2020-04-20 13:42:13 更新

概要

久しぶりの投稿です。
内容は題名の通り、完璧過ぎる提督の弱点を見つけようとするお話。
だが、進むにつれて明らかになる提督の過去。
艦娘達はそんな提督とどう接していくのか。
続編も出しますので、よろしくお願いします。


前書き

前半はほのぼの。
後半はシリアスとなっています。
拙い文ですが、ご了承下さい。
キャラ崩壊等注意です。
誤字脱字等がありましたら、報告していただけると幸いです。





○提督(本名 佐渡鳴海[さわたりなるみ])
今回の主人公。
完璧過ぎると艦娘に評され、それをあまり自分では自覚していない。
だが、完璧を追い求める考えは持っている。
言わば、完璧主義者。
基本隔たりなく皆と接し、優しい一面から好感を持たれている。
好きな物は甘味。
生粋の甘党。









鈴谷「ねえ、皆。私、一つ思うんだけど‥‥」



神妙な顔つきになりながら、突如食堂で大勢の艦娘の目の前にし、言葉を発する一人の艦娘がいた。



その艦娘の正体は最上型重巡洋艦、今では軽空母の鈴谷だ。



鈴谷「鈴谷達の提督って完璧過ぎない!?」




艦娘達「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



鈴谷「提督ってホント何でもそつなくこなすし、指揮も上手いし、格好良いし、優しいし‥‥ああもう、マジ完璧!完璧人間すぎる!」



『っ———そうだー!完璧過ぎるー!』



『こんなに完璧なんて逆におかしいぞー!』


『そうだそうだー!』


『だから惚れちゃうんだー!』


『好きだーー!』




鈴谷「そ・こ・で!! 提督の弱み、と言うか弱点を見つけたいの! 方法は何でも良い。一人一人が作戦を考えて、提督の弱点を探し出す!」



最上「でも、提督の弱点を見つけて得なんてあるの?」



鈴谷「もし提督の弱みを見つけられたらさ、そこを突いて提督の動揺とか普段見れない様な所が見られるかもしれないじゃん」



最上「う〜ん‥‥面白そうだけど‥‥良いのかな」



鈴谷「大丈夫大丈夫。やり過ぎなければ提督だって怒らないって。もしかしたら提督の可愛い一面も見れるかもしれないし!」



最上「可愛い一面‥‥! うん、分かった!ボクも協力する!」



鈴谷「(ちょろい‥‥)」ニヤッ



鈴谷「よし!それじゃあ、思いついた人からどんどん実行して行こ!

あ、情報とかはなるべく共有しようね。勿論、弱点を見つけたらすぐ報告!」



艦娘達「了解!」ビシッ



鈴谷「じゃあ、今から作戦開始! 皆散らばれ〜!」



鈴谷の言葉通り、各々が散らばり始める。


艦種が同じ艦娘同士話し合う者。部屋に戻り、一人で作戦を練る者。

様々な艦娘がいる中、一人だけその作戦へ危機感を募らせる艦がいるのであった。






鶴の敗北?



〜執務室〜




提督「ん〜執務終わり! 今日は意外と早く終わったなぁ」



執務からの解放により、間延びした声が部屋に響く。



その声を発した人物は、此処、横須賀鎮守府の提督だった。



ヒトマルマルマルという、秘書艦も付けず、普通は終わるはずのない時間帯に書類作業を終わらせたこの人物こそ、艦娘達から完璧と称されていた提督である。



コンコン



提督「ん、どうぞ〜」



???「失礼します」ガチャ



提督「あれ、翔鶴。どうかした?」



翔鶴「その‥‥今お時間よろしいでしょうか?」



提督「うん、別に大丈夫だよ。執務はもう終わったから」



翔鶴「(もうですか‥‥)」ジトメ



翔鶴「そ、そうなんですね。特にたいした用事ではないのですが、お茶でもどうかと」



提督「あ〜お茶ね。うん、良いよ。翔鶴と二人きりでお茶をするのも久しぶりだし」ニコッ



翔鶴「ッ‥‥はいっ!」



翔鶴「(二人きりでお茶‥‥///)」



翔鶴「(い、いや、確かに久し振りだけど、目的は提督の弱点を見つける事!浮かれていてはダメよ翔鶴!)」



翔鶴「(先ずは私が何度も練習して作ってきたお茶菓子を出して‥‥)」



提督「あ、そうだ。昨日なんだけどさ、こんなの作ってみたんだ〜」



そう言い、提督が冷蔵庫から出したその皿には、見るからに美味しそうな見た目の苺の乗ったワンホールのショートケーキ。



翔鶴「(け、ケーキ!? と、とっても美味しそう‥‥)」



翔鶴「(私なんて普通のクッキー‥‥こんなの出せる訳‥‥)」



提督「翔鶴?どうかした?」



翔鶴「い、いえ!‥‥特に何も‥‥」



翔鶴「(まさか提督にこんなお菓子を作れるスキルがあるとは思わなかった‥‥)」



翔鶴「(女子力で負けると‥‥こう、来るものがあるわね‥‥)」ガクッ



翔鶴「お茶です。どうぞ‥‥」スッ



提督「ありがと」



提督「‥‥‥」ズズッ



提督「‥‥うん、美味しいよ」ニコッ



翔鶴「‥‥ありがとうございます」



翔鶴「(はあ‥‥このクッキー、どうしようかな‥‥)」



提督「‥‥‥‥‥‥‥」



提督「‥‥それ、どうしたの?」



翔鶴「えっ、な、何か‥‥?」スッ



提督「今隠した袋。何かラッピングされてたけど」



翔鶴「うっ‥‥‥」



提督「もしかして、翔鶴もお茶菓子用意してくれてた?」



翔鶴「(ば、バレた‥‥で、でもこれを出す訳には‥‥)」



提督「」ジ--



翔鶴「(うっ‥‥出すしかないですよね‥‥)」



翔鶴「じ、実は私も用意してて‥‥で、でも、提督のと比べたら大したものじゃないですし‥‥」スッ



提督「これ、クッキー?」



翔鶴「は、はい。でも、美味しくないかもしれま——」



提督「」パクッ




翔鶴「えっ‥‥て、提督?」



提督「ふふっ」モグモグ



翔鶴「わ、笑うほど美味しくなかったですか‥‥?」



提督「ううん、すっごく美味しいよ」ニコッ



提督「ありがと、翔鶴。こんな美味しいクッキーを作ってくれて」



翔鶴「は、はい‥‥///」



提督「‥‥うん、本当に美味しい」モグモグ



翔鶴「‥‥て、提督は‥‥その‥‥お菓子作り得意なんですね」



提督「ん〜‥‥まあ、得意というか好きなんだよね。お菓子作るの」



翔鶴「そうだったんですか‥‥」



提督「うん。作るのは勿論、食べるのもね」ポン



翔鶴「へっ‥‥///」



提督「クッキー、とっても美味しいよ。本当にありがとう。翔鶴」ナデナデ



翔鶴「‥‥は、はい///嬉しいです‥‥///」カァァ




結局、翔鶴は提督の弱点を見つけると言う目的を忘れ、提督と有意義なお茶会の時を過ごすのであった。







〜食堂〜



翔鶴「ふふ〜ん」ドヤッ



赤城「いやいや、何ドヤ顔見せつけてるんですか」



瑞鶴「翔鶴姉、結局提督の弱点見つけてないじゃん」ジトメ



鈴谷「寧ろ、ただイチャイチャしてただけじゃんか!!」



加賀「これだから五航戦は‥‥」ハァ



今は情報の交換会。小規模な物だが、参加者は直ぐそこで会った鈴谷と一航戦の二人である赤城と加賀、そして妹の瑞鶴だけだ。



鈴谷「(これじゃあ、情報の交換会と言うよりもただの惚気話だよ‥‥)」



赤城「しかし、確かに提督はお菓子作るの上手ですよね」



鈴谷「そうだよね〜。凄く女子力高いし」



翔鶴「えっ!? 提督がお菓子作り上手だって事皆さん知ってたんですか!?」



赤城「はい」



鈴谷「そりゃあね」



瑞鶴「逆に翔鶴姉知らなかったの?」



加賀「ダメダメね」



翔鶴「酷いッ! ‥‥では、私のお菓子作りの努力は一体‥‥」



加賀「何の意味もなかった、という事ね」



翔鶴「」チ-ン



鈴谷「可哀想に‥‥」



赤城「そうですね‥‥」



瑞鶴「翔鶴姉も翔鶴姉だからね」



加賀「その情報を知らなかった時点で既に敗北してるわ」



鈴谷「(翔鶴さんの扱いが‥‥)」



瑞鶴「そう言えばさ、私、前に提督さんからマカロン貰ったんだ〜。すっごく美味しかったんだよね」



加賀「私も提督からガトーショコラを頂きました」



加賀・瑞鶴「‥‥‥‥‥‥‥‥」




瑞鶴「は?」バチバチ


加賀「あ?」バチバチ





鈴谷「ま、まあ、そこの二人は置いといて‥‥翔鶴さんは失敗か〜」



赤城「そういう事になりますね」



鈴谷「でもまだ一人目だし、これからだよね〜」ニヒヒッ





翔鶴‥‥失敗(惚気は成功)






酒豪、酒に溺れる




〜執務室〜



提督「さてと、翔鶴とお茶をした訳だけど‥‥」チラッ



時刻:ヒトヒトマルマル



提督「お昼にはまだ早いし‥‥暇だなぁ」



バン!



提督「へっ!?」



千歳「失礼します」ゾロゾロ



提督「ち、千歳と千代田と‥‥伊勢と日向か。四人が来るなんて珍しいね。というか、ノックしてから入りなさいな」



伊勢「ごめんごめん」テヘッ



日向「なに、私と提督の仲だ。ノックなどいらないだろう?」



提督「いや、そんな訳‥‥まあ、良いや。それで、どうかしたの?」



提督「(大方予想はついてるけど。あれ、お酒だよね‥‥)」



千歳「ちょっと、お酒に付き合ってもらおうと思いまして」



提督「(やっぱりか‥‥朝から飲酒って‥‥)」



提督「朝からお酒って大丈夫? あまり僕は気が進まないのだけど」



千代田「大丈夫よ、私達今日非番だし」



提督「それは、そうだけど‥‥」



千歳「あら、良いじゃないですか」



伊勢「提督、今日何かありましたっけ?」



提督「いや、特にこれと言った用事はないよ」



日向「なら良いではないか。私達も暇なんだ。一杯くらい付き合ってはくれないだろうか」



提督「ん〜‥‥まあ、一杯くらいなら‥‥いいかな」



伊勢「やった♪決まりだね」



日向「そうだな」



千歳「(ふふふ‥‥提督はいつも余りお酒を飲まない。という事は、多分お酒に弱いはず)」



伊勢「(つまり!提督の弱点はお酒!それを今日証明してみせる!)」



千代田「(別に、提督の弱点とかどうでも良いし‥‥)」



日向「(ふむ、こうして提督と飲むのは初めてだな)」



提督「そうだ、お酒と言えば隼鷹は?」



千歳「隼鷹さんなら朝から酔っ払って食堂で寝てました」



提督「えぇ‥‥何で朝から‥‥」



日向「まあそうなるな」







提督「んっ、この日本酒美味しいね」



伊勢「でしょ?このお酒私のお気に入りなんだ〜♪」



日向「やはり日本酒は良いな」



千代田「私は‥‥普通かな」



千歳「(提督、まだ酔わないわね‥‥まあ、まだ一杯目だしこれからね)」



伊勢「そう言えばさ、提督って何であんまりお酒飲まないの?」



提督「ん、えっと〜‥‥別にお酒が嫌いな訳じゃ無いんだけどね。飲んだ後の二日酔いが怖くてさ」



提督「‥‥だから、余り飲まない様にしてるんだ」



千代田「じゃあ、お酒弱いって訳じゃ無いの?」



千歳・伊勢「「!!」」



提督「ん〜どうなんだろ。度数の高いものを飲んだ事が無いから自分が強いのか弱いのか良く分からないんだよね」



千歳「(よ、良かった‥‥これで提督がお酒強かったら危うく失敗だったわ‥‥)」



日向「そうなのか。なら、これを機に度数の高いものを飲んでみたらどうだろう」



伊勢・千歳「(チャンス‥‥!)」ニヤッ



提督「えっ、僕この一杯で終わる気だったんだけど」



伊勢「日向の言う通りだって!一回挑戦してみようよ!」グイッ



提督「ん〜‥‥‥‥」



千歳「そうですよ、提督。一度くらい飲んでみたら良いじゃ無いですか。いずれ飲むかもしれませんし」グイッ



提督「そ、そこまで言うなら‥‥‥うん、分かった。一回飲んでみるよ‥‥」



千歳「(よしっ‥‥!)」グッ



伊勢「(ちょろいねぇ‥‥♪)」ニヤッ



千代田「(千歳お姉ガッツポーズしてるし‥‥)」



提督「(何故ガッツポーズ?)」



日向「それじゃあ‥‥まず、これにしようか」ヒョイ



「「「っ———!!!」」」



越後武士「」ヤァ



提督「越後武士?聞いた事ないお酒だな」



千歳「(え、越後武士!?そんないきなり高いものを‥‥)」



伊勢「(私達ですらそんなの飲んだら直ぐ酔い潰れちゃうよ!)」



千代田「(よ、46度‥‥だ、大丈夫なの‥‥?)」



日向「提督、コップを」



提督「はいはい」トポトポ



提督「因みに、これ何度なの?」



日向「ん、ああ‥‥20度ぐらいだ」シラ-



千代田「(まるっきり嘘だよ!)」



伊勢「(日向、何て悪い娘‥‥)」



千歳「(でも、このお酒なら提督も直ぐ酔うはず!)」



提督「ふむ、それくらいなら——」グビッ



千代田「(い、一気にいっちゃった‥‥)」



提督「んっ‥‥‥」プハァ



日向「どうだ、提督」



提督「うん、ちょっと辛いけど普通に美味しいね。これ」ニコッ



千歳「(う、嘘‥‥!)」



伊勢「(あの、越後武士を一気で飲んだのに!?)」



日向「そ、そうか‥‥」オドオド



千代田「(日向さんも動揺しちゃってるし‥‥)」



提督「もうちょっと貰っちゃお♪」トポトポ



千代田「えっ、て、提督?大丈夫なの?」



提督「何が?」



千代田「いや‥‥その‥‥」チラッ



千代田「(どうするの千歳お姉!)」



千歳「(くっ‥‥想定外だけど仕方ないわ!寧ろ高都合!もっと飲ませて提督をベロンベロンに酔わせるのよ!)」



伊勢「(な、何か嫌な予感がする‥‥)」




○三十分後



伊勢「む、無理‥‥‥‥」ガクッ



日向「むっ、伊勢?」



提督「あれ〜?寝ちゃった?取り敢えず毛布掛けて寝かせとこうか」パサッ



千代田「(や、やばい‥‥伊勢さんが‥‥わ、私も酔ってきた‥‥)」



千歳「じゅ、十杯目‥‥ですよ‥」ウプッ



○更に三十分後



千代田「んふふ、提督〜♪」スリスリ



提督「ふふっ。お酒が入ると千代田は甘えん坊だね〜」ナデナデ



伊勢「‥‥‥‥」zzz



日向「ズイウ-ン‥‥‥」zzz



千歳「(に、二十杯目‥‥しかも日向さんまで‥‥)」



千歳「(まさか‥‥提督がこれほど‥‥お酒強い‥‥なんて‥‥)」ガクッ




○一時間後



千歳「‥‥‥‥」zzz



伊勢「‥‥‥‥」スヤスヤ



日向「‥‥‥ズイ」ウ-ン



提督「‥‥‥‥‥‥」ナデナデ



千代田「‥‥‥‥‥‥」zzz



提督「ありゃ、千代田も寝ちゃったか」ツンツン



千代田「ん‥‥‥てい‥とく‥」ニマニマ



提督「ふふっ、夢の中にも僕がいるのかな」ナデナデ



千代田「‥‥‥‥」zzz



提督「‥‥さてと、みんなを部屋に戻してあげたいけど、4人は厳しいなぁ‥‥」




コンコン



提督「ん、どうぞ〜」



ガチャ



大淀「失礼します。報告書を提出に———」



大淀「って!何してるんですか!」



提督「あ〜大淀。何って、見ての通りだよ」



大淀「見ての通りって‥‥朝からお酒何て隼鷹さんにでもなったんですか」



提督「それは隼鷹に失礼じゃ‥‥‥事実か」



提督「‥‥っと、ごめん。水貰えるかな」



大淀「水ですか?‥‥少し待って下さい」






大淀「‥‥はい、どうぞ」



提督「ん、ありがと‥‥」グイッ




大淀「まったく、こんなに開けて‥‥一体何杯飲んだんですか?」



提督「何杯だろうね‥‥ただすっごく後悔はしてる」



大淀「それなら何で朝からお酒なんて飲んだんですか」



提督「いやぁ、千歳達にせがまれてさ‥‥断れなかったんだよね」アハハ



大淀「そこは断ってくださいよ‥‥」



提督「ごめんごめん。次からは気をつけるよ。っと、千歳達運ぶの手伝ってくれる?」



大淀「構いませんけど、もう酔いは覚めたんですか?」



提督「うん。というか、僕酔ってた?素面のつもりだったんだけど」



大淀「えっ、本気で言ってるんですか?あれだけ飲んだんですよ?」



提督「う、うーん‥‥良く分かんないな」アハハ



大淀「はぁ‥‥まあ良いです。それと、報告書はどうしますか?」



提督「後で僕が確認しとくから大丈夫。執務は終わってる訳だし」



大淀「そこはやはり完璧ですね‥‥」



提督「どーも」ニコッ





お酒組‥‥失敗




玉子焼きの罠





提督「さてさて、千歳達を運び終わった訳だしそろそろお昼を——」



時刻:ヒトヨンマルマル



提督「えっ!? う、嘘でしょ‥‥もうそんなに時間経ってたのか‥‥」



提督「この時間じゃあ食堂でご飯を食べようにも迷惑をかけるかもしれないし‥‥う〜ん、参ったなぁ‥‥」



コンコン



提督「ん、どうぞー」



瑞鳳「失礼します」ガチャ



提督「ありゃ、瑞鳳。どうかした?」



提督「(今日はやけに執務室へ人が来るなぁ‥‥)」



瑞鳳「あの、提督。私卵焼き焼いてきたんだけど‥‥お昼とか食べました?」



提督「おお!実はお昼食べてなくてさ。丁度お腹空いてたんだ〜」



瑞鳳「本当!?それなら良かった。私提督に食べてもらいたかったから!はい、どーぞ!」



提督「ありがとう!」キラキラ



提督「うん、とっても美味しそうだ‥‥よ‥‥」チラッ



瑞鳳「‥‥‥‥‥‥」ニヤニヤ



提督「(き、気の所為かな? 何か嫌な予感が‥‥まあ、瑞鳳に限ってそんな事ある訳‥‥)」



提督「ん‥‥え、えっと、それじゃあいただくね」



瑞鳳「うん!早く食べて!」



提督「‥‥‥」パクッ



瑞鳳「どう?」



提督「(味は普通に美味しい‥‥やっぱり気の所為だったのかな?)」モグモグ



提督「うん、凄く美味しいよ」ニコッ



瑞鳳「そう?良かったぁ〜」



提督「本当に美味しい、よ‥‥‥あ、あれ?何か頭痛が‥‥」ズキッ



瑞鳳「ふふふ」ニヤッ



提督「ず、瑞鳳‥‥?」



瑞鳳「ごめんね〜提督」ニコッ



提督「い、いきなり何さ‥‥」



瑞鳳「実はその卵焼き、明石さん特製の"嘘が吐けない薬"が入ってるの!

副作用で頭痛が起こるらしいんだけど‥‥」



提督「また明石は変なものを‥‥‥それよりも、嘘が吐けない薬? そんな事をして何の意味が?」



瑞鳳「それはこの質問にしっかり答えてもらう為よ!」



提督「質問?」



瑞鳳「そう‥‥ずばり!提督の弱点は!?」ビシッ


提督「っ‥‥‥‥‥」ピクッ



瑞鳳「‥‥‥‥‥?」



提督「あー‥‥じゃ、弱点?」



瑞鳳「そうよ!さあ、提督!答えて貰います!」



提督「え、えっと〜‥‥弱点‥‥僕の弱点は‥‥‥っ」グッ



瑞鳳「‥‥‥」ゴクッ



提督「"無い"‥‥かなぁ」アハハ



瑞鳳「えっ?」



提督「うん?」



瑞鳳「‥‥も、もう一度言ってくれる?」



提督「"無い"」



瑞鳳「‥‥う、嘘でしょぉ!?嘘だよね!?」



提督「いや、嘘じゃ無いけど。というか薬の所為で僕は嘘吐けないんじゃないの?」



瑞鳳「そ、そうだけど‥‥それじゃあ、苦手な物は!?」



提督「無いね」



瑞鳳「苦手な食べ物は!?」



提督「特に無いかなぁ」



瑞鳳「好きな食べ物!」



提督「甘味」


瑞鳳「好きな艦娘!」



提督「此処に居る皆」



提督「(これを答える意味とは‥‥)」



瑞鳳「あります!」



提督「(へっ!?心の声が‥‥)」



瑞鳳「一番好きな艦娘!」



提督「それは‥‥‥ノーコメントで」



瑞鳳「むっ、何でですか」



提督「いやいや、というかこの質問の意味が分からないんだけど」



瑞鳳「え、えっと‥‥ただ提督の情報を集めたかっただけだよ?」



提督「僕の情報を集めて何になるのさ‥‥」



瑞鳳「それは‥‥あんなのとか、そんなのとか‥‥」ニヤニヤ



提督「(く、詳しくは聞かないでおこう‥‥)」



提督「じ、じゃあさ、瑞鳳はその為に執務室に来たの? 卵焼き作ってきたからじゃ無いの?」



瑞鳳「それは、その‥‥一番は提督の弱点を‥‥」ゴニョゴニョ



提督「ん、最後の方声が小さくて聞き取れなかったんだけど」



瑞鳳「な、何でも無いよ!ただ玉子焼き作って来たついでにと思って!」



提督「そ、そうなの‥‥? まあ、いっか‥‥」



瑞鳳「(誤魔化してる私が言うのも何だけど、素直過ぎる‥‥)」



提督「‥‥それじゃあ、この卵焼きどうする? 食べかけで申し訳ないけど、僕としてはやっと頭痛治ったから‥‥」



瑞鳳「(提督の食べかけッ‥‥!)」



瑞鳳「それなら後で私が食べるから大丈夫だよ!」



提督「え? い、良いの? 結構な頭痛が走るけど‥‥」



瑞鳳「大丈夫大丈夫!それじゃあ、そのまま食器とお箸貰うね」スッ



提督「あ、う、うん」



瑞鳳「では、私は部屋に戻ります」



提督「わ、分かった」



瑞鳳「失礼しました〜」ガチャ




バタン



提督「一体何だったんだ‥‥‥‥」






〜工廠〜



明石「あ、やべっ。瑞鳳さんに渡した薬って失敗作の方だ‥‥‥ま、良っか〜」アハハ




〜祥鳳・瑞鳳の部屋〜



瑞鳳「(提督の弱点は見つけられなかったけど、提督の使った箸をゲットしちゃった‥‥!)」



瑞鳳「(ふふふっ‥‥これで‥‥)」ニヤッ



祥鳳「(さっきから何でニヤニヤしているのかしら‥‥?)」




瑞鳳‥‥‥失敗(提督の箸はゲット)




鳳との一時







提督「結局お腹は空いたまま‥‥」グ--



提督「はぁ‥‥自炊しようにも冷蔵庫にはケーキしか入ってないし、材料は丁度切れてる‥‥」



提督「どうしようかなぁ‥‥‥」



提督「あ———そうだ、鳳翔さんの所があった!」



提督「この時間に行くのは初めてだけど、確か開店時間は午後からだった筈‥‥」



提督「良し!そうと決まれば行こう!もうお腹空きすぎて無理!」ダッ






ガラガラガラ



鳳翔「いらっしゃいま——あら、提督じゃないですか。この時間にとは珍しいですね」



提督「実は訳あってお昼逃しちゃったんです。だから鳳翔さんの所にと」アハハ



鳳翔「ふふっ、そうでしたか。人は居ませんのでどうぞ好きな場所に座ってください。お昼ご飯、お作りしますよ」



提督「ありがとうございます」スッ






提督「‥‥鳳翔さんの作る和食、やっぱり美味しい‥‥」



鳳翔「そう言っていただけると嬉しいです」ウフフ



提督「安心する味って感じで‥‥うん、凄く安心する‥‥」ハァ



鳳翔「‥‥提督、お疲れですか? 顔に出てますよ」



提督「っ‥‥ああ、すいません」



鳳翔「何も謝る事は無いのに‥‥」



提督「あはは、やっぱり‥‥疲れてるんですかね‥‥」



鳳翔「提督‥‥‥‥‥‥」



提督「‥‥すいません。昔みたいに暗くなってしまい‥‥」



鳳翔「‥‥大丈夫です。寧ろ、私に甘えてもらってもいいんですよ?」ウフフ



提督「この歳でそんな事しませんって‥‥」



鳳翔「あら、そうは言ってもまだ二十歳でしょう?」



提督「もう僕は大人ですよ」



鳳翔「あら、照れなくてもいいんですよ?」



提督「て、照れてないですからっ‥‥」



鳳翔「ふふふ、ごめんなさい。少々揶揄い過ぎました」



提督「まったく、本当ですよ‥‥」



鳳翔「(ある意味、これは提督の弱点ですね‥‥‥大丈夫でしょうか、提督‥‥)」




鳳翔‥‥‥成功?







提督「ん〜!お腹も一杯になったし、鎮守府内でも散歩しようかな」




提督「(ちょっと、皆の様子が可笑しい気がするし‥‥ついでに調べた方が良いよね‥‥)」






策士、自滅する





阿賀野「‥‥‥」



能代「阿賀野姉‥‥こんな草むらに隠れて意味あるの?」



阿賀野「大丈夫大丈夫。もう少しで提督さんが来るはずだから」



能代「そんなこと言ったって、本当に提督外に来るの?かれこれ2時間近く待ってるじゃ——」



提督「ん〜、日差しが気持ち良いなぁ」



阿賀野「来たーー!!」ガサッ



能代「嘘っ!?」



提督「うん‥‥?」



阿賀野・能代「」ギクッ



阿賀野「ば、バレたかな‥‥?」コソコソ



能代「阿賀野姉が大きな声出すから!」コソコソ



阿賀野「そ、そうだけど〜‥‥」アタフタ



提督「気の所為かな‥‥‥」スタスタ



阿賀野「‥‥よ、良かった」



能代「(ドキドキした‥‥)」



阿賀野「ほら、だから言ったでしょ?提督さんは必ず来るって」



能代「‥‥阿賀野姉は最初から来るって知ってたの?」



阿賀野「勿論!提督さんのスケジュールは全て把握してるんだから!」



能代「そ、そう‥‥」



能代「(最早ストーカーね‥‥)」



阿賀野「っと、それよりも早く作戦を開始しなきゃ!」



能代「そう言えばその作戦って何なの?」



阿賀野「それはね〜‥‥アレだよ!」ビシッ




猫『ニャ〜』



提督「!」




能代「えっと‥‥あれは、猫?」



阿賀野「そう!あの猫ちゃんで提督さんを堕とすのだ〜!」



能代「あの猫いつの間に用意したのよ‥‥」



阿賀野「あの猫良く鎮守府の草むらに来るんだよね。それに人懐っこいし、提督さんも直ぐ堕ちるね‥‥」フフフ



能代「堕ちるって‥‥そんな訳が‥‥」



阿賀野「流石の提督さんもあの可愛い猫ちゃんの前には勝てない筈!そして、提督も私のようにあのモフモフに負けるのよ‥‥」フフフ



能代「‥‥提督って猫好きなの?」



阿賀野「それは分からないけど〜‥‥もう目の前に答えがあるんじゃ?」




提督「はあ〜‥‥可愛いなぁ‥‥」ナデナデ


猫「ニャ〜」ゴロゴロ





能代「本当だ‥‥」





提督「野良猫かな? それにしては人懐っこいけど」



猫「ニャ‥‥」ゴロゴロ



提督「ふふっ、ホント可愛い」ナデナデ





阿賀野「‥‥‥‥‥‥‥」



能代「提督ってあんな顔するんだ‥‥」



能代「(どっちも可愛い‥‥///)」





提督「癒される〜‥‥‥」ナデナデ



猫「ニャニャ〜」ゴロゴロ





阿賀野「‥‥‥‥‥‥‥」



能代「(あの猫、良いなぁ‥‥‥って、私何を考えて!///)」ブンブン





提督「ん〜‥‥‥‥‥‥」モフモフ


猫「ニャ〜」ゴロゴロ





阿賀野「‥‥‥‥‥‥‥」プルプル



能代「‥‥あ、あれ?阿賀野姉? さっきから黙り込んでどうしたの?」



提督「(鎮守府で飼いたいけど‥‥駄目だよなぁ)」



提督「(お世話とか大変だろうし‥‥皆も了承してくれるかどうか‥‥)」





阿賀野「もう無理〜!!耐えられない〜!!」ダッ



能代「あ、阿賀野姉!?」




阿賀野「提督さ〜ん!!!」ダキッ



提督「へっ!?」グエッ



猫「ニャっ!?」ピュ-



提督「あ、阿賀野!?い、いきなり抱き付いて来てどうしたの!? あ、猫がー!」



阿賀野「あの猫ちゃんばっかりずるい!阿賀野も提督に撫でて欲しい〜!」ジタバタ



提督「ちょ、ちょっと阿賀野!暴れないでってば!」



能代「阿賀野姉‥‥‥‥」ジトメ



提督「あっ、能代!ちょっと阿賀野引き剥がしてくれない!?」



能代「(まさか阿賀野姉が我慢出来ず自ら飛び出していくなんて‥‥作戦の意味がないじゃない‥‥)」



能代「(でも‥‥私も阿賀野姉と同じ事思ってたのよね‥‥///)」スタスタ



提督「能代‥‥?」



能代「」ギュッ



提督「能代ー!?」



阿賀野「提督さん!早く〜!!」グイグイ



提督「ちょ!阿賀野!首!首絞まってるから!」



能代「」ギュ-



提督「あだだだ!!能代いだいって!力強い!」



阿賀野「提督さ〜ん!」



能代「」ギュ-



提督「(だ、誰か‥‥‥誰か助けて‥‥)」ガクッ




阿賀野・能代‥‥‥失敗








提督「はぁ‥‥やっと解放してくれた‥‥」



提督「(あの後、阿賀野と能代を何とか説得し抜け出すことが出来た)」



提督「(猫で癒されてたけど‥‥一気に疲れが押し寄せてきた感じ‥‥)」



提督「(というかあの二人どっから出てきたんだろ‥‥)」



提督「(やっぱ何かが可笑しい‥‥瑞鳳の玉子焼きもそうだけど、いつも以上に変な出来事ばっかり‥‥)」



提督「‥‥まあ、気にしててもしょうがないか」



提督「まだ暇な訳だし、ここから近い道場にでも顔を出そうかな」




一航戦の誇り?




加賀「‥‥‥‥‥」キリキリ



赤城「‥‥‥‥‥」キリキリ



提督「(あれは‥‥赤城と加賀か。丁度鍛錬中かな?)」



バシッ! バシッ!




加賀「‥‥‥‥‥‥」



赤城「‥‥‥‥‥‥」フゥ



提督「お見事。二人ともほぼど真ん中だね」パチパチ



加賀「っ提督‥‥」



赤城「あら、どうしたのですか?」



提督「ただの散歩だよ。近くに来たついでに道場に顔を出そうかなと思って」



赤城「そうでしたか」



提督「それにしても、二人とも凄いね。いつもこの時間に鍛錬をしてるの?」



赤城「ええ、大体はこの時間に」



加賀「日々の鍛錬を怠る訳には行きませんから」



提督「へぇ〜そうなんだ。流石一航戦」



加賀「当然です」フフン



赤城「ふふっ。‥‥そうだ、提督は弓道のご経験はお有りですか?」



提督「弓道ね‥‥一応中高で弓道をやってたけど‥‥」



加賀「!」



赤城「そうだったんですか。‥‥では、"勝負"致しませんか?」フフッ



提督「勝負?」



赤城「はい。三本矢を引いて、真ん中に的中した矢の多い方が勝ち。というのはどうでしょうか」



提督「う〜ん‥‥まあ、勝てるかは分からないけど‥‥‥分かった、良いよ」



加賀「では、負けた方に罰ゲームを付けましょうか」



提督「え‥‥ちょ、ちょっと待っ———」



加賀「負けた方は勝った方の言うことを一つ何でも聞く事にしましょう」



提督「‥‥‥‥‥‥‥」



赤城「ええ、それは良いですね♪」



提督「そんな事聞いてないのだけど‥‥」



加賀「‥‥提督。一度やると言いましたよね?」



提督「」ウグッ



加賀「それに、提督が勝ったら何でも命令できるんですよ? 私はいつでも心の準備は出来ていますので」バッチコ-イ



提督「‥‥ふーん。そうなんだ‥‥」



赤城「(提督と夜戦を‥‥‥///)」



提督「‥‥なら、僕が勝ったら二人の食事を制限しようかな」ニコッ



赤城・加賀「」



赤城「う、嘘でよね!?」



加賀「ほ、本気ですか‥‥‥?」



提督「本気も本気さ。心の準備が出来てるならどんな命令が来ても大丈夫でしょ?」



提督「それに、僕が負けたら何でも命令できる訳だし、リスクは僕にもある」



赤城「で、ですが‥‥」



提督「(そこまで食事制限が嫌なのか‥‥)」



加賀「赤城さん、ここは了承するしかありません‥‥」コソコソ



赤城「い、良いんですか?もし負けたら‥‥」コソコソ



加賀「負けたとしてもあの提督の事です。きっと優しめにしてくれるはずでしょう」



加賀「そして、私達が勝てば何でも命令できるんですよ?目的である弱点を知ることが出来ますし」



赤城「‥‥‥‥‥‥‥」



加賀「それに、私達が負ける訳ないでしょう?いくら提督と言えども、弓道の腕では負けません。というか負けられません」



赤城「そう、ですね。‥‥分かりました」



提督「大層な自信だね〜。その慢心が負けに繋がるかもよ?」



加賀「大丈夫です。私達は負けません」フフン



提督「‥‥そうですか」アハハ



加賀「(ここは譲れません)」



赤城「(嫌な予感が‥‥)」







バシッ!



加賀「‥‥‥‥‥‥」



赤城「‥‥‥‥‥‥」



提督「良しっ‥‥!」



赤城「い、いやいや、良しっじゃないですよ!」



提督「へっ? 何がさ」ポカ-ン



赤城「平然とした顔をしていますけど、三本全部真ん中を射抜くってどういう事ですか!? そんなに弓道やってたんですか!?」



赤城「見て下さい! 加賀さんなんてもう死んでますよ!」



加賀「」チ-ン



結果:提督3本的中

  :赤城1本的中

  :加賀0本



提督「か、加賀はともかく、別に部活でやってたってだけだよ。そんなすごい実力がある訳じゃないし‥‥」



提督「というか、それを言ったら二人だってこのぐらい余裕だったんじゃ?」



赤城「(くっ‥‥確かに三本連続ぐらいだったら‥‥だ、だけど‥‥)」チラッ



提督「?」



赤城「(い、言えない‥‥提督の弓道着姿に見惚れて集中出来なかったなんて‥‥絶対に言えない)」



赤城「(何なんですかこの人! 弓道着似合いすぎだし、しかも、普通に上手いですし‥‥提督が空母だったらもう百発百中の勢いですよ‥‥)」



提督「まあ、何はともあれ、勝負は僕の勝ちって事で良いよね」



赤城「うぐっ‥‥」



加賀「‥‥仕方ありません」



赤城「あ、加賀さん生きてたんですね」



加賀「勝手に殺さないでください。確かに提督の道着姿に殺されそうになりましたが、まだ死んでいません」



提督「え?」



加賀「ともかく、勝負は私達の負けです。‥‥罰を受け入れましょう」



赤城「‥‥そうですね」ズ-ン



提督「(凄い落ち込み様‥‥‥ちょっと可哀想に思えて来ちゃったなぁ)」



赤城「‥‥‥‥‥‥」チラッ



提督「(いつも二人は頑張ってくれている訳だし、食事を制限するのはねぇ‥‥っ、そうだ!)」



提督「じゃあ、こうしようか」



提督「食堂では朝昼食べておかわりは禁止。その代わりと言っては何だけど、夜は僕が作ってあげるよ。その時はおかわりしても良い事にするから」



赤城・加賀「!」



赤城「そ、それ本当ですか!? 夕食を提督が作ってくれるんですか!?」グイッ



提督「う、うん。僕の部屋に来てもらわなくちゃいけないけど‥‥」



赤城「行きます行きます!すぐに行きます!」



提督「そ、そう‥‥」



加賀「やりました」キラキラ



提督「(こ、これで良かったのかな? まあ、朝昼おかわり禁止ってのは大きいと思うけどね‥‥)」



赤城・加賀‥‥‥失敗(食事制限&提督から夕食をご馳走してもらえるように)




作戦への思いと真実





鈴谷「ちーっす」ガラガラ



鳳翔「あら、鈴谷さん」



鈴谷「あれ、珍しく今日は誰も居ないんだ」



鳳翔「ええ、いつも来てくれる方々が今日はいらっしゃらないようで」



鈴谷「へぇ〜そうなんだ。じゃあ今日は鈴谷が占領できるね♪」



鳳翔「ふふっ、そうですね。お好きな席へどうぞ」







鳳翔「‥‥ところで、例の件は順調ですか?」



鈴谷「あー‥‥あんまりってところかなぁ。実行してくれてる人は居るんだけど、結局弱点は見つけられないらしくてね」



鳳翔「そうですか‥‥」



鈴谷「本当提督には困ったものだね〜。完璧すぎるのも困り物だよ」アハハ



鳳翔「‥‥鈴谷さんは何故提督の弱点を知りたいのですか?」



鈴谷「え」



鳳翔「何か理由があるでしょう? 普通に考えて、人の弱みを見つけようとする事はあまり褒められた物ではありません」



鈴谷「‥‥そっか。そうだよね」



鈴谷「まあ、これを自分で言うのも恥ずかしいんだけど‥‥理由としては、やっぱり好きな人の事って沢山知りたくなっちゃうんだよね」



鳳翔「あら」フフフ



鈴谷「わ、笑わないでよ‥‥///」



鳳翔「ふふっ、ごめんなさい。鈴谷さんも乙女だなと思いまして」



鈴谷「べ、別に‥‥鈴谷だってそういう事考えたりするし‥‥」



鳳翔「そうですね‥‥でも良いんですか? 皆さんも取り組んでいるのであれば、見つけた時には広まることとなると思いますが」



鈴谷「‥‥そうだね。でも、鈴谷だけがその情報を独り占めするのは‥‥何かフェアじゃないかなって」



鈴谷「提督を好きな娘は絶対多いだろうし、ズルはしたくないから」



鳳翔「‥‥優しいですね。鈴谷さんは」



鈴谷「そんな事ないよ。鈴谷だって、最初はそう考えて無かったから‥‥」



鳳翔「‥‥‥‥‥‥」



鈴谷「ああ、もうやめやめ! この話はこんくらいで終わり! 今日はどんどん飲んじゃうから!」



鳳翔「ふふっ、そうですか。少々お待ちください。今お出ししますね」



鈴谷「うんうん、どんどん出しちゃって!」



鳳翔「‥‥‥一つ、鈴谷さんにお伝えします」



鈴谷「ん?」



鳳翔「提督は昔‥‥"冷酷な完璧主義者"と言われていました‥‥」









鈴谷「‥‥と、言う訳なんだけど。‥‥どう思う?」



熊野「夜中に何の話かと思えば、そんな事を私に訊かれましても‥‥まあ、正直に言うと疑い深いですね」



鈴谷「だよね〜。あの提督が冷酷なんて全然思えないけど」



熊野「ですが、鳳翔さんがこんな嘘を吐くと思いまして?」



鈴谷「そう言われたら‥‥確かに変だけど‥‥」



熊野「一度提督に聞いてみては? 本人に聞けば事実かわかるでしょう?」モグモグ



鈴谷「‥‥そうだね。分かった、聞いてみるよ」



鈴谷「‥‥で、何食べてるのさ」



熊野「自分で作ったクッキーですわ」モグモグ



鈴谷「あ、そうなんだ。てっきり提督から貰ったのかと」



鈴谷「というか、それ絶対提督にあげようとした奴でしょ。ラッピングされてるし」



熊野「‥‥‥‥‥‥‥」ギクッ



鈴谷「はは〜ん。大方渡せずじまいで、もう自分が食べちゃおうって事か」ニヤニヤ



熊野「‥‥うるさいですわね」






鈴谷『えっ、冷酷な完璧主義者?あの提督が?』



鳳翔『はい‥‥』



鈴谷『え、えっと‥‥よく分からないけど、何でそれを鳳翔さんが?』



鳳翔『実は私、大本営直属の艦から転任で提督と共に此処へ着任したんです。提督とは縁があって昔からの付き合いなんですよ』



鈴谷『そ、そうなんだ‥‥知らなかった‥‥』



鳳翔『そうですね‥‥これを知っているのは初期艦の吹雪さんぐらいでしょうか』



鈴谷『へぇ〜‥‥でも、それと何の関係が?』



鳳翔『‥‥提督は今のように明るく、優しい方では無かったんです』



鈴谷『え? それってどういう‥‥』



鳳翔『‥‥詳しい事は提督自身から聞いた方が良いと思います』



鳳翔『そして、好意を寄せる方について色々知りたいのは分かりますが、提督の弱点を見つけたいというのは‥‥一度考え直した方が良いですよ』







鈴谷「(冷酷な完璧主義者、か‥‥)」



鈴谷「(別に、提督は完璧かもしれないけど提督自体が完璧主義者って訳でもないし‥‥冷酷ってのはピンと来ないし‥‥)」



鈴谷「(それと、私がやっている事は‥‥)」



鈴谷「(‥‥まあ、全部本人に聞けば済む話だよね)」








コンコン



鈴谷「提督、鈴谷だよー」



提督『ん、どうぞ』



ガチャ



鈴谷「こんばんは〜ていと‥‥って、何なのさ。この皿の量は‥‥」



提督「あ、あはは、実は赤城と加賀に夕飯作ってね。そしたらこんな量に‥‥」



鈴谷「あー‥‥なるほど。じゃあ、今時間大丈夫?」



提督「うん、大丈夫だよ。と言っても、時間は日付を跨いでる訳だし‥‥あまり時間は取れないけど」



鈴谷「そっか、じゃあ早いとこ言っちゃうね」



提督「何かな?」



鈴谷「提督が昔、"冷酷な完璧主義者"って言われてたのってホント?」



提督「‥‥‥‥」ハイライトオフ



鈴谷「っ‥‥‥」



提督「‥‥何処でそれを聞いたのかな?」ニコッ



鈴谷「(き、気のせい? 一瞬提督の目のハイライトが‥‥)」



鈴谷「あー‥‥えーっと‥‥ほ、鳳翔さんに教えてもらったんだよ」



提督「鳳翔さんか‥‥」



鈴谷「で、実際どうなの?」



提督「‥‥答えたくないかな‥‥」



鈴谷「え〜良いじゃんかー。ここには鈴谷しかいない訳だしさー」ウリウリ



提督「そう言われてもね‥‥」



鈴谷「む〜‥‥」



提督「‥‥‥じゃあさ、鈴谷はその言葉を聞いてどう思った?」



鈴谷「ん〜‥‥提督が冷酷だなんて全然想像つかないし、完璧主義者って訳でもないと思うし‥‥正直、嘘なんじゃないかって思ってる」



提督「‥‥そっか」



鈴谷「でもさ、あの鳳翔さんが嘘を吐くとは思えないんだよね。だからこうやって本人に聞いてる訳だし」



提督「‥‥‥‥‥」



鈴谷「それにさ、例えそれが本当だとしても鈴谷は気にしないよ」



提督「」ピクッ



鈴谷「昔は昔で今は今。今の提督は冷酷なんかじゃなくてすっごく優しいからね。鈴谷は好きだよ、そういう提督が」ニシシッ



提督「‥‥ふふっ、ありがとう、鈴谷。とっても嬉しいよ」ニコッ



鈴谷「あはは、どう致しまして〜」



提督「‥‥そうだ。良い加減話さなくちゃ‥‥」ボソッ



提督「‥‥分かった。明日、皆に話すよ。鈴谷」



提督「その言葉について‥‥いや、僕の過去を‥‥」






明らかになる過去




〜翌朝〜


【食堂】


ザワザワ




吹雪「いきなり召集ってどうかしたのかな?」



時雨「さあ‥‥良い事ではなさそうだけどね」



夕立「眠いっぽ〜い‥‥」





長門「提督の弱点‥‥弱点‥‥」ウ-ン



陸奥「まだ考えてるの? そんなに考えるくらいなら何か行動に移せばいいじゃない」



長門「そう言われてもな‥‥」





赤城「何でしょう‥‥大事なお話って」



加賀「‥‥分かりません」



飛龍「珍しいよね〜こんな風に集まるのは」



蒼龍「確かにね」




青葉「昨日はスクープが多過ぎて寝不足です‥‥」



衣笠「うわ‥‥隈すごっ‥‥」




大和「昨日は考えるだけで終わってしまいました‥‥」



武蔵「なに、今日実行すれば良いじゃないか」




千歳「‥‥‥」ウプ



千代田「お姉‥‥絶対二日酔いでしょ」




金剛「う〜‥‥提督のWeaknessなんて分かんないネ〜!」



比叡「昨日は何もしてませんですしね‥‥」



榛名「でも、まだチャンスはありますよ!」



霧島「私の計算からして提督の弱点は‥‥」ブツブツ





翔鶴「はぁ‥‥」



瑞鶴「あれ、溜息なんて吐いてどうしたの翔鶴姉」



翔鶴「瑞鳳さんが羨ましい‥‥」



瑞鶴「え?」





最上「ねえ、昨日提督になんかした?」



熊野「私は何も」



鈴谷「クッキー渡せなかったもんね〜」ニヤニヤ



三隈「くまりんこ!」




鳳翔「本当に良いのですか‥‥?」



提督「はい、昔に囚われすぎるのも良くありませんし‥‥それに、皆を信じてますから」



鳳翔「‥‥そうですか」ニコッ




提督「‥‥‥‥‥‥」スタスタ



長門「———っ、敬礼」



全艦『!』ビシッ



提督「直って良いよ。ごめんね、急に呼び出しちゃって」



長門「なに、構わないさ。提督が呼ぶのであればすぐ駆けつける」



陸奥「そうね、提督の召集だもの♪」



提督「ありがとう、長門、陸奥。‥‥今日は、皆に話したい事があるんだ」



提督「僕の‥‥"過去について"」



艦娘達「!」



大和「か、過去ですか?それはまたいきなり‥‥」



提督「そうだね‥‥でも、皆には伝えておきたいんだ。信頼している、皆だからこそ」



大和「‥‥勿論、私も提督の事は信頼していますよ」フフフ



『私も信頼してるわ!』


『私もー!』


『お慕いしていますー!』


『勿論私だってー!』



提督「ふふっ、嬉しいよ。本当にありがとう、皆」



提督「‥‥それじゃあ話そうか。僕の過去を」







僕の家は代々海軍に勤めていた家系だった。


祖父は海軍中将。父さんは海軍大将。


母さんは僕が物心つく前に亡くなってしまったらしい。


父さんが言うには、いつも明るく、明朗快活な人だったそうだ。


父さんは提督として、横須賀鎮守府に着任していた。


横須賀は毎回戦果一位。他の鎮守府と大差で離し、数少ない精鋭の鎮守府の提督として、名を馳せる程の海軍では有名な人だ。


それは次期元帥とまで言われる程だった。


そんな中、その息子として生まれたのが僕だった。


僕は小さい頃、父さんに凄く憧れていたよ。


僕の目に映る父さんの姿はどれも格好良かった。


その影響もあったからだろうけど、将来は僕も提督になると意気込んでいたんだ。


だけど、その道のりは簡単なものじゃなかった。




『鳴海、早くしろ。時間は無いんだぞ』


『はい‥‥‥』


僕が中学生にまで成長した時。


僕が夢見た提督への道には、数々の苦しい訓練が待ち受けていた。


毎朝10kmのランニング。真刀の素振りを1000回。


これを毎日1時間の内に終わらせなければいけない。


『遅い!時間は過ぎてるぞ!』バシッ


『っ‥‥ごめんなさい』


目標の時間で終わらなければ暴力が降ってくる。


蹴られ、叩かれ、時には刃物を使ってまで‥‥。


そんな日が日常茶飯事だった。


当然、僕は父さんを恨んだ。


小さい頃に憧れていた父さんの姿はもう無く、其処には恨みの念が篭るだけ。


もう提督になりたくなんて無い‥‥‥そう思っていた筈だった。


でも、僕は諦めきれなかった。


父さんの姿への憧れを僕は拭いきれなかったのだ。


幾度も挫けそうになっても、あの小さい頃見た父さんの姿が鮮明に映る。


それが僕の活力となり、例え厳しくても、苦しくても‥‥僕は自分の夢を目指してやり続けた。


いつしか、父さんへ対する恨みは徐々に薄れていった。


父さんが言っていた思想。


『鳴海、お前は全てを完璧に熟せ。弱味なんて絶対晒すな。完璧であり続け、トップに立つことを考えろ。そうすれば、皆がお前に着いていく筈だ』


全てを完璧に熟し、弱味は一つも作らない。


それを目標にし、僕は全ての物事に取り組み続けた。


父さんも、習い事などは全てやらせてくれた。


スポーツ、文学、ピアノなどの音楽系も、全てを熟練するまで。


それを学校生活と並行してやっていた事もあり、僕は学校で浮いていたよ。


多分、気に食わなかったんだろうね。


僕はクラスの男子から虐められ始めた。


机や椅子には無数の落書き。


時には水を被せられ、暴力を受ける。


それを先生も気づかなかったのか、注意なんてしなかった。


気付けば、僕は完全にクラスで孤立していた。


今思えば、何でやり返さなかったのだろうと自分でも思う。


身に付けた体術を使えば返り討ちにだって出来た筈。


でも、やらなかった。いや、出来なかったんだ。


人を傷つける事への罪悪感と、やり返せない自分の弱い心があったから。


そして、体や顔など至る所に傷を残したまま家に帰ると、当然父さんが僕に聞いてきた。


『‥‥その傷は何だ』


『こ、転んでしまっただけです‥‥』


『嘘をつけ、転んだだけでそこら中に痣がつく訳ないだろう。‥‥答えろ。その傷はどうした』


『‥‥友達にやられたんです‥‥』


『‥‥やり返したのか』


『いいえ‥‥』


『何故だ、何故やり返さないっ』グッ


『‥‥傷つける事に対しての罪悪感と、自分の心の弱さが——』


瞬間、僕の腹部目掛けて強烈な蹴りが入った。


『ガハッ‥‥‥』


鳩尾に入り、僕は思わず倒れ込む。


『言ったはずだ、弱みを晒すなと。相手に情を与えるより、自分を優先しろ。自分の弱さを自覚するより、その弱みを無くせ』


『‥‥お前は彼奴に似てしまった。弱々しい"彼奴"とな‥‥』ハッ


この言葉を聞いた時、父さんに対する恨みが再び舞い戻る。


彼奴と表されている人が母だと理解する時間は遅くなかった。

父さんへ対する憧れが、恨みや憎しみとなり、憎悪が増す。


その感情はかつて無い程大きな物へと変化し、まるで僕の心を侵食するように飲み込む。


目の光が消え、ドス黒い感情が僕の心を埋め尽くした。


もう、父さんを父として見れない程に———。




そして、数年の月日が経過した時の事だった。


僕は中学、高校を卒業し、18歳で士官学校に入学。


この頃の海軍は人手が足りず、例え成人せずとも、提督の適性があれば提督として鎮守府に着任することができた。


幸か不幸か、僕は適性有りと認定され、数週間後には提督として鎮守府に着任する事になったのだ。


その時の僕の心は正に冷え切っていた。無の感情だけが心に残り続ける。


話しかけても冷たく接し、父さんから言われた完璧に熟す事だけを意識するだけ。


それでも、僕は士官学校で優秀な成績を収めていた。


この時からだ。


僕が"冷酷な完璧主義者"と言われたのは———。


この名が良くも悪くも知れ渡り、大本営では一目を置かれていた。


海軍大将である父さんの息子というレッテルが更にハードルを上げ、期待を寄せられる。


正直、期待されようがされまいがどうでも良かった。


弱みを無くし、完璧でいる事。


そうで無ければ、蹴られ、殴られ‥‥またあの人への憎悪が募るだけ。


親とは言いたくない、あの人の教育。


親の愛など一切ない、あの人。


そう、今までの僕は思っていた。



しかし、それを虚実だと証明した人は、紛れも無いあの人なのだ——。




そして、僕の着任一週間前。


元帥が着任へのお祝いの挨拶をしてくれるとの事で、僕は大本営に訪れていた。


元帥『"冷酷な完璧主義者"か‥‥随分格好良い異名だ』ハハハ


『‥‥自分はあまり』


元帥『なに、君はこれからなんだ。もっと良い異名が付けられることだろう』


元帥『彼奴の異名だって——』


憲兵『失礼します!』


元帥『何だ、そんなに急いで』


憲兵『よ、横須賀鎮守府から緊急電!我、深海棲艦ノ襲撃ヲ受ケツツアリとの事です!』


突如聞かせられた言葉に、思わず目を見張った。


横須賀鎮守府、父さんが指揮している場所だ。


『っ‥‥‥‥‥』


元帥『何!? 一体どういう事だ!』


憲兵『く、詳しくは分かりません。ただ、急に深海棲艦が現れ、鎮守府を襲撃したと‥‥今は何とか食止めているようですが、いずれ‥‥』


元帥『くっ‥‥直ちに増援をおくれ!大本営直属の艦娘でも良い!各鎮守府から救援を頼め!』


憲兵『わ、分かりました』ダッ


元帥『‥‥鳴海君、君はここで待っていてく——』


『行きます、横須賀へ』


元帥『‥‥‥本当に良いのかい』


『はい。父さん、が‥‥心配ですから』


何年振りだろうか。あの人の事を父さんと口にしたのは。


でも、今は憎悪や嫌悪感よりも、あの人の‥‥父さんの安否が気になる。


元帥『‥‥分かった。でも、君一人では行かせられない。誰か護衛の艦娘を‥‥』


鳳翔『私が行きます』


『っ‥‥鳳翔さん』ボソッ


元帥『鳳翔か‥‥良しっ、頼んだぞ』


鳳翔『はい、お任せ下さい』






目の前に広がる光景は正に地獄だった。


鎮守府全体が火の海に呑まれ、町の建物は崩れ落ち、サイレンの音と人の叫び声が混じり合う。


燃え盛る炎を目にし、僕はただ立ちすくんでいた。


『‥‥‥‥‥‥』


鳳翔『‥‥危ないですよ‥‥少し下がりましょう』


『はぃっ‥‥‥‥』


初めて味わう感情だった。


泥の様にへばりつき、心がギュッと締め付けられるような感覚。


理解出来ない。


理解したくない‥‥。


あの人が‥‥父さんが死んだなんて‥‥。


絶対に、絶対に‥‥。





今回の襲撃は、各鎮守府の増援部隊により深海棲艦を撃退。


しかし、横須賀鎮守府は崩壊した。鎮守府の修理には一年を催す程の被害だった。


だが、街の方の被害は微小。


父さんの指示で住民の避難を最優先にした事が功を奏し、決死の防衛により街は守られた。


それは、横須賀の艦娘達と父さんの命と引き換えに‥‥。



元帥『‥‥すまないが、君の着任は少し延期させて貰う事にするよ』


『‥‥‥‥‥』


元帥『それと、これを君に渡しておこうと思う。後で見てくれたまえ。‥‥それじゃあ、失礼するよ』ガチャ


バタン


『‥‥‥‥何で』ボソッ


恨んでいた筈の父さんが死んだ。


それなのに、気分が晴れる事はない。


『馬鹿‥‥当たり前じゃないか』


僕の唯一の家族。


憧れの、父さんだったのだから。


『‥‥‥‥っ』


机に置かれた一つの封筒。恐らく、先程元帥が置いたものだろう。


よく見ると少し焦げた跡がある。僕は封筒を手に取り、中身を見た。


そこに入っていたのは、数枚の便箋と一つの写真だった。


『手紙と‥‥写真?』


その写真には、にこやかに微笑む父さんと赤子を抱える女性が写っていた。


そして、僕は手紙に目を通す。








鳴海へ


「この手紙を見ているという事は、恐らく俺は死んだのだろう。


まあ、提督として皆を指揮して死ねたんだ。それなら本望だ。


俺が残って指揮を取るって言った時は皆首を横に振っていたよ。


提督は逃げるべきだとか、此処は私達が食い止めるだとか、指揮する提督が一番に逃げてどうするんだ!って俺が怒鳴ったら皆笑っていた。


思わず、俺も笑ってしまったがね。


そして、こんな俺に着いてきてくれた皆には感謝している。


でも、心残りとしては、鳴海ともう一度会って話したかった。


俺の後を継いだその姿を目にしたかった。


だが、どうやらそれは叶わないらしい。


ごめんな、鳴海。




思えば、俺は鳴海に恨まれても仕方ないことをずっとして来た。


恨まれて突然だろう。父親らしい事を一回もしてやれず死んだんだから。


俺の思想を自分の子にぶつけて、あたかも親の様に振る舞っていただけ。


本当に申し訳ない事をしたと思っている。


でも、鳴海には俺の様になって欲しくなかったんだ。


弱い心を持つ、俺の様に‥‥。




鳴海は良く覚えていないと思うが、母さんについて話しておかなければならない。


母さんの死因は病死だ。


若くして癌を発症してしまった。


ステージ3。だが、まだ助かる余地はあった。


手術をすれば助かる可能性が母さんには残されていたんだ。


そして、母さんは手術を受けた。


しかし、手術は失敗した。齢僅か22歳。


若くして母さんは死んだんだ。


俺はその時医者を酷く恨んだよ。


何で、何でだ!って口にして、医者に掴みかかった。


でも、そんな事をして母さんは帰ってくるはずがない。


ここからだ。俺が鳴海に対して"完璧"を押し付けるようになったのは。





俺は母さんの死を受け入れず酷く歪んでいたよ。


何処にぶつけて良いか分からないこの感情を俺は鳴海に向けた。


冷たく接し、時には暴力を振るう。


その度に、俺は自分を殴りたかった。


父親としての教育なんて一つも出来なかった、そんな自分を戒めていた。


時に、鳴海が身体中に痣や傷だらけになって帰ってきたときがあったな。


その時、俺は直ぐに理解したよ。鳴海が虐められている事を。


でも、俺はそんな鳴海に温かい言葉をかける訳でも無く、蹴りを入れた。


鳴海の言葉を聞いた時、鳴海は俺に似てしまったと酷く後悔したよ。


俺と同じ、弱い心を持ってしまった。


鳴海には、俺の様になって欲しくなかった。





だが、今思えば鳴海のその心は俺と同じ物じゃなかったんだ。


お前は優しい心の持ち主なんだ。


弱い心を持つ、俺とは違って。


だから、お前には誇って欲しい。


こんな事をして許されない事は分かっている。


親としてなど厚かましいかもしれないが、鳴海には自分の夢へと向かって欲しいんだ。


例えそれが海軍職じゃなくても良い。


自分でやりたい事を見つけ、それを精一杯取り組め。


一つ、父さんからのお願いだ。





さて、そろそろ時間のようだ。


艦娘達が頑張ってくれている。俺も直接指揮にいかなければならない。


だが、最後に一つ伝えておきたい。


一度も鳴海には言えなかった言葉を。



愛しているよ。俺の子として生まれて来てくれて"ありがとう"——。




この手紙が鳴海もとへ届くことを願う」








『っ‥‥‥‥』ポロポロ


瞳から涙が止まらなかった。


『父さんっ‥‥父さんっ‥‥!』グスッ


壊れた蛇口の様に溢れ出す涙と嗚咽が混じり、視界が潤む。


初めての父さんの言葉と衝撃の真実を目にし、今まで父さんを恨んでいた自分を戒めたかった。


父さんの酷く不器用な伝え方でも、愛されていた事を理解出来た。


冷たく、冷えた父さんの心にあった子を想う気持ち。



僕は手紙と写真を握りしめ、嬉しさと後悔が混ざり合う中、涙を流し続けた——。









提督「‥‥その一年後、新しく再建された横須賀鎮守へと僕は配属。そして、今に至る」



提督「これが僕の過去、だよ」



艦娘達「‥‥‥‥‥‥‥」



提督「‥‥正直、昔の様に戻ってしまう時は少しある。その心の弱さが、僕の弱点かな」



鈴谷「っ‥‥‥‥‥」



提督「‥‥今日の出撃は無しにするよ。勿論、遠征もね。各自しっかり休む事。それじゃ‥‥」スタスタ



艦娘達「はい‥‥‥」



鈴谷「‥‥‥ごめん、皆。‥‥提督の弱点を見つける作戦は中止にするね‥‥」



吹雪「そうですね‥‥」



赤城「‥‥分かりました」



加賀「‥‥‥‥‥‥」









提督「皆のあの顔‥‥そりゃ当然か。‥‥これから気まずい空気が続くだろうな」



提督「‥‥弱みを無くさないと。こんなんじゃ‥‥」グッ



提督「っ、はぁ‥‥完璧に固執する事を止めるのが、まさかこんなにも難しいとはね‥‥」


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