2016-06-06 17:26:07 更新

概要

「…私達には、武内P成分が足りません!」

シンデレラガールズの依頼を受け、常務から専務に昇進した美城さん自ら「武内Pプロデュース」!今回はその特撮編となります。


前書き


アニメ版デレマス終了後、武内P成分不足を補うつもりで書き始めたSSです。

・アニメ版準拠
・キャラ崩壊あり
・ご都合主義的解釈&設定あり
・この物語はフィクションにつき、実在の個人・団体とは一切関係ございません。

では、よろしくお願いいたします。




--346プロダクション 美城専務オフィス内



美城 「…一体何事だ?シンデレラプロジェクト(以下 CP)の面々が総出とは、穏やかではないが…」


美波 「単刀直入に申し上げます…アニメ第二期、または劇場版の制作を直訴しに来ました」


美城 「ハァ…またその話か。一体何度このやり取りを繰り返してきたと思っている?」


アーニャ 「10 раз…まだ10回目、です」


美城 「2ndシーズンが終わってから、ほぼ毎月1回以上来ているじゃないか!」


蘭子 「わ、我らが情念が成就するまでは、幾度の困難も討ち果たさん覚悟!(わ、私達の願いが叶うまでは、どんな困難にも乗り越えてみせます!)」


美城 「あのな…別に私自身が、君達に試練を与えている訳では無いのだ…以前と違ってな」


莉嘉 「えーっ、本当に?」


美城 「いみじくも芸能業界最前線に立つ君たちが、だ。製作委員会の一代表に過ぎない私の一存で決めれるものでは無い事を、知らぬ訳があるまいに…」


凛 「…でも、もう私達には一刻の猶予も無いんだ…こんなやり取りですら無駄に思えて来るほどにっ!!」


卯月 「はーい、凛ちゃん落ち着いてー?どうどう」


美城 「私の見込んだクール属性の君ですら、思わず敬語すら使わなくなってしまう程に追い詰められる懸念事項とは、一体何だ?」


みく 「本当に解らないなら無能だし、解らない振りをしているのなら尚更愚かな事だにゃ」


李衣菜「海外組んだりまで、一体何を学んで来やがった?…ったくRockじゃねーぜ…」


美城 「うぉいっ!?もはやキャラまでブレてるぞアスタリスク(以下 *)!」


未央 「見ての通り…私達は今、深刻な"武内プロデューサー"(以下 武P)不足にさい悩まされているんだよ!」


美城 「見ただけでは到底分からんよ!…だが、アニメ化に際してのドキュメント形式での撮影も終わり、また武Pと人目を憚らず一緒の仕事に戻れると喜んで…」


かな子「違うの…違うんです美城専務!それ自体はすごく喜ばしい事なんです!!けど…」


智絵里「その…テレビを、画面を通じて見た武Pさんは、また違った魅力が有って…でもメディア露出が極端に減って、武Pロスが…」


きらり「…テレビや映画なら、何時でもその魅力をキープ出来るってゆーか、グッズ展開で幅広く楽しめるというか…キャーッハズカスィ!」


美城 「…生娘じゃあるまいし(暴言)」


きらり「生娘じゃなきゃ、アイドルなんか出来ません(建前)」


美城 「ぐぅ…(普通の話し方の諸星マジ怖ぇ…)」


杏 「正直、皆のパフォーマンス力が著しく低下してきててフォローが大変なんだよね…これは由々しき事態だと思うんだけど?」


美城 「…ふ、フンッ!私を脅すとは、お門違いも甚だしい。CP管轄の責任は、全て武Pにある。実力の伴わない担当と部門は、切り離すのみ…」



みりあ「 ウ ソ だ っ ! ! 」



美城 「…え?あ、み、みりあ、ちゃん?そ、そんな芸能人がしちゃいけない顔しちゃ…」オロオロ


美波 「…身も心も砂糖菓子のように甘く蕩ける、魅力的なツンデレやり取りは、他の優秀なSS作者様に任せておけば良いんです」


アーニャ 「Мета замечание … メタ発言も甚だしいです…」



蘭子 「魂を解放せよ…継母たる貴女よ。魔法使いを溺愛しているや否や?(ぶっちゃけ…美城常務。武Pの事、大好きですよね?)」


美城 「…そんな事は、無いもの」プイッ


莉嘉 「でもでも、武Pを…ええと、アラタメテ売り込んでいるんでしょー?」


美城 「そうだ。調べてみれば、彼に対する世間の評価は、アイドルたる君達に負けず劣らずという…誰に聞いた?」


凛 「ちひろさん。ちなみに専務のこの時間のアポを押さえたのもそう。じっくり何を企んでいるか聞き出してこいって」


美城 「鬼!悪魔!!ちっひー!!!」



卯月 「ちなみにこのSSでの私達は、武Pさんへのラブバカ言動を一才隠しません!アルパカ大好き、島村卯月ですっ!!」


みく 「全然上手いこと言えてないニャ」


李衣菜「…私達の武Pを、まさか冷やかしだけで動かすつもりじゃねーだろうな?」ギロリ


みく 「いい加減帰ってくるにゃ、李衣菜ちゃん。夏樹ちゃん経由の友達付き合いに影響され過ぎにゃ」


美城 「…そんなつもりは全く無い。冷静な判断のもと、物と成りそうな者は売り出していく。ただ、それだけの事だ」


未央 「して、その本音は?」


美城 「我々には、武P成分が足らない。火急的対策が必要だ」


智絵里「さすが美城専務、共感して頂き恐縮ですぅ!こちら、お礼の四葉のクローバー!ヨツバヨツバヨツバヨツバヨツバヨツバヨツバヨツバヨツバ…!!」


かな子「ご褒美に私謹製のクッキー詰め合わせを無理矢理食べさせてあげます…逃げないで!美味しいから大丈夫だよぉ!!」



美城 「ハァ…ハァ…ま、全く、どいつもこいつも…。落ち着きなさい。相談を受けた当初から、様々な方法を模索してきたんだ」


みりあ「わぁい!美城せんむだーい好き!いつも通りなでなで抱っこしてあげるね?」


美城 「ふ、フヒヒ。…もう少し確定してから報告するつもりだったのだが、良い頃合いなのかもしれないな」


美波 「それはどういう意味、ですか?」


美城 「今回のプロジェクトは、346プロの総力を上げた物となる。当然君達CPには、彼の最も身近な関係者として、全面的に参加してもらうつもりだからだ」


アーニャ 「конечно…武Pのためなら喜んで。ですが一体何をしようとしているのですか?」


美城 「今年10月から始まる特撮ドラマの主演を勝ち取った…名付けて"武内プロデュース~特撮編"だっ!!」



ガタッ!



アーニャ 「!ミ…ミィナミィ?」


美波 「そ…その特撮タイトルは?」



美城 「…マスク・ド・ライバー P。」



ガタッ!!



杏 「…昭和に5作、平成に入り既に10作を越え、戦士・ユニバースマンと並ぶ日本三大特撮シリーズの主演…だ、と…?」


きらり「インドア派の杏ちゃんは、こういう方面も強いにぃ」



ガタタッ!



凛 「み、未央まで?!」


未央 「…今や人気芸能人への登龍門とも言われ、お子様はおろか奥様方の支持も熱い特撮ヒーローに、よもやあの武Pをブチ込むとは…!」


卯月 「…!(これが便乗ノリ…やってみたかったんですね、未央ちゃん!)」



莉嘉 「武Pクンが変身して戦ったりしちゃうの?それ、かなり見てみたいかも?」


智絵里「そ、それって、カッコいい武Pが見放題って事ですよね!」


蘭子 「ぼ…望外の超展開!グリモワールが厚くなる…(な、何というサプライズ!妄想が止まらなくなっちゃうよー…)」



李衣菜「で、でもさ…芸能関係者としてあまり言いたくないけど、所詮子供番組でしょ?」


みく 「冷静に見れば結局は玩具販売推奨番組。あまり役者の立ち入る隙は無いように思えるにゃ」



未央 「さすが芸能界随一の常識家にして、CP内のムライ中将と言われる*さん。あえて苦言を呈してきましたなー?」


李衣菜「…何か暗に無個性なつまらないユニットってdisってない!?」


かな子「ノリが悪くて失望しました。みくにゃんのファンやめてお菓子を食べます」モグモグ


みく 「何でみくだけ?!あとお菓子を食べるだけでキャラ押しきってくるのは、流石に乱暴と言わざるをえないにゃ!!」



美波 「杏ちゃんは置いておいて…私と未央ちゃんの共通項って分かる?」



みく 「そしてCPリーダー自らによる、乱暴な話題転換にゃ?!」


未央 「ヒントは、家族構成だよ?」


卯月 「んー…兄弟がいる事?」


凛 「ああ、そうか。兄弟は兄弟でも…弟がいるってとこ」


未央 「ピンポーン、さっすが渋リン!ついでにさ、しまむー。私や美波ちゃんが特撮ヒーロー好きに見えるかな?」


卯月 「情報や話題として知ってるだろうけど、特別好きには見えませんね…」


凜 「だからこそ、美波さんと未央がそこまで食い付くのに疑問があったんだけど…なるほど。弟さんの影響で見たことがあったって訳か」


未央 「その通り!もちろん最初は何の興味も無かったんだけど…一緒に見ているうちに、すっかり嵌まっちゃったんだ」


美波 「そうね。弟が見なくなってからは、休日の早朝という事もあって自然と視聴習慣も無くなったんだけど…あの熱は一体何だったんだろう?」



杏 「…自分とこの芸能人を売り込む事ばかり気にして、恋愛脳だけでしょーもないオリジナル垂れ流しては視聴率が落ちたと大騒ぎ。」


智絵里「…あ、杏ちゃん!?お仕事の時とテンションが全く違う…」


杏 「手前の責任にしたくないという理由だけで漫画原作を引っ張ってくるも、リスペクトなんか無いから改悪し、結果誰も得をしない。」


かな子「杏ちゃん、何か怒ってる!?きっとお腹が空いてるからだよ。お菓子食べる?」モグモグ


杏 「はっきり言って…今時のドラマは、特撮アニメに遥かに劣る!子供の共感を呼び、親をも楽しませようとする特撮ヒーロー物とは"志"からして違うんだよ!」ババァーン!



きらり「…私達、一応芸能関係者だし、そういう事言うのはメッ!だにぃ?」


杏 「良いんだよ。だって杏は、もう何時だって辞める覚悟だから!盛大に某D社をdisっていくスタイル。杏は自分を曲げないよ?」ドヤァ


みく 「みくのスタイルが盛大にdisられてるにゃ?!」


李衣菜「か、カッコいい…これぞロック!」



杏 「…でも流石のプロデュース能力だね、美城専務。流石の私も、いきなりそこにブチ込んでくるとは思わなかったよ…」


未央 「…皆、覚悟して?これからの狂乱な…お祭り騒ぎな一年を!」


美波 「そして…一年後に襲い来る、まるで仲良しの親友を引越しで失うような、今以上のロス感を!!」


杏 「…怖い人だよ、アンタは。結局それは、更なる地獄への片道切符じゃんか…」ニヤリ


美城 「…それを望んだのは、他ならぬ君達だ。それが若さの特権とはいえ、事を早急に要求し過ぎたのだよ…」フッ



ドアヒラキオン ガチャッ



ちひろ「…お話は全て聞かせて頂きました。そうと決まれば、もう時間は余りありませんよ?皆さん」


美城 「…色々突っ込みたいところだが…丁度良かった。私も、君に頼みたい事がある」


ちひろ「…武Pのためならば、何なりと」ニッコリ


美波 「…それじゃあ皆、行きましょうか!武内プロデュース特撮編、レディー…?」



CP 「「「「「 G O I N ' ! ! ! 」」」」」



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皆さん、いかがお過ごしですか?

CPの島村 卯月です。


あれからの半年間。CP…いえ346プロは、全社をあげての武内プロデュースにより、上へ下への大騒ぎとなりました。


新メンバーのプロデュースをこなしながらの特撮ヒーローとの2束のわらじ…武Pさんは本当に大変だったと思います。


ですが私達CPにとっては…武Pさんには大変申し訳ないのですが、至福の時間となりました。


本編撮影時は、普段のアイドルとPの関係ではなく…同じ出演者としての同僚の立場。そして、芸能人としての先輩・後輩逆転構造の間柄。


アドバイスを請われ、不器用ながら真摯に実行する姿を見守り、良い結果が出ると共に喜びあう。


そんな新たな関係を築けた事が、新たな表情を見せてくれた事が、私達にはたまらなく嬉しかったのです。


そして怒濤の制作発表、CM撮影、仮編集へのアフレコ等を経て…放送約1週間前。


ついに第一話本編が完成し、CPメンバーだけの特別試写会を行う事となりました!



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--346プロダクション CPルーム内(別名:武内Pオフィス)



かな子「はーい、みんなー?お菓子にジュースは行き渡ったー?」


李衣菜「音声・画質・調整。ええと…うん、問題ないね!」


莉嘉 「へへっ…何かこういうの、ワクワクするよねー?」


みりあ「うん!でも映画見る時よりドキドキする!」


未央 「はい皆さん、静粛に!…それじゃあ早速試写会と行きますか。総合司会は私、本田 未央…」


凛 「引っ込め、未央ー!」


未央 「っと、いきなりそりゃないよ、しぶりん!」


CP 「「「アハハハハハ!」」」


卯月 「凛ちゃんも皆も、凄く楽しそうです!」


みく 「久々のCP勢揃いだから、自然とテンションもアップしちゃうにゃ!」


未央 「業界的観点の解説を杏ちゃん。視聴者的観点の解説をみなみんに、各々お願いするよ?」


杏 「極めて個人的な観点から、勝手に裏を想像しちゃうよー?」


きらり「…もう少しこのやる気を仕事で見せてくれたら、武Pチャンも楽になると思うにぃ…」


杏 「ま、真顔で言うな!」


CP 「「「アハハハハハ!」」」


美波 「皆さんが少しでも楽しく見れる手助けが出来るよう、微力ながら精一杯務めさせて頂きます!」


アーニャ 「あ…Я люблю!!!」


CP 「「「??????」」」


美波 「あ、アーニャちゃん…そ、そんなぁ…」カオマッカ


アーニャ 「あ、ご、ゴメンナサイ…」カオマッカ


蘭子 「…ドンマイ。私なんかしょっちゅうだから」サトリガオ


智絵里「な、ナンデヤネン!…蘭子ちゃん、キャラ忘れてるよ?」


李衣菜「カーテンは閉めたよね?…それじゃあ皆、部屋の電気消したら再生するよー?」



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【マスク・ド・ライバーP 第1話~アバン】




夕暮れ迫る頃、一人のサラリーマンが家路を急いでいる。


サラリーマンとはいえ、その容姿は世間の常識から見れば規格外の何者でも無い。

180を越える長身。鍛え抜かれたその肉体は、無難な背広越しにもその存在感を際立たせている。


そして何よりも特徴的なのは、清潔にまとめられた髪の下の面構えだ。

目の座った三白眼、薄い唇、通った鼻筋。

人の情けを全く感じさせないそれは、暴力を生業とする者を想像させる。


だが、彼を知る者達はその第一印象を一笑に伏す。現に今、彼はすれ違う人々から囁くような笑顔を引き出していた。


なぜなら、巨漢に似合わぬキビキビとした歩みの最中、小さな児童書を片手で器用に捲りながら…彼は表情1つ変えず滂沱の涙を流していたからだ。


原題「A Dog of Flanders and Other stories」…日本では「フランダースの犬」として知られる児童書をパタリと閉じ、彼は一人ごちる。


「…パトラッシュとネロの事を思うと、とても哀しい気持ちになります。せめて…せめて最期は、最高の笑顔をもって天に召されたと信じましょう」


鼻を一すすりし、そっとハンカチで涙を拭うこの青年…「パワー オブ スマイル」を座右の銘に、日々人々の笑顔のために戦う男。


その名は武内、20代半ば。大手芸能プロダクション346に属するれっきとした…アイドルプロデューサーである。



…と、急に彼は厳しい顔つきでとある方面を見据える。神経を研ぎ澄まし耳を澄ますと、かすかに少女たちの悲鳴を聞き取った。


「…しまった!待っていて下さい、今すぐ向かいますから!!」



場面は変わり、全身を黒いライトアーマーで覆った何者からに追われ、裏道を必死に逃げ回る二人の少女たちが映し出される。


「…ほら、みりあちゃん!もうすぐ表通りだから頑張って!」


「莉嘉お姉ちゃん…待って…もう、足が…きゃあっ!!」


揉んどり打つように地面に転がる二人。

大人達の脚力の前では、逃げおおせるはずもない。



…Iレベルハユウニ20ヲコエテイマス


…ホカクタイショウトシテジュウブンナレベルダナ


…ツレカエルゾ.コレデノルマ,タッセイダ!



マスク越しのくぐもった声で、何事かを呟きあう男たちの手が二人に伸びる。思わず身をすくめ堅く目を閉ざす少女たち…だが、聞きなれた声が彼女達の耳を打つ。


「…莉嘉さんっ!みりあさんっ!大丈夫ですか!?」


「えっ?!」


危機的状況からの一転に理解が追い付かず、思わず呆然とする二人。


「ハァッ!」


その目の前で、武内は突入ざまに一人をタックルにて壁に打ち据え、その反動を乗せ大きく振り上げた長い足の踵落としを向かいの一人の肩に叩き込む。


リーダーらしき男は数メートル先で狼狽気味に様子を伺っている…今のうちだ。武内は少女たちの目線にまで身をしゃがめ、素早く二人の状態を確認しつつ、落ち着かせるために柔らかい笑顔をたたえ声をかける。


「…よく頑張りましたね?もう、大丈夫ですよ。」


次第に状況を理解していくに従い、二人の顔に満面の笑顔が広がっていく。


「た…武内クン!」


「武内の…お兄ちゃんだぁ!」


抱きついてくる二人の頭を撫でた後、そのまま彼は左右に軽々と抱き抱え、両手を太い首に巻き付けるよう促す。


「二人ともしっかり掴まり、ぎゅっと目をつむっていてください…ジェットコースターみたいなものです。すぐ終わりにしますから、ね?」


「分かった!」


「うん!」


彼に全幅の信頼を寄せるが故、何の疑いも不安も無く素直に目をつぶりしがみつく二人。

彼女たちに汚いものを見せたくはない。奴らの姿も、怒りの衝動に駆られる自分の姿も…。


リーダーらしき男がナイフを持ち突っ込んできたのはその瞬間だった。両手を塞がれたと踏んだ上での行動だったのだろう。が…彼の真骨頂は足の方だったのだ。



…ズ、パッ…!



一瞬…いや、意識を失う直前まで、男は武内に何をされたのか分からなかっただろう。



…ヒュッ…ド・ ンッ!!



彼は突っ込んでくる勢いをそのまま利用し、足払いで相手を回転させて浮かせた後、踵落としで男の体を強かに床に叩きつけたのだ。



…再び裏道を静寂が支配した。武内は二人を左右に抱えたまま表通りに向かう。


「…終わりました。もう目を開けて良いですよ?」


「んん…って、武内クンここもう表通りじゃない!?」


「皆見てて恥ずかしいよ…いいから、下ろしてー!」


「駄目です。足を怪我しているでしょう?このままお家まで送らせて下さい」


ジタバタと抵抗するも、しっかり支える武内の手は外せない。


「…あれえ?お兄ちゃん、泣いてたの?」


「え?いや…みりあさんからお借りした本を読んで」


「えー?ププッ…武内クン、大人なのにー?」


「嬉しいな!また良い本貸してあげるね!」


「はい。お願いします」


「ブーッ…私も武内クンに本貸してあげる!カブトムシ図鑑」


「…私もカブトムシ、好きですよ…」


早々に抵抗を諦めた二人は、武内の視線の風景を楽しみつつ、他愛も無い会話に興じていくのだった…。



【アバンパート 終了】

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--346プロダクション CPルーム内(別名:武内Pオフィス)




CP 「「「・・・・・・」」」


CP 「「「・・・・・・」」」


CP 「「「・・・・・・」」」


CP 「「「・・・・・・」」」


CP 「「「・・・・・・」」」



李衣菜「…(あ、アバン終了で止めて、電気点けて正解だよね?ね!)」アセアセアセアセ


未央 「…(せ、正解正解!…李衣菜ちゃんグッジョブ!!)」コクコクコクコク


みく 「…(ってゆーか…何なんコレ…何なんコレ?!)」フルフルフルフル


杏 「…(濃厚過ぎんだよ重すぎなんだよ刺激が強すぎて皆戸惑ってんじゃんまだアバンだけなんだよ?)」アタタタタタ


アーニャ 「…(…девственница…危うくミナミより先に大人の階段を登ってしまう所でした…)」サスサスサスサス


かな子「…(お、お菓子食べてなければ情報過多で即死だったよ…)」モグモグモグモグ


美波 「…ハッ!あ、危なかった…こ、この程度のエロ話など、だ、大学生で大人なわ、私には効きませんけど、それが何か?」ハアハアハアハア


杏 「ダメージ、受けまくりじゃん…第一、エロ話じゃないし」


未央 「…み、みなみんと杏ちゃんの意識が帰ってきてくれたのは行幸だったよ…正直、総合司会じゃなかったら、わ、私もまだ意識飛ばしてたいもん…」


杏 「み、未央ちゃん、どうする?取り合えずアイドリング的に、杏が武Pと無関係な話から解説していこうか?」


未央 「お、お願い…皆が混乱から戻ってきたら、改めて何だかよく分からないこのダメージの原因を追求しておこう…今後のためにも」


美波 「…いきなり一人で見なくて良かった…珍しく参加率100%だった要因の1つは、皆、無意識にこうなる可能性を怖れていたからなんだわ…」


未央 「武P成分過剰摂取による、心のオーバーヒート対策ね…じゃ、じゃじゃじゃじゃあ、杏ちゃん?早速だけど、始めようか」


杏 「オッケー。…OP削除した分を、全て掴みのアバンに割り振ってきてたよね?」


未央 「確かに、30分番組にしては長かった気がしたよ。その心は?」


杏 「マスク・ド・ライバー最初のクライマックスは、何といっても初変身シーンなんだ。ここで最大のインパクトを与えるために、変身後の姿が映っちゃうOPをあえてカットした」


凜 「…ハッ!いけないいけない。最初からクライマックスだったよ…」フゥ


卯月 「…ハッ!私、参上!」バッ


未央 「おかえり、しぶりん。しまむー」


杏 「OPが間に合わなかったんじゃないか、って意地悪な見方もあるんだけどね?特撮は画面効果にどうしても時間がかかるし」


未央 「番組構成まで演出として捉えてるんだね?」


杏 「そう。恐らくアバンとAパート間にCMとして入るのは、無難なマックのハッピーセット等のファミリー向けと…前作ド・ライバー商品関連のみと見た!」


未央 「そこまで徹底するんだ?関係各位への連絡と調整考えるだけでゾッとするよ…」


杏 「そう…1つの番組にはご存じの通り様々な人、企業が参加する。自身と他社の利害関係が複雑に交差する、いわば魔窟!」


蘭子 「…ハッ!深淵からの呼び声!?」


アーニャ 「Добро пожаловать、ルァンコ」


杏 「たった一回きりの放送のために、見たいCMが入り、予告テロップも粋、提供場面でのお遊びまで楽しませる番組は、良いスタッフにより良い連携が出来ている証拠なんだ!」


きらり「…ハッ!何だか杏ちゃんらしくない事を言ってる気がする…大丈夫かにぃ?」


杏 「起きて早々失礼な。ついでに智絵里ちゃんも起こしてあげてくれる?」


きらり「了解だにぃ。智絵里ちゃーん?しっかりー!」


智絵里「…ハッ!あともう少しでウサミン星のうさぎさんに会えるとこでした!」


杏 「智絵里ちゃん?…それは、夢だ。夢からはいつか、覚めなきゃいけないんだよ…」


美波 「…でも、そういうスタッフロールに乗らない無名の協力者の皆さんの存在を、私達は忘れてはいけないわね」


未央 「まとめも入った所でこの話題は止めて…杏ちゃん、他に何かある?」


杏 「あーこれは個人的に聞きたかった事なんだけど…そういえば莉嘉ちゃんとみりあちゃんは?」


莉嘉 「…」カオマッカ


みりあ「…」カオマッカ


未央 「意識が飛んでた訳じゃ無いみたいだけど…どったの?」


莉嘉 「さ、撮影の時は気にならなかったんだけど…」


みりあ「いざ見てみると…あ、あんなにくっついてたんだなあ…って」


莉嘉 「…あーもうっ!私どうしちゃったんだろー?」


みりあ「あ…熱いの、止まんないよー!」



CP 「「「あー…(目覚めちゃったかあ…)」」」



杏 「ま、まあいいや。二人とも、このアバンで武Pと一緒に撮影したパートはどこまで?」


みりあ「?何言ってるの杏ちゃん?」


莉嘉 「やだなあ、杏ちゃん。これ全部私達だよ」


杏 「はぁ?!仮にも素人とアイドルだよ?こんな危険な身を張るアクションは、普通代役かスタント雇うものなの!」


みりあ「え…武P自身がド・ライバーもやるんじゃないの?」


未央 「いや流石にそれは無い」


莉嘉 「でも武Pクン、アクションシーンはほとんど一発オッケーだったよ?スゴいよね!」ポヤポヤ


みりあ「ね!…カッコ良かったなー…ちゃんと私達を守りながら気をつけてくれて…」ポヤポヤ


美波 「…これ絶対武道やってるわよね…体つきを見たときからそうじゃないかと思ってたけど…」ブツブツ


アーニャ 「похотливый…さらっとトンデモ情報を紛れ込ませないで下さい」


杏 「マジでか…ま、とにかく貴重な情報をありがとう」


凜 「…(う、羨ましいッ!)」ギリッ


智絵里「…(わ、私も武Pに守ってほしいですッ!)」ギリッ


未央 「…自重なさいって二人とも。大人気ない…」


杏 「…あ、杏の話はこれでおしまい。それにしても…そっか。皆出演者だから、話せば自然と撮影秘話や裏話になるんだ…」


美波 「こういうお話も、一人だけで見てたら分からなかったわね…」


未央 「それじゃあ皆の意識も帰ってきた所で、みなみんの話を聞こうかな?」


美波 「…それじゃあ今後のためにも、なぜ私達に、武P成分過剰摂取による心のオーバーヒートが起きたのか…そこを解説していくね?」


未央 「うんお願い。まずは敵(?)を正確に把握しないと、覚悟も対策も出来ないからね」


美波 「二つあって、まず一番の理由は…この短いアバンの中に、武Pのグッとくるレアな表情が超・凝縮されまくっている事!」



CP 「「「そ、それだーっ!!」」」



美波 「既に永久保存確定事項!…あまりに…あまりにも良すぎるのよ!」


蘭子 「…我々と邪神との邂逅は、二つの四季を跨がるに至るが…(…私達と武Pのお付き合いは、一年以上の長きに渡りますが…)」


アーニャ 「к сожалению…彼の表情が変わるのをほとんど見たことがありません…」


李衣菜「たまに良い表情をしている時も…大体私達がどうにかなっちゃってる時ばかりだから…」


きらり「携帯で写真に残すことも出来ないにぃ…」


卯月 「今では…ホンの僅かな表情の違いを読み取り、一喜一憂している私達…」


凛 「その…私達が一年以上をかけてコツコツと積み重ねてきた武P表情の心のメモリーを…」


みく 「この番組は、たった5分のアバンで軽々と超えてしまったのにゃ!!」


美波 「もうね?初視聴者の皆さんにはね?怖い顔ながらも喜怒哀楽のある、ギャップの素敵な愛されキャラとして認識されると思うの」


智絵里「それ自体は、とても良いことだな、って。」


かな子「でも…私達だけの武Pが、普通に身近になりすぎて…」


卯月 「付き合いが長い私達だからこその、ショックですよねえ…」


杏 「こりゃよっぽどの監督かカメラマンだよ?この短期間で武Pの魅力を的確にフィルムに焼き付けるなんて…一体何者なんだ?」



???「…(フフフ…詮索は余計な課金を生みますよ?)」



未央 「笑顔・怒り顔・哀しい顔・泣き顔・真面目な顔…どれもレアだけど、特に良いこの笑顔は、コンサート後位しかお目にかかれないもん」


みりあ「未央ちゃん、それ当たりだよ!」


未央 「へ?何が?」


莉嘉 「武Pクンね?アクションは得意なんだけど、とにかく演技での表情が堅いんだって。何回も何回もやり直しで可哀想になっちゃったくらい」


みりあ「でもね?CPコンサート後に私達を出迎えた時の事を思い出しながら演技したら、自然と出来たんだって」


未央 「そ、そっか…」


蘭子 「…(な、何だかよく分からないけど、何か悔しいです!)」ヌヌヌ


卯月 「…(笑顔といえば私、島村 卯月!私にも…私だけに、微笑んでほしい位なのに!)」ヌヌヌ


杏 「こらこら。仕事。演技。ドラマだから」


美波 「…そ、それじゃあ気を取り直して、次に行くね?二番目の理由は…苗字ではなく名前呼びな事!」



CP 「「「それもだっ!!!」」」



未央 「一度言葉使いをくだけさせようとしたものの、見事に立ち消えちゃったからねえ…」


杏 「フッフッフー。でも皆、これに関しては安心だ!今回のお仕事では、嫌でも名前呼びせざるを得ない!なぜなら…」


CP 「「「登場人物表記が名前だから!」」」


莉嘉 「でも皆、気をつけてね?…本読みやリハで何回か呼んでもらって、大分慣れたと思ってても…」


みりあ「いざ本番になって、武Pの必死な声で名前を呼ばれちゃうと…一瞬頭の中が真っ白になっちゃうんだから!」



CP 「「「…確かに!!!」」」



未央 「その危険性、分かるかも…あの低音ボイスで責められると、何かゾクゾクするというか…」ポヤポヤ


美波 「…どんな無茶なお願いでも、聞いてあげたくなっちゃうんだよね…」ポヤポヤ


杏 「おーい…帰ってこーい。」


美波 「ハッ!…そ、そうよね?ごめんなさい、取り乱しちゃって…」


未央 「と、とにかく、これで武P成分過剰摂取による、心のオーバーヒートの原因は明確化したわけだ」


杏 「そろそろ鑑賞会の再開といこうか。李衣菜ちゃん?」


李衣菜「オッケー。…それじゃあ皆、また部屋の電気消したら再生するよー?」



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【マスク・ド・ライバーP 第1話~Aパート】




時は20X5年。


一見平和な日本では、何度めかのアイドル戦国時代を迎えていた。


華やかなアイドル業界を光とするなら、やはりそれに寄り添うような影もまた存在する。


「F.I.P.」(通称:フィップ)と呼ばれる謎の組織により、有名無名なアイドル達が連れ去られるという事件が後を絶たなくなったのだ。


警察をも超える武力を持つと噂される彼らだが、未だその正体はおろか、足取りすら掴む事すら出来ない。


一種のテロリスト並の危険性と、証拠1つ残さぬ隠密性…。更には、一般人には手を出さないという暗黙の了解が、警察の捜査の手を鈍らせている事は、誰の目にも明らかだった。


アイドルを抱える芸能プロダクション各社は、自衛のための対策を余儀無くされる。


アイドルに最も身近な、アイドルを最もよく知る担当「プロデューサー」に特殊装備を施し、身辺警護を行わせるようになったのだ。


アイドルという歌姫を護るべく、命を懸けて身も心も捧げる、現代に甦った武装騎士。

いつしか人は彼らをこう呼ぶようになった…



「マスク・ド・ライバー P」(タイトルロゴ)



初夏の日差しも眩しいお昼時、一人のスーツ姿のサラリーマンが足早に道を進んでいる。


サラリーマンとはいえ、その容姿は世間の常識から見れば規格外の何者でも無い。

180を越える長身。鍛え抜かれたその肉体は、無難な背広越しにもその存在感を際立たせている。


そして何よりも特徴的なのは、清潔にまとめられた髪の下の面構えだ。


目の座った三白眼、薄い唇、通った鼻筋。

人の情けを全く感じさせないそれは、暴力を生業とする者を想像させる。


だが、彼を知る者達はその第一印象を一笑に伏す。現に今、彼はすれ違う人々から囁くような笑顔を引き出していた。


なぜなら、彼が立ち止まった場所は、巨漢に似合わぬハピハピでウキャー!な、明らかに若い女性向けの喫茶店だったからだ。


「喫茶&軽食 凸レーション」と書かれた店の前で、可愛らしくデコレートされた「本日のお勧めランチ」が表記された黒板メニューを眺めながら、彼は一人ごちる。


「…プチトマトとオリーブオイルの冷製カペリーニ、ですか。いつもはきらりんの手ごねハンバーグですが…今日は、あなたに決めました」


折り目のついたハンカチで汗を拭いながら、小さくガッツポーズをとるこの青年…「パワー オブ スマイル」を座右の銘に、日々人々の笑顔のために戦う男。


その名は武内、20代半ば。大手芸能プロダクション346に属するれっきとした…アイドルプロデューサーである。



ふと道の向こう側を見やると、武Pを見てクスクスと笑う一人の少女と目があった。


黒と紫のゴスロリが似合う銀髪の少女は、小さな黒い日傘をクルクルと回しながらおどけたように一礼し、脇道へと曲がっていく。


瞬間、武Pの脳裏に明確な映像が浮かび上がる。


彼を知る者達が「武Pビジョン」と半ば呆れながら呼ぶそれは、アイドル達の個性を確実に引き出すが故、実行せずにはいられない武P最大の行動力の源だった。


「…(最新のアイドル年鑑では見なかった顔ですが…既に自分のファッション・スタイルを確立しつつあるようです。あの無邪気さは女性をも魅了する可能性がありますね…手作り洋物アクセサリー等の紹介番組なんかはどうでしょうか?指の絆創膏の数を見るに、物作りが好きでもあまり器用では無いように見受けられます。それ故完成の暁には、一生懸命な姿と笑顔が視聴者を魅了するに違いありません…)」



…Pチャン?武Pチャンってば!」


「は、ハイッ?!」


自身を呼ぶ声にハッと我に帰る武P。


目の前では、鮮やかなオレンジ色のウェイトレス姿に身を包んだ、長身の女性が彼の顔を心配そうに覗きこんでいた。


「…ま~た、私達をスカウトした時みたいになってたよぉ?お店の前だと、他のお客様が入りにくくなるからー、出来ればお店の中でしてほしいにぃ…」


「も、申し訳ありません。きらりさん…」


彼女の名はきらりと言い、喫茶店"凸レーション"の店長代理。本来の店長たる父親は現在海外に出稼ぎに出ており、妹二人とこの店を切り盛りしている。


「ん~ん!…外は暑かったでしょお?杏ちゃん達も中で待ってるよ?さ、入って入って!」


このように、武Pビジョンの難点といえば、ビジョンが見えた瞬間にあらゆるものが見えなくなる事。彼は首の後ろを撫でながら、大きな体を縮こませるようにドアをくぐった。



軽やかなドアベルの音を聞きつけ、リスのように出迎えるのは、きらりと同じデザインながらピンク・イエローと各々色の異なるウェイトレス姿をした小さな二人組。


「いらっしゃいませー…あ、武内クンだー!」


「お兄ちゃん、昨日はどうもありがとう!」


「二人とも、足の具合は良いみたいですね…安心しました」


彼が助けた二人…莉嘉とみりあは、きらりとの三姉妹。知り合ったきっかけは、この店に来た瞬間やはり彼が「ティン!」と来てスカウトした事から。


凸レーション維持のため丁重にお断りされたものの「346から近い事」「小さいながらも個室がある事」から足しげく武Pが通い、今ではすっかり346アイドルの憩いの場兼打合せ場所として定着していた。


無論、三姉妹と店自体の可愛さ、お茶と食事の旨さは言うまでも無い。


「皆さん、お待たせして申し訳ありません。本日もよろしくお願い致します」


武Pが通された個室では、3人の少女たち…"キャンディアイランド(以下 CI)"が、ランチ後のティータイムを楽しんでいた。


「むうっ…武Pさん、また新しい娘の事見てましたね?窓から丸見えだったんですから…」


「も、申し訳ありません、智絵里さん。きらりさんからも注意されました…」


小動物的な雰囲気を持つ彼女の名は"智絵里"。

普段の弱気な言動とは裏腹に、活動時には負けず嫌いの一面を見せるそのギャップを魅力とする。


「ねぇ武P?今日の撮影中止にしない?こんなに天気の良い日は、のんびり昼寝するに限るよ」


「「ナンデヤネン!?」」


何かとサボりたがる一見幼女のような出で立ちの"杏"。こう見えてアイドルとしての潜在能力は高く、ニート系という新境地を切り開きつつある。


「まあた無理を言って武Pちゃんを困らせてるぅ?イケない子には…こうだにぃ!」


「やーめーれー!」


山盛りのガーリックトーストのバケットをテーブルに置き、お気に入りの杏に抱きつくきらり。凸レーションでは既にお馴染みの光景だ。


「武Pちゃん、これ昨日のお礼。カペリーニ出来るまでの間、摘まんでほしいにぃ」


「ありがとうございます。では遠慮なく…ん?」


「…」ジーッ


物欲しそうにバケットと武Pを交互に見やるのは"かな子"。お菓子を作るのも食べるのも大好き!なポッチャリ系アイドルだ。


「…皆さんもどうぞ。でも、あまり食べ過ぎないようにしてくださいね?」


「わぁい!美味しいから大丈夫だよぉ!!」


ニート・小動物・食いしん坊と、突っ込み処満載のCIは、特にバラエティ番組において重宝され、武P自慢のユニットの1つだ。


「…では皆さん。食べながらで構いませんので、本日夕方5時から収録開始となる"346チャレンジ!"についての事前打合せを始めましょう…」



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時は少し戻り、場所が変わって…。



「F.I.P.」本拠地。


「アイドルの能力を使い、意のままに世界をコントロールする」事を目的とする、悪の秘密組織のアジトである。


346プロを初めとした各芸能プロダクションの敵の正体は、巨大なコングロマリット(複合企業)に巧妙に隠された暗部の1つに過ぎない。


その地下に設けられた巨大な部屋では…この組織の長である「女王」が、彼女の忠実な部下である「アナスタシア」との会談を行っていた。



「…我が戦闘員を、その男はたった一人…素手で、撃退したというのか?」


「Да ...恐るべき戦闘力です。調査の結果、346プロ所属のプロデューサーという事が分かりました。名を…武内」


「ただのプロデューサーでは無いな…では、ヤツこそが…?」


「Да ..."マスク・ド・ライバーP"その者か、と」


「…その戦闘員を率いていたのは?」


「Мой товарищ…"闇アイドル"からスカウト(誘拐)し、F.I.P.にてレッスン(洗脳・訓練)を施したNo. 006 "蘭子・ラビリンス"です」


"闇アイドル"とは、正規の芸能プロダクションに所属せず、アンダーグラウンドな世界でのみアイドル活動を行う者を指す。例外を除き、アイドル指数の高い素人と大差無い。


無論、正規のアイドルでは無いため、毎年発刊される"アイドル年鑑"には載っていない。


「素人同然の"アイドル指数"を強制的に高めた"試作品"が、ようやく"使える"ようになったか…レベルは?」


「уровень..38」


"アイドル指数"…"Iレベル"とも言われ、個人の持つアイドル力を大まかに数値化した物。

一般人は10前後だが、アイドルとしての潜在能力を持つ者は20を越える。


この数値は、各芸能プロの長年の経験とノウハウによる特殊訓練と実践経験により、飛躍的な向上が可能。故に門外不出の秘法となっている。


F.I.P.はこのノウハウ不足を補うべく最も直接的な方法を選択した…それが"スカウト(誘拐)"であり"レッスン(洗脳・訓練)"である。


「ほほう、中々のものだな…No. 006 "蘭子・ラビリンス"なる者を、ここへ!」


闇を切り裂き、下から上へと照らされたスポットライトの中から、黒と紫のゴスロリが似合う、一人の銀髪の少女がせり上がってくる。


「ククク…我が名は"蘭子・ラビリンス"!私の才能を見抜くとは、貴女も「瞳」の持ち主のようね…運命の扉は、今開かれたわ!(蘭子です。これからお世話になります、よろしくお願いしますね!)」


バッ!と手を振りかざし高らかに宣言する彼女は、その余りに独特な中二病的立ち振舞いにより、闇アイドルとしては異例の人気を誇っていた。


高揚剤と洗脳剤が効いている事を見てとり、その"仕上がり"に満足した女王は、アナスタシアを促し、蘭子に語りかける。


「君の事はアナスタシアより良く報告を受けている…よろしい。ならば"オファー(命令)"だ!」


アナスタシアの手によって、"スター"が施された武骨なチョーカー…いや、首輪が彼女の細い首に巻かれる。


"スター"とは、芸能プロダクションからアイドルとして認められた一種の証明として手渡されるもので、"アイドルの個性"に応じ様々な"特殊能力"を発現させる"媒体"の総称だ。


"スター"によって発現する"特殊能力"は、主にファンを魅了するために使われるのだが、もしもの時のためアイドル自身の身を守る"護身力"としてもその効果を発揮する。


F.I.P.は、そのアイドルの力を"兵力"として利用していたのだ!


「…君のファン(戦闘員)を打ち破った、346プロの武内プロデューサー…いや、"マスク・ド・ライバーP"を、生死を問わず確保せよ!」


「おお…ブラックエンプレスよ、これは堕天使の証?…感謝する!運命の扉は、今開かれた!(黒い女王様?…ありがとう!これが夢にまで見た"アイドルの証"なんですね!)」


F.I.P.は、多数のアイドル&アイドル候補を誘拐することで、この"スター"の大量保有に成功していた。


「君自身の"闇アイドル"としての輝きその物が、奴を誘い出す格好の呼び水となるであろう。そして、任務成功の暁には…」


「Да ...私とユニットを組みましょう…」


銀髪の少女は満面の笑みを浮かべ、アナスタシアに力強く答えた。


「堕天使の衣を得て…いよいよ飛翔のとき!(頑張ります!)」



蘭子を見送り、部屋を退出しようとしたアナスタシア。だが、女王はそれを遮った。


「…貴女も現地に向かいなさい。そして、マスク・ド・ライバーPの実力を見定め、私に報告する事」


「?!…сотрудничество…せめて、ルァンコとの共闘をお認め下さいませんか?」


「ならぬ。…君は、私自らが選び出した"特別な存在"…マスク・ド・ライバーの力は未知数だ。故に"試作品"を使うのだ。理由は…分かるな?」


「…Да…」



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打合せを30分程で済ませ、凸レーションを出る頃には、もはや真夏日とも言える程の熱気が辺りに充満していた。


収録先へ向かうには少々早い時間ではあったが、余裕のあるスケジュール進行は、アイドルのパフォーマンス発揮を促す。


社用車を持ち出すか、タクシーを呼ぶか…辺りを見回しながら移動方法を模索していた武Pの目に、先程の銀髪のゴスロリ少女の姿が映る。


意味ありげな視線と微笑を明らかに武Pに向けながら、彼女は数人の取り巻き達と共に視線から消えた。


手早くタクシーを呼び止めた武Pは、やや多めの金と行先のメモをCIに渡しながら、申し訳なさそうに声をかける。


「…申し訳ありませんが、先に収録先に向かってもらえますか?後で必ず合流しますので…あ、領収書は彼女達に渡しておいて下さい」


道路の空き具合の絶妙なタイミングで武Pが発進を促し、スムーズにタクシーが動き出す。


「へ?あ、ちょっ…んもうっ!」


「せっかく、今日一日一緒にいる権利を卯月ちゃん達から勝ち取ったのに…」


「今に始まった事じゃないでしょ?ああなっちゃった武Pは、もう誰にも止めらんないよ」


咄嗟の武Pの行動…特に、魅力的な人物に対しての"スカウト"活動に関しては、今に始まった事では無いらしい。呆れ半ば寂しさ半ばで、CIは武Pへの愚痴を溢しあう。


「私達だけでもこう手に余ってるってのに、どーして後先考えないで行動しちゃうかなー…」


「面倒見が良くて優しいのが武Pの良いとこなんだけど…あえて自分から悪い方向に行くよね?」


「私も似たようなものだから余り強くは言えないんだけど…あーもう!卯月ちゃん達に言いつけちゃおう」


「今ちょうどミニライブ終わって、これから握手会だっけ?確か大坂」


「"武Pさん、"いつもの"発動。権利は次回に持ち越しで"…っと」


「しっかりしてるなぁ…あれ?もう返信来たの?握手会中なのに!」


「"ランチ一緒でしたよね?当然勝負は仕切り直しです"だって…やっぱダメかあ」


「武Pと私達の動き、逐一チェックしてるなー?…仕事中何やってんだか」


「私達も人の事言えないけどね?…あれ智絵里ちゃん、また何か卯月ちゃん達に連絡?」


「これで良し。…私達これから夜遅くまで撮影で動けなくなるでしょ?その間、武Pさんに何かあったらよろしくね?って」


「…"了解です!あと30分程で終わらせます!"…ですって」


「あいつら100人規模の握手会を約一時間で終わらせるつもりってか?…死 ね る!」


「いやあ…何せ卯月ちゃん達だもん。いきなり皆にハグして回りかねないよ」


「誰も損をしない優しい世界…?」


「アイドルとして、それはどうなんだろう?そこまでしなくても…」


「ううん。多少無理してでも、何時だって私達は武Pさんの元に駆けつけるよ?だって…私達CPは、武Pさん担当のアイドルなんだから!」



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銀髪の少女とその取り巻きの後を追い、武Pがたどり着いたのは、周りが工事用シートで覆われた鉄骨建材剥き出しの、無人のビル建設現場だった。


「確かに、貴女と二人だけで落ち着いて話をしたいと思っていましたが…あまり穏やかな場所ではありませんね」


その建設現場の中央は広く開けており、武Pはそこで数メートルの距離を置き、彼女と7人程の取り巻きと対峙する。


「我が才能の片鱗を見抜くとは、貴方も相当の瞳の持ち主…。見抜けぬ時は禁断の扉を開き、花園の華ごと業火にて焼き尽くす魂胆!(私の魅力も捨てたものではありませんね。ついてきてくれなかったら、賑やかな町中で車ごと襲うつもりでした!)」


「…それは困ります。アイドル達の安全と仕事に、支障が出てしまいますので…」


武Pの言葉の何が気に入らなかったのか、銀髪の少女はピクリとこめかみを震わせながら大上段に切り出した。


「フ、フフフ…貴様の正体は分かっておるぞ?346プロ、シンデレラプロジェクト プロデューサー 武内!」


首の後ろに手を回すのは、困った時に出る武Pの癖である。彼としては身を隠す気も逃げ回る気も一切無いのだから…銀髪の少女は、何を彼に要求しようというのか?


「しかしてその正体は…"マスク・ド・ライバー P"!今から貴様の身柄は、我が"F.I.P."管轄下に置く。神妙にお縄を頂戴するが良い!!」


動揺のためか、もはや熊本弁では無い口上を述べる少女。だか武Pが聞いていたのは、たった1つのシンプルな言葉!



「…"F.I.P."…だ、と?!」



今まで数多くのアイドルに対してF.I.P.が行ってきた非道・外道な行為の数々…自然と武Pの体は怒りに打ち震える。


アイドルの心身を侵し、傷つけるような真似をする"敵"ならば…マスク・ド・ライバーPに「変身」せざるを得ない!!


彼の「変身」プロセスは"二拝二拍手一拝"の独特なもので、その特徴は徹底的なまでの「誠心誠意」溢れる「説得」に集約される。では早速、その流れを見て頂こう。



「…始めまして。346プロ所属、CPをプロデュースしております、武内と申します。」


「?!と、唐突に何だ貴様は?き、危機的状況を理解していないとでも?(?!な、何ですかあなたは?この状況を理解していないんですか?)」


まず"二拝二拍手一拝"の、二拝の内の最初の一拝とは、社会人として当然の礼節「初対面時の挨拶」を指す。


斜め45度の会釈と共に、両手を名刺に添え、確実に相手との距離を詰め、会話ペースを物にする。


「…せめて、名刺だけでも。」


「こ、降臨の時…(は、はじめまして…)」


南無三!…げんに狼狽しながらも、蘭子の手には既に彼の名刺が握られているッ…。

これは名刺分の自己紹介を自然と強いられる武Pによる強力な呼び水!


「…ま、まあ良い。残された僅かな生の一時、貴様を地獄へと誘う者の名をしかと刻むが良い!我が名は蘭子…"蘭子・ラビリンス"!しかと覚えよ…!(…い、良いわ。僅かな時間しか会わないけど、しっかり私の名前を覚えてね?蘭子って言います…!)」


「蘭子・ラビリンスさん、ですね?」


ちなみにこのやり取りは、彼の誠心誠意溢れる志から自然と滲み出てくるものであり、ニンジャ的なものとは一切関係が無い事を明記しておく。


「蘭子さん…良い、お名前です。それに、貴女の良さを引き立たせるゴスロリ調のトータルコーディネート。お若いのに、既に唯一無二な強力な個性を発揮されています…」


「や、躍動の時はこれから…さらなる覚醒の時を待て(そ、そんな。私なんかまだまだで…もっと頑張らないと)」トゥンク…


「それで、その…蘭子さん。アイドルに、興味ありませんか?」



「…は?(…は?)」



残る二拝の残り一拝の段階で、彼は出し惜しみせず彼女自身の魅力を伝え、プロデュースを申し出る…武P伝家の宝刀「スカウト(説得)」だ!


武内Pにとって、F.I.P.所属の闇アイドルに対する見方は、大別して二つに分けられる。


1つは誘拐された他芸能事務所所属の者。この場合、速やかに相手を確保し、所属先に帰す。

そしてもう1つは、アイドルの才溢れる無所属の闇アイドルか素人…これ即ち、漏れ無く彼にとっての"スカウト対象者"となりうる。


「わ…我が心が、堕天使たちの世界の…禁断の扉を開けぬ訳など無い。戯れを言うな!我が僕よ、やれ!!(…わ、私がアイドルに興味が無い訳がありませんっ。私をバカにしてるんですね!戦闘員の皆さん、やっちゃいなさい!!)」


取り巻きの姿がデジタライズの光に包まれ、黒いライトアーマーとマスクを装着した"戦闘員"へと変わり、次々と武Pに襲いかかる!



「…闇に呑まれよ!(キーッ!)」


「やみのま!(キーッ!)」


「魂の礼拝を!(キーッ!)」


「キーッ!(キーッ!)」



ガッ…ガカッ…ビシッ…ザシュッ…ドッ…!!



「ぐうっ…ば、バカになど…っ、しては…いませんっ!わ、私は…本気で、貴女をっ!!」



"二拝二拍手一拝"の、二拍手の内の最初の一拍手とは、時と場合と空気を読まない武Pに対し、必ず襲い来る不信への対応…言わば"手痛い洗礼の儀式"!


この際、襲い来る敵からの攻撃に関しては、それすらも"メッセージ"として捉え、極力受け止め、流し、避け、反撃は決して行わない。


そして二拍手の残り一拍手が、武Pの真骨頂。

傷付きながらも尚、"武"では無く"言葉"による「熱き魂の打撃」を、夢見る少女の"心"に叩き込むのだ!


バシィ!


「ぐうっ…い、今…あなたは、楽しいですか?」


「?!」


グイッ…


「あなたは…はぁっ…はぁっ…今、夢中になれる何かを…心動かされる何かを持っていますか?」


「わ…我が禁忌に触れようというのか?!(貴方に…私の何が分かるというの?!)」


ドスッ!


「すっ!…す、少しでも…君が夢中になれる何かを探しているのなら…ガハァッ!…一度踏み込んでみませんか?」


「こ、言の葉は不得手…秘めたる真意を伝える秘術は無いものか…(言えない…アイドルに憧れながら成れず、闇アイドルに甘んじていたなど…)」


「…し、質問しても良いでしょうか…アイドルに憧れる立場から、闇アイドルに至るには…どのような経緯があったのですか?」



「?!(?!)」トゥンク…



「とても…大事な事だと思うのですが」


「…よ、よかろう!聞くがよいっ!!」


蘭子は夢中になって話をした。


一人の少女はアイドルの夢を持ち、自らを律し、鍛え、芸能界の扉を開いた。

だが彼女の不幸は、自分なりの明確な理想とビジョン…自己プロデュース能力を持っていた事だった。


個性を追求すればするほど世間と剥離し、理解者はいなくなる。

やがて彼女は表街道を歩む事を諦め、闇アイドルの道を選ぶ。


そこでの自己プロデュースは過酷を極めた。

何度も人を信じ、仲間を信じ、ファンを信じ、裏切られてきた。

絶望を抱えたまま、F.I.P.の誘いに乗り、今に至る…と。


何も多くを望んでいた訳では無い。

ただ、分かってくれようと歩み寄る優しさと、信じた道を力強く後押ししてくれる強さを持つ、たった一人の存在が欲しかっただけなのだ。


「改めて言います。少しでも君が夢中になれる何かがあるのなら……もう一度、踏み込んでみませんか?そこにはきっと、別の世界が広がっています」


いつの間にか戦闘員からの攻撃は止んでいた。彼女の心がそうさせたのだ。


「…やがて我も、真の魔王への覚醒が?(…私なんかが、またアイドルを目指しても良いのかな?)」トゥンク…


彼の"二拝二礼一拝"は、彼の望む最も理想的な形で実を結びつつあった…つまり「変身」せず、スカウトを成功させるという心の無血開城・平和的解決である。


「…もちろんです」


「我が背中に…翼を授けん?(貴方が…私を支え、夢へ導いてくれますか?)」トゥンク…


「…大丈夫。私が全ての責任をもって受け止めますから」


彼女はついに意を決して、本心を声に出す。


「わ、私!貴方となら…F.I.P.を抜けてアイドルに…!」



Prrrrr… Prrrrr… Prrrrr…



ふと鳴り響く武内Pの携帯音。

これは、緊急連絡用の物だ。


「失礼…至急の件なようです。少しお待ち下さい」


「…あ、うん。」


思わず素で返してしまう蘭子。


武Pからの熱き"スカウト"により、今の蘭子は一時的ながらF.I.P.の洗脳から解放され、素の人間性が露になっている。


何しろ訓練生の時も、裏アイドルの時も、F.I.P.でさえ…アナスタシア以外は、彼女の話すら聞いてくれなかったのだ。


そんな溜まりに溜まった鬱憤を全て武Pにぶつけた結果、彼は解決策まで提示してくれた。今や彼女の信頼度は、最高潮にまで達していたのだ。が…



「はい、武内です…凛さん?!今は大阪でのサイン会のはずでは?」


〈もう終わった!それよりも何、このバイタル数値は?またこんなダメージ受けて!!〉


「ううっ…我が贖罪…謝罪を…(ううっ…私のせいで…ごめんなさい…)」


「あ、いえ、問題ありません。慣れていますから…それにしても、サイン会はあと一時間は行う予定でしたよね?」


〈それが、智絵里ちゃんからの連絡で、凛ちゃん急にやる気出しちゃって!〉


〈しぶりんが、並んでる人に連続でハグし始めた時はどうしようかと思ったよ…あ、始めましてらんらん!話は聞かせてもらったよん〉


「んなっ…い、何時の間に?らんらん?!(なっ…話聞かれてたんですか?それに、らんらんって私の事ですか?)」


「ハァ…卯月さんも未央さんも、凛さんに便乗せず止めてあげて下さい…」


武Pの携帯に、大阪から緊急連絡をしてきたのは、クール属性の王道を行く"凛"、最高級の笑顔を持つキュート属性"卯月"、パッション属性を絵にかいたような"未央"の三人組だ。


「それに、仕事中の他人のバイタルチェックは禁止されているはずですが?」


〈仕事中は見てませんーちゃんと休憩中と仕事終わってから見てましたー!〉


〈凛ちゃん、武Pさんの前だと子供みたいです〉


〈しぶりん、大人気ねえー!〉


「し、深淵からの…(あ、あの…)」


「皆さんが気にされる程の怪我ではありません」


〈そういう事を言う前に怪我するなって言ってるの!〉


師から徹底的なまで「肉を切らせて骨を断つ」闘い方を叩き込まれている彼にとって、戦いに影響が出ない程度のダメージは前提事項。


そんな彼から言わせれば、所有義務のある"バイタルチェックメーター"は、ダメージ表示が大げさ過ぎるのだ。


「た、魂の礼拝を…?(も、もしもし…?)」


〈治療しに来た智絵里ちゃんが、あまりの凄惨さにそのまま卒倒して倒れちゃった時の事、もう忘れちゃったの?!」


〈あのですね?何度も言いますが、私達は武Pさんを心配して…〉


「こ…これは如何なる事…?(な…なんなのなの?)」


何故そこまで?という程に、彼は相手の思いを真正面から受け止める…自ら傷付く事をまるで厭わず。CPメンバーはそんな彼の姿が痛々しくて、とても見ていられないのだ。


「はあ…困った人たちですね。どれだけプロデューサーに過保護なアイドルなんですか…」


〈あんたに言われたくないよ!〉


〈武Pさんよく言いますね?!〉


〈どの口がそれを言うんだ?!〉



「…!(…何か、ずるい!…)」



アイドルと連絡を取り合う彼の姿は、信頼関係に裏打ちされた"仲良しの喧嘩"であり、彼女が望んでやまなかった関係その物だ。


だが今の彼女にとっては"当て擦り"にしか見えず、正直ムクレていた。そんな時、戦闘員の一人が蘭子に近付き囁く。


「…騙されてはなりません。奴は所詮、彼女達のプロデューサー。甘言をもって蘭子様を籠絡した後、F.I.P.の情報のみ引き出し打ち捨てるに違いなく。…正に、今のように」


「そ、それは真か?!(そ、そんなあ?!)」


「奴が"変身"する前に捕獲するよう我等にお命じ下さい…確実な確保のため"あの形態"となって!」


「あの…忌まわしき姿に、か…(あ…あの形態になるのは、嫌だなあ…)」


…この時点で、彼女は気付くべきだった。彼女の取り巻き=戦闘員は"熊本弁"の使用が暗黙のルール。


にも関わらず、この戦闘員"だけ"は使用していない事を…だが彼女の心は今混乱の極致にあり、冷静さを欠いていた!


「…(…)」


〈…あれ?何か蘭子が異様に静かなんだけど?〉


〈しまった。つい夢中になって、蘭子ちゃんの事を忘れてました!〉


〈ご、ごめんねーらんらん。しぶりんみたいに、ヘソ曲げたりしてないよね?〉


〈待ちなよ。〉


「…ふう。蘭子さん、失礼しました。…では、改めて貴女の考えをお聞かせ下さい…?ら、蘭子…さん?」


会話を強引に一区切りつけた彼は、"二拝二礼一拝"の内の"最後の一拝"…「スカウト再押し」を試みる。期は充分に充ちていたはずだった。


だが彼は読み違いに気が付いていない…とっくにその期を逃している事を!



「ぐ…グリモワールの風ッ!(ば…バカーッ!)」


…ブゥオウッ…ドカッ!!



蘭子の周辺を風が舞い、前に突き出した左手の平に集約し渦となる。その渦は彼女の感情ままに武Pを襲い、彼を向かいの壁に叩きつけた。


「ぐうっ!…ら、蘭子さん?一体どうしたと…?」


「怒ってるの!もう、知らないっ!!」


〈あー…これは…〉


〈悪いことしちゃいましたかね…〉


〈無視した訳じゃないんだけどなあ…完全にヘソ曲げちゃったね、らんらん〉


「ムゥ…や、止め!(むぅ…す、ストップです!)」


攻撃を一旦止め、蘭子は考える…戦闘員からの"提言"は確かに聞くべき処がある、それでも…彼女は武Pの"説得"を信じたかった。


だから、彼が本当に彼女の心を理解してくれているのか…一度だけ、確認してみようと思ったのだ。


「…よもや、降誕の時を前に瞳の力を曇らせるとは…我が何故激怒したか、理解出来るか?(…まさか、スカウト成立直前にこんな事になるなんて…何で私が怒ってるか、分かりますか?)」



「いえ。…実は全く思い当たる節がなく、少々戸惑っております…」



〈…う、わ。〉


〈あっちゃー…〉


〈最悪だ…!〉



彼唯一の欠点として、最大の特徴の1つに「乙女心に対して全くKYな処」があげられる。


CP程の長い付き合いともなれば、それは大層イジリ甲斐のある最高の玩具となるのだが…初対面の少女にとっては唯の嫌がらせと取られかねない。現に今がそうだった。



「…やれ。(…やっちゃって下さい、戦闘員の皆さん。)」



ガッ…ガカッ…ビシッ…ザシュッ…ドッ…!!



「…闇に呑まれよ!(キーッ!)」


「やみのま!(キーッ!)」


「魂の礼拝を!(キーッ!)」


「キーッ!(キーッ!)」



「ら、蘭子さん?ぐ、ぐわあぁっ?!」



〈…こうなるともう説得は無理だね。ガツンと行った方が早いってば〉


〈ああっ…武Pさんのバイタル数値が面白いように減っていきます!〉


〈しぶりん、どこまで武Pが他の女の子に優しくするの嫌うのさ…。それにしまむーは楽しまない〉



「はあっ、はあっ…ま、待ってください!こ、これは…F.I.P.の仕業!!」



〈一応、聞いとこっか〉


「…ヤツラによる洗脳のせいで、彼女の精神が極めて安定性を欠く事に起因しているのに違いありません!…何と悪辣な酷いことを!!」


〈洗脳はされていると思うけど、今のは武Pさんの対応が悪いと思います〉


〈何で、ただひたすら謝る選択肢が無いのさ…女の子が怒るのは、理屈じゃないんだよ?〉


〈未央?どうせ言っても分からないだろうし、この際武Pが納得してるのならもう結構だよ〉


「バカバカバカバカ!もーとっととやられちゃえばいいんだ!…出でよ、我が僕の集約し偶像よッ!!」



…ズ ズ ズ ズ ズ …!



「…ムゥ、これはいけませんっ!」


F.I.P.は、アイドル毎の"プロデューサーシステム"を採用していない。その代わりの方法として、"スター"を媒体とし、アイドルが"自身のファン"を自在に操る技術を独自に開発していた。


まず第一に"F.I.P戦闘員"とする事。第二は、その"戦闘員"をデジタライズした上で寄せ集め、3m程の巨人戦闘員"ゴーレム"とする事。


蘭子は4人の戦闘員(ファン)をデジタライズした上で寄せ集め、ゴーレムを産み出したのだ!


「フフフ…見るがよい!我が悪魔の力を纏いし巨人…爆・誕!!(フフフ…見なさい!私のアイドル力を結集したゴーレムを!!)」


…だがこれは、蘭子の精神力・体力・アイドル力をフルに使う"諸刃の剣"でもあった。


ゴーレムを自在に操るためには、ファン=戦闘員達と彼女の肉体と精神を共有化する事が必要となる。


だが、ファンを装いながら、金や性等"下種(ゲス)"な欲望を満たすためだけに近づく"練度"も"志"も低い「輩(やから)」も存在する。


この場合、"輩"との心と肉体を混じり会わせるかのようなその行為は、年端も行かぬ少女にとって絶望的な苦痛と不快感を伴うのだ。


…既に、懸命なる皆様ならお気づきだろう。戦闘員の中でただ一人熊本弁を用いない"輩"がいる事を…!!


〈?!武Pのバイタル数値が…〉


〈このままじゃ、治療が遅くなる上に、怪我が酷くなる一方です!〉


〈…という事だから、さっさと"変身"して、私達を"召還"してよ!〉


「むう…致し方、ありっ…ませんね!…ですが…これは…ッ!」



ドガッ!…ガスッ!…ズドンッ!



ゴーレムの武Pへの攻撃が止まらない!



「…グォオォゥッ…!!」



武Pは異常を感じていた。本来ゴーレムは使用する裏アイドルの命令を忠実に実行するもの。

そこには"アイドルのために何かをしてあげたい"というファンの基本的な総意があり、それ故"ゴーレム自体に意思は無い"はずなのだ!



「…プ、ロ…デュ…ナド…イラ、ヌ!」



だがこのゴーレムは明らかに意思表示…言葉を話している。話したとしても、総意として訓練されたコール、唸り声位のものなのに、だ。


「…!蘭子さんは?!」


「くっ…制御が効かぬ!…力が乱れる?!(や、止めなさい!…もう止めてよう?!)」


「…やはり、こうなりましたか…!」


彼の最も恐れていた事…それは、心無い僅かな"輩"により、ファン全体が暴走…即ち"炎上"する事。


そして、それを見たアイドルの心身を食い付くし、更なる混乱を巻き起こす負のスパイラル!


F.I.P.はこのシステムの持つ根本的欠陥を伏せたまま、裏アイドルにスターを渡し使用させていたのだ!


「…しゃ、灼熱の業火が…我が身を、焦がす…(…み、皆どうしちゃったの…苦しい、気持ち悪い、辛いよ…)』


思わずその場でヘタリ込む蘭子。"輩"は、虎視眈々とこの時を狙っていた。己のゲスな欲望を充たすためだけに、蘭子のアイドル力を一方的に吸い込み、ゴーレムが暴走を始める!



「ぐへへ…ラ、蘭子チャアン?…コ、コイツヲ倒シタ、ラ…俺ラノモノ、に!」



グォオォゥッ…ガシィッ!!!



ゴーレム渾身の一撃が武Pを襲う!…が、武Pはその攻撃を、何と"生身"で受け止めた!!



「…ゆる…せません…ッ…」



グ、グ、グ、グ、グ…



「いっ…一プロデューサーとして…アイドルを傷つけるファンにあるまじきその行為、最早許す事は出来ません!!」



ズ … ゥオウ・ッ ! !!



武Pを中心に、気合の圧が同心円状に風を巻き起こす。その圧力に、思わずゴーレムも慄く。


その圧に飛ばされそうになりながらも、ファンに裏切られた憐れな少女は、問い質さずにはいられない。


「だ、だか我は…堕天使たる盟約を、まだ果たしておらぬ…(で…でも私は…貴方のアイドルでは…)」



「でも、も何、もありませんっ!」



「!?」



「私はアイドルプロデューサー…担当アイドルの前に、アイドルを夢見るたった一人の少女の味方です!!」



「…~ッ!!」



ズッギュウウゥンッ!!!


その時、蘭子の中で、洗脳で懲り固まったF.I.P.への忠誠心と、ささやかな嫉妬心が音を立てて貫破された!



…ギン・ッ!



普段は抑えている鋭い眼光を、今や抑える事無くゴーレムに射込み上げ、一息つき精神集中。迷い無くモーションに入り、空気を切り裂くように片手を振り払い、武Pが一喝する!



「 …変、身 ッ ! ! 」



…キュイイッ…ン ッ !!



ベルトが発光・回転し、周辺にデジタライズによる光と煙が充満する。シルエット状に浮かび上がる武Pの姿が、除々に変化を遂げていく。



「…城を目指す少女は、何かを願うものです。」


唐突に語りだす武P。そのシルエットは、既に彼のそれでは無くなっている。


「想いの形は、それぞれに違う。その全てが、星のように大切な輝きだと、私は思います。」


「闘いへの序章詩(カウントダウンバトルポエム)」とも呼ばれるそれは、敵への刑執行を伝える狼煙…熱い鉄拳制裁により、奴等に反省を促す。


「部署という枠にとらわれていては見つけられなかった可能性を、彼女は私に指し示してくれました。」


次第に光と煙が集束していく。姿を現すのは、背広の意匠をあしらった鈍紫光を放つ漆黒の甲冑!


「一番大切なのは、彼女達が"笑顔"であるかどうか…それが私のプロデュースです。」


グオンッ…!


鋭い目と体を走るラインに、ライムグリーンの光が鈍く浮かび上がる。


アイドルという歌姫を護るべく、命を懸けて身も心も捧げる、現代に甦った武装騎士。 その名は…!



「…マスク・ド・ライバー P …只今、参りました。」



「グォオォゥッ!!」



ゴーレムの唸り声を合図として突如、ゴーレム化から洩れた戦闘員ら三人がド・ライバーを襲う!


「ぐへへ…ら、蘭子ちゃあん!」


「僕たちずっと一緒だよう!」


「へへ…こ、この後楽しみにしててねえ!」


ゴーレム内の"輩"の影響を受け、やはり暴走している戦闘員の動きは、統率を失った事によって予測不能なものとなっている。だが…



…ガッ・ゴッ・ドッ!!


…ドサァッ…



頭突・裏拳・膝蹴を一切無駄の無い流れるような一閃で叩き込まれ、地にひれ伏す戦闘員達。



スチャッ…シャコゥッ、スパッ!



そのままベルト脇左右にセットされている"名刺ホルダー"から武P名義の"名刺カード"を取り出し、片手四枚ずつ時間差で二閃、下から横へのモーションでゴーレムの胸元に叩き込む!



…ヒュ・シュウッ…ズガガガガガガガッ!!!



「グォオォゥッ?!」



深々と突き刺さった八枚もの"名刺"に狼狽するゴーレム。だが、まだ終わりでは無い。

ド・ライバー=武Pの声紋と登録された言葉に反応し、名刺カードは様々な効果をもたらす。



「…せめて、名刺だけでも。」


ズバババババババンッ!!


「ガアアアアッ?!」



ド・ライバーの一言で、"手裏剣爆弾"化した名刺カードが連続爆発を起こす!


「…グアッ?!」


…連続爆破の煙に紛れ、ド・ライバーの姿が見当たらない。慌てて辺りを見回す…ふとゾクッとするような圧力を感じ、ゴーレムは斜め上方を見やる!


「!!」


ゴーレムは驚愕する。遥か上方約10mの高さにそびえ立つ鉄骨の"横"に、三角飛びの要領で"張り付き"、今まさに飛び掛からんとするド・ライバーの姿を見出だしたからだ!



…ヒュッ……ド・ンッ!!!!



声を上げる間も無く衝撃を受け、意識を失う直前にゴーレムが見たものは…自身の腹に空いた貫通穴!


…ズザーーーッ…!!


貫通したままの勢いで、膝立ち状態のスライディングで"着陸"するド・ライバー。数メートル程進んでようやく止まった彼は、ただ一言を呟いた。


「…ド・ライバー、キック。」



フッ…と力無く倒れ込もうとする蘭子の体を、しっかり抱き止める。

アイドル力を吸い上げていたゴーレムとのリンクが強制的に切れ、緊張と体力も切れたのだ。


「…ゴーレムへのダメージが蘭子さんにフィードバックされないかが唯一の懸念事項でしたが…勝負を一瞬で決めたのが、効を奏しましたね」


ホッと一息つくド・ライバー=武P…たが、そこに!



「…Р а н к о ! ! !」



…ヒュ…ド・カ カ カッ!!!



ド・ライバーと蘭子の周辺に、氷の柱が突き刺さる!!


とっさに蘭子を庇い、氷柱の攻撃をやり過ごすマスク・ド・ライバーP。攻撃方向を見やると、そこには!



「…!」



鉄骨の上から、F.I.P.の"アナスタシア・ブリザード"が、冷たく紅い瞳を光らせ彼を見下ろしていた…。



【Aパート 終了】

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--346プロダクション CPルーム内(別名:武内Pオフィス)



凛 「…ああ。こうやって私達出てくるんだ」


卯月 「なるほどなるほどー。それでああ繋がる、と…」


未央 「これアフレコのみだったから、正直物語のどの辺りだったのか把握しきれなかったよ…何かしぶりんが、複雑な顔してるけど…?」


卯月 「武Pさんの、凛ちゃん口説き文句が採用されちゃったから…ね?」


未央 「…ああ!嬉しいやら恥ずかしいやら、大切な想い出だから他人に触れられたくなかったやら…アイテテ!しぶりんギブギブ!!」


凛 「やめなよ、未央。」


李衣菜「武Pショックは、皆大分克服できたみたい。それにしても…結構えげつないRockな話だね?こうして通しで見てみると」


杏 「作り物というチープさを逆手にとって、日常ドラマでは扱えないハードなネタをぶちこんでくるからね。原作からしてそうだったから」


みく 「韓流ドラマとかのノリが好きな人にはいいかもにゃ。空想前提の世界観の中で、必死なキャラクターのリアクション、ドラマを楽しむみたいな」


杏 「それはともかくさ…今回の仕事はネタバレ防止が徹底し過ぎてて全容がはっきりしないんだよー」


智絵里「私達に渡されたシナリオは、登場シーンの前後だけでした…あと大まかな初期設定くらい、かな?」


かな子「ドッキリ企画に印象は近いかなー…シナリオがギリギリで間に合わなかった線はないかな?」


杏 「ないねー。明らかに情報制限に意図を感じるよ…逆に現場スタッフの負担が心配になる位」


美波 「まあ最初のうちだけだと思うわよ?三話くらいから敵の動きも本格化してくるみたいだし…」


アーニャ 「Почему нет?…何故ミィナミ知ってますか?」


美波 「へへー…自分の出番が気になっちゃって、ド・ライバー関連雑誌を買い占めてきたの」


杏 「あーその手があったかー」


未央 「私も弟に買ってきてもらおうかな?ネタバレ厳禁とか言ってる場合じゃないし」


きらり「最近のマニア誌はスゴいにぃ…アイドル雑誌みたーい」


莉嘉 「あー!武Pクンのポスターだあ!」


みりあ「こっちはクリアファイルが付録についてるー!」


蘭子 「これが…我が友の心の言葉!フフ…どうやら、禁断の扉を開いたようね(あ、スゴい…武Pさんインタビューだって!ふふ…緊張してるせいか、首に手回してますよ)」


美波 「番宣用だけじゃなく各々撮りおろしがあるから、油断ならないのよねー…」


凛 「ふーん…(幼年テレビ情報誌のディスプレイくん、マニア向け特撮誌のスペースシップ、役者寄りの特撮OT、玩具情報紙誌のフィギュア姫か…年間定期購読、予約しておこう)」


みく 「それにしても、まさかアーニャちゃんが敵役で出てくるとは思わなかったにゃ」


アーニャ 「Я также…敵役なので、役作りのためにCPの皆と離れ離れで、ずっと寂しかったです…」


美波 「アーニャちゃん、頑張りました!」ナデナデ


莉嘉 「でもでも、凄くかっこよかったよ?」


アーニャ 「フフ…спасибо…ありがとう。凸レーションも、あのお店も可愛いかったですね、ミィナミ?」


きらり「アーニャちゃんも美波ちゃんも、今度一緒に行こっ?お茶もケーキも美味しいよ?」


かな子「美味しいから大丈夫だよ?」


智絵里「ナンデヤネン!」ビシッ


李衣菜「第一話は蘭子ちゃん無双だったよね?大変だったでしょ?」


蘭子 「…月は満ちて、太陽は滅ぶ。漆黒の闇夜に解き放たれし翼…」


みりあ「そっかー。撮影よりその前の訓練の方が、夜遅くまでかかって大変なんだねー」ナデナデ


蘭子 「堕天使を同胞へ導く滴り。この魂を磨き抜き、必ずや獲得してみせよう…蒼き翼を!(ううっ。アクション苦手なんです…でも頑張りました!)」


智絵里「蘭子ちゃん、偉いよ。私、同じ事やれって言われても、自信無いもの…」


かな子「今回は私達、アイドルの役で良かったね…」


杏 「さあ…それはどうかなあ?」


蘭子 「?(?)」


杏 「Bパート見てみないと何とも言えないけど、蘭子ちゃんのその後次第で、何となく私達の流れが見えるかも」



未央 「…さて、そろそろまとめに入ってCMパートに行こうと思うんだけど…他に何か言いたい事ある?」


アーニャ 「…」カオマッカ


蘭子 「…」カオマッカ


未央 「二人とも顔真っ赤だけど…どったの?」


アーニャ 「да…さ、撮影の時から気になっていたのです。が…武Pの苦しむ姿や声が…」


蘭子 「その…内なる劣情が沸き上がって…(何かこう…ゾクゾクッと来て…)」


アーニャ 「…это отвратительно!ミィナミ、私、どうしたんでしょうか?!」


蘭子 「しゃ…灼熱の太陽が、我が身を焦がす!(あ…熱いの、止まんないよー!)」


CP 「「「…!!(… わ か る わ ! !)」」」


凛 「…ようこそ、神の領域へ!(…じゃあ残していこうか、私たちの足跡!)」ファサッ


美波 「歓迎するわ…二人とも、何も恐れる事は無いのよ?」ジアイノメ


杏 「ま、まあいいや。今の段階で杏が言っておきたいのは、この後のCMの事!」


未央 「その心は?」


杏 「アバンに続けてAパートも長めにして変身シーン入れてきたよね?次に間違いなく"変身ベルトCM"入れてくるよ?賭けてもいいね!」ドヤァ


未央 「了解。みなみんは何かある?」


美波 「Aパート後半からマスク・ド・ライバーが登場してきたんだけど、中の人は武Pさんでは無く、着ぐるみ専門の役者さん…"スーツアクター"が演技を行っています」


莉嘉 「知らなかったなー」


みりあ「私もー」


美波 「スーツアクターさんが凄いのはね?動き辛く、肌も露出しない着ぐるみを着ながら…筋肉と肉体だけで、武Pさんに成りきり、ド・ライバーのアクションをこなすの」


きらり「武Pちゃん大きいから、スーツアクターさん探すのも大変だったろうにぃ…」


美波 「容姿や声にも頼れない。でも筋肉と肉体だけで雰囲気を造り出す。…俳優の凄みを実感出来るから、ぜひその点も注意して見てほしいです!」


未央 「…はい。皆さん、貴重なご意見ご感想、どうもありがとうございました!それではABパートの間のCMを見てみましょうか。李衣菜ちゃん?」


李衣菜「オッケー。…それじゃあ皆、また部屋の電気消したら再生するよー?」



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【CMパート その1】(ナレーション:武内駿輔)


何も無い真っ白な部屋を、武Pがゆっくり歩いていく。歩きながら目線を向け、語りかける。


「今…あなたは、楽しいですか?」


「あなたは今、夢中になれる何かを…」


「心動かされる何かを、持っていますか?」


部屋中央の台座に鎮座する変身ベルト。脇に立ち止まり、手慣れた作法で装着する武P。


「少しでも…君が夢中になれる何かを探しているのなら、一度踏み込んでみませんか?」


「…変身。」キュイイッ!


その場で光に包まれ、武Pがマスク・ド・ライバーPに変身を遂げる。


ヒュッ…バッ!


軽い足技を披露した後、ガシャッ…とベルトのギミックを作動させ、名刺をベルトに装填するド・ライバー。


「そこにはきっと、別の世界が広がっています」


シュイン…ッ!ストッ。

宙から出現した小さな子供用ベルトを片手で受け止め…


「…マスク・ド・ライダーP DX変身ベルトを、今…君の手に。」


小さなベルトを差し出しながら、カメラの前にしゃがんだド・ライバーが、力強く頷く。


「…良い、笑顔です。」



【CMパート その1 終了】

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--346プロダクション CPルーム内(別名:武内Pオフィス)


杏 「ほら、やっぱりここで変身ベルトCM入れてきたよ?杏大正解!」


きらり「武Pちゃん、1話の息絶え絶えだったセリフを落ち着いた良い雰囲気で言ってて、めちゃくちゃ格好良かったにぃ…」


蘭子 「フフ…秘めたる記憶が、呼び戻される…(思い出すだけで、顔が綻んできちゃうよ…)」


智絵里「格好良かったねぇ?…それにしても、子供番組のCMにしてはずいぶん大人っぽいCMだったけど…」


杏 「それはね?ベルト発売前の僅かな回にしか流れない、ネタバレ防止用の言わば"特別ver."だからなんだよ!」


美波 「ちなみに、こういう役者メインのCMや呼び掛け予告等は、肖像権やら役固めしてないからみっともないとか放映一回きりの契約だとか…」


アーニャ 「тогда…色々な理由から商品映像に未収録になる事が多いので、オンエア映像は消さずに取っておくのがマニアの嗜みなのだそうです…よ?」


未央 「そしてそして…何とスポンサー様から、マスク・ド・ライバーP 変身ベルトの試作品が届いておりまーす!」


かな子「パチパチパチー。いつもありがとうございます!スポンサー様、大好きです!」


みく 「スポンサー様へのフォローも忘れない…かな子ちゃん、成長したにゃ!」


凛 「ふうん?…ちょっと貸して見せてよ」


未央 「おや意外。まさかしぶりんから言い出すとは…ほい、皆の名刺カードも渡しとくね」



凛 「…」サッ


卯月 「凛ちゃん、迷わずその細い腰に"子供用"ベルトを巻きました」


李衣菜「皆様ご存じの通り、ベルトを巻かなくても動作確認は可能です!」



凛 「…」スッ


卯月 「数ある名刺カードの中から、武P名刺"のみ"を取り出したー…期待を裏切りません!」


李衣菜「そして…武P名刺をスラーッシュ」


ベルト「…良い、笑顔です。」タケピーイケボ


凛 「…!」…パァッ!



卯月 「…頂きました。凛ちゃん思わず良い笑顔!」


李衣菜「そして再び…武P名刺をスラーッシュ。他のアクションを試そうとさえしないっ!」


ベルト「…良い、笑顔でした。」タケピーイケボ


凛 「…!!」…パァッ!!



李衣菜「渋谷選手。ほとんど変わらない僅かな違いの名セリフに、喜びを隠しきれなーい!」


卯月 「良かった、良かったね?凛ちゃん!」


莉嘉 「あー!私も遊びたーい!」


みりあ「貸して貸してーっ?」


凛 「?!」



李衣菜「…いつの間にか会場は、ベルト争奪戦の様相を呈しております。以上、現場でした!」


卯月 「ううっ…り、凛ちゃん…」


未央 「いい加減、止めて差し上げろ。壊したら大変なんだから」


みく 「ん?…もう一本CMあるっぽいにゃ」


杏 「?…戦士シリーズと違って、なりきりグッズ以外の玩具CMはあまり流れないはずなんだけどな…ま、見れば分かるか」



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【CMパート その2】(ナレーション:佐藤利奈)


「プロデューサーさん、スタドリですよ、スタドリ!」


ビックリして振り向く武P。


「疲労回復、学力向上、証拠隠滅完全犯罪!

良い子の君にも飲みやすい、アレルギー成分0の青リンゴ味!」


腰に手を当て、スタドリを飲み干すパパ、ママ、お姉ちゃん、少年。


「マスク・ド・ライダーP スタミナドリンク!

これで皆、良い笑顔!」


マスク・ド・ライバーPに肩を抱かれ、笑顔で頷きあうお姉ちゃんと少年。


「全国の有名店、スーパーコンビニで発売中!アーケードカードゲームで使えるスペシャル名刺、当たる!」



【CMパート その2 終了】

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--346プロダクション CPルーム内(別名:武内Pオフィス)



杏 「…って、何でだーっ?メイン商品より、サブ商品の方がCM時間が長いの、お、か、し、い、だろうがよっ!?」バンバンバンバンッ!‼


未央 「アレルギーなんかより常習性の方がよっぽど問題だっつーの!!」ババンッ!‼


蘭子 「煩わしー、構成ねー…(無いわー、これは無いわー…)」アキレ


凛 「…あのちひろさんが、タダで協力するなんて、何か変だと思ってたんだけど…」ハァ…


美波 「ま、まさかスタドリの全国販売…しかも子供向けだなんて…」フルフル


アーニャ 「YATTA…私これ知ってます!…"鳶が油揚げをさらう"ですよね?」ドヤァ


卯月 「…鬼!悪魔!チッヒー!!」ガタガタ


莉嘉 「ええと…つまり、どういうことだってばよ?」メヲコシコシ


みりあ「何で主力商品の変身ベルトよりスタドリの方がCM長いのかって事だよね?」ムクナメ


きらり「スポンサー料の違いか、会社間・会社内の力関係が如実に表れてるにぃ…」シンダメ


智絵里「き、きらりちゃん?芸能人がしちゃいけない顔になってるよ!」ソレイジョウイクナイ


かな子「おいしいから大丈夫だよ」サンプルゴクゴク


李衣菜「何だかよく分からないけど…Rockだねっ?」ビシッ!


みく 「…それじゃあ、続けてBパート行くよ?皆、準備は良いかにゃー?」パチッ


李衣菜「…えっ、酷くない?」



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【マスク・ド・ライダーP 第1話~Bパート】



周りを工事用シートで覆われた、鉄骨建材剥き出しの無人のビル建設現場は、マスク・ド・ライバーPと銀の短髪の少女の睨み合いで発生した、異様な緊張感の漂う"戦場"だった。


ド・ライバーは、抱き止めた蘭子の首輪に埋め込まれた"スター(媒体)"を破壊し、そっとその細い体を端床に横たえる。


バッキャアアン!


気絶したまま倒れていた蘭子のゴーレムと戦闘員が爆発、デジタライズ処理が起き、元のファンの姿に戻る。蘭子のアイドル力の影響が切れ、元の姿を取り戻したのだ。


ザザザザザザッ…!!


その爆発を切っ掛けに、先程とは明らかに練度も統率力も異なる新たな戦闘員が、10名程フォーメーションを組みド・ライバーを取り囲む。


その戦闘員の統率者たる一見異国情緒を漂わせるように見える少女を、マスクに内臓されたIレベルカウンターで確認したド・ライバーは、その数値を見て感嘆の声を上げた。


「…Iレベル、56?!」


ランクAもかくや、という数値の高さは、そのまま従える戦闘員の数、質、ゴーレムの大きさに比例する。


ましてや、これ程の"練度"と"志"の高い"戦闘員(ファン)"の場合、心身共に高揚し、互いを高めあう相乗効果たるや驚くべきものがあるだろう。


「F.I.P.にも…外人枠が?」


「Нет…ハーフです、よ?」


「この言語…!」


突如襲い来るアナスタシアの戦闘員達。先ずは小手調べ、か?



…ヒュ…ッ… ド・ガ・ギリィンッ!!


ットー…ン…



ロシア特殊部隊を彷彿とさせる、的確な剣術と素早い身のこなし…「アナスタシア・ブリザード」の戦闘員の実力は確かなもののようだ。


…そしてまた、それを苦もなく軽やかな身のこなしで捌いて見せるド・ライバーの実力も。アナスタシアは称賛を惜しまない。


「Я сделаю…!」


「…ありがとう、ございます。」


「!…почему…なぜ、私の言葉が?」


使い古された手帳を胸元から取り出すド・ライバー。


「独学ですが、こんなこともあろうかと。お会いできて光栄です…一年前はアイドルでしたね?アナスタシアさん」


「…счастливый…敵とはいえ、名前を知っていてもらえると嬉しいものですね…」


「…У вас есть мечта…?」


「!?…скандальный…ルァンコに続いて、私まで口説き落とすつもり、ですか?」


「出来る、ものなら」


「Это приятно…素敵、ですね」


ほんの一時、闘いの場には似つかわしくない穏やかな空気が流れる。ド・ライバーは彼女に対しても"説得"を試みる。


「…カラクリをばらしますと、ロシア人と日本人のハーフという強力な個性で思い出しました。仕事柄、今まで発刊されたアイドル年鑑は、ほぼ頭に叩きこんでありますので…」


「Да…そうでしょうね。今年は登録抹消で載っていないはずですから」


(погремушка…まだ彼は、マスク・ド・ライバーとしての本来の力"プロデューサーシステム"を起動していない。私の任務は…)


この実直さえもむしろ好感が持てる。もう少し前に彼と出会えていたら…だが、自らに課せられた任務のため、彼女は敢えて突き放す。


「…ルァンコと違い、私は私の意志でF.I.P.に参加しました。つまり貴方と私は…враг…明確な敵役同士。互いに情は無用、という訳です」


「…」


「Не будь дураком…"今"の私はF.I.P.所属の闇アイドル、"アナスタシア・ブリザード"。…呼びなさい、貴方のアイドルを!そして発動するのです、"プロデューサーシステム"を!!」


「やはり目的はそれでしたか…」


武P自身が"変身"した"マスク・ド・ライバーP"は、単体ではプロデューサー個人の力を高めるただの"能力強化装甲服"に過ぎない。

最大の特長は"ベルト"に搭載されている"プロデューサーシステム"にある。


では"プロデューサーシステム"(以下 PS)とは?


自身の担当アイドルの所有する"スター"を媒体とし、デジタライズによりアイドルを召還・一体化する事で、その能力を増幅し自らの力として使用する事ができるシステムの総称である。


ただしこれは、アイドルとプロデューサーの信頼関係の高さによって性能効率が上下する。その点、実直清廉な彼はアイドル達からの絶大な信頼を勝ち得ていた。


「…分かりました。そこまでおっしゃるのでしたら、私の誇るアイドルの力をご覧頂きましょう…」


ベルトに召還アイドルの名刺カードをスラッシュする事で、アイドルに出演を依頼(オファー)。召喚転送を実効する!


「卯月さん!凛さん!未央さん!お願いします、アイドル オファー(出演要請)!」



♪:挿入歌「S(mile)ING!」(唄;島村卯月)



デジタライズされたアイドル達が、光の中から実体化し、召還転送が完了する!



オファー! クール リン、オンステージ!

「凛です!…残していこうか、私達の軌跡!」


オファー! パッション ミオ、オンステージ!

「未央です!…今日も元気いっぱい、MAXフルパワーでいこー!」


オファー! キュート ウヅキ!オンステージ!

「卯月です!…歌もダンスも頑張りますっ!」



本来は急な交通不備対策として、先にオファー先へプロデューサーを派遣、アイドルを疲労させる事無く移動出来るように開発された物だ。



「Как вы это делаете…はじめまして。アナスタシア・ブリザードです。」



その転送時の輝きに目を細めながら、アナスタシアも挨拶を返す。表裏の違いあれど、そこはやはりアイドル。礼に始まり礼に終わる事に変わりはない。


「…ご丁寧にどうも。事情は全て、武Pのバイタルチェッカー経由で聞かせてもらったよん!」


「…本来の使用法とは、全く異なるのですが…」


「武Pは気にしなくていいから。」


「武Pさんはこっちで大人しくしてて下さい!」


卯月の能力はヒーリング系の"S(mile)ING!"。笑顔と歌で心身を癒す。ニコニコとハミングしながら、彼女は諭すように頭を撫でる。


「全くもう。何時もいつも、こんなになるまでやられないで下さいね?」


「…~ッ!」


そんな二人の姿を見て体を戦慄す凛。武Pも卯月も大好きな彼女は、こういう時どうしていいか分からなくなるのだ。


「…あーっもう!あーっ、もう!!…~ッ、(あんた達、互い同士に)預けとくからっ!」


「フフッ、凛ちゃんたら♪」


「…?」


武Pと卯月どちらともなくビシッと言い切る凛。察しの悪いド・ライバー=武Pは思わず首の後ろに手をやり、その戸惑いを隠さない。未央は呆れたように突っ込みを入れる。


「三人とも、それどころじゃないよ?!」



ザザザザザザッ…!!


再び剣を持った戦闘員が六名程フォーメーションを組み、ド・ライバーとそのアイドル達の前に襲いかかる!



ヒーリング中のド・ライバーと卯月の邪魔をさせる訳にはいかない!


「全くもう…ここはやっぱ、私が露払いしないとダメかな?!」



♪:挿入歌「ミツボシ☆☆★」(唄;本田未央)



先陣をきって飛び出したのは"未央"。明朗快活、場の空気を読むのに長ける、三人のリーダーだ。



ギャ,ギン,ッ!



「もう…乱暴だなあ?女の子にきらわれちゃうぞ?…っとぉ!」



ガカッ!



彼女の能力は近接戦闘術"ミツボシ"。"闘気"ならぬ"元気"を纏い、その粒子で攻防力を高め戦う。そんな彼女の戦闘スタイルは悲壮感の欠片も無く、戦場は明るく楽しいステージと化す!



「…はーしれ、ミ、ツ、ボッシッ。とぉ!!」


ドンッ・ドドド、ンッ!



戦闘員のうち三人を一息に打ち倒しも、勢い余って宙に浮いてしまう未央。そこにすかさず残り三人の戦闘員が襲い掛かる!



「はわわーっ?滞空中は無理だってば!」


…ヒュドドドドッ!



まさにその時、横殴りに戦闘員らに打ち据えられる"氷の連弾"!!



「…油断しないでよ、未央?!」


「ありがと、しぶりん!…でも、武Pとしまむーに絡んでた人には言われたくないなあ…」



現346プロの中で"紅のまゆ"と並び賞される驚異の新人アイドル、通称 "蒼の凛"。彼女の能力は攻・守・公・私とあらゆる局面において自在な応用力を誇る「蒼の氷結」法!



グウオオオ…ッ!!


「「…?!速いッ!」」


ズシャァッ!!



六人もの戦闘員を失いながらも、アナスタシアの冷静さはいささかの綻びも見当たらない!その僅かな間で、彼女は蘭子の物よりも洗練されたゴーレム錬成を完成させ、一撃すら放ってみせたのだ!!



「こ、コイツは手強そうな…って、しぶりん!どこ行くの?!」


「"ソッチ"は未央に任せるよ!私は…"コッチ"を、叩く、からぁっ!!」


「!…Дерьме!!」



…ギャリィィィンッ!!



♪:挿入歌「Nation Blue」(唄;渋谷凛、アナスタシア)



1・2・3のワンステップ、ツーモーション、スリーアタックで、一気にアナスタシアの懐に飛び込み"氷の拳"を叩き込む!


それを強引に"氷の壁"で捩じ伏せた彼女は、"氷の剣"の連斬で追い討ち、凛も瞬時に剣で対向する!



ギャ,ギン,ギシッ,ギリッ!


「…?!(同系統?!)」


「…?!(同系列?!)」


…バシィンッ!



互いを押し返すように弾け飛ぶ二人は、全く同時に"氷の連弾"を離れ間際に解き放つ!



ズガガガーッ!


「…!!(…同程度!!)」



初めて全力をぶつけて均衡する相手と出逢い、無意識に凄惨な笑顔を浮かべている事に、二人は全く気付いていない!



「「…(この娘…)」」


ズッ,シャアッ!


「「…や る !」」



一方の未央も、ゴーレムを寄せ付けまいと全力の抵抗を続けている。



「…ミー、ツー、ボーッ…シッ!!」


ドドドド、ンッ!


…グウ、オオオ…!!



「…~固ったいなぁー、もうっ!」


ザシャアッ!



一旦距離を置くため、打撃の勢いで空中を舞い着地した未央の横に、ヒーリングを終えたド・ライバーと卯月が並ぶ。


「…ありがとうございます、未央さん。おかげで助かりました」


「…へへっ!そんな気にしなくても…」


気遣いを忘れない武Pに何か一言…と未央が話しかけた矢先、揉んどり打つように凛も着地してくる。


ザシャアッ!


「凛ちゃん!」


「ちっ!…悔しいけど"やる"ね、あの娘!!」


「…凛さん?アイドル以前に、女の子がしてはいけない顔をしていますよ?」


無意識に首の後を撫でながら、ド・ライバーは一人ごちる。


「…凛さんと戦いながら、ゴーレム制御もこなすとは、賞賛に値しますね。ですが…」



…オ・オ・オ・オオオン…


「…Как вы пришли ?…」



「アナスタシアさん、ゴーレム。共に尚も健在…何かしらの"ケジメ"が、必要なようですね…」


眼光鋭く見上げながら、ド・ライバー=武Pは覚悟を決める。一刻でも早く、蘭子を病院に運び、CIを迎えに行かなければならない。



「…準備は良いですか?皆さん。」



力強く頷く三人。ド・ライバー=武Pは、三人の"名刺カード"を手に取り、"ベルト"のレバーに手をかけた!


ガシャッ…ジャキィッ!


"名刺カード"を纏めて三枚"ベルト"に装填!レバーを引く事で、カードはバックル内部にセットされる!


〈ユニット・フォーム!〉


…キュイイー…ンッ!


ベルト内部の"プロデューサーシステム"にエネルギーが充填され、ド・ライバーと三人のアイドルの体が光の粒子を纏い出す!



「…行きますよ、卯月さん、凛さん、未央さん!ユニット・フォーム!!」


「「「ニュージェネレーション!!!」」」



♪:挿入歌「流れ星キセキ」(唄;島村卯月、渋谷凛、本田未央)



…彼女達三人のユニット名、それが「ニュージェネレーション」!(以下 NG)


リーダーの未央、エースの凛、そして…皆を繋ぐセンターの卯月。誰一人欠けても、このユニットは完成しない!


デジタライズ分解されたNGの光の粒子が、漆黒のド・ライバーと一体化し、その体をキュート・クール・パッションのトリコロールカラーに染め上げる!



「…マスク・ド・ライバーP…NGフォーム!」



CP内で最も三属性バランスが良く、汎用性に優れるという特徴は、そのままマスク・ド・ライバーPフォーム時の特性となる。



ガシャッ…ジャキィッ!


〈ユニット・ライブ!〉


グォンッ…!



光粒子の煙幕の中を、ライムグリーンの眼光を放ちながら歩み出るド・ライバーNG。再びベルトのレバーを引き、NGの全能力を結集した"必殺の一撃"を放つ、全ての準備は整った!



「Покажите мне…正面から捩じ伏せなさい、我が同士達よ!!」


グウオオオ…ンッ!



ズッ,シャアッ…ズシャッ…ズシャッ、ズシャッズシャッズザッズザッ…!!



互いに加速を始め、ただ一発の右拳に全力を乗せ、力と力の真っ向勝負を挑む!!



「う、おおおぉぉーーっ!!」



ド・ライバー…否、武Pの想いを一身に受け、彼の叫びに同調し、NGもまた精一杯の力を声に込め上げる!!



「「「流れ星ー…キセキッ!!!」」」



固く握られた拳に宿るは想いの強さ!固く、早く、重く、光の槍はそのままゴーレムのドテッ腹を貫き通す!!



…ヒュッ…ド・ンッ!!!!…ザシャアッ…



グウオオオ…



ズ,ズンッ…



最後の咆哮を上げながら、その巨体をゆっくりと崩れ落とすゴーレム。その瞬間、大爆発と共に、デジタライズの光の本流が迸る!



バッ・キャアアァー…ン!!!!



光の本流を背に黒いシルエットを浮かび上がらせながら、ゆっくりと振り向くド・ライバーの目が光る。



「…Все это замечательно…見事、デス…」


…パタタッ…ガクッ



相対すアナスタシアは、鼻と口から一筋の血を流し、ガックリと膝をつく。

シンクロ率の高いゴーレムとのリンクにより、フィードバックによるダメージを受けたのだ。


思わず歩み寄ろうとするド・ライバーを手で制し、アナスタシアは気丈にも立ち上がりながら停戦を申し出る。



「выход…どうやら、ここまでのようです。手を抜かれているようでは、私達もまだまだ、ですからね?」


「…」



いつの間にか意識を取り戻した戦闘員達が、気絶した仲間を抱え、アナスタシアの後に配している。そのまま去ろうとしたアナスタシアは、陰を落としながら囁くようにド・ライバーに語りかけた。


「…F.I.P.には、敗北者たるルァンコの居場所は既にありません。…поэтому…故にルァンコの身柄は、私達が勝利するその日まで貴方にお預けします。」


ふうっ…と一息をつきながら、武Pはマスクを外す。思わず小さなため息をついたアナスタシアの声を、NGは聞いたような気がした。


「…お任せ下さい。蘭子さんは"私が責任をもって"面倒を見ます…"楽しみ"に、していて下さい。」


その言葉の意味を理解したアナスタシアは、一瞬輝くような笑顔を残し、その場から姿を消した…。



「спасибо…"楽しみ"に、しています、ネ?」



フォーム・アウト!


バシュウッ…!


「…っと。これはいけませんね…そろそろ時間ですか…」


ベルトから、光と煙と共にNGの名刺カードが強制排出される。慣れた手つきでカードを受け止める武Pの周りで、デジタライズ処理によりNGが実体化する。


「…皆さん、お疲れ様でした。この後はフリーですから、ゆっくり休んで下さい」


プロデューサーシステムにより招集をかけられたアイドル達は、戦闘時に減少した体力・気力・アイドル力回復のため、戦闘後元いた場所に強制送還される。


「あーあ。この時間じゃ、余り大阪を満喫できないなあ?」


「疲れちゃってそれどころじゃないですよう」


「一応私達アイドルなんだからさ、あんまり自由は出来ないんじゃない?ね、プロデューサー」


手を首の後に回す武P。彼女達の労には報いたいが、自分が就いていない場所での行動は慎んでほしいのが、正直な気持ちだったからだ。


「ほらね?武Pの顔見れば、言いたいことは全部解るんだから」


「はいはい。今日は素直にホテル戻って、パジャマパーティーにしますって」


「…武Pさん?蘭子ちゃんとCIの件、頑張って下さいね?」



転送デジタライズの光に包まれながら、最後まで好き勝手な事を言い合うNGの面々。だが武Pは、無条件に蘭子を受け入れるという彼女達に感謝していた。



「…皆さん、ありがとうございます。明日はここ、東京で皆さんをお待ちしていますから」



「「「お土産、楽しみにしててね?」」」



…光の粒子が僅かにたゆたい、彼女達の姿もまた消える。…武Pもまた、歩き出す。


…まずは蘭子を病院に連れていき、CIの送迎も行わなければならない。CIの皆さんには、約束反故の詫びとして夕食の一つもご馳走せねば…。


今日も武Pは忙しい。それがアイドルプロデューサー、それがマスク・ド・ライバーPとしての…彼にしか出来ない"仕事"なのだから。



【Bパート 終了】

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【マスク・ド・ライダーP 第1話~ED & Cパート】


(※以下、〈〉内=EDテロップ表記)



〈出演〉



〈武P/マスク・ド・ライバーP:武内プロデューサー(346プロ)〉



〈卯月:島村卯月(346プロ/CP/NG)〉


〈凛:渋谷凛(346プロ/CP/NG/PK/TP)


〈未央:本田未央(346プロ/CP/NG)〉



…あの日から約三ヶ月が経過した、晩夏の日差しも眩しいお昼時。

黒と紫のゴスロリがよく似合う一人の銀髪の少女が「喫茶&軽食 凸レーション」を訪れていた。


ドアを開けると、軽やかなドアベルの音を聞きつけ、リスのように小さな二人組がお出迎えしてくれる。


「いらっしゃいませー!…あー、蘭子ちゃんだー!」


「蘭子ちゃん、やみのまっ!」


「…フフッ、闇に飲まれよっ!(お疲れ様ですっ!)」


紆余曲折を経、蘭子は今346プロのアイドル候補生としてレッスンに励む毎日を送っている。


今日は担当プロデューサーとの待ち合わせで、通い慣れつつあるお気に入りのこの店にやって来たのだ。


「外は暑かったでしょお?…あ、武Pちゃんがランチおごってくれるって。ご注文は?」


店長代理のきらりも含め、今ではすっかり三人と仲の良くなった蘭子だった。


「日時計が、新たな贄をと囁いている!(いつもの"きらりんの手ごねハンバーグ"でお願いします!)」



〈蘭子:神崎蘭子(346プロ/CP/RE)〉


〈きらり:諸星きらり(346プロ/CP/凸R)〉


〈莉嘉:城ヶ崎莉嘉(346プロ/CP/凸R)〉


〈みりあ:赤城みりあ(346プロ/CP/凸R)〉



「我が友よ、闇に飲まれよっ!(武Pさん、お疲れ様ですっ!)」


「…暑い最中、お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。お疲れ様です、蘭子さん。」


蘭子が通された個室で、小さなティーカップを片手にランチ後のティータイムを楽しむこの青年…「パワー オブ スマイル」を座右の銘に、日々人々の笑顔のために戦う男。


その名は武内、20代半ば。大手芸能プロダクション346に属するれっきとした…アイドルプロデューサーである。



〈杏:双葉杏(346プロ/CP/CI)〉


〈智絵里:緒方智絵里(346プロ/CP/CI)〉


〈かな子:三村かな子(346プロ/CP/CI)〉



あの闘いの後、闇アイドル時代とF.I.P.に関連する記憶のほとんどを、蘭子は失っていた。


F.I.P.所属の闇アイドルによって施された術によるものとの診断結果だったが、様々な裏切りに傷つけられてきた彼女の繊細な心にとっては、むしろ良かったのかもしれない。


だが、彼女は全てを失った訳では無かった。ある日346プロに差出人無記名で送られてきた蘭子の私物の中から、彼女が"グリモワール"と呼ぶスケッチブックが発見されたのだ。


この"グリモワール"には、闇アイドル時代に蘭子がたった一人で築き上げてきた自己プロデュースの全てが記録されていた。


武Pはこれを基とした研鑽・肉付けを行い、彼女を「Rosenburg Engel」としてデビューさせる事にした。今日はその記念すべき初仕事の事前打合せなのだ。


その打合せの最中、彼は小さな箱を取りだし、彼女に差し出す。…それは、"スター"を施したゴスロリ調の細く小さいチョーカーだった。


武Pは担当するアイドルのデビューが決まると、必ず自身で特注した物を渡していた。蘭子の目から、自然に涙が溢れだす。


「…わ、我が友よ…これは堕天使の証?!…感謝する。運命の扉は今開かれた!!(…武P?!ありがとう。これが夢にまで見た"アイドルの証"なんですね!)」


彼女の表情が光り輝く。それは、彼がこの世の中で最も尊ぶもの。


「…我が魂の、赴くままにっ!(頑張りますっ!)」


…この輝きを守り続けなければ。あの娘との約束のためにも…彼は、思わず呟いた。




「…良い、笑顔です。」





♪:ED曲「Star ! ! 」(唄;CINDERELLA PROJECT)



〈アーニャ:アナスタシア(346プロ/CP/LL/PK)〉


〈美波:新田美波(346プロ/CP/LL)〉


〈みく:前川みく(346プロ/CP/*)〉


〈李衣菜:多田李衣菜(346プロ/CP/*)〉



…その頃、346プロの前に一人の清楚な女性…いや、少女が立っていた。


道行く人々が気にする様子は全く無い。何故ならそれは、346プロが出来た頃から幾度となく繰り広げられている光景だからだ。


だが彼女…"美波"の決意は、他のアイドル希望者達と少々意が異なる。アイドル自体に全く興味が無いわけでは無いが、彼女の目的はあくまで"親友の奪還"にあったからだ。


「…待ってて、アーニャちゃん。私もアイドルになって、必ず貴女の元に辿り着くから!!」


決意を新たにする彼女の手には、武Pの名刺が握られていた…。



〈挿入歌〉


〈S(mile)ING!(唄;島村卯月) 〉


〈ミツボシ☆☆★(唄;本田未央) 〉


〈Nation Blue(唄;渋谷凛、アナスタシア) 〉


〈流れ星キセキ(唄;島村卯月、渋谷凛、本田未央) 〉


〈M@STERPIECE(唄;765PRO ALLSTARS)〉



〈ED曲〉


〈Star ! ! (唄;CINDERELLA PROJECT) 〉




時は少し戻り、場所が変わって…。


「F.I.P.」本拠地。


「アイドルの能力を使い、意のままに世界をコントロールする」事を目的とする、悪の秘密組織のアジトである。


その地下に設けられた巨大な部屋では…この組織の長である「女王」が、彼女の忠実な部下である「アナスタシア」との会談を行っていた。



〈友情出演〉


〈プロジェクトクローネ:???(346プロ/PK)〉



〈スペシャルサンクス〉


〈女王:???(346プロ)〉


〈スタドリ提供:千川ちひろ(346プロ)〉



〈制作協力〉


〈346プロ〉


〈765プロ〉




「ふっ…"マスク・ド・ライバーP"か…Iレベル50を越える君を遥かに上回る戦闘能力を持つとはな…」


「Да ...しかも"ド・ライバー単体"だけの検証数値です。"プロデューサーシステム"においては、最早想像を絶する恐るべき戦闘力を誇ります…」


「数値はあまり重要視していない。大事なのはその"概念"と"応用"だ…"数値"は後でどうにでもなる。そういう意味では、君の身体を張った奴のデータは大いに参考となった」


「Спасибо…ありがとうございます。ですが、代わりに我が同士ルァンコを、みすみす受け渡す結果となってしまいました…」


「何の問題も無い。君も含め、私自らが選び出した"特別な存在"さえ残っていればな…」



バンバンバンバンッ!



突如闇を切り裂き、下から上へと照らされた複数のスポットライトの光の中から、不敵な笑みを浮かべたシルエット状の"少女達"がせり上がってくる。


その光の柱の一つにアナスタシアも自ら歩み入り、柱の数は合計九本となった。"女王"は高らかに宣言する!!



「フフフ…着々と次の準備は整いつつある!我が選びし九人の"デビュー"も間近だ…この"プロジェクト・クローネ"が、な!!」



【ED & Cパート 終了】

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※「武内プロデュース~特撮編・おまけ」に続く。


後書き

お付き合い頂き、誠にありがとうございます。

書きたいことを書きたいだけ書いたら、とんでもないボリュームになってしまいました。

それでいながら一番書きたかった部分には全く到達せず。

書きたいことの触りだけ「武内プロデュース~特撮編・おまけ」として、BCパート感想部&予告にて、一区切りとしました。

四万字を越えてから動作が不安定なため、取りあえず申請してきます。
重ね重ね、読んで頂きありがとうございました!


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