2016-11-06 12:20:22 更新

概要

レイバー犯罪増加に伴い設立された「特車二課」が手薄となる所を見計らい、過激派環境保護団体の驚異が迫る!
その危機に対抗すべく後藤隊長が招集したのは、大洗戦車道チームの5人+αの少女たちだった…。

「ガールズ&パンツァー 劇場版」と「機動警察パトレイバー」のコラボSSです。


前書き

祝!「ガールズ&パンツァー 最終章」製作決定&「機動警察パトレイバーREBOOT」発売記念

・全七章の中から、冒頭一~三章を収録。
・コラボSSが苦手な方にはお勧め出来ません。
・時系列、設定のご都合独自設定あり。
・パトレイバー漫画版 第一巻の再構成となります(設定は色々良いとこ取りです)。

よろしくお願い致します。



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〈 第0章. プロローグ 〉



煌々と日差しの照りつける、とある夏の日。

よくある中古マンションの窓際で、一人の中年男がビールを片手に煙草を燻らせている。


二週間ぶりの休日という事もあり、気になっていた部屋の掃除と洗濯物干しを終えた後の一服。

家族もいない中年男にこれといった予定があるはずも無く、悠々と堕落をむさぼっていたのだ。


音量を絞ったテレビのチャンネルをザッピングし、とりとめもない世間のニュースを眺める。


環境保護団体のデモ活動、著名芸術家の展覧会、アイドルの一日署長、各種スポーツの話題…etc。


そんな中、とある話題になった所でテレビの音量が大きくなる。男の興味を引いたのは、「戦車道全国高校生大会」に関するものだった。



『…ついに大洗女子学園が決勝進出!黒森峰女学園とは、因縁の西住流姉妹対決となります。強豪の黒森峰に対し、大洗がどのような奇策で挑むのか?実に楽しみですね!!』



義務感だけの笑顔と声色で最低限のレポートを行うアナウンサーにしかめ面をしつつ、男は一人ごちる。



「ほう、決勝進出か。こりゃあスゴいわ…」



どちらかと言えばマイナーな部類に入る競技「戦車道」。男自身も知識では知っていたが、それほど興味があった訳では無い。


それが今では無意識に情報を追いかけるようになり、形ばかりとは言え、世間一般のニュースにも取り上げられるようになった。


こうなる原因は一つしかない。

素人が一目見て分かるような、常識を覆す台風の目「スーパースター」が現れたからだ。



「…なるほど、面白いな…」



ふと何かしらを思い付いた男が浮かべた表情は、決して誉められるような顔では無かった。


良からぬ事を企む「悪い」笑顔だ。



「…おー~、てーかちゃ~んす♪」



上手く事が運べば、以前から心中の何割かを占めていた懸念事項が、一気に解決するかもしれない。


男は上機嫌で、たった今思い付いた「悪企み」を形にすべく、テーブル上のノートパソコンを開き、何事かをポツポツと不器用に打ち込み始めた…。



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〈 第1章. 特車二課の憂鬱 〉



ハイパーテクノロジーの急速な発達と共に、あらゆる分野に進出した多足歩行式大型機械「レイバー」。

しかしそれは、レイバー犯罪とも呼ばれる新たな社会的脅威をも産み出した。


続発するレイバー犯罪に対抗すべく、警視庁は本庁警備部内に特殊機械化部隊を創設した。

通称「特車二課」…パトロール・レイバー中隊、パトレイバーの誕生である。


特車二課は、才女「南雲警部補」が隊長を勤めるエリート部隊の「第一小隊」と、曲者「後藤警部補」が隊長を勤める愚連隊「第二小隊」の、計二小隊で構成されている。


物語は、第二小隊 後藤隊長のもとに、刑事部捜査一課の「松井警部補」が訪れた、約一ヶ月前に遡る…。



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--特車二課棟内 中階段 喫煙コーナー



後藤 「…東京・大阪で、過激派環境保護団体による同時破壊活動計画?」


松井 「そ。二ヶ月後、大阪に新たに出来る特車課立ち上げ式典前後のタイミングでね。確か、アンタん所の第二小隊も参加するって…」


後藤 「大阪で採用されたレイバーが最新鋭のAVS-98。ウチと同じAVシリーズって事で、合同訓練に一週間ほど駆り出される事になってね」


松井 「一緒に行くんだろ?悪ガキ共を引き連れて」


後藤 「引率係は南雲さん。旧式レイバーの第一小隊は、俺と一緒にお留守番」


松井 「ややこしいな。何でアンタが行かないの?」


後藤 「特車二課にとっては久しぶりの花道だよ?南雲さんもこんな僻地に島流しされて色々溜まってただろうから、花道を譲ったって所かな」


松井 「嘘つけ。大方、お上と顔合わせるのが面倒で押し付けたんだろう?」


後藤 「俺みたいな不良中年が行くよりは、エリートで美人な南雲さんが行く方がよっぽどマシさ。まあ、win-winなやり取りだよ」


松井 「まあいいさ。話を戻すと…その計画、実は東京では二ヶ所。大阪と合わせて合計三ヶ所で行うつもりらしい」


後藤 「小規模な過激派団体にしては、ずいぶんと景気の良い話じゃない?」


松井 「『地球防衛軍』『海の家』、二つの過激派団体の共同作戦だよ」


後藤 「そこまで分かってるんなら、一気に踏み込んで一網打尽にしちゃえば?」


松井 「それが出来るなら苦労は無いさ。第一、アンタん所に来やしない…状況証拠ばかりだし、物的証拠は何も無い。でも、事実なんだ」


後藤 「東京圏内のレイバー事件に対処するのに、二小隊だけでも足りないってのに…ったく」


松井 「特車二課が手薄な頃合いを見計らって、今までの恨み辛みを一気に晴らそうって腹みたいだな…で、どうする?」


後藤 「どうする、とは?」


松井 「何か策はあるのか?って事だよ。袖の下無しで協力するぜ。今回に関してはな」


後藤 「策って言ってもなあ…無い袖はさすがに振れないよ。動いてどうにかなる位なら、とっくに第三小隊が出来てるって」


松井 「かと言って、周辺区に配属されてる交通管制用レイバーとロードモビルの寄せ集め部隊じゃ、暴走レイバーの相手が務まる訳が無いだろ?」


後藤 「こっち側のレイバーはまだ何とかなる。問題は金と、何よりも人材さ。有能そうなのは例の大阪に軒並み持っていかれちまったからね」


松井 「流石のカミソリ後藤も、今回に関しては『超法規的措置』すら取れないか…」


後藤 「人聞きの悪い事を。その何ちゃら措置って言い方、止めてもらえない?」


松井 「その何ちゃらを幾度となく行ってきた問題だらけの特車二課が、何のお咎めも無く今だ健在な所が、一番凄い『超法規的処置』だけどな?」


後藤 「その半分以上は、アンタからの持ち込み案件だって事を忘れてもらっちゃ困るよ」


松井 「…ま、何か思い付いたら連絡くれや。ボチボチ行くよ。こっちばかりじゃなく、たまには本業の方も進めておかないと、また上からドヤされちまう」


後藤 「何はともあれ、貴重な情報をありがと。そっちも何か動きがあったら…」


松井 「了解、すぐ連絡するよ」


後藤 「この借りはいずれ、また。精神的に」


松井 「ハッ!心にも無い事を…第一、中年男からの恩返しなんざ、気持ち悪くていけねえや」



後藤 「…名目、体裁、タイミング。そして、才能か。あ~あ、どっかにいないかね?そんな都合の良いライトスタッフが」



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〈 第2章. 廃校阻止大アピール作戦です! 〉



古くから大和撫子の嗜みとして、華道・茶道と並び称される武芸「戦車道」。


今年度限りの廃校が決定していた「大洗女子学園」の「角谷 杏 生徒会長」は、「文部科学省 学園艦教育局担当官」との交渉により「優勝すれば廃校撤回の可能性有り」との言をとり、戦車道を復活させる。


名門「西住流」の名を持ちながら戦車道から遠ざかっていた転校生「西住みほ」は、杏からの依頼により大洗のチームリーダーとして戦車道に復帰。「あんこうチーム」の精神的支えもあり、大洗の快進撃を支え、見事優勝へと導いた。


ところが事ここに至り、当の文科省担当官から「先の言葉はあくまでも可能性でかつ口約束であり、廃校撤回成らず」と告げられてしまう。


後藤が頭を悩ましていた頃から約一ヶ月半後。学園艦を追われた大洗女子学園は再び、最大の危機に直面していたのだった…。



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ーー大洗女子学園 臨時滞在地 生徒会室



杏 「…という訳で、今後の我々『生徒会 執行部』3人の役割分担を発表するよ?」


桃 「ハッ!」ビシッ


柚子 「はい!」ビシッ


杏 「まずは…かーしま?生徒会長代理として、今から私の持つ大洗校内全てにおける権限を一任する。引き続き待機中の全生徒の面倒を見つつ、転校先の振り分けを終わらせるんだ」


桃 「ううっ…か、会長ぅ~…」グスグス


杏 「泣くな、かーしま。私はこれから、大洗女子学園存続のために外部交渉に向かうんだから!」


桃 「!?」ハッ


柚子 「か、会長はやっぱり諦めていなかったんですね?!」ウルウル


杏 「もちろん!だからこそ、私のいない間の大洗は任せるよ…出来るね?」


桃 「ハッ!お任せ下さいっ!!」


杏 「それと、小山?…私は大洗存続に向けてあらゆる手段を講じるつもりだけど、小山にはかーしまのフォローと並行して、その細かい詰めをしてもらう。大洗校内と外部のパイプ役と言ったところかな?」


柚子 「はい、分かりました!」


杏 「廃校最終日の8月31日までに廃校措置を止め、復活まで道筋を作らないといけないからね。でも…そのためには、もう1つやっておかなきゃならない事があるんだ」


桃 「この忙しい最中に、まだやる事があるんですか?!」


杏 「後ろ楯の無い私達が頼りに出来るのは『戦車道優勝の実績』と、それに伴う『世論の後押し』しか無い。この世論を更に味方につけるため『戦車道メンバーを徹底的に世間に露出させる』事にする!!」


桃 「世間に露出って…会長、具体的にはどうされるつもりなんですか?!」


杏 「幸いな事に、戦車道優勝校という事で外部から幾つかのイベント参加オファーが来ていたよね?」


柚子 「それはもう、夏休みという事もあって色々と…こんな感じですね」



・アヒルさんチーム…ビーチバレー関連


・アリクイさんチーム…ゲーム・キャラクター関連


・ウサギさんチーム…バラエティ番組(素人参加型)


・カバさんチーム…地域復興・歴史関連


・レオポンさんチーム…各種レース関連



杏 「義憤、同情、泣き落とし!世間から文科省への抗議が勢いのあるうちに、話題性を風化させないよう、次の一手を打たなきゃならない」


柚子 「会長、それでは…?!」


杏 「校内外の仕事を行う我々カメさんとカモさんチーム以外は、片っ端からスケジュールを叩き込んじゃえ!」


桃 「でも会長?コレ等はいずれも、学生にあるまじき『際どい格好』を要求するとして一度は却下したものばかりですよ?!」


杏 「この際、命に危険が及ばないのなら多少の事には目をつぶろう!ウチにはスタイル良いのからマニアックなのまで、あらゆるニーズに答えられる逸材が揃っているからね?!」


柚子 「か、会長が久しぶりに暴走してる…!」


杏 「名付けて『廃校阻止大アピール作戦』!期間限定出血サービスだ持ってけドロボー!!」コンチクチョー


桃 「ではあんこうチームは、大洗観光大使でもしてもらいますか?」


杏 「それ良いねー!また例の格好であんこう躍りでもしてもらおっか!?」


柚子 「際どい格好をさせるのが目的になってませんか?!…冗談はともかく、あんこうチームは戦車道がらみの各種イベントにオファーが殺到しています」


杏 「今は戦車道関係者の協力が必要不可欠。ナーバスなこの時期に、あまり余計な気使いはさせたくないし、したくないな」


桃 「では、大洗に待機させますか?」


杏 「話題性抜群のエースを遊ばせておくつもりも無いんだなあ…実は一つ面白いオファーがあってね?あんこうチームは『基本的に』こっちをやってもらおうと思ってる」


桃 「ん?『警視庁 特車二課 体験入隊』?…あのパトレイバー中隊であんこうチームに何をさせようってんですか?」


杏 「『一日署長さん』のような物らしいよー?制服着て、撮影して、パレードして、業務の真似事をするとか何とか」


柚子 「『基本的に』というと、何か気になる事でもあるんですか?」


杏 「…条件項目を読み上げてみてくれる?」


柚子 「ええと…予定期間は8月第三週から四週の12日間。記者発表から八王子の特機専門研修校に移動し、5日間の講習。後2日の休日を挟み実地で5日間勤務…な、何ですか、これ?!」


桃 「『一日署長』なんて軽いものじゃ無いじゃないですか?!」


杏 「そういう事。警察がPR用の『提灯』として依頼してきたにしては、ガチ過ぎるんだよねー…『あんこう』だけに!」ドヤァ


柚子 「では、どうしますか?」スルー


杏 「私が責任者の所に行って直接話してみる。あんこうチームの皆には話をして準備を進めておいてよ。問題があるようなら、この話は断る…どうにもキナ臭いんだよね?この案件…」ヤレヤレ



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ーー大洗女子学園 臨時滞在地 離れ小屋



みほ 「私たちが特車二課、パトレイバー中隊へ体験入隊、ですか?」


優花里 「何か、トンでもない所から話が舞い込んで来たものですね」


柚子 「現在行方知れずの会長自ら話をつけてきたの。もちろん、あんこうチームの皆の了承を得てからの話になるんだけど…」


優花里 「他チームの皆も、馴れないイベントに参加してアピールに努めている中…」


華 「…私たちだけ断るわけにはいきませんよね?」


みほ 「うん、私もそう思ってた。じゃあ参加という事で皆、良いかな?」


麻子 「枕が変わると上手く寝れないんだが、まあ仕方ないかな」


みほ 「沙織さんはどう…あれ?」


沙織 「…き…き…キターーーッ!!」


みほ 「キャッ?!」


華 「さ、沙織さん?もう少し落ち着いて…」


沙織 「コレが落ち着いていられますかっての!コレよ、コレ!こういうのを待っていたの!!」


麻子 「ノリノリだな、沙織」


沙織 「これ全国のニュースで流れるんだよね?!しかも、行き先は東京だよね?!」


柚子 「え?え、ええ。そのはず、だけど…」


沙織 「ううっ、燃えてきた~…あーもー!この機会に、東京で、いや!日本中の男達を虜にしちゃうんだからね!!」


みほ 「あはは…。でも、東京は私も少し楽しみかも。ショッピングや、ボコ関連グッズが充実してそうで」


柚子 「あ、西住さんは入隊式と除隊式の各々で一言挨拶してもらうから、何を話すか考えておいてね?会長から『文科省が廃校撤回を反古にした事は必ず言っておいてねー』との伝言よ」


みほ 「」


優花里 「西住殿が一瞬で固まってしまいました」


華 「みほさん…大勢の人前で話すのが苦手なの、相変わらずなんですよね」


麻子 「とても戦車道を制した『軍神』とは思えないな」


沙織 「変わってあげたいのは山々なんだけど…コレばっかりは隊長の役目だから、仕方ないね」


柚子 「…それにしても、さすがあんこうチームね。廃校の件があっても落ち着いてて…」


優花里 「実感が沸かないだけでありますよ。落ち込んでいても仕方ありませんし」


華 「…花はどこにでも咲けますから。それに、廃校阻止のために生徒会長が外回りしてくれている訳ですものね?」


沙織 「そうそう!今は東京とテレビの事だけ考えてればいいの!!」


麻子 「…その後、会長からの連絡は?」


柚子 「それが、まだ…。でも、桃ちゃんが言ってたの。こういう時にこそ、我々が何とかしなければ、きっと会長が何とかしてくれるって!だから皆、頑張りましょうね?!」


みほ 「…」



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--特車二課棟内 2階 隊長室



南雲 「…それじゃあ何?後藤さんは、普通の女子高生をレイバー隊にでっち上げるつもりなの?!」


後藤 「でっち上げるだなんて人聞きの悪い。本気で一端のレイバー隊員位には仕立て上げるつもりだよ?…そもそも彼女達は普通じゃない。戦車道履修生の中でも超一級の逸材なんだってば」


南雲 「同じ事よ!まだ子供じゃないの」


後藤 「…(年増なら良いのかね?忍さんみたいな)」


南雲 「何か言いたそうね、後藤さん?」


後藤 「別にー…それよりもさ?よく考えてご覧よ。そうでなくても、金喰い虫、東京辺境への島流し、出世街道脱落コース、始末書製造元…散々な風評被害に晒されている我が特車二課にだよ?」


南雲 「よくもまあ、自分の所の悪口をスラスラと並べ立てれるわね?」


後藤 「俺自身の悪口じゃないもん。第一、それが事実だし」


南雲 「…はいはい、認めます。要は、現役の警察官で、こんな所に好き好んで来る物好きなんかいないって事よね?」


後藤 「そ。かといって短期教育の予備校生は、正直 質が悪い」


南雲 「…数少ない優秀者は、予備人員も含めて大阪に送り込んでしまったし、ね」


後藤 「忍さんの危惧する所は、俺も同じだよ。今の候補者は、いずれもレイバー隊員としての資質に欠けるって言いたいんでしょ?」


南雲 「それはそうだけど、だからと言って素人の女子高生に頼るわけにはいかないでしょ?」


後藤 「素人、ね…。1つ聞きたいんだけど、忍さんの考える『レイバー隊員としての必要資質』って、3つ最低条件を上げるとしたら、何?」


南雲 「3つの最低条件?そうね…」


後藤 「ちなみに俺はこう考えてる。

その1。レイバーという特殊ツールを運用するための『専門技量』。

その2。与えられた条件下で、最適化した『作戦立案能力』。

その3。隊のチームワークによる『作戦実行能力』」


南雲 「…まあ概ね、そんなところかしらね?」


後藤 「『その1』はともかく、『その2』『その3』いずれも短期育成の予備校生には荷が重過ぎる。限られた資材と人材、土地の利…刻々と変化する状況に、基本はチームで、時には個別に即時対応しなきゃならない訳だから」


南雲 「その条件を満たしているのが、例の戦車道履修生って言いたい訳?」


後藤 「その通り。特に無名校だった大洗を優勝に導いたあの西住って子、あれは本物だ。それに彼女が搭乗している戦車は、他の奴らと動きの次元が違う」


南雲 「随分とその西住さんとやらにご執心な事」


後藤 「まあ、一目惚れみたいなもんだからね」


南雲 「『その2』『その3』は、後藤さんの熱意に免じて百歩譲るとしてもよ?…私は『その1』が一番の問題だと思うんだけど」


後藤 「…まあそれは、先方も戦車という『特殊車輌』を扱う『同じ穴の狢』という事で」


南雲 「さすがにそれは、ちょっと強引過ぎるんじゃない?!」


後藤 「無茶は承知の上。そのためにわざわざ研修期間を設けたんだから…まあ、いざとなったら俺もいるし」


南雲 「カミカゼ管理職ねー…」ハァ


後藤 「んで、各自の特性を活かした役割分担を行い、特機専門研修校で各々の基礎を徹底的に叩き込んでもらう」


南雲 「八王子の特機専…別名『レイバーの穴』ね」


後藤 「佐久間が教官なら、元々才能のあるメンバーだし、短期間でも何とか形にするだろう。そのためには、まず元締めに本案件を納得してもらわにゃならんわけだが…」


キキイッ…バタム


南雲 「あら珍しい。松井さん以外が特車二課を訪ねて来るなんて…何あのレトロな軍用車は?!何で警察の敷地内に軍用車が乗り込んでくるわけ?!」


後藤 「ほう、くろがね四起か…俺も見るのは初めてだ。さすがは戦車道の…」


南雲 「そんな事どうでも良いのよ!何でこんな所に、軍用車で女子高生が乗り付けてくるかって聞いてるの?!」


後藤 「落ち着きなさいって。例の大洗からのお客様だよ」


南雲 「え?ええ…じゃああれが、後藤さんの恋人?」ヒソヒソ


後藤 「…いや。どちらかというと、彼女の親御さんて所かな?」ヒソヒソ


南雲 「何よそれ、不安になるような事を言わないでくれる?」ヒソヒソ


後藤 「興味、出てきたでしょ?」ヒソヒソ


南雲 「嫌な予感しかしないわよっ?!」ヒソヒソ



杏 「…♪」ニイッ



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--特車二課棟内 2階 会議室



後藤 「…粗茶ですが」コトッ


杏 「やあやあ、どーもどーも。本日は急なご相談にお付き合い頂き、誠にかたじけない」ズズーッ


後藤 「遠路はるばる、ご苦労さんです。私、特車二課 第二小隊の隊長を務めさせて頂いてる後藤って者です」ズズーッ


杏 「大洗女子学園の生徒会長、角谷 杏です」ニカッ


後藤 「…で、わざわざお越し頂いたという事は、私どもからのご依頼の件で、ですよね?」コトッ


杏 「ええ。この度は大変魅力的な催しにウチのあんこうチームをお誘い頂き、誠にありがとうございます」コトッ


後藤 「…あ、この際ですから足は崩して頂いても構いませんよ?無用の遠慮は、お互い無しと言うことで」


杏 「そいつは有難い。それじゃ遠慮無く…足を崩すと言っても、中は見せないけどね?」キャーエッチ


後藤 「ありゃま。そりゃ残念」ヤレヤレ


杏 「…ぶっちゃけ、『この時期』に、『二週間』も、何でウチの『あんこうチーム』をわざわざ指定してきたのか?その理由が知りたいんすよ」


後藤 「うら若き可愛らしい女の子と制服、ウチの場合はあとメカか…この手の組合せは、昔から手堅い人気がありましてね?」


杏 「確かにウチの子達は普通に可愛いですが…知名度的にも容姿的にも、芸能人や著名人に劣りますよね?ただの女子高生な訳だし」


後藤 「さっきの件に1つずつ答えていくと…『学生さんが夏休みな事を考慮し』、『充分な知識と体験を通じ、安全性をも身に付け』、『今話題の戦車道のスーパースターをお迎えする』…そうおかしな話でも無いと思いますが?」


杏 「…今ウチがどんな状況か、分かってて言ってます?」


後藤 「…ああ。優勝したにも関わらず、廃校が免除されなかったとか…お気の毒でしたなあ?ナーバスな話題かと思って、あえて触れなかったんですが」


杏 「そう、その通り。だから私達には時間が無い。本来ならこんな所で油売ってる暇なんか無いんです」


後藤 「…聞きたい事があるなら、スパッと言ってもらえる?」


杏 「この話の出所はどこ?本当にここ特車二課からの物?」


後藤 「もちろんウチからの依頼だけど…いや。むしろ俺の独断専行に近いってのが問題なのか…」


杏 「…公衆の面前で恥をかかせ、大洗の評判を地に落として廃校を確実な物にしようと…つまりは、そう言うことですよね?!」


後藤 「?…どうにも話が噛み合わないな…何か誤解があるようだ」


杏 「さっきも言った通り、私達には時間がないんです!そっちこそ、隠し事は無しにしてハッキリと言ってもらわないと困ります!!」バンッ


後藤 「…そりゃ確かに失礼でしたね。ごめんなさい」アタマサゲ


杏 「…え?」ポカーン


後藤 「ん?どうかした?」


杏 「あーいや、まさか素直に謝られるとは思っていなかったから…私はてっきり『ばーれーたーかー』とか言い出すのかとばかり」


後藤 「ヒーロー物の敵ボスじゃあるまいし。ま、確かに全てを話していなかったのは事実だからね?身内の恥を晒すような話だし…」


杏 「…あれ?ひょっとして隠してたのって…私はてっきり…」


後藤 「ちょい待ち。そっちが何と勘違いしてたかは後で聞くとして…今から話す事は、依頼を受ける受けないに関わらず、内密で頼むよ?」






(※事の経緯を説明中)






杏 「…なぁんだ!特車二課の人手不足期間を、あんこうチームで補おうって話だった訳ね?」セコイナー


後藤 「まあ、そういう事。失敗なんか考えたくもない話。むしろ成功してくれないと、俺の立場が無くなっちまうよ。それに…」ソーユーナヨ


杏 「それに?」


後藤 「…戦車道に精通するあの子達が、暴走レイバー相手でも十二分に戦える所を見てみたかったから…かな?」


杏 「あーっはっは!ずいぶんと個人的な理由なんだね?…でもま、そういう事なら私も納得できたかな」


後藤 「で、結局アンタが疑っていた事って何なの?」


杏 「例の文科省担当官の遠回しな嫌がらせかと思ってた。あーあ、余計な気を回して損しちゃったよ」


後藤 「こういっちゃ何だが、俺たちは警察の中でも特に浮いてる存在だ。正当性にこだわる連中は、俺たちの事なんか見向きもしやしないよ」


杏 「確かにおじさん、普通のお巡りさんにはとても見えないよね?」


後藤 「おいおい。大洗戦車道のファンに向かっておじさん呼ばわりは勘弁してくれよ?こちらは全国大会での活躍を見てファンレターを出しただけなんだからさ」


杏 「…今、ウチの学校は実質存在しないんだよ?それでも構わないの?」


後藤 「戦車道を勝ち抜いてきた実力は本物だ。それに、このまま廃校で終わらせる気は無いんじゃなかったっけ?」


杏 「そりゃそうだ!(…でもま、そういう事なら、ウチにとってはむしろ良いアピールになりそうだし)」ブツブツ


後藤 「何か言ったか?…なら依頼の件はOKという事で良いのかな?」


杏 「…彼女達を参加させるにあたり、私がハッキリさせておきたい事は一つだけ」


後藤 「まだ何かあるの?!」


杏 「そう嫌な顔しなさんなって。人様からお預かりしてる、私達の大切な戦友の件なんだから。むしろこれからが本題かもよ?」


後藤 「…で、本題って何?」


杏 「決まってる。あの子達の安全策を、責任者として具体的に提示してほしいんだよね」


後藤 「…まあ、そう来るわな」


杏 「でないと、手放しで承認はしかねるよ?さ、頑張って私を納得させるだけの安全策を提示してよね?!」ニカッ



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--特車二課棟内 中階段 喫煙コーナー



後藤 「…」ハァーッ


南雲 「あら、打合せは終わったの?ずいぶんと時間がかかったわね」


後藤 「はあ…若いって素晴らしいなあ。おじさん眩しすぎて疲れちゃったよ」


南雲 「一体何があったの?」


後藤 「…一筋縄には行かない相手でね?しかしまあ最後は、幾つかの提案をさせてもらって和やかに同意して頂きましたよ~…」


南雲 「ちょっと…さては若い娘にかどわされて、無理無茶な難題を押し付けられたんじゃないでしょうね?」


後藤 「んな訳な…そんなに知りたいの?」


南雲 「…知りたいわね」


後藤 「ん~…」


南雲 「何よ、やけに渋るわね?」



後藤 「…やっぱ、教えたげない」



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〈 第3章. レイバーの穴 〉



~一日目



ーー「警視庁 特車二課 体験入隊」入隊式会場 特設ステージ袖



麻子 「これが特車二課の制服。何か、窮屈で息苦しい…」ヒソヒソ


華 「…皆さん、よくお似合いですよ?」ヒソヒソ


沙織 「色合いが派手でビックリしたけど…結構カッコいいよね?!」ヒソヒソ


優花里 「少しパンツァージャケット風なんですよね。…でも、他チームの皆さんに少し申し訳ない気もします」ヒソヒソ


華 「アリクイさんチームやカバさんチームのコスプレはまだ良いとして…」ヒソヒソ


優花里 「レオポンさんチームはメカニックなのにキャンギャルさせられて」ヒソヒソ


麻子 「アヒルさんチームもビーチバレー用水着…」ヒソヒソ


沙織 「ウサギさんチームなんかバニーガールだよ?」ヒソヒソ


優花里 「それに比べたら、私達のは機能的でまともな制服ですからね」ヒソヒソ


沙織 「この制服姿が全国のニュースで流れるんだよね?今度こそ日本中の男達を虜にしちゃうんだから!」


華 「沙織さん?!声抑えて」ヒソヒソ


麻子 「沙織はブレないな…ん?そろそろ挨拶も終わるな」ヒソヒソ


みほ 『…ミッミナサンゴゾンジノトオリ,ワレワレハイマハイコウノキキニタッテイマス.キキトイエバ,ボコラレグマノボコ!ボコハサイコーナンデス!ミンナボコヲミテクダサイ!…』ガピー…


優花里 「ああっ…西住殿は逆にブレ過ぎですぅ」



後藤 「おうおう、初々しい上にかしましい事…でもま、これでようやく役者が揃ったって訳だ」



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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 校庭



後藤 「…よう佐久間。毎度毎度、無理な注文ばかり押し付けてスマンね?」


佐久間 「全くだよ。まさかこの歳になって戦車道教本を片っ端から総ざらいする羽目になるとは思わなかったぜ?」


後藤 「で…やれそうか?」


佐久間 「ギリギリって所だな。共通言語を見出だすのに手こずったが、このメンバー構成でのポジションに合わせたカリキュラムは既に組んである」ポジションメモワタシ


後藤 「まあ後は出たとこ勝負、彼女達の頑張りに期待するとしますか…おーい皆、集合!」ウケトリ


ザカザカザカッ!


みほ 「…大洗女子学園。戦車道履修生、西住みほ以下五名。赴任しました!」ケイレイ


後藤 「うんうん(…凛々しいねえ…)」


佐久間 「…おい後藤?」


後藤 「ゴホンッ…あー、この度は大変な時期にこちらからの依頼を受けて頂き、感謝の念に堪えません。私は特車二課 第二小隊隊長の後藤喜一警部補であります」


沙織 「…(撮影スタッフ帰っちゃった…。隊長って言うから凛々しい感じかと思ってたけど、何かイメージと違う)」ブー


優花里 「…(専用車輌や特機はさすがにまだ片付けたままですよね…)」


麻子 「…(朝早かったから…眠い…)」


華 「…(お腹が空きました…)」


みほ 「…」


後藤 「戦車同様、一つ間違えば驚異にもなりうるレイバー運用ですので、これから五日間のうちに、諸君らにはこの特機専でレイバー運用の基本を徹底的に学んで頂きます」


沙織 「…(えー?徹底的にって…せっかくの東京なのに遊びにも行けそうに無いじゃない!)」


優花里 「…(特殊車輌はどこまで弄らせてくれるのでしょうか…)」


麻子 「…(…眠い…ヤバイ…)」


華 「…(お昼ご飯はまだでしょうか…)」


みほ 「…(驚異…)」


後藤 「…とまあ、お堅い話はここまでにして。まずは実際に君達が動かす事になる特機と特殊車輌を見てもらおうか」



優花里 「!!」



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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 機材格納庫



優花里 「97式レイバー指揮車に98式特型指揮車!あっちには四菱製 98式特殊運搬車も…!」


後藤 「そっちじゃないよ。いや、そっちもなんだが…先に見せたかったのはこっち。お前さん達が実際に運用する特機『パトレイバー』の方だよ」



沙織 「うわー…」


麻子 「デカい。というか、高い」


華 「なかなか男前な面構えですね」



後藤 「『AV-98Tドーファン』…ウチの98式の試作機みたいなもんだ。パワーは劣るが、練習用だから扱いやすい上、機動性も高く、実戦使用に充分耐えうる」


みほ 「…(実戦…?)」



優花里 「はあ…こんな大きな人型機械が街中を歩き回ってるだなんて。よくよく考えてみるとゾッとしますよねー…」


後藤 「俺からしたら、街中を戦車が走り回りって実弾ブッ放している方がよっぽどゾッとするわ…クーデターじゃあるまいし」ボソッ


優花里 「…今時二・二六事件でありますか?ですがこの平和な日本、しかも東京で、クーデターなんか起きる訳無いじゃないですかー」アハハー


後藤 「…」



ナカジマ 「…あー来ましたね、あんこうチームの皆さーん!」


みほ 「レオポンさんチームの皆さん?!」


ナカジマ 「入隊式、見てましたよー?」


沙織 「ヤダモー♪」


華 「それにしても、皆さんどうしてここに?」


ホシノ 「レイバーをはじめとする皆さんの車輌全てに、例の特殊カーボンによる追加装甲を施すよう依頼があったんですよー」


後藤 「そういう事。第一の安全策って事で、ノウハウを持つ彼女達に協力をお願いしたって訳」


スズキ 「いやあ、警察車両しかもレイバー関連の物を外部の者が弄れる機会なんてそうそう無いですからね!貴重な経験をさせて頂きました」


後藤 「ウチの整備員共とは上手くやれた?」


ツチヤ 「最初は多少ギクシャクしましたが、最後は技術者同士、良い感じで連係がとれました

!」


ホシノ 「今度ウチのコスモ・スポーツと、先方のACコブラで、レースしようか?って話してたんですよー?」


後藤 「…(整備員共、まーたおやっさんの車で勝手な事をするつもりだな…)…で、首尾はどう?」


ナカジマ 「レイバーに関しては、研修校で複数使用している練習用の機体から、二機+予備一機をお借りしました」


ホシノ 「特殊カーボンによる装甲追加に伴い、頭部センサーと各種装備はメーカー支給のAVS-98の物に換え、カラーリングも変更してあります」


華 「パトカーと同じ色合いなんですね」


スズキ 「運用及び情報統合システムの搭載も既に完了していますから、すぐにでも初期設定作業に入れますよ」


後藤 「研修初日に何とか間に合わせてくれたか。助かります」


優花里 「レオポンさんチームの皆さんも、私達と一緒に配属されるんですか?」


ツチヤ 「いやあ。私達は車両の引き渡しが済んだら、トンボ返りで次のレース会場に向かいます」


麻子 「それは残念だな…」


ナカジマ 「…あ。カラーリング変更の際、こっそり『あんこうマーク』も入れておきました。時間がある時にでも探してみてください!」


みほ 「皆さん、ありがとうございます!」


スズキ 「…引き渡しも無事終わったから、そろそろ私達も移動しないとね?」


ツチヤ 「それじゃあんこうチームの皆さんも頑張って下さい!」



-----------------



ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 機材格納庫



後藤 「とまあ、実際にお前さん達に使用してもらう特機と車輌を見てもらった訳だが、ここからは…」


佐久間 「教官の佐久間だ。お前達に事前に受けてもらった特性試験の結果を基に、こちらで割り振ったポジションを今から発表する」


麻子 「最初は暗いのが嫌だったが、終わってみれば中々楽しいアトラクションだった」


華 「派手に揺すられましたよね~」


優花里 「ワクワク♪」


みほ 「…(優花里さん、特車・ハイ?)」


沙織 「ゆかりんも変わらないよね~」



・1号 フォワード (レイバー担当)…冷泉 麻子

・1号 バックス (98指揮車担当)…武部 沙織

・1号 キャリア (レイバー運搬車担当) …


・2号 フォワード (レイバー担当)…五十鈴 華

・2号 バックス (98指揮車担当)…秋山 優花里

・2号 キャリア (レイバー運搬車担当) …


・総合指揮車 コマンド (小隊指揮)…西住 みほ

・総合指揮車 バックス (97指揮車担当)…



優花里 「やりました!まさか『98式特型指揮車』に乗れるなんて!!」


華 「特機関係なら、もはや何でも良いのでは…」


麻子 「やっぱりこうなったか…不安しかない」


沙織 「それ、どういう意味よ?…でもアレに乗らずに済んで良かったよ~。あんなに揺れちゃ、髪も服も乱れ捲りだもん」


華 「そんな程度の問題ですか?!」


みほ 「あっ、あのっ!…私の『コマンド』と言うのは?」


後藤 「ああ、それな…西住。お前さんには、この小隊の『隊長代理』を務めてもらう」


みほ 「…ええっ?!わ、私が?」


優花里 「西住殿はそのまま私達の隊長でありますか?!」


後藤 「この小隊メンバーのやる気とやり易さを考えた上での、適材適所を考えての配置だ。あまり気にするな…と言っても無理か?」


みほ 「わっ私、レイバーの事ほとんど知らないし、警察の事もよく分かってないのに…」


後藤 「隊長『代行』じゃない。あくまで『代理』であって、この小隊に限っての権限だ。責任は俺が持つ。周辺配置やフォローはしてやるから、いつも通り安心して指揮してくれや」


みほ 「そ、そんな…」


沙織 「大丈夫だってみぽりん!『一日署長』みたいなもんだって、生徒会も言ってたじゃない?」


佐久間「あー…本日はポジション毎に、担当機に登載された運用情報統合システムの『しつけ(初期設定作業)』を行ってもらう」


後藤 「先に言っておくが『しつけ』は全て本人がやらないと意味が無い。周りの者がしていいのは助言まで。手助けは許さんからな?」


沙織 「えーっ?!」


華 「厳しいですが、やるしかありませんね…」


みほ 「…私、こっちの方が自信無いかも」


麻子 「そうか?時間をかければ誰でも出来そうなものだが」


沙織 「それは麻子だからでしょう?!」


優花里 「助言は許されているんです、頑張りましょう!」


後藤 「短い間だが、これからコイツ等に命を預ける事になる。皆、気合を入れて作業してくれ」


みほ 「…(命を、預ける?)」



後藤 「ところで佐久間。各キャリアと指揮車ドライバーが抜けてるんだが」


佐久間 「聞いてないぞ。そっちで用意するんじゃなかったのか?」



後藤 「…しまった、忘れてた」



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ーー大洗女子学園 臨時滞在地 生徒会室



杏 『3名追加希望だぁ~?』


柚子 「電話をかけて頂いたついでにすいません、会長。何でもレイバーキャリアと指揮統合車輌に、各々ドライバーが必要なんだとか」


杏 『特車二課ってのは、本当に金も人も無いんだね~』


柚子 「先方は、あんこうチームと同じく戦車道履行者三名を希望していますが…どうします?」


杏 『戦車道メンバーのほとんどは、私自ら売り込みかけちゃって出張ってるからねえ…ああ!ちょうど良いのがいるじゃない?』


柚子 「え?」


杏 『ヤサグレてるのが約3名ほど』


柚子 「…ああ、なるほど!」



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~二日目



ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 機材格納庫


麻子 「…それで強制的に連れて来られたのか。不様だな、そど子」


そど子 「学校も無くなったてのに、何をやるっていうのよ…」


沙織 「大洗戦車道の皆で行ってる、例の『廃校阻止大アピール作戦』の一環だよ?知らなかったの?」


華 「カモさんチームの皆さんは、風紀委員の仕事がありましたからね…」


ゴモヨ 「…でも、もう学校が無くなっちゃって…」


パゾ美 「風紀委員も…もう」


みほ 「ああっ、皆さんそんなに落ち込まないで下さい」


優花里 「そうですよ。廃校阻止のために私達あんこうチームが行ってるのが、この『警視庁 特車二課 体験入隊』なんですから!」


佐久間 「はいはい、積る話はそこまで。それじゃあ、三人のポジションを発表するぞー」



・1号 キャリア (レイバー運搬車担当) …園 みどり子(そど子)


・2号 キャリア (レイバー運搬車担当) …後藤 モヨ子(ゴモヨ)


・総合指揮車 バックス (97指揮車担当)…金春 希美(パゾ美)



佐久間 「…ちなみに1号キャリア担当の園は、フォワード冷泉たっての希望により採用の運びとなった」


そど子 「ちょっと冷泉さん?アンタ何て事してくれてんのよ?!」


麻子 「フッフッフッ…かつてそど子は言っていた、規則は守るためにあるのだと。ここではその規則に従って、せいぜい私のレイバーを丁寧に運ぶが良い…馬車馬のようにな?!」ドヤァッ


そど子 「くっ…何という屈辱!」


華 「ここぞとばかりにやり返してますね…」


優花里 「あんなドヤ顔の冷泉殿は滅多に見た事がありません」


後藤 「フォワードとキャリアに上下関係は無いんだけどね」


佐久間 「2号キャリアの後藤モヨ子は…おい後藤?お前の関係者か?」


後藤 「んにゃ。赤の他人」


佐久間 「本当かあ?お前は何を仕掛けてくるか解らんからな…。とにかくこっちの後藤は、戦車道において現操縦手というのが極め手となった」


モヨ子 「ううっ、別に運転がすごく得意な訳でも無いのに…やりますけど…」


優花里 「一緒に頑張りましょう!」


華 「よろしくお願いしますね?」


佐久間 「キャリアは大型車輌だから扱いが難しいぞ?二人とも心してかかるように。…で金春は、西住隊長代理のサポートも兼ねて総合指揮車の運転手を勤めてもらう」


パゾ美 「…にっ、西住隊長のサポート役…?」


みほ 「私は作戦指揮にかかりっきりになっちゃいそうだから…総合指揮車の方はパゾ美さんに任せるね?」


佐久間 「…という事で早速だが、後参のお前達にも『しつけ』の洗礼を受けてもらう。総合指揮車は既に西住がしつけを終えているから、金春は二人に協力してやってくれ」


そど子 「しつけ?!何よそれ…」


麻子 「我々が先に苦しんだ『しつけ』の恐怖、貴様達も存分に味わうが良い…」フフフ


沙織 「難しすぎて頭の中が沸騰しそうになったよね…」


みほ 「やってもやっても終わらないし。エラーが出たらまた最初からやり直しだし…」


優花里 「苦労しました…結局終わったのが夜の十時。それまで晩飯はお預けで…」


華 「お腹が空いて死ぬ思いをしました…」


佐久間 「…昨日PC作業に苦しんだお前達を、今日は外での基本操作訓練で徹底的にしごいてやるからな?!」


沙織 「エーッ?!」


華 「頭脳労働の後は、肉体労働という訳ですか…」


麻子 「やーめーてーくーれー…」


優花里 「今日も泥のように眠れそうですね…」



佐久間 「それじゃあ皆、各担当機の方に移動してくれ!…おい、後藤」


後藤 「ん、何だ?」


佐久間 「…そろそろちゃんと話をしておけよ?さすがに覚悟の無い奴を育て上げられる程、俺の腕は良くは無いからな!」ヒソヒソ


後藤 「分かってる。今から話をするつもりだ」ヒソヒソ


佐久間 「頼むぜホントに…」


後藤 「…あ~、西住?お前さんは別だ。今日は俺に付き合ってもらうから」


沙織 「え、二人きり?…みぽりん、何かあって嫌だったら、大声出してすぐ逃げるのよ?」ヒソヒソ


麻子 「その冗談はさすがに無理がある」


華 「何かあった段階で大問題です」


優花里 「…何かあって嫌じゃ無い状況って、どんな状況なんでしょうか?」


後藤 「聞こえてるぞー。一応俺もお巡りさんなんだけどな?…大丈夫、とって食いやしないよ」


みほ 「大丈夫だよ…多分」アハハ…



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ーー東京 八王子市 「特機専門研修校(レイバーの穴)」 教室内



後藤 「さて…西住。今回の件、どのように聞いている?」


みほ 「生徒会からは『一日署長』みたいなものだと…。制服を着て、撮影取材を受けて、パレードして、業務の真似事をするとか何とか…」


後藤 「…あの角谷とかいう生徒会長とは、話をしなかったのか?」


みほ 「会長は大洗廃校阻止のため、外部を飛び回っていて最近は顔すら会わせてないんです…」


後藤 「さて、どう話したものか…(自分で撒いた種は、自分で刈り取れって事だな。これは…)」


みほ 「あの…隊長?」


後藤 「西住?お前さんにはきちんと話しておきたくてな…先に謝っておく。すまなかった!」


みほ 「え?それは、どういう…」


後藤 「…『一日署長』云々って言うのは、俺が周辺関係者を説得するために使った方便みたいなもんでね?残念ながら、業務の真似事では済まない」


みほ 「方便…ウソ、って事ですか?」


後藤 「そうだ。…来週のいずれかに、お前さん達は十中八九、暴走レイバーとかち合う事になる」


みほ 「え?!う、嘘ですよね…」


後藤 「俺が信頼する筋からの情報でね…残念ながらこれは、嘘じゃない。五日もかけて教習を受けてもらってるのも、実はその対策だ」


みほ 「…どうして、そんな事に?」


後藤 「俺は、大洗が戦車道で躍進を始めた頃からのにわかファンでね。戦車道という枠に捕らわれないお前さんの戦い方は、きっとここでも通用すると思っていた」


みほ 「そ、そんな。私なんか…」


後藤 「それだけじゃない。その戦い方を受けこなす優秀なチームメイトの存在もある…その実力を高く買った俺が、窮地を救ってもらうために大洗に泣きついたんだ」


みほ 「…」


後藤 「この話を受けてくれれば、世間により『大洗危機』をアピール出来る。更に暴走レイバーを討ち取ったとなれば、こちらからの感謝状で『文科省』は無視その物が出来なくなる。…大洗復活の気運を高める大きな力になるはずだ。そういう『取引』を俺から提案したって訳」


みほ 「…そういう事だったんですね…」


後藤 「どちらにしても最終決断は、お前さんと、チームメイトに委ねる…どうだろう西住。気を悪くしただろうが、どうかこの通り。助けてもらえないだろうか?」


みほ 「…もし私が、私達が、やらないと言ったら…どうするつもりなんですか?」


後藤 「残念ながら、この話はご破算って事になるな…あ、そうだ。西住、こんな時に何だが、サイン頼めないかな?」


みほ 「…え?は、はい…私のなんかで良ければ…」


キュッ…キュッ…


後藤 「…悪いね。福島課長の娘さんが、お前さんの熱烈なファンらしくてさ…名前?聞いてないな。良いよ書かなくて…あ、俺のは『後藤さんへ』で」


みほ 「…これで、いいですか?」


後藤 「ありがと…うん。これでお前さん達は、俺と俺の上司に義理を果たした事になる」


みほ 「え?そうなんですか?!」


後藤 「ああ。さっきも言ったじゃない?『俺が周辺関係者を説得するために使った方便』だって…。大洗メンバーによる暴走レイバー討伐にこだわってるのは、あくまで俺個人なんだから」


みほ 「…はぁ…」


後藤 「ま、当初の予定通り『一日署長』的なお仕事って事でシメだな。そちらにしても『大洗危機』アピールは出来た訳だし、損にはならなかったろ?」


みほ 「あ、あの…?」


後藤 「悪かったね、不快な時間を取らせちゃって。…さ、話はこれで終わりだ。皆の所に戻って良いぞ?」


みほ 「…ま、まだ!」


後藤 「ん?」


みほ 「…まだ、お話を全部お聞きしていません」


後藤 「?いや、さっきも言った通り、話はこれで…」


みほ 「私、まだ『やらない』って言ってません」ニコッ


後藤 「…何だって?」


みほ 「隊長は…私達が『本当にやらなくて良い』と、思っているんですか?」


後藤 「…ふぅ…西住?警察ってのは、実は最初から『負け戦』だって話、聞いたことがあるか?」


みほ 「?いいえ…」


後藤 「警察は基本、何かが起きてからで無いと動く事が出来ない。そりゃそうさ、疑惑だけで逮捕してたら、それはただの横暴だからな」


みほ 「それは…そうですよね」


後藤 「何時だって事が起きてからの事後処理しか出来ない…それが『警察は基本、負け戦』な理由だ」


みほ 「はい…分かります」


後藤 「『男には、時に負けると分かっていても戦わなければならない時がある』…某かがどこかで言わせていた言葉だが、随分と失礼な台詞だよな?実際には男女の区別無く、誰にだって戦わなきゃならない時があるってのに…」


みほ 「私達の戦いは、何時だってそうでした」


後藤 「そうだよな?著作権訴えてきたら、逆に差別発言を訴えてやりたい位だよ…ま、冗談はともかく」


みほ 「…」


後藤 「仮にだ。…事件が起こるのが分かってて、被害を最小限にするために条件を上申したとする。ただコストやら体裁やらで上が拒否をしたとしても…ひと度事件が起これば、俺たち現場は上から必ず責められる」


みほ 「それはずいぶんと勝手な…」


後藤 「そう思うだろ?でも言われるのさ。もっと早く対応出来なかったのか?被害は最小限に食い止められたはずだ!なんてな…」


みほ 「ひどい話ですね…」


後藤 「全くだ。お前さんからせっかくもらったサインも、残念ながら俺の上司に対する免罪符にはならない…何故だか分かるか?」


みほ 「…いえ」


後藤 「責め立てる者の後に『被害者』がいるからだ。彼らの気持ちを考えたら、結果の報われない理不尽な戦いなんて言ってられない」


みほ 「…『被害者』の、気持ち…」


後藤 「それに…ただ『負け戦』とは言え、黙って見過ごす訳にはいかない。泣いている『被害者』が確実にいる限り、俺たちお巡りは自分にムチ打って被害を最小限に食い止めねばならん」


みほ 「…はい」


後藤 「そんな俺達に出来るのはせいぜい事前対策くらいなものさ。だからこそお前達を頼った…今の俺の思い付く、最高の『切り札』だ」


みほ 「最高の『切り札』…」


後藤 「…もちろん『切り札』の無いブタ札でも、出来る限りの事をやり、市民への被害を最小限に食い止めるつもりだ。それが警察官たる俺達の義務。いや…意地だからな?」


みほ 「…後藤隊長は、レイバー戦初心者の私達が、本気で『切り札』になれると…」


後藤 「思ってるよ。自分の見立てには結構自信があるんだ。ミスキャストがあったら、監督は降りるぜ?」


みほ 「…今までのお話って、うちの会長が知らないはず無いんですが…どうして引き合いに出さなかったんですか?」


後藤 「お前さん達の会長に対する想いを考えると、どうしても同列に話す事は出来なかった。どう引き合いに出しても、彼女を楯にする事になる。他人を引き合いに出して自分を上げる…そんな奴は、俺の方が願い下げだからな」


みほ 「ふふっ…後藤隊長のお話は分かりました。ご期待に添えるかは分からないけれど…私、今回の件、頑張ってみようと思います!」


後藤 「え…本当に?いや、それならありがたい話だが…なぜ、その気になったんだ?」



みほ 「…事実を正直に話してくれて、強制せず私に判断を任せてくれました。それに…私の、私達の実力を買ってくれたんですよね?」


後藤 「ああ、その通りだ。でも、それだけで危険な現場に出る気になるのか?」



みほ 「…何か、嬉しかったんです。私の周りの大人は、私の気持ちなんか無視したり、過程や結果を蔑ろにする人しかいなかったから。…それに」


後藤 「それに?」


みほ 「…隊長の言葉の端々から嫌な予感がして、ちょこっと覚悟してましたし?」



後藤 「…あ、バレてた?」


みほ 「ふふっ、はい。…後藤隊長?最後に一つだけ聞いていいですか?」


後藤 「いいぞ、何だ?」



みほ 「私は…私達はここにいて、良いんですよね?」



後藤 「?ああ、こちらからお願いしている位だからな。むしろ、いてくれないと困る」


みほ 「…分かりました。あんこうチームの皆には、私から話をしておきます」


後藤 「それはありがたい。こちらも全力でサポートするから、ぜひよろしく頼むよ。…で、納得してもらったところで早速なんだが」


みほ 「…はい!」


後藤 「今日からお前さんには、総合指揮車のシステムを使って、ウチの小隊が出くわした『状況』データを基に、『対策』と『対応』をシミュレーションしてもらう」


みほ 「そんな事が出来るんですね…ちょっとスゴい」



後藤 「お前さんには、こういうやり方の方が合うと思ってな?いわば『状況』を呈示する俺とのタイマン勝負って訳だ。…どうだ、やれるか?」ニヤッ



みほ 「…分かりました。その勝負、受けて立ちます!」ニコッ



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後書き

ご覧頂き、誠にありがとうございました。

以下、【ガルパン】後藤隊長「特車二課 あんこう小隊、か…」【パトレイバー】 ~第四章へと続きます。


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