2016-04-12 22:48:59 更新

概要

戦車が好きじゃ、ダメなんでしょうか…。

「ぼっち」だった秋山殿のお話です。

空白を補填するための独自・参考・捏造設定
有り。


前書き

なぜ「ぼっち」だった秋山殿が、大洗戦車道であれだけの大活躍が出来たのか?
想像していたものをまとめてみました。
初SSで読み辛く、まとまりの無いものとなってしまったかと思いますが、ご寛容頂ければ幸いです。


何時の頃から?何がきっかけだったのか?…今となっては思い出すことも出来ませんが、

私、秋山 優花里は、戦車が大、大、だ~い好きであります!


こと戦車に対する想いだけは、どこの誰にも負ける気はありません。


はい、大洗の皆さんとはもちろんの事、他校の皆さんとも仲良しで、今でもちょこちょこ連絡を取り合ったりしていますよ?


え?コミュニケーションの秘訣でありますか?


…それを私に聞かれるのでありますか?

一番酷な質問でありますよ?うーん…

敢えて言えば、戦車への愛が全てですか、ね。


だって私、戦車道を始めるまで、一人も友達がいなかったんですから。

本当ですよ?嘘はついてません。


えーっ?本日の話題とは大きくかけ離れていると思うのですが…ううっ、分かりました。

話しますってば。…でも、後で必ず内容確認させて下さいね?


…私が幼少の頃、おか…母が言うには、たくさんの仲良しさんがいた、そうです。


残念ながら、物心つく前のお話ですから、この頃の記憶はあまり残ってないんですよね…連れていってもらった戦車の事なら覚えているのですが。


あまりに戦車に興味が向きすぎて、自分への興味が無いのかもしれません。


ですから、私が思い出せる最初の事と言えば、やはり戦車がらみの事。


…いえ、正確に言えば「戦車に対する、私と世間の想いのギャップ」を初めて認識した時だと思います。


私の戦車に接する態度は、それこそ小さい頃にから変わりはありません。

ですが、周りはどんどん想いを…想いの対象を変えていくんです。


いつもと違うんです、同級生の女子達の様子が。

戦車の話をしようとすると、いつのまにか他の話になっている。

それでも話の合間に戦車の話を持ちかけたら…嫌がられてしまったんですよね。


--秋山さん?また戦車のお話?もう飽きちゃったよ。アトソノカミガタ…


--何言ってるか分かんない。それより「ボコられグマのボコ」知ってる?可愛いんだよ!アトソノカミガタ…


--う、ううん。知らないであります、スミマセン…


え?当時のこの髪型ですか?

武部殿にも同じ事を聞かれたのですが、私癖毛がヒドイ上、何かおと…父の髪型が格好いいなあ、って思って。いえ、特に当時は何も言われてませんけど?


とにかく、それからはひたすら男子とばかり遊んでいたそうです。

おと…父いわく、サバイバル知識に長けた私は、秘密基地作りにも撃ち合いにも負けなかったそうですよ?!


…でも私は、やっぱり女の子だったんです。


--お父さんに特訓してもらって、補助輪無しで自転車に乗れるようになりましたよ!さあどこに…


--秋山さあ、お前、女だろ?何で俺たちのとこに来るわけ?アトソノカミガタ…


--もう俺たち、女子とは遊ばないから!アトソノカミガタ…


--そ、そんな…他に私と遊んでくれる人なんて…。


次第に男子は男子とだけ遊ぶようになって、気がつけば私の周りには、戦車しか残っていませんでした。


?いや、ですから髪型に関しては、特に何も…。


嫌が応にも女の子である事を認識させられた日も…あれは授業中だったのですが、

恥ずかしいという気持ちより、皆や先生に申し訳ない気持ちだけが強くあって…


--…え?あ…す、すみませんっ!すみませんっ!


保健室から帰るときはもう夕方で、先生は残っている子に送ってもらうつもりだったけど、もう誰もいなくて…


母が何も言わず優しい笑顔で迎えに来てくれた事が印象に残っています。


--どうして私は、女の子なのに戦車が好きなんだろう。


--戦車が好きじゃ、ダメなんですか?


--否定されたり、拒否されたりするものなんですか?


で、でもへっちゃらでしたよ?

私は戦車さえあれば幸せなんですから!


だから、さっきも言ったじゃないですか。私、自分の事にあまり興味が無いんですよ。

あまりこういう事を言うと、五十鈴殿に怒られちゃうんですけど。


その後は、ひたすら戦車探究のみに邁進した日々でしたね。何て事の無いお話です。


でも流石に中学に上がる頃になると、私は本当にこのままで良いのかな?という疑問…いや、迷いが出てきました。


地元県立ということもあり、周辺の小学校がまとまる形で人が集まってくるわけですから、中にはきっと戦車好きの子もいるに違いない!


今までの父と同じ髪型をきっぱりと止めたのも、私なりの覚悟だったのかもしれません…あ、いや、そこまで重く受け止めないで下さい。

冗談ですってば。学校、パーマ禁止でしたし。


いきなり戦車の話題を振っても相手も困るかもしれませんから、最新のファッション誌と芸能ニュースは抑えつつ、一人きりの人生をリセット…いわゆる「中学デビュー」を果たそうとした訳です。


…でも、結果は散々な物でした。


--あ、あの、私、秋山 優花里と言いまして、趣味は戦車をはじ…


--あ、ごめん。私、戦車全く興味ないんだ。それに今時、戦車道も無いでしょ?


--あなたってさ、何か声大きいよね?話し方も何か変だし。


--相手してオーラが強すぎて、近寄りがたいよね?


--ううっ…。そ、そのニュースなら私も見ました!


--お洒落にも芸能関係もよく知らないし興味も無いでしょ?無理に付き合わなくてもいいよ。


--戦争関係の本ばっかり読んでるんだよ?ヤバくない?


--あうぅっ…す、すみません…。


私はこの方、戦車を中心とした生活を続けてきました。

そんな私が最初から好きな物を否定されてしまえば、しょせん付け焼き刃程度の他の話題についていける訳が無かったのです。


せめて部活動でも、と思ったのですが、内気な私が好きでもない運動部のノリについていけるとも思えず。

かといって少しでも戦車が絡みそうな文化部~模型部や歴史研究部など~もありませんでしたから。


--秋山さん、あなた部活も入ってないから暇でしょ?文化祭委員やってよ!


--あ、はい。私で良ければ…


--展示会の留守番任せちゃって良い?私、友達と一緒に見て回ってきたいから!


--い、いってらっしゃい…。


--誰か、修学旅行で秋山さんと同じ班になってあげようって人、いないの?


--せ、先生。無理に班に入れて頂かなくても…


学校行事を何とか一人でやり過ごし、毎月のお小遣いをやりくりし、毎日立ち寄る「せんしゃ倶楽部」と「月刊 戦車道」だけが私の中学生活の全てでした。


そう、そうなんです!

冷泉殿にも言われた事なのですが、中学までは不思議と「自分から戦車道に入って戦車に触れる」っていう概念にたどり着かなかったんです。

憧れが過ぎて、妙に自分から敷居を高くして見てしまっていたというか…今から思うと、何て勿体無い事をしたんだろうって思いますよね?


あ、でもそうしたら大洗で戦車道出来なかったかも…何が起こるか、本当に人生は分からないものです。


とにかく、灰色の中学生活には早々に見切りをつけました。私、落ち込みやすい分立ち直りも早いのが自慢なんですよ!


目標を「戦車道の有名な高校に入る!」事に絞り、まずは学校選びからじっくり時間をかけて取り組みました。…あ、もちろん勉強もしてました、よ?


当時はアンツィオのように戦車道が風前の灯火となっている高校がほとんどで、まともに戦車道を行っているのは超難高な高校ばかりでした。


例えば聖グロリアーナは、優秀な学業成績の他にスポーツ・芸術・ボランティア活動実績が必要らしく、帰宅部だった私にはその資格がありません。


サンダースやプラウダは、校風も施設も言うことは無いのですが、秋山家の経済的な理由から却下せざるを得ません。


そこで私は、戦車道の頂点たる黒森峰を目標と定めました。

成績以外に私の戦車知識を評価してくれそうな高校がここしか無かったからです。

更に言えば、あの生きた伝説 西住流の後継者がいる点も理由の1つでした。


ちなみに知波単や継続も大変魅力的でしたが、戦車道関連校の試験日が仕組まれたかのように同月同日だったため、泣く泣く目標を黒森峰に一本化せざるを得ませんでした。


ちなみにこの学校選びで入手した情報は戦闘ドクトリン及び戦車構成にまで及び、後日作戦立案資料として、生徒会の皆さん及び西住殿にお渡しする事になります。


先生からは、周りの子達に比べても無茶だと再三に渡り普通科への切り換えを薦められましたが、私はそれを断りました。


--秋山さん、ちょっと高望みし過ぎじゃない?


--悪いことは言わないよ?今からでも普通科なら、良い学校がある。


--…先生。お父さん、お母さん。私は、周りの目を気にして何もしないで後悔する事だけはしたくありません。


--だからお願いします、黒森峰への挑戦だけはさせて下さい!


私が私らしくあるために。それは、自分の存在意義をかけた戦いでもあったからです。


両親に心配ばかりかけてきた私ですが、黒森峰に入り、戦車道を共に戦う仲間を得ることで、少しでも早く安心させてあげたい…そういう気持ちもあったと思います。


あの当時の私にとって、最大限の努力はしたと思います。

でも結果は、皆さんご存じの通りでして…落ちるつもりが全く無かったので滑り止めも期間ギリギリ。


脱け殻になった私の手を引いて、両親が見つけてくれた地元の県立大洗に決まった頃には、もう卒業式も目の前でした。


--私の戦車好きなんて、想いを貫く力も無いんですね。


--そもそも、誰にも認めてもらえないじゃないですか…。


--…戦車が好きなだけじゃ、やっぱ…ダメなんですよね。


--誰もが最初から否定したり、拒否されちゃいますもんね。


--…もう…戦車なんか…止めようかな…。


びっくりする位に力が抜けて…何をする気力も感情も出てこなくって。

気がつけば入学式も自己紹介も部活勧誘も終わっていて、高校デビューの機会すら失ってました。


かつては戦車道も盛んだったという大洗女子学園。所々にその形跡を見て取れますが、所詮は過去の遺物となっており、尚一層 私の心を蝕んでいきます。


だから私、夏休みを機会に、一切の戦車を断ち切ろうって決めたんです。


最後に、連休から夏休みにかけて行われる「第62回 戦車道全国高校生大会」を横目に見ながら、今まで溜め込んできた様々な戦車関係の資料やアイテムを整理・廃棄していこう…そう、思ってたんです。


ところがですね?


この第62回大会は、数年後に開催される世界大会に大いなる足跡を残し、夢のプロリーグ設立に貢献する事になる「黄金の日本jr.」世代が活躍を始めた、記念すべき大会でもあったんです!


これが面白くならない訳が無い!


…え?まだ世界大会もプロリーグ設立もされていない?…し、失礼しました!私の脳内シミュレーションにおいては、既に確定事項でしたので…。


戦車関連書籍を縛る手を度々休めながら、何時のまにか自分と同世代の活躍を固唾を飲んで見守っていました。


…そう、この期に及んでもまだ、私は自分が戦車道に参加しているビジョンを見出だしていなかったんです。


だから、悔しさや羨ましさは全く無かった。

素直に戦車道の一ファンとして、彼女達の戦いに声援を送っていました。


この大会を含め、この年には数々の名試合・名選手が生まれましたが、個人的に面白かったのは、大会直前に練習試合で行われた「黒森峰 対 継続」戦でした。


私の憔悴ぶりを心配した父が現地にいく事を薦めてくれて、半ば強引に…。


良く良く考えてみれば、自分の娘が行けなかった高校の試合を見に行かせるなんて、絶対おかしいですよね?

まあ当時はそんな事には全く思いもよらず、言われるがままに見に行ったんですけど。


「撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し」…これを体現する西住まほ隊長を筆頭とする黒森峰の戦いぶりは、正に王道を行くものでありました。


それに対し、トリッキーな戦車と戦術で対抗したのが継続高校。黒森峰とはまた異なるベクトルでの、優れた統率力を持つチームだと思いました。


でもこの試合で私が最も注目したのは、試合後半で継続高校有利の最中、単独で抜け出してきた黒森峰の一小隊。


この一小隊の動きが、継続高かくやと言わんばかりの特殊な動きをして相手を翻弄。

気がつけばいつも通りの黒森峰圧勝パターンに持ち込み、勝負を一気につけてしまったんです。


…衝撃でした。


私は、黒森峰…いえ、西住流の電撃戦も、継続の特殊戦法も好きですが、そんな枠を超えた柔軟性・自由さがたまらなく痛快だったんです!


--す、スゴい!こんな戦い方があったなんて…


--あの一小隊を率いていたのは、黒森峰の副隊長殿でしたか…え?この方も西住流だったでありますか?!


--名前は…みほ殿。可愛らしいお名前でありますね…ハッ!わ、私と同学年…一年生で副隊長?!


--はぅ…1度でいいから、どんな方がお姿を拝見したいです…え?あ、あんな優しそうな、清楚で可憐な方が、に、西住みほ殿なのですか?


--ひゃ、ヒャーーッ!!(モシャモシャ)


これが、私が西住みほ殿を知った最初の出来事です。


ええ。既に「みほ殿の西住流」…みほ流とでも言いましょうか、その片鱗は現れていました。

西住隊長も、そこを踏まえてみほ殿に副隊長を任されたのだと思っています。


ちなみに、莫大な運営費がかかる戦車道においては、出店による食事やグッズ販売による活動資金確保が推奨されており、お堅いイメージのある黒森峰も例外ではありません。


その練習試合では、西住隊長の物はともかく、なぜか副隊長デビュー直後のみほ殿のグッズも多数販売されておりましたので、父の協力を得て、一通り購入させて頂きました!


私が元気になったとばっちりを受ける形となった父には、大変申し訳ないと思っていますが…後悔はありません。

だって、黒森峰時代のみほ殿のグッズは今や超レア物で、高値ですら入手困難ですからね?


…あ、いや。戦車から身を引く気ではまだあったんですよ?その時はまだ。

後先考えずリビドーの赴くまま「買わずに後悔するより、買って後悔しろ」という有名な格言に基づいて当時は買いまくりましたが…


本当に戦車好きを止める事になっていたら、私、あのみほ殿グッズをどうしてたんでしょうかね?


何はともあれ、第62回大会も終盤に差し掛かり、

例の「黒森峰 対 プラウダ」戦を迎える事となりました。


応援に必要なみほ殿グッズ以外は、既に梱包を終え、この試合後にごみ収集場に持ち込むばかりとなっています。


あの時が一番、私の部屋の中がガランとしたときでしたね…。


大会10連覇を狙う黒森峰に対し、圧倒的な勢いで襲いかかるプラウダ。決戦の名に恥じない激闘がテレビの中で繰り広げられています。


その時です。


--あ?危ない!あの僚車、このままでは落下してしまうのでは?


--やっぱり落ちた!でも、幾ら特殊カーボンとはいえ、耐水性や密閉度はまずいんじゃないでしょうか…


--試合続行中ですが、特殊な状況だからか、救難スタッフが遅れているみたいで、気になりますね…あ、あれ?


--え?く、黒森峰のフラッグ車から、誰か人が…まさか、助けに行くつもりじゃ…む、無茶ですよ!


--あ、あれは…西住みほ殿?副隊長自らが助けに行くんですか?!試合放棄になってしまいますよ!?


戦車道、しかも西住流というこの道の勝敗に最もこだわるべきスペシャリストが、自ら試合中に仲間のために救援に向かう。


この異常事態による異様な緊張感は、画面越しにもヒシヒシと伝わってきました。


でも私は、ちっともおかしいと思わなかった。

気がつけば、みほ殿に対し、必死に声援を送っていました。


--頑張って、頑張って下さい、みほ殿!もう少し、もう少しで…!


シュポッ!


--あ…あ、み、皆無事に…よ、良かった…み、みほ殿…わ、私は…ぅぁああわああぁぁんっ!


黒森峰のフラッグが立つ音を聞きつつ、荒れ狂う濁流からみほ殿が仲間たちを対岸に引き上げる姿を見たとき、私は…私は…我慢できず、思わず泣き出してしまったんです。


--戦車を通じた仲間のために、あそこまで出来るなんて。

何て…何て素晴らしい方なんだろう。


--こんな素晴らしい方がいる戦車道って、凄く素敵じゃないですか!


--私は…私は、戦車が好きで、戦車道を見続けて、本当に良かった…!


--結果的に落ちてしまったけど、何もせずを良しとせず、この方がいる黒森峰に全力で挑んだ自分が誇らしい。


--だからこそ、やっぱり改めて悔しい…何で私は、戦車道をしていなくて、あの方の隣にいないんだろう…


--もっと、もっと、戦車を知りたい。私もみほ殿がいる戦車道に…参加してみたい!


あの時みほ殿が救ったのは、水没した仲間だけではありませんでした。


私もまた…どん底から救って、引き上げてもらったんです。

失っていた感情、興味、気力、力、今までやってきた選択、決意、結果…私の今までの全てを、私らしさを、戦車が大好きな私を取り返してくれたんです!


--…みほ殿?私は、私の大好きな戦車を、自分の戦車道を、進んでも良いんですよね?


テレビ観戦を終えた私は、いても立ってもいられず、梱包を終えたばかりの荷物の荷ほどきを始めました。


戦車好きである事に卑屈にならない。

戦車のことをもっと知りたい。戦車道に必要そうな事は全て身に付けておきたい。

そして…戦車道仲間に必要とされるメンバーになりたい。


そのための資金確保と、人見知りを少しでも直したくて、サンクスでバイトを始めました。

砲弾を入手し、装填を想定した筋トレをしました。

PCで情報入手は当たり前、資料作成や戦車ゲームでの仮想訓練、勢い余って画像加工から映像編集まで行いました。

AFVキットを作り揃え、脳内操作シミュレーションに興じました。

サバイバルキット一式を揃え、実際に使用したりしました。一人きりのお昼ご飯が、ほんのちょっとだけ華やいで見えたりしました。


でも、喜んでばかりもいられません。

最後に映し出されたTV画面には、厳しい顔をした西住隊長と、悲しげに視線を落とすみほ殿の姿が写し出されていたからです。


まだ一年生ながら大抜擢を受け名門 黒森峰の副隊長を務めながら、10連覇に水を指しただけでなく、西住流の名を汚した…。


試合後みほ殿を襲うであろうその重圧は、私にも容易に想像できるものでした。


それを裏付けるかのように、第62回大会後、黒森峰の試合において、副隊長はおろか、構成人員の中にもみほ殿の名前を確認する事は無かったのです。


何度かの逡巡を経て、私は今の気持ちをお伝えするために、みほ殿にファンレターを出しました。


--みほ殿の変幻自在な戦いぶりの大ファンな事。


--対プラウダ戦でのみほ殿の判断は決して間違っていない事。


--その行動のおかげで、私のような者まで救われて感謝している事。


そして、


--今の夢は、どんな立場でも良いから、みほ殿と同じフィールドに立つ事。


みほ殿への応援というよりは、どちらかというと、私自身の決意表明といった感じですね。


相手の事情も詳しく分からない立場のくせに、ただ一方的に戦車道を辞めないでほしい…みたいお願いや希望を押し付けるのも憚れましたし。


実際にみほ殿の手元に届いて読んでもらえたのかは聞いていませんし、今後も確認するつもりはありません。


…大事なのは、今、何をするか?という事と…今、一緒にいる事実だと思いますから。

それに…今思えば、かなり甘っちょろい事を書いていましたから、恥ずかしいでありますよ、やっぱり。


こんな感じで高校生活を1年近く過ごしてきたわけですが、ほぼ時を同じくして、数年後の戦車道世界大会に向け、文部科学省から全国の高校や大学にお達しがあり、色々動きがあった事も認識していました。


大学入試時は、高校の時に比べて選択肢が増えそう…その位の感覚だったのです。が…。


年明けのとある日。

下校途中、いつものようにせんしゃ倶楽部に立ち寄り、取り置きしてもらっていた月刊 戦車道を受けとり、我慢できずに歩き読んでいると、とある小さな記事が目に留まりました。


私のように、隅から隅まで月刊 戦車道を読んでいないと目にもつかないような、本当に小さな記事…。でもこれが、私の運命を大きく揺さぶる事になります。


「大洗女子学園、戦車道20年ぶりの復活」


…我が目を疑い、何度も目を擦り、食い入るように記事を見直しましたよ?でも、間違いありませんでした。


--ちょっ…ちょっと待って下さい。実際に大洗にいる立場として、そんな表立ったな動きを感じなかったですよ?


--記事自体の信憑性も疑問ですし、他校の誤植かもしれません。全く…もし違っていたら、きっちりと抗議して差し上げなくては…。


--ぬか喜びだけはしたくない。ああっ、でもでも…もしこれが本当だとしたら、私は…!


--…っ、ダメ、喜ぶな、私!いつだって、甘い考えが裏目になっていたではありませんか?…あーっ、落ち着け、優花里!!


…悶々と一睡も出来ないまま朝を向かえ、朝一番に先生にお聞きしたところ、生徒会主導の基、確かに来年度から必修選択科目の1つとして戦車道が採用された事が確認できました。


ガセネタじゃなかったんです!


--大洗 戦車道、復ッ活ッ!


-大洗 戦車道、復ッ活ッ!!


大洗 戦車道、復ッ活ッ!!!


ヒャッホゥ、サイッコーだぜぇっ!!!!


…ハッ?す、すみませんっ!

つい当時を思い出してしまい、心の言葉まで発してしまいました。


我が家には、私が作ったAFVプラモの完成品が幾つか飾ってあるのですが、どうしても戦車がらみの話をしたい時、私は彼らに向かって話しかけます。


どんな戦車が配備されるんでしょうか?

どんな戦車に乗れるんでしょうか?

大会に参加したり、他校との接触はあるのでしょうか?

大好きな戦車を否定される事なく会話できるって、どんな感じなんでしょうか?


それに、何と言っても…


--きっと、初めての友達が出来るでありますよ!


--やったね、優花里殿!


--不肖、秋山 優花里。戦車道に友達づくりに、精一杯邁進する所存でありますっ!


…あれ?なぜ横を向いて震えてらっしゃるのですか?…ハッ!私の行動ってやっぱりおかしいのでは…そんな事無いですか?なら、続けますけど…。


あ、彼らにも個性がありましてね?脳内シミュレーション時は、それによって戦況の幅も広がるんですよ。

この子は慎重かつ大胆。その子は攻撃的で排他的。あの子は厳しく、そして偉大な…説明はいらない?そうですか…残念です。


ちなみに、慎重かつ大胆なこの子…二号戦車は、後日西住殿のお誕生日プレゼントの1つとして進呈させて頂きました。


見定めるべき目標と期日が決まり、俄然やる気が出てきた私にとって、これほど新学期までの日々が待ち遠しく、長く、そして短かった事は今までありませんでした。


「それではこれから、必修選択科目のオリエンテーションを開始する。」


生徒会から全生徒に召集がかけられ、体育館に集められた私達は、戦車道のプロモーション映像を見る事になりました。


まさかマイナーな戦車道をここまで取り上げてくれるとは…この時の私は、素直に生徒会の皆さんに感謝していました。


皆、固唾をのんで映像を見ています。そう、戦車道は乙女の嗜み。無限軌道のように愛らしく、情熱的で必殺命中な戦車の魅力!


…ううっ、嬉しさのあまり感無量。涙で前が霞んで良く見えません…。

一瞬西住殿に似た方を見たような気がしましたが、これもきっと涙と気の迷いのせいでしょう…。


書類提出日、私は普通Ⅱ課2年C組の皆さんに向かって、同じ戦車道化希望の方がいないか聞いてみました。


--あっ、あの、もし同じ戦車道を選択される方がいらっしゃったら、私 秋山 優花里が責任をもって先生に用紙を提出してきますけど…。


--…あ、ごめんなさい秋山さん。私達は他の選択科目にするの…。


--そ、そうでありますか。失礼しました。他の皆さんは、いかがですか?


--私も違うかな?


--あ、私も…何か、ゴメンね?


--あぅ…い、いえ。こちらこそ、すみません。皆さんご希望の選択科目があるでしょうから、気にしないでそちらを頑張って下さい…。


トホホ…また、やってしまいました。

どうして私は、自分から動くとこう空回りして空気を悪くしてしまうのでしょう。


…結局、私のクラスから戦車道を受ける人は、私以外一人もいませんでした。


選択科目の中でも不自然な位に優遇されている戦車道なのに…やっぱり、今時戦車道を行うことなんて、時代遅れで嫌われるものなんでしょうか?


これで、他のクラスからも参加者が出てこなかったら、戦車道の授業自体が無くなってしまうのではないでしょうか。


昨日までの浮かれた気持ちをいきなり挫かれてしまい、すっかり落ち込んだ気持ちでいつものように一人でお昼ご飯を頂いていると…。


生徒会からの緊急呼び出し放送が入りました。


「普通1科 2年A組 西住みほ。至急 生徒会に来ること。」


…え?

今、何とおっしゃいましたか?


慌てて電光掲示板にも目を向けます。


「普通1科 2年A組 西住みほ。至急 生徒会に来ること。以上。」


心臓の動悸がバクバクと異様に脈打つのが分かりました…落ち着け、落ち着くんです私。


とにかく、情報の再確認から。


まず音声と表記。

「あの」西住みほ殿と、まずは一字一句間違い無いことを確認します。


次に同姓同名の別人の可能性ですが、限りなく低い事を私の本能が瞬時に告げています。


本能の判断が正しい事を裏付けるため、私は祈るように思考を進めます。


元々この戦車道は、生徒会主導の基に必修選択科目として我が校に採用されたもの。

授業の一環として行われる以上、戦車道経験者が必要不可欠なはずです。


ところが、我が校には先生・生徒共に経験者は皆無(いたら私が黙っていません)。先生は恐らく特別講師を雇うことで解決できますが、生徒はそう都合つくものではありません。


ですが「やむ無い事情で転校せざるを得ない戦車道経験者の生徒」だったら?…この条件に、西住みほ殿ならピッタリと当てはまるんです。


生徒会の最終目的が何なのかは分かりませんが、大洗戦車道のためには最高の一手ではないでしょうか。


そんな読みを踏まえ、放課後に直接生徒会にお尋ねしたところ、あっさりと「あの」西住みほ殿が戦車道に参加されると聞き出す事が出来ました。


ただ、西住みほ殿の立場で戦車道参加を考慮した場合、自身で戦車道を行う事を余り望んでいない事態なのでは?とも考えてしまうのです。


その辺りは、実際にお会いした時、充分以上に考慮するとして…。


「大洗で」「秋山 優花里が」「西住みほ殿と」「戦車道で」「共闘する」…何でしょう、この胸踊る夢みたいな言葉の組合せ遊びは。


ま、まさか、あの西住みほ殿と一緒に戦車道ができるだなんて…ヒャッホゥ、サイッコーだぜぇっ!!!!


…ハッ!これまた失礼しました。


そんな浮かれた気持ちのまま、再びろくに眠れぬ一夜を過ごし、ついに必修選択科目「戦車道」の記念すべき初授業の日を迎えました。


戦車道参加者の待ち合わせ場所に指定されたグラウンド横の古びた大型車庫の前に、私は真っ先に向かいました。


これから共に戦車道を学ぶ方々が、ポツポツと知り合い同士で固まりながら集まってきます。

あまり多くはありませんが、戦車道自体が無くなる程では無さそうです。


ひと安心した私は、お目当ての人物を探すため、皆さんから一歩下がった位置で周辺を見渡します。すると、最後の最後に、ご学友お二人と共に、ついにあの方が姿を現しました。


--わあぁ…本物の西住みほ殿だ…。


--良かった、笑顔でお話されてます。お元気そうで何よりです…。


--グスッ…また、戦車道に帰ってきてくれたんですねえ…。


黒森峰でのお姿を見慣れていたせいか、私と同じ白と緑の制服を着ていたからか、どこか夢みたいで実感の沸かないお姿がとても眩しく、霞んでよく見えません。


西住殿の一挙手一投足を見逃すまいとより注意を凝らしたところで、副会長から戦車道の授業開始が告げられました。


…おっと、いけません。

私、戦車道邁進を心に堅く誓ったんです!

自分からドンドン行かなければ…。


--あのぅ、戦車は…ティーガーですかっ…それともっ…。


ううっ。西住殿の前で初めての一声なのに、恥ずかしい…つい緊張して思わず上ずっちゃいました…。

こんな大勢の前で、自分から声をあげるだなんて、今までしなかったものですから…。


古びた大型の扉が開放され、私達は車庫へ入りました。そこには、たった1輌のⅣ号戦車D型が、鉄と油と錆と埃の入り雑じった匂いと汚れと共に無造作に置かれていただけでした。


今まで目にして来た様々な資料から、風雨に晒され錆び付いた車体を再生して使用する事があったことは理屈では知っていました。


ただ私には戦車の情報はあっても経験則が全くありません。このⅣ号が果たして再生可能なのかどうか、判断すら覚束無い状況です。


率先して戦車道に参加した私ですら戸惑い、思わず腰が引けてしまう雰囲気でしたから、魅力的な勧誘条件から何も知らずに参加した方からすれば、尚一層その不安と不満を感じたと思います。


とても前向きな環境とは言えない状況に、当然の如く戸惑いと落胆の声が上がります。

そんな重く白けた空気の中、ただ一人静かに動いた人物がいました…西住みほ殿です。


彼女が、錆び付いたⅣ号の車体を撫でながら、独り言のように呟いたたった一言で…場の雰囲気は一変します。


--装甲も転輪も大丈夫そう…これで、いけるかも。


何て優しく、心強い、凛とした言葉なんでしょう…。

思わず感嘆の声が上がり、バラバラだった皆の気持ちが一気に1つにまとまり、高揚します。


一陣の風が学園艦を通り抜けたような、そんな気持ち…西住殿を中心とした我が大洗戦車道チームは、間違いなくこの時に誕生したんです。


さすがにⅣ号だけでは戦車道の授業にならないので、生徒会から学校敷地内にあるとされる戦車探索の指示が出されました。


知り合い同士の皆さんは、早速幾つかのグループに分かれ、学校内の方々に散っていきます。


私といえば、初めて直接目にした西住殿の想像以上の存在感に、すっかり参ってしまっていました。


ですから、直前まで大事な事に気が付かなかったんです…「私だけ、どのグループにも属してない事」を!


…た、大変な事になってしまいました。

秋山 優花里、人生最大のピンチであります!


昨日の夜は「西住殿がいる!」という事ですっかり舞い上がっていたので、グループに入れてもらうための事前シミュレーションすら怠っていました。


最も、事前シミュレーションを行っていたところで友達づくり実績0%の私。結果は対して変わらなかったのではないでしょうが…。


混乱した私は、いつの間にか目線を向けていた西住殿に引きずられるように歩き出していたのです。


--ああっ、これでは只の不審人物ではありませんか?戦車道邁進の第一歩、早速西住殿に戦車探索の同行をお願いするんです!


--で、でもですね?既に西住殿はご学友のお二人と行動を共にするご様子。いきなり見ず知らずの私ごときが話しかけては、ご迷惑が…。


--そんな事を言っても、既に私の周りには他グループの方々は見当たりません!じゃあ、一人で戦車探索を行いますか?


--…そ、それはやっぱり…嫌でありますよ…。

それにしても、やはり西住殿は素敵でありますなあ…つい見入ってしまいます…。


頭に血が昇り、グルグルと視界と思考が回転し、ますます自分でも挙動不審なのが自覚出来ます。


--あ、西住殿が一瞬こちらをご覧になりました…って、何で身を隠すんでありますか?私のバカバカ!


勇気を出そうとすればする程、足がすくみ、震えが止まらなくなります。…そう。私は、怖くて怖くて、仕方がなかったんです。


--あ、ごめん。私、貴女に全く興味ないんだ。


--あなたってさ、何か声大きいよね?話し方も何か変だし。


--相手してオーラが強すぎて、近寄りがたいよね?


--無理に付き合ってくれなくてもいいよ。


…~っ。今までのように、決心して話しかけても拒否されてしまったら…西住殿にまでいらない子扱いされたら、私、きっと生きていけない。…怖い、怖いよ…。


その時です。


「…あっ!あのっ?!」


急に西住殿が叫んだかと思うと、クルッと私の方を向かれました。


「ひゃぁっ…!?」


(え?ええ?ま、まさかあの西住殿から私に話しかけて頂けるなんて…ああ、そうか。きっと私の後ろに西住殿の知り合いがいて、その方に呼び掛けただけに違いありませんね。なあんだ、やっぱりそうだったんだ、分かってます分かってたんです。私ごときのために西住殿が声をかけて下さるなんて、あるはずが無いんです。むしろ安心しましたよ…って、今は授業中だし周りに誰もいないから、頼りない震える足でノコノコ西住殿の後を付いてきた訳で、やっぱり私に話しかけてくれてたりするんですかぁっ!?)※この間 約0.2秒。


そして、眩い笑顔で、こう仰ってくれたんです。


「良かったら、一緒に探さない?」


…うわ、うわぁ…。


「良いんですかぁ?!…あ、あのぉ…普通2課、2年C組の、秋山 優花里と言います。えっと…

不束者ですが、よろしくお願いします!」


やっぱり、あの戦車道で見せてくれた通りの、優しい西住みほ殿だ!

私、凄く嬉しくなって、気がついたらご挨拶していました!


「こちらこそお願いします。五十鈴 華です。」


「武部 沙織!」


聞きましたか?良かったです。私、西住殿のご学友お二人からも拒否られていません!


「あ、私は…」


「存じ上げてます。西住みほ殿ですよね?」


「え?あ、ハイ…。」


わざわざ存じ上げている西住殿にご挨拶して頂くのは申し訳無いような気がして、ついお名前をお答えしてしまいましたが…。


今から思うと、逆に失礼だったかもしれません。見ず知らずの人に、いきなり色々な事を知られていたら引かれてしまうかもしれませんし。


ここは、私の対人スキルの無さを反省すべきところです…。何はともあれ、これでようやく私の戦車道における立場の基盤が整った訳です。


「では、よろしくお願いします!」


…それにしても、皆さんと地図を片手に戦車探索を開始した時の状況は、今もって全く信じられない夢のような出来事でした。


好きな戦車を否定される事なく、好きな戦車について語り合い、戦車道という共通の目的に向かって、戦車と一緒に行動する。


そんな夢のような日々が、いきなり現実のものとなったわけですから。


これでも当初は大分自制していたんですよ?

そうでなくても、西住殿は過去の事を余り思い出したくないのでは?という点を考慮しておく必要がありましたし。


ごく自然に然り気無く、あまり戦車で盛り上がりすぎて、空気を壊さないように。抑えて、落ち着いて。


それでも少しでも油断すると、つい顔がにやけ、歌って踊り出したくなる程に、私の心は受かれまくっていました!


「ただいま!お父さん、お母さん?私、あの西住殿と同じチームになったよ!」


「おお、優花里。それは良かったなあ…その、なんだ?他にも友達は出来たのか?」


「武部殿と五十鈴殿!3人とも優しくて、皆で戦車の話も一杯したんだ!あ、私達の戦車はⅣ号戦車に決まって…。」


「あらあら、二人とも立ちっぱなしで。夕食の準備が出来てるんだから、そこで詳しく話せば良いじゃないの。」


「あ、いけない!私着替えなきゃ…すぐ戻るからね?」


「ふふっ…優花里、慌てないで。怪我したらそれこそ戦車道出来なくなっちゃうわよ?」


「おお…優花里。良かった、良かったなあ…。」


両親もスゴく喜んでくれて…お母さんはニコニコして、お父さんなんか泣き出しちゃって。

家族全員での晩御飯も、いつもの何倍も楽しく盛り上がるようになりました!


でも、実は…いえ、だからこそ、でしょうか。

当初は皆さんと帰宅する時、私はいつも不安にかられていたんです。


--私は、気が付かない内にご迷惑をおかけしていたのではありませんか?


--調子に乗りすぎて、皆さんに嫌われてしまったのではないですか?


夕焼け特有の物悲しい空気感が、舞い上がっていた私の頭と心を急速に冷やしていくんです。


私は多分、この手の幸せに慣れていないんです。幸せが過剰供給され過ぎて、むしろ不安になってしまう。


夢だったせんしゃ倶楽部への寄り道をご提案させてもらった時も。


西住殿のお家で晩御飯を一緒に作ろうってなった時も。


…また以前のように、次の瞬間に私自身が拒否されてあっさりとひっくり返され、この夢のような日々が終わってしまうんじゃないか、って…内心いつもビクビクしてました。


でもそれは、全くの杞憂に終わったんですけどね。


好きな事を一杯話せる「友達」が出来た事を心から実感出来たのは、チーム戦で我がAチームが勝利し、冷泉殿が戦車道参加を決められた時…「あんこうチーム」結成の瞬間でした。


へへっ…実は私ですね?

本当に嬉しい事があった日には、ベッドの上に彼らと丸く座って、ささやかながらジュースとお菓子でパジャマパーティーを開くんです。


もっとも、AFVプラモにパジャマを着させると壊れちゃいますから、着ているのは私だけなんですけど…。


戦車道が始まってからというもの、もう何回このパーティーを開いた事か。でもこの日ほどパーティーに相応しい日もありませんでした!


「私、戦車のお話がたくさん出来る友達が出来ちゃいましたよ?」


--ヤッタネ ユカリドノ!


「…はい、こんなに嬉しいことはありません!」


…あれ?何で私、頷かれながら肩を叩かれているのでしょうか?…な、泣いてます?…やっぱり私、痛い子なんじゃ…だ、大丈夫ですか?じゃあ、続けますけど…。


この時の私は…今も絶賛継続中なのですが、凄く幸せなんです。


小さい頃から戦車にまつわる記録を残すようにしているのですが、特に戦車道を始めてからは嬉しい事や発見が多すぎて、つい筆が乗り過ぎてしまうのが悩みの種になる位に。


でもそれとはまた異なる、不安とまではいかない、でも何かをあえて見ていないような…そう「物足りなさ」みたいな物を、今度は自分自身に感じるようになりました。


その「物足りなさ」の原因は分かっていました。それは、私が皆さんから「もらってばかり」だったから。


ただその時の私は「何を」皆さんに返せば良いのか…「何が足りない」のか、分かっていなかったんです。


…あの「第63回 戦車道全国高校生大会」前の、黒森峰との邂逅の時までは。


「…お姉ちゃん…。」


あの時の西住殿は、明らかに狼狽していました。それは、私自身が予測していた「自身で戦車道を行う事を余り望んでいない事態」の裏付けと見て取れます。


「まだ戦車道をやっているとは思わなかった。」


ようやく、色々なしがらみや過去から抜け出し、ご自身の戦車道を歩き始めた…そして、私自身にも道を示してくれた西住殿に対して…。


思わず私は立ち上がり、抗議していました。


「お言葉ですが、あの試合のみほさんの判断は、間違ってませんでした!」


「部外者が口を出さないでほしいわね?」


「…すいません。」


黒森峰 現副隊長の強い口調に圧され、私は思わず身を引きます。


「一回戦はサンダース附属と当たるんでしょ?不様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね。」


「何よその言い方!」


「余りにも失礼じゃ…」


武部殿、五十鈴殿が次々と抗議の声を上げます。


「あなた達こそ戦車道に対して失礼じゃない?…無名校のくせに。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は、参加しないのが暗黙のルールよ。」


「…強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルールとやらに負けたら、恥ずかしいな。」


ついには、いつも冷静な冷泉殿も怒りを露にします。


でもこの時の私は…西住殿を愚弄され怒る反面、優勝筆頭候補の黒森峰に対し何という事を…という思いにも捕らわれ、戸惑うばかりでした。


「あの…今の黒森峰は、去年の準優勝校ですよ?それまでは9連覇してて…。」


…私は、今でもこの時の事を思い出すと、自らの行為に恥ずかしくなります。


部外者なんかじゃありません。

友達が目の前でバカにされて、黙っている方がおかしいんです。

西住殿の行動は「決して」間違っていないんですから!


そして何よりも…この時点で未だ皆さんと同じ「意思」を持ち得ていなかった私のバカさ加減が猛烈に恥ずかしい!


「もしあんた達と戦ったら、絶対負けないんだから!」


幾ら戦車道の状況が分からなかったとはいえ、

…いえ。恐らく状況が分かっていたとしても。


武部殿、五十鈴殿、冷泉殿には、私が当時持っていなかった、共通する同じ強い「意思」がありました。


私が皆さんを尊敬し、頭が上がらない所以です。


「…寒くないですか?」


「あ、うん。大丈夫。」


帰りの船上で海に沈む夕陽を見ている西住殿は、今にも消えてしまいそうに儚く、頼り無げに見えました。

私は横に並ぶと、自分に言い聞かせるように語りかけました。


「…全国大会。出場出来るだけで、私は嬉しいです。他の学校の試合も見られるし。大切なのは、ベストを尽くす事です。…例え、負けたとしても。」


「それじゃ困るんだよねぇ。」


…そこで唐突に、生徒会の皆さんが口を挟んできました。


「絶対に勝て。我々はどうしても勝たなくてはならないんだ!」


この期に及んで、黒森峰に続いてまだ煽るような真似を…そうでなくても西住殿にご負担をかけているのに!


「ま、とにかく。全ては西住ちゃんの肩にかかってるんだから。」


西住殿を元気付けようと声をかけようとした私は、そこで信じられない光景を見たのです。


「…初戦だからファイアフライは出てこないと思う。せめてチームの編成が分かれば、戦いようもあるんだけど…。」


そこにいたのは、勝つために必死に思案を巡らす西住殿の姿でした。


「…っ!」


それを見た瞬間、私は自分に「何が」足りないのかが分かりました。


私は、何時から勘違いをしていたのでしょうか…黒森峰時の西住殿が「仲間を助け出せさえすれば、負けても構わない」と思っていたのだと。


「戦車道」は競技なんです。

「勝つため」に戦うんです。

勝たなければ、意味を失うものがあるんです。


1年生ながら黒森峰の副隊長になった重責。周りからの妬み・嫉み。西住家からの期待。

そして、何よりも自分自身のために「勝ちたかった」に決まってる。


「勝ちたかった気持ちを抑え込んでまで、仲間を助けた」からこそ、私は西住殿の戦車道の虜になったんだ。


それなのに…弱い私は、勝とうとする「覚悟」が圧倒的に足らなかったんです。


友達づくりに失敗した時も。


黒森峰に落ちた時も。


西住殿が黒森峰の方々に責められている時も。


その時々で「ヘタれて」しまったのは、私の「覚悟」が足らなかったから。


さっきまで同じ目線にいたこの人は…いえ。きっと最初から私と同じ目線でなんか見ていなかったんです。私が勝手に思い込んでいただけ。


私は恥ずかしさと情けなさで泣きそうになりながらも、既にサンダースとの試合を見据えた西住殿の横顔から決して目を背けませんでした。


西住殿と同じ目線に立つために、私はどうすればいいのでしょうか?…ここまでこれば答えは自ずと見えてきます。


「勝つために私の出来ることを最大限に行う」…ただ、それだけの事。


楽しい事「だけ」をご一緒する「仲良しさん」が欲しかった訳ではありません。


楽しい事も、辛い事も、「全て」を分かち合える…そんな「友達」同士に、私はなりたかった。そういう関係を、私は望んでいたはずなんです。


それに私は…戦車道に関わる皆さんには、西住殿には、いつも笑顔でいてほしいですから!

特に苦しい事こそ、私が率先して頑張らないと、それこそ立つ瀬がありません…。


奇しくも、生徒会の皆さんから間接的に叱咤激励されて腹を括る事が出来たようなものですね。事情が分かる今なら素直に感謝していますが…正直当時は複雑な思いがありました。


自分にも周りに対しても、正しさを証明する唯一の方法。それが勝つ事。


西住殿の戦車道が正しい事を証明するために、今の私に出来る事。


--サンダースの部隊編成及びフラッグ車の情報を入手する。


覚悟を決めた瞬間、一気に私の頭が回りだします。


--侵入ルートは?…ある。潜入先の地形及び配置データは?…ある。潜入時の目立たない服装は?…ある。


--一応規定上認められているとはいえ、スパイの責任を皆さんに取らせるわけにいきません。あくまでも私個人の責任で実行します。


--大洗の皆さんに、私ごときの余計な心配をかけたくありません。即断即決即実行。今日中に準備を整え、明朝には出発しましょう。



フ、フフフ…オタクは、怖いんですよ?

動き出すまでの準備と覚悟に時間がかかりますが、一度成功への道筋…ビジョンが見えてしまえば、脇目も振らず一息に突き進みますから。


ましてや潜入先はあのサンダース!

どんな戦車に巡り会えるか、それを考えるだけで震えてきます…そう、これは武者震いなんです!


転んでも只では起きませんよ?

十数年戦車オタクだった秋山 優花里の戦車道を舐めるな、であります!


見ていてください、大洗の皆さん、あんこうチームの皆さん、それに西住殿。不肖 秋山 優花里、サンダース大附属高校に、いざ潜入捜査出発であります!



「…何という無茶を。」


「頑張りました!」


「いいの、こんな事して?!」


「試合前の偵察行為は承認されています。…西住殿?オフラインレベルの仮編集ですが、参考になさって下さい。」


私の覚悟の結果入手したデータを、直接西住殿に手渡します。


「…ありがとう。秋山さんのお蔭でフラッグ車も分かったし、頑張って戦術立ててみる!」


…ああ、よくよく思い出してみれば、私、やっぱりこの時点で、西住殿にありがとうって言われていましたね…全然気がつかなかった。


この時の私は、無事に西住殿にデータをお渡しできた安心感と…自分の趣味丸出しの私の部屋に怯むこと無く、皆さんが笑顔で来てくれた感激で一杯一杯でしたから。


初めてのありがとう。って、凄く大事な一言だと思うんです。もらってばっかりだった私が、西住殿に初めて恩返しが出来たって事ですから。


勝手な言い分ですが、ようやく西住殿に1つお返しが出来、私の中の申し訳無さがほんの少し解消された気がしました。


「無事で良かったよ、ゆかりん?」


「怪我は無いのか?」


「ドキドキしました…。」


「…心配して頂いて恐縮です。わざわざ家まで来てもらって…。」


「いいえ。おかげで、秋山さんの部屋も見れましたし。」


この時の私は、感激の余り既に泣きそうでした。


「あの…部屋に来てくれたのは皆さんが初めてです。私、ずっと戦車が友達だったので…。」


武部殿からアルバムについてのツッコミが無かったら、きっと私は泣き出していたと思います。


…これでようやく、胸を張って皆さんの「友達」と名乗って良い権利を得たような気がしました。


でも私、ちょっとした失敗もしてしまいました…黒森峰時代の西住殿グッズを隠しておかなかった事です。


それを目にした瞬間、西住殿の目から光が消え、私は思わず目を逸らしました。


後でそっとお顔を伺うと、先程とは一変、今度は涙目で何かを必死に訴えられておりました。

その可愛らしい西住殿の素振りを、私は敢えて見て見ぬ振りをしてやり過ごしました。


…申し訳ありません、西住殿。

これとHDの中身だけは、例え西住殿と言えど永久不可侵なのでありますよ…。


ああ、大事な事を後もう1つ。


私がスパイした事で、サンダースが計画を大幅に変更してくるのでは?という懸念事項がありましたが…。


結果としてケイ隊長は、私の入手した戦車構成及びフラッグ車をあえて変えずに、戦いを挑んで来てくれました。


それどころか、スパイの私を何故か大変に気に入って下さり、何かと他校の皆さんにアピールしてくれたので、後の他校交流時に大変助かりました。


ですので、ケイ隊長にも私は大変感謝しています。何が後で役に立つか、本当に解らないものです。


…ハッ!ひょっとしてアリサ殿が通信傍受機を使ったのは、私のスパイ行為に対する当て擦りだったのでしょうか?…真相は分かりませんが。



あんこうチームの皆さんが帰宅した後、私は学校をサボって他校のスパイを行っていた事が両親にあっさりばれ、こっぴどく叱られました。


でも、お友達が初めて遊びに来てくれた事で許しを得、その日の晩御飯はちょっとしたご馳走が並びました。


晩御飯を終えた私は、そのままお風呂へ向かいました。

湯船に浸かったその時…急に私の体に異常が発生したんです。


あ、あはは…震えが、震えが止まりません…。

私、寒いんでしょうか?風邪でもひきましたか?…いえ、違います。

今更ながら、侵入作戦の緊張が押し寄せて来て…怖さが揺り返してきたんです。


「こ、怖かった、怖かったよ…あ、はは…う、うええぇぇっ…。」


震えが止まるまで湯船に浸かっていたせいで、すっかりのぼせてしまった私は、冷たいジュースとお菓子を持って、フラフラ自室のベットの上に倒れこみます。


火照った顔をゆっくり動かし、自室を見渡すと、今日来てくれた皆さんの笑顔が思い出されました。

私はベットの上に座り、お気に入りのAFVプラモ達を並べて語りかけます。


「えへへ。皆、見て頂けましたか?今日来てくれたあの人達が、私の自慢の、大切な゛お友だち゛でありますよ?」


--皆さん、こんな私のために、わざわざ足を運んで来てくれたんです。


「こんな…ぐすっ…皆さんに心配をおかけするような…バカな私なんかのために…っ…。」


--私…私はっ…こんなに素敵な皆さんと、同じ夢を見れて…あぅっ…すごく、凄く嬉しいっ…。


「戦車が好きで…グスッ…好きでい続けて…戦車道を始めて…本当に…本当に良かったですっ…。」


--内気で、ドジで、弱虫な私だけど…っ…皆さんとなら、皆さんのためならばっ…どんなに怖くても、辛くってもっ。


「…私は、何だってやってみせますよ?…私は、強くなるんですっ…だからっ…う、うっ…。」


--弱虫だった…「ぼっち」だった私は、今日でおしまい。だから、今だけは…泣いて、いいですよね?


「ううっ、う、う…うわああぁぁぁんっ!」



…ここから、私たちの激闘は始まりました。



ちなみに後日、優勝祝賀会でこの件をお話したところ、あんこうチームの皆さんからはこう言われました。


「もう…。優花里さんは、難しく考えすぎです。」


「水臭い奴だな。むしろ秋山さんは、もう少し事前に私達に相談した方が良い位だ。」


「そうだよ、ゆかりん?私達、一緒に戦車捜しした時から、もう友達じゃない!」


「私は皆の事、もうずっと゛親友゛だって思ってたけど。違うの、優花里さん?」


「あわわ…も、もう。皆さんあまり苛めないで下さい。…で、でも、し、親友でありますか?えへへ…。」


優しい笑顔で私を見ていた西住殿でしたが、急に真面目な顔になり、真剣な眼差しを向けられました。


私は思わず息を飲みます。

…この鋭く凛々しい眼差しこそ、あの時の私には向けられなかったもの。


そして…決勝戦最後の勝負直前、あんこうチームの皆に向けられたものだったからです。


今度こそ私も、大洗の「軍神」西住みほ殿の眼差しを真正面から受け止めます。

西住殿は、そんな私にこう仰ってくれました。


「優花里さんの言う関係は…多分゛戦友゛って言うんじゃないのかな。」



ふう…それにしても、自分の事を話すというのは緊張します。各校の隊長の皆様方の苦労が偲ばれますね。


それにしても、本来ならここからが本題のはずだったと思うんですが、こんな話で良かったんですか?


想定外の質問に気が動転して、何か余計なことまで話してしまったような…どんどん不安になってきました。


王殿?

私は芸能事に疎いのでよく分からないのですが、本当にインタビューというのは、こ、こんな事まで話すものなのですか?


…え?どんな些細な事でも、興味のあることは知りたいのがファン心理?そ、そんな…わ、私にファンなんて…。


た、確かに、西住殿のあんなことやこんなことを知りたいというのはありますが…イヤイヤ!

検閲はしっかり行わせて頂け…え?最後に一言、ですか?そうですね…。


…高2の春、戦車道のおかげで、私の人生が華やかに色付き始めた日の事を、昨日の事のように思い出すことが出来ます。


私、秋山 優花里は、戦車が、戦車道が、戦車を取り巻く仲間たちが大、大、だ~い好きであります!


こと戦車を取り巻く仲間たちに対する想いだけは、どこの誰にも負ける気はありません!!


以上、秋山 優花里でした。

ご静聴、誠にありがとうございました!


後書き

大洗女子学園 放送部 王 大河さんによる「大洗戦車道 独占!ヒーローインタビュー no.8」という設定でお届けしました。

結局このインタビューは本人チェックは行われず、膨大にぶっこんでくる戦車ウンチクをばっさりカットの上で…

「戦車道のススメ ~そして私はここにいる」

と改題の上で最速配信され、しばらく周囲からの暖かすぎる視線と対応に身悶えする秋山殿の姿が確認されたとか…。


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2016-11-30 07:25:15

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2016-11-30 07:25:11

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