2023-07-21 13:38:55 更新

概要

記憶をなくしたまま無人島に流れついた提督、そこで深海棲艦の提督となり、新たな艦隊運営が始まる。
誤字修正などで何度か描き直すかも。


前書き

こんにちは、渋柿ペロです。こちらは私が別に制作している「艦娘をお姫様抱っこしてベッドにぶん投げてみる」とは別の世界となります。関連はありません。
そしてこのSSの大前提として『エビ型駆逐艦の中には海防艦くらいの幼女が入っている』という独自設定を組み込んでおります。人型とは程遠い見た目の深海棲艦は中の人型艦が操縦しているので、陸では二足歩行ですし、当然喋ります。そして、深海棲艦の産まれ方や轟沈した艦娘についてなど、独自設定が多々含まれています。以上を踏まえて本作をお楽しみください。


第1話 いつかの果て


 暗い世界に聞こえるのは波の音、冷たい体に感じるのは温かい熱。


 俺はどうなったんだ?


 少しづつはっきりとしてくる意識と共に、今までの記憶が断片的に蘇ってくる。


 俺は船で海に出た。何のために出たかは思い出せないが、とにかく必死だったのは覚えている。


 そして海に落ちた。爆発、何かが爆発したのか、強い衝撃で俺は海に投げ出されたんだ。


 海に浮かんでいた俺を誰かが俺を助けようとしてくれた。人なのに海の上に立っていた。その人のことを俺は知っていたはずなのに、思い出せない。あれは誰だったんだろうか。


 でもその人は俺より先に海に沈んでいったっけ。そして俺も沈んでいった。涙を流していた。すごく悲しかったんだ。


「っ…‼︎」


 完全に意識が戻ったと同時に背中に激痛が走る。下半身が冷たい。いや、全身が寒い。温かったのは痛みだ。薄れている意識のせいで痛みが緩和され痛みを熱だと誤解していた。


 ぼんやりと目を開けるとあたりは真っ暗だった。どうやら今は夜みたいだ。月明かりで多少当たりが見えるが、浜辺しか見えない。どこかの海に浜に流れ着いたのか。


 朝になったら誰かが俺を見つけてくれるか、このまま誰にも知られずに死ぬか、できるなら死にたくない。死にたくはないが、体温が下がり体が動かせない今の状態では生存は難しいだろう。


 あぁ、死にたくない。死にたくない…死にたくないのに…もう起きているのも限界だ。


 今ここで意識を手放したら死ぬかもしれない。生きていると実感できる今のままでいたい。死ぬのが怖い、生きていたい!死にたくない!


 しかし体力の限界というのは必ず訪れる。俺は耐え難い睡魔によって意識を失った。もう目覚めないかもしれない、さっきまで起きていたのは死に際の奇跡だったのではないかという恐怖と共に。


ーーーーー


「…生きてる」


 どうやら俺はまだ生きているらしい。相変わらず体は冷たく、全身が焼けるように痛む。加えて今は砂浜に反射した太陽の光が眩しい。


 だが生きていることの実感を得られることの喜びが目を閉じることを許さない。


 少しだが体力も回復したような気がする。アドレナリンが分泌されているだけかもしれないが、今なら自分の状態が把握できそうだ。


 鉄のように思い体をなんとか持ち上げて近くの木まで進もうとする。だが一歩踏み出したところでまた倒れてしまった。足が体を支えられないほど弱っている。


 それもそうだ。一日中、いや、数日かもしれない、長い間海に浸かっていたんだ。水温で足が壊死しているかもしれない。


 とにかく這いずってでも海から出なければと、力の出ない体でどうにか動こうともがくが、ちっとも動きそうにない。さっき動けたのはやはり偶然だろうか。


 そして無理に動いたことでまた意識が薄れていく。自分の体を満足に動かせないことがこんなに悔しいことだとは思わなかった。次目覚めた時に俺は生きているだろうか。


 神様、俺はまだ生きていたいです。だからもう一度目を覚ませることを祈ります。神様…どうか。


 そしてまた深い眠りに落ちていった。


ーーーーー


 冷たい、寒い、苦しい。どうなっている。俺は、死んだのだろうか。意識があるから生きているのだろうか。わからない。暗い、重い、でも軽い、浮遊階がある…やっぱり死んだのか?


「ーーー‼︎」


 ごばっと体内から空気が抜ける。今まで空気だった場所が海水へと置き換わる。苦しい、息ができない、ここは海の中だったのか。


 だが何故だ、どうして海の中にいる、俺はさっきまで浜にいたはずなのに。


 わからない。海面が上がって流されたのか?理由なんてどうでもいい。


 せっかく生きていたのに、せっかく死ななかったのに、生きたまま溺れて死ぬなんて嫌だ。せっかく生きていたのに。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!


 誰か、誰か、助けて…誰か。


 目がぼやけ、やがて何も見えなくなる寸前、大きな黒い影が見えた。魚だろうか、魚でもいい。何もないまま死ぬよりはマシだ。何もない海じゃ魚に看取られるのも悪くない。


 さすがにもう死ぬだろう。これはもう助からない。どうしようもない。終わりだ。終わり、ならどうしてもさっきまで生きていたんだ。こうなる運命ならはやく死なせてほしかった。下手に希望なんて持ちたくなかった!こんなことなら、生きたいと願わなければよかった。


 そしてまた意識は闇へと落ちた。


ーーーーー


「………」


 生きている?のどろうか。まさか幽霊になったとかじゃないだろうな。


 相変わらず記憶はないままだ。自分のことすらもわからないまま死んで、死んでからも自分が何者なのかわからないなんて、俺は何のために生きていたのだろうか…。


「オイ、コレドウ見テモ艦娘ドモノ提督ダロ」


「デモボロボロ。テイウカ瀕死。生キテルノ?コレ」


 話し声…?誰の?まさか神様だったりしてな。


「イ級ガ持ッテ帰ッテキチャッタケド、ドウスルノコレ」


「ウーン…ドウセ人間一人ジャドウニモナラナイ。蘇生シテ縛ッテ情報ヲ聞キ出ソウ」


「ヲー頭イイ」


 蘇生?情報?どういうことだ?俺はまだ死んでないのか?いや、蘇生って言ってる時点で死んでいるのと同じ状態にいるのか。なら死んでる?いやそんなこと今はどうだっていい。


 助かるのか?俺は、まだ生きれるのか?もしかして、助かったのか?


「デモドウヤッテ蘇生スルノ?」


「心臓マッサージトカ?」


「私タチノ力デヤレバ多分取リ返シノツカナイコトニナル」


「人工呼吸ハ?」


「溺レテスグナラソレデイイカモダケド、ケッコウタッテルシ、無理ジャナイ?」


「ウーン…」


 希望なんてなかった。やっぱり俺はここで死ぬのか。というか、脳に酸素が送られていないはずなのにどうして意識があるんだ?


「余計ナコトシナイデソノママニシテオケバイイノヨ」


「ア、港湾」


「ソウナノカ?」


「放ッテオケバ深海修復液ガ体ヲ作リ変エテクレル」


 深海修復液?体を作り変える?どういえことだ?わからない、深海…なにかが引っ掛かる、何だろう。思い出せない。


 そういえば、体の痛みが無くなっている。重さもだ。死んでいるからなら話は早いが、どうやら俺は生きているらしいから、痛みが消えているなんて不自然だ。一体何がどうなっているんだ…?


「………ぇ」


「!」


「ヲッ起キタ」


「は…え?…俺はさっきまで…」


 わけがわからない。さっきまで俺は意識だけでの状態だったんだぞ?なんで目覚めた。


「フム、無事ニ目覚メタヨウダナ」


「えっ…あ」


「フム、混乱シテイルヨウダナ。少シ落チ着ク時間ガ必要カ。逃ゲルコトハナイト思ウガ。ヲ級、コイツヲ見張ッテイロ。」


「了解」


「デキレバ情報ヲ聞キ出シテオケ。私ハ少シ外ス」


「リョ、了解…」


 そうして白髪でツノの生えた女性はどこかへいってしまった。周りにいるのはでかい帽子を被った少女と下着?なのか、とにかく露出度の高い格好をしている黒髪の女性だけ。


 落ち着け、まずは状況を整理しよう。前回意識があった時の最後は海の中で、俺は溺れて死んだと思っていた。だがなぜか俺は生きている。だめだわけがわからない。


「一体何が起こって…ってうお、何だこの水?!」


 俺が今入っている風呂のようなところ、そこに発光する黄緑色の液体が溜まっている。これは人が触っても大丈夫なやつなのか?いや、すでに入ってるのに何もないから大丈夫なのか。


「ヲ、ソレハ深海修復液。私タチノ怪我ヲ直ス時ニ使ウ」


 ってことは、体の痛みが消えたのはこいつが俺の傷を治してくれたからなのか。なんてありがたい水だ。


「ん…でもさっき体を作り変えるって」


「ウン、ソノ水ハ私タチニシカ効果ガナイ。人間ガ触ルト分解サレテ消エル」


「大丈夫じゃない!」


 急いで風呂から出ようと立ち上がるが、なぜか体を支えきれずに尻をついた。自分の体を見てみると、さっきまで体だと思っていた部分がスライムのような柔らかい物体へと変わっている。


「ぅ…あ、な、なん、なんだこれ…」


「今アナタノ体ハ作リ変ワッテル最中ナノ。アマリ動カナイ方ガイイ、形ガ崩レルト元ニ戻ラナクナル」


「…」


 これは、おとなしく浸かっていた方が良さそうだ…。よく見ると体が透けて内臓が見えている。かなりグロいが体内にあった海水がじわじわと深海修復液に変わっている。


「だが、何で俺は消えない?人間が触ると分解されて消えるんだろ?」


「ソレハ…言ッテイイノカナ?」


「ウーン…」


「ドウシテモ知リタイカ?」


「!」


 また別の人がやってきた。黒い雨合羽を来た白髪の少女。ジッパーを腹下まで下げて上半身が丸見えになっている。


「ドーシテモ知リタイッテ言ウナラ教エテヤッテモイイゾ?」


「あぁ、知りたい」


「ソレガ到底受ケ入レラレナイヨウナ事デモカ?」


「どういうことだ…?」


「キヒッ…覚悟シロヨ?」


 最後の忠告と言わんばかりに、真剣な顔でこちらを睨む白髪の少女。今まで死んだと思ったり死ぬかもと思ったり、死を覚悟したりと色々すでにあった、今更驚くようなことはないと信じたい。


「大丈夫だ。言ってくれ」


「…オ前ガ消エナカッタノハナ、オ前ガ既にニ死ンデイルカラダ」


「………は?」


 今、何で言った?死んでいる?俺が?いや、俺は生きてるじゃないか、今こうして。何を言っているんだ?意味がわからない。


「私タチ深海棲艦ハナ、鉄屑トカ船ノ残骸ヲ深海修復液ニ入レルコトデ生マレルンダ。ソシテオ前ハ死ンデカラココニ入ッタ。実際私モミルノハ初メテダガ、マサカ本当ニ死ンダ人間ヲ入レルト生マレ変ワルトハナ」


 なんだよ、じゃあ今生きてる俺は何なんだ?俺の死体を元に作られた、俺の記憶と意思を持った人形みたいなものか?それは俺と言えるのか?


「そんなの、それじゃ俺は、今の俺は前の俺とは別の存在じゃないか。まるでクローンが本体になったような…」


「ソレノドコニ問題ガアルンダ?オ前ハ生キ返ッテ、傷モ治ッテ、マタ生キラレルンダゾ?少シ体ノ構造ガ変ワッタダケデ大袈裟ダナ」


「だって、俺は…人間で合ってるのか?死体が動いて喋ってるなんて、ゾンビと同じじゃないか!」


「人間ハ何デソンナ細カイコトヲ気ニスルノカワカラナイナ」


「ていうか、さっきから人間人間って、お前たちが人間じゃないみたいに!」


「イヤ、人間ジャナイシ。コイツ本当ニ提督カ?私タチノコト知ラナイトカ、間違エテコスプレシタ民間人連レテ来タンジャナイヨナ?」


「マサカ…ネ」


「ヲ級、知ラナイ。ソモソモ連レテキタノイ級ダシ」


「ダカラホットケッテ言ッタノニ…」


「おい、いったい何の話ーーーーー‼︎」


 突然喋れなくなったと思ったら、いつの間にか口元までスライム化が進んでいた。


「ヨウヤク頭部ノ作リ変エガ始マッタカ。話ハ後ニシヨウ。マダ起キタバッカリダシ、少シ休憩シロ」


 まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、言われてみれば、確かにかなり疲れがきている。生きているんだし、また後で話をすることができる。


 それに、頭がスライム状態のまま起きているとどうなるかわからなくて怖いから、今は言われた通り休むとしよう。


 俺はそのまま体の力を抜き、ゆっくりと意識を沈めていった。


ーーーーー


 次に目が覚めると、前までの死にかけた体とはうってかわって、怖いほどに体が軽くなっていた。


 それともう一つ変化があった。


「気分はどうだ?」


 目覚めた俺に声をかけてきたおでこに一本のツノが生えた髪の長い女性。


「怖いくらい良好だ。それに、なんだかさっきよりも声がはっきりと聞こえるな」


「それはお前が私たちに近い存在になったからだな。私たち、深海棲艦の声は人間には聞き取りづらいらしい。他にも、目を凝らしたら双眼鏡を除いた時のように遠くを見ることができる」


「便利だな。それより、今更だが助けてくれてありがとう。おかげで命拾いした。ええっと…」


「港湾棲姫だ。それと、例は私じゃなくイ級に言うといい。私は死体のお前を利用させてもらっただけだ」


「…?わかったよ、イ級ってのを探してみるか」


 利用…俺は一体何に利用されてんだ…?死体を生き返らせることの実験とかか?それとも、それ以上になにか企みがあるのか。


 しかし、命の恩人だからな。利用されたのなら、できる限り彼女の期待に応えたいものだ。


 部屋を出て、風の吹いてくる方向へ暗い廊下を進んでいく。


「…偶然とはいえ、この戦争にも、終わりが見えたかもしれないな」


 後ろでそんな声が聞こえた気がする。言っていることの意味はわからないが、独り言をわざわざ聞きに戻る必要もなだろう。


 俺は足を止めず先へ進んだ。


ーーーーー


 少し進むと光が見えてきた。しかしそれが日の光でないことはすぐにわかった。


 黄緑色の光。その光はさっき見た深海修復液の光と似ている。中に誰かいるようなので寄ってみることにした。


「やっぱり沈めた艦娘から作った深海棲艦の方が普通に作ったものよりも強力な個体が生まれるよね」


「今回の戦いで素材として使える艦娘がかなり手に入った。かなりの戦力強化になったのではないか?」


「それに、あの横須賀の艦娘よ。戦闘経験が段違いだわ。提督もろとも深海側につけれたのはラッキーだったわね」


 また気になることが増えた。艦娘…すごく大切な記憶のはずなのに、頭が思い出そうと必死になっているのに、全然覚えていない。提督もろともってことは、俺以外にも人がいるのか?


「おい、俺以外にもここに人がいるのか?」


「!…誰だ!」


「…待ちなよタ級。こいつはアレよ、イ級が拾ってきたって言う人間」


「あぁ、ということはお前が横須賀の」


 突然話しかけたのに驚いたのか、声を荒げた白髪の女性。セーラー服を着ているが、スカートがない。なぜなんだ。


 その横にいる猫又のような尻尾の生えた片目が隠れている女性。こちらも際どい格好をしている。尻尾の先端についている武装も気になるが。


 なぜここのやつらはみんな際どい格好をしているんだ。どいつとこいつも羞恥心はないのか?目のやり場に困るんだよまったく。


「突然すまない、俺は…えっと…」


 俺は、誰なんだ?自分の名前も思い出せない…今更だが、記憶喪失…ってやつか?だとすればあの事故が原因だろうな。


「隠さなくていいわ。横須賀の提督でしょう?ここの人はみーんな知ってるわ」


 横須賀の提督…俺が?てことは何とかと一緒に連れてこられた人間は俺なのか…つまり、俺以外の人間はいないのか。


「それにしても、敵の拠点の中だっていうのに、そんなに余裕でいられるなんて、さすがは横須賀の提督ってところか。それとも、もう深海側に寝返ったのか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、敵?お前たちがか?それに横須賀の提督ってなんなんだよ」


 俺の知らないことを知っていて当然のように話をしだす。何も知らないのに話が進められてはついていけない。


「…?」


「…は?何言ってるんだ?お前」


 俺の発言に疑問の表情を浮かべる二人。あっちは俺が知ってて当然の話をしていたのに、それを俺が知らないのだから当然だ。


「えっと…あなた横須賀の提督よね?」


「いや、知らない。そうなのか?」


「なんでお前が聞くんだ。どういうことだ?」


「それなんだが、俺はどうやら記憶喪失らくして、事故の直前までの記憶しか持っていない。自分の名前も、過去に何をしていたのかもな」


「…それは」


「幸か不幸か、って感じだな。今のお前にとっては私たちはただの人でしかなく、変に警戒することもない。だが私たちが欲しい情報は何一つ持っていないってわけだ」


「その情報ってなんだ、俺に聞きたいことってのは」


「言っても仕方ないだろ。どうせ覚えてないんだから」


 それもそうか。というか、お前たちは俺が記憶を持っていたら警戒する存在なのか?さっきも敵って言っていたし。


『…この戦争にも、終わりが見えたかもしれないな』


 さっき聞いた声が頭に浮かんだ。


 戦争…きっとこいつらと俺は戦争で敵同士だったのか。艦娘という存在が俺の味方で、こいつら深海棲艦は敵。俺が記憶を失う前はそういう認識だったのだろう。


 船の事故だと思っていたあれは、きっと砲撃だ。この猫又の尻尾に装備されている砲、海軍のものだ。俺の乗った船は深海棲艦の攻撃をくらい爆破、俺はその爆発に巻き込まれて…。


 ならこいつらが俺を殺したってことじゃないか。


「お前たちが…俺を殺したのか?」


「当たり前だろう。これは戦争だ。殺し殺されの殺し合い。そもそもこの戦争はお前たち人類が圧倒的に有利なんだ。私たちがほぼ無限に味方を増やせても、個々が圧倒的に強い艦娘どもは私たちを数えきれないほど殺してきたんだ」


「そして、それを指揮するあなたもね。直接は手を下してないけど、艦娘を指揮していたのは提督、あなたなんだから」


 なるほどな。提督ってのは艦娘ってのを指揮する存在。いわば司令塔だ。こいつらからしたら、敵の親玉を倒して仲間に引き込んだら、偶然にも記憶を失っていたから敵の認識が無くてラッキーってことか。


「…俺はどうすればいいんだろうか」


 こいつらは俺の命の恩人だ。だがそもそも俺を殺したのもこいつらだ。それを命の恩人なんて呼べるわけがない。


 だが俺には戦争の記憶がない。こいつらに恨みも何もない状態だ。今から人類側に戻ったところで、記憶のない俺はどう生きていけばいいんだろうか。このまま深海側にいるのが最も良い選択なのだろうか。


「まぁ、記憶のない提督なんて人類側もいらないだろうし、せっかく捕まえた人間を逃すわけがないでしょ?」


「無理に逃げようとしたらどうなる」


「その時は惜しいけど殺すわ。逃げるってことは仲間にならないってことだもの。私たちの情報を漏らされても困るし」


 どっちみち深海側しか居場所はないのかよ。


「…だめ。せっかく助けたの、殺させない…」


 不意に後ろから声が聞こえた。振り向いても誰もいない。と思えば、目線を下げるとそこには幼女がいた。対馬のような、小さい白髪の女の子…ん、対馬って誰だ?提督の頃の記憶か?


「あらイ級、そんなにその人間が大事?」


 イ級、こいつが俺を助けてくれたやつか。


「大事。だから守る。やるなら、相手になる」


「駆逐艦ごときが、私の相手になるとでも?」


「それでも守る。絶対に死なせない」


 なんなんだこいつは、なんでそんなに俺に執着するんだ。俺はお前に何かしたのか?命をかけてまで守られるほどのことをしたのか?むしろ命を助けてもらったのは俺の方なのに。


「お前がイ級なのか?」


「…うん」


「お前が俺を助けてくれたんだってな。ありがとう」


「…あなたも助けてくれた。これでおあいこ」


「そうなのか…でもごめんな。俺は記憶喪失らしくて、それが理由とは限らないが、そのことを覚えていないんだ」


「別にいい…期待なんてしてなかったから」


「…」


「それで、あなたはどうするの?逃げる?」


「…いや、どうせ人類側に戻っても俺の居場所なんてないだろうからな。ここにいるとするよ。というか、もう人間じゃないみたいだしな」


「…!」


「そう、殺さなくて済むならよかったわ」


 そう言って武装のついた尻尾をリスの尻尾のようにS字に曲げる。砲口を下に向けることで武装解除の意味を示しているのだろうか。


「では私たちはこれから仲間ということだな。私はタ級だ。よろしく」


「タ級だな。よろしく頼む。俺は…俺は何なんだろうな…」


「私たちもあなたの本名は知らないし、今まで通り提督でいいんじゃない?あ、私はネ級ね」


「そうか、提督…うん。妙に聞き慣れた感じがするな。よろしくな」


 提督か。なんだか懐かしい響きだ。俺の過去は提督だったらしいし、それも当然か。


「そしてお前がイ級だな。よろしく頼む」


「うん、よろしく…司令官」


 どうやらこの話は一旦まとまったようだ。


「ところで、この部屋はなんなんだ?カプセルの中に人がいるが…」


「ここは深海棲艦の製造場。人類側でいう工廠ね。中にいるのは艦娘よ。もちろん轟沈したやつね」


 轟沈…艦娘は船なのか。少女の姿をした船…なるほど、それで艦娘か。


 しかし、前は俺がこいつを指揮していたんだよな。てことはこいつは俺の部下…記憶をなくしているからこれといった感情はないが…なんだかな。


「仲間だったやつが今目の前で敵に変えられているんだよな。なんというか、酷いな」


「あら、あなたは深海側じゃないの?」


「そうだが、こいつは元々俺の指揮下にいたやつなんだろ?俺が人類側の提督だったら、死んだ味方が敵に変わっていて、それもまた殺すんだよな。知りたくなかったことを知れたよ」


 だが今はむしろ都合がいい。深海側になった今、艦娘は敵だ。それがこうして俺の仲間になってくれるんだ。


 倒した敵を仲間にして再利用…まるで将棋だな。


「…今なぜかすごくデジャブを感じた」


「何言ってるの?」


 本当に何を言っていんだろうな。前の記憶はないのにアニメのセリフは覚えているなんて、前の俺は相当なオタクだったのかもな。


「あ!こんなところにいやがったのか!ドックにいねーから脱走したのかと思ったぜ」


「あ、露出合羽」


「なんだその呼び名、よくわかんねぇけどムカつくな。あたしはレ級だ。戦艦レ級」


「レ級か。俺は提督だ」


「おう。そういや情報を聞き出さないといけないんだっけか、面倒臭ぇな」


「それなんだが、俺は記憶喪失で何も覚えていない」


「あぁん?」


 呆れたような、疑うような目でこちらを睨みつけるレ級。小さい体からは想像できないほどの威圧感を感じる。おそらくこいつは強い。そう確信させるほどにレ級の眼光は鋭く、飲み込まれるように深かった。


「嘘じゃないわ。私たちのことも、艦娘のことも、なんなら戦争のこと自体知らないようだったし、私たちを前にしてこんなに落ち着いていられるのも変でしょう?」


「その理屈はよくわかんねぇけど、ひとまずは信じてやるよ。海軍の提督様だ、単に肝が座ってるだけかもしれねぇがな」


「俺はただの怖がりで弱虫だよ」


 死の間際に死にたくないとただをこねるような奴の肝が座っているなんて、到底思えないな。


「艦娘と共に海へ出る提督が弱いものか。敵だった私が言えるのもでないが、以前のお前は強く、勇敢だったと思う」


「…ありがとう」


 過去の自分か…少しづつでも、過去の手がかりを集めてみようかな。


「それじゃあ私、そろそろ哨戒の時間だから行くわね、提督。タ級あなたもよ」


「わかっている。では失礼する。提督」


「…あぁ」


 俺に一声かけて部屋を出ていく二人。その光景がどこか懐かしく感じるのは、提督と呼ばれたからだろうか。


 ふと思ったことだ。艦娘を指揮する提督がいるならば、深海棲艦を指揮する提督もいるのではないか?


 俺を生き返らせる理由、利用される、戦争の終結、つまり今の深海棲艦側に提督はおらず、港湾は俺に提督をやらせるつもりなのか?


「記憶、ないんだがな…」


「どうしたんだ?急に」


「いや、何でもない」


 記憶はなくても、やれることはやってどうにかこいつらの力になりたいな。かつての仲間が敵だとしても、今の俺にとってはこいつらが仲間だ。仲間のためにできることは何だってしてやるさ。


「二人とも、ここの施設の全体が知りたい。案内してくれないか?」


 知らない場所で生活するにも、まずは自分のいる場所がどういったところなのかを把握する必要がある。一人で歩きまわっても迷うだけだろうし、ちょうど人がいるなら案内してもうのが良いだろう。


「わりぃがあたしはバスだ。あたしも哨戒組についていく。強えやつがいたら戦いたいからな」


 武装のついた尻尾を振りながら楽しそうにどこかへ行ってしまった。


「…戦闘狂か。というか、お前しかいないんだけど、お前も何か用事あったりするか?」


「ない…から、案内する。どこから見たい?」


 よかった、一人ぼっちにならずに済んだ。ひとまず安心だ。さて、どこからか…。


「なら、外から見たい。入り口から一つづつ」


「わかった。ついてきて」


 イ級が差し出してきた手を握り、工廠を後にした。


限りなく遠い終わり


 闇とも言える暗い廊下なのにしっかりと空間が把握できているのは何故なのだろうか。


 そんなことを考えながらイ級に手を引かれ歩いていく。


 しばらく歩いていくと、暗闇に光が差し込んでいるのが見えた。どうやら外につながっているようだが…。


「かなり急な坂だな…もしかして今までいたのは地下か?」


「…うん…ここは元々、洞窟があっただけの島。それを船渠棲姫と泊地棲鬼が基地に改装した」


 あの浴槽や艦娘を深海棲艦に変えるカプセルも作ったのか。凄いな。


「深海棲艦はそんなこともできるのか」


「誰でもじゃない…姫とか鬼とか、一部の、強い艦だけ…」


 姫、鬼、そんなのがいるのか。そういや港湾棲姫も姫ってやつなのか。


 坂道を登り切って外に出ると、木々が生い茂った林の中だ。奥に浜辺も見える。


 そういえば、俺はどこに倒れてたんだろうか。


「少し浜辺に行ってもいいか?」


「…」コクリ


「ありがとう」


 浜に出ると、あたりは海ばかりで、水平線の先まで島一つない大海原だった。


 ここが日本なのか外国なのかもわからない。いや、横須賀から船を出しているなら日本の近くのはずだ。


「うわっ、なんだこれ」


 砂浜を少し歩くと、明らかに色の違う部分がある。


「…これ、俺の血か」


 ほとんど流されてしまっているが、水に触れていない部分の砂が赤黒くなっている。


 俺はこんなところに流れ着いてたのか。見れる限りでも相当な出血量だ。普通に失血死もあり得るな。


 やっぱり俺は一度死んでるんだな。あまり実家というものはないが、死は一瞬と聞く。こんなものなのだろう。


「…案内を続けてくれ」


「わかった」


 俺の死亡地点を後にして、島の全体を把握することにした。


ーーー


 島の把握を終えたところで、いろいろなことに気付いた。


 まず、この島は思ったよりも広い。正確な大きさはわからないが、こんな巨大な島が日本近海にあった記憶はない。俺の記憶なんて当てにならないが、日本からは程遠い場所にあると思う。


 次に洞窟だが、入り口が3箇所あり、中の施設は建造場、入渠ドック、補給所、停泊と出港のための港湾の四つだけ。どこにも発電所や電力源になるものはないため、中は真っ暗だ。


 あの暗闇で光っていた深海修復液は、どうやら自然発光しているようだ。光源になるかもしれないな。


 休む場所や食事をする場所はないのは、深海棲艦は食事を取らないらしく、休む必要もないかららしい。食事の代わりに燃料などの補給をするのだ。


 もう一つ、この島にいる深海棲艦だが、ここはあくまで拠点の一つらしく、普段は別の海域にいるらしい。だから、イ級たちもここから離れることもあるし、外から他の深海棲艦が来ることもあるそうだ。


 レ級なんかは、頻繁に艦娘と戦いにいくらしい。それなのに今まで生きているのは、それだけ強いということだろう。


 だが、ネ級やタ級みたいにこの島に居続ける物もいるようだ。


「てことは他にも基地があったりするのか?」


「うん。でも、少ない」


「?…なぜだ?」


「作るのに時間がかかるのもある。けど、作っても、すぐに艦娘が壊していく」


「まぁ当然か」


 戦争中だからな。敵の基地が増えるなんて、たまったもんじゃない。逆の立場ならすぐに破壊する作戦を立てる。


「ん…?深海側は艦娘の拠点、鎮守府の位置がわかってるんだよな?攻め落とすことはできないのか?」


「無理…深海棲艦よりも、艦娘の方がずっと強い…」


「そうか…」


 数で勝っていても個々の実力に大差があれば蹂躙されるのか普通だ。


「姫や鬼を複数集めれてもだめか?」


「出来なくはない、けど…姫や鬼は少ない。生まれるのも珍しい…貴重だから、失いたくない」


 そういうことか。それに、強い艦を失ってまで鎮守府を落とすメリットがあるのかわからない。


 それに艦娘が人型なら船を停泊させるわけじゃない分、大きい港が必要なわけではない。簡単に言えば、どこにでも鎮守府を作れる。


 一つ潰したところで、すぐに立て直すか新しい基地ができて終わりだ。確かにわざわざ落とす必要がないな。


「てことはこっちが圧倒的に不利じゃないか。負け勝負を続ける必要なんてあるのか?」


「最初の深海棲艦が、どうやって生まれたか…知ってる?」


「どういうことだ?」


「深海棲艦が生まれた理由、人への恨み、憎しみ、怒り、負の感情…それが艦に宿ったこと」


「負の感情…」


「艦は人のために戦った。人のために傷ついた、人のために沈んだ。それは何のせい…?」


「…人のせいか。けどそんなのただの逆恨みじゃないか?戦争をしたんだ、仕方のないことだ」


「そう…仕方ない…それは理解していた。艦ならね」


「!」


「ならどうして私たちは人の体をしているの?」


「…まさか」


「ん、負の感情は、艦のものじゃなくて、戦争で死んだ人のもの…人の怨念が船に宿ったの」


 人間の想いの力は強い。誰かを想うことで、人間は謎の力を発揮できる。だがそれは恨みも同じ。人間の恨みの力はどんな想いよりも強くて悍ましい。


 たとえば呪い。呪いは古くから続いていて、方法も多彩である。それだけ人が人を恨んでいたということだ。


 その恨みの力が船に宿り、人の形を成して人を襲う。この戦争は結局のところ、人と人の戦いでしかないというわけだ。


「人の恨みが消えない限り、深海棲艦は消えない…この戦争は終わらない」


 今更どちらかが攻撃をやめたところでもう一方がやめるわけがない。もはや収集がつかない状況になっているわけだ。


「どちらかが完全に消えるまで終わらない戦争か…ふざけてる」


 今の俺には人脈も何もない。提督だった頃の知り合いと会えればもしかしたらだが。


「今考えることじゃないな」


「…?」


 イ級が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。一人で考えすぎたな。


「なんでもない。それより、俺の食事ってどうすればいいんだ?」


「…あ」


「え?」


「…ない」


「…」


「…」


「マジかぁ…」


 食料問題が発覚した。


ーーー


「というわけで、俺の食糧はどうすればいい」


「知らん。なぜ私に聞く」


「なんとなくだ、すまない」


 ダメ元で、島にいる唯一の姫である港湾棲姫を尋ねてみたが、やなり無理だったか。


「このままじゃ俺は3日後には餓死しているぞ…」


「ふむ、それは困るな」


 食糧はなければ水もない。海水なんて飲んだらさらに死ぬのが早まる。せっかく生き返ったのに次は食料がなくて死にそうとか笑えないぞ。


「島に果物とか、動物は」


「無いな」


「なら他所から貰ってきたりは」


「無理だ」


「!俺もお前らみたいに補給をすれば」


「なるほど、試してみるか」


 港湾棲姫と共に補給所へ向かう。


 補給所には、イ級が何かを食べて座っていた。その音は咀嚼音と言うよりも、粉砕機で金属を粉々にするような音であり、あきらかに人間が食べるようなものではないとわかる。


「…あ、話…終わったの?」


「一応、補給で補えるのではって結論になった」


「そう…」ギャリギャリ


 音がやばい。


「これ、食うのか…」


「何を躊躇っている。発案したのは貴様だぞ」


「いやでも……ぐ…ものは試しだ…!」つ弾薬


「っ!」バキッィ


「…」バキバキ


「」ゴクン


「…」


「どうだ?」


「…」


「おい」


 食えなくはない…だが、食えたものじゃない。人間の食事に慣れてるせいか、金属と火薬の味は流石にきつい。だが拒絶反応みたいなものは感じなかったので、きっと食えるのだろう。体の構造も変わっているはずだし。


「食えなくはない」


「ふむ、問題解決だな」


「解決じゃないよ!人として、いや人間じゃないけども、元人としては流石にこれは受け入れ難い!」


「はぁ…わがままなやつだな」


「人間は傲慢なんだよ。ともかく、しばらくはこれで我慢する。だが、いつかは限界がくる。俺のな」


「だから早いうちに食料問題を解決する必要がある…そこでだ」


「輸送船でも襲うか?」


「鎮守府に行く補給船、前に見た」


 なんだか話が物騒になってきた。


「まてまて、人を襲うんじゃない。まず俺の考えを聞け」


 さすが、人の怨念から生まれた存在は発想が違う。だがまぁ、戦争中なら同じようなことを考える人間もいるだろう。争いは人を凶暴にさせるな。


「えぇとまず、俺には深海棲艦同様に水中でも息ができる、というか、呼吸の必要がないんだよなな」


「そうだな」


「そしてイ級は魚型の艤装?で海中を移動できるんだよな」


「うん」


「なら俺をイ級の艤装に乗せて貰って、どこかの港までいくことができれば、そこから網を借りて網漁をできるんじゃないか?」


「泥棒…」


「海戦中に漁にいくやつなんていないだろ。使わない道具を代わりに使ってやるだけだ」


「昔、艦娘が秋刀魚を獲っていたことがあったな」


「もはや遠洋漁業も人の仕事じゃなくなったのか」


「人間の船を見つけたら最初にやることは砲撃だからな。最優先事項は撃沈だ」


「これが人の恨みからってのがほんとに怖いな」


「」テヲアゲル


「どうしたイ級」


「鎮守府の場所知ってるけど、そこには行かない?」


「港っつっただろ」


「む…わかった」


 もしかしてこいつも戦闘狂か?見かけによらず好戦的なんだな。


「ん、待てよ、鎮守府の場所知ってるって行ったか!?」


「うん…!やっぱり戦う?」キラキラ


「戦わないぞ。そうじゃない、お前は日本の場所がわかるのか?」


「うん、わかる。日本に行くの?」


「あぁ」


 よし、日本までの行き方がわかる奴がいて助かった。最悪弾薬食いながら大航海する羽目になると思ってたからな。


「待て、港なら日本よりも近い国が」


「よし!早速行くぞ!」


「了解!」


 さっそく出稿するために、イ級と共に港湾へ向かう。


「はぁ…まったく」


第3話 網


 港湾へ行くと、俺たちよりも先に誰かが来ているようだった。


「ん、お前たちは…」


「あ、提督。起きたの」


「イ級も一緒なんだ。二人してどうしたの?」


「これからちょっと出掛けにな。そういやお前らの名前をまだ聞いてなかったな」


「私は空母ヲ級。お、じゃなくて、ヲだから。間違えないで」


「ん、おう」


「ヲ!」


「おう、ヲ、な」


「そう」フンス


「?…んで、そっちが」


「重巡リ級。よろしく」


「おう、よろしく」


「それで、なんでドックに来たの?」


「どこかから網を取って来ようと思ってな。食料がないから、漁業でもしようかと」


「へぇ、お金はどうするの?」


「いや、港から拝借する」


「泥棒じゃないか」


「違う!これは使われない道具を俺が有効活用しようとだな。そういう二人はなぜドックに?」


「装備の点検。さっきまで私たちが哨戒してて、帰ってきたとこ」


「そうだったのか」


「ヲ級、ついていきたい。何かあっても守れるように」


「大丈夫だろ。海中を移動するんだし、陸に出るのは夜にして、あまり目立たないようにするつもりだ」


「それに、危なくなったらすぐに逃げるさ」


「…わかった」


 いつのまにか、巨大な魚のような形をした艤装に乗ったイ級が顔を覗かせている。


「準備、できた…先に乗って」


「…これ、二人乗るには狭くないか?」


「…そう?」


「なんか、エヴァの操縦席みたいだな」


「……エヴァ?」


「何でもない」


  足を軽く伸ばして、背もたれにもたれかかるタイプの座席。左右に引いたり押し込むレバーがついている。


 だが、操縦席のサイズはイ級の身長に合わせてあるから、俺が乗ることはできないので、俺は操縦席の後ろの隙間に入っている。


「ん、やっぱり狭いな」


「…誤算だった」


「狭いことか?これくらい気にしないから平気だ」


「違う。一緒に座るの、無理だった」


「なんか距離近くない?俺なんかしたか?」


「………別に」レバーヲニギリ


 イ級がレバーを握ると、操縦席が偽装の中へと入っていく。完全に入り、入り口のハッチが閉まると同時に、周りの壁が透明に変わり外の景色が見える。


 ガコンっと大きな音がしたと同時に、周りの景色が動き出す。


「おぉ、進んでる。仕組みはわからないが」


 そもそも動力源も不明だし、ミラーガラスのように中からは外が見えるのもどう言った仕組みなのか。


 深海テクノロジー、恐ろしいな。


ーーー


 海の中をカジキのように高速で移動していく俺たち。


 周りに魚がまったくいないのは、生息地ではないということなのだろう。魚も、意味もなく海中を移動しているわけではないのだ。


 魚を獲るにも、ちゃんと獲れる場所を調べてからじゃないとな。


「にしても、海の中はすごいな。深海なんて、ここからじゃ真っ暗で何も見えないぞ」


「深海にいくと、上下がわからなくなるんだって…上に泳いでるつもりが、下に向かってるなんてことも、あるみたい」


「あぁ、そういう話を聞いたことはあるが、実際どうなのかを試したやつはいるのかね。あくまで予想でしかないだろ」


「そういや、お前ら深海棲艦って名前してるわりに、深海に住んでたりとかしないのな」


「生まれは深海…だと思う。船の残骸、海の底にある」


「あー確かに」


『…聞こえているか』


「!?」


「どうしたの」


「いや、ちょ、ちょっと待て!」


 なんだこれ、頭に直接声が響くようだ。テレパシー?


「提督、通信、初めて…混乱してる。港湾棲姫、ちょっとまってて」


「通信?深海棲艦はそんなこともできるのか」


「できる。元は船だから」


「提督も…私と、繋がってみる…?」


「意味が含まれてそうな言い方だな。方法を教えてくれ」


「ん、まずは…頭の中で、波長を感じて」


「波長を感じる…よくわからないことを言うな」


 波長、電波の波…ん、なんか無意識にうねうねが見えてきた…これが電波を感じるってやつか?


「なんか見えてきたかも」


『ん、それじゃあ、次は、繋がりたい相手を思い浮かべて』


 繋がりたい相手…イ級か。


「そうやって、電波を送るの。提督の電波、感じる…よ」


『そしたら、言葉を電波に乗せて送るの」


 またよくわからないことを…元人間には感覚がわからないぞ。


「んーわからんな」


「そう、仕方ない」


「悪い、イ級経緯で、会話をする。続けてくれ」


「ん、わかった」


『…わかったわ。なら話を続ける。まず、日本よりも近いところに別の国があったんだが』


「はぁ!?」


『それは置いといて』


「…」


『今お前たちがいる海域の周辺に艦娘と戦闘したという報告があった』


「!」


『ネ級たち?』


『いや、別の艦隊だ』


『そう』


『…被害は?』


『物資を輸送中のワ級3隻と、随伴艦のヌ級2隻、イ級一隻だ』


「は?イ級…?イ級ならここに…」


「イ級は艦名、動物と同じ。イ級はいっぱいいる」


「そ、そうなのか…なんか同じ名前のやつが何人もいるって変な感じだな」


「艦娘なんて、同一人物が、何人もいるし…それぞれ個体差ある。同じなのに、別人」


「なんだそりゃ。ますます謎だな」


『被害は?』


『全員轟沈だ。空母2隻と戦艦1隻、駆逐を2隻確認したそうだ』


「轟沈ってことは、全員沈んだのか!?相手への被害は」


『相手の被害は?』


『空母1隻が小破しただけだ。気をつけるんだな』


「…そこまで艦娘とは力の差があるのか…」


「それもある、けど、一番は指揮。相手には指揮官がいる。私たちを指揮する人がいないから、弱い」


「統率も作戦もなけりゃ負けるのも当然か」ムス


「…」コク


 俺なら指揮を取れるのだろうか…いや、記憶も無いのに指揮なんて無理だろ。


 今の俺にできることは、知ることだけだ。俺は何もかも知らない、だから知らなければならない。敵、味方、その種類、能力まで、しばらくは勉強の毎日だな。何で勉強するのかは知らんが。


「艦娘に見つかったら、まぁ負けるよな。単艦だし」


「浮上しないから、大丈夫」


 海中にいれば海上からは見えないか。


「海中から攻撃すれば簡単に倒せないのか?」


「わたしは潜水艦じゃないの、水中からじゃ、攻撃できない。水中じゃ抵抗が強くて、弾が飛ばないの…知ってるでしょ?」


「いや、知らんが。そもそもそんなこと知ってても日本じゃ」


<ブォン ブォン ブォン!


「…!?」


 言葉を遮って突然警報音が鳴る。それと同時に、透明になっている壁にパソコンのウィンドウのようにモニターが現れる。


 そこには、こちらへ一直線に向かってくる何かが写っていて、モニターの左下にはそれがくる方向を指すであろう矢印がある。


「っ…」ガチャガチャ


 咄嗟に回避行動をとったため、直撃は免れたが、最悪な事態には変わりない。


「今の攻撃は…」


『こちらイ級、××地点で接敵。さっきの艦隊かは不明』


『なんだとっ!?』


「応戦する」


「待て、今の魚雷は確実にこちらを狙っていた。向こうにはこちらの位置がわかっていると言うことだ」


「敵には空母や戦艦がいるんだろ?もし浮上して姿を晒せばそいつらの的になるだけだ。ここは海中にいるべきだ」


「!…了解」


「こっちに魚雷はないのか?」


「あるけど、海中じゃ撃てない」


「くそっ、戦うにしても海上にでないとダメか」


 だが出た途端に空母と戦艦の攻撃で撃沈なんてこともありえる。そんなことになったら即死だぞ。


 なぜ相手は潜水してるこちらに気づいたんだ?ソナーでももっていたのか?何かしらこちらの位置を把握する手段を持っているのは間違いない。


 その手段ってのはなんなんだ。それさえ潰せれば逃げることができるはず…。


<ブォン ブォン ブォン!


「またか…!」


「回避する」


<ブロロロロ


 この音、飛行機か!?


「駄目だ!すぐに潜れ!」


「…!」


ドガーッ!!!


「くっ…」


 真上で何かが爆発して、その衝撃で船体が激しく揺れる。


 魚雷の警報を聞いたと同時に、上から聞こえたプロペラ音と何かを海へ落とす音。


 イ級の真上に投げ込まれた爆雷に、先ほどの魚雷が命中し高威力の爆発を起こしたのだ。


「やつらこっちを沈める気満々じゃねぇか…」


「…今の魚雷、下からきた…相手、潜水艦」


「なるほど、だから俺たちに気づいたのか…」


「…どうする?」


「どうするったって…まずは距離をとるべきか。全速で、魚雷が飛んできた方と真逆に進め。こちらを正確に補足できるのは今の所潜水艦だけだ」


「やつから距離をとりさえすれば、追撃は…っ」


 潜水艦から逃げるように進んだのに、既に水中に大量の爆雷が沈んでいる。


「こちらが逃げるのも想定されていたか…」


「やっぱり戦うしか…」


「…イ級、港湾に援軍を頼めないか?」


「聞いてみる」


『港湾棲姫、こっちに援軍を遅れない?』


『既にネ級たちを向かわせている。だが、早くても10分はかかるぞ。そっちはどう言った状況だ?提督は無事なのか?』


『問題ない。あと、敵に潜水艦がいる』


『また厄介な…』


「…背後は潜水艦、正面は爆雷…逃げ道がないな」


「しかも、こうしている間にも、俺たちは爆雷で囲われてる…爆雷の檻が完成すれば、生還できるかは絶望的だぞ」


 網をとりに行くはずだったのに、今は俺が網にかかってるとか、なんつー皮肉だ。


 諦めるな、観察しろ。よく周りを見るんだ。何か気づきや利用できるものはないか…?何か…。


<ブォン ブォン ブォン!


「くそっ、考えてるだけじゃだめだ!動け!」


「…今の魚雷、狙いが悪い」


「避けやすいってことか?」


「ううん…当てる気がない」


「…」


 この状況で無駄撃ち…?なんでわざわざ当たらない弾を撃つんだ?威嚇射撃…今更そんなことしたって無駄だ。


 一発目と二発目で、確実にこちらを沈めにくる攻撃をしてくるやつらだ、実力はあるはず。そんなやつが下手な射撃をするとは思えない…。


 もし、当てるつもりで撃っていて、かつ外れやすい射撃をしたのなら、その理由はなんだ?


 狙いが甘いのではなく、あえてその軌道を通るように撃った理由は…。


「…もしかして、機雷か?」


「イ級!相手は機雷への誤射で逃げ道ができるのを遅れてる可能性がある。機雷を背にして行動しろ」


「…!了解、司令官!」


 次の魚雷も狙いが甘い。やはり魚雷への誤爆を避けている。機雷な間隔が近すぎたんだ。


 だがそれがわかっただけじゃ打開できない。機雷の隙間を狙い撃つような相手だ、機雷に誤射させて脱出はまず無理と考えるべきか…。


「このまま時間を稼いでネ級たちがくるのを待つか…たが持ち堪えれるだろうか」


 敵は潜水艦だけじゃない。海上にもいるんだ。もしまたさっきみたいな機雷と魚雷の同時攻撃がきたら…。


『こちらネ級、あと5分ほどで着くから、もう少し頑張ってね』


「あと5分か、持ち堪えれるか…?」


「難しい…もって3分」


「…仕方ない」スク


「?」


「…俺が出て、時間を稼ぐ。俺を外に出してくれ」


「!…だめ!それでやられたら」


「イ級は敵の注意が俺に向いている間に距離をとって、どっかの機雷を爆発させてなんとか脱出しろ。最悪俺は捕まってもいい」


 「そんな…」


「心配するな。俺が会話のできる相手だとわかれば向こうも下手に撃ってこないだろう。なんせ深海棲艦と一緒にいる人間だからな」


「それに時間さえ稼げれば、ネ級たちがきてくれるんだ。俺はそれを雑談でもしながら待つだけだ。何も危険なことはない」


 まぁ俺も怖くてほんとは行きたくないんだが…二人まとめて死ぬよりも、イ級だけでも逃がせればそれでいい。


「だから、俺を外に出してくれ」


「………」グッ


「…わかった」ビッ


ガコウン!ウィーン


「…絶対に、生きて…」


「せっかく助かったのに死んでたまるかよ」ニッ


 さて、俺は深海棲艦と同じ能力を持っている。ならば海中を浮上するのも潜航するのも、海の上にだって立てるはずだ。


 両手を上げて海中からゆっくりと浮き上がる。ちょうど上半身が海上に出たところで、海の上の状況をようやく把握する。


「動かないでください!」ガコン


「…」


 巨大な艤装に乗っている戦艦の主砲が俺に照準を向けている。奥には弓を構える艦娘二人と、後ろには小学生ほどの小さな少女が砲口をこちらに向けて立っている。


 どうやら穏やかな話し合いとはいかないようだ。


次回から誰が喋ってるかわかるようにします。


第4話 提督


霧島「その軍服、あなたは提督の方ですか?」


提督「まぁ一応はな」


伊19「その人イ級の中から出てきたの!この目でしっかり見てたのね!」ザバー


提督「お前がさっきから魚雷撃ってきた潜水艦か」


伊19「そうなのね!海のスナイパー、イクの魚雷を何度も避けるなんて、なかなかやるのね」


提督「見事な狙いだった。敵ながらMVPを与えても良いと思ったぞ」


伊19「ふふん!なのね」


加賀「雑談はそのくらいにして、あなたが何者なのかを答えなさい」


提督「そうは言われてもな、俺は記憶喪失で3日前くらいまでの記憶しかもってないんだよ」


加賀「そうですか。ではあなたのその見た目について の説明はできるかしら」


提督「見た目?」


 見た目と言われて海面に反射した自分を見てみる。


提督「うわっ、なんだこれ」


 髪は真っ白、目は赤く、肌は青白い。


提督「めっちゃかっこいい」


伊19「ずこーなのね!」バシァ


望月「この状況で言うセリフじゃないっしょ」ニヘ


吹雪「なんなのこの人…」アゼン


加賀「真面目に答えなさい!」ギリリ


 質問をしてきた女性がより一層弓を強く引く。


提督「説明と言われてもね。自分の見た目は今気づいたばかりだし、普通の人間とは違うってのはわかるけど、覚えてないだけで生まれつきこうだったかもしれないだろ」


加賀「ならその軍服は」


提督「気づいた時には着ていた」


加賀「…」ジッ


赤城「…嘘をついているようには見えませんよ?加賀さん」


加賀「赤城さん…いえ、油断してはいけません。彼らイ級から出てきたんです。つまり深海棲艦と何か関係があるということ」


加賀「ならば倒すか、鹵獲するべきです。私としては、この男はここで沈めたいわ。嫌な予感がする…」


霧島「できれば生きたままつれていきたいのですが」


提督「ま、大人しくついて来るかと言われたら、無理だな」


加賀「なら死になさい!」ピシュン


提督「…!」シュッ


 加賀の放った矢を寸で回避することに成功した。動体視力も上がっているようだな。


吹雪「ちょっ!?加賀さん!判断が早くないですか!?」


加賀「ついてくる気はないと言ったわ。なら武力で制圧する意外ないでしょう」


提督「…む」


 避けた矢が光を放ったあと、それが6機の飛行機へと変化した。


 その飛行機は航路を変えて上へと昇っていく。そしてちょうど俺の頭上を通る時に、何かを落として…。


 これ爆弾じゃないか?不味くないか?潜って間に合うか!?いや、回避!


ドゴォォォン


提督「うわっ!」フットビ


 直撃は免れたものの、爆発で数メートル吹っ飛ばされた。爆発を至近距離で食らったので、骨折くらいしていてもおかしくないはずだが、以外にも体は無傷だった。


提督「服が…」


 背中に爆発をくらって、ほとんどが焼けてしまった。爆発でできた水飛沫が雨のように降り注ぎ、冷たい水が背中を濡らす。


加賀「あの距離で爆発をくらっているのに、ほとんど傷がついていないなんて、あなた人間じゃないわね」


提督「まぁそうだな。俺も自分がこんなに頑丈だなんて思ってなかったぞ」


加賀「あなたたちも撃って!」


望月「うへぇ、気が引けるなぁ」ドーン


吹雪「艦載機の爆撃くらって無傷の相手なんですから、駆逐艦の主砲くらいじゃ死んだりしませんよ!多分」ドーン


提督「あっぶね!マジで殺しに来てやがる…!」


 駆逐艦娘二人の砲撃をギリギリで回避していく。威力が低い分、連射ができるため避けるのも簡単じゃない。


提督「ぐはっ…!」ドカーン


 痛ってえ。左腕に直撃した。幸い腕は動く、中身はなんともなさそうだが、表面の皮膚は爆発で火傷と少し焦げた。


 思った通り威力はそこまでだが、当たりどころが悪ければ確実に死ぬ。


吹雪「うぇえ!?あの人直撃したのに腕ついてるんですけど!?」


望月「ちょっと引くわぁ」


提督「お前らが撃ったくせに…っ!」


 推進音!魚雷か!あの駆逐艦たち、砲撃しながれ魚雷を飛ばしていたのか。距離がある分魚雷同士の間隔が大きいから避けるのは簡単だ。


提督「魚雷と砲撃で進路が…」


 魚雷をの間を通って避ける。


ドゴォォォン


提督「ぐぁあっ!」ボロ


 動きが一直線になったところで間反対、しかも直前まで気づかれないように下方から魚雷を撃ってきやがった。


提督「くっ、直撃した…早く体勢を」


 立て直さないと、直上の爆弾に当たってしまう。気づかない内に発艦していた爆撃機が俺の頭上へ爆弾を投下していた。


 魚雷直撃のダメージがあるせいで一瞬行動が遅れた。すぐに移動できる体勢じゃない。


 それを読んでたかのようなタイミングで投下された爆弾は、もはや今からどうにかなるような距離じゃない。


 流石にやばい…これは、死ぬかもしれない。


ドカァァァァァンッ‼︎


赤城「爆弾、直撃です」


加賀「…」


霧島「沈んでなければよいですが…」


 水飛沫が収まり、煙が晴れ、隠れていた姿を現す。


艦娘「!?」


提督「いってて…ギリギリセーフ」


 両側に、戦艦のような巨大な三連装砲砲が二つづつ、その外側に飛行甲板と、連装砲の副砲と対空機銃が二つづつ、それらが巨大な生物の口のようなものに乗っていて、手には漆黒の刀を握っている。


 何より目を引くのが、両肩付近にある巨大な二門のレールガン。片方は爆発のせいで破壊されている。


 一言で表すなら『要塞』だ。


吹雪「…なに、あれ」


桐様「今までの深海棲艦のどのデータとも一致しません!」


加賀「…やっぱり」


 爆弾が当たる寸前、ネ級やレ級のような尻尾の武装を思い出し、自分も深海棲艦と同じなら何かしら武装があると考えた。


 すると無意識に艤装を発現させ、爆発を防ぐことができた。


提督「重っ…まともに動けねぇぞこれ」


 これだけの重武装だと、当然重量もとんでもないことになる。水に浮いていることが不思議でならないほど体にはその負荷がかかっている。


提督「…さて、やられたぶんは返させてもらうぞ」キュイイイイイ


 レールガンに弾を装填し、レールガンの電磁気力を高める。ビリビリと音を鳴らして、発射準備が完了したことを示す。そして。


ギュドォォォォォン!


 電磁誘導によって高速で発射される砲弾と、レールガンに備え付けられたプラズマ砲からプラズマ弾を同時に打ち出す。


加賀「ぐっ…ぁ」大破


 プラズマを纏った砲弾が光速で直進する。目にも止まらない速さで発射された砲弾は加賀に回避する瞬間すらも与えずに直撃する。


 攻撃を予測して咄嗟に飛行甲板を盾にしたが、光の速さで進む砲弾が容易く貫き、直撃する。


 プラズマ弾と砲弾の二段構えにより、プラズマ弾で装甲を溶解させて装甲の内側へと砲弾を入り込ませることで、装甲を無視した攻撃を繰り出せる。


提督「…まだやるか?」ガコン


 そう言って艦娘たちに主砲を向ける。


ヒューーー ドォーン!


提督「!」


吹雪「きゃあ!」


 遠くから砲弾が飛んできて、駆逐艦の近くへ着弾する。


ネ級「待たせたわね」


タ級「それほど危機的ではないように見えるが?」


レ級「キヒヒッ強そうだな!私も混ぜてくれよ!」ガバッ バコォン


 レ級が尻尾のような艤装の口から艦載機を取り出して蹴り飛ばす。


レ級「こっちも受け取りな!」ピョン ザバァ シュババババババ


 続けて艤装から大量の魚雷を発射させる。悍ましい量の魚雷が水中を移動しているのが飛沫でわかる。


赤城「っ…航空機発艦!敵航空機は私が抑えます!みなさん退避を!」ピシュン ボワァ


霧島「加賀さんが大破しているこの状況でレ級の増援…速やかに撤退した方がよいでしょうね。何より、あの男の情報を持ち帰らなければ…!」ドーン


望月「遠方の哨戒任務だったはずなのに、なんでこんな目にあうかなぁ!」ドーン


吹雪「レ級なんて相手にできるわけないじゃないですか!」


伊19「イクもちょっと逃げたいのね」


赤城「加賀さん!急いで撤退しましょう!」ガバッ


加賀「赤城さん…ごめんなさい」ボロッ


 艦娘たちが後退射撃しながら海域を離れていく。なんとか生き残ることができたようだ。


レ級「ちぇっ、逃げるのかよ。まぁいいや、お前は大丈夫か?」


提督「あぁ、何とかな…」ハァ


 安心して体の力が抜けると、顕現していた艤装もどこかへ消えてしまった。


提督「うわ、体が軽い。あ、救援にきてくれてありがとう。お前たちが来なかったら死んでたよ」ハハッ


レ級「何言ってんだよ、お前の艤装めっちゃ強かったじゃねーか!なぁなぁ!後でわたしとやろうぜ!」キラキラ


提督「いや、無理だ。艤装の出し方もわからないし、そもそも弾切れだ」


提督「つか、なんでさっき一発だけ撃てた…ん…だ…」フラッ バシャーン


レ級「あれ?」


ネ級「ちょっと、大丈夫!?」


タ級「ちょっとちょっと、なんで倒れてんの?」


提督「なんでって、そりゃ爆撃されたり砲撃くらったり魚雷くらったりしたらぶっ倒れるって」


<ザバッー バカッ


イ級「司令官っ!」バッ


提督「うわっ!」バシャアン


イ級「よかった!…よかった!」ギュゥ


提督「痛い痛い痛い!ちょ、俺ボロボロなんだって」


イ級「あらあら…お熱いわねぇ」ニヤニヤ


タ級『あぁ、提督は無事だ。死にそうになってるがな』


提督「レ級!助けて!イ級引き剥がしてくれ!」


レ級「うわ、2機落とされてる…あの空母やるじゃん」


提督「聞いてねぇ!」


ネ級「イ級が機雷の網に穴を開けてくれたから私たちが来れたのよ。イ級に感謝するのね」


港湾棲姫『おい、さっさと帰って報告しろ』


提督「ほらイ級、帰るぞ。また乗せてってくれ」ポンポン


イ級「うん…もう少し」ギュ


提督「やれやれ…ってこういう時に使うんだな」


第5話 着任


ーーー1ヶ月後 阿提督鎮守府


阿提督「それで、例の男性の深海棲艦はまだ見つかってないのか」


加賀「はい。以前遭遇した海域、またその周辺を調査していますが、未だ手がかりすら見つかりません」


加賀「他の鎮守府にも目撃情報がないか聞き込みをしていますが、そのような深海棲艦の目撃情報は無いと」


阿提督「…そうか。今のところ、我々の艦隊のみが遭遇している新種の深海棲艦…しかも男性の」


加賀「…やつは危険です」


阿提督「わかっている。君たちの持ち帰ったデータだけでも十分脅威なのは理解している。加賀を一撃で大破させた武装も、なかなか厄介だな」


阿提督「早急に見つけ出し、叩き潰しておかなければ…きっとこの戦争は敗戦となるだろう」


阿提督「他の鎮守府にも協力を仰げ。こいつは鎮守府一つでどうにかできるような相手じゃない」


加賀「了解」


<ガチャ パタン


阿提督「…」


阿提督「(…軍服を着た男の深海棲艦か。まさか向こうの指揮官だったりしてな)」


阿提督「そうだとしたら、時間が経てば経つほど戦力が増していくだろう。戦況が大きく動くぞ…」


ーーーーー

ーーー



ーーー無人島


 ここ1ヶ月、俺は島に引きこもりひたすら自分の能力について研究し、特訓して、ようやく一通りのことができるようになった。


 深海棲艦同士の通信、艤装の展開と解除、使う武装の絞り込み、砲撃の方法や魚雷の出し方、艦載機の出し方、対潜攻撃の方法。


 海上を素早く移動したり、艦載機の操縦、望遠のしかた、提督の能力の使い方など色々だ。


 特に提督の能力については、できることが多すぎて、未だ未知数だ。深海棲艦への強制命令や、他の深海棲艦の武装の使用、小鬼の召喚、深海棲艦の製造と改装などなど。


ーーー1ヶ月前


提督「ふぅ、なんとか網を入手することができた…」


ル級「港に行っても無かったからら、結局昔沈めた漁船から回収することになったけどね」


提督「盗みを働かずに済んだと考えよう。それもこれも、お前が漁船の場所を覚えていてくれたらおかげだ。感謝する」


ル級「別にぃ。私は新しい提督からの印象をよくしたかっただけよぉ。ふふふっ、これで顔を覚えてもらえば、活躍も増えてもっと戦えるわぁ」


提督「いや、まだ提督になると決めたわけじゃ」


ル級「あら、そうなの?でもいずれはなるんでしょう?未来の提督の秘書艦になるためにも、アピールは大事よね」


イ級「…司令官には、私がいればいい」ムスッ


ル級「あら、駆逐艦ごときに何ができるっていうのかしら」フフッ


イ級「あまり、駆逐艦を、舐めないで」ムスッ


提督「(さっそく衝突が起きてる…大丈夫なんだろうか)」


ー数時間後 工廠


提督「新しい深海棲艦?」


ネ級「ええ、ちょうどさっき建造が終了したの。新造艦を迎えるのも提督の仕事よ」


提督「なるほど、ではさっそく挨拶するとしよう」


ネ級「そうね。ほら、提督を連れてきたわよ」


 工廠に入ると、初めて見る顔がふたつあった。


駆逐棲姫「あなたが司令?わたしは駆逐棲姫。よろしくね」


ツ級「軽巡のツ級です…その、そこそこ使ってもらえたらそれでいいので」


提督「二人ともよろしく。ところでお前、その足…」


駆逐棲姫「大丈夫よ。水の上なら浮いて移動できるから、ちゃんと役に立てるはずよ。それに、わたしは姫級なのよ。とっても強いんだから」


提督「だとしても、陸だと不便だろ?よいしょっ」グイッ


駆逐棲姫「わ、あわわっ!」ダッコ


 駆逐棲姫を抱き上げて、背中に乗せる。


提督「俺が近くにいる時ならおぶってやるから、遠慮なく言えよ」


駆逐棲姫「あ、う、うん。そうする…えへへ…///」


ネ級「まぁたそういうことして、イ級が怒るわよ?」


提督「?…なんでだ?」


ネ級「…あなた本気で言ってるの?」


ツ級「あ、あの、提督はお優しいんですね…あ、でも、私にはそういう気遣いとかいらないので、ほどほどに、そっとしておいてください…」


提督「え、お、おう。わかった」


駆逐棲姫「(司令の背中…あったかいな…///)」


ーーー翌日 港


提督「おー獲れてる獲れてる。人の身で船より早く水上を移動できるから魚も普通より多く網にかかるな」


提督「二人とも手伝ってくれてありがとう」


イ級「ん、命令に従っただけ。たいしたことじゃない」


駆逐棲姫「司令の頼みなら断るわけないよ!」


提督「そ、そか。ありがとう」


提督「さて、何が獲れたかな…ん?これ、主砲か?」


イ級「艦娘の装備…工廠に持っていけば、深海棲艦にできる」


提督「へぇ…」ガシッ


港湾棲姫「む、なんだそれは」


提督「港湾棲姫か。魚を獲りにいったら装備が獲れちまったんだが、深海棲艦にしようと思って、これから工廠に行こうと思う」


港湾棲姫「…?提督はわざわざ深海修復液を使わなくても深海棲艦を生み出せると聞いていたんだが…」


提督「そうなのか?…ふむ、ちょっとやってみか」


提督「とは言ってもどうやってやるのかわからないんだが…」


港湾棲姫「聞いた話だと、提督だけがもつ不思議な力を轟沈した艦娘や艦娘の装備に与えると深海棲艦になると聞いている」


港湾棲姫「先に言っておくが、私は提督ではないからな。その不思議な力とやらについては全くわからないぞ」


提督「あ、あぉ、そうか。まぁそりゃそうだよな。自分でなんとなするか」


 装備を深海棲艦にする…どういうことだろうか。不思議な力を与えるってことは触ってるだけでいいのか?でもなんの変化もないしな。


 こういう時はイメージだ。力を与えるイメージ…異世界もののアニメで魔力を感じるのと同じイメージで…集中…。


 体に魔力みたいなエネルギーがあると考えて、それを手を伝って装備へ流し込む…。


イ級「ん、黒いオーラ、見える」


提督「え!?」


 目を開けて装備を見てみると、確かに黒いオーラに包まれている。イメージの力ってすごい。ほんとにできちゃったよ。


駆逐棲姫「でもなんにも起こらないよ?」


提督「うーん…まだ何か足りないのか?」


港湾棲姫「陸上で深海棲艦が生まれるわけがないだろ。水に浸けるんだ」ハァ


提督「知らないよそんなこと、とにかく水に入れればいいんだな?」ジャポン


 黒いオーラを纏った単装砲を水の中に沈める。


提督「うわっ、き、消えた?」


 水に浸けた途端、泡のように水に溶けるようにスッと単装砲が消えてしまった。


 そして、ぶくぶくと水中から泡が出てきて、イ級のような巨大な魚型の艤装が浮上してきた。


提督「本当に深海棲艦になった…」


<ガコン プシュー


 魚型の艤装のハッチが開き、中から誰かが出てくる。


???「ふぅ…んー」キョロキョロ


 出てきたのはイ級と同じような背丈の少女。膝くらいまである長くて白い後ろ髪が特徴的だ。


提督「えっと、こんにちは?俺は提督、でこk」


???「!」ピョン


提督「うぇ!?ちょっ!うわっ!」ドスン


イ級駆逐棲姫「」ピクッ


ロ級「わたしロ級!見つけてくれてありがとう!パパ!」ギュー


イ級駆逐棲姫「!?」ピクッ


港湾棲姫「…たしかに父親とも呼べなくはないか」


提督「また厄介なのが増えた気が…」アタマオサエ


ーーー翌日


レ級「提督!わたしと演習しようぜ!この前みたいなすっごい一撃!避けれるかなぁ?当たったらどれくらい痛いかなぁ!?」


提督「んなこと言ったってな、あの時なんで撃てたのかわかんねぇんだ。あれ以来こっそり武装展開してみたりしているが、空腹感というか、満たされない感覚があるだけで、砲を撃つことができないんだ」


レ級「あ?提督は補給してないのか?」


提督「補給?」


レ級「砲を撃つには弾丸が必要だし、航行するには燃料が必要なんだ。それを体に取り込むことが補給だな」


提督「体に取り込む…あ!もしかしてあの時撃てた一発って、俺が試しに食った弾薬か!?」


提督「偶然とはいえ、あの一発がなかったら危なかったな…」


レ級「なぁなぁ!補給もわかったしわたしとやろうぜ!提督の戦闘訓練にもなるしさ!」


提督「まぁ、別に構わんが…」


提督「(戦闘の度にあれを食うのは嫌だな)」


提督「でもなんで燃料は補給してないのにあの時水に浮けたんだ?」


レ級「船浮かすのに燃料がいるか?」


提督「…言えてるな」


ーーー数日後


港湾棲姫「レ級が光ってる?」


提督「あぁ、俺の演習に付き合ってもらってたら突然な」


レ級「スーパーレ級さまってわけだ」ピカー


港湾棲姫「ふむ、練度が一定に達したことで改装できるようになったのだろう。何故か勝手に進化するものもいるが」


レ級「改装?もっと強くなれるのか!」


提督「で、具体的にどうするんだ?」


港湾棲姫「知らん。提督の力は提督しか知らないのよ」


提督「つか、港湾棲姫のその提督知識ってなんなんだ?なんでそんなに詳しいんだ?」


港湾棲姫「知り合いに、前の提督の秘書艦をやっていた者がいるんだ。そいつから色々話をされたのよ」


提督「!その人ってどこにいるんだ?!」


港湾棲姫「さぁな。どこかの島に泊地でも作ってるんじゃないか?」


提督「場所がわからないんじゃあなぁ…」


港湾棲姫「ひとつ、思い出したことがある。提督の力はどんなことにも使えるらしい。具体的なことは教えてもらえなかったが、何かの代用として使えるとは聞いたな」


提督「代用ねぇ。あぁ、ロ級を製造した時のは深海修復液の代用として使ったってことか」


港湾棲姫「たしかに、そう考えられるな」


提督「(弾薬と燃料にも変換できれば補給しなくて済むかも)」


提督「ならあの時と同じような感じで行けるかもしれんな…」スッ


 レ級に手をかざして、俺の体に流れる力をレ級に流し込む。


 その時、頭の中である光景が流れた。資材を使って改装を行う光景。相手は艦娘だ。俺が人間側の提督だった頃の記憶だろうか。


 今、俺のもつ提督の力が資材へと変わり、レ級を強化しているのだ。


 レ級の光がより一層強くなり、辺りを一瞬で光で包み込む。光が収まると、そこには金色の瞳と禍々しいオーラを纏ったレ級が立っていた。


提督「成功…したのか?」


レ級(flagship)「うぉおおお!!なんかわかんねーけど、スッゲー調子いいぞ!」


港湾棲姫「レ級のflagshipだと?未だ生まれたことがないのに」


提督「それってどれくらい凄いんだ?」


港湾棲姫「姫級じゃないのに同等の強さを持っている」


提督「は、お前すげーじゃん」


レ級「ふふん、どんな強力な艦娘もイチコロだぜ!」フンス


提督「頼もしいなぁ」


ネ級「提督ー!うわ、レ級何そのオーラ」


レ級「ふふん、かっこいいだろ」


ネ級「目立つし目に煩いから消せるなら消してもらえる?」


レ級「お前から消してやるぞ」ピキッ


提督「まぁ普段からそれだとちょっと邪魔かも」


レ級「提督まで!そんなに邪魔かなぁ…」ヘコミ


 尻尾が地面に垂れ下がってしまっている…。


提督「いや、ほら。敵と戦う時に、手加減してから「わたしの本気を見せてやる」みたいな感じで、真の力を解放するってのもカッコよくないか?」


レ級「………!」ピーン


 ありがちな展開を話したら尻尾が天を向いて左右にゆらゆら揺れている。まるで犬みたいだ。


レ級「いいな!いいなそれ!よし、そうする!さすが提督だ!」キラキラ


提督「それで、ネ級は何の用だ?」


ネ級「あぁそうそう。前に言ってた輸送ワ級ちゃんから塩貰ってきたのよ」


提督「おお!本当か!すごく助かるよ!」


 魚を獲れるようにはなったが、火を起こせても調味料がなく、味のない焼き魚を食べていて絶望していたのだ。


 そこで、輸送ワ級が海水から塩を個別に取り出せると聞いて、ワ級と会ったら貰えないかと言っていたのだ。


提督「これで魚に塩をかけて食える。欲を言えば醤油も欲しいところだが…」


 まぁおいおいなんとかするか。


ネ級「ねぇねぇ、私頑張ったんだし、ご褒美貰えてもいいんじゃないの?」


提督「ご褒美…って言われてもなぁ…この島なにもないじゃん」


ネ級「別に物じゃなくてもいいのよ?」


提督「んー…」


 褒美か…組織のトップが部下に与える褒美…地位とか?あとは力とかか。


提督「…」ポン


ネ級「ん…あら、なでなで?悪くないわね…///」ポ


提督「いや、お前に力を与えよう…」


 ネ級の頭に置いた手から提督の力を流し込む。


 今更だが、提督の力って長いしなんかぱっとしないから呼び方を変えよう。深海棲艦の提督の力なので深力にしよう。ちょっとダサいが提督の力よりはマシだろう。


ネ級「なんだか、力が溢れてくるような…変な感覚ね」


 すると、ネ級が光り輝き、また周囲を光で包む。


ネ級(改)「な、なに?びっくりしたのだけど…ていうかなんだか体が軽いような気もするわね…」


 光が収まったところに、片目を期している装飾が少し大きくなり、尻尾のような装飾が追加されたネ級が立っている。


提督「え、改装できたの?なんで?」


港湾棲姫「私は知らないぞ。提督が何かしたんじゃないか?」


提督「俺は深力を流し込んだだけなんたが…もしかしてそのせい?」


港湾棲姫「むしろそれしかないだろう。既に改装できる練度になっていたのだろうな。というか深力ってなんだ」


提督「提督の力ってなんか長いだろ。だから名前をつけた」


港湾棲姫「はぁ、名前をつけるのは勝手だが、あまり力を使いすぎるなよ。そういうものには必ず限界がある。限界を迎えた時に、どんな代償があるかは不明だ。ほどほどにしておけ」


提督「…わかった」


ーーー数日後


ツ級「…」ジー


提督「…あ、いた。おーいツ級!」


ツ級「ひゃい!!」ビクッ


提督「驚かせたか?すまない。ん、何やってたんだ?」


ツ級「えっと…その、アリさんを見てました…」


提督「蟻?」


 ツ級の足元を見ると、大きな虫の亡骸が蟻に群がられている。既に解体と運搬が始まっているようだ。


ツ級「アリさんってすごいですよね…個々がしっかり協力して、自分たちの何倍もある大きい虫を倒しちゃうんです。私なんて…集団行動は苦手だし…一人じゃ何も出来ないし、弱いし…なんで私が生まれたんでしょうか…どうせ軽巡ならト級さんやへ級さんが良かったのに…」ブツブツ


提督「(うーん…面倒臭い)」


提督「まぁお前がどれだけ自分を低く見ていようが、俺は高く評価するし、めちゃくちゃ頼らせて貰うから」


提督「とりあえず急いでついてきてくれ。お前の手を借りたい事態になってるんだ」


ツ級「え…な、なんですか」


ーーー海岸


 ベッドや机、椅子、棚、食器などよく家にあるようなものが海岸に置かれてる。


集積地棲姫「拾っても使い方がわからないから資材にするんけど、残っててよかったな」


提督「水に濡れた機械は大体使えないからいらないぞ。そもそも機械を動かす電源もないからな、この島には」


 発電も、おそらく太陽光しかできないだろう。深力を電気に代用もできそうだが。


集積地棲姫「持ってきたんだし、約束通りここを拠点にしていいんだよな」


提督「もちろんだ。こちらとしても資材が溜まるから助かるからな」


提督「しかし、ワ級は資材とかだけじゃなくてこういう大きいものも運べるのか。どういう仕組みなんだ…?」


ワ級「仕組みはウチにもわからんけど、船で運べるもんやったらなぁんでも運べるんやでぇ」


ワ級「中身入っとる貨物コンテナ運んだって先輩もおるんやでぇ」


提督「船に乗るものならなんでもって…その球体は四次元ポケットかなんかか?」


ワ級「ふふ〜ん、ウチ凄いやろ〜?まぁその分戦えへんけどなぁ」


ツ級「えっと…なんですか?これ…というか私、なんで呼ばれたの…?」


提督「襲った町から集めてきた家具だ。火事場泥棒ってやつだな」


ワ級「失礼な言い方やなぁ」


提督「まぁそんで、ベッドとか机とか大きいものは一人じゃ運べないから、ツ級の腕を借りようと思ってな」


ツ級「あ、あぁ、これですか」ガシャン


 ツ級が艤装を展開すると、両手に巨大な腕の艤装が顕現する。


提督「そうそう、手伝ってくれるか?」


ツ級「まぁ…お役に立てるなら…」ガシッ


 ツ級は巨大な腕で机を掴み軽々と持ち上げる。


ツ級「(あ、でもどうしよう…力みすぎたら壊れますよね…あ、でも力緩めたら落ちるかも…壊れるくらいなら落とす方が幾分かはマシだけど…で、でもこれって提督が使うものだよね、そんな大切なものを落とすなんてことして傷でも付いたら…)」


ツ級「(ど、どどどうしよう!緊張で力が入っちゃう…!でも弱くしたら抜きすぎて落ちる…!でもこのままじゃ握り潰しちゃう…!ど、どうしたら、いったん置いて落ち着かないと!あぁ、て提督に心配をかけさせるわけには)」プルプル


提督「お、おい大丈夫か!?重いなら一緒に持つから、無理しなくても大丈夫だそ?」


ツ級「(違うんです違うんです!重いというよりむしろ軽すぎるんです!あぁ、なんだか机がミシミシ言ってるような気がする…幻聴だと思いたいけど、本当になってそうだから怖い!もう無理!帰りたい!引き篭もりたい!)」ナミダメ


提督「よしツ級、いったん机置こう。ずっと持ってるのも辛いだろ?まずは置いて仕切り直そう。俺も持つから、大丈夫だ」


ツ級「だだ大丈夫です!運べます!運ばせてください!提督のお手は煩わせません!」


提督「いや、そもそも俺が運ばないといけない物だし、それをわざわざ運んでもらってるんだからさ、俺も手伝うから!?」


集積地棲姫「あいつらは何をやってるんだ。遊んでないでさっさと運んで欲しいんだけど」


 しばらくして落ち着きを取り戻したツ級に、家具類を開いている洞窟に移動してもらった。


 家具を運び終えたツ級はどこかへ行ってしまった。


ーーー執務室


提督「ふむ、実際の執務室がどんなものかは知らないが、それっぽくはなってるのかな?」


 部屋の中央付近に机と椅子、壁沿いに棚、部屋の端にベッドがあり寝室も兼ねていることがわかる。


ロ級「ベッドふかふか〜!」ゴロン


イ級「それ、司令官の。ロ級が先に使っちゃダメ」


提督「別に独り占めする訳じゃないし、俺がいない時なら勝手に使ってくれて構わないよ」


ロ級「パパもこう言ってるし、別にいいでしょ?」


イ級「…」ムスッ


駆逐棲姫「わぁ、ほんとに部屋ができてる!」


 気まずい空気となった執務室にヲ級におぶられた駆逐棲姫が入ってきた。


ヲ級「ソファもふかふか。ヲ級今日からここで寝る」


提督「そこらへん自由だし、ソファでいいなら貸すぞ」


ロ級「じゃあわたしパパと一緒に寝たーい!」


イ級「!?」ビクッ


駆逐棲姫「ちょっ!?」カァァ


提督「流石にそれはダメだ」


ヲ級「司令官って大変なんだね」ソファニネソベリ


提督「それと駆逐棲姫」


駆逐棲姫「は、はい!」


提督「これ、お前の車椅子。陸じゃ誰かに運んでもらわないといけないのは不便だろってことで、探してきてもらった」


駆逐棲姫「と、盗品なのは気が引けるけど…嬉しい、ありがとう!司令」


提督「盗品なのは気にしたら負けだけど、喜んでもらえてよかったよ」


提督「他にも何か欲しいものがあれば、遠慮なく言ってくれ」


駆逐棲姫「…何でも…い、いつかお願いするね!」


提督「おう」


ワ級「あ、じゃあウチ燃料欲しいわぁ。大荷物運んで結構消費してもうたでな、もうお腹ぺこぺこやぁ〜」


提督「あぁ、いいぞ」


ロ級「はいはーい!わたし妹が欲しい!」ピョンピョン


提督「無理に決まってんだろ」


ロ級「何で?パパがまた装備からつくればいいでしょ?」


提督「そういやそうだったな」


ロ級「材料ならわたしがとってくるから、ねーいいでしょ?」


提督「戦力が増えるのは良いことかもしれんが、まだそこまで必要じゃないし、またいつかな」


ロ級「はーい…」ガッカリ


ーーーーー


 俺がこの島にきて、ついに1ヶ月だ。そろそろ覚悟を決めなくてはならない。


提督「俺は深海棲艦の正式な提督として、お前たちの命を預かりたいと思っているんだが、どうだろうか」


港湾棲姫「私に異論はない。もとよりそのつもりで生かしていたのに、提督にならなければまた殺していた」


提督「」


イ級「司令官が決めたことなら、それに従う」


リ級「私も同じ気持ちです」


ヲ級「ヲ級もー」


タ級「異論はない。ネ級もそうだろう?」


ネ級「まぁね、その方が楽しそうだもの」


ツ級「わ、私は別に、なんでも構いませんよ…提督の意向に何か言えるような立場じゃないので…」


集積地棲姫「まぁいいんじゃないの?わたしは居つく場所があればそれでいいからさ」


駆逐棲姫「わたしは…司令塔一緒にいられるなら…それで…///」


提督「みんな…ありがとう」


ロ級「パパ!わたしまだ何も言ってないよ!」


提督「お前は言わなくてもわかるから」


ロ級「えへへ〜パパに信頼されてる…パパ大好き!」ギュウ


提督「はいはい今大事な話してるからあとでね」ヒキハガシ


港湾棲姫「ならこのことは他の深海棲艦にも通達すべきだな。無線で周知させておく」


提督「助かる。そしてもうひとつ大事な話がある。俺が提督になるにあたっての秘書艦の話だ」


全員「‼︎」


リ級「そっか、そうだよね」


イ級「」ジロッ


駆逐棲姫「」ジッ


ロ級「ふーん」ジロリ


ツ級「(駆逐艦怖い…!どこかに引き篭もりたい…)」ブルブル


ル級「あら、面白そうな話をしているわね。私も混ぜてくれる?」ニヤリ


提督「ん、久しぶり。今来たのか?」


ル級「ええ、港湾棲姫の通信を聞いて、たまたま近くに居たから、来ちゃった♪」ウインク


提督「何もないがゆっくりしていけ。んで秘書艦なんだがしばらくは港湾棲姫に頼みたい。先代のことを知っていたし、提督とは何をすればいいのかを教えてくれ」


港湾棲姫「…ふむ、良かろう。だがそれだとそいつらが黙っていないだろう?しばらくは私が勤めて、その後は貴様ら交代でやればよい」


提督「妥当だな。それじゃみんなもそういう方針で頼む」


駆逐艦s「はい…」


ル級「秘書艦になったらこの島にいなきゃいけないし、今はあちこちぶらぶらしたいからこれでいいわ」


提督「ん、ならちょっと頼みがある」


ル級「何かしら?」


提督「この島の周り、あと他の島や海域にどんな深海棲艦がいるのかをたまに教えて欲しい。地図を作ってすぐに見れるようにする」


ル級「それくらいなら構わないわよ」


提督「ありがとう。集積地棲姫、それと…『ワ級、今いいか?』」


ワ級『おー提督はん、ええよーどないしたん』


提督「『集積地棲姫とワ級には、資材を得られる場所を教えて欲しい。ワ級は輸送ルートと輸送先もだ』」


ワ級『わかったでー、ほな今度そっち行った時に教えたるわぁ』


集積地棲姫「私もいいけど、どうするの?」


提督「遠征先として利用する。資源だって無限ではないし、この先深海棲艦が増えれば消費量も増えてくる。早めに貯蓄を増やしておくべきだろう」


集積地棲姫「資源は私がいれば勝手に増えるのに…」


提督「追いつかなくなるかもしれないだろ?戦いに勝つためには慎重に、油断なく、最低限の被害で終わらせるのが肝だ」


 と、誰かが言っていたような気がする…また昔の記憶か。


集積地棲姫「ふーん、一理あるな」


港湾棲姫「…」


 なにやら港湾棲姫が訝しげな顔をしている…。


提督「どうした?」


港湾棲姫「…たいしたことではない」


提督「そうか…?」


港湾棲姫「しかし…艦隊らしくなってきたな」


提督「らしくじゃない、俺たちは既に艦隊だよ。さて、これより此処を鎮守府とし、深海棲艦の艦隊運営を開始する!」


後書き

序盤で出したい子はだせたかなと。
まだまだ出したいキャラがいるので頑張らないと…


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2023-10-20 23:36:13

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2023-10-20 23:36:14

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