【ガルパン】後藤隊長「特車二課 あんこう小隊、か…」【パトレイバー】 ~第四章
「特車二課」手薄の中、暴走レイバーの危機が迫る!後藤隊長は「大洗戦車道 あんこうチーム+α」を招集し解決を図るが…。
「ガールズ&パンツァー 劇場版」と「機動警察パトレイバー」のコラボSSです。
前章のダイジェストを冒頭に掲載。本作からでも読み進めて頂けます。
・【ガルパン】後藤隊長「特車二課 あんこう小隊、か…」【パトレイバー】 ~第一~三章の続きとなります。
・コラボSSが苦手な方にはお勧め出来ません。
・時系列、設定のご都合独自設定あり。
・パトレイバー漫画版 第一巻の再構成となります(設定は色々良いとこ取りです)。
よろしくお願い致します。
〈 第1~3章. ダイジェスト 〉(一~二日目)
ハイパーテクノロジーの急速な発達と共に、あらゆる分野に進出した多足歩行式大型機械「レイバー」。
しかしそれは、レイバー犯罪とも呼ばれる新たな社会的脅威をも産み出した。
続発するレイバー犯罪に対抗すべく、警視庁は本庁警備部内に特殊機械化部隊を創設した。
通称「特車二課」…パトロール・レイバー中隊、パトレイバーの誕生である。
特車二課は、才女「南雲警部補」が隊長を勤めるエリート部隊の「第一小隊」と、曲者「後藤警部補」が隊長を勤める愚連隊「第二小隊」の、計二小隊で構成されている。
夏、七月。
その特車二課 南雲隊長と第二小隊の留守を狙いすまし、事件は静かに幕を開けた。
第二小隊 後藤隊長のもとに、刑事部捜査一課の「松井警部補」から、とある一報がもたらされたのだ。
後藤 「…東京・大阪で、過激派環境保護団体による同時破壊活動計画?」
松井 「特車二課が手薄な頃合いを見計らって、今までの恨み辛みを一気に晴らそうって腹みたいだな…で、どうする?」
後手に回った後藤は即座に行動を開始。とある奇策を以て来るべき事件に対応すべく、関係各位を帆走する。
松井 「流石のカミソリ後藤も、今回に関しては『超法規的措置』すら取れないか…?」
後藤 「まあそれは、先方も戦車という『特殊車輌』を扱う『同じ穴の狢』という事で」
南雲 「…それじゃあ何?後藤さんは、普通の女子高生をレイバー隊にでっち上げるつもりなの?!」
後藤 「その通り。特に無名校だった大洗を優勝に導いたあの西住って子、あれは本物だ。それに彼女が搭乗している戦車は、他の奴らと動きの次元が違う」
古くから大和撫子の嗜みとして、華道・茶道と並び称される武芸「戦車道」。
今年度限りの廃校が決定していた「大洗女子学園」の「角谷 杏 生徒会長」は、「文部科学省 学園艦教育局担当官」との交渉により「優勝すれば廃校撤回の可能性有り」との言をとり、戦車道を復活させる。
名門「西住流」の名を持ちながら戦車道から遠ざかっていた転校生「西住みほ」は、杏からの依頼により大洗のチームリーダーとして戦車道に復帰。「あんこうチーム」の精神的支えもあり、大洗の快進撃を支え、見事優勝へと導いた。が…
事ここに至り、当の文科省担当官から「先の言葉はあくまでも可能性でかつ口約束であり、廃校撤回成らず」と告げられてしまう。
杏 「廃校最終日の8月31日までに廃校措置を止め、復活まで道筋を作らないといけないからね。でも…そのためには、もう1つやっておかなきゃならない事があるんだ」
再び、最大の危機に直面していた大洗女子学園に対し、後藤は…
後藤 「この話を受けてくれれば、世間により『大洗危機』をアピール出来る。更に暴走レイバーを討ち取ったとなれば、こちらからの感謝状で『文科省』は無視その物が出来なくなる。…大洗復活の気運を高める大きな力になるはずだ。そういう『取引』を俺から提案したって訳」
途中、誤解の生じた大洗 生徒会長と西住との「細やかな」いざこざもあったが、最終的に協力を取り付けた後藤は、西住以下あんこう及びカモさんチームの特車二課招集に成功する。
杏 「手放しで承認はしかねるよ?さ、頑張って私を納得させるだけの安全策を提示してよね?!」ニカッ
みほ 「ふふっ…後藤隊長のお話は分かりました。ご期待に添えるかは分からないけれど…私、今回の件、頑張ってみようと思います!」
そど子 「…少なくともここにいる内は、私達にも居場所や立場や責任ややる事があるんでしょ?ならやるわよ…やってやるわ…やるしか、ないじゃない…」
かの道の達人とは言え、レイバーに関する知識を持たないメンバーに対し、後藤は通称「レイバーの穴」と呼ばれる特車専の「佐久間教官」にその全てを託す。
佐久間 「教官の佐久間だ。お前達に事前に受けてもらった特性試験の結果を基に、こちらで割り振ったポジションを今から発表する」
・1号 フォワード (レイバー担当)…冷泉 麻子
・1号 バックス (98指揮車担当)…武部 沙織
・1号 キャリア (レイバー運搬車担当) …園 みどり子(そど子)
・2号 フォワード (レイバー担当)…五十鈴 華
・2号 バックス (98指揮車担当)…秋山 優花里
・2号 キャリア (レイバー運搬車担当) …後藤 モヨ子(ゴモヨ)
・総合指揮車 コマンド (小隊指揮)…西住 みほ
・総合指揮車 バックス (97指揮車担当)…金春 希美(パゾ美)
ナカジマ 「レイバーをはじめとする皆さんの車輌全てに、例の特殊カーボンによる追加装甲を施すよう依頼があったんですよー」
優花里 「97式レイバー指揮車に98式特型指揮車!あっちには四菱製 98式特殊運搬車も…!」
後藤 「『AV-98Tドーファン』…ウチの98式の試作機みたいなもんだ。パワーは劣るが、練習用だから扱いやすい上、機動性も高く、実戦使用に充分耐えうる」
だが、研修期間五日という限られた時間の中で出来る事には限りがあった。後藤と佐久間は一計を案じる事となる…。
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〈 第4章. レイバー道(?)を邁進です! 〉
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教員室内
後藤 「…お疲れー…」ハァ…
佐久間 「おう!お疲れー…って、えらいやつれ様だな?何があった?!」
後藤 「…何だかよく分からんが、西住のやる気に火を点けちまったみたいだ。凄まじい勢いで情報統合管理システムの使い方を吸収して、シミュレーション上に用意した『状況』を片っ端に『終了』させてるよ」
佐久間 「『話』がうまく行ったみたいで何よりだ。他の連中へは?」カチャカチャカチャ
後藤 「西住が説得を快諾してくれたよ。これから話すんじゃないかな?」
佐久間 「それが一番良い形だろうな。早く周りにも波及させてほしいもんだ…っと!」ターン!
後藤 「…さっきから一生懸命何やっとんの?」
佐久間 「ん?今日の基本操作訓練の結果を踏まえたアイツ等のカリキュラム変更に決まってんだろうがよ」ジーッジジッ
後藤 「おい、まさかこれ以上講習内容を減らすんじゃないだろうな?」
佐久間 「バッカ、逆だよ逆!…お前とんでもねえ連中を連れてきたもんだな。こりゃ本庁に戦車道習得者採用の提言をしとかなきゃならんかも知れんぞ?」トントン
後藤 「そもそもレイバー隊自体がレアなんだから、採用人数その物が少ないのが問題なんでしょうが」
佐久間 「全く残念な話だよ…話を戻すが、奴等にはレイバー機器運用の『いろは』だけじゃ勿体無い。一つ、レイバー戦の『型』を仕込んでやろうと思ってな…ほれ草案!」バサッ
後藤 「ほう…『型』で運用出来るスキルを身に付けれれば、作戦を展開する西住に少しでも楽をさせてやれるな…」ペラッ…ペラッ…
佐久間 「『型』が出来れば、実稼働訓練も効率化出来て、特車二課に行ってもアイツ等だけで行える。良い事尽くめって訳だ…どうだ?」ニヤニヤ
後藤 「…面白いな。乗ったよ、この話」ニヤッ
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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教習生宿泊室内
麻子 「…風呂、ご飯、トイレ…全てがメンドイ。今すぐグッスリ眠りたい…」グダー
沙織 「…女の子なんだから、せめてお風呂は入ろうよう?」グダー
華 「…気持ちは分かりますが、せめてご飯は食べません~?」グダー
優花里 「…生理現象は無視ですかあ?」グダー
みほ 「…皆、大丈夫?近くのコンビニで飲み物買ってきたよ」ハイ,スキナノエランデ
沙織 「…みぽりん、ありがと~」ゴクゴク
麻子 「…天使だ、天使がいる…」ゴクゴク
みほ 「気にしないで?私は今日一日、シミュレーションだけだったから!」フンス!
華 「…ありがとうございます。コンビニ、近いんですか?」ゴクゴク
みほ 「片道15分位かなー?」
優花里 「ブフォッ?!…こ、コンビニでその距離でありますか?!」
みほ 「?地元ではもっと遠かったから…片道30分までなら、我慢できる距離だと思うよ?」
優花里 「…(いやいやいや!その感覚はおかしいですよ?ですが、最も恐れる事態の可能性が…)」
みほ 「カモさんチームは『しつけ』の真っ最中かあ…(皆、疲れてるし…今のうちに話しておかなきゃね、うん!)」
麻子 「…ハッ!そど子め、精々苦しむが良い。私たちは今日夕方には解放されて、今は惰眠を貪っている。実に気分が良いぞー?」グダー
沙織 「…動けなくなってるだけじゃなーい…」グダー
華 「…そういえば沙織さん。夕方の自由時間を利用して、街に繰り出すつもりだったのでは?」ムクッ
沙織 「…行きたい!けど…今日は無理…明日こそ、必ず…っ!」ググッ
華 「そうですか…ご近所の食事処を押さえておこうと思っていたのですが、今日は諦めます…」ショボン
みほ 「…」メソラシ
優花里 「!…(やはりここは…陸の孤島の可能性、大!)」
みほ 「あのね?…(カモさんチームには後で話すとして…)…実は私から皆に、今からどうしても話しておかなきゃならない事があるの。…聞いてくれるかな?」
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~三日目
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教員室外
後藤 「 …皆、済まなかった!ごめん!この通り謝る!…これで良いか?」
華 「…一応納得しました。ですが、今後はこういう、大事な事は黙ったままというやり方は無しにして下さい。よろしいですね?!」
優花里 「…私達、この手のやられ方で、生徒会長には散々な目にあわされてますからねえ」
後藤 「分かった、分かったからさ…(やっぱあの大洗のせいか…)」
佐久間 「まあ、今回の件は後藤が全面的に悪い。こいつのやり方はいつもそうだからな?」
後藤 「少しは身内を庇いなさいよ…。西住?お前さんも少しは手加減て奴をさあ…」
みほ 「あ、あはは…ごめんなさい…」
沙織 「みぽりんは優しすぎるの!強く言えない性格を逆手に取らないで下さい!!」
後藤 「すいませんでした!(…女は強いねえ…)」
佐久間 「…それにしても、お前ら本当に良いのか?試合の戦車道とは根本的に違う。人の悪意と直接やり合う事になるんだぞ?」
沙織 「みぽりんだけで行かせる訳無いじゃないね?」
麻子 「水臭い。同じチームの仲間なんだからな」
華 「私達は、みほさんのやりたい事に付いていくだけです」
優花里 「それに…これが戦車道あんこうチームとしての、最後の課外活動になってしまう可能性が高いですし」
みほ 「…皆、ありがとう…」
麻子 「…いいや。私はまだ納得してないぞ?聞けば西住さんは、どれだけ特車二課に向いているか熱く語られた様子…その照れっぷりは、私から見ても大層 魅力的なものだった」
みほ 「ちょっ…ま、麻子さんっ?!」カアッ
後藤 「そうなのか?西住」
みほ 「…しっ、知りませんっ!」プイッ
優花里 「拗ねてしまったみほ殿可愛いはともかくとして…我々としても、能力を見込まれて呼ばれたとして、それを提示してもらわなければ自信を持って務め上げる事が出来ません」
後藤 「つまり…どういう事だ?」
沙織 「本人の口から直接言うのは、ちょっとはばかれるよねえ…?」ヤダモー
麻子 「私達を褒めろ。称えよと言うことだ」
華 「さすが麻子さん。その答えに一切の躊躇い(ためらい)がありません」
麻子 「地獄のシゴキのせいか、夜更かしせず寝てしまい、朝自然に目覚めてしまう。疲れが残っているにも関わらずにな?お陰さまで朝から頭は冴えに冴えている」
佐久間 「感謝こそされ、恨まれる要素が全く無いな」
麻子 「疲れが残っていると言ったじゃないか」
佐久間 「だって…なあ?」
後藤 「…お前さん達、褒めたら絶対調子に乗るタイプでしょ?」
麻子 「何を言う」
沙織 「失礼しちゃうわ」
優花里 「それは大きな偏見でありますよ?!」
華 「まあまあ。…今後の厳しい局面を乗り切るための心の支えという事で、ほんの少しでよろしいですから、私達の評価を聞かせて頂けませんか?」
後藤 「…まあ、俺にも後ろめたい所があったからな。二度とは言わない条件で、お前さん達の長所を伝えておこうか」
麻子 「ではまず私から」
後藤 「…(何でこの子は、こんなに頑なに評価を聞きたがるんだろう)」
佐久間 「…(この子が確かに一番才能があるんだが、何故か本人には伝えたく無いんだよな)」
麻子 「さあ。遠慮なく」
後藤 「冷泉は、レイバー操縦に関して間違いなく天才だ」
麻子 「…おお。…それから?」ユサユサ
後藤 「…以上。他に語るべき言葉が無いんだよなあ」ガクガク
麻子 「何でだ?他にも言い様があるだろう?」ユサユサ
佐久間 「確かにお前は凄いんだよ。覚えもコツを掴むのも早い。だが要所要所で残念さ…いや、突っ込み所が滲み出てくるんだよ!」ガクガク
麻子 「心外だ。あんなに真面目に乗り回しているというのに」ガーン
佐久間 「二足歩行人型機械『レイバー』なんだぞ?『常にドリフト移動する』レイバーなんざ異常に決まってんだろ?!『黒いレイバー』戦ぐらいでしか見た事無えよ!」
後藤 「冷泉。お前、自分の中に『リミッター』を設けろ。『解除』は、コマンドの西住が許可した時以外は認めんからな?」
麻子 「何でだ?ギリギリを見極めて攻めてるつもりなのに」
佐久間 「サスもフレームも接地シートも保たねえっつってんだろ?オートバランサーも過負荷で焼き切れ寸前、整備員共を修理だけで過労死させる気か?!」
後藤 「『攻め過ぎ』なんだよ、お前さんは。まあさすが、普段から戦車を跳んだり跳ねたり回転させてるだけの事はあると思ったけどね」
麻子 「お陰さまで、どうやれば、いつ履帯が切れるかも分かるようにはなったぞ」
後藤 「じゃあ次、五十鈴で行こうか」
麻子 「さすがにこの仕打ちは、あんまりじゃないか?」
後藤 「…五十鈴は、何と言っても射撃能力の高さに尽きる。特に停止状態での射撃精度は、ほぼ百発百中と言って良い」
華 「ありがとうございます。基本は戦車の時と変わりませんからね」
後藤 「無駄な動きが無いからロスが無く、機体への負担も少ない。集中力の高さと持続力もあるから、レイバー単体での長時間稼働にも期待出来る」
麻子 「…私とはずいぶんと扱いに差があるじゃないか」
佐久間 「態度の違いだろ?殊勝な奴に無理強いする必要は無いからな」
後藤 「自分の問題点は…分かってるな?」
華 「はい。やはりレイバーの扱い方がまだまだかと…」
佐久間 「初心者だからな、充分予想の範囲内だ。とにかく今後の訓練でレイバーにひたすら慣れ親しんでくれ」
華 「分かりました」
後藤 「お前さんには日本のお巡りに必要不可欠な素質がある…『連撃必中』は必要無い。『一撃必中』…いや『一撃必殺』を常に狙え!」
華 「はい!」
優花里 「五十鈴殿、ベタぼめですぅ…」
後藤 「んで、次は秋山だが…実は最後まで『フォワード』候補に入っていた。技術・知識・身体能力全てをバランス良く兼ね備え、あらゆるパートを任せられる逸材だ…」
優花里 「おおっ!思わぬお誉めの言葉を頂きましたよ?」
後藤 「…ただし『戦』に関しては、だが」
優花里 「おやおやー?やはり不穏な流れになってきましたよ…して、その心は?」
後藤 「お前さんが引っ掛かったのは『適性検査』の方だ」
優花里 「そ、それって…『能力』以前に『人として』問題があるって事じゃないですか!?」
後藤 「いや、そこまでの物じゃないが…」
優花里 「一体私の何が問題なんですか?!」
後藤 「…ずばり『一般常識』」
優花里 「そっ!…それは私が『ぼっち』で、友達付合いが無かったからって事ですか…?」ポロポロ
沙織 「ちょっと!ウチのゆかりんを苛めるの、止めてくれる?!」ヨシヨシ
後藤 「参ったな。そんな事知らなかったし、知りたくも無かった…なんか、ごめんな?」ポリポリ
優花里 「その同情の目は止めてください、余計に痛たまれません!私のどこが一般常識に欠けるっていうんですかあ?!」ワーン
佐久間 「…ここに何枚かの写真を用意した。これが何か答えてみてくれ」
・俯瞰の街並み
優花里 「市街戦!」
・地下鉄入口
優花里 「トーチカ!」
・一般家屋
優花里 「延焼危険障害物!」
後藤 「お前ら『街並み』の写真見せても、発想が既に『市街戦』なんだもん。それは『戦車道』の発想だろ?『情け容赦が無さ過ぎる』にも程があるわ」
優花里 「…?」
佐久間 「心底不思議そうな顔で俺を見るなよ!お巡りとして…いや、人としての常識が崩れそうになるわ!!」
後藤 「西住以下四名は、多かれ少なかれこの傾向が見受けられた。これは由々しき問題だ。
『街』は『街』、『ビル』は『ビル』、『家』は『家』…そこに人の営みがある事が『常識』。それを守るのがお巡りさんの仕事なの」
優花里 「…何々ですか、この評価の仕方?結局半分以上説教じゃないですか!…素直に長所だけ褒めて下さいよう」
麻子 「全くだ。やり直しを要求する」
華 「まあまあ、お二人とも落ち着いて…」
ギャーギャー
沙織 「はあ…(でも何だかんだ言って皆、才能あるって認められてるもん。私なんか全然才能無いし、人気投票でも一番下だったし…)
後藤 「…そういう意味では、武部がいなかったら今回の話その物が無くなっていたかもしれない」
沙織 「…え?」
後藤 「確かに武部本人も自覚している通り、特出した能力や特長がある訳じゃない。だがお前さんには『周りを思いやり行動する』という得難い美点がある」
沙織 「『美』点、ですか?!」
麻子 「…何かアクセントが変じゃないか?」
後藤 「ああ。民間の立場に立った周りへの気配りと細やかなフォローは、警察官にとって無くてはならない大切な物だ」
沙織 「…!(やだ…冴えない只のおじさんに見えてたけど、実は凄くイイおじ様なのかもっ?)」
みほ 「沙織さん?!」ハッ?!
優花里 「お帰りなさい、西住殿」
麻子 「そしてチョロいな、沙織」
後藤 「?…そういえばシステムの立上げには手間取っていたが、使いこなすのは早かったな?」
沙織 「は、はい!私、他の人と繋がれたり、皆の役に立つ道具は、すぐ使い方を覚えちゃうんです!」パアッ
後藤 「ふむ…コミュニケーションツールの使いこなしはお手のものって所か。ただ、公共機材を使っての都内有名スポットチェックは止めなさい」
沙織 「…はぁーい」ガクッ
後藤 「…(フォワードとバックスの組合せが、常識人とその他の組合せとか言ったら怒られそうだから、ここは黙っておこう…)」
みほ 「…」ドキドキ
後藤 「最後は、西住か…」
みほ 「!」ドキッ!
後藤 「西住は…ま、いっか。昨日話したばっかだしな?」
みほ 「…そ、そうですよ!ね…」シュン…
後藤 「…さ、皆の評価はこんなとこだ!そろそろ朝礼の時間だぞ?さっさと機材格納庫に行きなさい!!」パンパンッ
ハーイ!
ナニモーオワリー?
シカタナイイクカー
カモサンチームモウキテルカナ?
ゾロゾロ…
みほ 「ハァ…(…私、何で落ち込んでるんだろ…)」
後藤 「…おーい、西住。ちょい待ち」
みほ 「はっ、はい!」ドキッ
後藤 「…今日朝礼終わった後な?昨日の続きを総合指揮車でやってもらう予定だったが、それ変更だ」
みほ 「え?」
後藤 「今日の午前中は、俺と一緒に他チームメンバーの練習内容を見学してもらうからな?」
みほ 「?はい、私は構いませんが…」
後藤 「…実は昨日までのお前さん達の実習結果から、その特性を活かした『レイバー戦での戦い方』…『型』を一つ用意させてもらった」
みほ 「…『型』、ですか?」
後藤 「そうだ。お前さんに少しでも楽をさせてやりたくてな…また少しばかり、付き合ってくれや?」ニヤリ
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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教員室内
後藤 「…やれやれ。準備途中だってのに、朝っぱらから大騒ぎだよ…」
佐久間 「後藤よ。俺ぁ構わねぇんだけどよ、特車二課に戻らなくて良いのか?」
後藤 「あっちは、出張ギリギリまで南雲さんに任せてある。ウチの小隊には優秀なお守りもいるし、ま、大丈夫でしょ?」
佐久間 「…鬼かお前は。アイツらだって大阪出張の準備で忙しいだろうに」
後藤 「二小隊いるってのは、その位余裕が出来るって事なんだよ。来週はこっちの方が大変なんだから、この位はね?第一、こっち人手足りてないじゃない」
佐久間 「人手といやあ…そういや西住の評価はどうなんだ?こっちに来てからのは俺もまだ聞いてないんだが」
後藤 「…レイバーに関しては、操縦技術は武部とどっこいどっこい、身体能力は僅かに冷泉を上回り、知識は五十鈴以下、総合力は秋山がブッチギリだ。だがそんな事は、些細な問題にすらならない」
佐久間 「やっぱりアレか?『戦車道』と同じく…」
後藤 「状況把握、行動判断、環境応用…『指揮能力』は間違いなく高い。…が、群を抜いてる程でも無い」
佐久間 「やっぱり畑違いだったんじゃ無いのか?」
後藤 「でもな?昨日然り気無くやらせてたの、あれ幹部候補用のだぜ?それも嫌がらせに用意した奴」
佐久間 「何やってんだよお前は…だがノルマきっちり終らせてたよな?確か」
後藤 「ああ。ただし、肌感覚を伴う総合システム上でのシミュレーションだけの話ね?それも時々とんでも無いポカをやらかす。何かを試した結果なんだろうが…」
佐久間 「…結局、一言で言うと何なんだ?」
後藤 「一言で言えば『規格外』だな。あと敢えて言えば『ほっておけないカリスマ性』か…
正直何だかよく分からん。が『見てて面白い』のは確かだ」
佐久間 「『戦車道』でのアナウンサーと同じコメントじゃねえか」
後藤 「ファンだからか、同じ隊長という立場だからか、どうにも冷静さに欠けるんだよ、あの子の評価は…。
あ、他のメンバーには言うなよ?間違いなく嫉妬しちまうからさ」
佐久間 「言えるわけ無いだろ?そんないい加減な評価…さ、行くぞ。アイツらが待ってる」
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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 特機模擬戦闘用広場~指揮テント内
チュイイイン…チュイイイン…ズシュンッ!
後藤 「…どうだ?」
佐久間 「フォワードの二人に『型』の概念を理解してもらった上で、ドーファンに搭乗してもらった」
後藤 「…物になりそう?」
佐久間 「…まだ分からんな。お互い感覚を探っている感じだ。まあこういうのは、数をこなして体で覚えるしか無い。今から三回戦目を始める所さ…二人とも、礼!」
ギィッ
佐久間 「では模擬戦三回目、始め!」
ガシイッ!ズシュンッズシュンッ…
後藤 「おいおい…現場じゃ礼なぞしちゃくんないぞ?」
みほ 「電気動力にしては音が大きいんですね…しかも、圧がスゴい!」
後藤 「守られた車輌の中から見るのとは迫力…いや、怖さが違うだろ?何しろ8mもの巨人がド付き合いしてるんだ。体積的には、お前さん達ん所の戦車が立ってぶつかり合ってるような物だからな!」
みほ 「はい!」
ギィッ・ギ・ギ・ドズンッ!
後藤 「街中で遭遇する暴走レイバーの怖さはコレの比じゃない。どう動くか読めない上に、僅かな動作で一瞬で迫って破壊する。この驚異から一刻も早く市民を解放するのが我々の任務だ!」
みほ 「分かりました!」
ギュアアアア!
スチャチャ
ギュアアアア!
後藤 「…と言う訳で、この至近距離でも会話するために防音型通信機が必要となってくる。コレさえあれば、チーム内の誰とでもセレクターで自然な会話が可能だ」
みほ 「…(戦車道のと形が違う…)」
麻子 『ハッ…ハッ…ハッ…』
みほ 「…麻子さん、苦しそう。戦車道ではこんな事無いのに…」
後藤 「戦車道に向けて体を作ってきた証拠だな。だがレイバー戦にはまだ不慣れ。そこから来る緊張は、想像以上に体力を消耗させるはずだ」
華 『…フーッ…スーッ…スーッ…』
後藤 「それに対し、五十鈴は落ち着いた物だ。これだけ早く違いが出るというのは…操作スタイルの違い以前に、体の根本的な造り『地力』の差が出てると思う」
みほ 「『地力』ですか?」
後藤 「分かりやすく言えば、体の大きさや完成度の違いだ。冷泉は体も小さく、成長過程の真っ只中なんだろう。よく寝てるのも、眠気が抜けないのも、無意識に体が休息を欲し、体力を温存しようとするためなんじゃないか?」
みほ 「私、低血圧だからかとばかり思っていました…」
後藤 「まあ低血圧も地力も、それっぽい言葉でで当人が早く納得したいだけかも知れん。本当に気になるなら、ちゃんと医者とか専門の人に相談するようにしようや」
ギュイイイイッ!
みほ 「…隊長の理屈で言うと、華さんはどうなるんですか?」
後藤 「五十鈴の場合は、身体も充分成長して完成されているって事になる。よく食べよく寝てよく鍛え、溜め込む所にしっかり溜め込み、絞る所はしっかり締めて良い身体に…うん?」
みほ 「…後藤隊長?」ジーッ
後藤 「んんっ、ゴホン!…す、すまんすまん。少し、セクハラだったか?」
みほ 「…いいえ?かなり、ですっ!」プイッ
後藤 「いや?!溜め込んでるっていうのは体力の事で、絞ってるってのは鍛えてるって…」
みほ 「…(やっぱり男の人って、華さんみたいにスタイルの良い人の方が好きなんだよね…)」シュン
ズシュンッズシュンッ
佐久間 「何やってんだあ?…それにしても、思ったよりも冷泉の体力が持たないな…五十鈴も釣られてか動きにキレが無い…」
ギィッ
後藤 「…という事で、西住…おい、どうした?」
みほ 「ひゃ、ひゃいっ!?な、何でも無いですっ!」ムネカラテオロシ
後藤 「いや、俺がお前さんに話があるんだが…」
みほ 「すっ、すいません!…大丈夫、ですっ」
後藤 「西住…今、見学してもらってるのは、実際に練習での動きを見てもらい、チームの『型』の完成形をイメージしてもらうためっていう話はしたな?」
みほ 「…はい」
後藤 「『戦車道』という大海は、お前さんなりの経験値によって既に航路や基準点があり、自由に航行…『戦略・戦術』を決めることが出来ているはずだ」
みほ 「そう、なんですか、ね…」
後藤 「だが『レイバー戦』という別の海に関しては、まだお前さんには何の航路も基準点も無いはずだ」
みほ 「…その通りだと思います。だから、ちょっと不安で…」
後藤 「だからこそ『型』という『基準点』を用意した。これは、航行の自由と言う点からは少し離れてしまうが、無限の可能性の中から幾つかの『選択肢』を絞り混むきっかけにはなるはずだ」
みほ 「…はい!」
後藤 「本来、フォワードには幾つかの『型』を持たせ、『状況』に合わせて『選択』する事が出来るようにしておくんだが…」
みほ 「それは…」
後藤 「うん。ご存じの通り、お前さん達には時間が無い。だから、手っ取り早く用意出来る『型』を一つだけ用意した。訳だが…」
チュイイイン
後藤 「…どうにも埒が明かないので、体力に代わる気力を注入しようと思う」
みほ 「?…どうするんですか?」
後藤 「決まってる。こういう時は…煽るんだよ!おい、冷泉!!」
ギュインッ?!
麻子 『なっ…何だ?た、隊長なのか?』ハアッハアッ
後藤 『何だ何だ?そのへばり具合は!さっきまで褒めろ褒めろ言ってた天才はどこ行ったんだあ?』ガピー
麻子 『このっ…す、好き勝手な事を…』ハアッハアッ
後藤 『…冷泉!お前は確かに天才だ。だが体力が無い上ムラっ気が過ぎる!!現に今、決着を早めようとして動作が雑になり、確実にダメージを与えられてないんじゃない?』ガピー
麻子 『ぐうっ』ハアッ…
後藤 「…で、ここからが『冷泉用の型』だ。西住、よく聞いておけよ?」
みほ 「…はいっ!」グッ
後藤 『いいか?短期決戦を望むなら、近接接近で縦横無尽な動きで相手の隙を誘い、死角から的確に相手の関節に電磁警棒を叩き込め!』ガピー
麻子 『~…こうすればいいんだろーっ』ハアッ!
ギュイイイイッ…ゲインッ!
華 『?!キャッ!』
後藤 「…うんうん。外れはしたが、意識の入った良い一撃だ。次は五十鈴…彼女の場合は、動揺を抑えさせるために逆になだめる。すると…」ニヤニヤ
佐久間 「対応の違いに逆上した冷泉は、益々気合いが入る…相変わらずエゲツ無えなあ?後藤は」ニヤニヤ
後藤 「おいおい、忘れたのか?俺が誰にそれを習ったのか」ククク
みほ 「…(大人の嫌な部分を垣間見たような気がします…)」
後藤 『五十鈴、大丈夫か?』ガピー
ギュイン
華 『はっ、はいっ!』
後藤 『確かにお前のレイバー操縦技術は高くない。だがさっきも言った通り、お前には、他の者に無い集中力と持久力がある。だから焦る事は無い』ガピー
華 『後藤隊長…』
後藤 「続けて、ここからが『五十鈴用の型』だ。いいか?西住」
みほ 「はい、お願いします!」グッ
後藤 『お前は、相手が攻められずこちらが攻めれる中距離を保ち、照準を合わせ続けてプレッシャーで押し潰せ!相手が焦れて射線を走り出したなら、射撃百発百中という必殺技があるんだからな!?』ガピー
華 『…了解!』
バシャッ…ジャコンッ!
麻子 『このっ』
ジュシュウン、ジュシュウン、ジュシュウン
華 『落ち着いて…落ち着いて!』
ギュイイイイッ…ゲインッ!ザシュウッ
後藤 「ふうっ…どうだ、佐久間?」
佐久間 「うん、悪くない…よし、噛み合った!」
みほ 「…」ジーッ
ギィッ・ズシュンッ
後藤 「…これで均衡状態に持ち込めた。一回の模擬戦が長くなって、内容の密度も上がるはずだ…西住?」
西住 「…はい?何ですか」ジーッ
後藤 「今二人が行ってるのが、稚拙ながら二人の『型』な訳だが…どう見る?」
みほ 「…え?そうですね…『水と油』、というか…」ジーッ
後藤 「…ほう。そりゃ本来の意味でか?」
みほ 「いえ!…絶対違って混ざらないんだけど、液体という意味では同じだから、同じコップに入れられて一つになるっていうか…あ、あれ?本来の意味とは違うんですが…何て言うんだろ…うまく言えないです…」
後藤 「…いや、その感じ方は悪くない。明日からはチーム全体での模擬練習になるんだが、その時に西住の言ってる感覚を説明するよ」
チュイイイン…
佐久間 「…しかし、冷泉にはレスリングか柔道の寝技や投げ技に持ち込む『型』、五十鈴には銃剣かナギナタの『型』を仕込みたかったな…ま、レイバー用銃剣とかナギナタなんざ無いけどな?」
後藤 「じゃあ今度、ウチの整備士共にでも試作させてみるか?…冷泉の寝技・投げ技に関しては、ウチの整備士共に相談してみるわ」
みほ 「…レイバーに『ナギナタ』ですか?」
後藤 「全くおかしい話でも無いんだぞ?レイバー…特にこの『AVシリーズ』のような『人型を模した格闘戦用レイバー』は、文字通り人間と全く同じ動きが出来る…理論上はな?」
佐久間 「時間さえかければ、打撃・投げ技のみならず、サブミッション(間接技)やロープワーク(紐術)…あらゆるサバイバル術『特殊アクション』を覚え込ませる事が可能だ」
後藤 「そんな『特殊アクション』は、一旦覚え込ませておけば、後はコンピューターの方で勝手に判断して最適なタイミングで『発動』してくれる。これを『動きの効率化』と言うんだが…ん?」
みほ 「…???」
後藤 「…すまんすまん。この辺りの話はフォワードの連中にでも任せようや。んじゃ次は、キャリアとバックスの連中の様子を見に行こうか」
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 特殊車輌用特設コース(街中想定レイアウト)
ブウウウ…ンッ
後藤 「さて西住。本来なら次は『バックス』の『型』を教えるべきところなんだが、『キャリア』の『型』から説明するのには訳がある」
みほ 「どんな訳があるんですか?」
後藤 「実は、レイバー産業における篠原重工の躍進に焦りを感じた四菱から、せめて得意の特殊車輌産業ではシェアを奪わせまいと、とあるありがたい提案をしてきてくれた」
みほ 「あの…レイバー初心者の私達に対して、ハードルだけがどんどん上がってる気がするんですけど…」
後藤 「そんな事は無いさ。そのおかげで、運用実績データとレポートを提出すれば『四菱製 98式特殊運搬車 改』が二台もタダで使えるんだし」
みほ 「はぁ…。…改?」
後藤 「そこだ西住。今までの『キャリア』の役割は、『現場までのレイバー運搬』と、荷台を垂直に立ててレイバーサイズの『固定バリケード』として使用する事にあった」
みほ 「…はい。シミュレーションでも、そのように使用してきました」
ギャギギイッ
後藤 「ところで今回の四菱製 98式特殊運搬車 改。荷台基部に旧式ながらレイバー譲りのオートバランサーを設け、荷台上部のカウンターウェイトで慣性打消を行うという、何だかよく分からん凄い機能が付いている」
みほ 「???」
後藤 「…まあ簡単に言うと『レイバーサイズのバリケードを移動しながら使用出来る』様になったって事。ウチも昔手動でやった事あるんだけど、あまりの不安定さに危なくてとても使用出来たもんじゃなかったな」ハハハ
みほ 「まさか、それが…」
後藤 「そう。『レイバー×2 & 移動式バリケード×2』…第一小隊でも第二小隊でも試した事の無い、お前さん達だけの戦術幅を拡げる『ユニット構成』の『型』だ」
みほ 「…あ、あはは…(体よく降って沸いた難題を、ただ押し付けられただけという気も…)」
グワンッグワンッ
後藤 「いやあ…『戦車』っていう『特殊車輌』に慣れ親しんでいるお前さん達でないと、とてもじゃないが使いこなせない代物でな?」
キキィーッ!
そど子 「…ちょっと!いきなりこんな大型車輌押し付けられても、扱いに困るんだけどっ?!しかもバック移動前提だし!!」
後藤 「大丈夫。操作はカートと同じだから簡単だ。しかも脚で走るレイバーよりも最高速は早いぞ?…理論上は」
ゴモヨ 「全然簡単じゃないです!それに荷台に振り回されて、車が浮いてスゴく怖いんですが…」
後藤 「大丈夫。オートバランサー付きだから、レイバーで意識的に倒そうと押さない限り、まず倒れないぞ?…理論上は」
そど子 「その『理論上は』って言うの、止めなさいよ!余計不安になるでしょ?!」
後藤 「…ああ。金春は総合指揮車の代車で、園と後藤を外から見ながらアドバイスしてやってくれ。自分の操縦テクも磨きながらな?」
パゾ美 「…少しは私達の話も聞いて下さいっ…!」
ギャーギャー
みほ 「あ、あはは…何か巻き込んじゃって、ごめんね?カモさんチームの皆さん…」ハァ…
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 特殊車輌用特設コース~指揮テント内
ギャーギャー
沙織 「…あ、みぽりん!」
優花里 「西住殿。見に来てくれたんですかあ?」
みほ 「沙織さん、優花里さん!…うん、『キャリア』組の練習を見に来てたの。『バックス』のお二人は、今何をしてるの?」
沙織 「ううっ、それが…。聞いてよ、みぽりん?やっぱり私、実技は苦手だよお…」
みほ 「ど、どうしたの?」
優花里 「…今まで私達、バリケード状態のキャリアをレイバーに見立てて、随伴車輌として誘導指示を行ってたんですよ。でも…」
沙織 「理屈はゆかりんに教えてもらって、頭では理解しているつもりなんだけど…どうしても上手く行かなくて」
優花里 「なのでもう一度、今度は別の方法で改めて説明させて頂いてたんですよー」
後藤 「…キャリア(対象)の邪魔にならないよう、尚且つ対象の位置が常に分かる場所をキープし続けながら、指揮車(随伴車輌)を運転する。…確かに、初めての武部には難しいだろうな」
沙織 「…後藤隊長もいらっしゃってたんですか?」
後藤 「ああ。…随伴車輌は、対象の動きを予想して外へ外へと移動することが肝要だ。内輪に巻き込まれないようにな?」
優花里 「はい。出来れば、障害を事前に対象に知らせるために、尚且つ対象から常に見えるよう、やや先行するのが望ましいです」
後藤 「ただこれを行うのは、自分を俯瞰から眺める感覚が身に付かないとかなり難しい。武部が戸惑うのはむしろ当然と言える。それを自然に行えている秋山の方が異常と言えるだろう…」
優花里 「…何だか私と冷泉殿にだけ、風当たりが強くありませんかあ?」
後藤 「冗談だよ、あんま本気で受け取るな。…秋山?お前さんの心配は一切しとらんから、今日は武部にひたすらコツを教えてやってくれ」
優花里 「はい、お任せ下さい!武部殿?出来るまで何時間でもお付き合いしますから、もう泣かないで下さいね?」
沙織 「ううっ、ゆかりん…ありがとう~」
みほ 「ふふっ…沙織さん、頑張ってね?」
後藤 「…さて。今までの『型』は、いわば技術面やら手法やら…こういっちゃ何だが、実は枝葉末端に過ぎない」
みほ 「枝葉末端、ですか?」
後藤 「一番大事な『型』というのは、実は『命令指揮系統』にあると俺は思っている…誰を配置するかっていう『人選』も含めてな?」
みほ 「それは『バックス』の二人も関係があるって事なんですね?」
後藤 「そういう事だ。これさえ決めちゃえば、俺はこっち方面の仕事をお前達に丸投げ出来て、大層楽になるって訳」
沙織 「?」
秋山 「何の話ですか?」
後藤 「…秋山。お前さんは、二号機バックスを行いつつ、今まで通り西住の『参謀』として、作戦構築と実行の負担を減らしてやって欲しい」
優花里 「?!…わ、私、参謀役だったんですかあ?!」
みほ 「…うん。間違いじゃないよ?」
優花里 「ウヒャア~!」モシャモシャ
後藤 「…ただし『作戦構築』した際、必ず『武部の確認』を取る事。それ以外の作戦実行は認めんからな?」
沙織 「え?わ、私が…あの、何の冗談で…」
みほ 「…確かに戦車道においても、沙織さんは情報の取りまとめ役という大切な役割を果たしてきてくれました。異存はありませんが、理由を教えてくれますよね?」
沙織 「み、みぽりん?」
後藤 「…もちろんだ。さしずめ武部は、一号機バックス兼『安全顧問』と言った所かな」
優花里 「安全顧問…?」
後藤 「…ここに、西住に昨日やってもらったシミュレーション概要の幾つかを持ってきてある。秋山?これを見て、何か感じないか?」
優花里 「んー…良い作戦だとしか思いませんが…」
後藤 「で、これを武部に見せてみる…どうだ?何か感じないか?」
沙織 「ん~…みぽりん、どうしてここにこの子(レイバー)を配置したの?」
みほ 「それは…敷地内の建物を盾にして、レイバーを置けるスペースが敷地内にあったから…」
沙織 「…一つ手前のここじゃダメなのかな?」
みほ 「効果は変わらないけど、少し狭かったから…でも、どうして?」
沙織 「私が選んだのは、建築資材屋さん。でも、みぽりんが選んでいたのは…幼稚園だよ?」
みほ 「確かに、幼稚園だけど…」
沙織 「…幼稚園の子供達がさ?もちろん作戦時は現場にいないにせよ、幼稚園を憧れのパトレイバーの盾にされて、ましてや攻撃されたら、どう思うかな?って…」
みほ 「あ…」
後藤 「他には何か無いか?」
沙織 「え?ええと…こっちの子の配置。信号の奥じゃ無くて、信号の手前じゃダメなのかな?」
優花里 「…十字路を抑えるという意味では良いですが、相手からの直接攻撃の可能性を考えると、やや奥まった方が良いという判断かと…」
沙織 「信号機って、こっちの子の邪魔にはならないのかな?あとここ、電線が走ってる。切れちゃったら、周りの人達が停電で困らないかな?
優花里 「…おおっ!」
沙織 「それにここ、立て看板が張り出して…」
後藤 「武部、もういいぞ。ありがとう」
沙織 「…え?え?な、何かごめんね?私とんちんかんな事言ってるよね?」オロオロ
後藤 「…とまあ、これが『常識』のある人の意見な訳だ。誰かを守る使命感に酔い、その場は収めたとしても…そこで生活してる人達の被害を産んでしまっては、元も子もないだろ?」
みほ 「確かに、その通りです…」
優花里 「…でも、分からなくなってきました。即時解決が求められるであろう『現場』で、そんな悠長な事で良いのか、と…」
後藤 「そうは言うがな?お前達は『現場』におけるあらゆる可能性を考えて『作戦』を立案するわけだろ?」
優花里 「…はい」
後藤 「作戦展開時の隊長である俺の役割の半分以上は『作戦に巻き込まれる関係各位全てへの折衝』なんだぞ?」
優花里 「いちいち、事前にでありますか?」
後藤 「そりゃあそうさ。時間も手間もかかるが仕方ない。俺達、警察の戦場『現場』にある物全てが、誰かしらの財産なんだから」
みほ 「…そうですよね、確かに」
後藤 「そういう人達に相談する際にだよ?ただお前さん達みたいに『作戦ですから』って説得するのと、武部みたいに『貴方達の事を分かっています』って説得するの、どっちが協力する気になるかって話」
優花里 「確かに…」
後藤 「まあもっとも、そういう誠心誠意溢れる『説得』が通用しないのも当然いるわけだ。その際はやむ無く『説教』やら『説法』やらに変えていかざるを得ない」
優花里 「…『脅し』や『騙し』に聞こえますね、西住殿?」
みほ 「しーっ…」
後藤 「『説得』は大事だよー?これをやっておかないといざ被害が発生した時、何を請求されるか分かったもんじゃない。レイバーその物が維持費がかかる金食い虫だが、特車二課が貧乏な一番の理由がそれなんだから」
沙織 「その点、戦車道の場合は、戦車道連盟が破損した建物分きっちり補償してくれるもんね…」
みほ 「…でも今のやり取りで確信した…戦車道でも、きっと私の知らない、見えない所で、沙織さんが色々気を使ってくれてたんだって…ありがとう、沙織さん」
優花里 「…はい。私も改めて武部殿にお世話になっていた事を実感しました。武部殿、ありがとうございます!」
沙織 「そ、そんな…二人とも止めてよ?改めて言われると恥ずかしいよー?」
後藤 「武部は皆の心の負担を減らしてくれる、ささやかな癒しってとこだな」
沙織 「…!(やだ…厳しい只のおじさんと思い直してたけど、実はやっぱりイケテルおじ様なのかも?!)」
みほ 「沙織さん?!」ビクッ?!
後藤 「さて…何だかんだ言ったが、三人とも優先順位は間違えないでくれよ?
・第一に人命優先。(チームメンバー含む)
・第二に犯人を取り逃がさない事。
・第三に周辺被害を最小限に食い止める。
最終決定権を持つのは、隊長代理の西住、お前だ。第二は秋山、第三は武部が、それぞれ西住を支えてやってくれ…これが『命令指揮系統』の『型』だ」
優花里 「了解でありますっ!」
沙織 「頑張りますっ!」
みほ 「分かりました!」
・
・
・
後藤 「…まあ『型』はあくまでも基準点に過ぎなくてな?フェイクに使うなり、応用を効かすなり、後はお前さんの好きなようにしてくれれば良いからさ」
みほ 「はい。今後、色々と考えてみます」
後藤 「うん…そのためにも、午後からはイメージしたチームの完成『型』で、シミュレーション上の『状況』をクリアしてもらう」
みほ 「はい!」
後藤 「ただし、今度は『状況』側に俺がリアルタイムで『作戦』を与えていく…。つまり俺が『実行犯』って訳だ。だから手加減はしない…本気で、攻めて来い!」
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教習生宿泊室内
みほ 「…ハーッ…」グダー
優花里 「…今日は西住殿が疲れ果てています…」
沙織 「後藤隊長にシミュレーションでボッコボコにされたらしいよ?」
みほ 「…いいの。ボコは、どんなにボコボコになっても立ち上がるの。それがボコだから!」グッ
麻子 「お、復活した」
華 「でも、またやられてしまうんですよね?」
みほ 「ううっ…私きっとまた後藤隊長に…でも、それもまたボコだから…」ゴロゴロ
優花里 「自分をボコに見立てて、また落ち込んでしまいました…」
華 「心なしか楽しそうに見えるのは気のせいでしょうか…?」
麻子 「自虐に浸っているのでは」
沙織 「…(みぽりんって、ひょっとしてM?)」
みほ 「…あ、そうだ。カモさんチームに大事なお話をしておかないと…」ムクッ
そど子 「…あんのバカ隊長、とんでもない要求してきて…」グダー
ゴモヨ 「…頭が、ぐらんぐらんする…」グダー
パゾ美 「…体が、動かないー…」グダー
優花里 「荒んでる上に疲れ果ててますね」
みほ 「あの、カモさんチームの皆さん?疲れているとこ悪いんですけど、少しお話しておきたい事が…」
そど子 「…一体何よ。疲れてんのはお互い様でしょー?手短にお願いねー…」グダー
みほ 「あ、あの…この特車二課の体験入隊についてなんだけど…」
そど子 「…知ってるわよ。私も、ゴモヨも、パゾ美も」
みほ 「…え?」
そど子 「来週に暴走レイバーとぶつかるって話でしょ?…西住さん達が廊下で話してるの、聞いちゃったもの…」ゴロッ
麻子 「あの場にいたのか…」
そど子 「…何であんなに褒めて欲しがるのよ?みっともないったらありゃしない…」
麻子 「うっさい、そど子」
そど子 「はいはい、私なんかどーせそど子ですよーだ…どーでもいーわよ、暴走レイバーなんて」ゴロッ
みほ 「園さん…」
そど子 「…少なくともここにいる内は、私達にも居場所や立場や責任ややる事があるんでしょ?ならやるわよ…やってやるわ…やるしか、ないじゃない…」ゴロッ
ゴモヨ 「…」ゴロッ
パゾ美 「…」ゴロッ
みほ 「皆さん…そう。そうだよね…」ニコッ
沙織 「…って、違ーう!」ガーッ
華 「いきなりどうしたんですか?」
麻子 「空気を読め、沙織」
沙織 「夕方五時からフリーだよ?!いつも疲れて寝るばかり!今日こそ東京満喫しなきゃ?明後日は大荒に帰っちゃうんだから!!」
そど子 「あー…私達はパース。今日は疲れたから、このまま晩ご飯までゴロゴロしてる」
麻子 「気が合うな、そど子。それでは私も失礼して…」
そど子 「ちょっと止めてよ冷泉さん?狭いし暑いし近付かないで!?」
麻子 「ずいぶん冷たいじゃないか」
沙織 「ほら麻子も行くよ?!皆もさっさと支度して!!」
麻子 「やーめーろー…」
華 「あらあらー…」
優花里 「…(この先のオチが見えるだけに、正直あまり同意出来ません…)」
みほ 「~♪(またコンビニ寄っていこっと!)」
-----------------
ーー東京 八王子市 外れ
カナカナカナカナ…
沙織 「…八王子って東京じゃないじゃん!(暴言)」
華 「翻訳すると『この辺りには何も無い』ですね?」
麻子 「施設名に入ってる八王子市なんて言葉は、あくまで飾りに過ぎないんだな…」
みほ 「千葉なのに、東京ボコランドみたいな?」
優花里 「この時間は一時間にバスが二本しか出ていません」ヤッパリ
麻子 「この時間に下界に下りても、帰りのバスが無いぞ」ウワー
華 「雑貨屋みたいな店はありますが、食事処は近所に無さそうです…」ショボン
みほ 「この道真っ直ぐ十五分位行けば、コンビニに…」ワクワク
沙織 「もうじき暗くなるから、女の子は一人でこの先行っちゃダメ!」クワッ
みほ 「…はい…」ショボン
優花里 「施設内には自転車が二台しかありません…」
麻子 「今からサンダースに連絡して、大荒からⅣ号持ってきてもらったらどうだ?」ヤレヤレ
沙織 「…最悪、それ有りかも…」
優花里 「街に出るためだけに戦車引っ張り出すのは止めてください!」
みほ 「…こうしててもしょうがないから…帰ろっか、ね?沙織さん」
沙織 「…うん、帰る…」
麻子 「お腹が空いた…」
華 「…今日の晩ご飯は何でしょうか…」
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教習生宿泊室内
リー…リー…リー…
zzz…
ムニャムニャ…
モウ,タベラレマセン…
レオパルドツーノカックウホウデスヨー…
オバアガ…オバアガ…
ゼッタイカレシヲミツケテカエルンダカラ…
ワ,ワタシガセイトカイチョウ?!…
グーグー…
みほ 「…立場…責任…やる事…そして居場所、か…」
-----------------
~4日目
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 機材格納庫内 総合指揮車内
コンコン
佐久間 「…おい後藤、いるか?」
後藤 「おう佐久間。どうかしたか?」
佐久間 「昼メシ前に、ウチの方の進行報告をしておこうと思ってな?」
後藤 「おお。どこまで行けた?」
佐久間 「午前一杯で、『フォワード』組は『バックス』組とフォーメーション組ませて模擬戦を敢行。『キャリア』組は基本動作が何とか形になった感じだな」
後藤 「ん~…ちと急造感が否めないな。出来れば日を跨いで同じ訓練をやらせた場合の伸び率を、お前に確認して欲しかったんだが…」
佐久間 「皆よくやってるよ。特に武部とキャリア組がね?無理やり合同練習にブチこんじまえば、何とかなるんじゃないか」
後藤 「…じゃあ、進めちまうか?」
佐久間 「良いんじゃねえか」
後藤 「じゃ、やっちゃってくれ」
佐久間 「んじゃメシ食った後、午後イチから始められるようにしておくわ。…で、そっちはどうなんだ?」
後藤 「こっちは何時でも。むしろ早く合流させて、実際の指揮を体感させて早く慣れさせたい」
みほ 「…あそこでこう来たらこう返す。でも周辺被害も考慮しないといけないから…」ブツブツ
後藤 「おーい西住、あんまり根を詰めるなよ。ボコボコにし過ぎて悪かったがな?」
みほ 「…あ、いえ。私は、大丈夫です(…気は使ってくれてるものね…単純にまだまだって事なんだろうな、私が…)」
後藤 「…とまあ、やる気も上々だ」
佐久間 「いやはや、逸材ってのはいるもんだな…お?そろそろメシの時間か…アイツ等ん所戻らなきゃ」
ドタドタ…
後藤 「…さて西住。午後からはいよいよ皆と合流して、実戦形式の『合同模擬戦闘訓練』を行う」
みほ 「はい。(やっと皆と合流出来る…!)」
後藤 「これは例の『型』を効率的に高めるために行うものだ。この訓練の『型』を、今からしっかり覚えて欲しい」
みほ 「訓練にも『型』が反映されてる訳ですね?」
後藤 「そうだ。これさえ覚えてくれれば、これからはお前達だけで訓練を行えるようになる」
みほ 「…あ…」
後藤 「そうだ…特車二課配属後は、当然だが佐久間はいない。そして俺も、実務に復帰して今までのように面倒は見れなくなる。だから…」
みほ 「これからは、私 一人で…」
後藤 「そう。お前一人でチームを支えなきゃならん。…そう情けない顔をするな。配属後の小隊練度は、お前さん次第なんだからな?」
みほ 「…は、はいっ!頑張ります!」
後藤 「…お前さんなら大丈夫。すぐにこの訓練の意図を見抜いて、自分なりに工夫し出すさ。もどかしさを感じたなら、そこが鍛え所だ。隊長代理として、お前さんの方から皆に指摘してやってくれ」
みほ 「はいっ!」
キーンコーンカーンコーン…
後藤 「ま、その前に腹ごしらえだ。腹が減ってはナンとやらってな?じゃ、行くか」
みほ 「…はいっ、お供させて頂きます!」
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教室内
佐久間 「本日午後からは、昨日の『型』の応用編。『型』を全て組み合わせた、実戦形式の『合同模擬戦闘訓練』を行う。これは特車二課配属後も行ってもらう事になるから、よく覚えておくように」
後藤 「ちなみに我々は、世間で言う所の『事件』を『状況』、『犯人』を『目標』と呼んでいる」
みほ 「戦車道でも使う言葉です」
後藤 「うん、意味はほぼ同じだ。『事件』と『犯人』はどちらも、全てが終わって結論付けてからの呼び方。現在進行形だから『状況』『目標』という呼び方をすると言う訳。ややこしい話だね」
佐久間 「なぜこういう話をしたかと言うと、この訓練時、『仮想状況』と『仮想目標』を冷泉の一号機に設定しているためだ」
冷泉 「げ。なんで私だけ仲間外れなんだ…」
佐久間 「これは天才に対するハンデの一環だ。エースの宿命と思って諦めろ」
麻子 「おお…聞いたか、そど子?」
そど子 「はいはい、凄い凄い」
麻子 「…荒んでからのそど子は冷たい」
佐久間 「『仮想状況』『仮想目標』は、お前達もよく知っているであろう『黒いレイバー』事件…あれを冷泉に演じてもらう事になる」
華 「話には聞いた事がありますが、実際に映像を見た事はありません」ハイ
沙織 「私は話もよく分かりません!」ハイハイ
後藤 「そういうと思ってな?某動画サイトに上がっているダイジェストがあるはずだ。今からスクリーンに投影して見せるから、まずはイメージを統一しようか…秋山?」
優花里 「はい、お任せ下さい!」
(映像再生中)
優花里 「キタ━(゚∀゚)━!」
後藤 「コメントは消しなさいよ…」
優花里 「はい、すみません…」シュン
麻子 「…速い…」
後藤 「…コイツが晴海・城門に現れた通称『黒いレイバー』だ。目的・性能・名前に至るまで一切不明…いや。あえて目的を上げるとしたら…」
みほ 「したら?」
後藤 「『インネン付けて喧嘩を吹っ掛けてきたタチの悪いレイバー』てとこだな」
華 「このレイバーとタイマン張ってるのは…?」
後藤 「ウチ第二小隊のレイバー『98式AV イングラム』。篠原重工肝いりのフラッグシップ・レイバーだ…ま、連敗続きだけどな?」
麻子 「連敗?」
沙織 「…で、でも、いい勝負ですよね?最終的には『撃退』した訳ですし…」
後藤 「…優先順位、話したろ?人命優先、犯人を取り逃がさない事、周辺被害を最小限に食い止める…その何れも我々は成し遂げられなかった。惨敗してるんだよ、俺たちはソイツに」
沙織 「すいません…」シュン
佐久間 「…おい、後藤?」
後藤 「おお、すまんすまん。ついアツくなってな?許してくれや」
みほ 「…隊長?まさか、私たちが今度対峙する相手って…」
優花里 「コイツ、なんですか?」
後藤 「…いや、多分それは無い」
みほ 「?何でそう言い切れるんですか?」
後藤 「…あまり多くは機密に関わる事なので言えないが、今回は『出てくる要素が欠けている』んだよ…だから、出てこない。ま、俺の勘みたいなもんだと思ってくれや」
みほ 「はい…分かりました」
後藤 「こういう、混乱に乗じて、ただ暴れるだけが目的に見える「愉快犯」「悦楽犯」みたいなのも一応気にしとかなきゃならん…ほんと、頭痛いわ」
佐久間 「話を元に戻すぞ?…冷泉、お前にはコイツを演じてもらう訳だが…見ての通り「ムダが多い」のが分かるだろ?お前には『ムダが無い場合をイメージ』して演じてもらう」
麻子 「…分かった」
後藤 「お前の目指すべきスタイルが『無駄の無い黒いレイバー』って訳だ」
佐久間 「そして他の者は『ムダの無い黒いレイバー』の撃退に全力を投入してもらう。イメージ上とは言え、レイバー史上最強のコイツを撃退出来たとなれば、かなりの自信になるはずだ」
みほ 「…はい、分かりました」
後藤 「…それじゃイメージの統一が出来た所で、特機模擬戦闘用広場に移動しようか。各自、自機に搭乗の上、集合するように!」
-----------------
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 特機模擬戦闘用広場~
ブロロロロ…
チュイインッ…
ドドドド…
後藤 「…各自、自機に乗り込んだな?今からは防音型通信機による双方向会話モードに切り換えて会話を行うからな?」
佐久間 「昨日各自に伝えた『型』は覚えているな?その『型』を基本に、今から合同訓練方法の『型』を説明していく!」
みほ 『お願いします!』
後藤 「まず基本となるのは、何と言っても『フォワード』組の二人のレイバーだ」
ヂュインッ
麻子 『おう』
ヂュインッ
華 『はい!』
後藤 「冷泉には『確実に相手の弱点を突く時間短縮』、五十鈴には『相手の弱点に照準を合わせ続ける時間延長』、各々の更新を狙って模擬戦を連続して行ってもらう」
麻子 『…それは…』
華 『ひょっとして…』
佐久間 「…これは操縦技術の劣る五十鈴のために、冷泉に課す『時限性ハンデ』だ。最初は技術のある冷泉に有利だが、長引くほど体力のある五十鈴に有利になる」
後藤 「昨日のお前達を見て、西住が面白い事を言っていたよ。本来の意味では無い、同じ液体で同じコップにいる『水と油』なんだそうだ」
麻子 『水と…』
華 『油…?』
みほ 『な、何でこんな所で…?』
佐久間 「これはお前達の『長所・短所が全く真反対』である事を暗に示唆している。今回の練習の『型』は、まさにそれを活かし、互いを組合せ『どこまでも高め合える』ものなんだ」
みほ 『…!』
後藤 「お前達はレイバー乗りとして面白い位に『水と油』だ。互いの長所短所を身をもって体感し『敬意を持って食い合う』事で、自分のスタイルを完全に物にしろ!」
麻子 『…よろしく、五十鈴さん』ニヤリ
ヂュインッ
華 『こちらこそ…麻子さん』フッ
佐久間 「あと冷泉は、無駄な動きを極力無くし、効率化を図り『耐久力を養え』。疲れ果て、脱力した状態での無理無い動きを体で覚えるんだ」
後藤 「…せめてドーファンの一回充電フル稼働時間の30分は保たせるように。でないと西住の戦略に影を落とす事になるぞ?」
麻子 『言いたい放題だな…見てろよー?』キッ
ズシュン
佐久間 「フフン、その意気だ。…対して五十鈴は、冷泉の動きをただ受け止めるだけでなく、自分から動いて『受け流す』事を意識するように」
後藤 「レイバーに対して『慣れ親しむ時間』を、嫌が応にも引き延ばして技術を上げてやる…覚悟しておけよ?」ニヤリ
華 『…下手な気遣いこそ失礼です。どうぞご遠慮無く』キッ
ズシュン
後藤 「指揮車…『バックス』組は、地面に記入された疑似地図と、設置されたダミーに当たらないよう、僚機レイバーを誘導しろ。『接触0』を全開運動で何分持続できるか、『時間延長』を競え!」
佐久間 「武部は相変わらず位置取りが苦手なようだが、今度は『僚機』だけで無く『目標の動き』も『命懸けで』意識しろ。さもないと踏んづけられるぞ?」
沙織 「わ、分かってるんですけど…」
ブロロロロ…
後藤 「秋山。練習だと思って余りにも疑似地図上の家屋やダミーに接触するようなら、『状況』現場で実際に被害に合った人達に謝ってもらうからな?」
優花里 『そ、そんなつもりは…気合、入れ直します!』
ブロロロロ…
後藤 「『キャリア』組は、とにかくレイバーをエリア内から出さないように『行く先を遮る時間延長』を狙え。あと『意識的にぶつけて』、その回数をボーナスとして加算しろ」
佐久間 「大洗じゃ泣く子も黙る風紀委員だったんだろ?『接触』を怖がるんじゃねえよ?!」
そど子 『む、無茶言わないでよ!』
ゴモヨ 『後向きから襲いかかるなんて、慣れてる訳ないのに…』
後藤 「…まあ『キャリア』組は、全く新しい部門に近いからな。少しアドバイスしてやろう…いいか?やってる事は今までと同じだ!お前らが体を張って『大義の元、悪を取り締まる』んだよ!!」
そど子 『私たちが、取り締まり?!』
ゴモヨ 『そ、それなら何とか出来るかも…』
ドドドド…
みほ 『ノリノリじゃないですか…権力や威信に嵩をきた物言いは嫌いだったんじゃないんですか?』ハァ…
後藤 『ふっ。残念ながら「煽るのや悪ノリ自体」は、嫌いじゃないんだなあ?…西住。お前は全体を見遠し、弱いパートにアドバイスを行って『模擬戦を維持できる』ように気を配れ」
みほ 『私は、模擬戦の『時間延長』を目標にすれば良いんですね?』
後藤 「そういう事。もっとも?戦車道優勝経験者ともなれば、この程度の同時並列での「総合判断」など手緩いもんだろうけどさ」
みほ 『…さっきから皆に対して何です?ずいぶんと安い煽りをなさってるんですね?』ニコッ
後藤 「…適度な緊張とヤル気を促すには『闘争心を煽る』のが一番だからな。憎まれ役ぐらいかって出るさ」
みほ 『好きなだけじゃないですか…それより、本来は「バックス」が「キャリア」への指示を行うのが基本ですが、運搬・開放・回収時以外は、「コマンド」の私の指示で「キャリア」には動いてもらうようにします』
後藤 「『レイバー×2、キャリア×2』の変則シフト対応だな、どう動かす?」
みほ 『「キャリア」組の園さんと後藤さんは、少しでも状況を把握できるように、運転席側を内角にして、基本常に時計回りにエリアを回るようにして下さい』
そど子 『運転席が右側だから、時計回りにエリアを巡回するのね?』
みほ 『はい。風紀委員的に言えば…エリア全域をカバーするために、園さんと後藤さんにはエリアを跨いだ対角線上、定速での「見回り巡回」を心掛けて欲しいんです』
ゴモヨ 『何か問題が発生したら、巡回進行方向で近い方が問題解決に対応する…確かに「見回り巡回」と同じだけど…ううっ、上手く出来るかなあ…?』
みほ 『ちなみに明日は、後退移動で反時計周りに見回り巡回してもらいますね?』
そど子 『自然に無茶言わないでよ?!』
麻子 『…いや。西住さんは大体いつもそんな感じだ。「追い付かれる風に逃げて」なんて言われるんだぞ?相手の最高速度より、体感で相手の加速度が分かってないと対応出来ない技だ』
みほ 『いつも助かってます、麻子さん』ニッコリ
後藤 「…(同僚や部下に、無意識のうちに最大能力を要求するタイプか…。こりゃあ大洗の連中も必死になるわ)」
ブロロロロ…
みほ 「…金春さんは基本、私の指示で運転を。『状況中』は声が出せなかったり、とっさの判断が必要ですから、右に曲がって欲しい時は右肩、左に曲がって欲しい時は左肩に手を置き…」
パゾ美 「戦車道の時と同じって事ですよね?」
みほ 「そうです、そうです!車高が高く『キャリア』同様に全速後退での操縦も多くて難しいと思いますが、練習中は意識的に走り回るようにして少しでも早く慣れていきましょう」
パゾ美 「了解しました。西住隊長の思い通りに動けるよう頑張ります!」
佐久間 『注意事項はそんな所かな…じゃあ、そろそろ始めるとしようか。西住、号令を頼む』
みほ 『はいっ!…それでは皆さん。…模擬戦、始めてください!!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
チュイイッ
ズシューンッ ズシューンッ ズシューンッ…
優花里 『…冷泉殿がステップして、五十鈴殿との間を詰めて行ってますね…来た!』
キシュウンッ…グンッ!
バカアンッ!
華 『くっ…!!』
優花里 『辛うじて盾でやり過ごした…というよりは、冷泉殿がカマをかけたと言ったとこかな。五十鈴殿!』
キュウンッ
華 『…はい、何でしょう優花里さん?』
優花里 『こちらの予想以上に冷泉殿の伸びが良いようです。もう心持ち、半歩ほど間を開けるようにして対応して見て下さい』
華 『この、位、ですか?』
ズシュン…
麻子 『む…?』
ズシュズシュズシュ…バッ!
ジュインッ!
華 『…動きが見えますね、はい!』
優花里 『落ち着いた対応で良かったです!これならまず向こうの攻撃は当たりません…照準合わせも無理なくこなせそうですか?」
バシュッ…ガッキ、ジャコンッ!
チーッ…
華 『…行けそうです!』
優花里 『あと照準の狙う先なのですが、これからは頭や胴体では無く、手足の…』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
佐久間 「五十鈴にはまだレイバー操縦に戸惑いが見られるな…」
後藤 「二号機コンビに関しては、『戦』にはアクティブな秋山が、不馴れが故に慎重でつい動きが止まる五十鈴の『ケツ』を巧く叩いてくれるはずだ」ニヤリ
みほ 『ケっ!~…』カアッ
後藤 「…どした?西住」
『…い、いえ…』アタマブンブンッ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
キキーッ…
沙織 『こらあっ、麻子ー?!』
ジュインッ
麻子 『な、何だ?まだ何もしていないだろ』
沙織 『してるよー動いてる時!住居エリアに思いっきり入り込んでたじゃん!』
ズシュ
麻子 『足跡見ても、はみ出てないだろう?』
沙織 『足で踏まなきゃ良いってもんじゃないでしょー?内側に傾けた体と頭が、建物にめり込んじゃってるよ!』
麻子 『そんな所まで気にしなきゃならないのか?』
ギチョンッ
沙織 『あったり前でしょう?警察が建物平気で壊したらおかしいじゃない!』
グイイッ!
麻子 『…フフン!今の私は「黒いレイバー」。あらゆる物を破壊する…』
沙織 『そういうの良いから。ほら、真面目にやって?ちゃんと見てるからね!』
チュインッ
麻子 『ぐっ、この…』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
みほ 『…あれ?沙織さん、いつの間に…』
佐久間 「気が付いたか?模擬戦に入った途端、僚機との位置取りにすらモタついてた武部が、今は敵機との間も自然に取れてるだろ?」
後藤 「本番の緊張感を知ってる奴は、ヘタに考え込まさずにとっとと現場に放り込んで夢中にさせた方が良いんだよな」
佐久間 「一号機コンビも、冷泉みたいな『天才』が鼻高にならないよう、理屈じゃなくごり押しで言う事を聞かせられる武部がピッタリだ」
後藤 「武部の『シリ』に敷かれてるって訳だな?冷泉は」ニヤリ
みほ 『シっ!~…』カアッ
後藤 「…さっきからどした?西住。体調でも悪いのか?」
『い、いえっ!…(また、お、お尻って…隊長だけ?それとも男の人って皆こうなのかな?で、デリカシーが無いというか…)』アタマブンブンッ
佐久間 「お?二号機が動くぞ…」
みほ 『…(ううん!き、きっと私が気にし過ぎなんだ。私が慣れなきゃ…)…じゃなくて!集中、集中!!』パンッ!
パゾ美 『…西住隊長?』ジーッ
みほ 『あ、あはは…ごめんね?金春さん。気にしないで』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
華 『それにしても、当たり前ですが「威嚇」だけでは麻子さんを止められません…どうしたら良いんでしょう』ハァ
優花里 『…(銃での威圧と言っても所詮は実弾じゃ無い。実際に撃たないと舐められるのも無理はありません…)』
ヂュイン?
華 『…優花里さん?』
優花里 『…(ここは一つ、派手にかまして緊張感を無理矢理にでも高めておきましょうか…)…五十鈴殿?』
華 『はい、何でしょう?』
ギチョンッ
優花里 『…チャーシューメン!でもホップステップジャンプ!でも何でも良いのですが、何か馴染みのある三連リズムの掛け声はありますか?』
華 『…あまり馴染みがありませんが、チャーシューメンは何故か心に染み渡ります』グゥ
優花里 『もうお腹が空いたんですか?!…空腹をイメージさせてしまうのはマズイですね。では…』
ギュインッ
麻子 『む。何をする気かは知らんが、その距離では当たらんぞ?』
キキーッ!
優花里 『…皆さん?ウチの五十鈴殿をあまり舐めてもらっては困ります!生憎、今日使用しているのは汚れない水風船型模擬弾!隙があったらどんどんブチ咬まして行きますからね?!』
ブオオッ…
沙織 『ちょっとゆかりんに華。制服そんなに替えがある訳じゃ無いんだよ?濡れたら大変な事に…!』
華 『はぁ…フォワードとバックスは一心同体。あまり気乗りはしないのですが…タイマンで舐められる訳にもいきませんから!』
ジャコンッ!
ギャギギッ!
優花里 『フォワードはバックスの指示に従うべし!五十鈴殿?どうぞ遠慮無くやっちゃって下さい!』
ヂャキッ!
華 『…レシーブ!トス!スパイクッ!!』
バンッ・バンッ・バンッ!
バシャッ・バシャッ・バシャッ!!
ギシッ…
麻子 『…ぐわ、み、水浸し…』
沙織 『キャアッ?!ちょっとサイテー!』
そど子 『ちょっと!こっちにまで水来たじゃないのよ?!』
ゴモヨ 『ヒドイ…距離掴むのに窓開けっ放しで運転しなきゃならないのに』
優花里 『頭・胸・腰。レイバー三大弱点を一気に撃ち抜くこの技…名付けて「アヒルさんアタック」!アヒルさんチームのバレーと引っ掻けてみました』
麻子 『全然うまくない…』ビショビショ
華 『「一撃必殺」を目指して鍛錬を積んでいたこの私が、軽薄にも「連撃必中」を披露するなんて…』
沙織 「ちょっと華?気が進まないってそこ?皆を水浸しにするのが申し訳無いじゃなく?!」ビショビショ
そど子 『ちょっと秋山さん?あなた一人で逃げたわね!』ビショビショ
ゴモヨ 『この怒り、どこにぶつけるべきか…』ビショビショ
ズシュン
麻子 『フッフッフッ…今宵の電磁警棒は血に飢えている。五十鈴さん?せいぜい覚悟するがいい…』
シャカッ!
華 『クス…同じ小隊に、二丁ものリボルバーカノンは必要ありません。麻子さんこそ覚悟なさって下さいね?』
ジャキッ!
ズシュンズシュンズシューンッ!
ガキャアンッ!
優花里 『いーですよ!二人ともやる気満々で』
沙織 『誰のせいだと…まあ、ただの安全棒に水風船対決だけどね』
ズシューンッ
華 『そこからはエリア外。逃げられませんよっ?!』
そど子 『冷泉さん?覚悟!』
ガーッ!
麻子 『何の…うわ、おい、ちょっと?』
ギャキーッ…ドスンッ!
優花里 『…おお、レイバーキャリアでのパワードリフトターン!大迫力でありますよ?』
チッカチッカチッカ…
麻子 『ばっ…ばっ…あ、危ないだろ?ぶつかるとこだったじゃないか!そど子』
そど子 『あったり前じゃない!当ててんのよ、わ・ざ・と!!…それに、私の名前は「そど子」じゃなくて「園みどり子」よ!』
ジュインッ
麻子 『おお…久しぶりだな、このやり取り。感慨深い』
キキーッ
ゴモヨ 『…でも、前進からわざわざ切り返してバックでバリケードをぶつけるのは面倒かも…』
そど子 『一手間多い分、ロスになるわね。悔しいけれど、西住隊長の言う通り全速後退で移動した方がいいのかしら?』
麻子 『自然に無視するな。悲しくなるだろ?』
ゴモヨ 『でも、バック用カメラ越しだと車間が掴みにくくて…』
ギュインッギュインッギュインッ
華 『…皆さん?まだ終わってないですよ?覚悟して下さいね?!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ギャーギャー
みほ 『うふふっ…』
パゾ美 『あの場にいなくて良かった…』
みほ 『ふふっ…そうだよね。例の特殊カーボンでも、さすがに水までは防げないもんね?』
ビショビショ…
佐久間 『うおっマジか?』
後藤 『あーあ、テントも水浸しじゃないの…』
佐久間 『…大分、砕けてきたな?』
後藤 『そりゃあ、久しぶりに皆揃っての練習だもん。テンションも上がるだろうさ…』
…サーーーー………ッ……
みほ 『…あ…これって…』
後藤 『…良い風が出てきたな…これが、新レイバー隊の空気ってやつかな…』
みほ 『新レイバー隊の…』
ギュインッ!
麻子 『皆して虐める…西住隊長、何とかしてくれ』
キキーッ
優花里 『あーっ?西住殿を頼るのはズルいですよ!?』
ギャギギッ
そど子 『自己申告での隊長アドバイスは、1ミッションで一回にしてよね?』
ギャーギャー
みほ 『あ…うふふっ…』
ブロロッ…
パゾ美 『…さ、西住隊長?どう、動きますか?指示を』
みほ 『…金春さん』
後藤 「…ほら行け西住?皆が呼んでる。お前が行かなきゃ、このチームは始まらないんだぞ?」
みほ 『はいっ!…麻子さん?それじゃあ、中央広場北のビルを背にして?それなら物理的にキャリア組は届かないし、後ろのビルを気にして二号機は手を出せないから』
ギュインッ
麻子 『!それは良いことを聞いた…今日は1日ここに居座ってやる』
ギッチョン
優花里 『あーっ?地の利を活かした籠城は卑怯でありますよ!』
華 『第一それでは訓練になりません!』
ヂュイン?
麻子 『何を言う?地の利を活かすのは兵法の基本だぞ』
みほ 『…大丈夫!あんまり居座るようなら、キャリア組に広場の脇に押し寄ってもらうから』
そど子 『それいいわね?覚悟なさい、冷泉さん!』
ゴモヨ 『追い立てます!』
…ガーッガッキガッキガッキ
麻子 『ガーッ。その仕打ちはあんまりだろ?少しは休ませろ』
沙織 『あーっ?やっぱりサボリだったのね?』
麻子 『お前どっちの味方(バックス)なんだ?』
みほ 『…あ。次のミッションは仮想地図を書き換えますね?』
麻子 『鬼か!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ギャーギャー
佐久間 「おう…おう…ああっ、何でそこで…よし、いいぞ!」
後藤 「どうだ?」
佐久間 「やっぱ実戦慣れしてる連中だよ!放り込んで大正解だわ…なあ、後藤?」
後藤 「何だ?」
佐久間 「…俺ぁ練習時の一時的なチーム編成はやってきたが、実質的なチーム編成を一から構築するの、実は初めてなんだよ」
後藤 「感想は?」
佐久間 「…楽しいなあ!やっぱ現場がいいよ。各々のパーツが組合わさって一つになり、有機的に繋がって、無駄を省き、磨き上げる…予想とはまた異なる物が産まれる…組織作りの妙だよなあ…」
後藤 「組織作りは即興ライブみたいなもんだからな。生み出す空気は、指揮者たるコマンドと、それを演じるチームメイトが造り出していくもんだ。西住…これがお前らの、お前のレイバー小隊だ」
みほ 『…私達の…』
後藤 『そういや、体裁上お前さん達は第二小隊の予備人員て事になってる訳だが…まあ、ややこしいわな?第二小隊とは別の呼び方を決めときたいんだが…単純に第三小隊とでもしておくか?」
みほ 『…あんこう…』
後藤 『…うん?』
みほ 『あんこう、小隊…これが、私の、私たちのレイバー隊…あんこう小隊」
後藤 「特車二課 あんこう小隊、か…」
そど子 『私達はカモさんチームよ?!』
麻子 『うるさい、そど子』
そど子 『えっ…何か、酷くない?』
みほ 『あ、あはは…ごめんね?カモさんチームの皆。でも私、今回は皆で一つのチームになりたいの。だから…』
ゴモヨ 『そういう事なら、私は、別に…』
パゾ美 『総合指揮車とキャリア二台で、カモさんチームは健在だし』
そど子 『し…仕方ないわね。じゃあ、今回だけはそれで行きましょ?』
麻子 『…やれやれ、やっと納得したか』
華 『皆さん、ありがとうございます』
沙織 『何かようやくまとまった気がするよー』
優花里 『引き続き頑張りましょう!』
後藤 「…そうだ。まだ訓練は終わってないぞ?気合入れてけ?ビシッと!!」
佐久間 「…名前も決まって、ようやく一つになったってのに…明日でもう、終っちまうんだなあ… 」
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~五日目
ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 校庭~
後藤 「…~今日午後の最終合同訓練で、お前達の成長度合いをしっかり見せてもらった」
佐久間 「五日間の短い間だったが…カモさん?チームの連中は四日間か。無茶なカリキュラムに、よくぞここまで食らい付いて来てくれた。改めて礼を言わせてもらう、ありがとよ!」
みほ 「そんな…」
華 「こちらこそ、未熟な私達をここまで教えて頂いて、感謝しています」
優花里 「佐久間教官?本当にありがとうございます!」
そど子 「全くもって無茶ぶりも甚だしかったわよ…」
ゴモヨ 「最初はどうなる事かと…」
パゾ美 「何とか生きて大洗の土を踏めそう」
麻子 「もっと褒めてくれても構わないぞ?」
沙織 「…ちょっと!あんた達ねー?」
佐久間 「ったく…お前達のかしましさは最初から最後まで変わらんな?まあ、最後まで元気なのは何よりなんだが」ハァ…
後藤 「…で、どうだった佐久間?こいつ等の最終評価は」
佐久間 「そうだなあ…ま、辛うじてお墨付きって所かな?しかも、各自のパートに限定しての物だが」
後藤 「…そうか。何とか形になったって事か…」ニヤリ
華 「お墨付きって…評価されている立場でなんですが、少々甘いのではないでしょうか?」
佐久間 「んなっ?!」
後藤 「おいおい、特機教育のスペシャリストに何て事を…(でもまあ、いいか。奴のお墨付きが役立つのは、特車二課に行った時だけだし、増長されるよりよっぽどマシだからな…)」
佐久間 「あのなあ?俺がおべっか使える程器用だったら、こんな所で教官なんざしてねえよ」
みほ 「私達には比較対象のイメージが極端に乏しいので、正直あまり実感が無いんです…」
沙織 「私なんか特にそうだよお…」
佐久間 「…ああ、そういう事か。自信が持てないって話だな?」
沙織 「はい…」
佐久間 「んんッ、分かった!餞別がわりに、一つ話をしてやろう。…お前達は、何で特機生が極端に少ないか、その理由は分かるか?」
優花里 「…人気が無いからでありますか?」
そど子 「出世、出来ないから」
麻子 「教官が今時流行らないモーレツスパルタ式教育だから」
佐久間 「あんなのスパルタに入るか!最後までお前達は…こういう時くらい素直に話をしろや」
沙織 「それ以外の理由が、何かあるんですか?」
佐久間 「意外と辛辣だな、お前も…。理由は、お前達が受けた『特性試験』にある。武部?お前、俺がお前達のポジションを発表した時、何て言ったか覚えてるか?」
沙織 「確か…『あんなに揺れちゃ、髪も服も乱れ捲り』って言ったような…」
佐久間 「…俺は、お前のその言葉を聞いた時、正直言って呆れもしたし、恐れもしたよ。気が付いてたか?」
沙織 「呆れた上に、怖がられてたんですか?私!」
佐久間 「お前達が受けた特性試験はな?レイバーの中でも『最凶クラス』の難易度を誇る『篠原製AVシリーズ』用。…100人のうち二人通過すれば御の字という、超難関試験なんだよ!」
みほ 「?私達全員通過してますが…」
後藤 「普通の人間はな?『天国にも昇る気持ちで地獄行き』って、途中リタイアしちまう代物なんだわ。かく言う俺も洗礼を受けた」
優花里 「…それはひょっとして『酔う』って事でありますか?でもあの程度の揺れで酔っていては、とても戦車には乗れません」
佐久間 「それだよ。戦車道受講者が当たり前のように持つ『揺れ・閉所内での集中力維持』。それはパトレイバーの操縦者に必要な絶対条件なんだ」
沙織 「そうだったんだ…」
佐久間 「お前達がどれだけの逸材か、少しは分かってもらえたか?それに、どんだけ戦車の中で転げ回ってるんだよ、お前らは…。それだけで、どれだけ戦車道にかけてるかが分かるわ…」
優花里 「きょ、教官殿…」
佐久間 「特車二課で存分に暴れる姿を見てるからな?あと、大洗戦車道で皆が再び活躍する日を信じて楽しみにしているぞ?」
華 「…はい!」
パゾ美 「そうだと良いけど…」
佐久間 「まあ駄目ならここに来いや。まとめて面倒見てやるから」
沙織 「そ、それはちょっと…」
ゴモヨ 「困るかも…」
佐久間 「ああ、それと…練習時に蓄積したデータディスクは持ってるな?特車二課についたら、整備班班長に提出する事」
麻子 「…分かった…」
そど子 「忘れないようにするわ…」
佐久間 「俺の方からおやっさ…整備班長に話しておく。シゲ…整備班主任が、各自に合った第二小隊の蓄積データをフィードバックしてくれるはずだ。それからな?それから…」
みほ 「教官…」
後藤 「…」
佐久間 「…呉々も体には気を付けるように!
これにて、特教練での全ての特別講習課程を修了とする。皆、ご苦労だった!!」ニカッ
ザッ!
みほ 「…佐久間教官。ご教授、ありがとうございました!」ケイレイ!
ザザッ!
あんこう小隊 「「ありがとうございました!!」」ケイレイ!
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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 敷地外公道~
後藤 「…助かったよ、佐久間。何とか形にしてくれた。俺からも礼を言うよ…」
佐久間 「…」
後藤 「…」ゴソゴソ
シュボッ…フーッ…
後藤 「…吸うか?」
佐久間 「…敷地内は禁煙だぞ?」
後藤 「ここ、とっくに敷地内じゃないじゃん」
佐久間 「…警察が良いのかよ?こんな所でタバコ吸って」
後藤 「路上喫煙禁止地区じゃない一般道だろ?ちゃあんと調べてあんだから」
佐久間 「この辺のお巡りの巡回時間もだろ?…火」
後藤 「…」
シュボッ…
スーッ…フーッ…
佐久間 「…旨え…」
後藤 「…そいじゃ俺も、ボチボチ行くわ。アイツ等のレイバーを特車二課に届けなきゃならんからな…何よその手は?」
佐久間 「…没収。タバコと携帯灰皿、預かっとく」
後藤 「…駄賃代わりってか?」
パシッ
佐久間 「…おやっさんやシゲ、南雲さんによろしくなー?あとついでにアイツらにも」
後藤 「おーう…」
フーッ…
佐久間 「…歳取ると…やたらと煙が、目に沁みるよなあ…」
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ーー大洗行特別バス車内
みほ 「…」
沙織 「佐久間教官…見えなくなるまで、ずっと見送ってくれてたね…」
麻子 「うん…」
華 「厳しくも優しい教官でした…」
優花里 「ちょっと寂しいですね…」
みほ 「…六日目と七日目の明日・明後日は、ひとまずお休みだね。皆、どうするつもりなの?」
麻子 「とりあえず、Ⅳ号に乗ってから考える」
沙織 「おばぁの所に帰らなくて良いの?」
華 「書類関係の件もありますし…」
優花里 「…あれから、学校の方は何か進展はあったんですかねえ?」
そど子 「ある訳無いでしょ?あったら私達全員呼び戻されてるわよ」
ゴモヨ 「大洗に久しぶりに戻れるのは嬉しいけど…」
パゾ美 「辛い現実を突き付けられるみたいで…少し嫌かも」
そど子 「…ま、私達もB1bisでヤケアイスにヤケおでんでも食べに行くわ」
麻子 「珍走団…」
そど子 「おだまり」
みほ 「園さん…?」
そど子 「…安心して、西住さん。ちゃんと週明けには特車二課に行くわ。来週一杯しか無いけど、私達の唯一の居場所なんだから…」
みほ 「…分かりました」
沙織 「とりあえず皆、戦車には乗るんだねえ…」
華 「そういえば沙織さん。昨日はフテ寝してましたけど、もう東京巡りや彼氏さんの事は諦めたんですか?」
沙織 「いいもん。こうなったら特車二課に期待するもん。何てったってシーサイドベイシティだよ?きっと素敵に決まってる」
麻子 「…(懲りないな、沙織は…)」
優花里 「…(悪い予感しかしません…)」
沙織 「…どんなとこなんだろうね?特車二課って…」
みほ 「うん…緊張が先に立つけど、少し、楽しみかな…」
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ご覧頂き、誠にありがとうございました。
以下、【ガルパン】西住みほ「特車二課 あんこう小隊、です!」【パトレイバー】 ~第五章へと続きます。
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