単発 提督試験落ちた
単発小説です。続きません。
なにが素質があれば誰でも入隊!だこの詐欺集団め。
昔から何をやっても上手くいかず、学校の成績も低くて高校にすらいけなくて、バイトも続かず、そんなだから就職もできずに、親に甘えてだらだらと過ごしていた俺が、ようやく人とは違う特別な力を持ってまともな人間になれると思っていたのに。
「えーっと…妖精は見えるんですよね。中卒で無職、アルバイトはいろいろな経験をしていますが、長くて1ヶ月でやめていると…長所がネットサーフィンと、タイピングが早い…これに、嘘は一切含まれていないのですか?」
「ぁ、はい」
「…そうですか」
帰ったらその日のうちに不合格通知が届いたよ。クソが。
ムカついたからネットにこのことを書き込んだら…
「無能すぎて草」
「これネタだろ?」
「釣り針がデカすぎるw」
「ブラック企業でも雇わんぞこなやつ」
「つか提督試験って落ちるものなのか…」
とボロクソに叩かれる。
これといった努力をしてこなかっただけで真っ当に生きてきたはずなのに、なんでこんな思いしをいなきゃいけないんだ。
提督試験は親に内緒で受けて、合格したことをサプライズで教えるつもりだったから落ちたことを親に知られていないことだけは良かった。
何も良くはないんだがな!?
クソ!あいつら履歴書だけで判断しやがって、提督やってみたら案外当てはまったかも知れないだろ。
やらせる前から無理と決めつけて諦めるなんて、くそっ!やっぱ軍なんて今も昔もクソだクソ!
つか、艦娘なんて得体の知れない連中を何人も従えるとか危険すぎるわ。成人男性より強い女とか怖すぎて無理。やっぱ提督なんてやらんくてよかったわぁ。
溜めてたアニメでも消化するか。
「日は深海棲艦から私たち国民を守ってくれるヒーロー。艦娘と、その艦娘をまとめ上げ指揮している現提督の〇〇さんに来ていただきました!」
「ヒーローだなんて、私たちはただ自分たちの役目を果たしているだけです」
「ご謙遜なさらず、深海棲艦の襲撃があった際に艦娘に命を救われたという声がたくさんあります。艦娘はまさに救世主です」
くそ、寄りにもよって今に艦娘の話かよ。タイミングバッチリだなまったく。
「提督のお仕事はどんなことをなさるんですか?番組が集めた民間人のイメージでは、艦娘をまとめあげ最前線で勇敢に戦っている、というように言われていますが」
んなわけあるか。それな本当なら今頃大体の提督がおっ死んでるわ。妄想が激しいぞ。
「そんなかっこよくないですよ。基本業務はデスクワークですし、海になんて一歩も出ません。日々の任務をこなし、少しずつ艦隊を強化していき、一個ずつ海域を取り戻していく。地道な仕事です。しかもそれのほとんどは私ではなく彼女たちがしていることなので、提督なんてただの肩書きでしかないんですよ」
ほらな。結局は提督なんて女性を戦場に出して自分は安全な場所で待機してるだけのクソみたいな仕事だ。よかったよかった、俺がそんな不名誉な肩書きをつけられなくて。
「なるほど、では提督という仕事はそれほど苦ではないのですね」
「そういうわけでもありません。私たちは彼女たちを指揮する立場であり、いわば命運を握っているのです。自分のしたミスが彼女たちをひとり、またひとりと海へ沈めてしまう。大勢の命を預かる身としては、戦闘のたびに寿命が縮む思いですよ。無線から得られる情報のみで、的確な指示を出し勝利へと導く。提督とはそういう仕事です」
「責任重大ですね。提督の離職率が高いのもそれが原因でしょうか」
「そうですね。思い入れのある艦娘を失い、退職していった後輩を多く知っています。中には責任感から自決した者、プレッシャーに耐えきれず戦場を離れた者、精神を病んでしまった者もいます。提督を続けるにはそれな入りの覚悟が必要とされるでしょう」
マジかよ、そんなにやばい仕事だったのか提督って…いやいや、テレビだから大袈裟に言ってるだけだと思うが、そんな重大な仕事をあんな簡単に人材募集するかよ。どういう神経してんだ海軍は。
「そ、そうなんですね…」
ほら、インタビュアーのお姉さん顔引き攣ってんじゃん。海軍の実情暴露して大丈夫なのかよ。
「えっと、そんな重大な役を持つ提督には、どういった能力が必要になりますか?」
「はい。まず絶対に必要なのは強靭な精神力です。提督は多くの艦娘の命を預かる仕事です。仲間を何人失っても折れない心が必要とされます。次に指揮能力。これは即座に状況を把握して的確な指示を艦娘に与える能力です。指揮能力は艦隊指揮に必要な能力の統合みたいなものなので、単に戦闘で良い指示を飛ばせるだけでは十分とは言えません」
ふーん。今更どうでもいいが、俺には無理だなそんなもん。やっぱ提督なんて
「ところで、艦娘は美女美少女ばかりだと聞きますが、そんな場所で男性一人というのはどうですか?」
は?
「お恥ずかしながら、上司と部下という立場なので私から手を出すようなことはしませんが、艦娘は惚れっぽいのか、逆に自分の身を守ることの方が多いですね」
はぁ?ふざけんなよこいつ、綺麗で可愛い女の子に囲まれて、手を出さないでいたら向こうから寄ってくるだ?
ざっけんなよクソが!
やっぱ提督になりたかった…俺もそんな楽園で働きたかったよ。
「それと、先ほど男性一人と仰っていましたが、それは違います。憲兵隊の方々も鎮守府に在中しているので、艦娘に手を出したら捕まってしまうのです」
あっそ、やっぱ提督やらなくてよかったかも、俺なら今頃豚箱だったな。
「そうなんですね…では、そちらの艦娘の方は…?」
「しっかり見ているんですね。そうです。私たちは結婚、いえ、ケッコンカッコカリをしています。人間の結婚とは違い、ケッコンカッコカリは艦娘の強さのリミッターを解除する儀式のようなものです。なのでカッコカリというわけですね。ケッコンとついているのは、解除する道具が指輪だからです。それに、ロマンチックでしょう?」
はぁーこんな美人と結婚とから羨ましいなぁ提督は。
「もともとは、艦娘が強くなりすぎることを阻止するための制限らしいのですが、提督と艦娘の確かな信頼があるからこそ、その制限を解除できるのでしょう」
「それはつまり、艦娘が人類を裏切る可能性が?」
なんだよそれ、話が違うじゃねーか。海軍様は嘘ばっかだな。こんなに暴露していいのか?これは海軍にとって都合の悪い情報ばかりだろ。
「ないとは言い切れませんが、よっぽどのことがない限りそのようなことはないでしょう」
ないとは言い切れないとか、なんだよ最悪味方に殺されるってのか?提督ってのは。
「よっぽどのことですか…では最後に、俗に言うブラック鎮守府という(プツッ
もういい、これ以上は自分が惨めになる。提督になる器なんて俺にはなかったんだ。
「…これからどうすっかな」
ーーーーー
海だ。今じゃ近づくことすら危険とされている浜辺に俺はいる。
危険とされているが、少なくともここだけは安全だと俺は確信している。
この浜辺は、近くを多くの艦娘が通っていくのだ。きっと各鎮守府で艦娘の航行路として指定されているのだろう。
気分転換したいときや、考え事をしたい時、いつもここに来た。ここには俺くらいしか来ないから静かで良い。
何より艦娘が見れる。
「あーあーくっそ、提督になればあいつらをこんな遠くから眺めるだけじゃなくて、もっと近くで見れたんだろうなぁ」
静かな浜辺に波の音だけが響く。ここは艦娘が頻繁に達から特に波が強い。
何も考えたくなくなるな。
砂浜に座って海を眺めていると、ふと手に何かが当たる感覚がした。
「うわっびっくりした。なんだお前」
手を見ると小さい人型の謎生物。妖精がいた。
必死に何かを訴えているみたいだが、声が聞こえないのでわからない。
「なんだどうした、もうちょいわかりやすく伝えてくれ」
俺が妖精に話しかけると、俺が見える人間ということに驚いたのか、一瞬ぴくりと動きを止めるが、すぐに我を取り戻して何もないところを指さして袖を引っ張ってくる。
「なんなんだ、来いってことか?」
されるがままについていくと、そこには倒れている少女がいた。
…は?
「いやいや!ちょっと待て、なんだこれ。ボロボロじゃねーか、制服…ってことはまだ学生か!おい、大丈夫か!何があった…これ、お前艦娘か!」
肩を揺らして意識を確認しようとしたら腰に何かがついていると感じて、体を持ち上げるとそこには艦娘である証拠とも言える艤装が付いていた。
まさか戦闘で負傷して流れてきたのか?
「傷も深い、とにかくここじゃいずれ死ぬ、病院に…」
いや、艦娘は人間じゃない。人間の治療でどうにかなるのか?
「妖精、艦娘に人間の治療は効果あるのか?」
そう尋ねると、少し悩んだ動作の後に、OKの手の親指と人差し指を少し離したジェスチャーをする。
「少しってことか。最寄りの鎮守府に…」
「いやっ、鎮守府は…いや!…お願い、します…たすけ、て」
目を覚ましたのか、突然声を上げる艦娘の少女に驚いたが、その声を聞いてやけに冷静になれた。
怯えている声。鎮守府には帰りたくないってことは、鎮守府で何かあったのだろう。だが怯え方が普通じゃない。体を震わせ歯をカチカチと鳴らし、視線が定まらない。まるで虐待された子供のようだ。
「チッ、何が何だかわかんねぇが、とにかく鎮守府はダメなんだな。おい妖精、スマホの扱い方わかるか?わかるならこれ使って文字を書け。ジェスチャーじゃわかりにくい」
妖精は腕で大きな丸を作ってスマホの上に乗る。するとメモアプリに文が書かれていく。
鎮守府で虐待されてた、提督が悪い奴、この子を救ってほしい。なるほどな。
提督試験落ちたのに、まさか艦娘を助けることになるなんてな。
「詳しい話は後で聞く。まずはどうすりゃいい。悪いが俺は今日提督試験落ちたばっかなんで、お前が指示を出してくれ」
妖精はビシッと綺麗な敬礼をしてスマホで文字を打ち始める。
提督にはなれなかったが、どうやら俺にしかできないことがあったらしい。
今まで努力をサボった分、今から死ぬ気で努力してやる。
お望み通り助けてやるよ。艦娘は大好きだからな。
いつか、こいつらにとっての最高の提督になってやる。
※続かない
この話自体は続きませんし、この後どうなったのかも書きません。
ですが、終わったわけではありません。むしろ始まりでしょう。
では、いつかの果てで会いましょう。
うーん不完全燃焼。