2015-10-04 22:47:02 更新

概要

海未ちゃんがデリヘル呼んだらえりちがきた話、続編です。

今回もTwitterのタグお借りしました。
#キスの格言ミューズ 首:欲望


女性の相手なんて初めてだったから、正直焦っていた。すぐ近くのホテル、声から察するに私と年は近いかも。情報はそれだけ。別に同性愛に偏見もなにもないけれど、ただどうしたらいいのかわからなかった。

着いてみれば私とは真逆の、風俗なんて一生使いそうもない人だった。真面目そうな顔で、スーツはシワにならないようきちっとハンガーにかけてあったし、キャリーバッグの上に置いてある着替えは几帳面に畳まれていた。仕事ができて格好良い、私の憧れの女性像のような人だったけれど、机に転がった安酒のカップが彼女に似合わなくてなんだか可笑しかった。


ただ一緒に寝てほしい、それが彼女の望みだった。決して安くない、むしろ割高な料金を払ってまで馬鹿馬鹿しいと思うものの、こういうお客さんもたまにいる。いつもなら大変ですね、お疲れ様です。これで終わり。

でも彼女相手にそんな事できなかった。仕事ができて格好良い、私の憧れの女性像のような人が、初めて会った私にこんな情けなくて弱い一面をみせたことに興奮すらしていた。泣いてぐしゃぐしゃになってなお美しくて、格好良くてそれでいて可愛らしくて。私にそういう趣味はなかったけれど、彼女と、園田さんともっと一緒に居たいと思った。

本心からの「また呼んでね」だった。意味がわかるかどうかわからなかったけれど、彼女の瞼にキスして帰った。もしも、「瞼の上 キス 意味」って検索していたらと思うと、笑いを堪えられなかった。


その後も何度かあのホテルの315号室から指名が入った。いつ行ってもスーツはきちんとハンガーに掛かっていて、着替えは几帳面に畳まれていて、彼女は格好良くて綺麗で可愛らしかった。いつしかお酒の容器は無くなっていた。

頭を撫でたり身体をマッサージしたり、時には冗談交じりに胸を触る事もあった。もっと彼女の事が知りたくて、時間の許す限り話し続けた。



ある日、園田さんがいつもと違う住所から指名を入れた。結構な家賃であろうマンション。広いエントランスのポストで部屋番を確認し、インターホンに打ち込む。

「はい」

「ご指名ありがと、えりよ」

「あ、わざわざ遠いのにすみません」

鍵の開く音が響く。高級そうに見えて動きの遅いエレベーターの中で、こんな仕事の私にも律儀に対応する園田さんがおかしくって笑う。

仕事だし、期待はしてはいけないけれど。あなたの中の私って、わざわざ交通費上乗せしてまで呼ぶってことは。変にドキドキする。恋って、こんな感じじゃなかったっけ。


「あの、えりさん」

「ん?」

「その…そんな面白い部屋じゃ無くてすみません…」

「…そんなことない、素敵だと思うわ」

いつだったか、「触っても楽しくない身体ですみません」と言われたのを思い出した。あなたは私の憧れ、綺麗でクールで知的で、素敵なところを書き出せばコピー用紙が埋まるほど。

それでも、どんなに愛おしくても、頭のどこかで仕事という枷が私の思いを鈍らせた。


「えりさん…?」

「……あ、ごめんごめん」

いけない。今こんなこと考えて、目の前の彼女を悲しませたりするわけには。おしごと、しなくちゃ。


きしっ、と小ぶりなソファが音を立てる。彼女の綺麗な髪が私の視界を覆う。クッションもろとも、ソファに沈められる。

「…っ⁉︎」

「私だけ、今夜だけでいいから…私だけ見て下さい」

「そのだ、さん」

「海未です」

「え?」

「今だけでいいんです、海未って呼んで下さい」

…やっと聞けた、あなたの名前。素敵ね、園田海未って。綺麗ね。懇願するその顔が、声が可愛くて仕方なくて、意地悪したくなった。真剣な眼差しを見つめ返しながら。


「海未」

「っ、」

「キスして、いつも私がするみたいに」

ごめんね、恥ずかしいよね、まだ無理だよねなんて。この後どうしたものかなんて考えていたら。

息ひとつ乱さず、無音で私の首筋にキスした。私そんなのしたことないよ、誰に教わったの。そこにキスする事にどんな意味があるか、知ってるの。

目を逸らしたくても、視界にあるのは黒髪とあなたの顔だけ。これ以上何か言われたら我慢できる自信がなかった。私の身体、汚れてるよ。私、あなたに釣り合うほど素敵じゃない、下品だよ。

それでも、いいの?


#キスの格言ミューズ 首:欲望


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