2020-05-19 20:41:57 更新

概要

八幡と彼女たちのお話


前書き

とある物語から少々ネタを拝借してます。
パッと読んでパッと読み終わるくらいの気持ちで読んでもらえれば嬉しいです。

設定:八幡たちは三年生。小町も総武に入学済。奉仕部は現状廃部が決定済。


またしても、一色いろははトラブっている。



雪乃「………」


八幡「………」ペラッ


結衣「ゆきのーん。この問題の解き方教えてー」


雪乃「どれ? ……置換の積を求める問題ね。一から教えるからちょっと教科書貸してもらえる?」


結衣「え、痴漢の席を求めるの? 対策練る感じ?」


雪乃「え?」


結衣「あれ?」


雪乃「?」


結衣「?」


八幡「………」


いろは「先輩先輩せんぱーい! 大変です!」コンコンガラガラ


結衣「あ、いろはちゃん。やっはろー!」


いろは「皆さんやっはろーです!」


雪乃「どうかしたの? 何やら鬼気迫っているようだけれど……」


いろは「そうなんですよー! ヤバいんです。今回ばかりはヤバいったらヤバいんですよ!」


八幡「いきなり来たと思ったらやばいやばいうっせーよ。お前は戸部か」


いろは「だって本当にヤバいんですもん! ヤバすぎてもう本当にヤバいんです!」


結衣「や、やばいって何がそんなにヤバいの?」


いろは「今年の文化祭は行事日程が色々変更されて来月の頭にあるって知ってます?」


結衣「あー。なんか今週のどこかでクラスの文化祭の出し物決めるって先生言ってた」


雪乃「確か今年は前期に文化祭を行って夏休みが終わった後期に体育祭をするのよね」


いろは「ですです! それでその文化祭が色々やばいんです……」


八幡「だからやばいって何が」


いろは「説明すると少し長くなりそうなんですけどいいですかー?」


八幡「ならいい。帰れ」


いろは「な!? さすがにひどすぎませんか!? 可愛い後輩が緊急の用件で依頼をしにきたっていうのに!」


八幡「どうせ何かしらトラブル起きてその解消を手伝ってくれとか言うんだろ?」


いろは「……そ、そそそんなわけないじゃないですかー」


八幡「目泳いでるぞ……」


雪乃「はぁ……。とりあえず話してもらえる?」






八幡「無理」


雪乃「無理ね」


いろは「お二人なら絶対そう言うと思ってました……」


結衣「えーと。つまり今年の文化祭は日程変わっちゃったせいで演劇部の新人戦と被っちゃって、文化祭でやる予定だった演劇ができない、ってことだよね?」


いろは「はい、そうなんです……」


八幡「ちなみに新人戦じゃなくて演劇大会な」


結衣「そ、それはどっちでもいいし!」


雪乃「その演劇部が劇を披露できないと言う件についてなのだけれど、それは文化祭の日と演劇大会の日程が被っているから不可能なのかしら?」


いろは「いえ、日にち自体は被っていないんですけど、演劇部の部長さんによりますと演劇大会っていうのは結構ガチな大会みたいでしてそっちを優先に劇の練習をしたいらしくて……」


八幡「それ断る理由になってなくないか? 大会の練習を優先したいってならその練習がてらにその劇を実際に文化祭で披露すりゃいいじゃねぇか」


いろは「わたしもそう言ったんですよー。そしたら部長さんが大会で披露する劇は当日まで公開したくないんだそうです。ほら、文化祭って他校の人も来るじゃないですかー?」


結衣「あ~。他の学校のライバルに劇の内容とかバレちゃうからだ」


いろは「みたいなんですよねー」


八幡「ほーん。てか演劇部にも大会なんてあるんだな」


いろは「先輩知らなかったんですか? ボランティア部でも大会とかあるんですよ?」


結衣「え!? ボラ部も大会あるの!?」


いろは「はい。と言っても色んな地域の人が集まって誰が一番ゴミを拾うかっていうゲームみたいな感じらしいですけどねー」


結衣「ほほ~」


雪乃「それで話を戻すけれど、その演劇部が劇をできないのならその劇自体を今年は中止すればいいんじゃないかしら」


八幡「まぁそれが一番手っ取り早いな。空いた枠はバンドとかダンスしたがってる奴に使わせてやればいい」


いろは「できることならわたしだってそうしたいですよ……」


結衣「何かダメな理由でもあるの……?」


いろは「……はい。文化祭での演劇って実は結構人気があるんですよ。それも生徒じゃなくて地域の方々に」


八幡「あー……なるほどな」


雪乃「つまり、毎年行ってきた演劇を今年突然中止することになると……」


結衣「折角演劇を見に学校外から来てくれた人たちががっかりする?」


八幡「ってわけか」


結衣(良かった。話ついて行けてた!)


いろは「ですです。わたしとしては別にそんなの知ったこっちゃないんですけどねー。でも先生方はそういうわけにもいかないって」


八幡「こいつ今さらっと生徒会長としてあるまじき発言をしたぞ……」


結衣「要するに劇はどうしてもやらないといけないってことかあ」


いろは「そうなんです。だからお願いです! 演劇部が劇できない以上もう生徒会がするしかないんです! だからどうか奉仕部の皆さんも劇に出て手伝ってください!」


結衣「いいよ!」


雪乃「嫌よ」


八幡「嫌だ」


結衣「あれっ!?」


いろは「なんでですかー! ちょっと劇に出て適当にしゃべるだけですよ!?」


八幡「だったら俺らいらないだろそれ。てかそもそもなんで演劇部の代理が生徒会なんだよ。クオリティダダ下がりで逆にがっかりされるんじゃないの?」


いろは「だって仕方ないじゃないですか……。平塚先生がやらないよりはマシだって言うんですもん」


いろは「それに今から演劇に出てくれる人を募集したって集まりっこないですよ。生徒会だけで何とかしようにも人手が足りませんし……」


結衣「あたしは手伝いたい、かなぁ。あたし演劇とかやったことないしやってみたいなーなんて」


八幡「お前正気か? 去年クラスでやった劇と一緒だと思うなよ? しかも今回は小さな教室なんかじゃなくて体育館のステージでやるんだぞ?」


結衣「え? でも解放感あって楽しそうじゃない?」


雪乃「私は劇なんてやったことがないし無理よ。……あと、恥ずかしいわ」


八幡「俺も左に同じ。てかそれこそ葉山とか戸部に頼めよ。戸部とか喜んで引き受けるだろ」


いろは「葉山先輩は今年もバンドとして参加するらしいので無理です。あと戸部先輩はわたしが共演NGです」


八幡「そ、そうか……」


いろは「お願いですお願いですお願いですぅ! 一緒に劇出てくださいよー! 生徒会だけだとどうしても人手が足りなくて無理なんです!」


いろは「もう先輩たちしか頼りにできる人がいないんですぅ!」


八幡「ちょ、やめろ制服引っ張んな。てか俺ら仮にも受験生だぞ。そんなことしてる暇ねぇっての」


雪乃「そうね。確かに私たちにはそんな劇の練習をしている暇なんてないわ」


結衣「えー。あたしは劇したいなー」


八幡「なんでこの中で一番成績が怪しい奴が一番乗り気なんだよ」


結衣「う、うっさい! たまには息抜きだって必要なの!」


雪乃「由比ヶ浜さんが劇の練習を息抜きにすると、劇のセリフや動作を覚えると同時に勉強していたことを全て忘れ去ってしまいそうね……」


八幡「こいつ一つのことを覚えると同時に一つのことを忘れるもんな」


結衣「そ、そんなことないし! 二人ともあたしのこと馬鹿にしすぎだから!」


八幡「じゃあ問題。したたると言う字はどう書くでしょう」


結衣「それはさっきいろはちゃんが来る前に教えてもらったやつじゃん! さんずいに敵の左側!」


八幡「じゃあ昨日お前が間違えた安堵の対義語は?」


結衣「え。えーと……ヤバい?」


八幡「……やばいのはお前だ」


結衣「………」


八幡「わかったか、一色。由比ヶ浜はこの通り劇の台本を覚える程の余裕なんてない。無論、俺も雪ノ下も。だから今回ばかりは他を当たってくれ」


いろは「そんなぁ……」


雪乃「ごめんなさいね」


いろは「うぅ……」


結衣「ご、ごめんねいろはちゃん。あたしは手伝ってもいいんだけど今のでちゃんと勉強した方が良い気がしてきちゃった……」


いろは「結衣先輩まで……うぅ……」


いろは「そう、ですよね……。仮にも受験生の皆さんにこんなお願いをした私が悪いですよね……」


いろは「ごめんなさい……。文化祭の、劇は……ぐすっ、生徒会だけで……何とか、します……うぅ」


雪乃「……一色さん」


いろは「き、気にしないでください! 皆さんは受験に集中してください。例え当日の劇が悲惨なことになろうとも皆さんは他人のフリをすればいいだけですから」


結衣「い、いろはちゃん……」


八幡「おーい。お前ら騙されるなよー。てか話済んだんだからさっさと生徒会室に帰……」


いろは「うぅ、どうしよう……生徒会だけだと配役を決めたとしても台本覚えつつ劇のセットや衣装を作らないとだから人手が全然足りないよぉ……ぐすっ」


結衣「………」


いろは「……平塚先生に相談してもわたしたち生徒会に丸投げで挙句の果てには奉仕部の先輩方を頼れって言われちゃってたのに……ぐすん」


雪乃「………」


いろは「ふえぇ……きっと今から改めて演劇を手伝ってくれる人を募集しても来てくれないと思うし、このままだと大変なことになっちゃうよぉ……」


いろは「どこかに手伝ってくれる人いないかなぁ……」チラッ


いろは「3人くらいいてくれれば十分なのになぁ……」チラッ


結衣「……ね、ねぇゆきのん」


雪乃「…………はぁ。わかったわ」


八幡「お、おい待て。本気か?」


結衣「だっていろはちゃん泣きそうだし可哀想なんだもん」


いろは「……ぐすっ」


八幡「いやいや、どう見ても嘘泣きだろあれ。後ちらちらこっち見てくるし」


結衣「で、でも困ってるのは本当っぽいし……」


雪乃「はっきり言ってあまり気が乗らないけれど、私は一色さんの依頼を受けた方がいいと思うわ」


結衣「だよねだよね!」


八幡「待て待て。お前ら絶対後悔するぞ?」


雪乃「仕方ないでしょう……。下校時刻まであんな風に教室の一角で嘆き続けられても困るし、下手をすれば明日も嘆きに来るわよ?」


八幡「……確かにそれはアリエール」


結衣「ヒッキーももう諦めて手伝ってあげようよ! 確かにあたしたちは受験生だけど、同時に奉仕部員じゃん!」


結衣「それに、奉仕部は夏休みまでには廃部か無期限休部にするって平塚先生にも言われたし、もしかしたらこのいろはちゃんの依頼が奉仕部最後の依頼になっちゃうかもしれないんだよ?」


雪乃「………」


結衣「だから、さ。あたしからもお願い。奉仕部として最後はちゃんと三人でいろはちゃんの依頼を受けて、叶えてあげようよ。部活引退する前に最後はパパーッと奉仕部らしく誰かを助けて終わろうよ!」


結衣「あと、あたし演劇とかやってみたかったしさ!」


八幡「今回ばかりはパパッと済むレベルじゃないし最後の一言に全ての真意が詰まってたな……」


雪乃「……それで、あなたはどうするの?」


八幡「嫌に決まってんだろ。お前こそどうなんだ」


雪乃「私だって本当は嫌だけれど、もう諦めたわ。由比ヶ浜さんの言ったようにこの部活も終わりが近づいているし、こなせる仕事はこなすことにするわ」


八幡「………」


結衣「ヒッキーは? ほんとに嫌なら、いいんだけどさ……」


八幡「…………はぁ、わかった。ただし、裏方じゃないとやらないからな」


結衣「じゃあ決まり! ゆきのん、ヒッキーありがとね!」


八幡「なんでお前が礼言ってんだよ」


結衣「あ、あはは。そだね」


結衣「いろはちゃん。やっぱりあたしたち手伝うよ!」


いろは「ぐす……え!? ほんとですか!? やったー! 本当に助かります! ありがとうございます!! では早速明日から色々やることを――」


八幡「……やっぱ嘘泣きだったんじゃねぇか」






~比企谷家~


小町「演劇ぃ? お兄ちゃんが?」


八幡「俺じゃなく生徒会がな。俺は裏方。手伝いだ」


小町「劇って何? 文化祭でやるやつ?」


八幡「まあな。毎年演劇部がやってるんだが今年は色々あって生徒会がやることになったんだよ。で、奉仕部はそれを手伝うことになった」


小町「へー、生徒会が……」


八幡「そいや小町は生徒会入りたいんだったよな」


小町「うん。本当は奉仕部が良かったんだけど……」


八幡「奉仕部は今年で活動終了だからなぁ。入ったところでって感じだろ」


小町「そうだけどさー。小町も奉仕部に入って雪乃さんや結衣さんたちとお話したり依頼? をこなしてみたかったのになーって」


八幡「話をするくらいならいつでも遊びに来いって雪ノ下も由比ヶ浜も言ってたろ。俺もいるしたまには遊びに来ればいいじゃねぇか」


小町「うーん行きたい気持ちは山々なんだけどねー。お兄ちゃんたちは今年受験生だしあまり邪魔しに行くのも悪いかなって……。ほら、小町ちょっと前まで受験生だったし」


八幡「今度は自分が気を遣うってか? 別にそこまで遠慮することないぞ? 確かに部室で勉強もするけど大体途中から雑談メインで勉強しなかったりするしな」


小町「そうなの?」


八幡「ああ。だからたまには顔を出してやってくれ。雪ノ下たちもお前に会いたがってたし、俺も良い息抜きにもなる」


小町「そっか……。なら今度遊びに行く!」


八幡「おう。つってもさっきも言った演劇の準備とかが始まると部室にいる時間が無くなるかもしれないけど」


小町「ちなみになんだけどさ。その演劇って何をやるの?」


八幡「さあな。まだ何も決まってない。一応明日から色々と決めていく予定だとは言われてる」


小町「ふーん。ねえお兄ちゃん」


八幡「あん?」


小町「その演劇ってさ。小町も参加できたりする?」


八幡「恐らく常時募集中だと思うが……もしかして手伝ってくれるのか?」


小町「うん。募集してるなら小町も参加してみようかなーって。面白そうだし!」


八幡「面白くは無いと思うぞ……? 小町が参加したとしても人数カツカツだしな」


小町「そ、そうなんだ。だったら尚更小町手伝うよ!」


八幡「いいのか? お前は高校初めての文化祭なんだしクラスの出し物の準備を手伝って交流深めといたほうがいいんじゃないか?」


小町「お兄ちゃんにそんなクラスでの交流が何だと言われても……」


八幡「……ですよね」


小町「小町なら大丈夫だよ! もうクラスの子たち何人かとは仲良くなったし、小町だって裏方でお手伝いしていくつもりだからクラスの方の準備にもちゃんと参加するしね」


八幡「それならまあ……」


小町「それに小町ね。受験の時何だかんだ雪乃さんや結衣さんにはお世話になったから、その恩返しってわけじゃないけどちょっとでも奉仕部にお返しできるならしたいもん」


小町「勿論お兄ちゃんにもたっくさんお世話になったしね。お兄ちゃんがちょっとでも困ってることがあるなら、小町は全力でお兄ちゃんの力になるよ!」


八幡「小町……」


小町「どう!? 今のは小町的にポイント高かったけど!」


八幡「最後ので台無しだよ……」






何にせよ、比企谷八幡は迫られる。



~翌日~


八幡「………」モグモグ


八幡(やっぱり学年が変わってもこのベストプレイスの安らぎ感は変わらないな。まさに安定感の変わらないただ一つのベストプレイス)


八幡「………」モグモグ


いろは「あれー? 先輩じゃないですか」


八幡「? ……って一色か」


いろは「こんにちはでーす。こんなとこで会うなんて珍しいですね」


八幡「だな。てか放課後以外で会うこと自体珍しいしな」


いろは「ですねー。それで先輩はどうしてこんなとこに?」


八幡「普段ここで飯食ってんだよ」


いろは「へー。別にこんな場所じゃなくても教室で食べれば良くないですかー?」


八幡「……いいだろどこで食べたって。それよかお前は……って、そのプリントの山を抱えてるあたり生徒会の仕事か?」


いろは「はい。突然に平塚先生が教室に来たと思ったら資料室にある文化祭関連のプリントを生徒会室に運んどけーって」


八幡「ほーん」


いろは「せめてお昼食べてからにして欲しかったですよ全く」


八幡「俺に愚痴られましても……」


いろは「あ、そういえば先輩のクラスは文化祭の出し物とか決まったんですかー?」


八幡「いいやまだ。今日の6限目のLHRで決めるらしい。まあ三年から模擬店OKだからその類にはなるだろうな」


いろは「三年生は良いですよねー。その模擬店で稼いだ売り上げも自分たちのモノにできますし」


八幡「自分たちのモノって言ってもクラスに30人弱もいるんだぞ? 大した金額は貰えないだろ」


いろは「だとしても何か達成感があって良くないですかー?」


八幡「いや、別に。まず学校なのに働かされるとか論外だから」


いろは「もおー。先輩つまんないですよー?」


八幡「うっせほっとけ。いいからもう行け。昼飯食い逃すぞ」


いろは「え? プリント運ぶの手伝ってくれないんですか?」


八幡「大した量じゃないし一人で行けるだろ。こんな無駄話する暇あったらさっさと行け。しっしっ」


いろは「ぶー。どうでもいいことには手を貸してくれるのにー」


八幡「………」モグモグ


いろは「……まあいいです。じゃあ先輩、またでーす」


八幡「おう」モグモグ






いろは「せーんぱいっ! お待たせしましたー」


八幡「……は?」


いろは「どうしたんですかそんな驚いて。あ、隣失礼しますねー」


八幡「……いや、なんでまた来たの? なに自然と俺の隣座ってんの? もう雑用は終わったのか?」


いろは「はい、終わりましたよ? プリントを生徒会室に置いた後お弁当を持ってまたここに来ただけです。先輩とお昼一緒に食べようと思って」


八幡「教室で食えよ……」


いろは「いいじゃないですかどこで食べたって」ニヤニヤ


八幡「………」


いろは「それにしても先輩が普段ここで食べてるなんてちょっと意外でした」


八幡「そうか? なら俺は普段どこで食べてると思ってたんだよ」


いろは「えーとですねぇ……トイレ?」


八幡「オーケー。お前の俺に対する評価はよくわかった」


いろは「やだなぁ。冗談ですよ?」


八幡「冗談きつすぎだろ……」


いろは「でも先輩ならありえるかなーって少し思っちゃったりしてました」パカッ


八幡「思っちゃってたのかよ……。ほう、一色は普段弁当なのか?」


いろは「ですです。あ、でも今日はちょっと時間無くて冷食ばっかりなのであまり見ないでください」


八幡「ってことは手作りなのか」


いろは「当たり前じゃないですか。手作りだと男子からのポイント稼げますし」


八幡「お、おう……そっすか」


いろは「先輩はいつもパンなんですかー?」


八幡「まあな。妹の機嫌が良い日はたまに弁当だ」


いろは「妹? ああ、小町ちゃんですね」


八幡「紹介したことあったんだっけか」


いろは「入学式の日に先輩が紹介してくれたじゃないですか。生徒会に入りたいらしいからその時は面倒見てやってくれーって」


八幡「あー。そうだったな」


いろは「それにしても小町ちゃん可愛いですよねー。元気で初々しいと言いますか」


八幡「だろ!? うちの小町はできた妹だぞ。料理も家事もできてその上策士だ」


いろは「最後のはちょっと聞き捨てなりませんでしたけど、先輩がシスコンになっちゃうのも無理ないかなーって思いました」


八幡「おいちょっと待て。俺はシスコンじゃないから。さらっとシスコン扱いしないでくんない?」


いろは「え? 違うんですか?」


八幡「ちげぇよ。俺がシスコンだったら千葉のお兄ちゃんは全員シスコンってことになるぞ」


いろは「いやいや先輩だけですから……。あ、そうだ! 例の演劇の件なんですけど、もし良かったら小町ちゃんにも少しで良いので手伝ってもらえたりできませんか?」


八幡「それならもう小町に言ってある。面白そうだし一緒にやりたいってよ」


いろは「ほんとですか!? 人は多いに越したことは無いので本当に助かります!」


八幡「ま、それはまた小町に会った時に言ってやってくれ」


いろは「はいっ!」


八幡「そんで演劇についてはもう今日から話を進めていくのか?」


いろは「そうですね。劇の脚本もですけど配役や衣装、舞台のセットも作っていかないとなので少々急ぎ足でスケジュールを立てていかないとなんですよねぇ」


八幡「衣装やセットくらいは演劇部が貸してくれるだろ」


いろは「一応最悪の事態に備えて、です」


八幡「そうか。なら早いのうちに劇の内容と配役やらの分担は決めときたいな」


いろは「ひとまず今日は第一回目の会議をしましょう。話し合う場所は生徒会室でいいですか? 副会長や書記ちゃんもいますし」


八幡「わかった。なら集合も生徒会室でいいな。由比ヶ浜らへの連絡は任す。小町には俺から伝えとくから」


いろは「了解です!」


八幡「んじゃ、俺は食い終わったし先行くぞ」


いろは「は? いや駄目に決まってるじゃないですか先輩。女の子置いて先に帰るなんて先輩ってバカなんですか? ていうかバカですよね」ガシッ


八幡「えぇ……」


いろは「ほーら先輩。プチトマトあげるので早く座り直してください」


八幡「トマトはいらん……」






~生徒会室~


八幡「………」コンコン


いろは「どーぞー」


八幡「………」ガラガラ


いろは「あ、先輩お昼ぶりでーす」


雪乃「こんにちは」


書記「こ、こんにちは」


八幡「うす」


雪乃「由比ヶ浜さんは一緒じゃないの?」


八幡「三浦たちと何やら話し込んでたから置いてきた。すぐ来るだろ」


雪乃「そう」


コンコン


いろは「あ、来ましたかね。どーぞー」


小町「こんにちはー」ガラガラ


雪乃「え、小町さん?」


小町「わー! 雪乃さん! お久しぶりです!」


雪乃「こんにちは。本当久しぶりね。小町さんも演劇に参加するの?」


小町「はいっ。お兄ちゃんから色々話を聞いたら面白そうだったので小町も参加してみようと思いまして!」


いろは「小町ちゃんほんとにありがとね!」


小町「いろはさん! いえいえ、やりたくてやろうと思っただけですので! それに生徒会にはいずれ小町も入って皆さんと一緒にお仕事したいと思ってますし!」


いろは「うんうん、小町ちゃんならわたしも皆も大歓迎だよー」


雪乃「そういえば一色さんと小町さんは入学式の時に一度面識があったのよね」


八幡「ああ。それにしても一色がタメ口で話す姿は何度見てもレアだよな」


雪乃「ふふふっ。私たちからすればそうかもね」クスッ


一色「ちょ、ちょっと変なこと言わないでくださいよ先輩。何か気にしちゃうじゃないですか……」カアア


八幡「気にしなくていいだろ。新鮮で良いし」


一色「なんですかそれ口説いてるんですかごめんなさいそういうのは気になる人じゃないと全然ドキッと来ないですしむしろ気持ち悪くて無理です」


八幡「そうですか……」


結衣「やっはろー! ごめんねー優美子たちと話し込んじゃってて」ガラガラ


いろは「結衣先輩やっはろーです」


小町「結衣さーん!」


結衣「わっ小町ちゃん!? 久しぶりー! 入学式以来だよね!?」


小町「はい! 奉仕部には何度か遊びに行こうと思ったんですけどねー……」


結衣「遠慮なんてしなくていいよ! 毎日来てくれてもいいんだから!」


小町「ま、毎日はさすがに……。お勉強の邪魔になっちゃいますし……」


結衣「そんなことないよ! 折角小町ちゃんも総武に入ったのに全然学校で会えなくて寂しかったんだからね」


小町「一年と三年は教室も階も全然違いますから中々会う機会ないですもんね……」


結衣「ねー……。だから今日久しぶりに会えて嬉しいよ! 小町ちゃんも劇やるの?」


小町「はい、皆さんの力になれたらなと!」


結衣「そっかー。一緒に頑張ろうね!」


小町「はいっ!」


八幡「で、これで全員揃ったか?」


書記「あ、いえ。本牧さんがまだ……」


八幡「副会長か。そういえばいないな」


いろは「さっき平塚先生に言われたんですけど、今日は副会長インフルエンザでお休みだったそうですよ」


八幡「この時期にインフルか。珍しいな」


雪乃「では、今日はこの六人で話を進めて行きましょうか。進行は一色さんに任せるわ」


いろは「はーい、お任せ下さい!」






いろは「ということでまずは改めて……皆さん、今回は手伝ってくれることになり本当にありがとうございます。生徒会だけだと絶対無理だったので本当に感謝してます!」


書記「………」ペコリ


八幡「ま、生徒会の手伝いは今に始まったことじゃないしな」


結衣「だねー」


いろは「それで早速本題に入ろうと思うんですが、まずはどんな劇をするかですねー」


結衣「桃太郎!」


小町「浦島太郎!」


八幡「なに? 太郎縛りなの? じゃあ金太郎」


雪乃「全て却下」


いろは「え、ええと……。ちなみに去年の劇は何してましたっけ?」


雪乃「たしか去年提出してもらった申請書にはオリジナル脚本の恋愛物語と書いてあった気がするわ」


八幡「オリジナルか……」


結衣(オリジナル? オリジナル……オリジナルTシャツ……? あ、限定って意味か!)


いろは「さすがにわたしたちにはそんな時間も実力もないですよねー……」


八幡「まあ適当な原作から話の内容を拝借する形になるな」


雪乃「劇の時間は何分設けられているのかしら」


いろは「えーと15分から20分ですね」


八幡「そこそこ長いな……」


雪乃「簡単でわかりやすく、それでいて20分弱で上手く話をまとめられそうな物語……」


結衣「うーん……」


いろは「人数が人数なのでキャストもある程度限られちゃいますねー」


小町「キャストが……限られる……ハッ!」キラーン


小町「はい! 小町、やるなら恋愛系がいいです!」


八幡「はぁ? 恋愛? なんで」


小町「だって恋愛ものなら男女が出会って結ばれる簡単でわかりやすいストーリーだし、やろうと思えば20分弱で簡単にまとめれるじゃん!」


雪乃「恋愛もの、ね……。小町さんの言う通りサスペンスやチャンバラよりは物語が作りやすいかもしれないわね」


小町「ですよね。ですよね!」


結衣「……恋愛かぁ」チラッ


八幡「まあ何でもいいからその内容決めていこうぜ。文化祭までの残りの日数的にも劇の内容をゆっくり決める時間なんて無いぞ」


いろは「恋愛……恋愛……あ、ロミオとジュリエットなんてどうですか? 普通に出会って結ばれるのもつまらないですし悲恋な感じで!」


結衣「知ってる! ロミジュリだ!」


雪乃「悲劇、ね。良いと思うわ」


小町「あ! 人魚姫とかもどうですか!? これも悲恋ですよ!」


結衣「白雪姫なんかどう!? ……あれ? 白雪姫って最後どうなるんだっけ? 月に帰るんだっけ?」


八幡「それかぐや姫な」


書記「トリスタンとイゾルデなんてどうでしょう」


いろは「え? トリス=タントイゾルデ?」


八幡「区切るとこ違うしなんか人の名前みたいになっちゃってんぞ。ハイボール作るの超上手そうなんだけど」


結衣「マッチ売りの少女は!?」


小町「あれ? あのお話って恋愛要素ありました?」


雪乃「待ちなさい……。キリが無いから一度候補を3つほどに絞って上げて、そこから多数決で演目を決めましょう」






いろは「――というわけで、多数決の結果わたしたちが文化祭でやる劇は……ロミオとジュリエットになりましたー!」


小町「イエーイ!」パチパチ


結衣「今更だけどロミジュリってあれだよね? ロミオー!ってやつだよね?」


いろは「……はい?」


八幡「………」


雪乃「簡潔に説明するなら……そうね、まずロミオとジュリエットの実家はそれぞれ対立し合っているの。そんな両家が対立している中で二人はある日お互い恋に落ちてしまう」


結衣「ほうほう」


雪乃「ごちゃごちゃした話は割愛するけど、ある日、両家が対立したままのいわば許されざる恋を続けていたジュリエットは実家から解放されて自由になろうと考えたの」


小町「自由になる、ですか?」


雪乃「そう。言ってしまえば駆け落ちのようなものね。でも、そんなジュリエットの駆け落ち計画は恋人であるロミオには知らされていなくて……」


結衣「………」ゴクリ


雪乃「二人は死ぬの」


結衣「え!? いきなりすぎない!?」


雪乃「………」フイッ


八幡「さては説明するのだるくなったなお前……」


雪乃「ロミオとジュリエットは図書室に行けばあると思うからそれを借りて読んでみるといいわ」


結衣「わかった。今度借りて見てみる!」


雪乃「見るのではなく読みなさい……」


いろは「話は何となくわかりましたけど、役は何人いれば十分ですかねー」


小町「ロミオとジュリエットと?」


雪乃「ロレンス、ロザライン、ティボルト、後は……」


八幡「待て待て。この地点でもう5人はいるじゃねぇか。俺ら今6人しかいないんだぞ? ロミオとジュリエット、あとロレンスだけでいいんじゃないか?」


雪乃「でもそれだとさすがに話がうまく回らない気がするのだけれど」


八幡「そこらへんはナレーション入れて誤魔化せばいい。どうせ20分弱の劇だ。ナレーションである程度話し飛ばさないと収まらないだろ」


雪乃「……それもそうね。ならロミオ、ジュリエット、ロレンス、ナレーションの4人かしら」


八幡「だな。余裕ありそうだったらロザラインかティボルトあたりも追加すればいい」


いろは「ろ、ロザラ何ですか? ていうか先輩ってロミジュリ読んだことあるんですか?」


八幡「一応な。家にあるし」


小町「え、そうなの?」


八幡「お前は帰ったら渡すから読め」


雪乃「とりあえず話を一旦整理すると、演目はロミオとジュリエット、配役はナレーションを含めた4人で大丈夫?」


八幡「それでいいと思うぞ」


いろは「書記ちゃんメモおねがーい」


書記「あ、うん」


結衣「じゃあ次は誰が何をやるかだね」


八幡「まずは脚本だな。原作があるとはいえ上手く20分以内に話がうまく纏まるように編集しないといけないからな」


書記「あ、あの。その脚本、私がやってみてもいいですか?」


いろは「え……? 書記ちゃんロミジュリ知ってるの?」


書記「うん。実はシェイクスピア作品は結構好きで色々読んでたりするから」


いろは「へぇー知らなかった」


八幡「そういうことなら脚本、頼めるか?」


書記「はい」


雪乃「私もロミオとジュリエットに関しては知っているから何かあれば私に言って? サポートはするわ」


書記「わかりました」ペコリ


いろは「なら脚本はおっけーですねー。本番の照明やセットについてはもう少し準備が進んでからにするとして……ひとまず次は配役を決めていきましょう」


結衣「配役ってロミオとジュリエットとナレーションとあと何だっけ? えっと……トーマスだ」


八幡「誰だよトーマス……」


雪乃「ロレンスよ。駆け落ちの計画を企て、手段としてジュリエットに仮死の毒使うよう提案した修道士……全ての元凶、死神だと思ってくればいいわ」


八幡「なんでちょっとロレンスdisってんだよ」


いろは「ロミオ、ジュリエット、ロレンス、ナレーション……それではその4人の配役決めていきましょうか」


いろは「とりあえずロミオ役は先輩……と」


八幡「待て待て待て待て待て待て。何で俺なんだよ。死んでもやらねぇぞ。おいだから待て勝手に黒板に名前書くな」


いろは「えー、だって男子って今先輩しかいないですし自然とそうなっちゃいますよねー?」


八幡「副会長がいるんだし副会長でいいだろ。てか俺は裏方しかしないって言っただろ」


いろは「でもー病気で休んでる人を勝手に主役にするのは可哀想じゃないですかー? それに先輩のロミオ役は似合うと思いますよ?」


八幡「ふざけんな。当日大勢の目の前で劇やるくらいなら死んだ方がマシだ」


いろは「どんだけですか……」


小町「小町は良いと思うなー。お兄ちゃんがロミオするの」ニヤニヤ


八幡「なんで笑ってんだよ。絶対無理。マジで無理。死んでも無理」


小町「もう。ただでさえ参加人数少ないんだから文句言ってる場合じゃないでしょ?」


八幡「だから副会長にやらせればいいって言ってんだろ。なんで俺なんだよ。元々これは生徒会の案件なんだからここは副会長がするのが道理だ」


八幡「というか俺は最初からそういう役はすべて副会長がやる前提で話を進めてたんだが」


いろは「えー。でも遅くても来週末から練習始めないといけないんですよー? 副会長がいつ学校来れるかもまだわからないんですし下手すると間に合わない可能性だってあるじゃないですかー」


八幡「知らん。そこは副会長にメールでも何でもしてさっさと治すよう言っとけ」


雪乃「私は一色さんの言う通りだと思うわ。確か彼は今インフルエンザに掛かっているようだし、最悪文化祭当日近くまで学校に来れない可能性があるわ。そこまでじゃなくても病み上がりで喉の調子が悪い場合だって考えられるわ」


八幡「いや、だからと言って俺になるのはおかしい。もし仮に俺が主役として出てみろ。冒頭2分で客誰もいなくなるぞ」


結衣「さすがにそれは無いと思うけどあたしもゆきのんたちの言う通りだと思う。それにサボりで休んでたならまだしも病気で休んでる人を本人の許可なく勝手に決めちゃうのは可哀想かなぁ……」


小町「小町もそう思います!」


八幡「なら仕方ないな。今週中にロミオ役をやってくる男子を探すか」


いろは「意地でもしないつもりですか……」


八幡「当たり前だ。俺は人前に出て劇をするタイプじゃないし、そもそも恥ずかしくて絶対無理。いやマジで」


雪乃「はぁ……。嫌がる人を無理矢理任命させるのも些か可哀想ではあるわね」


小町「じゃあこうしませんか! 時間も無いそうですし明後日まではとりあえずお兄ちゃんのロミオ役は無かったことにします」


八幡「さすが小町。わかってるな」


小町「ただし! 明後日までにその代わりのロミオ役が見つからなかったら正式にお兄ちゃんにはロミオ役をしてもらう……というのはどうでしょう!」


いろは「小町ちゃんそれいいね!」


八幡「全然良くねぇ……。それ高確率で俺がロミオ役になっちゃうだろうが。よくよく考えたら明後日って期限短いしよ」


雪乃「あら、でも別のロミオ役を探そうと言ったのはあなたよ?」


結衣「だね」


八幡「ぐ……」


いろは「実際問題のんびり配役を決めている時間もありませんし、小町ちゃんに免じて明後日までは待ってあげます。それで明後日までに別の人が見つからなかったら先輩がする、ということでいいですか? ていうかいいですね?」


八幡「いや俺は裏方を……」


雪乃「往生際が悪いわよ愚図谷くん。あなたが来週までに代理の人を連れてくればいいだけじゃない。あ、ごめんなさい、人望が無いあなたには少し無理難題すぎたかしら」


八幡「だからこうしてグズってんだろうが……」


いろは「女子同士でロミジュリするのもなんか嫌ですしこればっかりは言うこと聞いてもらいますよ、先輩!」


八幡「………」


八幡(今日は明後日までに副会長が完治するようちょっと神社はしごして帰るか……)






いろは「――ということでロミオ役は先輩で決まりってことで!」


小町「良かったね! お兄ちゃん!」パチパチ


八幡「……不幸だ」


いろは「嫌だと言っても仕方ないじゃないですか。二日待っても副会長はインフル治ってないですし代わりのロミオ役も見つからなかったんですから」


いろは「それにこれ以上はさすがに時間を割けないので諦めてください」


八幡(最悪当日バックレよう……)


いろは「あっ、当日バックレようとか思わないでくださいね? そんなことしたら全校集会の時に先輩のこと晒しますからっ」


八幡「」


書記「あの……」


いろは「んー? どしたの書記ちゃん」


書記「私は脚本担当ということで一応台本作ってみたんですけど……」


結衣「えっ、もう!?」


書記「は、はい。お話まとめている内に楽しくなっちゃってて、気づいたら出来てました」カアア


雪乃「見せてもらえる?」


書記「ど、どうぞ」


雪乃「………」ペラペラ


雪乃「……凄く良いと思うわ。不要な場面は全てカットされているし、あの有名なシーンは余すとこなく練られているわ。後は実際に演技をして時間と相談と言った感じね」


書記「あ、ありがとうございます!」


いろは「書記ちゃんにそんな才能があったとは……」


書記「さ、才能だなんてそんな……」


いろは「よし! それでは書記ちゃんの脚本も出来たということでさっさと配役決めちゃいましょう。前回は結局配役何も決めずに終わっちゃいましたしね!」


いろは「とりあえずロミオ役は先輩……と」


八幡「………」


結衣「……ヒッキーが……ロミオ役」


雪乃「………」


いろは「はい! では次にジュリエット役ですかねー。ジュリエット役をしたい方は挙手してくださーい」


いろは「――っと、まあ誰もやらないと思うのでここは会長のわたしがするしかないですよねー」スッ


結衣「はいっ!」スッ


雪乃「………」スッ


いろは「ええ!?」


結衣「あれ!? ていうかゆきのんも!?」


雪乃「………」フイッ


小町「ほうほう」ニヤニヤ


八幡「お、おう。ジュリエット大人気だな」


小町「いやいやお兄ちゃん。ジュリエットというよりは……」


八幡「てかお前はやらなくていいのか?」


小町「お兄ちゃん……もし素でそういってるのなら小町は悲しいよ……」


八幡「は? どういう意味だ?」


小町「……はーあ」


八幡「なんで俺は妹に悲観されてんの……」


いろは「ど、どうしてお二人が手を上げてるんですか!?」


結衣「え!? だ、だって……えと、あたしはその……やってみたかった? ……そう! やってみたかったから! そ、そういういろはちゃんはどうなの!?」


いろは「わ、わたしはあれです! ほら、元はと言えばこれは生徒会の問題でしたし、できることはしようと思ってですね……。ていうか雪ノ下先輩こそどうなんですか!」


雪乃「……わ、私は依頼を受けた以上ちゃんと部長としての責務を果たそうと思って……」


結衣「んん? でもゆきのんこの前演劇なんて恥ずかしいから無理って言ってなかった?」


雪乃「そ、それは……」


八幡「お前がこういうのやりたいだなんて意外だな」


雪乃「……別にいいでしょう。やるやらないなんて私の勝手じゃない」


八幡「いやまあ、そうだけど」


いろは「とにかく! ここはわたしがやるべきだと思うんですよねー。皆さんを今回の件に巻き込んだのもロミジュリを提案したのもわたしですし」


結衣「そ、そんなこと気にしなくていいよ! あたしは前からこういった演劇はやってみたいなーとか思ってたし、本当はやりたくないとかならあたしやるよ!」


雪乃「私は原作を読んだことがあるからこの中でも一番うまく演技ができるわ。それに状況毎の描写もしっかり把握できるし私がやるのは妥当だと思うのだけれど」


いろは「いえ! それなら私の方が会長として大勢の前でしゃべったりしてますし演技もできるし妥当だと思います!」


雪乃「でも一色さんはこれから文化祭の準備が本格的に進むにつれて会長として文化祭実行委員の仕事も出てくるでしょう? それに加えて演劇の練習だなんて無茶よ」


いろは「む、無茶じゃないです! 最悪書記ちゃんが実行委員会の方はやってくれますから!」


書記「……!?」


結衣「あたしは委員会入ってないしたくさん練習できるよ!」


雪乃「その点に関しては私も今年は文化祭実行委員にはならなかったから平気よ」


いろは「わ、わたしだって頑張ればできますもん……!」


八幡「で、どうすんだよ……」


いろは「ここは公平にじゃんけんで決めましょうか……」


結衣「うんっ。……絶対負けない」


雪乃「………」


いろは「それでは最初はグーで行きますよ! さーいしょは」


結衣「グー! じゃんけん――」


小町「ストーーーップです!」


雪乃「……?」


結衣「ほえ? 小町ちゃんどうかした?」


小町「じゃんけんで決めるのも良いと思うんですけどー……」


小町「ここはズバリ! お兄ちゃんにジュリエット役を選んでもらうのはどうでしょう!」


八幡「…………パードゥン?」


いろは「先輩に、ジュリエットを……?」


小町「はい! お兄ちゃんがロミオなので、ジュリエット役はロミオであるお兄ちゃんが選べばいいと小町は思います!」


八幡「ばっかおま、そんなの選べるわけが」


雪乃「……なるほど、一理あるわね」


八幡「えっ」


結衣「うーん。確かにじゃんけんだと負けちゃうとモヤっとした気持ちになるけど、ロミオ役のヒッキーが決めるんだったら誰も文句は言わないね」


八幡「お、おいよせ由比ヶ浜。無茶振りにも程があるぞ……」


いろは「わたしも賛成です。先輩にジュリエット役を決めてもらうの」


八幡「一色まで……。ま、待て。ロミオ役と言っても俺は半強制的にやることになっただけでそんなジュリエット役を決めれるような権利なんて無」


結衣「あたしも賛成」


雪乃「私も賛成よ。じゃんけんで運任せに決めるよりもあなたがこの場で指名した方が皆も納得がいくし、この停滞した会議も進めることができるわ」


八幡「……停滞させてるのはお前らだけどな」


小町「全員賛成ということで決まりですね! ほらほらお兄ちゃん。時間ももったいないし早く選んで! お兄ちゃんは誰がジュリエットだったら嬉しいの!?」


八幡「明らかに論点すり替わってるじゃねぇか……。と、とにかく落ち着こう。一旦クールダウンしてそこから」


雪乃「……いいから早く選びなさい。今この状況であなたに残された選択肢は選ぶことだけよ」


結衣「ヒッキー……」


いろは「先輩……」


八幡「………」


八幡(雪ノ下、由比ヶ浜、一色……俺はこの中から一人、恋人役を選ぶ……?)


八幡(無論、それは俺の恋人役なんかではなく俺が演じるロミオ役の、架空の恋人だと言うことは重々承知しているし、そんなことで勘違いするほど俺の頭はハッピーじゃない)


八幡(それなのに、俺は……)


八幡(とりあえず家に帰ったら小町にはお説教だな)


小町「さっ、お兄ちゃん」


雪乃「………」


結衣「………」


いろは「………」


八幡(ロミオとジュリエット。文化祭までの短くて悲しい恋の物語)


八幡(そんな仮初の世界で俺が恋をする相手。それは――)

------------------------------------------------------

続く



後書き

設定がガバガバなので多少の違和感には目を瞑ってもらえると助かります。


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1: SS好きの名無しさん 2016-06-19 10:20:25 ID: 2A3pP-Ot

お時間がないかもしれませんが、出来れば全員のルートをお願いいたします
続き楽しみにしています

2: SS好きの名無しさん 2016-06-24 00:35:26 ID: ZA-A9TIu

全員のルートみたいです🎶
面白いてますし✨

3: SS好きの名無しさん 2016-06-24 20:57:41 ID: 2yWFY2SM

急かしているようでなんですが、続き期待して待っております

4: SS好きの名無しさん 2016-06-25 06:53:32 ID: RlsonDhu

この流れだとジュリエットは戸塚しかいないんじゃないかな

5: SS好きの名無しさん 2016-06-27 23:24:02 ID: 3sNVZxem

書記ちゃんルートお願いします❗

6: SS好きの名無しさん 2016-07-06 04:39:49 ID: 1A-lYR_E

期待
続きはよ


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