傘を忘れたフリをした。幼馴染が、穂乃果ちゃんが風邪をひいたのをいいことに。

「海未ちゃぁん、ことり、傘忘れちゃった」

「珍しいですね、天気予報でも午後は雨だと昨日から…」

「折り畳み入れたと思ってたんだけど…あ、私持つよ」

傘を忘れたフリをした。あなたと帰りたかったから。

「帰りに穂乃果のお見舞いに行こうと思ってたのですが」

「ならお菓子とか買っていく？」

「そうですね、どうせ洋菓子なら食べるでしょうし」

傘を忘れたフリをした。こっちを見て欲しかったから。

「駅近くのあの店でいいんじゃない？」

「そうですね…そんなに遠くないとはいえこの天気ですし、ちょっと急ぎましょうか」

傘を持つのはこの私。歩くペースを握れるから。

「プリンとか喜ぶかなぁ」

「そうですね、風邪ですしそういうものの方がいいかもしれません」

傘を持つのはこの私。あなたを誘惑出来るから。

「…ことり、左側が濡れてます」

「あっ…本当、だ」

「私に気を使わなくても……っ、」

「…海未ちゃん？」

傘を忘れたフリをした。ことりを見て欲しかったから。

「…ことり、その…透けてます。半分」

「あ、わ、本当だっ」

「…なんで下に着てないんですかっ、下着が…」

「あはは、体育の後暑くて…お菓子、買いに行けなくなちゃったね」

「仕方ありません、傘は私が持ちますからことりは前を…」

傘を忘れたフリをした。穂乃果ちゃんを、裏切るために。

「ねぇ海未ちゃん」

「なんです？」

「もっと、見たい？」

「………え…？」

「ことりのこと、見たい？」

「あの、ことり……？」

傘を忘れたフリをした。海未ちゃんに気づいて欲しくて。

「今日ね、お母さん出張で家を空けるの」

「あの」

「家まで送ってほしいなぁ」

ボタンをひとつ外した。わざと濡らした制服を貼り付ける。あぁ、見てる見てる。

「海未ちゃん、まだ気づかない？」

「な、なにが、ですか」

「ことり、傘もってるよ。傘持ったのも濡れたのも、わざとだよ」

「なん、で……」

「私の気持ちも、気づかない？」

知ってるよ。穂乃果ちゃんのこと好きだって。でも私は海未ちゃんが好き。2人はまだ何も進んでないんだから問題ないよね。ごめんね穂乃果ちゃん。

海未ちゃんの手をとって、胸に当てる。濡れた制服にじんわりと熱が伝わる。ちょっと強めに押し付ければ、私の鼓動も伝わるはず。

「まってくださいっ、ことり、私っ」

「ことりのこと、きらい？」

「……そんなわけないじゃないですかただ心の準備が」

「なら、送ってよ。…ここでボタン、全部外しちゃうかも」

「………っ、ボタン閉めてください。傘は、私が持ちますから」

「わかった……ねぇ海未ちゃん」

その顔。女の子の顔。ごめんね穂乃果ちゃん。たぶん私、いけちゃう。

「…胸、離してくれない…？」

私、家まで我慢できるかな。自信ないや。

9/1 #ラブライブ版深夜の真剣ss書き60分一本勝負 「揺れる心」