大学生になった八幡と雪乃のお話。続
ほのぼの重視の短編台本形式。各話500字~3000字程度。
設定:八幡と雪乃は恋人同士。お互い千葉を出て一人暮らし中。大学では三回生。
2017/03/05 完結しました。
2020/04/29 ほんの少しだけ続きます。
前→雪乃「ねぇ、比企谷くん。かまって」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「比企谷くん」
八幡「なんだ?」ペラッ
雪乃「暇そうね」
八幡「まあ暇っちゃ暇だな」
雪乃「そう。私も暇よ」
八幡「そうか」
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
雪乃「出掛ける予定とか無いの?」
八幡「今日は無いな」
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
雪乃「……ねぇ、比企谷くん。私とゲームをしたいとは思わない?」
八幡「ゲーム?」
雪乃「そう、ゲーム。今から会話の中で外来語を使ったら負けよ」
八幡「ほう? 雪ノ下からこういった遊びを提案してくるのは珍しいな」
雪乃「仕方ないでしょう。暇だと言っても誰かさんは私にかまってくれる素振りすら見せず読書を続けているんだもの」
八幡「……俺のせいでしたか。そんな遠回しに言わなくても率直に構えって言ってくれれば何でも付き合うからね?」
雪乃「ならこのゲームに付き合ってもらうわね。由比ヶ浜さん曰く一回外来語を使う毎に罰ゲームだそうよ」
八幡「あぶない交遊録的なやつか。面白そうだけど罰金はさすがに困るぞ?」
八幡(……てか由比ヶ浜の奴ポッキーゲームといいまたパーティゲームを雪ノ下に勧めやがったな。他にチョイスもっとあっただろ。俺は思いつかんけど)
雪乃「私も罰金はさすがに……。罰ゲームはそうね……何がいいかしら」
八幡「常識の範囲内なら何でもいいぞ」
雪乃「何でも……。ならばこうしましょう。外来語を一回使う毎に相手の言われたことを何でも一つ聞く」
八幡「えっ。そういうつもりで何でもと言ったわけじゃないんですが……。下手したら結構な数の命令に従う羽目になるな」
雪乃「別に外来語を使わなければいいだけなのだから、比企谷くんならこれくらい余裕でしょう?」
八幡「ほっほーう……挑発してくれるじゃねぇか。いいぜ。ならそのルールで受けて立つ」
雪乃「決まりね。なら今からカタカナを使っては駄目よ」
八幡「あいよ」
雪乃「ではスタート」
八幡「………」
八幡(今のスタートはつっこんでもいいんだろうか……)
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡(雪乃&八幡のあぶない交遊録が始まって早10分)
八幡(俺と雪ノ下はお互い片仮名をうっかり使わないよう考えた結果がこの沈黙である)
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」チラッ
八幡「……?」
雪乃「………」クイクイ
八幡(何か話せってか……。顎で催促してくんなよ……)
八幡「あー……明日って時間あるか? 海行くって話してたし水着でも買いに行きたいんだが……」
雪乃「明日? ……明日はその、午後からゼミでの集まりがあるの。明後日なら大丈夫だけれど……」
八幡「そか。んじゃ明後日行こうぜ。あと、とりあえずお前ゼミって言ったから罰1な」
雪乃「……あ」
八幡「話した途端これか……。さて、たしか何でも命令していいんだったよな」
雪乃「な、何でもとは言ったけれど常識の範囲内でよ? あなたはただでさえ常識が無いのだからちゃんと考えてから言ってちょうだい」
八幡「俺が非常識なのを前提で話さないでもらえる? 多少はあるからね?」
雪乃「それでも多少なのね……」
八幡「命令か。そうだな……とりあえず最初だし簡単なのにしとくか」
八幡「俺に向かって『大好きにゃんっ』って可愛く言ってみてくれ」
雪乃「………」
八幡「どうした? 固まってないでほら早く」
雪乃「……比企谷くんって本当に変態よね」
八幡「何でも命令できるんだからこういうことはこういう時にお願いしとかないとだろ。普通に言ったら絶対言ってくれないし」
雪乃「当然よ。いくらあなたの頼みだろうとそんな辱めを受けるくらいなら死を選ぶわ」
八幡「そこは我慢してでも生きてくれよ……。なら尚更やってもらっておかないとな」
八幡「というわけでお願いします」
雪乃「……い、一度しかしないわよ」
八幡「おう」
雪乃「………」
雪乃「だ……大好きにゃんっ」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「ふぅ……。再開するか」
雪乃「………」カアア
八幡「で。話しを戻すが明後日なら大丈夫なんだよな?」
雪乃「え、ええ。特に予定は無いけれど」
八幡「なら水着買いに行くのは明後日にするか。と言っても水着売ってる場所知らないんだよな……」
雪乃「それなら前に二人で行ったショッ……商業施設に行けばあると思うわ」
八幡「じゃ、またあそこ行くか」
雪乃「ええ」
八幡(ショッピングモールで上手く引っかかると思ったのにギリギリで踏ん張ったな。……てかこいつこのゲーム向いてないだろ)
雪乃「比企谷くん。一つ問題を出してもいい?」
八幡「問題? んだよ急に」
雪乃「名画泣く女を描いた画家の名前を答えなさい」
八幡「………」
八幡(露骨に嵌めに来たな)
八幡「それ答えないと駄目なの?」
雪乃「逆にこんな問題もわからないの?」
八幡「えぇ……。答えが片仮名必須なんだけど……」
雪乃「言っていることがよくわからないわね。ほら、簡単でしょう? 早く答えて?」
八幡「………」
八幡「確かあれだったよな。その画家って他にもひまわりとか描いた人だよな」
雪乃「それはゴッホよ。私が言っ」
八幡「………」
雪乃「…………ご、ごほっごほっ。ごめんなさい。最近少し風邪気味で……」
八幡「………」
雪乃「ごほ……ごほ……」
八幡「………」
雪乃「ご、ごほ……」カアア
八幡「………」
雪乃「……ええ、そうよ。別に風邪気味でも無いし、ゴッホとはっきりと言ったわ。どうせ無理に誤魔化して痛い女だとでも思っているのでしょう?」
八幡「勝手に開き直るなよ。俺何も言ってないし何も思ってないんだけど……」
八幡「ていうかお前、この遊戯向いてなさすぎだろ。なんでこうもさらっと片仮名使っちゃうわけ?」
雪乃「知らないわよ……。心当たりがあるとすれば、きっとあなたと違って捻くれたりせずにありのままの私であなたと接しているからでしょうね」
八幡「一応俺もありのままの俺で接してるんだよなぁ……」
雪乃「………」フイッ
八幡「まぁ……ありのままって言うならそうだな」グイッ
雪乃「え? ――きゃっ!?」
八幡「紳士ぶってそっち系の命令はしないつもりだったが、俺もありのままお前にしたいことをする」
雪乃「あ、ありのままって何を……ひぅっ」
八幡「どうせこういうのを期待してたんだろ? 何でも言うことを聞くって罰ゲームを提案した地点で薄々感じてはいたが」
雪乃「そ、そんな……。私はそんなつもりで言ったわけでは……」
八幡「どうだろうな。……ま、体に訊けばわかるか」
雪乃「お、お願い待って……。そんな……んむっ――!?」
八幡「…………何でも言うこと聞いてくれるんだろ? もうわかってるよな」
雪乃「………」
八幡「少しくらいなら雪ノ下のお願いも聞いてやってもいいぞ?」
雪乃「…………から」
八幡「あん?」
雪乃「……痛くしたら許さないから」
八幡「やっぱ期待してたんだな」
雪乃「……ばか」
雪乃「…………て…………くん」
八幡「……んん」
雪乃「――起きて、比企谷くん」
八幡「んあ……? 雪ノ下?」
雪乃「おはよう。比企谷くん。一体いつまで寝ているつもり?」
八幡「…………まだ眠いからとりあえず昼まで寝かしてくれ……」
雪乃「もう既にお昼の1時なのだけれど……。まったく、よくもまあこんな暑い中お昼まで寝ていられるわね」
八幡「………」
雪乃「今日水着を買いに行こうと言ったのは比企谷くんなのよ? だからほら、起きて早く準備なさい」
八幡「………」
雪乃「起きて」
八幡「………」スヤァ
雪乃「……先週千葉に帰った時に平塚先生から教わった正拳突きを試す時が来たようね」
八幡「起きた! もう起きたぞ! だから拳入れるのはだけやめて……」
雪乃「そう? ……ちなみに私は平塚先生から正拳突きなんて教わっていないわ」
八幡「あ、おま、謀ったな……?」
雪乃「別に謀ったりなんかしていないわよ。平塚先生に教わらなくたって正拳突きくらい私にだってできるもの」ニッコリ
八幡「…………顔洗ってくる」
雪乃「ええ。いってらっしゃい」
八幡「てか、顔洗うついでにシャワー浴びてきていいか? 寝汗も流したいし」
雪乃「ならその間に私は布団をしまっておくわね。それと紅茶でも淹れておく?」
八幡「お、じゃあ頼む。サンキュな。すぐ済ますわ」
雪乃「待ってるわね」
雪乃「………」
雪乃「……さて、と。一晩私が泊まらなかっただけでどうしてこんなにも衣服や漫画が散乱するのかしら……。これらも片した方が良さそうね」
雪乃「まず比企谷くんの布団を先に……」
雪乃「………」
雪乃「…………比企谷くんの、比企谷くんが寝ていた布団」
雪乃「………」チラッ
雪乃「………」
雪乃「………」スンスン
雪乃「比企谷くんの匂い……。少し汗の臭いもするけれど、嫌な臭いではないわね……」
雪乃「………」スンスン
八幡「悪い雪ノ下。パンツ用意するの忘れてた。そこらへんにしまってあるの一つ持ってきてくれないか?」ガチャッ
雪乃「ひゃっ!?」
八幡「ど、どうした変な声なんか出して……。それになんで布団の上で正座なんかしてんだ?」
雪乃「い、いえ、な、何でもないの。す、少し足を滑らして膝をついただけだから。布団の上に座りたくて座っているわけではなくて、思わず膝をついただけだから」
八幡「お、おう。大丈夫か?」
雪乃「だ、だだ大丈夫よ。そ、それよりも下着は後でそちらに置いておくから」
八幡「……? あ、ああ。助かる」バタン
雪乃「………」
雪乃「……ば、バレてないわよね」カアア
八幡「暑い……」
雪乃「………」
八幡「あっつい……」
雪乃「少し黙っていてもらえるかしら。隣で暑い暑いと連呼されては私まで暑苦しく思えてくるじゃない」
八幡「本当に暑いんだから仕方ないだろ。暑いのは苦手なんだよ……。それに今日は今年一番の暑さらしいぞ?」
雪乃「だからと言って何度も口に出さないでちょうだい。ショッピングモールに着けば冷房もきいているだろうし、それまで我慢なさい」
八幡「その着くまでが辛すぎるんだけど……。まさかこの俺がこんな猛暑の中を出歩くなんて」
雪乃「いいから我慢なさい」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「……暑い」
雪乃「うるさい」
八幡「……暑い」
雪乃「………」
八幡「……暑い」
雪乃「次暑いと言ったら怒るわよ」
八幡「……あとぅい」
雪乃「うざ……」
八幡「………」
雪乃「あのね比企谷くん。今日こうしてデートに誘ってくれたのはあなたの方でしょう? だったら少しは私を楽しませて。暑いのは私だって同じなのだから」
八幡「楽しませろって言われても目的地着いてからでないと無理だろ」
雪乃「そうかしら? 私はこうしてあなたと二人で話しながら歩いているだけでも十分楽しいのだけれど」
八幡「お、おぉ」
雪乃「えげつない顔で何度も暑いと言われるとさすがに気分が沈んでしまうけれどね……」
八幡「あー、悪かったよ……。もう言わねぇから。てかエグい顔はしてないだろ」
雪乃「いいえ、してたわ。こんな可愛い彼女と並んで歩いているというのに、まるで感染したゾンビのようだったわよ?」
八幡「何ハザードだよそれ。てか自分で可愛いとか言っちゃうのな」
雪乃「あら、では比企谷くんから見た私ってどんな彼女なの……?」
八幡「えっ」
雪乃「可愛くないの?」
八幡「いやまぁ、可愛い彼女と言うかあれだな。……超可愛い彼女だな」
雪乃「ふふっ。よろしい」
八幡(なんだか今日の雪ノ下さんはいつもより機嫌が良いな)
雪乃「さあ、暑いのが苦手なら早いとこ行って涼みましょう?」
八幡「いや、ゆっくりでいい」
雪乃「……え?」
八幡「その、なんだ。……俺もお前と話しながら歩くのは嫌いじゃないしな」
八幡「だから、ゆっくりでいい」
雪乃「………」
八幡「……んだよ。呆けた顔して」
雪乃「あ、いえ。べ、別に」
八幡「いいから立ち止まってないで行こうぜ」
雪乃「そ、そうね。…………あ、あと比企谷くん。腕、組んでもいい?」
八幡「人前は恥ず……って、訊きながらもう既に腕組んできてるじゃねぇか……」
雪乃「………?」ギュッ
八幡「……もう好きにしていいから行こうぜ」
八幡「はー涼しい。やっぱ室内ってのは涼しくて良いな」
雪乃「人が多いのは少し気になるけどね……」
八幡「夏休みな上に今日は5の付く日でお客さまわくわくデーだからな。人が多いのはしゃーないだろ」
雪乃「それはそうだけれど……。それよりも今日はポイント2倍の日だったわね。帰りに夕飯の食材も買って帰りましょう」
八幡「おう。そうと決まればさっさと水着と食材を買って、そのままさっさと帰――」
雪乃「………」ニッコリ
八幡「――るのは何か勿体ないから色々周って行こうぜ!」
雪乃「ええ。折角ここまで来たんだから、すぐに帰ってしまうのは勿体ないものね」
八幡「だ、だよな」
八幡(無言でにっこり笑うのやめてくれよ……。一番怖いから)
八幡「食材と水着は最後に買うとして、どこか見たい店とかあるか?」
雪乃「そうね……ちょうど今寝る時に着るシャツが欲しいと思っていたから見に行ってもいいかしら」
八幡「寝る用のシャツ?」
雪乃「あなたの家に泊まる時はよくあなたのTシャツを借りて寝ているでしょう? その、いずれ正式に同棲することも考えて買っておこうと思って」
八幡「あ、ああ。それもそうだな。……じゃあついでに他にも色々買っとくか?」
雪乃「いえ今は衣服だけでいいと思うわよ? 母さんたちが同棲を認めてくれるとは限らないのだし……」
八幡「その可能性はあるかもしれんが大丈夫だろ。ていうか大丈夫だ」
雪乃「何を根拠にそう言い切れるのかしら。相手はあの母さんなのよ……?」
八幡「いや、これと言った根拠は無いんだが……。雪ノ下んとこのご両親には毎年ご挨拶はしてるし、お前とも真剣に付き合ってることは理解してくれていると俺は思ってる」
八幡「だからきっと認めてくれると俺は思ってる。きっと、多分、恐らく。…………あれ? 大丈夫だよね?」
雪乃「いきなり自信を無くされると私まで不安になってくるのだけれど……」
八幡「ま、まぁとにかく大丈夫だ。その時が来たらちゃんと誠意を伝えるつもりだ」
雪乃「……そうよね。私もそのつもりだわ」
八幡「おう。……んじゃ、気を取り直して順に見ていくか。とりあえず服置いてる店だな」
雪乃「………」クイ
八幡「ん?」
雪乃「そ、その」
八幡「あーはいはい。先にペットショップな」
雪乃「ちょっと? まだ何も言っていないのだけれど?」
八幡「でも顔に書いてたぞ? 先に猫見たいって」
雪乃「……書かれてもいないし思ってもないわよ」
八幡「そうか? なら今日はペットショップ寄らなくていいな」
雪乃「え……しょ、正気なの? ただでさえ普段のあなたには生気が感じられないのに、正気まで失われたらもうどうしようもないわよ……?」
八幡「いや、どっちも失ってないから。それと正気と生気掛けてドヤってるところ悪いんだけど、読み方違うし全然上手くないからね?」
雪乃「………」フイッ
八幡「いいから猫、見たいんだろ?」
雪乃「………」コクッ
八幡「じゃあ見に行きますか……。この前のカタカナ禁止交遊録といい、俺も雪ノ下の考えることがだんだんわかってきたな」
雪乃「あら。それはどうかしらね。そう思うのなら私が今考えていることもわかるわよね?」
八幡「早く猫が見たい」
雪乃「………………は、外れ。せ、正解は私が千葉で一番好きなダムは長柄ダム、よ」
八幡「おい待て。ちょっと待て。なんだ今の間は。絶対に今正解してたたよね? 慌てて不正解にしたよね?」
雪乃「そんなわけないでしょう? 不正解だったからといって見苦しいわよ比企ダムくん」
八幡「勝手に俺の谷をダムで埋めんじゃねぇよ……。一歩間違えれば機動戦士になっちゃうまであるぞ」
雪乃「………」
八幡「あ、待て雪ノ下! 早く猫見たいのはわかったからとりあえず無視して先に行こうとするな。止まれ! あとペットショップこっちだぞ? そっち出口な」
雪乃「……で、出口横のお店がお洒落で少し気になっただけよ」
八幡「そこケンタッキーなんですけど……」
雪乃「…………ふぅ。そろそろ行きましょうか」
八幡「おう……」
八幡(ようやく満足してくれましたか……。1時間弱ショーウィンドーの前に立って猫見てたぞこいつ……)
八幡(俺でもずっと眺めとくのは頑張って10分が限界だってのに……。まぁ、覚悟はしてたから頑張って最後まで一緒に猫見てましたけどね)
八幡(こいつに何とかして猫見る時間減らしていってもらわないとな……。デート中で唯一憂鬱なのがこれなんだよなぁ……)
八幡(まぁ、その反動のせいなのか出掛ける前の雪ノ下の準備待ちや、服選びで待たされるのは全然苦にはならないんだけどな)
八幡「……ふと思ったんだけど」
雪乃「……?」
八幡「こういうこと言うのもアレだが、こうして子犬やら子猫をショーウィンドーに入れるってちょっと可哀想だよな。見る分には良いけど」
雪乃「……私もそれについては少し思うことがあるわ。実際にこうしてショーウィンドーに入れて販売することで色々と過去に問題もいくつか起きているみたいだしね……」
八幡「へぇ、そうなのか?」
雪乃「ええ。私もちゃんと調べたわけではないから詳しくはわからないのだけれど、こうしてショーウィンドーに入れるのはあまり褒められた行為ではないらしいわ」
八幡「見るだけならまだしも購入を検討してる立場から見たらちょっと悩むよな。何匹か寝てる奴もいるが見方によっちゃ元気が無いようにも見える」
雪乃「それにこうしてショーウィンドーにずっと入れられたまま過ごしていると、この子たちは外に出て遊ぶことが無く成長してしまうから運動不足にもなってしまうし……」
八幡「なんか普段と違う観点で見るとペットショップがただの監禁所に見えて来たんだけど……」
雪乃「やめなさい……。次からここへ来れなくなってしまうじゃない……」
八幡「………」
雪乃「でも、いつか素敵な飼い主と出会って、ここから出て元気に育っていってほしいものよね」
八幡「まあな。……猫、俺らもいつか飼ってみるか?」
雪乃「……いいえ。是非にでもそうしたいのだけれど……でも、やめておくわ」
八幡「いいのか? お前のことだしいつか猫飼いたいとか言ってくると思ってたんだが」
雪乃「猫を飼いたくないというわけではないのよ? 実際こうして子猫やカマクラさんを見る度に猫を飼いたいという気持ちにはなっているし……」
雪乃「猫は飼ってみたいし、毎日抱いていたい願望はあるけれど、それ以上にいつか来る別れのことを考えるとどうしても気が乗らなくて……」
八幡「……なるほどな。要はペットロスが怖いのか。うちのカマクラにも言えたことだがペット買う際にはどうしてもその時の覚悟をしとく必要があるもんな」
雪乃「ええ……。私にはその覚悟がないから。だから、飼うのはやめておくわ」
八幡「そうか」
雪乃「それに、私には既にじゅうぶん世話の焼ける大きな猫が一匹いるから。……ね?」ナデナデ
八幡「ばっ、おま撫でてくんな……」
雪乃「ふふっ、ごめんなさいね。つい」
八幡「俺はいつから猫になったんだよ……」
雪乃「私はだいぶ前からあなたを猫っぽいと感じていたわよ?」
雪乃「比企谷くんって結構自分勝手なところがあるから一度私が言っただけでは言ったようにしてくれないことがあるし、基本的にあなたって自分から私に構おうとすることがないからいつも私が何かしら言わないとかまってくれないのよね」
雪乃「あと部屋をすぐに散らかすことだってそうだし、家から離れるのを極度に嫌うから外出の時は大変だしで……ほら、あなたって猫みたいでしょう?」
八幡「猫みたいっていうか俺の面倒臭さを揶揄しただけじゃね……? 心にグサッと来ちゃっただろうが」
雪乃「そんなことないわよ。ちゃんと可愛いところもあるのよ?」
八幡「可愛いってお前……。ゆきにゃん程じゃねぇよ」
雪乃「ゆきにゃんと呼ぶのだけはやめてといつも言っているでしょう……。はちにゃん」
八幡「おいはちにゃんはやめろ。ゆきにゃん」
雪乃「あなたもやめなさいよ。はちにゃん」
八幡「ゆきにゃん」
雪乃「はちにゃん」
八幡「ストップ……。傍から見たらただのバカップルだからもうやめようぜ……」
雪乃「……そ、そうね」カアア
八幡「……マジで入るの?」
雪乃「当たり前でしょう。今日来た目的を忘れたの?」
八幡「いや忘れたわけじゃないけど、ほらその、なに? 俺が入ったらやばい空気が……」
雪乃「やばいのは今のあなたのキョドり方よ……。いいから入るわよ」
八幡「ま、待て! 待ってくださいお願いします! プリーズタイム!」
雪乃「プリーズウェイトと言いたいのかしら……。はぁ、シャツを買う時に入ったお店は平気だったくせに水着売り場はどうして入るのを拒むの?」
八幡「拒むも何も店内よく見てみろよ……。他にもカップルがいるならまだしも今そこの店内には男が誰一人としていないぞ。てか店員も客も全員女じゃねぇか」
雪乃「だから何?」
八幡「死ぬ。たぶん即死」
雪乃「ただ入店するだけで死ぬわけないでしょう……。仮に本当に死んでもちゃんと葬儀は執り行うから大丈夫よ?」
八幡「全然大丈夫じゃないよねそれ? あっさりと俺の死を受け入れようとすんなよ」
雪乃「だったら腹を括りなさい。別に女性限定のお店と言うわけではないのだし、今は偶然男性客がいないだけじゃない」
八幡「だから嫌なんだよ。今の俺からしたらランジェリーショップに入るのと同じ気分だからな? あ、そうだ。俺以外の男が入るまで別の店で時間潰すか」
雪乃「そう……。比企谷くんはそこまでして私の水着を選ぶのが嫌なのね。わかったわ、もう帰りましょう……。もう二度とあなたに水着姿を見せようなんて言わな」
八幡「よし入るぞ! どうする? 店に入る時トルソーする?」
雪乃「どうしてこの男はこういう時に限って清々しいまでに単純なのかしら…………」
八幡「あ、やっぱ待ってくれ。入る前にせめて深呼吸させてくれ……」
雪乃「お店に入るだけでここまで切羽詰る人を見るのは初めてだわ……」
八幡「いや、だって俺だぞ? 一人で下着売り場の前を横切るだけで不審な目を向けられたことのある俺だぞ?」
八幡「ブティックならまだ辛うじて良いとして、今回は水着だぞ? しかも周りが水着をきゃっきゃうふふと選ぶ中で男は俺だけだぞ? 通報されたらどうすんだよ!」
雪乃「過去にどれだけ深い傷を負ったらここまで悲観的になれるのかしら。呆れるを通り越して軽蔑するわ」
八幡「通り越したら尊敬しねぇか、普通……」
雪乃「いいから深呼吸したいなら早くなさい。いつまでこうしてお店の前で粘るつもり?」
八幡「わかったよ………………ふぅ。よし、行くか」
雪乃「ようやくね」
八幡「俺が店に入ると同時に店員が警戒態勢に入ったらその時はフォロー頼むぞ……?」
雪乃「入らないから大丈夫よ……。傍から見た私たちなんてただ水着を買いに来たカップルだとしか思っていないのだから」
雪乃「あなたはただ胸を張っていつも通り振る舞っていれば良いの。わかった?」
八幡「お、おう」
八幡「………」
八幡「………」チラッ
店員「いらっしゃいませ~」
八幡「馬鹿な……。普通に入れた……」
雪乃「当たり前よ。店内に入るだけでどこまで怯えているのよチキ谷くん」
八幡「悪かったなチキンで。高校じゃ散々目が腐ってるとか言われてたし、こういったキラキラした店は死ぬほど苦手なんだよ……」
雪乃「今のあなたは高校の頃と比べて目の腐りも落ちているし怖がらなくたって大丈夫よ」
雪乃「それと昔に比べて背も伸びているし、下手なモデルなんかよりも比企谷くんの方が断然格好良いのだから自信を持ちなさい」
八幡「………」
雪乃「あっ、そ、その……。い、いいから水着を選ぶわよ」カアア
八幡「お、おぉ。そうだな」
雪乃「比企谷くんは私にどんな水着を着てほしいの……?」
八幡「どんなって言われてもな……。とりあえずビキニだろ? パレオはそうだな……雪ノ下ならあった方が似合うな。待てよ、スカートタイプのビキニもありだな。いや、逆に……」ブツブツ
雪乃「……ひ、比企谷くん?」
八幡「ああ、悪い。ちなみになんだが雪ノ下自身はどういったのが良いんだ? 俺が選んで良いとは言え雪ノ下の好みも踏まえた方がいいだろ」
雪乃「そうね。とりあえずこの前あなたが見ていたアニメのキャラクターのような布面積が小さすぎるものはさすがにやめてほしいかしらね……」
八幡「さすがにそれは俺も嫌だから心配無用だぞ……?」
雪乃「そうなの? アニメを見ていた時の比企谷くんは嬉しそうに鼻の下を伸ばして見ていたイメージがあったのだけれど」
八幡「伸ばしてねぇから。え? 伸ばしてたの?」
雪乃「ええ。にやにやした顔で見ていたわよ。正直気持ち悪かったわ」
八幡「ならその場で言ってくれよ……。てか布面積が小さいのはアニメだから良いのであって実際にあんなの着られたらさすがの俺も引く」
雪乃「確かあのアニメの水着はお尻に関してはほぼ丸出しだったわよね」
八幡「あー、だな。ま、そういうのを着させる気は無いから安心してくれ。…………てか他の野郎共にそんな雪ノ下見られたくないしな」
雪乃「……え?」
八幡「何でもない。独り言だ」
雪乃「……?」
八幡「とりあえず色々合わせてみるか」
雪乃「それもそうね。じゃあ比企谷くん、これなんかどうかしら?」
八幡「おー。いいんじゃね?」
雪乃「こっちは?」
八幡「いいと思う」
雪乃「……こっちのはどう?」
八幡「良い感じじゃね?」
雪乃「ちゃんと真面目に答えなさい」
八幡「いや真面目に答えてたつもりなんだが……」
雪乃「そう? なら質問を疑問符で返すような返答をしないでもらえるかしら。はっきり良いか悪いか教えて」
雪乃「では改めて聞くけれど、この水着はどう? 私に似合うかしら」
八幡「そうだな。その派手な花柄は雪ノ下の清楚のイメージとのギャップがあって俺としてはかなりグッと来てるな。八幡的にそのスカートっぽく見えるフリルがかなりポイント高い」
雪乃「そ、そう。こちらの水着は?」
八幡「ピンク基調のバンドタイプか。バンドタイプってこう肩に紐が無いからエロく見えるが上下であえて柄が違うようになってるのが八幡的にポイント低いな。俺としては柄は上下統一してほしいです」
雪乃「それならこの水着はどうかしら」
八幡「パレオか。やっぱこういったパレオを巻いた方が雪ノ下のイメージにも合って良いんだけど、八幡的にパレオは敢えて無しにして欲しいな。高校の時にもう見たし」
雪乃「……真面目に答えられたら答えられたで何だか気持ち悪いわね……。あなたがフリルって単語を使うだけも少し引くわ……」
八幡「引くなよ。てかキモくねぇから」
雪乃「無駄に女性用水着に詳しいみたいだけれど、やっぱり水着に興奮したりする性癖の持ち主なのね。彼女から見ても気持ち悪いわよ?」
八幡「だからキモくねぇし断定すんなよ……。そいや試着とかはしないのか?」
雪乃「試着はいくつか絞ってからしてみるつもりだけれど……そんなに私の水着姿が見たいの?」
八幡「えっ。ま、まあ、そりゃな」
雪乃「先に言っておくけれど試着してもあなたには見せないわよ?」
八幡「は? ま、待て、なぜだ!」
雪乃「何でって、比企谷くん、今ここで私の水着姿を見たらもう満足したとか言って海にはもう行かないつもりでしょう?」
八幡「えっ。そそ、そんなことねぇよ」
雪乃「どうかしらね……。どちらにせよ今日は比企谷くんに私の水着姿を見せるつもりはないわ。海に行ってからのお楽しみよ」
八幡「マジかよ」
雪乃「マジよ。だから今日は比企谷くんには私の着て欲しい水着を選んでちょうだい? それを試着してサイズが良ければそれを買うわ」
八幡「もし俺が選んだのが自分的に似合ってなかったらどうすんだ? さすがに俺のセンス過信しすぎだろ」
雪乃「別にどうもしないわよ。絶対に似合っているのだから」
八幡「いやいや。水着自体を選ぶのは俺だろ? 何を根拠にそんな……」
雪乃「以前あなたが私の服を選んで買ってくれた時のように、今回も私に似合う水着を真剣に選んでくれるんでしょう?」
八幡「ま、まぁ一応そのつもりだな」
雪乃「なら全て比企谷くんに任せるわ。あなたが私のことを想って選んでくれた水着なら、私は喜んでそれを着るから」ニコッ
八幡「…………頑張って似合うの選ぶわ」
雪乃「色々買ったわね」
八幡「ビニールシートとかパラソルの存在すっかり忘れてたから見に行ったわ良いが結局全部買ったもんな……」
雪乃「買った後で冷静になってみればそのパラソルは今度の海以外で使う機会あるかしら……」
八幡「たぶん無いな。ついでにビニールシートもたぶん無い。使い終わって邪魔になったら実家にでも送りつけるわ」
雪乃「そ、そう。それにしてもさすがに色々と買いすぎて荷物が多くなってしまったし、今日はもう食材は諦めて帰りましょうか」
八幡「そうだな。冷蔵庫にはまだ食材は残ってたはずだし、食材は明日バイトだからその帰りにでも買って帰っとくわ」
八幡「それと海に行く日なんだが明後日とかどうだ? 急すぎるならもうちょい後にするが」
雪乃「明後日? 別に予定とかは入っていないから大丈夫よ」
八幡「そうか? んじゃ海は明後日行こうぜ。さっさとお前の水着見てスッキリしたい」
雪乃「そんなに私の水着姿が見たいの……?」
八幡「そりゃ見たいだろ。折角水着を選んだのに雪ノ下さんはその試着した姿見せてくれねぇしな」
雪乃「当然よ。あくまで試着しただけであってあなたに見せるために着たわけじゃないんだから」
八幡「だからなるべく早く海行っちまおうぜってことだ。なんなら明日でもいいんだが、明日は俺がバイト入ってるからな……」
雪乃「色々準備もしたいからさすがに明日行こうと誘われても困るわよ?」
八幡「まぁ、だよな。んじゃ、とりあえず明後日だな」
雪乃「ええ、明後日ね」
八幡「うし。なら今日はもう帰りますかね。どうする? 今日も俺んち泊まってくか?」
雪乃「あ、いえ……。今日はその、い、家で、どうしても済ませておきたいことがあるの」
八幡「……? なんかあるのか?」
雪乃「え、ええ。そのぜ、ぜみ……そう、ゼミ。ゼミで課せられたレポートがあるのよ」
八幡「夏休みだってのにレポートなんかやらされるのかよ。だるそうだな」
雪乃「で、でも簡単なレポートだから数時間でできると思うわ」
八幡「ってことは今日うちには来ないのか……」
雪乃「そう……なるわね……」
八幡「ま、課題があるってなら仕方ねぇな。送ってく」
雪乃「ありがとう比企谷くん」
雪乃「………」
雪乃宅
雪乃(比企谷くんと海に行くのは明後日……)
雪乃(明日、比企谷くんはアルバイトがあるらしいから、彼に気付かれずに悪あがきができるのは今日と明日だけ……)
雪乃(今日はゼミの課題があると嘘を付いて比企谷くんの家には泊まらないようにしたけれど、逆に怪しまれていないかしら……)
雪乃(でも、彼の前でこんなこと調べたりするのは嫌だし……仕方ない、わよね)
雪乃(……比企谷くんを含む大勢の中で露出の高いものを着る以上、やはり私だって周りに良く見せたいのだから……)
雪乃「………」
雪乃「胸 大きく」カタカタ
雪乃「………」ターンッ
『食べるだけ!? 胸を大きくする食べ物を紹介!』
雪乃「………」メモメモ
雪乃「………」
雪乃「胸 大きく 方法」カタカタ
雪乃「………」ターンッ
『ツボを刺激して楽々バストアップ♪』
雪乃「………」モミモミ
雪乃「………」
雪乃(そういえば……いつの日だったか姉さんに突然意味の分からないことを言われたことがあったけれど、あれは本当なのかしら……)
――雪乃ちゃん知ってる? おっぱいって好きな人に揉まれると女性ホルモンが何とかで乳腺が発達して大きくなるんだって!
――雪乃ちゃんには比企谷くんがいるから、これからどんどんおっぱいが大きくなっちゃうね! 私は彼氏なんていないし、雪乃ちゃんが羨ましいな~。
雪乃「………」
雪乃「胸 好きな人 揉まれる」カタカタ
雪乃「………」ターンッ
『徹底解説! 好きな人に胸を揉まれると大きくなるワケ!』
雪乃「………」
『その1! 相手が好きな人以外だと逆効果!? 理由は――』
雪乃「相手が比企谷くんでないとストレスになりかねないのね……。彼以外に触らせる気はないけれど」メモメモ
『その2! そもそも何故好きな人限定? 理由は――』
雪乃「なるほど、女性ホルモンが……」メモメモ
『その3! 気持ち良くなることが大事!? 理由は――』
雪乃「キスも、大事……」メモメモ
『その4! 大きくなるならないは彼氏次第!? 理由は――』
雪乃「……均一に、揉んでもらう」メモメモ
『まとめ! 好きな人に胸を揉んでもらうと必ずしも大きくなるとは限りません。しかし、今以上に彼氏があなたにメロメロになることだけは保証します!』
雪乃「………」
雪乃「………」プルルル
雪乃「もしもし、比企谷くん? ……ええ、少し訊きたいことがあって。明日はアルバイトがあると言ったわよね? ……ええ、その明日の上がる時間を知りたいのだけれど――」
八幡(はぁ、くそっ。あの糞店長め……。なんで一色がレジで誤差出してもキレないのに俺が少しでも出したらブチギレるんだよ……)
八幡(200円くらい大目に見ろっての……)
八幡「はぁ……たでーま」ガチャ
雪乃「おかえりなさい比企谷くん。アルバイトお疲れ様」
八幡「うおっ……ってなんだ、来てたのか」
雪乃「ええ。そろそろ比企谷くんがアルバイトから上がる時間だと思って。ご飯まだでしょう? 作っておいたわ」
八幡「お、マジか。超助かる。あーでもその前にちょっとシャワー浴びるわ。今日は客多くて店内走り回されたから汗がヤバい」
雪乃「そう。ならその間にご飯温めておくわね」
八幡「おう、ありがとな。てか昨日の電話はなんだったんだ? 突然バイト終わる時間聞いてくるなんて」
雪乃「……それは、その。少し、お願いしたいことがあって」
八幡「お願いしたいこと? てか課題はもう済んだのか?」
雪乃「課題……?」
八幡「は? いやお前、昨日ゼミで課題出たから家でやるって言ってただろ」
雪乃「あ……。そ、そうね。か、課題ならもう済ませたわ」
八幡「…………ちなみに何についてのレポートを書いたんだ?」
雪乃「そ、それは」
八幡「………」
雪乃「そ、その……」
八幡「……まぁ、これ以上は尋問するつもりはないが、俺んち泊まりたくない時は普通に今日は泊まらないって言ってくれていいんだぞ?」
雪乃「ち、違うの! 昨日は比企谷くんちに泊まりたくないからと言うわけではなくて……ど、どうしても調べておきたいことがあって……」
八幡「は? なんだよ調べておきたいことって」
雪乃「…………その、胸を大きくする方法を調べていたのよ」
八幡「はい……?」
雪乃「べ、別に私自身のためにそんなことを調べていたわけじゃないのよ? そういうつもりで調べていたのではなくて、明日は二人で海に行くから少しでも比企谷くんの彼女として周りから良く見られた方が良いと思って……」
八幡「お前はおっぱい星人にでも憑り付かれでもしてんの? 男の俺には分からんが普通はそういうのってお腹の方を気にするんじゃないか?」
雪乃「そちらの方は海に行く約束を立てたその日から体重が上がらないよう生活習慣には気を遣ってきたからさほど気にしてないわ」
八幡「じゃあ胸は?」
雪乃「………」フイッ
八幡「あのな雪ノ下。ずっと言おうか悩んでたんだが、この際言わせてもらう。お前は胸を気にし過ぎだ。もはや病気かと疑うレベル」
雪乃「そ、そんなこと……」
八幡「いやあるだろ。特に今回に関してはやけに俺が他の女を見ることを警戒してりもしてたしな」
雪乃「だ、だってそれは……」
八幡「それは?」
雪乃「胸の大きい女性は皆、自分より小さな人を見て勝ち誇ってくるでしょう? それがとてつもなく悔しいのよ」
八幡「……お、おう」
八幡(林間学校での一件のことか? あの時のことをまだ覚えてるとかどんだけ悔しかったんだよ……)
八幡(もしかして雪ノ下は人混みが多いから海に行きくないんじゃなくて、そう言った比べられる視線が嫌で行きたくないんじゃ……)
八幡「さ、さすがに全員が全員他人と自分の胸を比べて競ったりしないだろ。てかしないだろ普通」
雪乃「本当に?」
八幡「多分な。少なくとも俺が女だったらまずそんなことはしない。そんなことしても虚しいだけだしな」
雪乃「……間接的に私が虚しい人間だと言われた気がするのだけれど」
八幡「……まぁ、海行く前からそんなことを気にし続けてるんなら雪ノ下もどっこいどっこいだな」
雪乃「まさかあなたに虚しいと言われる日が来るだなんて……」
八幡「ちょっと? それどういう意味?」
雪乃「言葉通りの意味よ」ニッコリ
八幡「………」
八幡「もう何でもいいが、とにかく俺としては、明日は余計なことは気にせずいつもの通りの雪ノ下と一緒に海に……行きたい、です」
雪乃「ふふっ。途中で照れて言葉を詰まらせなければもう少し格好良かったのにね」
八幡「……うっせ。喋ってる途中で恥ずかしいことを言ってるのに気付いたんだよ……」
雪乃「別に恥ずかしいことではないと思うのだけれど……」
雪乃「でも、そうね。こんな直前に胸を大きくする方法を調べたところでもう手遅れなのだし、もう余計なことは気にしないことにするわ」
八幡「おう。やっと気づいたか」
八幡「ん……? ていうか今日わざわざ俺んちに来たってことは……」
雪乃「………」ピクッ
八幡「なあ雪ノ下。まさかと思うが昨日突然電話して今日こうして俺んち来たのって、適当に胸を大きくする方法調べてたら異性に揉んでもらうと良いみたいな記事を見つけてそれを鵜呑みにしてきたわけじゃないよな」
雪乃「……ッ」
八幡「いや、まぁさすがにそれは無いか。今時そんな迷信信じるなんてアニメやラノベでもそうそう無いし」
雪乃「………」
八幡「………」
八幡「……おい」
雪乃「………」
八幡「……図星じゃないだろうな?」
雪乃「………」フイッ
八幡「図星かよ……」
雪乃「だ、だってネットには……異性に、好きな人に揉んでもらうと大きくなることよりもあなたが今以上に私を好きになると書いてあったから……」カアア
八幡「……それってただ単に最後は男が我慢しきれず最後までやってしまうことを見越してそう書いてあったんじゃねぇのか……?」
雪乃「あら、つまり比企谷くんも最後は我慢しきれなくなるってこと?」
八幡「……かもな」
雪乃「そう。ならこの方法は諦めて良かったわ。明日は朝には家を出るのだし、もし明日に差支えがあるようなことがあってはいけな――きゃっ!?」ドサッ
八幡「それはつまり、差支えがなければいいんだな」
雪乃「ちょ、ちょっと……んっ…………だ、だめよそんな……」
八幡「駄目じゃないだろ。本来なら雪ノ下は今日、俺に胸を揉んでもらうために来たようなもんだし、実際こうなることも考えてたろ?」
雪乃「そんなことは……私は、ただ……」
八幡「そもそもこんな卑猥な方法を実際に試そうと考えるあたり雪ノ下ってむっつりスケベなんだよなぁ」
雪乃「………」
八幡「こうして俺に押し倒されても強く反抗しないのが良い証拠だな」
雪乃「……意地悪を言う比企谷くんなんて嫌いよ」フイッ
八幡「全部事実なんだけどな。……なあ、駄目か? 本当に嫌ならやめるが……」
雪乃「で、でも比企谷くんはさっきアルバイトから帰ってきたばかりでしょう……? ご飯やシャワーだってまだだし……」
八幡「疲れた体を癒すにはご飯やシャワーよりも先に雪ノ下が必要なんだよ。……嫌か?」
雪乃「そうやって断りにくくするの……ずるいわ」
八幡「断って欲しくないからな…………」
雪乃「……んっ……んんっ…………」
八幡「……あ、悪い。バイト帰りだから汗臭いよな。やっぱり先にシャワーだけでも……」
雪乃「いいの……」ギュッ
雪乃「比企谷くんの臭い……好きだから」
八幡「…………っ」
雪乃「…………ん、あっ……ひ、比企谷、くん」
八幡「なんだ……?」
雪乃「そ、その……今日は胸、たくさん触って……? できれば、均一に」
八幡「お、おう。やっぱ諦めきれてなかったんだな」
雪乃「………」カアア
八幡「海だ……」
雪乃「海ね……」
八幡「ハイテンションで海だー! って言いたかったけど暑いし人多いしで無理だったわ……」
雪乃「一応、中高生の夏休みが終わる頃に来たからピーク時の海水浴場に比べればかなり少ない方だとは思うけれど」
八幡「それでもそこそこ人が多いっていう」
雪乃「……覚悟はしていたけどね」
八幡「まぁ……行くか。ここで愚痴ってても埒が明かないし」
雪乃「そうね。荷物はどうしましょうか」
八幡「パラソルぶっ刺してシートで隠す感じで置いとけばいいだろ。今日は金も必要最低限しか持ってきてないし」
八幡「ひとまず着替えは俺の方がすぐ終わるだろうし、さっさと着替えてパラソルとシート広げて待っとくわ」
雪乃「わかったわ。ならまずは各自着替えを済ませて、着替え次第ここへまた集まればいいのね」
八幡「そうなるな。いいか? 着替えたらここに来るんだぞ? お前ただでさえ方向音痴なんだからこんな海水浴場で迷子に」
雪乃「馬鹿にしないで。こんなたかが数メートルを私が迷うわけないでしょう?」
八幡「………」
雪乃「……あなたが私のことをどう思っているのかよくわかったわ」
八幡「いや、だってお前大学入学したての頃とか大学内ですら軽く迷子になってたし……」
雪乃「あれは迷子とは言わないわ。校舎を間違えただけだもの」
八幡「西の三号館に来いって言ったのに真逆の東の二号館にいた地点で十分方向音痴と言っていいだろ。迎えに行くの地味に大変だったんだからな」
雪乃「…………着替えてくるわね」
八幡「………。じ、じゃあ俺も着替えるか。いいな? 更衣室出たら速攻でこの青と白のパラソルに向かって真っ直ぐ来るんだぞ?」
雪乃「比企谷くん如きに子供扱いされるこの屈辱感と敗北感は一体何なのかしら……」
ドスッ
八幡「ふぅ……パラソルはこんな感じでいいか」
八幡「安物の小さなパラソルだけど買っといてよかったな。パラソルあるとないとじゃ全然違うなこりゃ」
八幡「……向こうのパラソル貸出やってますって看板は視界に入れないようにしないとな」
八幡「にしても雪ノ下の奴遅いな……。ちょっと様子でも見に」
雪乃「――おまたせ。比企谷くん」
八幡「おっ。遅かっ…………」
雪乃「ごめんなさいね。更衣室が少し混んでいて」
八幡「………」
雪乃「比企谷くん?」
八幡「………」
雪乃「……あまりじろじろと見ないでほしいのだけれど」カアア
八幡「お、おお。す、すまんつい……」
雪乃「…………そ、その」
八幡「あ、あー。な、なんだその……水着、よ、よく、似合ってるな」
雪乃「……あ、ありがとう。ひ、比企谷くんの水着もよく似合っている、わよ?」カアア
八幡「お、おお……あざす」
雪乃「………」カアア
八幡「………」
八幡「あ、あれだな。何だかんだ水着って下着と生地以外は何ら変わらないとか思ってたりしてたんだが……」
八幡「こうして実際に見ると下着とは全然違うんだな。何て言うか…………普段にも増して、か、可愛く見えるな」
雪乃「……い、言い過ぎよ」カアア
八幡(初めて見る雪ノ下のビキニ姿……下着とはまた違うエロさと可愛さとセクシーさとエロさが出てて八幡最高に興奮しちゃうぜ!)
八幡(おまけに俺が選んだ水着を着てくれているってのが凄く良い。ぶっちゃけもう家に帰って家の中で改めて水着に着替えてもらってじっくり観賞したいレベル)
八幡(それに雪ノ下は昨日あれだけ胸が何だと言ってたけど、この控えめに膨らんでる胸とすらっと伸びた脚がまた最高に良い)
八幡(やっぱり雪ノ下は今のままで最高だよなぁ。むしろ至高。もうずっと貧乳のままでいて欲しいまであるぜ!)
雪乃「……何か失礼なこと考えていない?」
八幡「っ!? か、考えてないですよ?」
雪乃「そう? ならいいのだけれど」
八幡「にしてもやっぱ疑問に思うんだが、水着と下着って雪ノ下からしたらどうなんだ? 違いとか色々。正直今だって恥ずかしくないのか?」
雪乃「恥ずかしくないかと聞かれると正直恥ずかしいけれど、でも別に水着だから平気よ」
八幡「そういうもんなのか?」
雪乃「そうね……どう言葉にすればいいのかしら……」
雪乃「あくまでこれは私個人の見解なのだけれど、水着と下着をどうこう言う以前にその人の気持ちの問題だと思うわ」
八幡「は? 気持ち?」
雪乃「ええ。例えば今日、この海水浴場に来ている男性が全員水着姿ではなかったら、比企谷くんは水着に着替える?」
八幡「そりゃお前、絶対着替えないだろ」
雪乃「でしょう? つまりそういうことよ」
雪乃「私だって今この場にいる女性が全員水着姿ではなかったら、こうしてあなたに水着姿なんて見せていないもの」
雪乃「今こうして周りにいる皆が水着姿で……下着に近い格好でいるからこうして私も水着姿でいられるのよ」
八幡「つまり皆同じように水着に着替えてはしゃいでいるから、自分も空気を読んでそうしてるって感じか」
雪乃「大体はそんな感じね。周りが同じ格好をしているから私もそれに合わせている、と思ってくれていいわ」
八幡「ということは……今この場にいる全員がもし下着姿なら雪ノ下も下着姿になるってことか?」
雪乃「えっ……そ、それとこれとは話が別よ。それに、仮定の話にしたって今この場で下着姿になる人なんていないわよ」
八幡「いや、そうだけどよ……。ま、要はTPOってことか」
雪乃「そういうこと」
八幡「なるほどな。俺としては雪ノ下はこういった人の多い場所で水着姿になるのは嫌がると思ってたんだが、やっぱ実際には下着姿の方が恥ずいのか」
雪乃「水着でも十分過ぎるほど恥ずかしいけれど、比企谷くんの言う通り私は下着の方が何倍も恥ずかしいわね。……その、下着は水着と違って脱がされるし」
八幡「……ほう」
雪乃「…………こんな大勢の人がいる場で変なことを想像しないでもらえるかしら」
八幡「ししししてないから」
雪乃「ふふっ。ならいいけれど」
八幡「と、ところで海に来たは良いが何すりゃいいんだ? ぶっちゃけ雪ノ下の水着姿拝めたからもう帰ってもいいんだが」
雪乃「あら、水着姿の私とは遊ばなくていいの?」
八幡「それはむしろ遊ばないと駄目だな。浮き輪って確か持ってきてたよな? ずっと砂浜で駄弁るのもあれだし、とりあえずあれ膨らませて海行こうぜ」
雪乃「なら私は日焼け止めを塗ってあげるから比企谷くんが浮き輪を膨らませる係ね」
八幡「あいよ」
雪乃「家でのんびり過ごすのではなく、たまにはこうして海の上でのんびり漂っているだけというのも良いわね」
八幡「海に来たのなんてガキの頃に家族で来た時以来だわ」
雪乃「私は初めてよ」
八幡「え、そうなのか?」
雪乃「ええ。海は危険だからと言って、子供の頃は泳ぎに行くとしたら必ず近くの市民プールや流れの緩やかな川の下流だったわ」
八幡「海より川の方が危険な気もするんだが……。でもちょっと意外だな。てっきり子供の頃はプライベートビーチとかプール貸切で遊んでたのかと思ってた」
雪乃「そんなわけないでしょう……。私を何だと思っているのよ」
雪乃「何かと甘やかされて育ってきた自覚はあるけれど基本的には一般の家庭と同じよ。家族との仲を考えるとあなたの方が断然良い暮らしをしているわ」
八幡「俺の方がってことは無いだろ。俺なんて親に名前忘れられたこととかあったしな。それに、雪ノ下だって今はもう家族とは仲良いだろ。陽乃さんとも高校の頃に比べると随分と仲良いみたいだしな」
雪乃「そう、ね……。姉さんは何かと私と比企谷くんの仲を応援してくれているし、自然と昔のようないがみ合いはなくなったかしら」
雪乃「ちなみに姉さんによると父さんはいつ孫が見れるのかと楽しみにしているそうよ?」
八幡「は? マジ? 確かに雪ノ下のお父さんは俺のことを気に入ってくれてはいるみたいだけど、さすがに気が早すぎませんかねぇ……」
雪乃「ふふ、本当にね。それと母さんとも大学に入ってからは上手くやっていると思うわ。たまにだけど、電話でやりとりもするし」
八幡「へぇ。そうか」
雪乃「これも全て比企谷くんのおかげね」
八幡「それはお前がちゃんと踏み出したからであって俺のおかげじゃねぇよ。他人が他人の家族をどうこうできる資格なんて無いんだしな」
雪乃「何を言っているの。比企谷くんはもう私にとって他人なんかじゃないわ。あなたはもう私にとって……誰よりも大切な人なんだから」
八幡「……さいですか」フイッ
雪乃「あら、どうして顔を背けるの? 何やら顔が赤いようだけど」クスッ
八幡「……ただの日焼けだ日焼け。いいからそろそろ浮き輪変わってくれよ。俺も浮き輪で漂いたいんだけど」
雪乃「嫌よ。それに浮き輪は一つしかないのだし、こうして浮き輪を必死に掴んで漂っている比企谷くんを見てると何だが下僕が必死に私を支えているみたいで気分が良いから」ニコッ
八幡「今年一番の笑顔で何言っちゃってんの? 浮く前に俺の気分が沈んじゃうわ」
雪乃「冗談よ。別に気分が良くなったりしないわ」
八幡「そこだけ否定されると下僕とは思ってるように捉えちゃうんだけど?」
雪乃「さあ。どうかしらね?」
八幡「まぁ何でもいいけどよ……。それよかさっきから空を不規則に飛んでるあの物体はなんだ?」
雪乃「え? どこ?」
八幡「なーんてな! 食らえッ! 秘儀・雪乃返し!」グンッ
雪乃「えっ? きゃあ――ッ!?」
八幡「ふっ。浮き輪はいただいた。どうだ? 下僕に海へ落とされた気分は」
雪乃「…………やったわね?」
八幡「――っ」ビクッ
雪乃「ほら、どうしたの? 私を落とすくらい浮き輪に乗りたかったのでしょう? 早く乗ったら? 乗れるものならね」ニッコリ
八幡「」
八幡「ぼちぼち一度戻って休憩入れようぜ」
雪乃「そうね。喉も乾いたし」
八幡「……っと、そういや飲み物持って来てないんだったな。何飲む?」
雪乃「アイスティーがいいわ」
八幡「お前ほんっと紅茶好きだな……」
雪乃「あなたのコーヒー好き程ではないけどね」
八幡「正確にはマックスコーヒー好きだけどな」
雪乃「そんなのどっちも一緒じゃない」
八幡「いやいや全然違うから。ま、ちょっと買ってくるわ」
雪乃「待って。どうせなら私も」
八幡「二人で行ったら荷物見る奴がいなくなるだろ? すぐそこだし荷物でも見ててくれ」
雪乃「そう? ならお願いするわね」
八幡「おう」
八幡(俺は何飲むかねぇ……。ここらはマッ缶が無いからダメなんだよなぁ)
八幡(おっ、かき氷とかも売ってるな。久しぶりに食べたい気持ちもあるけどこんな腹むき出しの状態で食ったら腹壊しそうだな……)
八幡(無難にコーラでいいか。雪ノ下はアイスティー……って、アイスティーねぇな。しゃーない、ミルクティーにしとくか)ガコン
八幡「雪ノ下ー。飲みもん買ってき」
男1「ねぇ、きみ一人? 超可愛いくね!? 一人で暇してるなら俺らと遊ばない!?」
男2「もし女友達と来てたりしてるんならその子たちとも一緒にさ! どうよ!」
雪乃「………」
八幡「………」
八幡(なんか雪ノ下がナンパされてる……)
男1「お腹空いてるならついでになんか奢るよ!」
男2「それな! てかマジ可愛くね……? とりあえず隣座ってもいい?」
雪乃「はぁ……ふざけないで。私はあなたたちのようなク――」
八幡「雪乃。悪い、待たせた」
雪乃「……比企谷くん」
八幡「………」チラッ
男1「……彼氏持ちかよ。いこうぜ」
男2「ちっ……」
八幡「……行ったか。ほい、飲みもん。アイスティーなかったからミルクティーにしたけど良かったか?」
雪乃「え、ええ、構わないわ。ありがとう。……それと、助けてくれてありがとう」
八幡「さすがに今のは助けたうちに入らないけどな。お前の名前呼んだだけだし」
八幡「それよりもお前、俺が割り込まなかったらあいつらにクズとか言おうとしてたろ」
雪乃「……しつこかったら適当にあしらおうとしただけよ」
八幡「アホ。だったら普通に男と来てるからとか適当に理由付けて断れよ……。煽ってどうすんだ」
雪乃「し、仕方ないじゃない。あなた以外の男に可愛いと言われるのが思っていた以上に不愉快だったのだから……」
八幡「……お、おう。だからって煽ろうとすんなよ。近くにはライフガードの人も見張ってるんだし変に刺激しなけりゃ穏便に終わるんだから」
雪乃「そう、よね……。ごめんなさい。以後気をつけるわ」
八幡「そうしてくれ。いやぁ、さすがに無いとは思ってたんだがまさか目離した隙にナンパされてるとはな。てか海でナンパって本当にあるんだな。暇人かよ」
雪乃「誰かさんはずっと傍にいるから大丈夫だと言ってくれていたのに……」
八幡「ぐ……。それ言われると何も言い返せねぇ」
雪乃「なんて、冗談よ? 飲み物を買いに行ってくれていたのだから別に何とも思ってないわよ」
八幡「でもまさか俺が雪ノ下から離れたちょうど良いタイミングでされるとはなー。もしかしたらあいつら、俺がいるのわかった上で隙を突いて……」
雪乃「……名前」
八幡「あん?」
雪乃「さっきみたいに……名前で呼んでくれないの……?」
八幡「あー……雪ノ下が呼んでくれたらな」
雪乃「……八幡」
八幡「なんだ? 雪乃」
雪乃「またいつか、こんな風に海へ連れて行ってくれる?」
八幡「ああ。海じゃなくても雪乃が行きたいと言えばプールや祭りにだって行くぞ」
雪乃「……ふふふっ。それは楽しみね」
八幡「………」
八幡(海に来たからなのか、はたまた雪ノ下の水着を姿を拝めたからだろうか、今、こうして二人座って海を眺めていることにとてつもない幸せを感じる……)
八幡(いや、今この時だけに限ったことじゃない。俺は雪ノ下と一緒にいるってことにただただ幸せを感じているんだ)
八幡(昔の俺が今の俺を見たらどう思うだろうな……。とりあえず痰でも吐き捨てるんじゃないだろうか)
八幡(それでも俺は、きっとそんな俺に対しても胸を張って言える。今が幸せだと。心から好きだと言える人に出会えてよかったと)
八幡(しかし、いくら幸せだと謳っても俺は今日や今までのことを少しずつと忘れていってしまうかもしれない。そんな思い出は無いと嘯くかもしれない)
八幡(でも……それでも、思い出という単語なんかでは収まりきらないような、この胸の奥の暖かい何かはきっと……)
雪乃「……? どうしたの? 顔がにやけてるわよ?」
八幡「いいや、別に」
八幡(……絶対に、忘れることはないと思う)
雪乃「警察でも呼んだら?」
八幡「ちょっと? 単に幸福感に浸ってただけなのになんで俺自首促されてんの?」
雪乃「違うの? やけにニヤニヤと顔が綻んでいたからてっきり他の女性でも見ているのかと思ったわ」
八幡「ねぇよ……」
雪乃「そう。ちなみにだけどね。八幡」
八幡「……え?」
雪乃「私も今、とても幸せよ? 毎日が、幸せ」
八幡「俺だってそうさ……。こんなに毎日が充実してるって思ったの生まれて初めてかもしれん。これがリア充ってやつなのか……」
雪乃「そうかもしれないわね。感謝なさい。私があなたを好きでいることに」
八幡「ああ、もちろん。だからお前も感謝するんだな。俺がお前を好きでいることを」
雪乃「ええ、勿論」
八幡「……ふっ」
雪乃「……うふふ」
八幡「さーて、これからどうする? もうひと泳ぎしにいくか、それとももう少し休憩するか」
雪乃「そうね。なら……」ピトッ
雪乃「もうしばらく、こうしていたいわ」
八幡「……だな」
八幡「いらっしゃせー」
いろは「せーんぱいっ。おはようございまーす」
八幡「おは……あ? 一色? お前今日はシフト入ってないだろ」
いろは「あれ? 聞いてないんですかー? 今日は先輩一人だからお店まわすの大変だろうってことでわたしが一昨日に助っ人を頼まれて来たんです」
八幡「そうだったのか。てか俺店長から何も聞いてないんだけど」
いろは「わたしが先輩に伝えときますって店長に言いましたからねー。今日の今日までお知らせするの忘れてましたけど」
八幡「………」
いろは「さ、サプライズですよ、サプライズ! どうですか? 可愛い後輩がこうして先輩を思って助けに来てあげたんですよ? 嬉しいですか?」
八幡「わー嬉しい」
いろは「わーテキトー……」
八幡「てか俺一人っていうかバイトが俺一人なだけで、社員さんはいるんだから来てくれなくても大丈夫なんだけどな」
いろは「もー。そこは素直に喜んでくださいよねー。わたしが来てあげたことによって先輩の仕事量は減るんですから」
八幡「まぁ……そうかもしれないけどよ」
いろは「ふっふっふ。これで先輩はわたしに貸しが一つできましたね!」
八幡「こんな理不尽な貸しがあってたまるか。いいからとっとと着替えてこい」
いろは「はーい」
いろは「いらっしゃいませ~」
八幡「………」
いろは「先輩どうかしました?」
八幡「いや……よくそんなきゃぴきゃぴした声が出せるなと思ってな。てかどうやって出してんの?」
いろは「んー、どうやってと言われてもこれが素ですからねぇー」
八幡「ハッ」
いろは「ちょ! 鼻で笑うのはやめてくださいよ!」
八幡「たしか店長や他の先輩にもそんな営業ボイス使ってるよな。ついでに営業スマイルも」
いろは「まぁ、そうした方が何かと楽ですからねー。店長なんて毎日適当に笑ってあげれば多少お仕事失敗しても笑って許してくれますし」
八幡「やだ何この子怖い……」
いろは「恐れられるよりも逆に喜んでくださいよねー。こんな本当のわたしを見せるのは、先輩だけなんですから……」
八幡「はいあざとい」
いろは「あざとくなんかしてませんよーだ。あ、ところで今週の日曜日って何か用事あります?」
八幡「日曜? 別に何も無いけど」
いろは「なら今度のお休み一緒にお出かけいきましょう!」
八幡「行かない」
いろは「まあ先輩ですしねー……。最初は断ってくると思いましたよ」
八幡「だったら言うな。そもそもなんでお前と出掛けないといけないんだよ。雪ノ下と行くわ」
いろは「ぐぬぬ……このバカップルめ……」
八幡「ちょっと一色さん? 馬鹿は余計だよ?」
いろは「雪乃先輩とはまた今度お出かけしてください。今回ばっかりは先輩に来てもらわないと困るんです!」
八幡「はぁ? どういうことだよそれ」
いろは「あのー、実はですね……。先週学部の人とバーベキューをしまして、その内の一人がやたらわたしを気に入ったみたいでして……」
いろは「遊びに行こうとか誘われてその度に用事とかバイトとか適当に言って断ってたんですけど、最近そのお誘いがしつこくなってきた……というかウザくなってきましてつい言っちゃったんですよね」
八幡「何を」
いろは「彼氏ができたからもう誘わないでって」
八幡「へぇ。ちなみにその彼氏ができたってのは嘘だよな?」
いろは「なんですか先輩もしかしてわたしに彼氏がいないからって口説こうとしてます? わたしぐいぐい来る人は無理ですし……あ、でも先輩なら……とにかくごめんなさい」
八幡「……バックヤード整理してくるわ」
いろは「わーごめんなさいごめんなさい! 嘘です! 彼氏いるって嘘付きました! 今回ばかりは本当に助けて欲しいので見捨てないでくださいぃぃい!」
八幡「わ、わかった! わかったからしがみついてくんな! 今バイト中だぞ!?」
いろは「あ……そ、そうでした。すみません……」カアア
八幡「……そんで話を戻すけど、嘘とは言え彼氏できたから連絡してくんなって言ったんならもうそれでいいじゃねぇか。俺が介入する余地は無いぞ」
いろは「それがそうもいかなかったんですよ……。どうやらその人はわたしが彼氏できたって伝えても信じてないらしくて……」
八幡「どんだけ粘着されてんの……」
いろは「こっちが知りたいですよもう……。ストーカー行為はされてないだけマシなんですけどね」
八幡「その代わり下手したらストーカーに変貌する可能性はあるな」
いろは「ですかね……」
八幡「にしても一色ってなんつーか、案外モテるんだな」
いろは「ふふん! 自慢ってわけじゃないですけどわたしこれでも結構口説かれたりするんですからね! ま、全部お断りしてるんですけど……」
八幡「俺はそのストーカー予備軍のことをよく知らんが少しでもそいつのこと良いと思ったりしたなら付き合えばいいんじゃねぇの? てか遊びにくらい行けばいいじゃねぇか」
いろは「無理です無理です! もうこうやって何度もしつこく連絡してくる地点で無いです! わたしから何度も連絡ならともかく男の方から何度も連絡してくるなんて嫌です。なんか女々しいじゃないですか」
八幡「お、おう。そ、そうか……?」
いろは「そうです。わたしはそっけないくらいの方が良いんです。その方が相手から連絡着た時とか不意に優しくされた時とかきゅんと来ません?」
八幡「いやわかんないし……。男の俺に聞くなよ」
いろは「それもそうですね。……後で雪乃先輩に聞いてみよっかな」ボソッ
八幡「あん? なんて?」
いろは「あ、いえ、こっちの話です!」
八幡「……?」
いろは「そ・れ・で! 何とかその人にわたしを諦めて欲しいって話なんですけど、ちょっと先輩にお願いがありまして……」
八幡「まさか彼氏役やってくれとか言うんじゃないだろうな?」
いろは「さっすが先輩、話が早いですね! ずばり、そういうことです!」
八幡「ベタ過ぎるし無理に決まってんだろ。俺には雪ノ下いるんだし」
いろは「別に彼氏になって欲しいって言ってるわけじゃないですよ。彼氏役を演じてくれるだけでいいんです!」
八幡「演じるって言われてもな……」
いろは「1日だけ、1日だけでいいんです。1日だけわたしとデートしてくれれば大丈夫なので」
八幡「デートすればいいって……ストーカーされたりしてないならする意味ないだろ」
いろは「意味はあります。今度の日曜にその人バイトがあるって言ってたんで、わたしと一緒にそのお店に行きましょう。お店と言ってもただのマックですけどね」
八幡「マック行くだけなら俺じゃなくてもいいだろ。なんでわざわざ俺に頼むんだよ」
いろは「だ、だって彼氏ができたって言った時にどんな人かって聞かれて……咄嗟に目が腐ってて少し猫背の人って言っちゃったんですもん……」
八幡「まずそれが俺のことを指してることが腑に落ちないし、なんでマイナス面な部分だけを紹介してんの……。もっと無難に金髪イケメンのスポーツマンとか言えよ」
いろは「どんな人か聞かれるなんて予想してなかったんですもん! 咄嗟に思いついたのが先輩でしたし……」
八幡「それならそれでもっと違う表現が良かったわ……。ほら、格好良いとか」
いろは「ハッ」
八幡「おい鼻で嗤うな……」
いろは「とにかくお願いします! 目が腐ってる人なんて周りに先輩しかいないんです! 一緒にマック行くだけでいいんです!」
八幡「地味に失礼だなこいつ……。はぁ……。まぁ、これでお前が嘘付いてたとバレたら色々と問題が起きそうだしな……」
いろは「じゃあ……!」
八幡「ちょうどロコモコバーガー食ってみたかったしな。マックに行くだけだぞ。 待ち合わせとかはまた前日くらいに連絡入れてくれ」
いろは「はい! 本当にありがとうございます! 雪乃先輩にはわたしからも連絡しておきますね」
八幡「わかった。……じゃあこれで一色は俺に一つ貸しができたな」ニヤリ
いろは「何ですかそれ貸しだからと言ってわたしを好き勝手したいとか気持ち悪いですし諦めつかなくなるので無理ですごめんなさい」
八幡「あっそ……」
八幡「……遅い」
いろは「せんぱーい!」
八幡「お、やっと来たか」
いろは「こんにちはー。すみません待たせちゃって」
八幡「15分も待ったわ」
いろは「もー。だからそこは今来たとこって返さないと駄目じゃないですかー」
八幡「だったらせめて待ち合わせ時刻までには来てくれ」
いろは「女の子は準備に色々と時間が掛かるのでそれは無理です」
八幡「女の子の雪ノ下さんは毎度遅くても待ち合わせ時刻の15分前には来てるんですが……」
いろは「……あの人は特別なんでいいんです! それよりもほら、久しぶりに可愛い後輩とデートですよっ。嬉しいですか?」
八幡「本命がいる相手にそういうこと聞くんじゃねぇよ……」
いろは「別に変な意味で聞いたわけじゃないですもーん」
八幡「じゃあだるい」
いろは「だるいはさすがに正直すぎませんかね……」
八幡「ちょうど昼時で人も多いから余計にな」
いろは「それなら早速お店入っちゃいましょうか。お昼食べてないんでお腹も空いてますし」
八幡「そんじゃ行くか」
いろは「はいっ。行きましょう!」ギュッ
八幡「おい腕組むのやめろ……」
いろは「えー。ちょっとくらい良いじゃないですかー。雪乃先輩には事情を話してますし」
八幡「そういう問題じゃねぇよ……」
いろは「俺と腕を組んでいいのは雪乃だけだ、キリッ。ってことですか?」
八幡「まあ、間違いではないな」
いろは「そーですかー。ほーんと先輩って雪乃先輩と付き合ってから変わりましたよねぇ。はっきり言ってちょっと生意気になった気がします」
八幡「お前は元から超生意気だけどな……」
いろは「ふー。わたしモス派なのでマックとか久しぶりに行ったんですけど結構おいしかったですねー」
八幡「俺も久しぶりに食ったわ。美味かったな、コーラ」
いろは「せめて食べ物褒めてあげましょうよ……」
八幡「そいや普通に飯食ってるうちに本題を忘れてたんだが結局例の男はいたんだよな?」
いろは「はいいました。ポテト作ってた人ですよ?」
八幡「あー……そういえばあいつやけに俺のこと見てたな……」
いろは「わたしが先輩とお店に入った瞬間露骨に眉しかめてましたからねー。その後わたしと目が合った時の悔しそうな顔ときたら……ぷくく」
八幡「お前いつか刺されるぞ……」
いろは「大丈夫です。その時は先輩が助けてくれますからっ」
八幡「いや警察呼べよ」
いろは「警察は信用ならないです」
八幡「ああ、そう……」
いろは「ともかく今日はありがとうございました。普通にマックでお昼食べただけでしたけど、さっき見た彼の感じだと多分もう言い寄られることは無いと思います」
八幡「そうか。なら良かった。まっ、また困ったことがあったら言え。今日みたいな飯行く程度の面倒事なら手ぇ貸してやる」
いろは「もしかして口説いてますか? ごめんなさい雪乃先輩を裏切るようなことはしたくないですし二股掛けようとかあり得ないので無理です」
八幡「全然ちげぇよ……。つーか今日の目的はもう済んだしこのまま解散でいいよな」
いろは「えっ」
八幡「えっ、なに」
いろは「解散ってまだお昼ですよ? 折角のお休みでまだ日も高いですし少しだけでいいので遊びましょうよー」
八幡「はあ? 遊ぶってどこでだよ。この辺何もないぞ」
いろは「………」
八幡「じゃあな。お疲れ」
いろは「ま、待って下さ――きゃあ!?」ヨロッ
八幡「うおっ。お、おい大丈夫か?」ギュッ
いろは「は、はい。すみません」カアア
八幡「……ったく。マック行くだけでヒールなんか穿いてくるなよ。危ないだろ」
いろは「い、良いんです! 女の子はちょっと家出るだけでもお洒落に決めたいんですから!」
八幡「そういうもんか?」
いろは「そういうもんです! それにこれは一応仮にもデートですし、お昼食べた後も先輩とどこかお出掛けするつもりでしたから……」
八幡「……おおう」
いろは「……ダメ、ですか?」
八幡「……はあ。少しだけだぞ」
いろは「え?」
八幡「あんまり遅くなると雪ノ下に怒られそうだしな」
いろは「……はいっ!」ギュッ
八幡「ばっ、だから腕組むのやめろ」
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雪乃(はぁ……。当日に突然アルバイトのシフトを変わるよう頼んでくるのって本当にやめてほしいわね……。特に予定も何もなかったから良いけれどせめて前日に……)
雪乃(あら? あれは比企谷くんと一色さん……?)
雪乃(そういえば一昨日辺りに一色さんから比企谷くんを借りたいって連絡があったのよね)
雪乃(比企谷くんに依頼して二人でファストフード店に行くとは聞いていたけれど、ここのお店だったのね)
雪乃(私自身はあまりファストフードを好まないのだけれど、たまには私も比企谷くんに連れて行ってもら――)
いろは「―――」ヨロッ
八幡「―――」ギュッ
いろは「―――」カアア
雪乃(……っ!?)
雪乃(え……。今よく見えなかったけれど比企谷くんが一色さんを抱きしめた……?)
雪乃(い、いえ。見間違いよ。比企谷くんに限ってそんなこと……)
いろは「―――」ギュッ
雪乃(い、一色さん!? どうして彼の腕を……!?)
プルルル
雪乃(こんな時に電話が……)
雪乃「……はい。雪ノ下です」
陽乃『あ、もしもし雪乃ちゃーん? 聞いたよー。比企谷くんと同棲したいんだってねえ』
雪乃「……突然電話してきたかと思えば。母さんから聞いたの?」
陽乃『うん。それでそんな話聞いたらお姉ちゃんとして放置するわけにもいかないなーって思ってさ。まだ雪乃ちゃんたちって夏休みでしょ? 近々また遊びに行』
雪乃「来ないで」ブツッ
雪乃(姉さんには悪いけど今は比企谷くんを……」キョロキョロ
雪乃(……い、いない。見失った……?)
雪乃(………)
雪乃(…………まさか比企谷くんに限ってそんなことは無い、わよね。彼からも一色さんとファストフードを食べに行くとは聞いていたし、普段から信頼している二人を疑うような真似をするのも……)
雪乃「………」
ピンポーン
雪乃「………」
雪乃(結局あのままアルバイトへ行ったけど……比企谷くんあれからまだ帰っていないのね。ずっと一色さんといるのかしら……)
雪乃(アルバイト終わりに電話をしても繋がらなかったし、このまま朝まで帰ってこないなんてこと……)
雪乃(そんなこと、あるはずがないわよね。彼を疑うような真似はしたくないし、一色さんだってきっと……)
雪乃(とりあえず比企谷くんの家で待っていればそのうち帰ってくるはず)ガチャッ
雪乃「比企谷くん、いる?」
雪乃「やっぱりまだ帰ってないわね……まだ一色さんと一緒にいるのかしら」
雪乃「……もうっ。事あるごとに布団は起きたらすぐ仕舞うように言っているのにまた片付けずに外出して……」
雪乃「寝間着も脱いだままにしてあるし……本当、私がいないとすぐ横着するんだから」
テレンッ♪
雪乃「通知音……? 比企谷く……ではなくて由比ヶ浜さんからだわ」
結衣『ゆきのんやっはろー! 見てみてカーくんと小町ちゃんたちとの3ショット! 今日は初めて小町ちゃんちに泊まるよ!(≧▽≦)』
雪乃『こんばんは。とても楽しそうね。カマクラさんがとても嫌そうな顔をしているけど……』
結衣『そうなんだよねー。なんかあたしがカーくん抱くとものすっごい嫌そうな顔するの(´・ω・`)』
雪乃『私の時も最初はあまり懐いてくれなかったわ。でもちょっとずつコミュニケーションを取っていくと自然とカマクラさんの方から寄ってきてくれるから大丈夫よ』
結衣『ほんと!? じゃあちょっとずつ仲良くなってくよ( ・`ω・´)』
雪乃『ええ。仲良くなったらまたカマクラさんとの写真を送ってね』
小町『雪乃さーんお盆ぶりです! あ、小町です!』
雪乃『小町さん?』
小町『はい! 結衣さんのスマホ少しお借りしてます! 今って近くにお兄ちゃんいたりしますか?』
雪乃『比企谷くんは……今一緒にいないの』
小町『あーそうでしたか。なら大丈夫です!』
雪乃『どうかしたの?』
小町『ちょっと母からお兄ちゃんへ伝言を頼まれまして。いないならいいんです! 後で小町から直接連絡しておくので!』
雪乃『二度手間になるし良かったら今ここで聞いて私から彼へ伝えておくわよ?』
小町『あ、ならお願いしてもいいですか? お兄ちゃんにお母さんが変なパラソル送ってくるなって怒ってたよとお伝えください!』
雪乃『パラソル……。え、ええ。伝えておくわ』
小町『すみませんお願いします!』
結衣『じゃああたしたちそろそろご飯作るね! カーくんの写真とか撮ったらまた送るよ!』
雪乃『ええ、楽しみにしてるわね』
結衣『ゆきのんもヒッキーとの写真送ってきてもいいんだよ?ヾ(´ε`*)』
雪乃『そ、それはちょっと……』
結衣『冗談冗談! それじゃあゆきのん、また今度皆で一緒にご飯でも行こうね!』
雪乃『そうね。その時はまたこちらから連絡するわ』
結衣『らじゃー!』
雪乃「……写真、ね。よくよく考えてみれば二人で写真を撮ったことなんて一度もなかった気がするのだけれど……」
雪乃「お互い自分から写真に誘うタイプではないからそういった機会すらなかったのよね」
雪乃「二人で写真を撮りたいと言ったら彼は付き合ってくれるかしら……。恥ずかしいから嫌だとか言いだしそうね」クスッ
雪乃「………」チラッ
雪乃「……折り返しの電話は無し。比企谷くん今どこにいるのかしら……」
雪乃「はあ……比企谷くん……」ドサッ
雪乃「比企谷くんの布団…………比企谷くんの……」スンスン
雪乃「比企谷くん……比企谷くん……。最近二人でゆっくり過ごせる時間があまり取れないせいからかしら……比企谷くんに今すぐにでも会って触れたい……」
雪乃「比企谷くん……会いたい……早く、早く帰ってきて…………んっ」
雪乃「はあはあ……ひきが、くん……は、あ…………はち、まん……八幡っ……」
雪乃「……んんぅ……はあ……彼の家で……はあ……こんな、こと……いけない、のに……」
雪乃「……あ、んっ、や…………んんっ…………んく、ふ……」
雪乃「あ……あっ……や………久しぶり……から…………もう……」
雪乃「はちまん……――」
いろは「先輩今日はお疲れ様でした~」
八幡「ほんとお疲れだよ。結局日が沈むまで遊んだ挙句飯まで食って……」
いろは「結局遊んだってそれ先輩が言っちゃいます? 先輩が勝つまでやるっていうからこんな時間まで私もビリヤードに付き合ってあげたのに」
八幡「……俺からビリヤードでもするかって言っておいて後輩に4連敗もしたらそりゃ意地でも勝ちたくなるだろ」
いろは「先輩が弱すぎるんですよ。結局わたし12連勝くらいしましたし」
八幡「弱いんじゃなくてビリヤード慣れてないだけだ……。今日初めてやったしな。それに俺はレスト使ってないから実質ハンデ背負った状態でやってただろ」
いろは「レスト? ああ、あの支え棒ですか? そんなの先輩も使えばよかったじゃないですか」
八幡「いやなんか男が使うとダサいしあれ……」
いろは「変な意地張って後輩に12連敗するよりかはマシだと思うんですけど」
八幡「やめろ言うな」
いろは「まあ、ご飯奢ってもらいましたしわたしはどっちでもいいですけどねー」
八幡「一応負けた方が何か奢るってルールだったしな……」
八幡「何はともあれ大分暗くなってきたし帰るか」
いろは「ですねー」
八幡「送るか?」
いろは「いえ、ここから私の家近いので大丈夫です! それに殆ど誰かさんのせいですけど一応こんな時間まで先輩を借りてたわけですし、そろそろ雪乃先輩にお返ししないと」
八幡「お気遣いどーも」
いろは「今日帰ったらちゃんと連絡してあげてくださいね?」
八幡「連絡も何も昨日一色と出掛けることは伝えてあるし別にいいだろ」
いろは「はあー。先輩はわかってませんねぇ。そういう問題じゃありませんから」
八幡「じゃあどういう問題なんだよ」
いろは「そこはちゃんと雪乃先輩の気持ちも踏まえてご自分で考えてください」
八幡「お、おう……」
いろは「あ、ちなみになんですけど、今日のデートは10点ってとこですかねー」
八幡「採点してたのかよ……。一応聞くけど何点満点?」
いろは「もち100です」
八幡「昔と点数が一緒じゃねぇか。てか相変わらずなんで低いんだよ」
いろは「まず彼女がいるにも関わらずほいほいついてきちゃうあたりマイナス80点」
八幡「お前がしつこく頼んできたから今日は来たのに……」
いろは「それから言動もろもろ含めてマイナス20点」
八幡「前回よりそこの配点甘いな。ていうかゼロになったんですけど」
いろは「そして後輩にゲームで負けてムキになるのでマイナス10点ですね」
八幡「ちょい待て。俺の得点マイナスになっちゃったぞ」
いろは「……まあ、でも、今日はとても楽しかったのでおまけで20点あげます」
八幡「そりゃどうも……」
いろは「……よしっ。それじゃあ帰りましょうかー。今日は本当にありがとうございました」
八幡「もう変なのに付き纏われるなよ」
いろは「はい。先輩も気をつけてくださいね。先輩が思っている以上に女の子は嫉妬深くてめんどくさいんですから」
八幡「嫉妬深いねぇ」
いろは「そうですよ。とっても…………嫉妬してるんですから」
八幡「それはお前も含まれてるのか?」
いろは「さあ、どうでしょうね! ではでは先輩! わたしはそろそろ行きます。また学校かバイト先で」
八幡「あ、ああ。気をつけてな」
いろは「はあい。さよならー」
八幡「………」
八幡「……俺も帰るか」
八幡「ふう。やっと帰ってきた……。なんだかんだ言って結局遅くまで遊んで来ちまったな……」
八幡「ま、俺のせいだけ、ど……って」ガチャ
八幡「鍵が開いてるじゃねぇか。しまったな。今日鍵閉めずに出掛けてたのか……」
八幡「ん? いや、この靴……」
八幡「雪ノ下ー? 来てるのか? 雪ノし――」
雪乃「………」スー
八幡「寝てるな……。てかなんで俺んちいるんだ……?」
雪乃「………」
八幡「おーい雪ノ下。風邪引くぞ。起きろー」
雪乃「……んん」
八幡「起きないし……。いつから俺んち来てたんだよ」
雪乃「………」
八幡「雪ノ下ー?」
雪乃「………」
八幡「雪ノ下さーん? 起きないとイタズラしちゃいますよー?」
雪乃「………」
八幡「おーい?」
雪乃「………」
八幡「……マジでやっちゃうよ?」
雪乃「………」
八幡「ちょっとくらいなら起きない、よな……?」
雪乃「………」
八幡「髪、ほんとさらっさらだなこいつ。一生撫でていたいレベル」
雪乃「………」
八幡「頬はすべすべだし……。どうやったらこんなすべすべになるんだよ」
雪乃「………」
八幡「胸も雪ノ下は控えめ方とはいえ十分すぎるほど柔らかいし……」
雪乃「……ん」
八幡「唇も超柔らけぇ……」グニッ
雪乃「んむ……」
八幡「き、キスくらいなら起きないよな……。いや、さすがに……」
雪乃「………」
八幡「……い、いや我慢だ八幡」
八幡「でも最近二人でゆっくり過ごし時間取れなかったもんな……少しだけ……」
八幡「……いやいや」
雪乃「………」スー
八幡「………」ナデナデ
雪乃「んん……ん……」
八幡「おっ、起きたか」
雪乃「比企谷……くん?」
八幡「おはようさん。つってももう夜だけど」
雪乃「………」
八幡「雪ノ下?」
雪乃「ばか……」ギュッ
八幡「は……な、何だよ急に」
雪乃「今日一日……一色さんと何をしてたの……?」
八幡「何って昨日連絡しただろ? あいつの依頼をこなしてただけだ」
雪乃「それはお昼を食べるだけって話でしょう? なのにどうして帰りがこんなにも遅いの……?」
八幡「あー……それは俺が」
雪乃「……一色さんに腕を組まれまんざらでもない顔をしていた」
八幡「み、見てたのか? つーか喜んでねえよ。それにすぐ振り解いた」
雪乃「……電話したのに、出てくれなかった」
八幡「……わ、悪い。それは朝からスマホの充電するの忘れてて昼には」
雪乃「………」ギュッ
八幡「……悪かったよ」
雪乃「すごく、すごく不安だったのよ……?」
八幡「……気付かなかったとはいえ、連絡はするべきだった。本当に悪い……」
雪乃「……一色さんとは結局何をしていたの?」
八幡「昼飯食った後にどこか遊ぼうってなってな。街のほうに行ってみたらビリヤードができるとこがあってそこで一色と遊んでたんだ」
雪乃「それだけでこんな時間まで?」
八幡「なんつーかその……ビリヤードで俺があいつに全く勝てなくてな。どうしても一勝くらいはしたくて勝つまでやってたら……」
雪乃「………」
八幡「あ、あと負けた方は飯か何か奢るってルールでやっててな。結局俺が負けたからそのまま晩飯も食ってこうして帰ってきたって感じだ」
八幡「信用ならないなら一色に電話でもしてくれればわかる」
雪乃「……いえ、信じるわ。嘘を付くメリットなんて無いでしょうし」
八幡「まあな」
雪乃「それで、どうだったの?」
八幡「ど、どうとは……?」
雪乃「彼女がいるにも関わらず、こんな時間まで彼女を放って別の女性と遊んだ感想に決まっているでしょう?」
八幡「え……」
雪乃「別に怒って聞いているわけではないのだからほら、聞かせて?」
八幡「いや、あの……怒ってますよね? 凄い睨んでますよね?」
雪乃「寝起きだからよ。ほら、いいから教えて? 一色さんとのデート、楽しかった?」
八幡「で、デートってお前……」
雪乃「何時間も異性と外で遊んでいたならそれはもう十分デートと言い切れると思うのだけれど。そう思わない?」
八幡「……そう思います」
雪乃「いいから答えなさい。楽しかったかそうでないか、選択肢は二つよ」
八幡「あー、いや、その、あー……二択なら、まあ……楽しかったです」
雪乃「そう……」
八幡「で、でも連絡入れなかったことやお前以外の女と夜まで一緒だったことは本当に反省してる。何なら神に誓ってもいい」
雪乃「本当に誓える?」
八幡「誓える」
雪乃「……そ。あなたが本当に反省しているのというのなら、今日のことはこれで不問にしてあげるわ」
八幡「……いいのか?」
雪乃「ええ。相手が一色さんとわかっているし、彼女のことは信頼しているから。それに、私も過去に一度あなたに不安な思いをさせてしまったもの……」ギュッ
八幡「新歓の件か? あれと今回の件は全く別もんだろ。ぶっちゃけ今回の件は全部俺に非があるしな……」
八幡「これはお前から言われたセリフだが、別に相手が一色だったからだとかそんな理由を付けて俺のことを無理矢理許そうとしなくていいんだぞ」
雪乃「別に無理矢理許そうだなんて」
八幡「んじゃなんで、さっきから俺の裾を強く握りしめてるんだ?」
雪乃「こ、これは……」パッ
八幡「わかった風な口をきくと、お前は相手が誰であれ俺が他の女といることを嫉妬したりしてくれる優しい女の子だってことも、その時の俺の態度次第じゃ完膚なきまでに俺を沈めてくるような怖い女の子だってこともわかってる」
八幡「だから、言いたいことがあるなら何でも言ってくれ。自然消滅させるくらいなら好きなだけ俺を怒鳴り散らしてくれ。いつものように罵ってくれ」
八幡「終わったことなんて掘り返さなくていい。自分のことは棚に上げてくれていい。今はただお前の気持ちを考えなかった俺だけが悪いんだ。お前が笑って許してくれるって言うなら土下座だろうがビンタだろうが何だって受ける」
八幡「……だから、そんな沈んだ顔で俺を許すのはやめてくれ」
雪乃「比企谷くん……」
八幡「なんつーか、雪ノ下の新歓の時も似たようなこと話したよな、俺ら」
雪乃「ええ。あの時は立場が逆だったけどね……」
八幡「こうして似たような話をまたしてるってことは、俺らはあれから何も成長してないってことだな」
雪乃「そう、みたいね」クスッ
雪乃「比企谷くん」
八幡「なんだ?」
雪乃「さっきの不問にするって話、撤回するわ」
八幡「……おおう」
雪乃「ちゃんと私の不安が取れるまでは許してあげないから」
八幡「それはどうやったら取……っ!?」
雪乃「んっ……んむ…………んん……」
八幡「ゆ、雪ノ下」
雪乃「……名前で呼んで」
八幡「雪乃…………」
雪乃「んふ…………八幡……」
八幡「…………っ」
雪乃「ん、はあ……本当は……ちゅ……ずっと、こうしたかったんだから……」
八幡「最近はずっとゆっくりできる時間取れなかったもんな……。お互い朝が早かったり夜が遅かったりで」
雪乃「そうね。おまけに誰かさんは私を放ったらかしにするしね」
八幡「ほんとにさーせん……」
雪乃「だからいい? 今から言うことはあなたへの罰よ。今日はこのまま私のこと、たくさん抱きしめて。じゃないと許してあげないから」
八幡「それは罰と言うかご褒美だな」ギュッ
雪乃「もっときつい罰が良かった?」
八幡「いいや。むしろ雪乃のこと本当に不安にさせたって実感が湧いてきて今でもじゅうぶんきつい」
雪乃「それならもっと、今まで以上に私を八幡で一杯にして……。不安が吹き飛ぶくらい、私を……」
八幡「……ああ、わかってる。その、ありがとな……」
雪乃「あら、どうしてお礼を言うの?」
八幡「なんて言うかその、ここまで俺のことを想ってくれてたのかと思うと、な」
雪乃「それを言うならあなただって……。あと、そういうことであればもっと別の言葉を掛けてくれた方が嬉しいのだけれど」
八幡「別の言葉か……」
八幡「……その、あー、あ、ああ、愛してる、ぞ?」
雪乃「………」
雪乃「ぷっ……ふふ、ふふふふふ」
八幡「おい笑うなよ……」
雪乃「ふふ、ごめんなさい。だってあなた、すごく顔を真っ赤にして言うんだもの。なんだかおかしくて」クスッ
八幡「おかしくねーから……」
雪乃「でもあなたの気持ちはじゅうぶん過ぎる程伝わったわ」
八幡「ほんとかよ……。割と今の本気で笑ってたろ……」
雪乃「本当よ。信じられないのならちゃんと伝わったってこと……教えてあげる――」
八幡「ふー。さっぱりした」
雪乃「まだ背中が濡れているわよ? ほら、ちゃんと拭いて」
八幡「おお、さんきゅ。そういえばこうして二人で風呂入ったの地味に初めてだよな」
雪乃「そ、そうだったかしら……?」
八幡「ああ。何度か一緒に入ろうと誘った記憶があるが全部断られてるしな」
雪乃「……その理由は単に八幡が下心丸見えで気持ち悪かっただけよ」
八幡「下心があったのは認めるが気持ち悪いはやめてくれませんかねぇ……」
雪乃「あ、あとは体を洗う姿を見られるのが恥ずかしいから……」
八幡「は? 体を? さっきまでもっと恥ずかしいことして……」
雪乃「そ、それは八幡だって同じでしょう……? そ、そもそも体を洗う姿を見られるのは恥ずかしくてあまり好きではないのよ……」
雪乃「由比ヶ浜さんと何度か一緒にお風呂に入ったことがあるけれど、その時なんて彼女、私が洗う姿をずっと見てくるのよ……? あれだけは何とかして欲しいものね……」
八幡「お、おう」
八幡(セクロスより体洗う姿を見られる方が恥ずかしいのか……。今日まで一緒に過ごしてきて初めて知った衝撃の事実なんだけど)
八幡「でも今日は一緒に入ったけど良かったのか?」
雪乃「ええ。その、行為の後だったし、今日は何だか八幡と一緒に入りたいと思ったから……」
八幡「でもガッツリお前の体洗う姿とか見ちゃったけど」
雪乃「……別に八幡になら見られたって少しくらい我慢するわ。……恥ずかしいけどね」
八幡「そうか」
八幡(絶対また今度一緒に入ろう)
八幡「それにしてもちょっと小腹空かないか?」
雪乃「今から何か食べる気? もう日付も変わろうとしているけれどこんな時間に食べたら太るわよ?」
八幡「小町にもう少し肉を付けろって言われてるし少しくらいならいいだろ」
八幡「それに誰かさんがなかなか満足してくれなくて結構カロリーも消費したしな」
雪乃「……そういう意地の悪いことは言わないで。ひ、久しぶりだったからその、仕方ないじゃない」カアア
八幡「まあ確かに俺も久しぶりで色々とあれだっけけどな……」
八幡「とりあえず俺はコンビニでなんか買ってくるがどうする? 眠いなら先寝ててもいいが」
雪乃「いえ、眠気ならとっくに覚めてるわ。あなたが帰ってくる前にも少し寝てしまっていたしね。だから私も八幡と一緒に行くわ」
八幡「りょーかい。……そういえばもう慣れたのか?」
雪乃「……え?」
八幡「その、なんだ。名前、慣れるまで呼ばないって話だったろ。ようやく慣れてくれたのか」
雪乃「……そうね。慣れたかと聞かれるとそういうわけではなくて……」
雪乃「ただそう呼びたいから、そう呼んでいるだけよ。……だ、だから八幡も今くらいは私のことを名前で呼びなさい。いいわね?」
八幡「………」
雪乃「……何よ」
八幡「んや、別に。照れてちょっと上から目線になってるのが可愛いなと思ってな」ニヤリ
雪乃「………………コンビニ、行くんでしょう? 余計なこと言っていないで早く準備なさい」フイッ
八幡「はいよ、雪乃」
雪乃「ごめんなさい……。今日は二人でお出掛けする約束をしていたのに……」
八幡「急遽学校行くことになったんだろ? しゃーねぇよ」
雪乃「でも昨日は私から誘ったにも関わらず……」
八幡「今日しか無いってわけじゃないんだし気にすんな。ちなみになんだがそのゼミって何時くらいまであるんだ?」
雪乃「夏休み明けのゼミ活動について日程と調整をしたいとのことだから遅くても15時には終わると思うわ」
八幡「じゃあお前さえ良ければその後からどうだ?」
雪乃「……いいの?」
八幡「ああ、どうせ今日は何も予定ないしな」
雪乃「……ありがとう。それならゼミが終わったらすぐに戻ってくるから」
八幡「おう」
雪乃「じゃあ、そろそろ行くわね」
八幡「ああ。……いや、俺もコンビニ行きたいから途中まで行くわ」
雪乃「……学校まで来てくれないの?」
八幡「えぇ……。ま、暇だし行くか」
雪乃「一応冗談のつもりだったのだけれど……」
八幡「そうか? ならコンビニまでで」
雪乃「ま、待って。学校まで送ってくれるのなら、その、一緒に……」
八幡「送るってお前、どうせお互い歩きだし俺が学校まで送る意味無いだろ」
雪乃「でも予定が変わった分、少しでもあなたと一緒にいたいじゃない……」
八幡「そんなこと言われたら行くしかなくなっちゃうだろ」
雪乃「大丈夫よ。拒否させるつもりなんて無いもの」
八幡「……なんだか今日は一段と我儘ですね」
雪乃「たまにはいいでしょう? 女は少し我儘なくらいがちょうどいいって一色さんも言ってたわよ?」
八幡「あいつの言葉は間に受けなくていいから……」
ゼミ室
女A「あ、ゆきっち来た! やっほー」
女B「やっほっほー」
雪乃「こんにちは。男子たちはまだ来ていないの?」
女A「それならさっき先生が男子引き連れてどっか行ったよー」
女B「先月あったオープンキャンパスでうちの学部が使った機材の撤収がまだだったから、ゼミはその撤収作業をしてからだって」
雪乃「そうなのね」
女B「そ・れ・で、雪ノ下さん!」
雪乃「……な、なにかしら?」
女A「?」
女B「見たよ!」
雪乃「……はい?」
女B「雪ノ下さん今日学校来るとき彼氏さんと一緒にきてたでしょー! 来るときウチが原付で抜かしたの気づかなかった?」
雪乃「え、ええ。気づかなかったわ」
女A「え!? ゆきっち彼氏いるの!?」
雪乃「……言ってなかったかしら」
女A「言ってなかったよ! 初耳だよ初耳!」
女B「いやあ、ウチも一瞬しか見れなかったから彼氏さんの顔はよく見えなかったけどねー」
女A「えっ、え!? ゆきっちの彼氏ってどんな人!? ここの大学!? 年上? 年下!?」
雪乃「え、えっと……」
女B「こらこらいっぺんに聞くんじゃないの。雪ノ下さん困ってるでしょ」
女A「あ、ごめんごめん」
雪乃「いえそんな……」
女B「どうせなら当ててあげよう。後ろ姿を見た感じだと相手は……年上でしょ!」
雪乃「……これは答えないといけないのかしら」
女A「もちろん! あ、答えてくれたら私の好きな食べ物教えてあげる!」
雪乃「ごめんなさい。それはすごくどうでもいいわ……」
女B「ちなみにいつから?」
雪乃「……高校から、かしら」
女A「うっそラブラブじゃん!?」
女B「いやー雪ノ下さんって結構学部の連中に口説かれたりされるのにそれら全部断ってるから彼氏いるんじゃないかなーとは思ってたんだよねー」
女A「ていうか一緒に今日来てたってことは学校一緒?」
雪乃「ええ、学部は違うけれど。あと歳も一緒よ」
女B「同い年だったかー。ていうか学校も一緒なんだ」
女A「何学部!? 紹介して紹介して!」
女B「お顔が見たいです! あの時そのまま走り去ったこと後悔してるんです! 何なら雪ノ下さんの彼氏が超絶気になるまであるんです!」
雪乃「で、でも……」
女A「あ、写メとかない!? ついでに私の彼氏も見せてあげるよ!」
女B「ウチは彼氏いないから……えーと、これ! この前撮った猫の写真見せるから!」
雪乃「……猫。ちょっと見せてもらえる?」
女B「うん。ほら! 可愛いでしょ」
雪乃「……かわいい」
女A「私はほら、これ彼との……あ、待って。ふざけて撮ったキス写真しかない……。えっと、普通の普通の……」
女B「ぺっ。バカップルが」ボソッ
女A「ちょっと! 聞こえてるんですけど!?」
女B「とにかく。……写真でも駄目かな? あ、本当に嫌ならもうこれ以上言わないから!」
雪乃「紹介はさすがに彼が嫌がると思うけれど、彼の写真を見せるくらいなら……。猫の写真も見せてもらったしね」
女B「ほんと!?」
雪乃「ええ。見るだけよ?」
女B「もちろん! ありがとー。これで謎が一つ解消されるよー」
女A「ゆきっちの彼氏……イケメンの予感……」
雪乃「そこまで期待されるとがっかりするかもしれないわよ?」
女A「いやいや。学部の男子の視線を根こそぎ奪ってるゆきっちさんの彼氏なんだから絶対イケメンでしょ!」
女B「それあるー!」
雪乃「奪ってるだなんて話、初耳なのだけれど……」
雪乃「……あ」
女A「んー? どうかした?」
雪乃「……ごめんなさい。改めて写真データを探してみたのだけれど彼の写真が無いのよ」
女A「え……。い、一枚も? 私なんて何十枚もあるのに」
雪乃「その、私も彼も写真に写ったりするのがあまり得意ではないから……」
女B「そっかー。ないのかー。このもやもやは抱えたまま生活していくことになるんだね……」
女A「そうなるねー……」
雪乃(本当は比企谷くんの寝顔写真ならたくさんあるけれど、これは彼も知らないし私だけが独り占めしても……良いわよね)
雪乃「……今度、彼が許してくれたら写真を撮って改めて見せてあげるわ」
女A「ほんと!?」
雪乃「ええ」
女B「じゃあその間にウチらは雪ノ下さんの彼氏を頑張って特定しよう!」
女A「おー!」
雪乃「やめなさい……」
八幡(いやー、今日もアイスがうまいっ。やっぱアイスといえばブラックサンダーアイスだよなー)
八幡(もう9月とは言えまだ暑さも残ってるしアイスは色々と捗るぜ!)
八幡(さて、と。雪ノ下は三時までには帰ってくるって言ってたが今から約二時間何をして時間を潰すか)
八幡(特にやることもないし昼寝かゲームだな)
八幡(あーでも最近暇な時は昼寝ばっかしてるって言ったらあいつに呆れられたんだよな……)
八幡「ま、どうせ暇だし今日は最近放置してたゲームのトロコンでも進めるか。時間潰しにはな――」
女「――だーれだっ?」スッ
八幡「は? え? ちょっ」ビクッ
八幡(え? え? なに、新手のナンパ? 最近のナンパっていきなり見ず知らずの相手目隠ししちゃうの?)
八幡(いいや待て。これは下手したらカツアゲなんじゃないのか?)
女「ほーら、答えて答えて。だーれだ?」
八幡「いや、あの……」
女「もしかして誰かわからない……?」
八幡「え、あ、はい……。と、とりあえず離れてもらっていいですか……」
女「ふ~ん」ダキッ
八幡「」ビクッ
女「本当に私がわからないんだ」
陽乃「――比企谷くん」
八幡「っ!? は、陽乃、さん……」ゾクッ
陽乃「ぴんぽーん。正解。すぐバレたらつまらないと思って少し声低くしたんだけど裏目に出ちゃった?」
八幡「まさかこっち来てるとは思わないですからね……。ていうか離れてもらっていいですか。暑苦しいので」
陽乃「折角お姉さんに抱き着いてもらってるっていうのにその態度は関心しないなー」ムニー
八幡「柔ら、じゃなかったやめてください……。外でこんな抱き着かれてるとこを知った顔に見られたら洒落にならないんですよ……」
陽乃「んー。それもそっか。そうなったら雪乃ちゃんにも悪いしねー。仕方ない、一旦離れてあげよう」
八幡「ほっ。…………え、一旦?」
陽乃「よし、それなら今から比企谷くんち行こっか。今日は暇みたいだし」
八幡「は? や、今日はちょっと……」
陽乃「なんで? 今日はどうせ暇って言ってたよね?」
八幡「………」
陽乃「ゲームよりももっと楽しいことお姉さんがしてあげるからほら行くよ」グイッ
八幡「ふえぇ……」
陽乃「お邪魔しまーす。……へー。比企谷くんのお部屋に来たの初めてだけどこんな感じなんだ」
八幡「別に面白いものなんてないでしょう。何か飲みますか? と言ってもお茶かコーヒーしかないですけど」
陽乃「おっ、強引に来たにも関わらずちゃんと客人扱いはしてくれるんだ?」
八幡「……まあ、一応色々お世話にはなってますしね」
陽乃「うんうん、そういうところはお義姉ちゃん的にポイント高いよ。あ、飲み物は私タピオカジュースでいいや。最近ハマってるの」
八幡「ねぇよ……。コーヒーで我慢してください」
陽乃「ぶー」
八幡「それで、どうしてまた急にこっちに来たんですか。また親戚の用事とやらですか?」
陽乃「ううん。今回は純粋に遊びに来ただけだよ。私も一応夏休み中ではあるからね」
陽乃「それに前に来た時も言ったでしょ? 次来た時は今度こそ比企谷くんちに遊びに行くって」
八幡「そういえばそんなこと言ってましたね……。どうぞ」コトッ
陽乃「ん、ありがと。一応今回はちゃんと事前に連絡入れてあげようと思って雪乃ちゃんに電話もしたんだけどなー。聞いてない?」
八幡「あいつに? いえ、何も聞いてなかったですけど」
陽乃「まあ、電話した時の雪乃ちゃん何だか忙しそうにしてて途中で電話切られちゃったからねー。掛け直すのも面倒だしそのまま来ちゃった」
八幡「は、はあ……」
陽乃「ところでその雪乃ちゃんは? バイト?」
八幡「いえ、学校ですよ。2時間くらいしたら帰ってくると思いますけど」
陽乃「ふーん。そっか。なら比企谷くんにかまってもらおっと」
八幡「………」
陽乃「あ、そうだ。比企谷くんってば雪乃ちゃんと同棲したいんだってね。お母さんから聞いちゃった」
八幡「え……ああ、まあ、そうですね」
陽乃「へー、本当だったんだ。比企谷くんってそういうことはしないと思ってたのに」
八幡「あいつはよく俺んち泊まりに来てくれますからね……。一緒に暮らした方が楽ってのもありますし」
陽乃「それだけ?」
八幡「……後はあれですかね。もっとあいつといたいと言うかなんというか……」
陽乃「ふぅ~ん」
八幡「なんすか……」
陽乃「べっつにー? 君の言うもっと雪乃ちゃんといたいっていうのは、ちゃんと中身はあるんだよね?」
八幡「中身……?」
陽乃「そっ。胡乱で上っ面なものなんて私もお母さんも求めてないからね」
八幡「……そういうことですか」
陽乃「ありゃ、わかっちゃった?」
八幡「遊びに来たってのは口実で本当は同棲の件について話に来たんですか?」
陽乃「んー、おしい。正解は逆かな」
八幡「逆?」
陽乃「同棲について話に来たんじゃなくて遊びに来たついでに同棲のことも話すだけだよ」
八幡「さいですか」
陽乃「それでどうなの? 比企谷くんの返答次第じゃお母さんには私から話つけてあげてもいいよ?」
八幡「……いえ、話はちゃんと俺からしたいのでそういうのはいいです。質問の答えもその時に言います」
陽乃「あははっ。君の腐った性根なら少しでも楽な道を選ぶと思ったのになー」
八幡「酷い言われよう……。腐ったかどうかはともかくとして今でも楽な道があるなら余裕でそっちを選びますよ」
陽乃「そう? ならどうして? 私が話を付ければ比企谷くんはわざわざお母さんに挨拶しなくていいのに」
八幡「しないといけないとか、しなくていいとかそういう問題じゃないからですよ。ちゃんと考えたから、ちゃんとご挨拶したいだけです」
陽乃「……ほーんと比企谷君は変わったなぁ。いや、雪乃ちゃんに変えさせられたのかな? とにかくつまんない」
八幡「えぇ……」
陽乃「もう昔みたいなからかい甲斐のある比企谷くんにはもう会えないのかなー?」
八幡「残念でしたね。つまらない俺にしか会えなくて」
陽乃「それはどうかな」ギュッ
八幡「……っ」ビクッ
陽乃「昔の比企谷くんなら私に抱き着かれただけで顔真っ赤にしてたけど、今の比企谷くんは満更でも無さそうに拒否してくるから面白いんだよねぇ……。雪乃ちゃんで女を知ったから?」
八幡「女を知ったって何だよ……。表現生々しいにも程があんだろ。あながち間違えてないから強く言い返せないけど……」
陽乃「ほらほら比企谷くん。彼女の姉に迫られるってどんな気持ち?」ムニン
八幡「ちょ……からかうのも程々にしてくださいよ……」
陽乃「んんー? 嫌なら振り解けば?」
八幡「なら……」グイ
陽乃「あんっ」
八幡「あ、や……す、すいません」
陽乃「なんてね――」
八幡「……ぐおっ!?」ドサッ
陽乃「比企谷くんってチキンなんだかヘタレなんだか優しいんだかよくわからないね」
八幡「相手が相手ですからね……てか重いんでどいてください」
陽乃「あー! 女の子に向かって重いって言ったらいけないんだぞー?」
八幡「なら邪魔なんでどいてください」
陽乃「やだ。もう二人きりで話したいことは大体話しちゃったし、雪乃ちゃんが来るまで実験でもして遊ぼうよ」
八幡「は?」
陽乃「男の比企谷くんが彼女以外の女、それも彼女の姉にイタズラされてどこまで耐えれるか……面白そうじゃない?」
陽乃「ね? 比企谷くん」
八幡「全然面白そうじゃな……いや、ちょっ! マジで待」
ガチャッ
八幡「ッ!?」
陽乃「おやおや、もしかして雪乃ちゃん帰ってきちゃった? まだ1時間しか経ってないけど」
八幡「いやいやそんなことより早く離れてください……!」グイッ
陽乃「じゃあ次は比企谷くんが上ね」ガシッ
八幡「はっ!?」
雪乃「ただいま比企谷くん。玄関に見知らぬ……靴、が……」
八幡「……おおおおかえり」
陽乃「おかえりー。雪乃ちゃん」
雪乃「ね、姉さん。なぜ……」
雪乃「――いえ、それよりも」
雪乃「どうして比企谷くんは姉さんを押し倒しているのかしら? 後輩の次は彼女の姉だとでも言うの?」
八幡「ばっ……ち、違う! これには訳が……」
陽乃「まあまあ落ち着いて雪乃ちゃん。比企谷くんは私を見て興奮してるだけなんだから。ね?」
八幡「ね? じゃねぇよ……。何言っちゃってんのこの人? マジで違うぞ!? これは事故だ!」
雪乃「…………はぁ。どうせまた姉さんがちょっかいを掛けたんでしょう? とにかく、色々と聞きたいこともあるし二人共そこへ座りなさい」
雪乃「――それで。どうして姉さんがここにいるの?」
陽乃「どうしてって前みたいに遊びにきただけだよ。今回こそ比企谷くんちに行こうと思って」
雪乃「来るなら来るで事前に連絡を入れるよう言っておいたはずよ」
陽乃「連絡ならしたよ。したのに雪乃ちゃんが途中で電話切っちゃったんだもん」
雪乃「ということはあの時のが……」
陽乃「なんだか慌ててたみたいだけど電話した時何かあったの?」
雪乃「そ、それは……」チラッ
八幡「?」
雪乃「……姉さんには関係のないことよ」
陽乃「そう? なら別に私が雪乃ちゃんに怒られる謂れはないよね。それに今回は雪乃ちゃんの家には行くつもり無かったし」
八幡「だったら俺に連絡入れてくださいよ……。てか俺んち来るつもりだったなら普通俺に電話するでしょ」
陽乃「それは比企谷くんを驚かせようと思ってねー。作戦は大成功だったしお姉さんは満足満足っ」
八幡「道端で突然あんなことされたらそりゃ誰だってビビりますよ……」
陽乃「向かってる途中で君を見つけちゃったからついね。本当はいきなり家に乗りこむつもりだったけど」
八幡「やだそれ怖い」
陽乃「まあ、そういうわけで雪乃ちゃんは今回もいてくれなくていいからもう帰っていいよ? 明日には比企谷くんを返してあげるから」
八幡「え? まさか泊まるの?」
雪乃「どういうわけでそうなるのかしら。それと私たちはこれから出掛ける予定だから帰るのは姉さんの方よ」
陽乃「そうなの? なら私も付いて行っちゃおっ」
雪乃「絶対に来ないで。絶対に。いいから姉さんは今すぐ帰って」
陽乃「来たばっかりの人に帰れだなんて雪乃ちゃんひどーい。比企谷くんもそう思わない?」ギュッ
八幡「ちょ、すぐくっ付こうとしないで貰えます? ていうか泊まる気なんですか?」
雪乃「正座するよう言ったはずよ。彼から離れなさい……!」
陽乃「えー? どうせ今日は比企谷くんと寝るんだしいいじゃない」
八幡「泊まる気なんですね……」
雪乃「私がそんなこと許すと思って? それと、姉さんは私たちに構う暇があるのならこんなところで油を売っていないで恋人でも作った方が良いと思うのだけれど」
陽乃「ほー……。雪乃ちゃんも言うようになったねぇ」
雪乃「姉さんなんかに私の比企谷くんを渡す気なんてないもの。それに私が気付かないと思っているの……?」
陽乃「ふぅん……。さっすが雪乃ちゃんだね。わかっちゃったんだ」
雪乃「前に私の家へ来た時から薄々気付いてはいたわ。だから、尚更彼と二人きりにはできないわね」
陽乃「そっか……。まっ、それでも帰るつもりはないけどね! 帰りの新幹線のチケットはもう時間過ぎちゃって乗れないし」
雪乃「………」
陽乃「それにしても私の比企谷くんかぁ……。あれから雪乃ちゃんもだいぶ比企谷くんにデレるようになったんだね」
雪乃「なっ……」
陽乃「そのあたり比企谷くん的にはどう? 嬉しい?」
八幡「ど、どうって……まあ、嬉しい、ですかね……」
陽乃「比企谷くんも雪乃ちゃんをそう思ってるの?」
八幡「……一応は」
陽乃「ふぅん」ニマニマ
雪乃「い、いいからもう帰って。泊まりたいのなら私の家の鍵を渡すからそっちで一人で泊まりなさい」カアア
陽乃「やーだね。比企谷くんがいないと退屈だもん」
陽乃「どうしても出て行って欲しいならそうだなー……雪乃ちゃんが比企谷くんの好きな所と、比企谷くんにされて嬉しいこと、比企谷くんにされて気持ちいことを10個ずつ大きな声で答えたらいいよ?」
八幡「………」
雪乃「…………ふ、ふざけないで。どうしてそんなことを姉さんに言わないといけないのよ」
陽乃「それはもちろん私が満足するためだよ。元々私は比企谷くんちに遊びに来ただけであって、雪乃ちゃんには特に用は無いもん」
陽乃「だから今この状況も本当は私じゃなくて雪乃ちゃんが私の邪魔をしてるんだから、私に折れてほしいなら私の出す条件を呑んでもらわないと」
陽乃「比企谷くんもそう思わない?」
八幡「俺に言われても……」
雪乃「………」
陽乃「ほら、どうするの? 雪乃ちゃん」
雪乃「………」
陽乃「言わないなら私が代わりに言ってあげようか? 雪乃ちゃんの恥ずかしい話10連発」
雪乃「……!?」
陽乃「比企谷くんは知ってた?」
八幡「はい?」
陽乃「雪乃ちゃんが最後におねしょをしたのはねぇ……小学――」
雪乃「や、やめて! お願い、それだけはやめて……!」
陽乃「えー? じゃあ雪乃ちゃんには10個ずつちゃんと答えてもらわないと。あ、別に泊めてくれるなら言わなくてもいいよ? その場合はちゃんと雪乃ちゃんから比企谷くんにお願いしてほしいなー?」
雪乃「………」
陽乃「私としては比企谷くんには雪乃ちゃんから直接私を泊めるように頼んだ方が良いと思うなー。さっきの様子を見た感じだと自分の恥ずかしい過去は全て封印してるみたいだけど」ニヤリ
雪乃「………」
雪乃「………」
雪乃「…………ごめんなさい……比企谷くん。姉さんを……泊めてあげて……」
陽乃「だめだめ雪乃ちゃん。私がいるからって照れなくていいんだよ? ほーら、私がいないと思ってお願い大好きな八幡! って可愛くお願いしてあげて?」ニマニマ
雪乃「この……」
陽乃「あ、比企谷くん。実は雪乃ちゃんって初めてジェットコースターでお漏」
雪乃「お、お願い八幡……。姉さんを泊めてあげて、ください……」キュッ
八幡「お、おう……」
陽乃「ふふふっ。じゃあ決まりだね」
八幡「あの、さっきから俺の意思が一切考慮されてないんですけど……」
陽乃「比企谷くんには発言権すら与えたつもりはないよ?」
八幡「えっ」
陽乃「これ以上雪乃ちゃんをいじめちゃうと泣いちゃいそうだからなあ。まあ、泣き顔も可愛いんだけどね」
八幡「………」
陽乃「で、比企谷くんも私を泊めたくないの?」
八幡「……どうぞ好きなだけ寛いでいってください」
八幡(気付いたら立場も逆転させた上に自分の意見はどんな手段を使ってでも押し通す相変わらずの魔王っぷり。いや……)
陽乃「うん、ありがとっ。ずっと寛ぐのも悪いし、最初のお礼として今夜のご飯は私が作ってあげるね」
八幡「ど、どうも」
雪乃「………」
八幡(もはや大魔神だな……)
陽乃「はいっ、比企谷くん。あ~ん」
八幡「いや自分で食べれますから……」
陽乃「折角私が愛情込めて作ったんだから食べるのも私の手で食べてほしいの。だからはい、あ~ん」
雪乃「……いい加減にして姉さん。比企谷くんが困っているでしょう? それと食事中なのだからもう少し静かにして」
陽乃「もー、雪乃ちゃんったらヤキモチ? 可愛いなぁ」ニヤニヤ
雪乃「………」イラッ
八幡「ていうかなんで三人が横一列になって飯食ってんだよ……。陽乃さんはあっち座ってくださいよ」
陽乃「だって二人は仲良く隣に座って食べてるのに私だけ二人の向かいに座るのって何だか寂しいじゃない?」
雪乃「別に寂しくなんかないわ。姉さんがいない時はいつも私がそちらへ座って食べているのだから」
陽乃「そうなの? じゃあ雪乃ちゃん交代して? 私が比企谷くんの隣で食べるから」
雪乃「絶対に嫌」
八幡「はぁ……。じゃあ俺があっち座るか」
雪乃「だめよ。あなたは私の隣で食べて」ギュッ
八幡「あ、はい」
雪乃「いいから姉さんは元の位置で食べなさい。食事中に立ち歩くなんて行儀が悪いわよ」
陽乃「むー。仕方ないなあ」
陽乃「比企谷くんの隣に座れないなら君にはこれを注いでもらおうかな。んしょっ」
八幡「……?」
陽乃「じゃーん!」
八幡「日本酒、ですか」
陽乃「そっ。お父さんに比企谷くんちに遊びに行くって言ったら持っていけって言われてねー。比企谷くんは日本酒飲めるっけ?」
八幡「まあ一応。でも陽乃さんほどはいけませんよ」
陽乃「そっか。じゃあちょっと付き合って貰っちゃおうかなー。あ、雪乃ちゃんも飲む?」
雪乃「いえ、私は……」
陽乃「あら、いいの? 折角料理も日本酒に合うようにお魚メインの和食にしたのに」
八幡「まあこいつは酒全般ダメですからね」
陽乃「あれ? そうだっけ?」
八幡「逆に知らなかったんですか?」
雪乃「家では飲んだことがないからかもね……」
八幡「ああ、そうだったか」
陽乃「へー。雪乃ちゃんお酒ダメなんだ。言われてみれば雪乃ちゃんが飲んだとこ見たことないや」
八幡「見ない方がいいですよ……」
雪乃「………」
陽乃「んー? どういうこと?」
八幡「それよりもほら、飲むんでしょ? これ開けちゃいますよ」
陽乃「あ、うん。おねがーい」
陽乃「くぅー! この染み渡る感じ、やっぱお酒と言ったら日本酒よね!」
八幡「あんたおっさんかよ……。日本酒お好きなんすか?」
陽乃「うん、ワインとかも好きだけど私は日本酒が一番好きかなー。比企谷くんは?」
八幡「俺は普段あまり酒とか飲まないんで無難にビールとかですかね」
陽乃「ビールかー。お父さんと仲良くなりたいなら日本酒も好きになっておいた方がいいかもね」
八幡「は、はあ。……まあ、頑張ります」
陽乃「うむ、頑張りたまえ少年。……あっ、ダメダメ比企谷くん」
八幡「はい?」
陽乃「自分でお酒を注いじゃダメなんだよ? お酒は注がれるもんなんだから」
八幡「そ、そうなんですか?」
陽乃「そうだよ。一人で飲む時は別としても例えば就職して会社の飲み会とかに行った時なんかは絶対に自分で自分のお酒は注がないこと」
八幡「はあ……」
陽乃「誰かと飲んでる時に一人で注いで飲むってことはその人を差し置いて自分は独りぼっちだって言ってるのと同じなんだから」
八幡「へぇ……。まあ普段からぼっちだし周りの憐れんだ目なんて就職したところで気にしたりしないんで」
雪乃「私としては気にして欲しいのだけれど……」
陽乃「もおー、比企谷くんはすーぐそういうこと言うんだから。今は雪乃ちゃんがいる癖に」
八幡「………」
陽乃「いいから貸して? それとお酒の前では遠慮は無用だよ。だからここは大人しく私に注がれなさい!」
八幡「なら、お言葉に甘えて……」
陽乃「素直でよろしい」トクトク
雪乃「………」ゴクゴク
陽乃「雪乃ちゃんも飲んでみるー? 一人だけお茶なんか飲んで寂しいでしょ?」
雪乃「別に……」
陽乃「飲みやすいやつだしお酒苦手な雪乃ちゃんでも飲めると思うけどなー。ねえ? 比企谷くん」
八幡「確かにスッキリしてて飲みやすいですけど、こいつの場合飲みやすさ云々の話じゃないですからね……」
陽乃「別に一杯くらいなら平気でしょ? ちょっとしか注がないから雪乃ちゃんも飲んでごらん? どうせ将来お酒飲めなくてもこういう付き合いとかあるんだから一杯だけでも飲めるようにならないとね」
雪乃「……で、でも」チラッ
八幡「まあグラス一杯くらいなら大丈夫なんじゃないか? それに今回は俺もいるし」
雪乃「……なら、一杯だけよ」
陽乃「お、そうこなくっちゃ。はい、雪乃ちゃん」トクトク
雪乃「………」
雪乃「………」ゴクッ
陽乃「どう? おいしいでしょ?」
雪乃「の、喉が焼けるようだわ……。それに味もあまり……」
八幡「あー。慣れないうちはおいしいとは思えないかもな。きついなら色んな意味でもうやめとけ」
雪乃「……そうさせてもらうわ」
陽乃「ありゃー。雪乃ちゃんにはまだ早かったかあ。この味がわからないとは雪乃ちゃんもまだまだお子ちゃまだね」ニヤー
雪乃「………」ムッ
八幡(俺もそこまで美味しいと思って飲んでないけどな)
陽乃「ほら、グラス渡して。雪乃ちゃんの分は私が飲んであげるから」
雪乃「……いいえ、結構よ。この程度の量なら姉さんに任せなくても自分で飲めるわ」ゴクッ
八幡「お、おい。無茶すんなよ……?」
雪乃「………」スー
陽乃「ありゃー。雪乃ちゃんすっかり寝ちゃったね」
八幡「あんたが煽ってどんどんこいつに酒飲ますからでしょ……。あんま無茶させないでくださいよ」
陽乃「いやームキになって飲む雪乃ちゃんが可愛くてつい」
八幡「………」
八幡(てっきり一色の誕生日の時みたいにまた暴走するんじゃないかと思っていたが、今回は度数が高かっただけに暴れる前に潰れた感じか)
陽乃「これでまた二人っきりだね」
八幡「二人っきりと言っていいのかわかりませんけどね」
陽乃「あれだけ飲んで寝ちゃったんだから雪乃ちゃんはもう朝まで起きないと思うよ?」
陽乃「だから夜もまだまだ長いし比企谷くんにはもう少しだけ晩酌に付き合ってもらおうかな」
八幡「まぁ、もうあまり飲めませんけどそれくらいなら」
陽乃「もっと違うことが良かった?」
八幡「ご冗談を」
陽乃「あははっ、じゃあ改めて」
八幡「乾杯」
陽乃「ところで比企谷くん」
八幡「なんすか?」
陽乃「同棲の件、比企谷くんはちゃんと考えたって言ってたけど、お母さんには何て言うつもりなの?」
八幡「何てって言われても……。今は同棲させてください、としか」
陽乃「じゃあお母さんがもし反対したら? ほら、雪乃ちゃんが一人暮らしする時も最後まで反対してたし、簡単にはオッケー出さないと思うけど」
八幡「それはちょっとその時にならないとわからないですね。ちゃんと考えたとは言いましたけど説明しろと言われても上手く言えないんですよ」
陽乃「どういうこと?」
八幡「なんていうか……その時が来たら自然と言葉に出るものだと思うんで、今は上手く説明できませんよ」
陽乃「つもり俺の雪乃に対する思いは簡単には説明できねぇぜ! 雪乃好き好き大好き愛してる! ってことだね」
八幡「なに勝手に翻訳してるんですかねぇ。翻訳ガバガバすぎんだろ……」
陽乃「え、雪乃ちゃんのこと好きじゃないの?」
八幡「……そうは言ってませんよ」
陽乃「じゃあ愛してるの?」
八幡「じゃなきゃ今日まで一緒にいませんよ」
陽乃「そっか……。やっぱり雪乃ちゃんが羨ましいなー」
八幡「………」
陽乃「私ね。本人には言えないけど、これでも結構雪乃ちゃんに嫉妬してるんだよ?」
八幡「嫉妬、ですか」
陽乃「うん。雪乃ちゃんって私なんかよりもずっと良いものをたくさん持ってるんだよね。私なんかより、ずっと優れてる」
陽乃「私はよく雪乃ちゃんをからかったりしてるから本人はそうは感じていないと思うけど、これでも私は雪乃ちゃんのことをだいぶ評価してるんだよ?」
八幡「へぇ……。こいつも似たようなセリフを昔言ってましたよ。自分も姉さんのようになりたいって」
陽乃「え? 私みたいに……? 雪乃ちゃんが?」
八幡「はい。昔はあんたのこと相当高く評価してたみたいですし。今はわかりませんけど」
陽乃「雪乃ちゃんが……。ふぅん、そうなんだ」
陽乃「……だったらますます雪乃ちゃんに嫉妬しちゃうなぁ」
八幡「どういう意味ですか?」
陽乃「ううん、別に。雪乃ちゃんも雪乃ちゃんで私のことをちゃんと評価してくれてたのなら、余計に悔しいなって」
八幡「は、はあ」
陽乃「そうそう。私ね? 今度お見合いすることになったの」
八幡「お、お見合い? なんすか急に」
陽乃「お母さんが勝手に話を進めてたみたいでねー。相手はお父さんと仲の良い社長の息子さんらしくてさ」
八幡「そういった話ってよくあるんですか? お家的なのもありますし」
陽乃「いいや、むしろ無いかな。実際私もお見合いなんてするの初めてだし。ま、うちの両親はお見合いで結婚したみたいだけどね」
八幡「へぇ、そうなんですね」
陽乃「うちは案外結婚とか子供だとか急かされるようなことはないんだけどねー。一度くらい経験してみないかってお母さんに言われてね」
陽乃「もしお互いがお互いを良いなって思ったらそのままお付き合いすればいいとも言われたし」
八幡「……ちなみに雪ノ下にはそういった話あるんですか?」
陽乃「あはは、だいじょーぶだよ。今回は雪乃ちゃんには彼氏がいるのに私にはいないからってお母さんがお節介で話を進めてるだけだから」
陽乃「それとほら、私ってまだ院生だしそういうのはもう少し先でもいいかなって。だから、一応断るつもりだけど」
八幡「俺がこんなこと言うのもあれなんですけど、その、そういった出会いとかってないんですか?」
八幡(なんとなくだがこの人は平塚先生と同じ道を辿りそうで怖い)
陽乃「出会いかー。男子はいっぱいいるけど付き合いたいって思ったりする子はいないねー。あ、でも口説かれたりはするよ!」
八幡「お、おう。まあ、陽乃さんなら立っとくだけで男が寄ってくるでしょう」
陽乃「んー? なになにー? 彼女いるからって一丁前に上から目線かなー? んー?」
八幡「ちょ、違っ、頬つねらないでください。地味に痛いんで……」
陽乃「生意気な僕におしおきだよ」
八幡「僕って……子供扱いにも程がある……」
陽乃「子供、かぁ。今でも十分捻くれてるけど、高校の時の比企谷くんは捻くれ具合が中二みたいで可愛かったなぁー」
八幡「そ、そっすか」
陽乃「でも、今は大分大人になったと思うよ? 昔の君とは大違い」
八幡「だと良いんですけどね。成長した自覚は一切ないですよ」
陽乃「成長したかどうかの判断なんて自分じゃできないんだから自覚がなくて当然だよ。周りが認めて初めて成長って言うんだから」
陽乃「まっ、比企谷くんの場合は成長と言ってもほんのちょっとしか成長してないけどね」
八幡「だろうなとは思ってましたよ……」
陽乃「それでも私は君のことを雪乃ちゃんと同じくらい評価してるよ。ダメなとこも含めて」
八幡「………」
陽乃「それに比企谷くんくらいだよ? 私が一緒にいて身も心も許していられる人は」
八幡「たぶんお酒入ってるからだと思いますよそれ。顔も少し赤くなってきてますし、この辺にしておきましょうか?」
陽乃「んー、そだねっ。私まで寝ちゃったら比企谷くんも後片付けとか大変だろうし」
八幡「いいですよ片付けくらい一人で。そこの押し入れに布団あるんで適当に敷いていつでも寝ちゃってください。一応陽乃さんは客人ですし」
陽乃「……じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」
陽乃「………」
陽乃「――ごめんね。雪乃ちゃん」
八幡「ん? なんか言いました?」
陽乃「んーん。別にー? そうだ比企谷くん、ちょっとこっち来て」
八幡「なんですか?」
陽乃「実はね。私ってこれでもファーストキスとか好きな人に出会うまで取っておくタイプなの」
八幡「は? 今度は何言って……」
陽乃「だから、あげるねっ」
八幡「っ!? ちょっと陽――」
陽乃「…………っ」
八幡「…………!?」
陽乃「どう? 雪乃ちゃん以外の女とキスした気分は?」
八幡「…………な、何してくれてるんですか」
陽乃「だって今度お見合いするって言ったけど、もしそれで二人きりになった時に相手が強引にしてきたら嫌じゃない? だから今のうちにしちゃおうと思って」
八幡「だからって何で……」
陽乃「言ったでしょ? ファーストキスは大事にとっておくタイプだって。意外だった?」
八幡「意外って言うかまだ頭ん中パニックなんですけど」
陽乃「じゃあもう一回する?」
八幡「勘弁し……」
雪乃「――何をしているの?」
八幡「」ビクゥ
陽乃「ゆ、雪乃ちゃん? め、目ぇ覚めちゃった?」
雪乃「どうして姉さんと八幡がちゅーしてるの……?」
陽乃「え、えっとね雪乃ちゃん。これは私が悪くて……」
雪乃「……返して」
陽乃「え?」
雪乃「……返して!」グイッ
陽乃「返してって――きゃっ!?」ドサッ
雪乃「返して」
陽乃「雪乃ちゃん!? 返してってまさか……ご、ごめんね雪乃ちゃん? 謝るからそれだけは……」
八幡「お、おい雪ノ下、まだ酔い取れてないのか……? 一旦落ち着いて……」
雪乃「八幡は黙ってて。今からこの泥棒猫に奪われた八幡の唇を取り返すんだから」
陽乃「お願い、お願いだから少し待って……? 泥棒猫でも何でもいいからちょっとだけお姉ちゃんの話も聞いて? 姉妹でそれは冗談にならないよ雪乃ちゃん!?」
雪乃「いいから暴れないで」ガシッ
陽乃「ゆ、雪乃ちゃん……!」
雪乃「うふふ……八幡……ちゅー……」
陽乃「雪乃ちゃ―――んむぅっ!?」
八幡「」
翌日
八幡「ふぁ、あぁ。朝か。二日酔いってわけじゃねぇけど体がだるいな……」
八幡(深夜は結局あれから三人共いろんな意味で潰れたんだっけか)
八幡(起きて酔いが抜けきってなかった雪乃パイセンは陽乃さんを襲うし、陽乃さんはそんな雪ノ下に完全に身動き取れないようにされて途中から軽くレイプ目になっていたし、)
八幡(俺は俺で雪ノ下を止めようとしたら抵抗した雪ノ下からたまたまエルボーを顎に貰って意識が飛びかけるし……)
八幡(って、大学三年になってまで何やってんだ俺らは……)
八幡(俺も雪ノ下も陽乃さんも騒ぐようなタイプじゃないってのに、さすがに酒一つでうぇいうぇいしすぎたな)
八幡(まあ、うぇいうぇいするほどは騒いでないが)
陽乃「おっ。おはよ、比企谷くん。昨日は何気に飲んでたのに早いね」
八幡「おはようございます。昨日というか今日ですよ」
陽乃「細かいことはいーの。あ、朝ごはんちょうどできたけど食べる?」
八幡「あ、じゃあ……。ていうか陽乃さんこそこの中で一番飲んでたのに起きるの早いですね。それに朝食まで作って」
陽乃「まあねー。今日は朝には向こうへ帰る予定だったから多少はセーブして飲んでたし」
八幡(あれだけ飲んでまだセーブ圏内なのか……)
陽乃「雪乃ちゃんはまだ寝てる? 雪乃ちゃんの分も作ったけど」
八幡「見ての通り爆睡中です」
雪乃「………」
陽乃「あははっ、雪乃ちゃんってば猫みたいに丸くなって寝てるね。写メ撮っちゃお」パシャッ
陽乃「……よしっ。寝顔も撮れたしそろそろ帰ろっかな」
八幡「もう行くんですか? 朝食作ったばかりですけど」
陽乃「夕方までにはあっちに帰っておきたいからねー。私の朝食は駅で適当に買うつもりだからそれは二人で食べて? あ、雪乃ちゃんのにはラップしとくこと」
八幡「助かります」
陽乃「泊めてもらった最後のお礼だよ。あ、追加お礼にまたキスする?」
八幡「しません……」
陽乃「あら残念。するって答えてたらこの浮気者! って思いっきりビンタできたのに」
八幡「トラップかよ……」
陽乃「ただの最終確認だよ。もうこんなこと言わないから安心して?」
八幡「………」
陽乃「それに妹とキスなんてもうしたくないからね……。ははっ……」
八幡「」
陽乃「――っと、いい加減行かないと。新幹線に遅れちゃう」
八幡「次に来るときは俺じゃなくてもいいんで一週間前には連絡入れといてください。ビビるんで」
陽乃「なんだかそのセリフ遊びに来るたびに言われるなぁ。ま、気が向いたらねっ」
八幡「向かなくてもしてください」
陽乃「はいはい、覚えてたらね」
八幡「………」
陽乃「お母さんに挨拶するってことは次は年末だよね? だからまた年末ね」
八幡「ああ、はい。あと一応駅まで……」
陽乃「ううん、いいよここで。雪乃ちゃんが途中で起きるかもだし私より雪乃ちゃんといてあげて?」
八幡「……わかりました」
陽乃「あ、雪乃ちゃんが起きたらお水あげてね。たぶん二日酔いになってるだろうから」
八幡「そのつもりです」
陽乃「ならよろしい! それじゃあ行くね、雪乃ちゃんにもよろしく」
八幡「はい、また年末に。それと行く日はまた二人で日程合わせて決めますけど、大体去年と同じ頃になる思います」
陽乃「りょーかい。あ、手土産はここの地酒がいいな~? 後、行きに駅で見かけた燻製の詰め合わせが……」
八幡「やっぱあんたおっさんじゃねぇか……」
八幡「はぁ、日曜の9時5時出勤は客多いしやっぱだるいな……。就職したらこれが毎日なのかと思うとニートでいいやって思えてくるまである」
八幡「思えば今のバイトも大学入ってからだから気付けばもう3年もあそこで働いてるのか……。未だにバックレてないとか昔の俺とは大違いだな」
八幡「まあ、雪ノ下に仕事もバックれるような男とは無理と言われたからってのもあるけど……」
八幡「雪ノ下で思い出したが冷蔵庫がいま空なんだったな。今日はあいつも泊まりに来るしスーパー寄って帰るか」
八幡「…………おっ」
雪乃「あら、こんにちは」
八幡「おう。珍しいな、こうして学校以外でばったり会うのは」
雪乃「そうね。ちょうど今からあなたの家に向かおうと思っていたのだけれど、冷蔵庫に何も入っていないことを思い出したから」
八幡「俺もそう思ってちょうど今から店に入るとこだった」
雪乃「それならそうと言ってくれれば少し待ったのに。食材ならもう適当に買ってしまったわ」
八幡「いつも料理してくれるのは雪乃なんだし、買うもんはお前が選んだなら何だっていいだろ。どうせ一緒に買いに行っても殆ど任せてた」
雪乃「あなたが食べたい物とか色々参考にしたかったのよ。だから次行く時は一緒に買いに行きましょう」
八幡「わかった。そんじゃ今日はもう帰るか」スッ
雪乃「ええ」ギュッ
八幡「……なあ」
雪乃「……?」
八幡「……こっちの手じゃなくてそっちの左手に持ってるスーパーの袋が欲しかったんだけど」
雪乃「……そ、それならそうとはっきり言いなさいよ」カアア
八幡「まさか手を握ってくるとは思わないだろ……」
雪乃「珍しくあなたから手を繋ごうとしてくれているのかと思って少し嬉しかったのに」スッ
八幡「……なんかすいませんね」ガサッ
雪乃「本当にそう感じているのならこちらの手はこのままでも良いわよね?」
八幡「いや、ここ人多いしちょっと……」
雪乃「………」
八幡「……ご自由に」
雪乃「そう? なら」ギュッ
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「あー、今日の晩飯、何にするつもりで買い物をしたんだ?」
雪乃「え?」
八幡「その、なんだ。何か気になってな」
雪乃「ふふ、普段はそんなことあまり聞いてこないのにどうしたの?」
八幡「どうって、意味はねぇよ」
雪乃「それなら当ててみて? ヒントはそうね……お肉は豚肉を買ったわ」
八幡「豚か……。トンカツ」
雪乃「はずれ。残念だけれど揚げ物ではないわ」
八幡「じゃあ豚キムチ」
雪乃「それもはずれ。キムチなんて買ってすらいないわ。もう少しだけヒントを出すとしたら……以前あなたが美味しかったからまた作って欲しい、と言ってくれたもの、かしら」
八幡「ああ、わかった。あれだ、豚肉でアスパラやら人参巻いたやつか」
雪乃「正解。正確には豚肉の野菜巻きよ。正直覚えてるとは思っていなかったわ」
八幡「自分でまた作ってくれって言ったのを忘れるわけないだろ。マジで美味かったしな」
雪乃「……そ、そう? だったら今日は作るのを手伝ってもらえるかしら? 他にも色々と作りたいと思っているし、あなたにも作り方を覚えてほしいから」
八幡「お、おう。まあ、覚えられるよう頑張るわ」
雪乃「ふふっ……なんだか久しぶりね。こうして二人でゆっくり歩きながらお話をするのって」
八幡「ああ、陽乃さんが来てから今日まで何だかんだそう言った二人で出掛けたりとかなかったもんな」
雪乃「ええ。でも今度のお休みは確か私も比企谷くんも一日予定がなかったはずだから、その時にまたどこかへ出掛けない?」
八幡「ん。じゃあ行くか」
雪乃「あら、今日はいつものように家で寝てたいだとか休日は家で休みから休日だとかふざけたことは言わないのね」
八幡「まあな。何だかんだ前回は陽乃さんが家に来たから結局出掛けようって約束してたのも無しになったしな。あとふざけてないからね……」
雪乃「十分過ぎる程ふざけていると思うのだけれど。それにふざけていないのなら素直に二つ返事で答えてほしいものね。いつも渋る癖に結局最後は折れて一緒にいてくれるんだから」
八幡「………」
雪乃「だから今日も少しだけ遠回りして帰りましょう?」
八幡「おい待て。それは待て。なぜいきなりそうなる。それに遠回りってどこか寄るとこあるのか?」
雪乃「いえ、特に無いわよ? ただ単に少し回り道して帰りたいだけよ」
八幡「は? それなら食材もあるし最近この時間帯寒いから真っ直ぐ帰ろうぜ」
雪乃「本当に少しだけ回り道するだけでいいの。ダメ?」
八幡「いや、帰ろうぜ。回り道なんて時間の無駄だろ」
雪乃「ほんのもう少しだけ、こうしてあなたと手を繋いで歩いていたいの……」
雪乃「例え無駄だとしても、私はあなたとこうしていたいわ……」ギュッ
八幡「…………ちょっとだけだぞ」フイッ
八幡「ごほ、ごほっ……」
雪乃「……八度二分。熱もあるようだし風邪ね」
八幡「マジか……。ごほっ」
雪乃「最近寒くなってきたし、薄着で寝たのが良くなかったみたいね。今日の講義は休んだ方がいいわ」
八幡「そうか……。まあ、仮に行ったとしても真面目に受ける気ないしいいか」
雪乃「良くないわよ。講義くらい真面目に受けなさい……」
八幡「単位さえ出れば過程なんてどうでもいいだろ。それよかお前はどうするんだよ。いい加減家出ないと講義遅れるぞ?」
雪乃「そのことだけど私も今日はお休みするわ。あなたを一人にするわけにもいかないし」
八幡「いやいや、どうせこの後寝るから学校行って来い。こんなことで欠席すんの勿体ないだろ」
雪乃「でも私がいない時に何かあったら……」
八幡「お前は俺の母ちゃんかよ……。ただの風邪だぞ? 何かあっても一人で何とかできるし、最悪電話でも何でも連絡する。だから大丈夫だ」
八幡「それに俺としては看病してくれるのも十分助かるし嬉しいが、雪ノ下にはいつも通りいてくれた方がそれ以上に嬉しいしな」
八幡「あとあれだ。この程度の風邪なら寝てればすぐ楽になる。病院に行くほどでもないだろうし」
雪乃「そう……。あなたがそこまで言うのなら学校に行かせてもらうけれど、安静にして寝てるのよ?」
八幡「ごほっ……わかってるっつーの」
雪乃「それと帰りに何か買ってきてほしいものとか、ある?」
八幡「あーそうだな。プリンやゼリーみたいな食べやすいものが欲しいな……、あとスポドリ」
雪乃「了解。帰りに買ってくるわ」
八幡「助かる」
雪乃「なら、いい? 私はもう行くけど、あなたは大人しく家で寝てること。わかった?」
八幡「はいはい。いいから行って来い」シッシッ
雪乃「……もう。人が折角心配しているのに」ムッ
八幡「そんな本気で心配されるほどの風邪じゃないからな」
雪乃「例えそうだとしても心配するじゃない。気づいてる? 今のあなたの目、過去最高に死んでいるわよ?」
八幡「過去最高に死んでるって何……。まあでも一応今はしんどい眠い怠いのトリプルパンチ食らってるからな。死んだ目になってるってのは否定できないかもな」
雪乃「だったら風邪薬や熱さまシートのようなものも帰りに買っておくわね」
八幡「ごほ……悪いな」
雪乃「お互い様よ。それに私が風邪を引いた時は比企谷くんに看病してもらうつもりだから」
八幡「その時はまあ、俺もそのつもりだ」
雪乃「ふふ、なら安心ね。じゃあ私はもう行くけど何かあったらすぐに電話してね?」
八幡「おう。いってら」
雪乃「ええ、安静にね。比企谷菌」ニコッ
八幡「ちょっと? 風邪引いてるからって去り際に菌扱いしないでくれる?」
八幡(…………ん)
八幡(ああ……。あれからいつの間にか寝てたのか)
八幡(大人しく寝てたおかげか朝よりか大分体が楽だな)
八幡(起き上がるのだるいがとりあえず水でも飲んで……)
雪乃「ふんふんふん~……」ガラッ
八幡(雪ノ下? なんだ帰ってたのか。てか鼻歌歌ってるとこ初めて見たぞ)
雪乃「ふぅ……。熱はだいぶ下がったみたいね」
雪乃「朝に比べると息も荒くないようだけれど、少しは楽になったのかしら……」
雪乃「八幡……」ナデナデ
八幡「………」
八幡(どうする……思わず寝たふりしちゃったの巻……。こんな撫でられた状態で起きるの子供みたいで恥ずかしいんですけど……)
雪乃「………」ナデナデ
八幡「………」
雪乃「………」ナデナデ
八幡「………」
雪乃「………」ナデナデ
八幡「………」カアア
雪乃「そんなに顔を真っ赤にするくらいなら起きたら?」
八幡「……寝たふり気づいてたのかよ」
雪乃「少し撫でただけで耳が真っ赤になるんだもの。気付かない方がおかしいわ」クスッ
八幡「………」
雪乃「体、少しは楽になった?」
八幡「ああ、お蔭様で。咳も殆ど出ないしな」
雪乃「そう、良かった」ナデナデ
八幡「………」
雪乃「………」ナデナデ
八幡「あの、雪ノ下さん。体起こしたいんだけど」
雪乃「ダメよ。楽になったとは言えまだ完治したわけではないのだから、ちゃんと寝ていないと」ナデナデ
八幡「飲み物も飲みたいんだけど」
雪乃「……そうよね。はい、スポーツドリンクで良かったわよね?」
八幡「おう、悪いな。いくらだった?」
雪乃「いいわ。病人からお金を巻き上げるのは気が引けるもの」
八幡「どこかで聞いたことのあるセリフだな……」
雪乃「そう? なら続きは言わなくてもわかるわよね」
八幡「なんだ……ありがとな」
雪乃「その言葉は完治してから改めて言って欲しいものね。今はほら、ここに横になって」
八幡「ずっと寝てたから今は座ってたいんだが」
雪乃「いいから横になりなさい」グイッ
八幡「うお!?」ドサッ
雪乃「………」ナデッ
八幡「お前それしたいだけだろ」
雪乃「………」フイッ
八幡「まあ、色々面倒かけたしこれくらい良いけどよ……」
雪乃「別に面倒だと思ったことは一度もないのだけれど」ナデナデ
八幡「………」
雪乃「こうしてあなたを撫でていると何だか落ち着くわ」
八幡「俺は居心地悪くてちっとも落ち着かないけどな」
雪乃「ずっとむず痒そうにしているものね。顔も赤くて何だか無様だわ」
八幡「そうさせたのお前だろうが……」
雪乃「撫でられるのはそんなに苦手? 意外な弱点ね」
八幡「膝枕されて永遠と頭撫でられてたらそりゃ恥ずかしくもなってくるだろ……」
雪乃「そう? 今のあなた、とても可愛いわよ?」ニコッ
八幡「笑顔の中に若干の嘲笑混じってんぞ……」
八幡「……まったく。もうこの際だからはっきり言わせてもらうわ」
雪乃「……な、なに?」
雪乃(怒らせてしまったかしら……)
八幡「まず、ずっと言うか言うまいか悩んでたんだが……」
雪乃「………」
八幡「雪乃って本当に可愛いよな」
雪乃「………………はい?」
八幡「小町より……いや、誰より可愛い。今こうして目が合うだけでもドキドキするわ」
雪乃「と、突然何を言って……」
八幡「まず雪乃って名前が可愛いもんな。服も可愛いし、今日はいつもより唇がぷるんとしてて更に可愛い。キスしたいまである」
雪乃「ちょ、ちょっと……」
八幡「猫好きなところも超可愛いよな。というか猫より可愛い。正直俺がお前を撫でていたい」
雪乃「や、やめ……っ」
八幡「やめろはこっちのセリフだ。毎日毎日そんな可愛い顔で可愛い声で可愛い格好で可愛い笑顔で名前呼ばれたらそりゃ無様にもなるわ。何でお前はそんなに可愛いんだよ」
雪乃「………」カアア
八幡「ん? どうした? 顔が赤いぞ」
雪乃「……ばか。…………ばか」
八幡「んだよ、なんか変なこと言ったか? ただいつも思ってたことを口にしただけなんだが」
雪乃「だからと言ってそんなにまとめて言われても困るわよ……」
八幡「可愛いって言われるのあまり得意じゃないもんな。なんかむず痒そうにしてるが大丈夫か?」
雪乃「誰のせいだと思って……」
八幡「誰のせいでもないだろ。強いて言うならお前が可愛いのが悪い」
雪乃「も、もういいでしょう……」カアア
八幡「ま、仕返しはこれくらいでいいか。ひとまずプリン食ってもうちょい安静にしとくわ。この様子だと明日には治るだろうし」
雪乃「待って」
八幡「あん? え、ちょ、おい――っ」
雪乃「ん…………っ」
八幡「…………風邪、移るぞ?」
雪乃「これくらいなら平気よ。それにキスをしたいと言ったのはあなたの方じゃない」
八幡「いやそうだけど……」
雪乃「……普段から、私のことをそう思ってくれていたの?」
八幡「まあ、な。言葉にしたところで余り意味は無いし、言おうが言わなかろうが俺の気持ちはずっと変わらないからな」
雪乃「私としては言葉にしてくれた方がちゃんとあなたの気持ちが伝わるし嬉しいわ。ちゃんと想ってくれているのだと安心もするから」
雪乃「でも、今みたいにまとめて言われるのはさすがに困るけどね」
八幡「そうか。……まあ、そういうことならなるべく、伝えられるようにはする」
雪乃「ええ、私もその方が嬉しいわ。その分、私も答えるから……」
八幡「お、おい、だから……」
雪乃「んっ……んふ…………」
八幡「…………これ以上はマジで風邪移るぞ?」
雪乃「そうは言いつつも下にあるモノを硬くしているみたいだけれど……?」
八幡「……あ、いや。これはアレだから……。発熱した時とかによくある生理現象的なアレだから……」
雪乃「そんな生理現象があるなんて初めて聞いたわ。男性は皆、熱が出るとそうなるものなの……?」
八幡「そういうわけでもないが……」
雪乃「どちらにせよ治めるに越したことはないと思うのだけれど。ずっとこのままにしておくのも苦しい、でしょう……?」
八幡「でもなぁ……」
雪乃「私、可愛くないの?」
八幡「このタイミングでそれはさすがにずるいだろ……」
雪乃「大丈夫よ。あなたに無理はさせないから」
八幡「いや、正直俺は無理したい」
雪乃「何よそれ。悪化しても知らないわよ?」クスッ
八幡「そっちこそ移っても文句言うなよ?」
雪乃「文句は言うかもしれないわね。ただ、そうなったら今度は比企谷くんにたくさん撫でてもらおうかしら」
八幡「それならお安い御用だ」
雪乃「じゃあ、んっ…………」
テレビ『クリスマスまであとわずか! そこで今日はクリスマス情報盛りだくさんの2時間SP!』
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
『クリスマス……。それはいつもの日常とは打って変わって愛し合う男女がさらに愛を深める聖なる夜……』
雪乃「………」
八幡(言い方が完全に性なる夜なんだが……)ペラッ
『今日はそんな聖なる夜にオススメなデートスポットをランキング形式で紹介! さらに女性が貰って嬉しいクリスマスプレゼントランキングも!』
雪乃「………」
八幡(男が貰って嬉しいプレゼントランキングはないのかよ……)ペラッ
『クリスマスにおすすめなオススメデートスポット第10位は――』
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
『続いて第9位は――』
八幡(こういうランキングって大体東京とかだよな。千葉にいた頃はまだ良かったが今となっては行きたいと思ってもすぐ行ける距離じゃないしなぁ)
雪乃「………」
雪乃「………」チラッ
八幡「………」ペラッ
『さあ、次はいよいよトップスリーの発表です……が、その前に女性が貰って嬉しいクリスマスプレゼントランキングを先にご紹介!』
八幡「………」ペラッ
雪乃「………」
八幡(クリスマス、か。去年は俺のバイトが長引いたせいもあって俺の部屋で雪乃とケーキ食っただけだったよな……)
八幡(いや待てよ……。一昨年も昼に出掛けはしたが結局最後は部屋で過ごしたんだっけか……?)
八幡「………」ペラッ
雪乃「………」
『お待たせしました! それでは第三位の発表です!』
八幡「なあ、雪ノ下」
雪乃「なに?」
八幡「その、なんだ……24日って予定あったりするか?」
雪乃「え? と、特に予定はないけれど……」
八幡「なら24日、俺といてくれないか?」
雪乃「え、ええ。もちろんそのつもりだけど、どうしたの?」
八幡「やけに真剣にテレビ見てたからどこか行きたいのかと思ってな」
雪乃「……そういうつもりで見ていたわけではないのだけれど」カアア
八幡「冗談だ冗談。たまにはクリスマスの日にどこか出掛けてみようと思っただけだ」
雪乃「珍しいわね。あなたから外に出たがるなんて。去年なんて日本も海外のように自宅でクリスマスを過ごす風習に変えるべきだってぼやいていたのに」
八幡「それは今でも思ってるけどな。まあでも、たまにはいつもと違う場所でお前と過ごしたいと思っただけだ」
雪乃「そ、そう……?」
八幡「おう」
雪乃「どこに行くとかは決めているの?」
八幡「あー、ある程度はな」
雪乃「そう。それなら期待しておこうかしら」
八幡「さっきテレビで紹介してたような派手なとこには行くつもりないから期待しないでほしいんだけど……」
雪乃「場所はあなたとならどこだっていいわよ。私は単にあなたの当日のエスコートに期待しているだけ」
八幡「ああ、そっち……」
雪乃「あなたからこうしたちゃんとしたデートのお誘いを受けるのは久しぶりだもの。楽しみにしているわね」ニコッ
八幡「お、おお。が、頑張ります」
八幡「予想はしてたがやっぱりクリスマスは人多いな……」
雪乃「クリスマスだもの。いつも以上に人が多いのは仕方ないわ」
雪乃「それにしても水族館だなんて由比ヶ浜さんと三人で行った時以来かしら」
八幡「そうなるな。どこに行こうか色々悩んだが、ここはクリスマスしか見られないショーとかアクアリウムがあるらしいからここにしてみた」
雪乃「この受付で貰ったパンフレットにあるクラゲのグラスツリーというのを見てみたいわ」
八幡「うし、じゃあ行ってみるか」
雪乃「ええ」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「どうした? 立ち止まったりなんかして」
雪乃「今日は私をエスコートしてくれるんでしょう? 水族館は人が多いようだけれど……」
八幡「お、おう……手、繋ぎますか?」
雪乃「ええ、ありがとう。比企谷くん」ギュッ
八幡「クラゲのグラスツリーって言うからどんなのかと思ったらグラス一つ一つに小さいクラゲ閉じ込めてるのか」
雪乃「閉じ込めるという表現はあまり芳しくはないけれど、確かに少し可哀想ね……」
八幡「まあその分綺麗ではあるんだけどな……」
雪乃「そうね。光の反射も相俟って何だか幻想的だわ」
八幡「あっちも見てみろよ。向こうはクラゲの入った水晶があるぞ」
雪乃「こちらのクラゲは大きいわね」
八幡「水晶がでかいしデカい奴採用した方が映えるんだろ」
雪乃「見て比企谷くん。あそこに二匹いるクラゲ、お互いの触手が絡まっていない?」
八幡「ああ、確かにな。でも大丈夫だろ。クラゲって普段から自分の触手が絡まったりすることがあるみたいで、そういう時は自分で触手を脱落して再生させられるみたいだからな」
雪乃「へぇ、詳しいのね」
八幡「ああ、そこのプレートに書いてあった」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「移動しましょうか」
八幡「あ、はい」
八幡「おー、ここの水族館クリオネまでいるのか」
雪乃「しかも大量にいるわね」
八幡「知ってるか? こいつってこう見えて巻貝の仲間なんだってよ」
雪乃「ええ、知ってるわ。確か殻が退化して今の姿になったのよね」
八幡「殻が退化したからってこんな妖精みたいな見た目になるもんなのか? 手だけじゃなく頭まであるしよ」
雪乃「知らないの? この頭に見える部分って実はお腹なのよ?」
八幡「え、そうなの?」
雪乃「本当よ。この中に口と内臓があるの」
八幡「へぇ、そりゃ初耳だ」
雪乃「私の勝ちね」フッ
八幡「知識比べをしたつもりはねーよ……。ん? ってことはこの胸の部分は何が詰まってるんだこれ」
雪乃「内臓器官や生殖器だったはずよ」
八幡「心臓じゃないのか……。そう考えたら全然可愛くないなコイツ」
雪乃「食事シーンはなかなかにグロテスクだそうよ。それなのに流氷の天使や氷の妖精だともてはやされているみたいだけれど」
八幡「もはや悪魔だな」
雪乃「誰かにそっくりね」
八幡「ああ、全くだ」
八幡「おい見ろ雪ノ下! ジンベエだジンベエ、ジンベエザメだぞ!」
雪乃「生で見たのは初めてだけど、想像以上に迫力があるわね」
八幡「俺も初めて生で見るがやっぱりかっこいいなぁ……。写真撮って小町に自慢してやろう」パシャ
雪乃「ジンベエザメは格好良いと言うよりも可愛いの部類に入るのではないかしら……?」
八幡「そうか? あの悠々と優雅に泳いでる様はかなりかっこいいと思うんだが」
雪乃「私は逆にあのゆったりとした姿がとても可愛らしく思うわ」
八幡「クジラなら俺も可愛いと思うぞ。あのゆったりした感じが」
雪乃「え? 私はクジラの雄大な姿は格好良いと思うのだけれど……」
八幡「えぇ……」
雪乃「ジンベエザメに関しては英名がホエールシャークなのだし、可愛くても格好良くてもどちらでもいいんじゃない?」
八幡「まあこんな議論始めたところでジンベエさんにとってはどうでもいいことだからな」
雪乃「私も正直どうでもいいと思っているのだけれど……。それよりも携帯貸して? 折角だからジンベエザメと一緒に撮ってあげる」
八幡「おっ、マジで? さんきゅ」
雪乃「そこに立って? ジンベエザメが後ろに来たら言うから」
八幡「おう。頼む」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「え、まだ?」
雪乃「ね、ねぇ、比企谷くん」
八幡「?」
雪乃「その、私も一緒に写っても、いい?」
八幡「良いけどなんだ、ジンベエザメ気に入ったのか?」
雪乃「いえ、そうではなくて……」
八幡「まあ、一緒に撮るなら誰かにシャッターお願いするか」
雪乃「待って。そんなことしなくてもこうしてお互い寄ればジンベエザメも一緒に撮れるわ」スッ
八幡「え、あ、おおう」
雪乃「ほ、ほら、もう少し顔をこちらに寄せてもらえるかしら」
八幡「こ、こうか?」
雪乃「ええ。それとシャッターは比企谷くんが押してくれる? タイミングは任せるから」
八幡「お、おう、わかった。今チャンスだな、撮るぞ?」
雪乃「ええ」ピトッ
八幡「……っ」パシャッ
雪乃「どう? 上手く撮れた?」
八幡「あ、ああ。ほれ」
雪乃「ジンベエザメも綺麗に写ってるわね。その写真、後で送ってもらえる?」
八幡「あいよ」
雪乃「それじゃあそろそろ移動しましょうか」ギュッ
八幡「………」
八幡(まさか雪ノ下と自撮りするとは……。普段二人で写真撮らないせいか変に緊張したわ……)
八幡(おまけにシャッター切る寸前で頬くっ付けてくるし、今日のゆきのんは油断できないな……。ていうか今の俺、顔赤くなってないよね……?)
雪乃「………」チラッ
雪乃「………」
雪乃「………」カアア
従業員『つ、次は実際にペンギンたちにサインを出してみたい人はいるかなー!? やってみたい人は手を挙げてー!』
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「な、何て言うかアシカやイルカと違ってペンギンのショーってグダるもんなんだな」
雪乃「どうなのかしらね……。トレーナーの躾けがなってないだけのようにも見えるのだけれど」
八幡「かもな。滑り台は滑らないわ、平均台も途中で渡るの放棄するわである意味周りからは黄色い声援が飛んでるが……」
雪乃「可愛いのは確かだけどね」
従業員『他にサインを出したい子はいませんかー? 3人まで募集します!』
雪乃「だ、そうよ。行ってきたら?」
八幡「行かねぇよ。こういうショーって大体子供限定だろ。俺が行ってみろよ。一瞬で気まずい空気流れるわ」
雪乃「でしょうね。あなたが行って変な空気になったステージも見てみたいと思ったのよ」
八幡「なんでうちの彼女は隙あらば彼氏を貶めようとしてくんの……?」
雪乃「貶めようなんて思っていないから安心して? 歴とした愛情表現よ」
八幡「表現方法が捻くれすぎだろこいつ……」
雪乃「別に、普段から捻くれたあなたに合わせただけよ」
八幡「ああ、そう。そりゃありがとさん……」
雪乃「あっ、見て比企谷くん。あそこのペンギン」
八幡「ん? おお、やっと1匹目滑り台滑ったな。5匹もいて何でどいつも滑らなかったんだよ……」
雪乃「それも滑ったのは手を挙げた子供の指示というのもね……。それと、ペンギンを数える単位は匹ではなく羽よ」
八幡「………」
従業員『――以上でペンギンたちによるショーは終了となります! 皆さん、頑張ってくれたペンギンたちに盛大な拍手をお願いします!』
八幡「ん、ショーもう終わりか」
雪乃「ショーの内容はともかくとして可愛かったわね。ペンギン」パチパチ
八幡「まあな」パチパチ
雪乃「この後はどうするの? もう粗方館内は回ったと思うけど」
八幡「そうだな。移動するか」
雪乃「あら、この後の予定とか決めているの?」
八幡「一応な。だから任せろ」
雪乃「ふふっ、なら任せるわ」
雪乃「綺麗……」
八幡「やっぱクリスマスなだけあってイルミネーションはどこも気合入ってんな。ドイツ村やポートタワーに比べると劣るが」
雪乃「こんな街中のイルミネーションを千葉の有名どころと比較されても困るのだけれど……」
雪乃「それはそうと私たちは今どこへ向かっているのかしら」
八幡「ん、言ってなかったっけか。今向かってんのはちょっとここから離れたとこにあるんだがレストランにな」
雪乃「レストラン?」
八幡「ああ。ゆっくりイルミネーション見ながら向かえば飯には良い時間になるからな。予約も入れてるしそこで飯食おうぜ」
雪乃「あなたにしては随分とキザなことを考えるのね」
八幡「割と真面目に考えたプランをキザの二文字で済ますんじゃねぇよ……。たまには良いだろ。ちゃんとしたとこで飯を食ったって」
雪乃「たまにではなく初めてのことだから驚いているのよ」
八幡「それならよかった。こちとら端から驚かせるつもりだったからな」
雪乃「ふふ、なんだかあなたらしくないわね」
八幡「んだよ。俺らしくないって」
雪乃「言葉の通りよ。いつも適当に済ませたがるあなたがここまで考えてるなんて」
八幡「いつも適当って部分は聞き捨てならんが、まあ……今日くらいはお礼も兼ねてな」
雪乃「お礼……?」
八幡「……その、あれだ。何だかんだ今日まで俺の隣にいてくれたお礼っつーか、これからもよろしくっつーか、この先もずっといて欲しいっつーか……ですね」
八幡「こういうことはお前の誕生日の時にでもしようと思ったんだが今日の方がずっと二人きりでいれると思ってな。今までこういったことしてこなかったし、確実に二人でいられる時が良かった」
雪乃「………」
八幡「……い、いいから行こうぜ」
雪乃「………」
雪乃「…………お礼なんて、既に受け取れ切れないくらい貰っているわよ」
八幡「あん? なんか言ったか?」
雪乃「別に? 大好きって言っただけよ」ギュッ
八幡「……なんだそりゃ」フイッ
八幡「乾杯。本当に飲むのか……?」
雪乃「乾杯。ええ、大丈夫よ。ウェイターに聞いたらこのワインなら度数も一番低くて女性にも飲みやすいと言われたから。それに無理はしないわ」
雪乃「それに今日くらいはあなたと対等でありたいの」
八幡「酒飲む飲まないで対等かどうか判断するのは違う気がするんだけど……。ま、そこまで言うなら見守るわ」
雪乃「ところで良かったの? 野暮なことを聞くようで申し訳ないのだけれど、予算とか色々と……」
八幡「おう、気にすんな。ここ数ヶ月ゲームや本を買うの我慢してたからな。お前は気にせず食事を楽しんでくれれば良い」
雪乃「ふふっ、言ってくれるわね。でも、あなたがそう願うのなら今日はそうさせてもらおうかしら」
八幡「そうしてくれ。……にしても自分で予約しといてアレだが、我ながらフレンチと俺って全然合わなくないか?」
雪乃「あら、自覚があったのね。ここに来ることを見越して服装が普段よりもきっちりとしているみたいだけど、それでもやっぱり似合わないわね」クスッ
八幡「自覚してんだからそっとしとけ……。雪ノ下だったら似合うと思ってここにしたんだから俺の合う合わないは別にいいんだよ」
雪乃「わ、私?」
八幡「ああ。俺はお前と出会ったばかりの頃、雪ノ下家はこういったレストランで毎日コース料理を食ってると思ってたしな」
雪乃「むしろこうしたコース料理は今日が初めてなのだけれど……」
八幡「えっ。そうなの? 意外だな」
雪乃「私をなんだと思っているのかしら……」
八幡「昔はマジでどっかのお嬢様で毎日贅沢してると思ってたわ。さすがに今は思ってないが」
雪乃「そう……。ちなみに私は比企谷くんのことを昔はドブネズミみたいに汚くて醜い人間だと思っていたわ」
八幡「もうちょっとオブラートに包めない? てか俺の印象どん底にも程があるだろ。どんだけ俺を下に見てたんだよ……」
雪乃「あくまで出会った時の第一印象だからあまり気にしないで? 今はそんな風には思っていないから、ドブガヤくん」
八幡「おい今でも思ってるじゃねぇか……」
雪乃「冗談に決まってるじゃない。安心して?」
八幡「お前の冗談はややこしいんだよ……」
雪乃「それはそうと比企谷くんって馬鹿にしているわけではないのだけれど、フォークやナイフの使い方と言い、テーブルマナーはしっかりしているのね」
八幡「当然だろ。昨日必死に覚えたからな」
雪乃「それは当然と言えるのかしら……」
八幡「そう言うお前は初めてと言ってた割には完璧に使いこなしてるよな」
雪乃「当然よ。社会に出る上での最低限のマナーだもの」
八幡「だ、だよな」
雪乃「比企谷くん。食べ終わった料理に対してはフォークとナイフはハの字にするのではなくて、こうして一緒に置くのよ?」
八幡「そういえば食い終わった後もそういうのあるんだったな……。食事中の分しか覚えてないわ」
雪乃「まだまだ勉強不足ね」
八幡「うっせ。今はこのままでいいんだよ」
八幡「それよりも、だ」
雪乃「……?」
八幡「なんつーかその……渡したいものがある」
雪乃「……?」
八幡「今日は世間で言うクリスマスイブだしな。クリスマスプレゼントを、だな……」
雪乃「え……」
八幡「あーあれだ。今までクリスマスであろうと家でゴロゴロ過ごしてた分、今日はちゃんと思い出になるように……というか」
雪乃「………」
八幡「………」スッ
雪乃「……え、えっと……あ、開けても、良い?」
八幡「……あ、ああ」
雪乃「これ…………」
八幡「まあ、その、ただのネックレスだ」
雪乃「可愛くて綺麗……。あなたが選んだとは思えないわ」
八幡「最後の一言はスルーしてやるよ……。なんつーかお前ってネイルとかイヤリングしてるのは見たことあるがネックレスを付けた姿を見たことなかったからな」
雪乃「本当に私のこと、良く見てくれているのね……」
八幡「そりゃこれだけ長い間ずっといればな。まあ、気が向いたら付けたり飾るなりしてくれ。ちなみにだがそのネックレスは雪柳がモチーフになってるそうだぞ」
雪乃「雪柳……?」
八幡「花言葉とか調べてないから変な意味を持ってたりしたらすまん」
雪乃「仮にそうだとしてもそんなことで怒ったりしないわよ。……それよりもこれ、今付けてみても、いい?」
八幡「ああ、どうぞ…………あ、いや。俺が付けていいか?」
雪乃「え? な、ならお願いするわ」
八幡「おう。髪、ちょっとよけるな」
雪乃「え、ええ」
八幡「………」
雪乃「………」カアア
八幡「ほれ、付けたぞ」
雪乃「ありがとう。……それで、ど、どうかしら」
八幡「……ああ。よく似合ってる」
八幡「…………いいな」ボソッ
雪乃「……っ」カアア
雪乃「あ、あの、比企谷くん」
八幡「ん」
雪乃「本当にありがとう。大切にするわ」ニコッ
八幡「……おおおうっ」フイッ
雪乃「それにしても考えることはお互い一緒みたいね」クスッ
八幡「考えが一緒? どういうことだ?」
雪乃「言葉の通りよ。私もあなたにプレゼントを用意していたから……」スッ
八幡「そういうことか」フッ
雪乃「その、貰ってくれる?」
八幡「もちろん。開けてもいいか……?」
雪乃「ええ、どうぞ」
八幡「…………おお。財布か」
雪乃「あなたが今使っている財布、だいぶ使い込んでいるみたいだったから」
八幡「中学の終わり頃から使い込んでたからなぁ……。ちょうど年明けたら買い換えようと思ってたんだよ」
雪乃「そうなの? それなら買い換える前に渡せて良かったわ」
八幡「ありがとな。大事に使う」
雪乃「こちらこそ。ありがとう、比企谷くん」
八幡「………」
八幡「――おうっ」ニコッ
雪乃「―――っ」
雪乃「ひ、比企谷くん……!」ガタッ
八幡「うおっ。な、なんだ?」ビクッ
雪乃「今……」
八幡「……?」
雪乃「……い、いえ。ごめんなさい、何でもないわ」
八幡「そ、そうか?」
雪乃「………」
雪乃「本当……ずるいんだから……」カアア
八幡「大丈夫か?」
雪乃「……何とか」
八幡「途中までは平気そうだったんだけどな」
雪乃「………」
八幡「いきなり飲むペース上げるからだぞ?」
雪乃「だってあなたが」
八幡「は? 俺?」
雪乃「……何でもないわ」
八幡「……?」
雪乃「あっ……」フラッ
八幡「っと、無理すんな。ほら、おぶってやるから背中で寝てろ」
雪乃「お、おぶってもらう程酔ってはいないから結構よ。それに少し休憩すれば本当に大丈夫だから」
八幡「ならどこか店でも入るか? どこか夜でもやってるカフェとかバーでも探して……」
雪乃「少し休憩するだけなのだし、レストランへ来る途中にあったところでも良いと、思うのだけれど……」
八幡「え……あ、ああ。お前が良いなら別にそこでもいいが」
雪乃「それなら早く行きましょう? 正直早く横になりたいわ」
八幡「いや、だったらもう俺がおんぶして帰れば良くない?」
八幡「どうする? 横になる前に風呂入るか? 入るならお湯張るが」
雪乃「そうね、お願いしてもいい?」
八幡「おう。湯沸く前に寝るなよ?」
雪乃「善処するわ」ドサッ
八幡「そんじゃ、湯張っとくか」
八幡(成り行きとはいえまさか雪ノ下とホテルに、それもラブホに入る日が来るとはな)
八幡(初めて入ったからよくわからんかったが、休憩よりもフリータイムにしといた方が良かった気がする……)
八幡(どっちにせよ今からゆっくり休んでたら終電には間に合わんだろうし、朝まで止まって始発で帰るのが正解だったかもな……)
八幡「まあ、いいか」
雪乃「どう? お湯沸いた?」
八幡「ん? いや、まだ入れたば……っ!?」
雪乃「八幡……」ギュッ
八幡「は? おま、なんで全裸なの……?」
雪乃「だって八幡がお風呂早く入れてくれないから」ギュウ
八幡「ちょ、待」
雪乃「?」ギュウウ
八幡「て、ていうかなんで雪ノ下さんはさっきよりも心なしか酔っぱらってんの?」
雪乃「失礼ね。酔ってないわよ。いいから早くお風呂入れて」
八幡「完全に酔ってますねこれ。それに向こうのテーブルになんかオレンジのイラストが入った缶が置いてあるんだけど」
雪乃「ただのオレンジジュースじゃない。喉が渇いたから冷蔵庫開けてみたらあれが売ってたからそれを買って飲んだだけよ」
八幡「あれはスクリュードライバーっていうお酒なんですけど雪ノ下さん……。てか相変わらず酔ったら飲むのはえーなおい」
八幡「風呂はやっぱ無しだ。今風呂に入ったら色々と危ない」
雪乃「そんなの一緒に入れば大丈夫よ」
八幡「俺が大丈夫じゃないから言ってんだよ。ほら、そこのローブでもいいから羽織ってベッド戻って寝ろ」
雪乃「ふぅん。本当に寝てもいいのね? こんな可愛い彼女をホテルに連れ込んでおいて何もせずに寝かせるのね? ふぅーん」
八幡「先に行こうって言ったのお前だぞ……。後そのしたり顔やめろ。俺の雪ノ下のイメージがまた変わっちゃうだろうが」
雪乃「別に変わったっていいじゃない」
雪乃「それと雪乃、よ」キッ
八幡「あ、はい。雪乃さん」
雪乃「あなたの私に対する心象なんてどうだっていいわ。イメージなんてしなくとも私がいれば十分じゃない」
雪乃「それに八幡が私のことをどんなに失望しようとも、それ以上に私のことを好きにさせる自信があるわ」
八幡「ほーう、大した自信だな」
雪乃「とーぜんよ。だって八幡は私のことが大好きだもの。そうでしょう?」
八幡「随分と高飛車な自信だな」フッ
雪乃「違うの?」
八幡「違う、と言って反応を楽しみたいと思ったんだがな……」
雪乃「安心して? 言わせるつもりなんて毛頭ないから」
八幡「そりゃ安心だ」
雪乃「ね……八幡」
八幡「………」
雪乃「…………っ」
八幡「本当は酔ってない素の状態で話したかったんだけどな」
雪乃「だからそこまで酔ってないって言ってるでしょう?」
八幡「はいはい、そうだな。酔ってない酔ってない」
雪乃「もうっ、またすぐそうやって……」
八幡「悪い悪い、冗談だ」
雪乃「程々にしてほしいものね……」フイッ
八幡「お前もな」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「ぷっ……」
八幡「おい、唐突に俺の顔見て笑うなよ。ちょっと気にしちゃうから」
雪乃「ふふふふ……ごめんなさい。なんだかあなたを見てると不思議と落ち着くものだから」
八幡「捉え方次第じゃだたの中傷なんだけど……」
雪乃「無論ちゃんと良い意味で、よ。私、やっぱりあなたのことが好きみたい」
八幡「やっぱりって何だよ。今日まで俺のことそこまで想ってなかったわけ?」
雪乃「違うわよ。そんなわけないじゃない」
雪乃「私はね、八幡。お酒を飲んで酔っ払っている時でも、くだらないことで口喧嘩した時でも、二人で文句を言い合いながらゲームをしている時でも……どんな時でも、やっぱり私はあなたのことが好きよ、八幡」
雪乃「あなたは言葉で伝えることにあまり意味を感じないと思うけれど、それでも何度だって言ってあげる。好きよ、八幡。大好き…………」
八幡「…………っ」
雪乃「……ふふっ。顔、真っ赤ね」
八幡「……酔ってるだけだ」フイッ
雪乃「………」クスッ
八幡「………………お前はほんと卑怯な時があるよな」ナデナデ
雪乃「……っ」ピクッ
八幡「………」ナデナデ
雪乃「な、なに?」
八幡「……いいや、別に。俺もやっぱりだと思ってな」ナデッ
雪乃「……?」
八幡「こんなホテルの一室じゃ雰囲気もひったくれもないが……」
八幡「俺も、お前が好きだ」
八幡「お前と初めて出会って、そしてお前から今までちゃんと知らなかった気持ちを貰って今日まで、色々と行き違いやもつれ合いもあったりしたが」
八幡「それでも俺は、雪乃のことが好きだ」
雪乃「い、いきなり何を言いだすのか思えば……」
八幡「今日一緒に過ごして改めて再認識した。俺はこれからもずっと、お前の……雪乃の傍に居たい」
八幡「これから先、お互いどんどん忙しくなっていって二人で過ごす時間も、二人で会う時間すらなくなるのかもしれない。それでも俺は、例え僅かな時間であろうとその時間の許す限り、お前と共にいたい」
八幡「今の俺が何を言ったところで何の力も無いただの掃き溜めに過ぎないのかもしれない。それでも俺は……」
八幡「だから、雪ノ下雪乃さん」
雪乃「……っ」
八幡「今の俺にはこれが精一杯で、ただの口約束でしかないかもしれないけど」
八幡「これから先も―――」
雪乃「――――っ」
雪乃「…………とんだ不意打ちね」
八幡「俺もそう思う」
雪乃「それにまだ就職すら決まっていないのに、その言葉はまだ言えないと以前言っていなかった?」
八幡「ちゃんとしたことは言わなかっただろ。でも今のは自分に対する宣誓も込めて言ったようなもんだから、返事はまだしないでくれ。その代わり、これからは死に物狂いで頑張る」
八幡「……ま、お前が酔ってるから言った節もあるし、本当に宣誓のようなもんだ」
雪乃「そう。それならせいぜい返事が変わってしまわないよう頑張ることね。その分、私も頑張るから」
八幡「お、おう」
雪乃「ねぇ、こっち向いて?」
八幡「?」
雪乃「ん……っ」
八幡「………………」
雪乃「私だってあなたに伝えたいことがまだまだたくさんあるんだから」
八幡「へぇ、それは今聞いてもいいのか?」
雪乃「まだ言わないわ。あなたの誓いが果たせた時にちゃんと言うから」
八幡「そりゃ……頑張っていつか聞き出さないとな」
雪乃「ふふっ、早くしないと次々伝えたいことが増えていきそうだから頑張ってね」
八幡「退屈させないように明日から頑張るわ。だから今日は…………」
雪乃「…………っ」
八幡「そういえばさっきまで横になりたいって言ってたが大丈夫か……? 思わず押し倒しちゃったけど」
雪乃「大丈夫よ。今日だけは、お酒のせいにしてでもあなたに触れていたいと思っていたから……。だからあなたが何もしなければ私が押し倒すつもりだったわ」
八幡「お、おお。ん……? 酒のせいにって雪乃さん、まさか本当に酔ってねーの……?」
雪乃「そのことならさっきも言ったじゃない。それほど酔ってはいないって。全くと言ったら嘘になるけれど」
雪乃「…………それに、お酒が少し入ってる方がいつもより積極的になれるんだもの」
八幡「………」
雪乃「どうかした?」
八幡「いや、数分前の格好付けて言った自分をちょっと後悔してただけだ」
雪乃「よくわからないけれど、すぐに後悔したことを後悔させてあげるわ…………っ」
八幡「ん………………さすが、酔ったゆきのんは言うことが少しエロいな」
雪乃「ばか言わ……んっ……」
雪乃「……ん、んんぅ…………はっ、ちゅ……くちゅ……はち、ま……ん……っ」
八幡「雪乃……」
雪乃「……はぁ、はぁ……好きよ、八幡……ん、んっ………好き……大好きっ……」
八幡「俺だって…………」
雪乃「ちゅ、ん……もっと………聴かせて……ん……もっと………触れ、て…………ぁんっ……」
八幡「悪いが……今日は時間も限られてるし手加減できそうにないぞ……?」
雪乃「八幡になら……何されたって平気よ………んっ……その代わり、その分私を愛してね……?」
八幡「雪乃―――ッ」
雪乃「………ん、んむっ……はぁ、はっ、八幡………っ」
八幡「はぁ……結局フリータイムにしなくて正解だったな」
八幡「休憩延長しようと思ったら財布の中400円しか残ってなかったし、財布の中身確認せずあそこでフリータイムって言ってたら雪ノ下に頭を下げる情けないことになってたな」
八幡「まあ、当の本人は疲れ切って寝てるが……」
八幡「終電もとっくに過ぎたし、結局おぶって帰ることになったじゃねぇか」
八幡「家まで2駅分くらい距離があるけどまあ……たまにはゆっくり深夜に帰るのも悪くないか」
八幡「………」
雪乃「………」スー
八幡「………」フッ
八幡(背中から伝わる雪ノ下の温かさ……耳元から伝わる優しい寝息……)
八幡(興奮するだとかそういった変な意味なんかではなく、ただただ心地が良い)
八幡(今まで当たり前のようにこいつと過ごしきたけれど、その過ごしてきた中で俺は一体どれだけ彼女の温かさと優しさに包まれ、支えられてきたのだろうか)
八幡(いや、待て。冷静になって思い返せば冷淡な目を向けられたり、冷酷な態度でスルーされたり案外冷たさの方が多くないか?)
八幡(割と本気で傷付くことを言われたりもしたが、それが俺にとっては丁度良く、その冷たさも含めて雪ノ下雪乃だと言うのなら甘んじて受け入れるが……)
八幡(因みに、俺はMではない)
八幡「……しょっ、と」グイッ
雪乃「んぅ……んん……」ギュッ
八幡「悪い、起こしたか……? 起こさないようにゆっくり背負い直そうと思ったんだが」
雪乃「……ここは?」
八幡「さあな。帰り道だってことは確かだ」
雪乃「ど、どうして? 確かホテルで……」
八幡「それなんだがお前が寝た後に退室の時間が来てな。さすがに延長しようと思ったら金が無くて今こうして諦めてお前を背負って帰ってるってわけだ」
雪乃「そ、そういうなら起こしてくれれば別に足りない分を私が出したのに……。現に昨日今日とあなたに任せっきりだったわけなのだし……」
八幡「寝てるお前起こして金を出してくれって最高にダサくないか? それに端からホテル寄らなけりゃお前おぶって帰るつもりだったし遅かれ早かれこうなってただろ」
雪乃「だけどそのちんけなプライドを捨てていれば今頃朝までホテルで寝ていられたのよ?」
八幡「……そう言われるとぐうの音も出ねぇ」
雪乃「そ、それはそうと比企谷くん。その……重くない、かしら?」
八幡「ああ、全然。相変わらず軽いから安心しろ。何なら小町も追加で担げるまである」
雪乃「軽すぎても逆に不安になるのだけれど……」
八幡「まあ、お前は余計な脂肪が無い分一般的に比べても軽い方になるかもな」
雪乃「それはどういう意味か詳しく説明してもらえるかしら? 言っておくけれど、今あなたの命はこの私が握っていると言っても過言ではないのよ?」グッ
八幡「うぐっ!? ばっ、首絞めんな! 単純にお腹とかそっちの話だ、胸じゃねぇよ」
雪乃「私は胸なんて一言も言っていないのだけれど」グッ
八幡「ちょっ……だ、大丈夫だ。俺はお前くらいのサイズが一番好きだ」
雪乃「はあ、わかったからもう黙りなさい……。これ以上墓穴を掘りたくないのであればね」
八幡「……さーせん」
雪乃「全く……」
八幡「………」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「……ありがとう」
八幡「え……? サイズの話か?」
雪乃「バカ、そんなわけないでしょう。その、今日……正確には昨日だけれどそのお礼、まだ言っていなかったから」
雪乃「ありがとう比企谷くん。おかげで楽しいクリスマスイブを過ごせたわ」
八幡「俺の方こそありがとな。楽しかった」
雪乃「あなたも楽しんでくれていたのなら嬉しいわ」
八幡「おんぶ、起きたならそろそろ降りるか?」
雪乃「ならそうさせてもらえる? いくら人の少ない深夜とはいえ、恥ずかしいから……」
八幡「はいよ」
雪乃「ありがとう、鞄もずっと持ってくれていたのね」
八幡「これくらい気にすんな」
八幡「………」
八幡「………」ギュッ
雪乃「………」
八幡「あ、いや、これは……」
雪乃「あなたから手を繋いでくるなんて珍しいこともあるものね」ギュッ
八幡「……こ、これはあれだ、さっきまで雪ノ下は寝てたし寝起きにいきなり夜道歩いたら危ないと思ってだな……そう、お兄ちゃんスキルだ」
雪乃「つまりどういうことなのかしら?」
八幡「…………まぁ、こうしたくなっただけだ」
雪乃「それならちゃんと最後まで握っていなくちゃ駄目よ?」
八幡「そういうお前こそ離すなよ」
雪乃「当たり前じゃない。それに私から離したことなんてあったかしら」
八幡「言われてみれば……」
雪乃「でしょう? だから比企谷くん」
雪乃「――この先もずっと、私を離さないでね」
了。まだ続けるなら→
以上で完結となります。前作に続きここまで読んで下さった皆さん、本当にお疲れ様でした。感謝の気持ちでいっぱいです。
前作でも言いましたがキャラ崩壊気味だったと思います。今更ですが読む際はキャラ崩壊注意です。
最後にコメントや応援なども含め、ここまで付き合ってくださり本当にありがとうございました。
期待
期待
続くとはとてもうれしいです。
頑張って!
大好きにゃんで無事萌え死しました…
初っ端から安定の糖分過多ですね。
いいぞもっとやれ!
気体
やったぜ
ゆきのんかわいい
これだから八雪は最高なんだよな。
デレのん可愛いよデレのん
砂糖吐くわっ!
なにこれ期待
ゆきにゃんもはちにゃんも可愛いんでもっとやれください。
このゆきのん平気で嘘つくんやな
糖分補給完了。
読んでますよー読んでますよー。
甘いですよーいいですねー。
とても面白いです~期待してます
(*^ω^)
甘い
はよ
うーん
なまら甘いですね!
嫉妬するゆきのん可愛い!
美味しかったなーコーラでふいた!!
甘い。良いぞ、もっとやれ。
面白くなってきました。
ありがとう
そしてありがとう
ここからの展開が楽しみ
あれ?由比ヶ浜って猫、駄目なんじゃなかったっけ?
※誕生日会のドラマCDより
応援してます!
応援してます!!!
待ってるよ!!
待ってましたァ!
すごくいい!!
もう最高です!!
8月末…!
頑張って生きておきます!
引越しお疲れさまです (*´∀`)♪
小説書くの頑張ってください!
ロミオのSS消えてる気がするんですがそれは
機体
なーんだただの神SSか期待して損したわ早く続き書きやがれ下さいお願いします萌え死にさせて下さい
いいねいいね!!
両親の結婚のくだり、結構→結婚じゃないですか?
ゆきのんのパッパって建築会社社長で県議のはずだけど、そのパッパの上司とはいかに…
甘いなぁ!いいなぁ!もっとやれぇ!
???「フッハッハッハ!このSSは圧倒的ではないかぁっ!」
このままハッピーな展開を期待!
続編待ってます!w
期待
一日二度は確認する文字数
待ってます。
とてつもなく続きが見たい
あなたが神か...
待ってた。
待ってる。
待ってるうううううう
ゆきのんは可愛い。
これを読んで、にやけてる私は相当気持ち悪い。
やっぱりこれ読んでて楽しいですロミジュリも期待して待ってます
良いですねぇ…良いですねぇ!!
四時間くらいずっと読んでた(´Д`)
これ三部作?なら雪ノ下がナンパされてるってやつもタイトル似せないんですか??
最高
今月の糖分補給をありがとう
ロミジュリも期待して待ってまーす
完結おめでとうございます!
他の作品も楽しみにしてます!
楽しく読まさせていただきました
完走お疲れ様ですっ
お疲れ様でした!
面白く甘く愛のある八雪をありがとうございました。
他の作画も楽しく読ませて頂きます!
乙でした!
強烈に甘い八雪を楽しませてもらいました!
ジンベイザメ見て興奮してる八幡可愛い
読んでるこっちがクラクラしてしまいそうなほど甘々でとても良かった
始終ニヤニヤが止まらなかった
やはり純愛は素晴らしい
飲んでたコーヒー、ブラックだったはずなんだけどなあ…いつの間にかマッ缶並みに甘いなあ…
出来れば八幡と雪ノ下親の合う場面が見たかったが、欲は出さない。 お疲れ様でした。
面白い!
目から射精してしまった…
甘すぎてニヤニヤが止まらん。
もっと書いてくださいお願いします