2021-01-24 23:22:02 更新

概要

大学生になった八幡と雪乃のお話。


前書き

ほのぼの重視の短編台本形式。各話500字~3000字程度。
設定:八幡と雪乃は恋人同士。お互い千葉を出て一人暮らし中。大学では三回生。

2016/04/01 完結しました。
2016/04/10 少し続きます。


かまって


八幡宅


雪乃「………」


八幡「………」ペラッ


雪乃「………」チラッ


八幡「………」ペラッ


雪乃「………」


八幡「………」ペラッ


雪乃「ねぇ、比企谷くん」


八幡「?」


雪乃「かまって」


八幡「……は?」


雪乃「聞こえなかった? かまって、と言ったのよ」


八幡「いや、聞こえた。聞こえましたよ? 何いきなり……」


雪乃「ここは比企谷くんのおうちよね?」


八幡「そうだけど」


雪乃「比企谷くんのおうちなのだから比企谷くんが部屋で本を読もうが自由よね?」


八幡「自由だな。じゃないとおかしい」


雪乃「今、私は比企谷くんのおうちにお邪魔しているわよね?」


八幡「まぁ、見ての通りだな」


雪乃「だからかまって」


八幡「お、おう。だからが唐突すぎる……」


雪乃「細かいことは今はいいの。いいからかまって」


八幡「いきなり構ってと言われてもなぁ……。そこの本棚にある本好きに読んでいいぞ?」


雪乃「もう粗方読んだわ」


八幡「マジかよ。ならそこのゲーム好きにやっていいぞ?」


雪乃「操作がわからないわ」


八幡「教えるぞ?」


雪乃「今はゲームって気分じゃないの」


八幡「えぇ……」


雪乃「それよりも私は比企谷くんにかまって欲しいのだけれど……」


八幡「と言われてもなー」


雪乃「そう……。私よりも本を選ぶのね」


八幡「待て待て待て。33-4で雪ノ下を選ぶわ。だから待て」


雪乃「かまってくれるの?」


八幡「構う。構うけど何すればいいの? あ……誘ってます?」


雪乃「ばか」


八幡「じゃあ正解は何だよ……」


雪乃「別に正解なんてないわ。私といてくれれば」


八幡「いや、それならさっきからずっといるんだけど」


雪乃「でもあなた、本に集中してたじゃない。私というものがありながら」


八幡「そうは言うが、逆のパターンでお前は本を読んで俺は暇してるって時とか結構あるぞ?」


雪乃「……?」


八幡「可愛く首傾げて誤魔化すんじゃねぇよ。許しちゃうだろうが」


雪乃「わ、私はいいのよ。姉さんが言ってたわよ? 男は常に女が求めることをしてあげるものだって」


八幡「それ多分、あの人が単に『男は手のひらの上で踊らせとけばいい』って言いたかっただけだからね? 」


雪乃「でも、一理あるわ」


八幡「ねぇよ、ねぇ」


雪乃「とにかく私はかまって欲しいの。本を読んでる比企谷くんを見ても退屈なんだもの」


八幡「なんかお前……雪ノ下さんに似てきたよなぁ……」


雪乃「そう? 全然嬉しくないのだけれど……」


八幡「別に褒めてないから喜ばなくていいぞ。……まぁ。退屈してるってなら、何か付き合う」


雪乃「比企谷くんは私と何かしたいことある?」


八幡「したいこと……」ゴクリ


雪乃「……昨日したからダメよ」


八幡「あ、二日連続はダメなんですね」


雪乃「そういうのじゃなくてたまにはその、純粋に遊びたいのよ」


八幡「遊びたいか……。何やるかなー。プロレスごっことか?」


雪乃「発想が小学生ね……。でも、やるならあなたリング役ね」


八幡「何それ寝とけってこと? 俺、無慈悲にボディープレスとかされちゃうのん?」


雪乃「そうなるわね。痛い思いしたくないのなら別の案を出してちょうだい」


八幡「いや、それはそれでアリ……」


雪乃「………」


八幡「……ではないですねはい。別案か……。特に無いな」


雪乃「そう。じゃあ、ゲームをしましょう」


八幡「おい、さっきゲームって気分じゃないって……」


雪乃「テレビゲームって気分じゃないだけよ。今日は比企谷くんちに来る前にこれを買ってきたの」


八幡「何……って、お菓子か」


雪乃「由比ヶ浜さんに何か盛り上がる遊びを聞いた時にこのゲームを強く勧められたのよ」


雪乃「だから今日は比企谷くんとこれをやろうと思ってゲームに使うお菓子を買ってきたわ」


八幡「ほーん。その菓子見たら大方予想ついたわ……」


雪乃「あら、わかるの?」


八幡「まぁな。リア充が大好きそうなやつだ」


雪乃「よくわからないけれど、ポッキーゲームって言うそうよ」


八幡「知ってた」


雪乃「なら話が早いわね。やりましょう」


八幡「……まずお前が買ってきたのトッポなんだよなぁ」





ポッキーゲーム



八幡「なぁ、マジでやるの?」


雪乃「ええ。嫌……?」


八幡「嫌とかじゃなくてさすがに恥ずいというか……」


雪乃「別に私たちしかいないのだからいいじゃない。それに、私のほうが普段恥ずかしい思いをしているのだけれど」


八幡「そりゃお互い様だ……。てか、よくポッキーゲームしようって気になったな」


雪乃「……別に。恋人っぽいことがやってみたかっただけよ」


八幡「ポッキーゲームは恋人同士というよりは宴会とか合コンでやる遊びなんだけどな……。まずポッキーじゃなくてトッポだし」


雪乃「比企谷くん、細かい男は嫌われるわよ……?」


八幡「………」


雪乃「どちらにせよあなたに拒否権は無いのだから、早く始めましょう。ルールは知ってる?」


八幡「まぁ、一応」


雪乃「そう。ならこっち側を咥えてちょうだい」


八幡「マジでやるのか……」パク


雪乃「……そう言いつつも咥えるのね。じゃあ……いくわよ?」パク


八幡「……おう」


雪乃「………」サクサク


八幡「………」サクサク


八幡(え、どうすんだこれ。キスしちゃうの? キスしちゃうの!?)


八幡(まだトッポ半分も食ってないのに雪ノ下はもう目閉じてるし、これキスする気満々じゃないですかやだー!)


雪乃「………」サクサク


八幡「………」サクサク


八幡(まずい。このままだとマジでキスしちゃうんだけど……)


八幡(いやいや、まずくはないだろ。むしろキスしたいまである)


雪乃「………」サクサク


八幡「………」サクサク


八幡(当たる、唇もう当たっちゃう! 何だこれシチュエーションのせいかキスするの超恥ずいぞ)


八幡(その点トッポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん)


八幡「………」ポキッ


雪乃「あっ……」


八幡「わ、悪い。折れた」


雪乃「……あなたの負けね」


八幡「……あの。普通にキスしない? 普通にするよりも遥かに恥ずかしいんだけど……」


雪乃「別にキスをしたくてこのゲームをしているわけじゃないのだけれど……」


八幡「そ、そっすか」


雪乃「……そうよ? ほら、もう一度」パク


八幡「ま、まだやるの?」


雪乃「きふふるまでふるわよ」


八幡「わからん、なんて?」


雪乃「いいから来なふぁい」


八幡「あい……」


雪乃「………」


八幡「………」サクサク


雪乃「………」


八幡「………」サクサク


八幡(まさかの俺からお迎えするスタイル。ゆきのん全く食べないし俺からしろってことですかそうですか……)


八幡(いいぜ……。やってやんよ!)


八幡「………」サクサク


雪乃「………」チラッ


雪乃「………」カアア


雪乃「………」ポキッ


八幡「あーあ。お前の負けだな。てかお前も食えよ……」


雪乃「……お腹いっぱいなんだもの」


八幡「嘘こけ。量で言うならまだ一本も食べてないぞ」


雪乃「それよりも、その……ゆ、ゆっくり迫ってこないでもらえるかしら……」


八幡「そういうゲームだからね? やっぱ恥ずかしいならやめとこうぜ。お前顔真っ赤だぞ? 多分俺も」


雪乃「確かにやめたくなってきたけれど、今お互いに一勝一敗だから……もう一度だけ」


八幡「……あと一回だけな」


雪乃「ええ……。きて」


八幡「お前からも来てくれよ……」


雪乃「………」


八幡「………」サクサク


雪乃「………」ドキドキ


八幡「………」サクサク


雪乃「………」ドキドキドキドキ


八幡「………」サクサク


雪乃「………」ドゥンクドゥンク


八幡「………」サクサク


雪乃「……んっ」


八幡「……っ」


雪乃「……このお菓子、おいしいわね」


八幡「このタイミングで言われたら変な意味に捉えちゃうんだけど……。というか最後まで折れなかったがこの場合は引き分けになんの?」


雪乃「そうなるわね。だから、もう一度」


八幡「今のがラストじゃないのかよ」


雪乃「ゲーム自体は今のが最後よ。……だから次はお菓子無しで」


八幡「やっぱりキス目当てだったんじゃねぇかよ……」


雪乃「………」フイッ


八幡「あーでも、それはやめとくわ」


雪乃「……え?」


八幡「ほらその、我慢できそうにないしな」


雪乃「そう。……我慢、しなくていいのに」


八幡「えっ」


雪乃「比企谷くんからしてくれないのなら、私からするわ」


八幡「あっ、おい! 待――」





彼女さん



大学内


女「あ、比企谷くん。もし良かったら今日さ、講義の後二人でゼミ室行って勉強しない?」


八幡「え、あ、いや、今日はちょっとアレだから……」


女「えー? いいじゃーん。いっつも一人でいるみたいだし、たまには私と一緒にさ~」


八幡「いや……」


女「なんでー? 折角ゼミも一緒になったんだし親睦深めよ?」


八幡「いやぁ……」


雪乃「比企谷くん」


八幡「……おお、雪ノ下」


女「えっ。誰? ……か、彼女さん?」


八幡「まぁな」


女「へ、へぇ~……」


雪乃「……そちらは?」


女「こ、こんにちは、です」


八幡「同じ学科の奴だよ。最近ゼミ配属で一緒になったんだ」


雪乃「……そう。ごめんなさい、話の途中で割って入ってしまって。私の彼に何か用かしら?」ニッコリ


女「い、いいえ、何でもないです! じ、じゃあ比企谷くん、また今度誘うね!」シュタター


八幡「お、おう」


雪乃「はぁ……。講義が早く終わったから会いに来てみれば、えらく嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたけれど」


八幡「いやいや、1ミリ足りともしてないから」


雪乃「してたわよ。私には飽きたということなのね……」


八幡「いやいやいやいやいや。無い。それこそ無い。死ぬまでぞっこんまである」


雪乃「……どうかしらね」


八幡「ちょっとー、そんなんじゃないからね? 機嫌直してよゆきのーん」


雪乃「もう知らないっ」フイッ


八幡「悪かったよ……。それに、さっきの奴とは本当に何も無いぞ?」


雪乃「……でも、誘われてまんざらでもなさそうな顔をしていたわ」


八幡「んなわけねぇだろ。俺はお前が思ってる以上に雪ノ下一筋だぞ」


雪乃「またそう言って誤魔化そうとする……」


八幡「一応本心なんだが」


雪乃「信用できないわね。言っておくけど私だってあなたが想っている以上に比企谷くん一筋よ」


八幡「いいや、俺のほうが上だ」


雪乃「いいえ、私のほうが上よ。絶対に」


八幡「この負けず嫌いさんめ……。でもこればっかりは譲らんぞ俺は」


雪乃「……ならどれ程のものか見せてもらおうかしら」


八幡「え? い、今から?」


雪乃「そんなわけないでしょう……。ここは学校よ?」


八幡「ですよね」


雪乃「だから、その、今日、比企谷くんちで……」


八幡「……あの、そんなこと言われるとちょっとムラッちゃうんだけど」


雪乃「……このすけべ」


八幡「それ、お前が言う?」


雪乃「私はそういう意味で言ったつもりないわ」フイッ





ライン



雪乃「それで。比企谷くんはさっきの人とはどういう関係なのか、詳しく聞かせて?」


八幡「だから何でもないんだって。ゼミが一緒であいつも苗字がハ行だから席指定の時に俺の前に座ってるだけだ」


雪乃「……本当に?」


八幡「本当だ。そもそも俺全然ゼミ行ってないからあいつの名前すらあやふやだしな」


雪乃「ゼミくらいは行きなさい……。ゼミごとに集まってする講義もあるでしょう?」


八幡「あー、あるな。五回までなら休んでいいらしいから三週に一度行っとけば大丈夫だ」


雪乃「それは大丈夫とは言わないのだけれど……」


八幡「いいんだよ別に。ちなみにゼミ配属されたその日に皆でライン交換しようぜー! とか言ってきたやつがいたんだがなぁ……」


八幡「たまたまその日はスマホを家に忘れててよ。気づいた時にはハブられてたぜ……」


雪乃「あなたがハブられるのは今に始まったことじゃないでしょう? でも、その割にはさっきの子は随分とあなたに興味を持っていたようだけれど」


八幡「4年の先輩が卒業したら次期ゼミ長があいつらしいんだよ。だから今の内に問題児を更正させて仲良しゼミにしとこうって魂胆だろ」


雪乃「問題児と自覚しているなら早急に更正して欲しいのだけれど……。彼女としても恥ずかしいわ」


八幡「ゼミに戸部みたいな奴が二人もいるからそりゃ無理だな。あれらと仲良くなれる気がしない」


雪乃「あの騒がしいのが二人も……。というかあなた、戸部くんと仲良くなかった?」


八幡「まぁ、今はな。てか朝もその戸部みたいな奴にラインのID聞かれたわ。とりあえずスマホ忘れたことにして誤魔化しといた」


雪乃「そもそも比企谷くんはラインをやってないじゃない」


八幡「そりゃお前もだろ」


雪乃「あら、私はついこの間始めたわよ? ほら」


八幡「なん……だと……」


雪乃「私もゼミ配属の時にそういう話になってね。ゼミの子に無理やり登録させられたわ……」


八幡「ほー……。それ他の男とか登録してるのか?」


雪乃「妬いてくれているの? 一応グループにはいるけど、この友達の欄には登録していないわよ?」


八幡「……あっそ」


雪乃「そんな心配してくれなくても私は比企谷くん以外の男からのお誘いを受けるつもりはないわ」


八幡「なら、いいんだけどよ」


雪乃「でもその、間接的であるにせよ、あなた以外の男が私のラインに登録されてしまっているわけだから……あなたも登録してちょうだい」


八幡「だるいし別によくないか? 今までメールと電話で不便なくやってきたし」


雪乃「それでも、よ。ラインを立ち上げた時にあなたの名前があるとその……安心、するし」


八幡「よし、インストールしたぞ! これどうやってお互いの連絡先交換するんだ? スマホ振るのか? 投げるのか!?」


雪乃「きゅ、急にやる気出したわね。ならちょっと貸して? やり方は教わったから」


八幡「んじゃ頼む」


雪乃「ええ。……はい、できたわ」


八幡「おうさんきゅ」


雪乃「念のため釘を差しておくけれど、私以外の女を登録したら駄目よ?」


八幡「しねぇよ。する奴いないし」


雪乃「どうかしらね。さっきの人もそうだけど一色さんだって油断しているとすぐあなたに這い寄っているんだもの。油断ならないわ」


八幡「雪ノ下はどうなんだよ。お前可愛いんだから学科の奴に言い寄られたりしてないのか?」


雪乃「かわっ……。そうね、たまにご飯やカラオケに誘われたりはするわね」


八幡「……え、そうなの? 八幡初耳だよ?」


雪乃「そんな心配しなくても大丈夫よ。あなたみたいに曖昧に断ったりせずに毎回きっぱりと断っているから」


八幡「……さいですか」


雪乃「ええ、そうよ。とにかく、ラインに他の子が登録された時はちゃんと私に言ってね。あなたを疑いたくはないから……」


八幡「わかったよ。無いとは思うがな。あ、先に言っとくが既読スルーとかあっても怒んなよ?」


雪乃「きど……危篤スルー?」


八幡「こええよ、それはスルーすんな。あれだ、ラインって相手のメッセージ読んだら既読って出るんだろ? 使ってないから詳しくは知らんが」


雪乃「ええ、確かに既読と付くわね」


八幡「それでその読んだにも関わらず返信せずに無視することを既読スルーってんだよ。最近問題になってるらしい」


雪乃「なるほど、知らなかったわ。でもそんなこと私は気にしないわよ? メールでやり取りしている時なんていつもスルーしているようなものじゃない」


八幡「だよな。お前、俺のレポート課題の救援要請だけはいっつもメールスルーするしな」


雪乃「だってあなた、私が手伝ったら真面目にやらないじゃない」


八幡「それは雪ノ下が隣に座ってたりするとアレがアレでほら、アレもアレするわけで……」


雪乃「……変態。だから見てないふりをしていたのよ。そ、そういうのはレポート終わった後からならいくらでも……し、してあげられるし……」


八幡「ほほー、それは良いこと聞いたな」


雪乃「ばか……。あと気持ち悪い」


八幡「気持ち悪いはやめてくんない? あー、あと高校の付き合ったばっかの頃もメールの無視すごかったよなお前」


雪乃「そ、そうだったかしら?」


八幡「あの時はかなり勇気を振り絞ってデートに誘ったのに、返事が全く来なくてガチで凹んでたからな。あの時の小町の優しさときたら……」


雪乃「……だ、だってあの時はまだ付き合って間もなかったし、どう返事しようか悩んでいたら朝になってたりしてその……」


八幡(何その理由超かわいいんですけど)


雪乃「と、とにかく。私は既読スルーされたって気にしないわ。そもそもあなたの考えていることなんて大体わかっているもの」


八幡「何それちょっと怖い」


雪乃「高校からずっと一緒にいるのだから嫌でもわかってくるわよ。比企谷くんはわからないの?」


八幡「んー。まぁなんとなーく、な」


雪乃「そう? なら今の私の気持ち、当ててみて?」


八幡「なんだその無茶振り……。えーと、じゃあ……んんっ。あ、あー」


雪乃「……?」


八幡「比企谷くん。私は誰よりも比企谷八幡のことが好きよ」キリッ


雪乃「も、ものまねしろとは言ってないのだけれど」


八幡「いや、こんな感じかなって」


雪乃「あと、そのセリフはやめてちょうだい……」カアア


八幡「いや、急に思い出してな。雪ノ下が告白してきた時は今でも覚えてるなー。平静を装ってたわりには顔が超真っ赤だったぞ?」


雪乃「……殺されたいのかしら」


八幡「すまん。超すまん。いやマジすまんて」


雪乃「……次はないわよ」


八幡「あい……。ところで雪ノ下は次、講義だっけか?」


雪乃「いえ、今日は1コマ目と3コマ目だけだから2コマ目は空いてるわね」


八幡「そか。俺は2コマ目もあるから昼はラウンジかどこかで待っててくれるか?」


雪乃「わかったわ。なら4階のラウンジで待ってるから」


八幡「おう。そんじゃ次の講義行ってくるわ」


雪乃「ええ。いってらっしゃ……待って」


八幡「あん?」


雪乃「少し屈んでもらえる? 糸くずが付いているわ」


八幡「自分で取れる。どこだ?」


雪乃「いいから屈んで」


八幡「あ、はい」


雪乃「じっとしてて。…………っ」


八幡「うぉ、ちょ……」


雪乃「虫除けよ。また私以外に誘惑されたらその首筋を見せてね?」


八幡「ここ学校だぞ……。お前言ってることとしてること矛盾してんじゃねぇか……」


雪乃「……誰も居ないからセーフよ」


八幡「がっつりアウトだっての。マジで跡ついてるの? 絶対気付かれるだろこれ……」


雪乃「安心なさい。きっとあなたのことなんて誰も見ていないわよ」


八幡「それはそれで悲しいんだけど……」


雪乃「大丈夫よ。その分、私が比企谷くんをちゃんと見てるから」ニコッ


八幡「…………行ってくる」


雪乃「いってらっしゃい。待ってるわね」





既読スルー



八幡(相変わらずこの講義くっそつまらんぞ……。寝たいけどこの講義板書しっかり写しとかないと後々きついんだよな……)


八幡(いや一回くらい板書写さなくても大丈夫かなー。うん、大丈夫だろ、多分。……寝よ)


八幡(てかさっきから首筋のキス跡が気になって仕方ないんだが……。後ろから見えてたりしないよね……?)


テレン♪


八幡(っ! っべー、マナーモードにしてなかった。てか、俺のスマホ今までこんな音出たことあったっけ?)


雪乃『暇なのだけれど(ΦωΦ)』


八幡(知らねぇしなんだよこの顔文字可愛いなちくしょう……。何の音かと思ったらこれラインの通知音か)


八幡『俺は講義中なのだけれど(・o・)』既読


雪乃『どうせあなたのことだから、居眠りすると思って眠気覚ましにメッセージを送ってみたのよ。あと真似しないで。顔文字も気持ち悪いわ』


八幡(顔文字普段使わないからこれくらいしかないんだよなぁ……。てかマジで考えてることわかってるのかよあいつ)


八幡(にしてもラインって本当に既読付くんだな。これ非表示にできないの?)


八幡『今まさに寝ようと思ってたわ。なに? エスパーなの?』既読


雪乃『さっきずっと目が腐っていたから眠いのかと思って』


八幡『生まれつきで悪かったな』


八幡(実際に使ってみるとメールよりもやり取り早くて楽だなこれ。世のリア充どもが好んで使うわけだ)


八幡(てか既読付かないな。なんかあったのかあいつ? もしかしてナンパされてたり? ちょっと様子を見に……)


八幡(……ハッ!? っぶねー。これが既読スルーの闇か……。うっかりハマるとこだったぜ……って、そもそも既読すらついてないわこれ)


八幡(でもこれ既読付かないなら付かないでちょっと不安になるな。どうでもいい奴なら気にならないが)


八幡(もし仮にグループチャットで自分が何かしゃべったとして、既読6とか付いてて誰からも返事なかったらきつそうだな……)


八幡(そっとグループ抜けてそのままそいつらとは疎遠まである)


八幡(よし決めた。ゼミのライングループには絶対に入らないぞ。意地でも断っちゃうんだからねっ!)


雪乃『ところでお昼はどうするか決めているの?』


八幡『いや、特には』既読


雪乃『そう。今日はお弁当作ってきたのだけれど』


八幡『おっ。そりゃ楽しみだ(・o・)』既読


雪乃『その顔文字なんとかならないのかしら……。気持ち悪いわ比企谷くん』


八幡『顔文字がだよね? 俺がじゃないよね??』既読


雪乃『さぁ? どっちかしらね^^』


八幡『その顔文字やめろ……』既読


雪乃『それでその、今日はいつもより早く起きたから唐揚げメインとハンバーグメインの2パターンを作ってみたのだけれど、比企谷くんはどっちがいい?』


八幡(ほー、どっちも美味そうだな……。それに昼食前の講義中に飯の話を持ちかけてくるとは……腹減ってきた)


講師「今から資料プリント配るぞー。今から言う箇所は試験で出すから線とかメモとかするように。後から聞いてきても教えないからなー」


八幡(おいマジか。あ、メモ書いてる間にホントにあいつが既読スルーしても気にしないか試してみるか)カキカキ


雪乃『比企谷くん?』


雪乃『既読がついているし見ているんでしょう? 答えて欲しいのだけれど』


雪乃『もしかして、さっき私が既読スルーされても気にしないと言ったことを試しているのかしら?』


雪乃『そう考えているなら無駄よ。あなたの考えていることなどお見通しなのだから』


雪乃『比企谷くん』


雪乃『比企谷くん?』


雪乃『ちょっと比企谷くん??』


雪乃『見ているんでしょう?』


雪乃『返事して』


雪乃『……比企谷くん。その、ごめんなさい』


雪乃『あなたの考えていることがわかると言ったけれど、本当はあまりわかっていないの』


雪乃『だから返事してちょうだい』


雪乃『返事欲しいにゃー……(ΦωΦ)』


雪乃『比企谷くん、何でもいうこと聞くからその……返事を』


雪乃『わかった、やるわ。この前あなたがやりたいと言って断った猫プレイをやるわ。してあげるから……その、そろそろ返事を』


八幡(深刻なまでに気にしてんじゃねぇかよ……。一瞬病んでるのかと思っちゃったぞ)


八幡『あー、悪い。ライン付けっぱで板書メモってたわ。唐揚げメインがいいかな俺は』既読


雪乃『そう』


八幡『それで、今度する猫プレイについてなんだが』既読


雪乃『………』


雪乃『(^ΦωΦ^)にゃー』


雪乃『これで満足?』


八幡『するわけねぇだろ……。そうだな、今日俺んち来るならその時どうだ?』既読


雪乃『……好きになさい』


八幡(やったぜ)





あーん



八幡「悪い。待たせたな」


雪乃「お疲れ様。講義だったのだから仕方ないわよ」


八幡「まぁそうなんだけどな。あれだけラインで構ってちゃんされたらさすがに悪いと思ってな」


雪乃「……何のことかしら」


八幡「あんだけライン送っておいてとぼけるとか逆にすげぇなおい……」


雪乃「え、何が?」


八幡「何がもナルガもクルガもねぇよ。まっ、面白いもん見れたからいいけどよ」


雪乃「………」


八幡「で、飯はどこで食うかね」


雪乃「ここで良いんじゃない? ここは飲食の禁止はされていないし」


八幡「そうなのか。んじゃ、ここで食うか」


雪乃「ええ。はい、お弁当」


八幡「おう、サンキュな。ほー、相変わらず美味そうだな」


雪乃「由比ヶ浜さんよりは料理ができるもの。当然よ」


八幡「比べる相手間違えてるんだよなぁ」


雪乃「あら、知らないの? 由比ヶ浜さん料理上達したのよ?」


八幡「……マジ?」


雪乃「ええ、マジよ。去年千葉に帰った時に由比ヶ浜さんの家に泊まったのだけれど、その時作ってくれた料理はおいしかったわ」


八幡「そりゃ意外だな……。あいつ元気にしてるのか?」


雪乃「遠い昔のことの様に言っているけれど、去年三人でご飯食べたじゃない……。よく電話はするけど相変わらずね」


八幡「確か海老名さんと千葉の女子大に通ってるんだっけか」


雪乃「ええ。今は海老名さんや大学の友達と楽しんでいるそうよ」


八幡「そうか。空気読みまくってなけりゃ良いんだが……」


雪乃「ずいぶんと由比ヶ浜さんの心配をしているわね」


八幡「いやいや。雪ノ下が思ってるようなことはないからね?」


雪乃「ほんと……?」


八幡「ほんとほんと。ゆきのんちょー愛してる」


雪乃「適当に言われるとさすがに腹が立つのだけれど」


八幡「逆に真面目にそんなセリフ言えるかよ……。いいから飯食おうぜ飯」


雪乃「……それもそうね。はい、比企谷くん」


八幡「え、何」


雪乃「何って食べさせてあげるのよ? だから口を開けなさい」


八幡「いや、さすがにそれは……。俺の分ここにあるし」


雪乃「唐揚げとハンバーグの2パターンを作ってきたのだからどっちも食べてもらいたいじゃない。だから私の方も一口食べて」


八幡「じゃあ自分で取って食う」


雪乃「そんなことしたら私のお弁当が腐敗するからダメよ。だからほら……あーん」


八幡「言ってること矛盾してるしどういうことなの……。ていうかここ学校だしさすがに恥ずかしいんだけど」


雪乃「今周りに人いないから大丈夫よ。だから誰か来る前に、はやく」


八幡「……いや」


雪乃「その、私だって恥ずかしいのだから早くしてちょうだい……。じゃないとその口こじ開けるわよ」


八幡「わざわざ学校でしなくても……」


雪乃「……そう。年末に姉さんにご飯食べさせてもらっていたようだけれど、私にはさせてくれないのね……」


八幡「いやあれは雪ノ下さんが無理矢理にだな……。あの人の場合拒否権ないし……」


雪乃「私だって拒否権を与えたつもりはないのだけれど」


八幡「そんなー」


雪乃「いいから私に食べさせてもらいなさい。でないともうお弁当作ってあげないわよ?」


八幡「そんな横暴な……」


雪乃「あら、好きな人の初めてを全て独り占めしたいって気持ちは横暴なのかしら?」


八幡「横暴と言うよりかは強欲だな。ていうかそんなセリフよく真顔で言えるな」


雪乃「あなたが素直に口を開けないからよ……」カアア


八幡「はぁ。わかった、やる。やるから」


雪乃「始めからそう言って欲しかったわね」


八幡「うっせ。シャイなんだから察してくれ」


雪乃「私だってそうよ」


八幡(なんか今年に入って雪ノ下がかなり積極的になってる気がする)


八幡(多分、ここ最近二人でよくアニメ見てたから感化されたんだろうなぁ……。ポッキーゲームもこの前アニメでそんなシーンあったしな)


八幡(少しずつアニメに毒されていくゆきのん。アリだと思います。でも毒されすぎないようにしないとな)


雪乃「そ、それじゃあ……いい?」


八幡「お、おう」


雪乃「……あ、あーん」


八幡「………」


雪乃「どう? ……おいしい?」


八幡「おいしい、と思う、たぶん」


雪乃「それはおいしくなかったってこと?」


八幡「……味わう余裕ないっつーの」


雪乃「そう」クスッ


雪乃「……じゃあ、次は私がしてもらう番ね」


八幡「え? 逆もすんの?」





っべーわ



八幡宅


戸部「っかー! ヒキタニ君そこでバーストはずりーわー! からのたたみ掛けもっべーわ!」


八幡「バーストしなきゃ負けてたし危なかったわ」


戸部「今日のヒキタニ君キテるわー! うし、もっかい! いやー、あそこで必殺ガードされなきゃ勝ってたわー」


八幡「隙も一切作らず真正面からいきなりされたらそりゃガードするだろ……」


戸部「ところでヒキタニ君、雪ノ下さんとは最近どーよ?」


八幡「あ? どうと言われてもな……。いつも通りだな」


戸部「マジかー。いやー、それにしてもマジで羨ましいべ。雪ノ下さんみたいな可愛い子が彼女とかさ」


八幡「でもお前、この前彼女出来たとか言ってなかったか?」


戸部「あー……あれね。ついこの間別れたんだわ」


八幡「はやいな……。反りが合わなかったか?」


戸部「そんな感じ? やっぱ海老名さんみたいな少しおとなしめの子が俺には合うっつーかさー」


八幡「海老名さんとはもう高校出てから全然会ってないのか?」


戸部「んや、大学は別になっちゃったけど夏休みとか年末は総武組みたいな感じで隼人君たちと集まって海行ったり飲みに行ったりはしてるべ」


八幡「そうなのか。たしか葉山と三浦は同じ大学に行ったんだよな」


戸部「だべだべ。やっぱどこ行っても隼人くんモテるみたいでさー。何かある度に優美子が不機嫌になるらしくってよー」


八幡「最近になってようやくあいつら付き合いだしたんだっけか。高校の時の三浦を見てきた側からするとやっとかよって感じだな」


戸部「ほんとそれなー。はぁ、俺も海老名さんと付き合いてぇなぁ……」


八幡「連絡先知ってるなら遊びに誘ったりしてみたらどうだ? お前バイクの免許持ってるんだし海老名さんでも後ろに乗っけてな」


戸部「それある! さっすがヒキタニ君、たらしだわー」


八幡「なんでだよ……。俺ほど一途な奴いないぞ……。いるけど」


戸部「ヒキタニ君って高校から雪ノ下さんとできてたんだっけ?」


八幡「まぁ、な。高二の終わりごろから一応……」


戸部「っかー! 未だにラブラブとかマジで羨ましいわー。今も超仲良さげだし」


戸部「そんでさ……雪ノ下さんって二人の時はどうなん?」


八幡「どういう意味だ……?」


戸部「ほら、なんつーの? 抱く時の雪ノ下さんとかさー。やっぱヒキタニ君に甘えたりしてるん?」


八幡「……絶対言わねぇ。言うわけないだろ……」


戸部「いいじゃん教えてくれたってよー!」


八幡「何が楽しくてセックス中の彼女の様子を他の男にしゃべらなきゃいけないんだよ」


戸部「高校の時はやっぱ雪ノ下さん人気あったし、こういう話は聞きたいじゃんよー! 今俺たちだけなんだし教えてよヒキタニくーん」


八幡「……俺たちだけ、か」チラッ


雪乃「………」


戸部「……ん?」


雪乃「こんにちは、戸部くん」


戸部「うぇっ……。ゆ、雪ノ下さん、いい、いつの間に……」


雪乃「ついさっきよ。ごめんなさいね、二人が楽しそうにゲームしてたからこっそり部屋に来たのだけれど」


八幡「雪ノ下には合鍵渡してるからなぁ。油断してるとたまにこうやって背後に立ってるんだよ」


戸部「っべーわ……。雪ノ下さんマジ舐めてたわ」


雪乃「たまにも何も今日初めてしたのだけれど。適当なこと言わないで……。今日だって来る前にちゃんと連絡したでしょう?」


八幡「……ああ、メール来てたわ。すまん、ゲームしてて気づかなかった」


雪乃「戸部くんが遊びに来ると言われていたし別に気にしてないわ。どうせ気づいてないと思って来ちゃったし」


八幡「そうか。悪いな」


雪乃「それで……」


雪乃「戸部くんは私の何が聞きたいのかしら?」ニッコリ


戸部「うぇっ……。えー、えっと、あっ! 俺この後バイトあるんだったわ! ぼちぼち帰るわ!」


八幡「いやお前今日はバイト無いって……」


戸部「あるある! 超ある! ありすぎてべーから! そんじゃ帰るわヒキタニ君! 今日持ってきたゲームしばらく貸すから雪ノ下さんとやってくれな!」


八幡「お、おう。なら借りとくわ」


戸部「おっけーおっけー。そんじゃなヒキタニ君! 雪ノ下さんも!」ピュー


雪乃「とてつもないスピードで帰っていったわね……」


八幡「だ、だな」





ゲーム



雪乃「相変わらずいつ見ても慣れない組み合わせね。比企谷くんと戸部くんだなんて」


八幡「まぁな。たまたま学科が一緒だったのもあって何かあるたびに絡んできて気づいたら仲良くなってた」


雪乃「……比企谷くんはうぇいうぇい言わないわよね?」


八幡「絶対言わん」


雪乃「そう、ならいいけど。それで比企谷くんは戸部くんとどんなお話をしてたの?」


八幡「他愛もない話だよ」


雪乃「抱かれている時の私は他愛無いって話をしてたの……?」


八幡「ばか、ばっかおま違うから。全然これっぽっちも全くもって他愛無くないから。何なら戸部の存在が他愛無いまである。ついでに材木座も」


雪乃「何故か材木座くんがもらい事故みたいになってるのだけれど……。戸部くんに変なことしゃべったりしていないのなら別にいいのよ」


八幡「しゃべるわけないだろ。雪ノ下がむっつりスケベで実はエロいってこととか」


雪乃「ちょっと? わけのわからないこと言わないでもらえるかしら?」


八幡「いやいや、お前、なかなかのむっつりスケベだと思うぞ? いやマジで」


雪乃「……そんなわけないでしょう」


八幡「だってこの前の猫プレイの時も……」


雪乃「ひ、比企谷くん、私もあなたたちがやってたゲームをしてみたいのだけれど」


八幡「最初嫌々だったくせに最後の方とか結構ノリノリで」


雪乃「お願い、その話はもうやめて。やめてくださいお願いします」


八幡「お、おう。悪い悪い。でもあん時の雪ノ下は可愛かったなー……」


雪乃「……他の人にしゃべったりしたら死んでも許さないから」


八幡「こればっかりは小町だろうと死んでも言わねぇよ」


雪乃「………………そもそもこんな私にしたのはあなたのせいよ」


八幡「なんか言ったか?」


雪乃「何でもないわ。独り言よ」


八幡「そうか」


雪乃「ええ」


八幡(結構雪ノ下から誘ってくることがあるから、俺だけのせいではないと思うんだよなぁ……)


八幡「……まぁ、とりあえずゲームやるか」


八幡「戸部とやってたのは格ゲーっつって、操作慣れた奴と慣れてない奴がやると一方的な殲滅になるヤツだからこっちのマリカをやろう」


雪乃「マリカ?」


八幡「ただのレースゲームだよ。といっても色々アイテムはあるけどな。とりあえずやってみようぜ。ほい、コントローラー」


雪乃「ありがとう。操作方法を教えてもらってもいいかしら?」


八幡「とりあえずA押しとけば前に進む。で、Bがブレーキとバック。RLでドリフトだ。曲がる時は基本ドリフトで曲がったほうがいい」


雪乃「ふむ……。操作は簡単そうね」


八幡「一回走ればすぐ慣れるぞ。最初はCPU有りの50ccにしとくか」


雪乃「ルールは任せるわ。対戦ゲームということならば比企谷くん、勝負しない?」


八幡「勝負?」


雪乃「そう。勝った方は負けた方に罰ゲームとして何でも命令ができるの」


八幡「懐かしいな、それ……」


雪乃「奉仕部の時は結局、平塚先生が勝負の存在自体を忘れて引き分けってことになったのよね」


八幡「今日決着を着けようってか」


雪乃「ええ」


八幡「ほー。言っとくが俺はこのゲーム初めてじゃないぞ? どう考えても俺が勝つし、何かハンデくらいならあってもいいけど」


雪乃「ハンデ……?」カチン


雪乃「……私も見くびられたものね。確かにこのゲームは初めてプレイするけれど、だからと言ってそれが比企谷くんに負ける理由にはならないわ」


八幡「いや、十分理由になると思うぞ?」


雪乃「つべこべ言わずかかってきなさい。舐めてかかったことを後悔させてあげるわ」


八幡「へぇ……。なら」



八幡 1st

雪乃 9th



雪乃「………」


八幡「一応教えとくけど、コントローラー左右に傾けてもカートは曲がったりしないからな?」


雪乃「……思わず体が動くのよ」


八幡「50ccだから適当に走ってもそこそこ上位入れるはずなんだけどな」


雪乃「………」


八幡「よーし、それじゃあ何を命令するかな~」


雪乃「……ま、待って。今のは練習よ。初めてプレイするのだから一戦目からいきなり本番なわけがないでしょう?」


八幡「………」


雪乃「さぁ、次からが本番よ。コースは私が選ぶから……!」


八幡「すっげぇ悔しそう……」



八幡 1st

雪乃 11th



雪乃「くっ……」


八幡「すげぇな。緑甲羅三連続で投げて自分で三連続食らう奴初めて見たわ」


雪乃「このキノコが悪いのよ」


八幡「キノピオのせいにすんなよ……。あれだな、三勝したら一回命令できるってことにしようぜ」


雪乃「ええ、構わないわ」


八幡「じゃあ今1-0な」


雪乃「あと、ついでに比企谷くんはアイテム無しよ」


八幡「さらっとハンデ設けてきたな……。別にいいけどよ」



八幡 1st

雪乃 12th



八幡「やっぱアイテムないとそこそこキツかったな」


雪乃「なぜ……」


八幡「いやいや、なぜってお前……。街のコースだからって目の前の信号が赤になっても止まらなくていいからね?」


雪乃「ゲームと云えどやっぱり信号機の指示には従うべきだと思うのだけれど?」


八幡「仰る通りだけどこれレースだし……」


雪乃「仮にレースだとしても道路交通法を破ることは犯罪よ。よって私以外は全員その場で検挙、繰り上がりで私が一位ということになるわね」


八幡「意地でも一位になりたいのな……」


雪乃「これでお互い一勝ね。次もコースは私が選んでいいかしら?」


八幡「おう、いいぞ。……って、あれ? 結局今のはお前の勝ちなの?」


雪乃「何か異論でも? 交通違反谷くん」


八幡「もうそれでいいです……」



1st

9th



八幡「次は信号も何もないから上手く言いくるめられないぞ」


雪乃「どうして順位が伸びないの……」


八幡(そりゃ道路に捨てられたバナナをご丁寧に一つずつ踏んで回収しながら走ってたら一位になれるもんもなれないだろ……)


八幡(バナナ踏んで唸る雪ノ下が可愛いから黙っておくけど)


雪乃「きっと座る位置が悪いのね……」


八幡「は? 座る位置? っておい、なんで俺の膝の上……」


雪乃「だって比企谷くんが膝の上に座って欲しそうだったから」


八幡「いやその、前見にくいし操作しにくいし」


雪乃「これもハンデよ。我慢なさい」


八幡(くそっ、めちゃくちゃいい匂いするしなんか色々柔らかいしあといい匂いするし集中できねぇ!)スーハー


雪乃「は、鼻息が荒いのだけれど……」



1st

5th



八幡「結局俺の圧勝だったな」


雪乃「このキノコ……もっと上手に走らないのかしら」


八幡「いやいや、だからキノピオは悪くないだろ。操作してんのお前だし」


八幡(ちょいちょい膝の上で雪ノ下がもぞもぞ動くから俺のキノピオは危なかったけどね!)


雪乃「くっ……」


八幡「じゃあ、約束通り命令聞いてもらおうかね」ギュッ


雪乃「あっ……。ちょ、ちょっと比企谷くん、命令って……」


八幡「ああ。もういい時間だし夕飯作ってもらおうかな」


雪乃「え……。そ、そんなことでいいの……?」


八幡「ナニかされる方が良かったのか?」


雪乃「……べべ別にそんなわけないでしょう。夕飯は何でもいい? ドブにする?」


八幡「何でも良……待て待て、ドブってなんだ」


雪乃「好物だったわよね?」


八幡「何の妖怪と間違えてんの……? ドブ以外なら飯はなんでも良い。雪ノ下なら何作っても上手いしな」


雪乃「……そう。でも、何でもは困るのだけれど」


八幡「何でもいいかって聞いてきたの雪ノ下さんなんですけど……。なら気分的に生姜焼きがいい」


雪乃「生姜焼きね。わかったわ」


八幡「あー、いや、やっぱ俺も手伝うわ」


雪乃「あら、それだと罰ゲームにならないわよ?」


八幡「じゃあ一緒に夕飯作るって命令に変えよう。ていうか罰ゲームじゃなくても普段から飯作ってもらってるしな」


雪乃「そう? なら比企谷くんはまずサラダを作ってもらえるかしら」


八幡「あいよ」





スケベ



八幡「ところで」


雪乃「?」


八幡「俺に完敗した雪ノ下さんは、俺に勝ってたらなんて命令するつもりだったんだ?」


雪乃「それは……教えない」


八幡「なんだよそれ。気になる」


雪乃「……できもしないのに言うのは恥ずかしいんだもの」


八幡「なにそれ全裸で街一周とか……?」


雪乃「そんな陳腐な命令なんてしないわよ」


八幡「ならなんだよ」


雪乃「本当に恥ずかしいから、言わない」


八幡「余計気になる」


雪乃「……笑わない?」


八幡「笑わない」


八幡(多分)


雪乃「引かない?」


八幡「引かない」


八幡(多分)


雪乃「…………何というかその……き、キス、してもらおうと思ったのよ」


八幡「……は、キス? あの、結構頻繁にしてる気がするんですけど」


雪乃「それは雰囲気的にお互い流れでしたり……え、エッチの時だけでしょう?」


八幡「まぁ……うん」


雪乃「それに比企谷くんはあまり自分からキスしようとはしてくれないし」


八幡「そ、そうでしたっけ?」


雪乃「そうよ。だから私はその、比企谷くんからして欲しかったというかその……その……」


八幡「………」


雪乃「……き、キスだけよ? 私はあくまでキスだけを――んむっ!?」


八幡「…………こんな感じでいいか?」


雪乃「……だめ。足りないわ」


八幡「わかった……………」


雪乃「……………勝負には負けたのに、叶えてくれるのね」


八幡「お前のは命令と言うよりかは単なるお願いだしな」


八幡「……というか俺がしたくなったからしただけだ」


雪乃「ふふっ、そういうことにしてあげる」


八幡「……なぁ、雪ノ下」


雪乃「……?」


八幡「飯、後にしないか?」


雪乃「いい、けれど……夕飯食べるの遅くなるわよ?」


八幡「…………その分雪ノ下を、な」


雪乃「ケダモノ……。だからさっきもゴリラを操作してたのね」


八幡「俺はともかくドンキーはありゃただの獣だ」


雪乃「そう。でも比企谷くん自身はケダモノだと認めるのね」


八幡「ふっ、まぁな。だから俺が満足するまでやるぞ」


雪乃「んぁっ……ま、待って、ま、まだ心の準備が」


八幡「待たない」


雪乃「あっ、や……ひきがや、くん……」


八幡「嫌か?」


雪乃「い、嫌ではないけれど……す、少しだけ待って? その、お風呂にも入っていないし……」


八幡「悪いがそれは無理」


雪乃「どうして……」


八幡「好きな子にはイタズラしたくなるっていうだろ」


雪乃「やってることがイタズラの限度を超えているわ」


八幡「そりゃあれだな。大好きだからだな」


雪乃「あら、珍しいわね。あなたからそんなこと言うなんて」


八幡「久しぶりに雪ノ下から可愛いお願いされたからな。こんなの嫌でもハッスルするわ」


雪乃「か、可愛いお願いなんてしていないわよ……」


八幡「いいんだよ理由なんて。ただ好きだ…………」


雪乃「………………そうやってキスしてくるの、少しずるいわ」


八幡「そ、そうか……?」


雪乃「だから、仕返し」


八幡「…………っ」


雪乃「私だって比企谷くんのことが好き。……だ、だから、たくさん……私も、満足するまで……」


八幡「やっぱ雪ノ下ってスケベだよな」


雪乃「…………比企谷くんなんて嫌いよ」


八幡「ちょっ……4秒で言葉覆すなよ……」


雪乃「なら、たくさんしてくれる?」


八幡「おう…………」


雪乃「………………」





怨那



材木座『我だ』


八幡『あー、もしもし。材木座か?』


材木座『うむ。どうしたのだ八幡。急に電話などしてきて』


八幡『どうしたもこうしたもねぇよ。なんかゆうメールが届いたと思ったらAVが入ってたんだが……差出人剣豪将軍ってこれお前だろ』


材木座『メリー……クリスマス……!』


八幡『いらんわこんなクリスマスプレゼント……。しかもこれなんで三本も入ってんだ』


材木座『はぽん、ネットでググってたら万人が認めるほどの神作が手に入ってな! おまけで我のおすすめも二本入れておいた』


八幡『それ何をググったんだよ……。てか全部巨乳モノか。スレンダー系とか無いの?』


材木座『我の趣味だ。ネットでちっぱいを調べたら何故かホモビが出て以来、我の中で貧乳はギルティになってな』


八幡『それ貧乳に何の罪も無いけどな……』


材木座『シャラッ~~~プ!!!』


八幡『うぉ……急に大声出すなよ……』


材木座『貴様にはあの氷結の魔女がいるではないか! 貴様なら貧乳くらいいつでも見れるんだろ! 死ね! 我に謝り死ね!』


八幡『まず先にお前が雪ノ下に殺さるぞ……。それに残念ながら本家の氷結の魔女よりも胸が……』


材木座『あっ……(察し)』


八幡『でもな、材木座。それでも……柔らかいんだぞ? 膨らみもちゃんとあるしな』


材木座『キェエエエイ! 黙れぇえええい! 女子など小学生の頃から一度も触れてないわぁああ!』


八幡『お、おう。金さえあれば好きなだけ触れる店なんていくらでもあるじゃねぇか』


材木座『ふっ、笑止。風俗など行くものか。そもそも処女で聖女な子じゃないと我NG』


八幡『……あっそ。気持ちはわかるけど』


材木座『もほん、とにかく我の至高の三本セット、確かに届けたぞ?』


八幡『マジでいらねぇ……。捨てていいの?』


材木座『駄目に決まっておろう! ちゃんと三本とも見てどうだったか感想を聞くのでな。いいな!?』


八幡『何が楽しくてお前とAVの話しないといけないのん……。お前、3次元は糞とか言ってたじゃねぇかよ』


材木座『AVと声優は2.5次元だからセーフ』


八幡『声優はともかくAVはさすがに無理あるぞ……』


材木座『黙らっしゃい! 我も変わったのだ。我を差し置いて恋人などという怨那を作りおって……。死ね。いやマジでSINE』


八幡『おい、ガチトーンで死ねはやめろ』


材木座『はぽん、貴様など我の送ったAVが彼女にバレてそのまま別れてしまえばいい』


八幡『てめぇ……それが狙いか!?』


材木座『ぶるすこぶるすこモルスァ。無論、純粋に我のオヌヌメのAVを見てもらいたいというのもあるぞ!』


材木座『八幡、いいな? 近々絶対に感想を聞かせてもらうぞ!』


八幡『マジで嫌だ……。まず三本とかそこそこ多いし』


材木座『別にシコってくれても構わんのだぞ?』


八幡『うっせぇ! お前から借りたもんでは死んでもしねぇよ!』


材木座『そう照れるでない八幡。……べ、別にあんたのことを思って貸したわけじゃないんだからねっ!』


八幡『きめぇ……。まぁ……一応見てやるから今度また連絡する』


材木座『あ、八幡! やっぱ興味あるんじゃん! やっぱ興味あるんじゃーん!!』


八幡『うぜぇ……。もう切るぞ』


材木座『ちょ待っ―』ブツッ


八幡「やれやれ……。さっさと見てさっさと返さないとあいつにバレるよなぁ」


八幡「よりによって全部巨乳モノだしバレたら絶対殺されるな……」


八幡「とりあえずどこに隠すかな……。ベッドの下はさすがにアレだし、冷蔵庫の上とかにしとくか」


八幡「……その前に一本だけ見てみるか。今日雪ノ下はバイトって言ってたし見れるときに見とかないとな!」


八幡「ちゃっかりAV見るの初めてだな……。どれから見るかなー」


雪乃「比企谷くん、いる?」ガチャ


八幡「ファッ!?」


八幡「……よ、よよよよ、よお」


雪乃「こんばんは。鍵閉めないなんて随分と不用心ね」


八幡「い、いや、別に出掛けてないし大丈夫かなって……」


雪乃「それでも閉めた方がいいわ。私だから良かったものの」


八幡「れ、れれ連絡くらいくれよな。て、てかお前バイトは?」


雪乃「シフト表見間違えてて今日は休みだったの。だからその、驚かせようと思って……。そうしたらあなた、すごく驚いてるんだもの」


八幡「そりゃ前触れもなく人が家に入ってきたら普通驚くだろ」


雪乃「それもそうね。私はてっきりあなたがやましいことでもしようとしているのかと思ったわ」


八幡「べべっべべべべ別に何もねぇし?」


雪乃「…………比企谷くん?」


八幡「い、いや、ほんとだよ?」


雪乃「神に誓って?」


八幡「知らないのか? 神は死んだんだぞ?」


雪乃「部屋、見せてもらうわね」


八幡「ああああ五分待ってくれぇええ!」





貧乳



雪乃「比企谷くん」


八幡「……はい」


雪乃「これ、何かしら」


八幡「えーっと……」


雪乃「これ、何かしら?」ニッコリ


八幡「『集まれ巨乳っ娘! 驚異のおっぱい100連発』と『爆乳大陸~大地を揺らせ~』と『ハレルヤ・ユレルヤ~幸せを運ぶHカップ~』ですね、はい」


雪乃「ご丁寧にタイトルを言えとは言っていないのだけれど……」


八幡「はい、さーせん」


雪乃「はぁ……。それで、私というものがありながらこんな如何わしい物を見ようとしていたの?」


八幡「いや、これは材木座から無理矢理渡されたというか嫌々借りることになったというか……。それで感想を求められてたというか……」


雪乃「そんな嘘を私が信じると思って?」


八幡「マジマジマジ! 材木座に強制的に渡されたのはマジだから! あいつが俺んちに勝手に送ってきただけだから!」


雪乃「それによりにもよってどれも胸が多い女性ばかりじゃない……。あの腐れ肉団子くん、私への当て付けかしら」


八幡「腐れ肉団子……。ざ、材木座は単に巨乳好きなだけであってお前のこと馬鹿にしてるわけじゃなくてだな……」


雪乃「彼のことなんて今はどうでもいいの。あなたと話をしているのだから」


八幡「……そうですね」


雪乃「もし仮に私がこれらに気付かなかったとして……あなた、これ全て見るつもりだったの?」


八幡「えっ……。あー、ちょっとだけ」


雪乃「………」


八幡「なな、なーんてな! 雪ノ下がいるのにこんなもの見るわけないだろ!」


雪乃「………」


八幡(まずい……本気で怒らせたか……?)


雪乃「私……これでも毎日…………しているのだけれど」


八幡「えっ、な、何を?」


雪乃「私、これでも毎日バストアップの体操をしているのだけれどっ!!!」


八幡「ひぇっ」ビクッ


雪乃「今までは特に気にしていなかったのに、あなたと付き合うことになってからは自分の胸にコンプレックスを感じるようになってその……」


八幡「ゆ、雪ノ下さん?」


雪乃「由比ヶ浜さんや平塚先生のように、私だって……私だってなりたいのに……」


八幡「まずお前は比べる相手がおかしいんだよ……。ドラゴンボールで弱いキャラを聞かれて魔人ブウって答えてるようなもんだぞ」


雪乃「どちらにせよ小さいことに変わりは無いでしょう?」


八幡「俺は気にすることないと思うけどな。ちなみに胸のサイズって聞いても怒らない?」


雪乃「既に聞いているじゃない……。一応、今はまだBよ……」


八幡「まだ、ねぇ……」


雪乃「なにか……?」


八幡「いや別に……。今まで触ってた感じだともう少しある気がするんだけどな」


雪乃「さりげなくセクハラ発言しないでもらえるかしら」


八幡「お、おう」


雪乃「比企谷くんはその……やっぱり胸が大きい女性の方が好き?」


八幡「まぁ、やっぱでかい人の方に目は惹かれるな」


雪乃「そう……」


八幡「俺は胸の大きさなんざ全く気にしてないというか、気に留めたことも無かったしマジで気にしなくていいと思うぞ?」


雪乃「比企谷くんが気にしなくても私自身が気にするのよ……」


八幡「そうか? ほら、貧乳は乳がん見つかりやすいっていうぞ?」


雪乃「あまり慰められた気がしないわね……」


八幡「じゃあ貧乳は垂れないとか? あ、貧乳は貧乳で巨乳より」


雪乃「貧乳貧乳連呼しないで……」


八幡「すいません……」


雪乃「比企谷くんは胸が大きい女性が好きなんでしょう? だったら嫌でも気にするわよ……」


八幡「俺はあくまで目が惹かれると言っただけで好きとは言ってないぞ?」


雪乃「でも、どうせ胸が大きい人の方が良いんでしょう?」


八幡「どうせって何だよどうせって……。人にも好みってのがあるんだよ」


雪乃「なら、比企谷くんはどっちなの?」


八幡「俺は大きいなら大きいで良いし、小さいなら小さいでそれもまた最高派だ」


雪乃「なによそれ。曖昧に答えているだけじゃない」


八幡「こればっかりは男にしかわかんねぇんだよ。それに雪ノ下は今のままで良いと思うぞ」


雪乃「それは金輪際私の胸は成長しないという私に対しての宣戦布告、ということでいいのかしら?」


八幡「ちげぇっての……。なんていうかこう……あれなんだよ」


雪乃「あれ?」


八幡「あー、なんて説明すりゃいいかわからん。とにかく俺は雪ノ下が好きなわけで体が好きというわけじゃなくて……いや、体も好きだけど」


雪乃「………」


八幡「お前は大きい方がいいのかもしれんが、俺からすると下手に胸が大きいよりも雪ノ下くらいの方がよっぽどエロいと思うぞ?」


雪乃「エロいと褒められてもあまり喜べないのだけれど……」


八幡「俺としてはかなり褒めたつもりなんだがな……。まぁ、要はそこまで卑下しなくても十分過ぎるほど魅力があるってことだ」


雪乃「……そ、そう」


八幡「控えめだからこそ良いってこともあるんだぞ? 雪ノ下とやる時なんて胸とかかなり敏感で可愛がりがいがあるしな」


雪乃「なな、何を言って……」


八幡「この際だから言うけど、こうやって何か俺の趣味に合わせようとしてくれてる時の雪ノ下とか超可愛いんだからな」


八幡「今とかまさに可愛い。可愛すぎて愛しいまである」


雪乃「………」カアア


八幡「だから安心してくれ。俺は雪ノ下だけを見てる。その分、お前も周りなんて気にせず俺だけを見てほしい」


雪乃「なっ、なななりゃ……んんっ、ならこのDVDは破棄しても大丈夫よね? 材木座くんの物みたいだけれどこんなDVDを見ても一切彼のためにはならないのだし、これは私が預かり責任を持って破棄するわ。それと二度とこんなことがないよう彼には一度喝を入れておく必要があるわね。材木座くんとはまた今度比企谷くんに機会を設けてもらうとして、戸部くんにも一応釘を刺しておく必要もあるかしら。比企谷くんもこういった類の物を自ら購入するような真似をしてはだめよ? そ、その、言ってくれれば私が相手してあげられるのだし、その時は遠慮なく言ってくれていいから……。わかった?」


八幡「お、おぉ……。わ、わかった」


八幡(話が脱線しすぎてAVのことすっかり忘れてたぜ……。すまん、材木座許してくれ……)


八幡「ん? 待て待て、AVはお前が預かるのかよ。帰ってこっそり見たりすんなよ?」


雪乃「私がこんな忌々しい物を見るわけがないでしょう……?」


八幡「……なんかすまん」


雪乃「はぁ……。何にせよ、材木座くんに無理矢理渡されただけというのであれば今回は特別に許してあげるわ。次は無いけどね」


八幡「本当に悪かった……」


雪乃「もう気にしてないから平気よ」


八幡「ありがとな……。それで、連絡も無しに来たけど何か用があって来たんじゃないのか?」


雪乃「いえ、用は特に無いわ。強いて言うならこの前あなたの部屋でやったゲームがあったでしょう? それを今日はリベンジしにきたのだけれど」


八幡「あー、マリカな。前回はお前ボロ負けだったけど大丈夫か……?」


雪乃「今日は道行く車の動きをしっかり観察してきたから勝てる気がするわ」


八幡「それあんまり意味無いと思うぞ……。まっ、やるか。用意するから待っててくれ」


雪乃「いいえ、その必要はないわ」


八幡「?」


雪乃「……ゲームをするつもりで来たのだけれど、気が変わったから」


八幡「そうか? じゃあ何する?」


雪乃「そうね。比企谷くんにたくさん可愛がってもらおうかしら」


八幡「え、ちょ……っ」


雪乃「可愛がりがい、あるんでしょう?」


八幡「ある。超あるけどお前最近……ちょっとエロくない?」


雪乃「誰のせいだと思っているの……?」


八幡「え、俺のせいなの?」


雪乃「他に誰がいるのよ。責任、しっかり取ってもらうから」


八幡「……おう。言っとくが途中でやめるつもりないからな」


雪乃「んっ……望むところよ」





名前



雪乃宅


八幡「雪ノ下んちお邪魔するのなんか久しぶりだな」


雪乃「普段は私が比企谷くんちに行っているからかしらね」


八幡「だな。やっぱ千葉のお前んちよりかは狭いな」


雪乃「あんなマンションの一室と比べられても困るわ。今はアパートなのだし」


八幡「まぁそうだけどよ。あ、トイレ借りていいか?」


雪乃「ええ、そこの扉よ。紅茶、淹れておくわね」


八幡「おっ。頼む」


雪乃「………」


雪乃(姉さんに押し付けられた半透明のネグリジェはクローゼットの奥に隠したし……)


雪乃(千葉を離れる際に小町さんから貰った比企谷くんの寝顔写真は引き出しに隠したし……)


雪乃(比企谷くんから没収して結局三本丸々見てしまったアダルトビデオも見つけにくい冷蔵庫の上に隠したし……)


雪乃「……よし」


雪乃「……大丈夫、よね」


八幡「何が?」


雪乃「っ!?」


八幡「トイレから戻ってきただけでそんな驚く?」


雪乃「……悪寒が走ったから何事かと思ったのよ。良かった、比企谷くんだったのね」


八幡「全然良くねぇよ。安堵した表情で棘のある言葉吐かないでくれる?」


雪乃「……とにかく。そんなことよりも紅茶、冷めないうちに」


八幡「ああ、悪いな。……っちぃ」


雪乃「そういえば猫舌だったわね」


八幡「まあな」


雪乃「猫……」


八幡「いや、うん。猫舌な」


雪乃「猫は猫よ。比企谷くん、ちょっと鳴いてみて?」


八幡「絶対嫌だ。もはや猫つけば何でもいいのかよ」


雪乃「そんなことないわ。比企谷くんが猫の鳴き真似をしたらすごく滑稽だと思ったから」


八幡「満面の笑みなのに言ってること最悪なんだけど……。もうちょっとオブラートに包めないわけ?」


雪乃「なら……比企谷くんが猫の鳴き真似をしたらすごく面白そ」


八幡「いいから。ご丁寧に言い直さなくていいから……」


雪乃「あら、そう?」


八幡「言い直されたところで俺はしないからな……。ああそうだ、ちょっとテレビつけてもいいか?」


雪乃「ええ、どうぞ」


八幡「さんきゅ」


八幡(って、テレビのリモコンが無い……。どこだ?)


八幡「なぁ、雪ノ……」


雪乃「」ピクッ


八幡「あ、あったわ。何でもない」


雪乃「比企谷くん。今なんと……?」


八幡「リモコン見当たらなかったからどこあるか訊こうと思ってな。見つかったから忘れてくれ」


雪乃「そうじゃなくて……その前」


八幡「は? その前?」


雪乃「」コクッ


八幡「テレビつけてもいいか、か?」


雪乃「その後よ」


八幡「だからリモコンが」


雪乃「一緒に見るとリモコンの間よ」


八幡「……あいだ? 雪ノ下、か?」


雪乃「少し違う」


八幡「え、何が……。全然わからないんだけど」


雪乃「私のこと……名前で呼んだでしょう?」


八幡「……え? 俺が? 呼んだか?」


雪乃「呼んだわ」


八幡「呼んだ心当たり全くないぞ……」


雪乃「……そう」


雪乃「なら、この際だから私を名前で呼んでみて?」


八幡「え……」


雪乃「思い返してみれば私たち未だに名前で呼び合ったことがないわ」


八幡「言われてみれば確かに……」


雪乃「だから……呼んで」


八幡「おぉ……。じゃ、じゃあ……ゆ、雪乃、……下」


雪乃「下は余計よ」


八幡「こうやって改めて面と向かって言うの照れるんだよ……。えーと、ゆ、雪乃?」


雪乃「………」


八幡「雪乃」


雪乃「………」


八幡「無視か? 雪乃ー?」


雪乃「………」カアア


八幡「ゆきのーん?」


雪乃「ゆきのんは由比ヶ浜さん専用だからやめて」


八幡「お、おう、あいつ専用だったのか……。でも、なーんかゆきのんの方がスッと出るんだよな」


雪乃「そうね。私もどちらかと言えば比企谷くんよりもヒキガエルくんの方がスッと出るかしら」


八幡「それはスッと出すなよ。トラウマがスッと出て来ちゃうだろうが」


雪乃「なら、カエル?」


八幡「おっと、ただの両生類になっちゃったぞ? ていうか雪ノ下は名前で呼んでくれないのかよ」


雪乃「私は……恥ずかしいから……また、今度」


八幡「へぇ。俺には言わせておいて自分は言わないというわけか。さすが雪ノ下さん、やることが卑怯だな」


雪乃「……言うわよ? 言うに決まっているでしょう。あなたと一緒にしないで」


八幡「さらっと人を卑怯者にすんのやめてくんない? いいからほら、呼んでみ?」


雪乃「で、では……」


八幡「………」


雪乃「…………ひ、ひっきー?」


八幡「そっちかよ」





魔王



八幡「ヒッキーは由比ヶ浜専用だから駄目だ。あと引きこもりみたいだから駄目」


雪乃「実際あなた何もない日は家に引きこもっているじゃない」


八幡「いやそうだけど……」


ピーンポーン


八幡「ん?」


雪乃「誰かしら。ちょっと出てくるわね」


八幡「おう」


八幡(結局名前呼んでくれなかったな……)


八幡(ま、俺も俺で一度雪乃って呼んだきりさりげなくまた雪ノ下に戻したけどね!)


雪乃「あ、ちょっと待ちなさい!」


八幡「なんだ? どうかし」


陽乃「みーっけ。ひゃっはろー! 比企谷くん」


八幡「たっ!? ……って、雪ノ下さんなんでここに……。てか抱き着かないでください……」


陽乃「んー? 比企谷くんちの近くを通ったから遊びに行こうと思ったらいないんだもん。そしたら意地でも君に会いたくなっちゃって」


陽乃「もしかしたらと思ってこっち来てみれば、やっぱり比企谷くんここにいた」ギュー


八幡「ちょ、雪ノ下さんやめ……」


雪乃「」


八幡(当たってるからぁ! 雪ノ下には無いモノが当たってるからぁ!)


陽乃「やめなーい。それと比企谷くん。前に私のことは陽乃って呼ぶよう言ったよね?」


八幡「いやそれは……」


陽乃「陽乃。はい呼んで」


八幡「……雪ノ下さん」


陽乃「呼んで。あ、お義姉ちゃんでもいいよ?」


八幡「………」


陽乃「はやく」


八幡「………」


陽乃「ちゅーするよ?」


八幡「陽乃さん」


陽乃「うんうん。良く言えました。よしよし、八幡よーしよし」


八幡「ちょ、やめてください……」


陽乃「あん。もー、照れちゃって~」


雪乃「……姉さん」


陽乃「あ、雪乃ちゃんまだいたの? 空気読んで出掛けてくれたのかと思っちゃった」


雪乃「……比企谷くんから離れて」


陽乃「やだ」ギュー


雪乃「………」


八幡(俺はどうすればいいのこれ……。陽乃さんの機嫌損ねると何してくるかわからんし……じっとしておこう)


雪乃「離れて」


陽乃「別に変なことしてないんだからいいじゃない」


雪乃「もう十分すぎるほどしているわよ。離れないつもりなら無理矢理にでも離れてもらうから」


陽乃「そんなことして良いのかな~? これ以上近づいたら比企谷くんにキスマーク付けちゃうかも?」


雪乃「………」


八幡「あのー」


陽乃「比企谷くんは今人質だから黙ってて」


八幡「……はい」


雪乃「帰って」


陽乃「やだ」


雪乃「………」


陽乃「………」


八幡(なんか二人の背後にゴゴゴゴの文字が見える……)


八幡(それにしてもこの状況、BGMに進撃の巨人を流したら多分盛り上がる。あとシューベルトの魔王を流したら多分俺が息絶える)


雪乃「そもそも連絡も無しに突然来るだなんて非常識よ」


陽乃「私は別に雪乃ちゃんに会いに来たわけじゃないよ。比企谷くんを渡してくれれば大人しく出ていくから」


雪乃「姉さんなんかに比企谷くんを渡すわけないでしょう?」


陽乃「………」


雪乃「………」


八幡(お願い! 仲良くして!)





雪乃



八幡「そもそもなんで雪ノ下さ」


陽乃「陽乃」


八幡「……陽乃さんがここにいるんですか。通ってる大学院千葉でしょ」


陽乃「今日は親の知り合いがどうしても私に渡したい物があるっていうからわざわざこっちに来たの」


八幡「渡したい物ですか」


陽乃「うん。私もよくわかんないんだけどね。それで予定より少し早く来ちゃったから比企谷くんと……八幡と遊ぼうと思って」ギュー


八幡「」


雪乃「……姉さん、いい加減にして。あと彼を名前で呼ばないで」


陽乃「なんで? 別に八幡は八幡なんだから八幡って呼んでも問題ないでしょう? ね、八幡?」


八幡「……俺に振らないでください」


陽乃「どうしても嫌なら雪乃ちゃんも名前で呼んであげればいいのに」


雪乃「………」


陽乃「あ、それと私は八幡に会いにわざわざここに来たんだから、雪乃ちゃん今日はもう帰っていいよ?」


雪乃「……ここは私の家よ。だから姉さんが帰って。そして二度と来ないで」


陽乃「雪乃ちゃんは相変わらず冷たいなぁ。じゃあ八幡は私と遊びにいこっか。この辺よく知らないから案内して?」


八幡「いや、ちょ……」


雪乃「ま、待ちなさい! 人の所有物を勝手に持ち出さないでもらえるかしら」


陽乃「別に雪乃ちゃん一人の物じゃないでしょ? 心配しなくても明日には返すから」


八幡「この人たちナチュラルに俺を物扱いしてくるな」


陽乃「八幡は私といた方が楽しいもんね?」


八幡「え」


雪乃「どうなの? 私と姉さん、どっち?」


八幡「どうも何も雪ノ下に決まってるでしょ……」


陽乃「うんうん。そんなに私が良いかー。八幡は可愛いなー」ナデナデ


八幡(……しまった。どっちも雪ノ下か……)


雪乃「………」


陽乃「そういえば八幡は雪乃ちゃんと付き合ってもうどれくらい? 結構経つよね」


八幡「高2の終わりくらいからなんで……3年とちょっとですかね」


陽乃「ふーん。じゃあそろそろ雪乃ちゃんにも飽きてきたんじゃない?」


雪乃「っ」


八幡「飽きたって……。そんなわけないでしょう」


陽乃「へぇ、私とは遊びだったんだ……」


八幡「ちょっと? 誤解を招くようなこと言わないでもらえます?」


雪乃「比企谷くん……?」


八幡「無い無い。何もねぇから」


陽乃「あんな熱い夜を二人一緒に過ごしたのに……」


八幡「ただの晩酌ですよねそれ。その時雪ノ下も普通にいたし」


陽乃「細かいことはいいの。ほらほら、お姉さんがこんなにも誘惑してるのに~」ムニッ


八幡「……ちょ」


陽乃「実際抱きつかれた時の感触は圧倒的に私の方が良いでしょ?」


八幡「どんどん畳み掛けてくるなこの人……。それはノーコメントで」


陽乃「ノーコメントねぇ……。だってさ、雪乃ちゃん」


雪乃「………」


陽乃「ほら、おいで八幡。お姉さんがたくさんギューってしてあげよう」


八幡「……結構です。おいでってあんたずっと俺にくっ付いてるじゃないですか……」


陽乃「あ、そうだった。じゃあお姉さんからもーっと抱きついちゃお」


雪乃「だ、だめっ!」ギュッ


八幡「ぐぇっ!? ちょ……雪ノ下?」


雪乃「比企谷くんは私のものなの。だからいくら姉さんだろうと彼とイチャつかないで!」


陽乃「……ふぅん。雪乃ちゃんもすっかり乙女だねぇ」


雪乃「………」


八幡「……雪ノ下」


陽乃「ほんと雪乃ちゃんは八幡が大好きなんだね。八幡は?」


八幡「はい?」


陽乃「八幡はどう?」


八幡「どうって、そりゃ好きですよ」


陽乃「どれくらい? 世界で一番~みたいな嘘くさいのは無しだよ」


八幡「……雪ノ下しか、雪乃しか見えないくらい、ですかね」


陽乃「そっかそっか」


雪乃「………」カアア


陽乃「そうやって真剣な顔で恥ずかしいこと言われちゃうと比企谷くんのこと諦めるしかなくなるなー」


八幡「別に俺のことなんて狙ってないでしょう……」


陽乃「狙ってた時もあったけどねー」


八幡「……え」


雪乃「……私は、何となく気づいてたわ」


陽乃「ありゃ、雪乃ちゃんにはお見通しだった? 私の周りって比企谷くんばりの面白い子が全然いなくてさー」


八幡「面白いって何だよ……」


陽乃「からかい甲斐があるってこと。比企谷くんを弄ってる時の雪乃ちゃんの反応も可愛いし」


雪乃「………」


陽乃「それで比企谷くんをからかいたいなーって気持ちが会いたいなーって気持ちになって、最終的に好きになっちゃった」


八幡「ずいぶんと斬新な気持ちの変化ですね……」


陽乃「あ、でもこれは比企谷くんと雪乃ちゃんがまだ付き合ってない頃の私だからね。今は違うから真に受けて私を好きにならないでよ?」


八幡「なりませんよ……」


陽乃「えー? それはそれでつまんなーい。比企谷くんを盗られた雪乃ちゃんとか見てみたかったのに」


雪乃「……冗談はやめてちょうだい」


陽乃「いつまでも呑気にしてると比企谷くん盗っちゃうよ?」


雪乃「そんなことしたら絶対に許さないから」


八幡「いや、まずあり得ないから」


陽乃「それはどうかな。私が本気出したらどうなると思う?」


八幡「さあ……。出すつもり無いくせに」


陽乃「まぁねー。あ、雪乃ちゃんと別れたら本気出してみるかもよ?」


八幡「じゃあ本気出す機会は一生来なさそうですね」


雪乃(そ、それはそういう意味に捉えてもいいのかしら……)


陽乃「少し見ない間にまた一段と生意気になって……このこのっ」


八幡「ちょ、痛いですって……」


陽乃「よしっ、十分弄ったしそろそろ行こうかな」


八幡「ほんとに弄りに来ただけかよこの人……」


陽乃「そだよー? あ、用事済んだら比企谷くんち泊まりに戻ろっか?」


八幡「勘弁してください……」


陽乃「内心嬉しいくせにー。今回は時間あまりなかったけど、また時間作れたら今度こそ比企谷くんちに遊びに行くからその時はよろしくね」


八幡「マジでか」


陽乃「うん、マジ。それか年末また帰ってくるんでしょ? なら遊びの続きは今度実家でじっくり、ね?」


八幡「……は、はあ」


陽乃「またうちの両親の前でガチガチに緊張する比企谷くんが見れるの期待してるから」


八幡「変な期待しないでくださいよ。あんなの嫌でも緊張しますって……」


陽乃「また去年みたいにフォローしてあげるからだいじょーぶ」


八幡「助かります……」


陽乃「雪乃ちゃんもまたね」


雪乃「次から来る時はちゃんと事前に連絡して。それか二度と来ないで」


陽乃「は~い。あ……比企谷くんね、八幡って呼ぶと耳赤くなるんだよ? 彼女なら彼のこと、ちゃんと見てあげること。いいね」ボソッ


雪乃「……そ、そのつもりよ」


八幡「……?」


雪乃「それと今年の夏は実家には帰らないからそのつもりで」


陽乃「そっ。でも年末は帰って来なさいね。お母さんたちうるさいから」


雪乃「ええ……」


陽乃「それじゃ行くね。また来るからね~!」





八幡



八幡「荒らすだけ荒らして帰っていったな……。まさに嵐だ」


雪乃「……まったくね」


八幡「ところで」


雪乃「?」


八幡「いつまで抱きついてんの」


雪乃「姉さんの匂いが取れるまで」


八幡「お、おお」


雪乃「………」


八幡「………」


雪乃「………」ギュー


八幡「………」


雪乃「……やっぱり姉さんに抱き着かれた方がいいの?」


八幡「は? んなわけないだろ」


雪乃「なら、なぜ私の方がいいってさっき言ってくれなかったの?」


八幡「あの状況でそれ言ってみろよ……。あの人雪ノ下に負けたりするとすぐムキになるから絶対飛び掛かってくるぞ……」


雪乃「……何となく想像つくわね」


八幡「だろ? だからノーコメント。実際は雪ノ下の方が何倍も良い」


雪乃「でもその私……胸がないから抱き着いても柔らかくないわよ?」


八幡「何その柔らかくないと駄目っていう前提……。てか十分すぎるほど柔らかいっつーの。柔らかい=胸と思ったら大間違いだぞ」


雪乃「……そうなの?」


八幡「ああ。あっちこっち柔らかいし、ぶっちゃけ俺は女性の胸より太ももとかの方が好きだしな」


雪乃「ちょ、ちょっと変なところ触らないで」


八幡「あ、悪い」


雪乃「あ、その、べ、別に嫌ではないのだけれど」


八幡「おぉ……」


雪乃「……ねぇ、ひき…………」


八幡「ん?」


雪乃「は……」


雪乃「…………はち、まん」


雪乃「……八幡」


八幡「お、おおおう」


雪乃「ねぇ、八幡」


八幡「な、なんだ? ……雪乃」


雪乃「……キスして」


八幡「…………」


雪乃「ん……っ。八幡、もう一度」


八幡「おう……」


雪乃「…………っ。あ、あの……」


八幡「?」


雪乃「な、名前で呼ぶのはまだ恥ずかしいから、も、もうしばらくは比企谷くんでもいい……?」


八幡「い、いいけど」


雪乃「慣れてきたらちゃんと名前で呼ぶから、それまでは今まで通り……」


八幡「わかった。ちなみに俺は今からでも雪乃って呼べるぞ?」


雪乃「そ、それは嬉しいけれど、私だけ苗字で呼ぶと負けた気がしてならないからそれは私が慣れるまで待って」


八幡「なんだよその理由」


雪乃「なんだっていいでしょう。まだ名前で呼ぶのは恥ずかしいの。悪い?」


八幡「開き直んなよ……。じゃあ慣れるまでってことで、最後にもう一回だけ呼んでくれないか?」


雪乃「……は、八幡」


八幡「最後の最後にもう一回」


雪乃「……八幡」


八幡「………」


雪乃「……?」


八幡「………」


雪乃「……八幡?」


八幡「あ、ああ悪い、もう十回だけ」


雪乃「八幡八幡八幡八幡はち……ちょっと何回言わせるつもり?」


八幡「雪乃が慣れるまで」


雪乃「…………紅茶、おかわり入れてくるわね」


八幡「あ、こら逃げんな」


雪乃「………」


雪乃(はちまん……ハチマン…………八幡)


雪乃「……ふふふっ」


八幡(あいつ何にやにやしてんだ……?)








雪乃「………」


八幡「………」ペラッ


雪乃「一つ聞いてもいい?」


八幡「ん、どした?」


雪乃「比企谷くんっていつも同じ服を着ているわよね」


八幡「あー、同じっていうかあれだ。同じ柄の服を交互に来てる感じだな」


雪乃「私服は二着しかないってこと?」


八幡「そうなるな。寝巻きを合わせると三着。残りは全部実家に置いてある」


雪乃「なら今日は日曜日で折角のお休みなのだし服でも買いに行きましょう」


八幡「えっ、いきなり? 別に良くない? 二着でも普通に足りてるし。雨振ったらたまにきついけど」


雪乃「私が嫌なの。毎日毎日色が違うだけの同じ服を見ているこっちの身にもなりなさい」


八幡「……なんか悪いのか?」


雪乃「色々悪いわよ」


八幡「例えば?」


雪乃「気持ち悪いとか」


八幡「お、おう……。他は?」


雪乃「不潔」


八幡「ちゃんと洗濯してますけどね?」


雪乃「後は……そうね、気持ち悪いとか」


八幡「それさっき言ったぞ……。そんなに大事なことなの?」


雪乃「とにかく、ちょうど今日は日曜でお互いアルバイトも入っていないのだから買い物に行きましょう」


八幡「マジで? 休日に外に出るとかだるいんだが」


雪乃「休日だからこそ外に出るんじゃない」


八幡「いいや、逆だろ。休みってのは人が木に寄り添うで休って書くだろ? つまりそれは状況で言うと人が木に寄り掛かってやすんでいるわけだ」


八幡「つまり休日って字は意味だけで捉えると、木に寄り掛かりその日をじっと過ごす……とならないか?一見すると外に出て休むと言うことになるが、この字が生まれた時代と今の時代は比べてみると今の時代ってかなり便利で快適な時代になったよな? 昔の人も本当は家でまったり過ごしたかったんだ。しかし、当時の人々にはゲームや本、エアコンやベッドにソファーのようなリラックスできる物が何も無かった。じゃあどうするか。家でリラックスして休めないとなると嫌々……そう嫌々、渋々、無精無精に外へ出て体をやすませる場所を探すことになる。その結果出来た漢字が休むなんだ。ちなみに木ってのはたまたまそいつがリラックスできると思ったのが木だっただけで、もしかしたら木じゃなくて川とか岩だったかもしれない。で、今はどうだ? 人にもよるが当時と比べて今の暮らしはゲームや本もあればベッドや布団にエアコンソファー、何ならアロマや酒、たばこだってある。実際のところ人間が最も落ち着ける場所……それは家だ。もっと言うならトイレ。だから休って字は本来なら人偏に家か人偏にトイレって書くべきなんだよ。要するに休日っていうのはそんな休の字に太陽が出ている間を指す日の字を混ぜているわけだから、そいつ自身が最も休める場所で一日を過ごすのが休日における最も正しい過ごし方と言える。俺にとっての最も休める場所はもちろん家だ。よって、休日に外へ出ることはおかしい。Q.E.D.――証明終了」


雪乃「………」ペラッ


八幡「………」


雪乃「……あら、終わった? 屁理屈があまりに長すぎて途中から聞いていなかったのだけれど」


八幡「おい」


雪乃「次は要約してもう一度始めから言ってもらえる?」


八幡「もういい……。今日はずっと寝て過ごしちゃうんだからね……」


雪乃「買い物には行かないってこと?」


八幡「また今度にしようぜ。今日はあまり気が乗らん」


雪乃「デートしてくれないの?」


八幡「……ぐっ。その言い方だと行きたくなっちゃう不思議……」


雪乃「……デート」


八幡「い、いや、また今度だ。また今度」


雪乃「……八幡」ギュッ


八幡「………」


雪乃「……行こ?」


八幡「オーケー、行こう。すぐ行こう」


雪乃「無理しなくていいのよ? さっきまであんなに嫌がっていたのに」


八幡「全然嫌がってねーし! それにしてもさすがデレのんだな……。袖つまんで上目遣いにそう言われたら嫌でも断れねぇよ」


雪乃「そ、そのデレのんと言うのやめてもらえるかしら?」


八幡「まぁそう照れんなって。すぐ準備するから待ってろ」ポン


雪乃「……もぉ」


雪乃(一色さんには今度お礼を言っておかないと……)





デレのん



八幡「そんで、服を買うと言ってもどこに行くんだ? ここ千葉じゃないし俺あんまそういう店知らんぞ」


雪乃「二年以上ここで暮らしているのだからある程度はわかっていてもおかしくないと思うのだけれど……」


八幡「一人じゃ滅多に家出ないからな。あ、スーパーとコンビニとアニメイトなら知ってるぞ」


雪乃「……これからも定期的に外に連れ出したほうが良さそうね」


八幡「そうしてくれ……」


雪乃「ちなみに今日行くところは電車で二駅ほど乗った先にあるショッピングモールよ」


八幡「ほー、全くわからん。前にも行ったことあるのか?」


雪乃「一色さんと何度か来たことがあるの」


八幡「は? 一色と?」


雪乃「ええ。一色さんとアルバイト先一緒なんでしょう?」


八幡「まぁな」


雪乃「これでも私、一色さんとはよく連絡をとったりするのよ? アルバイト以外での比企谷くんのことをよく聞かれるわ」


八幡「それあいつにはなんて言ってるんだ……?」


雪乃「高校の頃からさほど変わってない、とかかしら」


八幡「的確だな。むしろ全く変わってないんじゃないか」


雪乃「そうかしら。あなたも多少は変わっていると思うけれど」


八幡「ほう。どのへんが……?」


雪乃「そうね……。目が以前より澄んで格好良くなった、とか」


八幡「そそそうなんですか?」


雪乃「ええ、私が知る異性の中では断トツで格好良いと思うわ」


八幡「………」


雪乃「あら、顔が赤いけれど……照れてるの?」


八幡「照れてない。照れてないから……」


雪乃「私には素直に気持ちを伝えてくれるくせに自分のことに関しては素直じゃないんだから」


八幡「これでもだいぶ素直になってるつもりなんだけどな……」


雪乃「私にはそうは見えないわね。それはそうとそろそろ行きましょう? はいっ」スッ


八幡「おう……って何その手。お小遣い欲しいの?」


雪乃「そんなわけないでしょう……。手、繋いでくれないの?」


八幡「えっ、いや……人前でそういうのはやっぱ恥ずかしいし俺にはまだ早いというか」


雪乃「私は別に気にしないのだけれど……。なら――」


八幡「ぅおっ」


雪乃「腕を組むくらいならいいわよね?」


八幡「腕組むくらいってお前……これ手繋ぐよりも恥ずかしいんだけど」


雪乃「そのようね。あなた、さっきよりも顔が真っ赤だもの」


八幡「ばっ、おまこっち見んな。あとニヤニヤすんなっての……」


雪乃「ふふっ、あなたも可愛いところがあるのね」


八幡「うっせ。……デレのんめ」


雪乃「だからその呼び方はやめて」





ポイント



雪乃「着いたわ。ここよ」


八幡「ほぉー、結構でかいな」


雪乃「私たちがここに住む前に一度改装されて大きくなったそうよ」


八幡「へぇ。これだと色々見て周れそうだな」


雪乃「どこから周る?」


八幡「そうだなー。俺は三階から順に見て周るから雪ノ下は一階からで、最終的に二階で集合って感じでいいか?」


雪乃「………」


八幡「え、なにその目……」


雪乃「あなた、それ本気で言っているの?」


八幡「え……。わりとガチ……」


雪乃「はぁ……あのね比企谷くん。これはデートなの」


八幡「そ、そうですね」


雪乃「デートにまで効率を求めてくるなんて……雪乃的にポイント低いわよ?」


八幡「何だよそのポイント……全力でカンストさせたくなっちゃうだろうが」


雪乃「逆に聞くけれど、あなたはそれでいいの?」


八幡「まぁ、二階は一緒に回れるし」


雪乃「私は最初から比企谷くんといたいの。だからその案は却下よ」


八幡「いやでもそれだと結構時間掛かっちゃうぞ? 一人だとサクサク見れるし、その分帰りも遅くならないわけで……」


雪乃「別に今日は比企谷くんの家に泊まる予定だから何時になろうと構わないわ」


八幡「あ、俺んち泊まる気なのね。別にいいけどお前、最近よく俺んち泊まりたがるよな」


雪乃「あら、悪い?」


八幡「いいやむしろ大歓迎だ。んじゃ、そこら辺から適当に見て行くか」


雪乃「ええ」








雪乃「見て比企谷くん。こっちにいるのがアメリカンショートヘアであちらで寝ているのがラグドールと言って……」


八幡「なあ。服を見に来たんじゃなかったの?」


雪乃「服は最後に見ましょう。こういった商業施設に来たからにはまず先にペットショップをチェックしておかないと」


八幡「何その使命感……。素直に猫見たいって言ってくれれば大丈夫だからね?」


雪乃「………」フイッ


八幡「お? そこの猫なんか他よりやけに耳が短くないか?」


雪乃「スコティッシュフォールドね。あれは耳が垂れているのよ。スコットランドで発見された突然変異の猫の個体から発生したらしく、その折れ曲がった独特の耳が特徴なのよ。ちなみに日本で今一番人気のある品種だそうよ。でも私としてはその垂れた耳も可愛いけれど人懐っこいとされているブリティッシュショートヘアや、猫のダックスフントと言われ歩く姿が愛らしいマンチカンも捨てがたいわね。ちなみにあなたを猫に例えるとするのなら、そこの一番奥にいる青っぽい毛が特徴のロシアンブルーかしら。ロシアンブルーは物静かで内気な上に警戒心が強いから、彼なら比企谷くんと気が合いそうね」


八幡「お、おう。さすがユキペディアさん……」


雪乃「デレのんもだけど、そのユキペディアと呼ぶのやめてもらえるかしら」


八幡「じゃあ、ゆきにゃん?」


雪乃「そ、それはもっとやめて……」カアア


八幡「にしてもほんっと猫好きだな」


雪乃「……だって可愛いんだもの」


八幡「おまかわ……間違えた、我が家も猫飼ってるし俺もどっちかと言えば猫好きの部類に入るのかね」


雪乃「でもあなた、カマクラさんにだいぶ舐められてるわよね。世間からも舐められているようなものだし、いよいよね」


八幡「一言余計な上に何だよいよいよって。なんか死んじゃうみたいだろうが」


雪乃「ごめんなさい、それもそうね……。お疲れ様」


八幡「ちょっとー? 訂正するのかと思いきやあっさり送り出そうとしないでもらえる?」


雪乃「静かに。今そちらの子猫が小声で鳴いているの。聞こえないから黙って」


八幡「先に言ってきたのそっちなのに……。あ、そこの猫いいな。茶色いやつ」


雪乃「ソマリね。比企谷くんとは真逆で人懐っこいのが特徴よ」


八幡「へぇ」


雪乃「ソマリみたいな猫が好きなの?」


八幡「どっちかと言えば好みだな。カマクラみたいな猫もいいけどソマリの方が見た目的には好きかもしれん」


雪乃「そうなの?」


八幡「何て言えばいいんだろうな。ソマリのあの首下辺りの毛がファサッてなってるのがいいよな。可愛くないか?」


雪乃「……可愛い?」


八幡「ああ。あとソマリって名前もなんか可愛いくない? 呼びやすいし」


雪乃「………」


八幡「ここの猫コーナーの中では一番ソマリが好きだな。何だっけあの、し、シコ、シコティッシュフィールド?」


雪乃「スコティッシュフォールドよ。間違えないで」


八幡「うい……。とにかくそれよりも俺はソマリの方がいいな。ほら見ろよ雪ノ下、ショーケースに手当てたらガラス越しにハイタッチしてくれるぞ」


雪乃「そう……」


八幡「こいつ可愛いな」


雪乃「………」


八幡「いつかソマリ飼おうぜ」


雪乃「……だめ」


八幡「えっ」


雪乃「ソマリはだめ」


八幡「ええ……。ソマリ嫌なのか?」


雪乃「嫌というわけではないわ。嫌ではないけれど……とにかくだめなの」


八幡「いやなんで……」


雪乃「ほら、猫はもう十分堪能したしそろそろ行きましょう」


八幡「おっ、珍しいな。猫見ててお前から移動しようって言うなんて」


雪乃「……今日は猫目当てじゃないからよ」


八幡「いや、お前猫目当てじゃなくてもいっつも最低1時間くらい――」


雪乃「いいから行くわよ比企谷くん」


八幡「も、もう少し待ってくれ。こいつずっと俺のこと見てるけどもしかして俺に飼われたいんじゃね?」


雪乃「そんなお金も余裕も無いでしょう。いいから行くわよ」グイッ


八幡「ああ、待……ソマリー!」





嫉妬



八幡「なぁ」


雪乃「………」


八幡「雪ノ下」


雪乃「………」


八幡「雪ノ下さーん」


雪乃「……何?」


八幡「いや、何ってお前、なんで怒ってんの?」


雪乃「怒ってなんかいないわよ」


八幡「ならなんで拗ねてんの?」


雪乃「……拗ねてなんかいないわよ」


八幡「……もしかして猫に嫉妬した?」


雪乃「……ふんっ」


八幡「あの、言わずもがな雪ノ下さんの方が可愛いからね?」


雪乃「どうかしらね。猫にあんなデレデレしておいてよく言うわ」


八幡「お前それ、よく自分のこと棚に上げて言えたな……」


雪乃「………」


雪乃「……そもそもあなたは彼女が目の前にいるにも関わらず他の女性を可愛いと言ったのよ?」


八幡「他の女ってお前、猫だぞ? 確かにあの猫は雌だったけど」


雪乃「だから何?」


八幡「え、えーと……」


雪乃「可愛いは……私にだけ言ってくれないと嫌なの」


八幡「はぁ……ほんっと可愛いなお前」


雪乃「………うるさい」


八幡「ほら、何て言うの。動物に対する可愛いと人に対する可愛いって意味が違うっていうか」


雪乃「私はどちらも一緒だと思うけれど、どう違うの?」


八幡「あれだ、好きか愛してるかの違いだな」


雪乃「比企谷くんがそんなセリフを言うとなんだか気持ち悪いわね」


八幡「こいつ……。人が折角恥ずかしいのを我慢して言ったってのに……」


雪乃「では聞くけど、私と猫、どちらが愛している方なのかしら」


八幡「言わなくてもわかるだろ……」


雪乃「言ってくれなきゃわからないことだってあるわ」


八幡「……手、繋ぐか?」


雪乃「意気地なし」ギュッ


八幡「……ほっとけ」


雪乃「放っておけないわよ。私は八幡を愛しているんだもの」


八幡「こ、こういう時だけ名前で呼ぶなっての……。いいから行こうぜ」


雪乃「ふふっ、今日の比企谷くんは照れてばかりね」


八幡「………」





ん?



雪乃「……ふむ」


八幡「………」


雪乃「……こっちが良いかしら」


八幡「………」


雪乃「……それともこっち?」


八幡「……あのー」


雪乃「なに?」


八幡「真剣に俺の服選んでくれるのは嬉しいんだけど、安いやつでいいからね?」


雪乃「せっかくこういった店に来たのよ? ちゃんとした服を着てほしいじゃない」


八幡「買うのは結局俺なんだし高いのは困るんだけど」


雪乃「何を言っているの? 服は私が買うわ。そもそも服を買おうと誘ったのは私なのだし」


八幡「いやいや、自分の物は自分で買うから」


雪乃「たまにはこういったプレゼントがあってもいいでしょう?」


八幡「そうは言ってもだな」


雪乃「……まったく。私たち付き合いだして何回こんなやりとりをしてきたのかしら」


八幡「言い出したらお互い譲らないもんな」


雪乃「そうね」クスッ


八幡「ならこうするか。今日は俺も雪ノ下の欲しいものを買う。これで良いだろ」


雪乃「……なら比企谷くんには私に着て欲しい服を選んで買ってもらおうかしら」


八幡「まじ? 俺のセンス舐めんなよ。ひどいから」


雪乃「あなたが選んだ物なら何でもいいわ」


八幡「ん? 今何でもって」


雪乃「そっち系のはダメよ。絶対に」





見え



雪乃「さて、次は比企谷くんが私の服を選ぶ番ね」


八幡「それって服限定?」


雪乃「別に服じゃなくてもいいけれど、できれば洋服がいいわね」


八幡「あいよ。まずは無傷でブティックに入るとこからだ」


雪乃「別に私と入るのだからそこまで気を引き締めなくてもいいと思うのだけれど……」


八幡「俺がああいう店入ると大体周りのからの視線がやばいんだよ。入ると同時に店員の警戒レベルマックスだぞ」


雪乃「他にもカップルで入店している人はいるし、私が傍にいれば大丈夫よ。ほら、あそこのお店に入りましょう」


八幡「ああ、心の準備が……」


店員「いらっしゃいませー」ニコッ


八幡「…………と思ったけどあっさり入れたな」


雪乃「だから言ったじゃない。この男はお店に入るだけで何をそこまで怯えているのかしら」


八幡「俺ぐらいになると店に入る直前でわかるんだよ。女性店員がATフィールド全開にして待ち構えてるってな」


雪乃「大した被害妄想ね。まぁ、私ならあなたみたいな怪しい人間は絶対に入店させないけど」


八幡「お、おう。てっきり慰めてくれるのかと思ったぜ……」


雪乃「どちらにせよ、こうして私と入れているのだから何だっていいじゃない」


八幡「だな。じゃ、似合いそうな服探してくか」


雪乃「比企谷くんは私にどんな服着て欲しいとかあるの?」


八幡「そうだなー。実際何着ても似合ってるからどんなのって聞かれてもなぁ」


雪乃「そ、そう?」


八幡「そういえば雪ノ下って大学に入ってからあんま足出さなくなったよな。といっても今日はワンピースだけど」


雪乃「え?」


八幡「出さないって言うかあれだ。大学でもスカートとかワンピースあんまり穿いて来ないよな。丈の長いスカートなら穿いてるけど」


雪乃「……何気によく見ているのね」


八幡「まぁな。なんならじっくり見てるまである」


雪乃「何よそれ彼氏と言えど舐めまわすように見られるとさすがに気持ち悪くて無理だからごめんなさい、一度死んでまた出直して来てもらえるかしら」


八幡「お前は一色かよ。しかも一色より棘あるし……」


雪乃「……でも、そうね。あまり肌は出さないようには意識しているわ」


八幡「ほう。なんで?」


雪乃「何というかその、大学内と言えど比企谷くん以外の男にあまり足とか見られたくないし……」


八幡「ゆきのん!」


雪乃「ちょ、ちょっと、店内で由比ヶ浜さんと同じノリで話しかけてこないで。かなり気持ち悪いから」


八幡「ひでぇ……。でもデレのん見てたらつい」


雪乃「だからその呼び方は……。はぁ、とにかくそういうのは家に帰ってからにして」


八幡「帰ってからなら良いのかよ」


雪乃「……そ、それで、私に似合いそうな洋服は見つけてくれた?」


八幡「あー、それなんだがな。とりあえずこれとこれとこれに、後これを付けてこれを履いてみてくれ」


雪乃「ぜ、全身をコーディネートしてくれるのね」


八幡「良い機会だしな。妥協はしない」


雪乃「なら、ちょっと試着してみるわ」


八幡「おう」


雪乃「覗かないでね?」


八幡「むしろこんな店内で覗けねぇよ」


雪乃「………」ゴソゴソ


八幡(女子が着替える時の衣擦れの音は最高にエロいと思います。衣擦れ.mp3とか誰か作ってないかな。なんなら衣擦れ.mp4でも可)


八幡(あと試着室の前にいると女性店員からの視線が気になるから早くしてほしい……)


雪乃「着替えてみたわ。……ど、どう?」


八幡「おお……」


雪乃「普段ミニスカートなんて好んで穿かないから……は、恥ずかしいのだけれど」


八幡「すす、すごく良いと思いますよ? 僕としてはかなりグッと来てますねぇ、はい。でも靴がちょっと違うな」


雪乃「そう?」


八幡「ちょっと待ってろ。他の靴取ってくる」


雪乃「………」


雪乃(正直比企谷くんは面倒臭がると思っていたけど、まさかここまで真剣に色々選んでくれるとは思ってもみなかったわ……)


八幡「別の持ってきた。こっちの靴に履き替えてみてくれ」


雪乃「え、ええ。なら」


八幡「…………ちょ、あの」


雪乃「?」


八幡「今ほら、雪ノ下ミニスカだしそうやって丈長スカートと同じノリでしゃがむと見え……」


雪乃「……っ!? ご、ごめんなさい迂闊だったわ」カアア


八幡「い、いや別に」


雪乃「……そ、それでどう? さっきと比べて」


八幡「良いんじゃないか? その靴ならお前の持ってる紺の丈長スカートにも合いそうだしな」


雪乃「ロングスカートね」クスッ


八幡「どっちも一緒だろ……。俺としてはかなり真面目に選んだつもりだが、どうだ? 気に入ってくれたなら、プレゼントしようかと」


雪乃「ここまで真面目に選んでくれるとは思ってなかったわ」


八幡「たまにはいいだろ」


雪乃「たまには、ね。比企谷くんが選んでくれたんだもの。気に入らないはずがないわ」


八幡「そ、そうか? なら、それでいいか?」


雪乃「これ全部? 洋服だけじゃなくて靴やアクセサリもあるけれど」


八幡「そうだな。まぁ、いいだろ」


雪乃「私はあなたに洋服しか買っていないのだけれど……さすがに悪いわ」


八幡「別にいい。先週給料入ったばっかだし」


雪乃「……けど」


八幡「またこんなことで言い合うつもりか? 俺がこんなことするの年に一度あるかないかだし、今日くらいは格好付けさせてくれ」


雪乃「さすがにそれはそれでどうかと思うのだけれど……。せめて月に一度にして欲しいわね」


八幡「それは今の俺にはまだきついな」


雪乃「ならいつ頃になるのかしら」


八幡「さぁな。秘密だ秘密」


雪乃「……ふふっ」


八幡「んだよ」


雪乃「いえ、何でもないわ。今日はお言葉に甘えるわね。ありがとう、比企谷くん」


八幡「おうよ」


雪乃「年に一度だろうと、次は比企谷くんからデートに誘ってね?」


八幡「……任せろ」





待ってる



八幡「来週の期末乗り切ればようやく夏休みだな」


雪乃「試験は大丈夫そう?」


八幡「これといった問題はないな。答案用紙に名前書き忘れない限り多分余裕だ」


雪乃「なら大丈夫そうね」


八幡「これでも一応やることはしっかりやってるしな。お前の方は……心配ないな」


雪乃「当然よ。それに仮に単位をいくつか落としたとしても進級するために必要な単位は十分あると思うから問題無いわ」


八幡「まぁ、進級に関しては後期もあるしお互い余裕だろ」


雪乃「比企谷くんも余裕なの?」


八幡「余裕のよっちゃんだ」


雪乃「古い」


八幡「」


雪乃「ところで夏休みは何か予定はある?」


八幡「いや、特に考えてないぞ。お盆に一度実家に帰るかどうか考えてるけど」


雪乃「そう。去年の夏休みはあなたほとんど家に籠っていたわよね」


八幡「暑くて色々だるいしな。気晴らしに海誘ってもお前行こうとしねーし」


雪乃「………」


八幡「とは言え俺もあんな熱くて人の多い場所あまり行きたくないんだけどな」


雪乃「ならどうして去年は海に行きたがっていたの?」


八幡「あー……まぁ、正直に言うと雪ノ下の水着が見たかっただけだ」


雪乃「……水着」


八幡「そう、水着」


雪乃「し、下着なら……」


八幡「え、何その軽い痴女発言。ビッチになっちゃったのかと思ったぞ」


雪乃「水着はちょっと……。あとビッチはやめて」


八幡「あはい。つーか逆じゃね? 普通は水着なら見せてもいいけど下着は見せたくない、だろ」


雪乃「水着はその……比企谷くんにだけなら別に着てみてもいいのだけれど、海のような人が多い場所は……」


八幡「ああ、そういうこと。やっぱ人目が気になるのか?」


雪乃「それもあるけれど……」


八幡「?」


雪乃「私が水着姿になったとして、あなた絶対私以外の女に目を向けるから」


八幡「えー何その言いがかり……」


雪乃「言いがかりなんかじゃないわ。絶対そうなるに決まっているんだもの」


八幡「いや、絶対しないから」


雪乃「いいえ。絶対にするわ」


八幡「その心は?」


雪乃「……私よりも胸の大きい子がいたら、そちらを見るでしょう?」


八幡「………」


雪乃「例えば私と由比ヶ浜さんがお互い水着姿であなたの前に立つとしましょう。あなたはどちらのどの部分を見るの?」


八幡「………」


雪乃「ほら、答えて?」


八幡「……えーと」


雪乃「………」


八幡「……由比ヶ浜さんの胸、かもしれません」


雪乃「……ふん」フイッ


八幡「こればっかりはほぼ無意識だし男の性だから許してくれよ……」


雪乃「別に私は水着姿になるのが嫌なわけじゃないわよ? 他の女性がたくさんいる場所で水着姿になるのが嫌なの。負けた気になるから」


八幡「何だよその自虐っぷり……。前も言った気がするがお前が思ってるほどぺったんこじゃないぞ?」


雪乃「……ぺったんこ」


八幡「大丈夫。お前が思ってる以上にそのー、ほら、何て言うか女の子としての膨らみ? ボディーライン? はあるから自信持て」


雪乃「もしあなたが本当にそう思ってくれているとして、すると今度はあなた以外の男に私の水着姿を見られるのが嫌になるわね……」


八幡「それ俺のセリフな。ていうかお前ただ単に人混みが嫌だから海行きたくないだけだろ」


雪乃「……大雑把にまとめるならそうなるわね」


八幡「細かくまとめてそうなるんだけどな。まぁ、海はいつか気が向いたら行ってみようぜ。あ、プールでもいいぞ」


雪乃「そうね……。一度はあなたと海かプールには行ってみたいわね」


八幡「就職したらそんな暇なさそうだし今の内に行っておきたいな」


雪乃「就職……くふふっ」


八幡「ちょっと? 俺が就職関連のこと口にするたびに笑うのやめてもらえる?」


雪乃「ごめんなさい。どうしても専業主夫がなんだと言っていた頃の比企谷くんを思い出してしまって……ふふふっ」


八幡「今となっては立派な黒歴史の一部なんだから掘り起こすんじゃねぇよ……」


雪乃「別に私が養ってあげてもいいのよ?」


八幡「冗談よせよ。雪ノ下の両親にちゃんと認めてもらえるまでは社畜だろうが喜んで働いてやるわ」


雪乃「……そう。ちゃんと、考えてくれているのね」


八幡「ったり前だ。今はまだちゃんと言えないけど、それでも、俺はお前とずっと一緒にいたいと思ってる」


雪乃「私だって」ギュッ


八幡「………」


雪乃「ちゃんと言ってくれてもいいのに……」


八幡「それはまだ就職すら決まってない学生が言うにはあまりに無責任だろ」


雪乃「そうかしら。私は、こうして先のことまで考えてくれているだけ十分なのだけれど」


八幡「お前は良くても俺が納得できないからなぁ……。仮に言ったとして、その後の雪ノ下家の反応が怖い」


雪乃「たしかに姉さんたちが何て言うのか少しだけ気になるわね」


八幡「だよな……。 だからちゃんとお前を養っていけるようになるまでは、その言葉は待ってほしい」


雪乃「なら、待ってる」


八幡「でもなー……。正直なとこ就職したらお前の方が余裕で収入多くなりそうで何とも言えない」


雪乃「どうかしらね。母さんたちには言っていないけれど……私、こう見えて主婦希望なのよ?」


八幡「は……マジで? それ親が黙っちゃいないだろ……」


雪乃「でしょうね。一応大学卒業後は就職するつもりだけれど、いつまでも働くつもりはないわ」


八幡「……そんじゃますます頑張らないとな」


雪乃「私が見込んで惚れた男なのだから、きっと大丈夫」


八幡「プレッシャー掛けるのやめてくれよ……」


雪乃「私が傍にいるから心配しなくてもいいってことよ」


八幡「……そりゃ俺のセリフでもあるな」





比企谷さんち



八幡「話が逸れたけど、夏休みは今のところ何の予定もないな」


雪乃「そうなのね」


八幡「雪ノ下は何か予定あるのか? 陽乃さんが家に来た時に夏は帰らないって言ってたよな」


雪乃「あれは特に理由なんてないわ。毎年年末は嫌でも家に帰るよう言われるから夏休みくらいは自由に過ごしたいじゃない?」


八幡「ああ、そういうこと」


八幡「そうだなー……じゃあ、盆に二人で俺んち帰らないか?」


雪乃「カマクラさんちに?」


八幡「ちげーよ。比企谷さんちだよ。なんで比企谷家が猫に侵略されてんだよ」


雪乃「カマクラさん、今も元気にしているからつい……」


八幡「ああそうか。小町に定期的にカマクラの写真撮って送ってもらってるんだったな」


雪乃「ええ。もう200枚以上になるかしら」


八幡「多いなおい……。まぁ、比企谷家の誰よりも溺愛してるもんな……」


八幡「ちなみに目的はカマクラじゃなくて、単に去年は一度も家に帰らなかったせいか母ちゃんと小町が帰って来いってうるさくてな……」


雪乃「そうなの? ごめんなさいね……年末は毎年私の家に付き添ってもらって」


八幡「行きたくて行ってんだから気にすんな。……怖いけどな」


雪乃「毎年年末になるとあなた子犬みたいになるわよね」


八幡「お前んとこの母ちゃんにまだ慣れる気がしないんだよ……」


雪乃「私たちの交際を認めてくれているのだから、あちらは比企谷くんのことを多少は認めていると思うのだけれど」


八幡「……だと良いんだけどな」


雪乃「それに比べてあなたのお家は本当に居心地がいいわよね……」


八幡「まぁ雪ノ下家に比べるとだいぶ緩いわな」


雪乃「カマクラさんもいるしね。だから、あなたが帰るのなら私も比企谷くんの実家にお邪魔させてもらおうかしら」


八幡「おう。二人で帰るのは一昨年の夏以来だよな」


雪乃「ええ。去年は私一人が千葉へ帰って由比ヶ浜さんのおうちに泊めてもらったから」


八幡「そうだったな。でもなー……お前と帰ると母ちゃんが大喜びするから超恥ずいんだよなー……」


八幡「一昨年のメールなんて『あんた夏に帰ってこれないの?』だったのに、去年届いたメールは『雪乃さん夏に帰ってこれないの?』だったしな……」


雪乃「それは……」


八幡「……いいんだ。慣れたから」


雪乃「……そ、それでは今年のお盆は比企谷くんちに一緒に帰るってことでいいのかしら?」


八幡「ああ、それで頼む」


雪乃「わかったわ。なら早いうちに買いに行っておかないとね」


八幡「何を?」


雪乃「カマクラさんへのお土産」


八幡「いらんわ」





黒歴史



講師「――そこまで。ペンを置いて解答用紙を裏向きにし、静かに退室してください」


戸部「っべーわぁああ! マークシート途中からずれてたわぁあああ! 時よ戻れぇええええ!」


講師「そこうるさい! カンニング扱いにするぞ!」


戸部「」


八幡(ふー。期末試験も難なく終わってようやく夏休みか)


八幡(大学に入って良かったと思うことランキング一位に輝くほど大学生の夏休みというものは長い)


八幡(課題も無いし、実家暮らしじゃないから家でゴロゴロしてても誰にも文句を言われない素敵で最高な二ヶ月が今、始まる……!)


八幡(ゼミが夏休み中何度かあるらしいが……まあ行かなくていいだろ。ゼミ教授は未だに俺のことヒキタニって言いやがるしな)


八幡(雪ノ下とはここで待ち合わせをしてたけどあいつの方はまだ試験中か……?)


八幡(……あ、いたいた)


雪乃「………」


猫「みゃー」


パシャッ


雪乃「………」


パシャパシャパシャッ


八幡(なんかめっちゃ写真撮ってる……)


雪乃「にゃー?」


猫「みゃー」


雪乃「ふふふ」


八幡「……あのー」


雪乃「」ビクッ


雪乃「ひ、ひきが……誰?」


八幡「いや忘れんなよ。しかも今ほとんど名前呼んでたし……」


雪乃「………………いつからいたの?」


八幡「写真撮りまくってた辺りから」


雪乃「………」カアア


八幡「あー、そいつって確か最近大学内に入り浸ってるって噂の猫か」


雪乃「え、ええ。近寄ったり撫でたりしても逃げないから、皆が可愛がってエサとかをあげている内に住み着いたみたい」


八幡「へぇ……人慣れしてんのな。飼い主いないならもう大学側で飼えばいいのに」


雪乃「変にここへ住まわせるよりはその方がいいわよね」ナデナデ


猫「みゃっ」


八幡「だな。ってか試験も全部終わったし飯食って帰りたいんだけど」


雪乃「待って。さ、最後にもう一枚だけ」


八幡「はいはい」


パシャ


雪乃「…………またね」


猫「みゃー」


八幡「そんな悲痛な面持ちで別れを告げなくても……」


雪乃「夏休み中はもう会えないかもしれないじゃない……」


八幡「……休み中も大学入れるし会いたくなったらまた来ればいいだろ。その時にいるかどうかは知らんが」


雪乃「それもそうね。その時は比企谷くんも一緒に来てね?」


八幡「え……ま、まぁそれは今度気が向いたら行くとして、今日はラーメン食いに行こうぜ」


雪乃「いいけどその前に一つだけいい?」


八幡「あん?」


雪乃「期末試験も終わって夏休みに入ったから、ゼミの先輩が改めて私たち三年の歓迎会をしたいとのことで飲み会に誘われたのだけれど」


八幡「ほー」


雪乃「その、私、行っても大丈夫かしら」


八幡「………」


雪乃「比企谷くん?」


八幡「……ちなみにそれ、野郎はどれくらいいるんだ?」


雪乃「全員参加すると仮定して三年生だけなら6人、四年生も合わせると13人くらいね」


八幡「そうか……。別に俺が決定権持ってるわけじゃないからお前が行きたいなら行ってもいいと思うぞ」


八幡「ただ……」


雪乃「ただ……?」


八幡「酒。これだけは勧められても絶対に飲むなよ? 絶対にな」


雪乃「それはどうして?」


八幡「……お前、覚えてないのか?」


雪乃「?」


八幡「ほら、一色の二十歳の誕生日の時」


雪乃「たしか三人でお酒を飲んだのよね?」


八幡「ああ。その内容、覚えてないのか?」


雪乃「……?」


八幡「多分あの時の雪ノ下を動画に収めていたら立派な黒歴史になってたかもな」


雪乃「そ、それはどういう……」


八幡「あの時は言わない方が良いと思って言わなかったが、俺も一色もあの日は大変だったんだぞ……」


雪乃「わ、私……一体何をしたの?」


八幡「それは――」


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誕生日



4月16日


いろは「ふいー、先輩お疲れ様でしたー。今日もバイト疲れましたねー」


八幡「おつかれさん。そうだな、さっさと帰ろうぜ」


いろは「…………ですねー」


八幡「あー、いや……」


いろは「どうかしました?」


八幡「この後、何か予定とかあるのか?」


いろは「え……。な、無いです! 今日はもう帰って寝るだけです!」


八幡「そうか。ならその……今日お前の誕生日だからって雪ノ下が俺んちでケーキ焼いて待ってるらしいんだが……どうだ?」


いろは「っ! いい行きます行きますっ! ……わ、わたしの誕生日、覚えててくれたんですね」


八幡「あー、雪ノ下が覚えててケーキ作っとくって言われてな……」


いろは「そこは嘘でも先輩が覚えてることにして欲しかったんですけど……」


八幡「………」


いろは「嬉しいから何でもいいんですけどねー! ほらほら先輩、早くおうち行きましょうよ!」


八幡「あいよ」





つい



八幡「たでーま」


雪乃「おかえりなさい比企谷くん。一色さんも来てくれたのね」


八幡「おう」


いろは「こんばんはー。はい、来ちゃいましたっ!」


雪乃「いらっしゃい一色さん。それとお誕生日おめでとう」


いろは「ありがとうございますー!」


八幡「なんか部屋がすげぇケーキの匂いするな」


いろは「ですねー。なんだか甘い匂いします」


雪乃「ついさっきまでケーキを焼いていたの」


雪乃「あなたがアルバイトに行く直前で急に一色さんの誕生日ケーキを焼いてほしいなんて言うから、何も準備してなくて大変だったのよ?」


八幡「……ちょ、それについては謝るから今それは……」


いろは「あれ……? 先輩、さっき雪ノ下先輩がって……」


八幡「………」


雪乃「……何の話?」


いろは「も、もー! 先輩のこと余計に諦められなくなっちゃうじゃないですかー!」


八幡「ばっ! おまっ、抱き着いてくんな!」


雪乃「…………一色さん?」


いろは「ひっ……ごご、ごめんなさいつい……」


雪乃「はぁ……とりあえず上がって? ケーキの他に料理も色々作ってあるから」


いろは「やった! ではお邪魔しまーす!」


雪乃「ええ、どうぞ。今日はゆっくりしていってね」


八幡「自宅のように言ってるけどここ俺んちだから……」





だめ



いろは「ん~、どれもおいし~。雪ノ下先輩ってほんと料理お上手ですよねー」


八幡「だよなー」


雪乃「それはどうもありがとう」


いろは「わたしも一人暮らし初めてそれなりに料理はしてますけど、雪ノ下先輩に勝てる気しないですもん」


雪乃「そんなことないわよ。お菓子作りに関しては私よりも一色さんの方が上手だと思うし」


いろは「ほ、ほんとですか!?」


雪乃「ええ。心からそう思っているわ」


いろは「えへへ……」


八幡「俺はカレーとかチャーハンとかねるねるねるねくらいしかまともに作れないわ」


いろは「最後のおかしくないですかね……」


八幡「お菓子だけにな」


いろは「は?」


八幡「……何でもない」


いろは「あ、雪ノ下先輩! わたしそろそろケーキが食べたいです!」


雪乃「そう? なら切り分けてくるわね」


いろは「わーいっ」


八幡「今更だけど一色もこうして見るとずいぶん髪伸びたな」


いろは「高校の頃はセミロングでしたもんねー」


八幡「今は雪ノ下と同じくらいはあるんじゃないか?」


いろは「ですかね? あ、雪ノ下先輩とどっちが可愛いです?」


八幡「雪ノ下」


いろは「ぶー。答えが分かってても即答されるとさすがに傷つくんですけどー」


八幡「そりゃ残念だったな」


いろは「……先輩も変わりましたよね。昔はあんなに捻くれてると言うかキモいと言うか腐ってると言うかとにかくアレだったのに……」


八幡「アレってなんだよ……。その前のセリフも全部聞き捨てならないんだけど」


いろは「先輩は雪ノ下先輩のどんなとこに惚れたんですか?」


八幡「スルーかよ……。どんなとこ、ねぇ……。色々あるな」


いろは「じゃあ一つだけ!」


八幡「えー……。あーいや、こればっかりは内緒にしとくわ」


いろは「え~。参考にしようと思ったのにー」


八幡「何のだよ……」


雪乃「お待たせ。切り分けてきたわ」


いろは「わあー苺のショートケーキ! わたし苺大好きですっ」


雪乃「それは良かった。中のクリームは少し凝って苺クリームにしてみたの」


八幡「うおっ、マジだすげぇ。プロかよ」


いろは「これわたしより普通に雪ノ下先輩の方が上手じゃないですかね……」


雪乃「凝ったとは言ってもこれはやろうと思えば案外簡単だから一色さんでもできるわよ?」


いろは「あ、じゃあ今度教えてくださいよ!」


雪乃「ええ、いつでも教えてあげるわ」


いろは「やたっ! ではではケーキいただきまーす! ……うわぁおいしっ! 雪ノ下先輩すっごくおいしいですよこれ!」


八幡「めっちゃうめぇ……」


雪乃「喜んでもらえて良かったわ。……それと、これを」


いろは「これは……」


雪乃「誕生日プレゼントよ」


いろは「ほ、ほんとですか! 嬉しいです! 開けちゃってもいいですかっ!?」


雪乃「ふふっ、もちろん」


いろは「……わぁ、箱に入ってるのになんだかすごく良い香りしますよこれ!」


雪乃「バスボールよ。4つ入りだけどどれも香りや効能が違うそうよ」


いろは「ほうほう。色も綺麗で可愛い……。ほんとにありがとうございます! 一生大事にしますねっ!」