2019-01-15 00:20:42 更新

前書き

前作 『入れ替わり提督の災難』の続編です。 前作を見なくても若干わかるように配慮はしていますが、最初から見た方がより理解を深めて読むことが出来る・・・筈です|д゚)

前作は此方からどうぞ→




俺がアイツ・・・前提督を殺し、アイツに成りすましてこの鎮守府で提督を始めてからもう1ヵ月が過ぎた。



最初こそ、波風の立たない日は無かったぐらいに激動の日々を過ごして来たが・・・今は意外にも落ち着いた日常が続いている。



食料品は業者に頼み、一週間に一回まとめて送ってもらうようにしたから安定するようになった。最初は自分で負担させられるのではないかと冷や冷やしていたが、大本営に届け出を出すと全額負担してくれたので心の底から安堵した



それと並行して、衣類の調達もしてくれるそうだ・・・アイツとは違って大本営はしっかりしているもんだ。



鎮守府の施設も所々使われずに放置されていたが、この鎮守府の明石という工作の得意な艦娘と不思議な生物?小人?・・・よくわからないが通称『妖精さん』の手を借りて再び運営できるように尽力してもらっている。



それに、少しでも彼女たちの息抜きが手伝えるようにと間宮さんと伊良湖さんには甘味処を営業してもらうことにした。



勿論、大人の女性が寛げるようにともう一人の料理上手でもある鳳翔さんという方に居酒屋の営業をお願いした。間宮さんたちは二つ返事で了承してくれたし、鳳翔さんに至っては涙を流して喜んでくれていたな・・・。



ぼんやりと、今までの事を思い返していると・・・執務室の扉が規則正しくノックされた。



提督「どうぞ。」



一旦、思い出に耽るのを中止し扉の向こうにいるであろう艦娘に入るよう促す。



朝潮「失礼します司令官。旗艦朝潮が率いる第3艦隊、遠征よりただ今帰還いたしました。」ビシッ



夕立「ただいまっぽい!提督さん!」



どうも、先ほどまで遠征に行ってくれていた艦隊が仕事を終えて帰ってきてくれたようだが・・・残りの4人の姿が見えない。



提督「ああ、お帰り。夕立、朝潮。・・・他の四人は?」



少々疑問に思い、いつまでも律儀に敬礼を続けている朝潮に問うてみる



朝潮「え、と・・・此処に報告に来るのにはまだ少し抵抗があるそうなので・・・。」



目線を落とし、答えにくそうに口ごもった後に朝潮はポツリとそう漏らした。・・・別に気にすることはないのに。



提督「いいんだよ、朝潮。こうして、朝潮と夕立が来てくれてるんだから。」ニコッ



精一杯、笑顔を絞り出す。朝潮はそれでも申し訳なさそうに視線を彷徨わせているが、隣にいた夕立はプルプルと震えると



夕立「うぅ~~っ!もう我慢できないっぽい!提督さん、褒めて褒めて~!!」ダキッ



報告し終えるまでが任務だと自分に言い聞かせていたらしいが、それを振り切り勢いよく抱き着いてきた。あまりの勢いに転びそうになるが、なんとか持ちこたえる・・・最近の特訓が活きてきているようだ。



提督「おっとと・・・、よくやったな夕立。お疲れさま」ナデナデ



夕立「えへへ・・・」ギュゥ



優しく撫でてやると、夕立は更に強く抱きしめてくる。・・・夕立は最近心を開いてくれた艦娘の一人だが、元々異動してきた艦娘なのであまり抵抗感がなかったそうだ。



朝潮は納得してなさそうだが、これでも以前よりも艦娘達と良好な関係を築きやすくなった方だ。ただ、それは駆逐艦や一部の艦娘達だけで、まだまだ信頼を得ていない艦娘も多い。



だが、それでもみんな新しい鎮守府の環境に適応してきてくれていることには変わりない。この調子でゆっくりと信頼を勝ち得ていけばいい話だ。



朝潮「・・・むぅ。」



さて、そろそろ朝潮の頬が膨れてきそうなので話を効き始めよう。



提督「さ、夕立もそろそろ離れてくれ・・・朝潮、遠征の報告を頼む。」



夕立「・・・ぽい」シュン



そういわれた夕立は露骨にがっかりしているが、また構ってしまえば進まないので我慢してもらおう。



朝潮「はい、では始めますね・・・。」



提督「よろしく頼む。」



朝潮が報告を始めると、俺はその内容に従って手元にある資材の資料を整理し始める。・・・ここ最近の鎮守府運営は資材的に見れば黒字だな。遠征部隊のみんなも頑張ってくれているから、こちらの消費も少ない。出撃でも、負傷する艦娘が少ないので戦果的にいっても上出来も上出来だ。



一通り、資料の整理が終わった俺はペンを動かし朝潮の話を聞きつつ中断された思考を再開することにした。



提督(それにしても・・・もう一カ月にもなるのか。)



あの頃に比べると提督業も中々様になってきた、大凡の書類仕事は一人でも片づけられるようになったし海域での艦隊指揮も問題はない。



・・・それに、空いた時間には加賀さんに剣道の稽古もつけてもらっている。加賀さんは恐ろしく強く、未だに一本も取れてはいないが少しは力にも自信がついてきた。



もう決してあの時の様な雪辱は受けない・・・川内との事を思い出すと無意識にペンを握る手に力が入った。



朝潮「・・・以上です。」



提督「お疲れさま・・・うん、結果は重畳の至りだ。よくやってくれている。」



朝潮「お褒めいただけて何よりです・・・それで、その・・・」



モジモジと何かを言いだそうとしているが、中々出てこないようだ・・・朝潮は出会ったころと比べ少し大人びたというか、一歩引くようになった気がする。もしかすると、元々はこっちの方が朝潮本来の性格なのかもしれない。



提督「どうした、朝潮。」



朝潮「その・・・私も、ナデナデしてもらってもよろしいでしょうか・・・///?」カァァ



顔を真っ赤に染め、照れている顔を見られないように顔を俯けている朝潮を見ているとやっぱり根幹は変わらないんだなと思った。



提督「ああ、勿論だよ。おいで、朝潮。」



朝潮「は、はい!よろしくお願いします・・・」



提督「いつもありがとうな・・・朝潮。」ナデナデ



朝潮「っ・・・///」



俺が手を頭にのせると、朝潮は嬉しそうに目を細めた・・・可愛いな。最初あった時は、底知れない気がして無意識のうちに警戒してしまっていたが今は心を許せる数少ない艦娘の一人になっている。



提督(でも、俺はまだアイツを殺したことは未だに打ち明けられていない。)



前までは、自分が殺されるかもしれないという恐怖で口をつぐんでいたが・・・今は違う。この鎮守府の艦娘に軽蔑されてしまうかと思うと怖くて言い出せなくなった。この秘密を聞いてしまえば・・・きっと朝潮も



夕立「むぅ・・・夕立も撫でて撫でて~!」バッ



提督「おっとと、急かすなよ夕立。」



急に抱き着いてきた夕立のせいで、思考が飛んでしまった・・・けれど逆に助かったかもしれない。



提督(今更クヨクヨしてたって仕方がない、艦娘達を守るために尽力しよう。)



夕立と朝潮を撫でながら、俺はそう楽観的に考えていた。



・・・とある一本の電話が掛かってくるまでは


不吉の予兆



夕立と朝潮の労いも終わり、報酬・・・とまでは言わないが気持ち程度に人数分の間宮券を渡した。



間宮券とは、俺と加賀さんで考えた鎮守府内にある甘味処ー間宮ーで使える所謂鎮守府内限定の金券で、これがあれば何時でもー間宮ーで間宮さん特製の甘味が食べられるという代物だ。



演習や遠征、そして海域の作戦で活躍した際に執務室で渡すようにしたらより多くの艦娘が来てくれるのではないかと考え決行した次第なのだが・・・



朝潮「あ、あの司令官・・・本当に6枚ももらってもよろしいのでしょうか。」



提督「ああ、いいんだよ・・・此処に来てくれなくても皆が頑張ったという事実に変わりは無いから。」



結果はこの通り、全くと言っていいほど効果がなかった。相変わらず来てくれるのは、心を開いてくれているほんの数人だけだ。



夕立「やった~!提督さん、太っ腹っぽい!」ピョンピョン



夕立は涎を垂らしそうな顔で、間宮券を握りしめ嬉しそうに飛び跳ねている・・・まさかとは思うが他の娘の分まで食べるつもりではないだろうな?



提督「・・・言っておくが一人一枚だからな、皆公平に渡すんだ。いいな、夕立?」



そう考えた俺は、無いとは思うが念のために釘をさしておく事にした。夕立は軽い様子で「えぇ~、信用ないっぽい!もちろんわかってるぽい!」と言っているが・・・いまいち信用できない。



朝潮にチラリと目くばせをし、朝潮にも夕立を見張っておくようにと伝える。・・・冗談半分でやってみたものの意外と通じたようで、朝潮はコクリとうなずいた。此方の言いたいことを鋭く察知してくれる朝潮の存在というのはやはり貴重なんだなと改めて認識する。



朝潮「では、そろそろ失礼させていただきます。夕立さんも、行きますよ。」



夕立「えぇ~!まだ夕立は提督さんと一緒にいたいっぽい!」



目くばせ序に、俺のこれからの『都合』の事を察してくれたのか朝潮が夕立とともに引き上げようとしてくれるが・・・少し鈍感な夕立にはそれが通じないらしく一緒に居たいと騒いでくれている。



それはとても嬉しいことではある・・・あるのだが、どうしようもない『都合』の為に悪いが引き下がってもらう様に俺からも促す。



提督「そういってくれるのは嬉しいんだが・・・少し、用事があってな。」



夕立「・・・わかったっぽい、でも!次は夕立と遊んでね!」



なんとか納得してくれた夕立はニッコリとそう笑いながら言うと、扉の前でもう一度お辞儀をした朝潮と共に執務室を後にした。



・・・さて、ここからが夕立との時間を無下にしてまで済まさねばならなかった『都合』の始まりだ。



拳を強く握り、冷静でいられるように深く深呼吸をする・・・よし、大丈夫だ。



コンコンコン



提督(・・・来たか。)



執務室に俺しか居ないタイミングでいつも、訪れてくる艦娘がいる・・・今回もその艦娘だろう。



提督「入ってくれ。」



感情が漏れ出さないように短く、入るように促す。すると、扉がゆっくりと開きその隙間からは予想通りの艦娘が顔を出していた。



卯月「し、失礼します・・・あの、今しれーかん・・・大丈夫?」ガチャ



提督「・・・卯月か、大丈夫だよ。入っておいで。」



不安そうにこちらの顔を窺っている卯月になるべくひきつらないように柔軟な笑みを向け、優しく手招きをする。



卯月「しれーかん・・・っ!」ダキッ



すると、弾かれたかのように扉から俺の方へと走ってきて俺の腰へと手をまわして抱き着いてきた・・・。



そう、俺の仕方のない『都合』というのは・・・俺に抱き着いて頬を緩めているこの卯月の事だった。



卯月「えへへ、寂しかったっぴょん・・・」



提督「・・・そうか。」ナデナデ



卯月「っ~~♪」



卯月はだいぶ変わってしまった、俺に怯えるどころか俺の姿が見えないだけでパニックを起こすようになってしまった。最近、繋がりができた明石に卯月の症状を診てもらったがやはり重度な依存傾向にあるようだ・・・それもなぜか俺に対して、だ。



そこら辺の理由も問いただしてはみたが、明石曰く『専門じゃないので、詳しくはわかりませんが・・・危険な事に変わりはありません。接し方には十分に注意してください。』だそうでもはや、卯月の今後は俺の行動一つで決まると言われているようなものだ。



提督(どんなことが切っ掛けだったのかはわからない。けれど、今思えばあの時・・・川内から助けてもらった時から卯月の様子は可笑しくなっていったような・・・)



卯月「あのっ、しれーかん・・・うーちゃんと一緒じゃ・・・つ、つまらないかな?」ギュゥ



不安に塗れ今にも涙が零れそうな声と、縋りつくような腕の感触を感じ俺の意識は急に引き戻された。卯月を見下ろすと・・・大きくて綺麗な瞳は翳り、陰鬱な色を灯していた。空虚、虚無、虚ろ・・・そんな負をイメージさせられるような目に見える絶望がそこにはあった。



提督(しまった、さっき自分で再確認したばかりじゃないか・・・っ!卯月のこの症状が改善するか否かは俺の行動にかかっていると・・・)



提督「そんなことはないぞ、俺だって卯月といられるのは嬉しい。・・・なにより、さっきだって卯月の事を考えていたんだ。」ギュゥ



咄嗟の言い訳にしても酷い台詞だ、俺自身幼い少女にこんな歯の浮くような事を言うのは正直どうかと思う・・・思うが



卯月「本当・・・?うれしいっぴょん!しれーかん、だーいすきっ!」スリスリ



卯月には好印象なようで、先ほどの重い空気は何処へやら・・・弥生と一緒にいるときと同じような元気で快活な明るさを取り戻した。その事に内心ホッとしていると・・・



チリリリリン チリリリリン



執務室のデスクの上に置いてある固定電話が、突如としてけたたましく鳴り始めた。



提督「・・・電話、か。」



いつもは俺が大本営や業者に掛けるだけの電話が、初めて鳴った事に少し驚いた。執務室に直通電話を掛けてくるということは、おおよそ大本営だろう・・・だが、俺がいま気にすることはそこじゃない



卯月「・・・。」



俺が今もっとも気にしなければならないのは電話の呼び出しのせいで機嫌を損ねた卯月の事だ。・・・卯月は、俺と二人でいる時間は絶対に邪魔されたくないようで開いている時間に稽古をつけてもらう約束をしていた加賀さんが俺を呼びに来た時も似たような雰囲気で場の空気を圧倒していた。



あの時は加賀さんが何とか諫めてくれたからよかったものの・・・残念な事に今は、この異様な空気感に押しつぶされそうな俺しかいない。



提督「・・・はい、こちら渡神(わたりがみ)鎮守府執務室です。」



卯月をどうすることもできないと思った俺は、仕方なく優先順位を変えていつまでもなり続ける電話の受話器に手を伸ばした。



卯月「あ・・・っ」



後ろで呆気にとられたような卯月の声が聞こえたが、早く電話を終わらせていつも以上に甘やかしてあげればいいだろう。幸い、直ぐに癇癪を起さないということはまだ我慢ができる段階だという表れでもあるしな。



『執務中に失礼いたします、大本営より大切なお知らせがあって連絡させていただきました。少々お時間よろしいでしょうか?』



受話器の向こうから女性の声が返ってきた、如何にも利発そうな声でそう言っているが・・・大切なお知らせというのは何なのだろうか。



提督「はい、構いませんよ。」



『ありがとうございます、では筆記できるものをご用意していただけますか?』



どうやら、メモを取らなければならない内容らしい。薄々嫌な予感はする・・・だがこれは好都合だ、今なら卯月の機嫌も同時に取れる。



提督「はい、少々お待ちください。・・・卯月、おいで」



受話器を抑え、未だに立ち尽くしている卯月に声をかける。とりあえず、電話の間ずっと頭を撫でてあげれば少しは気が紛れるだろう。



卯月「・・・っしれーかん!」



驚くぐらいの速度で俺の傍に来て、服を掴むと嬉しそうにはにかんだ・・・まだ大丈夫そうではあるな。相手が電話だからだろうか、少しは緩和されている気がする。



取り敢えず椅子に腰かけ、デスクの上にメモ用紙とペンを用意し近くに卯月の分の椅子も出してあげるが卯月はその椅子を無視し「えへへ・・・ここじゃダメかな・・・?」と可愛らしい声を出しながら俺の膝に座った。・・・なんというか、これはこれで集中できない。



だが、いつまでも電話先の人を待たせるわけにはいかないので俺は卯月の頭を撫でつつ再び受話器を耳に当てなおした。



提督「お待たせしてすみません、続きをお願いします。」



『わかりました、では今から明後日開催される重要な会議の日程と場所についてお話しさせていただきます。まずは日程から・・・』



受話器を耳と肩で挟み、右手でペンを走らせ左手は絶えず卯月の頭を撫で続ける。これが地味に難しい、諦めて卯月の頭から手を離そうとしたら切なそうな声が漏れるので離すに離せない・・・苦労しながらもなんとかメモを終えた。



一通りのお知らせが終わった女性は一息ついてから



『・・・以上になります。何か不明なところや、質問等がございましたら気兼ねなくどうぞ。』



と聞いてきた。その言葉を聞いた俺は、再びメモに視線を落とす。どうもこの会議は、大本営で行われるとても重要な会議らしい。



場合によってはこれからの人類の進退が決まるほどのものだという・・・もちろん、そんな重要な会議が日帰りであるわけがなく最低でも3泊下手をすれば1週間近くもここを離れなければならなくなる。



こうなると大きな問題点は二つある、まず一つ目は俺がアイツでないことがばれてしまう可能性が非常に高いということだ。知識は問題はないが、仕草や言葉遣い等が問題だ。期間が長ければ長くなるほどばれ易くなるし最悪な事に、俺は海軍のお偉方と会うのはこの会議が初めてでアイツとどういう関係なのかが皆目見当もつかない。



しかも、アイツは若くして少佐になっている所謂エリートだ・・・疎まれている可能性もなくはない。常に警戒して動かなければならないだろう。



そして二つ目、それはこの鎮守府の事・・・というよりは卯月の事だ。彼女は俺に依存してしまっている、そんな状態の卯月を残して此処を去ってもいいのだろうか。だが、これは備考として書いてある秘書艦を一人同伴させるという決まりで何とかなるかもしれない・・・。



提督「では、早速・・・秘書艦として誰か一人を同伴させる事とありますがその艦種等には規定はありますか?」



『規定ですか?そうですね、特にはありませんが・・・何分、長期の会議になりますし書類作成やお茶汲み等の雑務をしてもらわなければならないので、そういった事を得意とする方を選ばれた方が良いかと。』



提督「そう・・・ですか、なるほど。」



・・・厳しいな、言外に子供っぽかったり役に立てない子は連れてくるなと言われている。卯月には書類作成は難しいだろうし、お茶くみだってしているところを見たことがない連れていくのは理にかなわないだろう・・・どうしたものか。



俺はメモ帳を睨み、最善に至るまでの過程の思考を開始した。



提督(とりあえず、卯月の問題は置いておこう。それよりも先に秘書艦として同伴する艦娘を決めなくては・・・)



やはり理想の秘書艦といえば加賀さんだ。書類作成はお手の物だろうし、気遣いもできて雑事も完璧にこなせるこれ以上にない条件の整った艦娘だ。・・・しかし、加賀さんは極度の男性恐怖症を患ってしまっている。最近ずっと一緒にいる俺には耐性がついてきているようだが、それでも他の人となると・・・不安要素が多い。



だが頼れる人は加賀さんぐらいしかいない、鳳翔さんも考えたが鳳翔さんには居酒屋の営業がある。聞くところによると、中々に盛況のようだ・・・邪魔するわけにはいかない。



加賀さんには申し訳ないが、後でお願いしに行くとしよう。



『他にご質問等はございませんかね・・・?』



しまった、考えに没頭するあまり相手の事を考えていなかった。・・・そうだ、最後にダメもとで聞くだけ聞いて終わろう。



提督「あの、すみません。最後に・・・秘書艦に関係なく、もう一人艦娘を同伴させたいのですが・・・構いませんか?」



『もう、一人ですか?・・・少々お待ちください。』



不思議そうにそういうと、受話器の向こうからは静かに誰かとやり取りをしているような声が聞こえ始めた。どうやら誰かに確認を取っているらしい・・・これが受理されればスムーズに問題が解消されるんだがな



受話器を握る手に力が入る・・・緊張で喉もカラカラだ。そうやって返事を待っていると、不意に服を引っ張られた。



提督「・・・どうした、卯月?」



その感覚の原因である卯月に視線を落とす。卯月は心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んでいた、いけない・・・心配させてしまっただろうか



卯月「あの、しれーかん・・・大丈夫?何か言われたの?」



提督「なんでもないよ、心配してくれてありがとう。卯月。」ナデナデ



卯月「えへへ・・・な、ならいいっぴょん。」ギュッ



いけないことだとはわかってはいる。けれど、やはり自分を心配してくれるのは素直にうれしいものだ。どちらかというと、心配されるべきなのは卯月ということに変わりはないが・・・。



提督(卯月は結構落ち着いている、いつもより少し密接な状態だからかもしれないが・・・とりあえず、今のうちに話をしておこう。)



少し今一度深呼吸し、卯月の頭を撫でながら



提督「卯月・・・俺は、暫くこの鎮守府を空けなきゃいけなくなった。」



卯月「・・・え?」



『空気が凍る』とはまさに今の場面で使われるための言葉だと、俺は自らの体を通して悟った。心配そうに見つめていた卯月の瞳はいつの間にか光を失い、悲痛に歪んだ口は歯をカチカチと鳴らすだけで到底いつものような笑顔を見せてくれるような状態ではなくなっていた。



提督「卯月、しばらくって言っても三日とか一週間ぐらいだから・・・っ!?」



まずいと思い、気休め程度の言い訳を述べようとした瞬間凄い力で卯月が抱きしめてきた・・・



卯月「しれーかん・・・うづきを・・・す、すてちゃうの?」



かなり飛躍した発言に一瞬あって気に取られてしまう。けれど、今の卯月にとっては俺が少しでも遠くに行ってしまうのは不安で仕方ないのだろう・・・



提督「そんなことするわけない・・・俺は卯月と一緒に居たい。」ギュッ



きっと、こんな甘い事ばかり言ってしまうからいつまでたっても卯月のこの状態が改善できていないのだろう。だが、どうしても目の前の少女を泣かせたくない・・・そんな一心で言葉が飛び出てしまう。



卯月「しれーかん・・・うん、そうだよね。しれーかんがうーちゃんをすてるだなんて、そんな・・・ふふっ」クスクス



提督「当たり前だろ、卯月。」



だからだろうか



卯月「うん・・・この電話のヤツが悪いんだよね?」バッ



提督「っ!?卯月・・・!!」



笑顔を見せた卯月に油断してしまったのは・・・。



卯月は俺の虚を突き、驚くほど俊敏な動きで俺の持っている受話器を奪い取った。



『お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。同伴の件ですが・・・』



奪われた電話口から微かに声が聞こえてくる、どうやら同伴の件について答えが出たようだ。卯月に奪われた受話器を取り戻そうと手を伸ばしたが、それよりも先に卯月が受話器を耳に当て



卯月「次・・・」



『・・・え?』



卯月「次、電話を掛けてきたらお前を殺すぴょん。しれーかんを奪おうとするなら・・・容赦しない。」



いつかの川内の時の様な・・・普段の様子からはまるで想像もつかないほど低い声でそう言い放った。



提督(最悪だ・・・よりにもよってこのタイミングで・・・っ!)



俺は未だに大本営の事を詳しくは知らない、そういざこざがあったとしても丸く収める術をしらないのだ。そんな状態で問題でも起きようものなら・・・



提督「卯月!!」バッ



卯月「あっ・・・」



電話を切ろうとした卯月の手を咄嗟に掴み、受話器を奪い取る。少々乱暴な行動に出てしまったが、今はそれどころではない。この出来事が後々悪い事態になって返ってくる可能性だってあるのだ。



提督「申し訳ありません、ウチの部下がとんだ悪態を・・・部下に代わって謝罪させてください。」



そのとき、一番割を食うのは卯月なのだ。そんな状況になってしまえば、俺が助けてやれるという保証はない・・・最悪、解体だって・・・



考えたくもない未来に、自然と表情が強張り受話器を握る手には汗がジワリと滲んだ。受話器の向こうからは未だに声は聞こえてこない・・・



提督(ダメ・・・なのか・・・?)



受話器を握る手から力が抜け、顔を伏せそうになった・・・その時



『・・・い、いえ。少し驚きましたが、問題はありませんよ。』



という意外にも許しの言葉が返ってきた・・・未だに動揺は残っているものの先ほどと様子はさほど変わっていないようだ、本当によかった。



提督「・・・ありがとうございます。」



『あはは、大丈夫ですよ。それに、先ほどの娘は貴方の事を心配してあのような行動を起こしたものだと思いますしね。』



提督「そういってもらえると助かります・・・。」



クスリと笑みを漏らし、此方を元気づける様にそういってくれた。・・・電話をしてくれた人がこの女性でなければどうなっていたことか・・・



『おっと、少し話が逸れてしまいましたね・・・同伴艦の件ですが』



そうだった、同伴艦の事が決まらない限りまだ安心はしていられないんだった・・・。俺は再び拳に力を込めながら、女性の次の声を待った。



『・・・残念ながら、受理されませんでした。必要以上の同伴は控える様にとの事です。』



提督「そう、ですか・・・。」



流石にすべて上手くとは行かないようだ。どうも、艦娘というオーバーテクノロジーを従えている俺たちを余程警戒しているらしい・・・必要以上・・・つまりは一人以上は連れてくるなという意思表示だろう。



仕方がないといえば仕方がないが、味方だというのに随分な戒厳さだ・・・謀叛の可能性でも考えているのか?



提督「わかりました、色々ありがとうございます・・・えと」



お礼を伝えようとするが、名前を聞きそびれてしまっていることを思い出した。どうにか切り出そうとしていると



大淀『あ、申し遅れました・・・私は大淀といいます。』



電話の向こうで四苦八苦している俺の姿を想像したのか、聞かずとも名前を教えてくれた・・・気の利く人だ。



提督「大淀さん・・・ですか。」



それにしても、大淀とはこれまた珍しい名前だな・・・まるで艦娘みたいな・・・



大淀『あっ、変わった名前だと思いましたか?・・・実は、私も艦娘なんですよ。』



提督「そ、そうなんですか・・・?」



驚いた。今まさに自分の中で考えていたことが事実だということにもそうだが・・・艦娘が大本営の業務をしているという事実は初耳だ・・・戦場から離れて働く艦娘もいたんだな



大淀『フフッ、驚きですか?少佐殿ともなれば、やはり戦わない艦娘には違和感を覚えるでしょうね。』



そんなわけがない、出来る事ならば艦娘であろうが人であろうが争わずに済むに越したことはないのだから。



・・・暴力で事を収めてしまった俺が言うにはあまりにも滑稽な台詞だが。



提督「いやっ、そういうわけでは!・・・なんというか、場所は違っても共に戦ってくれてるんだなって思うと、その・・・心強くて・・・」



自分が思ったことを伝えようとするが、言いたいことが纏まらずずつっかえつっかえの言葉が口をついてしまう。幾ら稽古中に平常心を磨いたとしても、こういう場面で使えなければ意味はない。



大淀『・・・お優しいんですね。すみません、今の失言は忘れていただければ幸いです。』



コホンと、咳払いをし話を戻すように促される・・・どうやら俺の言い訳を律儀に受け取ってくれたようだ。



提督「はい、ありがとうございました。大淀さん、電話をしてくれた人が貴女で本当によかった。」



大淀『そういって頂けてとても嬉しいです、私こそ少佐殿の様な素晴らしい方とお話しできて良かったと思っていますよ。』



最後の最後まで謙虚な人だ・・・卯月にあんな暴言まで吐かれたのに嫌な顔一つせず自分の仕事を全うするどころか、俺にまで気を遣ってくれた大淀さんに言葉と心で感謝する。



提督「では、また後日。」



大淀『はい、大本営で出会えたらいいですね。』



ゆっくりと受話器を置き、額の汗を拭う。電話の相手が大淀さんだったからよかったものの・・・それ以外の人だったら。そう考えるだけで未だに地に足がついていないような感覚に陥る。



・・・だが、その原因を作り出した卯月への説教を済ませなければならない。これからもこのような事態に度々陥ってしまうようでは身が持たない。今のうちに教えておかねばならない。



提督「・・・卯月。」



卯月「っ」ビクッ



いつもより声を低くして咎めるようにその名前を呼ぶ。呼ばれた卯月はびくりと体を震わせ、怯えるような目で俺を見つめている・・・



その姿に躊躇しそうになるが、なんとか堪える・・・これも卯月の為だ。



心を鬼にし、再び口を開く。



提督「卯月、お前は軽率な行動をした・・・そうだな?」



卯月「・・・っ」



対する卯月は震えながら目に涙を溜めている、強く握られた拳が痛々しい。



提督「卯月、黙っていちゃわからないだろう。」



それでも、それでも・・・もう卯月には傷ついてほしくない。だから今ここでわからせる必要があるんだ。



卯月「は・・・い・・・ご、ごめ・・・ごめんなさい・・・」



卯月は震える口でどうにか自分の悪行を認め謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げた。・・・もう十分だろう



提督「わかってくれたならいいんだよ、次からは絶対にしちゃダメだ。自分の行動一つで簡単に信頼が失われるということを忘れてはいけないよ。」



卯月「はい・・・わかりました・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」



いつも通りの声で最後に念を押す、この辺でいいだろう。今回は無事で済んだんだ、これ以上は酷だろう。



すっかりしおらしくなってしまった卯月に手招きをし、此方に呼ぶ。卯月は大人しくこちらに来て、未だに涙ぐんだ瞳を向けてきた。



提督「・・・でも、卯月が俺の事を大切に思ってくれてたってことは伝わってきたよ。・・・ありがとう。」ナデナデ



涙を優しく拭ってやってから、いつもより少しだけ強く抱きしめて頭を撫でる。・・・抱きしめているから顔は見えないけど、卯月が泣き止んでくれたことだけは雰囲気でわかった。



卯月「ごめんなさい・・・しれーかん、しれーかんを困らせるつもりはなかったの・・・ほんとうにごめんなさい・・・っ!」



提督「ああ、わかってる。大淀さんも許してくれたし、悪いとわかってくれたならもういいんだ。」



何度も何度も胸の中で謝る卯月を、しっかり抱擁してやる・・・今は先の事を考えずに卯月との時間を大切にしよう・・・。








後書き

一カ月間の軽い説明

1週間目 食料を業者に運んでもらうように大本営に交渉し、見事無償で恩恵を受けることに成功。間宮と伊良湖に甘味処の設置を提案し、二人は快く承諾。後に艦娘達でにぎわうようになる。川内と対峙した時の恐怖と無力感を乗り越えるために、加賀に武道の指導を受ける事となった。しかし、加賀はスパルタを通り越した鬼畜っぷりで開始一日で提督が立てなくなるほどしごいた。武道を始めた提督への評価は加賀いわく、「才能は無いが努力次第で化ける実力」らしい。

2週間目 艦娘達とのコミュニケーションを図るも、不審がられたり怖がられたりし挫折。しかし、提督の熱心さに心を打たれた夕立とは仲良くできるようになった。同じく、誰にも接してもらえない中それでも何とか話を続けようとした誠実さを認めた鳳翔とも繋がりができた。このとき、提督は鳳翔さんに居酒屋の話を持ち掛ける。艦娘達を癒してあげてほしいと理由を話すと、鳳翔は涙ながらにお礼を言いこれを快諾した。


3週間目 工廠を使える様にさせて欲しいと直談判しに来た明石と接触し、これを快諾。掃除や運搬を手伝ったため、明石との繋がりができた。同時に、今まで見えなかった不思議な生物『妖精さん』が見えるようになり、建造、開発のお願いができるようになった。甘味処と居酒屋の設立を頼み込むと明石と妖精さんたちは一日で完成させてしまった。妖精さんは何者なんだ・・・?


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1: タマモー 2019-01-05 04:05:47 ID: S:07juxz

続編ktkr!!
待ってました!!

さてさて川内や金剛はもちろん、卯月との関係がどうなってるか…私、気になります!

2: クリンスマン 2019-01-05 06:23:56 ID: S:L81220

これからも期待、応援させてもらいます。
自分のペースで頑張って下さい(* ̄∇ ̄)ノ

3: SS好きの名無しさん 2019-01-05 10:00:25 ID: S:1HoG11

サバゲーマンです
新更新ご苦労様です。パート2ですね。いきなりここまでの展開にびっくりしました。まぁ、次回の更新で何かわかるでしょ?楽しみにしています。

4: yazora 2019-01-06 05:07:34 ID: S:mI28kx

1≫ありがとうございます!続編も、気合い、入れて、行きます!

5: yazora 2019-01-06 05:08:25 ID: S:9XY_Um

2≫ありがとうございます!自分のペースは結構ノロマなので気長にお待ちください!

6: yazora 2019-01-06 05:09:14 ID: S:SNp2U8

3≫ここからは激動的に進めていくので、回想とかはおまけに書いていこうと思います!

7: SS好きの名無しさん 2019-01-06 07:46:59 ID: S:JASNQW

続編キタ━( *´∀`)━!!
これからも頑張って下さい!!

8: 社畜 2019-01-07 12:50:19 ID: S:wLPZef

続編キタ━━━━( ̄・ω・ ̄)━━━━!!
応援してます

9: yazora 2019-01-10 02:41:26 ID: S:i9OUc4

7,8≫ありがとうございます!なるべくスムーズに終われるように頑張ります( *´艸`)

10: 叢雲–改 2019-01-11 07:16:30 ID: S:ygVDGe

おっ続編キタキター
いつも通りのヤンデレ泥沼化方向へですかね
期待してます!

11: たかつくん 2019-01-12 20:48:57 ID: S:9KFr8L

このss面白いですね。卯月がどうなってしまうのか楽しみです。頑張ってください。

12: yazora 2019-01-15 00:23:08 ID: S:csOcPU

10、11≫ありがとうございます!今回はヤンデレ要素は少なめですね・・・真っ当な最後を迎えると思います(意味深)卯月の今後は・・・どうなりますかねぇ(意味深(二度目))がんばります!

13: SS好きの名無しさん 2019-01-15 00:49:48 ID: S:6m4zAs

サバゲーマンです
更新ご苦労様です。提督のほうもだいぶ慣れてきたかな?まぁ、問題なのは、大本営と提督が最初に出会った提督かなほら、買い物時に声をかけた人、この栂問題かな果たして秘密を隠し通すことができるのか楽しみです。次回の更新楽しみにしています。頑張ってください。

14: SS好きの名無しさん 2019-01-15 23:32:36 ID: S:aBlXAG

こりゃあ、久しぶりに当たりを引いたかな?貴方の描く世界にすっかり魅了されてしまいました。更新を楽しみにしております。


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