2022-03-21 04:06:57 更新

概要

世の中、上層部の駒として使われる男女が居るものである。それは、艦娘もであった
※(セリフ少なめ文多めです。)


前書き

文多めでセリフがおまけになっちゃった。反省


「…いってきます」


「はい、いってらっしゃい」


玄関前で言葉を交わす


いってきますといってらっしゃい。これだけなら一般家庭でもあるようなやりとりだろう


しかし、この場合少し違う


どちらの間にも、感情が無いのだ


抑揚もなければ、表情もなく、ロボットが話してるような絵面だ


それもそうだ


俺の妻…になっている人物は、俺を愛していない。どころか、嫌いだろう


俺はそうではない。彼女のことは好きだ。でも、一方的な愛情は、うまく行かないものだ


これがラノベとか、ドラマみたいな世界なら、俺が猛アタックして、相手も徐々に…となるが


現実は非常である


「はぁ…」


どうしてこうなったか思い返す


最近の日課はもはやこれだ





そもそも俺は、とある会社の社長の息子であった


いわゆる軍需産業の会社で、自衛隊や海軍、ときに海外や民間のマニアへの商売が主であった


当然ながら軍が潰れることはめったに無い。それに、それらは需要もあるしそれなりに儲かる


だが、数年前に、海軍と親の会社の間に亀裂が生じた


契約の行き違いとそこからのいざこざが原因だった


しばらく、海軍と会社の間での取引は一切なくなり、冷え切っていた


だが、敵が多いのはよろしくない。時間が立つにつれ、お互い友好化へと歩み寄っていった


そして、その関係を表すのが手段として、俺らは結婚させられた。いわゆる政略結婚だ


当然、俺は反対した。意中の人もいたし、相手は知らない人だ


だが、許されなかった


反対する時間があるだけマシだっただろう。今の妻となってる女性は、かつて艦娘として活躍し、その後元帥の秘書として活躍していた


他に士官も要るだろうが、実質的には彼女がNo2だろう


そして、彼女が結婚させられたということは、きっと元帥からの命令だろう。軍は命令が絶対というのは、聞いたことがある


きっと、命令されたか、それに近いことをされたのだろう。多分、そこに反論の余地はない。かつて砲を背負、海を駆け抜けて英雄となった女性も、今では海軍のコマとなってしまった


彼女のことは、よく聞けていない。出会った当初から、常に作った笑顔しか向けられなかったからだ


作り物でも笑顔が壊れてしまうのは恐ろしかった。でも、彼女も若い女性だし、きっと好きな人だっていただろう


だが、あいにく現在は「意中の人が居るのに無理やり結婚させられた夫婦」となっている。ようは偽装結婚だ


これが、感情のない挨拶の原因だ


一応食事や洗濯など家事はしてくれているが、会話などほぼ無いし、ましてや下品だが営みだって無理だ




「〇〇、〇〇です。ご乗車、ありがとうございました」


長々と考えていたら、目的の駅に着いた


とりあえずこの憂鬱な気持ちを捨て、仕事へと向かった


~~~


「ただいま」


「おかえりなさい」


朝のような会話をする


やはり感情はない


「お風呂は張ってあります。よければ」


「ありがとう」


腹が減っていたのでまず食事にする


別に、俺のことが嫌いだからって冷たい食事を出したり、食事に絵の具を混ぜたりするような人ではない


ちゃんと温かいし美味しい


が、雰囲気がそれを感じさせない


テレビをひたすら見て目を合わせず食事をとる嫁と、同じく無言で食事を食らう夫


傍から見れば夫婦喧嘩直後だろう


だがこれがデフォルトだ。救いはない


「ごちそうさまでした」


「はい」


食器を重ねて手を合わせる


立ち上がり、風呂に向かった


風呂は良い。一人で妄想にふけっていられる


ただ、そのヒーリングタイムも最近この関係ばっかりだ


「…うん、やっぱり」


先程、これがドラマなら良かったが、あいにくここは現実だって考えていたが、一つだけ、ドラマのような話があった


覚悟がいる話だが、これが最善である。お前は男だろ、と活を入れ風呂を上がった


~~~


リビングにでると、妻は座って編み物をしていた


「…あのさ」


「はい?」


手を止め、こちらを見てくる


一応彼女は、話をするときは目を合わせてくれる


反対にそれ以外は全くだが


「…海軍の〇〇さんって知ってる?」


途端に彼女の表情が変わる。顔は青くなり、驚いた顔をしていた


「ご存知ですか」


「うん、仕事の関係でね」


「…」


「そして…君がその人のことが好きなのも知ってる」


「なっ!?」


今度が顔が真っ赤になった


「なぜ、知ってるんですか」


「ああ…まず、別に君をストーカーしたとか、そういうんじゃないんだ」


前置きしてから話し出す


まず、仕事で会ったのは本当であった


彼は、海軍で提督をしているそうで、今の俺の妻は、現役時代は部下だったそうだ


ふと、艦娘が妻だと話したら食いつかれ、話をしていくうちにそうだとわかった


「懐かしいなぁ…あいつが本営に異動になるまでは、自分で言うのもなんだがだいぶ好かれていたよ。遠回しにだけどね」


「俺もあのときはあいつが好きだったが、まあ転属の辞令には逆らえないな…すまんね、旦那さんの前で」


と話してくれた。


やはり、彼女も彼女で意中の男性がいたのだ


「…」


話し終えると、彼女は黙り込んでいた


「仕事で何度か話したし、仲良くなって一緒に飲んだりもしたけど、男性が模範にすべきいい人だった。女性が惚れるのもわかるね」


「うるさいですッ!あなたがあの人を語らないで!!」


今まで見たこともないような顔で怒鳴られた。見たこと無い気迫に情けないながらあとずさってしまう


「…ごめんなさい」


「いや、そのことは薄々わかっていた。君が俺をどう思ってるかも」


今度はうつむいて黙ってしまった。ここまで感情豊かなのは初めて見た。嬉しくないが


「で、だ」


「何をするつもりですか」


恐ろしいくらい冷たい声で言われた


多分、俺の愛があいつに奪われている!と嫉妬してると思われてるのだろう


嫉妬してるのは嘘じゃない。だが、別にそれは彼の人の良さと、彼女の関係を知っているので、特段「羨ましいなぁ」くらいであった


「違うんだ、別に俺は、彼になにかしたり、引き離すつもりはない。むしろ逆だ」


彼女が、驚いた顔でこちらを見た


「こんな状況で言うのも失礼ですが申し上げます。私と離婚してください。そして、彼と。あなたが愛する人と結ばれてください」


そういうと、しばらくの静止の後、泣き出してしまった


「ああっ、ごめん…でも、君にとってはこれがいいかと思って」


「いえ…ありがとうございます…今まですいませんでした」


なきじゃくりながら言ってくれた


今までこの生活が苦であったこと


薄っぺらい笑顔を浮かべるのが精一杯であったこと


別に俺のことが嫌いなわけではなかったが、ずっと好きな人と離されて知らない人と一日中一緒だとだんだん嫌悪感が湧いてきたこと


正直に話してくれた


やはり、すこしショックだったが、関心もした。今まで、よく俺を殺そうとしなかったものだと


「ほら、涙拭いて。それと、少ないかもしれないけれど、それなりにお金も渡すから。俺が夫としてできるのなんて、これくらいしかないけど」


「いえっ…ありがとうございます。その気持ちで十分です…ほんとうに、ご迷惑おかけしました」


そこからは早かった


色々話をして、届け出に名前を書いて、翌日に提出した


彼の連絡先を教えて、久しぶりに話もしていた。どうやら、うまく行きそうだった。当然だ。彼に付き合ってる人がいないのは聞いている


彼女は、結婚期間中ものを買っていなかった。だから、荷造りも早く、業者もいらなかった。嬉しいやらかなしいやら


当然ながら体験したことのない事だし、とても時間が早く感じた


だが、最後の日だけはゆっくりに感じた


朝起きて、顔を洗って食事をして。すべてがゆっくりだった


そしていま、玄関だ


「…」


「…」


お互い、何を話すべきかわからず沈黙が続く


「本当に、今までご迷惑おかけしました」


「いいんだ、俺は女性に苦労させる鬼畜じゃないし、色恋話は聞くほうが好きだ」


「でも、こう見送られるのも違和感ですね」


「そうだな。まあ、なんだ、これからは他人だ。旦那とよく酒を飲むおっさんだと思って、今までの関係は忘れてくれ。次は旦那さんの家で会おう」


「…はい」


「うん、それでいいんだ。じゃあ」


「いってらっしゃい。今までありがとう」


「はい。いってきます」


























なんだか、彼女に未練があるような言い方になってしまったが、今までちゃんとあの会話をしたこともないのだ、きっと許させるだろう


その後、今では彼女はちゃんとかつての上官と結ばれた


あの頃の仲が続き、たまに自宅にお邪魔するが、今は幸せそうだ。今はただの知り合いとして接している


勝手に離婚し、俺もあちらもひと悶着あったようだが、まあ、今幸せならどうにかなったんだろう


俺もそうだ。別れた後、昔好きだった人にアタックしてみたらうまくいった


どうやら、ドラマは意外と始めれば続くらしい


後書き

補足すると、この後別に何かあるわけでもなく、普通にどちらも救われています


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