた様だ。戦艦型が主砲を撃つ。着弾、左に70センチ。これでは当らない。



提督「もう少し狙いは正確にしたほうがいい・・・む?」



もう1隻の主砲だ。直撃コース…電磁ブレードを振り、弾を弾き飛ばす。もう修正してきたようだ。次からは避けなけらならないか。だがこちらも距離をつめた、攻撃できる。標的は正面の戦艦…一気に加速し切り捨てる。やつらは人間と同じで首を切り落とせば動けない。問題なのは駆逐艦型だ。



提督「包囲するつもりか?」



周りを囲む駆逐艦2隻と戦艦1隻。そのうちの駆逐艦1隻がこちらを向き主砲を構えた。駆逐艦型は人の形をしていないためか、真っ二つにしても動き出すことがある。破壊力のある砲撃なら問題は無いが電磁ブレードでは面倒だ。



提督「弱点を見せてくれるとは迂闊だな。」


そう言うとブレードを駆逐艦の主砲目がけて投げた。砲弾にブレードが刺さり誘爆、これにより駆逐艦は爆散。1隻轟沈。…これで残りは2隻。ブレードが無くなった今を好機と見たのかもう1隻の駆逐艦が接近してくる。飛び出してきた。

 


提督「駆逐艦ごときならブレードは必要ない」



拳を握りしめぶん殴る。こちらを喰いちぎろうと接近した駆逐艦は体を歪ませた。そのままつかみ飛んできた砲弾を防ぐ盾にする。戦艦型の主砲だったが俺の身を守ることは出来た。流石は深海凄艦といった所か。



提督「さて、残りは1隻か…」



ボロボロになった駆逐艦型投げ捨てる同時にワイヤーを使ってブレード引き寄せる。仕上げにかかろうとした瞬間、後方から砲撃とともに1人の少女が現れた。時雨だった。



時雨「なかなかやるじゃないか、見直したよ」



そう言って戦艦型に接近して砲撃を始めた、通常、駆逐艦の主砲では戦艦型に有効なダメージを与えるのは難しい。だがそれは通常の砲撃距離の話だ。時雨のように接近…と言うよりはゼロ距離からの砲撃ではその限りではない。



時雨「やはり戦艦でもこの程度か…失望したよ」



相手の戦艦型は時雨のゼロ距離砲撃により艤装と両手両足を破壊され動けなくなっていた。時雨は主砲を戦艦型の顎に当てるとそのまま発射…戦艦型の頭は吹き飛び海の底へと沈んでいった。




周辺の敵影が消えた。そしてフェイスアーマーを展開し、安全装置を発動させる。残り時間は20分ほどだった。ふと視線を上げると時雨がこちらを見て微笑んでいた。



提督「助けにきてくれたんだな」



時雨「そうだよ、でも必要なかったみたいだったけどね」



提督「そりゃそうだ、あれぐらいなら1人でやれないとな」



時雨「ふぅん…結構自信があるんだね?よければ今からお手合わせ願いたいな」



提督「だめだめ、演習は苦手なんだよ、それに女の子と戦うのは趣味じゃないさ」



時雨「さっき首を落とした戦艦は女の人のカタチしてたけど?」



提督「あーえっとー、それとこれとは別ってことで…ん?」



最上「時雨ー提督ー無事かい?」



提督「あぁ、問題ない。そっちはどうだい?」



不知火「大丈夫ですよ…それにしてもあなたと言う人は・・・っ!」



最上「その艤装は・・・!!これなら納得だね」



不知火「ええ・・・マトモな艤装兵の部隊よりも強力ですからね」



時雨「?何のことだい?」



不知火「この艤装は特務機動戦隊で使用されていた特殊艤装ですよ」



提督「よく知っているな」



最上「あんな奴等一度見たら忘れられないよ…」



不知火「刀一本で敵の大群に突っ込んでくキ○ガイ共ですからね…しかも30分過ぎると暴走するおまけつきで」



提督「まぁ・・・反論できないなぁ」



時雨「ふぅん、知らなかったよ」



最上「知らないのは無理も無いさ、3年前の海戦で壊滅的被害を受けて解散しちゃったからね」



時雨「3年前ねぇ、確かに僕は艦娘になってなかったなぁ」



提督「まぁまぁその話は後で・・・今は帰ろうぜ?」



最上「ん・・・そうだね。ボクもお風呂入ってさっぱりしたいしね~提督も一緒にどうかな?」



提督「うーんかなり魅力的なお誘いだが、遠慮しとくよ」



最上は俺のことを察してくれたのか急におどけて場の空気を変えてくれた。不知火も時雨もそれを聞いて察してくれたようだった。ここに居る艦娘はみな何かしらの問題を起こしている。故に過去の話となるとみな敏感に反応するのだろう。今はその思いをありがたく受け取ることにしよう。なぜなら今回の戦闘で発覚したことを報告しなければない。過去のことなど顧みている暇は無いのだから。



2


 大本営 第1鎮守府 執務室



今日送られてきたばかりの資料に目を通す、中身は各鎮守府における戦闘報告書が主だ。今日も各鎮守府では深海凄艦との遭遇が絶えない。それもそうだ私達人類は5年前から深海凄艦の侵略を受けている。いまは艤装の完成、艦娘の配備と23万5603名の戦死者たちの勇気ある犠牲のおかげで深海凄艦相手に優位を保てている。



榛名「提督?休憩にされてはどうでしょうか?」



報告書に熱中しすぎてしまった様だ。榛名君が入ってきたことすら気がつかなかった。今回の報告書は実に興味深い。わが国が擁する第1から第9までの鎮守府からまったく同じ報告があがっているのだ。だが今は休憩することにしよう。



第1提督「榛名君か・・・そうだな、お言葉に甘えよう」



榛名「今日は金剛お姉さまからいただいたアッサムです」



第1提督「ミルクティーか、ありがとう」



榛名「それとこちらのスコーンをどうぞ」



第1提督「すまない、いつも助かるよ」



第1提督「・・・そうだ榛名君」



榛名「なんでしょうか?」



第1提督「この後1300から緊急会議を行いたい、関係各位に連絡頼めるか?」



榛名「はい、お任せください」



今回の報告は実に興味深い。本能で戦うとされていた深海凄艦が明らかに戦術的な意図をもった戦闘を行ったというものだ。この件の対策は会議で話し合うまでも無い。各鎮守府は今まで以上に深海凄艦の戦闘に注意を払い臨む、それだけだ。だがそれがわかりきったっものでも、大本営は道を示さなければならないのだ。



第9鎮守府 執務室



提督「雲龍、この艦隊の旗艦は誰なんだ?」



雲龍「特に決まっては無いわ・・・どうして?」



提督「ここの艦隊は艦娘同士の連携があまり取れていないからな、これからの戦いを考えると現場で指揮を取れる旗艦が必要だと思ってね」



雲龍「確かにそうね・・・対面的には私が旗艦ということになっているけど・・・」



提督「やれそうか?」



雲龍「無理ね…私はあの娘達についていくだけで精一杯よ」



提督「惜しいな…君がその艤装の能力を完全に引き出せればよかったが」



雲龍「そればかりはどうしようもないわね,私は艦霊の気まぐれで選ばれた代替品でしかないから」



提督「そうだったな、すまない」



雲龍「かまわないわよ、何にしても旗艦が欲しいなら他の鎮守府から連れて来るしかないと思うわ」



提督「俺の知り合いに頼んでみようかね」



雲龍「知り合い?誰を呼ぶつもりなの?」



提督「まぁ後のお楽しみってことで、まぁ雲龍も良く知ってるやつだがね」



この提督はにやりとしながらそう言うと根回しをするからと私に退出するよう命じた。あの提督の知り合いで私とも知り合いというと思いつくのは3人、そのうち二人はそれぞれ所属する鎮守府で旗艦を務めている。そうなるとあと1人、彼女しかいない。確かに彼女なら・・・だがこの第9鎮守府に異動許可など出るのだろうか何かの問題でもおこさなければ難しい。根回しと言ったか・・・面倒なことが起きなければいいのだが。





第4鎮守府  演習場


今日は晴天、よく言う雲ひとつ無い出撃日和ってやつだ。だがそんな日でも俺が出撃する事は無い。なぜなら俺の任務は目の前で戦闘演習をやってるガキ共の監督、つまりまぁ教官ってヤツだ。正直つまらねぇ、だがこのガキ共が無駄死にされるのも寝覚めが悪いから面倒を見てやるんだが…そのせいか評判がよくて教官に落ち着いちまった。



??「ちっ・・・たく何やってんだか、ちゃっちゃとやれよ」



?「まったく、そんな言い方はないじゃないかな?天龍ちゃん」



天龍「響、てめぇ天龍ちゃんてーのやめろよなぁ」



響「どうしてだい?天龍ちゃんと私の仲じゃないか」



天龍「はぁ…いつのまにそんな仲になったんだよ、まだ知り合ってから2ヶ月も経ってないだろうが」



響「時間は問題じゃないんだよ、様は中身さ、天龍ちゃんと私との時間はとても濃密だったと言うことだよ」



天龍「それやめろって…なんか気持ち悪いからよ、吸うか?」



そう言ってタバコを一つ取りだし、横にいる響に差し出した。響はそのまま口に咥え、火をつけた。



響「こんな子供にタバコを勧めるなんて悪い大人だね、天龍ちゃんは・・・・ふぅ」



天龍「そう言いながら吸うなよ・・・てか年なら俺より上だろ?」



響「うら若き乙女の秘密をそんな簡単に明かすなんて、いくら天龍ちゃんでも怒るよ?」



天龍「へーへー・・・・で用はなんだよ?」



響「天龍ちゃんは戦いたいかい?」



天龍「はぁ?」



響「いいところがある、そこは各鎮守府のなかでも猛者ぞろいで最前線にも近く、退屈な遠征任務も教官をする必要も無いんだ。急遽旗艦をできる艦娘を探してるみたいなんだがどうかな?」



天龍「あ?話を聞く限りじゃどう考えてもマトモの所じゃねぇだろ・・・第9か?」



響「さすが天龍ちゃん、よくわかったね」



天龍「確かに面白そうだけど、異動許可なんてでねぇだろ?」



響「ああ、確実にね…だけど行く方法はあるよ?、まぁ天龍ちゃん次第だけどね」



天龍「・・・」



響「天龍ちゃんがここでずっとクソつまらん教官をやっていたいなら別にいいさ、だけどあのワクワクドキドキの世界に身を置きたいなら・・・」



天龍「何をすればいい?」



響「簡単なことさ・・・明日食堂でみんな前で私を痛めつければいい」



天龍「ふん・・・確かに簡単だな、今までの積年の恨み、ぶつけてやるよ」



響「たった2ヶ月なのに積年ってさすがに酷くないかい?」



天龍「言葉のあやってやつさ」



響「そうか、なら良かったよ、じゃあまた明日、食堂でね?」



天龍「ああ、・・・・響」



響「なんだい?」



天龍「すまねぇな」



響「天龍ちゃんと私の仲じゃないか」



天龍「フフ・・・そうだな、じゃあな」



その翌日俺は響の言った通り食堂で騒動を起こし、響を痛めつけた、見た目に派手に見えるように殴り、大きな痣がわざとできるように蹴った,そしてなるべく怪我をしないように急所をはずした。響もうまいことやられてくれたようで、食堂にいた皆を騙すことができた。この騒動で俺は教官を解任、そのまま軽巡洋艦を申請をしていた第9鎮守府に厄介払いと送り込まれることになった。




第9鎮守府 執務室



目の前に新しく配属された艦娘がいる、名は天龍、3年前の日本近海海戦で第1艦隊に所属し多くの戦果挙げた艦娘で、日本海軍所属の艦娘の中でも五本の指に数えられる猛者である。そして俺と共に多くの海戦を戦い抜いた戦友でもある。



提督「ひさしぶりだな天龍」



天龍「ああ、3年ぶりか?つかいつ日本に帰ってきたんだよ?」



提督「うん?2週間前かな・・・色々あってな、連絡はできなかったが」



天龍「だろうな・・・今度は真田ね、幾つ名前があるんだってな」



提督「仕方ないだろう、前の人間では提督になれる身分じゃなかったからな」



天龍「まぁな、そういえば提督?聞きたかったことがあるんだが・・・」



提督「なんだ?」



天龍「響を焚きつけたのはお前か?」



提督「違う」



天龍「そうか・・・すまなかったなへんなこと聞いて」



提督「かまわんさ・・・殴った相手だな?友人だったんだろう?」



天龍「あ?んーまぁそうだな、やっとできたお友達さ」



提督「響か・・・」



コンコン・・・失礼します



提督「入れ・・・ご到着だ、よろしく頼むぞ旗艦殿?」



天龍「おう、頼まれたぜ」



雲龍「雲龍以下4名到着しました、提督御用とは」



提督「楽にしていいぞ、新しく配属された艦娘を紹介しよう・・・では頼む」



天龍「俺の名は天龍、天龍型軽巡洋艦一番艦だ、フフフ・・・怖いか?」



不知火「はい?貴女みたいなのが怖いわけが・・・」



天龍「ならいい、俺なんかにびびってる様じゃ頼りにならねぇからな、よろしく頼むぜ」



最上「天龍って言えば第1艦隊に所属してた有名な艦娘じゃないか」



山城「そうね・・・そんな有名人とこんなとこで同じ艦隊になるなんてね」



天龍「フフ、そんなこと無いさ、それにここの艦娘はみんな有名人だぜ?」



最上「・・・それもなんか嫌だね」



時雨「天龍さんね・・・僕は時雨、よろしく頼むよ」



天龍「おう、よろしく頼むぜ」



時雨「じゃあね提督、もう用は済んだから帰るよ」



天龍「・・・おう?」



提督「済んではないが・・・って帰ったか」



雲龍「後で私が伝えますよ、提督」



提督「あぁ助かる、今回配属された天龍には旗艦をやったもらうつもりだ」



不知火「それは困ります提督」



提督「ん?なぜだ?」



不知火「こちらの有名人が旗艦では不知火が楽しめません」



最上「ボクも同じ意見かな、楽しみを邪魔されるのは嫌だもんね」



提督「と言っているがどうする?」



天龍「ん?面倒だなぁ・・・うーんと、賭けでもするか?」



不知火「はい?・・・」



最上「賭け?」



天龍「ああ・・・実にシンプルな賭けだよ」



ニヤリと笑った天龍は実に楽しそうだ、この表情で俺は天龍が何を考えているのかわかった、確かにあの二人を納得させるいい方法だ。そしてそれ以上に面白そうだとも思う。午後は仕事もなく暇だったがいい暇つぶしができそうだ。




第3鎮守府 演習場



普段、この鎮守府では演習場を使う機会はない、訓練なんてダルくてやらないし、模擬弾のよる演習では面白くも無いと言う理由からだ。では実弾でやればいいかといわれるとそれも違う、まぁなんというかうまく言葉にはできないんだけど。さてそんな演習場も今日に限っては使われている。新しく着任した天龍と最上達の旗艦の座を賭けた演習によってだ。普段は誰も入らない演習場も今やボクシングの試合会場のように盛り上がっている。僕と提督がいるその横では山城が整備班や艤装兵たちと賭けに興じている。二度寝ができなくて偶然演習場の前を通った僕を引っ張りこんでおいて…勝手な人だよ。だがそんなことよりも・・・



時雨「止めなくていいのかい?」



提督「演習のことか?賭けのことか?」



時雨「どっちもだね」



提督「かまわん、演習に関しては下手なことをするよりすっきり解決する。」



提督「賭けに関しては…俺も同罪だからな」



ひらひらと賭けのチケットを見せ付けて提督は言った。実に楽しそうな笑顔だ…憎たらしい。命令がどうだの、風紀がどうだの、僕には良くわからないが止めるべき人間がこれで良いのだろうか。



時雨「悪い提督だね…」



提督「失望したか?」



時雨「いいや?だって僕も・・・」



僕も提督と同じようにひらひらと見せ付けた、憎たらしい笑顔も添えて。



副官「双方、位置につけ」



副官「・・・演習開始!」



副官さんの号令、始まったようだ。提督はビール片手に演習を眺めている、ビールを飲むなんて・・・うらやましい。



時雨「まったく・・・僕も飲みたくなるじゃないか」



席を立ち、ビールを配っている人を探す、どうせすぐには終わらない・・・しばらくは席をはずしても大丈夫だろう。





演習場 



天龍「オラオラァッ!!びびってんのかぁ~?」



とりあえずのご挨拶もかねて主砲を撃つ、こいつは当らない、狙ってないからだ。ならなぜ撃ったのか?それは相手が挑発に乗るようなお馬鹿さんどうか確かめる為だ。だが最上と不知火は動かない。



天龍「聞こえてないって・・・って訳じゃあねえよな」



天龍「ふぅ・・・やはり元エースってか?」



相手は冷静だ、これでは作戦を変える必要がある。まぁもともと挑発に乗るとは思っていなかったが。ならばやることは一つ、まず1人をしとめてその後もう1人をしとめる。これで完璧だ。



不知火「・・・馬鹿にしてんのかよ」



最上「やっすい挑発だねぇ・・・」



不知火「一気にしとめましょう、援護お願いします」



最上「あれ?1人でやるんじゃなかったの?」



不知火「腹が立ちましたからね、全力で叩き潰します」



最上「ふーん・・・まぁ作戦があっても困るしね?」



不知火「それもあります、では行きましょう」



動いた、二人で協力してかかってくるようだ。これは好都合、そのほうが俺としても戦いやすい。



天龍「さぁて・・・世界水準軽く超えた天龍型の力、みせてやるぜ」



不知火「ん?突撃してきますか」



最上「瑞雲は出した、爆撃開始するよ」



不知火「ええ・・・私とは瑞雲と共に足止めします。そのうちに観測射撃で」



最上「了解」



前方から機影、瑞雲6機・・・奥からは不知火だ。足止めだ、その間に最上が観測射撃で狙うのだろう。予想通り。では不知火から仕留めさせて貰おう。突撃する。爆撃…狙いは正確だ、確実に戦闘能力をそぐための攻撃だ。だからこそ動きも読みやすい、初弾を避ければ他の爆撃がよけれないタイミングで飛んでくる。ならば避けなければいいのだ。



最上「爆撃・・・なっ!?」



不知火「受けた?回避しなかった?」



天龍「狙いが正確すぎる!!」



最上「刀で爆弾を無力化したのか・・・」



天龍「隙あり!!オラァ」



迎撃しことに驚いたのか不知火はほんの一瞬隙を見せた。ほんの一瞬だったが天龍にはそれで十分だった。迎撃の際天龍は砲撃ではなく刀を使った。それは主砲を温存する目的と砲撃の反動で減速しないようにするためだった。その一瞬で天龍は不知火に接近・・・刀を振るう。



不知火「うっ!主砲が・・・くそが・・・」



最上「ちっ!こっからじゃ天龍だけを狙えない」



天龍「これじゃあ・・・・おわらねぇよ」



切り抜けざまに主砲を放つ、轟音と共に不知火の機関部に損傷、これで大破判定だ。



不知火「大破?・・・轟沈判定でないなら!」



最上「無茶しても勝てないよ?静かにしてて」



不知火「くっ・・・」



天龍「もう一つ、行くぜ」



次は最上に目を向ける、今度は隙を突くのは難しいだろう。だが1対1だ、何とでもなる。



最上「接近はさせないってぇ」



さすがは重巡だ、主砲と爆撃の高い火力で接近を許さないつもりだ。これでは簡単には近づけない。



天龍「ならば目くらましをしてやればいいんだよ」



魚雷を2つ手に取り、残りを適当に最上にむけ発射する。そして手に取った二つを最上めがけてブン投げた。



最上「魚雷?主砲で爆破させるつもりか?ならばこちらから迎撃する」



そう言って魚雷を迎撃すると天龍の発射した魚雷が最上に向かってきた。最上は一つ舌打ちをすると回避運動をとりながら主砲や機銃を使い残りの魚雷を迎撃する。だがこれに気を取られこちらへのけん制が弱まった。今だ・・・この隙に刀を投げる。



最上「刀?くそ、飛行甲板がやられたか」



天龍「20.3の3号砲だ、受け取れ!!」



轟音が鳴り響き、最上の艤装にダメージを与えた。轟沈判定だ。目の前の最上はため息をひとつした。



最上「ふぅ、さすがは元第1艦隊所属だね・・・」



天龍「いやいや、あんた達もなかなかだぜ?」



最上「2対1でやられたんだ、なかなかって言われてもさ」



天龍「今回勝ったのはオメーらが俺の能力を把握しきれてなかったからさ、次はもう勝てんよ」



最上「そりゃそうさ、次も負けちゃあいられないって」



天龍「おう、それじゃあ・・・あがろうぜ?」



演習場 観客席



天龍対最上&不知火の演習は天龍の勝利に終わった。賭けの参加者はこの結果に一喜一憂している。横にいる提督は天龍に賭けていたようだが配当金には興味が無いようで、賭けの外れた山城にチケットを渡していた。



時雨「いいのかい?せっかく当ったのに」



提督「んー?まぁ天龍が勝つことはわかってたからなぁ・・・なんかつまらんし千円しか賭けてないし」



時雨「ふーん、提督は山城を買うつもりなのかと思ってたよ」



提督「なんだ?買うって・・」



時雨「カラダだよ、カ・ラ・ダ」



提督「そんなことするかよ・・・めんどくせぇ」



時雨「まぁ確かにね・・・そういえばなんでこんな演習を?」



提督「知らずに見てたのか?」



時雨「うん、山城からは面白い物が見れるとしか聞いてなかったし」



提督「これはな、天龍が旗艦になるための演習さ」



提督「天龍が勝てば天龍が旗艦に、負ければ今までどおりの編成でってもんだ」



時雨「ふーん・・・じゃあ天龍さんが旗艦になるんだね」



提督「時雨も不満だったか?」



時雨「いいや、僕は拘りとかはないから大丈夫だよ」



提督「そうかそうか、なら良かった・・・じゃあな」



提督は手に持ったビールを飲み干し席を立った。恐らく天龍や最上、不知火と話をしてくるのだろう。しかし今日はいい暇つぶしなった。天龍の実力もわかったし賭けも当ったし。ふとあくびをし僕は席を立った。二度寝をしよう、いまなら気持ちよく寝ることができそうだ。いまだ熱気の冷めない演習場を後にして部屋にもどることにした。




後日 執務室



提督「さて、じゃあ天龍が旗艦ということでいいか?」



不知火「かまいません、賭けに負けましたからね」



最上「右に同じー」



演習に負けた彼女達は淡々と答えた。特に不満そうな顔には見えない、戦ってみて納得したようでよかった。不満を持ちながら戦われては連携も何も無い、わざわざ旗艦を向かいいれた意味が無くなってしまう。今回の賭けは大成功だったようだ。



提督「うむ、では天龍を旗艦とする、以後の戦闘では天龍を中心として連携をとるように、解散」



不知火「はい」



提督「退出していいぞ」



不知火「提督、ひとつお聞きしたいことがあります」



解散の号令を出したが不知火と最上は動かなかった。まだ不満があるかとも思ったが、二人ともいつもとは違いえらく真剣な顔をしていた。



不知火「なぜ今になって旗艦が必要となったのでしょうか?」



最上「確かに今まで無かったがおかしかったんだけどさ」



提督「前回の出撃で深海棲艦にも戦術的な行動が見られ、こちらもより作戦に幅を持たせたいからだが?」



不知火「それは理解できます。しかしそれは他の鎮守府ではの話です」



最上「こんな落ちこぼれの鎮守府では出撃なんて防衛戦のみだよ」



不知火「海域制圧はもちろん大規模作戦にも参加しませんからね」



最上「そんなとこにわざわざ百戦錬磨の天龍を問題児に仕立てあげてまで呼ぶかなぁ」



不知火「はい、そしてそれ以上に提督貴方自信が一番怪しいんです。特務機動戦隊の艤装・・・」



最上「極めつけは経歴だね。綺麗過ぎるんだよ・・・まるで造られたみたいにさ」




提督「・・・」



天龍「教えてやったらどうだよ、なぁ?雲龍」



雲龍「そうね…ここまで読まれてたら隠せないわ隊長」



そんな台詞と共に天龍、雲龍の二人が入ってきた。その後ろには山城もいる。



提督「お前・・・まぁいいか」




3



不知火「隊長?」



最上「隊長ってのは提督のことかな?」



雲龍「そうよ、元特務機動戦隊一番隊隊長 佐伯 隆二」



天龍「そしてそれすらも偽名であり本名は不明、何処で生まれて家族がいるのかも不明」



提督「まぁ簡単に言えば俺は戸籍上では存在しない人間だってことだな」



山城「はぁ・・・そんな人がどうして海軍で提督できるのかしら」



提督「そこは秘密ってことで、それに今は重要なことじゃないからな」



最上「ふーん、ではその名無しさんは何をしに第9へ?」



提督「艦娘と艤装兵の精鋭による遊撃部隊の創設」



山城「遊撃?こんな辺境で?どうやってやるのよ」



提督「新開発された艦娘運用艦を母艦として作戦に当る、この第9鎮守府はその遊撃部隊の本拠地として運用するのさ」



不知火「艦娘運用艦?そんなもの開発してたのですか」



提督「あぁ、もうほとんど完成しているぞ?後は最終調整とこっちが受け入れられる体制を整えるだけさ」



最上「体制ねぇ・・・そうなると軍艦を運用できる人員が必要だよね?その辺は?」



提督「問題ない、この鎮守府の人員で運用できる。」



不知火「ずいぶんと都合がいいですね、初めから仕組まれてたのでしょうか?」



提督「全てではないがその通りだ。もともと予定とはだいぶ変わったがな」



山城「・・・使い捨てとしては使われないと言うことでよろしいですか?」



提督「その通りだ、きみ達の能力の高さが認められ特殊部隊として運用されるようになった」



その後も皆思い思いに質問をぶつけてきた。自分の所属が変わり任務内容も変化するのだ、疑問も不満もあるだろう。むしろ下手に納得されるよりは全然いい。俺は彼女達の質問にできる限り誠実に答えた。



提督「以上で質問は無いな?では艦娘運用艦”箱舟”の最終調整が終わるまで待機とする。それでは解散」



艦娘「はっ!!」



彼女達含め此処の皆はそれぞれ何か知らの問題を起こし第9鎮守府に送られた。これは実力は高いが素行その他諸々事情により、通常の鎮守府では運用が難しい人員を集めひとつの特殊部隊として運用する為だった。だがここでひとつ問題が浮かんだ。この曲者部隊の指導者となる人物がいないのだ。そこで大本営はある人物に白羽の矢を立てた。3年前の日本近海海戦で所属部隊が壊滅し、行き場をなくした男。第9鎮守府に提督として着任とした名無しの男である。



提督「…」



その男は執務室の机に立てかけられたひとつの写真を手に取る。30名ほどの兵士が皆笑顔で写っている写真だ。日付は6月15日…日本近海海戦の3日前、そしてちょうど3年前の今日である。



提督「今度は…今度こそは誰も死なせんさ」



かたん、と写真を机に伏せその男は立ち上がる。窓から雨空を眺めるその目には決意が秘められていた。




第9鎮守府  港



ポツリ…



雨が一粒頬に触れた。雨の日は複雑だ。艦娘になるまでの日々、唯一憶えている兄の顔、僕の中で何かが変わってしまったあの日…悲しみ、温かみ、虚無感など様々記憶と感情が浮かんでは消えていく。



時雨「…ねぇ皆?」



時雨「僕はまだ此処にいていいのかな?…きみ達の元に逝かなくていいのかな?」



答えなど帰ってこない。そんな事はわかってる。それでも問いたい、答えてほしい。僕だけが生きていていいのか。きみ達と共に逝くべきだったのか。



時雨「此処の人は皆いい人だよ、雲龍、最上、不知火、山城…整備の玄さん、食堂の鈴木さん、副官さん・・・」



時雨「提督と天龍さんはまだ会ったばかりだからわからないけど…いい人だと思う」



時雨「僕は怖いんだ…またきみ達のように失ってしまうのが…だから…」



雨は降り続ける。僕の問いに答えるでもなくただ僕を包む様に。それがやさしさなのか哀れみなのかはわからない。だがしばらくは雨に打たれていこうと思う。




提督「ん?…あれは?」



しとしと…そんな表現が似合う雨空のもと一人の少女が雨に打たれている。こんな場面を見たとき普通なら何をしているのか、雨にぬれてしまって大変だとか、そんなことを思うのだろう。だが俺は『美しい』と思った。寂れた港、そこにたたずむ少女、空は曇っているがほのかに光を通している。これらの要素が絡み合ってひとつの絵画のように…悲しいけども美しい、そんな思いにさせた。



提督「…時雨?」




声がした…名前を呼ぶ声になぜか懐かしさを感じた。不思議だ、この懐かしさは知っている。そうだ…生き別れた兄と同じだった。



時雨「兄さん!?・・・・・あ」



そこにいたのは兄ではなかった。傘を差し驚いた顔をした提督だった。



時雨「・・・これは、恥ずかしいね」



提督「・・・」



いっそ笑ってくれれば楽だろう。だが目の前にいる提督はひどく真剣な顔をしている・・・いや悲しい?残念?そんな目をしている。



提督「・・・気にするな、兄に間違われたぐらいではなんとも思わないさ」



時雨「嘘」



提督「なに?」



表情が変わった。図星と言うやつだったのだろう。ムッとした表情になった。だがそれ以上に・・・



時雨「悲しそうだ・・・そんなに僕の勘違いが嫌だったのかい?」



提督「違う…それは関係ない。言うならば時雨と一緒だよ」



時雨「僕?」



…僕も今表情が変わったことだろう。ムッとしているのだろうか、楽しそうなのかそれとも・・・



提督「時雨も悲しい顔をしているし・・・」



時雨「残念そうな顔してる?」



提督「ああ・・・俺もしてたか、すまんな」



今はっきりとわかった。彼もまた僕と同じように大切な人を失ったのだ。だがこんな時代珍しくも無い…。それでも今は同じ思いを持った人が心強く感じる。



時雨「聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」



提督「ん?かまわんぞ」



時雨「僕はまだここにいていいのかな」



提督「・・・お前に何があったのかは報告書を読んでいるから知っている。つまりそれは」



時雨「僕は・・・生きていていいのかな、皆僕を・・・」



提督「生きろ」



時雨「え?」



提督「意地でも這い蹲ってでも何でもいい…生きろ」



提督「これは俺の持論だが、人が生きた証は紙やデータに記された記録じゃない。何を話した、何を一緒に食べた、喧嘩した、仲直りした・・・そんな記憶だよ」



時雨「・・・」



提督「不幸な事故死であっても、戦死であっても、病死でも何でも一緒だ。死んだら消えてなくなるだけ・・・そんなときに大事なのは生きた証だ」



提督「時雨、お前は今まで死んでいった仲間のことを憶えているか?」



時雨「うん・・・忘れられるわけがないよ」



提督「なら生きろ、お前が死ねば死んでいった仲間の生きた証が消えてしまうからな」



時雨「・・・」



正直ここまで熱心に答えてくれるとは思わなかった。ただ寂しかったから寄り添いたかっただけだった。だが問いに答える提督の目は、さっきとはまた違う悲しさと真剣さを宿していた。彼もまた戦友の生きた証を失わないように必死に生きてきたのだろう。



時雨「ありがとう・・・」



初めは雨だと思った・・・だがそれは空から降ってきたものではなく自分の目から流れ出たものだった。涙…いつもと違う暖かい涙。哀れみや同情心からではなく自分の心と正面から向き合った彼の言葉は暖かかった。



提督「時雨?」



時雨「女の子はね・・・泣き顔を見せたくないのさ」



提督「・・・そうか」



僕はひとつ嘘をついた。泣き顔なんかはどうでもいい。ただ抱きつきたかった。無性に、でも誰でもいいわけじゃない。彼には兄さんと同じ暖かさがあったから・・・



雨も見るといつも思うことがある



雨は好きだ、この身にかかった穢れを洗い流してくれるから。

雨は嫌いだ、この身にかかった不幸を思い出すから。



でも・・・こんな相反した気持ちになる雨もこんな暖かさを感じられるなら、悪くない。今なら心から言える。





















時雨「いい雨だね」






後書き

更新

続きます・・・続きはこちら
http://sstokosokuho.com/ss/read/2525

次に続く・・・


提督や通常艤装兵の艤装はイメージはソルテッカマンとか…仮面ライダーG3的な全身着込む感じです


艤装の設定


通常艤装について。

この作品における通常艤装とは一種のパワードスーツのようなものである。武装に関しては艦娘用の武装をデチューンし艦霊の加護が無くて使用できるようにした物。そのため元より威力は低くなっているが戦艦の主砲や魚雷、航空艤装も使用可能なため深海凄艦にも十分通用する。ただ防御に関しては艦霊の加護が無いため駆逐艦型の主砲にすら耐えられない。人類側の主力兵器。あまりにも危険な特殊艤装の動力源をバッテリーに変更し、量産しやすくしたものが通常艤装である


提督が使用する特殊艤装。

特殊艤装とは特務機動戦隊で採用されていた艤装。同部隊結成当時は深海凄艦に有効な武器が電磁ブレードのみであった。そのため電磁ブレードを有効活用するためのパワードスーツとして開発された。強力な艤装を目指したため通常艤装よりも出力は高い。戦闘力を上げるため捕獲した深海凄艦のコアのコピーを動力源としている。そのため艦娘と同等の装甲と機動力とパワーを誇るが30分以上艤装を展開していると体が崩壊したり、精神を侵食され暴走するなど危険性がある艤装。あまりにも危険なため量産は中止、特務機動戦隊でのみ運用された。


艦娘が使用する艤装

艦娘とは過去の軍艦の記憶をもつ女性のことをさす。艦娘は艦の記憶を通して艦霊(妖精さん)と契約し強力な肉体と得る。艦娘は契約した際に艦霊の力が一番発揮できる肉体へと最適化を行うため成長が止まったり逆に幼くなることもある。艦娘の艤装については今まで使用されていた艤装を元に艦霊がもたらした技術をもって作った物。火力、装甲、機動力どれをとってもかなり強力で深海凄艦に対する切り札とされている。パワードスーツのような着込むタイプではなく服や装備を装着するタイプである。


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