2017-05-15 11:00:02 更新

概要

八幡と雪乃のお話。


前書き

2015/12/23 無事完結しました。
2017/05/15 こっそり指摘箇所を直しました。


こうして雪ノ下雪乃は一歩踏み出す。


男「ほんと可愛いね~君。モデルか何かやってる?」


雪乃「………」


男「ねぇねぇ無視~? 照れちゃってたり??」


雪乃「はあ……。お生憎様、あなたのような下衆な輩と交わす言葉は持ち合わせていないの」


男「んだと……?」


雪乃「こうした輩はちょっと何か言われただけですぐ口調や態度を変えるわね。実に滑稽だわ」


男「このアマ……!」グイッ


雪乃「………っ!?」ビクッ


男「おいおい、強がってたわりにはビビッてんじゃねぇか」ニタァ


雪乃「………っ」


八幡「あのー」


男「あぁ?」


雪乃「ひ、比企谷く」


八幡「うちの連れと何やってるんですかね」


男「は? もしかしてお前、彼氏かなんか?」


八幡「ええ、まあ。こいつは返してもらいますね。行くぞ雪ノ下」グイッ


雪乃「あっ……」


男「おい! ちょっと待てや」


八幡「じゃあ、一応警察には電話しといたんで警察来るまで待ちますか?」


男「ハッ、そんなハッタリ」


八幡「……そう思うなら、待ちましょうか」


男「……チッ」




八幡「ふう、一発くらい殴られると思ったけどおとなしく去ってくれたな」


雪乃「比企谷くん……どうしてここに」


八幡「ちょっとラノベの新刊が出て本屋にな。お前の方こそ何してんだよ」


雪乃「私も書店で本を買いに行っていただけよ」


八幡「ああそう」


雪乃「……それと、別に助けてくれなくても平気だったわ」


八幡「アホ。内心怖いくせにナンパ相手煽る奴がどこにいるんだよ」


雪乃「別に煽ったりしていないわ。事実を述べただけよ」


八幡「あーはいはいわかったわかった」


雪乃「………」ムッ


八幡「まあ、なに。お前ルックスは良いんだからああいうの気をつけろよな」


雪乃「その『は』に棘があるにように感じるのは気のせいかしら?」


八幡「気のせいだ」


雪乃「そういうことにしておくわ」クスッ


八幡「……おう」


雪乃「あと、その。ありがとう、比企谷くん」


八幡「お、おう」フイッ


雪乃「じ、じゃあ私はこれで」


八幡「ああ、二度は無いと思うが気をつけて帰れよ」


雪乃「ええ。また明日学校で」




~雪ノ下宅~

雪乃(比企谷くんに知らない男から助けてもらってしまったわ……)


雪乃(私の中ではあんな時、彼は他人のふりをして素通りするとばかり思っていたけれど)


雪乃(私を、守ってくれた)カアア


雪乃(それにあの時私を彼女だと)カアア


雪乃(ね、熱でもあるのかしら。なんだか……さっきから顔が熱いわ)


雪乃(明日いつも通りに振る舞えるかしら……)


雪乃(こういう時は子猫の動画でも見て……)


ようつべ『ニャーンニャニャーン』


雪乃「にゃーんにゃにゃーん」ニヤニヤ




~部室~

八幡「うす」ガラガラ


雪乃「こんにちは」フイッ


八幡「? あ、今日は由比ヶ浜、三浦と約束できて来れないんだとよ」


雪乃「そ、そう」


八幡「おう」


雪乃「………」


八幡「………」ペラッ


雪乃「ひきゅg……んんっ、比企谷くん。昨日のことなのだけれど」


八幡「ん。ああ、別に誰かに言ったりしねぇから安心しろ」


雪乃「そんなことは気にしていないわ。というよりもあなた言いふらす人いないじゃない」


八幡「ふっ、まあな」フフン


雪乃「なぜ得意気なのかしら……。そうではなくて、その、これを……」スッ


八幡「これは……マッ缶?」


雪乃「昨日のお礼としてその……。勿論、後日ちゃんとした物を」


八幡「いや、礼とか別にいらねぇよ。それに昨日の事はたまたま俺だっただけで誰でも――」


雪乃「そんなことないわ!」


八幡「っ!」


雪乃「ご、ごめんなさい。突然大きな声なんて出して……」


八幡「……いや」


雪乃「でもあの時助けてくれたのは誰でもないあなたよ、比企谷くん」


雪乃「周りが騒然としてる中、あなたが真っ先に助けに来てくれた」


雪乃「あなたにとっては何てことのない、小さなことだったかもしれないけれど」


雪乃「私は、私にとっては、本当に嬉しくて……。あ、あなたのこと」


八幡「………」


雪乃「」ハッ


雪乃「ゆ、ゆゆ油断したわ。あなたはいつも死んだ魚のような目でただ闇雲に二酸化炭素を放出するだけの虫以下の歩く環境破壊だとばかり思っていたのだけれど昨日のように人間らしいことをすることに少し驚いてしまっただけで実際はあなたに多大なる感謝をしているわけではないわ。断じてよ。

ただ昨日はあの男からどうやって立ち去ろうか考えていたところにあなたがたまたま勝手に、そう勝手に割り込んできただけであって心から感謝する意味なんて全くこれっぽっちもないわよね」


八幡「お、おお……。よく噛まないな」


雪乃「とにかく。それくらいは受け取ってちょうだい……」


八幡「……わかった。んじゃ、ありがたく貰っとくわ」


雪乃「せ、精々大事になさい」ニコッ


八幡「え、飲んでもいいんだよね?」




雪乃「ところで比企谷くん、土曜日って暇かしら」


八幡「あ? 土曜日? 何かあるのか」


雪乃「ええ、その、ちょっと付き合って欲しいのだけれど」


八幡「買い物か? 由比ヶ浜とじゃだめなのか?」


雪乃「今日は金曜日よ。前日にいきなりお誘いをするのは失礼だわ」


八幡「俺ならいいのかよ……」


雪乃「それで土曜日は暇なのかしら」


八幡「スルーすんな……。あー、土曜はちょっとアレだから無理だな」


雪乃「嘘ね」


八幡「いやマジだから」


雪乃「なら、そのアレとやらについて説明してもらえるかしら?」


八幡「えっ……。あ、アレはアレだ。土曜は休みだからゆっくり心と身体を休ませないといけないわけで」


雪乃「あなたなんて年中休んでいるようなものじゃない」


雪乃「それと、見え透いた嘘を付く時は必ずはじめに『あー』とマヌケな声が出てるわよ?」


八幡「変なとこ観察しないでくれませんかねぇ」


雪乃「観察なんてしていないわ。気持ち悪いから自然と目立ってしまっているだけよ自意識過剰谷くん」


八幡「ああそうかい……」


雪乃「では明日、11時に駅近くの書店前でいいかしら」


八幡「待て待て、どうやったら『では』で話繋がるんだよ。別に買い物くらい一人でいけるだろ」


雪乃「一人ではどうしようもないことだからこうやって頭を下げてるんじゃない」ヤレヤレ


八幡「俺が部室来てまだ一度も頭下げてるとこ見てないんだけど? むしろ踏ん反り返ってるんだけど?」


雪乃「……別にあなたが私といるのが嫌だと言うのなら、おとなしく諦めるわ……」


八幡(その言い方はずるくないですかね)


八幡「いや、そういうんじゃなくてだな……。土曜はやっぱりアレだから……」


雪乃「わかったわ……。あなたがそこまで予定があると言うのなら信じるわ」


八幡「おう。悪いな」


雪乃「別に平気よ。ごめんなさい、少し席を外すわ」ガラガラ


八幡(トイレか?)




~数分後~

雪乃「……」ガラガラ


八幡「おかえりさん」


雪乃「比企谷くん」


八幡「あん?」


雪乃「あなた、やっぱり明日は暇なようね」


八幡「はい? 何だよいきなり」


雪乃「さっき小町さんに連絡を取ってみたのだけれど、あなた土曜日はいつも一日中寝ているそうじゃない」


八幡「おい、全然信じてないじゃねぇか……」


雪乃「あら、私は小町さんの言葉を信じるという意味で言ったのだけれど?」


八幡「えー……」


雪乃「明日11時、絶対よ?」ニッコリ


八幡「………」


雪乃「部活は、今日はここまでにしましょう」


八幡「……あ、ああ」




~比企谷宅~

八幡「たでーま」


小町「あ、お兄ちゃんお帰り~。聞いたよ! 明日、雪乃さんとお出掛けするんだってね!」


八幡「強制だけどな。そうだ小町、明日俺の代わりに」


小町「小町を代理で行かせようとか言ったら……お兄ちゃんとはもう二度と口聞かないからね」


八幡「」


小町「それにしてもお兄ちゃんが雪乃さんとデートかあ。二人でお出掛けって結衣さんの誕生日プレゼント買いに行った時以来だっけ?」


八幡「覚えてないけど多分な。あとデートじゃねえ」


小町「あーはいはい。そういうことにしといてあげる」ニヤニヤ


八幡「うぜぇ……」


小町「ところでお兄ちゃん」


八幡「ん?」


小町「明日は雪乃さんとどこ行くの?」


八幡「あー、そういえば何も聞いてないわ。一人じゃ買えないものを買いに行くとは言ってたな」


小町「一人じゃ買えないもの?」


八幡「ああ。一人じゃどうしようもないとか言ってたからそんな感じだろ。まさか冷蔵庫とか買いだしてそれ家まで担がされるとか無いよな……」


小町「いやいや……雪乃さんに限ってそんなことないってば」


八幡「まあ、だな。明日になってみないとわからん」


小町「お土産話待ってるからね! 何ならもう明日は帰ってこなくてもいいからね!」


八幡「……アホか」



~当日~


八幡(時間ジャストに付く予定だったのに、小町にさっさと行けと家を追いだされてしまった……)


八幡(待ち合わせの時間までまだ20分もあるな)


八幡(書店前に集合なら時間まで店内にいればよくね? やだ八幡天才! 誰でも思いつくっつーの)


八幡(てか、あれ雪ノ下じゃねえか……。俺より早いとかいつからいるのこいつ)


八幡「雪ノ下」


雪乃「あら、早いのね」


八幡「お前ほどじゃねぇよ」


雪乃「あなたを待たせて文句の一つでも言われてみなさい。死んだ方がマシだわ」


八幡「どんだけだよ……。まぁ、なら行くか」


雪乃「そうね」


八幡「ところでどこ行くのか全然聞いてないんだけど」


雪乃「あらごめんなさい、言ってなかったかしら。今日はカフェに行くのよ」


八幡「は? カフェ? 買い物じゃねえの?」


雪乃「買い物をするなんて一言も言っていないのだけれど」


八幡「あれ、そうだったか?」


雪乃「そうよ。とりあえず行きましょう。ここだと書店にいる人達の迷惑になるわ」


八幡「あ、ああ。てかどこのカフェだよ」


雪乃「それはついてくればわかるわ」




八幡「………」


雪乃「………」スタスタ


八幡「………」


雪乃「………」スタスタ


八幡(全く会話無いけどどこ向かってるんだこれ……)


八幡(てか早い。雪ノ下さん歩く早い。ゆきのんはっやーい!)


八幡(それにしても意外だったな……。まさか雪ノ下と休日に出掛けることになるとは)


八幡(概ねこの前のお礼が何だと言うんだろう。マッ缶だけで良いって言った時は腑に落ちない顔してたしなぁ)


八幡(こうして出掛けてる地点でもう何言ってもアレなんだけどな……)


雪乃「着いたわ。ここよ」


八幡「おう。……猫カフェ?」


雪乃「たまたまインターネットで見つけたの。さあ、入りましょう」フンスッ


八幡「お、おう」


店員「いらっしゃいませー。二名様ですか?」


雪乃「はい」


店員「こちらへどうぞ」


猫「にゃーん」


雪乃「………」ピタッ


八幡「うおっ、あぶね。急に立ち止まるなよ」


雪乃「あ、ごめんなさいヒキガニャくん。行くわよ」ソワソワ


八幡「とりあえず落ち着こうな。なんか俺の名前が可愛くなっちゃってるし」


店員「こちらのテーブルへどうぞ。まず初めに注意事項を何点か言わせていただきますね」


雪乃「わかりました」メモメモ


八幡「え、メモするほどなの?」




店員「――以上が猫ちゃんと接する際の注意点となります。また、猫ちゃんの抱っこはご遠慮下さい」


雪乃「抱っこ、禁止……」メモ


八幡「………」


店員「ご注文お決まりでしたらお伺いしますが」


雪乃「では、ダージリンティーを」


八幡「俺はマックスコー」


雪乃「彼にはにがめのコーヒーを」


八幡「ちょっと?」


店員「かしこまりました」スタスタ


八幡「ちょっとー?」


雪乃「はあ……。こんなところに来てまであんなものを飲もうとしないで貰えるかしら」


八幡「あんなものとはなんだ。お前はマッ缶の良さがわかってない」


雪乃「わかりたくもないのだけれど……。そもそもあなたは」


猫「にゃー」トコトコ


雪乃「そんなだから……」


猫「にゃー」


雪乃「いつも……」


猫「にゃーん」


雪乃「……にゃーなのよ」


八幡「すまん、わからん」




猫「にゃーん」


雪乃「………」ナデナデ


八幡「にしても……正直猫カフェの猫って寝てばっかで寄って来ないと思ったんだが」


雪乃「………」フリフリ


猫「にゃっ」バシバシ


八幡「人懐っこい猫もいるみたいだな。てかその猫じゃらしはどこから持ってきたんだよ」


雪乃「自前よ。店員さんも許可してくれたわ」


八幡「さすがガチノ下さん。店員に言えば猫じゃらしくらい貸してくれるだろ」


雪乃「自分の物でやるからいいんじゃない。……ね?」ナデナデ


猫「にゃ」


雪乃「ほら」ニコッ


八幡「……そうですか」


ぬこ「にーん」


八幡「別の猫も来たな。鳴き声独特すぎるだろ」


雪乃「確かに鳴き声変わっているけれど見た感じサイベリアンね。ちなみに私の方にいるのはアメリカンショートヘアよ」


八幡「サイゼリアンか。まさかこんなところで同志に会えるとはな」


雪乃「ファミレスなんかと一緒にしないで」キッ


八幡「ヒエッ」ビク


雪乃「そもそもこの子はロシアの国宝と言われている猫なのよ? あなたなんかこの子の足元にも及ばないわ」ナデナデ


ぬこ「にっ」ニヤ


八幡「おい、こいつ一瞬ムカつく顔しなかった? 煽ってるの?」


雪乃「この子賢いわね。ゴミの識別がちゃんとできているみたい」


八幡「どういう意味だよ……」


雪乃「さあ。どういう意味かしらね」


八幡「はあ……。おーい、こっちにも来いこっちにも」


猫ぬこ「」ゴロゴロ


雪乃「あっ……待っ……」


八幡「どうした雪ノ下。あっさり二匹ともこっちに来たが、猫に嫌われたか?」ナデナデ


猫「」ゴロゴロ


雪乃「そ、そんなことないわ」


雪乃「おいで……」フリフリ


ぬこ「」ツーン


八幡「どうやら俺のほうが良いみたいだな」フッ


雪乃「………」ショボン


八幡(あの、そんな落ち込まれると逆に困るんだけど……)


八幡(お前ら、あいつのとこ行ってやれ。ほれ、ほれ)グイ


ぬこ「にー」スッ


雪ノ下「あっ」


猫「にゃん」


雪乃「………」ナデナデ


ぬこ「」ゴロゴロ


雪乃「………」ムフー


八幡「………」ホッ




八幡「ちょっとトイレ行ってくるわ」


雪乃「ええ」ナデナデ


八幡(あれからずっと雪ノ下が猫と戯れる姿をひたすら眺めるかコーヒーすするしかやることがなかったわけだが)


八幡(雪ノ下ならこういった店は見つけたら一人で颯爽と行くもんだと思うし)


八幡(あれ、なんで俺ここへ連れてこられたの?)


八幡(てかもう14時じゃねえか……。え、もう14時?)


八幡(11時半頃に店入ったから……2時間以上も猫と戯れてたのかよ。雪ノ下が)


八幡(昼飯食うことすら忘れるとか猫パワーすごい。雪ノ下の奴、俺の存在なんか軽く忘れてにゃーにゃー小声で鳴いてたしな……)


八幡(ま、戻るか……。さすがに腹が減った)


八幡「戻った。ところで」


雪乃「ぼく、お名前はあるのかにゃ?」


八幡「」


雪乃「みゃーはゆきにゃんだにゃー。呼んでみて?」


猫「にゃーん」


雪乃「にゃーんじゃなくて、ゆきにゃん」ナデナデ


八幡(なんか俺の知ってる雪ノ下さんと違う)


猫「にゃー」


雪乃「可愛いにゃ……」ニマニマ


猫「にゃあ」


雪乃「床にゴロンってできるかにゃ?」


猫「にゃ?」ゴロン


雪乃「良い子だにゃー。ご褒美にお腹をいっぱい撫で撫」


八幡「」ガタタ


雪乃「?!」バッ


八幡(やべっ、椅子蹴っちまった……)


雪乃「」


八幡「」


雪乃「」


八幡「」


雪乃「」カアア


八幡「あー……」


雪乃「…………………………戻ってきたのね。一生戻ってこなくて良かったのだけれど」スクッ


八幡(見なかったことにしろってか……)


八幡「そりゃすいませんね……。ところで昼飯食べたいんだが」


雪乃「あら、もうそんな時間かしら」


八幡「ああ、今14時過ぎだ」


雪乃「………」


八幡「どした?」


雪乃「ご、ごめんなさい。私としたことが時間も忘れてこんな……」


八幡「気にすんな。俺もさっきトイレの時計見てようやく気づいたしな」


八幡「てか昼はどうする。ここで食べるのか?」


雪乃「それでも良いのだけれど、メニューを見たところここの料理はさすがに値段が高すぎるわ」


八幡「まあ前にメイド喫茶行った時もドリンクだけで結構したしな」


雪乃「そうね。だからお昼は別のお店にしましょう」


八幡「おう。じゃあ出るか」


雪乃「……ええ」


八幡「? まだなんかあるのか?」


雪乃「い、いえ。そういうのではないのだけれど……」


八幡「んだよ」


雪乃「猫、抱いてみたかったわ」


八幡「まあ初めに店員に抱っこ禁止って言われちゃあな」


雪乃「………」シュン


八幡「……一応、小町に頼めばタダで猫抱けるぞ」


雪乃「そ、それって……」


八幡「とりあえず出ようぜ」


雪乃「え、ええ」




八幡「で。店を出たは良いがこの後の予定ってあるのか?」


雪乃「そうね……。特に決めていないわ」


八幡「なら今日はもう解散でいいな」


雪乃「えっ」


八幡「別に予定も無いなら飯は家で食った方が金も掛からんしな」


雪乃「確かに、そうよね」


八幡「だろ? じゃあ帰るわ」


雪乃「ま、待ちなさい」ギュッ


八幡「あん?」


雪乃「……そういえば行ってみたいお店があるのを忘れていたわ。あなたも付いてきていいわよ?」


八幡「なぜ上から……。別に一人で行けるだろ」


雪乃「そうだけど……小町さんに愚兄を色々連れて行くよう言われているの。だからおとなしく来なさい」


八幡「ええぇ……。まあでも、小町が言ってたならすぐ帰っても絶対怒られるよな……」


八幡「あと愚は余計だ、賢兄の間違いだろ」


雪乃「あら。なら今度、小町さんに比企谷愚んのことどう思っているのか直接聞いてみようかしら」


八幡「ちょっと? 今さらっと愚って言わなかった?」


雪乃「ごめんなさい。噛んだわ」


八幡「ああそう……。ならちょっと遅いが昼飯はそこらで済ますか」


雪乃「そうね。お昼は比企谷くんが食べたいものでいいわよ」


八幡「は? 俺が?」


雪乃「ええ。さっきまであなたを拘束してしまっていたわけだし、お昼くらいはあなたの食べたいものに合わせるわ」


八幡「別に気にしてないけどな。それに合わせるって言われてもなあ……」


八幡(確か女子の『なんでもいい』は『私が食べたいもの当ててみろ』ってことだったよな)


八幡(え、こいつ普段何食べてるの? 銀のスプーン?)


八幡(フレンチか? イタリアンか? 毎日ビュッフェ形式でご飯食ってるとかじゃないよな)


八幡「………」ウーン


雪乃「……その。色々考えてくれているみたいだけど、変な気を使わなくても結構よ?」


八幡「いやでも」


雪乃「私をそこらの安い女と同じ括りにしないで欲しいのだけれど」


八幡「そ、そうか……?」


雪乃「そうよ? だから余計な気遣いはいらないわ」


八幡「そ、そうか。なら聞くが、お前さ。確かこってりしたものはNGだったよな?」


雪乃「こってり? 別にNGではないけれど、好んでは食べないわね」


八幡「そうか。じゃあ前から行ってみたかったとこがあるんだ。そこでいいか?」


雪乃「? ええ、かまわないわ」


八幡「おう」




雪乃「それで……。わざわざ電車にまで乗せられたからどこへ行くのかと思えば」


雪乃「ここはラーメン屋、でいいのかしら?」


八幡「ああ。俺もここは初見でなー。ずっと来たかったんだよここ」ワクワク


雪乃「本当、ラーメン好きなのね」


八幡「まあそこそこな。この世における最強の食物と言っても過言ではないな」


雪乃「そ、そう」


雪乃(ラーメンの話になると目が心なしか輝いているわね……)


八幡「というわけでラーメンなんだが、平気か?」


雪乃「問題無いわ」


八幡「んじゃ、入ろうぜ」


店員「いらっしゃいませー! 何名様で?」


八幡「二名で」


店員「こちらへどうぞー!」


店員「ご注文お決まりになりましたらお呼びください!」


八幡「何にしようかねぇ」


雪乃「写真などが無いからメニュー表を見ただけではどんなラーメンなのかさっぱりね……」


八幡「ばっかそれがいいんじゃねえか。別メニューも気になったらまた来たくなるだろ?」


雪乃「そういうものかしら?」


八幡「そういうもんだ。お前なら塩ラーメンとかどうなんだ? 俺も初見だから判断は任せるが」


雪乃「塩……。あっさりなのかしら」


八幡「だと思うぞ?」


雪乃「そう。なら私はこの土日祝限定の塩ラーメンにするわ」


八幡「おう。俺はどうすっかな……。混ぜそばも美味そうだけど初見はやっぱラーメンがいいか……」ウーン


雪乃「ふふっ」


八幡「……なんだよ」


雪乃「いえ。あなたも案外、子供っぽいところがあるのね」


八幡「男なんて皆そんなもんだ。いくつになってもロボや戦闘モノは燃えるし、学園モノは萌える」


雪乃「最後のはよくわからないけれど、なんとなくわかる気がするわね」


八幡「だろ? 平塚先生みたいないつまでも少年の気持ちを忘れないような人は結構いたりするもんだ」


雪乃「平塚先生は女性なのだけれど……」


八幡「あの人はちょっと特殊だからなあ」


雪乃「あまり強く否定してあげられないのが不思議だわ……」


八幡「ま、平塚先生だからな。んじゃ俺は豚骨ラーメンにするか。すんませーん」




店員「お待たせしました! こちらが塩ラーメンで、こっちが豚骨ラーメンになりますね。ごゆっくりどうぞ!」


八幡「ようやく食えるな。ほれ、割り箸」


雪乃「ありがとう。お昼、遅くなってしまってごめんなさいね」


八幡「あ? ああ、そっちの意味のようやくじゃねえよ。それに昼飯なんて食わん時もあるし気にしねぇっつの」


雪乃「それは気にしなさい……」


八幡「その分、夜食うからいいんだよ。それじゃ、いただきます」


雪乃「いただきます」


八幡「」ズルズル


雪乃「」スルスル


八幡(うっめぇ……スープは豚骨醤油か。この豚骨と醤油がお互い負けまいと主張しあってる感じがまた堪らねえぜ!)ズルズル


雪乃「……おいしい」


八幡「お、そりゃ良かった」


雪乃「普段からこういった店には行くの?」


八幡「まあ結構行くほうだな」


雪乃「よく家を追い出されているの?」


八幡「家追い出されて泣く泣く行ってるわけじゃないからね?」


雪乃「冗談よ」フフッ


八幡「………」ズルズル




八幡「ふー、うまかった。ごっそさん」


雪乃「ごちそうさま」


八幡「お前が食ってたのもうまそうだったし、ここはまた来よう」


雪乃「普段ラーメンなんて食べないから、こういうったお店で食事をするのは少し新鮮だったわ」


八幡「修学旅行以来か?」


雪乃「……になるわね。あの比企谷くん」


八幡「なに、おかわり?」


雪乃「そんなわけないでしょう……。お手洗いに行ってくるわ」


八幡「お、おう」


雪乃「すぐに戻るわ」


八幡「おう」



雪乃(ど、どうしましょう。さっきは勢いで行ってみたいお店があると言ったけれど……)


雪乃(行ってみたいお店なんて特にないわ……)


雪乃(普段書店に行くくらいでしか外出なんてしないからこの辺のお店なんてあまり知らないし……)


雪乃(ここで書店なんかに連れて行ったらさすがに駄目、よね……)


雪乃(どこか……。あ、最近出来たあのお店なら……)




雪乃「ごめんなさい、お待たせしてしまった、わ……?」


雪乃「……比企谷くん?」キョロキョロ


八幡「雪ノ下。こっちだこっち」


雪乃「………。あなた、席にいないから一瞬食い逃げしたのかと思ってしまったじゃない」ホッ


八幡「また来ようって思った矢先食い逃げするアホどこにいるんだよ……」


雪乃「………」スッ


八幡「ばっかおま、こっち指差すな」


雪乃「ごめんなさい無意識に……」


八幡「無意識とか逆にこええよ……。まあいいや、会計済ませといたから出るぞ」ガラッ


店員「ありがとうございました―! またお越しくださいやせ―!」


雪乃「え? ちょ、ちょっと比企谷くん!」




八幡「飯も食ったし、次はお前が行ってみたいって言ってたとこだな」


雪乃「その前に一ついいかしら?」


八幡「なんだよ」


雪乃「私のお代まで払ってくれたみたいだけれど……いくらだったのかしら」


八幡「別にいらん。それに覚えてないしな」


雪乃「そういうわけにはいかないわ。どうせケチなのだから覚えているでしょう? 言いなさい」


八幡「さらっと人をケチにしてんじゃねえよ。マジでいいから」


雪乃「カフェでは各自で会計を済ませたじゃない。ここであなただけ払うのはおかしいわ」


八幡「俺が店選んだんだからいいだろ別に。別々で払うの面倒くさいし」


雪乃「店を選ばせたのは私よ。だからここで私がお代を出すのは当然だと思うのだけれど」


八幡「これからお前が行ってみたい店行くんだろ? 何か買い物したくなるかもしれんし、金はそこで使え」


雪乃「でも」


八幡「てか店の前で何を言い合ってんだよ俺達は……」


八幡「どうしてもお代出したいなら次は俺が会計を済ませるよりも早く動くんだな」ニヤリ


雪乃「その勝ち誇った顔やめてちょうだい。いつにも増して気持ち悪いわ」ムッ


八幡「その言い方だといつも気持ち悪い感じに聞こえるんだけど……」


雪乃「鏡を見れば答えがわかるわよ?」


八幡「もう見なくても大体わかっちゃったじゃねぇかよ。……いいからさっさと次行こうぜ」


雪乃「比企谷くん」


八幡「んだよ。まだ文句が」


雪乃「……そうじゃなくて。ありがとう」


八幡「……お、おう」フイッ


雪乃「このような真似は二度とさせないから」ニッコリ


八幡(えー、せっかく一瞬ドキッとしたのにー……。俺のときめき返せ……)




八幡「これからお前の言ってた店に行くわけだが……」


雪乃「それがどうかした?」


八幡「いやな。お前って方向音痴なとこあるしここから場所わかるのか?」


雪乃「随分と挑発的なことを言ってくれるじゃない……。自分が行きたい場所くらい行けるに決まってるでしょう」


八幡「いや、行けるなら別にいいんだけどよ」


雪乃「あなたに舐められるとは私も落ちたものね……」


雪乃「こっちよ。ついて来なさい」スタスタ


八幡「だから歩くの早いっての……」



~10分後~

雪乃「この辺りにあるわ」


八幡「おう」



~20分後~


雪乃「そろそろ着くわ」


八幡「おう」



~30分後~


雪乃「比企谷くん。ここはどこかしら?」


八幡「知らねぇよ……。10分前はもう着くって言ってたのに何があったんだよ……」


雪乃「出発して10分後あたりから道が分からなくなってしまって……」


八幡「よく平然とこの辺りにあるとか言えたなお前……。そういうのは20分前に言えよ」


雪乃「ごめんなさい……。意地を張ったわ」シュン


八幡「いや、まあ……店。名前分かるか?」


雪乃「……ディスティニーストア、というお店よ。もしかして知っているの?」


八幡「いや知らん。最近のスマホは進化しててな。店の名前言えばルート検索してくれるんだよ」


雪乃「……なるほど。そんな機能があるのね」


八幡「無いスマホもあるがな。えー、なんだっけ、『でぃすてぃにーすとあ』」


スマホ『ルート、ヲ、検索、シマス』ピコン


八幡(てか猫の次はパンダか。途中から薄々気付いてはいたんですけどね)


スマホ『ルート、ヲ、表示、シマス』ピコン


八幡「お。来た来た」


雪乃「これでたどり着けるのね」


八幡「おう。って、お前……。目的地ここから真逆なんだけど」


雪乃「………」


八幡「とりあえず電車乗って千葉まで戻るとこからだな、ゆきにゃん」


雪乃「……覚えてなさい」カアア




八幡「ここがディスティニーストアか。ランドの土産屋を一纏めにした感じか」


雪乃「逆よ。ディスティニーランドには無い作品や商品がここにあるの。」


八幡「ほう? 千葉にもこんな店あったんだな」


雪乃「最近できたばかりみたいよ。ディスティニーファンの間では結構有名なの」


八幡「へぇ。小町に何かお土産でも買ってってやるか」


雪乃「そういえば小町さんはパンさん好きなのよね?」


八幡「えっ。……あー、ああ、お前ほどじゃないがな」


雪乃「そう。ならこの前のディスティニーランドで選んだものとはまた別の物を考えましょう」


八幡「あーいや。別に今回はクリスマスとかじゃないしお菓子系でいいからね?」


雪乃「そう? でもお菓子のパッケージにも色々種類があるのよ。パンさんが好きなら食べ終えた後も保管して使えるものにしないと」


八幡「お、おう」


八幡(やっぱり小町にはパンさんのこと勉強するよう言っておくか……)


雪乃「そうと決まれば早く入りましょう」


八幡「だな」




八幡「へえ。ほんとに色んなグッズがあるんだな」


雪乃「そうね。一見、一階建ての小さなお店に見えるけれど各ディスティニー作品毎にコーナー分けされているし、店内ではお店のイメージを損なわないようディスティニー作品のBGMが常に流れているのよ」


八幡「お、おう。そうか」


八幡(行ってみたい店があるって言われたからてっきり雪ノ下も初見かと思っていたが、この人絶対通いつめてますよこれ)


八幡「うお! わふわふ物語のグッズとかもあるのかよここ!」


雪乃「わふわふ物語?」


八幡「知らないか? 結構昔に公開されたアニメ映画でな……。ざっくりあらすじ言うなら二匹の犬が主役の物語だ」


雪乃「それはあらすじと言うのかしら……」


八幡「要は見ろってことだ。小学校の頃、家でよくこの映画を小町と一緒に見ててなー」


八幡「ディスティニーのキャラで一番初めに知ったのは、ロッキーマウスなんかよりもわふわふ物語のエディとスランプだったな」シミジミ


雪乃「私はその作品もキャラクターも初めて聞いたわね」


八幡「意外だな。お前パンさん好きだしディスティニーのキャラは粗方把握してるのかと思ってたわ」


雪乃「そんなことないわ。ロッキーマウスやロナウドダックもあまり詳しくはないし、フルートとクーピーは見分けつかないもの」


八幡「いやどっちも犬ではあるが、見分けはつくだろ……」


雪乃「……犬は、あまり得意ではないもの」


八幡「そうか……」


雪乃「ええ……」


八幡「………」


雪乃「………」


八幡「パンさん」


雪乃「え?」


八幡「パンさんのコーナーはどこにあるんだ?」


雪乃「……こっちよ。ナイトメアとアリスのコーナーの間ね。ちなみにお手洗いはパンさんのコーナーのちょうど真裏よ」


八幡「詳しいなおい」




八幡「前来た時はパペットやらのぬいぐるみ系ばっかりチェックしてたが、菓子類もまあまあ種類あるな」


雪乃「そうね。クッキーやチョコレート等があるけど、小町さんはお菓子の中でも何が好きなのかしら?」


八幡「あいつ菓子なら基本なんでも好きだからなあ。手が汚れにくいチョコにでもしとくか」


雪乃「そう。チョコレート類となるとここらのになるかしらね」サッ


八幡「見繕うのはええ……。てかこの『パンさんの笹チョコ』ってやつの笹味ってなんだ笹味って。草の味すんの?」


雪乃「安心なさい。ただの抹茶味よ」


八幡「あ、食ったことあるのね」


雪乃「自分が知らないものを他人に勧めるわけないでしょう」


八幡「そうかい。ならこの笹チョコってやつとそこのクランチチョコにしとくわ」


雪乃「ええ。小町さんも喜ぶと思うわ」


八幡(あいつの場合、今日の雪ノ下と出掛けたことを話した方が喜びそうなんだよなあ……多分)


雪乃「ところで比企谷くん自身は何か買う予定は?」


八幡「俺は別にないな。久しぶりにわふわふ物語のグッズ見れたしそのマグカップでも買おうか悩んでるくらいだ」


雪乃「マグカップ?」


八幡「ああ。今使ってるやつがこの前台所の角にぶつけてヒビが入ってな……。いい機会だし買い換えようと思ってる」


雪乃「あなたがディスティニーキャラクターのマグカップを使う姿は……少し変ね」フッ


八幡「うっせ。どうせ家でしか使わないからなんでもいいんだよ」


雪乃「それもそうね。では私は向こうの方を見てくるわ」


八幡「おう。じゃあ俺はついでに色々見たいしあっちの方いるわ」


雪乃「わかったわ。こちらの用が済んだらそっちへ行くから」




八幡(こうして店内回って見るとかなりのディスティニーグッズが並んでるんだな)


八幡(雪ノ下は)チラッ


雪乃「」ムフー


八幡(まあ予想通りパンさんのコーナーでゾーンに入ってるな)


八幡(うおっ、チョキンリトル懐かしいな! この名前は知らんが魚のキャラ好きだったなー)


八幡(この塔の上のプレッツェルはもう5回はテレビで見たな……。アナ雪の地上波まだ?)


八幡(つーか、地味めなマグカップが欲しいのにどのマグカップも無駄に派手だな……)


八幡(このエディとスランプのペアマグカップとか何なの? 並べておくとキスしててきゃわたん☆ってか)ペッ


八幡(スランプのマグカップ買う気満々だったのに買う気失せただろうが。どうしてくれんだよ……)


八幡(そこのロナウドダックのマグカップに関してはクチバシが飛び出てて命を刈り取る形になってない? なってないか)


八幡(やっぱりマグカップは普通の店で買うのが一番か)


八幡(そうと決まればチョコ買って雪ノ下んとこに……)


八幡(……。なんか俺、普通に楽しんでるな……)


雪乃「比企谷くん」クイクイ


八幡「……ん?」


八幡「って、お前……」


雪乃「?」


八幡「何その買い物かご一杯に詰め込んだパンさんグッズ……。全部買う気なの?」


雪乃「……ぜ、全部買うつもりはないわ。さすがに数は減らすつもりよ」フイッ


八幡「ああ、そう……。で、何だ?」


雪乃「マグカップ……結局買うことにしたの?」


八幡「いや、どれも派手すぎてちょっとな……。無印辺りで今度適当に買うわ」


雪乃「……そうなのね」


八幡「え、なに」


雪乃「いえ。大したことではないのだけれど、その、あなたでも合いそうなマグカップを見つけたから」


八幡「俺でも、ねぇ……」


雪乃「あなた、でも、よ」


八幡「でもを強調して言うんじゃねぇよ」


雪乃「別の場所で買うならそれはそれで結構よ。私はもう少し買う物を厳選してくるから」


八幡「ああいや。それ、一応見といてもいいか?」


雪乃「……そう? こっちよ」


八幡「おう」


雪乃「これよ。どうせあなた、派手なの嫌うと思ったからシンプルな物を選……見つけたつもりだけれど」


八幡(案の定パンさんのやつでした)


八幡(パンさんの顔をどアップで貼っただけの白色メインのデザイン。確かにシンプルで良いな)


八幡「パンさんは白黒だからマグカップとかだとなんかしっくり来るな」


雪乃「そうね。顔だけがプリントされているからシンプル且つ可愛く作られているわね。あなたはどこに行ってもしっくり来ないのに」


八幡「一言余計だぞ?」


八幡「てか、どアップでパンさんの顔見るの初めてだけど……目つきこんな悪かったかこいつ」


雪乃「目つき悪いとは失礼ね。あなたの目に関してはもう腐敗しているじゃない。汚いし、穢らわしいし、えげつないわ」ムッ


八幡「最後の全部意味一緒じゃねえか……。ていうかまだしてないから。辛うじて腐敗してないから」


雪乃「辛うじてなのね……。ちなみにこっちには黒色をメインにしたバージョンもあるのだけれど」コトッ


八幡「へえ。白と黒の配色逆にしたパターンか。パンさんというよりも黒率が高すぎてちょっとお洒落なアメリカグマみたいになってるんだけど……」


雪乃「そ、そんなことないわ。ほらここ、黒バージョンは口に笹を咥えているのよ」


八幡「黒だけ笹を書き入れてる地点でこれ作った奴も……」


雪乃「やめなさい。それ以上はタブーよ」キッ


八幡「お、おう」


八幡(雪ノ下もちょっと認めちゃってんじゃねぇかよ)


八幡「棚の在庫からも明らかに黒バージョンの方が売れてないしな……」


八幡「まあなんだ、折角来たしな……。こっちの黒買うわ」コトッ


雪乃「え……」


八幡「なに、ダメなの?」


雪乃「いいえ、その。てっきり買わないと思っていたから」


八幡「別に。お前に勧められたし、どっちにせよマグカップは欲しかったからな」


雪乃「す、勧めてはいないわ……。それよりも、白い方にはしないの? こちらの方がオーソドックスなのだけれど」


八幡「ああ。この人気無さそうな黒にした方がオンリーワンな感じするだろ」ニヤッ


雪乃「あなたの場合、オンリーワンじゃなくてロンリーワンだけどね」ニッコリ


八幡「……いい笑顔でうまいこと言ってんじゃねぇよ」


八幡「とりあえず俺は先に会計済ませとくわ。お前はそのかごのやつ、量減らしとけよ」


雪乃「ええ、そうするわ」


八幡「まあ会計済んだら店の外いるわ」


雪乃「わかったわ」


雪乃「………」


雪乃「………」チラッ


雪乃「………」キョロキョロ


雪乃「………」コトッ




八幡「それで。あんだけかごに色々詰め込んでたにも関わらず、最終的にそんな小さい紙袋一つで済んだのか?」


雪乃「そうよ。悪い?」


八幡「いや悪くはないけどよ……。ほとんど諦めたのか」


雪乃「……そうね。別の物が欲しくなったからそちらにしたわ」


八幡「へえ。まあなんでもいいけど」


雪乃「………」チラッ


八幡「ん?」


雪乃「………」フイッ


八幡「? ところでもう18時を回ろうとしてるが、さすがに帰るか」


雪乃「そうね。暗くなってきたし帰りましょうか」


八幡「なあ。最後にいいか?」


雪乃「なにかしら」


八幡「結局、今日は何が目的だったんだ?」


雪乃「目的?」


八幡「ああ。昨日お前が言っていた一人じゃどうしようもないことってのは何だったんだよ」


雪乃「……それは」


雪乃「それは、あなたに教えたところでまだ分からないと思うわ」


八幡「は? なんだそりゃ」


雪乃「さあ、何かしらね」


八幡「……すまん。さっぱりだ」


雪乃「簡単にわかってもらっては困るわ」フフッ


八幡「そうか……」フッ


雪乃「それじゃあ、私はここで」


八幡「おう」


雪乃「今日は色々連れ回してしまってごめんなさい」


八幡「謝ることねぇよ。……楽しかったしな」


雪乃「……そう」


八幡「んじゃ俺も帰るわ」


雪乃「ええ、さようなら。……またね」


八幡「ああ。また」




~比企谷宅~


八幡「ただいまっと」


小町「おっかえりーお兄ちゃん! 早かったね」


八幡「もう18時過ぎだぞ。充分遅いだろ」


小町「そうじゃなくて……。ま、いっか。お兄ちゃんだし」ヤレヤレ


八幡「帰って早々妹にため息疲れるとかお兄ちゃん悲しいわよ? ……ほいお土産」スッ


小町「わー、ありがとうお兄ちゃん! それでそれで~……」


小町「どうだったの!? 今日のデート」ニヤー


八幡「まあ。ぼちぼちだ、ぼちぼち」


小町「いやいや。そんなんじゃわかんないって」


八幡「ほんとに何もなかったっての」


小町「えー? どこお出掛けしたのかくらいはいいでしょ?」


小町「あれ?」


八幡「ん?」


小町「ねーお兄ちゃん。小町へのお土産はここにあります」スッ


八幡「おう」


小町「お兄ちゃんの持ってるそのちっさな紙袋は何?」


八幡「ああ、これか。マグカップだけど」


小町「マグカップ? ああ~。お兄ちゃんのヒビ入ってたもんね」


八幡「ちょうどマグカップのある店に行ったんでな。買っといた」


小町「へぇー。見せて見せて!」


八幡「お、おう。俺としては小町の持ってるお土産に興味持って欲しかったんだが……。ほれ」スッ


小町「小町のお土産はお菓子でしょ? 食べる時にじっくり見るもーん」ガサガサ


八幡「あっそ」


小町「あれ、これどうやって開けるんだろ」バリバリ


八幡「こ、小町ちゃん? 買った本人よりも先に箱がんがん破かないでもらえる?」


小町「どうせお兄ちゃんのだからいいのいいの」


八幡「……ひどい」


小町「へー。黒にしたんだ。……あれ、これってパンさん? いや真っ黒だし熊……?」


八幡(やっぱりパンさんに見えないよな)


八幡「一応それ、パンさんらしいぞ」


小町「パンさんってことは……雪乃さんに選んでもらったんだ?」


八幡「いや。選んでもらったっていうかたまたま見つけたって感じだな」


小町「ふふーん? たまたま、ねぇ~……」


小町「よし。じゃあその辺も詳しく今日のこと、一から順に聞かせてねっ。お兄ちゃ~ん」キャピ


八幡「……やっぱそうなるのね」




それでも、彼と彼女が知りたいものは。


~週明け~


結衣「やっはろー!」ガラガラ


雪乃「こんにちは」


八幡「うす」


結衣「ゆきのん金曜はごめんね? 部活行けなくて」


雪乃「別に構わないわ」


結衣「依頼とか何もなかった?」


雪乃「何もなかったわ。ただ、少し空気が濁っていたかしら」チラッ


八幡「こっち見んな。そもそも俺ほどピュアな存在いないだろ」


雪乃「あなたがもし本気でそう言っているのなら、一度精神鑑定を受けることを強く勧めるわ」フッ


八幡「悟った笑顔で言うんじゃねぇよ……。意地でもしねぇわ」


結衣「あはは……。でも最近って全然依頼来てないよねー」


八幡「いいことじゃねえか」


結衣「そうだけどさー。依頼が無いと暇だし、つまんないじゃん?」


雪乃「なら、いいものがあるわ」スッ


結衣「あ、それって」


八幡「千葉県横断お悩み相談メールか。最近すっかり放置してたな」


雪乃「そうね。生徒たちにこのサイトが機能していないと思われてしまう前に活動し直さないと」


八幡「別にいいんじゃねえの? まずこのサイトの存在知ってる奴そんなにいないだろ」


結衣「でもでも今もずっと返事待ってる人がいるかもだしやろうよ!」


八幡「めんどくさいなぁ」


雪乃「大丈夫よ。このサイトよりもあなたの存在を知っている人なんてごく僅かなのだから」


八幡「お前は大丈夫の意味をちゃんと調べとこうな……」




結衣「よーし。じゃあ早速お便り読んでいこー!」


雪乃「随分と気合いが入っているわね」


結衣「最近ずっとやることなかったしね。じゃんじゃん読んでいくよ!」


八幡「返事もしろよ……。特にこれとか」


結衣「え。なになに?」



【PN:ホモォさんからの相談】

修学旅行以降、ずっと気になっていたクラスの男子たちの関係(HくんとHくん)がマラソン大会後に絆が一層深まったように見えます。

最近とべはちも良いなって思った矢先、ここに来てはやはちが! ここに来てはやはちが!!

仲が良くなる一歩手前くらいが捗るしちょうどいいので、やっぱり私的には少し前のダブルHで卑猥な関係に戻って欲しいです。

それなのに……それなのにこれはこれでアリかなと思っている自分がいたり……。腐純! 超腐純! 構わん、ヤれ。

私はどうすればいいのでしょうか(恍惚)



八幡(手遅れすぎてどうしようもできねえ……。まず絆とか一切深まってねぇし)


結衣「え、えーと……」


雪乃「まだ一通目のはずなのに、なんだか頭痛がしてきたわね」


八幡「返事よろしく由比ヶ浜」


結衣「あたし!?」


八幡「お前の友達だろ。がんばれ」


結衣「確かに友達だけど……。まず何書いてあるかイマイチわからないもん!」


八幡「それは俺も同じだもん……」


雪乃「……彼女は今でも普段からこのような奇想天外なことを言っているの?」


結衣「えっ。い、いやー? そんなことはない、かな? うん、たぶん」


八幡(あ、これ毎日言ってますね)


雪乃「確か前回も似たような相談が来ていたわよね。あの時はなんと回答していたかしら」


結衣「うーんと。今までの質問って見返せたよね」カチカチ


結衣「あ、あった!」


八幡「よし。それコピペして返そう」


雪乃「妥当ね」


結衣「ゆきのんまで!? ちゃ、ちゃんと考えてあげようよ」


八幡「なら、由比ヶ浜。責任持ってちゃんと返事してやれ」


雪乃「そうね。私にはどうすることもできないわ……」


結衣「うぅー……。じゃあ」



【奉仕部からの回答】

HくんとHくんが誰なのかイマイチわからないですが、もし実在しているなら温かい目で見守ってあげると思います。

その二人の絆がさらに良くなることを祈ってます! がんばって!



結衣「送信、っと」


八幡「おま、ばっかおま。何祈っちゃってんの……何応援しちゃってんの……」


結衣「ほえ? なんで?」


八幡(ふえぇ……そんな返信されたら明日から生温かい目で見守られちゃうよぅ……)


雪乃「別にいいじゃない。比企谷くんが他人と仲良くなるのは不可能に近いことなのだし、この悩みの存在が架空のようなものじゃない」


八幡「いやいや。俺でも頑張れば人と仲良くできるから。頑張る気はないけどな」


雪乃「頑張ってもらわないと困るのだけれど……」


八幡「なんでだよ」


雪乃「……この前のヒントよ」


結衣「この前? なになに、何の話?」


雪乃「なんでもないわ。これで悩みは解決ね。次に行きましょう」


結衣「……? まあいいや。なら次いこー」



【PN:剣豪将軍さんからの相談】



八幡「これ以外だな。次だ、次」


結衣「まだ本文読んですらないよ!?」


雪乃「読んだところで担当は比企谷くんに変わりないわ」


八幡「だから勝手に任命すんなって……」


結衣「まあまあ。一応読んであげようよ。ね?」


八幡「はあ……」



【PN:剣豪将軍さんからの相談】

『ラインやってる?』ってイケボで聞けば女子が堕ちると、リア充が好む無駄に派手でカラフルなファッション誌に書いてあった。

実にくだらん。片腹痛し! いとをかし!!

これ我でもイケる?


【奉仕部からの回答】

大丈夫、あなたならできます。自信を持ってください。

ちなみにいきなり『ラインやってる?』と聞くより、『きみ可愛いねいくつ?どこ住み?ラインとかやってる?』と聞いていくと良いでしょう。

そうすれば必ずイケますよ、刑務所にね。



結衣「捕まっちゃうんだ……」


八幡「ふう。時間の無駄だったな」


雪乃「なら次を読むわね」



【PN:お姉ちゃんで



雪乃「……間違えたわ。こっちのメールね」カチカチ


結衣「無かったことにした!?」


八幡「感知はええ……」


雪乃「……別のを読むわね」


結衣「ほんとに無かったことにするんだ……」


八幡(あの人、俺のところに文句言いに来そうで怖いんだけど……)



【PN:1ROHA♪からのお悩み】

生徒会で生徒会新聞というものを出すことになったんですが、全くネタが思いつきません\(^o^)/

何かいいアイディアないですかねー?( ˘ω˘)



八幡「一色かこれ? 顔文字からして絶対まともに考えてないだろこいつ。無視だな」


結衣「顔文字で判断するんだ!?」


雪乃「新聞といえば放送部が月に1度、職員室前の掲示板に総武校新聞というのを貼っていなかったかしら?」


八幡「初耳なんだが」


結衣「職員室なんてあまり行かないから知らなかった……」


雪乃「大したことは書いていなかったはずだから知らないのも当然よ」


八幡「お前ナチュラルに今ひどいこと言ったぞ」


結衣「生徒会新聞かー。どんなこと書いてあるのかな?」


雪乃「その書く内容について質問されているのだけれど……」


結衣「あっ」


八幡「最近一層おバカさが増してきたな」


結衣「ひどっ! バカとか言うなし! キモいくせにっ!」


八幡「お前の方が百倍ひどいんだけど……」


雪乃「気にすることないわ比企谷くん。いつものことだから」


八幡「もしかして慰めてる? もし慰めてるなら下手にも程があるだろ……」


結衣「ネタが思いつかないって言っても実際書くこと何もないよね」


八幡「まあな。これと言った行事も最近ないし」


コンコン


結衣「ノック? もしかして依頼!?」


八幡「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」


結衣「だ、だってノックなんて久しぶりだし!」


雪乃「……どうぞ」


いろは「どうもー」ガラガラ


八幡(うわあ……)


結衣「あ、いろはちゃん。やっはろー!」


雪乃「こんにちは」


いろは「結衣先輩、雪ノ下先輩、やっはろーでーす」


いろは「ついでに先輩も」ニコ


八幡「……うす」


結衣「あ、そうそう。今ちょうどいろはちゃんからのメール見てたんだよ?」


いろは「ほんとですかー? 先週メールしたのに全然返事くれないから今日ここに来たんですけどー」ブー


雪乃「確認が遅れてごめんなさいね」


いろは「いえいえ。どっちにせよ今日はここに来るつもりでしたんで」


八幡「案を貰いに来た、と」


いろは「はい、そうなりますかねー。メールにもあるように生徒会新聞の件なんですけどー」


八幡「ぶっちゃけ嫌だ」


いろは「えっ! なんでですかー!?」


八幡「いや、だってこれ別にやろうと思えばすぐできるだろ。生徒会のメンバーと話し合ったのか?」


いろは「一応話し合ってはみたんですけど学校行事とかここ最近無いから書くこと誰も思いつかなくて……」


結衣「あたしたちと同じこと言ってるね……」


八幡「小学校の時にお前ら新聞作らなかったか? なんか自分でネタ考えてテンプレに色々書いてくやつ」


いろは「あー……そういえばそんなことやりましたね」


雪乃「私は夏休みの宿題か何かでそういうのをしたことがあるわね」


結衣「あたしも宿題で新聞書かされたことある」


八幡「だろ? 俺も書いたが殆ど絵を書いて棒人間の4コマ漫画書いたらOKくれたぞ。つまり絵で誤魔化せ」


雪乃「それは小学生だったから許されただけじゃないの?」


八幡「どうせ誰も見ないだろ。どこに貼るんだそのできた新聞は」


いろは「生徒会新聞なので一応生徒会室の前に。放送部の人たちとは別にやってることなので」


八幡「つまりあれか。放送部の連中が書いてる記事と似たようなこと書くわけにもいかないわけか」


結衣「少しくらいならパクッて大丈夫じゃない?」


八幡「待て佐野ヶ浜じゃなかった、由比ヶ浜。どうせ生徒会室の前に張り出す前に先生のチェックが入るだろ。そこで佐野ったことがバレる」


結衣「あー、そっか。……ん? さのった?」


雪乃「記事の内容は全く決まっていないの?」


いろは「あ、いえ。記事やコーナーはいくつか作ろうってことにはなってて、二つだけ決まってます」


八幡「ほう。それは?」


いろは「アンケートコーナーと先週近所の公民館で行われた物作り体験教室について書く予定です」


結衣「物作り体験教室?」


いろは「はい。うちの学校はあまり関わってないんですけど放送部の人達もネタにしていなかったので使うことにしたんです」


雪乃「なるほど。放送部の新聞は毎回学校内のことしか書いていないから、学校外のことを書いていくのはアリかもしれないわね」


八幡「お前、毎回その放送部の新聞読んでんのか」


雪乃「……部室の鍵を取りに行く時にたまたま目に入っているだけよ」フイッ


八幡「へえ……」


結衣「アンケートは何について聞くの?」


いろは「そうですねー。まだ決めてないんですけど恋愛系の質問をプリントに作って全校生徒に聞いてみようかと」


結衣「恋愛系いいね!」


いろは「ですよねー!」


結衣「彼氏いる人~とか好きな人いる人~とか?」


いろは「そんな感じです! どんな質問だと盛り上がりますかねー」


雪乃「話が逸れてるわよ」


いろは「あ、すみません……」ビクッ


結衣「ご、ごめんゆきのん」


雪乃「その生徒会新聞というのは学内のことじゃなくても良いのね?」


いろは「はい。学内のことは放送部の人達がやってるので、生徒会では何でもいいから皆に見てもらおーって感じですかね」


八幡「なら簡単だろ。『千葉 魅力』でググればわんさかネタが出てくるぞ。ついでにチーバくんのイラストでも空いたスペースに入れれば完璧だ」


結衣「でもそれだとなんかつまんなくない? 千葉の魅力なんて知ってる人ばっかだし」


八幡「そうとも限らんぞ。千葉に住んでるからって千葉のこと分かってる人なんて実際そんなにいないからな。特にウェイウェイ言ってる連中」


いろは「確かに戸部先輩とか何も知らなそうですもんねー」


八幡「まあ、別に戸部のことを言ったつもりはないんだけどな……」


雪乃「一色さん。生徒会の仕事について、とかどうかしら」


いろは「最初それ思いついたんですけどあまり面白いことは書けそうにないんですよねぇ。先生たちの雑用したりあいさつ運動させられたり……」


結衣「別にいいんじゃないかなぁ。生徒会ってぶっちゃけ何してるか全然わかんないし、良いと思う」


八幡「なんなら雑用押し付けてくる先生のことを名指しで記事書けば、生徒たちからの信頼を失墜させたりもできるしな」


結衣「う、うわあ……」


雪乃「さすが下衆谷くん。考えてることが人並み以下ね」


八幡「ほっとけ」


結衣「あ、じゃあじゃあこういうのはどう!?」


いろは「どういうのです?」


結衣「学校の周りにあるお店とか紹介してくの! この店は生徒会長行きつけ~、みたいな」


雪乃「なるほど。自分達の行きつけのお店を紹介していくのね」


結衣「うんうん。この前優美子たちと行ったパンケーキ屋があってさー。そこすっごくおいしかったから紹介しようよ!」


いろは「それ、いただきですっ。一度はここに行っておけ!って感じでお店を紹介したいですねー」


結衣「いいねいいね。じゃあ決まりだね!」


いろは「もう一つくらい別の記事欲しいですねー」


八幡「ちなみにその新聞は今回だけか?」


いろは「んー、今回とりあえず新聞作って評判良かったら次回も……的なことは言われてますかねー」


八幡「それ評判微妙でもまた作らされるパターンじゃねぇの」


いろは「えっ。そうなんですか……?」


八幡「いや知らんけどな。でも可能性はあるから今回はその二つの記事と恋愛アンケート(笑)の三つについて書けば十分だろ」


いろは「なんかアンケートのこと馬鹿にしてませんかねー……」


八幡「気のせいだ」


いろは「はぁ。じゃあ明日、皆で学校周辺を調査しましょー!」


結衣「あ、それ楽しそう。やろやろ!」


八幡「おう。いってら」


いろは「なんですかー先輩。わたしとデートするの嫌なんですかー?」


結衣「で、デートって……」


八幡「デートとは言わんだろこれ……。てかもう書くこと決まったんだから依頼は完了だろ。そういうのは生徒会の連中と行け」


いろは「えー。わたし、先輩と一緒にいきたいんですー」


八幡「ハーイあざといオッケーバイバーイ☆」


いろは「うわきっも……。ないわー」


八幡「思わず素になってんぞお前……。いや、謝るけどさ……」


雪乃「この男は放っておくとして、確かに一色さんの依頼は生徒会新聞の記事についてのアイディアを提案するだけだものね。私達が行く理由はないわ」


結衣「えー、行こうよゆきのーん」


いろは「そうですよー。結衣先輩も言ってますしー」


雪乃「嫌よ」


結衣「ゆきのーん。行こうよ行こうよ~」ギュー


雪乃「ち、ちょっと由比ヶ浜さん抱きつかないで……」


いろは「わたしからもお願いしますよー。部活終わってからでもいいですからー」ギュー


雪乃「一色さんまで……。暑苦しいわ……」


結衣「ゆきのん」ウルウル


いろは「雪ノ下先輩」ウルウル


八幡(出たな! 雪ノ下落とし術その1、猫のような目でひたすら見つめるの術。ちなみにその2はない)


雪乃「うっ……」


結衣「ゆきのーん……」ウルウル


いろは「雪ノ下せんぱーい……」ウルウル


雪乃「……はぁ、わかったわ。明日、少しだけなら……」


結衣「わーいヤッター!」ギュ


いろは「さっすが雪ノ下せんぱーい!」ギュー


雪乃「ちょっと二人共……」カアア


八幡(おかしいなぁ。後ろに百合畑が見えるぞ)ゴシゴシ


結衣「じゃあ明日だね! 長くなりそうだし明日は部活早く終わろうよ」


雪乃「……仕方ないわね。なら、そうしましょうか」


いろは「そうと決まれば明日の準備しておくのでわたしは生徒会室戻りますねー!」


八幡「なあ」


結衣「うん。明日もここ来るよね?」


いろは「はい。今日よりも早く行きますねー」


八幡「ちょっと」


結衣「おっけー! ねぇゆきのん、明日どこ行く?」


雪乃「私はあまりお店とか詳しくないのだけれど」


八幡「おーい」


結衣「じゃああたしが色々教えてあげるね。その優美子たちと行ったパンケーキ食べよう!」


雪乃「由比ヶ浜さんに任せるわ」


結衣「うん!」


八幡「俺も行くのそれ?」


いろは「ではではわたしはこれでー。先輩もまたでーす」ガラガラ


結衣「ばいばーい」


雪ノ下「さようなら」


八幡「だからおいって。俺、拒否権どころか発言権すらないの……?」




~翌日~


八幡「うっす」ガラガラ


結衣「あ、ヒッキーやっはろー」


雪乃「こんにちは」


いろは「先輩おっそーい!」


雪乃「あなたが早すぎるのよ一色さん。……まさか私よりも先に部室前にいただなんて……」


いろは「だって今日皆さんと遊びに行くの楽しみだったんですもん」


八幡「いや、遊びには行かねぇだろ」


雪乃「そうよ。学校周辺の調査のはずでしょう?」


いろは「えっ」


結衣「えっ」


雪乃「あなたたち……」


結衣「も、もちろんわかってるって! 仕事だよね仕事!」


いろは「や、やだな~。……相談した本人が目的を忘れるわけないじゃないですかー」


八幡「まあなんでもいいけどよ……。どの辺行くとか決めてるのか? 適当に行くのも効率悪いだろ」


結衣「とりあえずパンケーキ屋さん行きたいなぁ。フルーツたっぷりのパンケーキすっごくおいしいから皆で食べようよ!」


いろは「あ、わたしそれ食べてみたいです!」


八幡「まあ、パンケーキの写真とか撮らせて貰えれば見た目は映えるか……。三つくらいは店紹介したいな」


雪乃「由比ヶ浜さんの言っているパンケーキのお店と後もう2ヶ所ということね」


八幡「そうなるな」


雪乃「紹介するお店が全て女子向けというわけにもいかないから、男子が好む店もあればいいのだけれど」


いろは「そこは先輩の出番ですねー」


八幡「よりによって俺か……。本屋でいい?」


結衣「えー、それつまんない」


八幡「男子の流行とか全くもって把握してないし、どの店が流行ってるとかわかんねぇんだよ……」


雪乃「気にすることないわ。端からあなたには期待なんてしていないから」


八幡「お前のその慰めるセンスは何とかならないのかよ……」


結衣「ま、まあまあ。ヒッキーも来たことだしもう行こうよ!」


雪乃「もう行くの?」


いろは「意外と時間掛かっちゃいそうですしねー。善は急げです!」


雪乃「別に構わないけれど……。なら今から校門前に集合にしましょう。私は鍵を職員室に返してから行くから」


結衣「おっけー先行ってるね!」


八幡「おっけー先帰ってるね……」


いろは「いやいや。ダメに決まってるじゃないですか先輩……」




雪乃「ごめんなさい。待たせたわね」


いろは「いえいえ!」


結衣「よーし、それじゃあレッツラゴー!」


八幡「その死語使ってる奴初めて見たわ。てかテンションたけぇよ」


結衣「えー。だってパンケーキ食べに行くじゃん? そりゃテンションもあがるよ!」


八幡「お、おう。もはやパンケーキがメインだな……」


結衣「そ、それにヒッキーとは、一緒に行く約束、とか、して、たし……」


八幡「……おお」


いろは「んー? お二人は何かあったんですかー?」


結衣「ふぇっ、えっ? ないよ!? べべ別に変なことはこれっぽっちも!」


いろは「へー……」


雪乃「……いいから行きましょう」


八幡「……だな。ちなみにそのパンケーキ屋の場所は?」


結衣「歩いて10分も掛からないかな? 場所は覚えてるから任せて!」


八幡「おいおい大丈夫か。俺、この前場所わかるって意気込んでた奴が結局道に迷」


雪乃「………」トスッ


八幡「ヒョッフ」


いろは「ひょふ?」


八幡「おま、いきなり脇腹突くなよ変な声出ただろうが……」


雪乃「あなたが余計なこと言おうとしたからよ……。それに変な声なら毎日出ているじゃない」


八幡「出てねぇよ。え? 出てないよね?」


結衣「え、何の話?」


八幡「……いや、こっちの話だ。早く行こうぜ」


結衣「あ、うん」


いろは(雪ノ下先輩が物理攻撃してるとこ初めて見た……)




結衣「着いたよ! ここが前に行っておいしかったとこ」


いろは「外観が既におしゃれですね」


結衣「でしょでしょ?」


雪乃「お店の人に許可を取って帰りにでも外観の写真を撮らせてもらいましょう」


いろは「ですねー」


八幡「俺こういう遠回しにボッチお断りみたいな店って入るの躊躇うんだけど」


結衣「別にぼっちお断りなんてしてないし! それに今は皆といるじゃん」


八幡「そうだけどよ……」


雪乃「どうせ何を言っても入ることになるのだから大人しく入るわよ」


いろは「ほらほら先輩。早く入りましょー」グイッ


八幡「ちょっ、わかったから腕組むな……」


いろは「あれ、照れてます?」ニヤニヤ


八幡「……誰が」フイッ


いろは「じゃあ行きましょー!」


八幡「……はいはい」


雪乃「………」


結衣「………」




いろは「結衣せんぱーい。何かおすすめってありますかー?」


結衣「うーん、あたしも一回しか来たことないからなー……」


八幡「この『バナナ&チョコレート~甘い時間を円舞曲と共に~』とか甘い時間にのとこいる? いらないよね?」


雪乃「注文する時は絶対にそこのフレーズは言いたくないわね……」


結衣「あ、でもこの『ベリーベリーベリーベリーパンケーキ~クワトロベリーの城~』は食べたけどすっごくおいしかったよ!」


八幡「だから波線の部分いらねえだろ。後、何回ベリー言ってんだよ。ああ、クワトロって書いてたわ」


結衣「別においしいんだから名前は何だっていいじゃん」


八幡「おいしいからこそ名前もちゃんとした名前にするべきだろ。こういうのはシンプルな名前の方が絶対美味しそうに思えるぞ」


結衣「えー。そうかなぁ」


いろは「先輩って無駄にそういうとこもこだわっちゃうタイプですか?」


八幡「まあ、言われてみればそうかもな。まず無駄なことに無駄を付け加えたりとか、無駄なことを無駄にするなんてナンセンスだろ」


いろは「無駄無駄言い過ぎて何言ってるかわからないです」


八幡(WRYYYYYYYYYY!)


雪乃「その無駄な拘りは置いておくとして、どれもおいしそうね」


結衣「だよねー。最初来た時も決めるのにすっごく時間掛かったよー」


八幡「今回はすっと決めてくれよ……。さっさと食いたいし」


いろは「先輩はもう何頼むか決めてるんですかー?」


八幡「まあな。普通に『発酵バターのこだわりパンケーキ』ってやつ」


いろは「先輩が……パンケーキ……」プッ


八幡「おいそこ笑うな。男は女子と来ているからこそパンケーキを頼めるんだぞ……」


いろは「別に普通に頼めばよくないですかね?」


八幡「仮に俺が一人でこういった洒落た店にやってきて可愛げなパンケーキ頼んでみろ。どう思うよ」


いろは「ちょっときm……普通にパンケーキ好きなんだなーって思います」


八幡「ちょっとー? 今キモいって言いかけたよね?」


いろは「なんのことですかー? 別にパンケーキはキモくないですよ?」


八幡「それもう俺がキモいってことじゃん……」


結衣「ゆきのんは決まった?」


雪乃「ええ、一応は」


結衣「じゃああたし別の頼むから後で一口ちょうだい?」


雪乃「ええ、構わないわよ」


結衣「わーい! じゃああたしも決まった」


いろは「わたしもこれにします。先輩の分、後で一口くださいね?」


八幡「あざといんだよなぁ……。全員決まったよな。すんませーん」




店員「お待たせしましたー」


結衣「うわー見てみてゆきのん! フルーツいっぱい盛りつけられてる! ゆきのんのは苺だらけだね」


雪乃「これは苺じゃなくてラズベリーなのだけれど……。あなたのも本当にフルーツだらけね。食べにくくないのかしら」


結衣「大丈夫大丈夫!」


いろは「わー、先輩の分は見た目超地味なのにおいしそうですねー」


八幡「お前はさりげなく店の人に喧嘩売るなよ……」


雪乃「お店の人からの許可は取ったから記事に貼る写真を撮っておきましょう」


結衣「だね。あ、ゆきのん一緒に撮ろうよ!」


雪乃「いえ、記事に貼る写真を……」


結衣「いいからいいから!」


いろは「あ、先輩。わたしたちも撮りましょっか?」


八幡「撮らねえよ。前こんな店来た時に一緒に撮っただろ」


いろは「え? わたしはパンケーキのことを言ったんですけど」ニヤニヤ


八幡「……死にたい」


いろは「落ち込まなくても冗談ですよー? ほら先輩、俯いてないでこれ見てくださいよ」


八幡「あん?」


パシャ


いろは「はいっ。ちょっとキョドってますけどちゃんと撮れましたよ? ほら」


八幡「いきなり撮るなよ。せめて何か言えよ」


いろは「じゃあもう一回撮ります?」


八幡「結構です」


雪乃「………」


結衣「ひ、ヒッキー! あたしとも写真撮ろ!」


八幡「は、嫌だし席的に無理あるだろ……」


結衣「い、いいじゃん。いろはちゃんとは撮ったくせにー」


八幡「いや、あれは不意打ち的なやつだし……」


結衣「ぶー。じゃあ、あたしもヒッキーのこといきなり撮っちゃうからね! えいっ」パシャ


八幡「おい、ちょ、やめて……」


雪乃「あなたたち、パンケーキの写真を撮りなさい……」パシャ


八幡「おい。そう言いつつお前もカメラこっち向いてるんだけど? 俺ってパンケーキだったの?」




結衣「うっま! ゆきのんこのバナナ超おいしいよ!」


雪乃「パンケーキじゃないのね……」


雪乃「でも、たしかにおいしいわね。このラズベリーの酸味とメープルシロップの甘さが何とも……」


結衣「ゆきのんゆきのん。そっちの一口ちょーだい!」


雪乃「ええ、どうぞ」スッ


結衣「ありがとー」パクッ


結衣「っんま! あ、ゆきのんあたしのどーぞ」スッ


雪乃「そう? ありがとう」パクッ


雪乃「適当にフルーツ散りばめただけだと思っていたけれど由比ヶ浜さんのもおいしいわね」


結衣「でしょー?」


八幡「………」


いろは「先輩黙々と食べてますけどおいしいですかー?」


八幡「あ? ああ、美味いぞ」


いろは「へー。……隙アリ!」パクッ


八幡「あ、おま」


いろは「ん~おいしー! 先輩のやつフルーツとか一切ないのにおいしいですねー」


八幡「その言い方だとフルーツがおいしいみたいになっちゃうんだけど……」


いろは「先輩にはわたしのをどぞ」スッ


八幡「いや、それはちょっと」


いろは「なんでですかー。おいしいですよ?」


八幡「いやまあ、それはお前の反応見てれば十分伝わったわけで」


いろは「なんですかそれわたしの食べる姿ずっと見てたんですか? ごめんなさいさすがに気持ち悪くて無理です」


八幡「ちげぇから……」


いろは「いいから食べてくださいよー。先輩が食べることでグランドデザインを共有してですねぇ」


八幡「一色が意っ識高くなってる……」


いろは「は?」


八幡「……今の無しで」


いろは「いいから食べてください。味の感想も記事に書くんですから共有していかないと! 嫌なら無理やり……」


八幡「わかった食う。食うから」


いろは「あ、あーんしてあげましょうか?」


八幡「いや大丈夫だ」ヒョイパクッ


いろは「あっ……。も~」


結衣「ひひヒッキー、あたしのも食べて、い、いいよ?」


八幡「お、おう」


雪乃「確かに味の感想も記事に書くのであれば全員が味を把握しておくのもアリね」


八幡「書くのは生徒会だけどな」


雪乃「それでも今ここにいるのは私たちよ。だから、その、一応私のも食べておいてくれると助かるのだけれど……」スッ


八幡「おおう……」


いろは「じゃあ皆でシェアですね!」




結衣「はー、おいしかったねー」


いろは「ほんとおいしかったですね! また皆で来ましょうねー」


結衣「だねっ!」


雪乃「それで、次はどこに行くか決まっているのかしら」


いろは「はい! 次はわたしがよく行くお店に行きましょう!」


八幡「どこ、自宅?」


いろは「それ帰っちゃってるじゃないですか……。どんだけ帰りたいんですか先輩。ハッ! もしかしてさりげなくわたしの家に」


八幡「ねぇよ、ねぇ……」


雪乃「いいから行きましょう……」




いろは「着きましたー」


八幡「うわあ……」


結衣「ここ知ってる!」


いろは「あ、知ってますかー?」


結衣「うん。何回か来たことあるよー」


雪乃「一色さんここは……?」


いろは「ここはですねー。簡単に言うなら服とか雑貨を売ってるお店です」


雪乃「なるほど」


八幡「外観が既にキャッピキャピしてんな……」


結衣「ゆきのんこういう店初めて?」


雪乃「そうね。こういった派手なお店は一人で入ろうとは思わないから」


八幡「……俺は外で待っとくわ。パッと見男物置いてなさそうだしな」


結衣「あー……。たしかにここレディースしかないね」


いろは「別によくないですかー? 先輩ですし」


八幡「俺だしってなんだよ。俺だからやばいんだろ……。今回だけはマジで待ってるわ。パッと見、店内に男いないし怖い」


いろは「えー」


結衣「ほんとに来ないの? あ、あたしは来てくれるとその色々と……」


八幡「いやいや、むしろ俺が行ってどうなるんだよ……。いいからさっさと入ってさっさと戻ってこい」シッシッ


いろは「むー。じゃあ三人で入りましょうか」


結衣「……そうしよっかぁ」


雪乃「え、ええ」ゴクリ




八幡「……寒い。あいつらまだか……」


雪乃「………」フラッ


八幡「おっ、おつかれさん。もう済んだのか?」


雪乃「いえ。由比ヶ浜さんたちはまだ中よ……」


八幡「そうか」


雪乃「由比ヶ浜さん……私が普段派手めな服を着ないからって色々と……」グッタリ


八幡「随分お疲れだな」


雪乃「着せ替え人形の気持ちが少しわかった気がするわ……」


八幡「そんなにかよ……。あいつらのことだしまだもう少しかかりそうだな」


雪乃「どうかしらね……。彼女たち一歩歩くことに何かしら騒いでいたから……」


八幡「少しじゃ済まない、と……」


雪乃「……かもね」


八幡「はあ……。帰りたい」


雪乃「土に?」


八幡「そっちに還ってもいいな」


雪乃「あっさり認められると反応に困るのだけれど……」


八幡「あっさり死を勧められた俺の方が反応困っちゃってるからね?」


雪乃「あなただから言ってるんだもの」ニコッ


八幡(全然ドキッと来ねぇ……)


八幡「はぁ……、飲み物買ってくるけどお前も何か飲むか?」


雪乃「その前に比企谷くん」


八幡「あ?」


雪乃「生徒会新聞で取り上げる男子向けのお店なのだけれど」


八幡「俺は詳しくないから無理だぞ。てか今日のパンケーキとそこの服とか雑貨のことだけでいいだろ」


雪乃「それだと男子が読もうとしないじゃない。生徒会が読者を女子だけに絞るのはおかしいわ」


八幡「ならタイトルを生徒会女子新聞にすればいい」


雪乃「第一版からそうするのは変じゃないかしら。最初は生徒全員に読んでもらうつもりで作った方がいいわ」


八幡「そうかもしれんが……。なら男向けの店はどうすんだ。バッティングセンターとかか」


雪乃「もっと簡単なのがあるでしょう。あなたでも知ってるようなお店が」


八幡(バッティングセンターも十分簡単じゃないですかねぇ)


八幡「どこだよ」


雪乃「ラーメン屋よ」


八幡「ラーメン?」


雪乃「ええ。男は皆ラーメンみたいな食べ物は好きでしょう?」


八幡「いやまあ、好きだと思うが」


雪乃「ならラーメンでいいじゃない。学校の近くに一軒くらいあるでしょう?」


八幡「あるにはあるが、パンケーキ食った後だしあいつらラーメンとか嫌がるんじゃねぇの? 知らんけど」


雪乃「なら私と行きましょう。由比ヶ浜さんたちはまだ出てこないと思うし」


八幡「え? お前と? それなら俺だけでいいんだけど」


雪乃「あなただけに行かせるのも悪いわ。それに、私とは嫌?」


八幡「いや、そうじゃなくてだな……。さすがにあいつら置いて行くのもアレだろ」


雪乃「こういったことは効率的に動いていかないと時間が勿体ないわ。ここで無意味に彼女たちを待つくらいなら別の場所へ移動した方がマシよ」


八幡「マジで今から行くの?」


雪乃「別に食べに行くとは言っていないわ。お店の外観だけ撮らせてもらえばいいじゃない」


八幡「ああ、そういうこと。てか俺、飲み物買いに……」


雪乃「なら私はラーメンがいいわ」


八幡「飲み物じゃないですがそれは……」




八幡「着いた。ここだ」


雪乃「前に来たお店よりなんというか……汚いわね」


八幡「ここはわざとそういう外観にしてんだよ。中はちゃんと綺麗だぞ」


雪乃「なら外観も綺麗にすればいいのに」


八幡「違うんだなー。むしろ汚いからいいんだ」


雪乃「……どういうこと?」


八幡「どういうって言われてもな……。何となくだ、何となく」


雪乃「……何となく」


八幡「お前にはわからんかもな」


雪乃「……わかるわ。わかるに決まっているでしょう」


八幡「この負けず嫌いさんめ……。まあいい。俺はここでちょっと早いが晩飯済ますからお前は外観撮ったらあいつらんとこ戻れ」


雪乃「食べていくの?」


八幡「さすがに写真の許可取って食べずに帰るのは申し訳無いしな。あとただ単に店の前来たら食いたくなってきた」


雪乃「そう。なら私も食べていくわ」


八幡「いややめとけ……。お前さっきパンケーキ食ったろ」


雪乃「それはあなたもよ」


八幡「俺は男だしあれくらい食ったうちに入らん」


雪乃「それを言うなら女も甘いものは別腹なのよ? だからさっきのパンケーキは実質食べていないことになるわね」フフン


八幡「何その超理論……。変なとこで張り合ってくんな」


雪乃「張り合ってるわけではないわ。ただ……」


八幡「ただ?」


雪乃「……ただ、あなたが好きなものを私が好きになっただけよ」


八幡「なんだ、それ……。ラーメン、ハマったの?」


雪乃「………」フイッ


八幡「ああ、そう。……太るぞ」ボソ


雪乃「比企谷くん、言って良いことと悪いことがあるのよ?」ニッコリ


八幡「」




八幡「ついこの前もお前とラーメン食いに行ったよな」


雪乃「ええ」


八幡「なんかお前とラーメン屋にいること自体が違和感半端ないんだけど」


雪乃「……そう?」


八幡「お前とラーメンの組み合わせが似合わないっていうか違和感あるんだよな」


雪乃「それを言うならさっきのパンケーキ屋とあなたの組み合わせも中々だったわよ」


八幡「あれは俺も自覚してたからな……」


雪乃「そう。……ふふっ」


八幡「思い出し笑いしてんじゃねぇよ……。注文どうすんだ? 俺はもう決まってるけど」


雪乃「あなたメニュー表見ていないじゃない。……覚えてるの?」


八幡「まあ全部じゃないけどな。あとこの店は注文する時はいつも同じのにしてるし」


雪乃「そうなのね。なら、私は比企谷くんと同じものにするわ」


八幡「……いいのか? 結構油ギッシュだけど」


雪乃「構わないわ。残すつもりはないもの」


八幡「まあ、それならいいけどよ。なら後から文句は無しな」


雪乃「望むところよ」




雪乃「……これはラーメン? と、とてつもない背油ね」


八幡「だろ? これがいいんだよ」ワクワク


雪乃「………」


八幡「んじゃ、いただきます」


雪乃「……い、いただきます」ゴクリ


八幡「」ズルズル


八幡「ここ最近来てなかったけどやっぱうめぇな」ズルズル


雪乃「………」


八幡「……無理しなくていいぞ? 置いといてくれればそっちも食うし」


雪乃「い、いえ。食べたくないわけじゃないわ。少し気後れしているだけよ。いただきます」


雪乃「」ツルツル


八幡「………」


雪乃「………」


八幡「どうだ?」


雪乃「おいしい……」


八幡「だろ?」ニッ


雪乃「……ええ」フイッ


八幡「ただひたすら適当に背油ぶっこんでるわけじゃないんだよなぁ。ラーメン作る人はホント尊敬するわ」


雪乃「あなたがラーメンを好きな理由、ちょっとだけわかった気がするわ」


八幡「食いまくってたらいつか全部わかるぞ」


雪乃「それは、あなたのことも?」


八幡「はい? どういうことだそれ」


雪乃「あなたが私と由比ヶ浜さんに欲しいと言った本物……。私、一応あの時からずっと考えているのよ?」


八幡「その、なに、あの時の話はやめてくれ……。お互い思い出したくないだろ」


雪乃「ええ……あまり思い出したくはないわね」


雪乃「でも私は、それでも忘れることはないと思うわ。絶対に」


雪乃「あなたもそうでしょう?」


八幡「……多分な」


雪乃「こんなことあまり言いたくないけれど……。私は、あなたが求める本物なんて……無いのではないかと思ってるの」


八幡「………」ズルズル


雪乃「決してあなたを否定しているわけではないの。ただ……」


八幡「いい。わかってる」


雪乃「………」


八幡「言った本人がその存在を疑ってんだ。お前がそれを否定するのも無理ない」


八幡「そもそも俺はあの時、目には見えない不気味でおぞましいものを欲しいと言ったんだぞ? 普通に考えたらそんなもの、あるわけがないんだよ」


雪乃「なら……」


八幡「それでも欲しいんだよ、俺は。そんで、それと同じくらいに理解もしたい」


雪乃「……理解?」


八幡「何ていうか……醜い自己満足を押し付け合うことができなくても、俺は、俺だけはわかっていたい。俺だけでも許容したいんだよ」


雪乃「随分と、自己中心的な願いね」


八幡「ぼっちはいつだって一人だからな。周りに誰もいないから勝手に俺が中心になるんだよ」フッ


雪乃「誰も褒めていないのだけれど……。それにあなたのその考えだと、相手はわからないままじゃない」


八幡「わからないならわからないままでいいんじゃねぇの。俺は一人で勝手に理解して自己満足していたいだけだしな」


雪乃「でも、あなただけわかったって意味がないんじゃない?」


八幡「まあ、あんま意味ないかもな」


雪乃「だったら、なぜ?」


八幡「なんつーかその……俺はただ知りたいだけなんだよ。分からないってやっぱ嫌だしな。……だから、お前のことだって、知りたいと思ってる」


雪乃「………」


八幡「ていうかこの話終わりにしないか? ラーメン食いながらするような話じゃねぇしな……。あと、しゃべりすぎて恥ずくなってきた……」


雪乃「……そ、そうね。ごめんなさい、急に変な話をしてしまって」


八幡「いや別に……」ズルズル


雪乃「………」




八幡「ふぅ、ごちそうさん」


雪乃「ごちそうさま。……ところで比企谷くん、お手洗いに行かなくてもいいの?」


八幡「は? トイレ? 何で?」


雪乃「これから由比ヶ浜さんたちの元へ戻るわけだし、彼女たちの前で失禁されても困るもの」


八幡「死んでもしねぇよ……。あっ……。ああー、もしかして」


雪乃「………」ピクッ


八幡「この前俺がお前の分のラーメン代も出したこと根に持ってるだろ?」


雪乃「何のことかしら。全く記憶にないのだけれどもしかして比企谷くんは勝手に人の記憶を捏造することが得意なのかしら? だとしたらその間違った特技は今すぐやめるべきよ。私だから通報しないであげるけど、他の人なら今頃通報されてあなたは刑務所に連れて行かれているところよ?」


八幡「特技も何もこれっぽっちも捏造してないんだけど……」


雪乃「私はあなたみたいな腐った人間に借りを作るのが嫌なだけよ。わかった?」


八幡「はいはい……。もういいわそれで……」


雪乃「わかればいいのよ。では出ましょうか。お代は私が出すから」キッ


八幡「狙いはこれかよ……。まぁ、なんだ、じゃあご馳走になるわ」


雪乃「別に。借りを返すだけよ」フイッ




八幡「……見た? 雪ノ下が会計してる時の店員の目。俺のこと超睨んでたんだけど……」


雪乃「あなたみたいな産業廃棄物がこんな美少女とラーメンに食べに来た挙句、会計は私が済ませたのよ? 嫉妬されるのも仕方がないわ」


八幡「産業廃棄物はひどくないですかね? ていうか、それ自分で言っちゃうのかよ」


雪乃「だって事実でしょう?」ニコッ


八幡「まあ事実だけどよ……」


雪乃「……え、ええ、事実よ。では戻りましょうか」フイッ


八幡「ん。あいつらはまださっきの店か?」


雪乃「一応由比ヶ浜さんに連絡は入れておいたけど、さっきのお店の前にいるみたいよ」


八幡「了解。……って、おーい、雪ノ下。そっち逆だ、こっちだこっち」


雪乃「……わざとよ」スタスタスタスタ




由比ヶ浜「あ、ゆきのーん! もー、二人で勝手に行くなんてずるいよ」


雪乃「ごめんなさい。由比ヶ浜さんたちが楽しそうだったからその、切り上げさせるのも悪いと思って……」


いろは「せんぱーい。どうでしたかー雪ノ下先輩とのデート」


八幡「ラーメンの写真撮りに行っただけでデートとかお前のデート基準甘すぎない?」


いろは「またまた照れちゃってーこのこの!」


八幡「くそ……思いっきりパンチしてぇ……」


雪乃「一色さん」


いろは「……はい」ビクッ


雪乃「私たちはあなたからの相談を受けてその記事の写真を撮りに行ったのだけれど」ゴオッ


いろは「は、はひ。す、すみません、調子のりました」ガタガタ


八幡「相変わらず……スゲェ覇気だ」ゴクリ


結衣「まあまあ、私たちがゆきのんであれこれ遊んじゃったのが原因だし……。ごめんね? ゆきのん」


雪乃「……楽しくなかったわけではないから別に謝らなくてもいいわ」


結衣「ゆきのん!」


雪乃「ち、ちょっとこんな人の多いところで抱きつかないで」


いろは「それで、結局ラーメンの写真は撮ったんですか?」


八幡「ああ。と言っても外観の、だけどな」


いろは「えっ? ラーメンの写真はないんですかー?」


八幡「ちょっと撮り忘れてな」


いろは「普通忘れませんよねそれ」


結衣「ゆきのんは撮ったの?」


雪乃「私もその、忘れてしまって……」


いろは「二人揃ってですかー。怪しい……」


結衣「ゆ、ゆゆゆきのん! ヒッキーと何してたの!?」


雪乃「……別に何も」フイッ


結衣「ヒッキー!」


八幡「別に何も」


結衣「絶対嘘じゃん! 教えてよぉ!」


八幡「……気が向いたら」


雪乃「そうね。気が向いたら、ね」


結衣「うー、絶対聞き出すからねっ!」


いろは「わたしもそれは今度聞くとしてー、次どうします?」


八幡「えっ。帰らないの?」


結衣「えっ。帰るの?」


雪乃「一応三ヶ所は回ったのだし、今日回ったお店のことを記事にすれば十分な量になるんじゃないかしら」


いろは「ですかねー? 物作り体験教室のことも書きますし十分そうですね」


八幡「ならお開きだな」


結衣「んー、なら帰ろっかー……。また皆でお店回ろうね!」


いろは「もちのろんです!」


雪乃「私もたまにだったら付き合うわ」


八幡「まぁ、気が向いたら。……じゃあ俺先帰るわ」


結衣「あ、うん。ヒッキーばいばーい」


いろは「先輩またでーす。あ、新聞出来たらお知らせするんで見に来てくださいね!」


八幡「あいよ」


雪乃「比企谷くん」


八幡「あん?」


雪乃「私だって、あなたのことを知りたいのよ?」ボソッ


八幡「……そうか」


結衣「へ? 今なんて言ったの?」


雪乃「なんでもないわ。私たちも帰りましょう」


いろは「えー、さっきのことといい気になります! 教えてくださいよー!」


結衣「そ、そうだよそうだよ!」


雪乃「………」フイッ


八幡「……帰ろ」



不覚にも雪ノ下雪乃は素直になる。


~休日~


小町「あれ? 雪乃さん?」


雪乃「あら小町さん。こんにちは」


小町「わー雪乃さんだー! こんにちは!」


小町「こんな文具屋さんで会うなんて珍しいですね。何かお買い物です?」


雪乃「進級するまでにやらなければならない長期課題が出てね。そのためのノートを買いに来たのよ」


小町「ほえー、進級するまでってことはかなりの量なんじゃ……」


雪乃「ふふ、毎日少しずつやればなんてことない量よ」


小町「雪乃さんはお兄ちゃんたちとは少し違ったクラスでしたよね。なんだか大変そう……」


雪乃「国際教養科というのよ。別に日頃やることをしっかりやっていれば普通科とさして変わりないわ」


小町「雪乃さんの言う日頃やることと小町の思う日頃やることはダイブ差がありそうですねぇ……」


雪乃「ところで、小町さんも何か買い物に?」


小町「はいっ。昨日受験勉強してたらノートが無くなっちゃいまして。お兄ちゃん起きてくる前に買いに来たって感じです」


雪乃「……比企谷くん、まだ寝てるの?」


小町「はい、お恥ずかしながら……。うちの兄は土日は基本お昼まで寝てますから」


雪乃「呆れたものね……。それじゃあ、そろそろ私は帰るわ。比企谷くんにもよろしく言っておいてもらえるかしら」


小町「あ、はーい。また今度遊びましょうね! ……いやちょっと待ってください!」


雪乃「な、何かしら」ビクッ


小町「あのぉ……。良かったら小町の勉強、見てくれませんか?」


雪乃「勉強を?」


小町「はい……。受験もすぐそこまで迫ってますし、雪乃さんみたいな頭がいい人に勉強見てもらえば良い刺激になるかな、と!」


雪乃「そういうことであれば力になるわ。なら、私の家でいいかしら?」


小町「あ、いえ。それなんですがこのまま直接小町の家に来ませんか? 途中でご飯も食べていきましょ!」


雪乃「……小町さんの家に?」


小町「はい。目が腐ったゴミみたいな人がいますけどカー君……猫もいますよ!」


雪乃「猫……」


小町「はいっ。人懐っこい方だと思うのですぐ仲良くなれますよ! 知らない人に抱っこされても暴れませんしね!」


雪乃「…………小町さんがそういうならお邪魔させてもらおうかしら」


小町「やったー! じゃあ決まりですね!」


雪乃「ええ。急にお邪魔したりしてご両親に迷惑じゃないかしら?」


小町「それについては心配無用です! 残念なことに両親は夜までお仕事なので!」


雪乃「何がどう残念なのかしら……」




小町「ただいまー」


雪乃「お邪魔します」


雪乃(ここが比企谷くんの家……)キョロキョロ


小町「兄はまだ寝てますね……。カー君、カーくーん?」


雪乃「………」ソワソワ


小町「……んー、いつもならお出迎えしてくれるんですけど、カー君もどこか隅っこで寝てるかもですね」


雪乃「……そう」シュン


小町「す、すぐ起きると思うので起きたら連れてきますね!」


雪乃「……楽しみにしてるわ」


小町「ではでは早速小町の部屋で……あ、いや、リビングで勉強教えてください!」


雪乃「? ええ、できる限りのことは教えるわね」


小町「よろしくお願いします雪乃先生!」ビシッ




八幡「………」ガチャ


小町「あ、やっと起きた。お兄ちゃんおはよー」


雪乃「あら、おはよう比企谷くん」


八幡「おう、おは……えっ」ゴシゴシ


雪乃「あなた本当に休日はお昼まで寝てるのね……」


小町「そうなんですよー。うちのごみいちゃんが情けなくてすいません」


雪乃「気にすることないわ。ゴミなら仕方ないことだもの」


八幡「おま……は? なんで雪ノ下が家にいんの?」


小町「小町が雪乃さんを家にお呼びしたんだよ? さっきノート無くなって買いに行ったらお店でバッタリ雪乃さんと会ってね!」


雪乃「そこで小町さんに勉強を見てもらうようお願いされたから、こうしてお邪魔させてもらっているの。あ、小町さんそこはこの式を使うの」


小町「あ、なるほど!」


八幡「へえ……。朝からよく勉強することで」


雪乃「もうお昼の13時なのだけれど……」


小町「お兄ちゃんお昼ごはんどうする?」


八幡「別にいらん。もう一回寝るしな」


雪乃「堕落谷くん、朝食も食べていないのだから昼食くらいはちゃんと摂っておくべきよ」


八幡「いや、カップ麺も切らしてるし作るのだるいからいいわ」


小町「あ、じゃあじゃあ~! 雪乃さんがお兄ちゃんにお昼作ってあげてください!」キラーン


雪乃「そ、それは……」チラ


八幡「あー、勉強してんだろ? 邪魔すんのも悪いし、いいからマジで。てか自分の部屋で勉強しろよ」


小町「小町の部屋は今散らかりすぎて応仁の乱だから雪乃さんをお招きするわけにはいかないのでーす」


八幡「部屋の様子を乱に例えられてもわかんねぇし」


小町「お願いします雪乃さん! こんなごみいちゃんにどうかお昼ごはんのお恵みを……」


雪乃「……さすがに人様のお家で料理するのは」


八幡「無視していいから……。勉強教えてやってくれ」


小町「大丈夫です! 食材は自由に使ってもらってOKなので! 作ってくれたらすぐにカーくん連れてきます!」


雪乃「作りましょうか」スクッ


八幡「くそっ……カマクラを使うのはずるいぞ!」


雪乃「すぐに作るから比企谷くんはそこで這いつくばっていてちょうだい」


八幡「……お、おう。いやせめて座らせてくれよ」




雪乃「できたわ。簡単なチャーハンだけれど、どうぞ」


八幡「お、おう。じゃあ、い、いただきます」


雪乃「……召し上がれ」


八幡「………。ほんとお前って料理上手いよな」モグモグ


雪乃「それはおいしい、ということかしら?」


八幡「そんなとこだ……」


雪乃「……そう」フイッ


小町「雪乃さーん。カーくん連れて来ましたよー」


カマクラ「」フス


小町「あれ、お顔赤いですけどうちのごみいちゃんが気に障るようなことしました……?」


雪乃「い、いえ。気に障るというより……。カマクラさんに触れてもいいかしら?」ソワソワ


小町「? はいどうぞ!」


雪乃「それじゃあ……」


雪乃「………」ナデナデ


カマクラ「」ビクッ


雪乃「………」ナデナデ


カマクラ「」ガタガタ


雪乃「………」ナデナデ


カマクラ「」ガタガタガタガタ


小町「お、お兄ちゃん……カーくんが怯えてる」


八幡「さすが雪ノ下。何振り構わず威圧していくスタイルか」


雪乃「………」ムフー


カマクラ「」ガタガタガタガタ


八幡「まあ、じきに慣れるだろ。……たぶん」


小町「だ、だといいけど」




八幡「ごちそうさん。美味かっ……」


雪乃「」ギュー


カマクラ「」フヌー


八幡「………」


小町「お兄ちゃん」


八幡「ああ……」


小町「雪乃さん、黙々とカーくんと戯れてるよ……」


八幡「……だな。カマクラも慣れてきたのか普通に気持ちよさそうだし」


八幡(猫カフェ行った時もこんな感じだったな……)


小町「カーくん抱っこしてすっごく幸せそうにしてるから小町、雪乃さんの邪魔なんてできないよ……」


八幡「俺でいいなら勉強見るぞ……?」


小町「……うん。じゃあお願い」




小町「お兄ちゃん……」


八幡「どうすんだこれ」


雪乃「」スー


カマクラ「」クー


小町「雪乃さん、まるで我が家のように寝てるよ。ついでにカー君まで……」


八幡「最初死ぬほど怯えてたカマクラも何があったの? ってレベルで懐いてるしなぁ……」


小町「起こすわけにも……」


八幡「いかないよなぁ……」


小町「それにしても雪乃さんってほんとに綺麗だよね」


八幡「あ? あー、まあ、そうだな」


小町「ほらほら寝顔なんてとってもキュートだよ!」


八幡「あんま人の寝顔じろじろ見んなよ」


小町「でもほら見てお兄ちゃん。こんな雪乃さん滅多に見れないよ!」


雪乃「……ん」スー


八幡「……毛布か何か取ってくる」




雪乃「……んぅ」


小町「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん。雪乃さん起きたよー」


八幡「おう」


雪乃「あれ、私……」


小町「おはようございまーす。雪乃さんずっと寝てたんですよ? 覚えてます?」


雪乃「あっ……」カアア


雪乃「ごご、ごめんなさい。小町さんの勉強を見るつもりできたのに小町さんを放ったらかしにした挙句、その、寝てしまって……」カアア


小町「いいえ、気にしないでください! 雪乃さんの寝顔すっごく可愛かったですよ? ねー、お兄ちゃんっ?」


八幡「俺に振るなよ……」プイッ


雪乃「……勝手に寝顔見ないでもらえるかしらスケベ谷くん」カアア


八幡「ち、チラッと見えただけですしおすし……」


小町「もう5時半ですけどどうします? 折角だしうちで夕飯食べていきますか?」


雪乃「い、いえ。これ以上小町さんの家にご迷惑になるわけにもいかないから御暇するわ」


小町「別に迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないですよ! 是非ご飯食べていってください!」


雪乃「ありがとう小町さん。でも、今日は御暇させてもらうわ」


小町「……そう、ですかぁ」


雪乃「その代わり……またお邪魔してもいいかしら? 次はその、寝たりしないから」カアア


小町「もっちろんですっ! お兄ちゃん共々お待ちしてますよ!」


雪乃「ありがとう。その、今日みたいなことは二度と無いようにするから、私で良ければまた連絡とかしてもらえばいつでも……」


小町「……はいっ! またメールしますから勉強教えてください!」


雪乃「ええ。待ってるわ」


雪乃「カマクラさんもまたね」フリフリ


カマクラ「」フスッ


小町(お兄ちゃん、お兄ちゃん!)ドス


八幡「ぐふっ……。あ、あー、近くまで送るわ」


雪乃「一人で大丈夫よ」


八幡「いいから」


八幡(引き下がったら小町に殺されちゃうし)


雪乃「……そう? なら」


小町「ではでは雪乃さん! またいらしてくださいねー!」


雪乃「ええ、さようなら小町さん、カマクラさん」




八幡「駅近くまででいいか?」


雪乃「別に送ってくれなくても平気よ?」


八幡「……いや、小町がキレるから送る」


雪乃「比企谷くんって家ではカマクラさん以下なのかしら?」


八幡「まあ、否定はできないな。それにしてもお前って猫相手だとあんな周り見えなくなるの?」


雪乃「そんなことないわ。カマクラさんがあのカフェにいた猫よりも可愛かったからよ」フイッ


八幡「そりゃどうも。てか、そんなことあるから聞いてるんだけど……。まさか寝るとは思わなかったぞ」


雪乃「この話はもうしないでもらえるかしら」カアア


八幡「あまりにも意外すぎたからな……」


雪乃「それは……あなたの家だったからかもしれないわね」


八幡「俺んちだから?」


雪乃「ええ。比企谷くんの家だったから、安心できたのかも」


八幡「まぁ、猫いたしな」


雪乃「それもあるかもしれないけど……あなたの傍も案外安心できるのよ?」


八幡「何それ、新手の嫌味?」


雪乃「人の好感を素直に受け取れないのかしらこの男は……」


八幡「受け取った結果がこれなんだよ」


雪乃「なら矯正していくしかないわね。実はあなたが起きてくる前に小町さんから一つ、依頼を受けていたの」


八幡「依頼? 小町のやつ……。どんな依頼なんだ?」


雪乃「単純よ。あなたの捻くれた性格を治して欲しい、と」


八幡「人の性格なんて治すとかそういうもんじゃねぇだろ。そもそも捻くれた奴に捻くれた奴をどうにかできるのか?」


雪乃「私は別に捻くれていないのだけれど」ムッ


八幡「十分すぎるほど捻くれてるだろ。捻くれてない奴ってのは素直な奴のことを言うんだぞ?」


雪乃「なら、素直になれ……ということかしら?」


八幡「どうだろな。いきなり素直になれって言われて素直になるやつなんていないだろ」


雪乃「………」


八幡「そもそも人の性格なんてそんな簡単に治せるもんじゃ」


雪乃「……好きよ」


八幡「……は?」


雪乃「好きよ、比企谷くん」


八幡「は……え? お前何言って……」


雪乃「何って私の気持ちを素直に言っているだけよ? 何かおかしい?」


八幡「おかしいも何もいきなりそんなこと言われたって信じられるわけが」


雪乃「なら信じるまで何度も言ってあげるわ。あなたが好きだって」


八幡「い、いや待て。まずなんでそんないきなり……」


雪乃「別にいきなりなんかじゃないわ。あなたと初めてあの部室で出会った時から少しずつあなたを知って、少しずつあなたに……」


八幡「………」


雪乃「私はあなたの……見知らぬ男に絡まれてても構わず助けてくれるところが好き。ラーメンの話になると子供っぽくなるところも、捻くれているくせに人一倍優しいところも好き」


雪乃「小説を見てにやにや笑っている比企谷くんは気持ち悪いけど……私は、あなたが好き」


八幡「最後のいらなくないか? それに、お前のその気持ちは」


雪乃「勘違い、とでもいいたいの? もしそうだと言いたいのならそれが大きな勘違いよ?」


八幡「………」


雪乃「私は、この気持ちは本物だと思っているわ。迷って悩んで苦しんで、ようやく見つけた気持ちなの。これが、今の私よ」


雪乃「でもね、比企谷くん。私が見つけた本物……私の気持ちは、まだ貪欲にあなたのことを求めているの」


雪乃「比企谷くんは私や由比ヶ浜さんたちのことが知りたいと、そう言ったわよね」


八幡「……ああ」


雪乃「私だって同じよ。あなただけじゃない。由比ヶ浜さんや一色さん、小町さんのことだって……」


八幡「……雪ノ下」


雪乃「別に今返事をしなくてもいいわ。このまま返さなくたっていい。でもね、比企谷くん」


雪乃「私は誰よりも比企谷八幡のことが好きよ」


八幡「……そう、か」


雪乃「……ちなみに言っておくけれど、これでも私、今ものすごく穴を掘って埋まりたい気分なのよ?」カアア


八幡「なら言うなっての……」プイッ


雪乃「あなたが言うから素直になってみただけよ。それに、欲しいんだもの……比企谷くんのことが」


八幡「いきなりにも程がある……」


雪乃「私だって驚いているわ。……案外、口に出すと気持ちが止まらないものね」


雪乃「……送ってもらうのはここまででいいわ」


八幡「あ、ああ……。気をつけてな……」


雪乃「ええ。送ってくれてありがとう」


八幡「……またな」


雪乃「また学校で。……ばいばい」




八幡「……ただいま」


小町「お兄ちゃんおかえりー。ちゃんと雪乃さん送った?」


八幡「おう」


小町「ご飯もうちょっとでできるからね」


八幡「おう」


小町「あ、雪乃さんとは何か話したの?」


八幡「おう」


小町「………」


八幡「おう」


小町「……どしたの、お兄ちゃん」


八幡「おう」


小町「お兄ちゃんっ!」バシ


八幡「……っ! お、おう、どした小町」


小町「それはこっちのセリフだよお兄ちゃん……。ネジが外れたお兄ちゃんみたいだったよ?」


八幡「それ結局俺じゃん……。まぁ、あれだ。ちょっと考え事だ」


小町「雪乃さんと何かあったの?」


八幡「…………何もないぞ?」


小町「今の間、怪しい……」


八幡「お前にゃ関係ねぇことだ」


小町「関係ある!」ダンッ


八幡「おおぅ」ビクッ


小町「何年こんな目が死んだ人と一緒に過ごしてきたと思ってるの。お兄ちゃんのことなら何でもお見通しだよ?」


八幡「まだ死んでねぇけどな。なら、俺が今読んでる本のタイトルは?」


小町「……人間失格?」


八幡「全然違うしそのチョイスに悪意あるんだけど?」


小町「そういう意味のお見通しじゃないんだもん! お見通しなのはお兄ちゃんの気持ち的な部分のこと」


八幡「気持ちねぇ……」


小町「雪乃さんと何かあったんでしょ? この名探偵コマチがずばり当ててみせましょう」フフン


八幡「言っとくが教えるつもりないぞ」


小町「だから当てるの。うーん、喧嘩ってわけでもなさそうだし」


八幡「まあ喧嘩する理由なんてないしな」


小町「雪乃さんに存在否定されたとか?」


八幡「否定されすぎてもう慣れたわ」


小町「それはそれでどうなの……。あ、じゃあ告白されたとか! ……なーんて」


八幡「………」


小町「え……嘘……」


八幡「………」


小町「……マジ?」


八幡「………」


小町「あの雪乃さんが……告白したの? お兄ちゃんに?」


八幡「………」フイッ


小町「うっそほんとなの!? キャー! 雪乃さん意外と大胆!」


小町「なんて!? なんて告白されたの!? そもそもなんでそんないきなり!? さっきの短い時間で二人に何が起きたの!?」


八幡「うぜぇ……。俺だって動揺してんだからそっとしといてくれ……」


小町「それは無理だよ」


八幡「なんで……」


小町「だってお兄ちゃん、どうせ逃げるでしょ?」


八幡「逃げるってお前……」


小町「だってお兄ちゃんだもん。捻くれ者でヘタレなごみいちゃんだもん。曖昧にして回避しようとか思ってるんじゃないの?」


八幡「小町ちゃん? ちょっと言い過ぎじゃないかしら?」


小町「お兄ちゃんだからいいの! ……はぁ、あのねお兄ちゃん」


小町「お兄ちゃんがずっと寂しい人生を送ってきたのは知ってるけどさ」


小町「もう一回、ちゃんとお兄ちゃんの周りにいる人たちのことを思い出してみてよ」


小町「雪乃さんじゃなくたって、結衣さんとか平塚先生とか戸塚さんとか厨二さんとか」


八幡「………」


小町「小町はね。雪乃さんや結衣さんと出会えて本当に良かったと思ってるよ? 喧嘩したらきっと悲しいし、離れ離れになったら絶対寂しい」


小町「お兄ちゃんだって、そうでしょ?」


八幡「いや……。別に、俺は……」


小町「本当……? 本当に心からそう思ってる? 小町から見たお兄ちゃんそんな風には全然思ってないみたいだよ?」


八幡「そりゃお前がそう見えるだけでだな……」


小町「そうだよ。これは小町がそう見えてるだけ。でも、お兄ちゃんだってもうわかってるんでしょ?」


八幡「………」


小町「雪乃さんのことはどう思ってる? 同じ部活仲間としてじゃなくて、女の子として」


八幡「……それは」


小町「じゃあ、結衣さんは?」


八幡「………」


小町「雪乃さんに返事はしたの?」


八幡「いや、別に返さなくてもいいって」


小町「はぁ~。これだからごみいちゃんは……」


八幡「えぇ……」


小町「いい? これは小町からの一生のお願い。雪乃さんにちゃんとお返事して。ちゃんと考えて、お兄ちゃんの本当の気持ちをちゃんと伝えてあげて」


八幡「いいのか? こんなことで一生のお願いなんかして」


小町「いいの。お兄ちゃんには誰よりも幸せになって欲しいもん。あ、今の小町的にポイント高いっ!」


八幡「……ああ、超高いよ」


八幡(本当の気持ち、か)


八幡(これまで何度間違えて、何度恥をかいてきたことか……)


八幡(そのたびに同じ間違いを犯さないと強く誓ってきた。二度と勘違いはしないと硬く誓ってきた)


八幡(なのに……)


八幡(雪ノ下の突然の告白……。小町に頼まれた一生のお願い……)


八幡(雪ノ下は本物の気持ちを見つけたと言った。きっとそれは、俺への想いだけじゃなくて、もっと大事で掛け替えのないもののはずだ)


八幡(にも関わらず、雪ノ下は更に知りたいと願った。きっとその願いは、俺と同じで……)


八幡(もう二度と間違いや勘違いはしないと誓っていたはずなのに、俺は何に葛藤してるんだよ)ガシガシ


八幡(いや……これは葛藤じゃないのか)


八幡(雪ノ下が見せた本音を未だに嘘だの勘違いだのと、理由を付けて回避しようとしている自分に腹が立ってるんだ)


八幡(やめだ。もうくだらない理屈をつけて逃げようとするのは、もうやめよう)


八幡(間違えたっていい。勘違いしたっていい。そうでなくては人間じゃない)


八幡(逃げて回避した先に本物なんてあるはずがない。逃げた先の本物なんて、きっと酷く脆い紛い物のはずだ)


八幡(だから、いい加減向き合うか……。俺の本当の気持ちに。俺と彼女たちの、これからに)




~学校~


八幡「………」ガラガラ


雪乃「こんにちは」


八幡「……っす」


雪乃「………」ペラッ


八幡「………」チラッ


雪乃「………」


八幡(……あれから雪ノ下は何事も無かったかのように過ごしているな)


八幡(もしかしてあの告白されたのって夢? あの日は昼まで寝てたしなぁ。あ、なんだ夢か)


八幡(……なんて済ますわけにもいかないよな)


結衣「やっはろー!」ガラガラ


雪乃「こんにちは」


八幡「うす」


結衣「ねぇー、聞いてよゆきのーん」


雪乃「どうしたの?」


結衣「うん、それがさぁ……」


八幡(もし俺が雪ノ下の告白に返事をしたとして……奉仕部は、俺たちはどう変化してしまうのだろうか)


八幡(俺がどう返事をしたところで雪ノ下と由比ヶ浜、あるいは俺の誰かが耐えられない空間になってしまう可能性が非常に高い)


八幡(一度強く結んだ糸は解くのが難しいとはいえ、少しでも結びが緩んでしまえばいとも容易く解けてしまう)


八幡(何もなかったことにできればどんなに楽だったことだろう)


八幡(小町にも逃げるなって言われたしなぁ……)


結衣「……キー。ねぇ、ヒッキー聞いてる?」


八幡「……あ? あぁ、聞いてるぞ。たくあんは大根でできてるんだよな」


結衣「そんな話してないよ!? どっからたくあん出てきたし」


八幡「そうだったか? ……で、何の話?」


結衣「やっぱ聞いてないじゃん! 隣のクラスの子が隼人君に告白したいから協力してほしいって言われてさー」


八幡「告白、か」チラッ


雪乃「………」ニコッ


八幡「……っ」プイッ


結衣「?」


雪乃「由比ヶ浜さんは誰かに告白したことはあるの? したことあるなら的確なアドバイスとかできるかもしれないわね」


結衣「えっ!? な、ないよ一度も! だからどうするか困っててさぁ……」


八幡「別にお前が告白するわけじゃないし断ればいいだろ。無責任な協力はそいつにとって何も良いことないぞ」


結衣「そ、それはそうだけど」


八幡「そもそも何を協力すんの」


結衣「んー……隼人君にこの子可愛いよねー! みたいにアピールとか?」


八幡「あの葉山だぞ。通用するのかそれ……」


雪乃「私としてはお断りした方が彼女のためにもなると思うわ」


結衣「……やっぱり?」


雪乃「誰かに頼ったところで結局最後は自分が自分の気持ちを伝えるんだもの」


雪乃「変に考えずに真っ直ぐ自分の気持ちを伝えた方が、きっと相手にもちゃんと伝わるんじゃないかしら」


結衣「うんうん。……な、なんかゆきのん、誰かに告白したことあるみたいだね」


雪乃「………」フイッ


八幡「………」


結衣「え、嘘……。ま、マジっ!? え、いつ? 誰にどこで?!」


雪乃「誰もしたとは言っていないのだけれど……」カアア


結衣「いやいや、ゆきのん顔真っ赤だし絶対したことあるんでしょ!? 教えて教えて!」


八幡「………」


雪乃「……今日はこのあたりにしておきましょう」


八幡「だな……」


結衣「このタイミングで帰るの!? しかもまだ来たばっかだし! ね~、ゆきのん教えてよー」


雪乃「それは……」チラッ


八幡「………。飲みもん買ってくるわ」ガタッ


結衣「あ、うん。ヒッキーいってらー」


雪乃「さようなら……」


八幡「おくりびとみたいに悲壮感漂わせないでもらえる? 戻ってくるからね?」ガラガラ


結衣「あっ、あたしも飲み物何か買ってきてもらえばよかった……!」


雪乃「今なら間に合うんじゃない?」


結衣「んー、まあいいや」


雪乃「そう」


結衣「うんっ」


雪乃「………」


結衣「……ね、ねぇ、ゆきのん」


雪乃「なに?」


結衣「ゆきのんが告白したって言う人さ。もしかして……ヒッキー?」


雪乃「………」


結衣「へへ、やっぱり……。ヒッキーさっきすごくキョドってたからもしかしたらーって」


雪乃「……別に隠すことじゃないものね」


雪乃「由比ヶ浜さん」


結衣「うん」


雪乃「私は、比企谷くんに告白したわ」


結衣「……うん。ずっと、ずっとね。いつかこんな日が来るんじゃないかな~って、ずっと思ってた」


結衣「ゆきのんがヒッキーに告白しなくても、こうやってあたしたち三人はいつかお互いのことを考える時が来るって……」


雪乃「由比ヶ浜さん……」


結衣「ずっと今のままじゃいられないもんね。もうすぐ三年生にもなるし、奉仕部だってずっとあるわけじゃないし……」


結衣「それに私もね、ゆきのん……」


雪乃「………」


結衣「だから、あたし決めたよ。後出しみたいでずるいけど、あたしも、決めた」


雪乃「そう……」


結衣「この先どうなるかなんてわからないし、できればずっとこのままでって思ってたけど……もう決めた。あたし、絶対逃げないから」


雪乃「私だって逃げるつもりはないわ」


結衣「ヒッキーは……」


雪乃「どうかしらね。逃がすつもりはないけれど」クスッ


結衣「あはは……だねっ!」


結衣「でも意外だったなー。まさかゆきのんがヒッキーに告白するなんてさ」


雪乃「私自身もそう思うわ……」


結衣「こっちからいかないと、だもんね。ヒッキー、自分からは何も言ってくれないし」


雪乃「比企谷くんだもの……。仕方ないわよ」


結衣「なんかさ……変な人を好きになっちゃったね。ゆきのんも、あたしも」


雪乃「まったくね……」


結衣「ぼっちだし捻くれてるしたまにキョドってキモいとこもあるけど」


雪乃「そのくせ優しくて、下衆でシスコンで……」


結衣「あ、あれ? なんだか悪口ばっかになっちゃってる……」


雪乃「彼にはこれくらいが丁度いいわ」クスッ


結衣「丁度いい、かぁ」


雪乃「由比ヶ浜さん」


結衣「んー?」


雪乃「結果がどうであれ……私たちこれからもずっと友達で、いられるかしら……」


結衣「もっちろん。友達通り越して親友だよ! 今も、これからも!」


雪乃「そう、よね……。ありがとう、由比ヶ浜さん」


結衣「えへへ、こちらこそっ」




こうして彼らの間違った青春が終わり、また始まる。


いろは「こんにちはー」ガラガラ


結衣「あ、やっはろー! いろはちゃん」


雪乃「こんにちは」


いろは「じゃーん! 見てくださいこれ。生徒会新聞できましたー」


結衣「おおー!」


雪乃「思っていたよりも早く完成したのね」


いろは「はいっ。アンケートは全学年にするとやっぱ面倒臭かったので一年だけを対象にしてパパっと完成させちゃいました」


結衣「あたしもアンケート答えたかったな~」


いろは「第二回があればその時お願いします! それで廊下に貼り出す前に皆さんには一番に見てもらおうかと思って持ってきちゃいました」


結衣「おー、見せて見せてっ!」


いろは「どぞどぞ」


雪乃「物作り体験教室にアンケート、穴場パンケーキ店、……あのHHさんも絶賛濃厚とんこつラーメン?」


結衣「HH? ……あ、ヒッキーだ」


八幡「HHってお前これ絶対葉山のこと意識して書いたろ」


いろは「あ、先輩いたんですか。わたしは別に葉山先輩のことなんて意識してませんけどねー? ま、もし苦情が来ても一切受け付けませんけど」


八幡「苦情受け付けないって言ってる地点で意識しまくってるんだよなぁ……」


結衣「あれ? あたしといろはちゃんで見たお店は入れなかったの?」


いろは「あー……。あの店は書記ちゃんや他の人に聞いてみたところ結構有名だったっぽいんで記事にするのはやめたんです」


結衣「あの日も何人か総武高の制服着た子いたもんね。皆知ってるお店なら仕方ないかぁ」


いろは「そうなんですよー。だからアンケート結果とパンケーキを少し大きめに取って完成させたって感じです」


雪乃「アンケート……」



『生徒会緊急二択アンケート! みんなはどっち!?』

『Q1.サラダと言えばマカロニサラダ? それともポテトサラダ?』

『マカロニ 15%,ポテト85%』


八幡「超どっちでもいいし、むしろ俺はシーザーサラダが良いんだけど……。てかポテサラつええ……」


結衣「あたしポテサラ派!」


雪乃「恋愛アンケートにすると聞いていたけれど?」


いろは「えーと、その件に関してなんですけど、副会長がこういうどうでもいい質問も入れたほうが良いって言うんで入れたんですよねー」


結衣「質問してる側がどうでもいいとか言っちゃってる……」



『Q2.蕎麦とうどん。食べるならどっち!?』

『蕎麦 56%,うどん 44%』


八幡「ラーメンに決まってんだろ。作り直し」


雪ノ下「記事にラーメン屋の話題があるにも関わらず、ここでは蕎麦とうどんの二択なのね……」


いろは「わたしもそう思って副会長に言ったんですけど、ラーメン滅多に食べないからわからないし無理って言われて……」


八幡「無理ってなんだよあの野郎……。名前知らねぇけど」


いろは「でもわたしは三択なら蕎麦ですかねー。ラーメンもおいしいですけど」


八幡「まじかる。裏切り者め……」


結衣「あたしはラーメンはカップ麺のくらいしか食べたことないなぁ……。あっ、麺類ならそーめんがいいかな!」


八幡「なんか第四勢力出てきたぞ」


雪乃「私はラーメン、かしら」


八幡「おっ、わかってるな雪ノ下」


雪乃「誰かさんのおかげでね」ニコッ


八幡「……誰かさんに感謝だな」


結衣「あ、あー、あたしも何かラーメンの方が良い気がしてきたなー?」


八幡「気がしてきたって何だよ。意志弱すぎだろ。お前の意志そーめんでできてるの?」


結衣「違うし! ら、ラーメンもそーめんと同じくらいおいしいなーって思ったの!」


八幡「お前カップ麺しか食わないって……。もう何でもいいか……」



『Q3.好きな人はいる? いない? 内緒?』

『いる 11%,いない 28%,内緒 61%』


八幡「内緒って何だよ内緒って……。二択のはずが緊急過ぎて三択になっちゃってるぞ」


雪乃「案の定内緒が多いわね」


結衣「11%……」


いろは「あ、これはミスですね。最初は『いる?』か『内緒?』だったんですよねー。消し忘れてました」テヘ


八幡「その二択はおかしいだろ……いるの対義語って内緒なの?」


雪乃「好きな……」チラッ


結衣「人……」チラッ


いろは「あ、先輩は好きな人とかいないんですかー?」


八幡「え」


雪乃「っ!」


結衣「い、いいいいいるのヒッキー!?」


八幡「アンケートに沿って答えるなら内緒だな」


いろは「いるかいないかで!」


雪乃「………」


結衣「………」


八幡「……まぁ、内緒で」


いろは「え~、先輩つまんないですよー?」


八幡「うっせ……。なんで俺だけ直で質問なんだよ。答えるわけねぇだろ」


いろは「もー。先輩ってつまんないですね」


八幡「あれ、二回目のつまんないは絶対違う意味のつまらないだったよね?」


いろは(いないなら普通にいないって言っちゃえばいいのに、内緒って言われた地点で答えわかっちゃったんですもん……)


いろは(先輩は、どっちが好きなんだろ……)


いろは(わたしは……無理だよね。この二人には敵わないしなー……)


いろは「……あはっ」キャピルン


八幡「笑って誤魔化すくらいなら白を切って欲しかったわ……」


雪乃「………」


結衣「………」




雪乃「とりあえず、アンケートにあったミス以外にも直したほうが良さそうな箇所がいくつかあったわね。ちゃんと先生方に確認してもらったの?」


いろは「はい。平塚先生に」


八幡「あの人生徒会の顧問じゃないんだけどな。たぶん、ざっと目を通しただけで修正点とかは確認してなかったんだろ」


雪乃「なら仕方ないわね」


結衣「じゃあ、修正した完成版は来週みんなで見に行くね!」


いろは「はい! とは言っても誤字とか直すだけで、見に来ても内容は全く一緒ですけどねー」


結衣「それでも見に行くよー。ね、ゆきのん」


雪乃「そうね」


いろは「ありがとうございますー。ではではわたしはそろそろ生徒会室に戻りますねー。この後ミーティングあるので」


結衣「うん。いろはちゃん、またねー」


雪乃「さようなら」


いろは「はーい、またでーす。先輩もまたー」ガラガラ


八幡「ああ」


結衣「行っちゃったね」


雪乃「アンケートコーナーで露骨にスペース稼ぎしていた点を除けば、なかなかの出来だと思うわ」


八幡「四つ目の質問にあった『気になる人には自分からアタックする? しない?』ってやつとか4%と96%だったぞ。阪神かな?」


結衣「今年の一年は草食系が多いんだね」


八幡「一色もアンケート答えたならあいつ絶対4%の中入ってるな」


雪乃「草食系……。サラダが好きなの?」


八幡「その草食じゃないぞ?」


結衣「ゆきのん知らないの? 草食系男子とか聞いたことない?」


雪乃「草食系男子……。初めて聞いたわ」


結衣「えーっとね。簡単に説明するとー……ヒッキーみたいな人のこと」


雪乃「なるほど。性根が腐り果てた上に下衆でシスコンな高校男子を指すのね」


八幡「ストップストーップ。全然違うし辛辣すぎる……。あとシスコンじゃないし」


雪乃「え……?」


結衣「嘘……」


八幡「驚愕すんなよ……。本当はシスコンなんじゃないかって勘違いしちゃうだろうが」


結衣「いやいや、もうそれ勘違いじゃないから」


雪乃「それで、違うと言うならどういう点で比企谷くんがサラダを食べるの?」


八幡「ひとまずサラダから離れろ」


結衣「ゆきのんちょっと耳貸して?」


雪乃「?」


結衣「草食系って言うのは……」ゴニョゴニョ


雪乃「……なるほど、そういうこと。たしかに比企谷くんね」クスッ


結衣「でしょー?」


八幡「……何て教えたんだ?」


結衣「ふっふっふ……内緒!」ニヤ


八幡「なんかうぜぇ……」


結衣「うざくないし!?」


雪乃「……ところで、比企谷くんはさっきの質問5は答えるならどっち?」


結衣「あー、『告白は自分からする? しない?』ってやつだ」


八幡「……え」


雪乃「どっちなのかしら。ちなみに私は『する』よ」


結衣「ゆきのんが自分からするってちょっと意外だよねー。あたしも、『する』、かなぁ……」


八幡「そ、そうですか。……どっちでもよくね?」


結衣「どっちでもよくない。ヒッキー、どっち……?」


雪乃「………」


八幡(急になんだこの流れ……)


八幡「……えー、あー」


八幡「……昔は『する』だったな。黒歴史的に」


雪乃「なら、今は?」


八幡「今はー……どうなんだろうな。自分でもわからん」


結衣「えー。何それ」


八幡「本気で好きな奴には、告白するんじゃないんですかね? ……たぶん」


結衣「なんで疑問形……」


雪乃「つまり、あなたが誰かに告白する日が来るかもしれないのね」クスッ


結衣「……だね」


八幡「ていうか何なんだよ急に。思わずぽろっとしゃべっちゃったけど誘導尋問かよこれ……」


雪乃「気を悪くしたなら謝るわ。あなたのそういった部分がちょっとだけ知りたくなったの」


八幡「ああ、そう……。しゃべった後だから謝られても困るけどよ……」


結衣「ち、ちなみにヒッキーは告白するのとされるのどっちがいいの?」


八幡「まぁ……二択ならされる方が良いな」


結衣「ふーん……」


八幡「もう何も答えんぞ……」


結衣「うん……」


結衣「わかった」


雪乃「………」




~数日後~


静「HRはここまで。皆気をつけて帰るように」


八幡「………」ガタッ


結衣「あ、ヒッキー」


八幡「ん、どうした?」


結衣「今日さ、ゆきのんのクラス放課後にテストあって行けないらしいから部活は無しでいいってさー」


八幡「そか。なら帰るわ」


結衣「あ、うん。じゃあねー。……じゃなくて!」


八幡「えっ」ビク


結衣「たまにはさ、い、一緒に、帰らない?」


八幡「お、おお……。三浦たちはいいのか?」


結衣「うん。もう言ってきた」


八幡「まぁ……ならいいけど」


結衣「うん! じゃあ帰ろ?」


八幡「おう。ていうかお前バスだしすぐそこじゃね?」


結衣「い、いいの! 今日は5駅分くらいなら歩いちゃうよ!」


八幡「さいですか」


結衣「いやいや、犀じゃないし」


八幡「そっちじゃねぇ……」




~帰り道~


結衣「ヒッキーと帰るのって、ちょっと久しぶり」


八幡「そうだっけか」


結衣「そうだよ。それにしてもさー、ゆきのんが部活来れないって珍しいよね」


八幡「いっつも一番にいるのにな。さすがのあいつでも放課後にテストとか堪ったもんじゃないだろ」


結衣「だよね。ゆきのんと今日一緒にお昼食べたんだけど、なんか学年末はこうやって放課後にテストする時があるんだってー」


八幡「何それだるそう……」


結衣「成績には関係ないらしいけどね」


八幡「成績入らないのに放課後残されてテストとか本気でだるいやつじゃん」


結衣「うんうん」


八幡「まぁもうちょっとしたら俺らも三年だし、もしかしたら俺らのクラスでも似たようなことするかもな」


結衣「え!?」


八幡「本気でビビらなくても可能性を言っただけだぞ?」


結衣「あ、うん……。わ、わかってるし」


八幡「別にお前はテストがあってもなくても変わらんだろ」


結衣「ちょ、それどういう意味だし」


八幡「……冗談だ冗談」


結衣「……なら、いいけど」


八幡「おう……」


結衣「……よしっ。ヒッキーこの後って暇だよね?」


八幡「いや、この後はちょっと……」


結衣「はいはい、どうせ何も無いね」


八幡「扱い雑すぎない?」


結衣「ヒッキーだから良いの。だからたまには二人で遊びに行こーっ! そうだゲーセン行こうよゲーセン!」グイグイッ


八幡「ちょ、わかったから引っ張んな……」




結衣「ヒッキーと二人でゲーセンって何か新鮮だねー」


八幡「まぁ、二人では初めてだしな」


結衣「だね。何からやろっか」


八幡「お前に合わせる。てかあんまあれやこれやはできないぞ。そんなに金持ってないし」


結衣「うーん、じゃあUFOキャッチャーとかはやめて普通のゲームしよう」


八幡「それならどっちが先に家に帰れるかゲームだな」


結衣「オッケー、絶対負けな……いやいや帰らないよ!?」


八幡「騙せると思ったのに。……ちっ」


結衣「舌打ち!? もー、そういうのいいからそこのホッケーやろうよ」


八幡「はいはい、ホッケーな」チャリンチャリン


結衣「あっ……」


八幡「どした? やっぱやめるか?」


結衣「い、いやそうじゃなくて」


八幡「よくわからんが始まるぞ。ほい」パコーン


結衣「あ、わ、わー! 待って!」カシャン


八幡「はい一点ゲット」


結衣「まだ準備してなかったのに! ヒッキー今のずるい」


八幡「ふっ……ゲームなんて勝てばよかろうなのだッ!」


結衣「むー……。ならこれでも食らえー!」パコーン……カシャン


八幡「………」


結衣「……あ、あれ?」


八幡「さすが由比ヶ浜と言ったところだな。まさか自分で打ったやつをそのまま自分のゴールに入れるとは」


結衣「ううううっさい! ハンデだし!」


八幡「無理してジグザグになるように打つからだろ……」


結衣「真っ直ぐ打っても返されちゃうもん。次はちゃんと打つし!」パコン


八幡「ほっ」


結衣「ていっ」


八幡「よっ」


結衣「やあっ……あ」


八幡「ネット際か」


結衣「んぐぐ……届かない……」グイー


八幡(あの……そんな台の上に乗り上げてこっちに体伸ばすとその、谷間がですね……)チラッ


結衣「……って、台の横行けばいいんだ。……えいっ」パコン


八幡「………」カシャン


結衣「ゴール! ってあれ、ヒッキーどうかした?」


八幡「……ハッ!? い、いや何でもない。ちょっと煩悩払ってた」


結衣「? よくわからないけどじゃんじゃん行くよー!」パコーン




結衣「……負けた。ヒッキーずるしてばっか」


八幡「後半は自重してやめただろ……。にしても15-2とか圧勝過ぎたな」


結衣「ぶー。次は負けないから」


八幡「せいぜい頑張るんだな」フッ


結衣「上からムカつく! ……あ!」


八幡「い?」


結衣「う? ……じゃなくて、あれ見て、あれ!」


八幡「あん?」


結衣「あのUFOキャッチャーにある犬のぬいぐるみ。サブレそっくりじゃない?」


八幡「サブレ? あー、あの犬な。似てるというか犬種が一緒なだけじゃないのそれ……」


結衣「いやいや、目がクリッとしてるとことか超そっくりだから。あたしあれ取りたいかもっ!」


八幡「UFOキャッチャーはやらない予定なんじゃ……」


結衣「事情が変わったの! ほらほら、行くよ!」


八幡「はいはい……」


結衣「一回百円かぁ。ちょっと両替してくるね」タタタ


八幡(取る気満々だなあいつ……)


八幡(頭でかくて持ち上がらないだろうし、アームで押したり持ち上げたりしながら景品を転がす感じで落とすタイプか……)


八幡(おい待て。ここ掴むといいかも!?って書いてあるぬいぐるみの下に滑り止め敷いているのが見えるのは気のせいですかねこれ……)


結衣「ヒッキーお待たせー」


八幡「おう。……マジで挑戦するのか?」


結衣「もちろん! サブレの為にも取って帰らないとね!」


八幡「犬にこれ渡されても犬が困るだけだと思うんだけど……。後これ、たぶん取れないようにできてるぞ?」


結衣「そんなのやってみないとわかんないし! まぁ見てて」チャリン


八幡「なら見とくけど」


結衣「あ、ヒッキー横見てて。あ、ストップも言ってね」


八幡「あいよ。……はいストップ」


結衣「これでどうだ! …………ありゃ」


八幡「狙いは結構良かったのにびくともしてなかったぞ……。これ、さてはアームも弱いな?」


結衣「も、もう一回!」




結衣「うぅ……ヒッキー……」


八幡「諦めろ……。九回挑んで全く動いてないんだ。たぶん絶対無理なやつだぞこれ」


結衣「ら、ラスト一回! これでダメだった諦める!」


八幡「止めはしないが……無理だろ」


結衣「もしかしたらがあるかもだし! よーし」チャリン


結衣「さっきよりちょっと奥の方に……」ウィーン


結衣「………………へ、へぷしっ!」クシュン


結衣「あ……」


八幡「えー……」


結衣「く、くしゃみ出ちゃった」カアア


八幡「アームが的外れなとこまで進んじゃったぞ……」


結衣「うわーん最後の最後でやっちゃったよぉ……。本気で欲しかったのに……」


八幡「ある意味良いオチだったけどな。…………ん?」


結衣「……でもしょうがないかぁ。諦めて次どうしよっか」


八幡「ちょい待ち」


結衣「ほぇ?」


八幡「ちょっと代わってみそ。もしかしたら、取れるかもしれん」


結衣「えっ、でも何回アーム引っかかっても動かないんだよ?」


八幡「まぁ、見てな。多分一回じゃ無理だけど」チャリン


結衣「あ、横で見ようか?」


八幡「いや、大丈夫だ」ウィーン


結衣「あ、あれ? ちょっとヒッキー、クレーンがぬいぐるみ過ぎたよ!?」


八幡「………」


結衣「ク、クレーン止めるにはボタン離せば止まるよ!? あ、ボタンは今ヒッキーが押してる1のボタンで……」


八幡「いや、わかってる。それくらいわかってるからね? 最後の方ちょっと馬鹿にしてない?」


結衣「じゃ、じゃあなんで……」


八幡「2のボタンは一瞬だけ押して……。ほら、そこ」


結衣「あっ……アームで奥のぬいぐるみが……」


八幡「たぶん店の設定ミスか何かだろうな。アームがかなり奥まで進むからディスプレイ用の雑に詰まれたぬいぐるみを平気で弄れる」


結衣「す、すごいけどこれって良いの? お店の人に怒られちゃうんじゃない?」


八幡「大丈夫だ。そもそもそういう設定にしてる店が悪い上に、穴の近くに雑に重ねてディスプレイ用のぬいぐるみ飾ってる店員が悪い」


結衣「お店と店員も全否定してる……」


八幡「とにかく穴が台の奥側にあるタイプで良かった。たぶん奥の団子三兄弟みたく詰んでるぬいぐるみをアームでぐいぐい押して崩せば手に入る」


結衣「ほぇー……。さすがヒッキーだね。やることが汚いと言うか何と言うか……」


八幡「……褒めてくれてるんだって八幡信じてる」




結衣「あっ、取れた!」


八幡「やっと落ちた……何だかんだ六回くらいやったな」


結衣「景品はそのままなのに周りがぐちゃぐちゃになっちゃったね……」


八幡「店員が気付き次第直すだろ……。あーだーこーだ言われる前に移動しようぜ。ほれ、これ」スッ


結衣「え……。い、いいの? ヒッキーが取ったんだよ?」


八幡「いいよ。お前が挑戦したのを横取りしたようなもんだし、こういうのは欲しい奴が持っとくもんだし」


結衣「そ、そっか。えへへ……ヒッキー?」


八幡「?」


結衣「ありがとっ」


八幡「……おお」フイッ


結衣「お金使いすぎちゃったし最後にあれ撮ろっか!」


八幡「え、まだ何か取るの?」


結衣「そっちの取るじゃなくてあれ」


八幡「……プリクラか。行ってら」


結衣「ヒッキーも行くの!」


八幡「いや、待って。マジ? マジで言ってる? プリクラってほら、魂吸われるとか言われてるし、あと変身したら弾けるレモンの香りが……」


結衣「意味わかんないこと言ってないで行くよ! それに魂吸われるって言ってるけど、ヒッキーってば彩ちゃんと撮ったことあるんでしょ?」


八幡「……何故それを!?」


結衣「彩ちゃんがヒッキーとプリクラ撮ったってこの前学校で見せてくれたの。ヒッキーと初めて遊んだってすっごく喜んでたよ?」


八幡「戸塚が喜んでくれてたなら仕方ないな。また今度誘って二人でプリクラ撮ってカラオケ言ってボーリングとかしちゃうぞ! だから今日はやめとくか」


結衣「やめないし!? いーじゃん一緒に撮ろうよ~」


八幡「いや、でもなぁ」


結衣「あたしとは、やっぱ嫌?」


八幡「なんだよやっぱりって……。嫌じゃない。全然嫌じゃないけど……」


結衣「ならレッツゴー!」グイッ


八幡「ずるいのはどっちだよ……」




八幡「プリクラってなんでこんな無駄に機種あるの? 全部一緒じゃないのかこれ……」


結衣「一応違うかな。あれは落書き一杯できるし、あっちのはギャルっぽく撮れるね。あ、あそこにあるのは面白い変顔撮れるんだよ!」


八幡「……全部把握してんの?」


結衣「さすがに全部じゃないよ。でも結構優美子たちと色んなので試すから覚えちゃっただけ」


八幡「その記憶力を勉強にだな……」


結衣「い、今はそういう話禁止っ! ほら、ヒッキーはどれで撮ってみたい?」


八幡「どれも何も全部嫌だ……。機種幾つあんだよここ……。あ、学校近くのコンビニの脇にあるあそこなんてどうだ?」


結衣「ここじゃなくて? 学校近くのコンビニ……プリ撮れるとこあったっけ?」


八幡「ああ。白いやつ」


結衣「白……それ証明写真機じゃん!? ないない、絶対ない!」


八幡「まぁ、言ってみただけでさすがに俺もそこだけは無いけどよ……」


結衣「なら言うなし。どれでもいいならあたしが一番気に入ってるやつでいい?」


八幡「じゃあそれで」


結衣「おっけー。はいヒッキー、入って入って」


八幡「お、お邪魔します」


結衣「とりあえず設定はこれで、こうして……はい、ヒッキーポーズ!」


八幡「ポーズっておま……。こうでいいか?」


結衣「立ってるだけじゃんそれ……。じゃあ最初はピースしよピース!」


八幡「……こうか」


結衣「めっちゃ顔引きつってる……。わ、笑って笑って!」


八幡「……こうか」ニタァ


結衣「うっ、きも……じゃなくて不気味……」


八幡「それ言い直してもほとんで意味一緒なんだけど?」


結衣「彩ちゃんの時はめっちゃ笑ってたじゃん! ほら笑って!」


八幡「そう言われても……」


八幡(女子と二人でプリクラなんて俺にはまだハードルが高いと思うんです。どうでもいいけど中学までベリーロールはロールケーキのことだと思ってた)


パシャ


結衣「ああ、ほら、一枚目無駄になっちゃったじゃん! こうなったらー……こちょこちょこちょー!」


八幡「ばっ、おま、くすぐんな! やめ……ふぐっ」


パシャ


結衣「あっ……」


八幡「」


結衣「い、今のは忘れよう! 今度こそピース! はいピーッス」


八幡「ぴ、ぴーす」


パシャ


結衣「はい、じゃあ次はヒッキーこのぬいぐるみ頭乗っけて」ポスッ


八幡「え、何」


結衣「はい、犬のポーズ! ヒッキーも手こうやって」


八幡「こんな感じか? これ猫じゃないの? それ以前にこれ猛烈に恥ずかしいんだけど」


結衣「我慢我慢!」


パシャ


結衣「次虫歯ポーズやろ? はい、ヒッキーも片手ほっぺに当てて」


八幡「こうか。これ虫歯ポーズっていうの? 絶対違うと思うんだけど?」


パシャ


八幡「これ何枚撮るの……」


結衣「ここのは七枚かな? だからあと二枚」


八幡「なげぇ……」


結衣「ヒッキーはそこ立ってて。……行くよ~」


八幡「え、ちょ、何? タックル? タックルするの?」


結衣「えーいっ」ガバ


パシャ


八幡「っぶねぇなお前、何今の……のしかかりされて30%確率で麻痺るかと思ったわ」


結衣「あはは、ごめんごめん。ちょっとやってみたくって」


八幡「今のが?」


結衣「うん。後でわかる、かな?」


八幡「そうか……? 何にせよ次ラストか」


結衣「最後どうしよっか?」


八幡「二人ともしゃがむっていうのはどうだ?」


結衣「それ何も写らないじゃん……」


結衣「あ、じゃあ最後はヒッキーと腕組んじゃおっ」ギュッ


八幡「ちょっ」


パシャ


八幡「……」


結衣「よーっし、落書きしていこー!」


八幡「おー……」




結衣「ぷっ……ぷくくっ……」


八幡「お前これ……」


結衣「ぷっ、はは、あはははははっ! もうダメ堪えられないあはははっ!」


八幡「俺の目は綺麗にするとこうなるのか……」


結衣「あはははははっお腹痛い! あははっ」


八幡「ちょっとー? 笑いすぎじゃない?」


結衣「だ、だってこれとかヒッキー目がつぶらだし大きすぎるしで……ぷっはははっ!」


八幡「これやったのお前なんだけど……」


八幡(こうやって撮ったの見ると俺結構恥ずかしいことしてるな……)


八幡(由比ヶ浜が俺をくすぐってるやつなんて見方によっちゃあ由比ヶ浜が俺を脱がそうとしてるしな……)


八幡(こっちのも由比ヶ浜が俺にダイブしようとしてるから見方によっちゃ抱きつこうとしている風にも見えるし……)


結衣「はー、面白かった。はいっ、これヒッキーの分ね」


八幡「お、おう。別にいらんけど」


結衣「だーめ。ちゃんと持っとくこと!」


八幡「……は、はい」


結衣「いやー、遊んだねー」


八幡「だな」


結衣「百円使いすぎちゃったし、……そろそろ、帰ろっか」


八幡「おう」




結衣「ヒッキー今日はありがとね。無理矢理連れてきちゃったけど」


八幡「そこそこ楽しめたし別にいい」


結衣「そこそこなんだ……」


八幡「プリクラで魂吸われたせいでな」


結衣「いやいやプリクラにそんな力無いし」


八幡「疲れたってことだよ」


結衣「また、一緒に遊ぼうね?」


八幡「そのうちな」


結衣「……うん」


八幡「………」


結衣「………」


結衣「あ、あのさ。ヒッキー」


八幡「?」


結衣「ゆきのんが告白した人って……ヒッキー、だったんだね」


八幡「……雪ノ下から聞いたのか」


結衣「うん」


八幡「そうか……」


結衣「ヒッキーはさ。ゆきのんに返事、返したの?」


八幡「いや、まだ」


結衣「……そうなんだ」


八幡「ああ」


結衣「返事、返さないの?」


八幡「……そのうち」


結衣「ダメ」


八幡「………」


結衣「それはダメだよヒッキー。ゆきのんはちゃんとヒッキーに向き合って気持ちを伝えたんでしょ? なら、ヒッキーも向き合わなきゃ、ダメ……」


八幡「……そうだな。悪い」


結衣「……ううん」


結衣「あのね、ヒッキー」


八幡「……なんだ?」


結衣「ふぅー……」


結衣「あのね、ヒッキー。あたしも、さ。……ヒッキーのこと、好き、なの」


八幡「………」


結衣「ゆきのんの話の後だし、ずるいのはわかってるよ? でも……でもねヒッキー」


結衣「あたし、本気だよ? ヒッキーのこと、本気で好き。大好き。ゆきのんに負けないくらい……大好きなの」


八幡「由比ヶ浜……」


結衣「ヒッキーなら薄々あたしの気持ち気付いてるって思ってたんだけどなぁ。わかんなかった?」


八幡「いや、その……もしかしたらって何回も思ったことはあったし……薄々な」


結衣「そか。もしかしたらじゃなかったんだよ?」


八幡「……だな」


結衣「ヒッキーが気付く前からあたしはずっと、ヒッキーのことが好き。誰よりもヒッキーのことが大好き。これからもずーっとヒッキーの隣にいたい」


結衣「……だ、だから」


八幡「………」


結衣「あたしと……付き合ってください」


八幡「………」


八幡「……悪い」


八幡「俺は、由比ヶ浜とは付き合えない」


結衣「………………そっか」


結衣「それはさ……あたしじゃダメな理由があるってことかな?」


八幡「……ああ」


八幡「……他に、好きな人がいるんだ。だから、それはできない」


結衣「はは……。なら、仕方ない、ね」


八幡「でもその……ありがとな」


結衣「……ヒッキーのことだから、そこは絶対謝ると思った」


八幡「ここで謝る奴は自分はモテると自覚してる奴が言うセリフだ。俺なんかを好きになってくれたんだ。礼しか言えねぇよ」


結衣「それは違うよ」


結衣「ヒッキーだからこんな気持ちになったんだよ? ヒッキーだから、好きになったの」


八幡「……そうか」


結衣「うん。そうだ」


結衣「だから、さ。ヒッキーも絶対、その人にちゃんと想い、伝えてね」


八幡「……そのつもりだ」


結衣「あたしは、もう、大丈夫、だから……。あたし、ヒッキーの、思ってる以上に、強い、し」


八幡「……ああ」


結衣「すぐに、いつもの、あたしに戻る、から……だから」


八幡「………」


結衣「ありがと……ヒッキー。ちゃんと、答えて、くれて」


八幡「俺の方こそ……」


結衣「じゃあ、明日からはあたしたち、友達、だねっ」


八幡「……だな。友達だ」


結衣「へへ……。よし、この話はおしまい! あたし、バス停、こっちだから」


八幡「……わかった。気をつけてな」


結衣「……うん、ばいばい。ぬいぐるみありがと。また、明日ねっ」


八幡「また明日な……」


八幡「………」




陽乃「お、比企谷くんじゃーん。ひゃっはろーん!」


八幡「…………ども」


陽乃「こんなとこで会うなんて珍しいねー。今帰り?」


八幡「ええ、まあ。……失礼します」


陽乃「ストーップ。どうせ暇でしょ?」ガシ


八幡「あ、いや、これからちょっとあれなんで」


陽乃「そっか。ならちょっとお姉さんに付き合って」グイ


八幡「ちょっ、ならの使い方おかしいだろ……。マジで今は帰りたいんですけど」


陽乃「もー。しょうがないなぁ。だったら歩きながらで良いよ? 駅まで送ってくれればいいから」


八幡「えぇ……。今はそれどころじゃなくてですね……」


陽乃「それはガハマちゃんを振ったばっかだから?」


八幡「………」


陽乃「ありゃ、正解?」


八幡「……聞いてたんですか?」


陽乃「残念ながら何にも聞いてないよ。ただ、近くの公園でガハマちゃんが泣いてるのを見つけたからねー」


八幡「そっすか」


陽乃「ガハマちゃん、声掛けられないくらい大泣きしてたんだもん。もしかしたらと思って探してみたらやっぱり比企谷くんいた」


八幡「偶然なんかじゃなくて俺を探して会いに来たってわけですか」


陽乃「だって気になったんだもん」


八幡「趣味悪いですよ。それに、こればっかりは他人にほいほいしゃべるつもりはないです」


陽乃「もぉ、ケチ。……でも、まさかあのガハマちゃんがねぇ」


八幡「………」


陽乃「私はてっきり、君たちは誰一人として踏み込まないと思ってたなぁ」


陽乃「君たちはあんな紛い物が欲しかったんだなって嗤ってた」


八幡「………」


陽乃「なんでガハマちゃんを振ったの? 選ばないつもり?」


八幡「選ばないなんて身勝手で驕った真似をするつもりはないですよ」


陽乃「へぇ……。私は君なら絶対選ばないと思ってたなー。なんか生意気」


八幡「何故……。まあ、俺だって最初は選ぶつもりはなかったんですけどね……」


八幡「こればっかりは、ちゃんと応えないといけないですから」


陽乃「あっそ。でも仮に選んだとして、選んだ先に本物があるとは限らないよ?」


八幡「それはどっちにしたって同じですよ。それに嫌々選ぶわけじゃないですし」


陽乃「ふーん……。ちゃんと考えたってことでいいんだね」


八幡「はい」


陽乃「もし君のいう本物が手に入らないとわかったら、比企谷くんはどうするつもり?」


八幡「その時になってみないと、ですかね」


八幡「たしかに本物が欲しいとは言いました。今だってシンジツに触れたいと思ってます。でも、だからと言って本物が全てじゃない」


陽乃「本当にそう思ってる?」


八幡「思ってますよ。俺なんてまだまだ知らないことだらけの無知なガキです」


陽乃「生意気」


八幡「生意気ですよ」


八幡「だからもし仮に本物が手に入ったとして、それよりもずっと価値のあるものの存在を知った時、その時の俺はその本物を手放すかもしれない」


八幡「まぁ、どうせ実際はそんなことせずにどちらも手に入れようと思いますけど」


陽乃「本物よりも、ねぇ……。そんなものがあるとは思えないけど」


八幡「それでも俺はあると思っていますよ」


陽乃「へぇ……。なんで?」


八幡「何となく、ですかね」


陽乃「なにそれ。つまんないの」


八幡「俺だってまだ不明確なんですよ……。だから、そんなのよりも先に俺は本物が欲しいだけです」


陽乃「……そ。なーんか比企谷くん、素直すぎてつまんなくなっちゃったな~」


八幡「こんなの素直って言いませんけどね……」


陽乃「それで、雪乃ちゃんには告白するの?」


八幡「…………まぁ」


陽乃「ふぅん。比企谷くんって何だかんだ雪乃ちゃんが好きだったんだ。お姉さんの望みが叶って嬉しいなぁ」


八幡「……別にあんたの手のひらで踊らされたつもりはないですけど」


陽乃「踊らせてなんていないから安心していいよ。これは、比企谷くんが自分で決めて、自分が出した答えだよ」


八幡「……そうですか」


陽乃「そ・れ・で! ねぇねぇ、比企谷くんは雪乃ちゃんのどこを好きになったの? なんて告るつもり?」


八幡「……駅着きましたよ。俺はここで失礼するんで」


陽乃「あー、お姉さんを無視したらいけないんだぞー? ま、どうせ雪乃ちゃんと今度三人でじっくりお話し聞くつもりだからいいけど」


八幡「マジでか……。ていうかまだ結果わかんないでしょう」


陽乃「わかるよ。だって君たち、とってもお似合いだもん」


八幡「……それ理由になってないんですけど」


陽乃「言っとくけど、うちは怖いよー? 母が特に」


八幡「でしょうね……」


陽乃「雪乃ちゃんと喧嘩したらいつでも私のとこに来ていいからね。お姉さんが優しく慰めてあげるからっ」


八幡「……いえ、間に合ってます」


陽乃「あ、そうそう。両親に挨拶する時はちゃんと予習復習するんだよ?」


八幡「だからそうなるかまだわかんないですって。ってか復習もすんのかよ……」


陽乃「ウチの両親一度言ったことは中々忘れないからね」


八幡「なるほど……」


陽乃「じゃ、私はそろそろ行くね。私の電話番号は前に私が掛けたことあるし知ってるよね? 雪乃ちゃんに告白したらその日の夜に結果を報告すること」


八幡「は? えっ? 絶対嫌なんですけど……」


陽乃「だーめっ。雪乃ちゃんと付き合うってことは私とも付き合っていくことになるんだから。もちろん、お義姉ちゃんって意味でね?」


八幡「マジかよ……」


陽乃「大マジだよ。いいね? ちゃーんと電話で報告すること。じゃないとお姉さんは一生認めないからね! じゃあねー」


八幡「あ、ちょっと! ……はぁ」




~翌日~


八幡「………」ガラガラ


雪乃「こんにちは」


八幡「うす」


雪乃「由比ヶ浜さん、今日は家の用事で来れないそうよ」


八幡「……そうか」


雪乃「………」ペラッ


八幡「………」


雪乃「………」ペラッ


八幡「………」スゥー


八幡「………」ハァー


八幡「………」


八幡「……なあ、雪ノ下。ちょっといいか」


雪乃「?」


八幡「いや、その、なんだ。話がある」


雪乃「話?」


八幡「ああ。この前の、告白の件なんだが」


雪乃「……それならあの時言ったはずよ。返事は返さなくていいって」


八幡「でも返すなとは言われてない」


雪乃「……それもそうね」


八幡「でも、あれだよな。告白された数日後に告白の返事を返すのって何だか恥ずかしいし恰好悪いよな……」


雪乃「そう? なら、返さなくてもいいんじゃない? 別に格好悪いのは今に始まったことじゃないのだから」


八幡「おい、一言余計だぞ。否定はしないけど」


雪乃「しないのね……」


八幡「ふっ、まぁな……。それでだ、雪ノ下」


雪乃「……何かしら」


八幡「俺はお前が好きだ」


雪乃「……ず、随分と突然言いだすのね」


八幡「最初にいきなり言ってきたのそっちだぞ……」


雪乃「そうだったわね……」


八幡「ずっと見えないふりをしてきたり、事実から目を逸らしたりしてきたけど、お前に告白されて、そういうのはもうやめたんだ」


雪乃「……と言うと?」


八幡「お前は俺に本物なんてないって言ったよな」


雪乃「ええ、言ったわ」


八幡「本物なんて絶対手には届かないような、ひどく独善的で独裁的で傲慢な願いだってことはわかってる」


八幡「そうとわかってても俺はお前と……雪ノ下雪乃と、そうありたいと思う」


雪乃「………」


八幡「でも、いくら願ったとこで欲しい物が必ず手に入るとは限らないことくらい知ってる」


八幡「本物は欲しい。けど、最悪本物なんて手に入らなくてもいい。その代わり、お前の傍にだけはいたい」


雪乃「何よそれ……。ずっと欲しかったものを諦めてまで私の傍にいたいなんて、ちょっと引くわよ?」


八幡「だよな……。だが断言してもいい。本物が無くたって俺は、お前となら後悔なんてしたりしないし手放したいと思ったりもしない」


八幡「まだ俺はお前のことをちゃんとは知らないし、理解もしてない。それでもお前となら……」


雪乃「そんなの……何を根拠に……」


八幡「好きだからだ。雪ノ下のことが」


雪乃「そんな根拠……聞いたことないわね」


八幡「理屈も根拠もないんだよ。それに今はそんな不確定な未来の話なんてどうでもいい」


八幡「俺は、未来や本物なんかよりも今が欲しい」


八幡「好きなんだ雪ノ下。誰よりも」


雪乃「……驚いたわ。あなたがここまで気持ちをぶつけてくるなんて。……あと、ちょっと重いわ」


八幡「お、おう……。仕方ねぇだろ、本気で人を好きになったの初めてなんだよ……」


雪乃「……そう。ここでもし、私が断ったりしたら?」


八幡「俺の黒歴史が久しぶりに更新されるな」


雪乃「私、好きなものにはとことん愛でて尽くすタイプよ?」


八幡「だろうな。知ってる」


雪乃「それに私、かなり面倒臭い女よ?」


八幡「それも知ってる。それに、面倒臭さなら負けないぞ」


雪乃「確かに……」


八幡「こういう時だけあっさり負け認めんなよ……」


雪乃「なら、引き分けね」


八幡「まぁなんでもいいけど」


雪乃「……ねぇ、比企谷くん」


八幡「ん?」


雪乃「私もあなたが好きよ。あなたが想っている以上にね」


八幡「……おぉ」


雪乃「だから、その。……こんな私で良かったらあなたと」


八幡「こんな雪ノ下だから良いんだ。悪いとこも含めてな」


雪乃「……ふふっ、あなたが言うにはとてもじゃないけど似合わないセリフね」


八幡「うっせ……。言った後に猛烈に恥ずかしくなってんだよ今」


雪乃「でも、嬉しいわ」


八幡「………」


八幡「じゃあ、なに……その、これからよろしく……?」


雪乃「え、ええ。こちらこそ……?」


八幡「………」


雪乃「………」


八幡「……で、どうすりゃいいんだ?」


雪乃「わ、私に聞かれても……」


八幡「付き合うことになった直後って皆どうしてんだよ……」


雪乃「……いつも通りにしてればいいんじゃないかしら。わ、わからないけれど」


八幡「そ、そうか? ……なら、いつも通り……」


雪乃「え、ええ」


八幡「………」


雪乃「………」


八幡「………」


雪乃「比企谷くん」


八幡「な、なんだ?」


雪乃「その……や、やっぱり何でもないわ」


八幡「……おおう」


雪乃「………」


八幡「………」


雪乃「………」


八幡(告白した矢先、今この時だけは沈黙超きついんだけど……)


八幡「………」チラッ


雪乃「………」


雪乃「………」フイッ


雪乃「………」カアア


八幡(今日ばっかりは依頼者ー! はやくきてくれーっ!! たのむーっ!!!)




~一週間後~


八幡「おーい小町、俺もう出るけどお前どうする? 学校まで後ろ乗ってくか?」


小町「小町今日はいいー! その代わりに愛しの彼女を乗せてあ・げ・て。キャー!」


八幡「くっそうぜぇ……」


小町「いやー、まさかお兄ちゃんが本当に雪乃さんと付き合うとは思わなかったなー」


八幡「俺もそう思う」


小町「実はね? 雪乃さんからお兄ちゃんになんて告白されたのか小町、聞いちゃった」テヘッ


八幡「……何勝手に聞いてんだよ」


小町「だってー、お兄ちゃん雪乃さんをどう口説き落としたのか何も教えてくれないじゃん! 顔は真っ赤なくせに頑なに口噤んじゃってさー」


八幡「口説き落とすってお前……。いや、そもそも妹に彼女できたとか自慢するの恥ずいし嫌だし……。あと恥ずいし……」


小町「でも雪乃さん、電話で色々教えてくれたよ? 電話越しに照れてる雪乃さん可愛かったな~」


八幡「そうやってお兄ちゃんの言動いちいちチェックするとか八幡的にポイント低……」


小町「好きなんだ雪ノ下。誰よりも」キリッ


八幡「ちょっと小町ちゃんやめてよぉおおお! やめたげてよぉおおお!!」


小町「雪ノ下だから、いいんだ」キリッ


八幡「お願い! お願いもうやめてッ! 八幡のライフはゼロよ!」


小町「いーじゃん減るもんじゃないしさー」


八幡「いや、減ってる。超減ってるよ? 特にお兄ちゃんのライフとか」


小町「も~。そこは逆にドヤッ!って胸張るとこでしょ? 雪乃さんの話聞いた時は小町、妹なのに結構グッときたよ?」


八幡「お前はグッとこなくていいんだよ……」


小町「お兄ちゃんみたいなゴミ人間でも雪乃さんみたいな超絶美人な彼女さんができたんだから、ちゃんと自分に自信持つこと。いい?」


八幡「お、おう。ちょっと辛辣じゃなかった?」


小町「ほらほら、学校遅れるよ! 小町はまだパン残ってるしこれ食べて行くから!」


八幡「……わかった。戸締まりよろしくな」


小町「かしこまりーっ! 彼女さんによろしくねっ!」


八幡「……はいはい」




~昼休憩~


八幡(小町によろしくとは言われたが、実際放課後しか雪ノ下とは会わないわけでして……)


八幡(部室や教室での由比ヶ浜はすっかりいつもの元気で優しい、お馬鹿な由比ヶ浜に戻ってたな……。まぁ、まだ無理してるのかもしれないけど)


八幡(そういえば雪ノ下とは付き合うことになったくせに未だ連絡先知らないんだよなぁ……)


八幡(あれ? 俺ってほんとに雪ノ下と付き合うことになったんだよね? 告白したっけ?)


八幡(……あ、駄目だ思い出したら恥ずかしくて死にたくなってきた。告白してますわこれ)


八幡(にしても雪ノ下と付き合うことになったとはいえ、何すりゃいいんだ? あれから奉仕部はいつも通りだし)


八幡(彼女なんて言わずもがな雪ノ下が初めてなわけで、いきなり世のリア充共がやってそうな恋人っぽいことなんてできねぇし……)


八幡(……ていうか俺も、リア充になったのか?)


八幡(いや、実際にはまだ雪ノ下と付き合うことになっただけで充実してるかと言われたらまだ何とも言えないな……)


八幡(数日経っただけじゃで進展するわけないよな……俺と雪ノ下だし)


八幡「はぁ。今日は戸塚、昼練してないのか……」モグモグ


雪乃「一人で何を呟きながらパンをかじっているのかしらこの男は」


八幡「っ!?」ビク


雪乃「その、驚かすつもりはなかったのだけれど……」


八幡「な、なんでここいんの?」


雪乃「あら、私がここにいたら悪い?」


八幡「いや悪くないけど……」


雪乃「由比ヶ浜さんとお昼を食べるつもりだったのだけれど、あなたがいつもここでお昼を食べているからたまには行ってほしいと言われて……」


八幡「そうか。あいつ……」


雪乃「嫌だった?」


八幡「逆だ逆。ありがたいなっていうアレだ」


雪乃「そう。ならいいのよ、来てあげたことに感謝なさい」フッ


八幡「なんでちょっと見下してんだよ……」


雪乃「……隣、いいかしら?」


八幡「ああ。どーぞ」


雪乃「じゃあ……」チョコン


八幡「………」


雪乃「………」


雪乃「比企谷くん」


八幡「ん?」


雪乃「私、あれから一つ気づいたことがあるの」


八幡「ほう。何だ?」


雪乃「私、案外独占欲も強いみたい」


八幡「へぇ、独占欲ねぇ……。なーんかわかる気がするわ」


雪乃「私、そう見えるの?」


八幡「見えるというかなんというか束縛強そうだよな、お前。あとヤンデレになりそう」


雪乃「束縛……」


八幡「まぁ、別に俺は気にしないけどな。俺は何もない時は基本家にいるし、既に我が家に束縛されているまであるからな」


雪乃「それはただの引きこもりと言うのだけれど……。でも、言ったわね?」


八幡「えっ……。や、ヤンデレは困るからね?」


雪乃「冗談よ」


八幡「……ならいいんだけどさ」


雪乃「でも、独占欲が強いのは本当よ?」


雪乃「だから……」


八幡「え、なに。ちょおま、待っ………………」


雪乃「……っ」


八幡「……だ、だからいきなりはやめろっての」カアア


雪乃「たまには積極的になったっていいでしょう?」


八幡「せめて一言だな……」


雪乃「言ったところであなた、してくれそうにないんだもの。それに、先に宣言してからするのは、恥ずかしいし……」カアア


八幡「急にされたらこっちが恥ずいんだよ……」


雪乃「そう? なら、これからもっとやってみようかしら」クスッ


八幡「元々お前こんなことするタイプじゃないだろ……。今だって顔、超赤いぞ?」


雪乃「……そんなことないわ」カアア


八幡「無理すんなっての」


雪乃「言ったでしょう? 私、好きなものはとことん愛でるタイプなの」


雪乃「だから、覚悟しててね?」


八幡「……おう」

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後書き

以上で完結となります。初投稿にも関わらず大量のキタイコメント、たくさんの応援、評価ありがとうございました。
そして、拙い文章ではありましたが少しでも読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!


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2016-07-18 08:05:13

SS好きの名無しさんから
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2015-11-30 10:03:29

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2015-11-29 14:37:04

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2015-11-29 00:52:36

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2015-11-28 23:37:52

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2015-11-28 14:35:55

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2015-11-27 15:51:56

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2015-11-27 10:07:33

SS好きの名無しさんから
2015-11-27 01:26:47

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2015-11-26 00:25:49

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2015-11-25 22:37:19

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2015-11-25 18:49:52

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2015-11-25 03:07:33

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2015-11-25 00:53:52

SS好きの名無しさんから
2015-11-24 22:07:56

SS好きの名無しさんから
2015-11-24 18:50:35

SS好きの名無しさんから
2015-11-24 18:29:11

SS好きの名無しさんから
2015-11-24 01:21:03

SS好きの名無しさんから
2015-11-23 22:17:55

SS好きの名無しさんから
2015-11-23 13:39:59

SS好きの名無しさんから
2015-11-23 11:32:40

SS好きの名無しさんから
2015-11-22 21:25:11

SS好きの名無しさんから
2015-11-22 11:21:22

SS好きの名無しさんから
2015-11-22 03:37:07

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2015-11-22 03:29:01

SS好きの名無しさんから
2015-11-21 21:48:27

SS好きの名無しさんから
2015-11-21 21:13:19

SS好きの名無しさんから
2015-11-21 01:19:15

SS好きの名無しさんから
2015-11-20 22:40:27

SS好きの名無しさんから
2015-11-20 18:38:39

SS好きの名無しさんから
2015-11-20 00:23:24

SS好きの名無しさんから
2015-11-19 23:58:49

SS好きの名無しさんから
2015-11-19 23:24:35

SS好きの名無しさんから
2015-11-19 02:56:03

SS好きの名無しさんから
2015-11-19 01:48:45

SS好きの名無しさんから
2015-11-19 01:46:16

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 23:48:37

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 22:46:12

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 17:14:24

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 15:46:26

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 12:13:36

SS好きの名無しさんから
2015-11-18 06:09:48

黒焔さんから
2015-11-17 23:04:19

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 18:08:15

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 16:38:15

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 16:18:05

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 12:30:00

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 12:23:06

SS好きの名無しさんから
2015-11-17 03:13:31

このSSへのコメント

79件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-11-17 10:49:01 ID: dA2SB58Z

期待

2: SS好きの名無しさん 2015-11-17 16:18:01 ID: o0u8fv55

期待

3: SS好きの名無しさん 2015-11-17 18:08:27 ID: lNPLluWs

期待

4: SS好きの名無しさん 2015-11-17 23:05:15 ID: vd72dqGo

期待

5: SS好きの名無しさん 2015-11-17 23:24:05 ID: b0V75dmn

期待

6: SS好きの名無しさん 2015-11-18 00:50:33 ID: 0tFl9mpI

雪ノ下は合気道が使えたはず

7: SS好きの名無しさん 2015-11-18 20:22:46 ID: QKR3xTjS

きたい

8: SS好きの名無しさん 2015-11-19 01:46:27 ID: QOuKpFTf

期待

9: SS好きの名無しさん 2015-11-19 01:50:49 ID: ylazdyFt

待機

10: SS好きの名無しさん 2015-11-19 17:51:05 ID: TDCIROh_

超期待

11: SS好きの名無しさん 2015-11-20 00:27:06 ID: 4-jdxaCF

機体

12: SS好きの名無しさん 2015-11-20 17:20:16 ID: 7hG_C4mK

気体

13: SS好きの名無しさん 2015-11-20 19:08:58 ID: GXfTanzD

機体

14: SS好きの名無しさん 2015-11-21 00:24:20 ID: 0P39x4Y-

期待

15: SS好きの名無しさん 2015-11-21 21:28:57 ID: K1lIROMK

期待

16: SS好きの名無しさん 2015-11-22 04:04:49 ID: kxM9r5T9

めっさ期待

17: SS好きの名無しさん 2015-11-22 22:51:15 ID: _k0SSCrl

北井

18: SS好きの名無しさん 2015-11-23 00:32:15 ID: XoW-nV0p

とても期待

19: SS好きの名無しさん 2015-11-23 01:39:07 ID: qG1eqav1

希代

20: SS好きの名無しさん 2015-11-23 21:10:55 ID: aV2wMSgm

期待っていうコメント多すぎwww

期待

21: SS好きの名無しさん 2015-11-24 00:58:40 ID: LVED3-nJ

期待

22: SS好きの名無しさん 2015-11-24 01:22:39 ID: MGZFY2Jc

奇態

23: SS好きの名無しさん 2015-11-24 06:45:09 ID: CF6BLw8n

痴態

24: SS好きの名無しさん 2015-11-24 12:29:21 ID: lBx2K8u4

期待

25: SS好きの名無しさん 2015-11-24 19:15:49 ID: eIPkTK9Z

期待してる

26: SS好きの名無しさん 2015-11-24 19:27:30 ID: pElPPs8T

擬態

27: SS好きの名無しさん 2015-11-24 23:28:47 ID: YDNSLeya

擬態

28: SS好きの名無しさん 2015-11-25 00:54:02 ID: VSdcZRYd

期待

29: SS好きの名無しさん 2015-11-26 00:09:48 ID: -31ItB3H

期待

30: SS好きの名無しさん 2015-11-26 12:23:18 ID: EwH87Tfe

期待

31: SS好きの名無しさん 2015-11-27 00:30:20 ID: SwsPAhgr

期待

32: SS好きの名無しさん 2015-11-27 14:14:26 ID: oeRpm0BD

期待

33: SS好きの名無しさん 2015-11-27 18:11:39 ID: iPgGamAU

期待値

34: SS好きの名無しさん 2015-11-29 02:07:23 ID: dUDtDHhZ

北井

35: SS好きの名無しさん 2015-11-29 02:27:52 ID: abwRrJea

期待です

36: SS好きの名無しさん 2015-11-30 02:17:08 ID: _hAL1lUw

來葦

37: SS好きの名無しさん 2015-11-30 10:04:15 ID: Nr9CPviZ

ゆきにゃん良かった

期待

38: SS好きの名無しさん 2015-11-30 13:40:16 ID: H2NwVkhW

喜多井

39: SS好きの名無しさん 2015-11-30 20:35:28 ID: dJ337KyM

貴台

40: SS好きの名無しさん 2015-12-02 10:07:03 ID: 6CZeNvka

来たい

41: SS好きの名無しさん 2015-12-02 18:35:08 ID: gH5fAzaf

きたない

42: SS好きの名無しさん 2015-12-02 19:21:16 ID: e9skulI1

期待

43: SS好きの名無しさん 2015-12-05 11:12:05 ID: Pkc1zA1P

擬態

44: SS好きの名無しさん 2015-12-05 13:00:52 ID: 4ENEMTZ6

奇態

45: SS好きの名無しさん 2015-12-05 15:14:58 ID: 4-ySfsI-

ゆきのん要素薄れてきてるじゃないか
もっとゆきのん

46: SS好きの名無しさん 2015-12-05 16:20:44 ID: bCkhDavU

稀體

47: SS好きの名無しさん 2015-12-06 19:09:08 ID: q0MuwqXM

気体

48: SS好きの名無しさん 2015-12-06 23:37:45 ID: _WoTuiD9

雪ノ下どこいった

49: SS好きの名無しさん 2015-12-07 07:06:07 ID: U0Nfupjy

着たい

50: SS好きの名無しさん 2015-12-09 16:34:00 ID: ZUdd_6bF

帰隊

51: SS好きの名無しさん 2015-12-09 16:51:46 ID: D64NJNq4

なんだこれ期待ヤバすぎ


稀代

52: SS好きの名無しさん 2015-12-09 16:53:26 ID: D64NJNq4

最近NTR的なものが流行ってたから
こーいうの落ち着くわ
NTR的なもの書く人特殊性癖ヤバすぎ

53: SS好きの名無しさん 2015-12-11 10:21:28 ID: U4k1IMkn

喜多井

54: SS好きの名無しさん 2015-12-11 14:13:02 ID: Am-Ii9aN

鬼胎

55: SS好きの名無しさん 2015-12-11 19:13:22 ID: 9Sffjv8Z

きたい

56: SS好きの名無しさん 2015-12-14 09:24:22 ID: JJw1GJyD

きつぁい

57: SS好きの名無しさん 2015-12-15 08:25:51 ID: 94vmL6_F

きたいん

58: SS好きの名無しさん 2015-12-16 23:49:30 ID: OxxzEm0K

いいねぇ、こっから修羅場か?

59: SS好きの名無しさん 2015-12-19 15:37:41 ID: SC2toS-6

きたい

60: SS好きの名無しさん 2015-12-22 09:48:12 ID: Wigk2YRc

きたい

61: SS好きの名無しさん 2015-12-22 13:38:30 ID: 40Amz9Rj

気滞

62: SS好きの名無しさん 2015-12-24 03:32:17 ID: w8X9XAIa


普通によかったと思う

63: SS好きの名無しさん 2015-12-24 11:25:27 ID: 40V5BBIs

楽しませて&ニヤニヤさせていただきました。
乙でした。

64: SS好きの名無しさん 2016-01-02 20:38:31 ID: JwELlDtW

2828282828282828282828282828







はあ...

65: SS好きの名無しさん 2016-05-15 16:54:46 ID: cv-tiKn-

このコメント欄おもしろw



期待

66: エア本 2016-06-16 11:31:34 ID: Se7JzOAB

雪ノ下は最高☆

67: SS好きの名無しさん 2016-08-23 22:30:45 ID: maNs8lgD

奇体

68: SS好きの名無しさん 2016-08-26 03:48:13 ID: KP_ricpJ

待機

69: SS好きの名無しさん 2016-08-29 21:29:09 ID: CIdVqNWn

まさかこれで終わった訳じゃねぇよなぁ…(震声)

70: SS好きの名無しさん 2016-08-29 21:32:17 ID: 3IEIj4hb

八幡の写真撮る時に由比ヶ浜のセリフ終わった瞬間うま!このバナナ!、由比ヶ浜だとエロいね

71: SS好きの名無しさん 2016-09-19 05:40:46 ID: 83v015tY

は…はやく次を更新してくれ…続きが見たくておかしくなりそうだぜ…

72: SS好きの名無しさん 2016-11-10 08:56:45 ID: sNBpIw9r

着たい

73: SS好きの名無しさん 2016-11-15 10:13:57 ID: R0EXNy2V

続き楽しみにしてます

74: SS好きの名無しさん 2016-12-01 10:15:45 ID: cmA71e3l

擬態

75: SS好きの名無しさん 2017-01-02 00:47:37 ID: Qr3dYd1k

機体

76: SS好きの名無しさん 2017-03-06 18:43:08 ID: OP_7eWXC

イヤー良かった
12巻もアナウンスされたしまたSSが増えるかな

77: SS好きの名無しさん 2017-03-19 04:47:16 ID: yzhUCzYE

KITAI

78: SS好きの名無しさん 2017-06-27 14:10:09 ID: MeCb4V_p

裸体

79: SS好きの名無しさん 2021-09-26 23:07:02 ID: S:ycB6Jl

激しく期待


このSSへのオススメ

13件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2016-08-18 20:31:58 ID: ZOwNQwNZ

神SS

2: SS好きの名無しさん 2016-08-23 22:31:04 ID: maNs8lgD

続き書いてよ

3: SS好きの名無しさん 2016-09-01 18:25:42 ID: yIZ9L9qx

これはすごち

4: SS好きの名無しさん 2016-09-01 21:24:10 ID: wjDdw3PG

今が欲しいってとこすごい好き

5: SS好きの名無しさん 2016-12-20 10:23:48 ID: r2JpzW03

おもしろかったです!(´∀`)b

6: SS好きの名無しさん 2017-05-08 13:26:38 ID: 2BU1z8Sh

面白いがチルダは〜ではない
チルダは~であり、〜は波線である

7: SS好きの名無しさん 2017-07-26 02:29:27 ID: lFsuRE3r

名作

8: SS好きの名無しさん 2018-08-30 18:52:07 ID: E39F1rge

原作と変わらないクオリティ
素晴らしい

9: SS好きの名無しさん 2018-12-23 08:02:10 ID: S:qG0sH8

本編も雪ノ下エンドがええな

10: SS好きの名無しさん 2019-03-25 22:47:27 ID: S:mgbaIz

やっぱ八雪だな

11: SS好きの名無しさん 2020-10-01 13:21:20 ID: S:x2wJCp

2回目だけどやっぱ気体

12: SS好きの名無しさん 2021-09-26 23:07:40 ID: S:ZozfTl

最高。
うん。最高

13: SS好きの名無しさん 2023-12-10 01:28:44 ID: S:0U30Mb

初投稿でこのクオリティ


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