大学生になった八幡と雪乃のお話。
ほのぼの重視の短編台本形式。各話500字~3000字程度。
設定:八幡と雪乃は恋人同士。お互い千葉を出て一人暮らし中。大学では三回生。
2016/04/01 完結しました。
2016/04/10 少し続きます。
八幡宅
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
雪乃「………」チラッ
八幡「………」ペラッ
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
雪乃「ねぇ、比企谷くん」
八幡「?」
雪乃「かまって」
八幡「……は?」
雪乃「聞こえなかった? かまって、と言ったのよ」
八幡「いや、聞こえた。聞こえましたよ? 何いきなり……」
雪乃「ここは比企谷くんのおうちよね?」
八幡「そうだけど」
雪乃「比企谷くんのおうちなのだから比企谷くんが部屋で本を読もうが自由よね?」
八幡「自由だな。じゃないとおかしい」
雪乃「今、私は比企谷くんのおうちにお邪魔しているわよね?」
八幡「まぁ、見ての通りだな」
雪乃「だからかまって」
八幡「お、おう。だからが唐突すぎる……」
雪乃「細かいことは今はいいの。いいからかまって」
八幡「いきなり構ってと言われてもなぁ……。そこの本棚にある本好きに読んでいいぞ?」
雪乃「もう粗方読んだわ」
八幡「マジかよ。ならそこのゲーム好きにやっていいぞ?」
雪乃「操作がわからないわ」
八幡「教えるぞ?」
雪乃「今はゲームって気分じゃないの」
八幡「えぇ……」
雪乃「それよりも私は比企谷くんにかまって欲しいのだけれど……」
八幡「と言われてもなー」
雪乃「そう……。私よりも本を選ぶのね」
八幡「待て待て待て。33-4で雪ノ下を選ぶわ。だから待て」
雪乃「かまってくれるの?」
八幡「構う。構うけど何すればいいの? あ……誘ってます?」
雪乃「ばか」
八幡「じゃあ正解は何だよ……」
雪乃「別に正解なんてないわ。私といてくれれば」
八幡「いや、それならさっきからずっといるんだけど」
雪乃「でもあなた、本に集中してたじゃない。私というものがありながら」
八幡「そうは言うが、逆のパターンでお前は本を読んで俺は暇してるって時とか結構あるぞ?」
雪乃「……?」
八幡「可愛く首傾げて誤魔化すんじゃねぇよ。許しちゃうだろうが」
雪乃「わ、私はいいのよ。姉さんが言ってたわよ? 男は常に女が求めることをしてあげるものだって」
八幡「それ多分、あの人が単に『男は手のひらの上で踊らせとけばいい』って言いたかっただけだからね? 」
雪乃「でも、一理あるわ」
八幡「ねぇよ、ねぇ」
雪乃「とにかく私はかまって欲しいの。本を読んでる比企谷くんを見ても退屈なんだもの」
八幡「なんかお前……雪ノ下さんに似てきたよなぁ……」
雪乃「そう? 全然嬉しくないのだけれど……」
八幡「別に褒めてないから喜ばなくていいぞ。……まぁ。退屈してるってなら、何か付き合う」
雪乃「比企谷くんは私と何かしたいことある?」
八幡「したいこと……」ゴクリ
雪乃「……昨日したからダメよ」
八幡「あ、二日連続はダメなんですね」
雪乃「そういうのじゃなくてたまにはその、純粋に遊びたいのよ」
八幡「遊びたいか……。何やるかなー。プロレスごっことか?」
雪乃「発想が小学生ね……。でも、やるならあなたリング役ね」
八幡「何それ寝とけってこと? 俺、無慈悲にボディープレスとかされちゃうのん?」
雪乃「そうなるわね。痛い思いしたくないのなら別の案を出してちょうだい」
八幡「いや、それはそれでアリ……」
雪乃「………」
八幡「……ではないですねはい。別案か……。特に無いな」
雪乃「そう。じゃあ、ゲームをしましょう」
八幡「おい、さっきゲームって気分じゃないって……」
雪乃「テレビゲームって気分じゃないだけよ。今日は比企谷くんちに来る前にこれを買ってきたの」
八幡「何……って、お菓子か」
雪乃「由比ヶ浜さんに何か盛り上がる遊びを聞いた時にこのゲームを強く勧められたのよ」
雪乃「だから今日は比企谷くんとこれをやろうと思ってゲームに使うお菓子を買ってきたわ」
八幡「ほーん。その菓子見たら大方予想ついたわ……」
雪乃「あら、わかるの?」
八幡「まぁな。リア充が大好きそうなやつだ」
雪乃「よくわからないけれど、ポッキーゲームって言うそうよ」
八幡「知ってた」
雪乃「なら話が早いわね。やりましょう」
八幡「……まずお前が買ってきたのトッポなんだよなぁ」
八幡「なぁ、マジでやるの?」
雪乃「ええ。嫌……?」
八幡「嫌とかじゃなくてさすがに恥ずいというか……」
雪乃「別に私たちしかいないのだからいいじゃない。それに、私のほうが普段恥ずかしい思いをしているのだけれど」
八幡「そりゃお互い様だ……。てか、よくポッキーゲームしようって気になったな」
雪乃「……別に。恋人っぽいことがやってみたかっただけよ」
八幡「ポッキーゲームは恋人同士というよりは宴会とか合コンでやる遊びなんだけどな……。まずポッキーじゃなくてトッポだし」
雪乃「比企谷くん、細かい男は嫌われるわよ……?」
八幡「………」
雪乃「どちらにせよあなたに拒否権は無いのだから、早く始めましょう。ルールは知ってる?」
八幡「まぁ、一応」
雪乃「そう。ならこっち側を咥えてちょうだい」
八幡「マジでやるのか……」パク
雪乃「……そう言いつつも咥えるのね。じゃあ……いくわよ?」パク
八幡「……おう」
雪乃「………」サクサク
八幡「………」サクサク
八幡(え、どうすんだこれ。キスしちゃうの? キスしちゃうの!?)
八幡(まだトッポ半分も食ってないのに雪ノ下はもう目閉じてるし、これキスする気満々じゃないですかやだー!)
雪乃「………」サクサク
八幡「………」サクサク
八幡(まずい。このままだとマジでキスしちゃうんだけど……)
八幡(いやいや、まずくはないだろ。むしろキスしたいまである)
雪乃「………」サクサク
八幡「………」サクサク
八幡(当たる、唇もう当たっちゃう! 何だこれシチュエーションのせいかキスするの超恥ずいぞ)
八幡(その点トッポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん)
八幡「………」ポキッ
雪乃「あっ……」
八幡「わ、悪い。折れた」
雪乃「……あなたの負けね」
八幡「……あの。普通にキスしない? 普通にするよりも遥かに恥ずかしいんだけど……」
雪乃「別にキスをしたくてこのゲームをしているわけじゃないのだけれど……」
八幡「そ、そっすか」
雪乃「……そうよ? ほら、もう一度」パク
八幡「ま、まだやるの?」
雪乃「きふふるまでふるわよ」
八幡「わからん、なんて?」
雪乃「いいから来なふぁい」
八幡「あい……」
雪乃「………」
八幡「………」サクサク
雪乃「………」
八幡「………」サクサク
八幡(まさかの俺からお迎えするスタイル。ゆきのん全く食べないし俺からしろってことですかそうですか……)
八幡(いいぜ……。やってやんよ!)
八幡「………」サクサク
雪乃「………」チラッ
雪乃「………」カアア
雪乃「………」ポキッ
八幡「あーあ。お前の負けだな。てかお前も食えよ……」
雪乃「……お腹いっぱいなんだもの」
八幡「嘘こけ。量で言うならまだ一本も食べてないぞ」
雪乃「それよりも、その……ゆ、ゆっくり迫ってこないでもらえるかしら……」
八幡「そういうゲームだからね? やっぱ恥ずかしいならやめとこうぜ。お前顔真っ赤だぞ? 多分俺も」
雪乃「確かにやめたくなってきたけれど、今お互いに一勝一敗だから……もう一度だけ」
八幡「……あと一回だけな」
雪乃「ええ……。きて」
八幡「お前からも来てくれよ……」
雪乃「………」
八幡「………」サクサク
雪乃「………」ドキドキ
八幡「………」サクサク
雪乃「………」ドキドキドキドキ
八幡「………」サクサク
雪乃「………」ドゥンクドゥンク
八幡「………」サクサク
雪乃「……んっ」
八幡「……っ」
雪乃「……このお菓子、おいしいわね」
八幡「このタイミングで言われたら変な意味に捉えちゃうんだけど……。というか最後まで折れなかったがこの場合は引き分けになんの?」
雪乃「そうなるわね。だから、もう一度」
八幡「今のがラストじゃないのかよ」
雪乃「ゲーム自体は今のが最後よ。……だから次はお菓子無しで」
八幡「やっぱりキス目当てだったんじゃねぇかよ……」
雪乃「………」フイッ
八幡「あーでも、それはやめとくわ」
雪乃「……え?」
八幡「ほらその、我慢できそうにないしな」
雪乃「そう。……我慢、しなくていいのに」
八幡「えっ」
雪乃「比企谷くんからしてくれないのなら、私からするわ」
八幡「あっ、おい! 待――」
大学内
女「あ、比企谷くん。もし良かったら今日さ、講義の後二人でゼミ室行って勉強しない?」
八幡「え、あ、いや、今日はちょっとアレだから……」
女「えー? いいじゃーん。いっつも一人でいるみたいだし、たまには私と一緒にさ~」
八幡「いや……」
女「なんでー? 折角ゼミも一緒になったんだし親睦深めよ?」
八幡「いやぁ……」
雪乃「比企谷くん」
八幡「……おお、雪ノ下」
女「えっ。誰? ……か、彼女さん?」
八幡「まぁな」
女「へ、へぇ~……」
雪乃「……そちらは?」
女「こ、こんにちは、です」
八幡「同じ学科の奴だよ。最近ゼミ配属で一緒になったんだ」
雪乃「……そう。ごめんなさい、話の途中で割って入ってしまって。私の彼に何か用かしら?」ニッコリ
女「い、いいえ、何でもないです! じ、じゃあ比企谷くん、また今度誘うね!」シュタター
八幡「お、おう」
雪乃「はぁ……。講義が早く終わったから会いに来てみれば、えらく嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたけれど」
八幡「いやいや、1ミリ足りともしてないから」
雪乃「してたわよ。私には飽きたということなのね……」
八幡「いやいやいやいやいや。無い。それこそ無い。死ぬまでぞっこんまである」
雪乃「……どうかしらね」
八幡「ちょっとー、そんなんじゃないからね? 機嫌直してよゆきのーん」
雪乃「もう知らないっ」フイッ
八幡「悪かったよ……。それに、さっきの奴とは本当に何も無いぞ?」
雪乃「……でも、誘われてまんざらでもなさそうな顔をしていたわ」
八幡「んなわけねぇだろ。俺はお前が思ってる以上に雪ノ下一筋だぞ」
雪乃「またそう言って誤魔化そうとする……」
八幡「一応本心なんだが」
雪乃「信用できないわね。言っておくけど私だってあなたが想っている以上に比企谷くん一筋よ」
八幡「いいや、俺のほうが上だ」
雪乃「いいえ、私のほうが上よ。絶対に」
八幡「この負けず嫌いさんめ……。でもこればっかりは譲らんぞ俺は」
雪乃「……ならどれ程のものか見せてもらおうかしら」
八幡「え? い、今から?」
雪乃「そんなわけないでしょう……。ここは学校よ?」
八幡「ですよね」
雪乃「だから、その、今日、比企谷くんちで……」
八幡「……あの、そんなこと言われるとちょっとムラッちゃうんだけど」
雪乃「……このすけべ」
八幡「それ、お前が言う?」
雪乃「私はそういう意味で言ったつもりないわ」フイッ
雪乃「それで。比企谷くんはさっきの人とはどういう関係なのか、詳しく聞かせて?」
八幡「だから何でもないんだって。ゼミが一緒であいつも苗字がハ行だから席指定の時に俺の前に座ってるだけだ」
雪乃「……本当に?」
八幡「本当だ。そもそも俺全然ゼミ行ってないからあいつの名前すらあやふやだしな」
雪乃「ゼミくらいは行きなさい……。ゼミごとに集まってする講義もあるでしょう?」
八幡「あー、あるな。五回までなら休んでいいらしいから三週に一度行っとけば大丈夫だ」
雪乃「それは大丈夫とは言わないのだけれど……」
八幡「いいんだよ別に。ちなみにゼミ配属されたその日に皆でライン交換しようぜー! とか言ってきたやつがいたんだがなぁ……」
八幡「たまたまその日はスマホを家に忘れててよ。気づいた時にはハブられてたぜ……」
雪乃「あなたがハブられるのは今に始まったことじゃないでしょう? でも、その割にはさっきの子は随分とあなたに興味を持っていたようだけれど」
八幡「4年の先輩が卒業したら次期ゼミ長があいつらしいんだよ。だから今の内に問題児を更正させて仲良しゼミにしとこうって魂胆だろ」
雪乃「問題児と自覚しているなら早急に更正して欲しいのだけれど……。彼女としても恥ずかしいわ」
八幡「ゼミに戸部みたいな奴が二人もいるからそりゃ無理だな。あれらと仲良くなれる気がしない」
雪乃「あの騒がしいのが二人も……。というかあなた、戸部くんと仲良くなかった?」
八幡「まぁ、今はな。てか朝もその戸部みたいな奴にラインのID聞かれたわ。とりあえずスマホ忘れたことにして誤魔化しといた」
雪乃「そもそも比企谷くんはラインをやってないじゃない」
八幡「そりゃお前もだろ」
雪乃「あら、私はついこの間始めたわよ? ほら」
八幡「なん……だと……」
雪乃「私もゼミ配属の時にそういう話になってね。ゼミの子に無理やり登録させられたわ……」
八幡「ほー……。それ他の男とか登録してるのか?」
雪乃「妬いてくれているの? 一応グループにはいるけど、この友達の欄には登録していないわよ?」
八幡「……あっそ」
雪乃「そんな心配してくれなくても私は比企谷くん以外の男からのお誘いを受けるつもりはないわ」
八幡「なら、いいんだけどよ」
雪乃「でもその、間接的であるにせよ、あなた以外の男が私のラインに登録されてしまっているわけだから……あなたも登録してちょうだい」
八幡「だるいし別によくないか? 今までメールと電話で不便なくやってきたし」
雪乃「それでも、よ。ラインを立ち上げた時にあなたの名前があるとその……安心、するし」
八幡「よし、インストールしたぞ! これどうやってお互いの連絡先交換するんだ? スマホ振るのか? 投げるのか!?」
雪乃「きゅ、急にやる気出したわね。ならちょっと貸して? やり方は教わったから」
八幡「んじゃ頼む」
雪乃「ええ。……はい、できたわ」
八幡「おうさんきゅ」
雪乃「念のため釘を差しておくけれど、私以外の女を登録したら駄目よ?」
八幡「しねぇよ。する奴いないし」
雪乃「どうかしらね。さっきの人もそうだけど一色さんだって油断しているとすぐあなたに這い寄っているんだもの。油断ならないわ」
八幡「雪ノ下はどうなんだよ。お前可愛いんだから学科の奴に言い寄られたりしてないのか?」
雪乃「かわっ……。そうね、たまにご飯やカラオケに誘われたりはするわね」
八幡「……え、そうなの? 八幡初耳だよ?」
雪乃「そんな心配しなくても大丈夫よ。あなたみたいに曖昧に断ったりせずに毎回きっぱりと断っているから」
八幡「……さいですか」
雪乃「ええ、そうよ。とにかく、ラインに他の子が登録された時はちゃんと私に言ってね。あなたを疑いたくはないから……」
八幡「わかったよ。無いとは思うがな。あ、先に言っとくが既読スルーとかあっても怒んなよ?」
雪乃「きど……危篤スルー?」
八幡「こええよ、それはスルーすんな。あれだ、ラインって相手のメッセージ読んだら既読って出るんだろ? 使ってないから詳しくは知らんが」
雪乃「ええ、確かに既読と付くわね」
八幡「それでその読んだにも関わらず返信せずに無視することを既読スルーってんだよ。最近問題になってるらしい」
雪乃「なるほど、知らなかったわ。でもそんなこと私は気にしないわよ? メールでやり取りしている時なんていつもスルーしているようなものじゃない」
八幡「だよな。お前、俺のレポート課題の救援要請だけはいっつもメールスルーするしな」
雪乃「だってあなた、私が手伝ったら真面目にやらないじゃない」
八幡「それは雪ノ下が隣に座ってたりするとアレがアレでほら、アレもアレするわけで……」
雪乃「……変態。だから見てないふりをしていたのよ。そ、そういうのはレポート終わった後からならいくらでも……し、してあげられるし……」
八幡「ほほー、それは良いこと聞いたな」
雪乃「ばか……。あと気持ち悪い」
八幡「気持ち悪いはやめてくんない? あー、あと高校の付き合ったばっかの頃もメールの無視すごかったよなお前」
雪乃「そ、そうだったかしら?」
八幡「あの時はかなり勇気を振り絞ってデートに誘ったのに、返事が全く来なくてガチで凹んでたからな。あの時の小町の優しさときたら……」
雪乃「……だ、だってあの時はまだ付き合って間もなかったし、どう返事しようか悩んでいたら朝になってたりしてその……」
八幡(何その理由超かわいいんですけど)
雪乃「と、とにかく。私は既読スルーされたって気にしないわ。そもそもあなたの考えていることなんて大体わかっているもの」
八幡「何それちょっと怖い」
雪乃「高校からずっと一緒にいるのだから嫌でもわかってくるわよ。比企谷くんはわからないの?」
八幡「んー。まぁなんとなーく、な」
雪乃「そう? なら今の私の気持ち、当ててみて?」
八幡「なんだその無茶振り……。えーと、じゃあ……んんっ。あ、あー」
雪乃「……?」
八幡「比企谷くん。私は誰よりも比企谷八幡のことが好きよ」キリッ
雪乃「も、ものまねしろとは言ってないのだけれど」
八幡「いや、こんな感じかなって」
雪乃「あと、そのセリフはやめてちょうだい……」カアア
八幡「いや、急に思い出してな。雪ノ下が告白してきた時は今でも覚えてるなー。平静を装ってたわりには顔が超真っ赤だったぞ?」
雪乃「……殺されたいのかしら」
八幡「すまん。超すまん。いやマジすまんて」
雪乃「……次はないわよ」
八幡「あい……。ところで雪ノ下は次、講義だっけか?」
雪乃「いえ、今日は1コマ目と3コマ目だけだから2コマ目は空いてるわね」
八幡「そか。俺は2コマ目もあるから昼はラウンジかどこかで待っててくれるか?」
雪乃「わかったわ。なら4階のラウンジで待ってるから」
八幡「おう。そんじゃ次の講義行ってくるわ」
雪乃「ええ。いってらっしゃ……待って」
八幡「あん?」
雪乃「少し屈んでもらえる? 糸くずが付いているわ」
八幡「自分で取れる。どこだ?」
雪乃「いいから屈んで」
八幡「あ、はい」
雪乃「じっとしてて。…………っ」
八幡「うぉ、ちょ……」
雪乃「虫除けよ。また私以外に誘惑されたらその首筋を見せてね?」
八幡「ここ学校だぞ……。お前言ってることとしてること矛盾してんじゃねぇか……」
雪乃「……誰も居ないからセーフよ」
八幡「がっつりアウトだっての。マジで跡ついてるの? 絶対気付かれるだろこれ……」
雪乃「安心なさい。きっとあなたのことなんて誰も見ていないわよ」
八幡「それはそれで悲しいんだけど……」
雪乃「大丈夫よ。その分、私が比企谷くんをちゃんと見てるから」ニコッ
八幡「…………行ってくる」
雪乃「いってらっしゃい。待ってるわね」
八幡(相変わらずこの講義くっそつまらんぞ……。寝たいけどこの講義板書しっかり写しとかないと後々きついんだよな……)
八幡(いや一回くらい板書写さなくても大丈夫かなー。うん、大丈夫だろ、多分。……寝よ)
八幡(てかさっきから首筋のキス跡が気になって仕方ないんだが……。後ろから見えてたりしないよね……?)
テレン♪
八幡(っ! っべー、マナーモードにしてなかった。てか、俺のスマホ今までこんな音出たことあったっけ?)
雪乃『暇なのだけれど(ΦωΦ)』
八幡(知らねぇしなんだよこの顔文字可愛いなちくしょう……。何の音かと思ったらこれラインの通知音か)
八幡『俺は講義中なのだけれど(・o・)』既読
雪乃『どうせあなたのことだから、居眠りすると思って眠気覚ましにメッセージを送ってみたのよ。あと真似しないで。顔文字も気持ち悪いわ』
八幡(顔文字普段使わないからこれくらいしかないんだよなぁ……。てかマジで考えてることわかってるのかよあいつ)
八幡(にしてもラインって本当に既読付くんだな。これ非表示にできないの?)
八幡『今まさに寝ようと思ってたわ。なに? エスパーなの?』既読
雪乃『さっきずっと目が腐っていたから眠いのかと思って』
八幡『生まれつきで悪かったな』
八幡(実際に使ってみるとメールよりもやり取り早くて楽だなこれ。世のリア充どもが好んで使うわけだ)
八幡(てか既読付かないな。なんかあったのかあいつ? もしかしてナンパされてたり? ちょっと様子を見に……)
八幡(……ハッ!? っぶねー。これが既読スルーの闇か……。うっかりハマるとこだったぜ……って、そもそも既読すらついてないわこれ)
八幡(でもこれ既読付かないなら付かないでちょっと不安になるな。どうでもいい奴なら気にならないが)
八幡(もし仮にグループチャットで自分が何かしゃべったとして、既読6とか付いてて誰からも返事なかったらきつそうだな……)
八幡(そっとグループ抜けてそのままそいつらとは疎遠まである)
八幡(よし決めた。ゼミのライングループには絶対に入らないぞ。意地でも断っちゃうんだからねっ!)
雪乃『ところでお昼はどうするか決めているの?』
八幡『いや、特には』既読
雪乃『そう。今日はお弁当作ってきたのだけれど』
八幡『おっ。そりゃ楽しみだ(・o・)』既読
雪乃『その顔文字なんとかならないのかしら……。気持ち悪いわ比企谷くん』
八幡『顔文字がだよね? 俺がじゃないよね??』既読
雪乃『さぁ? どっちかしらね^^』
八幡『その顔文字やめろ……』既読
雪乃『それでその、今日はいつもより早く起きたから唐揚げメインとハンバーグメインの2パターンを作ってみたのだけれど、比企谷くんはどっちがいい?』
八幡(ほー、どっちも美味そうだな……。それに昼食前の講義中に飯の話を持ちかけてくるとは……腹減ってきた)
講師「今から資料プリント配るぞー。今から言う箇所は試験で出すから線とかメモとかするように。後から聞いてきても教えないからなー」
八幡(おいマジか。あ、メモ書いてる間にホントにあいつが既読スルーしても気にしないか試してみるか)カキカキ
雪乃『比企谷くん?』
雪乃『既読がついているし見ているんでしょう? 答えて欲しいのだけれど』
雪乃『もしかして、さっき私が既読スルーされても気にしないと言ったことを試しているのかしら?』
雪乃『そう考えているなら無駄よ。あなたの考えていることなどお見通しなのだから』
雪乃『比企谷くん』
雪乃『比企谷くん?』
雪乃『ちょっと比企谷くん??』
雪乃『見ているんでしょう?』
雪乃『返事して』
雪乃『……比企谷くん。その、ごめんなさい』
雪乃『あなたの考えていることがわかると言ったけれど、本当はあまりわかっていないの』
雪乃『だから返事してちょうだい』
雪乃『返事欲しいにゃー……(ΦωΦ)』
雪乃『比企谷くん、何でもいうこと聞くからその……返事を』
雪乃『わかった、やるわ。この前あなたがやりたいと言って断った猫プレイをやるわ。してあげるから……その、そろそろ返事を』
八幡(深刻なまでに気にしてんじゃねぇかよ……。一瞬病んでるのかと思っちゃったぞ)
八幡『あー、悪い。ライン付けっぱで板書メモってたわ。唐揚げメインがいいかな俺は』既読
雪乃『そう』
八幡『それで、今度する猫プレイについてなんだが』既読
雪乃『………』
雪乃『(^ΦωΦ^)にゃー』
雪乃『これで満足?』
八幡『するわけねぇだろ……。そうだな、今日俺んち来るならその時どうだ?』既読
雪乃『……好きになさい』
八幡(やったぜ)
八幡「悪い。待たせたな」
雪乃「お疲れ様。講義だったのだから仕方ないわよ」
八幡「まぁそうなんだけどな。あれだけラインで構ってちゃんされたらさすがに悪いと思ってな」
雪乃「……何のことかしら」
八幡「あんだけライン送っておいてとぼけるとか逆にすげぇなおい……」
雪乃「え、何が?」
八幡「何がもナルガもクルガもねぇよ。まっ、面白いもん見れたからいいけどよ」
雪乃「………」
八幡「で、飯はどこで食うかね」
雪乃「ここで良いんじゃない? ここは飲食の禁止はされていないし」
八幡「そうなのか。んじゃ、ここで食うか」
雪乃「ええ。はい、お弁当」
八幡「おう、サンキュな。ほー、相変わらず美味そうだな」
雪乃「由比ヶ浜さんよりは料理ができるもの。当然よ」
八幡「比べる相手間違えてるんだよなぁ」
雪乃「あら、知らないの? 由比ヶ浜さん料理上達したのよ?」
八幡「……マジ?」
雪乃「ええ、マジよ。去年千葉に帰った時に由比ヶ浜さんの家に泊まったのだけれど、その時作ってくれた料理はおいしかったわ」
八幡「そりゃ意外だな……。あいつ元気にしてるのか?」
雪乃「遠い昔のことの様に言っているけれど、去年三人でご飯食べたじゃない……。よく電話はするけど相変わらずね」
八幡「確か海老名さんと千葉の女子大に通ってるんだっけか」
雪乃「ええ。今は海老名さんや大学の友達と楽しんでいるそうよ」
八幡「そうか。空気読みまくってなけりゃ良いんだが……」
雪乃「ずいぶんと由比ヶ浜さんの心配をしているわね」
八幡「いやいや。雪ノ下が思ってるようなことはないからね?」
雪乃「ほんと……?」
八幡「ほんとほんと。ゆきのんちょー愛してる」
雪乃「適当に言われるとさすがに腹が立つのだけれど」
八幡「逆に真面目にそんなセリフ言えるかよ……。いいから飯食おうぜ飯」
雪乃「……それもそうね。はい、比企谷くん」
八幡「え、何」
雪乃「何って食べさせてあげるのよ? だから口を開けなさい」
八幡「いや、さすがにそれは……。俺の分ここにあるし」
雪乃「唐揚げとハンバーグの2パターンを作ってきたのだからどっちも食べてもらいたいじゃない。だから私の方も一口食べて」
八幡「じゃあ自分で取って食う」
雪乃「そんなことしたら私のお弁当が腐敗するからダメよ。だからほら……あーん」
八幡「言ってること矛盾してるしどういうことなの……。ていうかここ学校だしさすがに恥ずかしいんだけど」
雪乃「今周りに人いないから大丈夫よ。だから誰か来る前に、はやく」
八幡「……いや」
雪乃「その、私だって恥ずかしいのだから早くしてちょうだい……。じゃないとその口こじ開けるわよ」
八幡「わざわざ学校でしなくても……」
雪乃「……そう。年末に姉さんにご飯食べさせてもらっていたようだけれど、私にはさせてくれないのね……」
八幡「いやあれは雪ノ下さんが無理矢理にだな……。あの人の場合拒否権ないし……」
雪乃「私だって拒否権を与えたつもりはないのだけれど」
八幡「そんなー」
雪乃「いいから私に食べさせてもらいなさい。でないともうお弁当作ってあげないわよ?」
八幡「そんな横暴な……」
雪乃「あら、好きな人の初めてを全て独り占めしたいって気持ちは横暴なのかしら?」
八幡「横暴と言うよりかは強欲だな。ていうかそんなセリフよく真顔で言えるな」
雪乃「あなたが素直に口を開けないからよ……」カアア
八幡「はぁ。わかった、やる。やるから」
雪乃「始めからそう言って欲しかったわね」
八幡「うっせ。シャイなんだから察してくれ」
雪乃「私だってそうよ」
八幡(なんか今年に入って雪ノ下がかなり積極的になってる気がする)
八幡(多分、ここ最近二人でよくアニメ見てたから感化されたんだろうなぁ……。ポッキーゲームもこの前アニメでそんなシーンあったしな)
八幡(少しずつアニメに毒されていくゆきのん。アリだと思います。でも毒されすぎないようにしないとな)
雪乃「そ、それじゃあ……いい?」
八幡「お、おう」
雪乃「……あ、あーん」
八幡「………」
雪乃「どう? ……おいしい?」
八幡「おいしい、と思う、たぶん」
雪乃「それはおいしくなかったってこと?」
八幡「……味わう余裕ないっつーの」
雪乃「そう」クスッ
雪乃「……じゃあ、次は私がしてもらう番ね」
八幡「え? 逆もすんの?」
八幡宅
戸部「っかー! ヒキタニ君そこでバーストはずりーわー! からのたたみ掛けもっべーわ!」
八幡「バーストしなきゃ負けてたし危なかったわ」
戸部「今日のヒキタニ君キテるわー! うし、もっかい! いやー、あそこで必殺ガードされなきゃ勝ってたわー」
八幡「隙も一切作らず真正面からいきなりされたらそりゃガードするだろ……」
戸部「ところでヒキタニ君、雪ノ下さんとは最近どーよ?」
八幡「あ? どうと言われてもな……。いつも通りだな」
戸部「マジかー。いやー、それにしてもマジで羨ましいべ。雪ノ下さんみたいな可愛い子が彼女とかさ」
八幡「でもお前、この前彼女出来たとか言ってなかったか?」
戸部「あー……あれね。ついこの間別れたんだわ」
八幡「はやいな……。反りが合わなかったか?」
戸部「そんな感じ? やっぱ海老名さんみたいな少しおとなしめの子が俺には合うっつーかさー」
八幡「海老名さんとはもう高校出てから全然会ってないのか?」
戸部「んや、大学は別になっちゃったけど夏休みとか年末は総武組みたいな感じで隼人君たちと集まって海行ったり飲みに行ったりはしてるべ」
八幡「そうなのか。たしか葉山と三浦は同じ大学に行ったんだよな」
戸部「だべだべ。やっぱどこ行っても隼人くんモテるみたいでさー。何かある度に優美子が不機嫌になるらしくってよー」
八幡「最近になってようやくあいつら付き合いだしたんだっけか。高校の時の三浦を見てきた側からするとやっとかよって感じだな」
戸部「ほんとそれなー。はぁ、俺も海老名さんと付き合いてぇなぁ……」
八幡「連絡先知ってるなら遊びに誘ったりしてみたらどうだ? お前バイクの免許持ってるんだし海老名さんでも後ろに乗っけてな」
戸部「それある! さっすがヒキタニ君、たらしだわー」
八幡「なんでだよ……。俺ほど一途な奴いないぞ……。いるけど」
戸部「ヒキタニ君って高校から雪ノ下さんとできてたんだっけ?」
八幡「まぁ、な。高二の終わりごろから一応……」
戸部「っかー! 未だにラブラブとかマジで羨ましいわー。今も超仲良さげだし」
戸部「そんでさ……雪ノ下さんって二人の時はどうなん?」
八幡「どういう意味だ……?」
戸部「ほら、なんつーの? 抱く時の雪ノ下さんとかさー。やっぱヒキタニ君に甘えたりしてるん?」
八幡「……絶対言わねぇ。言うわけないだろ……」
戸部「いいじゃん教えてくれたってよー!」
八幡「何が楽しくてセックス中の彼女の様子を他の男にしゃべらなきゃいけないんだよ」
戸部「高校の時はやっぱ雪ノ下さん人気あったし、こういう話は聞きたいじゃんよー! 今俺たちだけなんだし教えてよヒキタニくーん」
八幡「……俺たちだけ、か」チラッ
雪乃「………」
戸部「……ん?」
雪乃「こんにちは、戸部くん」
戸部「うぇっ……。ゆ、雪ノ下さん、いい、いつの間に……」
雪乃「ついさっきよ。ごめんなさいね、二人が楽しそうにゲームしてたからこっそり部屋に来たのだけれど」
八幡「雪ノ下には合鍵渡してるからなぁ。油断してるとたまにこうやって背後に立ってるんだよ」
戸部「っべーわ……。雪ノ下さんマジ舐めてたわ」
雪乃「たまにも何も今日初めてしたのだけれど。適当なこと言わないで……。今日だって来る前にちゃんと連絡したでしょう?」
八幡「……ああ、メール来てたわ。すまん、ゲームしてて気づかなかった」
雪乃「戸部くんが遊びに来ると言われていたし別に気にしてないわ。どうせ気づいてないと思って来ちゃったし」
八幡「そうか。悪いな」
雪乃「それで……」
雪乃「戸部くんは私の何が聞きたいのかしら?」ニッコリ
戸部「うぇっ……。えー、えっと、あっ! 俺この後バイトあるんだったわ! ぼちぼち帰るわ!」
八幡「いやお前今日はバイト無いって……」
戸部「あるある! 超ある! ありすぎてべーから! そんじゃ帰るわヒキタニ君! 今日持ってきたゲームしばらく貸すから雪ノ下さんとやってくれな!」
八幡「お、おう。なら借りとくわ」
戸部「おっけーおっけー。そんじゃなヒキタニ君! 雪ノ下さんも!」ピュー
雪乃「とてつもないスピードで帰っていったわね……」
八幡「だ、だな」
雪乃「相変わらずいつ見ても慣れない組み合わせね。比企谷くんと戸部くんだなんて」
八幡「まぁな。たまたま学科が一緒だったのもあって何かあるたびに絡んできて気づいたら仲良くなってた」
雪乃「……比企谷くんはうぇいうぇい言わないわよね?」
八幡「絶対言わん」
雪乃「そう、ならいいけど。それで比企谷くんは戸部くんとどんなお話をしてたの?」
八幡「他愛もない話だよ」
雪乃「抱かれている時の私は他愛無いって話をしてたの……?」
八幡「ばか、ばっかおま違うから。全然これっぽっちも全くもって他愛無くないから。何なら戸部の存在が他愛無いまである。ついでに材木座も」
雪乃「何故か材木座くんがもらい事故みたいになってるのだけれど……。戸部くんに変なことしゃべったりしていないのなら別にいいのよ」
八幡「しゃべるわけないだろ。雪ノ下がむっつりスケベで実はエロいってこととか」
雪乃「ちょっと? わけのわからないこと言わないでもらえるかしら?」
八幡「いやいや、お前、なかなかのむっつりスケベだと思うぞ? いやマジで」
雪乃「……そんなわけないでしょう」
八幡「だってこの前の猫プレイの時も……」
雪乃「ひ、比企谷くん、私もあなたたちがやってたゲームをしてみたいのだけれど」
八幡「最初嫌々だったくせに最後の方とか結構ノリノリで」
雪乃「お願い、その話はもうやめて。やめてくださいお願いします」
八幡「お、おう。悪い悪い。でもあん時の雪ノ下は可愛かったなー……」
雪乃「……他の人にしゃべったりしたら死んでも許さないから」
八幡「こればっかりは小町だろうと死んでも言わねぇよ」
雪乃「………………そもそもこんな私にしたのはあなたのせいよ」
八幡「なんか言ったか?」
雪乃「何でもないわ。独り言よ」
八幡「そうか」
雪乃「ええ」
八幡(結構雪ノ下から誘ってくることがあるから、俺だけのせいではないと思うんだよなぁ……)
八幡「……まぁ、とりあえずゲームやるか」
八幡「戸部とやってたのは格ゲーっつって、操作慣れた奴と慣れてない奴がやると一方的な殲滅になるヤツだからこっちのマリカをやろう」
雪乃「マリカ?」
八幡「ただのレースゲームだよ。といっても色々アイテムはあるけどな。とりあえずやってみようぜ。ほい、コントローラー」
雪乃「ありがとう。操作方法を教えてもらってもいいかしら?」
八幡「とりあえずA押しとけば前に進む。で、Bがブレーキとバック。RLでドリフトだ。曲がる時は基本ドリフトで曲がったほうがいい」
雪乃「ふむ……。操作は簡単そうね」
八幡「一回走ればすぐ慣れるぞ。最初はCPU有りの50ccにしとくか」
雪乃「ルールは任せるわ。対戦ゲームということならば比企谷くん、勝負しない?」
八幡「勝負?」
雪乃「そう。勝った方は負けた方に罰ゲームとして何でも命令ができるの」
八幡「懐かしいな、それ……」
雪乃「奉仕部の時は結局、平塚先生が勝負の存在自体を忘れて引き分けってことになったのよね」
八幡「今日決着を着けようってか」
雪乃「ええ」
八幡「ほー。言っとくが俺はこのゲーム初めてじゃないぞ? どう考えても俺が勝つし、何かハンデくらいならあってもいいけど」
雪乃「ハンデ……?」カチン
雪乃「……私も見くびられたものね。確かにこのゲームは初めてプレイするけれど、だからと言ってそれが比企谷くんに負ける理由にはならないわ」
八幡「いや、十分理由になると思うぞ?」
雪乃「つべこべ言わずかかってきなさい。舐めてかかったことを後悔させてあげるわ」
八幡「へぇ……。なら」
八幡 1st
雪乃 9th
雪乃「………」
八幡「一応教えとくけど、コントローラー左右に傾けてもカートは曲がったりしないからな?」
雪乃「……思わず体が動くのよ」
八幡「50ccだから適当に走ってもそこそこ上位入れるはずなんだけどな」
雪乃「………」
八幡「よーし、それじゃあ何を命令するかな~」
雪乃「……ま、待って。今のは練習よ。初めてプレイするのだから一戦目からいきなり本番なわけがないでしょう?」
八幡「………」
雪乃「さぁ、次からが本番よ。コースは私が選ぶから……!」
八幡「すっげぇ悔しそう……」
八幡 1st
雪乃 11th
雪乃「くっ……」
八幡「すげぇな。緑甲羅三連続で投げて自分で三連続食らう奴初めて見たわ」
雪乃「このキノコが悪いのよ」
八幡「キノピオのせいにすんなよ……。あれだな、三勝したら一回命令できるってことにしようぜ」
雪乃「ええ、構わないわ」
八幡「じゃあ今1-0な」
雪乃「あと、ついでに比企谷くんはアイテム無しよ」
八幡「さらっとハンデ設けてきたな……。別にいいけどよ」
八幡 1st
雪乃 12th
八幡「やっぱアイテムないとそこそこキツかったな」
雪乃「なぜ……」
八幡「いやいや、なぜってお前……。街のコースだからって目の前の信号が赤になっても止まらなくていいからね?」
雪乃「ゲームと云えどやっぱり信号機の指示には従うべきだと思うのだけれど?」
八幡「仰る通りだけどこれレースだし……」
雪乃「仮にレースだとしても道路交通法を破ることは犯罪よ。よって私以外は全員その場で検挙、繰り上がりで私が一位ということになるわね」
八幡「意地でも一位になりたいのな……」
雪乃「これでお互い一勝ね。次もコースは私が選んでいいかしら?」
八幡「おう、いいぞ。……って、あれ? 結局今のはお前の勝ちなの?」
雪乃「何か異論でも? 交通違反谷くん」
八幡「もうそれでいいです……」
1st
9th
八幡「次は信号も何もないから上手く言いくるめられないぞ」
雪乃「どうして順位が伸びないの……」
八幡(そりゃ道路に捨てられたバナナをご丁寧に一つずつ踏んで回収しながら走ってたら一位になれるもんもなれないだろ……)
八幡(バナナ踏んで唸る雪ノ下が可愛いから黙っておくけど)
雪乃「きっと座る位置が悪いのね……」
八幡「は? 座る位置? っておい、なんで俺の膝の上……」
雪乃「だって比企谷くんが膝の上に座って欲しそうだったから」
八幡「いやその、前見にくいし操作しにくいし」
雪乃「これもハンデよ。我慢なさい」
八幡(くそっ、めちゃくちゃいい匂いするしなんか色々柔らかいしあといい匂いするし集中できねぇ!)スーハー
雪乃「は、鼻息が荒いのだけれど……」
1st
5th
八幡「結局俺の圧勝だったな」
雪乃「このキノコ……もっと上手に走らないのかしら」
八幡「いやいや、だからキノピオは悪くないだろ。操作してんのお前だし」
八幡(ちょいちょい膝の上で雪ノ下がもぞもぞ動くから俺のキノピオは危なかったけどね!)
雪乃「くっ……」
八幡「じゃあ、約束通り命令聞いてもらおうかね」ギュッ
雪乃「あっ……。ちょ、ちょっと比企谷くん、命令って……」
八幡「ああ。もういい時間だし夕飯作ってもらおうかな」
雪乃「え……。そ、そんなことでいいの……?」
八幡「ナニかされる方が良かったのか?」
雪乃「……べべ別にそんなわけないでしょう。夕飯は何でもいい? ドブにする?」
八幡「何でも良……待て待て、ドブってなんだ」
雪乃「好物だったわよね?」
八幡「何の妖怪と間違えてんの……? ドブ以外なら飯はなんでも良い。雪ノ下なら何作っても上手いしな」
雪乃「……そう。でも、何でもは困るのだけれど」
八幡「何でもいいかって聞いてきたの雪ノ下さんなんですけど……。なら気分的に生姜焼きがいい」
雪乃「生姜焼きね。わかったわ」
八幡「あー、いや、やっぱ俺も手伝うわ」
雪乃「あら、それだと罰ゲームにならないわよ?」
八幡「じゃあ一緒に夕飯作るって命令に変えよう。ていうか罰ゲームじゃなくても普段から飯作ってもらってるしな」
雪乃「そう? なら比企谷くんはまずサラダを作ってもらえるかしら」
八幡「あいよ」
八幡「ところで」
雪乃「?」
八幡「俺に完敗した雪ノ下さんは、俺に勝ってたらなんて命令するつもりだったんだ?」
雪乃「それは……教えない」
八幡「なんだよそれ。気になる」
雪乃「……できもしないのに言うのは恥ずかしいんだもの」
八幡「なにそれ全裸で街一周とか……?」
雪乃「そんな陳腐な命令なんてしないわよ」
八幡「ならなんだよ」
雪乃「本当に恥ずかしいから、言わない」
八幡「余計気になる」
雪乃「……笑わない?」
八幡「笑わない」
八幡(多分)
雪乃「引かない?」
八幡「引かない」
八幡(多分)
雪乃「…………何というかその……き、キス、してもらおうと思ったのよ」
八幡「……は、キス? あの、結構頻繁にしてる気がするんですけど」
雪乃「それは雰囲気的にお互い流れでしたり……え、エッチの時だけでしょう?」
八幡「まぁ……うん」
雪乃「それに比企谷くんはあまり自分からキスしようとはしてくれないし」
八幡「そ、そうでしたっけ?」
雪乃「そうよ。だから私はその、比企谷くんからして欲しかったというかその……その……」
八幡「………」
雪乃「……き、キスだけよ? 私はあくまでキスだけを――んむっ!?」
八幡「…………こんな感じでいいか?」
雪乃「……だめ。足りないわ」
八幡「わかった……………」
雪乃「……………勝負には負けたのに、叶えてくれるのね」
八幡「お前のは命令と言うよりかは単なるお願いだしな」
八幡「……というか俺がしたくなったからしただけだ」
雪乃「ふふっ、そういうことにしてあげる」
八幡「……なぁ、雪ノ下」
雪乃「……?」
八幡「飯、後にしないか?」
雪乃「いい、けれど……夕飯食べるの遅くなるわよ?」
八幡「…………その分雪ノ下を、な」
雪乃「ケダモノ……。だからさっきもゴリラを操作してたのね」
八幡「俺はともかくドンキーはありゃただの獣だ」
雪乃「そう。でも比企谷くん自身はケダモノだと認めるのね」
八幡「ふっ、まぁな。だから俺が満足するまでやるぞ」
雪乃「んぁっ……ま、待って、ま、まだ心の準備が」
八幡「待たない」
雪乃「あっ、や……ひきがや、くん……」
八幡「嫌か?」
雪乃「い、嫌ではないけれど……す、少しだけ待って? その、お風呂にも入っていないし……」
八幡「悪いがそれは無理」
雪乃「どうして……」
八幡「好きな子にはイタズラしたくなるっていうだろ」
雪乃「やってることがイタズラの限度を超えているわ」
八幡「そりゃあれだな。大好きだからだな」
雪乃「あら、珍しいわね。あなたからそんなこと言うなんて」
八幡「久しぶりに雪ノ下から可愛いお願いされたからな。こんなの嫌でもハッスルするわ」
雪乃「か、可愛いお願いなんてしていないわよ……」
八幡「いいんだよ理由なんて。ただ好きだ…………」
雪乃「………………そうやってキスしてくるの、少しずるいわ」
八幡「そ、そうか……?」
雪乃「だから、仕返し」
八幡「…………っ」
雪乃「私だって比企谷くんのことが好き。……だ、だから、たくさん……私も、満足するまで……」
八幡「やっぱ雪ノ下ってスケベだよな」
雪乃「…………比企谷くんなんて嫌いよ」
八幡「ちょっ……4秒で言葉覆すなよ……」
雪乃「なら、たくさんしてくれる?」
八幡「おう…………」
雪乃「………………」
材木座『我だ』
八幡『あー、もしもし。材木座か?』
材木座『うむ。どうしたのだ八幡。急に電話などしてきて』
八幡『どうしたもこうしたもねぇよ。なんかゆうメールが届いたと思ったらAVが入ってたんだが……差出人剣豪将軍ってこれお前だろ』
材木座『メリー……クリスマス……!』
八幡『いらんわこんなクリスマスプレゼント……。しかもこれなんで三本も入ってんだ』
材木座『はぽん、ネットでググってたら万人が認めるほどの神作が手に入ってな! おまけで我のおすすめも二本入れておいた』
八幡『それ何をググったんだよ……。てか全部巨乳モノか。スレンダー系とか無いの?』
材木座『我の趣味だ。ネットでちっぱいを調べたら何故かホモビが出て以来、我の中で貧乳はギルティになってな』
八幡『それ貧乳に何の罪も無いけどな……』
材木座『シャラッ~~~プ!!!』
八幡『うぉ……急に大声出すなよ……』
材木座『貴様にはあの氷結の魔女がいるではないか! 貴様なら貧乳くらいいつでも見れるんだろ! 死ね! 我に謝り死ね!』
八幡『まず先にお前が雪ノ下に殺さるぞ……。それに残念ながら本家の氷結の魔女よりも胸が……』
材木座『あっ……(察し)』
八幡『でもな、材木座。それでも……柔らかいんだぞ? 膨らみもちゃんとあるしな』
材木座『キェエエエイ! 黙れぇえええい! 女子など小学生の頃から一度も触れてないわぁああ!』
八幡『お、おう。金さえあれば好きなだけ触れる店なんていくらでもあるじゃねぇか』
材木座『ふっ、笑止。風俗など行くものか。そもそも処女で聖女な子じゃないと我NG』
八幡『……あっそ。気持ちはわかるけど』
材木座『もほん、とにかく我の至高の三本セット、確かに届けたぞ?』
八幡『マジでいらねぇ……。捨てていいの?』
材木座『駄目に決まっておろう! ちゃんと三本とも見てどうだったか感想を聞くのでな。いいな!?』
八幡『何が楽しくてお前とAVの話しないといけないのん……。お前、3次元は糞とか言ってたじゃねぇかよ』
材木座『AVと声優は2.5次元だからセーフ』
八幡『声優はともかくAVはさすがに無理あるぞ……』
材木座『黙らっしゃい! 我も変わったのだ。我を差し置いて恋人などという怨那を作りおって……。死ね。いやマジでSINE』
八幡『おい、ガチトーンで死ねはやめろ』
材木座『はぽん、貴様など我の送ったAVが彼女にバレてそのまま別れてしまえばいい』
八幡『てめぇ……それが狙いか!?』
材木座『ぶるすこぶるすこモルスァ。無論、純粋に我のオヌヌメのAVを見てもらいたいというのもあるぞ!』
材木座『八幡、いいな? 近々絶対に感想を聞かせてもらうぞ!』
八幡『マジで嫌だ……。まず三本とかそこそこ多いし』
材木座『別にシコってくれても構わんのだぞ?』
八幡『うっせぇ! お前から借りたもんでは死んでもしねぇよ!』
材木座『そう照れるでない八幡。……べ、別にあんたのことを思って貸したわけじゃないんだからねっ!』
八幡『きめぇ……。まぁ……一応見てやるから今度また連絡する』
材木座『あ、八幡! やっぱ興味あるんじゃん! やっぱ興味あるんじゃーん!!』
八幡『うぜぇ……。もう切るぞ』
材木座『ちょ待っ―』ブツッ
八幡「やれやれ……。さっさと見てさっさと返さないとあいつにバレるよなぁ」
八幡「よりによって全部巨乳モノだしバレたら絶対殺されるな……」
八幡「とりあえずどこに隠すかな……。ベッドの下はさすがにアレだし、冷蔵庫の上とかにしとくか」
八幡「……その前に一本だけ見てみるか。今日雪ノ下はバイトって言ってたし見れるときに見とかないとな!」
八幡「ちゃっかりAV見るの初めてだな……。どれから見るかなー」
雪乃「比企谷くん、いる?」ガチャ
八幡「ファッ!?」
八幡「……よ、よよよよ、よお」
雪乃「こんばんは。鍵閉めないなんて随分と不用心ね」
八幡「い、いや、別に出掛けてないし大丈夫かなって……」
雪乃「それでも閉めた方がいいわ。私だから良かったものの」
八幡「れ、れれ連絡くらいくれよな。て、てかお前バイトは?」
雪乃「シフト表見間違えてて今日は休みだったの。だからその、驚かせようと思って……。そうしたらあなた、すごく驚いてるんだもの」
八幡「そりゃ前触れもなく人が家に入ってきたら普通驚くだろ」
雪乃「それもそうね。私はてっきりあなたがやましいことでもしようとしているのかと思ったわ」
八幡「べべっべべべべ別に何もねぇし?」
雪乃「…………比企谷くん?」
八幡「い、いや、ほんとだよ?」
雪乃「神に誓って?」
八幡「知らないのか? 神は死んだんだぞ?」
雪乃「部屋、見せてもらうわね」
八幡「ああああ五分待ってくれぇええ!」
雪乃「比企谷くん」
八幡「……はい」
雪乃「これ、何かしら」
八幡「えーっと……」
雪乃「これ、何かしら?」ニッコリ
八幡「『集まれ巨乳っ娘! 驚異のおっぱい100連発』と『爆乳大陸~大地を揺らせ~』と『ハレルヤ・ユレルヤ~幸せを運ぶHカップ~』ですね、はい」
雪乃「ご丁寧にタイトルを言えとは言っていないのだけれど……」
八幡「はい、さーせん」
雪乃「はぁ……。それで、私というものがありながらこんな如何わしい物を見ようとしていたの?」
八幡「いや、これは材木座から無理矢理渡されたというか嫌々借りることになったというか……。それで感想を求められてたというか……」
雪乃「そんな嘘を私が信じると思って?」
八幡「マジマジマジ! 材木座に強制的に渡されたのはマジだから! あいつが俺んちに勝手に送ってきただけだから!」
雪乃「それによりにもよってどれも胸が多い女性ばかりじゃない……。あの腐れ肉団子くん、私への当て付けかしら」
八幡「腐れ肉団子……。ざ、材木座は単に巨乳好きなだけであってお前のこと馬鹿にしてるわけじゃなくてだな……」
雪乃「彼のことなんて今はどうでもいいの。あなたと話をしているのだから」
八幡「……そうですね」
雪乃「もし仮に私がこれらに気付かなかったとして……あなた、これ全て見るつもりだったの?」
八幡「えっ……。あー、ちょっとだけ」
雪乃「………」
八幡「なな、なーんてな! 雪ノ下がいるのにこんなもの見るわけないだろ!」
雪乃「………」
八幡(まずい……本気で怒らせたか……?)
雪乃「私……これでも毎日…………しているのだけれど」
八幡「えっ、な、何を?」
雪乃「私、これでも毎日バストアップの体操をしているのだけれどっ!!!」
八幡「ひぇっ」ビクッ
雪乃「今までは特に気にしていなかったのに、あなたと付き合うことになってからは自分の胸にコンプレックスを感じるようになってその……」
八幡「ゆ、雪ノ下さん?」
雪乃「由比ヶ浜さんや平塚先生のように、私だって……私だってなりたいのに……」
八幡「まずお前は比べる相手がおかしいんだよ……。ドラゴンボールで弱いキャラを聞かれて魔人ブウって答えてるようなもんだぞ」
雪乃「どちらにせよ小さいことに変わりは無いでしょう?」
八幡「俺は気にすることないと思うけどな。ちなみに胸のサイズって聞いても怒らない?」
雪乃「既に聞いているじゃない……。一応、今はまだBよ……」
八幡「まだ、ねぇ……」
雪乃「なにか……?」
八幡「いや別に……。今まで触ってた感じだともう少しある気がするんだけどな」
雪乃「さりげなくセクハラ発言しないでもらえるかしら」
八幡「お、おう」
雪乃「比企谷くんはその……やっぱり胸が大きい女性の方が好き?」
八幡「まぁ、やっぱでかい人の方に目は惹かれるな」
雪乃「そう……」
八幡「俺は胸の大きさなんざ全く気にしてないというか、気に留めたことも無かったしマジで気にしなくていいと思うぞ?」
雪乃「比企谷くんが気にしなくても私自身が気にするのよ……」
八幡「そうか? ほら、貧乳は乳がん見つかりやすいっていうぞ?」
雪乃「あまり慰められた気がしないわね……」
八幡「じゃあ貧乳は垂れないとか? あ、貧乳は貧乳で巨乳より」
雪乃「貧乳貧乳連呼しないで……」
八幡「すいません……」
雪乃「比企谷くんは胸が大きい女性が好きなんでしょう? だったら嫌でも気にするわよ……」
八幡「俺はあくまで目が惹かれると言っただけで好きとは言ってないぞ?」
雪乃「でも、どうせ胸が大きい人の方が良いんでしょう?」
八幡「どうせって何だよどうせって……。人にも好みってのがあるんだよ」
雪乃「なら、比企谷くんはどっちなの?」
八幡「俺は大きいなら大きいで良いし、小さいなら小さいでそれもまた最高派だ」
雪乃「なによそれ。曖昧に答えているだけじゃない」
八幡「こればっかりは男にしかわかんねぇんだよ。それに雪ノ下は今のままで良いと思うぞ」
雪乃「それは金輪際私の胸は成長しないという私に対しての宣戦布告、ということでいいのかしら?」
八幡「ちげぇっての……。なんていうかこう……あれなんだよ」
雪乃「あれ?」
八幡「あー、なんて説明すりゃいいかわからん。とにかく俺は雪ノ下が好きなわけで体が好きというわけじゃなくて……いや、体も好きだけど」
雪乃「………」
八幡「お前は大きい方がいいのかもしれんが、俺からすると下手に胸が大きいよりも雪ノ下くらいの方がよっぽどエロいと思うぞ?」
雪乃「エロいと褒められてもあまり喜べないのだけれど……」
八幡「俺としてはかなり褒めたつもりなんだがな……。まぁ、要はそこまで卑下しなくても十分過ぎるほど魅力があるってことだ」
雪乃「……そ、そう」
八幡「控えめだからこそ良いってこともあるんだぞ? 雪ノ下とやる時なんて胸とかかなり敏感で可愛がりがいがあるしな」
雪乃「なな、何を言って……」
八幡「この際だから言うけど、こうやって何か俺の趣味に合わせようとしてくれてる時の雪ノ下とか超可愛いんだからな」
八幡「今とかまさに可愛い。可愛すぎて愛しいまである」
雪乃「………」カアア
八幡「だから安心してくれ。俺は雪ノ下だけを見てる。その分、お前も周りなんて気にせず俺だけを見てほしい」
雪乃「なっ、なななりゃ……んんっ、ならこのDVDは破棄しても大丈夫よね? 材木座くんの物みたいだけれどこんなDVDを見ても一切彼のためにはならないのだし、これは私が預かり責任を持って破棄するわ。それと二度とこんなことがないよう彼には一度喝を入れておく必要があるわね。材木座くんとはまた今度比企谷くんに機会を設けてもらうとして、戸部くんにも一応釘を刺しておく必要もあるかしら。比企谷くんもこういった類の物を自ら購入するような真似をしてはだめよ? そ、その、言ってくれれば私が相手してあげられるのだし、その時は遠慮なく言ってくれていいから……。わかった?」
八幡「お、おぉ……。わ、わかった」
八幡(話が脱線しすぎてAVのことすっかり忘れてたぜ……。すまん、材木座許してくれ……)
八幡「ん? 待て待て、AVはお前が預かるのかよ。帰ってこっそり見たりすんなよ?」
雪乃「私がこんな忌々しい物を見るわけがないでしょう……?」
八幡「……なんかすまん」
雪乃「はぁ……。何にせよ、材木座くんに無理矢理渡されただけというのであれば今回は特別に許してあげるわ。次は無いけどね」
八幡「本当に悪かった……」
雪乃「もう気にしてないから平気よ」
八幡「ありがとな……。それで、連絡も無しに来たけど何か用があって来たんじゃないのか?」
雪乃「いえ、用は特に無いわ。強いて言うならこの前あなたの部屋でやったゲームがあったでしょう? それを今日はリベンジしにきたのだけれど」
八幡「あー、マリカな。前回はお前ボロ負けだったけど大丈夫か……?」
雪乃「今日は道行く車の動きをしっかり観察してきたから勝てる気がするわ」
八幡「それあんまり意味無いと思うぞ……。まっ、やるか。用意するから待っててくれ」
雪乃「いいえ、その必要はないわ」
八幡「?」
雪乃「……ゲームをするつもりで来たのだけれど、気が変わったから」
八幡「そうか? じゃあ何する?」
雪乃「そうね。比企谷くんにたくさん可愛がってもらおうかしら」
八幡「え、ちょ……っ」
雪乃「可愛がりがい、あるんでしょう?」
八幡「ある。超あるけどお前最近……ちょっとエロくない?」
雪乃「誰のせいだと思っているの……?」
八幡「え、俺のせいなの?」
雪乃「他に誰がいるのよ。責任、しっかり取ってもらうから」
八幡「……おう。言っとくが途中でやめるつもりないからな」
雪乃「んっ……望むところよ」
雪乃宅
八幡「雪ノ下んちお邪魔するのなんか久しぶりだな」
雪乃「普段は私が比企谷くんちに行っているからかしらね」
八幡「だな。やっぱ千葉のお前んちよりかは狭いな」
雪乃「あんなマンションの一室と比べられても困るわ。今はアパートなのだし」
八幡「まぁそうだけどよ。あ、トイレ借りていいか?」
雪乃「ええ、そこの扉よ。紅茶、淹れておくわね」
八幡「おっ。頼む」
雪乃「………」
雪乃(姉さんに押し付けられた半透明のネグリジェはクローゼットの奥に隠したし……)
雪乃(千葉を離れる際に小町さんから貰った比企谷くんの寝顔写真は引き出しに隠したし……)
雪乃(比企谷くんから没収して結局三本丸々見てしまったアダルトビデオも見つけにくい冷蔵庫の上に隠したし……)
雪乃「……よし」
雪乃「……大丈夫、よね」
八幡「何が?」
雪乃「っ!?」
八幡「トイレから戻ってきただけでそんな驚く?」
雪乃「……悪寒が走ったから何事かと思ったのよ。良かった、比企谷くんだったのね」
八幡「全然良くねぇよ。安堵した表情で棘のある言葉吐かないでくれる?」
雪乃「……とにかく。そんなことよりも紅茶、冷めないうちに」
八幡「ああ、悪いな。……っちぃ」
雪乃「そういえば猫舌だったわね」
八幡「まあな」
雪乃「猫……」
八幡「いや、うん。猫舌な」
雪乃「猫は猫よ。比企谷くん、ちょっと鳴いてみて?」
八幡「絶対嫌だ。もはや猫つけば何でもいいのかよ」
雪乃「そんなことないわ。比企谷くんが猫の鳴き真似をしたらすごく滑稽だと思ったから」
八幡「満面の笑みなのに言ってること最悪なんだけど……。もうちょっとオブラートに包めないわけ?」
雪乃「なら……比企谷くんが猫の鳴き真似をしたらすごく面白そ」
八幡「いいから。ご丁寧に言い直さなくていいから……」
雪乃「あら、そう?」
八幡「言い直されたところで俺はしないからな……。ああそうだ、ちょっとテレビつけてもいいか?」
雪乃「ええ、どうぞ」
八幡「さんきゅ」
八幡(って、テレビのリモコンが無い……。どこだ?)
八幡「なぁ、雪ノ……」
雪乃「」ピクッ
八幡「あ、あったわ。何でもない」
雪乃「比企谷くん。今なんと……?」
八幡「リモコン見当たらなかったからどこあるか訊こうと思ってな。見つかったから忘れてくれ」
雪乃「そうじゃなくて……その前」
八幡「は? その前?」
雪乃「」コクッ
八幡「テレビつけてもいいか、か?」
雪乃「その後よ」
八幡「だからリモコンが」
雪乃「一緒に見るとリモコンの間よ」
八幡「……あいだ? 雪ノ下、か?」
雪乃「少し違う」
八幡「え、何が……。全然わからないんだけど」
雪乃「私のこと……名前で呼んだでしょう?」
八幡「……え? 俺が? 呼んだか?」
雪乃「呼んだわ」
八幡「呼んだ心当たり全くないぞ……」
雪乃「……そう」
雪乃「なら、この際だから私を名前で呼んでみて?」
八幡「え……」
雪乃「思い返してみれば私たち未だに名前で呼び合ったことがないわ」
八幡「言われてみれば確かに……」
雪乃「だから……呼んで」
八幡「おぉ……。じゃ、じゃあ……ゆ、雪乃、……下」
雪乃「下は余計よ」
八幡「こうやって改めて面と向かって言うの照れるんだよ……。えーと、ゆ、雪乃?」
雪乃「………」
八幡「雪乃」
雪乃「………」
八幡「無視か? 雪乃ー?」
雪乃「………」カアア
八幡「ゆきのーん?」
雪乃「ゆきのんは由比ヶ浜さん専用だからやめて」
八幡「お、おう、あいつ専用だったのか……。でも、なーんかゆきのんの方がスッと出るんだよな」
雪乃「そうね。私もどちらかと言えば比企谷くんよりもヒキガエルくんの方がスッと出るかしら」
八幡「それはスッと出すなよ。トラウマがスッと出て来ちゃうだろうが」
雪乃「なら、カエル?」
八幡「おっと、ただの両生類になっちゃったぞ? ていうか雪ノ下は名前で呼んでくれないのかよ」
雪乃「私は……恥ずかしいから……また、今度」
八幡「へぇ。俺には言わせておいて自分は言わないというわけか。さすが雪ノ下さん、やることが卑怯だな」
雪乃「……言うわよ? 言うに決まっているでしょう。あなたと一緒にしないで」
八幡「さらっと人を卑怯者にすんのやめてくんない? いいからほら、呼んでみ?」
雪乃「で、では……」
八幡「………」
雪乃「…………ひ、ひっきー?」
八幡「そっちかよ」
八幡「ヒッキーは由比ヶ浜専用だから駄目だ。あと引きこもりみたいだから駄目」
雪乃「実際あなた何もない日は家に引きこもっているじゃない」
八幡「いやそうだけど……」
ピーンポーン
八幡「ん?」
雪乃「誰かしら。ちょっと出てくるわね」
八幡「おう」
八幡(結局名前呼んでくれなかったな……)
八幡(ま、俺も俺で一度雪乃って呼んだきりさりげなくまた雪ノ下に戻したけどね!)
雪乃「あ、ちょっと待ちなさい!」
八幡「なんだ? どうかし」
陽乃「みーっけ。ひゃっはろー! 比企谷くん」
八幡「たっ!? ……って、雪ノ下さんなんでここに……。てか抱き着かないでください……」
陽乃「んー? 比企谷くんちの近くを通ったから遊びに行こうと思ったらいないんだもん。そしたら意地でも君に会いたくなっちゃって」
陽乃「もしかしたらと思ってこっち来てみれば、やっぱり比企谷くんここにいた」ギュー
八幡「ちょ、雪ノ下さんやめ……」
雪乃「」
八幡(当たってるからぁ! 雪ノ下には無いモノが当たってるからぁ!)
陽乃「やめなーい。それと比企谷くん。前に私のことは陽乃って呼ぶよう言ったよね?」
八幡「いやそれは……」
陽乃「陽乃。はい呼んで」
八幡「……雪ノ下さん」
陽乃「呼んで。あ、お義姉ちゃんでもいいよ?」
八幡「………」
陽乃「はやく」
八幡「………」
陽乃「ちゅーするよ?」
八幡「陽乃さん」
陽乃「うんうん。良く言えました。よしよし、八幡よーしよし」
八幡「ちょ、やめてください……」
陽乃「あん。もー、照れちゃって~」
雪乃「……姉さん」
陽乃「あ、雪乃ちゃんまだいたの? 空気読んで出掛けてくれたのかと思っちゃった」
雪乃「……比企谷くんから離れて」
陽乃「やだ」ギュー
雪乃「………」
八幡(俺はどうすればいいのこれ……。陽乃さんの機嫌損ねると何してくるかわからんし……じっとしておこう)
雪乃「離れて」
陽乃「別に変なことしてないんだからいいじゃない」
雪乃「もう十分すぎるほどしているわよ。離れないつもりなら無理矢理にでも離れてもらうから」
陽乃「そんなことして良いのかな~? これ以上近づいたら比企谷くんにキスマーク付けちゃうかも?」
雪乃「………」
八幡「あのー」
陽乃「比企谷くんは今人質だから黙ってて」
八幡「……はい」
雪乃「帰って」
陽乃「やだ」
雪乃「………」
陽乃「………」
八幡(なんか二人の背後にゴゴゴゴの文字が見える……)
八幡(それにしてもこの状況、BGMに進撃の巨人を流したら多分盛り上がる。あとシューベルトの魔王を流したら多分俺が息絶える)
雪乃「そもそも連絡も無しに突然来るだなんて非常識よ」
陽乃「私は別に雪乃ちゃんに会いに来たわけじゃないよ。比企谷くんを渡してくれれば大人しく出ていくから」
雪乃「姉さんなんかに比企谷くんを渡すわけないでしょう?」
陽乃「………」
雪乃「………」
八幡(お願い! 仲良くして!)
八幡「そもそもなんで雪ノ下さ」
陽乃「陽乃」
八幡「……陽乃さんがここにいるんですか。通ってる大学院千葉でしょ」
陽乃「今日は親の知り合いがどうしても私に渡したい物があるっていうからわざわざこっちに来たの」
八幡「渡したい物ですか」
陽乃「うん。私もよくわかんないんだけどね。それで予定より少し早く来ちゃったから比企谷くんと……八幡と遊ぼうと思って」ギュー
八幡「」
雪乃「……姉さん、いい加減にして。あと彼を名前で呼ばないで」
陽乃「なんで? 別に八幡は八幡なんだから八幡って呼んでも問題ないでしょう? ね、八幡?」
八幡「……俺に振らないでください」
陽乃「どうしても嫌なら雪乃ちゃんも名前で呼んであげればいいのに」
雪乃「………」
陽乃「あ、それと私は八幡に会いにわざわざここに来たんだから、雪乃ちゃん今日はもう帰っていいよ?」
雪乃「……ここは私の家よ。だから姉さんが帰って。そして二度と来ないで」
陽乃「雪乃ちゃんは相変わらず冷たいなぁ。じゃあ八幡は私と遊びにいこっか。この辺よく知らないから案内して?」
八幡「いや、ちょ……」
雪乃「ま、待ちなさい! 人の所有物を勝手に持ち出さないでもらえるかしら」
陽乃「別に雪乃ちゃん一人の物じゃないでしょ? 心配しなくても明日には返すから」
八幡「この人たちナチュラルに俺を物扱いしてくるな」
陽乃「八幡は私といた方が楽しいもんね?」
八幡「え」
雪乃「どうなの? 私と姉さん、どっち?」
八幡「どうも何も雪ノ下に決まってるでしょ……」
陽乃「うんうん。そんなに私が良いかー。八幡は可愛いなー」ナデナデ
八幡(……しまった。どっちも雪ノ下か……)
雪乃「………」
陽乃「そういえば八幡は雪乃ちゃんと付き合ってもうどれくらい? 結構経つよね」
八幡「高2の終わりくらいからなんで……3年とちょっとですかね」
陽乃「ふーん。じゃあそろそろ雪乃ちゃんにも飽きてきたんじゃない?」
雪乃「っ」
八幡「飽きたって……。そんなわけないでしょう」
陽乃「へぇ、私とは遊びだったんだ……」
八幡「ちょっと? 誤解を招くようなこと言わないでもらえます?」
雪乃「比企谷くん……?」
八幡「無い無い。何もねぇから」
陽乃「あんな熱い夜を二人一緒に過ごしたのに……」
八幡「ただの晩酌ですよねそれ。その時雪ノ下も普通にいたし」
陽乃「細かいことはいいの。ほらほら、お姉さんがこんなにも誘惑してるのに~」ムニッ
八幡「……ちょ」
陽乃「実際抱きつかれた時の感触は圧倒的に私の方が良いでしょ?」
八幡「どんどん畳み掛けてくるなこの人……。それはノーコメントで」
陽乃「ノーコメントねぇ……。だってさ、雪乃ちゃん」
雪乃「………」
陽乃「ほら、おいで八幡。お姉さんがたくさんギューってしてあげよう」
八幡「……結構です。おいでってあんたずっと俺にくっ付いてるじゃないですか……」
陽乃「あ、そうだった。じゃあお姉さんからもーっと抱きついちゃお」
雪乃「だ、だめっ!」ギュッ
八幡「ぐぇっ!? ちょ……雪ノ下?」
雪乃「比企谷くんは私のものなの。だからいくら姉さんだろうと彼とイチャつかないで!」
陽乃「……ふぅん。雪乃ちゃんもすっかり乙女だねぇ」
雪乃「………」
八幡「……雪ノ下」
陽乃「ほんと雪乃ちゃんは八幡が大好きなんだね。八幡は?」
八幡「はい?」
陽乃「八幡はどう?」
八幡「どうって、そりゃ好きですよ」
陽乃「どれくらい? 世界で一番~みたいな嘘くさいのは無しだよ」
八幡「……雪ノ下しか、雪乃しか見えないくらい、ですかね」
陽乃「そっかそっか」
雪乃「………」カアア
陽乃「そうやって真剣な顔で恥ずかしいこと言われちゃうと比企谷くんのこと諦めるしかなくなるなー」
八幡「別に俺のことなんて狙ってないでしょう……」
陽乃「狙ってた時もあったけどねー」
八幡「……え」
雪乃「……私は、何となく気づいてたわ」
陽乃「ありゃ、雪乃ちゃんにはお見通しだった? 私の周りって比企谷くんばりの面白い子が全然いなくてさー」
八幡「面白いって何だよ……」
陽乃「からかい甲斐があるってこと。比企谷くんを弄ってる時の雪乃ちゃんの反応も可愛いし」
雪乃「………」
陽乃「それで比企谷くんをからかいたいなーって気持ちが会いたいなーって気持ちになって、最終的に好きになっちゃった」
八幡「ずいぶんと斬新な気持ちの変化ですね……」
陽乃「あ、でもこれは比企谷くんと雪乃ちゃんがまだ付き合ってない頃の私だからね。今は違うから真に受けて私を好きにならないでよ?」
八幡「なりませんよ……」
陽乃「えー? それはそれでつまんなーい。比企谷くんを盗られた雪乃ちゃんとか見てみたかったのに」
雪乃「……冗談はやめてちょうだい」
陽乃「いつまでも呑気にしてると比企谷くん盗っちゃうよ?」
雪乃「そんなことしたら絶対に許さないから」
八幡「いや、まずあり得ないから」
陽乃「それはどうかな。私が本気出したらどうなると思う?」
八幡「さあ……。出すつもり無いくせに」
陽乃「まぁねー。あ、雪乃ちゃんと別れたら本気出してみるかもよ?」
八幡「じゃあ本気出す機会は一生来なさそうですね」
雪乃(そ、それはそういう意味に捉えてもいいのかしら……)
陽乃「少し見ない間にまた一段と生意気になって……このこのっ」
八幡「ちょ、痛いですって……」
陽乃「よしっ、十分弄ったしそろそろ行こうかな」
八幡「ほんとに弄りに来ただけかよこの人……」
陽乃「そだよー? あ、用事済んだら比企谷くんち泊まりに戻ろっか?」
八幡「勘弁してください……」
陽乃「内心嬉しいくせにー。今回は時間あまりなかったけど、また時間作れたら今度こそ比企谷くんちに遊びに行くからその時はよろしくね」
八幡「マジでか」
陽乃「うん、マジ。それか年末また帰ってくるんでしょ? なら遊びの続きは今度実家でじっくり、ね?」
八幡「……は、はあ」
陽乃「またうちの両親の前でガチガチに緊張する比企谷くんが見れるの期待してるから」
八幡「変な期待しないでくださいよ。あんなの嫌でも緊張しますって……」
陽乃「また去年みたいにフォローしてあげるからだいじょーぶ」
八幡「助かります……」
陽乃「雪乃ちゃんもまたね」
雪乃「次から来る時はちゃんと事前に連絡して。それか二度と来ないで」
陽乃「は~い。あ……比企谷くんね、八幡って呼ぶと耳赤くなるんだよ? 彼女なら彼のこと、ちゃんと見てあげること。いいね」ボソッ
雪乃「……そ、そのつもりよ」
八幡「……?」
雪乃「それと今年の夏は実家には帰らないからそのつもりで」
陽乃「そっ。でも年末は帰って来なさいね。お母さんたちうるさいから」
雪乃「ええ……」
陽乃「それじゃ行くね。また来るからね~!」
八幡「荒らすだけ荒らして帰っていったな……。まさに嵐だ」
雪乃「……まったくね」
八幡「ところで」
雪乃「?」
八幡「いつまで抱きついてんの」
雪乃「姉さんの匂いが取れるまで」
八幡「お、おお」
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「………」ギュー
八幡「………」
雪乃「……やっぱり姉さんに抱き着かれた方がいいの?」
八幡「は? んなわけないだろ」
雪乃「なら、なぜ私の方がいいってさっき言ってくれなかったの?」
八幡「あの状況でそれ言ってみろよ……。あの人雪ノ下に負けたりするとすぐムキになるから絶対飛び掛かってくるぞ……」
雪乃「……何となく想像つくわね」
八幡「だろ? だからノーコメント。実際は雪ノ下の方が何倍も良い」
雪乃「でもその私……胸がないから抱き着いても柔らかくないわよ?」
八幡「何その柔らかくないと駄目っていう前提……。てか十分すぎるほど柔らかいっつーの。柔らかい=胸と思ったら大間違いだぞ」
雪乃「……そうなの?」
八幡「ああ。あっちこっち柔らかいし、ぶっちゃけ俺は女性の胸より太ももとかの方が好きだしな」
雪乃「ちょ、ちょっと変なところ触らないで」
八幡「あ、悪い」
雪乃「あ、その、べ、別に嫌ではないのだけれど」
八幡「おぉ……」
雪乃「……ねぇ、ひき…………」
八幡「ん?」
雪乃「は……」
雪乃「…………はち、まん」
雪乃「……八幡」
八幡「お、おおおう」
雪乃「ねぇ、八幡」
八幡「な、なんだ? ……雪乃」
雪乃「……キスして」
八幡「…………」
雪乃「ん……っ。八幡、もう一度」
八幡「おう……」
雪乃「…………っ。あ、あの……」
八幡「?」
雪乃「な、名前で呼ぶのはまだ恥ずかしいから、も、もうしばらくは比企谷くんでもいい……?」
八幡「い、いいけど」
雪乃「慣れてきたらちゃんと名前で呼ぶから、それまでは今まで通り……」
八幡「わかった。ちなみに俺は今からでも雪乃って呼べるぞ?」
雪乃「そ、それは嬉しいけれど、私だけ苗字で呼ぶと負けた気がしてならないからそれは私が慣れるまで待って」
八幡「なんだよその理由」
雪乃「なんだっていいでしょう。まだ名前で呼ぶのは恥ずかしいの。悪い?」
八幡「開き直んなよ……。じゃあ慣れるまでってことで、最後にもう一回だけ呼んでくれないか?」
雪乃「……は、八幡」
八幡「最後の最後にもう一回」
雪乃「……八幡」
八幡「………」
雪乃「……?」
八幡「………」
雪乃「……八幡?」
八幡「あ、ああ悪い、もう十回だけ」
雪乃「八幡八幡八幡八幡はち……ちょっと何回言わせるつもり?」
八幡「雪乃が慣れるまで」
雪乃「…………紅茶、おかわり入れてくるわね」
八幡「あ、こら逃げんな」
雪乃「………」
雪乃(はちまん……ハチマン…………八幡)
雪乃「……ふふふっ」
八幡(あいつ何にやにやしてんだ……?)
雪乃「………」
八幡「………」ペラッ
雪乃「一つ聞いてもいい?」
八幡「ん、どした?」
雪乃「比企谷くんっていつも同じ服を着ているわよね」
八幡「あー、同じっていうかあれだ。同じ柄の服を交互に来てる感じだな」
雪乃「私服は二着しかないってこと?」
八幡「そうなるな。寝巻きを合わせると三着。残りは全部実家に置いてある」
雪乃「なら今日は日曜日で折角のお休みなのだし服でも買いに行きましょう」
八幡「えっ、いきなり? 別に良くない? 二着でも普通に足りてるし。雨振ったらたまにきついけど」
雪乃「私が嫌なの。毎日毎日色が違うだけの同じ服を見ているこっちの身にもなりなさい」
八幡「……なんか悪いのか?」
雪乃「色々悪いわよ」
八幡「例えば?」
雪乃「気持ち悪いとか」
八幡「お、おう……。他は?」
雪乃「不潔」
八幡「ちゃんと洗濯してますけどね?」
雪乃「後は……そうね、気持ち悪いとか」
八幡「それさっき言ったぞ……。そんなに大事なことなの?」
雪乃「とにかく、ちょうど今日は日曜でお互いアルバイトも入っていないのだから買い物に行きましょう」
八幡「マジで? 休日に外に出るとかだるいんだが」
雪乃「休日だからこそ外に出るんじゃない」
八幡「いいや、逆だろ。休みってのは人が木に寄り添うで休って書くだろ? つまりそれは状況で言うと人が木に寄り掛かってやすんでいるわけだ」
八幡「つまり休日って字は意味だけで捉えると、木に寄り掛かりその日をじっと過ごす……とならないか?一見すると外に出て休むと言うことになるが、この字が生まれた時代と今の時代は比べてみると今の時代ってかなり便利で快適な時代になったよな? 昔の人も本当は家でまったり過ごしたかったんだ。しかし、当時の人々にはゲームや本、エアコンやベッドにソファーのようなリラックスできる物が何も無かった。じゃあどうするか。家でリラックスして休めないとなると嫌々……そう嫌々、渋々、無精無精に外へ出て体をやすませる場所を探すことになる。その結果出来た漢字が休むなんだ。ちなみに木ってのはたまたまそいつがリラックスできると思ったのが木だっただけで、もしかしたら木じゃなくて川とか岩だったかもしれない。で、今はどうだ? 人にもよるが当時と比べて今の暮らしはゲームや本もあればベッドや布団にエアコンソファー、何ならアロマや酒、たばこだってある。実際のところ人間が最も落ち着ける場所……それは家だ。もっと言うならトイレ。だから休って字は本来なら人偏に家か人偏にトイレって書くべきなんだよ。要するに休日っていうのはそんな休の字に太陽が出ている間を指す日の字を混ぜているわけだから、そいつ自身が最も休める場所で一日を過ごすのが休日における最も正しい過ごし方と言える。俺にとっての最も休める場所はもちろん家だ。よって、休日に外へ出ることはおかしい。Q.E.D.――証明終了」
雪乃「………」ペラッ
八幡「………」
雪乃「……あら、終わった? 屁理屈があまりに長すぎて途中から聞いていなかったのだけれど」
八幡「おい」
雪乃「次は要約してもう一度始めから言ってもらえる?」
八幡「もういい……。今日はずっと寝て過ごしちゃうんだからね……」
雪乃「買い物には行かないってこと?」
八幡「また今度にしようぜ。今日はあまり気が乗らん」
雪乃「デートしてくれないの?」
八幡「……ぐっ。その言い方だと行きたくなっちゃう不思議……」
雪乃「……デート」
八幡「い、いや、また今度だ。また今度」
雪乃「……八幡」ギュッ
八幡「………」
雪乃「……行こ?」
八幡「オーケー、行こう。すぐ行こう」
雪乃「無理しなくていいのよ? さっきまであんなに嫌がっていたのに」
八幡「全然嫌がってねーし! それにしてもさすがデレのんだな……。袖つまんで上目遣いにそう言われたら嫌でも断れねぇよ」
雪乃「そ、そのデレのんと言うのやめてもらえるかしら?」
八幡「まぁそう照れんなって。すぐ準備するから待ってろ」ポン
雪乃「……もぉ」
雪乃(一色さんには今度お礼を言っておかないと……)
八幡「そんで、服を買うと言ってもどこに行くんだ? ここ千葉じゃないし俺あんまそういう店知らんぞ」
雪乃「二年以上ここで暮らしているのだからある程度はわかっていてもおかしくないと思うのだけれど……」
八幡「一人じゃ滅多に家出ないからな。あ、スーパーとコンビニとアニメイトなら知ってるぞ」
雪乃「……これからも定期的に外に連れ出したほうが良さそうね」
八幡「そうしてくれ……」
雪乃「ちなみに今日行くところは電車で二駅ほど乗った先にあるショッピングモールよ」
八幡「ほー、全くわからん。前にも行ったことあるのか?」
雪乃「一色さんと何度か来たことがあるの」
八幡「は? 一色と?」
雪乃「ええ。一色さんとアルバイト先一緒なんでしょう?」
八幡「まぁな」
雪乃「これでも私、一色さんとはよく連絡をとったりするのよ? アルバイト以外での比企谷くんのことをよく聞かれるわ」
八幡「それあいつにはなんて言ってるんだ……?」
雪乃「高校の頃からさほど変わってない、とかかしら」
八幡「的確だな。むしろ全く変わってないんじゃないか」
雪乃「そうかしら。あなたも多少は変わっていると思うけれど」
八幡「ほう。どのへんが……?」
雪乃「そうね……。目が以前より澄んで格好良くなった、とか」
八幡「そそそうなんですか?」
雪乃「ええ、私が知る異性の中では断トツで格好良いと思うわ」
八幡「………」
雪乃「あら、顔が赤いけれど……照れてるの?」
八幡「照れてない。照れてないから……」
雪乃「私には素直に気持ちを伝えてくれるくせに自分のことに関しては素直じゃないんだから」
八幡「これでもだいぶ素直になってるつもりなんだけどな……」
雪乃「私にはそうは見えないわね。それはそうとそろそろ行きましょう? はいっ」スッ
八幡「おう……って何その手。お小遣い欲しいの?」
雪乃「そんなわけないでしょう……。手、繋いでくれないの?」
八幡「えっ、いや……人前でそういうのはやっぱ恥ずかしいし俺にはまだ早いというか」
雪乃「私は別に気にしないのだけれど……。なら――」
八幡「ぅおっ」
雪乃「腕を組むくらいならいいわよね?」
八幡「腕組むくらいってお前……これ手繋ぐよりも恥ずかしいんだけど」
雪乃「そのようね。あなた、さっきよりも顔が真っ赤だもの」
八幡「ばっ、おまこっち見んな。あとニヤニヤすんなっての……」
雪乃「ふふっ、あなたも可愛いところがあるのね」
八幡「うっせ。……デレのんめ」
雪乃「だからその呼び方はやめて」
雪乃「着いたわ。ここよ」
八幡「ほぉー、結構でかいな」
雪乃「私たちがここに住む前に一度改装されて大きくなったそうよ」
八幡「へぇ。これだと色々見て周れそうだな」
雪乃「どこから周る?」
八幡「そうだなー。俺は三階から順に見て周るから雪ノ下は一階からで、最終的に二階で集合って感じでいいか?」
雪乃「………」
八幡「え、なにその目……」
雪乃「あなた、それ本気で言っているの?」
八幡「え……。わりとガチ……」
雪乃「はぁ……あのね比企谷くん。これはデートなの」
八幡「そ、そうですね」
雪乃「デートにまで効率を求めてくるなんて……雪乃的にポイント低いわよ?」
八幡「何だよそのポイント……全力でカンストさせたくなっちゃうだろうが」
雪乃「逆に聞くけれど、あなたはそれでいいの?」
八幡「まぁ、二階は一緒に回れるし」
雪乃「私は最初から比企谷くんといたいの。だからその案は却下よ」
八幡「いやでもそれだと結構時間掛かっちゃうぞ? 一人だとサクサク見れるし、その分帰りも遅くならないわけで……」
雪乃「別に今日は比企谷くんの家に泊まる予定だから何時になろうと構わないわ」
八幡「あ、俺んち泊まる気なのね。別にいいけどお前、最近よく俺んち泊まりたがるよな」
雪乃「あら、悪い?」
八幡「いいやむしろ大歓迎だ。んじゃ、そこら辺から適当に見て行くか」
雪乃「ええ」
雪乃「見て比企谷くん。こっちにいるのがアメリカンショートヘアであちらで寝ているのがラグドールと言って……」
八幡「なあ。服を見に来たんじゃなかったの?」
雪乃「服は最後に見ましょう。こういった商業施設に来たからにはまず先にペットショップをチェックしておかないと」
八幡「何その使命感……。素直に猫見たいって言ってくれれば大丈夫だからね?」
雪乃「………」フイッ
八幡「お? そこの猫なんか他よりやけに耳が短くないか?」
雪乃「スコティッシュフォールドね。あれは耳が垂れているのよ。スコットランドで発見された突然変異の猫の個体から発生したらしく、その折れ曲がった独特の耳が特徴なのよ。ちなみに日本で今一番人気のある品種だそうよ。でも私としてはその垂れた耳も可愛いけれど人懐っこいとされているブリティッシュショートヘアや、猫のダックスフントと言われ歩く姿が愛らしいマンチカンも捨てがたいわね。ちなみにあなたを猫に例えるとするのなら、そこの一番奥にいる青っぽい毛が特徴のロシアンブルーかしら。ロシアンブルーは物静かで内気な上に警戒心が強いから、彼なら比企谷くんと気が合いそうね」
八幡「お、おう。さすがユキペディアさん……」
雪乃「デレのんもだけど、そのユキペディアと呼ぶのやめてもらえるかしら」
八幡「じゃあ、ゆきにゃん?」
雪乃「そ、それはもっとやめて……」カアア
八幡「にしてもほんっと猫好きだな」
雪乃「……だって可愛いんだもの」
八幡「おまかわ……間違えた、我が家も猫飼ってるし俺もどっちかと言えば猫好きの部類に入るのかね」
雪乃「でもあなた、カマクラさんにだいぶ舐められてるわよね。世間からも舐められているようなものだし、いよいよね」
八幡「一言余計な上に何だよいよいよって。なんか死んじゃうみたいだろうが」
雪乃「ごめんなさい、それもそうね……。お疲れ様」
八幡「ちょっとー? 訂正するのかと思いきやあっさり送り出そうとしないでもらえる?」
雪乃「静かに。今そちらの子猫が小声で鳴いているの。聞こえないから黙って」
八幡「先に言ってきたのそっちなのに……。あ、そこの猫いいな。茶色いやつ」
雪乃「ソマリね。比企谷くんとは真逆で人懐っこいのが特徴よ」
八幡「へぇ」
雪乃「ソマリみたいな猫が好きなの?」
八幡「どっちかと言えば好みだな。カマクラみたいな猫もいいけどソマリの方が見た目的には好きかもしれん」
雪乃「そうなの?」
八幡「何て言えばいいんだろうな。ソマリのあの首下辺りの毛がファサッてなってるのがいいよな。可愛くないか?」
雪乃「……可愛い?」
八幡「ああ。あとソマリって名前もなんか可愛いくない? 呼びやすいし」
雪乃「………」
八幡「ここの猫コーナーの中では一番ソマリが好きだな。何だっけあの、し、シコ、シコティッシュフィールド?」
雪乃「スコティッシュフォールドよ。間違えないで」
八幡「うい……。とにかくそれよりも俺はソマリの方がいいな。ほら見ろよ雪ノ下、ショーケースに手当てたらガラス越しにハイタッチしてくれるぞ」
雪乃「そう……」
八幡「こいつ可愛いな」
雪乃「………」
八幡「いつかソマリ飼おうぜ」
雪乃「……だめ」
八幡「えっ」
雪乃「ソマリはだめ」
八幡「ええ……。ソマリ嫌なのか?」
雪乃「嫌というわけではないわ。嫌ではないけれど……とにかくだめなの」
八幡「いやなんで……」
雪乃「ほら、猫はもう十分堪能したしそろそろ行きましょう」
八幡「おっ、珍しいな。猫見ててお前から移動しようって言うなんて」
雪乃「……今日は猫目当てじゃないからよ」
八幡「いや、お前猫目当てじゃなくてもいっつも最低1時間くらい――」
雪乃「いいから行くわよ比企谷くん」
八幡「も、もう少し待ってくれ。こいつずっと俺のこと見てるけどもしかして俺に飼われたいんじゃね?」
雪乃「そんなお金も余裕も無いでしょう。いいから行くわよ」グイッ
八幡「ああ、待……ソマリー!」
八幡「なぁ」
雪乃「………」
八幡「雪ノ下」
雪乃「………」
八幡「雪ノ下さーん」
雪乃「……何?」
八幡「いや、何ってお前、なんで怒ってんの?」
雪乃「怒ってなんかいないわよ」
八幡「ならなんで拗ねてんの?」
雪乃「……拗ねてなんかいないわよ」
八幡「……もしかして猫に嫉妬した?」
雪乃「……ふんっ」
八幡「あの、言わずもがな雪ノ下さんの方が可愛いからね?」
雪乃「どうかしらね。猫にあんなデレデレしておいてよく言うわ」
八幡「お前それ、よく自分のこと棚に上げて言えたな……」
雪乃「………」
雪乃「……そもそもあなたは彼女が目の前にいるにも関わらず他の女性を可愛いと言ったのよ?」
八幡「他の女ってお前、猫だぞ? 確かにあの猫は雌だったけど」
雪乃「だから何?」
八幡「え、えーと……」
雪乃「可愛いは……私にだけ言ってくれないと嫌なの」
八幡「はぁ……ほんっと可愛いなお前」
雪乃「………うるさい」
八幡「ほら、何て言うの。動物に対する可愛いと人に対する可愛いって意味が違うっていうか」
雪乃「私はどちらも一緒だと思うけれど、どう違うの?」
八幡「あれだ、好きか愛してるかの違いだな」
雪乃「比企谷くんがそんなセリフを言うとなんだか気持ち悪いわね」
八幡「こいつ……。人が折角恥ずかしいのを我慢して言ったってのに……」
雪乃「では聞くけど、私と猫、どちらが愛している方なのかしら」
八幡「言わなくてもわかるだろ……」
雪乃「言ってくれなきゃわからないことだってあるわ」
八幡「……手、繋ぐか?」
雪乃「意気地なし」ギュッ
八幡「……ほっとけ」
雪乃「放っておけないわよ。私は八幡を愛しているんだもの」
八幡「こ、こういう時だけ名前で呼ぶなっての……。いいから行こうぜ」
雪乃「ふふっ、今日の比企谷くんは照れてばかりね」
八幡「………」
雪乃「……ふむ」
八幡「………」
雪乃「……こっちが良いかしら」
八幡「………」
雪乃「……それともこっち?」
八幡「……あのー」
雪乃「なに?」
八幡「真剣に俺の服選んでくれるのは嬉しいんだけど、安いやつでいいからね?」
雪乃「せっかくこういった店に来たのよ? ちゃんとした服を着てほしいじゃない」
八幡「買うのは結局俺なんだし高いのは困るんだけど」
雪乃「何を言っているの? 服は私が買うわ。そもそも服を買おうと誘ったのは私なのだし」
八幡「いやいや、自分の物は自分で買うから」
雪乃「たまにはこういったプレゼントがあってもいいでしょう?」
八幡「そうは言ってもだな」
雪乃「……まったく。私たち付き合いだして何回こんなやりとりをしてきたのかしら」
八幡「言い出したらお互い譲らないもんな」
雪乃「そうね」クスッ
八幡「ならこうするか。今日は俺も雪ノ下の欲しいものを買う。これで良いだろ」
雪乃「……なら比企谷くんには私に着て欲しい服を選んで買ってもらおうかしら」
八幡「まじ? 俺のセンス舐めんなよ。ひどいから」
雪乃「あなたが選んだ物なら何でもいいわ」
八幡「ん? 今何でもって」
雪乃「そっち系のはダメよ。絶対に」
雪乃「さて、次は比企谷くんが私の服を選ぶ番ね」
八幡「それって服限定?」
雪乃「別に服じゃなくてもいいけれど、できれば洋服がいいわね」
八幡「あいよ。まずは無傷でブティックに入るとこからだ」
雪乃「別に私と入るのだからそこまで気を引き締めなくてもいいと思うのだけれど……」
八幡「俺がああいう店入ると大体周りのからの視線がやばいんだよ。入ると同時に店員の警戒レベルマックスだぞ」
雪乃「他にもカップルで入店している人はいるし、私が傍にいれば大丈夫よ。ほら、あそこのお店に入りましょう」
八幡「ああ、心の準備が……」
店員「いらっしゃいませー」ニコッ
八幡「…………と思ったけどあっさり入れたな」
雪乃「だから言ったじゃない。この男はお店に入るだけで何をそこまで怯えているのかしら」
八幡「俺ぐらいになると店に入る直前でわかるんだよ。女性店員がATフィールド全開にして待ち構えてるってな」
雪乃「大した被害妄想ね。まぁ、私ならあなたみたいな怪しい人間は絶対に入店させないけど」
八幡「お、おう。てっきり慰めてくれるのかと思ったぜ……」
雪乃「どちらにせよ、こうして私と入れているのだから何だっていいじゃない」
八幡「だな。じゃ、似合いそうな服探してくか」
雪乃「比企谷くんは私にどんな服着て欲しいとかあるの?」
八幡「そうだなー。実際何着ても似合ってるからどんなのって聞かれてもなぁ」
雪乃「そ、そう?」
八幡「そういえば雪ノ下って大学に入ってからあんま足出さなくなったよな。といっても今日はワンピースだけど」
雪乃「え?」
八幡「出さないって言うかあれだ。大学でもスカートとかワンピースあんまり穿いて来ないよな。丈の長いスカートなら穿いてるけど」
雪乃「……何気によく見ているのね」
八幡「まぁな。なんならじっくり見てるまである」
雪乃「何よそれ彼氏と言えど舐めまわすように見られるとさすがに気持ち悪くて無理だからごめんなさい、一度死んでまた出直して来てもらえるかしら」
八幡「お前は一色かよ。しかも一色より棘あるし……」
雪乃「……でも、そうね。あまり肌は出さないようには意識しているわ」
八幡「ほう。なんで?」
雪乃「何というかその、大学内と言えど比企谷くん以外の男にあまり足とか見られたくないし……」
八幡「ゆきのん!」
雪乃「ちょ、ちょっと、店内で由比ヶ浜さんと同じノリで話しかけてこないで。かなり気持ち悪いから」
八幡「ひでぇ……。でもデレのん見てたらつい」
雪乃「だからその呼び方は……。はぁ、とにかくそういうのは家に帰ってからにして」
八幡「帰ってからなら良いのかよ」
雪乃「……そ、それで、私に似合いそうな洋服は見つけてくれた?」
八幡「あー、それなんだがな。とりあえずこれとこれとこれに、後これを付けてこれを履いてみてくれ」
雪乃「ぜ、全身をコーディネートしてくれるのね」
八幡「良い機会だしな。妥協はしない」
雪乃「なら、ちょっと試着してみるわ」
八幡「おう」
雪乃「覗かないでね?」
八幡「むしろこんな店内で覗けねぇよ」
雪乃「………」ゴソゴソ
八幡(女子が着替える時の衣擦れの音は最高にエロいと思います。衣擦れ.mp3とか誰か作ってないかな。なんなら衣擦れ.mp4でも可)
八幡(あと試着室の前にいると女性店員からの視線が気になるから早くしてほしい……)
雪乃「着替えてみたわ。……ど、どう?」
八幡「おお……」
雪乃「普段ミニスカートなんて好んで穿かないから……は、恥ずかしいのだけれど」
八幡「すす、すごく良いと思いますよ? 僕としてはかなりグッと来てますねぇ、はい。でも靴がちょっと違うな」
雪乃「そう?」
八幡「ちょっと待ってろ。他の靴取ってくる」
雪乃「………」
雪乃(正直比企谷くんは面倒臭がると思っていたけど、まさかここまで真剣に色々選んでくれるとは思ってもみなかったわ……)
八幡「別の持ってきた。こっちの靴に履き替えてみてくれ」
雪乃「え、ええ。なら」
八幡「…………ちょ、あの」
雪乃「?」
八幡「今ほら、雪ノ下ミニスカだしそうやって丈長スカートと同じノリでしゃがむと見え……」
雪乃「……っ!? ご、ごめんなさい迂闊だったわ」カアア
八幡「い、いや別に」
雪乃「……そ、それでどう? さっきと比べて」
八幡「良いんじゃないか? その靴ならお前の持ってる紺の丈長スカートにも合いそうだしな」
雪乃「ロングスカートね」クスッ
八幡「どっちも一緒だろ……。俺としてはかなり真面目に選んだつもりだが、どうだ? 気に入ってくれたなら、プレゼントしようかと」
雪乃「ここまで真面目に選んでくれるとは思ってなかったわ」
八幡「たまにはいいだろ」
雪乃「たまには、ね。比企谷くんが選んでくれたんだもの。気に入らないはずがないわ」
八幡「そ、そうか? なら、それでいいか?」
雪乃「これ全部? 洋服だけじゃなくて靴やアクセサリもあるけれど」
八幡「そうだな。まぁ、いいだろ」
雪乃「私はあなたに洋服しか買っていないのだけれど……さすがに悪いわ」
八幡「別にいい。先週給料入ったばっかだし」
雪乃「……けど」
八幡「またこんなことで言い合うつもりか? 俺がこんなことするの年に一度あるかないかだし、今日くらいは格好付けさせてくれ」
雪乃「さすがにそれはそれでどうかと思うのだけれど……。せめて月に一度にして欲しいわね」
八幡「それは今の俺にはまだきついな」
雪乃「ならいつ頃になるのかしら」
八幡「さぁな。秘密だ秘密」
雪乃「……ふふっ」
八幡「んだよ」
雪乃「いえ、何でもないわ。今日はお言葉に甘えるわね。ありがとう、比企谷くん」
八幡「おうよ」
雪乃「年に一度だろうと、次は比企谷くんからデートに誘ってね?」
八幡「……任せろ」
八幡「来週の期末乗り切ればようやく夏休みだな」
雪乃「試験は大丈夫そう?」
八幡「これといった問題はないな。答案用紙に名前書き忘れない限り多分余裕だ」
雪乃「なら大丈夫そうね」
八幡「これでも一応やることはしっかりやってるしな。お前の方は……心配ないな」
雪乃「当然よ。それに仮に単位をいくつか落としたとしても進級するために必要な単位は十分あると思うから問題無いわ」
八幡「まぁ、進級に関しては後期もあるしお互い余裕だろ」
雪乃「比企谷くんも余裕なの?」
八幡「余裕のよっちゃんだ」
雪乃「古い」
八幡「」
雪乃「ところで夏休みは何か予定はある?」
八幡「いや、特に考えてないぞ。お盆に一度実家に帰るかどうか考えてるけど」
雪乃「そう。去年の夏休みはあなたほとんど家に籠っていたわよね」
八幡「暑くて色々だるいしな。気晴らしに海誘ってもお前行こうとしねーし」
雪乃「………」
八幡「とは言え俺もあんな熱くて人の多い場所あまり行きたくないんだけどな」
雪乃「ならどうして去年は海に行きたがっていたの?」
八幡「あー……まぁ、正直に言うと雪ノ下の水着が見たかっただけだ」
雪乃「……水着」
八幡「そう、水着」
雪乃「し、下着なら……」
八幡「え、何その軽い痴女発言。ビッチになっちゃったのかと思ったぞ」
雪乃「水着はちょっと……。あとビッチはやめて」
八幡「あはい。つーか逆じゃね? 普通は水着なら見せてもいいけど下着は見せたくない、だろ」
雪乃「水着はその……比企谷くんにだけなら別に着てみてもいいのだけれど、海のような人が多い場所は……」
八幡「ああ、そういうこと。やっぱ人目が気になるのか?」
雪乃「それもあるけれど……」
八幡「?」
雪乃「私が水着姿になったとして、あなた絶対私以外の女に目を向けるから」
八幡「えー何その言いがかり……」
雪乃「言いがかりなんかじゃないわ。絶対そうなるに決まっているんだもの」
八幡「いや、絶対しないから」
雪乃「いいえ。絶対にするわ」
八幡「その心は?」
雪乃「……私よりも胸の大きい子がいたら、そちらを見るでしょう?」
八幡「………」
雪乃「例えば私と由比ヶ浜さんがお互い水着姿であなたの前に立つとしましょう。あなたはどちらのどの部分を見るの?」
八幡「………」
雪乃「ほら、答えて?」
八幡「……えーと」
雪乃「………」
八幡「……由比ヶ浜さんの胸、かもしれません」
雪乃「……ふん」フイッ
八幡「こればっかりはほぼ無意識だし男の性だから許してくれよ……」
雪乃「別に私は水着姿になるのが嫌なわけじゃないわよ? 他の女性がたくさんいる場所で水着姿になるのが嫌なの。負けた気になるから」
八幡「何だよその自虐っぷり……。前も言った気がするがお前が思ってるほどぺったんこじゃないぞ?」
雪乃「……ぺったんこ」
八幡「大丈夫。お前が思ってる以上にそのー、ほら、何て言うか女の子としての膨らみ? ボディーライン? はあるから自信持て」
雪乃「もしあなたが本当にそう思ってくれているとして、すると今度はあなた以外の男に私の水着姿を見られるのが嫌になるわね……」
八幡「それ俺のセリフな。ていうかお前ただ単に人混みが嫌だから海行きたくないだけだろ」
雪乃「……大雑把にまとめるならそうなるわね」
八幡「細かくまとめてそうなるんだけどな。まぁ、海はいつか気が向いたら行ってみようぜ。あ、プールでもいいぞ」
雪乃「そうね……。一度はあなたと海かプールには行ってみたいわね」
八幡「就職したらそんな暇なさそうだし今の内に行っておきたいな」
雪乃「就職……くふふっ」
八幡「ちょっと? 俺が就職関連のこと口にするたびに笑うのやめてもらえる?」
雪乃「ごめんなさい。どうしても専業主夫がなんだと言っていた頃の比企谷くんを思い出してしまって……ふふふっ」
八幡「今となっては立派な黒歴史の一部なんだから掘り起こすんじゃねぇよ……」
雪乃「別に私が養ってあげてもいいのよ?」
八幡「冗談よせよ。雪ノ下の両親にちゃんと認めてもらえるまでは社畜だろうが喜んで働いてやるわ」
雪乃「……そう。ちゃんと、考えてくれているのね」
八幡「ったり前だ。今はまだちゃんと言えないけど、それでも、俺はお前とずっと一緒にいたいと思ってる」
雪乃「私だって」ギュッ
八幡「………」
雪乃「ちゃんと言ってくれてもいいのに……」
八幡「それはまだ就職すら決まってない学生が言うにはあまりに無責任だろ」
雪乃「そうかしら。私は、こうして先のことまで考えてくれているだけ十分なのだけれど」
八幡「お前は良くても俺が納得できないからなぁ……。仮に言ったとして、その後の雪ノ下家の反応が怖い」
雪乃「たしかに姉さんたちが何て言うのか少しだけ気になるわね」
八幡「だよな……。 だからちゃんとお前を養っていけるようになるまでは、その言葉は待ってほしい」
雪乃「なら、待ってる」
八幡「でもなー……。正直なとこ就職したらお前の方が余裕で収入多くなりそうで何とも言えない」
雪乃「どうかしらね。母さんたちには言っていないけれど……私、こう見えて主婦希望なのよ?」
八幡「は……マジで? それ親が黙っちゃいないだろ……」
雪乃「でしょうね。一応大学卒業後は就職するつもりだけれど、いつまでも働くつもりはないわ」
八幡「……そんじゃますます頑張らないとな」
雪乃「私が見込んで惚れた男なのだから、きっと大丈夫」
八幡「プレッシャー掛けるのやめてくれよ……」
雪乃「私が傍にいるから心配しなくてもいいってことよ」
八幡「……そりゃ俺のセリフでもあるな」
八幡「話が逸れたけど、夏休みは今のところ何の予定もないな」
雪乃「そうなのね」
八幡「雪ノ下は何か予定あるのか? 陽乃さんが家に来た時に夏は帰らないって言ってたよな」
雪乃「あれは特に理由なんてないわ。毎年年末は嫌でも家に帰るよう言われるから夏休みくらいは自由に過ごしたいじゃない?」
八幡「ああ、そういうこと」
八幡「そうだなー……じゃあ、盆に二人で俺んち帰らないか?」
雪乃「カマクラさんちに?」
八幡「ちげーよ。比企谷さんちだよ。なんで比企谷家が猫に侵略されてんだよ」
雪乃「カマクラさん、今も元気にしているからつい……」
八幡「ああそうか。小町に定期的にカマクラの写真撮って送ってもらってるんだったな」
雪乃「ええ。もう200枚以上になるかしら」
八幡「多いなおい……。まぁ、比企谷家の誰よりも溺愛してるもんな……」
八幡「ちなみに目的はカマクラじゃなくて、単に去年は一度も家に帰らなかったせいか母ちゃんと小町が帰って来いってうるさくてな……」
雪乃「そうなの? ごめんなさいね……年末は毎年私の家に付き添ってもらって」
八幡「行きたくて行ってんだから気にすんな。……怖いけどな」
雪乃「毎年年末になるとあなた子犬みたいになるわよね」
八幡「お前んとこの母ちゃんにまだ慣れる気がしないんだよ……」
雪乃「私たちの交際を認めてくれているのだから、あちらは比企谷くんのことを多少は認めていると思うのだけれど」
八幡「……だと良いんだけどな」
雪乃「それに比べてあなたのお家は本当に居心地がいいわよね……」
八幡「まぁ雪ノ下家に比べるとだいぶ緩いわな」
雪乃「カマクラさんもいるしね。だから、あなたが帰るのなら私も比企谷くんの実家にお邪魔させてもらおうかしら」
八幡「おう。二人で帰るのは一昨年の夏以来だよな」
雪乃「ええ。去年は私一人が千葉へ帰って由比ヶ浜さんのおうちに泊めてもらったから」
八幡「そうだったな。でもなー……お前と帰ると母ちゃんが大喜びするから超恥ずいんだよなー……」
八幡「一昨年のメールなんて『あんた夏に帰ってこれないの?』だったのに、去年届いたメールは『雪乃さん夏に帰ってこれないの?』だったしな……」
雪乃「それは……」
八幡「……いいんだ。慣れたから」
雪乃「……そ、それでは今年のお盆は比企谷くんちに一緒に帰るってことでいいのかしら?」
八幡「ああ、それで頼む」
雪乃「わかったわ。なら早いうちに買いに行っておかないとね」
八幡「何を?」
雪乃「カマクラさんへのお土産」
八幡「いらんわ」
講師「――そこまで。ペンを置いて解答用紙を裏向きにし、静かに退室してください」
戸部「っべーわぁああ! マークシート途中からずれてたわぁあああ! 時よ戻れぇええええ!」
講師「そこうるさい! カンニング扱いにするぞ!」
戸部「」
八幡(ふー。期末試験も難なく終わってようやく夏休みか)
八幡(大学に入って良かったと思うことランキング一位に輝くほど大学生の夏休みというものは長い)
八幡(課題も無いし、実家暮らしじゃないから家でゴロゴロしてても誰にも文句を言われない素敵で最高な二ヶ月が今、始まる……!)
八幡(ゼミが夏休み中何度かあるらしいが……まあ行かなくていいだろ。ゼミ教授は未だに俺のことヒキタニって言いやがるしな)
八幡(雪ノ下とはここで待ち合わせをしてたけどあいつの方はまだ試験中か……?)
八幡(……あ、いたいた)
雪乃「………」
猫「みゃー」
パシャッ
雪乃「………」
パシャパシャパシャッ
八幡(なんかめっちゃ写真撮ってる……)
雪乃「にゃー?」
猫「みゃー」
雪乃「ふふふ」
八幡「……あのー」
雪乃「」ビクッ
雪乃「ひ、ひきが……誰?」
八幡「いや忘れんなよ。しかも今ほとんど名前呼んでたし……」
雪乃「………………いつからいたの?」
八幡「写真撮りまくってた辺りから」
雪乃「………」カアア
八幡「あー、そいつって確か最近大学内に入り浸ってるって噂の猫か」
雪乃「え、ええ。近寄ったり撫でたりしても逃げないから、皆が可愛がってエサとかをあげている内に住み着いたみたい」
八幡「へぇ……人慣れしてんのな。飼い主いないならもう大学側で飼えばいいのに」
雪乃「変にここへ住まわせるよりはその方がいいわよね」ナデナデ
猫「みゃっ」
八幡「だな。ってか試験も全部終わったし飯食って帰りたいんだけど」
雪乃「待って。さ、最後にもう一枚だけ」
八幡「はいはい」
パシャ
雪乃「…………またね」
猫「みゃー」
八幡「そんな悲痛な面持ちで別れを告げなくても……」
雪乃「夏休み中はもう会えないかもしれないじゃない……」
八幡「……休み中も大学入れるし会いたくなったらまた来ればいいだろ。その時にいるかどうかは知らんが」
雪乃「それもそうね。その時は比企谷くんも一緒に来てね?」
八幡「え……ま、まぁそれは今度気が向いたら行くとして、今日はラーメン食いに行こうぜ」
雪乃「いいけどその前に一つだけいい?」
八幡「あん?」
雪乃「期末試験も終わって夏休みに入ったから、ゼミの先輩が改めて私たち三年の歓迎会をしたいとのことで飲み会に誘われたのだけれど」
八幡「ほー」
雪乃「その、私、行っても大丈夫かしら」
八幡「………」
雪乃「比企谷くん?」
八幡「……ちなみにそれ、野郎はどれくらいいるんだ?」
雪乃「全員参加すると仮定して三年生だけなら6人、四年生も合わせると13人くらいね」
八幡「そうか……。別に俺が決定権持ってるわけじゃないからお前が行きたいなら行ってもいいと思うぞ」
八幡「ただ……」
雪乃「ただ……?」
八幡「酒。これだけは勧められても絶対に飲むなよ? 絶対にな」
雪乃「それはどうして?」
八幡「……お前、覚えてないのか?」
雪乃「?」
八幡「ほら、一色の二十歳の誕生日の時」
雪乃「たしか三人でお酒を飲んだのよね?」
八幡「ああ。その内容、覚えてないのか?」
雪乃「……?」
八幡「多分あの時の雪ノ下を動画に収めていたら立派な黒歴史になってたかもな」
雪乃「そ、それはどういう……」
八幡「あの時は言わない方が良いと思って言わなかったが、俺も一色もあの日は大変だったんだぞ……」
雪乃「わ、私……一体何をしたの?」
八幡「それは――」
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4月16日
いろは「ふいー、先輩お疲れ様でしたー。今日もバイト疲れましたねー」
八幡「おつかれさん。そうだな、さっさと帰ろうぜ」
いろは「…………ですねー」
八幡「あー、いや……」
いろは「どうかしました?」
八幡「この後、何か予定とかあるのか?」
いろは「え……。な、無いです! 今日はもう帰って寝るだけです!」
八幡「そうか。ならその……今日お前の誕生日だからって雪ノ下が俺んちでケーキ焼いて待ってるらしいんだが……どうだ?」
いろは「っ! いい行きます行きますっ! ……わ、わたしの誕生日、覚えててくれたんですね」
八幡「あー、雪ノ下が覚えててケーキ作っとくって言われてな……」
いろは「そこは嘘でも先輩が覚えてることにして欲しかったんですけど……」
八幡「………」
いろは「嬉しいから何でもいいんですけどねー! ほらほら先輩、早くおうち行きましょうよ!」
八幡「あいよ」
八幡「たでーま」
雪乃「おかえりなさい比企谷くん。一色さんも来てくれたのね」
八幡「おう」
いろは「こんばんはー。はい、来ちゃいましたっ!」
雪乃「いらっしゃい一色さん。それとお誕生日おめでとう」
いろは「ありがとうございますー!」
八幡「なんか部屋がすげぇケーキの匂いするな」
いろは「ですねー。なんだか甘い匂いします」
雪乃「ついさっきまでケーキを焼いていたの」
雪乃「あなたがアルバイトに行く直前で急に一色さんの誕生日ケーキを焼いてほしいなんて言うから、何も準備してなくて大変だったのよ?」
八幡「……ちょ、それについては謝るから今それは……」
いろは「あれ……? 先輩、さっき雪ノ下先輩がって……」
八幡「………」
雪乃「……何の話?」
いろは「も、もー! 先輩のこと余計に諦められなくなっちゃうじゃないですかー!」
八幡「ばっ! おまっ、抱き着いてくんな!」
雪乃「…………一色さん?」
いろは「ひっ……ごご、ごめんなさいつい……」
雪乃「はぁ……とりあえず上がって? ケーキの他に料理も色々作ってあるから」
いろは「やった! ではお邪魔しまーす!」
雪乃「ええ、どうぞ。今日はゆっくりしていってね」
八幡「自宅のように言ってるけどここ俺んちだから……」
いろは「ん~、どれもおいし~。雪ノ下先輩ってほんと料理お上手ですよねー」
八幡「だよなー」
雪乃「それはどうもありがとう」
いろは「わたしも一人暮らし初めてそれなりに料理はしてますけど、雪ノ下先輩に勝てる気しないですもん」
雪乃「そんなことないわよ。お菓子作りに関しては私よりも一色さんの方が上手だと思うし」
いろは「ほ、ほんとですか!?」
雪乃「ええ。心からそう思っているわ」
いろは「えへへ……」
八幡「俺はカレーとかチャーハンとかねるねるねるねくらいしかまともに作れないわ」
いろは「最後のおかしくないですかね……」
八幡「お菓子だけにな」
いろは「は?」
八幡「……何でもない」
いろは「あ、雪ノ下先輩! わたしそろそろケーキが食べたいです!」
雪乃「そう? なら切り分けてくるわね」
いろは「わーいっ」
八幡「今更だけど一色もこうして見るとずいぶん髪伸びたな」
いろは「高校の頃はセミロングでしたもんねー」
八幡「今は雪ノ下と同じくらいはあるんじゃないか?」
いろは「ですかね? あ、雪ノ下先輩とどっちが可愛いです?」
八幡「雪ノ下」
いろは「ぶー。答えが分かってても即答されるとさすがに傷つくんですけどー」
八幡「そりゃ残念だったな」
いろは「……先輩も変わりましたよね。昔はあんなに捻くれてると言うかキモいと言うか腐ってると言うかとにかくアレだったのに……」
八幡「アレってなんだよ……。その前のセリフも全部聞き捨てならないんだけど」
いろは「先輩は雪ノ下先輩のどんなとこに惚れたんですか?」
八幡「スルーかよ……。どんなとこ、ねぇ……。色々あるな」
いろは「じゃあ一つだけ!」
八幡「えー……。あーいや、こればっかりは内緒にしとくわ」
いろは「え~。参考にしようと思ったのにー」
八幡「何のだよ……」
雪乃「お待たせ。切り分けてきたわ」
いろは「わあー苺のショートケーキ! わたし苺大好きですっ」
雪乃「それは良かった。中のクリームは少し凝って苺クリームにしてみたの」
八幡「うおっ、マジだすげぇ。プロかよ」
いろは「これわたしより普通に雪ノ下先輩の方が上手じゃないですかね……」
雪乃「凝ったとは言ってもこれはやろうと思えば案外簡単だから一色さんでもできるわよ?」
いろは「あ、じゃあ今度教えてくださいよ!」
雪乃「ええ、いつでも教えてあげるわ」
いろは「やたっ! ではではケーキいただきまーす! ……うわぁおいしっ! 雪ノ下先輩すっごくおいしいですよこれ!」
八幡「めっちゃうめぇ……」
雪乃「喜んでもらえて良かったわ。……それと、これを」
いろは「これは……」
雪乃「誕生日プレゼントよ」
いろは「ほ、ほんとですか! 嬉しいです! 開けちゃってもいいですかっ!?」
雪乃「ふふっ、もちろん」
いろは「……わぁ、箱に入ってるのになんだかすごく良い香りしますよこれ!」
雪乃「バスボールよ。4つ入りだけどどれも香りや効能が違うそうよ」
いろは「ほうほう。色も綺麗で可愛い……。ほんとにありがとうございます! 一生大事にしますねっ!」
雪乃「できれば使って欲しいのだけれど……」
八幡「一応、こっちは俺から」
いろは「えっ……。先輩もプレゼント用意してくれたんですか……?」
八幡「一応な、一応」
いろは「あ、開けてもいいです……?」
八幡「ご自由に」
いろは「じゃあ…………あ、これって」
八幡「アロマスティックってやつだ。少し前にお前がバイトの先輩と部屋にアロマ的なもの置きたいって話してたの耳にしてな……」
いろは「何ですかそれ盗み聞きなんて趣味悪いですし部屋に招き入れたらそのままこっそり盗聴器とか仕込まれそうで怖いから無理ですごめんなさい」
八幡「えぇ……」
いろは「なーんて冗談ですっ。本当は……すっごくすっごくすっごーく嬉しいです!」
八幡「ふっ……なら良かった」
いろは「お二人とも、本当にありがとうございますっ!」
八幡「まぁ、いつも世話になってるしな」
雪乃「ええ、むしろこれだけじゃ足りないくらいね」
いろは「あ、なら先輩を私に」
雪乃「それはだめ」
八幡「そういえば一色は今日で何歳になるんだ?」
いろは「先輩の一年後輩なんだから今は同じ二十歳に決まってるじゃないですか……。わたしもようやくお酒を飲める歳になりましたよ!」
雪乃「二十歳ということは一月には成人式ね」
八幡「成人式か……」
いろは「お二人は成人式行かれたんですか?」
八幡「まぁな。さすがに行かないといけない気がしたし」
雪乃「どの口が言っているのかしら……」
いろは「え?」
雪乃「当日嫌がるあなたを私と由比ヶ浜さんがわざわざ自宅まで迎えに行って無理矢理連れ出したくせに」
いろは「うわあ……先輩……」
八幡「ばっ、ばっかちげぇから。その日が成人式だってこと忘れてただけだから……」
雪乃「前日まで成人式には死んでも出ないとほざいていたのに?」
八幡「………」
いろは「まぁ先輩ですしねー。あ、お二人はその時お酒とか飲まれたんですか?」
八幡「俺は成人式のすぐ後に平塚先生に捕まってな……。居酒屋であれこれ飲まされた」
雪乃「私は飲んでいないわ。というよりも生まれてこの方お酒を一度も飲んだことがないわね」
八幡「あれ、そうだったっけ?」
雪乃「ええ。比企谷くんも私の前で殆どお酒を飲んだことがないし、飲む機会が今までなかったからそのまま……」
八幡「俺は普通に飲めるけど酒を買わないからなー。居酒屋とかそういった店に行った時くらいしか飲まないな」
いろは「わたし的にお二人ってあんまりお酒飲んでるイメージないんですよねー」
八幡「実際あまり飲んでないからな。雪ノ下に関しては飲んだことないし」
雪乃「そうね。少し飲んでみたい気もするけれど」
いろは「いいですね! じゃあ今から飲んじゃいましょーよ!」
八幡「え、今から? そろそろ日付変わっちゃうよ?」
いろは「明日は土曜日ですしちょっとくらいなら大丈夫ですよ! 最悪先輩んちに泊まりますので!」
八幡「それはちょっと困りますので……。てか家に酒無いぞ?」
いろは「あ、じゃあ先輩買ってきてください。コンビニでもどこでもいいですから」
八幡「俺が行くのかよ……」
いろは「他に誰が行くんですかー? もしかして先輩はこんな夜中に女の子を外に放り出す畜生だったんですか?」
八幡「はいはい、わかったわかった。行けばいいんだろ」
雪乃「私も一緒に行く?」
八幡「いや、大丈夫だ。今日の主役を一人にしとくのも悪いしな」
いろは「さっすが先輩。ではよろしくでーす」
八幡「はいよ……。じゃ、ちょっと行ってくるわ」
雪乃「いってらっしゃい。気をつけてね」
いろは「いってらっしゃいでーす」
いろは「雪ノ下先輩、今日は本当にありがとうございました」
いろは「わたし金曜は授業取ってないですし、今日はこのまま誰にも誕生日を祝ってもらえないかと思ってました」
雪乃「喜んでもらえて本当によかったわ。でも、それは比企谷くんにも言ってあげてね?」
いろは「はいっ。もちろんです」
雪乃「本当は口止めされていたけれど、彼、本当は先週からずっとあなたの誕生日を祝うつもりだったのよ?」
いろは「えっ……?」
雪乃「先週いきなり一色さんの誕生日プレゼントを買いに行こうと誘われた時はさすがに少し複雑な気持ちになったわ……」
いろは「え……だ、大丈夫ですよ!? 確かにわたしはまだ先輩のこと好きですけど、先輩は雪ノ下さんの方が好きだって毎日言ってますし!」
雪乃「そ、そうなの?」
いろは「はい、雪ノ下先輩との惚気話を何かあるたびに聞かされているので信じてください」
雪乃「……惚気話?」
いろは「ですです。雪ノ下先輩がミスドのエンゼルクリーム食べたら鼻にクリーム付いてて萌えたとかー」
雪乃「………」
いろは「雪ノ下先輩が先輩のパンツを洗う時にこっそり匂いを嗅いでいたとかー」
雪乃「」
いろは「あとは……」
雪乃「も、もう結構よ。だからお願い、やめて……」
いろは「ほんとに嗅いだんですか?」
雪乃「………」カアア
いろは「嗅いだんですね……。雪ノ下先輩もそういうとこあるんだなぁ」
雪乃「後で比企谷くんにはお説教が必要かしらね……」
いろは「わたしは聞いてて楽しいんですけどね。と言っても嫉妬しながら聞いてますけど」
雪乃「どうしても彼のこと、諦められないの……?」
いろは「いえいえ、もちろん諦めるつもりでいますよ? でも先輩よりも素敵な人に出会わなくって……」
雪乃「比企谷くんよりも……それは難しそうね」クスッ
いろは「そうなんですよー。先輩を追いかけてここまで来たのはちょっと失敗だったかもですね……。先輩のこと昔以上に好きになりそうですもん」
雪乃「一色さんはその……比企谷くんとは」
いろは「はい。先輩が卒業する時に告白してフラれちゃいました。雪ノ下先輩との関係は既に知っていたので結果は分かってましたけど」
いろは「それで、いざ先輩が卒業してみるとやっぱり寂しくて寂しくて……。気づいたら先輩と同じ大学を受けてましたっ」アハッ
雪乃「諦めたいけど諦められない……ということかしら」
いろは「はい……。先輩をきっぱり諦めるまでは髪切らないつもりだったんですけど、気づいたらこんなに伸びちゃってて」
雪乃「なるほど、それで髪を伸ばしていたのね。私はてっきり……」
いろは「もちろん。そっちのつもりでも伸ばしてますよ?」
雪乃「なら……私としては一刻も早く切って欲しいのだけれど……」
いろは「んー、先輩を譲ってくれたら切るかもですよー?」
雪乃「それは無理な相談ね」
いろは「ですよねー……。あ、でももしかしたら奪っちゃうかも?」
雪乃「本当にされそうだから油断ならないのよね……。けれど、奪えるものなら奪ってごらんなさい?」
いろは「むー。その余裕な感じがすっごく悔しいです……」
雪乃「でも比企谷くんは不意打ちには弱いから不意を衝くのは無しよ? 奪う気ならあくまで正々堂々と真正面からしてもらえるかしら。お願い……」
いろは「あっ、そこまで余裕じゃなさそう……」
いろは「でもご心配なく! そんなずるいことはしません。……ずるをしたって何も変わらないことは、もうわかってますから」
雪乃「……そう」
いろは「だから正々堂々と先輩をわたしの虜にさせてもらいますね!」
雪乃「そんな暇があるのなら早く比企谷くんより素敵な人を見つけなさい……」
八幡「ふぅ。戻ったぞー」
いろは「あ、先輩おかえりなさーい」
雪乃「おかえりなさい」
八幡「おう。とりあえずどんな酒がいいかとか聞いてなかったからチューハイとビールを適当に買ってきた」
いろは「ご苦労様ですー。チューハイはともかくビールっておいしいんですかー?」
八幡「俺は好きだが初めて飲む奴にはあまりおいしく感じないかもな。俺も最初はダメだったが何度か飲んでるうちに好きになったし」
雪乃「同じチューハイやビールでも色々種類があるのね」
八幡「だな。だからとりあえず色んなの買っといた」
いろは「どれがおいしいですかねー」
八幡「最初はアルコールの低いチューハイにしとけ。そこのほろよいとかカクテルパートナー辺りが良いと思うぞ」
いろは「あ、ほろよいは知ってます! よくCMしてますよね」
八幡「うまいけど酒に慣れた人からしたらただのジュースだからなこれ」
いろは「そうなんですか? じゃあわたしこれにします」
雪乃「では私はそっちのスクリュードライバーというお酒を」
八幡「俺はビールでいいや」
いろは「乾杯! 乾杯しましょうよ!」
雪乃「では比企谷くん」
八幡「え、音頭とんの? いらなくない?」
いろは「先輩こういうのは気分ですよ。気分!」
八幡「なら……。えー、……いやちょっとタンマ。何言えばいいの?」
雪乃「今日は何の日だったかしら」
八幡「ああ、だな。え、えー。では、一色の誕生日を祝して……?」
いろは「かんぱーいっ!!」
雪乃「乾杯」
八幡「………」ゴクゴク
いろは「………」ゴクゴク
雪乃「………」ゴクゴク
いろは「んー……。なんだかこれ……チューハイって普通のジュースとあまり大差無くないですかー?」
八幡「あー、あんま無いかもな。日本酒とかビールならともかくチューハイとなると実際のソフトドリンクとあんま変わらん。ま、人によるけどな」
一色「へー」
雪乃「………」ゴクゴク
いろは「あ、先輩はビール飲んでるんですねー。一口いただきます!」ヒョイ
八幡「あっおま……」
いろは「……うえー、苦ーい……。先輩わたしにこんなもの飲ますなんてひどいです……」
八幡「勝手に飲んだのお前だけどね……。あと無理矢理下ネタにすんな」
いろは「あはっ」
雪乃「………」ゴクゴク
八幡「雪ノ下はどうだ? 初めての酒は」
雪乃「ふぇ……? そ、そうね。ジュースより少し苦く感じるくらいでそれ以外は何とも……」ゴクゴク
八幡「いくらジュースみたいとは言えアルコールはしっかり入ってんだから飲みすぎるなよ? 舐めてると急性アルコール中毒になりかねんしな」
いろは「ぷはーっ! 先輩もう一本飲んでもいいですかー?」
八幡「え、もう一本飲んだの……? いいけど次はもうちょっとゆっくり飲め。つまみも買っといたから適当に開けていいぞ」
いろは「あ、じゃあこのチータラいただきまーす」
雪乃「………」ゴクゴク
八幡「このチーズ鱈ってついつい鱈の部分剥いじゃうよな」
いろは「あ、それわかります! わたしはいっつも鱈の部分を先に食べてから最後にチーズを食べてます」
八幡「やるやる。これ剥がせるようになってるし、剥がしてから食ってくれって言われてる感じするんだよな」
いろは「ですよね! あ、あとチータラをチンするとサクサクになっておいしいですよねー」
八幡「え、なにそれ。レンチンしちゃうの?」
いろは「あれ先輩やったことないんですかー? 普通に食べるのもいいですけど、チンしたのも結構おいしいのに」
八幡「おいおい、そんなこと考えたこともなかったぞ! ちょ、ちょっとやってみようぜ!」
いろは「やりましょやりましょ! あ、クッキングシートとかってあるんですか?」
八幡「余裕である。もはややるしかないだろ」
いろは「おお! では早速台所へレッツゴー!」
雪乃「………」ゴクゴク
~5分後~
八幡「いやー、こんがり焼きあがったな」
いろは「上手に焼けましたー! チーズの焼けた香りがまた何とも……!」
八幡「チーズが熱で膨らんで大きくなるとちょっと得した気分になれるのが良いな!」
いろは「……先輩それはちょっと貧乏臭いです」
八幡「あ、そう……」
いろは「と、とにかく冷めちゃう前に早くあっちで食べましょうよ!」
八幡「だな! おーい雪ノ下。チーズ鱈をチンしてみたんだが一緒に食――」
雪乃「………」ゴクゴク
雪乃「ぷは~。あ、八幡が飲んでたビールも飲んじゃお~」ゴクゴク
雪乃「う……ビールにがーい……。でも八幡の出す方がもーっと苦い! ふふふ、後でついでに八幡のもごくごくしちゃおっかな……ふふふふふ」
八幡「」
いろは「」
雪乃「ふふ、ふふふふ」
八幡「どうしてこうなった」
いろは「ゆ、雪ノ下先輩……」
八幡「少し目を離した隙にもう5本も飲んでるぞこいつ……」
いろは「完全に酔っぱらってますよこれ……」
雪乃「もお、なに言ってるの? 酔ってなんかないわよ」
八幡「顔真っ赤だし紛うことなく酔ってんじゃねぇか。お前ってそんなに酒弱かったのよ」
雪乃「ちょっとー」
八幡「あん?」
雪乃「お前って誰よ」
八幡「えっ。ゆ、雪ノ下さん、です、けど」
雪乃「だったらお前じゃなくてちゃんと名前で呼んでっ!」
八幡「す、すいません雪ノ下さん」
雪乃「雪乃じゃないとやっ!」
八幡「は、はい、雪乃さん」
いろは「ど、どうしましょう先輩。わたし、こんな雪ノ下先輩見たこと無」
雪乃「雪乃!」
いろは「ひっ!? ここ、こんな雪乃先輩見たこと無いですよぉ……」
八幡「ふえぇ……俺だって初めてだよぅ……」
雪乃「一色さんはともかくとして、私はずっとずぅーっと八幡に名前呼んで欲しくて待ってるのになー」
雪乃「こうやって私から言わないと言ってくれないんだなー……はーあ…………はーあ!」グビグビ
いろは「……っ」ビクッ
八幡「い、いや雪ノし……雪乃がこの前自分が慣れるまではお互いいつも通りって……」
雪乃「なぁに? 私のせいだっていうの?」
八幡「そそそそんなつもりは滅相もございませんよ……?」
雪乃「八幡っていーっつも私のこと色々考えてくれるくせにこういう時だけは鈍いのよねー」
八幡「……め、面目ないです」
雪乃「別にそういうとこも好きだからいいけどさぁ。でも鈍いのは何とかして!」
八幡「んな無茶な……」
雪乃「できないなら今日から八幡のことニブタニって呼ぶから。……ぷくくっ、ニブタニ……ブタ……くふふふふ」
いろは「自分で言って自分でウケてる……」
八幡「マジでどうすんだこれ……」
雪乃「あー。お酒無くなっちゃった。次はどれ飲もうかなー」
八幡「まっ、待て雪ノ下ッ! さすがにもうやめとけ! な?」
雪乃「雪ノ下って人なんか知りませーん」フイッ
八幡「ゆ、雪乃さん! 雪乃さんお願いだから飲むのやめよう!」
雪乃「じゃあ…………んっ!」
八幡「え……なんですかそれは……」
雪乃「見たらわかるでしょ? ちゅーしなさい。はい、ちゅー」
いろは「ええっ!?」
八幡「そ、それはさすがに一色もいるしやめておかないか……? 別のことならするから。なっ?」
雪乃「なら三回回ってワンと鳴いて」
八幡「……え」
雪乃「やって! じゃないと飲んじゃうから」
いろは「せ、先輩っ!」
八幡「ぐ……わかった。やるから! やるから絶対に飲むなよ!?」
雪乃「はやくー」
八幡「くぅ……。行くぞ……」
いろは「………」
八幡「」クルクルクル
八幡「……わん」
雪乃「ぷはーっ! この氷結のグレープフルーツ私好きかも!」
八幡「おいいいい飲んでるじゃねぇか!」
いろは「せ、先輩……ぷっ……わんって鳴くとき……くふふっ……可愛かったですよ? ぷふふっ……」
八幡「必死に笑い堪えてくれるのはありがたいんだけど全部漏れてるからね?」
雪乃「はー。何だか暑くなってきちゃった。……んしょ」
八幡「おいおいおいおい脱ぐな脱ぐな脱ぐな!」
いろは「うわぁ……雪乃先輩肌キレー……」
八幡「たしかに……。いや今その言葉は違うだろ」
雪乃「やだ八幡……興奮してるの?」
八幡「いやまぁ……。あ、待て、嬉しそうに下も脱ごうとするな! 下はやめとけ! 頼むから……頼むから待ってくれ、ストップ!」
雪乃「……なぁに、八幡は私が脱いでも嬉しくないんだ?」
八幡「いやいや、めちゃくちゃ嬉しいですよ? 嬉しいですけど一色もいるから服ぐらいは着て……」
雪乃「八幡っ!」ガバッ
八幡「ぐぇ……ちょ、話が全然通じねぇ……」
八幡(酔うとまるで陽乃さんみたいだな……)
八幡「い、一色! フリーズしてないで水! 水持ってきてくれ!」
いろは「……っ! は、はいぃ!」
雪乃「あら、喉乾いたの?」
八幡「いやそうじゃなくて……。と、とりあえずこの馬乗り状態何とかならない?」
雪乃「……なによ。嫌ならもうエッチの時は上になってあげないから!」
八幡「」
雪乃「あ、そうだ。喉乾いたなら私がお酒飲ましてあげる…………ん~っ」
八幡「ちょ、ちょちょちょっと待った。口移しはまずいから……。口移しはさすがにまずいからぁ!」
雪乃「んっ!」ガシッ
八幡「痛い痛い痛いアイアンクローで頭固定すんのやめろ……! わ、わかった今度やろう。今度二人の時お願いするから今は……」
いろは「せ、先輩コップが見当たらないです……」
八幡「脇の小さい戸棚にあるから急いでくれ!」
雪乃「ちゅ~」
八幡「うお、ちょ、タンマ! まじタンマ!」
いろは「あわわわわわっすすすぐ持ってきます!」
八幡「た、頼――んぐっ!?」
雪乃「んくっ…………ん、ぷはぁ。おいし?」
八幡「…………よ、よくわかんねぇよ。とりあえず一旦離れて……」
雪乃「じゃあもう一度」
八幡「えっ……。とってもおいしかったです。おいしかったですからもう……」
雪乃「ほんとに? じゃあもう一度!」
八幡「……どう転んでもやるのかよこれ。ま、マジで待って雪乃さん! 今度……それはまた今度やろう! 今は色々とアレだから……!」
雪乃「そう? じゃあまた今度してあげる。絶対に約束よ? 逃げようとしたら許さないんだから」
八幡「……イエッサー」
雪乃「よしっ、口移しはやらないなら代わりにたっくさんちゅーしよっか」
八幡「えっ……」
雪乃「逃げちゃだめだからね」ガシッ
八幡「ちょ、待、あかん」
雪乃「ほら、目を閉じて……ちゅ~」
八幡「んむぅ…………っ!?」
雪乃「んー…………っ」
雪乃「ふぁ……。ふふふ、ちょっとお酒の味するわねっ! 八幡のお口すっごくおいしい」
八幡「……そ、そうですか」
雪乃「んふふー、もっかいしよ? ほーら、舌出してー…………んちゅ~」
八幡「た、頼むから少しだけ……少しだけ待ってくれ! これ以上されるとマジで勃……」
雪乃「そうなったら今度はそっちをちゅーしてあげるからだいじょーぶよ? だからほら……ん~」
八幡「嗚呼…………」
いろは「先輩! お水持ってきま」
雪乃「んふぅ…………はちまぁん」チュー
八幡「……っしき……逃……」ガクッ
いろは「」
雪乃「…………ぷはぁっ。……さて」ニッコリ
いろは「ひっ、ひぃぃぃっ!?」
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八幡「それは――」
雪乃「………」
八幡「………」
八幡「い、いや悪い。やっぱり言えない」
雪乃「……そ、そんなにひどかったの?」
八幡「まぁな……。だから歓迎会では何があろうと絶対に酒は飲むなよ? 先輩に飲めと言われようが一滴たりともだぞ」
雪乃「……わ。わかったわ。絶対断ればいいのね?」
八幡「ああ、絶対だぞ? カルピスソーダを渡されてもカルピスサワーじゃないかどうかちゃんと疑ってから飲んでくれよ?」
雪乃「……え、ええ」
八幡「ちなみにその歓迎会はいつやるんだ?」
雪乃「明々後日の土曜日に大学近くの居酒屋で行うと聞いているわ」
八幡「大学近くってことはあそこか。……まっ、楽しんでこいよ。ゼミの歓迎会とか出とかないと後々気まずくなっちゃうだろ」
雪乃「比企谷くんはゼミでのそういった催しには参加したの?」
八幡「さぁな。俺だけゼミのライングループに入ってないし、俺以外はもうゼミでやったんじゃないのか?」
雪乃「それでいてよく私にゼミでの交友関係について言えたわね……」
八幡「俺は端からゼミの連中と仲良くなるつもり無いからいいんだよ」
雪乃「それはいいとは言わないのだけれど……」
八幡「いいから行って来いよ。普通に楽しいと思うぞ。もちろん酒は飲むの禁止だけど」
雪乃「では、そうさせてもらおうかしら」
八幡「おう。最後にもう一度言うが酒だけはNGな」
雪乃「……私ってお酒を飲むとそんなにひどいのね。私自身は全く記憶にないから怖いのよね……」
八幡「飲むとひどいと言うか、飲みすぎるとひどいって感じだな。だからと言って一杯だけなら大丈夫だと思うなよ? スイッチ入ると困るからな」
雪乃「き、肝に銘じておくわね」
雪乃「それと比企谷くん、やっぱり一色さんの誕生日で何があったのか教えて……? ここまで口を酸っぱくして言われると気になって仕方ないわ……」
八幡「いやでも……あの時の雪ノ下は、その……うん……」
雪乃「………」
八幡「そのゼミの歓迎会とやらで酒飲まなかったら教えてやるよ。だからとにかく飲み物はひたすら烏龍茶を飲んどけ。絶対だぞ?」
雪乃「酔った私って相当なのね……」
ゼミ歓迎会
男「雪ノ下さん全然飲んでないよ? ほらほら、一緒に飲もうよ!」
雪乃「……いえ。私はお酒飲めないので結構です」
女「あ、ゆきっちお酒ダメなんだー」
雪乃「ええ。お酒を飲むとその……す、すぐ寝てしまうから。あとゆきっちと呼ぶのはやめてといつも言っているでしょう……」
女「えー? ゆきっちって可愛いじゃーん。ゆきっち~」
雪乃「あなた既に酔っているわね……」
男「……へぇ。あ、じゃあお酒弱い人でも大丈夫そうなやつ頼もうか!」
雪乃「大丈夫です。それなら普通にソフトドリンク頼みますから」
男「いやいや! 今この場でお酒飲んでないの雪ノ下さんだけだからさ。ちょっとでもいいからお酒飲もーよ!」
雪乃「いえ、私は……」
男「すいませーん! 彼女にカシスオレンジ!」
店員「はーい」
雪乃「ちょ、ちょっと待ってください!、私本当にお酒は……」
男「いいからいいから! ちょっとずつ飲んでいけば全然平気だから!」
雪乃「………」
店員「お待たせしましたー。カシスオレンジでーす」
男「はい、雪ノ下さん。試しに少し飲んでごらん。きっと気に入ると思うよ!」
雪乃「でも……」
男「一口くらいなら大丈夫だって! それにほら、雪ノ下さんだけ飲まないのも逆に僕らも気を遣うしさ!」
雪乃「………………なら……一口だけ」
男「うんうん。そうこなくっちゃ!」
雪乃「………」ゴクッ
男「ね!? おいしいでしょ!?」
雪乃「は、はい」
男「……よし。じゃあお話しながらちょっとずつ飲んでいこうか!」
雪乃「………」
雪乃「うぅん……」フラッ
男「じゃあ今日はこの辺でお開きにしとこうか! 三年の皆はこれから半年よろしく! 分からないことがあれば何でも聞いてくれていいから!」
男「それじゃあ解散! みんなお疲れっ! 二次会する人たちは程ほどにな!」
女「お疲れ様でした~。ゆ、ゆきっち大丈夫? さっきからずーっとふらふらしてるけど……」
雪乃「だ、だいじょーぶよ……。なん、とか……」
女「そ、そう? 少し飲んだだけでそこまでフラフラになるなんて、ゆきっちって本当にお酒弱かったんだね……。家まで送ろっか?」
男「いいや、それは僕が送るよ。君は帰り歩き? あ、タクシー呼ぶ?」
女「いいいえいえ! 私は電車で帰るので大丈夫です!」
男「そうかい? なら気をつけて帰ってね」
女「はーい。今日はありがとうございました。結局四年の皆さんにお金出してもらっちゃって」
男「いいよこれくらい。来年は君たちが後輩を奢ってやっておくれ」
女「はい! あ、じゃあゆきっちはお任せしても大丈夫ですか?」
男「うん、任せてくれ。こうなったのは僕のせいでもあるからね」
女「……わかりました、ではお先失礼しますねっ。ゆきっちもばいばーい」
雪乃「……んん。またねー……」
男「…………さて。雪ノ下さん大丈夫?」
雪乃「……だ、だいじょー……ぶ、だってばー……」フラッ
男「ぜ、全然大丈夫じゃなさそうだね。ごめんね雪ノ下さん。まさかここまでお酒に弱いとは思ってなかったよ」
男「良かったらさ……。少し休んでから帰ろうか?」
雪乃「やすむ……?」
男「そっ、休む。ちょっと行ったところにゆっくり休める場所があるんだ」
雪乃「…………どこ……? あっ……」ヨロッ
男「おっと……。ほら、足元もふらついてるしとりあえず行こうか。肩貸すよ」グイッ
雪乃「ぅん…………」
雪乃「……んぅー……眠……」フラッ
男「っとと。雪ノ下さん歩けないくらいに眠いの?」
雪乃「………」コクン
男「そっか。じゃあ……ここからホテルまでまだ距離あるし……僕んち行こうか」
雪乃「……はち、ま……ち?」
男「……はちま? よく聞き取れなかったけど僕んちだよ」
雪乃「んんー? ……眠いし疲れたぁ……」
男「やれやれ……。雪ノ下さんは酔うとまるで性格が逆転するね」
男「……ほら、おぶってあげるから僕んちでゆっくり休もう?」
雪乃「は…………まんち……なら行く……」
男「ごめん、なんだって? よくわからないけど、ほら、手貸して」グッ
八幡「――おい」
男「……?」
八幡「離せ」
男「……は?」
八幡「その彼女を掴んでる手を離せって言ってんすよ。雪乃、こっち来い」グイッ
雪乃「あっ……」
男「誰だ君は……?」
八幡「そりゃこっちのセリフですよ」
雪乃「……は、はち……まん?」
八幡「大丈夫か?」
雪乃「うん……」
八幡「ったく。あれだけ酒飲むなよって言ったのに結局飲んだのか……。あの時よりかひどくなさそうだけど」
雪乃「……んーっ、はちまん……八幡だ……。眠い、八幡、おんぶ……」ギュッ
八幡「お前はほんと酔ったら我儘というか利己的になるよな……。ほら、背中乗れるか……?」
雪乃「んん……」
男「……なるほど。君は雪ノ下さんの……」
八幡「……で。あんたは俺の彼女をどこに連れて行こうとしてたんですか?」
男「別に……? ファミレス、かな?」
八幡「だったらサイゼがおすすめですよ。今から行くつもりだったんなら一人で行ってみてください。きっと気にいると思うんで」
男「……いや、今日はもう帰るよ。ちょっと気が削がれちゃったからね」
八幡「………」
男「それじゃあ彼女によろしく」
八幡「……一応俺が来るまでは雪乃を見ててくれたみたいですし、あんたには後日ちゃんとお礼言うようこいつには伝えとくんで」
男「いいや、その必要はないよ」
八幡「そうですか?」
男「ああ。雪ノ下さんがお酒ダメなのを知らず、彼女がすすんで飲もうとするのを止めなかった僕にも責任があるからね」
八幡「……こいつが?」
男「うん、雪ノ下さんが。きっと盛り上がっていたからそういう気分になってしまったんだろうね」
八幡「はっ……」
男「……何かおかしなこと言ったかな?」
八幡「いや何も。……ただ、そういうバレバレの嘘はかえって逆効果ですよ」
男「どういうことだい?」
八幡「人の女を取ろうとしておいて、易々と帰れると思うなってことだよ」
男「………。殴らせろ、とでも言いたいのかい?」
八幡「そんな低俗な真似はしねぇよ。てかそんな柄じゃないし」
男「それじゃあ、謝ればいいのかい?」
八幡「そんなものはいらない。そもそもあんた、さっきから反省してる様子無いしな」
男「……悪かったよ」
八幡「そんな皮相的なものいらないって言ってんだろ。代わりに一つだけ、約束しろ」
男「……約束?」
八幡「そう、約……いや、ちょっと違うな」
八幡「これは警告だ」
男「………」
八幡「はぁ……。雪ノ下は気づいたら寝てるし、あの野郎には絶対目を付けられたし……。てかあいつ多分先輩だったよな……」
八幡「はぁー。らしくないことしたなぁ……」
八幡「てか雪ノ下起きてるかー? お前おぶってるとおっさんらがすれ違い様にニヤニヤこっち見てきて恥ずいから歩いてほしいんだけど……」
雪乃「………」
八幡「駄目か。気持ち良さそうに寝てらっしゃる……」
八幡「はぁ……。何で見ず知らずの、それも年上の奴にあんなこと言っちゃったかなぁ……。相手も超睨み返してきたし……」
八幡「よくよく考えれば俺はあの先輩と会うことは恐らくもう二度と無いわけで、同じゼミの雪ノ下の方がこれからやばいよなぁ……」
八幡「つい二度と近づくなとか偉そうに言っちゃったけど、雪ノ下とはゼミが一緒なんだから近づかないとかどう考えても無理だよなぁ……」
八幡「俺のせいで雪ノ下がゼミに居辛くなったりしそうだよなぁ……」
八幡「はぁ、俺ってこんな馬鹿だったかなぁ……。ちょっとイラッとしたからって……馬鹿だなぁ……」
八幡「はぁー。雪ノ下にこの事言いたくないなぁ……。言わなくていいかぁ……」
八幡「はぁ……。マジでらしくないことしたなぁ……」
八幡「はぁ……。後悔先に立たずってやつだな。さっきからため息しか出ねえ……」
八幡「はぁー……。我ながら気持ち悪いこと言っちゃったよなぁ……何だよ俺の雪乃って……。馬鹿じゃねぇの? 馬鹿じゃねぇの!?」
八幡「はぁ……死にたい。それか切腹したい。ていうか死にたい、すなわち死にたい……」
八幡「はぁ……電柱にヘディングしたら記憶飛ばねぇかなぁ」
八幡「はぁ……ていうか俺、何をこんなにもムシャクシャしてんだろうなぁ……。雪ノ下は何も悪くないのに」
八幡「はぁー……さっさと帰ろ」
八幡「はぁ……」
翌朝
雪乃「…………んん」
八幡「……おっ。起きたか。おはようさん」
雪乃「比企谷くん……? ここは……」
八幡「俺んち」
雪乃「比企谷くんち……? 昨日は確か……」
八幡「………」ギュッ
雪乃「え、あ……ひ、比企谷くん……!?」
八幡「……昨日」
雪乃「え?」
八幡「昨日、俺が迎えに行ったの覚えてないのか?」
雪乃「……ある程度なら」
八幡「そうか。……ならそういうことだ」
雪乃「よくわからないのだけれど……」
八幡「そんなことよりもお前、あんだけ酒飲むのはやめとけって言ったのに結局飲んだのか」
雪乃「……ご、ごめんなさい。飲むつもりは本当になかったの。でも、その……」
八幡「……別に責めてるわけじゃない。悪いのはあっちだしな」
雪乃「あっち?」
八幡「……こっちの話だ」
雪乃「?」
八幡「それで雪ノ下。お前また酒飲んだ後のことは覚えてないのか?」
雪乃「いえ、今回は……少しだけ、覚えているわ。比企谷くんが強く抱き寄せてくれたのは覚えているもの」
八幡「そそそそそんなことしてませんにょ?」
雪乃「なぜそんなに動揺しているのかしら……」
八幡「………」
雪乃「比企谷くんが迎えに来てくれた時、すごく嬉しかったのは本当に覚えているのよ? おぶってくれたのもね」
八幡「そっすか……」
雪乃「まさか迎えに来てくれるなんて思っていなかったんだもの。お店とか言ってなかったのにどうして場所がわかったの?」
八幡「大学近くの居酒屋って言ったらあそこしかないからな。迎えはまぁ……今週のマガジンまだ読んでなかったら立ち読みついでに一応な……」
雪乃「立ち読み……? 立ち読み目的なら別に大学近くのコンビニじゃなくてもここから少し歩いたらあるじゃない」
八幡「あー……そうだっけか?」
雪乃「……素直じゃないんだから」
八幡「………」
雪乃「ずっとお店の前で待っていたの?」
八幡「んなわけねぇよ。店の前で雪ノ下出てくるまでずっと待つとかどこのハチ公だ」
雪乃「ハチ幡、お手」
八幡「ちょっと? 忠犬扱いしないでもらえる?」
雪乃「お手」
八幡「しないよ? 意地でもしないよ?」
雪乃「……そう」
八幡「そんな心底残念そうにされても困るんだけど……。とにかく、適当に迎えに行ったら運良く店近くで雪ノ下を見つけたってだけだ」
雪乃「そうだったのね。ありがとう比企谷くん。迎えに来てくれて」
八幡「ああ。……ほんと迎えに行ってて良かったわ」ギュッ
雪乃「……っ? どうして……?」
八幡「……いや、まぁ。何となくな」
雪乃「?」
八幡「ちなみに昨日はどれくらい飲んだんだ? あの時に比べるとあまり飲んでない感じはしたが」
雪乃「記憶の限りではグラス一杯半くらい……かしらね」
八幡「マジ? グラス一杯半であんなフラフラになる上に軽く記憶飛んじゃうの……? さすがに弱すぎない?」
雪乃「わ、私に言われたってこればっかりはどうしようも……」フイッ
八幡「いやそうだけどよ」
雪乃「一色さんの誕生日の時の私はどれくらい飲んでいたの?」
八幡「俺と一色は缶1,2本だったが雪ノ下は最終的に350を8本は飲んでたな。だから昨日の倍以上は飲んでたと思うぞ?」
雪乃「………」
八幡「もはや酒強いのか弱いのかわからないレベル」
雪乃「……次からお酒は絶対に飲まないようにするから」
八幡「そうしてくれ……。ま、酔った時の雪ノ下は実を言うとかなり可愛いんだけどな」
雪乃「……そうなの?」
八幡「ああ。人の話を聞かなくなる点を除けば最高に可愛い」
雪乃「…………な、なら比企谷くんと二人きりの時は飲もうかしら」
八幡「お、おう。程々にな……」
八幡「……あー、コーヒーでも飲むか? それとも頭とか痛むなら水にしとくか?」
雪乃「そうね。別に二日酔いとかではないけれど水をいただこうかしら」
八幡「あいよ。水な」
雪乃「ええ、ありがとう」
八幡「ああ……」
雪乃「………」
八幡「……あー」
雪乃「……?」
八幡「……いや、何でもない」
雪乃「………」
雪乃「…………比企谷くん」
八幡「?」
雪乃「その……ぎゅっと……して欲しいのだけれど」
八幡「……え、なに急に。ていうかさっきまで……」
雪乃「お願い……」
八幡「………」
八幡「………」ギュッ
雪乃「もっと……」
八幡「………」ギュー
雪乃「……その」
八幡「……?」
雪乃「…………私のせい、よね」
八幡「は……?」
雪乃「比企谷くん、先程からずっと浮き足立ってるみたいだから……」
八幡「…………いや、別にそんなこと」
雪乃「……あるでしょう? ……目も、あまり合わせてくれないし」
八幡「………」
雪乃「どうして……怒ってくれないの?」
八幡「怒るって酒飲んだことをか……? 別に飲みたくて飲んだわけじゃないんだろ? なら、仕方ない」
雪乃「仕方なくないわよ……。あなたとの約束を破ってしまったことは事実じゃない」
雪乃「私は昨日のことに関しては本当に反省しているし、後悔もしているの……」
八幡「………」
雪乃「はっきりとまでは覚えてないけれど、現に昨日、私が約束を破ったばかりに比企谷くん以外の男に連れられそうになって……」
八幡「いい。……その話はもういいから」
雪乃「よくないわよ……。いいわけないじゃない……!」
八幡「………」
雪乃「私はそういう気遣いなんてして欲しくない……」
雪乃「我慢なんてしないで……一人で許容しようとしないで……。どんな言葉をぶつけたっていいんだから、私を無理矢理許そうとしないでよ……」
八幡「………」
雪乃「嫌なことはきちんと嫌って言って欲しいし、間違いを犯したらちゃんと怒って欲しいの……」
雪乃「私は、間違ったまま終わるのがどうしようもなく辛いの……」
八幡「……雪ノ下」
雪乃「……ご、ごめんなさい、こんな開き直るような態度を取ってしまって……。でも、私」
八幡「情けないこと、言ってもいいか……?」
雪乃「……え?」
八幡「俺って多分、雪ノ下が思っている以上に弱いんだよ」
雪乃「弱いだなんてそんな……」
八幡「いや、情けないくらいに弱いし臆病なんだ。ゼミの新歓の話をされた時は行ってこいとか言ったくせに、本当は何が何でも行ってほしくなったしな」
八幡「昨日だって雪ノ下がいない間、ずっとお前が他の男に絡まれてないかだとか、他の男に触られてないかだとか、そんなことばかり考えてた」
八幡「で、結局昨日は我慢できなくて迎えに行ったんだけどな……。だから悪い。さっき言ったたまたまってのは嘘だ」
雪乃「………」
八幡「それに、別に今回に限ったことじゃないんだよ。雪ノ下に会えない日は寝るまでずっと雪ノ下の心配ばかりしてるし、声が聴きたくて仕方なくなる」
八幡「雪ノ下が俺以外の人と電話してるだけで不安になるし、お前が学科の奴と話している姿を見るだけで動揺する」
八幡「今までは一人で平気だったのに……弱くなったつもりも脆くなったつもりもないのに、気付けば雪ノ下無しじゃ前を向けないくらい……弱くなってた」
八幡「その癖雪ノ下の前では強がって……。まぁ、女々しいとか言われたらそれでおしまいなんだけどな」
雪乃「比企谷くん……」
八幡「だから本当のことを言うと……今、結構怒ってたりする」
雪乃「そう、よね……本当にごめんなさい。あと、その……偉そうに変なこと言ったりして……」
八幡「いいや、それは変に溜め込もうとした俺が悪いんだ。……ごめんな」
雪乃「あなたは何一つ悪くないじゃない……」
八幡「こうしてお前を不安にさせたんだ。十分俺も悪い」
雪乃「……だけど」
八幡「あれだな。ぼっちは自分の感情を外に出さないよう内へ内へと押し込める習性があるから、そのせいで……」
八幡「……いや、悪い」
雪乃「あら、どうしてまた謝るの?」
八幡「今は別にぼっちじゃなかったからな……」ギュッ
雪乃「……比企谷くん」
八幡「何があろうともう二度と……俺以外の男についていくなよ……」
雪乃「はい……」
雪乃「……あの。それで、そ、その比企谷くんは……」
八幡「?」
雪乃「……どうすれば、私を許してくれる?」
八幡「あ? いやもう十分許してるつもりだけど」
雪乃「でもあなた、さっき怒ってるって言ったじゃない」
八幡「あ、まぁ、言ったけど……。どうすればって言っても二度と酒飲むなとしか言いようがないんだよな」
雪乃「でも私……」
八幡「年上の頼みってのは断りにくいからなぁ……。二度と飲むなってのも難しいのかもしれん」
八幡「俺も成人式の後、平塚先生に捕まって飲みに行った時は最後まで酒断り切れず途中で吐きそうになったしな……」
雪乃「……そ、そうなのね」
八幡「ああ、あの人見た目以上に飲むぞ……。だから次はどんな手を使ってでも飲まない、どんな手を使われても断るって術を身につけておかないとな」
八幡「ま、そんなことしなくても本当はそういうのに参加するなって言うのが一番なんだろうけど、そんな束縛みたいな真似するのもちょっとな……」
雪乃「私は別に束縛されても構わないわよ? むしろ……」
八幡「いや、そういうのは良くないってテレビでよく見るし……。半強制参加の飲みだってあるだろ。今回みたいな新歓とか追いコンとか」
雪乃「それくらい何かしら用事を作れば……」
八幡「かと言って誘いを断りまくってゼミとの関係が縺れるのもあれだろ? ま、それも踏まえて次から参加するしないはお前がちゃんと決めればいい」
八幡「まぁ……参加するなら迎えくらいいつでも行くから」
雪乃「そう……。なら、その時が来たらまた私を守ってくれる……?」
八幡「当たり前だ。…………一瞬だろうが二度と誰にも渡さねぇよ」
雪乃「………」
――二度と俺の雪乃に近づくな。
雪乃「……ふふふっ」
八幡「ちょっと? 変なこと言ってないよ? なに笑っちゃってんの?」
雪乃「ふふ、別に? ……ねぇ比企谷くん」
八幡「あん?」
雪乃「今、キスしてほしいって言ったら、してくれる?」
八幡「ああ。いくらでも……」
雪乃「なら……ん…………っ」
八幡「………………」
雪乃「…………一つだけ、聞かせて?」
八幡「……なんだ?」
雪乃「さっきの誰にも渡さないというのは……」
八幡「………」
雪乃「俺の雪乃、だから?」
八幡「ファッ!? え、ちょ、おまっ、ファッ!? 昨日のあれ聞いて……ぅむっ!?」
雪乃「……ん、ちゅ…………」
八幡「……待……んぐ……」
雪乃「……んふ、はぁ…………」
八幡「…………ま、待った。き、昨日はどこまで聞いてたんだ……?」
雪乃「どこまで聞いてたも何もあの時はまだ私起きていたわよ? それを今思い出しただけ…………っ」
八幡「………………」
雪乃「……私っていつからあなたのものになっていたの?」
八幡「いやー……そのー……」
雪乃「比企谷くんにも傲慢な一面があったのね」クスッ
八幡「あ、あれは傲慢とかそういうんじゃなくてだな……」
雪乃「いいのよ。わかってるから」
八幡「……そうか」
雪乃「だからお願い。私のこと、いくらでも、好きにしていいから……」
雪乃「私が八幡のものだってこと、無茶苦茶になるくらい感じさせて……?」
八幡「………」
雪乃「………」カアア
八幡「………」
雪乃「そっ、そそその……こ、こんなことを言うのはあなただけよ? あなただから私は……」
八幡「雪乃………………っ」
雪乃「んっ…………八幡」
雪乃「いつも……本当にありがとう…………大好きよ」
八幡「……俺の方こそありがとな、雪乃。好きだ……心から、大好きだ」
雪乃「はちまんっ…………」
八幡「まったく、マッ缶は最高だぜ!」
雪乃「千葉に帰ってきた最初の言葉がそれってどうなのかしら……」
八幡「向こうじゃマッ缶飲めないし、約半年ぶりのマッ缶がつい嬉しくてな」
八幡「コーヒーに練乳淹れるのもいい加減嫌になってたし」
雪乃「練乳……」
八幡「お前は俺がコーヒーに練乳ぶち込むたびに顔引き攣るよな。てか今も引き攣ってるけど」
雪乃「毎度あんなえげつないことされると見ているだけで口の中が甘ったるくなってくるのよ……」
八幡「案外うまいんだぞ。あ、家着いたら雪ノ下もやってみるか?」
雪乃「いいえ結構よ。死んでもやらないから」
八幡「お、おうそうか……。それにしても千葉駅に着いた時の帰省した感って半端ないよなー」
雪乃「その気持ちは少しわかるわ。向こうの駅はここまで大きくないし、都会な感じが懐かしく感じるのよね」
八幡「だよな。モノレール走ってるだけでわくわくするわ。ま、色々寄り道したいとこだが小町も待ってるだろうしさっさと向かうか」
雪乃「そうね。久しぶりにこの辺りを歩くにもできれば荷物を置いてからの方が良いし」
テレンッ
八幡「ん……?」
雪乃「あら、由比ヶ浜さんからメールだわ」
八幡「由比ヶ浜? 千葉に帰ったの連絡してたのか?」
雪乃「ええ。一応電車に乗っている時、由比ヶ浜さんへこっちに帰ることをメールで伝えておいたのよ」
八幡「ほーん。返事は?」
雪乃「近々三人でご飯食べに行こう、だそうよ」
八幡「飯か。由比ヶ浜とはちょうど一年くらい会ってないな。年明けにメールでやりとりはしたが」
雪乃「私は今年由比ヶ浜さんと二人で初詣に行ったわ」
八幡「俺が陽乃さんに日帰りで東京まで連れて行かれた時か……」
雪乃「ええ。年明け早々姉さんと二人でどこかへ出掛けに行ったみたいだけれど、東京までわざわざ何をしに行っていたの?」
八幡「あれなー……俺もよくわからん。なんかめちゃくちゃ人が多い神社に連れてかれた」
雪乃「神社……?」
八幡(確かいきなり叩き起こされたかと思ったら、そのまま結婚のご利益があるとかで明治神宮まで連れて行かれたっけか……)
八幡(何だかんだ陽乃さんが一番俺らを応援してくれてるんだよな……。ありがたい反面、あの人も平塚先生と同じ道を行きそうで不安だ……)
八幡「……まぁ今度二人でその神社行こうぜ。とにかく人が多いから覚悟しといた方がいいけどな。下手したら死ぬ」
雪乃「え、ええ…………え? そんなに物騒なところなの……?」
八幡「いや全然。冗談だ冗談。そんでその飯はいつになりそうなんだ?」
雪乃「くだらない嘘をつかないでちょうだい……。ご飯の件はつい先ほど由比ヶ浜さんがお店に三人で予約を入れたそうよ。日は明後日みたいね」
八幡「近々どころかすぐじゃねぇか……。それに一切の拒否も受け付けないよう既に三人で予約を入れておくとは……やるな由比ヶ浜」
雪乃「元はと言えばあなたのとりあえず断る癖が悪いのよ。この前のデートといい、結局行くのだから初めから受けなさい」
八幡「と言われてもな……。クセになってんだ、とりあえず断るの」
雪乃「…………えっちの誘いはすぐに受けるくせに」
八幡「え、あ、いや、その、あれは、ほら、あー……」
雪乃「なにを挙動不審になっているの? いいから早く行きましょう。不埒谷くん?」
八幡「……うい」
雪乃「……あ、あの」クイクイ
八幡「あん?」
雪乃「……手、繋いでくれないかしら」
八幡「はい? いや俺んちもうすぐそこだぞ?」
雪乃「だ、だからお願いしてるのよ。家に着いたら比企谷くんとあまり…………だし」
八幡「え? なんだって?」
雪乃「……家に着いたら二人きりになる時間が減るから今の内にあなたに触れておきたいと言ったのよ。何度も言わせないでヒキガエルくん」
八幡「最後の一言で可愛いセリフが全部台無しになったんですけど……。ほんとの蛙みたいにヌメヌメにしてやろうか」
雪乃「こんな住宅地の一角で変なこと言わないでちょうだい」
八幡「ヒキガエルも俺にとっちゃ十分変なことなんですが……」
雪乃「?」
八幡「その困ったら小首傾げて誤魔化すのやめろ。許しちゃうから」
八幡「はぁ……ほれ。今周りに人いないし手くらいなら繋ぐけど、別にこれくらいなら家着いてもできるだろ」
雪乃「そうかしら。小町さんもいるし、どちらにせよしばらくの間は……お、おあずけになるわけだし……」ギュッ
八幡「へぇ、おあずけ。……へぇ」
雪乃「……にやにやしないでもらえるかしら。気持ち悪いから。とてつもなく気持ち悪いから。本当に気持ち悪いから」
八幡「三回も言うなよ……さすがに傷付いちゃうぞ」
雪乃「では逆に聞くけれど比企谷くんは平気だとでも言うの? その……いつものように私を好きにできないのよ?」
八幡「何その卑猥な言い方……。いやまぁ、そういう風に言われると俺も平気じゃないけど……」
雪乃「でしょ? だから今こうしてできる限りの充電をしているのよ」ギュッ
八幡「……充電ねぇ」
雪乃「さ。いい加減立ち止まってないで行きましょう?」
八幡「……その充電ってやつ、俺も良いか?」
雪乃「……え?」
八幡「………」グイッ
雪乃「きゃっ……ひ、比企谷くん!?」
八幡「………」ギュー
雪乃「ちょ、ちょっとこんな道端で……」カアア
八幡「…………うし。行くか」
雪乃「……こ、こんな所で突然抱きしめてこないで。誰かに見られたらどうするのよ」
八幡「悪かったって。おあずけとか言われて急に我慢できそうになくなったから一応な……。まぁ、周りに誰もいなかったしセーフだろ。……多分」
雪乃「多分とか言っている地点でセーフとは言えないのだけれど……。それと自覚しているとは思うけれど、あなた今物凄く顔が真っ赤よ?」
八幡「だろうな……。想像を絶するほど恥ずかしかったから二度と外ではやらん」フイッ
雪乃「それに巻き込まれた私の方が恥ずかしいわよ……。まったくもう、家を出る前にも抱きしめてきたくせに変なところで大胆になるんだから」
八幡「………」
比企谷宅
八幡「ただいま、っと」
雪乃「お邪魔します」
八幡「おーい小町ー。帰っ」
小町「あ! お兄ちゃんお帰……わー! お久しぶりです雪乃さーん!」ダキッ
雪乃「ちょ、ちょっと小町さんいきなり抱きつかないで……」
小町「あ、すみません嬉しくてつい抱きついちゃいました……。ようこそいらっしゃいました雪乃さん!」
雪乃「ふふ、久しぶりね小町さん。元気そうで何よりだわ」
小町「小町はいつだって元気です! お母さんなんて雪乃さんが来るって聞いたその日からエステと美容院に行ってスタンバってましたからね!」
雪乃「そ、そう。き、来た甲斐があったわ」
小町「今日もお母さんたちはお仕事に行っているんですけど、今日は意地でも早く帰ってくるそうなのでまたお母さんと三人でお料理しましょうね!」
雪乃「ええ、是非。ということは後で買い物に行っておいた方がいいかしら?」
小町「ですね! 後で一緒に行きませんか?」
雪乃「ええ、もちろん。今日の夕飯は何にするか決めているの?」
小町「んーそうですねー。まだ決めてないんですがー……あ、ギョーザなんてどうです? 作りながら話せて楽しいですし!」
雪乃「餃子……良いと思うわ。比企谷くんも餃子好きだしね」
小町「ではでは後でギョーザと肉じゃがに使う食材を買いに行きましょー!」
雪乃「少し待って? 肉じゃがはどこから出てきたのかしら……」
小町「あ、これはただ単に小町が雪乃さんの作る肉じゃがを食べてみたいってだけですっ」
雪乃「そういうことね。別に構わないけれど……あまり期待はしないでね?」
小町「こればっかりは嫌でも期待しちゃいますよ! 雪乃さんが作る料理は何だっておいしいですからねー。お兄ちゃんがうらやましいなー」
雪乃「……そんなこと。煽てても何も出ないわよ?」
小町「いえいえ、これは本心ですので! 未来の義妹として小町も雪乃さんみたいにもっともっと料理上手にならないとなー」
雪乃「小町さんが……義妹……」
小町「はい、義妹ですよっ。雪乃さんが嫌でなければ、小町はいつでも雪乃さんのことお義姉ちゃんって呼んじゃいますからね!」
雪乃「そ、そう。嫌ではないけれどその……」
小町「雪乃お義姉ちゃん!」
雪乃「……っ」
小町「ささ、いい加減立ち話もなんですし中へどーぞっ。カー君も待ってますよ?」
雪乃「カマクラさん……! で、ではお邪魔します」
小町「あっ、お荷物お持ちしますよっ! お義姉ちゃん!」
雪乃「あ、ありがとう小町さん」カアア
八幡「……おーい。二人とも誰か忘れてなーい?」
八幡「久しぶりの我が家……。俺の部屋とかそのままにしてるのか?」
小町「うん。ほとんど弄ってないよ。あ、でもこの前欲しい物があってお金が少し足りなかったからお兄ちゃんの部屋にあった本少し売っちゃった」
八幡「おい。…………おい」
小町「い、いいじゃん埃も被ってたし! お兄ちゃんから大学の入学祝もらってなかったし、その売ったお金で許してあげるから!」
八幡「まず俺から貰う前提なのがおかしいだろ……。まぁ、本棚の本はもう殆ど放置してたし別に良いけどよ……」
小町「あ、そうなの?」
八幡「一応言っておくが、だからと言って俺が帰った後さらに売って自分の小遣いにしようとするなよ……?」
小町「え……。そ、そんなことするわけないじゃーん」ニカッ
八幡「売られたくない本は帰る時一緒に持ってくか……」
小町「ほ、ほんとにしないってば!」
カマクラ「………」ヌッ
八幡「お、カマクラ。元気にしてたか?」
雪乃「……!」
カマクラ「ふすっ」プイッ
八幡「この野郎……」
小町「ほらおいでカー君。雪乃さんだよー?」
カマクラ「………」フンスッ
雪乃「お、おいで……?」
カマクラ「………」トコトコ
雪乃「~~~っ」ギュー
カマクラ「なーん」ゴロゴロ
雪乃「…………はふ」
八幡「なんでこの家の連中は俺よりも雪ノ下を歓迎してんの……」
小町「だってお兄ちゃん全然家に連絡くれないじゃん。死んだかと思ってた」
八幡「勝手に殺すなよ……。てか少し前までは小町から電話くれてたじゃねぇかよ」
小町「あー、うん。段々電話するの面倒になってきちゃったからもういいかなーって。あと雪乃さんと電話した方が楽しいし」
八幡「ひどい。小町ちゃんひどい……」
小町「それはそうとお兄ちゃん。ちゃーんと雪乃さんと仲良くやってる?」
八幡「やってなかったら一緒に帰ってないだろ」
小町「そうじゃなくてさー……。はぁ、お兄ちゃん相変わらずだなぁ。でも、まだまだ二人がラブラブそうで小町安心だよ!」
八幡「ラブラブってお前な……。そういうお前も元気そうで良かったわ。少し見ない間に背も伸びてるし」
小町「小町はいつだって元気だよ。お兄ちゃんがいつ帰ってきても笑顔でお迎えしたいからね! あ、今の小町的にポイント高い!」
八幡「久しぶりに聞いたわそれ……。大学生活の方はもう慣れたか?」
小町「うん、最初は色々戸惑ったけどねー。でも大志くんと大志くんのお姉さんが色々教えてくれて今はもう超楽しいよ!」
八幡「は? 大志? おいちょっと待て。あの小僧も大学一緒なのか?」
小町「言ってなかったっけ? 大志くんと大志くんのお姉さんとは小町同じ大学だよ? 学部も大志くんと一緒だし」
八幡「あんのクソガキ……。小町に手ぇ出してねぇだろうな……」
小町「なーに言ってんのお兄ちゃん……。そんなわけないでしょ」
八幡「本当か?」
小町「うん。大志くんってね、小町がお願い事したらお願いしたこと全部やってくれるからすっごく便利なんだよ」
八幡「……お、おぉ」
八幡(クソガキなんて言って悪かったな大志……。これからも小悪魔小町を頼んだぞ……。パシリとして)
小町「あ、そうだ。雪乃さん雪乃さん」
雪乃「……?」
小町「良かったら今日は小町の部屋で一緒に寝ませんか? 色々お話し聞きたいですし」
雪乃「ええ、喜んで。私も小町さんとはゆっくりお話ししたいと思っていたから」
小町「やった! じゃあ積もる話はまた夜にするとしてー……ぶっちゃけ、お兄ちゃんとはどこまでいったんですか?」
八幡「小町ちゃーん? お兄ちゃんのいる前でそういう質問しないでもらえるー?」
小町「えー。でもやっぱ気になるんだもん。あのごみいちゃんの彼女さんだよ? 普段どうやってお兄ちゃんをデレさせているとか知りたいし!」
雪乃「で、デレさせてなんかいないわよ……」
小町「そうなのお兄ちゃん?」
八幡「………」フイッ
小町「……ふぅん」ニヤニヤ
八幡「やめろ察すな」
雪乃「そ、それでその、ど、どこまでというのは……?」
小町「あのですねー。お兄ちゃんってチキンなとこありますし、お二人はカップルとしてのコミュニケーションがあまりできてなさそうなイメージがありまして……」
小町「ずばり! 小町はうちのお兄ちゃんが雪乃さんのことを彼氏として、ちゃーんと満たしてあげれているのかを聞きたいのです!」
雪乃「なるほど……。それについては心配いらないわね」
八幡「………」
小町「お~。そうなんですか?」
雪乃「ええ。いつも彼には支えてもらっているし、十分すぎるほど満たしてくれていると思うわ。それに、昨日も彼から誘―――っ!?」ハッ
小町「昨日も、ですか。ふんふん」
雪乃「あ、いえ、その、ち、ちが、違うの。今のはその、あ、あの……」
小町「え? デートの話ですよね?」
雪乃「………」
小町「あっ……あー……」
雪乃「………」カアア
小町「ふっふっふ……。これは夜にじっくりねっとりがっつり聞かせてもらう必要がありそうですね!」
八幡「勘弁したげてよぉ……」
結衣「あ、ゆきのん! ヒッキー! こっちこっちー」
八幡「おう。久しぶりだな由比ヶ浜」
雪乃「こんばんは。由比ヶ浜さん」
結衣「うんっ、おいす~。二人とも久しぶりー」
八幡「………」
雪乃「………」
結衣「あ、あれ……? 二人とも急に黙ったりしてどうかした? あ、あたしの格好どこか変だった?」
雪乃「いえ、そういうわけではなくて……ね?」
八幡「あ、ああ。何か馬鹿っぽい挨拶がまた変わってるなーと思ってな」
結衣「ば、馬鹿じゃないし! や、やーその今あたしらの周りでおいす~って挨拶するのが流行っててさー」
八幡「へー」
結衣「可愛くない? おいす~って」
八幡「はいはい可愛い可愛い。いいからとりあえず店入ろうぜ」
結衣「うわー。ヒッキー超どうでもよさそう……」
八幡「馬鹿っぽいのに変わりはないからな」
結衣「だから馬鹿とか言うなし! ヒッキーのくせに!」
八幡「俺のくせにってなんだよ……」
雪乃「馬鹿っぽいというのはひとまず置いておくとして、私は以前の方が好きね」
結衣「置いとくんだ……。んー、優美子にも前の方があたしらしいって言われたんだよね」
雪乃「そうなの? なら私も三浦さんと同じ意見よ。比企谷くんもそう思わない?」
八幡「え。あー、まあな。少なくとも前の方がこう、ほら何て言うか……また集まったって感じするしな」
結衣「ヒッキー……」
雪乃「また再会できたという気持ちになるのは凄く共感できるわね」
結衣「えへへ……。そっか、そうだよね」
結衣「それじゃあ改めて……二人ともやっはろー!」
八幡「お、おう」
結衣「ほらほら! 久しぶりに集まったんだから二人も一緒に! やっはろー!」
雪乃「え…………や、やっは、ろぉ?」
八幡「やっ……いや言わねぇよそんな馬鹿っぽい挨拶」
雪乃「えっ」
結衣「あーあ。ゆきのんも言ってくれたのにヒッキーそんなこと言うんだー。ひどーい」
雪乃「……馬鹿っぽい女で悪かったわね」
八幡「ちょ、ちがっ」
雪乃「ならあなたも言いなさい。私だけ言って馬鹿みたいじゃない」
結衣「ゆきのん!? ゆきのんもさりげなくひどいこと言ってるよ!?」
結衣「かんぱーい!」
八幡「乾杯。由比ヶ浜とこうして会うのも一年ぶりだな」
結衣「そだねー。ヒッキー全然変わってなくて安心した。あ、外見の話ね? 中身も変わって無さそうだけど」
八幡「まぁどっちも大して変わってないな。そういう由比ヶ浜も全然変わってなさそうだし」
結衣「え!? 結構変わってると思うんだけど……」
八幡「中身の話だよ……。外見はまぁ、だいぶ変わったな」
結衣「でしょ。いい加減キチンとしないとなーと思ってお団子はやめて髪も染めて大人っぽくイメチェンしてみたの」
結衣「似合ってる……かなっ?」
八幡「あ、あぁ……よ、よく似合ってると思いますよ?」
結衣「そ、そか。……ありがと」
八幡「おぉ……」
雪乃「……こほん」
結衣「っ! ご、ごごごめんねゆきのん! へ、変な意味でヒッキーに訊いたわけじゃないよ!?」
雪乃「あ、いえ、そうではなくて、私だけ会話に入れていなかったから……は、入るタイミングをその」
結衣「ご、ごめんごめんっ。ゆきのんとは初詣以来だよね」
雪乃「そうね。学業の方は順調?」
結衣「うっ……。う、うん! 順調……かなー? ………………」
八幡(最後めちゃくちゃ小さな声で辛うじてって言ったぞこいつ……)
結衣「あたしどうしても今の勉強よりも来年の就活のことが気になっちゃうんだよね。まだ少し先だけど」
八幡「分かる。働きたくないもんな」
結衣「いやいや、そういう意味で言ったんじゃないし」
結衣「ほらあたしって勉強苦手だし、最近新しく始めたバイトだって仕事覚えるの遅いしであたしの就職先なんて本当に決まるのかなーって……」
八幡「お前なら大丈夫だろ」
雪乃「由比ヶ浜さんなら大丈夫よ」
結衣「え? ヒッキー……ゆきのん……」
八幡「勉強が苦手だとか仕事覚えるのが遅いみたいな短所は言わずに黙っとけばいいし、今からでも努力すれば十分何とかなるだろ」
雪乃「そうね。それに由比ヶ浜さんには私や比企谷くんには無い魅力がたくさんあるじゃない」
八幡「だな。てかお前なら」
雪乃「協調性があって相手の気持ちを汲み取れるところやコミュニケーション能力が高く臨機応変に対応できる、とかね」
八幡「お、おお……俺もそれが言いたかった」
結衣「えー? そ、そんな、そんなことないよぉ」カアア
八幡「そんなことあるだろ。面接の時は……」
雪乃「由比ヶ浜さんの笑顔は誰よりも素敵なのだから、面接の時には笑顔を見せるといいかもしれないわね」
八幡「………」
結衣「ゆ、ゆきのん……っ!」ダキッ
雪乃「ちょ、ちょっと由比ヶ浜さんっ……」
八幡(言えない。言えるわけがない……)
八幡(お前なら面接の時に胸元出しとけば大丈夫だろって言おうとしてたなんて、口が裂けても言えない……!)
八幡(……というか俺はなに言おうとしてたんだよ。もし言ってたらラリアット不可避だったな……。許せ由比ヶ浜……)
雪乃「その……暑苦しいからそろそろ離れてもらえないかしら」カアア
結衣「え~」
八幡「……ほんっと仲良いなお前ら」
結衣「ヒッキーとゆきのん程じゃないよ」
八幡「いやいや、お前らの方が仲良いだろ。その辺どうなんだ? ゆきのん」
雪乃「わ、私に振らないでよ……」
結衣「ゆきのんどっちどっち? あたしとヒッキー、どっちの方が仲良いと思ってる?」
雪乃「……その質問は少し卑怯ではないかしら」
結衣「あ! じゃあ、あたしとヒッキーどっちが好き? レイクじゃなくてラブの意味で!」
八幡「レイクじゃなくてライクな。別にキャッシングとかしないから」
結衣「わ、わわわざと間違えただけだし! ……で、ゆきのん! ど、どどどどどどっち!?」
雪乃「……そ、それは」
結衣「それは?」
八幡「………」
雪乃「…………ら、ラブ、なら比企谷くん、かしら」カアア
結衣「ひゃー! やっぱり照れてるゆきのん可愛い! 二人が相変わらずで安心したよ!」ギュー
雪乃「だ、だからすぐ抱き着いてこないで……」
八幡「百合ヶ浜間違えた、由比ヶ浜。お前もしかして酔ってる……?」
結衣「え? 全然酔ってないよ? なんで?」
八幡「いや……無駄にテンション高いから酔ってるのかと思ったわ」
結衣「あーね。やっぱりこうして三人で集まると楽しいなーって思ったらテンション上がってきちゃってさー」
八幡「そ、そうか。てか由比ヶ浜って結構酒強いのか? 何だかんだ俺より飲んでるよな」
結衣「ふふんっ、まーね。あたし的にお酒はかなり強い方だと思ってるよ!」
八幡「へぇ、意外だな。酒に弱いイメージだったのに」
結衣「うーん、それ結構皆に言われるけどあたしってそんな風に見える?」
八幡「他の意見は知らんが俺からすれば由比ヶ浜はちょっと飲んだだけでふえぇ……って酔い潰れると思ってた」
結衣「えー、そうかなー。優美子たちとお酒飲みに行く時は毎回あたしが一番飲んでるよ? で、戸部っちが毎回一番に寝る」
八幡「戸部ェ……」
雪乃「…………お酒」
結衣「そういえばゆきのんはお酒苦手なの? 全く飲んでないけど」
八幡「ああ、こいつ下戸なんだよ」
結衣「げ、げこ? ゲコ……ゲ……蛙?」
雪乃「それは比企谷くんよ」
八幡「おい誰が蛙だ。下戸だ下戸。上下のゲに戸籍のコで下戸な。酒飲めない奴をそう呼ぶんだよ」
結衣「下戸……ほえー知らなかった。じゃあゆきのんお酒ダメなんだ」
雪乃「ええ……。おいしくないからとかそう言った理由ではなくて、少し飲んだだけでその日の記憶が軽く飛んでしまうからそれで……」
結衣「そ、そうなんだ……ちょっと意外かも」
八幡「酔った雪ノ下はまるで別人だからな」
結衣「え、そうなの!? どんな感じっ!?」
八幡「そうだなー……もろ陽乃さんだな」
結衣「ほへー、あのゆきのんが……」
雪乃「姉さんに似るというのは私も初耳なのだけれど……」
八幡「まぁ言ってなかったからな。酔った時の雪ノ下は、高校時代の雪ノ下を知ってる連中からしたらかなりレアだと思うぞ。泥酔すると暴走しだすしな」
結衣「まじ!? す、すっごく気になる……」
雪乃(言われてみれば一色さんの誕生日以来、彼女は私を名前で呼ぶようになったけれどそれと何か関係があるのかしら……)
雪乃(心なしか目が怯えていた様にも感じたし、今度改めて聞いてみる必要がありそうね……)
雪乃「………」
結衣「ゆきのん……?」
雪乃「っ。な、何かしら」
結衣「あ、うん。そろそろ何か追加で注文しようかなーって思ってるんだけど、ゆきのんは何か頼みたいものある?」
八幡「俺チーズもちと枝豆」
結衣「あ、チーズもち! あれおいしいよねー。あたしも後で一個ちょーだいね?」
八幡「おうよ」
雪乃「私は……そうね。エイヒレをお願いできる?」
結衣「おっけー。じゃああたしは……揚げ出し豆腐とタコわさにしよっと!」
八幡「お前らのチョイス中々渋いな……」
結衣「あはははっ! そうそう、あの時のヒッキーときたらさー」
雪乃「うふふ、そんなこともあったわね」
ガラガラ
店員「っしゃあせー! 何名様で?」
女「お一人様ですが何か?」
店員「うぇっ」
女「何か?」
店員「」
八幡(あれ、今の声どこかで……)
静「一番奥のカウンター席は空いていますか?」
店員「あ、はい。こ、こちらへどーぞ!」
八幡「やっぱり」
静「ん? ……比企谷? おお、比企谷じゃないか!」
八幡「お久しぶりです」
静「成人式以来だな。こっちへ帰って来てたのか」
八幡「ええ、まぁ」
結衣「え!? 平塚先生!?」ガタッ
静「由比ヶ浜……それに雪ノ下も。なんだ、三人で集まっていたのか」
雪乃「ご無沙汰しています」
結衣「こんばんはー。平塚先生は誰かと待ち合わせですか?」
静「………」
八幡「………」
静「…………だ」
結衣「え?」
静「……一人だ」
結衣「あ……え、えーと」
静「……一人だ。ははっ、ははは……」
結衣「………」
八幡「ばっかお前、相手がいようがいなかろうが平塚先生に待ち合わせ云々を聞くのはタブーだろ!」ボソッ
結衣「だ、だってこういったお店に一人で来るなんて思わなかったんだもん!」ボソッ
八幡「あの平塚先生だぞ。下手したら常連の可能性だってあるぞ!」ボソッ
雪乃「やめなさい二人とも。平塚先生が少し泣きそうになっているじゃない」ボソッ
静「………」
結衣「え、えっと……良かったら平塚先生もあたしたちと一緒にどうですか!? 」
静「……い、いや、私は遠慮しておくよ。君たちの再会に水を差すわけにも」
八幡「そんなことないですよ。先生にだってまた会いたいと思ってましたし、先生とまた酒を飲みたいとも思ってましたよ」
雪乃「恩返しと言うのもなんだけど、平塚先生とはいつかこういった場を設けたいという話は奉仕部でしていたものね」
結衣「うんうん!」
静「……そ、そうなのか?」
結衣「はい! 本当は皆がちゃんと就職してからーってつもりだったんですけどね。折角出会ったんですし今日は第一回ってことで!」
八幡「散々殴られたり怒られたりしてきましたけど、それでもやっぱり一番お世話になったのは平塚先生ですし……まぁ、先生が嫌じゃなけりゃ」
静「比企谷……」
八幡「俺、成人式の時よりかは飲めるようになってますよ」
結衣「あ、あたしもお酒飲めます!」
雪乃「………」フイッ
静「お前たち……」
雪乃「ですから平塚先生。良かったら、ご一緒しませんか?」
静「………」
静「……うん」
静「…………うん! ご一緒するぅ!」グスッ
結衣「改めてかんぱーい!」
静「んぐ……んぐ……ぷはっー! こうして教え子たちと飲む酒は格別だな! 生おかわり!」
店員「はいよ!」
八幡「え、嘘でしょ……? 今この人ジョッキ一口で空にしたぞ……?」
静「それにしても比企谷も雪ノ下も元気そうで何よりだ。向こうでの生活はどうだね」
八幡「最初は色々苦労しましたけど慣れてみれば案外快適ですよ。まっ、千葉と比べると不便なことは多々ありますけど」
雪乃「私たちの住む地域はどちらかと言えば田舎に近いから仕方ないわね。由比ヶ浜さんは平塚先生とは卒業後も会ったりしていたの?」
結衣「うん。高校で文化祭がある時は毎回優美子や姫菜たちと遊びに行ってるからねー。その時に先生とはよく会うよ。あ、小町ちゃんともよく会ってたんだよ?」
八幡「あーそういえばそんなこと小町が言ってたな」
静「比企谷妹も無事に卒業したからなぁ……。彼女は本当に良い子だったよ。君とは違って」
八幡「おい、最後の一言いらないだろ……。あいつ生徒会ではうまくやってましたか?」
静「ああ。比企谷妹と川崎弟の会長副会長コンビは城廻や一色以上に積極的で行動力があった。文化祭も大いに盛り上げてくれたよ」
八幡「……大志………大死ぃ」
結衣「ひ、ヒッキー顔が怖いよ……」
雪乃「そっとしておいてあげましょう由比ヶ浜さん。彼は今シスコンを拗らせているだけだから」
八幡「シスコンを病気扱いにすんなよ……。てかシスコンじゃねーから!」
雪乃「よく言うわね……。もはや重症なのに」
八幡「俺程度でシスコンなら千葉のお兄ちゃんは今ごろ全員病院行きだぞ」
静「…………ちなみになんだが比企谷と雪ノ下は、そのなんだ。まだ関係は続いているのか?」
八幡「え……ま、まぁお蔭様で」
静「……けっ」グビグビ
八幡「………」
結衣「あ、あたしもちなみになんだけど……ゆ、ゆきのんはヒッキーとは一緒に住んでたりするの? 同棲っていうか、さ」
雪乃「同棲とまでは呼べないけれど……さ、最近は殆ど比企谷くんのおうちで寝泊りしている、かしら」
結衣「……けっ」グビグビ
雪乃「………」
静「由比ヶ浜はどうだ。君も大学生なんだから彼氏の一人や二人いるんじゃないか?」
結衣「全然いないですよ……。周りは普通に彼氏いるのに私は……」
静「いいんだ由比ヶ浜。言いたいことはわかる、わかるぞ……。私もつい先月大学時代の知り合いが結婚してな……」
結衣「そういう時って色々のろけ話聞かされちゃうんですよねー。あたしも友達に彼氏ができた時はいっつも色々話聞かされて……」
静「そうだなぁ……。別に聞きたくないってわけではないんだがなぁ……」
結衣「何て言うかこう……心にズシンと来ますよねー……」
静「君はその年でもうこの気持ちがわかるのか……」
結衣「はい……」
静「由比ヶ浜……」
結衣「平塚先生……」
静「乾杯!」
結衣「かんぱいっ!」
静「………」グビグビ
結衣「………」グビグビ
静「ぷはー! 生もういっちょ!」
結衣「ぷはー! あたし次は梅酒ジンジャー!」
静「待っておけよ比企谷! 君たちよりも先に私が結婚してやるんだからな。ふはははは!」グビグビ
結衣「あたしだって自慢できる彼氏作っていつか二人に紹介してやるんだからね! あっはっはっは!」グビグビ
八幡「どうすりゃいいのこれ……」
雪乃「さ、さぁ……」
八幡(この二人は本気出せば彼氏くらい余裕で作れることに気付くべきなんだよなぁ……。平塚先生は全部空回りしてるけど)
静「…………はぁ」
結衣「…………はー」
静「……まぁ、冗談はさておき。私は君たち三人が相変わらずで安心したよ」
八幡(先に結婚してやるって言ってた時は目がわりとガチだったけど、あれほんとに冗談だったの……?)
静「由比ヶ浜は学校行事のある際は何かと遊びに来てくれているからあまり心配はしていなかったが、君たち二人はどうも不安でならなくてね……」
雪乃「私たち、ですか」
八幡「言わんとすることは何となくわかってますけどね……」
静「これでも私は君たち二人が卒業して地方の大学へ進むと聞いた時は心底心配をしたものだ」
八幡「……そうなんすか」
静「うむ。雪ノ下はあまり心配は無用だと思っていたが、比企谷は、なぁ……」
八幡「………」
静「大学というのは中学や高校と比べると遥かに自由だ。学校をサボろうがバイトをしようが全て本人の自由、そうは思わなかったか?」
八幡「思うと言うか事実でしょ」
静「そうだろう? 私はそういった自由と言う名の自立生活に比企谷が嵌ってしまうのではないかと思っていてな」
八幡「そんな自立も糞もないですよ。千葉を出ようが大学に入ろうが今まで通り何も変わってないですからね」
静「馬鹿者。私はその何も変わらないことを心配していたんだ」
八幡「?」
静「高校時代の君を見守ってきた立場からすれば、どうも君には怠け癖や諦め癖がある」
八幡「……否定はできないですね」
静「事実を述べているからな。たしかに大学生活は皆が思うように自由だ。講義をサボっても誰も怒らないし課題を提出するしないは本人の気分次第だろう」
静「だからこそ、私はそういった面で君を心配したんだ」
八幡「………」
静「君は朝から講義ある日はちゃんと出席しているかね?」
八幡「……い、一応出るには出てますけど、雨降った日とかはたまに休んだり……」
静「君たちはもう三回生だったよな? ならゼミにも配属されている頃だろう。ちゃんと集まりがある際には顔を出しているか?」
八幡「あー……」
静「はぁ。私が心配していた通りだな……」
八幡「……なんかすんません」
静「私は端から君に人間関係のことなど期待しちゃいない。卒業した後も君はどうせ群れを拒むと思っていたし、拒んだ上で上手くやっていけるとこを知っていたからな」
静「しかし生活面となると別だ。サボりや遅刻。こればかりは将来就職した際、周りにも迷惑をかける」
八幡「い、いや毎日そんなだらだら過ごしてるわけじゃないですし……。てか就職したらさすがにサボらないですよ……」
静「と思うだろ? だが最近の若者はどうも性根が腐っていてな。大学で散々自堕落な生活を送ると社会に出ても休み癖や遅刻癖がついてしまうんだよ」
静「私もかつてその一人だった。……あの時は猛省したなぁ」
八幡「あんたの話かい……。最近の若者って言うからてっきり」
静「あぁん?」
八幡「ひっ……。ななな何でもないでしゅ」
静「はぁ……君のことだ。どうせ雪ノ下が傍にいない時だけ家畜のように食っちゃ寝の生活をしているんだろう」
八幡「そ、そんなことは……」
雪乃「……もし平塚先生のおっしゃる通りならもう少しあなたの生活に目を配る必要がありそうね」
八幡「配らなくていいから……。ていうか家畜はひどすぎませんかねぇ……」
静「私はもう君の先生ではないからな。多少汚い言葉を使ったって誰も文句は言わん」
八幡「俺が文句言いたいんだけど……」
静「……まぁ。何だかお説教染みたことを長々と言ってしまったが、要するに私はもう君たちとは生徒先生の関係じゃない」
静「しかし、それでも仮に間違いや過ちを侵したり、誰にも相手にされなくなっても私だけはこうしてちゃんと注意してやる。しっかりと見守ってやる」
静「だからこれからは人生の先輩として辛いことや分からないこと、将来の悩みや相談といった周りに訊き難いことがあれば遠慮無く私にぶつけてくれ」
静「話は最後まで聞いてやるし、分からないことには出来る限りのフォローやヒントは出してやろう」
静「私はこう見えても後輩の面倒はちゃんと見る性分だからな」
八幡「………」
静「――と、まぁ本当はこの言葉を君たちが卒業する日に伝えるはずだったんだが、式当日は色々と忙しくて君たちに贈ることができなくてな……」
静「今更だが受け取っておいてくれ」
雪乃「………」
静「なんかすまないな。居酒屋でこんな辛気臭い話はするもんじゃない。さあ、次は君たちの大学生活での実りのある話でも聞かせてもらおうか!」
結衣「平塚先生…………。あ、もう先生じゃないんだ……」
静「なぁに、呼ぶ時くらいは先生でいいさ」
雪乃「平塚さんというのも少し違和感があるわよね……。静さん?」
静「まぁ、君たちにならどう呼ばれたって構わないさ。好きに呼びたまえ」
結衣「あ、なら陽乃さんみたいに静ちゃんは!?」
静「し、静ちゃんか……。ちゃん付けは若く聞こえるから悪い気はしなくもないが……生徒のいる前では勘弁してほしいな」
八幡「いっそのこと三十路とか」ボソッ
静「衝撃の……」スッ
八幡「好きに呼べって言ったのに! 好きに呼べって言ったのに!!」
静「本当にタクシー呼ばなくていいのか? 私はタクシーで帰るが一緒に乗って行っていいんだぞ?」
結衣「あたしはここからなら歩いた方が早いので大丈夫です!」
八幡「俺も雪ノ下もここからならタクシー代無駄になるだけなんで」
静「そうか。なら私はここでタクシー来るのを待つから、ここで解散にしようか」
八幡「ですかね。先生、今日はありがとうございました」
静「それはこちらのセリフだよ。久しぶりに君たち三人と話せてよかった。ありがとう」
結衣「い、いえいえ!あたしらだけでお会計するつもりだったのに、結局お金も少し出してもらっちゃいましたし……」
静「いいんだ。ご馳走してもらうのは君たちがちゃんと社会に出てからが良いからね。なんなら今日は私が持っても良かったが」
八幡「いやいや、さすがにそういうわけには……」
静「まぁ、比企谷ならそういうと思ったさ。だから次に君たちからお誘いを受けた際は遠慮なくご馳走になるとするよ」ニヤリ
八幡「お、おぉ。あまり高い店は勘弁してくださいよ……」
静「安心したまえ。お堅い店はあまり好きではなくてね。私にはコース料理やビュッフェなんかよりもこういった居酒屋の方が似合うだろう?」
雪乃「……たしかに」
八幡「先生はワインよりもウィスキー、ビールよりも焼酎って感じですもんね」
静「一応褒め言葉として受け取っておいてやろう……」
静「さっ、いつまでも店の前で駄弁るのも悪いしお開きとしよう。アルコールも回っていることだし、気をつけて帰るように」
結衣「はーい。静ちゃんもお気をつけて! ほら、ゆきのん!」
雪乃「え、ええ。またお会いした際はよろしくお願いします。……しし、し、静ちゃん」
静「あ、ああこちらこそ。ゆ、雪ノ下まで静ちゃん……静ちゃんかぁ……ううむ」
八幡「先生ならちゃん呼びでもまだまだ余裕で通用しますよ」
静「……そ、そうか?」
八幡「はい」
結衣「うんうん」
静「……なるほど、まだまだ私もモテるのか」
八幡「そうは言ってねえ……。まぁでも、未だ先生に惹かれる男がいないってのもおかしな話なんですよね」
静「えっ……?」
八幡「先生ならいつか絶対向こうから良い相手が現れてくれますよ。俺なんかで良ければ保証します」
静「………」
結衣「うわぁ……ヒッキーがそんなこと言うなんて珍し」
八幡「うわぁって何だようわぁって……てかなんでお前ちょっと引いてんの……」
結衣「だってあのヒッキーが……」
八幡「たまには良いだろうが。あー、あれだ。ちょっと酔ってるからな」
雪乃「酔ってる、ね……ふふ」
八幡「じゃ、じゃあ先生。俺らはこの辺で」
静「……そそそそうだな、気をつけて帰るんだぞ。それと、困ったことがあればいつでも連絡してくれていいからな」
雪乃「はい」
結衣「静ちゃんさよならー! 次も絶対誘いますからねっ!」
静「ああ、楽しみにしているよ」
八幡「また二人でも飲みましょう」
静「無論だ」
八幡「では」ペコッ
静「………」
静「私なら、か」
静「…………禁煙でもしてみるか」
結衣「今日は楽しかったねー」
雪乃「ええ、平塚先生にも会えて良かったわ」
結衣「あ、ねぇねぇゆきのん。今日はゆきのんちに帰るの?」
雪乃「いえ。その、今日は比企谷くんのお宅に……」
結衣「ああ……そ、そっか」
雪乃「え、ええ」
結衣「………」
八幡「あーあれだ……雪ノ下。今日くらい由比ヶ浜んちに泊まったらどうだ? 由比ヶ浜が良ければだけど」
雪乃「比企谷くん……」
結衣「え……あ、あたしは全然大丈夫、だけど」
八幡「むこうに帰るのは明後日の予定だし今日くらいは泊めてもらってこいよ。来年は就活やら何やらで会う暇ないかもしれないしな」
結衣「で、でもいいの? ヒッキー」
八幡「何がだ?」
結衣「えっ。何がってほら……ほら、色々あるじゃん!」
八幡「いやわかんねぇよ……。千葉に帰る時は毎回由比ヶ浜んち泊まってたんだろ? なら今日も泊めてやってくれ。積もる話もあるだろ」
雪乃「……そうね。比企谷くんがそう言ってくれるなら、いい? 由比ヶ浜さん」
結衣「う、うん! もちろん!」
雪乃「ありがとう由比ヶ浜さん。比企谷くんも」
八幡「……おう」
結衣「ヒッキー、あたしからもありがとねっ。でも何だか……」
八幡「あ?」
結衣「泊めてやってくれーって……もうすっかりゆきのんはヒッキーのものになっちゃったんだなぁって」
雪乃「なっ……」カアア
八幡「ちょ、その言い方は何かやめてくれ……」
結衣「良いことじゃん。ゆきのんのことちゃーんと考えてるってことだもん。約束、ちゃんと守ってくれてるんだから」
八幡「……まぁ、約束しなくても最初からそのつもりだったからな」
結衣「うん……そっか」
雪乃「……約束?」
八幡「こっちの話だ。そういえば着替えとか大丈夫か?」
結衣「大丈夫だよ。ゆきのんが泊まる時はいっつもあたしの服貸してるから」
八幡「そうか」
結衣「うん。……そうだ。ねぇヒッキー、ゆきのん」
雪乃「なに?」
結衣「二人があっちに帰っちゃうのって明後日だって言ったよね?」
八幡「ああ。明後日の昼にはもう帰るつもりだけど」
結衣「じゃあ、明日は?」
八幡「俺は家で寝て過ごす」
雪乃「私も特には……」
結衣「なら良かった。あたしも明日は特に予定ないからちょうどいいね」
八幡「ちょうどいい? え、なにホンダ?」
結衣「いや意味わかんないし。たぶん大学生でこうして奉仕部として集まるのは今回が最後になると思うし、明日は皆で遊びに行こうよ!」
八幡「そういえば明日何かやることがあったような……」
雪乃「……そうやってまたすぐ断ろうとする」
八幡「うっ……」
結衣「……? もしかして何か用事あった?」
雪乃「いいえ、何も予定は入っていないから私も彼も大丈夫よ」
結衣「そお? よしっ、じゃあ決まりっ!」
八幡「……まぁいいか」
由比ヶママ「あら~、ゆきのんちゃんいらっしゃ~い。久しぶりね~」
雪乃「こんばんは。夜分遅くに突然すみません」
由比ヶママ「いいのよ~気にしないで。結衣には連絡貰ってたしね。お布団敷いといたからゆっくりしていってね~。あ、お風呂も沸かしてあるわよ~?」
雪乃「は、はい。ありがとうございます」
由比ヶママ「それにしてもゆきのんちゃん少し見ない間にずいぶんと大人っぽくなっちゃって~。結衣なんて彼氏できないからってお化粧やネイルして焦ってたのよ~?」
結衣「ちょちょー! 変なこと言わなくていいからー! ていうかそれ去年の話だし! い、いいから部屋行こうっ!ゆきのん」
雪乃「え、ええ」
由比ヶママ「あらあら~。うふふふ」
結衣「ご、ごめんねー? ママったらゆきのんが来てくれたことのがよっぽど嬉しいみたいで……あはは」
雪乃「気にしないで。私も嬉しいから」クスッ
結衣「ゆ、ゆきのんがそういうなら……。あ、座って座って! 適当に寛いじゃっていいからねっ」
雪乃「ありがとう。では、そうさせてもらうわね」
結衣「うんっ。ゆきのんとは、二人でゆっくり話したかったの」
雪乃「私もそう思っていたわ」
結衣「ヒッキーにはあまり聞かれたくない話とか……」
雪乃「……色々あるものね」
結衣「ね……。ヒッキーとはどう? 初詣の時はゆきのんちが忙しくてあまりお話できなかったし色々気になってたんだよね」
雪乃「ひ、比企谷くんと……? ええと、そうね……一言で言うなら順調? なのかしら」
結衣「相変わらず仲良かったもんねー。はぁ、ヒッキーみたいな人他にいないかなぁ……」
雪乃「比企谷くんみたいな人が何人もいてもらっては困る気もするのだけれど……。それに由比ヶ浜さんならすぐにそう言った人と知り合えそうな気もするけれど」
結衣「いやー、そんなことないよ。あたしの通ってる大学は女子大だしね」
雪乃「他大学との交流とかはないの?」
結衣「んー。たまに大学の子が合コンとかセッティングしてくれるんだけど、そういうのに集まる人って大体下心丸見えであまり……」
雪乃「下心……。その気持ちは物凄くわかるわ」
結衣「だよねー。……え、ゆきのんも合コンしたことあるの?」
雪乃「い、いえ。合コンではなくてゼミでの飲みの場で少し、ね……」
結衣「あーなるほどね……。ああいう時ってなんかお酒とか無理矢理飲ませようとしてきたりする人っていない?」
雪乃「ゆ、由比ヶ浜さんもあるの?」
結衣「ってことはゆきのんもあったんだ? いやね、この前あたしが参加した合コンのゲームの罰ゲームが一気飲みでさー」
結衣「その時あたしゲームで負けちゃって一気飲みすることになったんだけど、あたしってお酒強いから全然酔ったりしなくてさ……」
結衣「なんかあたしに執拗にお酒飲ませようとしてくる男の人がいて、もう鬱陶しくて鬱陶しくて……」
雪乃「そ、そうなのね……」
結衣「そうなんだよー。結局あたしの方がお酒強かったからその人が先に潰れちゃったんだけどね」
雪乃「……なんだかすごいわね。由比ヶ浜さんって」
結衣「う、うん。それ姫菜にも言われた……。ゆきのんの時は大丈夫だったの? ゲコ? ってさっきも言ってたし」
雪乃「……その時は断りきれなくて」
結衣「えっ、飲んじゃったの!?」
雪乃「………」
結衣「でもゆきのんちょっと飲んだだけですぐ眠たくなる、というか酔っちゃうんでしょ? 大丈夫だったの!?」
雪乃「ええ……何とか。その時は比企谷くんが迎えに来てくれて助けてもらったのよ」
結衣「ほー、ヒッキーが」
雪乃「嬉しかった半面、彼を怒らせてしまって申し訳ない気持ちの方が強かったけどね……」
結衣「え!? ヒッキーって怒るの!?」
雪乃「ええ。意外よね」
結衣「意外っていうか超意外だよ! どどどんな感じなの?」
雪乃「どんな感じ……かと言われれば、そうね。普段とあまり変化は無いかしら……」
結衣「あー静かに怒るタイプだ。うちのママも怒ると怒鳴ったりはしないけど普段より冷たく笑うから超怖いんだよ……」
雪乃「比企谷くんの場合は笑ったりはないけれど、声がいつもより低くなるわね」
結衣「ふざけんなー! とかコノヤロー! とかは言わないんだ」
雪乃「さすがにそういったセリフを吐いたりはしないかしら」
結衣「へぇー。ヒッキーって元から暗めだし怒るとすごく怖そう」
雪乃「いえ。彼が怒ると怖いというよりかは、優しい……わね」
結衣「怒ると優しい……? 怒ってるのにやさし……んん?」
雪乃「私も今自分で言っていておかしいと感じたわ……」
結衣「一瞬わかんなかったけど、でも、ヒッキーは怒ってもヒッキーなんだなーって思った」
雪乃「ふふっ……そうね」
結衣「はぁー……いいなぁ。あたしだってヒッキーみたいな人と一緒に大学生活送りたいのに、いっつもあるのは姫菜のBL本ばっかりだよ!」
雪乃「そ、そう」
結衣「男同士の良さが全然わかんないのに姫菜ってば合コン行ってもあの人とその人が絡むならあっちが攻めだね! とか言ってくるんだよ? 見分け方わかんないよ!」
雪乃「………」
結衣「あ! 合コンで思い出したけどヒッキーとはポッキーゲームした? 初詣の時に確かヒッキーとそういうゲームしてみたいって言ってたけど」
雪乃「……ええ。由比ヶ浜さんに言われたとおりに何度かやってみたけれど、さすがに途中から恥ずかしくなって数回やってやめたわ……」
結衣「そっかー……。き、キスできた?」
雪乃「……どど、ど、どうだったかしら」
結衣「ゆ、ゆきのん恍けるの下手すぎるよ……」
雪乃「………」カアア
結衣「ポッキーゲームは確かに見てるだけで恥ずかしくなってくるもんねぇ……。もっと簡単なゲームの方が良かった、かな」
雪乃「例えば?」
結衣「んーと……カップルでやるゲームじゃないかもだけど古今東西とかカタカナ禁止ゲームとか……?」
雪乃「カタカナ禁止……?」
結衣「うん。会話の中でカタカナを使ったらダメって言う単純な遊びだよ。一回カタカナ使っちゃうごとに罰ゲームだけど」
雪乃「なるほど……。ちなみに罰ゲームでは何をやらされるの?」
結衣「そうだなー。キス……かな」
雪乃「キ……ずいぶんとハードなルールでやるのね」
結衣「あ、あたしはしてないよ!? 一応罰ゲームの内容はその時その時によるし……。一発ギャグだとか変顔だとか」
結衣「結構盛り上がるからゆきのんも暇な時ヒッキーとやってみるといいよ!」
雪乃「……考えておくわね」
結衣「あ、やっはろー!」
八幡「よ。悪いな、準備に手間取って少し遅れた」
結衣「ううん、直前であれこれメールしたあたしが悪かっただけだよ。ごめんね」
小町「やっはろーです! 結衣さん。お誘いありがとうございますっ!」
結衣「小町ちゃんもやっはろー! 来てくれてありがとねっ」
小町「あのぉ、本当に小町も来てよかったんでしょうか? 皆さんで集まったの久しぶりみたいですし、小町は別に……」
結衣「小町ちゃんにも来て欲しかったから誘ったの! それにある意味小町ちゃんも奉仕部員ってとこあるし、ねっ?」
小町「……結衣さぁん!」
結衣「きゃっ、もぉ小町ちゃんったら。よしよし」ナデナデ
八幡「てかマジで今日行くの? 気分的に夏に行くようなとこじゃなくね?」
結衣「むしろ夏だからいいんだよ。夏なら冬と違って涼しいそうだし!」
雪乃「どうせ室内なのだから夏でも冬でもあまり大差は無いと思うのだけれど」
結衣「き、気分の問題だから細かいことはいいの!」
小町「あのー……。結局今日はどこ行くんですか?」
八幡「ああ、小町には言ってなかったな」
結衣「今日は行くのはね、スケートだよ!」
小町「す、スケート?」
結衣「うわー! 氷だ!」
小町「氷ですね!」
雪乃「スケートリンクに来た最初の感想が氷というのは如何なものかしら……」
結衣「だ、だって氷なんだもん」
八幡「しっかし何でまたスケートなんだ? 新鮮ではあるけど、もっと夏らしいことあるだろ。家でごろごろ過ごすとか」
結衣「それ全然夏らしくないし……。でもそうだなー、理由は単純にやってみたかったから、かな?」
結衣「気分的には冬かもだけど、行くならこうして皆で集まった時にやりたかったの」
八幡「ほーん」
雪乃「予想していたよりも寒くはないわね」
結衣「夏だからかな? 滑ったらだんだん暑くなってくるかも」
小町「結衣さーん。靴あっちで貸出ししてますよー!」
結衣「おお! 行く行くー! ほら、ゆきのんもヒッキーもはやく!」
雪乃「い、行くから引っ張らないで……」
八幡「スケートか……。初めてやるがこれって素人でも滑れるもんなのか?」
結衣「んーどうなんだろね。あたしも初めてだし」
雪乃「私も初めて体験するわ」
結衣「ゆきのんならスイスイーってすぐに滑れちゃいそうだなぁ。ヒッキーは絶対こけそうだよね。……ぷふっ」
八幡「ちょっと? 滑る前から俺のこける姿想像して笑うのやめてもらえる? 俺くらいになるとスケートとか余裕だから」
結衣「へ~、言うねヒッキー」
八幡「まぁお前よりかは滑れると思うぞ」
結衣「言ったね? あたしこう見えて平均台の上でもダッシュできるからヒッキーよりスケート得意だと思うよ!」
八幡「何その無駄に凄い特技……」
雪乃「平均台はスケートとは何の関係も無いと思うのだけれど……」
結衣「え? バランス感覚的な意味で関係あるくない?」
八幡「そうなの? 知らんけど」
小町「とにかく滑ってみろってことですよ! さっ、行くよお兄ちゃん!」
八幡「最初はさすがに手こずったけど1,2時間もあればある程度は滑れるようになるな」スイー
小町「コツ掴んだら案外できるもんだね」スイー
八幡「雪が積もった日とかはよく凍った道の上でスケート紛いなことをして遊んでいたけど、こうやって伸び伸びと滑る方が断然気持ち良いわ」スイー
結衣「みてみてヒッキー! あたしターンできるよ!」スイーン
八幡「あいつはずば抜けて上達してんな……」
小町「結衣さんすごい……。才能あるのかも」
結衣「最初はさすがに難しかったけど、慣れたら案外余裕だねっ。ヒッキーがあっさり滑れるようになっててちょっとつまんないけど」
八幡「どんだけ俺の転ぶ姿見たかったのん? てかそれよりも……」
雪乃「ひ、ひき、ひひひひ、ひ、ひひき、ひきたに、ひひ、ひきが……」ガクガク
結衣「」
八幡「」
雪乃「ひき、ひ、ひきがや、く……みみ、見てないで、助け……」ガクガク
八幡「生まれたての小鹿かな?」
雪乃「ば、馬鹿なこと言ってないで、は、はや、早く助けてちょうだい……。さ、さっきからずっと滑りっぱなしで……」
八幡「そりゃ氷の上ですし……。ほら、手ぇ貸せ」
雪乃「あ、ありが……あら、大丈夫? 氷上だからかしら……何だか比企谷くんいつもより顔色が悪いわね。これは生きてるのかしら?」
八幡「よし一人で大丈夫そうだな。おーい小町、由比ヶ浜ー。あっちで競争しようぜー!」
雪乃「ま、待って! ごめんなさい待って! じ、冗談。冗談よ!」
雪乃「ゆ、由比ヶ浜さんたちの前で手繋ぐの恥ずかしかったら変なことを口走ってしまっただけなの……だ、だからお願い。手、握ってて……」
八幡「照れ隠しの仕方が斬新すぎるだろ。……ほら、こけたくなかったら離すなよ」
雪乃「………」ギュッ
結衣「……うん。じゃあヒッキーはゆきのんに滑り方教えてあげて? あたしと小町ちゃんは競争だよ!」
小町「おっ! 負けませんよー?」
結衣「ふふん。あたしだって負けないよーいドーン!」シャー
小町「あ、ずるい!」
八幡「本当あいつらはどこ行ってもも元気ハツラツだな……」
雪乃「それが彼女たちの良いところじゃない」
八幡「そうだけどよ……。そんで走り方のコツなんだが、ぶっちゃけ考えるな感じろッ! としか言えん」
雪乃「………」
八幡「賞味期限切れの納豆を見るかのような目で見ないでもらえる? インストラクターでもあるまいし、すいーと滑れとしか言いようがねぇんだよ」
雪乃「……すいー?」
八幡「そう。すいー、だ。いや、すいーの前にまずはスケート靴で氷の上を歩けるようになったほうがいい」
雪乃「そ、そんなの無理よ。比企谷くんに支えてもらっていないとずっと滑り続けるんだもの……」
八幡「ならまずは自力で止まってみるか。両方前を向いてるつま先を片方横に向けるんだ。アルファベットのTみたいな感じで」
雪乃「……こう? あ……」
八幡「止まったろ? 次は真っ直ぐ立ったまま歩くぞ。つま先開いてペンギンの容量で歩いてみ」
雪乃「ペンギン……小股で……。きゃっ」
八幡「……っと。平気か?」
雪乃「へ、平気よ。……ありがとう」カアア
八幡「おう」フイッ
雪乃「比企谷くん。その、背中押してもらえる?」
八幡「ん。良いけどちゃんと自分で止まれるか?」
雪乃「……たぶん。手、離したら駄目よ?」
八幡「はいはい。いいか?」
雪乃「お、お願い」
八幡「押すぞ」
雪乃「………」スイー
八幡「ゆっくり足を動かしてみ。ジグザグに進むイメージで」
雪乃「……ジグザグに。比企谷くん、もう少しゆっくり……。それと手は絶対に離してはだめよ? いい? 絶対よ?」
八幡「わかってるって……。なんか自転車の練習に付き合う父親になった気分だな」
雪乃「……私も似たようなことを思ったわ。……つまり比企谷くんは比企谷くんでパパになるための練習ということね」
八幡「……うぇ」
結衣「ゆきのーん。順調ー?」
八幡「……!?」ビクッ
雪乃「え? ――きゃっ!?」
結衣「わわわっ大丈夫!? ごめんゆきのん! 驚かすつもりはなかったんだけど……」
雪乃「……わ、私は大丈夫よ。比企谷くんが庇ってくれたから」
小町「お兄ちゃん大丈夫?」
八幡「ケツ超冷てぇ……」
結衣「ヒッキーごめんね……?」
八幡「いや、俺が勝手にビビって転んだだけだから気にすんな」
雪乃「……何もあそこまで動揺することないじゃない」
八幡「いや、まぁ、ちょっとな……」
小町「んー? 何の話?」
八幡「……何の話だろうな」
小町「……?」
結衣「よーし。じゃあゆきのんも滑れるようになったことだしチームに分かれてどっちが先にリンク一周できるか競争しよ!」
雪乃「待って……。私はまだ滑れるようには……」
結衣「あ、あれ? でもさっき滑れてなかった?」
八幡「あれは俺が後ろから押してただけだ。まぁ、競争する前にとりあえず適当にリンク滑って雪ノ下を慣らすか」
結衣「オッケー。そだね!」
小町「さ、行きましょう雪乃さん! 結衣さん直伝のターンを次は小町が教えちゃいますよ!」
八幡「ターンよりも先に一人で進むのを直伝してやってくれ……」
結衣「五連勝だね! 小町ちゃん!」
小町「もしかして結衣さんと小町がペアを組んだらオリンピック狙えるんじゃないんですか!?」
結衣「それあるよ小町ちゃん!」
小町「ですよね結衣さん! 千葉最速のこまゆいコンビここに爆誕!」
小結「「イエーイ!」」
八幡「たかがお遊びでオリンピック狙えたら誰も苦労しねぇよ……」
雪乃「………」
八幡「お前はお前でいい加減元気出せよ。俺や雪ノ下よりも滑るのが上手い二人が相手だったんだぞ? 競争する相手が悪かっただけだ」
雪乃「……でも」
八幡「支え無しで滑れるようになっただけ良かったじゃねぇか」
小町「ふっふっふ。まだまだ愛の力が足りてませんぞ! お兄ちゃんたち!」
結衣「ふっふーん。あたしたちに勝つにはもっともーっと愛の力が必要ですぞ!」
小町「ですぞですぞ!」
雪乃「……あ、愛って」
八幡「うぜぇし鬱陶しい……。そうだ、次勝負する時は負けた方は土下座ってルールにしようぜ」
小町「えー。小町はやだよそんなルール。お兄ちゃんだけ土下座ならやるけど」
八幡「自分で土下座提案して自分だけ土下座とかこれもうわかんねぇな……」
結衣「うーん、土下座は置いといてヒッキーたちとの勝負はまた今度かなぁ」
雪乃「だいぶ日が沈んできたものね」
小町「なんだかんだ結構な時間滑ってましたからねー」
八幡「最初慣れるまでで2時間は滑ってたしな」
結衣「さすがに疲れてきたしそろそろ帰ろっか?」
雪乃「ええ、そうしましょうか。この後はどうするの? ご飯でも食べる?」
結衣「どうしよっか。あ……そういえばゆきのんたちって明日には帰っちゃんだよね……?」
八幡「……まあな」
結衣「そっかぁ……。じゃあ今日は最後なんだしご飯くらいヒッキーんちで食べて?」
小町「じゃあ結衣さんも一緒に」
結衣「ううん、あたしは遠慮しとく。昨日今日とあたしが二人を呼び出しちゃったし、最後くらいは家でゆっくり過ごして? だから、今日でまたしばらくお別れだよ」
雪乃「由比ヶ浜さん……」
八幡「……なら、そうさせてもらうわ。ありがとな」
結衣「それはあたしのセリフ。久しぶりに二人と遊べて楽しかった。これから忙しくなるけど、いつか絶対こうしてまた集まろうね」
雪乃「……ええ」
結衣「約束だよ?」
八幡「おう」
結衣「もちろん。小町ちゃんもね」
小町「はいっ……! またおうち遊びに行ってもいいですか?」
結衣「うんっ、サブレも喜ぶと思う!」
結衣「よし、それじゃそろそろ解散にしよっか! あたしちょっと寄るとこあるから皆とはここでお別れかな」
雪乃「そう……。ではまたね、由比ヶ浜さん。向こうへ戻ったらまた連絡するわ」
結衣「うん!」
小町「秋の総武高の文化祭で小町は生徒会OGとして誘われているので、良かったら結衣さんも遊びに来てくださいね!」
結衣「そうなの? じゃあ優美子たち連れて遊びに行くよー」
小町「ぜひぜひ!」
結衣「ヒッキーも、またね」
八幡「ああ。気が向いたらその文化祭の写真送ってくれ。……小町が写ってるやつだけ」
結衣「出たシスコン……。まあヒッキーだし覚えてたら送ってあげる」
八幡「頼むわ」
結衣「じゃあ行くねっ」
八幡「ああ。またな」
結衣「うん、またねっ! ばいばーい!」
比企谷宅
小町「小町の部屋じゃなくて最後くらいお兄ちゃんの部屋で一緒に寝なくて良いんですか?」
雪乃「むしろ最後だから小町さんと一緒に寝たいのよ」
小町「つまりそれは……お兄ちゃんとは普段から一緒に寝ているから大丈夫……ということですね?」
雪乃「そそそ、そういうわけでは……」
小町「雪乃さんとお兄ちゃんが付き合ってからずっと聞くの忘れてたんですけど、雪乃さんってお兄ちゃんのどこを好きになったんですか?」
雪乃「え……。そ、そうね、色々あるけれど根は優しいところや、変なところで捻くれるところとかかしら」
小町「なるほど。捻デレなところですね」
雪乃「ヒネデ……はい?」
小町「デレる時に捻くれるって意味です!」
雪乃「ふふ、なるほど。捻デレ、ね。恐ろしく的確に的を射ているわね」
小町「ですよね! あ、それと……ありがとうございます。お兄ちゃんのこと、好きになってくれて」
雪乃「ありがとうだなんてそんな……」
小町「今だから言えますけど、私はお兄ちゃんの相手が雪乃さんで良かったと思ってます」
小町「雪乃さんがお兄ちゃんを変えてくれたんだなーって」
雪乃「彼を変えただなんて、私は何も……」
小町「何もしてないことはないですよ。こうして今もお兄ちゃんのこと好きでいてくれているじゃないですか」
雪乃「………」
小町「高校の頃のお兄ちゃんと比べると、これでも今のお兄ちゃんはまるで別人のように変わってるんですよ?」
雪乃「そう、かしら?」
小町「パッと見はあまり変わってないですからね。でも、お兄ちゃんが帰ってきた時は小町超びっくりしました」
小町「雪乃さんに浄化されたのか目の腐りもかなり落ちてますし、内面的にも昔の頼りなさは消えて昔よりもだいぶ男らしくなってますしね」
雪乃「普段一緒にいる限りではあまりそういう変化は感じないのだけれど……」
小町「一緒にいるからこそ変化がわからないんですよ。その変化に気付かないからこそ、毎日一緒に居てもふとした時にドキッとさせられたりするんです」
雪乃「ドキッと……。確かに小町さんの言う通りかもしれないわね」
小町「ちなみに今のはいろはさんの言葉です!」
雪乃「………」
小町「小町からの言葉は、そうですねぇ……じゃあ」
雪乃「……?」
小町「不束な兄ではありますが、これからもどうかうちの愚兄をよろしくお願いします」
雪乃「……はい。こちらこそまだまだ未熟な義姉ですが、今後ともよろしくお願い申し上げます」
小町「お義姉ちゃーん!」
結衣「あ、はちまーん!」
八幡「悪いな、結衣。待ったか?」
結衣「ううん、あたしも今来たとこっ」
八幡「そうか。なら良かった」
雪乃「え……? 比企谷くん……?」
結衣「ねーねー今日はあたしをどこ連れてってくれるの?」
八幡「そうだなー。この前二人でシー行ったばっかりだしなー……。何か希望あるか?」
結衣「あたしは八幡とならどこだっていいよ?」
八幡「ならホテル行こうぜ」
結衣「え!? も、もう八幡のエッチ!」
雪乃「え? ……え?? 」
八幡「ほら、手繋ごうぜ」
結衣「うんっ。じゃ、じゃあ……ホテル、行く?」
八幡「おう」
雪乃「ま、待ちなさい! これはどういうことなの!?」
八幡「あ? 雪ノ下じゃないか。どうしたこんなところで」
雪乃「ど、どうしたもこうしたもないわよ! なんであなたが由比ヶ浜さんと一緒にいて、その……ほ、ホテルに行こうという話になっているの!?」
八幡「おいおい何言ってんだ雪ノ下。俺と由比ヶ浜は」
いろは「せんぱーい。すいませんお待たせしちゃいましたー」
雪乃「……一色さん。どうしてここに」
八幡「いろは? あー、悪い。うっかり結衣と同じ日に会う約束してたんだわ」
結衣「え!?」
いろは「もー! 今日はわたしの相手してくれるって言ったじゃないですかー!」
八幡「悪かったって。結衣といろはさえ良ければこのまま三人でどうだ? ちょうど結衣とは今からホテル行く予定だったんだ」
結衣「んー。ちょっと恥ずかしいけどあたしは全然オッケーだよ!」
いろは「仕方ないですねー。次はちゃんと二人きりにしてくださいよ?」
雪乃「一色さんまで!? ちょっと説明しなさい比企谷くん!」
結衣「さっきからどうしたのゆきのん。ゆきのんも混ざりたいの?」
雪乃「え……」
いろは「でも雪ノ下先輩って先輩に振られたんですよねー?」
雪乃「え……!?」
八幡「まあな。俺は雪ノ下みたいな面倒臭い奴じゃなくて結衣やいろはみたいに積極的な女が好きだからな」
雪乃「そ、そんな……何を言って……」
八幡「いいからそいつのことなんかほっといて行こうぜ」
雪乃「待って……そんな……嫌よ、比企谷くん。こんな……」
八幡「ああそうだ、ついでだし静も呼ぶか。あの人最近禁煙してるからキスでもして禁煙してるかこまめにチェックしとかないとな」
雪乃「そんな……比企谷くん待って……お願いだから……」
八幡「じゃあな雪ノ下。またどこかで会おうぜ」
雪乃「嫌……嫌よ…………待って――」
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雪乃「――行かないでッ!」ガバッ
雪乃「……はぁ……はぁ……」
小町「くー……」
雪乃「…………え?」
小町「すぴー……」スヤァ
雪乃「………」
雪乃「………」
雪乃「…………夢?」
八幡「うぐ……」
八幡(なんだ? 体が重いぞ……?)
八幡(もしやこれ金縛りってやつか……。寝てる時に起こるっていうあれか……!?)
八幡(こういう時はどうすれば……いやその前に胸元からなんかすげー良い匂いするんだけど。何だこの匂いは)
八幡(ん? いや、この匂い……)
八幡「……ッ!?」ガバッ
雪乃「………」
八幡「…………ゆ、雪ノ下? お前小町の部屋で寝てたんじゃ」
雪乃「………」ギュッ
八幡「雪ノ下?」
雪乃「………」ギュー
八幡「……なんで泣いてんだ?」
雪乃「……泣いてないわよ」
八幡「いや、ちょっと涙声じゃねぇか。どした? 小町にいびられたか?」
雪乃「………」
八幡「一人じゃトイレ行けないとか?」
雪乃「………」
八幡「既に漏らしちゃったか?」
雪乃「……ぶつわよ」
八幡「ぶたないで……。いいからなんで泣いてんだよ。ほら、言ってみろ」ナデナデ
雪乃「……だから泣いてなんか」
八幡「わかったわかった。じゃあ、なんで俺の部屋来たんだよ。意味も無く来たわけじゃなさそうだけど」
雪乃「それは……目、瞑ってくれたら言うわ」
八幡「え……こ、こうか?」
雪乃「ん…………」
八幡「………………こういうのはしばらくおあずけじゃなかったのか?」
雪乃「………」フイッ
八幡「で、何があった?」
雪乃「その……夢を見たの」
八幡「は? ゆ、夢?」
雪乃「私と別れた比企谷くんが由比ヶ浜さんや一色さんを連れてホテルに入ろうとする夢」
八幡「いやどんな夢見てんだよ……。そうなった経緯が知りたいまであるぞ」
雪乃「私って……やっぱり面倒臭い女よね」
八幡「やっぱりも何も面倒臭くない人間なんてこの世にいないだろ。まず雪ノ下より俺の方が千倍面倒臭いし」
八幡「何があってそんなカオスな夢を見たのかは知らんが、確か前にも言ったろ。俺は雪ノ下だけを見てるって」
八幡「あれは何も外見的なことだけを言ったわけじゃないぞ?」
雪乃「……と、言うと?」
八幡「腐るほどあるがそうだな……本気で照れると早口で捲し立ててくるところだとか、実は最近味噌ラーメンにハマってることだとか、料理を作ってくれる時は俺好みの濃い味付けにしてくれてることだとか、たまに猫みたいに丸まって寝てて可愛いだとか、俺んちに泊まるつもりで来た時は毎回ワンピースかスカートだとか、遠回しにセックスの誘いをしてくる時は異様に髪を掻き上げて首元見せてくるだとか、あと胸弄るとすぐに」
雪乃「わ、わかったわ。十分よ。もう、十分だからやめて……」
八幡「そうか……? まだまだあるんだが」
雪乃「……もう結構よ」カアア
八幡「まぁ、とにかくだ。そのカオスな夢を見て雪ノ下自身がどう思ったのかはわからないが、俺はこうしてお前だけを見てる」
八幡「それに面倒臭い女ってのは付き合う時から知ってる。自分で私は面倒臭い女だけどいいかって聞いてきたの覚えてないのか?」
雪乃「……そうだったかしら」
八幡「ああ、そうだった。どうだ? お前が自分で言って忘れたことを俺は未だに覚えてる。ストーカーばりにキモいだろ?」
雪乃「……ええ。夢の中の比企谷くんより気持ち悪いかも」
八幡「そりゃどうも」
雪乃「でも、好きよ」
八幡「……そ、そりゃどうも」
雪乃「どうして私はあんな夢なんかに惑わされていたのかしら……。夢の中とは言え別れを告げられただけでこんな……」
八幡「こっちが聞きたいわ。何があったら由比ヶ浜と一色連れてホテルなんて行くんだよ。そこは戸塚だろ」
雪乃「………」
八幡「冗談ですよ?」
雪乃「………」
八幡「ま、まぁとにかく安心してくれ。俺から雪ノ下を手放すつもりは毛頭ないから。てかもうお前以外の女を好きになれる気がしないし……」
雪乃「私だってあなた以外の異性を好きになれる気がしないわよ。だからこんなに……」
八幡「にしても夢一つでこんな俺に泣きついてくるかね。さては病んでる……?」
雪乃「別に病んでいるわけではないわ……。あと泣いてもいないから」
雪乃「ただ、夢であれ比企谷くんと別れるのがどうしようもなく辛くて……」
雪乃「何もかも全部あなたのせいなんだから。かつてはどんなことも効率的且つ計画的に全て一人でやってこれていたのに……」
雪乃「こうしてあなたと二人で過ごせば過ごすほど、一人でやっていくことが、一人になることが辛く寂しくなっていって……」
雪乃「あなたからすれば私のこんな感情も重いの一言で済んでしまうかもしれないけれど……」
雪乃「でも、それでも私は例え夢でもあなたと離れたくない。ずっと一緒にいたいのよ。だって、こんなにもあなたのことが愛しいんだもの」
八幡「雪ノ下……」
雪乃「……ね。もう一度、いい?」
八幡「ああ…………っ」
雪乃「……ん、んっ……比企谷くん……」
八幡「…………」
雪乃「っ…………?」ピクッ
八幡「………」
雪乃「比企谷くん何か変なモノが太腿に当たっているのだけれど……」
八幡「いやこれは仕方ないだろ……。千葉へ帰ってからまともに雪ノ下に触れてすらなかったって時にこんだけキスしたら嫌でも勃つわこんなの……」
雪乃「そ、そう……よね」
八幡「瞑想しとけばとりあえず治まるからとりあえずちょっと離れててくれ……」
雪乃「…………そんなことしなくても比企谷くんのそれ、私が治すのを手伝ってあげられる……けど…………?」
八幡「……さ、さすがに実家でそういうことするわけにもいかんだろ。隣には小町いるし」
雪乃「そうだけど……私だって、その……ずっと我慢していたのよ?」
八幡「お、おぉう……」
雪乃「小町さんならこの部屋に来る前は熟睡していたし、少しだけ……ね? あなたのも、し、してあげるから……」
八幡「なに、そんな我慢できない程なの……?」
雪乃「今こうしてあなたの部屋のあなたのベッドであなたの腕の中にいるのよ? おまけにキスまでして……。あなたは違うの?」
八幡「違わないけどまだMOCO’Sキッチンも始まってない時間だぞ? こんな朝じゃなくても今日で向こうに帰るんだし、それまで我慢しとかないか?」
雪乃「今じゃないと嫌なの……。少しだけでもいいからお願い……。それともこんな積極的な女は嫌い……?」
八幡「むしろ大好きです。……大好きですけど、これでよく自分はスケベじゃないっていつも言い張れるよな。いい加減認めたらどうだ?」
雪乃「う、うるさ――ふあっ!?」
八幡「ちょっ……さすがにもうちょい声抑えてくれ」
雪乃「だってそんな急に……」
八幡「下着こんなにしといて急も何もないだろ」
雪乃「………」
八幡「ゆきのんはスケベだなー。すっかりエッチになっちゃってもー」
雪乃「そ、そういうことは言わないで……」
八幡「強く否定できないもんな。もうちょっとこっちに体寄せられるか?」
雪乃「こ、こう……? あっ……だ、だめ。こ、声出るから……く、唇、塞いで……?」
八幡「………っ」
小町「ふぁあ~、おはよーお兄ちゃん。起きたら雪乃さんがいなかったんだけどお兄ちゃん何か知らな――」ガチャッ
八幡「」
雪乃「」
小町「」バタン
<あ、カー君おはよっ。ちょっと小町とリビングに降りてようねー。
<今日は何だかいつもより目が覚めちゃってるからジョギングでもして来ようかなー。30分くらいして来ようかなー?
雪乃「………」
八幡「………」
雪乃「どうすれば一切の苦しみも無く人は死ぬことができるのかしら……」
八幡「ま、待て早まるな雪ノ下! お、おち、おおもちつけ! たしか俺の部屋の机は引き出しがタイムマシンになっていてだな……」
雪乃「あなたも落ち着きなさい……」
八幡「……はぁ、ひとまず下降りるか……。小町がマジでジョギングに行ってしまうとその後が地獄になる……」
雪乃「そ、そうね……。ごめんなさい、比企谷くん。私が変な我儘をしたばかりに……」
八幡「お互い様だ……。それに俺の方こそなんかすまん……」
雪乃「いえそんな……」
八幡「………」
雪乃「………」カアア
八幡「…………下行くか」
雪乃「……行きましょうか」
小町「ホントに送るの玄関まででいいの? 小町も駅まで一緒に行くよ?」
八幡「いやいい。お前の顔見るたびに雪ノ下が心底死にたそうな顔するから駅まで送るのは次帰った時にしてくれ」
雪乃「小町さんに見られた……小町さんに見られた……」
小町「ゆ、雪乃さんそんな憂鬱にならないでください……。小町こう見えて口は堅いですよっ!?」
雪乃「………」
小町「だ、だだだ大丈夫ですよ! そもそも掛け布団でほとんど見えてませんでしたから!」
小町「お、お兄ちゃんとのキスは見ちゃいました、けど……」
雪乃「」
八幡「頼むから忘れてくれ……」
小町「……う、うん、頑張って忘れる。雪乃さんはともかくとしてお兄ちゃんがキスするとこなんて覚えてたくないもん……」
八幡「妹に見られるとか丈夫なロープあったら今頃首吊ってるレベルだからな……」
小町「だってまさか雪乃さんといるなんて思わなかったんだもん。次からはちゃんとノックするね……」
八幡「おう……」
雪乃「………」カアア
八幡「まぁなんだ。そろそろ行くわ。……恥ずいし」
小町「う、うん。また帰ってくる時は連絡ちょうだいね」
八幡「おう」
小町「雪乃さんもまた帰って来て下さいね」
雪乃「ええ、是非。…………次は絶対にこのようなことは無いようにするから」
小町「は、はい! それじゃあねお兄ちゃん、雪乃さん! お母さんが二人とも体には気をつけてだってさ!」
八幡「ああ。母ちゃんにもよろしく言っといてくれ。親父には別に言わんでいいから」
小町「おっけ~」
雪乃「え? OKなの?」
八幡「んじゃ、また帰るわ」
小町「うんっ! ほら、カー君もばいばーいって」
カマクラ「ふぬっ」
八幡「おう、お前もまたな」
雪乃「ばいばい。カマクラさん」ナデナデ
小町「あ、帰ったらちゃんと連絡すること」
八幡「はいはい。そんじゃな」
雪乃「またね。小町さん」
小町「またです雪乃さん! 次に我が家へ来た時はお義姉ちゃんになってくれていると小町的にポイント高いですっ!」
雪乃「……か、彼次第かしらね」カアア
八幡「………」
カマクラ「なー」
八幡「はー。ついに千葉ともお別れか」
雪乃「年末にはまた帰ることになるわよ」
八幡「だな。小町たちにも会ったしマッ缶もさっき買ったしやり残したことはないな」
雪乃「ええ」
八幡「向こうに帰ったらとりあえずどうする? そのまま俺んちにでも来るか?」
雪乃「色々荷物も置いたままだしそうさせてもらおうかしら。それと今日、そのままおうちに泊まってもいい?」
八幡「おういいぞ。……あー、それとその件についてなんだが」
雪乃「?」
八幡「た、大したことじゃないかもしれんが雪ノ下ってよく俺んち泊まりに来たりするだろ?」
雪乃「最近ではほぼ毎日そうね。間取り的にもあなたの部屋の方が広いから」
八幡「だよな。それで、最近泊まる頻度も多くなって雪ノ下も色々と面倒だろうし」
八幡「その、なんだ。……これからは一緒に暮らさないか?」
雪乃「え……?」
八幡「もちろん雪ノ下の両親や陽乃さんにもちゃんと認めてもらってからのつもりだからすぐというわけじゃないんだが……」
雪乃「それってつまり同棲、ということよね?」
八幡「……まぁそういうことになる」
雪乃「ほ、本当にいいの?」
八幡「俺はそうしたい。……駄目か?」
雪乃「駄目なわけがないじゃない。すごく、嬉しい……」
八幡「そ、そうか」
雪乃「でも母さんや姉さんのことだから、きっと挨拶に行くとあなたに意地悪なこと聞いてきたりするかもしれないわよ?」
八幡「そんなのどんと来いだ。ちょっとやそっとでお前のこと諦めるつもりはないからな」
雪乃「そ、そう……?」
八幡「ああ、そうだ」
八幡「ま、挨拶は早くて年末になりそうだな。悪いがまた帰ることになった時は予め同棲のことを親に伝えておいてもらえるか?」
雪乃「わかったわ。伝えておくわね」
八幡「悪いな」
雪乃「謝ることなんて一つもないわよ。これでも私、今物凄く喜んでいるのだから」ギュッ
八幡「……さんきゅ。ま、諸々は帰ってから話そうぜ」
雪乃「そうね」
八幡「にしても盆休みも気づいたら終わってたし、日が経つのはええな……」
雪乃「そうは言っても大学での夏休みはまだまだあるわけだし、どこか遊びにでも行く?」
八幡「えー。暑いしそれはだる……」
雪乃「……すぐまた断る」ボソッ
八幡「あ、暑いしたまには涼しめる場所にでも遊びに行くか! 」
雪乃「ええ、是非そうしましょう」ニッコリ
八幡「お、おう……。と言ってもどこかあるか? 花火大会か何か向こうでやってなかったっけか?」
雪乃「確かお盆に花火大会があるって街の掲示板にポスターが張ってあった気が……」
八幡「お盆休み昨日で終わっちゃったんですけど」
雪乃「なら比企谷くんさえ良ければ……海でも行く?」
八幡「え、いいのか? お前人多いからって海行くの乗り気じゃなかったのに」
雪乃「それを言うなら花火大会だってそうじゃない」
雪乃「……あなたが私の水着姿を見たいと言っていたから、その……折角だし見せてあげようかと思って」
八幡「おぉ」
雪乃「暑いのが嫌で家に籠っていたいなら無理にとは言わないけどね?」
八幡「行く。超行く。行って水着見たら即帰宅まである」
雪乃「それ行く意味無いじゃない……」
八幡「俺が海行きたいって言った理由の九割は水着だからな」
雪乃「……ねぇ。もしかしなくても比企谷くんって水着が好きなの?」
八幡「ま、嫌いではないな……」
雪乃「水着を着た私で良からぬ妄想していないでしょうね……?」
八幡「………」
雪乃「……スケベ」
八幡「何とでも言え。好きな女の子の水着姿を見るってのはある意味男の憧れなんだぞ!」
雪乃「……そうなの?」
八幡「そうだぞ。ちなみにビキニだと八幡的にポイント高い」
雪乃「ビキニ……。ならどういうのがいいかわからないから一緒に買いに行ってくれる……?」
八幡「え。い、良いですけど?」
雪乃「水着フェチ谷くんが私に一番似合うと思う水着を選んでもらおうかしら」
八幡「水着フェチ谷くんって誰だよ。名前なげぇし別にフェチって程でもねぇから……。まぁ行きますけどね」
雪乃「では決まりね。この夏休みの間は少なくともデートと海に一回ずつ行くこと」
八幡「水着は俺も持ってないし行くなら早めに買いに行っとくか」
雪乃「ならそのデートのお誘いは比企谷くんからしてね?」
八幡「あっはい」
雪乃「でも大丈夫かしら……。海に行ったとして人が多いと色々大変そうで少し気が滅入ってしまいそうになるわ……」
八幡「ああー……お前可愛いしそういった輩がもしかしたらいるかもな。まぁでも傍にはずっと俺がいるし、はぐれない限り心配はいらんだろ」
雪乃「…………そういう意味で言ったつもりはないのだけれど」カアア
八幡「は? じゃあ……あ、ああー。そっち……」
雪乃「そっち以外無いと思うのだけど……。それに私はそちらに関しては何の心配もしていないわ」
八幡「あ、そうなの?」
雪乃「ええ。だってずっと傍にいてくれるんでしょう?」
八幡「まぁな。……今回に限らずともずっとそのつもりだ」
雪乃「あら、そんな言い方をされると勘違いするわよ……?」
八幡「別に良いんじゃないか……? そのつもりで言ったしその時が来るまでの口約束ってやつだよ。信用ならないなら吐き捨ててくれていい」
雪乃「吐き捨てたりなんてしないわ。本当、変に言い回す辺りあなたらしいわね」
八幡「そうですか……」
雪乃「ふふっ。ええ、そうよ。ねぇ、比企谷くん」
八幡「あん?」
雪乃「私が今あなたに言いたいこと、わかる?」
八幡「言いたいこと? ……約束破るな、的な?」
雪乃「残念はずれ」
八幡「いや、さすがにわかんねぇから……」
雪乃「なら教えてあげるから耳を貸して? ……正解は」
八幡「……?」
雪乃「――大好き」
了。 続けるなら→
終盤駆け足になってしまいましたが、これにてこのお話は完結とさせていただきます。
それとずっと言うつもりで言ってませんでしたが軽くキャラ崩壊気味だったと思います。今更ですがご了承下さい。
そしてたくさんのコメント、オススメ、応援評価をしてくださり本当にありがとうございました。
また懲りずに何かお話を書いた時は懲りずにまた付き合ってやってください。
P.S. 懲りずに続きます。
期待
期待
チョコたぷり
期待
きたい
砂糖吐いたわ。
期待
甘すぎるくらいがいい
期待
ゼミくらいいきなよ八幡。
期待
期待です
ガハマさんの霊圧が皆無だと…
八幡も八幡じゃない…!?
もっとやってください。
北石照代
期待 頑張って
振るのか?!投げるのか?!
甘過ぎぃ!
きたい
もっとやってしまえ
最高すぎるなき
期待です!
きたい
来たい
機体
最近は八幡と戸部を仲良くさせる流れが流行ってるのか
はや×とべ は腐らない程度に仲良くで…。
戸部wwwwwww
期待
期待
期待
ゆきのんかわええ
きたい
ピノキオ…?
マリカーに出てくるキノコってキノピオじゃない?
壁が足りません。
糖尿になりそう
気滞
前作も読んだけど話繋がってる?
ゆきのんが嫉妬のんになっているでござるの巻。
ノーマルゆきのんも好きだけど、八幡大好きゆきのんは大好きです
なんかゆきのんツルペタキャラになってること多いけど
他がデカイだけであの子って普通に胸あるよね
アニメ見る限りCはあるでしょあれ
北井
奇態
危殆
稀代
機体
キタコレ
わくわく
陽乃という名の魔法さまが登場なさったな。
いったい、八幡とはどうゆう距離感の仲なのだ…。
きたい
超おもろいぜ
血糖値が劇的に上昇するわ
もっとやれ
機体
くっそー。タヒにたいくらい羨ましい。昇天してしまいます。
おもろい
ネコにやきもちのん
ん?今なんでもって…?
ABCまで行ってるぽいのでDもぜひお願いします!
なんならZまでででも!(血涙)
甘い
いいぞもっとやれ
きたい
なんだこれはけしからん
おもしろいぞ
なんだよ、当てつけか?
砂糖吐いたぞ?
もっとやれ!
Daisukeはいいです。戸部で足りてます。(真顔)
Eってなんですか!?
(((NTRは勘弁願う。)))
きたいしてます!
頑張ってー!!
作者さんの考えるEが良きEでありますように…。
甘ーーーーーーーーーーーーーーーーい
超奇体
3月まで大人しく待ってます。
毎日のちょっとした楽しみなので失踪だけはやめてください…。
3月…………
遠いなぁ、
楽しみにしてます!
ゆきのんの下ネタは何故か新鮮www
更新されててよかった!
これからもよろしくです!
ばああああああああ。
甘すぎるううううう。
ね、ネトラレか!?
やばいよやばいよ!
ゆるさん
ゆるさんぞ
ネトラレ期待
ネトラレだけはやめて
マジでやめてよ...楽しみが苦痛になりそうだわ…
ほげっ…
ネトラレとか全く要らないからな
ねとられまじいらん
僕は信じてますgkbr
マジのごめんね展開だけはやめろよ・・・?
NTRは心がズキズキしてほんとに嫌だからマジやめて
「ほのぼの」だよ…?ね?
作者さん…?
ネトラレは止めようぜ...
それだけは勘弁してください…
ネトラレはマジで最悪
寝取られなら荒らすレベル
信じてるぞ
文字数の更新は嬉しいはずなのに、なぜか更新されていないことに安心する俺がいる…。
なんでもするのでネトラレだけは勘弁してください…(涙目)
こうやって反応する奴がいてしてやったりって思ってんだろうけどこういうのは匂わせただけでほのぼの作品としてはゴミだからね
正直好きだったけど結果はどうあれそう言うので読者の反応見るクソ野郎だと分かったから読む気が完全に失せたわ
これで最初から大丈夫でも、コメ欄のせいで変えた可能性を考えちゃうからね。
こういうのをやるならせめて一気に落ちまで書くべきだったね。
ほんと一瞬でクソになったわ。ゴミです。
さすがに言いすぎよ↑
ほのぼのとネタが尽きるまで続けてくれるなら前作から見てた私は本望。
脱線したとしても最後まで確実に見届けます。
あくまで二次創作物なんだから何を望んだって利益も不利益も生み出さないんだから作者の思うままに書けばいいと思う。
作者は思うまま書けばいいさ
そんかし読者も思うまま批判するわそりゃ
片側だけに自由があるわけねーだろクソくだらねえ
作者は本当にそれで面白いと思うなら叩かれてでもやりゃいいじゃん
読者はゴミになったらゴミですねって言うだけや
作者の性格悪すぎ。どう考えてもこの作品を読んでる層は
こういう展開なんて望んでないんだから、話としては出すにしても、
この場面は小分けにせず一気に投稿すべきだった。
それがまさか二回の更新とも焦らしてくるとはね。
まあ何がいいたいかというと、とっとと更新してこの話を終わらせろってことです。
NTR紛いじゃないですか。
ほのぼのは何処へやら
SSで発狂とかおもしろいな
この作品読んで好きだったりほっこりしてる人達はNTRに耐性無いか嫌悪してる人多いんじゃないかなぁ?これは人選ぶ属性だと思うし…(個人的に)
自分もNTRは発狂するレベルで嫌いだし、そうじゃないと分かってても、匂ってきたら心がズキズキしてくるしな…
いくら金銭の発生しないSSだとしても、作者がいて、読者がいる以上そこには感情が入る訳で…
俺もこのSSの更新をすっごい楽しみにしてて、ニヨニヨしてたファンの一人ですが、ここ数日は心の痛い思いをしてたのが正直な感想です。
ですが期待通り八幡が助けに来てくれました。これだけで救われた気持ちです。
これからも甘ったるい成分満載のイチャイチャ展開を期待してます!
そもそもなんでこんな荒れてるわけ?w
確かにここ数日はずっとモヤモヤが続いてたけどだからと言ってちょっと気に入らない展開になっただけですぐゴミだの性格悪いだの喚くようなキッズはほっとけばいいよ
あくまでほのぼの重視なんだし作者は今回のことは気にせずこれからも自由に書いていけばいい
NTR系はもう勘弁だけどな
ここまできてNTR展開はしないとわかってても不安になったわw
批判のコメもあるけど、それも作者の魅力あってこそ!
気にせずかわいいはちゆき書いてください!
僕は信じてました(安堵)
これからも期待
信じてました
がんばってください
なんでおこってるのか笑
ため息多いなぁw
なんとなく誰かが登場するだろうと思ってたけど、それが八幡で良かった!
利益も不利益が発生しない発言は撤回します。
確かに読者の感情が何かしら発生しますよね。軽率でした。
とりあえず一安心...ふぅ
擁護ってわけじゃないけど今回ばかりはコメントで騒いでる人達が悪かったね。作者さんとしてはいつも通り更新しただけのつもりだっただろうにゴミだクズだと評価落とすようなコメントされてさ。ドヤ顔で読む気完全に失せたとか言ってる人いるけどどうせ今も見てるんでしょw
何はともあれまたイチャラブ日常展開に戻ってくれそうでよかったw
これからも応援してます!
これでネトラレになると思ってた奴、最初から読んでない奴だろ。
まさか本気でネトラレ展開になるとか思ってる人はいないでしょ。
批判した側だけど、最終的にはまあ八幡なりがなんとかするってわかってたし。
ただほのぼのって謳ってるのに、ここ数日はそれとは真逆の内容だったんだから
そりゃおかしいって思うし、不満も出るさ。
だからこの場面は小出しにして焦らすんじゃなく、書き溜めて一気に終わらせたほうが変に荒れなかった。
このssも、前回のssもとても面白かったからこそ出た批判だよ。
ネトラレにはならんと思ってはいたが、妙に不安にはなったわ・・・
これからも楽しみに読ませていただきます。
作者余計なことしたな〜
ちょっと調子乗っちゃった感
これ続きまだないんですかね?すごく気になりますw
私も信じてました
寝取ろうとした男の事雪の下に伝えて
そいつ社会的に抹殺しても良かったかも(小並感)
いやそこは本当はどうだったのか教えとけって・・・
同じことまた繰り返すだけだよ・・・
あれだけ止められて飲む雪ノ下もアホだろ
てか性格的に流されて飲むタイプでもないと思うけど
きっといろはすかはるのんあたりが暗躍してくれてると脳内補完
今後もイチャラブを楽しみにしてます(^^)
新歓だし先輩に言われちゃ強く断れない気持ちはわからなくもない
うちのサークルとか乾杯の時だけ絶対ビールだわ
ビール飲めねーよボケ
だばああああああああ
壁殴り代行お願いします。
八幡は雪乃を離さないようにして一生一緒に爆発してろ!
あぁ、これだよこれ、この甘さが癖になる……
今は心がぴょんぴょんしてます。
壁代ってどこに請求すればいいですかね?
これからも楽しみにさせて頂きます!
陽乃さん使って男潰そう。
こんなんもういつでも雪乃お持ち帰りできるやん
毎回更新の際にヤニが美味しいです^ ^
俺ん家壁はポスターだらけだから殴れる壁が無いんです。このやり場のない激情を何処にぶつければいいですか?
ついにガハマさんが登場しそうですね。
にやにやが止まりません。期待してます。
小町性格悪すぎ。兄はゴミなのか?タヒねよ屑。
小町がゴミ過ぎる。流石に人のもん勝手に売るのは無いわ…。
由比ヶ浜には寝取られそうになった事話してもよくね?と思う
あぁ^〜いいんじゃ^〜
先生…。
誰かもらってやれよ…。
先生は私が貰いますね。
無事完結してくれることだけが望みです。
頑張ってください。
良い感じですね~♪
由比ヶ浜が少し...いや結構邪魔。
でも由比ヶ浜は原作でも思い込み自己中だからしょうがないね
お前らがピュア過ぎて草
NTRの耐性無さ過ぎやろ
由比ヶ浜が経験者かのような発言を...
必死なゆきのんかわゆいのぅ。
ピュア…ね……
そうあって欲しいものだけど、1度実際にされたらそういう性癖持ってない限り嫌悪しちゃうかなぁ。
自分はですが。
お疲れさまでした!
次回作期待してます(^-^)
完走おめでとうございます。
毎日毎日、更新が楽しみでした。
次回作、期待してます。
お疲れ様でした。
ジャスト10万
ユメは見れたかよ……
乙乙!
※127
お、おう・・・・・・
何かすまんな
盛大に乙
二人が海行く話も見たいので気が向いたら続きオナシャス!
ここで終わるか、、、
乙
罵倒セリフやネタの加減がすごく自分好みだったので、自然に楽しく読めた
次回作楽しみにしてます
デレのんと八幡最高だ!もっと続けて欲しいです!
次回に期待!