2015-04-30 22:27:37 更新

概要

た・だ・い・ま。
この物語は、鎮守府で働く清掃員の青年と、艦娘や提督が話したり、遊んだりするお話です。(ワッフルさーん、お借りしますねw)


前書き

前作の続きです~。

ちょいとここで、主要な登場人物について

・青年
鎮守府で働く清掃員の仕事。
前作でヘタレ→ロリコンカッコカリ→変質者→滑ってやらかした人→ラッキースケベと少し残念な称号を獲得しまくっている。



前作 





※前作読んでない人はわからないので、前作読んでからの方が……


いきなり大ピンチ?!


青年「ん……」


北方「ア……オキタ」


青年が目を覚ますと、そこには色の白い少女がいた。先ほど(前作参照)青年を海の中へと落とした張本人である。青年は重い体を起こして、その少女を見る。


青年「……ここは?」


北方「ココハ、ワタシタチノスム……トコロ」


その少女がそう言って、周りをぐるっと見回してみると、本当にどこか知らないところに連れて来られたようだ。青年は立ち上がり、辺りを少しだけ歩いてみる。


青年「……。深海棲艦……」


北方「ソウ……」


青年はどうやら、鎮守府の艦娘や提督達が戦っている敵・深海棲艦達の一拠点に連れて来られたということだ。しかし、この拠点がどこにあるのかはわからず提督に連絡を取れる手段もない。


青年「……目的は?」


青年はこういった時、自分が連れて来られたということは、何か人質や実験台に使われるのではないかと思い、それなりに覚悟した。


だが、白い少女から返ってきた答えはまったく別のものだった。


北方「ソウジ」


青年「……はい?」


北方「ダカラ、ココヲ……ソウジシテホシ……イ」


青年「え、それでいいの……?」


北方「ウン」


青年「……」


青年は安心したのか、大きなため息をつくと同時に自分のお腹が空いているのをやっと認識した。朝から何も食べていない状態でここへと連れて来られたのだから、当然だろう。


青年「……」


北方「オナカ、スイタ?」


青年「ま、まぁ……」


北方「……コッチ」


そう言って、白い少女は歩き出した。青年はそれについていく。目的地へとたどり着く前に青年はその少女に名前を聞いた。どうやら「北方棲姫」と言うらしい。


青年は何度か深海棲艦に関する写真を見たことはあったが、まさか深海棲艦が喋るとは思いもしなかったし、このように普通に人間とコミュニケーションが取れるということに驚いた。


そして、青年が連れて来られた場所では、もう1人の深海棲艦が何かを作っていた。鎮守府内では見たこともない、食材が並んである。魚らしき姿をしたものもあるが、あれは深海魚なのだろうか……。そんなことを考えながら、北方棲姫に案内された場所へと座る。


北方「モウスグ……デキル」


青年「あ……うん」


青年はもう1つある疑問を思い浮かべた。そもそも、この拠点は深海にあるのだろうか。だとすると、どうして、自分はこうして息ができるのか……。


青年「……やめておこう」


青年はこれ以上このことを考えると頭が痛くなりそうなので止めておくことにした。そして、少し待つと先ほど何かを作っていた深海棲艦がこちらへと料理のように見えるものを運んでくる。


駆逐棲姫「デキタヨ……」


青年「……春雨?」


駆逐棲姫「ハルサメ……? チガウ。コレハ、ベツノ……リョウリ」


青年「あ、いや……ごめんなさい」


青年はその料理らしきものを持ってきた深海棲艦の姿を見て驚いた。自分が昨日の夜に「うっかり」キスをしてしまった駆逐艦の艦娘、春雨と雰囲気や容貌が似ていたのである。


青年「……」


青年は、昨日の夜のことを思い出し、思わず顔が熱くなっていくのを感じた。やはり、忘れたくても覚えているものは仕方がない。それほど、昨日の春雨とのうっかりファーストキスは、青年にとって強く印象に残るものだった。


北方「セイネンサンモ……タベル」


青年「あ、うん……」


青年がボーッとしているのを見て、北方棲姫は青年に料理らしきものを食べるようにすすめてきた。


あまり食欲がそそられる料理ではなかったが、いつここから出れるのかもわからないのに何も食べないのは自殺行為に等しいと考え、仕方なく食べることにした。深海棲艦達の生活は、想像していたよりも人間寄りだった。ちゃんと食器のようなものも利用している。


青年「……」


北方「セイネンサン、コノアトハ……ソウジ」


青年「あ、わかった……」


青年はそう言って、料理らしきものを口に入れた。一瞬、その食感に嫌な感じがしたが、なかなかいい味が出ている。青年は噛めば噛むほどその食感に病みつきになってしまい、結局その料理らしきものを完食したのであった。


青年「ごちそうさまでした」


駆逐棲姫「オイシカッタ?」


青年「あ……えと……う、うん……」


春雨に似た深海棲艦に話しかけられ、思わずドキッとしてしまう青年。青年は、急に恥ずかくなり、立ち上がってから北方棲姫に掃除する場所を案内するように頼んだ。


北方「コッチダヨ……」


そう言って、北方に連れて来られた場所はかなり散らかっていた。青年が見たことの内容なゴミでいっぱいだった。少しばかり悪臭が漂っている。


青年「……」


北方「ココ、ドウシテモ、カタヅカナイ……」


青年「うん……そのようだね。とりあえず、掃除しないと……あ、そう言えば掃除道具ってある?」


北方「……ソコ」


そう言って、北方棲姫が指さした場所には乱雑に放置された掃除道具があった。明らかに誰か掃除しようと思って投げ出したとしか言いようがない状態である。青年はその掃除道具を一度手に取り、様子を確かめてみた。


青年「ま、何とかなりそう……かな」


北方「ワカッタ……ジャア、オネガイシマス」


青年「……了解です」


こうして、青年のいつもと違う職場での清掃活動が始まったのであった。




ここでも、フラグをたてるの?


それから青年はしばらく掃除を続けていた。だが、なかなか片付かない。そもそも、処理をどうすればいいかわからない見たこともないようなゴミのような残骸のようなよくわからないものが転がっているのが一番の原因である。


青年「はぁ……いつまでかかるんだろ……これ」


青年は、ため息をつきながら、今頃、鎮守府のみんなはどう過ごしているのかを考える。自分のせいで慌ただしくなっているのではないかということや、迷惑をかけて申し訳ない、という気持ちで胸がいっぱいになる。


青年「とにかく……帰れることを信じて待たないとな……」


青年は、そう言って、仕事を続ける。


青年が仕事続けていると、掃除している部屋の中に誰かが入ってくる音がした。振り向くと、青年が何度か写真で見た空母ヲ級であった。


ヲ級「……ダレ?」


青年「あ、どうも……勝手に連れて来られた者です」


ヲ級「ソウ……」


ヲ級は青年に近づいてきて、こちらをじっと見つめてきた。まるで観察されているように思えて、青年は思わず視線を逸らす。ヲ級は青年の体に少しだけ手を添えたりしている。


ヲ級「ニンゲンニハ……スコシ、キョウミガアル……」


青年「そう……ですか」


ヲ級「ニンゲン、カシコイ……」


そう言って、ヲ級は青年にさらに近づいてくる。青年は思わず後ずさりして、距離を取ろうとするが、ヲ級は遠慮もなく近づいてくる。そして、青年はいつの間にか壁に追いやられていた。


青年「……」


ヲ級「……ナマエハ?」


青年「青年と言います……」


ヲ級「ソウ……ソウジ、ガンバッテ」


青年「え……は、はい」


ヲ級は青年から離れ、この散らかっている部屋から何かを取って持っていった。青年は、何もされなかったことに安心し、大きく息を吐く。ここで、青年はあることを思いついた。仮にここから出た場合、自分がどのような待遇を受けるかということだ。


青年「……たぶん、大本営には連れて行かれそうな気がする」


そう、深海棲艦の拠点から帰ってきたとなると大本営がその情報を見逃すはずがない。青年はその時のために、ここにある部屋で持って帰れそうなものは持って帰ることにした。何かの証明にはなるかもしれないからだ。


青年「……」


青年は、持って帰れそうなものをポケットに入れ、掃除を続ける。


掃除を続けながら、大本営に呼び出され、質問された時に何と答えればいいか迷った。深海棲艦がそれなりにフレンドリーだと言うことを言ってもいいものなのだろうか。かと言って嘘を言うわけにもいかない。


青年「こりゃあ、戻っても戻らなくても大変だな……」



青年はしばらく掃除を続け、休憩をすることにした。そして、掃除した範囲を一度見てみる。先ほどとは違って、それなりには片付いた。だが、まだまだやるべき場所は残っている。


青年「……はぁ……」


北方「……終ワッタ?」


青年「あ、いや……まだ」


北方棲姫が扉を開けて中に入ってくる。手には何かの容器を持っている。


北方「……差シ入レ」


青年「……あ、ありがとう……」


北方「……」


青年は、その容器に入っているものを見ると、先ほどの料理らしきものに近い何かが入っていた。だが、手で掴めるほどの大きさであるから、おやつか何かなのであろう。青年はそれを1つつまんで、恐る恐る口に入れる。


青年「……ん。美味しい」


北方「良カッタ……」


青年「……」


北方「アノ、セイネンサン」


青年「……ん?」


北方「コレカラ、『オニイチャン』ッテヨンデイイ?」


青年「……はい?」


北方「……ココノミンナ、カゾク、ダケド……ヤラレタラ、マタ、新シイノガ『デキル』、ミンナ、ワタシノコト、覚エテイナイ」


青年「……」


つまり、北方棲姫が言いたいのは、『家族が欲しい』と言うことだった。それも、離れることがなく、ずっと一緒にいられる家族を。


北方「ダカラ……オニイチャン……」


青年「……」


青年は、北方棲姫の思いをわかった上で、その単語を聞くと思わずときめいてしまった。本来敵対しているはずの者にときめくなど、大それたラブストーリーの映画の中だけの話だと青年は思っていた。


青年「……うん、それでいいよ」


北方「……オニイチャン」


青年「うん……」


北方「オニイチャン……オニイチャン」


青年「わかったわかった……」


青年は、それから何度も嬉しそうに『オニイチャン』と呼んでくる北方棲姫と、兄妹のように過ごした。


それからも、掃除を続け、しばらくすると、青年は寝る場所へと北方棲姫に案内され、その中へと入る。


青年「……」


北方「オニイチャン、コノ後ハ、ゴ飯……」


青年「あ、わかった……後で行く」



青年は、北方棲姫が立ち去るのを見送ると、その場に座り込み、ここからどうやって出るかを考えた。もし、無理やりここの外に出たところで、深海であれば、青年が生きて鎮守府に帰れる保証はまずない。かと言ってずっとここにいては、いつ出れるのかどうかすらわからないままだ。


青年「……直接交渉しかない……よな」




そして、青年は来たばかりの初日のその交渉を深海棲艦達の食卓でいきなり試してみた。


青年「……お願いします。もとの鎮守府に帰してくれませんか……?」


北方「エ……オニイチャン、ズットココニイルンジャ……」


ヲ級「……」


レ級「マーマー。セイネンサン、オチツイテ……今ハ、ご飯食ベル時間ダヨ!」


少しだけ、他の深海棲艦より穏やか……というよりは妙な笑みを浮かべているレ級がその場をなだめるような声を青年にかける。その声を聞いてから青年は一度諦め、席へと座った。それと同時に、他の深海棲艦達の表情も少しだけマシにはなった気がした。


だが、青年は諦めることはなかった。ご飯を食べた後も、必死にどうやって戻るかを考えた。そして、暗い深海での夜は更けていくのであった……。




一方、鎮守府では、提督と空母の艦娘たちによる会議が開かれていた。


提督「……青年君がどこに消えたのかはわからないが、港には彼の掃除道具が置いてあった。というのは再確認しておこう」


瑞鶴「……」


赤城「まさか、途中でサボッて逃げ出したということは――


瑞鶴「せ、青年がそんなことするわけないでしょ!!!」


加賀「口を慎みなさい、五航戦」


翔鶴「瑞鶴、落ち着いて……」


瑞鶴「……大体! 蒼龍さん達が最後の目撃者なんでしょ?! さっきから黙ってないで何とか言ってよ!」


翔鶴「瑞鶴、やめなさい……」


蒼龍「……」


飛龍「……」


翔鶴「瑞鶴……怒ったって、ことは進まないわ。一度、落ち着いて……」


瑞鶴「うん……ごめんなさい……」



決意


青年は、目を覚ました。だが、今何時かは時計を持っていないため、わからなかった。青年は一度用意されてた場所から降りる。ちなみに青年が寝ていたのはベッドや布団と言った安眠できるようなものではなく、ちょうど寝るのには良いサイズの岩場だった。青年は慣れない場所で寝たために体のあちこちに痛みを覚えながら、部屋から出る。


青年「……一応、二日目……か。どうするかな」


青年は、まだ少し頭が完全に起きていない状態でもここから出る方法を考えた。


青年「……あっ。服着替えないと……。……服?」


青年は、自分が昨日着た服を一切着替えていないことに気づき、ある作戦を思いついた。そして、青年はその交渉のために、急いで深海棲艦たちの食卓へと向かう。



北方「オニイチャン、オハヨウ……」


青年「あ、おはよう……」


駆逐棲姫「オハヨウ」


青年「……お、おはよう」


相変わらず、駆逐棲姫が春雨に見えて、あまり思い出しくないことを思い出してしまう青年だった。だが、青年の今回の交渉対象は、ヲ級に対してである。


青年「ヲ級さん、ちょっといいですか?」


ヲ級「……?」


青年「ちょっとだけこちらに来ていただけると……」


ヲ級「ワカッタ」


そう言って、他の深海棲艦達に見られないような場所へと連れて行き、交渉を始める。


青年「えっとですね、服がないんです」


ヲ級「ソレガドウカシタノ……?」


青年「着替えを取りに行かせてくれませんか?」


ヲ級「……デモ、着替エヲトッテモ、マタ濡レル」


青年「……いや、まだマシな方法が1つだけ……」


ヲ級「……?」




ヲ級「ジャア、今カラ上ニ行ク」


青年「はい」


ヲ級は、何とか青年の頼みを聞いてくれた。だが、これから青年はある1つの賭けに出る。


ヲ級「まさか、イ級ノ口ノ中ニ入レバ大丈夫ダナンテ……」


そう言って、ヲ級は一体のイ級の口を開けた。青年は、覚悟を決めてその中へと入る。中では、非常に嫌な思いをするのは確実だが、上へと行くにはこうする他はなかった。ヲ級は青年を口の中に入れたイ級とともに、拠点を出発し、鎮守府へと向かっていく。





港まで連れてきてもらい、青年は一度鎮守府へとたどり着いた。時間は青年が普段起きる時間より少し早めと言った辺りの時間だろうか、いつもより空が暗かった。


青年「えっと……着替え、取ってくるので、ここで待っていてください」


ヲ級「ワカッタ」


ヲ級を待たせ、青年は艦娘たちを起こさないように自分の部屋へと向かい、まず最初にメモ用紙を取り出し、今の自分の状況を書いた。


青年「えっと……『深海棲艦の拠点にいます。深海棲艦についての情報を集めてくるので1週間後に、また戻って来ます。警戒態勢の準備と大本営への連絡をお願いします』……よしっ」


書き終えると、青年はすぐさま、自分の着替えとメモ用紙とペンをボストンバッグの中に詰め込んだ。そして、少し急ぎ足で執務室のところへと向かった。


そして、提督を起こさないようにこっそりと入り、執務室の中の大きな机のところにそのメモと、昨日拾った深海棲艦の部屋にあった大きな謎の塊を置く。


青年「……戻ってきます」


青年はそう呟き、敬礼をしてから執務室を出て、ヲ級の待つ港へと向かう。


青年「お待たせしました」


ヲ級「遅イ……」


青年「す、すみません……」


ヲ級は表情こそは変えてはいないが、相当イライラしているのが語調からわかった。イ級は既に口を開けて、青年を中に入れる準備をしている。青年はもう一度大きく深呼吸をして、イ級の口の中へと入った。



そして、青年と鎮守府のみんなにとって最も長い一週間が幕を開けるのであった。



それでもやはり、フラグは立てる


青年はまず戻り、ここでの自分の部屋へと戻った。そして、服を着替えてからメモ用紙とペンを取り出し、ポケットの中へと入れた。イ級の口の中はイ級が口さえ閉じていれば水はあまり入ってこなかったので、服や紙が濡れると言ったことはなかった。


青年は、そして、まだ朝食を取っていなかったために、朝食を取りに食卓へと向かう。もう既にヲ級と自分以外は食事を済ませてしまったようだ。遅れてからヲ級がやってきて、青年と席を並べて食事を取る。


青年「……」


北方「オニイチャン、オカエリ」


青年とヲ級が食事を取っていると、北方棲姫がそれに気づいたらしく青年に近づいてきて、青年の膝の上に座った。どうやら、よほど青年のことが気に入ったらしい。


青年「……うん、ただいま」


北方「オニイチャン……コノ後ハ……昨日トハチガウ、マタベツノトコロ、ソウジ」


青年「そう……わかった」


そう言って、青年は北方棲姫を膝に乗せたまま器用に食事を取る。この時ばかりは青葉のような存在がいなくて少しだけ助かったと思いながらも、自分でもこの環境を少しだけ受け入れようとしていることに気が付き、何が何やらわからなくなってきた。だが、青年は先ほど、自分がここに来たのは、鎮守府のみんなのために、いや、国のために何か深海棲艦の情報を集めるためだと決意したばかりである。


青年「……ごちそうさま」


北方「オニイチャン、コッチ……」


青年が、食べ終わると北方棲姫に案内され、また別の場所へと向かっていった。


青年がいったん連れて来られたのはおそらく、深海棲艦達のそれぞれの個室なのだろうか、中に入ると昨日掃除したほどではないが、それなりに散らかっている部屋があった。


北方「ココモ……オニイチャン、オ願イ」


青年「うん……了解」


飛行「ア、セイネン……」


青年「え、ええっと……飛行場姫さん?」


青年と北方棲姫が話しているところに、一人の深海棲艦が現れた。一応、昨日の食卓で、青年が交渉する前に自己紹介は名前は知っていた。北方棲姫と比べると非常にグラマラスな女性の姿をしている彼女は、飛行場姫と言い、これも青年が初めて見た深海棲艦だった。


飛行「……セイネン」


青年「……はい?」


飛行「ホッポウハ、アナタノコトヲ……オニイチャンッテヨンデイルケド」


青年「あ、そうですね……」


飛行「ジャア、ワタシノコトハ、オネエチャンッテヨンデモイイ」


青年「……え」


飛行「イヤダッタラ……イモウトチャンデモ……」


青年「いやいや……ちょっと待ってください……」


どうやら、深海棲艦達は青年のことを本格的に『家族』として迎えるつもりのようだ。青年は、飛行場姫に迫られ、対応に困る。そして、青年が仕方なく選んだ、呼び方は……。


青年「……お、オネエチャン……」


かなり棒な読み方であったが、飛行場姫は青年のことを気に入ったようで、思いっきり抱きしめてきた。もしこの状況を、軍のみんなが見れば何と言うのだろうか、まさかあの深海棲艦が人間をこのように扱うだなんて、誰も予想しないだろう。


青年「く、苦しいです……」


飛行「ア……ゴメン」


飛行場姫が離すと、青年は少しだけ距離を取りつつ、北方棲姫に言われた通り、この部屋の掃除を始めることにした。しかし、先ほどから青年が気になっているものは1つあった。それはこの部屋に備え付けられているもう1つの扉。その奥からは何とも言えない邪悪なオーラが滲み出ているのが青年でも感じとれた。


青年「あ、あのー、あの部屋は?」


北方「……アノ部屋ハ、ココガ片付イテカラ……」


青年「りょ、了解……」


こうして、青年の深海棲艦達の拠点での仕事、二日目が始まったのであった……。



その頃、鎮守府では、またもや緊急会議が開かれていた。今度は、各艦種の代表者が集まっての会議だ。


提督「えー……。今朝、このようなメモを見つけた」


提督は、青年の残したメモを取り出し、集まったみんなの前でそれを読む。その内容を聞いてみんなは一気にざわつき始める。


提督「私一人で判断するのは難しい。だからこそ、お前たちに力を貸してほしいんだ……。本来なら、彼もただの一職員にはすぎないし、この程度のことで大本営を動かすことはできない……。だが、青年君は私達の仲間だ。放っておけるわけがない。みんな、力を貸してくれるな?」



当然、艦娘たちから返ってきた答えは、イエスだった。




そして、また場所は戻り、深海棲艦達の拠点では青年が頼まれた場所の掃除を終えていた。


青年「ふぅ……まあ、こんなものかな」


青年が一度休憩するために床に座ると、北方棲姫がトコトコとやって来て、また青年の膝の上に座る。


青年「……」


北方「オニイチャン……オツカレサマ」


青年「うん……でも、まだ残ってるんでしょ?」


北方「ウン……ツギノトコロハ、タブン、モットタイヘン」


そう言って、北方棲姫に案内された場所は先ほど青年が気になったこの部屋の開かずの間のような場所だった。北方棲姫は躊躇もせず、その扉を開ける。


その中は、先ほどの部屋よりもかなり散らかった部屋であった。


北方「オネエチャン……オニイチャン、キタヨ」


港湾「ク……クルナ……ニンゲン、キライ……」


青年「あ、港湾棲姫さんの部屋だったの……」


北方「オネエチャン……オニイチャンハ、ココ、ソウジシニキタ」


港湾「ヒツヨウナイ……」


港湾棲姫は青年が、深海棲艦達に自己紹介をした際に一番不満気な顔をしていた深海棲艦である。昨日の第一交渉の時でも青年のことを一番睨みつけていた。そのため、青年は、早速、この港湾棲姫に苦手意識を感じ始めていたのだ。


北方「デモ、オネエチャン、ソウジガヘタダカラ……」


港湾「……ワタシヒトリデガンバル」


そう言って、港湾棲姫は自分で掃除をやり始める。どうやら、港湾棲姫は一人で掃除をしようとしているがなかなか上手くいかず、かえって散らかしてしまっているらしい。青年は、この時、以前の美化週間での長門のことを思い出し、微笑ましく思ってしまった。



港湾「……ナニガオカシイ……」


青年「えっ!? あ、い、いや、何でもないですよ……」


自分でも笑みがこぼれているのに気が付かず、港湾棲姫の機嫌を損ねてしまったようだ。青年は、慌てて港湾棲姫の機嫌を持ち直そうと何とか方法を考える。


北方「トイウワケデ、オニイチャン……オネエチャント、ナカヨクシテアゲテ……」


青年「あ、う、うん……」


港湾「ヒツヨウナイノニ……」


北方棲姫はいつの間にか別の場所へと移動してしまい、青年と港湾棲姫が二人きりになった。港湾棲姫は一度青年のことを睨みつけてから、自分で掃除を始める。それから少し離れた場所で青年は掃除を始めることにした。


青年「……」


港湾「……」


ニ人の間で沈黙が続く。青年は時折、港湾棲姫が掃除する様子を見ているが、先ほどから掃除を頑張ってはいるのだが、上手くはいっていないようだ。青年は少しずつ近づいていき、港湾棲姫の近くに寄ってから掃除を手伝い始める。


青年「あ……そこは、そうやるより……こうした方がいいですよ」


港湾「エ……ソ、ソウナノカ―――アッ……ク、クルナ!!」


港湾棲姫は、一瞬青年の言うことを聞こうとしたが、すぐに今の状況を理解し、慌てて青年との距離を空ける。そして、その勢いで、自分の近くに置いてあるゴミ箱を倒してしまい、せっかく掃除をした部分がまた汚れてしまった。


港湾「ア……」


青年「あちゃ……港湾棲姫さん、一緒に掃除しましょう。そっちのほうが、早く終わりますよ」


港湾「……ワカッタ」


港湾棲姫はついに諦め、青年との掃除を開始し始めたのであった。



青年「港湾棲姫さん、そっち、大丈夫ですか……?」


港湾「ダイジョウブ……アッ……」


青年が声をかけ、港湾棲姫が返事をする。そして、それに気づいてしまった港湾棲姫が慌ててミスをする。先ほどから、何度繰り返したことだろうか。


港湾「マタ、散ラカシテシマッタ……」


青年「……」


港湾「ワタシ、ブキヨウ……」


少し悲しそうな表情をする港湾棲姫に青年は近づく。港湾棲姫はまたもやびっくりした後ずさりをする。


青年「港湾棲姫さん、少し、休憩しましょう……ね?」


港湾「……ウン」


青年と港湾棲姫はその場に座り込んで、ただ静かにしている。港湾棲姫は当然、青年にはまだ慣れていないためにかなり距離を空けている。本来なら、これが正しい反応なのではあるが、青年は若干フレンドリーな深海棲艦に頭が毒されてしまったのか、その距離感に妙な寂しさを覚えた。


青年「港湾棲姫さんは……北方棲姫のお姉さんなんですよね?」


港湾「イチオウ……ワタシタチ、ミンナカゾク……」


青年「……えっと……何て言えばいいんだろ……羨ましいです」


港湾「エッ……?」


青年「家族がいるって……いいですよね。僕も、あの鎮守府では、艦娘のみんなとは仲良くさせてもらっているつもりなんですけど……ですが、たまに家族が恋しくなる時もあるんです」


港湾「……セイネンノカゾクハ……ドコニ?」


青年「……もう土の中ですよ。……いなくなったのは、深海棲艦が、初めて現れて、攻撃を始めた頃ですね……。たまたま、海の近くに住んでいたので……そうなっちゃったんですけど……」


港湾「……」


青年「でも、正直に言うと……北方棲姫に『オニイチャン』って呼ばれた時……結構、嬉しかったんです……。本当は、憎むべき対象なんですけどね……。ですが……ここへ来て初めてわかったことも色々ありますし……ただ恨むだけじゃダメかなって……」


港湾「……」


青年「……あー。何というか変な話をしましたね……ごめんなさい……」


港湾「イヤ……」


青年が少し照れくさそうに言うと、港湾棲姫は近づいてきて、青年の手を取り、優しく握りしめた。その手は青年の手と比べるとかなり大きな手だったが、青年は嫌がることなくそれを受け入れる。


青年「……」


港湾「……セイネンハ、ホカノニンゲントチョット違ウ気ガスル……仲良ク……デキソウ」


青年「そ、そうですかね……」


港湾「セイネン……優シイ心ヲ持ッテル……ワタシノコトヲミテモ、コワガラナイシ……」


青年「……本当は結構怖いですよ」


港湾「ワカッテル……」


青年「……」


港湾「……セイネン、チンジュフノミンナノトコロニ帰リタイ?」


青年「……はい。……ですが、まだ掃除は終わってないので、帰りません。それに……これは僕の中では、『出張仕事』として捉えますので……気にせず、使ってください」


港湾「……セイネン、ホントウニ優シイ……」


何となくだが、港湾棲姫との距離が縮まった気がした青年だった。




がんばれ、五航戦


朝の会議が終了後、執務室内ではみんなの忙しさが増していた。


提督「で、ですから元帥とお話が――……くそっ……」


瑞鶴「ダメだったの?」


提督「ああ、『たかが清掃員ごときで大本営は動かせない』とさ……。後、『必ず戻ってくる保証があるなら助ける』とのことだった」


瑞鶴「……」


執務室内では、先ほどから提督が大本営に電話をかけては切られ、電話をかけては切られと言った行為が繰り返されていた。瑞鶴は艦娘という立場を理解し、その様子を見守ること以外はできなかった。


提督「すまないな。瑞鶴……君に書類仕事を任せてしまって」


瑞鶴「……いいの。……あ、ごめんなさい。ちょっとだけ席、外させて」


提督「ああ」



瑞鶴は、執務室を出ると、大きなため息をつく。彼女は、青年がいなくなって、心にポッカリと穴が空いてしまったような気持ちに陥ってしまっている。


瑞鶴「……」


瑞鶴は、廊下内を歩き、いつぞやの青年と指切りをした港まで出て行った。そこに座り込み、また1つ、ため息をつく。


瑞鶴「……呆れるわ……まったく……。もし、無事に戻ってきたら、ふてくされてやるんだから……」


瑞鶴はそう呟き、そのままじっと海の方を見つめる。だが、海から吹き付ける風が、瑞鶴を妙に嫌な気持ちにさせる。


ゆー「瑞鶴さん……」


瑞鶴「あ、ゆーじゃない。……どうしたの?」


瑞鶴が声をした方を見ると、ずぶ濡れのゆーが立っていた。ずぶ濡れということは先ほどまで、海の中に潜っていたことがわかる。


ゆー「……」


瑞鶴「出撃命令とかも出てないし……演習ってわけじゃないわよね……?」


ゆー「青年さんが心配で、海の中に……勝手に潜ってた……でも、ゆー、青年さんのこと心配だから……」


瑞鶴「ゆー……。大丈夫よ……青年は……きっと戻ってくるから」


ゆー「……」


不安そうな顔をするゆーを瑞鶴は、立ち上がって近づき、柄にもなく抱きしめてなだめる。ゆーは、抑えてた気持ちが溢れだしたのか、静かに泣き始める。


瑞鶴「……大丈夫……戻ってくるから……。絶対……」


吸引力が引き寄せるのは……


その日の夜、青年は深海棲艦達の日常をメモで記録することにした。話せば意外にもフレンドリーだったこと。料理らしきものを作って食べることなどもちゃんとメモを取っておいた。


青年「ふぅ……明日も頑張らないと……鎮守府のみんなは大丈夫かな……」


そう呟き、青年はまた慣れない岩場で眠りにつくのであった。


次の日、青年は起きて、食事を取ると昨日のように北方棲姫に連れられ、別の部屋へと案内された。中に入ると、黒髪の二体の深海棲艦がこちらを見てくる。


軽巡棲鬼(以下、軽巡)「……」


戦艦棲姫(以下、戦艦)「……」


青年「あ、どうも……」


軽巡「セイネンサン……待ッテタ。ワタシタチノヘヤ、ソウジシテクレル?」


青年「あ、はい。仕事となれば、掃除しますよ」


戦艦「ジャア、オネガイ……」


そう言って、二人は、青年に掃除道具を渡してくれた。青年は礼をして、掃除を始める。


軽巡棲鬼には、どこかで見たことがあるような姿をしていると思った青年。一方で、戦艦棲姫についての第一印象は普通に『綺麗』な人だった。


青年「……」


戦艦「セイネン……マジメ……」


青年「え、そうですか……?」


戦艦「……マジメナ子ハ、ケッコウ好キ……」


青年「えっ……」


戦艦「……フマジメナ子ハ、アイアンボトムサウンドニ沈メタイ……」


青年「……真面目でよかった」


どことなくヤバイオーラを感じ取った青年は、ある程度真面目で本当によかったと心の底から思うのであった。戦艦棲姫の言葉には本当にやりかねない、語調の強さがあった。


軽巡「ソレニシテモ、マサカ、ココニ来ルトハ思ワナカッタ」


青年「え?」


戦艦「ソレハ言ワナイ約束ジャナイ……」


軽巡「デモ……」


青年「ちょっと待ってください……それ、どういうことですか?」


軽巡「……」


戦艦「……仕方ナイ……。実ハ、セイネンヲ連レテ来ルヨウニ、ホッポウニ、頼ンダノハ……ヲ級」


青年「え……でも、あの人、僕に対して、『誰?』って聞いてたんですけど……」


軽巡「ソレハ、タブン、照レ隠シ」


青年「……」


青年が話を聞くと、ある日、ヲ級が海面から顔を出してみると、港近くを掃除している青年を見かけたらしく、それ以来、人間に興味のあったヲ級は青年のことを毎朝観察していたらしい。そして、いつの日か、人間のことをもっと知りたくて、北方棲姫に頼んで、わざわざここまで連れて来たという。


青年「……マジですか?」


軽巡「ウン。ヲ級、セイネンサンガ来タ日、トテモ嬉シソウダッタ」


青年「そ、そうなんですか……」


あまり表情を変化させない、ヲ級が嬉しそうにしている姿はぜんぜん想像できなかった。困惑の表情を浮かべる青年を見て、戦艦棲姫が何かを思い出したかのような顔をして、部屋から出て行った。


そして、しばらくして、戻ってきたかと思うと、ヲ級を連れて来た。


青年「……」


ヲ級「ア……セイネン……」


戦艦「ヲ級……、セイネンニ思イヲツタエテ……」


軽巡「ガンバッテ……」


ヲ級「エ……ニ、ニンゲンニハキョウミガアルケド、セイネンガ好キトカソウイウノジャ……」


戦艦棲姫と軽巡棲鬼に迫られたヲ級は表情は変えてはいないものの明らかに困惑していた。青年は何となく、自分が蒼龍、飛龍、青葉に迫られた大宴会の二次会の出来事を思い出し、少しおかしくなって笑ってしまう。


ヲ級「ナ、ナニガオカシイ……!」


青年「あ、いやっ……何でもないです」


ヲ級「……」


青年「で、でもまあ、お二人とも、ヲ級さん、嫌がってますし……ね?」


戦艦「ム……セイネンハ、ヲ級ノコトハ、好キ?」


青年「え、な、なんでそうなるんですか……」


軽巡「セイネンサン、ダイタン……」


ヲ級「セイネン……」


青年は、このままこの二人と会話を続けていけば、無理やり、ヲ級とくっつけられるという結末が待っていることを悟った。そして、青年が取ったことは、ヲ級と逃げるという選択肢だった。ヲ級の手を取り、急いで二人の部屋を出て、誰もいないところへと向かう。


そして、たどり着いたところで、青年はヲ級の手を離した。


ヲ級「……」


青年「すいません……ヲ級さんの秘密……と言いますか、ああいったことを聞くつもりはなかったんですけど……どうしても、ここに連れて来られた理由は知っておきたくて……」


ヲ級「……モットニンゲンノコトガ知リタイ……ダカラ、連レテ来タ……」


青年「……そうですか……。一応、僕なんかでよければ……」


ヲ級「ウン……。アト、ニンゲンニキョウミハアルトイッタガ、ニンゲンハ嫌イ……」


青年「そ、そうですか……」


ヲ級「デモ……セイネンハ『トクベツ』」


青年「……」


ヲ級「ソレダケ……ジャア、ソウジ、ガンバッテ……」


そう言い残し、ヲ級は足早に去って行った。取り残された青年は『特別』という言葉の意味を考る。ここまで来たら、少し鈍感な青年でも意味に気づき、顔を赤くした。


青年「うーん……はぁ……まさかそんなことはあるはずは……うーん……」


一人で、わけのわからない言葉を呟きながら、再び戦艦棲姫と軽巡棲鬼の下へ掃除に向かった青年だった。




その夜、青年はメモに、深海棲艦は人間に嫌悪感を抱いている者はいるが、興味を抱き、独自の探究心のようなものを持っているということを記録した。このメモが後でどれくらい役に立つかはわからないが、備えていて損はないと思い、記録をどんどん付けていく。


青年「はぁ……」


記録をつけながら、何度ため息をついたことだろうか。青年はいよいよ鎮守府に早く帰りたいという気持ちが強くなってきた。もちろん、深海棲艦達といるのがそこまで嫌だと言うわけではないのだが、もはや鎮守府は青年にとって、我が家のようなものに変わっていたのだ。


青年「っていうか……あの鎮守府に来て一ヶ月経ったばかりなのに、色々なこと、起こりすぎだよなぁ……」


それから、青年は鎮守府に色々なことを思い出した。みんなの前で、仲良くなりたいと宣言させられたあの日から、青年の日常は驚くほどに変わった気がする。今では、艦娘たちと出かけたり、一緒にお酒を交わす仲にまでなってしまった。


青年「……うーん……ここのみんなには悪いけど……やっぱり、あっちの方が……いいな……でも、残りの日も頑張らないと……とりあえず、まず鎮守府に戻ったらみんなに謝らないと……」


思えば思うほどにネガティブな独り言が増えていく青年。暗い深海の拠点での夜はまだ続く……。




地上を目指せ


それからも青年は深海棲艦達のもとで働き続けた。気がつけば、深海棲艦たちはちゃんとした青年の話し言葉を聞いていたおかげで以前のカタコトではなく段々と慣れた話し方になっていた。そして、青年があのメモを鎮守府に残してから5日目……青年は深海棲艦達の間でちょっとした人気者になっていた。



北方「お兄ちゃん、今日は一緒に遊ぼ?」


青年「あー……いいけど……」


港湾「待って……青年、今日は私と一緒に過ごす約束をしてたはず」


ヲ級「青年……人間のこと、もっと教えてくれるって言ってた」


青年「あ、あれ、そうでしたっけ……」


レ級「青年さんは人気者だねー! ししし……」


青年がひっぱりだこになっている様子を見てレ級は非常に楽しそうである。ちなみに、青年はは地上に戻った後のことを掃除しながら考えていたことが多かったために大体深海棲艦達との約束は二つ返事で了承することが多かったので、このようなブッキングが起こってしまうのだ。


青年「どうしたらいいんでしょうか……」


レ級「青年さんが一番好きな子と過ごせばいいんじゃないかなー?」


北方「じゃあ、私?」


港湾「何を言ってるの……?」


ヲ級「ちょっと待って……青年を一番最初に見つけたのは私……」


それからも、青年の奪い合いは続いた。とりあえず、場が収まるまで青年は名目上の自分の部屋へと戻り、今までつけた記録を見直すことにした。


青年「『感情は持っている』……『深海棲艦である、ということを忘れてしまえば人間とほとんど同じである』……あと2日で戻れるかもしれないんだ……。鎮守府のみんなを信頼するしかないな……」







その頃、鎮守府では来る2日後についてのことで会議が行われていた。


提督「青年君が示した日まであと2日……おそらく、彼のことだから2日後、必ずここへ戻ってくると、私は信頼する……。そこで、彼の希望通り、この鎮守府周辺で警戒体制の準備を始めることにした。大本営も動いてくれるらしい」


赤城「えっ……この前は動いてくれなかったと」


提督「ここまで来たら、私も覚悟はできてる……。青年君が必ず戻ってくるということを提督という地位と一緒に賭けた。……彼が戻って来なければ私は提督を辞める」


瑞鶴「提督さん……そこまで……」


提督「……。ここまで来たら、後は気持ちの問題だ。……みんなが青年君に戻ってほしいと願えば、きっと天は味方をしてくれる。当日何が起こるかはわからない。だが、最後に勝つのは青年君を含めた『我々』だ」







結局、北方棲姫と港湾棲姫、ヲ級の三人の言い争いは終わって、青年はヲ級に、人間について教えてていた。


青年「まぁ……こんな感じですけど……他に何かありますか?」


ヲ級「……特には無い」


青年「そうですか……あ、そうだ。ヲ級さん、また地上に着替えを取りに行っていいですか? 明後日、お願いします」


ヲ級「……わかった」



そして、そこからの時間はあっという間だった。鎮守府では、警戒体制が青年の戻ってくる数時間前に準備が完了した。そして、青年は荷物を持ち、再びあの日のようにイ級の口の中に入り、ヲ級とともに地上を目指す。


段々と水面に近づいていく。そして、ヲ級とイ級が水面から出てきた。辺りには艦娘たちはいないが、おそらくどこかに隠れているのだろう。


大淀「提督……ヲ級とイ級がそれぞれ一体ずつ出現しました。どうなさいますか?」


提督「各艦に告げてくれ。まだ、攻撃はするな。向こうの出方を少し見る」


不気味な静かさが港近くで漂っていた。ヲ級もその静かさに、違和感を覚えたのかかなり気を張って、辺りをジロジロと見回している。青年は外で何が起こっているのかはわからなかったため、イ級の口の中でじっと待った。


ヲ級「……」


そして、あの日のようにイ級が大きく口を開けた。そして、青年が中から港へと降りた瞬間だった。



大淀「青年さんです……!!」


提督「主力艦隊は、攻撃準備に―――「提督!! 新たな反応が4つ……何か来ます!!」


青年が、走って港から離れ始めると同時に、ヲ級とイ級の後ろに主力艦隊が姿を見せ始めた。だが、それに反応してなのかさらに4体の深海棲艦達が姿を見せる。


それは武装した北方棲姫、港湾棲姫、戦艦ル級と重巡リ級だった。


提督「主力艦隊、戦闘配置に! 鎮守府内で待機している艦娘は、青年君の保護を頼む!!」



ヲ級「……まさか、青年が私のことを騙した……?」


港湾「……今はそんなことを言ってる場合じゃない……あの主力艦隊を倒さないと……」


北方「お兄ちゃんは……私達の家族だから……」


決戦


そして、戦いの火蓋が切られた。青年は、後ろの方から聞こえる轟音を耳にしながら提督のいるところへと向かう。


弥生「青年さん……こっちです……」


青年「弥生……わかった!」


弥生とともに、鎮守府内を移動していく。そして、たどり着いた先には、提督と大淀の待つ場所だった。


青年「提督……ただいま戻りました……」


息を切らしながら、青年は提督に戻って来たことを告げる。


提督「青年君、よく戻って来てくれた……」


大淀「っ! 提督、瑞鶴さんが大破してしまったそうです……」


提督「なにっ!?」


青年「瑞鶴さん……」




海の上では、激しい戦いが繰り広げられていた。主力艦隊のそれぞれの艦娘たちはダメージのせいで、少し服がところどころ破けていたりしてしまっている。その中でも瑞鶴は一番多くのダメージを受けていた。



瑞鶴「くっ……」


加賀「五航戦、少し無理しすぎよ。下がりなさい」


瑞鶴「だって――「下がりなさい」


瑞鶴「……」


加賀「あなたが、自ら主力艦隊に志願したことは知ってるわ。だけど、沈んでしまったら元も子もないわよ」


瑞鶴「……」


加賀「しかし、このままではこちらの方が不利ね……」



場所は戻り、再び提督のいる司令室に戻る。提督は主力艦隊が戦っている音を聞きながら戦況があまりよくないことを不安に思い、汗をかいている。


大淀「提督、大丈夫ですか……?」


提督「ああ……くそっ。大本営は何を……」


青年「……」


青年は、この状況では何もすることはできず、ただ見守ることしかできなかった。


だが、そんな状況が覆る瞬間は起きた―――。



大淀「っ……提督! 大本営から連絡です!」


提督「何!?」


元帥『遅れてすまない……だが、あと少しで支援艦隊が到着する。それまで持ちこたえてくれ』


提督「はいっ……」



それから支援艦隊が来るまでそこまでの時間はかからなかった。支援艦隊が到着してからは戦況が一気に逆転し、気づけば、相手は、ヲ級と北方棲姫、港湾棲姫の3体になった。




ヲ級「……」


北方「まだ……諦めない……」


港湾「青年……取り戻す……」


ヲ級「……」


港湾「ヲ級……?」


ヲ級「二人とも……逃げて、後は私が引き受ける」


北方「でも……」


ヲ級「……大丈夫」


港湾「……」


北方「……」


北方棲姫と港湾棲姫は、顔を見合わせた。そして、少しずつ、海の中へと撤退を始める。その時、二人の表情は非常に悲しそうなものになっていた。


ヲ級「……」


長門「む……逃げるつもりか……」


それを見つけた長門が追い打ち攻撃をかけようとするが、一度陸奥が静止する。


陸奥「待って! ……何か……嫌な予感がするわ」


加賀「あれは……」


木曾「まさか……さっきまで普通のヲ級だったよな……」


吹雪「変化した……?」


瑞鶴「フラグシップ……でも……あの目の色……」


ヲ級の体が一瞬だけ黄色いオーラで包まれたかと思い、艦娘たちは普通のヲ級がフラグシップ艦に変化したのだと思った。

これだけでもかなり異例なことであったのに、このヲ級は片目から水色のオーラが少し出ている。


木曾「マズイ……早く沈めてしまうか。撤退させるしかないぜ……!」


ヲ級「……!!」


木曾が砲撃準備をしようとした瞬間、それに気づき、艦載機を飛ばしてきたヲ級。一瞬の隙を突かれた長門と陸奥は反応が遅れ、艦載機を撃ち落とせず、そのまま攻撃を喰らう。


瑞鶴「っ……!!」


加賀「マズイわね……」



大淀「提督……どうなさいますか?」


提督「これは、もう賭けるしかない……全員で一気に攻撃をしかけて、沈める他は……」


大淀「わかりました……。『全員、総攻撃の準備を』」





そして、その指示が出た瞬間、先ほど攻撃を喰らってしまった長門と陸奥も攻撃の構えになり、空母ヲ級に狙いを定める。


木曾、吹雪も同じようにして、狙いをヲ級に定めた。支援艦隊も作戦を汲み取ってくれたのか、狙いをヲ級に向ける。


いくら急な強化があったヲ級とは言え、一度にこれだけの攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。


ヲ級「一人だけでもいい……沈める……!!!!」


ヲ級はそう言って、ありったけの艦載機を主力艦隊に向けて飛ばして来た。


だが、非情にも多くの砲撃音が鳴り響き、ヲ級に向けて砲撃の雨が降り注ぐ。ヲ級の艦載機は、加賀の放った艦載機により、何とか撃ち落とされる。


ヲ級「……!!!」


そして、着弾したと思われた瞬間に、砲撃音よりもさらに大きな爆発音が鳴り響いた。


それからしばらくして、煙がなくなった後、そこにはヲ級の姿はなくなっていた。



提督「やったか……」


大淀「勝利……ですね」


青年「……」




ただいま


ヲ級は暗い海中で目を覚ました。


ヲ級「……あれ……私は……沈んだはずじゃ」


レ級「……まーったく、ヲ級は無茶するんだから……」


ヲ級「レ級……?」


ヲ級の視界がハッキリしてくると、どうやらあの砲撃を喰らう瞬間にレ級が海の中に引きずりこんだらしく、どうやら撃沈せずに済んだらしい。


だが、ヲ級がよく見ると、レ級の姿はヲ級以上にボロボロだった。


ヲ級「あなた……」


レ級「はいはい。その心配は帰ってから帰ってから……それに、私は伊達に頑丈じゃないよ~。しししっ!」


レ級は何とも無いと言った表情で笑って見せた。


ヲ級「……」


レ級「ただ一つ言いたいのは、そりゃ、もちろん、青年さんも私達の家族にしたいけどさー。何よりもまず、ヲ級は私達の家族だし……私としては一度に家族を二人も失いたくないかな~って」


ヲ級「レ級……」


レ級「さっ、今日は帰ってのんびり休もーね。港湾棲姫と北方棲姫もきっと心配してるよ?」


ヲ級「……うん」






青年と提督は、それから二人で主力艦隊が戻ってきたのを迎えに行った。その傷ついた姿を見て、改めて青年は鎮守府のみんなにかなり迷惑をかけたことを痛感し、申し訳なく思った。


だが、瑞鶴は傷ついて露わになってしまっている胸を隠しながら、青年に近づいてきて、青年の前に立つ。


瑞鶴「ほら、そんな辛気臭い顔しない。……何か言うことがあるでしょ」


青年「……ただいま戻りました」


瑞鶴「ん。おかえり……あと、私達が傷ついてるからって気にしなくていいわ。私達は、守るのが仕事なんだから」


青年「……」


瑞鶴「……提督さん、私達はこれから入渠してくるから……」


提督「ああ。お疲れ」


瑞鶴「じゃ、青年。『また後で』ね」


青年「あ、はい……」



主力艦隊のみんなが入渠の場所へと向かって行った後、青年は執務室へと連れて行かれた。そして、ソファに座らされ、お茶を

出される。青年はここで、お茶を頂いたことは滅多にない。お茶を出されたということはかなり長い話になるということだ。もちろん、青年もそのことを理解した。



提督「さて……帰ってきたばかりで悪いが、色々聞かせてくれないか?」


青年「はい。大丈夫です」


提督「……深海棲艦達のところにいたと言うのは本当なんだな?」


青年「はい」


提督「……そうか……。青年君、これから大本営に連絡する。近いうちに呼び出されるのは確実だろう……もちろん、行く覚悟はできてるな?」


青年「……はい。任せてください」


提督「まぁ、私も同伴するがな……。とりあえず、今日はゆっくり休むといい。体が疲れているだろう」


青年「そうですね……」


提督「あと……瑞鶴には特にお礼を言っておく方がいいぞ。……君のことを一番心配していたのは彼女だからな」


青年「……」









その晩、青年の帰還を祝してちょっとした祝いの宴が催された。で、青年はこの前の如く、また再び乾杯の音頭を取らされている。



青年「……」


隼鷹「もう次、何言うかわかってるでしょー!?」


青葉「では、青年さん、『この前』のように一発、お願いします!!」


青年「マジでやらないとダメですか……」


青葉「はい!」












青年「お、お◯ぱーい!!」






結局、その日、ゆっくり休むはずが余計に疲れがたまった青年であった……。





青年は布団だけを敷いた後、大本営に呼び出されてから元帥にどのように報告をするかを考えた。そして、頭の中では先ほどの提督との会話を思い出している。



提督『そう言えば、深海棲艦達に何も変なことはされていないんだな?』


青年『これと言っては……』


提督『食事はどうしていた?』


青年『向こうに出されたものをそのまま……』


提督『ふむ……身体に異変はないな?』


青年『今のところは……』


提督『そうか、もしかすると、何かしらの異常がないか検査などもされるかもしれん……もし、異常が見つかれば、ここに戻ってくるのは確実に遅くなるだろう』




コンコン。


青年「ん?」


青年が色々思い出して、少しボーッとしていた頃にノックの音が聞こえた。青年は、すぐに自分の部屋の入り口を開けてノックをした人物の姿を見る。


瑞鶴「こ、こんばんは」


青年「あ、瑞鶴さん……えっと……どうしたんですか?」


青年が見た瑞鶴の姿はもう既に就寝準備が完了している姿だった。手には、なぜか枕を持っている。


瑞鶴「……し、失礼するわね」


青年「え?」


そう言って、瑞鶴は青年が止めようとしたのにもかかわらず、青年の部屋の中へと入り、枕を青年の布団のところに置いた。青年はわけがわからず、困惑した表情を浮かべている。


瑞鶴「……この前の私との約束破った罰の続き」


青年「あ、そう言えば……」


瑞鶴「……今日は私と寝ること」


青年「……」



そして、青年と瑞鶴は、二人で同じ布団の中に入った。もちろん、青年は予備で置いてあるもう一つの布団を出そうとしたのにもかかわらず、瑞鶴が「別にいらない」と言ったので、仕方なくこのような状況に陥っている。瑞鶴曰く、翔鶴にも許可は取ったとのことである。


青年「……」


瑞鶴「ねぇ、寝てる?」


青年「寝れるわけ……ないじゃないですか」


瑞鶴「そうよね……私もよ」


瑞鶴は自分から提案したはずだが、かなり青年と距離を離して横になっている。あと少しずれれば、掛け布団の外に出てしまいそうなほどだ。青年も青年で、緊張で理性が飛ばない程度の距離まで離れている。結果、お互い、布団の両端で横になっているという何とも奇妙な状態になっているのだ。


青年「……」


瑞鶴「青年……ちょっと話さない? 寝れるまででいいから」


青年「あ、はい……」


瑞鶴「……深海棲艦たちに何か変なことされてない? というより向こうで何してたわけ?」


青年「えっと……掃除してました」


瑞鶴「え」


青年「……掃除してました」


瑞鶴「はぁ……私の心配を返してよ……もうっ」


青年「すいません……」


そう言って、瑞鶴はふてくされてしまったのか身体の向きを変え、完全に青年からは表情が見えない方向を向いてしまった。


青年「と、ところでどうして、こんなことを?」


瑞鶴「その……せっかく戻ってきたのに、晩ご飯の時から青年の元気がないって言うか……。浮かない顔、ずっとしてるから……。無理しないで……何か言いたいことがあれば言ってくれてもと思って……」


青年「そうですか……えっと……今日、僕はかなりひどいことをしてしまったんです」


瑞鶴「……」


青年「……一応僕のことを受け入れようとしてくれた深海棲艦のみんなを騙して……そして、沈める原因を作ったんです……。もちろん、立場上、深海棲艦の味方はできませんでしたが……それでも……やっぱり、少し、胸が痛いですね。ヲ級さんが、攻撃を浴びている時なんて、ただ僕は立ってそれを見ているだけでしたし……」


瑞鶴「……仕方がないことね……。でも、私としては……青年のそういうところは嫌いじゃない……かも」


青年「瑞鶴さん……」


瑞鶴「……青年はそのままでいいと思うわ。いつまでもその優しい心……持ったままでいなさいよ」


青年「……」


青年が横を見てみても、瑞鶴は顔が見えない方向を向いてしまっているために、どのような表情をしているかがわからなかった。青年は瑞鶴のその言葉に何となく救われた気がして、先ほどから胸につっかえていた思いがとれた。


瑞鶴「……青年。近いうちに、大本営に呼び出されると思うけど……緊張せず、見たままのことを言うのよ。あなたは緊張したら変な失敗ばっかりするんだから……」


青年「あ、はい……」


瑞鶴「……あ、あと……えっと……青年がまた休日もらえたらさ……今度こそ一緒に遊びに行かない?」


青年「え?」


瑞鶴「……私だって、本当は青年とそのっ……ちょっとくらいは遊びに行きたいというか……たまには、艦娘じゃない一日を味わってみたいというか……えっと……」


青年「……瑞鶴さん」


瑞鶴「は、はいっ!」


青年「色々ありがとうございます……。提督から聞きました……僕のことなんかを心配してくれて……。お礼として……今度は必ず連れて行きます……僕、頑張って、えっと、その……瑞鶴さんをエ、エスコートできるようにしますから……」


瑞鶴「わ、私だけが心配してたわけじゃないし……別にいいんだけど……と、というより慣れないことしなくていいわよ……。エスコートなんて……その、私は青年と一緒に行けるだけで嬉しいというか……」


青年「え?」


瑞鶴「~~!! なんでもないっ! おやすみっ!」



そう宣言してから、瑞鶴は何も話さなくなった。しばらくしてから青年は、無事に帰ってこれたことに感謝しつつ、目を閉じ、寝息を立て始めた。


そして、夜は更けていく……。



瑞鶴「……せいねーん……寝ちゃった?」


青年「……」


しばらくしてから、瑞鶴が目を覚まし体を起こし、静かな声で尋ねるが、青年は静かに眠っていた。瑞鶴は、ちょっとずつ青年に近づいていき、その寝顔を覗きこむ。


瑞鶴「まったく……。幸せそうな寝顔ね……」


青年「……」


瑞鶴「……隣で寝てもいいかな……」


そう言って、体を試しに青年にくっつけてみる。だが、瑞鶴は、恥ずかしさのあまりにすぐさま離れてしまう。


瑞鶴「……本当にぐっすり眠ってるのね……ちょっとイタズラしても起きないのかしら?」


そして、瑞鶴は寝ている青年のほっぺたを触ってみる。


青年「ん……」


瑞鶴「……ちょっとおもしろいかも」


そう言って、瑞鶴は、日々の恨みと言わんばかりに青年の髪の毛をいじってみたり、もう一度ほっぺたを触ってみたりした。どうやら、深夜ということで少しだけ妙なテンションになっているらしい。


青年「……」


瑞鶴「……本当に何しても起きないわね……」


そう言って、顔を青年に近づける。何か手違いがあれば今にでも唇と唇がくっついてしまいそうな距離だ。


瑞鶴「……」


青年「……」










瑞鶴「……いや、何か違うわね。やめとこ……」


そう言って、瑞鶴は再び横になり眠りにつくのであった。




次の日の朝、青年が目を覚ますと、そこには瑞鶴の姿はなく、もう部屋に戻ってしまったらしい。青年は、顔を洗いに洗面所へ向かった。


青年「……ふふっ」


顔を洗い、鏡に映った自分の顔を見た瞬間に、眠気が一気に吹き飛び、笑ってしまう。


青年の頬には、いつ書いたものかはわからないが、『おかえり by瑞鶴』という落書きがマジックで施されていた。青年はその字を見て、笑顔になり、こう呟いたのだった。





青年「―――――ただいま」







~深海の拠点編・完~





帰ってきた日常


さて、青年は顔に書かれた落書きを拭きとった後、久しぶりに戻ってきた鎮守府の掃除を始めだした。そして、以前のように提督と挨拶をかわし、朝食を取る。それからは、これまでの青年がしてきたことと変わらなかった。だが、1週間ぶりに食べた鎮守府での朝食は最高に美味しかった。そして、何よりも今、ここにいられることに幸せを感じたのだった。


青年「さ、今日も頑張るぞ……」


鳳翔「あ、青年さん。ちょっといいですか?」


青年「あ、はい。どうかしましたか?」


鳳翔「今日のお昼ご飯なんですけど……お昼時になったら私の店にいらしてください」


青年「え、いいんですか?」


鳳翔「はいっ。用意しているものがございますので」


青年「わかりました」


そう言って、鳳翔との約束をかわした青年はいつもの様に掃除を始める。ふと、窓から外を見ると昨日海戦があったとは思えないほど静かで綺麗な海が広がっていた。


青年「……あれ?」


ふと、何やら港近くで動いている二つの影が見えた。青年は昨日の海戦を思い出し、「もしや……」と思ったが、よく見ると扶桑と山城の二人が何やらゆっくり港を歩いているだけだった。別に、これだけならそこまで違和感はないのだが、この二人は港近くから離れようとはしなかった。


青年「何やってんだろ……」



そう呟いてからも仕事を続け、気づけばお昼時になっていた。


青年「あ、鳳翔さんのところに行かないと……」


そう言ってから青年は鳳翔のお店、つまり、居酒屋『鳳翔』へと立ち寄った。中に入ると、いつものお酒好きの隼鷹や千歳と言った面々も見られたがさすがに昼間なだけあって、お酒の量は少なめのようだ。とは言っても青年からすれば、昼から飲むなんて正気の沙汰ではないと言った感じであったのだが……。


鳳翔「あ、青年さん。お疲れ様です」


青年「ど、どうも……」


鳳翔「えっとですね……これ、どうぞ」


青年「え……」


そう言って、青年が手渡されたのは、弁当箱であった。わざわざ作ってくれたと言うのだろうか、青年は思わず笑みをこぼし、お礼を言う。そして、鳳翔は「どういたしまして」と言ってから、さらに言葉を続けた。


鳳翔「あ、青年さん。大変おこがましいのですが、この二つの弁当箱を、扶桑さんと山城さんに持っていってあげてくれますか?」


青年「あ、はい。大丈夫ですよ」


そう言って、二つの弁当箱を受け取り、青年は港の近くへと向かった。どうやら、扶桑と山城は港近くからはまったく動いていなかったようで、二人で、港で座り込んでいる。


青年「あ、あの~。扶桑さん、山城さん、こんにちは」


扶桑「あら、青年さん、こんにちは。いい天気ですね」


青年「そ、そうですね……ところで、お二人は何をしていらしたんですか?」


山城「実は、昨日の海戦があったせいで、もしかしたら、深海棲艦が再び攻めてくるかもしれないと提督が心配して……港近くの監視を『くじ引き』で決められてしまったの」


青年「そ、それはそれは……大変ですね」


扶桑「ところで、青年さん、その手に持っている人は?」


青年「あ、これ、お二人に鳳翔さんからの差し入れのお弁当です」


山城「わざわざご苦労様」


青年「え~っと、まあ、僕も頂いてますし、せっかくですから三人でここで食べちゃいましょうか?」


扶桑「くすっ、いいですね」


それから、三人は弁当箱を開け、昼食を取り始める。三人の弁当箱の中のおかずは全て同じだった。そのおかずは、玉子焼き、麻婆春雨、ウインナー、小さなハンバーグと、実に可愛らしいというより、母性の溢れるおかずであった。


山城「『麻婆春雨』がおかず……何か意味があるのかしら?」


扶桑「あら、この玉子焼き、ちょっと焦げてるわ……。鳳翔さんが玉子焼きを焦がすなんて珍しいですね……」


青年「でも、美味しいですよ……どれもこれも」


確かに、一部の料理に鳳翔らしくない失敗は見られたものの、どれもこれも味はそこまでひどいものではなかった。しかし、それでもやはり鳳翔がミスをするということが三人には考えられなかった。


青年「何かあったんでしょうかね……ん?」


青年がふと空を見上げると小さな鳥が数羽飛んでいた。そして、まさかの次の瞬間、山城と扶桑の弁当箱に狙いを定めて急降下……。なぜか青年の弁当箱は無事で、二人の弁当箱は少しだけ食い荒らされてしまった。


山城「……」


扶桑「……」


青年「……え、えーっと……」


山城「……不幸だわ」


青年「ぼ、僕のおかずまだ余ってるので……どうですか?」


扶桑「青年さん……本当にすいません」


そう言って、残りのおかずを三人でそれなりに仲良くわけあって食べた。


三人「「「ごちそうさまでした」」」


青年「では、弁当箱、僕が鳳翔さんのところに持っていきますので」


山城「ありがとう」


二人から、食い荒らされてしまった弁当箱を受け取り、鳳翔の店へと向かった。鳳翔の店に入ると、隼鷹やら千歳の姿はなく、鳳翔が静かに台所の掃除をしていた。鳳翔は青年に気づくと、微笑み、座るように言ってくれた。


鳳翔「どうでしたか? 今日のお弁当」


青年「あ、とても美味しかったんですけど……扶桑さんと山城さんのが……」


鳳翔「あ、あら、これは大変ですね……」


青年「はい……どうしてなんでしょうか……」


鳳翔「謎が深まるばかりです……。ところで、青年さん、今日のおかずで一番美味しかったものは何でしたか?」


青年「おかず……ですか?」


鳳翔「はい。玉子焼きにミニハンバーグ、麻婆春雨、ウインナー……実はこれらのおかずで、私が作ったのはウインナーだけなんですよね」


青年「えっ?! そうだったんですか?」


鳳翔「はい。……なぜこのようになったかを話すと少しだけ長くなっちゃうんですが……」





青年の舌をうならせるのは誰だ?! おかず一本勝負!!


この話が最初に持ち上がったのは、青年が帰ってきた日の夜のことである……。



電「青年さんが、無事に帰ってきてくれてよかったのです」


雷「そうよね! 私達まだ、大宴会の時のお礼もちゃんとできてないし……」


響「何かできることはないかな?」


暁「料理でも作ってあげましょうよ! 料理はやっぱり、レディーの基本だからねっ」


雷「でも、何を作ってあげればいいのかしら?」


四人「…………」









四人「というわけで、よろしくお願いします」


鳳翔「え、え~……」


四人は鳳翔のところへ、何の料理を作ってあげればいいかを聞きに向かった。明らかに鳳翔が少し困った表情をしながら、「どうしましょうか……」と言う。


鳳翔「……そうですね……。こういう時はやはり、お弁当でしょうか」


暁「お弁当?」


鳳翔「はい。青年さん、掃除道具をいったん片付けてから、食堂に向かうのは二度手間だと思いますから、掃除していた場所でもすぐに食べれるお弁当なんかが適していると……」


響「なるほど……」


??「あ、あのっ……!」


電「?」


春雨「そ、その話、ちょっと加わってもいいですか!?」


鳳翔「春雨ちゃん?」


春雨が、突如として、話に加わって来た。どうやら、先ほどの、第六駆逐隊の会話を聞いていたようで、気になってついて来たらしい。春雨は頬を赤くしながら、鳳翔に、「私も作ります!」と宣言をした。


鳳翔「あら、これは……」


春雨「わ、私色々青年さんに謝らないといけないことがあって……だから、お願いします!」


鳳翔「そ、そこまで言わなくても大丈夫ですよ……」


弥生「……」


鳳翔「あら、弥生ちゃん、どうしたんですか?」


弥生「弥生も、青年さんに料理、作りたいです」


どこから見ていたのかはわからないが、急に弥生が現れ、そう言った。


鳳翔「えっ……。……ふふっ。段々面白くなってきましたね……。では、こうするのはどうですか?」



そう言って、鳳翔が提案したのは、各自で自信のおかずを一品作り、明日の青年のお弁当に入れ、味わってもらった上で、さらについでとして、青年に何が一番美味しかったかを判断してもらおうとのことだった。


鳳翔「……どうですか? こうすれば、みなさんの料理のスキルと言いますか、技術も上がると思いますし、何よりも食べてもらう人の気持ちをしっかりと考えることのできる勝負だと思いますよ」


暁「おもしろそう! やってみましょ!」


春雨「は、はいっ! 頑張ります!」


弥生「……」


鳳翔「では、念のために、それぞれアシスタントの人を探してきてください。私は、おそらく一人で大丈夫ですが、やはり、みなさん火や色々な道具を使うことになりますから、万が一のことも考慮して、アシスタントをお付けすることをオススメします」


雷「じゃあ、早速探しましょう!」


弥生「誰がいいですかね……」


春雨「っ……わ、私心当たりがあります! お先に失礼します!」


そう言って、春雨は一番最初に鳳翔のお店から出て行った。後から遅れて、弥生と第六駆逐隊のみんなも鳳翔のお店から出てアシスタントをしてくれる艦娘を探しに行った。


みんなが出て行ってから、鳳翔は一人で笑う。


鳳翔「ふふ……私としたことが、つい熱くなってしまいました……」




――――――――――――――――――――――――


青年「なるほど……そのようなことが」


鳳翔「巻き込ませて申し訳ありません」


青年「い、いえいえ。いいんですよ。本当にお弁当美味しかったですし……」


鳳翔「そうですか……それでは、誰の料理が一番美味しかったですか?」


青年「うーん……もう少し考えさせてください」


鳳翔「では、もう少しこの話の続きをしますとですね―――


――――――――――――――――――――――――


そして、時間は経ち、今日になって青年が掃除をやり始めた午前中の頃である。食堂の厨房にて、各人がそれぞれアシスタントを連れて集まった。


鳳翔「みなさん、準備はいいですか? それでは、持ち場について、料理をスタートしてください」


鳳翔がそう宣言して、お料理バトルは幕を開けた。



暁「こっちには強力な助っ人がいるんだから、負けるはずないわっ!」


電「頑張るのです!」


龍田「お料理勝負なんて、楽しそうなこと、見逃せるわけないもの~」


暁達の第六駆逐隊のアシスタントは龍田がつとめるようだった。理由は、響の「何となく料理が得意そうだから」という理由だったが、龍田は快く了承してくれた。第六駆逐隊は、龍田と昨日のうちに相談して、作るおかずはミニハンバーグということを決めていた。


龍田「じゃあ~、まずは下準備から始めましょうね」


響「了解。材料の準備はできてるよ」


雷「道具も準備バッチリ! 料理を始めましょ!」


第六駆逐隊はそれなりに上々な滑り出しでミニハンバーグを作り始めた。それを、弥生はゆっくりと見て、まだ材料に手付かずの状態でいたままだった。



睦月「え、え~っと、弥生ちゃん?」


瑞鳳「じっとしてたら始まらないよ?」


弥生「あ、は、はい……ごめんなさい」


睦月「もしかして、弥生ちゃん、緊張してる?」


弥生「……」


弥生は黙って頷いた。弥生はお弁当には定番の『玉子焼き』を作るつもりだった。そこで長女である睦月と玉子焼きの味には鎮守府のみんなから定評がある瑞鳳に頼んだのだ。


弥生「……実はあまり料理は作ったことがなくて……」


睦月「大丈夫大丈夫。勝負って言っても、何もそこまで大きな勝負じゃないから、それに、瑞鳳さんもいるから、ね?」


弥生「……お願いします。瑞鳳さん」


瑞鳳「うん。いいけど……玉子焼きはおそらく、他の子達の料理よりきっとすぐに出来上がっちゃうから、スピード勝負だよ?」


弥生「……弥生、頑張ります」


そう言い始めて弥生はやっとのことで、卵を一つ手に取った。




春雨「……わわ、もうみんな作り始めちゃってる……」


時雨「春雨、慌てなくても大丈夫だよ」


大鯨「うんうん。それに、春雨ちゃんの作るのはもちろん『麻婆春雨』だよね?」


春雨「う、うんっ……やっぱり、得意料理で勝負したいから……」


時雨「……うん。春雨、頑張って」


春雨「頑張るよ!」


こうして、3グループの料理対決が始まった。第六駆逐隊は龍田の見事な手ほどきにより、料理を着々と進めていく。春雨も、自分の得意料理を作っているので、時雨や大鯨に手伝いながら、下ごしらえを終えていく。


一方、弥生はかなり苦戦をしていた。


弥生「……あっ……殻が入っちゃった……」


瑞鳳「大丈夫だよ、取ればいいだけだから」


弥生「……不器用……ですね」


睦月「弥生ちゃん、思考がネガティブになっちゃってるよ!」


睦月が励ましの言葉をかけるが、なかなか料理とは慣れない人間がやると上手くいかないものである。弥生はここで、周りを見てみるが、第六駆逐隊も春雨も既に調理の段階に入っている。


瑞鳳「弥生ちゃん……」


弥生「あっ……急がないと……」


睦月「弥生ちゃん、落ち着いて、大丈夫だよ。一生懸命に作れば、きっと青年さんも美味しいって言ってくれるから!」


弥生「……う、うん」


この言葉で、火がついたのか弥生は先ほどよりも集中して調理を始めた。玉子を割り、ボウルの中をかき混ぜていく。


瑞鳳「弥生ちゃん、もうちょっと、手首のスナップきかせて!」


弥生「……はい!」


瑞鳳も段々と色々なアドバイスを弥生にしていく。弥生はその一つ一つをしっかり、頭で理解していった。その様子を見ていた春雨は、弥生が作っている様子を見て、一度手を止めた。


時雨「春雨……?」


春雨「……このままじゃダメ……まだ何かアクセントが……」


時雨「春雨、落ち着いて。弥生のペースに巻き込まれてるよ」


大鯨「春雨ちゃんのいつも通りが最高に美味しいと思うよ?」


春雨「……」




龍田「は~い、そろそろコネコネしていきましょうね~」


料理マンガのような白熱した心理戦を展開していた弥生グループと春雨グループに対し、第六駆逐隊と龍田はまるでお料理教室のように料理を楽しんでいた。第六駆逐隊も楽しそうにミニハンバーグを作っている。


暁「この調子だと、いけそうね」


??「甘いわよ、四人とも」


雷「あ……足柄さん!!」


突如として、四人と龍田の前に現れたのは重巡洋艦の足柄だった。現れた足柄はエプロン姿で既に何かを作る気満々である。


足柄「四人ともそのまま作り上げても……男は惚れないわ!」


龍田「足柄さん、別に惚れさせるというわけじゃないんですけど……」


足柄「えっ……で、でも、あなた達、何か忘れてないかしら?」


電「?」


足柄「あなた達が作っているのはお弁当のおかず……お弁当で辛いこと、それは……おかずが『冷たい』ことよ!!」


響「つまり、温かいものを提供しろってことだね?」


足柄「その通り! だからこそ、もっと慎重に作っていかないと青年が食べる時にはミニハンバーグは冷めてしまうわ! それは……他のおかずでも同じことよ。それを気づくかどうかがこの勝負のポイントになるわ!」



そして、それぞれの努力によって、お弁当のおかずが出来上がった。どのグループもヒートアップして、量が多すぎてしまったため、鳳翔の図らいにより、余分に作ってしまった分、山城と扶桑にも弁当を作ることになった。



そして、どのグループもそれぞれ出来たおかずを持ち寄り、お弁当が完成した。







鳳翔「……色々あったんですよ。みんな、楽しみにしているんですから」


ここまでで、鳳翔が青年に伝えたのは誰がどの料理を作ったか、どのようにしてお弁当を作ったか。ということで詳しい調理のことはまったく伝えていない。よって青年は、足柄が突然乱入して、第六駆逐隊にアドバイスを送ったことも知らないのだ。


青年「なるほど……。どうりで鳳翔さんが作ったのに玉子焼きがちょっと焦げたりしていてちょっとだけ変だなと思ったんですよ」


弥生「っ……」


鳳翔と青年が話している様子を春雨、弥生、第六駆逐隊のみんなは隠れながら見ている。そして、青年の玉子焼きの発言を聞いた途端、弥生が表情を曇らせた。


鳳翔「あら、美味しくなかったんですか?」


青年「いえいえ。そんなことはないですよ。とっても美味しかったです」


弥生「ほっ……」


思わず、安堵の表情を浮かべる弥生。だが、勝負はまだ終わったわけではない。これから一番美味しいおかずを青年が選ぶのである。


鳳翔「では、青年さん、そろそろ選んでください」


青年「そうですね……」


青年は昼に食べたお弁当の味を思い出す。まず、ミニハンバーグは、どれも食べやすい大きさでこの段階から食べる人のことを考えてくれている料理に仕上がっていた。そしてやはりハンバーグのお供の一つ、ケチャップがかかっていたというのも青年の中では大きなポイントとなる。


続いて玉子焼き、先ほど言った通り、一部で焦げがあったもののそう言ったことをひっくるめてやはり外せないお弁当の定番料理を作ってくれた弥生には頑張ったと褒めてあげたいところだった。それに玉子焼きは、なかなかのスピード勝負になることもあるので、料理に不慣れな弥生が本気で作った姿を想像すると、それを無下にはできない。


最後に、麻婆春雨。青年としてはお弁当の中に麻婆春雨はいかがなものかと最初は思った。しかし、口に入れた瞬間に麻婆春雨らしいちょっとした酸味か辛味か、何とも言えない味わいが広がり、青年の舌を唸らせた。


青年「……」


鳳翔「どうですか?」


青年「……。あ~……えっと、正直に言わせてもらうと……味だけなら……麻婆春雨……ですかね」


春雨「……!!!」


隠れて、見ていた春雨がたちまち笑顔になる。一方、それを聞いて、弥生と第六駆逐隊のみんなは表情を暗くした。


だが、青年は「でも」と付け加え、自分の言葉で思いを伝えることにした。


青年「玉子焼きも美味しかったです。弥生が作ったんでしたっけ……。たぶん、今頃、玉子焼きを焦がしてしまったことで、自分のことを不器用だと考えてしまっていそうですが……僕は、弥生と掃除をした時に、弥生は一度覚えたら本当に何でも上手にできるって知ってますし……。おそらく、今回は春雨との経験の差が出てしまっただけだと思います……次に勝負をした時はわからないかもしれませんね……。できれば、もう一度弥生の手料理を食べてみたいです」


鳳翔「ミニハンバーグについては?」


青年「ミニハンバーグも美味しかったですね。大きさや形もそれぞれ違っていて、暁達が本当に楽しそうに作ってたんだなって言うのはわかります。それに、大きさが違っていたと言ってもやはり、一口サイズに出来ていたっていうのは食べる人の気持ちを一番よく考えていたのではないかな……と。あと、ミニハンバーグ、すごくあったかくて美味しかったです。やっぱり、お弁当であってもあったかいご飯とおかずで食べたいっていう気持ちはありますから」


鳳翔「そうですか……ふふっ」


青年「どうかしました……?」


鳳翔「青年さんがまるでグルメレポーターみたいなことを言うものですから……それにいつもよりかなり饒舌ですし」


青年「あ、いやっ……こ、これは別に……」


鳳翔「ふふふ……あ、そろそろお仕事に戻らないとマズイのでは?」


青年「あ、そ、そうですね……すいません鳳翔さん、今日のお弁当とっても美味しかったって、みんなにも言っておいてください!」


そう言って青年は慌てて掃除道具を持ってまだ掃除していない場所へと立ち去って行った。


鳳翔「……らしいですよ。みなさん」


鳳翔の声で、隠れていたみんなが姿を現す。弥生は、かなり頬を赤くしながら静かに立ったままでいて、第六駆逐隊は褒められたことの嬉しさによりそれぞれ色々なことを話し合っている。その一方、本来勝利したはずの春雨はちょっとだけ不満気な顔をしていた。おそらく、青年が出した弥生や第六駆逐隊のフォローのコメントがうらやましかったのだろう。


弥生「や、弥生は少し、潮風にあたってきます……」


弥生はいつもと違う声の様子で、鳳翔の店から立ち去ってしまった。その去り際に、顔が今まで見たことがないほど嬉しそうな表情をしていたのを鳳翔が見ていた。第六駆逐隊は、龍田と足柄にお礼を言いに行くと言ってそれについて出て行った。


春雨「……」


鳳翔「春雨ちゃん……」


春雨「は、はいっ! 何でしょうか?」


鳳翔「青年さんは、きっと春雨ちゃんのこともわかってますから大丈夫よ」


春雨「……はいっ」


春雨は鳳翔の言葉を聞いてから気持ちが楽になったのか先ほどの笑顔を取り戻し、立ち去って行った。


鳳翔「……」


みんなが立ち去り、少しだけ静かになった鳳翔の店。鳳翔は空になった弁当箱を洗いながら、ふと何かを思い出したかのように顔をあげる。


鳳翔「そう言えば……青年さんに私が作ったウインナーのこと、聞くのを忘れてましたね……。でも、おそらくウインナーのことをあげなかったということは……。青年さんもやっぱりわかってるんですね……色々と……」



お◯ぱいの悲劇


さて、青年が鳳翔の店を出てからしばらく掃除を続けていると、廊下の方で二人の艦娘が歩いてくるのが見えた。姿を見ると、潮と浜風の二人である。二人は何やら楽しそうに会話をしながら青年に近づいてきた。そして、青年はその二人に軽く挨拶をする。すると、潮と浜風は顔を見合わせ、青年の方をおそるおそる見ている。青年はなぜこのような態度を取られたのかよくわからず、思わず首をかしげてしまった。


青年「え、え~っと……」


潮「あ、せ、青年さん、こんにちは……」


浜風「どうも……」


青年「……うん、こんにちは」


そして、青年は、何かこの二人の態度がよそよそしいものになっていることに気づいた。気づくことができたのはおそらく、自分が一度かつて瑞鶴とこのような関係になったことがあるからだろう。今の青年はあの時の瑞鶴と似たような立場になっているのだ。


青年「あ、じゃ、じゃあ、演習なのかな? 頑張って」


潮「は、はい……」


浜風「それでは、失礼します……」


青年は、去っていく二人の姿を見送りながら、少しだけ胸が痛くなるのを感じた。瑞鶴はあの時、このような気分だったのかと思うと、本当にひどいことをしたと思うのだった。


青年「瑞鶴さんにもう一度謝っておこうかな……。というより、どうして避けられてるんだろ……」


青年はそう呟きながら、掃除を少しテンションが落ちた状態で続けるのであった。



結局その後、青年は瑞鶴の部屋に立ち寄ることにした。


瑞鶴「ん? 青年どうしたの?」


青年「え~っと……瑞鶴さん、その……すいませんでした」


瑞鶴「え? 急にどうしたのよ……な、何かあった?」


青年「実は―――



それから青年は先ほどの潮、浜風とのやり取りを話し、自分が思ったことや感じたこと、そして、瑞鶴に対して改めて罪悪感が生まれてきたことを正直に全て話した。瑞鶴はそれをしっかりと聞き、「う~ん」と何かを考えながら、青年の方をじっと見ている。


瑞鶴「私との一件はもう終わったから大丈夫よ。……でも、潮と浜風には何かありそうね」


青年「はい……」


瑞鶴「やっぱり、こういう時は、情報通に頼むのが一番だと思うけど、青葉とか」


青年「そうですね……では、一度青葉さんのところに行こうかと……」


瑞鶴「あ、待って。私も……その、ついていくわ」


青年「そ、そうですか……では、行きましょう」


そう言って、二人で並んで歩き出す。瑞鶴は歩調を青年に合わせながら青葉の部屋へと向かって行った。そして、青葉の部屋に辿り着き、青年がノックすると青葉が中から現れた。青葉は青年と瑞鶴が一緒に来たために何事かと思ったみたいだが、青年が事情を説明するとすぐに納得し、部屋へと入れてくれた。


青葉「そうですか~。潮さんと浜風さんが……」


瑞鶴「何か心当たり、ないかしら?」


青葉「そうですね……。強いて言うなら、おそらく青年さんのお◯ぱい発言が原因かと」


青年「えっ」


青葉「だから、大宴会の時とか戻ってきたときの、お◯ぱい発言のせいだと思いますね。……あのお二人、他の駆逐艦と比べると、その……大きいですから」


瑞鶴「……そ、それも一理あるけどそれだけで青年を避ける理由になるかしら?」


青葉「いやいや、わかりませんよ。大宴会以来、青年さんは一部の艦娘の間では胸が大きい方が好きのような認識があるみたいですし」


青年「えっ、初耳なんですけど……」


青葉「そうでしたか~。でも、潮さんや浜風さんにもそこまでの悪意があるわけじゃないと思います。やっぱり、胸が大きいっていうのは、小さい人からすれば憧れになる時もありますが、大きい人でもその大きさにコンプレックスを持っている人がいたり……と。あのお二人は、コンプレックスを持っている可能性があるかもしれませんね……あ、ちなみに青年さん大きい方が好きですか?」


青年「だ、だから何でそんな話になるんですか……」


瑞鶴「っていうか何さっきから胸の話題で盛り上がってるのよ、私達……なんか変態みたいだけど……?」


瑞鶴のツッコミにより、三人はなぜか自己嫌悪に浸るのであった……。


それから、三人は、青年が潮、浜風と関係を少し修繕できるようにどうすればいいかを話し合った。


青年「う~ん……いまさら許してくれるんでしょうか……」


瑞鶴「許すって、そこまで悪いことはしてないでしょ?」


青年「そ、そうですけど……」


青葉「いや~、まあ、ここはおそらく、青年さんが、潮さんと浜風さんと関係が修復するまでに頑張って話しかけまくるという作戦でいくしかなさそうですね……。少し時間はかかりますが」


青年「でも、それって今度大本営に呼び出されるまでに間に合いますかね?」


青葉「おそらく……間に合わないですね」


青年「う~ん……仕方ありません。青葉さんが言った通りの作戦で、何とか頑張ってみます。ありがとうございます……」


そう言い切り、青年は立ち上がって青葉の部屋から出ていこうとした。それに続いて瑞鶴も青年についていく形で出て行く。青葉はそれを見送ってから一つため息をついた。


青葉「やれやれ……ここは私の腕の見せどころですね」





青年が、少し気落ちした状態で、もとの掃除を続行しようと瑞鶴の部屋の前まで戻ってきた。青年は、瑞鶴に「それではこれで」と言ってから次の掃除場所へと向かおうとする。すると、瑞鶴は青年の袖を掴んで離そうとしなかった。


青年「あ、あの……瑞鶴さん?」


瑞鶴「まぁ……その、元気出しなさいよ」


青年「は、はい。大丈夫ですよ……」


瑞鶴「あ、あと今日、相談してくれて嬉しかった……」


青年「……」


瑞鶴「そ、それだけだから。じゃあ、仕事、頑張って」


青年「はい、瑞鶴さん。ありがとうございます」


瑞鶴がスッと手を離すと、青年は少し笑顔が戻り、掃除を続けるのであった……。




そして、次の日、青年が掃除をしていると、潮と浜風が青年のところへと現れた。


青年「あ、二人とも、おはよ――「すいませんでした!」


青年「へ?」


潮「あ、あのっ……青年さんのこと、傷つけてしまって……ごめんなさい!」


浜風「私も、謝ります……」


青年「い、いや、急にどうしたの……?」


潮「青葉さんから青年さんが傷ついていたって言う話を聞いて……私達、昨日青年さんにすごく冷たい対応をしてしまっていたみたいで……」


青年「あ、大丈夫だよ……それに、俺も何て言うか……今思えばあのネタもちょっと女の子がいる前ではどうなんだろうと思ってたし……うん……」


謝罪の言葉を述べていく潮と浜風をフォローしていこうと青年があたふたする様子をこっそり見ながら、青葉は安心したような表情を浮かべていた。そして、青年と潮、浜風が喋っているところへ提督が姿を現した。


提督「やぁ、青年君、潮に浜風」


青年「あ、提督……おはようございます!」


潮「おはようございます!」


浜風「おはようございます」


提督「うん、おはよう。青年君、少し君に相談なんだが……執務室の掃除を頼まれてくれはしないか?」


青年「えっ……」


これまで青年は執務室だけは掃除しなかった。なぜなら重要な資料を間違って捨ててしまったりしてはいけないからという理由で提督に形の上では禁止されていたのだ。青年はそれを守って執務室には、提督に呼び出されない限りは入らないようにしていたのだが、今日はどういうわけか、提督の表情がいつになく真面目である。


提督「実は、大本営から連絡が来てな。色々君と話もしたい」


青年「なるほど……ですが、本当に執務室を掃除しても大丈夫なのでしょうか?」


提督「ああ、その辺なら大丈夫だ……実は、君のことで報告書が山積みになっていてな。普段なら私が整理するんだが……どうも手が足りない。だから、頼む」


青年「そういうことでしたら喜んで掃除します。え~っと……いつにお伺いすればよろしいでしょうか?」


提督「昼ごろに頼む」


青年「了解です」


こうして、青年は執務室に初めての掃除をしに行くこととなった。






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そして、昼ごろになり、青年は昼食を取った後、歯を磨いて執務室へと向かった。ノックして、許可が出たので入ると中は以前見た時よりも明らかに散らかっていた。提督は青年の姿を見ると、ソファに座るように促す。青年は「失礼します」と言ってから、ソファへと座った。


提督「さて……とりあえず、掃除の前に、大本営からの連絡を君に伝えなければならない。……メモすることがあったらこれに書いてくれていいぞ」


青年「ありがとうございます」


青年は提督からメモ用紙とペンを受け取り、情報を聞き漏らさないように耳をすませる。


提督「まず、君が大本営へと向かうのは4日後に決まった。……で、それまでの間、君は仕事をしなくていい」


青年「えっ……いいんですか?」


提督「大丈夫だ。それに、向こうにはしばらく滞在することになるだろうから、そのための準備をこの間にしておくのがいいな。むしろそのための休日と言っていい」


青年「はい……わかりました」


提督「あと、その期間中、君に『付き添ってくれる艦娘』を一人選んでもらうことになる。つまり、この鎮守府からは私のお付きと君のお付きで、二人の艦娘が出ることになるな。まぁ、これは頭に入れておくだけでいい」


青年「は、はい……」


青年はふと頭の中で、付き添いの艦娘を誰にすればいいか決めなければならないとなると、また、少し面倒なことになりそうな予感がしたが、特に何も言わずにいることにした。


提督「まぁ、大本営についてはそのくらいだ……ああ、ホテルについては向こうが手続きを済ませてくれるみたいだ」


青年「そうですか……」


提督「さてと……まぁ、真面目な話はこれで終わりだな。これ以上は何もいうことはない。強いていうなら、大勢の提督の前で自分の身に起こったことをしっかり説明する練習をするくらい……か」


青年「……」


頭の中で、そのイメージをするだけで冷や汗が出てくる。静かな会議場に一人立たされ、そして説明。もし何かあればそこを質問され、慌て……。「やめよう」、そう必死に心の中で呟き、マイナスなイメージを持たないようにする青年。提督はそんな青年の姿を見て、気を遣ったのか立ち上がり、「ゆっくり考えたまえ」と言ってくれた。


提督「さて……すまないが、ちょっとだけ、執務室の外に用がある。青年君、悪いが先に掃除を始めておいてくれないか? 書類には手を付けず、床にある明らかにゴミと思われるものだけでいいから」


青年「あ、はい。わかりました」


提督「……あ、後、もし電話がかかってきたら受けてもらって構わない。その代わり、しっかりと『提督はただ今席を外しております』とだけ言ってくれれば問題はないからな」


青年「わかりました」


提督「うむ、では頼んだ」


そう言って提督は、執務室から一度出て行った。提督が出て行った理由は、大本営に連れて行くお付きの艦娘を決めるためである。それと、青年にこの

休日の間に何をするかをゆっくり考えさせるためでもあった。


青年「……う~ん、付き添いの艦娘か……。いや、その前に色々準備しておかないと……。あ~……瑞鶴さんと遊びに行く約束もしてたし、大変だな……」


そんなことを呟きながら掃除をしていると、ここで、まさかの電話が鳴った。青年は、おそるおそる受話器を取り、耳に当ててから「もしもし」と言う。



司書『え~っと、こちら◯◯鎮守府『図書館司書』の青年と言う者ですが、提督さんでしょうか?』


青年「えっ……あ~。提督は今席を外しております」


司書『そうですか~。あ、そこまで急な用事ではないんですけど、頼まれていた資料がこちらで見つかったのでお送りしたいと言う話でして……秘書艦の人ですか?』


青年「あ、いえ、僕、ただの清掃員なんです……けど」


司書『え? も、もしかしてついこの間、深海棲艦にさらわれていたあの清掃員の人?』


青年「ええっ……何で知ってるんですか……」


司書『いや、有名ですよ~。うわ~嬉しいな……。だって他の提督さん達より先に深海棲艦についての話が聞けるってことでしょ? 僕……」


青年「え……でも今勤務中なので、ご遠慮願いたいんですけど……」


司書『う~ん……そこを何とかお願いしたい! というより、実際深海棲艦ってどんな感じなんですか?』


青年「え、え~っと……まぁ、感情は人間と同様持ってますし、ハッキリ言って僕達と変わらない部分もあるかと……」


青年がそう言うと、司書が電話の向こう側でかなり考えているような声を出した。電話から「ああでもないこうでもない」と言ったつぶやき声が聞こえてくる。こちらの司書は青年と比べるとかなり口数が多いように青年は感じ取った。


青年「えっと……もういいでしょうか……掃除があるんで……」


司書『あ、ごめんなさいね! それでは提督さんによろしく伝えておいてください! ではでは!』


そう言って、電話は切れた。青年は安堵のため大きく息をはく。すると、提督がちょうど執務室の中へ入ってきた。提督は青年に何事かを尋ねたので青年は司書に言われたことをそのまま提督に伝えた。


提督「そうかそうか……。よし、その話はよしとして……青年君、それでは掃除の続きを始めるか」


青年「はい」


それから提督と青年は執務室の掃除を始めた。資料の整理、書いている途中で失敗した報告書の処分など、青年が行うのは初めての作業があったが、提督は青年にしっかりと教えてくれた。話を聞く限り、今後も執務室の掃除を行ってもらうつもりではあるらしい。


しばらくして、ある程度片付けが終わると、提督はお茶を入れてくれた。そして、青年をまたソファに座るように促す。青年は、座って、そのお茶を少しだけ飲んだ。


提督「さてと、まぁ……一段落したところで、青年君に少し相談があるんだが……」


青年「えっと……何でしょうか?」
















提督「実はそろそろ私もケッコンカッコカリをしようと思うんだが……」


ケッコンカッコカリとは、提督と艦娘が一応の形で結婚を行うことである。実は、艦娘たちは人間と同じ姿をしているものの、まだ正式には人間としては見られておらず、きちんとした結婚にはならない。だからこそ、このケッコンカッコカリという鎮守府内でのみ認められている制度があるのだが……。


青年「あぁ……別にいいんじゃないでしょうか?」


提督「いやな。君も一人の日本男子……。どういった女性を人生の伴侶にしたいかと言うかそういう考えはあるだろうと思って……少しだけ参考にしたい」


青年「そうですね……。難しい話ですが、やはり信頼できる艦娘とされるのが一番なのでは……。えっと……提督は一応、候補とかは考えていらっしゃるんですか?」


提督「いや……私はかなり優柔不断だからな。まったくわからん……だってみんな可愛いじゃないか」


青年「あ、そ、そうですか……」


提督「ちなみに青年君は、もし提督なら誰とケッコンカッコカリしてみたいと思う?」


青年「あ、いや……。そんなこと、わからないですよ……」


提督に迫られ、少し困惑してしまう青年。どうもこの鎮守府のみんなは人の恋愛に興味を持っている人物が多いようだ。これと言って、恋愛について本気であまり考えたことがない青年にはなかなか理解し難いものであった。


青年「う~ん……候補の中でも、特に印象が強いと言いますか……筆頭に上がりそうなのは誰ですか?」


提督「そうだな……。まずは加賀だな。仕事もできるし、何よりも我が艦隊の主力艦隊の空母として活躍してきてくれたからな……」


青年「そうですか……。確かに加賀さんはぴったりと言うか、そんな感じはありますね」


提督「ああ。……純粋に嫁として迎えるなら、榛名でもいいんだが……う~ん……」


青年「榛名さんですか……あの人は大和撫子と言いますか、良いお嫁さんになる気はします」


提督「うむ……。実は、候補としてはまだいるんだがな……」


青年「例えば?」













提督「――――瑞鶴だな」


青年「……」


提督が少し意地の悪い顔をしながら青年にそう言い放った。青年は、無意識的に、瑞鶴の名前に反応してしまい、体をぴくりと動かしてしまった。提督は青年のその反応を見て、何やら面白いものを見るかのような顔をしている。


提督「ほう……。今少し、瑞鶴にだけは反応したな……」


青年「え、あ……し、してない……です」


慌てふためく青年の姿を見て、提督は本当におかしそうに笑い出した。


提督「いや~、何というか初々しい感じが……」


青年「で、ですから、僕と瑞鶴さんはそう言った関係……と言いますか。僕は瑞鶴さんのことはそこまで……」


提督「……では、瑞鶴のことは嫌いか?」


青年「え、き、嫌いじゃないです……。あ、あの人は確かに、喋り方が少しハキハキしてて最初は苦手だと思いましたけど、何だかんだ言って僕のこと、心配してくれたり……体調を崩した時だって、一番最初に気づいてくれましたし……それに看病してくれたり、相談に乗ってくれたり……優しいところもあります。あ、でもただ優しいだけじゃなくて、時折見せる、しおらしい態度とかは確かに女性っぽいと言いますか惹かれてしまうところはありますし……えっと……」


提督「……」


青年「……え?」


青年はここへ来て、ようやく自分が瑞鶴についてかなりのことを言ってしまったことに気づいた。提督はその青年の様子を見てかなりニヤニヤとした表情を浮かべている。もうここまで来たら嘘はつけないだろう。青年は、自分の気持ちにそろそろ正直になってもいいのではないかと感じ始める。


青年「……だから……その……」


提督「……」


青年「……あー……えっと……僕は瑞鶴さんのことが……好きなんだと思います。女性として……」


提督「……そうか。ならいいんだが……その言葉は瑞鶴に伝えてあげる方がいいと思うぞ?」


青年「……ですが、まだ気持ちの整理がついていなくて……」


提督「まぁ、その辺はゆっくり考えたらいいと思うんだが……どうなんだ? 彼女と出かける用事とかは……」


青年「……あ。そう言えば、瑞鶴さんと休日が貰えたら出かける約束はしていますが……」


提督「……」


青年「え、ど、どうしたんですか? 急に黙って……」


提督「いや、なんでもないな……」


青年「と、とりあえず、今日はこれでいいですか?」


提督「あ、ああ……」


青年「では、失礼します……」


そう言って、青年が提督に一礼をして執務室を出る。すると、どこから湧いてきたのか、たくさんの駆逐艦が青年に近づいてきた。何やら全員目が怖い感じなってしまっている。


青年「え、えっと……みんな、どうしたの?」


卯月「青年さん、とりあえずこっちに来るぴょん」


執務室から離れた場所に連れられ、青年は駆逐艦達に取り囲まれてしまった。青年は何が何だかわからず、困惑の表情を浮かべるばかりである。


浜風「青年さん……悪いことは言いません。私達が聞きたいのはただひとつ。提督が誰とケッコンカッコカリをするかということです」


青年「え?! き、聞いてたの?」


暁「執務室からケッコンカッコカリって言う単語が出てきたら気になるに決まってるじゃない! 色恋沙汰を知っておくのもレディのつとめだし」


電「あまり関係がない気もするのです……」


青年「え、ええっと……みんな、俺の好きな人とかも聞いて……た?」


時雨「それよりも気になることがあってわからなかった」


青年「そ、そう……」


何となく安心していいのか、それとも自分にあまり興味を持たれていないことに落ち込めばいいのかわからない青年。仕方なく、うまくこの場を切り抜ける方法を考えてみる。青年は、少なくとも提督は、駆逐艦の名前は出さなかったし、ケッコンカッコカリで嫁として迎えるよりは、娘のような感じなんだろうと勝手に解釈をしておくことにした。


だが、下手な発言をしてしまえば、提督の名誉を傷つけしまうことには違いない。そこで、青年は柄にもないようなセリフを言うしかなかった。


青年「え、えっと……それは、個人のプライバシーの話だから俺からは何も言えないというか……」


卯月「もう! プライバシーとかそんなのは関係ないぴょん! 司令官が誰とケッコンカッコカリをするかによって、色々変わっちゃうんだから!」


青年「とは言っても、本当に俺が言えることは……そもそも、提督もまだ決めてないみたいだから……」


不知火「すごく出来過ぎた嘘のように思えます」


響「青年は何かを隠してる」


ここへ来て、以前青年を嵌めたことのある不知火と響が発言をしてきた。青年は、頭の中で「こいつら……」と少しだけ思いつつ、仕事を理由にその場から離れようとする。だが、他の駆逐艦達もそれが気になって仕方がないようで、青年は文字通り駆逐艦達にもみくちゃにされてしまう。


で、彼のちょっとした不幸体質が発揮されたために、ここで、また事故が起きるのであった。


誰が引っ張ったかはわからないが、青年はバランスを崩し、その場にこけかける。その際に、目の前にいた村雨を押し倒す形になってしまった。


そして―――――










ふにっ







柔らかい感触が手の先から伝わってくる。しかも起こった偶然は非常に質の悪いもので、傍から見れば青年が村雨の服の下に手を突っ込み、胸を触っているという構図にしか見えない状況であった。


青年「……えっ……」


村雨「……」


卯月「せ、青年さんが……」


潮「や、やっぱり、胸が好きというか……」


浜風「……」


周囲から視線が集まる。青年が状況に気づき、慌てて離れようとすると村雨はいきなり青年の首元に手を回してきて、顔を青年に近づけた。



村雨「あら、青年さんって結構大胆なのね……ふふっ……。でも、今はみんなの目がありますし……ねっ?」


青年「は、はいっ!? ちょ、村雨……そ、それはふざけすぎと言うか……」


雷「えっ……この状況何……」


村雨「慌てちゃだ~め……。だから……あ・と・で……ね?」


青年「……」


青年はここで、おそらく村雨が動揺で明らかに変なテンションになっていることに気づき、これ以上村雨が意味のわからないことを言う前に離れてしまった方がいいと思った。青年は、村雨の手を少し強引に振り払って、すぐさま立ち上がって、別の場所へと逃げていく。


卯月「あー!! 青年さんが逃げるぴょん!!」


響「ハラショー。見事な走りだね……」



二度あることは三度ある……?


青年が逃げ延びた先は、誰もおらず、静かな空気が流れていた。青年は、今までにないくらいに速く走ったので、息が切れてしまっている。青年は、一度呼吸を整えるために大きく深呼吸をした。


青年「また変なことになってしまった……とりあえず、青葉さんに見られてないだけマシなんだろうけど……」


瑞鶴「青葉がどうかした?」


青年「え!? あ、瑞鶴さん……」


瑞鶴は、青年が急に驚いた声を上げたので、瑞鶴自身も少し驚いたようで、何やらちょっと警戒しているような顔つきになっている。青年が、「なんでもないですよ」と言うと、いつものような、青年にとってかなり魅力的に感じる柔らかい笑顔になる。


瑞鶴「で、どうしたのよ。いきなりドタバタ変な音がしたから気になって来てみたら、青年が息切らしてるなんて……。もしかして、体力トレーニング?」


青年「あ、いや、まあ、違います……」


瑞鶴「ふぅん……」


青年「……あ、瑞鶴さん。そう言えば……さっき、提督から話があってですね―――



それから青年は、瑞鶴に休日を貰えることを話した。すると、瑞鶴の顔はたちまち笑顔になる。青年は、その様子を見ているとやはり、目が離せないほどには瑞鶴のことが好きになりつつあるのだと自覚した。


青年「―――というわけなんですけど、瑞鶴さん、どこか行きたいところとか……あります?」


瑞鶴「え、ええっと……ゆ、遊園地……かな」


青年「遊園地ですか……瑞鶴さんがいいなら……」


瑞鶴「うん。遊園地でいい……。えっと、青年、いつに行くの?」


青年「そうですね……四日後ですから……。明々後日とか、その辺でいいでしょうか?」


瑞鶴「うん。私も色々準備したいし……。そうしましょ」


青年「では、いったん失礼します」


瑞鶴「……青年」


青年「はい?」


瑞鶴「……約束、今度はちゃんと守ってよね」


青年「……はい」


そう言い残して、瑞鶴はちょっとだけ足早に去って行った。青年も、何とか瑞鶴との約束を破らずに済むだろうと思い、安心しきって歩き始める。そして、先ほど勢い良く駆逐艦達から逃げたために掃除道具が放置されたままだということに気づいて取りに戻ろうかと考えた。


青年「行かなきゃ……」


蒼龍「青年く~ん、さっき誰かと仲良くお話してたよね?」


青年「……」


飛龍「もしかして~、デートのお誘いって感じかな?」


青年「……蒼龍さんに飛龍さん、ど、どうしたんですか?」


蒼龍「確か、明々後日だったわよね?」


飛龍「ということは……明日か明後日の間に青年を一人前にしてあげようと思ってね~」


青年「え~っと、つまり?」


蒼龍「青年君にデート慣れして、ちゃ~んとエスコートできるように特訓するってこと!」


飛龍「というわけで、明日か明後日に私達と出かけるよ~」


青年「そ、そんな勝手に……」



結局、青年には修行の時が訪れるのであった……。





男らしさを鍛えろ! の巻


次の日、青年は起きてから朝ごはんを食べ、服を着替えてから蒼龍と飛龍に決められた鎮守府の入り口付近へと向かった。しばらくして、待っていると蒼龍と飛龍が遅れてやってくる。


蒼龍「ごめんね~、待った?」


青年「あ、いや……全然」


飛龍「青年! そこは『うぅん、今来たところです』でしょ?」


青年「え、そんな教科書をなぞるような返事でいいんですか……?」


蒼龍「とりあえず、相手に待たせてしまったっていう気持ちを持たせちゃダメ。たぶん、青年君が気になってる『あの子』だって、服は気合入れてくるだろうし」


蒼龍は、名前こそ出さなかったものの青年の気持ちには気づいているようだった。青年は、自分の好きになりつつある人を知られ、青年ではなく、少年のように顔を赤くする。


青年「そ、そうです……か」


飛龍「まぁまぁ、今から慣れていけば大丈夫だし、ね?」


青年「は、はぁ……」


先ほどは、いきなり注意されたので気にしなかったが、蒼龍と飛龍も今日は出かける服装をしていた。そして、青年がそれを見ていると蒼龍と飛龍がジロジロと青年の反応を伺っている。


青年「え、えっと……服、似合ってますよ」


蒼龍「うん! ありがとね~」


飛龍「うんうん、青年、そんな感じでいいと思うよ~」


青年「……」


既にこの段階からリタイアしかかっている青年。だが、蒼龍と飛龍はそんな青年の反応を楽しみながらも、「じゃあ、行きましょ」と声をかける。青年は、昨日打ち合わせしたとおり、買い物に行くというデート修行を開始するのであった。


青年「で、では、改めて、蒼龍さん、飛龍さん、行きましょう」


飛龍「うん!」


蒼龍「楽しみね~♪」


そして、青年が鎮守府の入り口を抜けようとした矢先だった―――。






蒼龍「ストオオオオップ!!」


青年「!?」


蒼龍「青年君、こういう時は、こうでしょ?」


飛龍「あっ、私も私も!」


青年「え、ちょ……」


二人は、青年の手を握って一緒に歩き出した。いかにも両手に花という状況ではあるが、青年は周囲の視線が気になって仕方がなかった。青年が恥ずかしそうに下を向いていると、飛龍が顔をあげるように注意する。


飛龍「青年~、こういう時は男の人が恥ずかしがっちゃダメ! 堂々としてないと!」


青年「と、とは言っても、この状況は……」


蒼龍「……あ! こういう時は飛龍、アレよ」


飛龍「アレ?」


蒼龍「ほら、一度かなりレベルの高いことを経験すれば、それよりレベルの低いことは何とも思わなくなるってやつ」


飛龍「ああ~!」


青年「……」


この瞬間、青年は嫌な予感がしたために二人から離れようとしたが手を握られているため離れることはできなかった。時既に遅し、青年はあっという間に二人に腕を組まれてしまった。


青年「あっ……」


蒼龍「どう? これを一回経験しちゃえば、手を繋ぐなんて恥ずかしくないわよ?」


青年「と、とは言っても……これはさすがに……」


青年の二本の腕には、それはもう柔らかな感触のするものが当たっている。ここまでくれば、恥ずかしい恥ずかしくないという問題ではなく一人の男として理性が保てるかという問題になってくるのは言うまでもない。


青年「……」


蒼龍「ほら、青年君、黙ってないで、何か話題をふる!」


青年「え、ええっと……ほ、ほほ、本日はお日柄もよく……」


飛龍「緊張しすぎだって~。もう、そんなんじゃ、エスコートなんてできないよ?」


青年「……はい。え、えっと……今日は何を見に行くんですか?」


蒼龍「服がいいかな~。青年君に似合う服選んでもらおっと♪」


飛龍「そうだね~」


それから青年はニ航戦の二人にサンド(物理)されたまま、デパートへと入店。もちろん、周囲の視線が青年に集まる。両手には、かわいい女の子。これを見て羨ましがらない者がいるだろうか……。


店員「いらっしゃいま……せ~。どういった服をお探しでしょうか?」


挙句、服売り場の店員にまで間が空いた挨拶をされる始末。青年は、ここまで来てしまえば「もうどうにでもなれ」という心持ちで行くしかないと思い、開き直ることにした。


蒼龍「ねぇ~、青年君、どんな服がいいと思う?」


青年「お、お好きに見てください……」


飛龍「あ、これいいかも~! ねえねえ、どうかなぁ?」


青年「試着して見ればいいんじゃないでしょうか……」


若干、返事が投げやりな青年の様子を見て、蒼龍と飛龍は何となく満足そうな顔をしているが、このまま修行は終わらなかった。飛龍と蒼龍は服を決めると、試着室の中へと入っていってしまった。青年は、外で待ちながら試着室の中からシュルシュルっと言う音が聞こえてくるのを、我慢していた。


そして、しばらくして、二人から「準備できたよ~」と声がかかったので、青年は開けても大丈夫なことを答えた。そして、二人は試着室のカーテンを開け、それぞれの選んだ服を着た姿で出てきた。


蒼龍「えへへ、青年君、どうかなぁ?」


青年「……はい、とても似合ってますよ」


飛龍「私は?」


青年「飛龍さんも、似合ってます」


青年がそう言うと、蒼龍と飛龍は「ありがとう」とお礼を言った後に、ただ「似合ってる」というだけではセンスが無いと説教を始めてしまった。青年は、瑞鶴と出かけるのは遊園地であるのを考えつつ、本当にこの修行が必要なのかどうか考える他なかった。



飛龍「―――青年、聞いてる?」


青年「え?! あ、はい、聞いてますよ……」


蒼龍「そうね……服はこの辺にして、次は、食事の時の特訓ね!」




店員「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


青年「えっと、三人です」


店員「わかりました。ご案内しますので、こちらへどうぞ!」


それから三人が案内された席に座る。青年はメニューを手にとって、二人が見やすいように向きを変えて「どれにしますか?」と尋ねた。


蒼龍「あれ、これには結構慣れてるのね……」


青年「え!? ま、まぁ……」


青年は、以前に弥生、卯月とともにパフェを食べに行った経験が生きたと思いつつ、内心ホッとした。二人は少し不満気な顔をしたが、すぐに食べるセットを決めて青年に伝えた。青年は店員を呼んで、注文を伝えると水を飲んでいったん落ち着くことにする。


飛龍「でも、青年がやっと自分の好きな人を見つけるなんてね~」


蒼龍「そうね~。五航戦のあの子は幸せよね」


青年「や、やめてくださいよ……まだ、本格的に好きってわけじゃ……」


飛龍「でも向こうも向こうで案外青年には惹かれてると思うけど……」


青年「え?」


蒼龍「だって、大宴会の時だって一緒に呑んでたじゃない。しかも、向こうから誘ってきたんでしょ?」


青年「え、ま、まぁ……」


飛龍「絶対、青年のこと好きだって!」


青年「そ、そんなことは……僕、こんな感じでハッキリしないですし……。なよなよしてて……」


蒼龍「そんなことないと思うけどね~。青年君はやる時はちゃんとやる人だと思うし」


青年「そ、そうですか……」


飛龍「ところで、青年、何か瑞鶴のためにプレゼントは準備してるの?」


『プレゼント』と聞かれ、青年はハッとする。よくよく考えてみれば、瑞鶴にはこれまで何度も助けられたのにもかかわらず、青年はまだそのお礼を言葉で言っただけで、形にしたことは一度もない。


青年「……いや、まだ考えてないです」


蒼龍「あ、でも、プレゼントはここはいっそのこと、『告白』っていうのが最高なのかもね!」


飛龍「ああ~、ロマンチック! いいじゃんいいじゃん!」


青年「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 告白はまだダメです……。ま、まだお互い知り合って1ヶ月ですし、もう少し期間を置いてからも……」


飛龍「えぇ~。でも、このまま放ったらかしにしちゃうとひょっとしたら提督に取られちゃうかもよ?」


青年「っ……」


蒼龍「う~ん、ここはアクセサリーなんてどうかしら? やっぱり、女の子って、素敵なアクセサリーに弱いだろうし……」


青年「え、えっとじゃあ―――――


















――――――指輪、とか?」



蒼龍「……」


飛龍「……」


青年「……あ」


ニ航戦「「気が早い!!」」


店員「お、お客様~。もう少し静かに願います」


三人「「「はい、すいませんでした!」」」


それから三人はさすがに反省し、恋話ではなく何のとりとめのない話をして、昼食が運ばれてくるのを待つ。そして、運ばれてきた昼食を、これまたとりとめのない会話をしながら食べ終え、支払いを済ませて店を出た。



蒼龍「いや~、美味しかった~」


飛龍「また来たいね~」


青年「今度はちゃんとお金、持ってきてくださいよ……」


蒼龍「ごめんね~。でも、まあこれは今日の修行のお礼の代金ってことで」


青年「ならいいですけど……。えっと次はどうします?」


飛龍「もっちろん、青年がプレゼントするアクセサリーを決めに行くよ~」


三人は、デパート内のアクセサリー店に向かい、色々なアクセサリーを見る。ブレスレット、ネックレス……その額を見ると青年の今持っているお金では買えないようなものばかりだった。


蒼龍「ここのは少し高すぎるわね……他にもアクセサリー店はあるし、そこを探しましょう」


青年「そうですね」


それから三人はたくさんの店を回ったが、なかなか安いアクセサリーは見つからず、青年は少しだけ背伸びして少し高めのイヤリングを買うことにした。店員には「どちらの彼女さんにプレゼントされるんですか?」と少しいじられるような言葉をかけられたが、その時だけ青年は堂々と、「いえ、あの二人は、友人です」とだけ答えた。


青年「……う~ん、遊園地行かないといけないのに、結構痛い出費が……」


蒼龍「まぁまぁ、行った時にちゃんと渡さなきゃダメよ?」


飛龍「やっぱり、夕日を二人で眺めながら、観覧車が一番高いところに来た時に渡すのが一番だね! 青年、ちゃんとそうなるように頑張って!」


青年「え、え~……」


今のままでは、明らかに瑞鶴に振り回される……というより、瑞鶴に全てを委ねかねない青年は自信がなかった。その後も、青年は蒼龍と飛龍にお金は使わなかったものの、色々な場所へと連れまわされてしまった。


そして、気づけば、そろそろ鎮守府に戻らないとマズイ時間帯になった。蒼龍と飛龍は少し残念そうにしながら帰り道を歩く。


鎮守府にたどり着いた頃には、既に晩ご飯が始まってるであろう時間だった。青年は一度、買ったイヤリングを部屋に置いてくることを二人に伝え、港近くを歩き出した。


青年「はぁ……今日は色々疲れた……。あの二人といるのは楽しいんだけど……ん?」


青年が港を見た瞬間、彼の中で何かが切れる音がした。














一方、こちらは晩ご飯の食堂。それぞれ各々の席に座って会話をしながら食事を楽しんでいる。料理の豪華さがグレードダウンしただけで、その賑やかさは大宴会の時とさほど変わらない。


蒼龍「いや~、今日は楽しかったね」


飛龍「まぁ、青年には頑張ってほしいね。さてさて、お酒お酒~♪」


そう言って飛龍がお酒を自分の持っているとっくりに注ごうとした瞬間だった。


バン!! と大きな音がしたと同時に、食堂の扉が勢い良く開かれた。





青年「……」


そこに立っているのは青年だった。だが、様子がいつもと何かが違う。先ほどの音が、原因でみんな会話をやめ、視線を青年に集中させる。青年はズンズンと前の方に歩いて行って、食堂で一番目立つ場所へと立ち、そしてまず一言。



青年「……港を汚したのは誰ですか?」


その声のトーンに、その場にいた艦娘たちは耳を疑った。いつものような温厚な青年の優しい声ではなく、明らかに怒っている声だ。


青年「……もう一度、聞きます。港を汚したのは誰ですか?」


青年がそう言うと、艦娘たちの視線が千歳や隼鷹と言った酒飲みな艦娘たちに集中する。


そう、青年が先ほど見た光景は、港にたくさんの空の酒瓶が転がっている光景であった。


青年「そうですか……やはり、あなた達でしたか……」


隼鷹「あ、あはは~、い、いや~。今日天気がよかったものだから、せっかくだし、外でのお酒もオイシイかな~って……」


青年「楽しかったようで何よりですね」


そう言って、青年はニコッと、隼鷹に笑いかける。明らかにその笑顔の裏には黒い感情が入っている。艦娘たちは、恐怖で震え上がった。


青年「せっかく提督から貰えた休日ですが、今日掃除してなくてちょっとウズウズしてたんですよ……わざわざ掃除する手間を作ってくれるなんて嬉しいですよ?」


千歳「あ、後でやるつもりだったの……」


青年「いえいえ、千歳さん達は何もしなくていいんですよ? 僕がやりますから」


青年は笑顔でそう答えるが、完全に目が笑っていなかった。その様子を見ていた他の艦娘たちから隼鷹や千歳に青年に謝った方がいいのではとこそこそ話が聞こえ始める。


隼鷹「え、えっと……青年、ごめん! 後でちゃんと片付けるからぁ!」


千歳「本当にごめんなさい!」


青年「……」


隼鷹「……」


千歳「……」












青年「まったく……いつもいつもお酒ばっかり呑んで……。いつか体を壊しても知りませんよ?」


隼鷹「へ?」


青年「お酒が好きなことに文句は言いませんが、やっぱり、僕は心配ですよ……。もし、出撃前とかに呑んでちゃって酔っ払って上手く動けなかったりしたらどうするんですか……。僕は、いつもそれが心配で、我慢できません……。お酒を呑んだからって強くなるわけじゃないでしょ? 昔の映画じゃあるまいし……」


隼鷹「……」


千歳「……」



そう、青年が訴えかける言葉には先ほどのような覇気はこもってなかった。どちらかと言えば、完全に二人を気遣っての優しい言葉だった。つまり、青年は、酒を呑むことで、二人の身に危険なことが出撃の際に起こってしまうのではないかと心配なのだ。その気持が届いたのか隼鷹と千歳はかなり反省したような顔になっている。


青年「……今回のことで反省していただけたら、お酒は少しだけ控えてください」


二人「「はい……」」


青年「……え、えっと……みなさん、お食事中にすいませんでした……。し、失礼します」


みんなの前で礼をした後、青年は気恥ずかしそうに去って行った。



港近くで、空いた酒瓶を片付けながら青年は大きなため息を一つついた。あのような説教を自分でも始めるだなんて思ってもいなかったようだ。青年は、もしかしたら、他の艦娘たちに怖がられたのではないかと少し心配になる。


青年「う~ん……どうしよう……」


弥生「青年さん……大丈夫ですか?」


青年「……や、弥生か……どうしたの?」


弥生「……青年さんこそ、どうしたんですか……? 今日は少し疲れてそうに見えました……」


青年「あ、うん……。まあ、色々あってね……」


青年が片付けを終え、ゴミ袋の口を閉じた。そして、港に座り、風を浴びながら遠くを眺め始める。その隣に弥生もちょこんと座って、青年と一緒に静かに遠くを見た。


弥生「……」


青年「……怖かった?」


弥生「いえ……。何だかんだで、やっぱり青年さんは優しいんだなと思いました」


青年「……そう」


弥生「……」


青年「……」


青年と弥生の間に沈黙が走りかけたその時、口を開けたのは弥生の方だった。


弥生「そう言えば……この前は、料理食べてくれてありがとうございました……」


青年「ん? あ、そうだな……美味しかったよ。鳳翔さんからも聞いてるでしょ?」


弥生「……はい。えっと……弥生、これからも料理、色々覚えたいです……ですから……」


青年「?」


弥生「……青年さん、また、食べてくれますか?」


そう言って、上目遣いで尋ねる弥生。青年は、この顔を見た瞬間に、断れなくなり、目を逸らしながら「うん」と返事をしてしまった。その言葉を聞くと弥生は、微笑み、下を向く。そして、また二人に訪れる沈黙。


青年「……」


弥生「……」


青年「あ、えっと……何だかんだで俺、まだ食事取ってないから、食堂に戻るよ。弥生も風邪引かないようにな」


青年は、ほぼ無意識的に弥生の頭を撫でながらそう言った。もう一度言う。『弥生の頭を撫でながら』。



青年「……」


今自分がやっている行動に気づいたのか、青年は焦って手を引っ込める。弥生も弥生で、顔を少し赤くしながら俯いた。先程よりも明らかに空気が重い。青年は、このまま逃げ出したいと思いつつ、弥生に謝罪を入れる。弥生は、「気にしてないです……」と答えるばかり。


青年は、「そう……」とだけ呟いてから、その場から立ち去った。青年がいなくなった後、弥生は一人で、こっそりと呟いてみる。


弥生「……青年さんは好きな人……いるんでしょうか……」





休日のはずなのに?


次の日、青年は起きて朝食を取った後、自室へと戻ってまずは、大本営に行く時の荷物を詰めてしまうことにした。何日向こうに滞在するかはわからないので、出来る限り多くの荷物を詰める。


青年「う~ん……。あ、そう言えば、一緒に付き添いしてくれる人、決めてなかったなぁ……どうしようかな……」


そんなことを呟きながら、青年は荷物を一通り、まとめた。


青年「……ホテルの料理とか足らなかったりした時のためにお菓子とか持っていった方がいいのかな……だとすると、また買いに行かなくちゃ……いや、でも明日は瑞鶴さんと出かけるし……」


実は、鎮守府の外には何度か行ったことのある青年だが、数日間離れるようなことは一度もしてこなかったために、今回の大本営からの呼び出しは青年にとってはちょっとした旅行感覚になっていた。本来なら、あまりそう言う気分で行くようなことではないのだが、こうでも考えないとやっていけないと青年は思っている。


青年「……まあ、難しいことは考えないでいいな。ちょっとだけ鎮守府散歩しよう……」


そう言いながら、部屋から出ようとした時、部屋の扉の入り口がノックされる音が聞こえた。


青年「ん? 誰だろ……」


青年が扉を開けると、普段青年とはあまり話したことがない艦娘が一名立っていた。


球磨「青年、おはようクマー」


青年「……えっと、球磨さん?」


球磨「ちょっとついてきてほしいクマー」


言われるがままにして、球磨について行く青年。そして連れて来られたのは球磨型の部屋だった。この部屋ももちろん、以前行った美化週間にてチェックを行ったことがある。ちなみに整理整頓が出来ていたのは、北上と大井の二人だけだったのだが……。


大井「あら、青年さん、こんにちは。どうかしましたか?」


青年「え? あ、いや、球磨さんに呼び出されて……」


北上「えー。何か色々めんどくさそうなことがありそーだけど……?」


球磨「クマー。今から模様替えをするクマー」


木曾「おいおい。本当に急だな……」


多摩「多摩は別に気にしないにゃ」


そう言って、青年は球磨型の部屋の掃除及び模様替えを手伝わされた。模様替えは主にカーテンを変えたり、家具の配置を変えたりと本当に色々手伝わされた。


青年「こんな感じですか?」


球磨「おおっ、我ながらいい感じクマ!」


北上「あ、青年さーん、ちょっとだけ頼みがあるんだけど~」


青年「どうしたんですか?」


北上「ちょーっとだけでいいからさ。私疲れてるから『肩揉んでくれない』?」


大井「き、北上さん?! それなら私がやりますよ!!」


青年「……」


そう言って、慌てて大井が北上の後ろに回り込み、肩を揉み始める。青年がその様子を見ていると肩を揉みながら、大井がこちらを少しだけ鋭い目つきで見ているのに気づき、思わず目線を外してしまった。


北上「あぁ~、大井っちさすがだねぇ~……」


大井「ふふっ。私、北上さんが気持ちいいと感じるところは全部知ってますから……」


木曾「どうでもいいが、明らかに誤解されそうな言葉だよな、今の……」


多摩「気にしない方が賢明だにゃん」


青年「い、いいんでしょうかね……」


そんな二人の様子を見守っていると、北上は青年の方をじっと見ながら首を傾げ、何やら考えているようだった。しばらく大井が肩を揉んでいると、北上は何か思いついたような顔つきになり、黒い微笑みを浮かべた。


北上「大井っち、もう大丈夫だよ~。休憩してて~。青年さーん、ちょっとだけお茶入れてくれない?」


青年「え? あ、まあ、別にいいですけど……」


そう言って、青年は北上に言われるがままにしてお茶を入れた。しっかりと北上の分だけでなく、大井や球磨達の分も全てきっちり入れるところが妙に青年らしい。青年は、北上にお茶を渡し、他のみんなにもお茶を差し出した。


木曾「お、ありがとな」


青年「いえいえ」


球磨「本当なら私達が入れないとダメなんだクマー」


青年「……で、ですね……」


それから一同は、とりとめのない話をやり始める。しかし、段々と方向性がずれていき、結局は恋愛話になっていく一同。提督がケッコンカッコカリをするかもしれないという話はもう艦娘たちの間ではもちっきりの話題になっているらしい。


北上「え~。提督結局誰とケッコンカッコカリするんだろ」


大井「せ、青年さん、北上さんの名前は出てこなかったんですよね?!」


青年「いや、まぁ……それは僕の口からは何とも……」


木曾「まあ、落ち着こうぜ。提督だって一人の男だ。きっちりと決める時は決めるだろうし、あまり詮索したら青年がかわいそうだろ?」


青年「木曾さん……」


一見落ち着いた雰囲気を保っていそうな木曾だが、青年がよく見ると、やはり木曾も女の子であることには変わりはなかったようだ。心なしかそわそわとしているのがわかった。


青年「……」


球磨「……はっ! 大事なことを思い出したクマ……。青年、もう一つだけ掃除してほしいところがあるクマ」


青年「?」


球磨「ここだクマ」


球磨が押入れを開けると中から大量のゴm……ではなく、使われなくなったものがでてきた。青年が一体これはどうしたんだと聞くとどうやら、美化週間の際に青年が抜き打ちチェックをやっていることを噂に聞いた球磨と多摩が慌てて押入れの中に突っ込んだものだそうだ。つまり、形だけの綺麗な部屋に仕上げたということであった。


青年「……」


球磨「……」


大井「はぁ……。だからちゃんと掃除しておかないとって言ったのに……」


それから、せっかく模様替えをしたのにも関わらず、もう一度整理をし始めるのであった……。




そして、みんなで整理をし終えたのはなんとそこから2時間後のことである。一体どれほどのゴm……いらなくなったものをためこんでおけばこの様になるのか。青年は、昨日の酒飲みの二人に説教したことを思い出しながら少しだけ感じたいらだちを抑えながら掃除をしていた。


青年「はぁ……なんとか終わった……」


多摩「あ、そう言えば今日は多摩達がお風呂掃除の当番にだったはずだにゃん……」


青年「へ?」


北上「あー、いいじゃん。青年さんも手伝ってよ~」


青年「……ま、まぁいいですけど……」


結局、風呂掃除も手伝われた青年。これでは、せっかくの休日がいつもの業務日と変わらないものになっていた。というよりも普段の仕事よりもキツイものがあった。その後も、球磨型のみんなに振り回された青年が開放されたのは夕方近くの頃だった。


青年「……一応、明日瑞鶴さんと出かけるんだよな……俺。こんなことしてていいのかな……」


ふとそんなことを呟いてみる。その呟きが、一部の艦娘に聞かれていたことを青年は気づかない。青年は、そのまま気にせず、一度鎮守府の外へ出て、ホテルで食べるお菓子を少しだけ買って帰った。


そして、部屋に戻って、明日のデー……お出かけの予定を一度だけ確認する青年。とは言っても、青年が明日のうちにやらねばならないことは昨日買ったイヤリングを瑞鶴に渡すだけである。


青年「……受け取ってくれるといいけど……」



瑞鶴とお出かけ


翌日、青年はいつもより早く目が覚めた。まだ朝食まで時間はあるので、今のうちに大本営に向かう際の荷物をもう一度確認しておくことにする。青年が確認し終えるとちょうどいい時間になっており、朝食を取りに食堂へと出かけた。


蒼龍「青年君、今日はがんばってね!」


飛龍「応援してるよ~」


青年「あ、あはは……」


蒼龍と飛龍に声をかけられ、恥ずかしいのやら少し勇気が出てきたのやらわからなくなってしまう。ここで、青年がちらりと瑞鶴の方を見ると瑞鶴も瑞鶴でかなりそわそわとしているのがわかった。



それから青年が、朝食を食べ終わり、歯を磨いて服に着替えて髪型を整える。普段、ここまで気を遣ったことはなかったが、やはり青年の中では瑞鶴は特別な存在になりつつあるらしい。青年は、鏡を何度も見直し、おかしなところがないかを確認すると荷物を持って待ち合わせの場所へと向かう。もちろん、しっかりと今日渡すプレゼントも持って……。



青年「……」


約束の時間の大体5分前、青年は瑞鶴が来ないことに若干の不安を感じ始めた。頭の中で今日はどういった会話をすればいいのか、果たして本当に蒼龍と飛龍が特訓してくれた成果はでるのかどうかで頭がいっぱいだった。


青年「……」


瑞鶴「ごめーん!! 待った?」


青年は瑞鶴の息を切らしながら走ってくる声が聞こえたので、振り返って見た。すると、青年は先ほど色々悩んでいたことが全て吹っ飛ぶくらいに瑞鶴の姿に驚くと同時に、見とれてしまった。














青年「髪……下ろしたんですね……」


瑞鶴「……その……艦娘じゃない自分を味わうにはやっぱり見た目から変えないといけないかなって……下ろしてみたんだけど……どうかな?」


当然、青年の答えは決まっていた。


青年「……似合ってますよ。……髪を下ろした瑞鶴さんも綺麗です」


瑞鶴「へっ……い、いきなり何言い出すのよ……恥ずかしいじゃない……」


褒められたことで、顔を一気に赤くする瑞鶴。青年も思わず、そんなことを言ってしまったことに気付き、照れくさそうにする。まだお出かけが始まったわけでもないのに、二人が恥ずかしそうにしている様子を翔鶴が心配そうに見ていた。


翔鶴「瑞鶴ったら大丈夫かしら……。心配だわ……」




青年「で、では行きましょう。アトラクションはそっちの方がいっぱい乗れますし……」


瑞鶴「う、うん……」


二人は並んで、鎮守府の外へ出て歩き出した。青年と瑞鶴の歩調は見事に一致している。青年はここで、蒼龍と飛龍の特訓のことを思い出した。瑞鶴の手元を見ると両手はバッグを持っていて塞がっている。とてもじゃないが、青年には「手、繋ぎましょうか」などとは言えない。


青年「……」


瑞鶴「……」


楽しいお出かけのはずだが、二人の間に沈黙が続く。気づけば青年は時折瑞鶴の顔を何度かちらちらと見ているだけだ。そして、何度か見ていると、瑞鶴もこちらを見ていてたまたま目があった。


青年「っ……」


瑞鶴「っ……」


すぐさま視線を別の場所に移す二人。傍から見れば初々しさ満点のカップルである。その二人の後を少しだけ翔鶴が離れた位置から見守っている。


青年「……ず、瑞鶴さん。え、え~っと、その……」


ここで、青年は話題を振ることにした。だが、頭の中では『手をつなぐ』という行為が離れない。


青年「……て……」


瑞鶴「て?」


青年「……天気がいいですね」


瑞鶴「う、うんっ……そうね……晴れてよかったわ……」


思わず、本来思ったことと別のセリフを言う青年。やはり、自分から「手をつなぎましょう」なんて言えるはずがない。そのまま二人は並んで歩いて行った。そして、電車に乗り、遊園地のある駅まで座って待つ。


瑞鶴「……あ、あのさ、青年」


青年「どうかしましたか?」


瑞鶴「きょ、今日……何乗る?」


青年「瑞鶴さんの好きなところでいいですよ……」


瑞鶴「絶叫マシンとか乗りたいって考えてるけど……青年、大丈夫なの?」


青年「……大丈夫ですよ」


瑞鶴「そ、そう……よかった……」


もし、ここで絶叫マシンが苦手なことを言えば瑞鶴がジェットコースターやフリーフォールと言った絶叫マシンに乗ることを躊躇してしまうかもしれないと思った青年は我慢して、瑞鶴にそう答えた。


瑞鶴は心なしか安心したような表情を浮かべている。今のところ何もできていない青年にとって、その表情を見ることができただけで、幸せだった。


瑞鶴「……じゃあ、今日はいっぱい乗りましょ……ね?」


青年「……はい。瑞鶴さんが満足するまでお付き合いしますよ……。……それに、今日の瑞鶴さんは艦娘じゃなく一人の女の子ですし……」


瑞鶴「う、うん……。ありがとね」




しばらくして、青年と瑞鶴は遊園地にたどり着いた。既に人で賑わっており、鎮守府の空気とはまるで違う感じがした。青年と瑞鶴が入り口をくぐると、瑞鶴は元気が出てきたのか、入り口近くにある大きな広場の中央に向かって走りだす。


瑞鶴「せいねーん! 早く早く~!」


青年「わかってますよ~」


うずうずしている瑞鶴は早速ジェットコースターに向けて足早に歩き出す。青年はそれについていった。




そんな二人を遠くから見守る翔鶴。


翔鶴「……心配になってここまでついてきてしまったわ……」


青葉「何やら面白いことをやってますね。翔鶴さん」


翔鶴「え?! あ、ど、どうも……」


そんな翔鶴の後ろから突如として青葉が現れた。手にはカメラを持っており、何やら撮る気満々である。翔鶴がどうしてこんなところにいるかを尋ねなくても、青葉が来た理由は誰もがお分かりだろう。


青葉「こんな、いいスクープを見逃せるはずないじゃないですか!」


翔鶴「しーっ! 気づかれちゃう……」


蒼龍「あ、青葉じゃんどうしたの?」


青葉「あら、これはニ航戦のお二人……そちらこそどうしたんですか?」


飛龍「そりゃあ、もちろん、青年の特訓の成果を見に来たのよ♪」


青葉「特訓……気になります! ぜひ、そのお話を後でお聞かせ願いたいですね~!」


こちらの四人は四人でなかなか盛り上がりそうである……。



だが、ついてきたのはその四人だけではなかった。


春雨「や、弥生ちゃん本当について行くの?」


弥生「……春雨も気になってるはず……」


春雨「そ、それはそうだけど……。で、でもせっかくの二人の休日を邪魔しちゃ悪いような……」


弥生「春雨……」


春雨「?」










弥生「バレなきゃ大丈夫」










さて、瑞鶴と青年はジェットコースターの待機列に並びながら順番を待つ。時折、聞こえてくるジェットコースターに乗ってる人たちの叫び声が大きくなればなるほど、青年は緊張してしまうのであった。


瑞鶴「青年? もしかして……怖かったりする?」


青年「え? あ、いや、そ、そそ、そんなことはないですよ……」


瑞鶴「……めちゃくちゃ震えてるけど……ほ、本当に大丈夫? 無理しなくていいからね?」


青年「あ、え……えっと……その……」


瑞鶴「……」









青年「瑞鶴さんの喜ぶ顔が見たいので……頑張ります」


瑞鶴「……な、そ、そんな理由で……まったく……。でも、嬉しい……。私なんかに合わせてくれて、ありがと……」


青年「……」


そんな二人の様子を見て、後ろの女性が「若いっていいわねぇ……」と言っているのを聞く二人。恥ずかしくなったのか少しだけ二人の距離が空いた。


それから、しばらくしてまた二人の距離が縮まる。そして、いよいよジェットコースターに乗る手前までやってきた。


青年と瑞鶴は、ジェットコースターに乗り込み、安全バーが降ろされるのを待つ。青年は、小さい声で「大丈夫、大丈夫……」と呟いている。青年の様子を見て、瑞鶴はクスリと笑った。


やがて、安全バーが降ろされ、ジェットコースターは動き出す。最初はゆったりと進んでいったが、急な坂道を上がり始めたあたりで、青年の緊張度が最高潮に達した。


青年「……え、こんなに高いんですか?」


瑞鶴「え? 青年、何も知らなかったの? このジェットコースター……ここの遊園地名物なんだけど……」


青年「……予習しておくんでした……」


瑞鶴「……そ、そう。で、でも、安心して! 私も結構怖くなってきたから!」


青年「そ、そうですか、ってもうそろそろ落ちますよね、これ――――ってえええええええええええええええええええ?!」




こうして、勢い良くジェットコースターは下へと向かって走りだした。スピードは次第に上がっていき、右に揺れたと思えばすぐに左へと揺れる。上へ向かったと思えばすぐ下へ……。青年は、ジェットコースターに揺られながら、大声を上げて怖がっていた。もちろん、それは瑞鶴も同じで瑞鶴は怖さ半分楽しさ半分と言ったような叫び声を上げている。



気づけばあっという間の乗車時間だった。二人は、ジェットコースターを降り、黙ったままアトラクションの出口へと向かう。そして、出口を抜けた後、口を揃えて言うのだった。





二人「「怖かったぁ……」」


瑞鶴「ん?」


青年「へ?」


二人「「……」」


そして、二人のセリフがまったく同じだったことに妙なおかしさを感じたようで、二人とも思わず笑い出してしまった。そんな様子を見ていた弥生と春雨はと言うと……。



春雨「二人とも、あんなに怖そうなアトラクションに乗ったのに、楽しそう……」


弥生「……」


春雨「弥生ちゃん? どうしたの?」


弥生「……ちょっとだけ……瑞鶴さんが羨ましい……」




ジェットコースターの後、二人が向かったのはジェットコースターとは違う、急流すべりである。先ほども絶叫系だったのにまたもや絶叫系なのかと青年は少したじたじとしながら瑞鶴についていく。


瑞鶴「あ、でも、カッパとかがないとダメよね?」


青年「そうですね……さすがにそのまま乗り込んで濡れてしまったら風邪をひくかもしれませんし……」


瑞鶴「風邪……ね」


青年「どうしたんですか?」


瑞鶴「うぅん、ちょっと青年が風邪ひいた時のこと思い出しちゃって……」


青年「ああ、そう言えばちょっと前にありましたね……」


瑞鶴「あの時の青年はいつもより頼りなかった感じよね~」


青年「自分でも結構気にしてるんですよ、あれ……」


そんな会話をしながら急流すべりの列に並んで進んでいく。青年はたまたまスタッフの人がカッパを配っていたのを見つけて瑞鶴の分と合わせて取り、瑞鶴に手渡した。そして、しばらく待っていると順番がやって来て青年と瑞鶴は隣通しに座る。


ところでだが、急流すべりはどちらかと言うとジェットコースターより席の幅が狭い。よって瑞鶴と青年の距離というものはほぼ至近距離、いやもうくっついてしまうくらいに隣同士に座っている。


青年「……」


瑞鶴「せ、青年、ごめん……きつくない?」


青年「え? 大丈夫ですよ……」


瑞鶴「そ、そう……」


瑞鶴がそう呟くと、急流すべりは進みだした。青年は先ほどのジェットコースターと比べたら急流すべりはまだマシな方だと思ったのが案外そうでもなかったらしく終わった後は、妙にグロッキーな気分になっていたらしい。



絶叫系のアトラクションを二つ連続で乗り終わった二人は、ベンチで少しだけ休憩していた。瑞鶴はぐっと体を伸ばし、まだまだ満足できていないことをちょっとだけアピールしている。


瑞鶴「ちょっと次は大人しいアトラクションにする?」


青年「あ、できればお願いします……」


瑞鶴「う~ん、じゃあ、やっぱり……あそこよね」


青年「あそこ?」


瑞鶴が指をさした方向にはおどろおどろしい外見の建物がそびえ立っていた。俗に言わないまでもお化け屋敷である。


瑞鶴「お化け屋敷入ったらそろそろお昼になるだろうし、ちょうどいいんじゃないかしら?」


青年「そうですね……」


瑞鶴「じゃあ、行きましょ」


青年と瑞鶴はお化け屋敷に向かって歩き出した。ちょうどその頃、蒼龍と飛龍、青葉、翔鶴もベンチに座って休んでいた。


蒼龍「いや~、青年君もなかなか頑張ってるわね」


翔鶴「あの……そろそろやめておかないと、気づかれちゃいますよ?」


青葉「何を言ってるんですか、翔鶴さん、面白くなるのはここからですよここから! 初々しいカップルがお化け屋敷に入ったらどうなるかなんて、みなさんが知りたい情報に決まってるじゃないですか!」


翔鶴「で、でも……」


飛龍「大丈夫大丈夫。私達が気になってるのは怖がる瑞鶴に対して青年がどれだけイケメンな対応ができるかどうかだから……」





それから二人は中へと入った。中に入るとかなり暗い通路があり、受付の人もキャラを作っているのか「お気をつけて」とだけ言ってから二人を中へと誘導していった。


瑞鶴「……け、結構静かなのね。もっとバーッとでるものだと思ってたわ」


青年「……」


瑞鶴「ちょ、ちょっと青年。黙らないでよ……心配じゃない」


青年は少しだけ焦る瑞鶴の姿も見てみたいと考え子どものように意地悪をしてみたくなった。


青年「……もしかして、瑞鶴さん怖いんですか?」


瑞鶴「んなっ……こ、怖くなんてないわよ……!」


青年「……では、先に行ってもらえると嬉しいかな……って」


瑞鶴「ま、まっかせなさい……」


そう言って、瑞鶴はずんずんと先に進んでいく。しかし、そこがたまたま最初の脅かしポイントだったようで、大きな音が鳴ったと思うと、ロッカーの中からお化け役の人は出てきた。


瑞鶴「いやあああああああああああ!!!」


瑞鶴の悲鳴が聞こえたのでさすがにやり過ぎたと思い、青年は怖がってブルブルと震えている瑞鶴に手を差し伸べた。



青年「……瑞鶴さん。……『僕も怖いので、一緒に行きましょう』」


瑞鶴「……ん。そうね……」


瑞鶴は青年が差し伸べた手を取り、今度は離さないように青年の手を握りしめた。そして、ゆっくりと二人で暗い通路を進んでいく。青年は、何か脅かしポイントを通過する度に、瑞鶴が手を握る力を強めるのに少しドキドキしながらも進んでいく。



一方、二人より後から入った蒼龍、飛龍、翔鶴、青葉はと言うと……。


翔鶴「う、うう……怖いです……」


蒼龍「こ、こんなの作り物だし、大丈夫よね……」


青葉「そうですね~」


飛龍「青葉よく平気だね……」


青葉「むむっ?! あそこに、何やら人形のようなものが立っていますよ!」


蒼龍「こ、怖い人形?! 嫌よ、見たくないし……」


四人の目の前に見えたのは、小さな女の子の人形らしきものだった。じっとしたままで、動く気配はない。だが、その人形らしきものの周りで蠢く影と、何かを言っている声が聞こえる。


四人は何事かと思い、近づくと―――。








春雨「や、弥生ちゃん! 怖いのはわかるけど、立ったまま気絶しないで~! 先にすすめないよぉ!」


弥生「……」


青葉「こ、これはこれは……ある意味で、お化けよりインパクトがある光景ですね……」





追跡組がそうこうしているうちに青年と瑞鶴はお化け屋敷から出てきた。二人は未だに手をつないだままで、瑞鶴は手を離そうとしなかった。青年は、瑞鶴に「もう大丈夫ですよ?」と言うと、瑞鶴は何かに気づいたようですぐさま手を離す。


瑞鶴「……」


青年「……」


瑞鶴「……え、え~っと……お腹空いたんじゃない? そこのベンチに座って食べましょ」


青年「は、はぁ……でも、お昼ごはんなんて――「作ってきたから大丈夫よ」


青年「……」


瑞鶴「だから、私が……その、作ってきたから……」



青年と瑞鶴がベンチに座ると、瑞鶴はバッグの中から木でできた弁当箱のようなものを取り出した。青年は手渡されそれを開けてみると、中にはサンドイッチがたくさんあった。


瑞鶴「その……普通のお弁当だと、冷めちゃいそうだから……サンドイッチなら、冷めても美味しいだろうし」


青年「……瑞鶴さん、いただきます」


青年はサンドイッチを一つ手に取り、口の中へと入れた。ハムときゅうりの食感が非常によく味付けも抜群によかった。


青年「……美味しいです。……鳳翔さんが作ったんですか?」