2019-05-07 00:37:15 更新

前書き

前作 『入れ替わり提督の災難』の続編です。 前作を見なくても若干わかるように配慮はしていますが、最初から見た方がより理解を深めて読むことが出来る・・・筈です|д゚)

前作は此方からどうぞ→



え?金剛が榛名になってるって?・・・自分でもびっくりしてます、榛名で書いてたつもりが完全に金剛口調な金剛が書かれていました・・・申し訳ないです。



俺がアイツ・・・前提督を殺し、アイツに成りすましてこの鎮守府で提督を始めてからもう1ヵ月が過ぎた。



最初こそ、波風の立たない日は無かったぐらいに激動の日々を過ごして来たが・・・今は意外にも落ち着いた日常が続いている。



食料品は業者に頼み、一週間に一回まとめて送ってもらうようにしたから安定するようになった。最初は自分で負担させられるのではないかと冷や冷やしていたが、大本営に届け出を出すと全額負担してくれたので心の底から安堵した



それと並行して、衣類の調達もしてくれるそうだ・・・アイツとは違って大本営はしっかりしているもんだ。



鎮守府の施設も所々使われずに放置されていたが、この鎮守府の明石という工作の得意な艦娘と不思議な生物?小人?・・・よくわからないが通称『妖精さん』の手を借りて再び運営できるように尽力してもらっている。



それに、少しでも彼女たちの息抜きが手伝えるようにと間宮さんと伊良湖さんには甘味処を営業してもらうことにした。



勿論、大人の女性が寛げるようにともう一人の料理上手でもある鳳翔さんという方に居酒屋の営業をお願いした。間宮さんたちは二つ返事で了承してくれたし、鳳翔さんに至っては涙を流して喜んでくれていたな・・・。



ぼんやりと、今までの事を思い返していると・・・執務室の扉が規則正しくノックされた。



提督「どうぞ。」



一旦、思い出に耽るのを中止し扉の向こうにいるであろう艦娘に入るよう促す。



朝潮「失礼します司令官。旗艦朝潮が率いる第3艦隊、遠征よりただ今帰還いたしました。」ビシッ



夕立「ただいまっぽい!提督さん!」



どうも、先ほどまで遠征に行ってくれていた艦隊が仕事を終えて帰ってきてくれたようだが・・・残りの4人の姿が見えない。



提督「ああ、お帰り。夕立、朝潮。・・・他の四人は?」



少々疑問に思い、いつまでも律儀に敬礼を続けている朝潮に問うてみる



朝潮「え、と・・・此処に報告に来るのにはまだ少し抵抗があるそうなので・・・。」



目線を落とし、答えにくそうに口ごもった後に朝潮はポツリとそう漏らした。・・・別に気にすることはないのに。



提督「いいんだよ、朝潮。こうして、朝潮と夕立が来てくれてるんだから。」ニコッ



精一杯、笑顔を絞り出す。朝潮はそれでも申し訳なさそうに視線を彷徨わせているが、隣にいた夕立はプルプルと震えると



夕立「うぅ~~っ!もう我慢できないっぽい!提督さん、褒めて褒めて~!!」ダキッ



報告し終えるまでが任務だと自分に言い聞かせていたらしいが、それを振り切り勢いよく抱き着いてきた。あまりの勢いに転びそうになるが、なんとか持ちこたえる・・・最近の特訓が活きてきているようだ。



提督「おっとと・・・、よくやったな夕立。お疲れさま」ナデナデ



夕立「えへへ・・・」ギュゥ



優しく撫でてやると、夕立は更に強く抱きしめてくる。・・・夕立は最近心を開いてくれた艦娘の一人だが、元々異動してきた艦娘なのであまり抵抗感がなかったそうだ。



朝潮は納得してなさそうだが、これでも以前よりも艦娘達と良好な関係を築きやすくなった方だ。ただ、それは駆逐艦や一部の艦娘達だけで、まだまだ信頼を得ていない艦娘も多い。



だが、それでもみんな新しい鎮守府の環境に適応してきてくれていることには変わりない。この調子でゆっくりと信頼を勝ち得ていけばいい話だ。



朝潮「・・・むぅ。」



さて、そろそろ朝潮の頬が膨れてきそうなので話を効き始めよう。



提督「さ、夕立もそろそろ離れてくれ・・・朝潮、遠征の報告を頼む。」



夕立「・・・ぽい」シュン



そういわれた夕立は露骨にがっかりしているが、また構ってしまえば進まないので我慢してもらおう。



朝潮「はい、では始めますね・・・。」



提督「よろしく頼む。」



朝潮が報告を始めると、俺はその内容に従って手元にある資材の資料を整理し始める。・・・ここ最近の鎮守府運営は資材的に見れば黒字だな。遠征部隊のみんなも頑張ってくれているから、こちらの消費も少ない。出撃でも、負傷する艦娘が少ないので戦果的にいっても上出来も上出来だ。



一通り、資料の整理が終わった俺はペンを動かし朝潮の話を聞きつつ中断された思考を再開することにした。



提督(それにしても・・・もう一カ月にもなるのか。)



あの頃に比べると提督業も中々様になってきた、大凡の書類仕事は一人でも片づけられるようになったし海域での艦隊指揮も問題はない。



・・・それに、空いた時間には加賀さんに剣道の稽古もつけてもらっている。加賀さんは恐ろしく強く、未だに一本も取れてはいないが少しは力にも自信がついてきた。



もう決してあの時の様な雪辱は受けない・・・川内との事を思い出すと無意識にペンを握る手に力が入った。



朝潮「・・・以上です。」



提督「お疲れさま・・・うん、結果は重畳の至りだ。よくやってくれている。」



朝潮「お褒めいただけて何よりです・・・それで、その・・・」



モジモジと何かを言いだそうとしているが、中々出てこないようだ・・・朝潮は出会ったころと比べ少し大人びたというか、一歩引くようになった気がする。もしかすると、元々はこっちの方が朝潮本来の性格なのかもしれない。



提督「どうした、朝潮。」



朝潮「その・・・私も、ナデナデしてもらってもよろしいでしょうか・・・///?」カァァ



顔を真っ赤に染め、照れている顔を見られないように顔を俯けている朝潮を見ているとやっぱり根幹は変わらないんだなと思った。



提督「ああ、勿論だよ。おいで、朝潮。」



朝潮「は、はい!よろしくお願いします・・・」



提督「いつもありがとうな・・・朝潮。」ナデナデ



朝潮「っ・・・///」



俺が手を頭にのせると、朝潮は嬉しそうに目を細めた・・・可愛いな。最初あった時は、底知れない気がして無意識のうちに警戒してしまっていたが今は心を許せる数少ない艦娘の一人になっている。



提督(でも、俺はまだアイツを殺したことは未だに打ち明けられていない。)



前までは、自分が殺されるかもしれないという恐怖で口をつぐんでいたが・・・今は違う。この鎮守府の艦娘に軽蔑されてしまうかと思うと怖くて言い出せなくなった。この秘密を聞いてしまえば・・・きっと朝潮も



夕立「むぅ・・・夕立も撫でて撫でて~!」バッ



提督「おっとと、急かすなよ夕立。」



急に抱き着いてきた夕立のせいで、思考が飛んでしまった・・・けれど逆に助かったかもしれない。



提督(今更クヨクヨしてたって仕方がない、艦娘達を守るために尽力しよう。)



夕立と朝潮を撫でながら、俺はそう楽観的に考えていた。



・・・とある一本の電話が掛かってくるまでは


不吉の予兆



夕立と朝潮の労いも終わり、報酬・・・とまでは言わないが気持ち程度に人数分の間宮券を渡した。



間宮券とは、俺と加賀さんで考えた鎮守府内にある甘味処ー間宮ーで使える所謂鎮守府内限定の金券で、これがあれば何時でもー間宮ーで間宮さん特製の甘味が食べられるという代物だ。



演習や遠征、そして海域の作戦で活躍した際に執務室で渡すようにしたらより多くの艦娘が来てくれるのではないかと考え決行した次第なのだが・・・



朝潮「あ、あの司令官・・・本当に6枚ももらってもよろしいのでしょうか。」



提督「ああ、いいんだよ・・・此処に来てくれなくても皆が頑張ったという事実に変わりは無いから。」



結果はこの通り、全くと言っていいほど効果がなかった。相変わらず来てくれるのは、心を開いてくれているほんの数人だけだ。



夕立「やった~!提督さん、太っ腹っぽい!」ピョンピョン



夕立は涎を垂らしそうな顔で、間宮券を握りしめ嬉しそうに飛び跳ねている・・・まさかとは思うが他の娘の分まで食べるつもりではないだろうな?



提督「・・・言っておくが一人一枚だからな、皆公平に渡すんだ。いいな、夕立?」



そう考えた俺は、無いとは思うが念のために釘をさしておく事にした。夕立は軽い様子で「えぇ~、信用ないっぽい!もちろんわかってるぽい!」と言っているが・・・いまいち信用できない。



朝潮にチラリと目くばせをし、朝潮にも夕立を見張っておくようにと伝える。・・・冗談半分でやってみたものの意外と通じたようで、朝潮はコクリとうなずいた。此方の言いたいことを鋭く察知してくれる朝潮の存在というのはやはり貴重なんだなと改めて認識する。



朝潮「では、そろそろ失礼させていただきます。夕立さんも、行きますよ。」



夕立「えぇ~!まだ夕立は提督さんと一緒にいたいっぽい!」



目くばせ序に、俺のこれからの『都合』の事を察してくれたのか朝潮が夕立とともに引き上げようとしてくれるが・・・少し鈍感な夕立にはそれが通じないらしく一緒に居たいと騒いでくれている。



それはとても嬉しいことではある・・・あるのだが、どうしようもない『都合』の為に悪いが引き下がってもらう様に俺からも促す。



提督「そういってくれるのは嬉しいんだが・・・少し、用事があってな。」



夕立「・・・わかったっぽい、でも!次は夕立と遊んでね!」



なんとか納得してくれた夕立はニッコリとそう笑いながら言うと、扉の前でもう一度お辞儀をした朝潮と共に執務室を後にした。



・・・さて、ここからが夕立との時間を無下にしてまで済まさねばならなかった『都合』の始まりだ。



拳を強く握り、冷静でいられるように深く深呼吸をする・・・よし、大丈夫だ。



コンコンコン



提督(・・・来たか。)



執務室に俺しか居ないタイミングでいつも、訪れてくる艦娘がいる・・・今回もその艦娘だろう。



提督「入ってくれ。」



感情が漏れ出さないように短く、入るように促す。すると、扉がゆっくりと開きその隙間からは予想通りの艦娘が顔を出していた。



卯月「し、失礼します・・・あの、今しれーかん・・・大丈夫?」ガチャ



提督「・・・卯月か、大丈夫だよ。入っておいで。」



不安そうにこちらの顔を窺っている卯月になるべくひきつらないように柔軟な笑みを向け、優しく手招きをする。



卯月「しれーかん・・・っ!」ダキッ



すると、弾かれたかのように扉から俺の方へと走ってきて俺の腰へと手をまわして抱き着いてきた・・・。



そう、俺の仕方のない『都合』というのは・・・俺に抱き着いて頬を緩めているこの卯月の事だった。



卯月「えへへ、寂しかったっぴょん・・・」



提督「・・・そうか。」ナデナデ



卯月「っ~~♪」



卯月はだいぶ変わってしまった、俺に怯えるどころか俺の姿が見えないだけでパニックを起こすようになってしまった。最近、繋がりができた明石に卯月の症状を診てもらったがやはり重度な依存傾向にあるようだ・・・それもなぜか俺に対して、だ。



そこら辺の理由も問いただしてはみたが、明石曰く『専門じゃないので、詳しくはわかりませんが・・・危険な事に変わりはありません。接し方には十分に注意してください。』だそうでもはや、卯月の今後は俺の行動一つで決まると言われているようなものだ。



提督(どんなことが切っ掛けだったのかはわからない。けれど、今思えばあの時・・・川内から助けてもらった時から卯月の様子は可笑しくなっていったような・・・)



卯月「あのっ、しれーかん・・・うーちゃんと一緒じゃ・・・つ、つまらないかな?」ギュゥ



不安に塗れ今にも涙が零れそうな声と、縋りつくような腕の感触を感じ俺の意識は急に引き戻された。卯月を見下ろすと・・・大きくて綺麗な瞳は翳り、陰鬱な色を灯していた。空虚、虚無、虚ろ・・・そんな負をイメージさせられるような目に見える絶望がそこにはあった。



提督(しまった、さっき自分で再確認したばかりじゃないか・・・っ!卯月のこの症状が改善するか否かは俺の行動にかかっていると・・・)



提督「そんなことはないぞ、俺だって卯月といられるのは嬉しい。・・・なにより、さっきだって卯月の事を考えていたんだ。」ギュゥ



咄嗟の言い訳にしても酷い台詞だ、俺自身幼い少女にこんな歯の浮くような事を言うのは正直どうかと思う・・・思うが



卯月「本当・・・?うれしいっぴょん!しれーかん、だーいすきっ!」スリスリ



卯月には好印象なようで、先ほどの重い空気は何処へやら・・・弥生と一緒にいるときと同じような元気で快活な明るさを取り戻した。その事に内心ホッとしていると・・・



チリリリリン チリリリリン



執務室のデスクの上に置いてある固定電話が、突如としてけたたましく鳴り始めた。



提督「・・・電話、か。」



いつもは俺が大本営や業者に掛けるだけの電話が、初めて鳴った事に少し驚いた。執務室に直通電話を掛けてくるということは、おおよそ大本営だろう・・・だが、俺がいま気にすることはそこじゃない



卯月「・・・。」



俺が今もっとも気にしなければならないのは電話の呼び出しのせいで機嫌を損ねた卯月の事だ。・・・卯月は、俺と二人でいる時間は絶対に邪魔されたくないようで開いている時間に稽古をつけてもらう約束をしていた加賀さんが俺を呼びに来た時も似たような雰囲気で場の空気を圧倒していた。



あの時は加賀さんが何とか諫めてくれたからよかったものの・・・残念な事に今は、この異様な空気感に押しつぶされそうな俺しかいない。



提督「・・・はい、こちら渡神(わたりがみ)鎮守府執務室です。」



卯月をどうすることもできないと思った俺は、仕方なく優先順位を変えていつまでもなり続ける電話の受話器に手を伸ばした。



卯月「あ・・・っ」



後ろで呆気にとられたような卯月の声が聞こえたが、早く電話を終わらせていつも以上に甘やかしてあげればいいだろう。幸い、直ぐに癇癪を起さないということはまだ我慢ができる段階だという表れでもあるしな。



『執務中に失礼いたします、大本営より大切なお知らせがあって連絡させていただきました。少々お時間よろしいでしょうか?』



受話器の向こうから女性の声が返ってきた、如何にも利発そうな声でそう言っているが・・・大切なお知らせというのは何なのだろうか。



提督「はい、構いませんよ。」



『ありがとうございます、では筆記できるものをご用意していただけますか?』



どうやら、メモを取らなければならない内容らしい。薄々嫌な予感はする・・・だがこれは好都合だ、今なら卯月の機嫌も同時に取れる。



提督「はい、少々お待ちください。・・・卯月、おいで」



受話器を抑え、未だに立ち尽くしている卯月に声をかける。とりあえず、電話の間ずっと頭を撫でてあげれば少しは気が紛れるだろう。



卯月「・・・っしれーかん!」



驚くぐらいの速度で俺の傍に来て、服を掴むと嬉しそうにはにかんだ・・・まだ大丈夫そうではあるな。相手が電話だからだろうか、少しは緩和されている気がする。



取り敢えず椅子に腰かけ、デスクの上にメモ用紙とペンを用意し近くに卯月の分の椅子も出してあげるが卯月はその椅子を無視し「えへへ・・・ここじゃダメかな・・・?」と可愛らしい声を出しながら俺の膝に座った。・・・なんというか、これはこれで集中できない。



だが、いつまでも電話先の人を待たせるわけにはいかないので俺は卯月の頭を撫でつつ再び受話器を耳に当てなおした。



提督「お待たせしてすみません、続きをお願いします。」



『わかりました、では今から明後日開催される重要な会議の日程と場所についてお話しさせていただきます。まずは日程から・・・』



受話器を耳と肩で挟み、右手でペンを走らせ左手は絶えず卯月の頭を撫で続ける。これが地味に難しい、諦めて卯月の頭から手を離そうとしたら切なそうな声が漏れるので離すに離せない・・・苦労しながらもなんとかメモを終えた。



一通りのお知らせが終わった女性は一息ついてから



『・・・以上になります。何か不明なところや、質問等がございましたら気兼ねなくどうぞ。』



と聞いてきた。その言葉を聞いた俺は、再びメモに視線を落とす。どうもこの会議は、大本営で行われるとても重要な会議らしい。



場合によってはこれからの人類の進退が決まるほどのものだという・・・もちろん、そんな重要な会議が日帰りであるわけがなく最低でも3泊下手をすれば1週間近くもここを離れなければならなくなる。



こうなると大きな問題点は二つある、まず一つ目は俺がアイツでないことがばれてしまう可能性が非常に高いということだ。知識は問題はないが、仕草や言葉遣い等が問題だ。期間が長ければ長くなるほどばれ易くなるし最悪な事に、俺は海軍のお偉方と会うのはこの会議が初めてでアイツとどういう関係なのかが皆目見当もつかない。



しかも、アイツは若くして少佐になっている所謂エリートだ・・・疎まれている可能性もなくはない。常に警戒して動かなければならないだろう。



そして二つ目、それはこの鎮守府の事・・・というよりは卯月の事だ。彼女は俺に依存してしまっている、そんな状態の卯月を残して此処を去ってもいいのだろうか。だが、これは備考として書いてある秘書艦を一人同伴させるという決まりで何とかなるかもしれない・・・。



提督「では、早速・・・秘書艦として誰か一人を同伴させる事とありますがその艦種等には規定はありますか?」



『規定ですか?そうですね、特にはありませんが・・・何分、長期の会議になりますし書類作成やお茶汲み等の雑務をしてもらわなければならないので、そういった事を得意とする方を選ばれた方が良いかと。』



提督「そう・・・ですか、なるほど。」



・・・厳しいな、言外に子供っぽかったり役に立てない子は連れてくるなと言われている。卯月には書類作成は難しいだろうし、お茶くみだってしているところを見たことがない連れていくのは理にかなわないだろう・・・どうしたものか。



俺はメモ帳を睨み、最善に至るまでの過程の思考を開始した。



提督(とりあえず、卯月の問題は置いておこう。それよりも先に秘書艦として同伴する艦娘を決めなくては・・・)



やはり理想の秘書艦といえば加賀さんだ。書類作成はお手の物だろうし、気遣いもできて雑事も完璧にこなせるこれ以上にない条件の整った艦娘だ。・・・しかし、加賀さんは極度の男性恐怖症を患ってしまっている。最近ずっと一緒にいる俺には耐性がついてきているようだが、それでも他の人となると・・・不安要素が多い。



だが頼れる人は加賀さんぐらいしかいない、鳳翔さんも考えたが鳳翔さんには居酒屋の営業がある。聞くところによると、中々に盛況のようだ・・・邪魔するわけにはいかない。



加賀さんには申し訳ないが、後でお願いしに行くとしよう。



『他にご質問等はございませんかね・・・?』



しまった、考えに没頭するあまり相手の事を考えていなかった。・・・そうだ、最後にダメもとで聞くだけ聞いて終わろう。



提督「あの、すみません。最後に・・・秘書艦に関係なく、もう一人艦娘を同伴させたいのですが・・・構いませんか?」



『もう、一人ですか?・・・少々お待ちください。』



不思議そうにそういうと、受話器の向こうからは静かに誰かとやり取りをしているような声が聞こえ始めた。どうやら誰かに確認を取っているらしい・・・これが受理されればスムーズに問題が解消されるんだがな



受話器を握る手に力が入る・・・緊張で喉もカラカラだ。そうやって返事を待っていると、不意に服を引っ張られた。



提督「・・・どうした、卯月?」



その感覚の原因である卯月に視線を落とす。卯月は心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んでいた、いけない・・・心配させてしまっただろうか



卯月「あの、しれーかん・・・大丈夫?何か言われたの?」



提督「なんでもないよ、心配してくれてありがとう。卯月。」ナデナデ



卯月「えへへ・・・な、ならいいっぴょん。」ギュッ



いけないことだとはわかってはいる。けれど、やはり自分を心配してくれるのは素直にうれしいものだ。どちらかというと、心配されるべきなのは卯月ということに変わりはないが・・・。



提督(卯月は結構落ち着いている、いつもより少し密接な状態だからかもしれないが・・・とりあえず、今のうちに話をしておこう。)



少し今一度深呼吸し、卯月の頭を撫でながら



提督「卯月・・・俺は、暫くこの鎮守府を空けなきゃいけなくなった。」



卯月「・・・え?」



『空気が凍る』とはまさに今の場面で使われるための言葉だと、俺は自らの体を通して悟った。心配そうに見つめていた卯月の瞳はいつの間にか光を失い、悲痛に歪んだ口は歯をカチカチと鳴らすだけで到底いつものような笑顔を見せてくれるような状態ではなくなっていた。



提督「卯月、しばらくって言っても三日とか一週間ぐらいだから・・・っ!?」



まずいと思い、気休め程度の言い訳を述べようとした瞬間凄い力で卯月が抱きしめてきた・・・



卯月「しれーかん・・・うづきを・・・す、すてちゃうの?」



かなり飛躍した発言に一瞬あって気に取られてしまう。けれど、今の卯月にとっては俺が少しでも遠くに行ってしまうのは不安で仕方ないのだろう・・・



提督「そんなことするわけない・・・俺は卯月と一緒に居たい。」ギュッ



きっと、こんな甘い事ばかり言ってしまうからいつまでたっても卯月のこの状態が改善できていないのだろう。だが、どうしても目の前の少女を泣かせたくない・・・そんな一心で言葉が飛び出てしまう。



卯月「しれーかん・・・うん、そうだよね。しれーかんがうーちゃんをすてるだなんて、そんな・・・ふふっ」クスクス



提督「当たり前だろ、卯月。」



だからだろうか



卯月「うん・・・この電話のヤツが悪いんだよね?」バッ



提督「っ!?卯月・・・!!」



笑顔を見せた卯月に油断してしまったのは・・・。



卯月は俺の虚を突き、驚くほど俊敏な動きで俺の持っている受話器を奪い取った。



『お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。同伴の件ですが・・・』



奪われた電話口から微かに声が聞こえてくる、どうやら同伴の件について答えが出たようだ。卯月に奪われた受話器を取り戻そうと手を伸ばしたが、それよりも先に卯月が受話器を耳に当て



卯月「次・・・」



『・・・え?』



卯月「次、電話を掛けてきたらお前を殺すぴょん。しれーかんを奪おうとするなら・・・容赦しない。」



いつかの川内の時の様な・・・普段の様子からはまるで想像もつかないほど低い声でそう言い放った。



提督(最悪だ・・・よりにもよってこのタイミングで・・・っ!)



俺は未だに大本営の事を詳しくは知らない、そういざこざがあったとしても丸く収める術をしらないのだ。そんな状態で問題でも起きようものなら・・・



提督「卯月!!」バッ



卯月「あっ・・・」



電話を切ろうとした卯月の手を咄嗟に掴み、受話器を奪い取る。少々乱暴な行動に出てしまったが、今はそれどころではない。この出来事が後々悪い事態になって返ってくる可能性だってあるのだ。



提督「申し訳ありません、ウチの部下がとんだ悪態を・・・部下に代わって謝罪させてください。」



そのとき、一番割を食うのは卯月なのだ。そんな状況になってしまえば、俺が助けてやれるという保証はない・・・最悪、解体だって・・・



考えたくもない未来に、自然と表情が強張り受話器を握る手には汗がジワリと滲んだ。受話器の向こうからは未だに声は聞こえてこない・・・



提督(ダメ・・・なのか・・・?)



受話器を握る手から力が抜け、顔を伏せそうになった・・・その時



『・・・い、いえ。少し驚きましたが、問題はありませんよ。』



という意外にも許しの言葉が返ってきた・・・未だに動揺は残っているものの先ほどと様子はさほど変わっていないようだ、本当によかった。



提督「・・・ありがとうございます。」



『あはは、大丈夫ですよ。それに、先ほどの娘は貴方の事を心配してあのような行動を起こしたものだと思いますしね。』



提督「そういってもらえると助かります・・・。」



クスリと笑みを漏らし、此方を元気づける様にそういってくれた。・・・電話をしてくれた人がこの女性でなければどうなっていたことか・・・



『おっと、少し話が逸れてしまいましたね・・・同伴艦の件ですが』



そうだった、同伴艦の事が決まらない限りまだ安心はしていられないんだった・・・。俺は再び拳に力を込めながら、女性の次の声を待った。



『・・・残念ながら、受理されませんでした。必要以上の同伴は控える様にとの事です。』



提督「そう、ですか・・・。」



流石にすべて上手くとは行かないようだ。どうも、艦娘というオーバーテクノロジーを従えている俺たちを余程警戒しているらしい・・・必要以上・・・つまりは一人以上は連れてくるなという意思表示だろう。



仕方がないといえば仕方がないが、味方だというのに随分な戒厳さだ・・・謀叛の可能性でも考えているのか?



提督「わかりました、色々ありがとうございます・・・えと」



お礼を伝えようとするが、名前を聞きそびれてしまっていることを思い出した。どうにか切り出そうとしていると



大淀『あ、申し遅れました・・・私は大淀といいます。』



電話の向こうで四苦八苦している俺の姿を想像したのか、聞かずとも名前を教えてくれた・・・気の利く人だ。



提督「大淀さん・・・ですか。」



それにしても、大淀とはこれまた珍しい名前だな・・・まるで艦娘みたいな・・・



大淀『あっ、変わった名前だと思いましたか?・・・実は、私も艦娘なんですよ。』



提督「そ、そうなんですか・・・?」



驚いた。今まさに自分の中で考えていたことが事実だということにもそうだが・・・艦娘が大本営の業務をしているという事実は初耳だ・・・戦場から離れて働く艦娘もいたんだな



大淀『フフッ、驚きですか?少佐殿ともなれば、やはり戦わない艦娘には違和感を覚えるでしょうね。』



そんなわけがない、出来る事ならば艦娘であろうが人であろうが争わずに済むに越したことはないのだから。



・・・暴力で事を収めてしまった俺が言うにはあまりにも滑稽な台詞だが。



提督「いやっ、そういうわけでは!・・・なんというか、場所は違っても共に戦ってくれてるんだなって思うと、その・・・心強くて・・・」



自分が思ったことを伝えようとするが、言いたいことが纏まらずずつっかえつっかえの言葉が口をついてしまう。幾ら稽古中に平常心を磨いたとしても、こういう場面で使えなければ意味はない。



大淀『・・・お優しいんですね。すみません、今の失言は忘れていただければ幸いです。』



コホンと、咳払いをし話を戻すように促される・・・どうやら俺の言い訳を律儀に受け取ってくれたようだ。



提督「はい、ありがとうございました。大淀さん、電話をしてくれた人が貴女で本当によかった。」



大淀『そういって頂けてとても嬉しいです、私こそ少佐殿の様な素晴らしい方とお話しできて良かったと思っていますよ。』



最後の最後まで謙虚な人だ・・・卯月にあんな暴言まで吐かれたのに嫌な顔一つせず自分の仕事を全うするどころか、俺にまで気を遣ってくれた大淀さんに言葉と心で感謝する。



提督「では、また後日。」



大淀『はい、大本営で出会えたらいいですね。』



ゆっくりと受話器を置き、額の汗を拭う。電話の相手が大淀さんだったからよかったものの・・・それ以外の人だったら。そう考えるだけで未だに地に足がついていないような感覚に陥る。



・・・だが、その原因を作り出した卯月への説教を済ませなければならない。これからもこのような事態に度々陥ってしまうようでは身が持たない。今のうちに教えておかねばならない。



提督「・・・卯月。」



卯月「っ」ビクッ



いつもより声を低くして咎めるようにその名前を呼ぶ。呼ばれた卯月はびくりと体を震わせ、怯えるような目で俺を見つめている・・・



その姿に躊躇しそうになるが、なんとか堪える・・・これも卯月の為だ。



心を鬼にし、再び口を開く。



提督「卯月、お前は軽率な行動をした・・・そうだな?」



卯月「・・・っ」



対する卯月は震えながら目に涙を溜めている、強く握られた拳が痛々しい。



提督「卯月、黙っていちゃわからないだろう。」



それでも、それでも・・・もう卯月には傷ついてほしくない。だから今ここでわからせる必要があるんだ。



卯月「は・・・い・・・ご、ごめ・・・ごめんなさい・・・」



卯月は震える口でどうにか自分の悪行を認め謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げた。・・・もう十分だろう



提督「わかってくれたならいいんだよ、次からは絶対にしちゃダメだ。自分の行動一つで簡単に信頼が失われるということを忘れてはいけないよ。」



卯月「はい・・・わかりました・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」



いつも通りの声で最後に念を押す、この辺でいいだろう。今回は無事で済んだんだ、これ以上は酷だろう。



すっかりしおらしくなってしまった卯月に手招きをし、此方に呼ぶ。卯月は大人しくこちらに来て、未だに涙ぐんだ瞳を向けてきた。



提督「・・・でも、卯月が俺の事を大切に思ってくれてたってことは伝わってきたよ。・・・ありがとう。」ナデナデ



涙を優しく拭ってやってから、いつもより少しだけ強く抱きしめて頭を撫でる。・・・抱きしめているから顔は見えないけど、卯月が泣き止んでくれたことだけは雰囲気でわかった。



卯月「ごめんなさい・・・しれーかん、しれーかんを困らせるつもりはなかったの・・・ほんとうにごめんなさい・・・っ!」



提督「ああ、わかってる。大淀さんも許してくれたし、悪いとわかってくれたならもういいんだ。」



何度も何度も胸の中で謝る卯月を、しっかり抱擁してやる・・・今は先の事を考えずに卯月との時間を大切にしよう・・・。



数分後、部屋に中々帰ってこない卯月を心配した弥生が迎えに来た。そして、目元を真っ赤にして泣き腫らしている卯月を俺が慰めているという構図に少し驚きながらも何があったのかを聞いてきた。



一応、卯月のしたことは極力有耶無耶にして伝えた。話を聞いていた弥生は終始納得していない様子だったが、何も聞かずに頭を下げて静かに卯月と共に部屋へと帰っていった・・・気を遣わせてしまったようだ。



だが、この今の状況は好ましい。早急に加賀さんの所へと赴き同伴艦の件をお願いしてみよう。



そう思った俺は、椅子に掛けてあった軍帽を被り直し執務室を後にした・・・



ー鎮守府内廊下ー



加賀さんは普段、出撃がないときは執務室がある此処から離れたところにある弓道場にいる。時間が空いた時には稽古をし、また俺の武術の手ほどきを行ってくれるわけだが・・・



提督(大きなお世話というのはわかってはいるが・・・なんというか、常に気を張った状態で疲れたりとかはしないのだろうか?)



艦娘とはいえ、女性は女性だ。いくら武人然としていても、心配してしまう事に変わりはない・・・流石に同伴で息抜きとは行かないだろうが、少しでも外の空気を吸っていてもらいたい。



そう思うと、自然と歩く速度が速くなり・・・不意に、廊下の角から曲がってくる人影に気づくことができずにぶつかってしまった。



「きゃっ・・・!」



提督「あっ、すまん、だいじょう・・・」



急な事だったため、ついつい素の口調に戻りぶつかってしまった人に対し手を差し伸べようとしたが・・・その顔を見た途端言葉が途切れた。



そうなるのも無理はない、なぜなら目の前で倒れているのは・・・



川内「・・・っ」



俺のトラウマともいえるべき、あの夜の騒動を起こした張本人・・・川内だったからだ。



提督(・・・落ち着け、取り乱すな。)



急な邂逅に、心臓は痛い程跳ね大量の冷や汗がタラりと背中を這う。その怯えを取っ払うために、落ち着けと自分に言い聞かせる。



提督(震えは止まった・・・か。)



どうにか落ち着きを取り戻した俺は、呼吸が整ったのを機に川内にもう一度話しかける。



提督「・・・すまない、考え事をしていてな。・・・大丈夫か?」



川内「・・・ふん。」



俺が差し伸べた手を意外そうな顔で数秒見つめた後に、その手を払いのけて立ち上がった。・・・卯月に引き摺られてどこかへ連れて行かれたっきり会ってなかったので合うのは一カ月ぶりなわけだが・・・



「姉さん。」



軽く昔を思い出していると、廊下の曲がり角から声が聞こえてきた。



その声は川内と少し似ているが、川内とは対照的に静かで知性を感じさせるような冷ややかな美声だった。



川内「神・・・通・・・。」



川内は目を見開き、額から汗を流しているように見えた。神通、とは確か・・・彼女の妹に当たる艦娘だったはずだが・・・何をそんなに怯えているのだろう。



神通「姉さん、提督に対する不敬は働くなと私は再三申した筈ですが?」



川内「あ、違う・・・!これはつい、反射で・・・!」



廊下の角から顔をのぞかせた神通の顔は無表情だったが、その表情の裏で激しく怒っているというのが雰囲気で伝わってきた・・・



神通「反射で、という言葉はいい訳にはなりませんよ。まだ、分かっていないと言っているようなものなのですから。」



川内「・・・っ」



流石の川内もこの雰囲気にはかなわなかったらしく、ついには黙りこくって下を向いてしまった。



提督「な、なぁ神通・・・その、川内も悪気があったわけじゃないと思うし・・・もう、その辺で。」



無視を決め込むには、川内が不憫すぎてできなかった・・・角でぶつかった俺にも責任はある。少々、言葉を詰まらせながらもなんとか怒りを諫めてもらうために口を開く。



神通「・・・提督がそう仰られるなら、わかりました。ですが、代わりに謝らせてください・・・姉さんが、申し訳ありませんでした。」



あろうことか静かに頭を下げ、姉の代わりに非礼を詫びてきた。・・・この堅苦しい感じが、神通特有の個性なのだろう。



提督「気にしないでくれ、本当に大丈夫だから。じゃあ、俺はこれで・・・」



正直、今は神通達に関わりたくない。これから、加賀さんに話をしに行かなくてはならないし・・・なにより、神通の目が怖い。絶対に『わかりました』という目じゃないだろ・・・それ。



そう思い、俺は早急に切り上げようとするが・・・



神通「あ、お待ちください・・・そんなに急いでどちらに行かれるのですか?」



流石に焦り過ぎたか・・・いや、ここで彼女たちを邪険に扱うのは不誠実かもしれない。そうだ、鎮守府の長たる者として艦娘には平等に接さなくては



半ば投げやり気味に自分を納得させ、大本営からの召集の件と同伴艦の件について神通に話した・・・



神通「なるほど・・・では、姉さんを同伴艦に連れて行ってみてはいかがでしょうか?」ニコッ



提督「え・・・?」



川内「・・・は?」



そして、俺はその自分の行為を深く後悔する羽目になった。



提督「いや、神通・・・?流石にそれは・・・急だし、川内にも悪いよ。」



神通「提督、差し出がましいようですが・・・これは姉の贖罪です。どうか、もう一度機会を与えてあげてください。」



遠回しに断ろうとするが、神通はこれでもかというぐらいに川内の同伴を推してくる。



提督(贖罪も何も・・・さっきの態度からして明らかに反抗的だったよな・・・。そんな川内と一週間も共に過ごせるだろうか・・・?)



来るかもしれない未来を想像してみても、俺が寝首を掻かれている図しか思い浮かばない。機会を与える以前に、俺たちには相当の溝があるんだ、そう簡単には信頼できない。



提督「だがな神通、向こうに同伴するということは書類仕事や雑務までこなしてもらわなきゃならない・・・そういうのに向いているのは、やはり加賀さんだと思うんだ。」



どうにかして諦めてもらおうと、加賀さんの存在をほのめかしては見るが・・・神通の目は決意を宿し、ただひたすらに俺の瞳を見つめ続けている。そんな様子の俺たちに痺れを切らした川内が神通の肩を掴むが・・・



川内「ちょっと、神通・・・!何を勝手に・・・」



神通「姉さんは黙ってて。」



川内「・・・。」



秒殺だ。妹の鋭い眼光を浴びた川内は口を噤み、諦めたような眼差しで俺の方を見てきた・・・。



提督(なんだその「無理そうだからあきらめろ」って目は・・・ウソだろ、おい。)



折角言い訳をツラツラと並べて、提督としての落ち着いた思考を保ってきたというのに・・・この一瞬のうちに剥がれてしまった。



仕方ないので観念して、神通の案を承諾することにした。俺の返事を聞くと、神通は満足げに微笑み「ごゆっくり打ち合わせを。」とペコリと頭を下げて足早に去っていった。



・・・気を遣ったつもりなのだろうけど、それまでの行動が怒涛過ぎて川内に同情まで覚えてしまいそうだ。



提督「・・・お前も大変なんだな、川内。」



川内「まぁね・・・もう慣れたよ。」



すっかり静かになってしまった廊下に、二人の溜息だけが零れた・・・。



ー弓道場ー



同伴艦の件についてはもう殆ど決定してしまったようなものだが、一応加賀さんにも相談しようと思い弓道場へと訪れた。



靴を脱ぎ、道場へ上がる。そこでは、加賀さんが弓を構え遠く離れた的を狙って弦を引き絞っていた。



加賀「・・・。」



弓道の知識は全くないが、その姿が美しく一切の乱れがないことが判る。すっかりその射形に見惚れていると、いつの間にか加賀さんが放った矢は的をめがけて飛んでいき・・・見事、的の中心部分に命中していた。



提督「凄いな・・・」



思わず感嘆の声を漏らしてしまった、日々の鍛錬でこんなにも美しい流れるような動作ができる物なのか・・・。



加賀さんは数秒矢の刺さった的を見つめた後に此方に視線を移すと弓を降ろし息を吐いた。



加賀「ふぅ・・・お待たせしてすみません、何か御用でしょうか?稽古なら準備をいたしますが。」



提督「あ、いえいえ今回は稽古ではなくてお話がありまして。お邪魔でしたらまた出直しますが・・・?」



たった一度の矢を射るだけに、あそこまで極限に集中している加賀さんの邪魔をしてしまうのは気が引ける。



加賀「いえ、問題はありませんよ。どうぞ、其方へ。」



加賀さんは弓を立て掛けると、その場で正座した。稽古の時もそうだが、加賀さんの正座はとても姿勢がいい・・・見ている俺さえもついつい己の姿勢を気にしてしまうほどに真っ直ぐだ。



提督「すみません。・・・では、失礼して。」



加賀さんの催促通りに対面に座り、姿勢を正してから話を切り出した。



結論から言うと、結局俺と同伴し大本営に向かうことになったのは川内だ。加賀さん曰く、俺がこの鎮守府にいない間に俺の代わりとして鎮守府を運営してくれる艦娘が必要だという。言われてみればそうだと思い、俺は加賀さんに鎮守府の運営を任せることにした。



提督「では・・・加賀さん、よろしくお願いします。」



加賀「ええ、お任せください。それで・・・最後に、少し気になることがあるのだけれど・・・」



話も終わり、一息ついたところで加賀さんが珍しく砕けた口調で話しかけてきた・・・どうしたんだろう



提督「どうかしましたか?」



加賀「・・・卯月の事は、どうするの?あの子、貴方が居ないとひどく不安定になるみたいだけれど。」



・・・やはり、加賀さんもそこを心配していたようだ。



確かに、俺はその問いに答えられる回答は用意していない。というより、答えることができない。連れていけないと決まった時点で手の打ちようがないのだ。



提督「・・・仕方ないですが、此処に残ってもらうしかないですね。」



大淀さんの話からすると、駆逐艦を連れていくような提督はいないらしい。本当に仕方のないことだが、ここで悪目立ちをするわけにはいかない。



加賀「そう・・・。わかったわ、あの子はなるべく私が面倒を見るようにするわね。」



提督「え・・・っ、加賀さんがですか・・・?」



予想外の提案に驚いた俺は、思わず身を乗りだして加賀さんを直視する。・・・加賀さんはそんな俺から少しだけ顔を逸らすと



加賀「そ、そんなに驚くことかしら・・・?私、小さい子は嫌いじゃないのよ。」



と小さな声でそう言った・・・これは願ってもいない提案だ。是非、加賀さんにお願いしよう。



提督「なら、是非お願いします。」



何から何まで任せっきりで、申し訳ないが今は加賀さんの好意に甘えさせてもらうことにする。



加賀「・・・ええ。」



・・・そして、面倒事が片付いた暁には加賀さんたちと街に遊びにいこう。そう心の中で勝手に誓い、俺は弓道場を後にした。



綻びの始まり



いつもよりも早く鳴り響き始めた目覚ましを止め、ベッドから起き上がる。未だに開き切らない目を無理やりこじ開け身支度をし始めた。



提督(今日から、しばらくの間鎮守府から離れ大本営にて過ごすことになる。なんでも、重要な会議だという事らしいが・・・これから大きな作戦でも始まるのだろうか・・・・。)



指揮に自信がついてきたとはいえ、それでもまだ素人という事に変わりはない。そんな状態の俺がこれから起こるかもしれない大きな作戦を遂行することができるのだろうか・・・?



提督「考えたってキリがないよな・・・全く。」



澱の様に積もる不安感を拭うべく、俺は鏡に目をやり身なりの最終確認をする。



軍服にシワは一つもなく、深くかぶった軍帽にも汚れは見当たらない。上から羽織ったコートも目立ち過ぎない黒色で、マフラーや手袋にも問題は見受けられない。



提督「・・・よし。」



自分で言うのもなんだが、中々様になっていると思う。・・・欠点といえば、緊張で顔が強張ってしまっているところぐらいだろう。



傍に置いてあった鞄を持ち上げ、自室から出てまだ日の出ていない暗い廊下をゆっくりと歩く。此方から大本営まではそこそこ距離が在り、時間通りに到着するにはかなり早くに出発しなければならない。



うっすらと霜のかかる窓の景色を見ながら、しばらく歩いていると不意に自分を呼ぶ声が聞こえてきた・・・ゆっくり振り返ると見覚えのあるシルエットが浮かび上がってきた。・・・あれは、睦月か。



睦月「て、提督・・・!よかった、間に合って・・・」



声の主である睦月が息を切らして俺の元まで走ってくると・・・よかったといいながら胸を押さえている・・・それよりも、どうしてこんな時間に?



提督「・・・睦月か、こんな時間にどうしたんだ?」



睦月「提督がしばらく会議で鎮守府から居なくなるって聞いて・・・せめて、お見送りしようかと・・・おもいまして。」



そういうと睦月は顔を伏せてしまった、寒さからかすっかり顔が赤くなってしまっている・・・そんな様子になってまで俺の為にこんな朝早くに駆けつけてくれたのだと思うと嬉しくて仕方がない。



提督「そうか・・・ありがとう睦月。」ナデナデ



睦月「ふみゅっ・・・///」



本当はもっと気の利いた言葉を送ってあげれれば良かったのだろうけど、そんなものは持ち合わせて居なかったのでしゃがんで頭を撫でた・・・嫌がられるかと思っていたが不思議と、一番気に入ってくれているように見える。




提督「・・・じゃあ、行ってきます。睦月。」



スッと頭から手を離し、睦月に敬礼をしてみる。すると、睦月は少し笑顔になると



睦月「・・・はいっ!いってらっしゃいませ、提督!」



元気な敬礼を返してくれた、本当によくできた子だ。・・・この子たちの為にも頑張らねば。



鞄を握る手に力が入るのを感じる、心なしか先ほどよりも朝の風景が澄んで見えるような気がした・・・



ー鎮守府の正門ー



川内「遅いよ、何やってたのさ。」



正門に着くと、明らかに不機嫌そうな顔をした川内が壁に寄りかかるようにして待っていた。



提督「待たせてしまったようですまない、少し身だしなみを整えるのに時間がかかってしまってな。」



川内「普通、そういうのは私が言うべきものだと思うんだけど・・・?」



俺の言葉を聞くなり先ほどよりも目を吊り上がらせる川内だが、よく見ると川内の恰好はこの気温にふさわしくない程薄着だ・・・こんな状態で待たせてしまっていたのだと思うとジワジワと罪悪感がわいてくる。



提督「そういわれると耳が痛いな・・・。」



そんな姿が見ていられなくなり、通り過ぎ様に自分が羽織っていたコートをバサッと乱暴に川内にかぶせる。



川内「わっ・・・!ちょっ、なにすんのさ!」



川内は予想外の俺の行動に慌てふためきながらも、俺のかぶせたコートを大袈裟に自身から払いのけた。



提督「そんな薄着じゃ寒いだろ・・・というより見ているこっちが寒くなる。いいから着ていなさい、上官命令だ。」



自分でも少し川内には当りがキツくなっているという自覚はある。だが、これは徐々にではあるが恐怖感を拭えている証拠でもあるのだろう・・・きっと少し先ではみんなと同じように普通に接することができる様になっているはずだ。



川内「・・・訳わかんない。」



渋々といった感じで俺のコートを着始めた川内を確認した後に、俺は川内に聞こえる様にこれからの事を説明する。



提督「ああ、後だな。ここは目的地である大本営から離れているから、直接の迎えは寄越してくれないそうだ。」



川内「は?じゃあどうすんのさ・・・まさか、歩きとか言わないよね?」



提督「そんなまさか、公共の交通機関を使うのさ。なに、少し駅を乗り継げば迎えを出してくれるそうだし問題はないだろう。」



全く不便な事極まりない、此方から近づくまでは迎えも寄越してくれないとは・・・だがこれは逆に川内と話し合える重要な機会となるかもしれない。



川内「こうきょうのこうつうきかん・・・なにさ、それ。」



そういえば、川内もこれが初めての外出だと神通に教えてもらっていたっけ・・・きっと電車を見たら驚くだろうな。



提督「行けばわかる、早く行くぞ川内。」



川内「・・・はいはい。」



やっと太陽が見えてきて周りが明るくなり始めたのを境に、俺と川内は互いに距離を保ったまま駅の方へと歩いて行った。



ー電車ー



川内「あのさ」



時間帯が時間帯だけに誰もいない朝焼けに染まる車内で、ウトウトとしていると不意に川内から声を掛けられた。



提督「・・・ん?どうした、川内。」



少し離れて座っている川内の方に体を傾け返事をする、眠気からか少しだけ耳が遠くなっている気がした。



川内「あの時の話ってさ・・・。」



あの時の話とはきっと、あの夜俺が言い訳の様に言った俺の正体の事についてだろう。だけど、なんで今更そんな話を・・・



提督「俺は事実を言ったまでだ・・・聞く耳は持たれなかったようだがな。」



皮肉気味にそう返す。ただでさえ大本営に向かうのに緊張していて余裕がないのに、そんな話を蒸し返されては・・・正直、あまりいい気分ではない。



川内「・・・ぐっ、仕方ないじゃん私は私で余裕なかったんだし。」



神通に散々何かを言われたせいなのか、すっかり角が取れてしまっているような気がする。神通は一体川内にどんなことをしたのだろうか。考えただけで億劫だな。



提督「お前たちの事情を考えればわかるが・・・もう次からは勘弁してくれ。」



今後もあんなことが続けば流石に身が持たない、覚悟はすれど日常茶飯事になられては困る。



川内「文字通り耳にタコができるほど神通に言いつけられてるよ、もうしないって・・・。」



川内は不貞腐れたようにフンと視線を逸らし、再び反対側に向き直ってしまった。



提督(・・・確かに、今になってあの時の事を思い返す事に意味はないとは思うが俺自身も気になる点が多い。)



もうひと眠りという気分になれなかった俺は体を起こして、川内に気になっていたことを聞くことにした。



提督「なぁ、そういえばお前はいったいなんであの時間帯に一人で海へ行ったんだ?」



川内「・・・別に、落ち着かないから夜戦して気を紛らわそうとしてただけだよ。」



夜戦・・・か。確かに、今までの経験上夜戦での攻防は海域攻略の成功を左右する重要な戦いなのはわかるが・・・決して気を紛らわせるために一人で行くようなものではないだろう。



言葉の成否はわからないが、結果的にはその危険な行為を止められたのだから問題はない。



提督「そうか・・・だが、今度から勝手な出撃は控えるように。」



川内「わかったってば、何回も注意しなくてもいいって・・・もう。」



このことも神通に咎められたのか、相当苦々しい顔をしている。これ以上、この件について立ち入れば余計に川内の機嫌を損ねてしまうことになるかもしれない。



提督(だが、俺が本当に気になっているのはそんな事じゃない。)



今なら卯月もいないし、聞けるかもしれない。そう思った俺は、再び口を開く。



提督「最後にもう一ついいか?」



川内「・・・まだなにかあるの?言っておくけど、もう粗方は神通に釘刺されてるからね。」



提督「いや、注意の事じゃない・・・卯月の事だ。」



川内「・・・」



川内の纏う雰囲気が一瞬にして、黒く淀んだのがわかった。思わず息を飲み、口を開くのに抵抗を感じつつも俺は言葉をつづけた。



提督「俺が失神してしまった後・・・いったい何があったんだ?」



川内「言いたくない。」



意を決して口を開くも、あっさりと切り捨てられてしまった。



・・・きっと、言いたくないではなく『言えない』のだろう。顔を見ればわかる、川内の顔には明確な怯えがある。



提督「・・・。」



川内「・・・。」



場をなんとも言えない気まずい空気に支配されてしまう・・・もう、川内に話しかけるのは難しそうだ。



話すことを諦めた俺は、電車の揺れに身を任せ再び目を閉じることにした。



暫くして、電車を降りた俺たちは駅前に停まっている大仰な高級車に迎え入れられた。周囲の人からの痛い程の視線を感じつつ俺と川内は車に乗りこむ。



運転手の方が出てきて、挨拶されたときには焦りと緊張で汗が止まらなかった・・・まさか、自分がこういう体験をするだなんて思ってもいなかったし、迎えといっても普通の乗用車を想像していただけに心臓に悪い。



広い車内には俺と川内しか乗っておらず、これまた気まずい雰囲気は続いたままだ・・・どうしたものか。



未だに重い沈黙が続いたまま、俺たちの目的地である大本営に到着した・・・。



ー大本営ー



「着きました、少佐殿。」



提督「ありがとうございます。」



運転手さんが扉を開けてくれたので、お礼を言いつつ車から出る。俺に次いででてきた川内も小声でだが「・・・ありがとう。」とキチンとお礼を言っていて、それを聞いた運転手さんも優しい笑顔で頷いていた。



そんな光景を少し微笑ましい気持ちで見てから、俺は視線を目の前にある大きな建物に目を向ける。



提督「・・・ここが」



思わず声が漏れてしまった、大本営という名前からして想像しなかったわけではないが・・・大きいという範疇を超えている。ウチの鎮守府でも比べ物にならないというのは見るからに明らかだ。



川内「・・・。」



川内も黙ってはいるが緊張した面持ちだ。ここで声を掛けてやれないのは情けないと思い、ぎこちない笑みを張り付けておどけてみる。



提督「まぁ、お互い肩の力を抜いていこう。・・・たった一週間、話し合いをするだけだしな。」



川内「一週間もの間違いでしょ・・・緊張でおかしくなった?」



・・・効果は抜群のようだ、俺に。



溜息をつくのもそこそこに、俺たちは大本営の建物の中へと入っていった。



ー大本営内 廊下ー



「ご足労、ありがとうございました。少佐殿。」



趣のあるモダンな装飾の入った重い扉を押して開けると、眼鏡を掛けた綺麗な女性が出迎えてくれた。知性を感じさせるような立ち居振る舞いと怜悧な瞳が印象的だ・・・もしかして・・・




提督「まさか、大淀さん・・・ですか?」



声も似ているし、俺が想像していた通りのルックスだったため反射的に口を突いて出てしまった・・・これで人違いだったら恥ずかしいどころの騒ぎではない。



大淀「ええ、お初にお目にかかりますね。」ニコッ



提督(どうやら、大淀さん本人だったようだ・・・よかった。)



それにしてもまさか、会えるかもしれないとは思ってはいたが・・・こんなにも早く会えるとは。自分でも驚くほど、大淀さんと会えたことが嬉しくて思わず駆け寄ってしまう。



提督「よかった・・・あの時はお世話になりました」



大淀「あはは、お世話だなんて大袈裟ですね。私こそ、嬉しい言葉をいただきましたし・・・」



伝えたい言葉が多すぎて、上手くまとまらない・・・大淀さんも同じなのか、しきりに口を開こうとしてはまた閉じている。



川内「あのさ、イチャつくのは後にしてくれない?」



どんな話をしようかと考えていると、後ろから川内の冷たい声が聞こえた・・・確かにそうだった、今日は大淀さんと話しに来たわけではない。



少々心惜しいが、今回はここら辺でやめておこう。出来れば、今度はゆっくり時間を取って・・・



川内「・・・提督。」



提督「わ、わかったよ・・・。大淀さん、お出迎えありがとうございました。」



大淀「いえいえ、こちらこそお会いできて光栄でした。では、会議の方お気をつけて。」



提督「・・・?ありがとうございます。」



少しだけ大淀さんの言葉に違和感を持ったものの、応援してくれていることに変わりはないと思ったので頭を下げてその場を後にした。



廊下を抜けると、広いホールの様な場所に出た。和洋を折衷して作ったような内装はチグハグで微妙な齟齬を感じる・・・半分呆けるような感じで周りを見渡していると



「少佐殿、お待ちしておりました。」



カッチリとした制服に、腰に下げた軍刀が目を引く男性に声を掛けられた。・・・確か、この制服は陸軍管轄の憲兵だったか。



憲兵は海軍だけで、艦娘という・・・言い方は悪いが手に余る兵器を運用させる以上見張りは必要だという理由で陸軍が派遣した行政警察という肩書だったはずだ。やはり、この会議にも監視が付くのか。



提督「憲兵殿、お勤めご苦労様です。」



憲兵「ありがとうございます・・・ではこちらへ。」



素っ気ない、という言葉が一番適切だろうか。労いの言葉は綺麗に流され・・・ろくに目も合わせずに奥へと歩いていった。



川内「何アレ、感じ悪い。」



提督「思っていても口に出すな・・・後で皺寄せが来る。」



口は災いの元だ、卯月の場合は大淀さんが相手だったから大事にはならなかったが今度の相手は質が悪い。海軍と陸軍の仲が良くないのは、俺が入れ替わる前から知っていたが・・・因縁を付けるにしても付けられるにしろただで済まないことに変わりはない。



大人しく、憲兵の後ろをついていくと沢山の扉が並んだ通路に案内された・・・ここは、客室だろうか。廊下の一番端である部屋の前までくると、ピタリと止まった。俺もそれに合わせ足をとめる



憲兵「着きました、ここが少佐殿の客室になります。カギは室内にございますので、お出かけになられる際には戸締りの徹底を。」



提督「わかりました。」



言われるまでもない事だったが、一応頷いておく。俺が頷いたのを確認すると、次に憲兵は川内に目を向け



憲兵「では、次は艦娘の部屋を案内させていただきます・・・こちらへ。」



と未知のものに対する嫌悪の感情を丸出しにした状態で川内を連れて行こうとする。



川内「・・・」



当然と言えば当然だが、川内は至って不服そうな顔をしている・・・正直俺も今の行動は赦せない。それに、川内もあまり気の長いほうではない、手が出て問題になる前に釘をさしておくべきか・・・?



だが、ここは大本営・・・些細ないざこいざを起こすのはあまり賢明ではない。今回だけは川内に引き下がってもらうように目で合図する。



川内「・・・っ。」



果たして、俺の意図を汲んでくれたのかどうかはわからなかったが・・・川内は大人しく憲兵の後をついていった。



提督(すまない川内・・・だが、見逃すのはこれ一回っきりだ。次見かけたときは、殴り合いになってでも阻止してやる。)



震える拳を諫め川内の背中が見えなくなってから、俺は客室に入っていった。



提督「客室・・・ねぇ」



やはりというかなんというか、この部屋も目が疲れるほど装飾まみれだった。こんなところに客人を通すなど、逆に失礼に当たるんじゃないか?俺だったら速攻「心労で殺す気か!」と怒鳴ってでも帰る・・・今は立場的に叶わないが。



深呼吸をし、取り敢えず考えることを辞めた俺は荷物を置いてベッドに体を預けて目を閉じた。



提督(・・・落ち着け、愚痴を言うために此処に来たわけじゃないだろ。)



そうだ、まずは会議の事を考えなくてはならない。正直、今は俺の正体云々よりもこの会議の進む行く末が不安で仕方がない。



提督(人類の進退を決める作戦・・・無事に終わるとは思えない、一体どれだけの犠牲を払わなければならないのだろうか。)



考えれば考えるほど胸の内に澱のような不安感だけが募っていく。しかも、他の鎮守府は実力を認められているからまだ良いが俺はというと執務にも作戦立案にも慣れてはきたがまだまだ素人も良い所だ・・・当然ながら、彼女たちの命を預かれる程のモノではない。



提督(身に余る英断の先は絶望か。笑えないな、全く)



アイツを消したところで、今度は俺が彼女たちを死なしてしまうかもしれない。そんな恐怖が俺を蝕んでいる。今までは自分の事で一杯で・・・いや、今もそうか・・・彼女たちの沈む姿が見たくないという自分勝手な思いが俺の喉元を締め付けてくるようだ・・・



提督「ッ・・・駄目だ、緊張でナイーブになってしまっている。落ち着いて、まずはやれることを。」



提督(そうだ、まだ時間はある。ネガティブ思考に身を任せるよりも、最悪な結果から遠ざかるための努力をした方が堅実だ。)



再び、暗い考えに頭を占領される前に鞄から兵法書を取り出して戦術を叩きこむ作業へと移行する。



書物に没頭する事数時間、室内にある固定電話の甲高く鳴り響く音により俺の集中力が絶たれた。眉間を指で押さえ疲れ気味な目を労わりつつ受話器を取って耳にあてる。



『只今より会議を行います、会議室までお越しください。』



提督「わかりました・・・直ぐに向かいます。」



大淀さんとは全く違った事務的な声に、疲れ気味な声で応対する。思った以上に待ち時間が長かったせいで、書物を読み耽ってしまった・・・こんな状態で会議なんてまともに聞いていられるだろうか?



『では、失礼いたします。』



その声が聞こえたと同時に俺も受話器を戻し、ファイルに必要な書類が入っているのを再度確認してから言われたとおりに施錠して部屋を出た。



廊下を歩き、会議室へと向かう。勿論、道は知らないが不自然ではないほどにうろつき回り何とか会議室と書かれた大仰な部屋の前まで足を運ぶ事に成功した。



提督(・・・ふぅ、これからだ。これからは一瞬たりとも気を抜いてはならない。)



緊張で荒くなる呼吸を押しとどめ、扉を開けた。



提督「・・・っ」



扉を開けた俺を迎えたのは刺すような視線と、重苦しい雰囲気だった。入り口から奥に続くような縦長のテーブルの奥には険しげな顔をしたこの大本営で最も位の高い人物である『元帥』が鎮座しており、一番最後に来た俺を咎める様に睨みつけている。



その視線に耐えきれなくなり、思わず視線を巡らせるがテーブルの左右にも武人然とした歴戦の提督たちの顔が並んで・・・



「・・・」ニヤニヤ



・・・いや、一人ニヤついている気持ちの悪い顔がいた。例のあの男だ。俺を街で揶揄い、根拠もない癖に人殺し認定をしてきた軽薄な男だ・・・まさか出会っちまうとは。



提督(惑わされるな、大丈夫だ。ここが公の場である以上アイツも下手には動けないはずだ・・・落ち着け。)



気づかれないように小さく息を吐き、空いている席まで行き腰を降ろす。



元帥「・・・揃ったか。では、これより会議を始める。その前に、各自鎮守府の資材状況と艦隊の編成状況の報告を。」



チラリと俺が座った事を横目で確認すると、重々しい声で元帥が会議の開始を宣言した。



(いよいよか・・・。)



無意識に体が強張り冷たい汗が背中を這う、先ずはこの中で一番階級の低そうな俺から行くべきなのかもしれない。そう思ってファイルに手を伸ばそうとした瞬間、対面側で一番元帥に近い席に座っていた体格のいい提督が「では、私から。」といって立ち上がった。



ホッとして行き場を失った手を膝の上に戻しかけるが、ここでの情報が今後の会議の行く末を左右するかもしれないと考えた俺は手帳とペンを取り出し用紙にペンを走らせる。



武提督「我が武水(たけみな)鎮守府は海域攻略に力を入れていることから、資材に関しては少々心許無いと言わざるを得ない状況です。艦隊は高速戦艦を軸とした編成をしております。」



武水鎮守府の提督は主に実戦形式を軸に鎮守府を運営しているようだ。資源調達の遠征や他鎮守府と闘う演習よりも当面の敵である深海棲艦の撲滅を目標としているのだろう・・・なるほど、分かりやすい。



元帥「支給できる資源には限りがある。まさか、無計画に消費しているという事はあるまいな・・・?」



元帥からの痛い指摘が飛んでくる。俺自身、メモを取りながらそこは指摘されるだろうと思っていた。しかし、武水の提督は顔色一つ変えずに口を開いた。



武提督「勿論です。海域の奪還の成功率は依然高く、消費した資源に見合う成果を収めています・・・決して無駄にはしておりません。」



それに、武水の提督は見た目に見合わず言葉遣いは丁寧で指摘されるであろう鎮守府運営の短所もあえて公表している。個人的には好感が持てるな。



元帥「分かった、では次。」



元帥の言葉で次々と提督たちが自身の鎮守府の資材状況と艦隊編成を述べていく。大体はバランスの取れた良好な鎮守府運営ができているようだ、意外にもあの軽薄な男ですら優秀と言える部類の鎮守府運営をおこなっているようだ。こういう場に呼ばれるぐらいなので当然だとは思うがなんだか悔しいな。



だが、馬鹿正直に全員のメモを取っていてはあとで混乱が生じるかもしれないと思った俺はそんな優秀な提督たちのなかでも特に一線を画す鎮守府の提督たちを集中してまとめることにした。武水鎮守府の提督に続いて、今報告をしている香華鎮守府の提督も中々に興味深い。



香提督「私の勤める香華(こうげ)鎮守府は遠征を中心に活動しているので資材の備蓄は潤沢です。艦隊編成は軽巡を旗艦とした水雷戦隊で海域に臨んでおります。」



この場でただ一人だけの女性提督である香華の提督は遠征を主としているようだ。確かに、海域攻略も大切だが艦娘や施設を動かす資源がないといずれ鎮守府運営に支障をきたすこととなるだろう。戦いの先を見据えた堅実な運営は、彼女の直向きさを表しているのかもしれない。



元帥「それは結構。しかし、備蓄が潤沢でも其の鎮守府のみで保持しているようでは腐るだけではないのか?」



これまた痛い所をついてくる元帥だが、香華の提督はチラリと武水の提督の方を見やると



香提督「・・・ご安心を。確保した資材のほとんどは他の鎮守府に支給させていただいてます、武水鎮守府にも多く資材を融通させていただいていますので海域攻略についても十分に貢献できているものと思います。」



と淡々と語った。心なしか、武水の提督の顔が引きつっているように見える・・・この二人の間には協力関係のようなものがあるのだろう。



この人は鎮守府運営も立ち回りも優秀だ、女性ながらに提督にまで上り詰められたのも納得できる。



もうすぐで俺の番だ、それにここまでくればもうメモを取る様な提督はいないだろう。そう思って、次の提督の報告を待つが・・・俺のこの予想はあっけなく裏切られることとなる。



元帥が次の提督と促す前に、俺の横に座っていた男が立ち上がり面倒くさそうに口を開いた。



秀提督「あー、次は俺の番だな。俺の秀徳(しゅうとく)鎮守府の資材にいう事はない。艦隊編成は空母機動部隊だ、以上。」



言い終わるや否や、ドカッと音を立てて腕と足を組み再び椅子に座り込んだ。



「・・・。」



あまりの衝撃にペンから手を放してしまう・・・これ、結構マズい状況なんじゃないか・・・?今までの流れで行くと、確実に元帥の逆鱗に触れるだろう。今静かなのは、きっと嵐の前の静けさに違いない。



そう思い、恐る恐る元帥の方に目を向ける。



元帥「・・・では、次。」



しかし、これまた予想に反して元帥は無反応だった。それに、どの提督にも入れていた探りが全く入れられていない。これはいったい・・・



武提督「・・・次は渡神の君だろう。早く報告を。」



提督「っ!?は、はい!」



武水の提督に催促され、ハッとなる。次は俺の番だった・・・っ!



提督(しまった・・・思わず考えに耽ってしまった。今は紹介に意識を・・・!)



提督「え、えと・・・我が渡神鎮守府の資材の備蓄には問題はありません。艦隊編成は主に駆逐艦を主とした小規模な艦隊です。」



先ほどの提督たちに倣い、今の鎮守府の状況を報告する。資材の部分にはさして反応がなかったものの・・・最後の艦隊編成のところで会議室内にどよめきが広まった。



・・・そうなるのも無理はない。戦艦や空母を旗艦として編成を組んでいる鎮守府が多い中駆逐艦を主とした艦隊で、しかも戦闘に積極的でない香華鎮守府の水雷戦隊よりも数が劣っているのだ。もはや、誹りは免れないだろう。



確かに、今でこそ海域攻略に力を貸してくれる艦娘は少ない。しかし、少しづつではあるが遠征を頼めるような子も増えてきているし海の上以外で手を貸してくれる艦娘だっている。ここで誤魔化すというのは、彼女たちの好意を恥じているような気がしてならない。



提督(・・・例え少数でも俺に協力してくれている艦娘達がいるんだ。これは誉れだ、甘んじて受けよう。)



拳を固く握り、これから来るであろう元帥の探りに備える。



元帥「小規模な艦隊、か・・・私の記憶が正しければ君の鎮守府は大本営の手厚い幇助を受けていたはずだが、それにもかかわらず小規模とは・・・理由を聞かせてもらえないだろうか。」



提督「はい。現在、我が鎮守府は艦娘達の実力の底上げを図っております。そのため、必然的に普段からあまり海域に出撃することのない駆逐艦が選ばれることになります。」



先ずは軽く様子見だ、これで納得してくれれば楽に終わるが・・・きっとそんな簡単には終われないだろう。いい訳なんて今からでも十分に考えつく。



元帥「・・・続きを。」



提督「・・・確かに、小規模で海域に出撃するという行為はあまりにも無謀です。場合によっては轟沈する危険性も跳ね上がるでしょう。」



口を止めるな、頭を回転させろ。喋りながらでも納得できるような建前を並べ続けろ。



提督「しかし、その緊張感故に彼女たちの危機感は限界までに研ぎ澄まされる物だと思います。沈まないためにはどう行動すればいいのか、相手よりも数で劣っている自分たちはどう動けば勝てるのか・・・」



提督「主力艦である戦艦や空母も居らず頼りになる重巡や軽巡の助けもない極限状態での戦い・・・艦娘達に学んでもらうのにあたりこれ以上に整った環境は無いと思ったのでこのような艦隊編成を行いました。」



値踏みするような目でジッと俺の方を見てくる・・・この視線は気持ちが悪い。だが、ここで折れてしまえば今までの虚勢がすべて無駄になってしまう。



必死に目を見つめ返し、沈黙が続くこと数分



元帥「ふぅ・・・なるほど、リスク管理について問いたいところは山々だが今は会議を先に進めよう。」



折れたのは元帥だった・・・どうにかこの場を乗り切ることに成功したようだ。



息を吐き、椅子に腰を降ろす。まだ本題に入ってすらいないのに妙な脱落感で体がダルくてしかたがない。



提督(これは・・・思った以上にしんどいな・・・。)



元帥が再び口を開くまで、俺は少しの間目を閉じることにした。



俺の疲労とは関係なく、会議は進んでゆく。大きな作戦の始動に当たっての方針やそれぞれの鎮守府への資材の配分など、当り障りのない内容だった。当然、俺よりも階級の高い提督ばかりが集うこの場で俺に話が降られる機会など皆無に等しい



提督(気が休まるのは良いが・・・なんというか、退屈だ。)



こういう結果は本望だったはずだが、思った以上に堪えるもので無駄に長い会議に嫌気がさしてき始めていた。



欠伸を噛み殺し、他の提督たちがあぁでもないこうでもないと話し合っているのをぼんやりと眺めていると不意に扉がノックされ沢山の艦娘達が入室してきた。



勿論その中にも川内がいるわけで、仏頂面でお茶をのせたお盆を持ち俺の方へと歩み寄ってくる。



川内「なにボーっとしてんの、真面目にやったら?」



ぶっきらぼうにそういうと、俺の手元にお茶を置いた。なんというか、不機嫌そうな顔をしている・・・まだ先ほどの事を気にしているのだろうか?そうだとしたら、意外と繊細な子なのかもしれない。



提督「・・・真面目にやってるとも、慣れないことだらけで疲れているだけだ。」



緊張と疲労でカラカラな喉を潤すために、手元の湯飲みを持ち川内が淹れてくれたお茶を飲む。



提督「・・・・・・・・・。」



思った以上に不味く、一瞬思考が止まった。いや、それは言い過ぎだが余りにも濃すぎる。飲めないほどではないが苦い・・・



川内「ふん、不慣れで悪かったね。」



提督「いやいや、淹れてくれただけでもうれしいよ。ありがとう。」



ここで肯定してしまえば余計に彼女の不機嫌を煽ってしまうだろう。苦笑いもほどほどに、お礼を言っておく。



提督(・・・まぁ、それにしても)



「提督、お疲れ様です。よければ・・・どうぞ」



武提督「む、紅茶か。気が利くじゃないか、ありがとう榛名。」



榛名「残りの会議も頑張ってくださいね?」



武提督「ああ、頑張るよ。」



「提督~お茶淹れてきましたよ~」



香提督「阿武隈ちゃん、ありがとう。美味しくいただくわね。」



阿武隈「えっへへ~、今回の会議は長くなりそうですからね、頑張ってください!」



香提督「ええ、アナタのお陰で頑張れそうよ。」



「お茶、淹れてきました。よければ。」



秀提督「必要ない、下げろ。」



「駄目ですよ?適度に休憩を取ることも仕事のうちですから。」



秀提督「チッ・・・わかったよ。そこにおいておけ、赤城。」



赤城「ええ、承知しました。ちゃんと飲んでくださいね?」



提督(どの鎮守府の提督も艦娘との独特な距離感があるな。だが、共通して言えることは艦娘の提督に対する態度が柔軟という点だろうか?)



チラリと自分の横に立つ川内を見てみる。



川内「・・・なに」



提督「別になにってわけじゃないんだが・・・」



仕方のない事だとは思うが、もう少しぐらい柔らかく接してくれてもいいのではないだろうか。流石に、目の前であんな風に良好そうな関係を見ているとこう・・・心にくるものがある。



川内「別にって顔してないけど?」



提督「ははは・・・」



まぁ、それでも疲れが和らいだという事実に変わりはない。束の間の話し相手になってくれただけでも十分に助かっていた。



元帥「・・・そろそろ始めても?」



元帥のその一言で場に緊張した雰囲気に包まれる・・・艦娘達も敬礼をし次々とこの場を去っていく。残された提督たちの顔にも再び緊張の色が滲んでいる。



提督(川内からお小言もいただいたことだし・・・踏ん張りますか。)



手元の湯飲みを握りしめ、再び始まる会議に意識を向けた。












元帥「・・・大体の方針は纏まったな。本日の会議はここまでとする、各自解散してくれて構わない。」



休憩を挟み、再び始まった会議は3時間近くも続いた。大きな進捗こそなかったものの、しっかりと方針が定まったため今後の会議はスムーズに進みそうだ。



提督(さて、取り敢えず部屋に帰りますか・・・)



座り続けたせいですっかり固くなってしまった体を無理やり立たせて、書類を纏めていると



武提督「君、渡神の提督だったよな。」



提督「っ、あ、はい。」



不意に武水鎮守府の提督に声を掛けられた、急な事だったため思いっきりどもってしまう。



武提督「はは、そう固くならなくていいよ。それよりも、これからの予定はあるかい?よければ、自己紹介を兼ねて少し話したいと思っているんだが」



自己紹介を兼ねて、か・・・大将ともあろう人が俺と話したいことなどあるのだろうか?しかし、ここで断るのも印象が悪い。乗るしかないだろう。



提督「ええ、構いませんよ。自分も大将殿と話してみたいと思っていましたから。」



武提督「そういってくれて嬉しいよ。それじゃあ、行こうか。」



提督「はい。」



俺を一瞥した後、武水の提督は会議室から出ていった・・・ついてこいという事だろう。見失う前にさっさとついていったほうがよさそうだ・・・急いで纏めた書類をファイルの中に戻し、席を立って会議室を後にした。



スタスタと速足で歩いていく大将の後ろをついて歩く。声をかけてみようかとも思ったが、大将の背中からは話しかけるなという雰囲気を出しているためそれも憚られた・・・そうこうしているうちに、いつの間にか大本営の敷地内に洋風調な本館とは対を成すようにして建てられた道場のようなところに着いていた。



武道場



提督「・・・こんなところがあったんですね。」



武提督「ああ、普段は全く使われていないからな知らないのも無理はない。何なら、ここは本館よりも離れているから知らない人の方がずっと多いだろうな。」



思わず漏れたそんな声に大将は話しかけてくれた時よりも、数トーンも低い声でそう返してきた。先ほどとは雰囲気が全く違う



提督(・・・ここは俺と大将しかいない、なにかあったとしても気づかれないだろうな。)



異様な雰囲気に、警戒態勢を強める。一応、加賀さんからの教えを活かし自分の身は守れるように最低限の準備はしているが・・・



武提督「・・・だから、ここなら誰にも聞かれずに君の事について話すことができると思った。受け取れ。」



大将は道場の壁にかけられている木刀を手に取ると此方に投げてよこしてきた。とっさの事だったが何とか両手で受け止めることに成功する。



提督「っと!木刀、ですか?これで何を?」



武提督「ここは道場だ。やることは決まっているだろう?」



大将は不敵な笑みを浮かべると、掛かっていたもう一本の木刀を取ると中段の構えを取り此方に向き直った。



提督「・・・俺はてっきり話し合いをするものだと思っていたのですが。」



つられる様に俺も木刀を中段で構える。大将のあの目は本気だ、それに武闘派然としたあの空気からは言い知れぬプレッシャーを感じ無意識に足が下がってしまう。



武提督「勿論話し合いだ。しかしこの話・・・君は進んではしたがらないだろうと思ってな、一本勝負で私が勝てば話してもらう。」



俺が進んでしたがらない話?そういわれてもピンと来ない。鎮守府運営の事ならば、別段ここで突っ込まれたとしても適当に誤魔化すことはできる自信があるのだが・・・このまま試合をするのは構わないが、今のままじゃいまいち戦意が沸かない。



提督「妙な事を言いますね、俺がしたがらない話って何ですか?」



ジリジリと間合いを測り、そう尋ねる。答えによってはその場でさっさと答えて、普通に稽古をつけてもらいた・・・



武提督「・・・この間、ウチの鎮守府の艦娘が一人君の家に連れ込まれそうになったそうだ。」



提督「・・・っ!?」



身に覚えがない・・・しかし、俺の記憶にはハッキリと残っている・・・俺が入れ替わる前のコイツは嫌がる女の子を無理やり自分の家へと引きずり込もうとしていた。俺はその光景を見て止めに入り、コイツを殺してしまったことでこうして入れ替わるハメとなってしまった元の事件だ、忘れられるわけがない。



武提督「心配で血眼になって探していたんだが、翌日無事に帰ってきてな。事情を聴くと『ある青年』が助けてくれたらしい。その勇敢な青年にお礼が言いたいそうだが、いくら探せど行方不明扱いで一向に会えないと嘆いていたよ。」



内心の俺の動揺をしってか知らずか、大将は続けざまに口を開く。



武提督「その話を聞いて不審に思った私は、色々調べてみたんだがね・・・興味深いことにその青年が行方不明になった数日間君自身も鎮守府には戻っていなかった。しかし、戻ってきてからは君の鎮守府の運営方法はガラリと変わった・・・理由が気になるのもわかるだろ?」



・・・なるほど。確かに、これは非常に話し辛い内容だ・・・この一本勝負で勝った暁には俺の秘密を根掘り葉掘り聞くという魂胆だろうな・・・つまり



提督「・・・ええ、わかりましたよ。負けられないってことですね・・・ッ!」



間合いを一気に詰め、胴を打ち据えようと最短距離で横凪ぎに木刀を振りぬく。加賀さん仕込みの貫胴が決まると思った瞬間・・・



武提督「フンッ・・・!」



バキィという鈍い音が響き渡り、腕に鋭い痛みが走る。どうやら、大将は俺の横薙ぎの斬撃を木刀で叩き落とし技が決まるのを防いだようだ。



提督「ッ・・・!?」



提督(ただ斬撃を逸らされただけで、腕が悲鳴を上げ鍛え上げた体感すらを狂わせるほどの衝撃が襲ってきた・・・このまま普通に戦っていては勝つことはおろか、軽傷ではすまないだろう。)



武提督「どうした、踏み込みが足りていないぞ・・・馬鹿正直に突っ込んでくることがお前の戦法か?」



余裕そうな顔で俺を煽る大将の目は笑っていない。あの様子では今後も、油断なんて一切しないだろう。油断が無ければ隙は生まれない・・・ならばどうすればいい?



提督(向こうが攻めてくるのに合わせて取りに行くか?いや、あの速度に合わせられるとは到底思えない。しかしだからと言って闇雲に攻めてっても一瞬でやられてしまう・・・ハッキリ言って状況は詰んでいる。)



しかし、俺は木刀を握りしめて前を向かなくてはならない。目の前のこの人に自分の秘密を知られてしまうリスクがどれだけのモノかわからない以上は下手に確信されないためにも負けるわけにはいかない。



提督「言ってくれますね・・・これでも、最近は加賀さんに褒められるように、なってきたんですがね・・・」



息を整え、間合いを少し開ける。今の一瞬の攻防だけで力量の違いがわかったんだ、もう戦う意味すらないように感じる。



大将「・・・来いよ、下がってばっかりじゃ勝てないぞ。」



・・・大将は降参という形で終わらせる気はないようだし、もうがむしゃらにでも突っ込んでいかないと戦いとも呼べない。考えることをやめた俺はただ虚勢を張る事にした。



提督「っ!せぇやぁ!!!」



腹から声を絞り出し、大将の木刀を払って面を取ろうと間合いを一気に詰めた瞬間・・・俺の腹に耐え難い衝撃が走った。



提督「がっ・・・あ、が・・・」



一瞬で体から力が抜け、その場に倒れ伏す。冷たい床の感触がが頬に当たった瞬間、俺は初めて敗れたのだと認識した・・・



大将「真っ直ぐなのは美徳だが、過ぎれば愚直だ。君に足りていないのはきっとそういう所なんだと、私は思う。」



大将の声が上から朧げに聞こえてくる、まるで知ったような口で俺の事を評価しているが・・・その口調は何処までも重い。まるで、自分自身にも言い聞かせているようにも思えた。



大将「・・・まだ話せないか。すまない、加減には慣れていないんだ。」



「話せるようになるまで待つよ。」と、俺の目の前で胡坐をかいて座った。



提督(軽く言ってくれるなぁ・・・今は腹の痛みよりも、今後の事で頭がいっぱいいっぱいなのによ・・・)



話せるようになるまで、という言葉にはきっと俺の覚悟ができるまでという意味も含まれているはずだ・・・お言葉に甘えて今しばらくはこのまま蹲らせてもらおう・・・









後書き

一カ月間の軽い説明

1週間目 食料を業者に運んでもらうように大本営に交渉し、見事無償で恩恵を受けることに成功。間宮と伊良湖に甘味処の設置を提案し、二人は快く承諾。後に艦娘達でにぎわうようになる。川内と対峙した時の恐怖と無力感を乗り越えるために、加賀に武道の指導を受ける事となった。しかし、加賀はスパルタを通り越した鬼畜っぷりで開始一日で提督が立てなくなるほどしごいた。武道を始めた提督への評価は加賀いわく、「才能は無いが努力次第で化ける実力」らしい。

2週間目 艦娘達とのコミュニケーションを図るも、不審がられたり怖がられたりし挫折。しかし、提督の熱心さに心を打たれた夕立とは仲良くできるようになった。同じく、誰にも接してもらえない中それでも何とか話を続けようとした誠実さを認めた鳳翔とも繋がりができた。このとき、提督は鳳翔さんに居酒屋の話を持ち掛ける。艦娘達を癒してあげてほしいと理由を話すと、鳳翔は涙ながらにお礼を言いこれを快諾した。


3週間目 工廠を使える様にさせて欲しいと直談判しに来た明石と接触し、これを快諾。掃除や運搬を手伝ったため、明石との繋がりができた。同時に、今まで見えなかった不思議な生物『妖精さん』が見えるようになり、建造、開発のお願いができるようになった。甘味処と居酒屋の設立を頼み込むと明石と妖精さんたちは一日で完成させてしまった。妖精さんは何者なんだ・・・?


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1: タマモー 2019-01-05 04:05:47 ID: S:07juxz

続編ktkr!!
待ってました!!

さてさて川内や金剛はもちろん、卯月との関係がどうなってるか…私、気になります!

2: クリンスマン 2019-01-05 06:23:56 ID: S:L81220

これからも期待、応援させてもらいます。
自分のペースで頑張って下さい(* ̄∇ ̄)ノ

3: SS好きの名無しさん 2019-01-05 10:00:25 ID: S:1HoG11

サバゲーマンです
新更新ご苦労様です。パート2ですね。いきなりここまでの展開にびっくりしました。まぁ、次回の更新で何かわかるでしょ?楽しみにしています。

4: yazora 2019-01-06 05:07:34 ID: S:mI28kx

1≫ありがとうございます!続編も、気合い、入れて、行きます!

5: yazora 2019-01-06 05:08:25 ID: S:9XY_Um

2≫ありがとうございます!自分のペースは結構ノロマなので気長にお待ちください!

6: yazora 2019-01-06 05:09:14 ID: S:SNp2U8

3≫ここからは激動的に進めていくので、回想とかはおまけに書いていこうと思います!

7: SS好きの名無しさん 2019-01-06 07:46:59 ID: S:JASNQW

続編キタ━( *´∀`)━!!
これからも頑張って下さい!!

8: 社畜 2019-01-07 12:50:19 ID: S:wLPZef

続編キタ━━━━( ̄・ω・ ̄)━━━━!!
応援してます

9: yazora 2019-01-10 02:41:26 ID: S:i9OUc4

7,8≫ありがとうございます!なるべくスムーズに終われるように頑張ります( *´艸`)

10: 叢雲–改 2019-01-11 07:16:30 ID: S:ygVDGe

おっ続編キタキター
いつも通りのヤンデレ泥沼化方向へですかね
期待してます!

11: たかつくん 2019-01-12 20:48:57 ID: S:9KFr8L

このss面白いですね。卯月がどうなってしまうのか楽しみです。頑張ってください。

12: yazora 2019-01-15 00:23:08 ID: S:csOcPU

10、11≫ありがとうございます!今回はヤンデレ要素は少なめですね・・・真っ当な最後を迎えると思います(意味深)卯月の今後は・・・どうなりますかねぇ(意味深(二度目))がんばります!

13: SS好きの名無しさん 2019-01-15 00:49:48 ID: S:6m4zAs

サバゲーマンです
更新ご苦労様です。提督のほうもだいぶ慣れてきたかな?まぁ、問題なのは、大本営と提督が最初に出会った提督かなほら、買い物時に声をかけた人、この栂問題かな果たして秘密を隠し通すことができるのか楽しみです。次回の更新楽しみにしています。頑張ってください。

14: SS好きの名無しさん 2019-01-15 23:32:36 ID: S:aBlXAG

こりゃあ、久しぶりに当たりを引いたかな?貴方の描く世界にすっかり魅了されてしまいました。更新を楽しみにしております。

15: SS好きの名無しさん 2019-01-18 22:11:49 ID: S:F5Nmp4

やはり貴方の描く艦これは格別ですねぇ。軽薄にもなりすぎず、重厚にもなりすぎず、とても楽しく読ませてもらっています。......入れ替わっているのは絶対にバレるんでしょうねぇ。ていうか、主人公も隠す気ないでしょ。

16: yazora 2019-01-20 02:25:08 ID: S:KQh-Gi

13≫中々鋭いですね・・・そこも後々回収していきますよ!
14≫ほ、褒めすぎですよ( *´艸`)でも、頑張りますね!
15≫ありがとうございます!バラした方が円滑に進むって考え始めてるかもしれません・・・

17: SS好きの名無しさん 2019-01-21 17:08:30 ID: S:gAu76x

面白くて一話から一気に読みふけってちゃいました、気長に待ってるのでゆっくり書いて下さい!

18: yazora 2019-01-21 23:57:20 ID: S:auaBDj

17≫ありがとうございます!本当にゆっくりですが書いていきたいと思います( *´艸`)

19: SS好きの名無しさん 2019-01-22 03:56:23 ID: S:eTKal2

サバゲーマンです
更新ご苦労様です川内の方は、大丈夫なのかな?あと神通怖い((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル卯月の方も何だかクーデレかヤンデレに入ってるポイまぁ、時価の更新が楽しみださて、いよいよ大本営に行くのですね。楽しみです

20: yazora 2019-01-23 00:52:13 ID: S:DqIrMB

19≫残念、まだ電車内です(苦笑い)次回からは大本営に着くはずなのでお待ちください|д゚)

21: みがめにさまはんさみかたき 2019-01-24 01:50:41 ID: S:2VnMQ7

舞ってた!まさか俺が書類でバタバタしてるアイーダに更新されてるとは…許せる!
今までの感想を産業で
展開速すぎわろりんぬ
卯月かわいすぎわろりんぬ
神通怖すぎわろえない
さて、
北上さんの出番待ってます!

22: yazora 2019-01-25 02:18:36 ID: S:xWCgw8

21≫許された(ズドンッ)展開がゆっくり過ぎたらまた文字数がキツくなるので要らないところはなるべく省いていこうと思います(-_-;)
北上さんは暫く・・・かなり、しばらく出ませんね|д゚)

23: みがめにさまはんさみかたき 2019-01-25 17:28:41 ID: S:hGOmst

※22
ウソダ…キダガミザンガ…デデコニャイ………
ウソダ……ウソダドンドコドーン!

24: かむかむレモン 2019-02-05 04:02:11 ID: S:XQJFXu

待っとったで!
無理せず毎コンマ更新するんだゾ

25: みがめにさまはんさみかたき 2019-02-25 21:05:12 ID: S:UoNUy3

ドーモ……憲兵=サン
艦娘を邪険に扱うヤツスレイヤーです
艦娘を邪険に扱うヤツは殺すべし…慈悲はない……(静かな怒り)

26: SS好きの名無しさん 2019-03-12 23:35:33 ID: S:g3XYzt

続きが楽しみです!
頑張って下さい!

27: SS好きの名無しさん 2019-04-01 09:12:25 ID: S:dhnb-_

更新乙です。
緊張感あるシーンが続きますね。

次もお待ちしております!

28: みがめにさまはんさみかたき 2019-04-17 01:56:18 ID: S:P9Q3Tk

ヤンデレ鎮守符提督久しぶりにみた。だいすけ

29: SS好きの名無しさん 2019-05-02 00:00:15 ID: S:cbXzJl

楽しみすぎて待てません!!
更新くるまで舞ってます!!

30: yazora 2019-05-02 02:55:50 ID: S:KEAtnX

皆さん待たせて申し訳ないです!疲れ気味で更新する手が止まりがちになってました・・・

31: SS好きの名無しさん 2019-05-02 16:00:33 ID: S:TAFsn6

お疲れ様です!!

32: みがめにさまはんさみかたき 2019-05-10 00:39:34 ID: S:KewyJB

お疲れさまさまです。
まぁこの時期は疲れますよね…
程ほどに段々と提督を強キャラにしていってください

33: SS好きの名無しさん 2019-06-02 12:48:14 ID: S:zJ-Hiv

舞ってます

34: SS好きの名無しさん 2019-06-20 21:51:42 ID: S:DKgGJB

└( ´ Д`)┘ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙更新されないぃぃぃぃ

35: SS好きの名無しさん 2019-07-04 00:37:21 ID: S:DULJBR

ゆっくり更新されるのを待ってます


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2: SS好きの名無しさん 2019-02-22 17:34:49 ID: S:_oOINC

待ってるぞ

3: SS好きの名無しさん 2019-03-13 20:17:26 ID: S:WbMM2X

舞ってます


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