2016-11-01 19:23:24 更新

概要

「卯月の章」再掲です
ほんの少し手直し

ツイッターのURLを新しくしました


前書き

再掲です、色んな方に見ていただけたらと思っています

ツイッターのURLとアカウント名は後書きに記載しています、お手数をおかけしますがPCでご覧になっている方でも飛べるようにしておきました


プロローグ



深海棲艦の出現により戦場と化した海で活躍する艦娘達。

彼女達が所属する世界各地にある数多の鎮守府は人々に希望をもたらす存在として多くの声援を受けていた。



だがあるところに誰も名を知らない鎮守府があった。

そして、名のない鎮守府は人々から不幸鎮守府と呼ばれ忌み嫌われていた。



この物語はそんな鎮守府に左遷された提督とそこに住む艦娘の日常とほんの小さな幸せを記したものである。







出会いの不幸




4月、またの名を卯月

それは春の訪れと新たな出会いをみんなで分かち合う桜咲き乱れる月である。

ちょっとオイタが過ぎてしまい、お巡りさんにお世話になる人が出てくる時期でもあるのだが、新しく始まる生活に心を踊らせる者も多いだろう。



だが・・・



提督「はあぁ・・・」



昼時だというのに妙に肌寒い今日この頃、空を見上げると今にも泣き出しそうな灰色の空がこちらを見下ろしていた。

満開の桜の花も心なしか物悲しさを演出している。



提督「まさかあんなことで転勤にさせられるなんてな・・・」



先々週の金曜日に大本営から通達があり、それまで勤めていた鎮守府から移動させられることになったのだ。



まあ、それが何の変哲も無い普通の鎮守府であるなら辛いことと言えば一緒に頑張ってきた艦娘と別れることぐらい(それでも十分辛い)なのだが、何を隠そう次なる勤め先は不幸鎮守府と呼ばれる配属されたくない所ランキングでブッチギリのトップに位置する例の鎮守府なのだ。



提督「これから俺どうなるんだか・・・」



鎮守府へと向かう電車の中で提督は一人絶望の淵に立っていた。



そもそも、不幸鎮守府とは何か。

不幸鎮守府とは誰もが知っているのに誰もその名、ある場所を知らない都市伝説のような鎮守府である。



元々は落ちこぼれた提督を教育しなおすための場であり、あまり成果を上げられていない者や提督としての振る舞いに問題がある者が毎年4月から翌年の3月までの1年間勤務することになっていた。



端からみればかなり正当な軍の機関であるのだが、どういうわけかこの鎮守府は不幸を招くと言われている。



とある提督は羅針盤が絶対に望まない方向へと進路を決めてしまい、全くといって良いほど攻略ができなかった。

またある提督はドロップ艦を手に入れようが大型艦建造をしようが何をしようが全て同じ艦娘しか出てこないという地獄を味わった。

またまたある提督は味方の攻撃が全てカスダメしか出せなかったのに対し、敵の攻撃が全てクリティカルとなって駆逐艦に戦艦が沈められるという事案が発生。財政面と精神面の両方に大打撃をくらったそうだ。



そんな異常なまでに人を不幸にする鎮守府はそれだけが問題ではない。



そこに所属する艦娘もとんでもない者達ばかりなのだ。



性格上の問題で自分とは合わないとされた者や、何かしらとんでもないことをやらかした者、度重なる任務のせいで精神に異常を来した者、極端にやる気に欠ける者、欠陥のようなものが見られる者などが不幸鎮守府には集められていた。



何故そんな事をするのかと尋ねたところで明確な答えが返ってくるわけではないのだが、あえて言うなら2度と配属されることのないようにするための戒めの意味や、そのような困った艦娘にも居場所を与えてあげるためなのだろう。



何はともあれ、どこをとっても欠点しか見つからないこんな鎮守府は誰1人として配属されたいと願う者はいなかった。



それでは、何故この男はここに左遷させられることになったのか。彼は別にこれといって性格に問題があるわけでもないし、仕事だって特別優秀とはいかないにしろ日々真面目に頑張っていたのである。



ただ運の悪いことに昨年の忘年会のときにあまり飲めない酒を上司に無理矢理飲まされそのせいでかなり酔ってしまい、酔った勢いで後輩と間違えて上司にワインをぶっかけてしまって、挙句には空のボトルを上司の頭部にぶつけてしまったのだ。



そのことが問題となり、飲ませた上司が悪いとは言え不良提督の判を押されてしまい今に至るというわけだった。





憂鬱な気分をただひたすらに味わうこと数時間(実際は数十分)、件の鎮守府がある町の駅に到着した。駅を出てまず視界に映りこんだのは黒い海の見える港町だった。だが決して町の雰囲気は暗いというわけではなく、どちらかというと活気に溢れている。海だって天気が良ければとても綺麗に見えるのだろう。とても不幸の名を持つ鎮守府があるとは思えない町だ。



そんなことをぼんやりと考えていると赤い髪をした少女がこちらに向かって走ってきた。



だが何かにつまづいたのだろう、盛大に少女がコケた。慌てて少女の元へ駆け寄る。



提督「お、おい大丈夫か?」



?「痛た・・・転んじゃったぴょん」



提督「怪我がないかちょっと見せてみろ・・・あ、膝が擦りむけてしまってるな。ちょっと待ってろ、すぐ手当てしてやる。」



少女を手頃な駅前のベンチに座らせる。不幸鎮守府というくらいだから、着いたら怪我の一つや二つするだろうと思って持ってきた救急セットが早速役に立ってくれた。止血と消毒を済ませ、女の子に使うには少し抵抗があるサイズの大きな白い絆創膏を貼る。

ついでに何故かはわからないが間違って購入してしまったレディースの黒いニーハイに履き替えさせる。これなら絆創膏が目立つことはないだろう。



?「ありがとぴょん」



提督「いいさ、このくらい気にするな。他には怪我してるらところはないか?」



卯月「もう大丈夫だぴょん。私卯月っていうピョン、皆からはよくうーちゃんって呼ばれてるぴょん。あなたが新しくこっちにきた司令官さん?」



そう言えば、上司の過失ということもあり特別に睦月型の艦娘を全種配属してくれるという話があった。卯月だけ一足先にやってきたのだろうが、4月だからと言って卯月を1番によこすのはすごく安直というかなんというか・・・まあそこにツッコンでも仕方あるまい、何にせよ人懐っこそうな可愛い娘である。



提督「ああ、初めまして。この度ふk・・・むぐっ!」



卯月「それ以上はタブーだピョン。」



急に口を塞いできた卯月がキョロキョロと辺りの様子を窺っている。



卯月「・・・ふう、大丈夫だったみたいだピョン。」



提督「ぷはっ・・・おいおい急にどうしたんだよ。」



卯月「わからないピョン?」



提督「え?何が?」



再度卯月が周囲を見回すと、耳元に顔を近づけてくる。



卯月 (この町にそんなものがあるなんて知られたら町が大変なことになっちゃうピョン。)



提督「え?そうなのか?」



卯月 (当たり前ピョン、町の人達はあれの存在を知らないんだピョン。)



なるほど、てっきり周知のことだと思っていたがそうではないらしい。確かに不幸鎮守府があると知っててこの町に住むのはどうも腑に落ちないし、万が一知ってしまったら住民全員が町から消えるか、町民が鎮守府をバラしに来るだろう。



提督「そういうことか、わかった。ここではその名前を口にすることは絶対しない。」



卯月「わかってもらえて良かったピョン。」



提督「それにしてもよくそんなことがわかってたな?」



卯月「うーちゃん、司令官の補佐として頑張るように言われたんだピョン。例え行き先があそこでも司令官さんがどんな人でもちゃんと頑張れるように勉強して来たんだピョン。」



提督「そっか、卯月は偉いな。」

なでなで



卯月「うん!うーちゃん頑張るピョン!」

ニコ



卯月がお日様のような笑顔を見せる。娘がいたら絶対親バカになりそうに見える上司が、睦月型を配属してくれると言ったときに「存分に癒されるといい。」と言ったのを聞いたときは、



提督 ((なんだこのロリコンは・・・))



と嫌悪感を示したのだがなるほど、これは確かに癒される。どんなに疲れていたとしてもこの笑顔を見せられたら何度でもゾンビの如く復活できる気がする。



提督「まあその、改めてよろしくと言いたいところだけど・・・悪いな、俺なんかのために付き合わせちまって。」



卯月「ううん、別にいいんだピョン。むしろこうなって良かったピョン。」



提督「え?どういうこと?」



不幸鎮守府に行く方が良かっただと?解せぬ。



卯月「うーちゃん、前の司令官と喧嘩して鎮守府から出て行ったピョン。」



提督「ええ!?」



なんと、そんな娘がいるとは・・・



提督「因みに、原因は・・・?」



卯月「司令官ったらうーちゃんの大事にとっておいたプリンを勝手に食べちゃったんだピョン。」



提督 (え・・・)



そんなことで鎮守府を辞めるとは、やはり不幸鎮守府に行くということは当然の如く曰く付きだったのか。



卯月「でも、それだけじゃないんだピョン。前にも何回もお菓子食べられたり、うーちゃんのスプーン勝手に使おうとしたり、帽子の臭いを嗅いでたり、お風呂覗こうとしてたこともあるんだピョン。」



卯月「でももっと酷いことされたんだピョン、洗濯物を漁ってうーちゃんのパンツを頭に被ってたこともあるんだピョン。」

ジワ



卯月の目にはいつの間にやら涙が溜まっていた。



卯月「あんなクソ変態司令官はもう嫌だったんだピョン!何があってももう2度と帰らないピョン!」



可愛らしい見た目を一瞬で台無しにしそうな台詞を叫んだあと卯月が提督に抱きついてきて、そのまま泣き始めた。女の子に抱きつかれるなんて生まれて初めてだったので何をすれば良いのかわからなかったが、とりあえず頭を撫でてみる。



それにしてもそのロリコン提督め、許さん。こんな可愛い娘を泣かせるとは提督以前に男失格だ。今度会うことがあればそいつの✖️✖️✖️をギッチョンしてやろうか。(自主規制)



しばらくすると泣き声がすんすんという鼻の音に変わり、その音が鳴り止む頃には卯月は寝息を立てて眠ってしまった。ひとまずベンチに横たわらせ上着をかけてやる。



提督「大変だったんだな・・・」



提督に反抗する者の少ない鎮守府で出ていくという選択は彼女にとってかなり勇気が必要だっただろう。下手をすると解体されるかもしれなかったのだ。



提督 (俺は卯月みたいなやつを1人も生み出してないだろうか・・・?)



前までいた鎮守府で好かれていたわけではないが、同時に嫌われていたわけでもないのでそんなことは無いと思う。だが提督LOVE勢の呼び声高いあの金剛にすら一言も好きだと言われたことが無いので何だか不安になってきた。

記憶を全て洗い出して自分に向けられる目線の中に暗いものがなかったかを探してみるも、全く心当たりがない。だが、脳が自分の知らないところでそういった感情が渦巻いていた可能性を提示してきたので余計に不安になってくる。



提督「うーん・・・・まあわからないことをいつまでも考えていても仕方ないよな、あっちに着いて落ち着いたら叢雲にでも電話して聞いてみるか。」



提督が初めて鎮守府に着任した時からずっと側で支えてくれた彼女は、提督が1番信頼していた艦娘だ。多少なり毒を吐かれるだろうが彼女ならなんでも正直に話してくれるだろう。少し怖いが、彼女の言葉であれば受け入れられる気がする。



提督「あいつら今どうしてるかな。」



鎮守府の仲間達に思いを馳せる。提督がいない間は代わりの者が指揮を執ることになっているそうなのだが、ちゃんと仲良くやれるだろうか。まあ、そこに関しては杞憂に終わるだろう。寧ろ帰ってきたときに居場所が無くなりそうで怖い。



次から次へと溢れてくる不安に一々対応していると、見慣れぬ外車が目の前で停まった。中から軍服を着た男が出てくる。多分迎えに来てくれたのだろう。



教官提督「貴様が新しく配属される提督か?」



提督「はい、そうです。」



教官「私は今日付で貴様の教官を務めることになった者だ。呼び方は教官で構わん。」



提督「えー、一年間よろしくお願いします。」



教官「うむ、あまり歓迎はしたくないがな。」



いかにも軍人然とした厳しそうな人物である。厳めしいというわけではないが、堂々としているのがかなり様になっている。



教官「そこで寝ているのは?」



提督「今日から補佐をしてくれることになった卯月です。今はちょっと泣き疲れたみたいで・・・」



教官「なんだ、出会って早々泣かせたのか?」



提督「いやいや!そんなことはしてませんって!ちょっと辛いことを思い出してしまったみたいで・・・」



教官「冗談だ、他の者なら話は別だが貴様ならそういうことではないことくらいわかる。」



提督「え・・・?疑わないので?」



教官「今まで何人もあの鎮守府に送られた者を見てきたんだ、少し話せばどんな人物かはおおよそ見当がつく。からかってすまなかった、初めてまともな者が来たことに少し興奮してしまったのだ。」



口調は相変わらず堅物そうだが、意外とユーモアのある人らしい。何となくだがどこか加賀と似てるなと思った。



教官「まあ立ち話もなんだ、ひとまず乗れ。鎮守府まで送ろう。それに卯月をいつまでもこんなところで寝かせておいたら風邪をひくかもしれん。」



提督「ありがとうございます。」



卯月を落ちないように後部座席に寝かせ、自分は右側の助手席に座る。運転する際にいつも乗っているところにハンドルが無いというのは初めてのことなので、格好良い外見も相まって結構ワクワクする。新車を初めて運転する時のあの感覚とはまた一つ違う胸の高ぶりに童心が蘇りそうである。



提督「おおぅ、おうおう。」

キラキラ



興奮し過ぎて感動を伝えようにも上手く言葉が出てこない。今ならあのスピード自慢ともフィーリングが合う気がしてきた。



教官「あまり興奮するなよ。まあ、普段乗り慣れない車に乗ってワクワクする気持ちは私にもわかる。」



提督「はは、すみません。でもこれすごいですね。もう格好良いとしか言えない自分が恥ずかしい。」



教官「シボレーのコルベットだ、ヨーロッパのスポーツカーと真っ向勝負ができるほどのスピードが特徴でな、かなり値の張るシロモノだがつい一目惚れして買ってしまった。」



提督「うーん、確かにこれは一目惚れする気持ちもわかります。」



教官「そうか、理解してくれる者がいてくれて私も嬉しく思う。」



提督「あ、やっぱり奥さんとかに反対されたので?」



教官「いや私はまだ独身だ。結婚願望が無いわけではないが、こうして好きな車に乗れるのは独身ならではの一つの楽しみだからな、しばらくはこのままでも良いと思っている。」



提督「一理ありますね。」



教官「職場だと基本私以外は全員艦娘で男がいないからな、こうして趣味を共有できるというのは素晴らしいことだ。」



提督「教官も提督業を?」



教官「ああ、普段はこの町の表の顔としてあの鎮守府に勤めている。ほら、見えるか?あれだ。」



教官の目線の先を追いかけると、確かに鎮守府らしき建物が確認できる。



提督「え?あそこがこれから行くところじゃないんですか?」



教官「そんなことあるわけないだろう。例の鎮守府が人目につくのことは断じてあってはならないからな、あんな目立つ場所に建てやしない。」



それならばこれから行く鎮守府はどこにあると言うのだ。それだけ人に見られてはいけないものだ、洞窟の中か、地下深くか、それともラピュ◯よろしく天空に浮かんでいるのだろうか。ひょっとすると海底で深海棲艦と共存しているかもしれない。何にせよ、アクセスが良いとは絶対に言えないことだけはわかった。



教官「ふふ、安心しろ、竜宮城が鎮守府だとかそんな夢物語があるわけない。ちょっと人目に付きにくいだけであとは普通の鎮守府だ。」



流石教官、考えていることの的を正確に射てきた。まあ確かに不幸鎮守府だからといって何でもかんでもイレギュラーだと思うのは良くないだろう、地下ならまだしもラ◯ュタからどうやって出撃するというのか、そんなことを考えていた自分が少しばかり阿呆に思えてきた。



教官「まあ、お前が思っている通りあそこは見た目こそ普通だがかなりイレギュラーな部分が多い、最初は困惑することが多くなるだろうから用心するに越したことはないぞ。」



提督「!?」

ビクッ



また心を読まれた気がする。まさかとは思うがこの教官は実はエスパーなのだろうか。だとすれば、頑張れば自分から話さなくとも会話できるのではないだろうか。



教官「ふはは、まさかそんなことができるわけがないだろう?私は超能力などこれっぽっちも使えんよ。」



提督 ( ゚д゚)



教官「なんだ?随分と締まらない顔をしているな、何かあったのか?」



提督 (いやいや、あんたのせいだよ!)



流石に3度も心を読まれたとなると偶然では説明がつかない。やはりエスパーだったのか?



教官「すまんな、少々驚かせたか。まあ毎年同じような質問をされているから大体何を考え思うかはわかっているのだ。つまるところ私は本当に普通の人間だ、特殊な能力など持ち合わせてやしない。」



慣れであそこまでわかるのは絶対有り得ないと思うのだが、まあ彼がそういうのなら大人しく信じておこう。



教官「さて、そろそろ目的地に着く。車内に荷物を置き忘れるようなことはするんじゃないぞ。」



提督「あ、はい・・・え?」



教官「ん?どうした?」



提督「今なんと?」



教官「そろそろ着くから降りる準備をしておけと言ったのだが。」



提督「え、でも鎮守府なんてどこにも・・・」



そう、提督が確認できる範囲では海と防砂林と森と絶壁となっている崖のみだ。どこにもそれらしい建物はない。



教官「ふむ、まあ行けばわかる。さて、ここらで良いか。降りるぞ。」



提督「え!?」



教官が何にもない所で車を停める。そして何の躊躇もなく降りようとする教官を、提督は慌てて引き止めた。



提督「あの、ちょっと説明してもらえないですか?」



教官「説明だと?うーん、説明といっても今話すことはあまりないからな。」



提督「えっと、もう鎮守府に着いたというわけではないんですよね?まさかここが鎮守府だなんて思えないのですが。」



教官「ああ、それはそうだ。でもここからほんの少しだけ歩けばすぐに着く。」



提督「・・・え?」



あまりの突拍子もない答えに慌てて周囲を見渡すがやはりそんな建物などない。やっぱり海の中かと思って注意深く見てみるが、先ほど教官が言ったようにそんなところにあるはずもなかった。



教官「さ、この荷物は私が持とう。貴様は卯月を頼む。」



提督「あ、いや自分でやるので大丈夫です。卯月も今起こします。」



半信半疑のまま一旦車から降りて後部座席へとまわる。



提督「おーい卯月、そろそろ起きr・・・っておおう!?」



ドアを開けると、卯月が細いけど健康そうな太腿を露わにして寝ていた。幼い外見からは想像もできない艶かしさを秘めた寝相に、危うく潜在意識の奥底に眠る新たな性癖が目を覚ましそうになる。どうにかこうにか目覚めを回避し、女性の寝相をマジマジ見るのは失礼だと自分に言い聞かせる。だがそれほどまでに彼女のもつ、ニーハイとギリギリまでたくし上げられたスカートによって構成される絶対領域は凄まじい破壊力を持っていた。おそらく、そういう趣味の人だったら男女問わず確実に鼻血を出して卒倒しただろう。



目のやり場に困る下半身から目を逸らし、肩を叩いて卯月を起こす。



提督「おーい卯月、着いたぞ。」

トントン



卯月「ん、うにゅ・・・ん?」



卯月「あ、司令官…おはようぴょん・・・ここどこぴょん?」



提督「どうやら着いたらしいぞ。」



卯月「あれ、うーちゃんなんで車の中で寝てるピョン?」



卯月「は!まさかうーちゃん知らない間にハイエースされてダンケダンケ!?」



提督「んなわけあるか!」



なんで卯月がそのフレーズを知っているのだろうか…



提督「俺の教官役の人…まあ教官が乗せてくれたんだ。」



卯月「そうだったんだ。で、なんでこんな何もない所で降りるぴょん?」



提督「さあ、俺にもイマイチ・・・」



教官「おーい、何をしている。早く行くぞー。」



崖側の方から教官の呼び声が聞こえてくる。海と真反対の方に向かって歩く彼に若干の不信感を感じながら、2人はとりあえず後を追った。



提督「あの、何故こっちに行くんですか?」



教官「決まっているだろう、鎮守府に向かっているからだ。」



卯月「こっちは崖しかないピョン。」



教官「黙って付いて来ればそのうちわかる。」



もったいぶってなかなか教えてくれない教官にヤキモキしながら歩いていると、崖に空いた小さな亀裂が見えてきた。



教官「さ、着いたぞ。ここが鎮守府の入り口だ。」



教官が指し示したそれは、亀裂自体の高さは3mほど、横幅は軽自動車一台通れるか通れないか程度、実際の高さは人1人くぐり抜けるので精一杯な大きさだ。奥はかなり深そうだが、ずっと向こうに微かな光が見てとれた。



提督「えっと、ここを通り抜ければいいんですかね?」



卯月「狭くてちょっと怖いピョン。」



教官「確かに狭いし、所々低くなっていて少々危なっかしいが、ここが鎮守府に辿り着ける唯一の道だ。まあ一応海から入れる所がないわけではないがあそこは艦娘だけしか出入りできないからな。」



卯月「あ、それなら私はそっちから行くから場所を教えて欲しいピョン。」



提督「ちょ、卯月待ってくれ!俺を1人にしないでくれ!」



卯月「司令官ごめんピョン、でも司令官は艦娘じゃないし、教官さんがいるからきっと大丈夫だピョン。」



提督「そんな!頼む卯月!後生だから側にいてくれぇ!」



教官「まあ待て待て、艦娘限定といっても艦娘なら誰だろうと利用できるわけじゃない。卯月、お前はまだ正式に着任したことになっていないから行っても入れてもらえないどころか不審者扱いされて砲撃されるぞ?」



卯月「ええ!?そんなぁ!じゃあここを通らないといけないピョン!?」



教官「その通りだ。」



提督「ふう、良かった・・・」



卯月「うう、こんな怖いところを通らないといけないなんてツイてないピョン。」



どうやら卯月は狭くて暗い所が苦手なようだ。だがそのことに気付かない提督はひとしきり安心しきっている。それを面白く思わなかった卯月は、あることを思いつくと教官に耳打をした。



卯月「あの、教官さん。」

ちょいちょい



教官「ん?どうした、何かあったか?」



卯月 (ちょっと司令官にいたずらするから協力して欲しいピョン。)



教官 (お、何か策でもあるのか?)



卯月 (このICレコーダーに私の声を録音して司令官のバッグにくっ付けるんだピョン。)



教官 (ほう、それから?)



卯月 (その次はあーして、こーして・・・)



教官 (ふむ、なるほど了解した。)



卯月 (教官さんが話のわかる人で良かったピョン。)



教官 (私とて遊び心を忘れたわけではないからな、こういうのはあまり過度のものでなければ寧ろ大歓迎だ。)



いたずらと言ったのにも関わらずこの教官ノリノリである。口調と表情によらずかなりユーモアのある人らしい。



提督「2人して何を話しているんですか?」



卯月「い、いや何でもないピョン!気にしないで欲しいピョン。」



教官「そうだ、少しばかり何気ないけれどちょっと大声では言えない世間話をしていただけだ。」



何気ない世間話がどうして大声で言えないのだろうか、正直かなり無理のある誤魔化し方だが、提督は少しも疑った様子を見せずまたまたさっきの亀裂の中を覗いたり止めたりしている。



卯月 (それじゃあ教官さん。)



教官 (うむ、何時でも構わん。)



提督が目を離した隙に、提督の荷物にICレコーダーを取り付ける。そしてそれが終わると教官が提督に声をかけた。




教官「さあ、そろそろ出発しよう。いつまでもここにいたって仕方ない。」



提督「え、あ、はい。わかりました。」



教官「先頭は貴様に任せる。」



提督「ええ!?ここは普通教官が先導するものでしょう!?」



教官「別に一直線の道だから大したことはない。私の案内すら必要ないくらいだから大丈夫だ。それに男たるものこのくらいでビクビクするのは良くないだろう?」



提督「う・・・」



教官「さあ、お前が誠の勇者であることを見せてもらおうか。」



卯月「司令官!ファイトだピョン!」



提督「わ、わかった・・・」



提督「ちくしょぉう!!仕方ねえ!!俺が漢だってこと思い知らせてやらぁぁぁぁ!!野郎共!!付いてこぉぉぉぉぉい!!」



提督がほとんどヤケくそになりながら亀裂に突っ込んでゆく。



教官「おーい!途中落とし穴になっているところがあるから迂回しろよ!」




卯月「ふふふ、司令官め、まんまとかかったピョン。」

ニヤリ



教官「本当、これは見ものだな。」

ニヤリ



卯月が提案したのは単純に「いると思っていたのに振り返ると誰もいない作戦」だったのだが、教官が亀裂の真ん中辺りには実は行き止まりへと分岐する場所があると教えてくれたのでワザと行き止まりへと誘導して提督を恐怖のどん底へと突き落とそうという作戦になった。



卯月「まさかこれが役に立つとは思わなかったピョン。」



卯月が先程提督の荷物に取り付けた物と同じICレコーダーを取り出す。これは卯月が前の鎮守府から出て行く際にロリコン提督からくすねた物で、メカに強いロリコン提督が人の声に反応して録音した音声を再生できるように市販のレコーダーを改造したものだった。

ロリコン提督はこれを使って何かよくわからない物を作ろうとしていたのを知っていた卯月は日頃の憂さ晴らしにこっそり盗んだのだった。



卯月「うーん、そろそろひっかかってくれる頃合いピョン?」



教官「そうだな、間も無くだと思うが。」



提督『うぉぉぉ!迂回するとこってここかぁぁ!左か!左なのかぁぁ!』



亀裂の中から提督の声が聞こえてくる。しかも上手いこと間違った分岐に誘導できたようだ。



卯月「さて、あとはここでノンビリ待つだけピョン。」



教官「うむ。」



空を見上げると、曇りなのには変わりないが、今にも降り出しそうな感じではなくなっていた。少しだけ気温も上がったようだ。







一方、提督は



提督「うぉぉぉ!暗い、暗いぞぉぉ!卯月、本当にこっちであってるのかぁぁ!?」



レコーダー

「このまま道のりに進んで大丈夫だピョン!」



提督「よしきた!さあ、この俺に付いてこぉぉい・・・ってうお!?」



ズデン



一部大きく盛り上がった石につまづいて転倒する。暗くて足元への注意が疎かになっていたらしい。



提督「痛え、こけちまったな。おい卯月、大丈夫か?」



レコーダー

「このまま道のりに進んで大丈夫だぴょん!」



提督「いや、俺は大丈夫かと聞いたんだが・・・」



レコーダー

「このまま道のりに進んで大丈夫だぴょん!」



提督「おいどうしたんだよ卯月、まさかお前もこけて頭がおかしくなったのか?」



レコーダー

「このまま道のりに進んで大丈夫だピョン!」



提督「おいおい、本当にどうしたんだ?何かあったのか?」



様子のおかしい卯月の元へ手探りで近づいて行く。だが、手を伸ばしても声のする辺りの空間には卯月らしいシルエットが確認できない。

荷物を降ろしてもう少し進もうとすると、降ろしたときにガチャという不自然な音が聞こえた。



提督「ん?何か着いてるのか?」

ガサゴソ



提督「・・・何だこの四角いの、暗くてよくわからねえな。」



レコーダー

「このまま道のりに進んで大丈夫だぴょん!」



提督「うおお!?」



提督「え、まさかさっきから喋ってたのはこれだったのか?」



提督「は、そういえば教官の声が全然しなかった。つまり・・・」



騙されたのだ。道理で変な方向に誘導されたわけである。落とし穴があるから迂回しなければいけないという簡単な嘘にまんまと嵌められたようだ。



提督「はぁ、やられた。」



レコーダー「このまま道のr・・・」



提督「うるせぇ!ちょっと黙ってろい!」

ガシャン!



提督が手にしていたレコーダーを思いっきり地面に叩きつける。バチバチと火花がを撒き散らしたそれはそれっきり何も言わなくなった。



提督「ど、どうする?暗くて何も見えねえし、2人がどこにいるのかすらわからねぇ。」



目を開けているにも関わらず何も見えないということが次第に不安感を増大させる。時折聞こえる得体のしれない何かが這う音が気味悪さを演出してくるのでどんどん恐怖心が心を侵略してくる。



自分でもそこそこ神経が図太い方だと自覚している提督でも、さすがにこの状況には耐えられなくなってくる。大の大人がみっともないとかそんなのはどうでもよくなってきた。



提督「た、助けてくれぇ・・・」



当然返事がない。先ほどの奇声レベルの声を出すことができればよいのだが、もう子供じゃないのでこういうときは声が弱々しくなってしまう。それでも諦めずに助けを求め続ける。



何度かみっともないSOSを出していると、懐中電灯のものと思われる明かりが見え、卯月のものではない女性の声が聞こえてきた。



?「あの、そこにいるのはどなたでしょうか・・・?」



提督「た、助けて下さい。道に迷ってしまって困ってるんです。」



?「教官さんではありませんね・・・まさか侵入者!?どうしましょう。」



提督「あの、できればここから出して頂けると助かるのですが。」



?「うーん、できれば助けて差し上げたいのですが・・・どうしようかしら、教官さんに相談したほうかいいのかしら。」



逆光で姿がよく見えない女性は、自問自答を始めてしまってこちらの話が聞こえていないようだ。できれば早く脱出したい提督は女性の方へ歩みよる。



提督「あの・・・」



?「ここは何事もなかったかのように

秘密裏n・・・え?・・・きゃあ!」



提督「うわぁ!す、すみません!」



?「ビ、ビックリしました。」

ドキドキ



提督「も、申し訳ない、驚かせるつもりはなかったのですが。」



別に音もなく近づいたわけではないのに全く気付かれていなかったらしい。しかも物凄くひかれてしまった、どうやらかなりビビりな性格のようだ。



?「こちらへはどういったご用件ですか?」



提督「えっと、実は自分この度ふこu

ゲフンゲフン、えっとこの近くにあるという鎮守府に着任することになった者なのですが。」



?「まあ、ということは新しい提督さんですか?」



提督「え?ということは・・・」



扶桑「気付くのが遅くなり申し訳ございません。初めまして、扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。」



提督「あ、よかった。扶桑さんだったのか。えっと、こちらこそ初めまして。」



まさか不幸と名のつく鎮守府なら絶対いるだろうなという艦娘第一位に早速出会うとは思わなかった。このぶんなら絶対に第2位の不幸不幸詐欺のあの人もいるのだろう。



それにしても、艦娘が尽く問題児ばかりの不幸鎮守府と聞いていたが、実際に会ってみるとそう問題があるようには見えない。演習で会ったことがある他の扶桑とこれといって違いが見当たらない。ともすれば、不幸鎮守府にいる他の仲間も皆似たようなものなのかもしれない。そう考えると、心が落ち着き余裕が出てきた。自然と口角も上がる。



扶桑「どうかなさいましたか?」



こちらの表情の変化に気づいて扶桑が声をかけてくる。ひょっとするとニヤニヤしてしまっているのかもしれない。ちょっとみっともないところを見せてしまったか。



提督「あ、その、すみません。何ていうんだろう、扶桑さんを見てると落ち着くというか、安心したというか。」



扶桑「え?そうなんですか?」



提督「いや、こっちに来るまでずっと不安だったもんだから。艦娘の皆と上手くやっていけるか自信がなくて・・・」



提督「でも、扶桑のおかげで大丈夫そうです。良かった、鎮守府の人で初めて会ったのが扶桑さんで。」



扶桑「・・・」



扶桑が下を向いて震えている。何かまずいことでも言っただろうか。」



提督「あの、扶桑さん?」



扶桑「うれしい・・・」



提督「え?・・・」



扶桑「私、今まで一度も会えて良かったなんて言われたことが無くて・・・そんなことを言ってくれたのは提督さんが初めてで・・・」

ポロポロ



どうやらまた1人泣かせてしまったらしい、でも確かに今まで生きていて扶桑に会えて良かったと思ったことなど一度も無かった。他の人もそうなのならば扶桑が嬉し涙を流す理由もなんか理解できる。だが、こんな2人の他に誰もいない場所で泣かれると誰か来た時にあらぬ誤解をうけてしまうかもしれない。



卯月「司令官?こんなところで何してるぴょん?」



教官「お、こんなところにいたのか。探したぞ。」



提督 Σ(゚д゚lll)



見事にフラグを回収してしまったようだ。



教官「ん?そこにいるのは扶桑か?何で泣いているんだ?」



扶桑「提督さんが・・・」



卯月「司令官が何かしたピョン?」



扶桑「私、初めてで・・・」



卯月「うわ、司令官誰もいなからってそういうことするのは良くないピョン。」



提督「違う、誤解だ卯月。俺は何もしていない。」



教官「時と場合を弁えろとは言うが、弁えたからと言って何をしても良いわけではないぞ。」



提督「本当に何もしてねぇぇぇ!!」



扶桑「え?じゃあ、あれは嘘だったというの?心にもなかったことだとでも言うの?」



提督「頼むから話を拗らせるなぁぁ!!」



その後、数十分かけて誤解を解いた提督はやっとのことで行き止まりルートから脱出できたのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




扶桑「提督さん、先ほどはすみませんでした。」



提督「いや、別に扶桑さんが悪い訳じゃないから。」



卯月「私も別に悪くないもーん。」



教官「悪者扱いされるのは心外だな。」



提督「あんなイタズラしなければこんなことにならなかったんだよ・・・」



依然として反省すらしない2人に辟易としながら、提督は亀裂の出口へと歩を進めていた。



今思えば何故遠くに明かりが見えるというのに横に逸れたのかかなり疑問である。それほどにまでヤケクソになった覚えはないのだが、どうも判断力が低下していたらしい。酒を飲まされた時も似たような感じだったのだろうなと振り返りながら、これを教訓に自分を戒める。また何かやらかして任期を1年延長されてはたまったものではないからだ。



あまり話すこともないので適当に卯月の話に相槌を打ち続けていると、外の光が大きくなり、あと少しで出口に到達するくらいのところまできた。



扶桑「さ、ここを抜けたら鎮守府はすぐ目の前ですよ。」



提督「やっとか・・・」



扶桑と出会ったことで少しは軽減されたとはいえまだまだ残る不安から到着することに気乗りしない反面、ここまで来るのに色々あり過ぎたため到着することが何だか喜ばしいという2つの感情が混ざって複雑な心境だが、ここまで来てしまったのだ、覚悟ならとうにできている。



卯月「やっと出口だピョン!」



提督「いよいよだな。」



急に明るくなる視界に目を細めながら、一行は亀裂の出口をくぐり抜けた。



提督「・・・うわ、これはすごいな。」



卯月「すごく綺麗だピョン。」



最初に2人の目に飛び込んできた光景、それは周りを崖に囲まれた赤れんがの建物だった。



すり鉢状に窪んでできた地に悠然と佇むそれは、前まで勤めていた鎮守府とは異なる神秘的なオーラを醸し出しており、秘境とはまさにこういうのを指すのだろうなと認識させられる。



教官「見事なものだろう?ここからの光景は私が最も気に入っているものの1つだ。」



提督「こんなすごいところだとは思ってもみなかった。」



扶桑「そう言って頂けると何だか誇らしく感じます。」



少しばかり景色を楽しんでいると、門の方から扶桑と似たような格好をした女性がやってきた。まさかとは思うのだが・・・



山城「姉様ー!おかえりなさーい!」



扶桑「あ、山城だわ!ただいま帰りましたよー!」



やっぱり、第2位もいるのか。流石、ここはみんなの期待を裏切らない空気の読める鎮守府のようだ。



教官「どうした?妙な顔をしているな。」



提督「いや、ただ単に「人間の想像できることは現実で起こりえることなのだ」とかいう言葉を思い出しまして・・・」



教官「随分と深い言葉だな。だがなるほど、確かに懸念というのはそれに対する対処法を用意せねばいずれ現実となって牙を剥くものだからな。あながち間違いではないかもしれん。」



卯月「司令官は難しい言葉を知ってるぴょん。うーちゃんちょっと賢くなれたぴょん。」



いや、単純にフラグはそう簡単にはへし折れないのだと言いたかったのだが、なんか褒められてしまったからよしとしよう。



山城「姉様、教官さんは兎も角こちらの二人は?」



扶桑「新しく来てくださった提督さんよ。こっちは補佐役の卯月ちゃん。」



提督「初めまして、紹介に預かった提督です。」



卯月「うーちゃんだぴょん!よろしくぴょん!」



山城「へー、新しい提督さん。」

しげしげ



山城が頭の上から爪の先まで見回してくる。服にゴミでも付いていただろうか。



提督「えっと、山城さん?」



山城「うーん、なんか普通ね。あまりパッとしないというか。」



提督「ええ!?」



確かに自分でも普通だという自覚はあるが初対面で面と向かって言われたのは初めてだった。



扶桑「や、山城、いきなり失礼よ。」



山城「どうせ1年の付き合いでしょ、まあ必要ないわけじゃないから歓迎はしてあげる。」



提督「あ、ど、どうも・・・」



歓迎はしてくれると言ったが、これは明らかに歓迎されてない。やはり全員が全員扶桑のようにはいかなかったようだ。



扶桑「すみません、提督さん。この子毎年こうで・・・」



提督「あ、いや大丈夫です。そこまで気にしてないですから。」



実際はかなり気にしていたりするが、扶桑が申し訳なさそうにしている手前フォローを入れずにはいられない。



山城「姉様ちょっと待ってて、この人と話したいことがあるから。」

ぐい



提督「え?ええ!?ちょっと待ってプリーズウェイト!」

ズルズル



山城に襟を掴まれ、そのまま引きずられた。そして、大声じゃないと声が届かない程度まで連れていかれると、山城が思いっきり顔を近付けてきた。



提督「え、あの、一体なにを?」



山城「1つ聞くけど、ここまで来る間に姉様に手を出したりしてないでしょうね?」

ズイ



まるでカツアゲするかのような体制で山城が睨んでくる。正直これはかなり怖い。



提督「いや、何もしてないけど・・・」



山城「そう、ならいいけど姉様に手を出したりしたら絶対に許さないから。もしもそんなことしたら、わかるわよね?」

ジャキン



提督 ブンブン



山城が艤装を一部だけ展開し、思いっきり砲を額に押し付けてくる。嘘でも頷いておかないと眉間をブチ抜かれるだろう。




山城「そう、ならいいわ。でも十分肝に命じておくことね。」



何この鎮守府怖い、今までシスコンというのは何度も見てきたけどマジで殺そうとするレベルのものは今までで一度も無かった。



何はともあれ、言いつけに従っておくのが吉だろう。前の鎮守府でだって手を出したことがないとは言え、先程のように些細なことでも誤解を生む可能性はある。



山城「さて、早く中入るわよ。少しくらい案内してあげるわ。いつまでも勝手が分からないままウロウロされても邪魔で仕方ないし。」



提督「ありがとう。」



山城「別に好意じゃないわよ、あくまで事務的なものだから。」



提督「いや、それでも十分だ。助かるよ。」



山城「あなたって変わってるのね・・・」



提督「え?何が?」



山城「別に、なんでもないわよ。」



山城がとっとと先へ行ってしまう。先程のあれはあまりよくわからなかったが、大したことはないのだろう、今は気にしないでおく。



山城「お待たせしました姉様。」



扶桑「あら、戻ってきたのね。提督さんと何を話していたの?」



山城「何でもありません、ちょっとここのルールを教えて差し上げただけですよ。」



提督 (はは、確かにルールといえばルールなのか・・・?)



私情をルール扱いしていいのか疑問ではあるが、守らねば瑞雲が飛んでくるか、試製41cm連装砲でぶっ飛ばされるかもしれない。ちょっと違うが、郷に入っては郷に従えだ。



扶桑「あらそうだったの、良かったわ、このぶんなら提督さんと仲良くできそうね。」



提督 (ルールを守ってるうちはね・・・)



山城がこちらをちらっと見ると、ものすごく狂気染みた笑みを見せてきた。目があっただけで全身に鳥肌が立ち、冷水をかけられたかのような寒気が襲ってくる。この鎮守府で1番逆らってはいけない人物を知った瞬間だった。



扶桑「それでは提督さん、そろそろ中に入りましょうか。」



提督「ああ、そうしようか。」



扶桑が正面玄関の扉を開けてくれ、一向は鎮守府の中へと入った。扶桑がドアを閉めようとしたとき、教官が耳打ちをしてきた。



教官 (艦娘を見かけても不用意に声をかけない方がいい、何をされるかわからないからな。)



つまるところ、やはりここは問題児ばかりなのだろう。教官の先程の言葉は出会い頭に撃たれる可能性もあると言ってきたようなものだ、余計なことはしない方が身の為ということだ。



扶桑に案内されて何事もなく執務室に着いた提督は執務机の上に何者かが座っていることに気がついた。椅子ではなく本当に机の上に座って足を組んでいるそれは、姿形こそ人間そのものだが、雪のように白い肌と髪はそれが人間でないことを伝えていた。



提督「何で・・・お前がこんなところに・・・」



卯月「あわわ、し、司令官あれって・・・」



その理不尽なまでに堅い装甲のせいで多くの提督の心を打ち砕いた、2015年夏イベの悪夢、駆逐艦に非ざる駆逐艦、実は豆腐メンタルの持ち主防空棲姫だった。



防空棲姫「フフフ...キタンダァ。ヘーエ...キタンダァ。」



提督「まさか深海棲艦がこんなところまで侵攻していたとは・・・」



卯月 ガクガク



提督「こうなったら仕方ない、やるしかないな。」



教官「待て待て、一体何をするつもりだ。」



提督「何って、決まってるじゃないですか!あいつを追い払わないと!」



防空棲姫「フフフ...アナタガアタラシイテイトクサン?」

ピョン



提督「ああ、そうだ。だけどそれがどうした。」



防空棲姫「フフフ...」

スタスタ



提督「来るなら来い、俺が相手になってやる。」



防空棲姫が机から降りて、こちらに近づいてくる。だが、敵意を剥き出しにする提督に彼女がかけてきた言葉はとても意外に過ぎるものだった。



防空棲姫「ハジメマシテ、ワタシハボウクウセイキ。コノチンジュフデオセワニナッテルノ。ヨロシクネ。」



提督「あ、これはご丁寧にどうも、こちらこそ初めまして・・・はい?」



卯月「・・・?」



防空棲姫「ドウカシタノ?マア、ソレニシテモメズラシイネ、コンカイノヒトハズイブントマトモミタイ。」



提督 チラ



何が何だかわからなくて教官に助けを求める。こんな状況どうやって対応しろというのだ。



教官「まあ、そいつの言ったことは本当だ、ここで皆と一緒に暮らしている。」



提督 (なんですと・・・)



まさか本当に深海棲艦と共存しているとは、ここに来るまでにチラと考えたあれはあながち間違いでは無かったらしい。事実は小説より奇なりというが、これはなんでもイレギュラー過ぎるのではなかろうか。



未だに処理が追いつかない頭であれこれ考えていると、執務室のドアが開かれた。



?「あの、お忙しいところ申し訳ございません。こっちに防空棲姫さんは・・・」



防空棲姫「ア、アキヅキダ。ヤッホー。」



秋月「ああ!やっと見つけた!もう、こんなところで教官さんの邪魔したらダメですよ。」



防空棲姫「ベツニジャマシテナンカナイモーン。アタラシイテイトクサン二アイサツシテタダケダモーン。」



秋月「え、新しい提督がいるんですか!?」

キョロキョロ



秋月「は!」



秋月「し、失礼しました!お初にお目にかかります秋月です!」

ビシッ



提督に気付いた秋月は、一瞬で姿勢を正してから綺麗な敬礼をしてみせた。何が起こったかちょっとわからなくなったが、その様は見事と言う他ない。



提督「あ、こちらこそ初めまして。というか、この防空棲姫は一体・・・」



防空棲姫「アキヅキトハトモダチナンダ。」



秋月「はい!前の大規模作戦で偶然仲良しになりました!」



提督 (ええ・・・)



防空駆逐艦どうしだからとでも言うのだろうか、だけど艦娘と深海棲艦が友達になるなんて今まで一度も聞いたことがない。



教官「お前の言いたいことはわかる、腑に落ちない点は色々あると思うが、秋月は防空棲姫を鎮守府に連れて帰ろうとして追い出され、ここにやって来たんだ。」



防空棲姫「ヒドイヨネー。」



秋月「まあここには照月も初月もいますし、友達と一緒にいられるので満足していますから。」



提督「あは、あはは・・・」



何というか、満足してはいけない気がする。もちろん見方を変えれば艦娘と深海棲艦が手を取り合う平和な世界の先駆けだの希望だの何とでも言えるのだろうが、この秋月は相当な変わり種だ。普通鎮守府に連れて帰ろうなんて絶対に思うはずがない。捕虜でもあるまいに、捨て犬を拾うのとはわけが違うのだ。



初月「秋月姉さん、防空棲姫は見つかったかい?」

ガチャ



秋月「あ、初月、照月。ついさっき見つけたところですよ。」



照月「良かった、見つかったんだ。まったく、勝手にどっかに行かないでよね。」



防空棲姫「ワカッタヨ、ソレジャアテイトクサンマタネー。」



3人に連れられて防空棲姫が部屋を出る。どうやら初月と照月も秋月同様防空棲姫を友達のように扱っているらしい。というか寧ろ姉妹が1人増えたかのようだった。一緒にいて全然違和感が感じられなかったことから、相当仲が良いのだろう。



提督「あの、いいんですか?あれ・・・」



教官「ここは人目につかないからな、別に構わんだろう?」



提督 (いや、そんな何がおかしいんだとでも言いたそうな顔されても困るんですけど・・・)



扶桑の方を見ると、彼女も教官と同様な顔をしている。卯月はというと、先ほどから困惑しっぱなしだ。今にも知恵熱を出して倒れそうである。



提督「俺、絶対ついていけない気がしてきた・・・」



これから前途多難な日々を過ごすことになりそうだと思うと、酷くやるせなくなってしまった提督だった。





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鎮守府に住まう者達





明くる朝、提督が妙な圧迫感で目を覚ますと、卯月が腹の上で寝ていた。



提督「寝苦しいと思ったら犯人はお前か・・・」



昨日の夜、1人では到底眠れそうにないと訴えてきたので仕方なく一緒の布団に入れてやったのだが、卯月は結構寝相が悪いらしく夜中に何回か布団を剥ぎ取らた。4月とは言えまだ布団無しで寝るのは少々寒い。



だからどうにかして布団を剥ぎ取られないように、寝ている卯月には悪いが密着して寝ていたのだが、最終的に乗られるハメになったらしい。さらには、あまり良いとは言えない夢も見てしまったので今朝の目覚めはD評価だ。

卯月と一緒に寝られたのにDとは何事だと野次を飛ばす輩もいそうだが、寝るときは1人の方を好む提督にとってはそんなイベントはあまり嬉しくなかった。誰かと寝ると変に疲れて眠った気がしないのだ。



提督「おーい卯月、朝だぞ。」



卯月 スウスウ



提督「・・・まったく、人の上で気持ちよさそうに寝息立てやがって。」



できれば早いとこ布団から出たいのだが、動けば卯月が起きてしまいそうで何となく気の毒だった。人に起こされると睡眠を邪魔されたような気分になるため、人に起こされることをあまり良しとしない提督は仕方なく卯月が起きるまでこのままでいることにした。




提督「あー、すげぇ退屈。」



何も特筆することの無い真っ白な天井を見つめ続けることがこんなにつまらないとは思いもしなかった。こんな時は一部の紳士であれば「天井を見るのが嫌なら卯月でも見ていればいいじゃない」とでも言うのだろうが、そんなマナー違反なことをする気にはならない。



二度寝しようかとも考えたが、既に日が昇っているため明るすぎて眠れるわけがない。そもそも二度寝なんてしようものなら勤務初日から遅刻してしまうだろう。そんなことで減点をくらうのは避けなければなるまい。



提督「早く起きてくれねえかな。」



そう呟いたその時、



卯月「ん、んん・・・?」



提督「お、起きたか。」



卯月「あ、司令官・・・」



どうやらやっと起きてくれたらしい。ようやくベッドと卯月から解放されることができる。



卯月「あれ・・・うーちゃんなんで司令官の上で寝てるピョン・・・?



提督「俺に聞くなよ、そんなことより早く起きてくれ。」



卯月「ん・・・? まあいいっか・・・んう・・・」

すぴー



提督「うおおい!寝るなぁ!」



卯月が再び夢の中に突入する。流石にこれ以上は待つ気になれない。もはや気の毒とか思っていられぬ、どうにかして下ろさねば。



提督「仕方ない、悪いな卯月。起きる気がないならお前を下ろさせてもらおう。」



提督「よいsyうお!?」



卯月 ギュム



寝返りをうちながら卯月を下ろそうとしたのだが、寝ぼけた卯月が押さえつけてきたのだ。起き上がろうにも意外と力が強く、全く身動きがとれなくなってしまった。



提督「う、卯月!起きてるならとっとと離れてくれ!」



卯月「フカフカで気持ちいいピョン・・・」

むにゃ



テディベアとでも勘違いしているのだろうか、少なくとも起きている様子はない。



提督「ぐっ・・・くそ、仕方ないこうなったら無理やりにでも・・・」



卯月 ぎゅううう



提督「ぐおっ!おのれ卯月、意地でも離さないつもりか。だが、この程度で参る俺じゃないぞ・・・うおりゃあ!」



卯月「・・・ひやっ!」

ポーン



提督「あ、いっけね」



勢い余って卯月を吹っ飛ばしてしまう。先程までなかなか起きなかった卯月でもこれには起きたようだ。



卯月「あ痛た・・・」



卯月「し、司令官!寝てるうーちゃんにいったい何したんだピョン!」



提督「やっと起きたか、まったく、いつまでも俺のことを拘束するんじゃない。」



卯月「誰がいつそんなことしたピョン!?うーちゃんはそんなことしてないピョン!」



提督「してたわ!起きたらお前が俺の上で寝てて、起こしちゃったら可哀想だと思って黙って寝かせてたのに、いつまで待っても起きないし、終いには二度寝までされたらそりゃ起こそうとするわ!」



卯月「だからって吹っ飛ばすことないピョン!」



提督「全力でしがみつかれたら離れようとするに決まってるだろ!偶々勢いが余っただけだ!」



卯月「か弱い乙女を吹き飛ばしておいて少しは反省とかしないピョン!?」



提督「何がか弱いだよ!しがみつかれたまま絞め殺されるかと思ったわ!」



卯月「年頃の女の子に何て事言うピョン!いくら何でもあんまりだピョン!」



提督「年頃って自分でいうのかよ!ていうかまだまだお子様じゃねえか!」



卯月「うーちゃんはお子様じゃないピョン!こう見えて中◯生くらいだピョン!」



提督「こう見えてじゃねえしそのまんまだろ、第一十分お子様の部類にはいるわ!」



卯月「むうう、ひどいピョン!もう司令官なんて知らないピョン!」

だだっ



提督「あ、おい!」



バダン



卯月が引き止める間も無くダッシュで部屋から出て行く。



提督「やっちまった・・・」



寝起きが悪いせいか、つい熱くなってしまった。普通にツッコんだつもりだったのだが、イライラしていたのかもしれない、だんだんエスカレートしていって。本当は怒るつもりも怒らせるつもりも無かったのだ。



提督「参ったな今日は残りのの睦月型も来るのに、俺の事を器の小さい提督だっていうかもしれねえ。」



ここに来て2日目にして補佐役と喧嘩(?)をするとは、いったい何をしているのだろう。



提督「ああくそ、女子と喧嘩なんかした事ないからな、こういうときとうすりゃいいんだよ・・・」



子供の頃に身内以外で女性と話した経験が両手で数えられる程度しかない提督にとってこれはかなり厄介な問題だった。当然前の鎮守府でだってこんなことは一度も無かったため頼りにできる記憶がない。



どうしようかと頭を悩ませていると、外からドアをノックする音が聞こえた。



扶桑「提督?そろそろ起きないと朝食に間に合いませんよ?」



どうやら扶桑が起こしに来てくれたらしい。時計を見ると、確かに扶桑の言う通りもうすぐで朝食の時間だった。いつまでも悩んではいられない。



提督「わかった!すぐに行く!」



つい最近新調した制服をトランクから引っ張り出し、急いで着替える。顔を水だけで洗い、歯はモン◯ミンで濯ぐだけに留め、どうせ後で直るからと適当に寝癖を梳かして部屋を出る。



部屋を出ると、扶桑が待っていてくれた。昨日山城に鎮守府をあらかた案内してもらったのだが、正直まだ何処に何があるのかを完全には把握しきれておらず、曖昧な所が多いのでとても有難い。



扶桑「おはようございます。」



提督「ああ、おはよう。すまないな、起こしに来てもらっちゃって。」



扶桑「いえいえ、昨日はお疲れの様でしたし、慣れない所だとなかなか寝付けないことが多いですから。」



提督「あはは・・・」



実際はとっくに起きていたのだがここは寝ていたことにしておく。扶桑の純粋な心遣いを思うと良心がチクリと痛むが、卯月と喧嘩したことを言い出す気にはなれなかった。



扶桑「それでは早く行きましょうか。」



提督「何から何まで悪いな、本当にありがとう。扶桑さんがいてくれて良かったよ。」



扶桑「そ、そんな!私はただ提督のお手伝いができればと思ってるだけで、お礼を言われる筋合いなんて・・・」



提督「いや、十分にあるさ。昨日から何回世話になってるかわからないしな。」



扶桑「えっと、迷惑ではありませんか?いつも付き纏ってて鬱陶しいとか・・・」



提督「そんなこと思うはずないだろ?寧ろもっと側にいて欲しいくらいだ。」



扶桑「へ、へぇぇ!?」



提督「今度何かお礼をしたいな、そのうち一緒に茶でも・・・あれ?扶桑さん?」



扶桑「・・・私、もう今生に一片の悔いはありません。」



提督「ええ!?何?急にいったいどうしたって言うんだ!?死ぬの!?」



扶桑「いえ、そういうことではありません。でも、明日この命尽きようとも構いません。」



提督「いやいや困るから!山城さんだっているんだから死んだらものすごく困るから!」



この昨日からちょくちょくと見せる妙なネガティブ属性はいったい何なのだろうか。お礼を言う度にこんな風に重く受け止められると、何だか軽い気持ちで言った自分がいい加減な奴に思えてきてしまうのですごくやりづらい。それまであまり「扶桑」と接点が無かったため、世の中の扶桑は皆こうなのだろうかと疑問になってきた。



どうにかこうにか話題を切り替え、たわいもない雑談をしながら食堂へ向かっていると、前方に山城の姿が見えた。



扶桑「あ、山城だわ。山城ー!」



山城「ん?・・・あ、扶桑姉様!」



山城がこちらにかけてくる。やはり仲が良いのだろう、足取りがすごく軽やかだ。



山城「どうかしましたか姉さm・・・うわ、なんであんたまで一緒にいるのよ。」



提督「うわとは随分とご挨拶だな。百歩譲っても俺は提督だぞ?」



山城「あーはいはい、すみませんでした。」



提督「はあ、まあいいか。」



扶桑「すみません。」



提督「いや、大丈夫だ。気にするな。」



別に慣れてるわけではないが、多少のことなら目を瞑るのは容易い。それにこんな些細なことを一々つっこむのは面倒だとわかっている。



山城「姉様はこれからお食事ですか?」



扶桑「ええ、そうなの。山城はもう済ませた?」



山城「実は私もまだでして、折角だから姉様とご一緒しようかと。」



扶桑「そうだったの。じゃあ提督もいることだし3人で食べましょうか。」



提督「いいのか?俺がいても。」



扶桑「はい、勿論。」



それならばと思ったそのとき、山城が冷たくどす黒い視線を提督に送ってきた。断れということなのだろう。従わないのならば背中を見せた瞬間刺されそうだった。



提督「あ、やっぱり遠慮させてもらうわ。姉妹水入らずの所に俺がいたら邪魔だろ?」



扶桑「そんなことありませんよ、ねえ山城?」



山城「え、ええそうですね。」



扶桑「ほら、山城もこう言ってますし私も気にしませんから。」



提督「あ、えーと・・・」



扶桑の視線が外れた瞬間、山城がまた睨んできた。口ではああ言っていたが、やはり嘘なのだろう。すごく怖い。



提督「誘ってくれたのは嬉しいが、やっぱりいいや。2人でゆっくり食べてくれ。俺は一人で大丈夫だから…」



やっと山城の刺さるような視線が収まる。それでいいとでも思っているようだ。



二人と別れて食堂へ向かおうとすると、不意に左袖が掴まれた。

振り返ると、どうやら扶桑が引き留めたらしい。だが、彼女の口から漏れる言葉は怨嗟に満ちたものだった。



扶桑「どうして行ってしまうのですか?そんなに私と一緒に居たくありませんか?」



提督「ひっ・・・!」



提督「え、えっと、そういうわけじゃ・・・」



今度は扶桑が冷たい視線を送ってくる。姉妹揃ってこういう顔がとてつもなく怖い。



扶桑「そんなに私のことが嫌ですか?気持ち悪いですか?鬱陶しいですか?こんな醜い女と一緒にいるのは苦痛ですか?楽しくないですか?・・・」



言う度に扶桑の顔が近づいてくる。その相手を呪い殺すかのような表情に今すぐにでも逃げ出してしまいたい衝動に駆られるが、左腕をがっちりとホールドされていて逃げようにも逃げられない。



助けを求めて山城の方を見ると、怯えたような顔をしてから、仕方ないとでも言いたげな顔をして首を縦に振った。流石の山城でも他に術が無いと思ったのだろう。



提督「そ、そこまで言うなら、やっぱりご一緒させてもらおうかな、なんて・・・」



扶桑「本当ですか!良かった!さ、早く行きましょう!」

〜♪



提督「ふう・・・助かった。」



扶桑が一瞬にして上機嫌になる。先程のあれがまるで何事も無かったかのように影を潜めた。少しだけだが、彼女は多重人格なのではないかと疑ってしまった。



鼻歌混じりに前方を歩く扶桑に悟られないように山城に近づき、そっと小声で話しかける。



提督「ありがとう、助かった。」



山城「・・・まあ、姉様があんな風になったら他にどうしようもないから。



提督「すまないな。」



山城「今回だけよ・・・はぁ、不幸ね。」



何だかんだと山城も扶桑には頭が上がらないのだろう。だが彼女の場合は姉のことを大事に思っているからで、自分よりも姉の幸せを優先する献身的な思いが垣間見えた。

扶桑も山城同様に妹のことを大事にしているのだろう。山城と話しているときの言葉の端々から妹のことを常に気遣っていることが伝わってくる。

双方ともに癖が強過ぎる気がするが、いい姉妹だ。


ふと、長いこと会っていない10歳近く年の離れた弟を思い出した。今はどうしているだろうか、今度実家に帰ったら様子を見に行くのもいいかもしれない。



扶桑「・・・どうかしましたか?」



山城「何ニヤニヤしながらこっちみてるのよ。」



提督「べ、別にニヤニヤなんかしてないだろ。ちょっと考え事だ。」



扶桑「考え事、ですか。」



山城「うわ、どうせやらしーことでも考えてたんでしょ。」



提督「そんなんじゃねえよ。二人は仲がいいなーってそれだけだ。」



山城「当然でしょ、姉妹なんだから。」



提督「そっか、それもそうだな。」



扶桑「ええ、そうね。さ、提督着きましたよ。席が空いてるといいのですが。」



提督「そう簡単に席が埋まったりするものなのか?」



扶桑「ええ、ここは意外と人が多いですから。早めにとっておかないとなかなか座れなかったりするんです。」



提督「ええ、そうだったのか・・・」



席がすぐに埋まってしまうほどに多いということそれだけ問題児が多いということなのだろう。あまり知りたくなかった事実を知ってしまった。




その後、提督は扶桑型姉妹との食事を楽しんだ。山城も食事中は特に噛み付いてきたり(物理的な意味じゃない)しなかった。彼女だって食事の時は楽しく食べたいのだろう、扶桑と話しているときの笑顔は姉同様、素敵に見えた。




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午前の執務が終わり、昼食を摂ったあとの昼休み。提督は以前勤めていた鎮守府に電話をかけていた。叢雲と話をするためである。



提督「んー、なかなか出ないな。」



実は叢雲個人の連絡先を知らないので、とりあえず鎮守府の電話にかけているのだが、忙しいのか二回かけ直しても誰も応答しない。



提督「後でにした方がいいのか・・・?」



諦めかけて受話器を置こうとした時、ようやく繋がったのか、ガチャという音が聞こえた。



?『はいもしもし。』



提督「あ、どうも、お忙しいときにすみません。先月までそちらの方で提督をやらせて頂いていた者ですが。」



若手司令『あ、ということは僕の前任の方ですか。初めまして、この春少佐に昇進して提督となりました、皆さんからは若手司令のあだ名を頂いております。』



提督「こちらこそ初めまして。あの、早速ですが・・・」



その時、聞き慣れた声が受話器の向こうから聞こえてきた。



金剛『ヘーイ、しれぇーい!私とafternoon tea するデース!』



若手司令「わわわ、金剛さん!今通話中ですよ!」



この胡散臭いけどなんか可愛い口調は金剛だ、どうやら新しい司令は随分と好かれているらしい。金剛がこんなに早くお茶しにくるとは、自分がいた頃はもっと時間がかかったはずだ。



金剛『Oh shit!Sorryデース。ところで、誰と話してるデースか?』



若手司令『僕の前任の人だよ、あ、すみません今金剛さんと代わりますね。』



金剛『ヘーイテイトクゥー!お久しぶりデース!元気してましたかー?』



提督「ああ、俺は元気でやってるよ。金剛も元気そうでなによりだ。」



金剛『モチロンネー!他の皆んなも元気してマース!』



相変わらずテンションの高さに苦笑いが出てくるが、その声にほんの数週間前のことだと言うのに懐かしさを覚えた。



金剛『そういえば、急にどうしたデース?そっちで何かあったデスか?」



提督「いや、ちょっと叢雲と話がしたくてな今いるか?」



金剛『ああ、ムラランならさっきすぐ近くで見たデース!ちょっと読んで来ますネ。』



提督「ああ、ありがとう。」



ムラランとはいつの間にそんな変なあだ名を付けたのだろうか、いずれにせよあまり叢雲本人は歓迎していなさそうな感じがする。



若手司令『提督さん何て?』



金剛『ムラランに用事みたいデース!だからちょっと呼んで来ますネ!』



若手司令『えっと、うんわかりました。あ、もしもしお電話代わりました。あの、ムラランって誰ですか?』



流石にわからなかったようだ。そりゃそうだろう、叢雲をムラランなんて呼んだ者は未だかつていなのではなかろうか。



提督「えっと、叢雲と話がしたいと言ったので多分彼女のことかと思うのですが。」



若手司令『ああ、叢雲さんでしたか・・・そっか、叢雲さんか。』



何故だろうか、若手司令の声のトーンが途端に低くなった気がした。叢雲がどうかしたのだろうか。



提督「どうかしましたか?」



若手司令『え、いや別に何でもないのですが・・・』



提督「えっと、もしかして叢雲が何か失礼なことしたりしたんですか?」



若手司令『いやいや、そんなことはありません。でも、正直苦手で・・・僕にだけ対応がキツいことがあるのでちょっと嫌われてるのかなって。』



提督「ああ、そういうこと・・・」



確かに、初対面の頃の叢雲には提督も苦手意識を持っていた。聞く限りによれば綾波型の曙ほどひどくはないそうなのだが、普段から口調が攻撃的なので仲良くなれないのではと諦めてかけていたこともあった。



でも、ずっと秘書艦をやってもらっているうちに彼女のことがわかるようになり、いつの日かそれが叢雲の個性なのだと認識できるようになった。

それ以来、叢雲とは何でも気兼ねなく話せる友達のような関係になることができたのだ。



提督「まあ、少なくとも嫌われてるわけではないですよ。」



若手司令『そうなんですか?』



提督「今はまだ早いにしてもそのうちわかってきますよ。」



若手司令『そうなることを願ってみます。』



勘違いされることが多い彼女だが、根は優しい娘なのだ。心配する必要はないだろう。



若手司令『・・・あ、叢雲さんが来たので代わりますね。』



スピーカーから叢雲のものと思われる声が聞こえてきた。よくは聞こえなかったが相変わらず減らず口をたたいているようだった。



叢雲『もしもし、うちに何の用かしら元司令官?』



提督「久しぶりだな、叢雲」



叢雲『そうね、数週間ぶりかしら。それにしてもあんたから連絡寄越すなんて珍しいじゃない、どうしたの?そっちにいって早々嫌になったから帰りたくなったのかしら。』



提督「そんな下らないことで電話するわけないだろう?ただ単に叢雲の様子を知りたかっただけなんだが・・・まあそのぶんだと問題なさそうだな。」



叢雲『大きなお世話ね、生憎私はあんたに心配かけるようなひ弱な少女じゃないわよ。』



相変わらずすごい量の毒を吐いてくるが慣れたことだ、寧ろ久しぶりのやり取りに心が弾む。



提督「他のみんなはどうしてるんだ?元気でやってるか?」



叢雲『何よ、私のことが気になって電話したんじゃなかったの?』



提督「確かに叢雲のことが気になったからって言ったけど、正確には皆がどうしてるか知りたかったんだ。」



叢雲『ふーん、まあ冗談のつもりで言ったから別にいいけど。相変わらず他の皆も元気でやってるわ。』



提督「新しい司令はどうだ?もう馴染めたか?」



叢雲『馴染むどころか、非モテ体質のあんたと違ってそりゃもうモッテモテよ。イケメンだし、優しいし、若いし。金剛なんか1日に何度も執務室に行ってるみたいだし、若手司令のお世話当番表を作ろうとしてる娘達もいるんだから。』



提督「なん・・・だと・・・」



新米にそんなところで差をつけられたのかと思うと何とも言えない敗北感が襲ってくる。しかも対象が自分の仲間だというから尚更だ。



叢雲『本当、ほとんどのメンバーが今や全員提督LOVE勢だっていうんだからすごいわよね。』



提督「叢雲!お前もか!?」



どうしようもない衝動に駆られ、世界的に有名なあの台詞のパロディーをやってみる。だが、叢雲はそんなことにはツッコまず普通に返してきた。



叢雲『別に好みじゃないから私はそんなタグは付けられてないわよ。』



提督「なんだ、良かった良かった。」



別に叢雲のことが好きだからというわけではないが、それを聞いて少し安心した。イケメンにも落とせない相手がいることを知り、劣等感が少し緩和されたのかもしれない。



叢雲『さて、私もそんなに暇じゃないから早く本題に入ってくれるかしら?さっきのが本当に聞きたかったことじゃないんでしょ?』



提督「なんだ、既にお見通しだったか。」



叢雲『当たり前でしょ、何年一緒にいたと思って。』



流石、1番信頼できるだけのことはある。こうやって察してくれると会話がしやすいので助かる。自分以上に自分のことをわかっているのはひょっとすると叢雲ただ一人かもしれない。



そんな彼女を信頼して昨日の疑問を伝える。すると、叢雲が呆れたような溜息を漏らした。



提督「な、なんだ?俺、何か変なこと言ったか?」



叢雲『あんたねえ、今更そんなこと気にしてたの?』



提督「え?ということはやっぱり・・・」



今更ということはやはり何度も艦娘にひどいことをしていたのだろうか。だが、叢雲が言ったのは真逆のことだった。



叢雲『誰もあんたのこと嫌いじゃないわよ。あんたみたいな提督誰が嫌いになるもんですか。』



提督「え、でも俺あの金剛にすら好きだのなんだの言われたことないんだぞ?」



叢雲『そりゃ金剛にだって好みのタイプくらいあるでしょう。ブサイクでも金剛になら好きとか言ってもらえると思ったら大間違いよ?』



提督「ブ、ブサイクって・・・そんなハッキリと言わなくてもいいだろ。」



叢雲『ごめんなさい、今のは言葉の綾よ。誰もあんたに向かってブサイクとは言ってないし、あんたがそうだとも思ってないわ。』



提督「ほ、本当か?」



叢雲『何よ、私がエイプリルフール以外であんたに嘘をついたことあったかしら?』



提督「うーん、それもそうだな。」



確かに叢雲は嘘をつかない。彼女は常に相手の言葉をしっかり受け止めた上で発言する誠実さを持っているのだ。



叢雲『まあ、それと同時にあんたがイケメンだとか二枚目だとか思ったことがある人はいないでしょうけど。』



ただ、このように毒を吐くことが多いのでカウンセラーには向かない。カウンセラーなどやったらカウンセリングに来た人はストレスのあまり胃潰瘍どころか胃が全部溶けてしまうだろう。



叢雲『まあ確かにあんたはモテなかったけど・・・密かに好きだった娘だって中にはいるんだから・・・』



提督「え?そうなのか?」



そうとは気づかなかった、一体誰なのだろう。誰かに見られていた気もしなかったし、艦娘一人一人とは叢雲を除いてそこまで発展するほどの接点が無かったはずなのだが。



提督「えっと、それって誰のことなんだ?知ってるなら教えてくれよ。」



叢雲『ええ!?ちょ、いきなり何聞くのよ//』



提督「え、別にいいだろ?というか聞かないと気になって夜眠れなくなりそうなんだが。」



叢雲『き、気にしなければいいだけのことじゃない!』



何故だろう、頑なに答えようとしない。少なくとも一年は戻れないのだから別に聞いたって良いのではなかろうか。戻る頃には冷めるかもしれないのだし。



提督「なあ、いいだろ?教えてくれよ、頼むから。教えてくれないなら通話切らないぞ?切られても24時間かけ直すぞ?」



叢雲『え、ええ・・・それは、その・・・』



勿論24時間かけ続ける気力なんて実際持ち合わせてはいないが、叢雲はどうやら間に受けてしまったらしい。受話器越しでもキョドッてるのがわかる。



提督「どうした?早く話してくれよ。」



叢雲『っ〜〜//』



叢雲『んもうっ!そんなこと答えられるわけないでしょ!あんたって本当にデリカシーないわね!』



提督「お、おい叢雲!?」



叢雲『もうこの話はお終い!二度とかけて寄越さないで!』

ガチャン



提督「あ・・・」



切られた、何をそこまでムキになっていたのだろう。



提督「変なやつ・・・」



仕方なくその場を離れようとしたとき、着信音が鳴る。いったい誰だろうか。



提督「もしもし」



叢雲『・・・鎮守府の電話に何度も何度もかけてこられちゃ司令に迷惑がかかるから私の連絡先教えるわ、かけてくるならせめてそっちにしなさい。』



そう言って叢雲が電話番号とメールアドレスを教えてきた。これじゃあかけて欲しいのかかけないで欲しいのかわからない、叢雲の謎行動に呆気にとられてロクな返事をしないまま再び通話を切られた。



とりあえず、今はかけないでおいたほうがいいのかも知れない。そう思って連絡先をメモに書き留めてポケットにしまうだけにした。登録は部屋にスマホを置いてきたので戻ってからだ。



提督「まあ、当初の目的は果たしたからいいか。」



叢雲の言った自分に好意を抱いている人物がものすごーく気になるが、いくらモテないとはいえ自分が童貞中学生のように悶々することは、まだ若干大学生気分が抜けきらないが一応大人である提督には恥ずかしかったので努めて気にしないようにした。



今度こそ固定電話から離れようとしたとき、またまた着信音が鳴った。



叢雲『別に何時でもかけてくるのはいいけど、夜は同室の子起こしちゃうからダメよ、いい?それじゃ・・・』

ガチャ



ますますわからない。二度とかけてくるなと言ったくせして2度も向こうからかけてきた挙句連絡先を教え、何時でもかけてこいとは一体何がしたいのだろう。



不幸鎮守府に来て2日目、この日は初めて叢雲の意味不明なところを発見した日となった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




夕方、鎮守府の廊下にて




午後の業務を早々と終わらせたので、夕食までに少し腹を空かせておこうかと鎮守府を散歩することにした提督は、折角だからまだ顔を合わせていない艦娘に挨拶をしていくことにした。



鎮守府というのは人が多いようでいて、自発的に誰かしら探しにいくとなると案外見つからない。でも、いつも誰かしらその辺をブラついているというのはそれはそれで問題があるので仕方ない。



大して見応えのあるものがない景色を、あくびと共に横目で流していると、様々なBGMが廊下まで響いてくる部屋の前までやってきた。ドアの上を見るとGAME CORNERとあった。何故こんなところにゲーセンがあるのだろうか、まあ何にせよ確かめる必要がありそうだ。鍵はかかっていないようなので無断で入らせてもらう。



提督「おーい、誰かいるのか?勝手に入るぞ・・・何だここは・・・」



部屋を入るとそこには大小様々なアーケードゲーム、クレーンゲーム、音ゲー、コインゲームの台が並べられており、奥の方にはダーツ盤、ビリヤード、スロットまである。窓がない薄暗い証明で照らされたそこはまごうことなきゲーセンであった。



?「いらっしゃーい、あれ?見かけない人ね。」



入り口近くのカウンターから声をかけられる。灰色に緑色を混ぜたような色をした髪の毛を緑のリボンで結わえている特徴的な髪型をした彼女はどこかで見た覚えがあった。



提督「えっと、夕張だっけ・・・?」



夕張「ピンポーン、正解。私は夕張、あなたは?」



提督「昨日からここに配属されることになった提督だ。」



夕張「そっか、新しい提督か〜。じゃあこれから一年よろしくね。うん、なんかまともそうな人ね。」



提督「そりゃどうも、こちらこそよろしく・・・なんだが、ここはいったい何なんだ?」



夕張「何って、ゲーセンに決まってるじゃない。それがどうしたの?」



提督「いやいや、何で鎮守府にゲーセンがあるんだよ!」



夕張「私が作ったの、すごいでしょ!」



夕張が胸を張ってドヤ顔してくる。いや、そんな顔をされても困るのだが。



提督「そりゃ、まあ、すごいけどだいたいなんでこんなのを作るんだよ。」



夕張「何でって、そりゃ遊びたいからに決まってるでしょ?他に理由いる?」



提督「いや、別に要らねえけど。そもそもこんなものを仕事サボって鎮守府に作るなよ。」



夕張「え?私仕事はちゃんとやってるわよ。ほら、その証拠に・・・はいこれ。」



提督「・・・あ、本当だ。」



夕張が見せたそれは業務履歴らしい。何枚もファイリングされた紙の束はちゃんと仕事をしているらしいことを示していた。そう言えば今朝帰ってきた遠征メンバーにいた気がする。



提督「ちゃんと仕事してるってことはわかったんだが・・・流石にこれはやり過ぎだぞ。」



夕張「そう?でもみんな喜んでくれてるのよ?この辺ゲーセンどころかコンビニすらないし。」



提督「あ、そうか・・・そういやここ山の中だったな。」



確かに、娯楽と呼べるものがここではあまりないのだろう。外に出ようにも交通の便があまり良くないし、街から離れ過ぎている。ここで働く彼女達のことを考えると一概に夕張のしたことを否定することは無理だろう。



夕張「それに私、ここでお金を貰うようなことはしてないの。流石にカードとかが出るタイプのアーケードと、クレーンゲームは補充とかの都合もあって料金制にしてるけどどれも格安だし、他は全部ただで遊べるようにしてて、コインだって無料で貸し出してるの。」



提督「どうしてだ?その気になれば稼ぎ放題だろ?」



夕張「言ったじゃん、遊びたいから作ったって。私は自分と他の皆が楽しく遊べればそれでいいの。カジノで金を賭けないのはつまらないって偶に言われるけど、それだと知らない人とだったら仲良くしにくいもんね。」



提督「そうか・・・そうだったのか。」



つまり彼女は自分の欲求だけではなく、彼女なりの善意でここを作ったというわけだ。その優しさにを否定する権利など自分にはないだろう。



提督「悪かったな、てっきり夕張のことを遊んでばかりで何も役に立たない奴みたいに思っちまってた。」



夕張「いいよ、私のことどう思っていたかなんて。理解してくれたのなら嬉しい。」



夕張「私が前いたところじゃ誰も理解してくれなかったから。」



提督「それってつまり・・・」



夕張「うん、前いたとこでもこれ作ろうとして止められて、それに怒って反発したらこっちに来させられたの。」



やっぱりそういうことだったか。何となく薄々感じてはいたが、まさか秋月と似たような者が他にもいたとは。



提督「はあ、皆似たような奴ばっかりだな。」



夕張「まあ、こっち来て理解してくれる人が一杯できたから私は嬉しいんだけどね。」



秋月と同じことを言ってる。自分が思っている以上にここは艦娘達にとって居心地の良い場所なのだろうか。



提督「さて、そろそろ行くかな。それじゃあまた。」



夕張「こんど新しいの入ったら遊びに来てね。」



提督「ああ、そうさせてもらおうか。」



これから程々に遊びに行ってやろうかなと思いながら部屋を後にする。BGMのガンガン鳴り響く部屋からでると、あたりの静けさにちょっと驚いた。世界が無音になったかのような感覚は何だが懐かしかった。



少し、夕張の耳が心配になる。衰えた聴力って入渠で治せるのだろうか。



提督「まあ後で調べておくかな。さて、次はどんな奴がいるのやら。」



扶桑、山城、秋月、夕張のおかげで人と会おうとするのに抵抗が無くなったようだ。むしろ新たな出会いを求めて気分が高揚している。



誰かいないものかと意気揚々と探しているうちに、ふとあることが頭をよぎった。



提督「あれ、そう言えば何か忘れてるような。」



誰かに会って話をしなければいけないような気がするのだが、思い出せない。あと少しで思い出せそうなのだが、そのあと少しがどうしようもなくてすごくモヤモヤする。



提督「あーくそ、ダメだ。思い出せねえ。」



かなり重要度が高い案件だったはずなのだが、脳がどうしても教えてくれない。今日一日で気になることが二つもできてしまった。



提督「はあ、そのうち思い出すことを願うか。」



モヤモヤの晴れない頭を抱え歩いていく。身悶えしたいところではあるが、見知らぬ艦娘に変人扱いはされたくないのでじっと我慢だ。



言うことを聞いてくれない頭と格闘すること数分、前方から話声が聞こえてきた。どうやら何か良からぬことが起こっているらしい。



提督 (なんだ、喧嘩か?)



?「おい新入り、いったい誰にぶつかってくれてんだよ。」



卯月「ご、ごめんなさいぴょん。」



?「あん?てめぇふざけてんのか?なんだよピョンってよお、謝る気ねんだろ。」



卯月「そ、そんなことないぴょん。本当にごめんなさいぴょん。」

ビクビク



?「ったくよお、最近のガキは謝り方も知らねえのかおい?悪びれる気持ちが全然伝わってこねえぞ。」



卯月「ど、どうしたら許してくれるぴょん?」



?「あ?てめえ何かすれば許されると思ってんのか?」



卯月「・・・っ!」

ビクビク



?「はん、まあいい。丁度ムシャクシャしてたんだ、サンドバッグ代わりに殴らせてくれたら許してやってもいいぜ?」



卯月「いや!止めて!痛いのは嫌だピョン!」



?「おいおい、自分から許される方法を聞いてきたくせに何だってんだよ。何も命を取るとまでは言ってねえ、少し痛い目見るだけだっての。」



卯月「で、でも・・・!」



?「あーもうっせえな!てめえは黙って殴られてりゃいいんだよ!」

ブン



卯月「きゃっ・・・!」




ガシ




提督「そこまでだ。」



?「あ?何だてめえ俺に何か用かよ。」



卯月「し、司令官・・・」



提督「卯月はちゃんと謝ってるだろ、それなのに許せないなんてお前は聞き分けのないガキか?」



天龍「て、てめえ!俺を天龍様だとわかっててそんな口聞いてんのか!」



提督「自分で自分のこと様付けするとはな、やっぱりガキじゃねえか。」



天龍「るっせえ!泣いて謝ったところでぜってえ許さねえからな!」

ブン



提督「ふんっ!」



天龍「いっ・・・!」



ズドン



天龍「かはっ!」



提督「喧嘩を売った相手が悪かったな。これでも軍人なんだ、一通りの武道や護身術は学んでいる。」



派手な払い腰が決まり、天龍が一撃でノックアウトされる。少々手荒過ぎたかもしれない。

(一本背負だと思ったそこの君、何も投げ技は一つではないのだよ。寧ろ相手を傷付けないようにかけるならあれ程地味な技はないのだ)



卯月「司令官!」

だきっ



提督「おおうっ・・・大丈夫だったか?怪我してないか?」



卯月が抱きついてきた。涙を見せないようになのだろう、相変わらず力強かった。でも、今の卯月は強くなんてない。まるで本物のウサギのような弱々しさだ。



卯月「怖かったピョン・・・」



提督「大丈夫だ、もう怖がる必要も泣く必要もない。」



出会った時と同じように卯月が泣き始めた。ちょっと力を入れただけで壊れてしまいそうな彼女は誰が見てもか弱い乙女なのだろう。大切にしてあげなければいけないのだ。



提督「卯月、今朝は悪かったな。俺が大人気なかった。」



卯月「うーちゃんも、ごめんなさいピョン。ちゃんと話を聞かなかったせいで・・・」



提督「いや、卯月は悪くない。卯月と違って俺はお前のことを傷付けちまった、本当にごめん。」



卯月「ううん、もういいピョン。だってこうして助けてくれたから。」



提督「俺も卯月のことをもう怒ってなんかいない。むしろ怒ったことをすげえ後悔してた。」



卯月「良かった、ずっと怒ってるんじゃないかって怖かったんだピョン。だから謝りたくてもなかなか言えなくて。」



提督「俺も卯月に嫌われたんじゃないかって仕事中ずっと思ってたよ。でもそうか、それなら良かった。」



卯月「・・・今日も一緒に寝ていいピョン?」



提督「ああ、いいぞ。」



互いに後悔していた二人が仲直りをした。この出来事は、出会って間も無い二人が本当の仲間となった瞬間だった。



提督「さて、後は・・・」



天龍「うう・・・」



提督「おい。」



天龍「っ・・・!」



打ち所が悪かったのだろう、痛みで起き上がれない天龍の元に歩み寄る。



提督「・・・」



天龍「何だよ・・・黙ってないで何か言えよ。」



提督 パンッ



天龍「なっ・・・」



提督が天龍の頬を叩き、乾いた音が辺りに木霊する。



提督「いいか天龍、俺は別にお前だけを責めるつもりはない。卯月にだって落ち度があったんだろう、卯月には俺が後で言っておく。だがな、」



天龍「・・・」



提督「お前は仲間を傷つけようとした。誰が敵で味方なのかわからない戦場で唯一信じることのできる者となる筈の仲間をお前は傷つけようとしたんだ。このことの重大さをお前は理解していない。」



提督「仲間を傷付けることは戦場にいる全てを敵に回すことだ。そうしたら待っているのは味方のいない戦場でただ一人孤独に死んでいく運命だけだ。俺は誰にもそんな風に死んで欲しくない。」



提督「だから約束しろ、お前を一人にしない為にも、お前を失わない為にも、誰一人として仲間を傷付けないと。」



天龍が唇を噛んで黙っている。だが、それは怒りからでも悲しみからでもなかった。




提督「・・・痛かったろ?すまなかったな、いつもと腕が逆で上手く技をかけられなかったんだ。」

さすさす



強打したらしい肩をそっと撫でる。このまま放置すればアザになってしまうかもしれない。いくら相手が天龍といっても女子を傷物にしてしまった、そのことを提督は悔いた。



提督「少し早いが入渠の手配をしておこう、その様子だと昨日風呂に行かなかったんだろ?ゆっくり浸かって休んでこい。あと、終わったら執務室に出頭するように。」



始終何も言わない天龍にそう言ってその場を後にする。先程の勝気な様子とは違う儚い様子に提督は少しだけ安心した。

彼女も本当はあんな性格ではないのだ。きっと何かしらの事情があるに違いない。



提督「さて卯月、執務室に戻るぞ。」



卯月「もう直ぐご飯の時間になるけどいいピョン?」



提督「俺が作ってやるさ。心配すんな、これでも一人暮らし歴は結構長かったからな。」



卯月「うーん、まあ偶には居酒屋料理もいいピョンね。」



提督「おいおい、俺をツマミしか作れねえ男だと思ったら大間違いだぞ?寧ろ酒が飲めねえからそっちは全然レシピ知らないし。」



卯月「ええ、なんかそれはそれで格好悪いピョン。」



提督「仕方ないだろ、ビールの缶丸々一つ飲めた試しないんだから。」



卯月「だから司令官はモテないんだピョン。」



提督「酒癖悪いよりマシだろ。」



卯月「女の子はみんなお酒に強い男の人の方が好みなんだピョン。合コンで自分より早くぶっ倒れる人がいたらどう思うピョン?」



提督「くそぅ、否定しきれない俺が惨めになってきた。」



どうして自分はこんなに非モテ体質なのだろうか、両親をどうこう言うつもりはないが自分の運命が恨めしい。



卯月「まあ、何時まで経っても相手が見つからなかったらその時はうーちゃんが貰ってあげるピョン。」



提督「頼む、冗談に聞こえないから止めてくれ。」



卯月「もう、折角『うっそピョ〜ン!』って言おうとしたのに。そこは『本当か卯月!ならお前が大きくなるまで俺はずっと待ってるぞ!』って言うとこピョン。」



提督「大人をからかうのは止めなさい。」



的確にこちらの傷を抉ってくる卯月の言葉にメンタルが大破しそうである。卯月がそれ以上何も言ってこなかったので助かったが、何時になったらこの苦痛から逃れられるのかとその日が来るのを願わずにはいられなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




執務室




卯月「司令官、あとどの位でできそうピョン?うーちゃんお腹空いたピョン。」



提督「まあ待てよ、もうすぐできるから。」



現在、提督は執務室の端にあるキッチンを使って料理中だ。本来は茶を淹れたりするためにあるのだが、コンロや器材は揃っているので食材を持って来れば何時でも調理可能なようになっていた。

とろける様なふんわりとした香りが執務室中に広がり、空となった胃袋を刺激する。



提督「ん、牛乳が混ざったからあとはコンソメをっと・・・よし、まあこんなもんだろ。味の方は・・・よし、完璧。胡椒で味を調えたら完成だな。卯月!できたぞー!」



卯月「待ってました!今日の夕ご飯は何ピョン?」



提督「鮭とほうれん草のクリームパスタだ。どっちも季節外れな食材だがものは良かったからな、それなりに良い出来になっただろ。」



卯月「わあ、美味しそう!早く食べたいピョン!」



提督「んー、そうしたいんだがまだ天龍が来てないからな。」



飯でも食いながらゆっくりと話をしようかと思って出頭するように言ったのだが、どうも来る気配がない。さっきの今だとやはりここに来るのは抵抗があるのだろうか。



卯月「本当に来るピョン?」



提督「来てくれるといいんだがな・・・」



料理が冷めるのは好ましくないので、諦めて食べてしまおうかと思ったそのとき、執務室のドアを叩く音が聞こえた。



提督「お、良かった来てくれたみたいだな。入っていいぞ!」



提督の声に応じるように天龍がドアを開けて入ってきた。風呂から上がって間も無いのだろうか、留められてない髪は梳かされておらず、彼女が着ているのは制服ではなく部屋着だった。明るいパステルカラーの可愛らしいデザインに意外性を感じさせられる。



天龍「・・・何か用かよ。」



怯えているのだろうか、ここに来るのは嫌だったであろうことが窺える口調で天龍が尋ねる。提督はそんな天龍に席に座わらせ、先ほど作ったパスタを皿に盛り彼女の前に置いた。



提督「そう暗い顔すんな、まずは食べようぜ。」



天龍「これは・・・?」



提督「鮭とほうれん草のクリームパスタだ。口に合うといいんだが。」



天龍「・・・別に、いらねえ。」



皿を一瞥した天龍がソッポを向く。



提督「どうかしたのか?あ、悪いもしかしてこういうの苦手だったか?」



天龍「そんなんじゃねえけど・・・いらない。」



提督「おいおい、お前最近ロクなもの食ってないんだろ?そんなんじゃそのうちぶっ倒れちまうぞ。」



天龍「いらないって言ってるだろ、オレに構うなよ。」



提督「そういうわけにはいかねえ、お前みたいなのを放っておいて他の奴らに仲間面できるかよ。ここにいる時点でお前は俺達の仲間だし、俺は誰一人として仲間を見捨てるような真似はしねえ。だからお前には絶対これを食べてもらうからな。」



天龍「・・・」



天龍がおし黙る。その俯いた顔には思い詰めたようなとても辛そうな表情が貼りついていた。



天龍「・・・お前に俺の何がわかるっていうんだよ。」



提督「お前の何が俺にわかるかって?・・・ああ、勿論わからねえ。だって今日初めて会ったばっかりだもんな。俺はお前の考えてることや気持ちなんかこれっぽっちもわからねえよ。」



天龍「だったら・・・」



提督「でも、お前のことを助けてやれるってのはわかる。俺はお前のことを助けてやりたいんだよ。」



天龍「こんなオレを助けて何になるってんだよ。」



提督「ここに来ちまった以上、ここにいる奴らは皆俺の部下だ。部下には毎日笑って過ごして欲しいっていうのが俺のモットーだからな。お前みたいなのが一人でもいると落ち着かねえんだよ。」



天龍「勝手に自分の都合押し付けてんじゃねえよ。オレのことなんか見てないフリしてりゃいいだろ。」



提督「あーもう、わかんねえ奴だな。つまり・・・」



提督が天龍の両肩を掴み、そのまま抱きよせた。思いもよらない行動に天龍の思考は一瞬ぶっ飛んでしまった。



天龍「な、何してんだよ、は、離せよ。」



提督「俺にとっちゃお前達は家族も同然なんだ!例え嫌われていようが性格悪かろうが関係ねえ、家族の幸せを願って何が悪いんだよ!」



流石の天龍もこんなにまでクサいセリフを言われ、おまけにハグまでされてしまってはこれ以上何も言えなかったらしい、もう提督に噛みつこう(物理的じゃない)とはしなかった。



天龍「なんで、そんなに優しいんだよ。俺なんかにそんな価値無いのに。」



提督「何度も言わせんなよこっぱずかしい。それにどれだけ極悪非道で血も涙もないような奴にだって優しくしたらいけない理由は無い。価値云々で考えるなんて馬鹿らし過ぎるぞ。」



天龍がため息を吐いた。それの意図するところはアホみたいに優しくしてくる提督に呆れたか、何かを諦めたかのどちらかなのだろうが、おそらく両方ともなのだろう。



遂に天龍が自分のことを話し始めた。最初は恐る恐るだった声が次第に流れる川の水のように溢れてきた。



天龍「オレの前いたところは結構名のある場所で、大規模作戦なんかじゃランキングの上位0.1%に入ることは当たり前で建物もでかかったし、メンバーの練度も99Lv以下の奴はいないくらいすごい場所だったんだ。」



天龍「だけど、そこの提督はものすごくクソ野郎で俺達のことをゴミ以上奴隷以下ぐらいにしか考えてなかった。」



天龍「何度も何度も出撃と遠征を繰り返して、疲れたやつは全員事務仕事に回したりして絶対に休ませるなんてことをしなかった。朝から深夜までずっと働き詰めでちゃんと寝られたのは4時間くらいだったんだ。」



艦娘は普通の人間と同様の体の構造を持つため精神疲労、肉体疲労が存在する。だが、彼女達にはその2つに加え戦闘時の生存率に影響を及ぼす別の疲労度がある。出撃や遠征などの任務によって蓄積されるそれは先の2つとは完全に独立しており、どんなに精神的、肉体的に疲れていたとしてもそれの値が行動不能を示していないならば任務をこなすことが可能となっている。



また、時間の経過によって回復することもわかっているので、天龍の言っていたのはそれらの特性を応用した艦隊運用の手段なのだろう。よくできているが人道的とは言えたものではない。



天龍「最初は不満を感じてた他の連中が皆提督のやり方が気に食わなくて文句を言ったりもした。でもあいつはそういう奴を全員解体処分にしたんだ。練度がMAXの奴だってお構い無し、あいつにとっては使えない道具を捨てるくらいの感覚でしかなかったんだろ。」



天龍「そんな感じで、誰も提督に文句を言うやつはいなくなった。ただじっと我慢して従うだけ、幸いあいつは轟沈だけはさせなかったからそうすれば少なくとも自分は助かる。希望も何も無い場所で俺たちはずっと耐えてきたんだ。」



卯月「ひどいピョン・・・こっちはうーちゃんだけだったから良かったけど、皆がそんな目に合わせられるなんて・・・」



提督「くそ、人を何だと思ってやがるんだ・・・」



またぶん殴ってやりたい提督リストに項目が追加された。でも、たとえ気絶するまで殴っても虐げられてきた彼女達の気が晴れることはないだろう。そう思うととてもやるせなかった。



天龍「じゃあ何でお前はオレ達のことを人みたいに扱うんだ?姿形が同じだけでオレ達には母親なんていないし、生まれ方も全然違う。なのになんで同じみたいに言えるんだよ。」



提督「そりゃ一緒に仕事して、飯食って、泣いて、笑ったりしたらそう思うだろ。というか俺には体の作りがどうのこうのとか誕生云々なんて全然わからねえからな、そうとしか思えねえよ。」



天龍「・・・生まれたのがお前のところだったらオレはもっといい奴になれたのかな。」



提督「・・・ん? どうした?」



天龍「何でもない。話を戻すぞ。」



少し考えごとをしていたら天龍の言葉を聞き逃してしまった。まあ本人が何でもないというなら敢えて言及はしないでおこう。



天龍「そんなわけで、オレ達はずっと辛い目に遭わせられながら何も言わずに働いてた。でも、そこに龍田が来ちまった。」



提督「・・・どういうことだ?」



確か龍田は天龍の妹だ、正確には天龍型軽巡洋艦の2番艦というべきなのだが、いちいち言うのが面倒なので妹の一文字にまとめてしまう。シスコンが多い艦娘の中でもとりわけ姉との相性が良く息ぴったりだと提督仲間の中ではよく言われていた。そんな彼女の着任を喜んでいない、寧ろ拒んでいたかのような話し方に提督は違和感を覚えた。



天龍「龍田には謎の欠陥があったんだ、だから戦闘ができなかった・・・」



提督「どういうことだ?」



天龍「オレにだって分からねえ。でも、あいつはオレ達が生まれ付き持ってるはずの艤装を何一つ持ってなかった。当然主砲を持たせることだってできねえし、何よりオレ達みたいに海の上で走れなかった。」



提督「・・・なるほどな、そういうことか。」



前に一度、学生だったころににそんな話を聞いた覚えがあった。数多くの艦娘の中には稀に同じ艦名の者同士なのに全く異なった姿をした者や艦種が異なる者、天龍の言ったように戦闘を行えない、戦い方を知らない者などが現れることがある。その理由は今でも解明されてはおらず、軍の人間の間ではこの不可解な現象を突然変異やバグと呼んでいた。



天龍「オレ達は龍田が解体されると思った。戦えない奴をあの提督が捨てないはずがない。でも違った、あいつは龍田を艦隊に加えた。しかも秘書艦にまでしたんだ。」



提督「はぁ!?」



天龍「オレだって訳がわからなかった、でも龍田は喜んでた。勿論、龍田が解体されなかったのはオレだって嬉しかった。それまで龍田なんて鎮守府に1人もいなかったからな、妹ができたことを嬉しく思ってた。」



提督「そうか、なら別に良かったんじゃねえのか?」



天龍「最初はな、龍田の世話を任されて一緒に同じ部屋で寝泊まりするのは辛い仕事ばっかだった毎日が苦じゃなくなるくらい楽しかった。」



天龍「・・・でも、ある日から龍田が部屋にいない日が続いた。いつもなら部屋に戻ったらいたのに、オレが寝るまでずっとドックにいて戻らなかったんだ。」



提督「・・・」



天龍「一週間ぐらいそんなことが続いた時は流石に心配になって龍田に聞いたんだけど、あいつは何でもないって言って何も言わなかった。」



天龍「その次の日、やっぱり気になって仕事の途中でこっそり抜け出して執務室に行ったんだ。絶対あいつと何かあったんだと思ったから。そしたら・・・」



提督「天龍、もういい。それ以上何も言うな・・・俺も無理に聞き出す気は無い。」



多分、この先が肝心要な鍵となる話なのだろう。でもそれが天龍にとってとても辛い記憶であることが彼女の表情からわかった。話せと言っておいて何なんだと言われるかもしれないが、提督自身ここから先は聞く気になれなかった。



天龍「龍田が・・・」



提督「天龍・・・」



天龍「・・・全身血だらけで床に倒れてたんだ。側にはあいつが鞭とナイフを持って立ってた。マジで驚いたけどすぐにあいつが龍田のことを毎日こうして虐待してたんだってわかった。そう考えたら怒りが抑えきれなくなって・・・」



天龍「多分オレは、あいつのことを、ぶん殴ったんだと思う。気が付いたら、あいつが吹っ飛ばされて、倒れてた。でもオレ、止まれなくて、またあいつに殴りかかって、そしたらあいつの鞭で、足を払われて、転んじまった。よく覚えてないけど、あいつが何か叫んでるのが聞こえて、気が付いたらナイフを振り上げてた。避けようにも足が切れてて、力が入らなくて、もうダメだと思った、ナイフで刺されて死ぬんだって。」



天龍「風と音で、あいつがナイフを振り下ろしたのがわかって、目を瞑った。でも、何時まで経っても、ちっとも痛くなかった。何でかわからなかったから、目を開けた。そしたらいつの間にか、龍田がオレの上にいて、オレのことを庇って、代わりに刺されてた。」



天龍「龍田は、オレに逃げろって言ってた。でも、オレはあいつが許せなくて、主砲であいつのことをぶっ飛ばした。たった一撃撃っただけでであいつは床に倒れたまま動かなくなった・・・でも幸か不幸か、命だけは助かったみたいで今も病院で意識不明のまま寝てる。」



提督「それが原因で・・・ここに来たってことか?」



天龍「ああ、いっそ解体されるか、雷撃処分されるほうが良かったけどな。」



提督「そうか・・・それで、龍田は?」



天龍「龍田は死んだよ、傷は深かったし、既に血を流し過ぎてたから何をしても手遅れだった。そうなったらもう解体できないし、オレ達艦娘は墓を立てることも許されてない。だから亡骸は誰もいない静かな海に沈めてやった。」



卯月「かわいそう・・・」



提督「っ・・・!」



天龍の話は提督が想像していたよりもずっと辛く、ずっと悲しかった。理不尽な思いをさせられてきた彼女のことが堪らなく哀れだった。



天龍「オレ、姉貴なのに何もしてやれなかった。龍田が苦しんでることも知らなかったし、救ってやることもできなかった・・・」



解体することなくここに彼女を配属した者は相当タチが悪い人間なのだろう。彼女は龍田を失った悲しみ、守れなかったことへの後悔、上官を撃った罪、これらをずっと背負わされたままここで暮さねばならないのだ。いつ許されるかわからない過去に縛り付けられ後ろを振り返ることしかできない、そんな日々を過ごしてきた彼女の絶望は到底計り知れたものではない。



提督 (くそ、こんなに苦しんでるやつがいるのに何て言ったらいいか全然わからねえ・・・)



まだうら若い頃は20を過ぎれば何でも全て1人で出来るようになるのだと信じていたが、この歳になっても未だ己の無力さを感じることが多い。成人してほんの10程歳をくっただけの未熟な自分の薄っぺらい一言で彼女の心の闇を振り払うことなどできやしないのだ。



天龍「きっと、龍田はオレのことを恨んでるだろうな。肝心な時にただ守られるだけの存在なんて姉貴失格だもんな・・・」



天龍が自嘲するかのような口調でそう呟く。何度も何度もそうやって自分を責めきたのだろう、心が摩耗しすり減ってしまっているのが提督にもわかった。

そんな彼女をこれ以上見ていられなくなった提督が口を開く。



提督「そんなことない、龍田は絶対にお前を恨んでやしない。」



天龍「そうか?人間は苦しい時に何もしてくれなかった相手を意図してなくたって心のどっかで恨んじまうもんだろ?龍田だってそれは変わらないはずだ。」



提督「何でそんなこと言うんだよ、だったら何で命張ってまで、恨んでるお前のことを助けたんだよ。俺だったらそんなこと絶対にしねえぞ?見殺しにして、ざまぁ見ろって言うだろうな。でもそうじゃないんだろ?お前のことが大好きだったから、何も出来ない自分を可愛がってくれたお前に死んで欲しくなかったから助けたんだろ。それなのに勝手に恨まれてるなんて思いこんで、例え死んだってそんなことされたら悲しいに決まってるだろ。」



天龍「っ・・・!」



卯月「司令官・・・」



提督「いいか覚えておけよ、怨みは死んだやつが残すんじゃない、生きてる人間の勝手な思い込みで作られるんだ。死んだやつは何も考えたりしないからな。だから頼む天龍、もう自分を責めるのは止めてくれ。龍田はお前をそんな風にする為に生かしたんじゃない。俺だって死んだことないからわからねえけど、死んでいく人間が願うのは生きてる奴の幸せなんだ。」



天龍「・・・」



提督 (はあ、やっちまった。)



自分自身こんなクサい台詞が次から次へと出てくるとは思っていなかった。でもここまできたら突っ走るしかなかろう。最後まで(場を間違えたら)痛い奴を演じきるしかない。



天龍「本当に、そうなのか・・・?龍田がオレのこと、許してくれてるのか?」



提督「龍田はお前に殺されたわけじゃないんだろ?そりゃ、確かにお前は人を殺しかけた、この罪は長い時間をかけて償わなきゃならねえよ。でも死んだ龍田には何一つ恨まれるようなことはしちゃいない。」



提督「・・・もういい加減自分を許してやれよ、龍田だって自分のことでお前を苦しめてるなんて知ったら泣くぞ?まあ、龍田がどんな奴か知らねえけど。」



天龍「・・・オレ、本当にいいのか・・・?」

ポロ



提督「ああ、どうしても無理なら俺が代わりに許してやる。でもこれはお前の問題だからな、いずれにせよ自分でどうにかしないと。」



天龍「オレ・・・っ!」

ボロボロ



天龍の目から真珠のような涙が落ちる。止むことなくテーブルに降り注ぐそれは、次第に彼女の心を少しずつ洗うだろう。燻んだ心のヨゴレを落とすのにはもっと沢山の時間も必要になるだろう、少し功を焦り過ぎた気もするが結果オーライだ。



提督 (これでこいつもまともになってくれると良いが。)



ここ数日、女の子を泣かせ過ぎな気がする。向こうが涙脆いだけだと思うが、端から見たら説教→フラグ建設を繰り返す黒ずくめの剣士を連想するかもしれない。まあ、あちらは正妻がいるにもかかわらずフラグをへし折れない程度のハーレム体質なので同等に扱うものはいないだろう。

(羨ましく・・・あるに決まってるだろうがばっきゃろい。)



必死に涙を拭う天龍にティッシュを差し出してやる。天龍がそれで鼻をかんだそのとき、どこからともなく可愛い音が聞こえた。音源を探そうと音のした方を見ると、天龍が真っ赤になって俯いていた。



提督「お前、本当は女子なんだな。」



天龍「う、うるせぇ・・・//」



提督「はは、少し待ってろ。冷めたパスタなんて美味くないからな、今温めてきてやるよ。卯月は・・・なんだもう食い終わってたのか。」



卯月「あったかいうちに食べるのが1番だピョン。」



提督「そりゃそうだが、下手すると無神経だって思われるから空気読んでおこうな?」



卯月「大丈夫だピョン、ちゃんとお話が終わる前に食べ終わったピョン。」



提督「早いなおい。ちゃんと噛んで味わって食べないとダメだろ。」



卯月「もう、うーちゃんは子供じゃないからそのくらいちゃんとやったピョン。とっても美味しかったピョン。」



提督「そうかよ、お気に召したようでなによりだ。」



それならそうと言ってくれた方が作る側としては嬉しいが、ちゃんと卯月なりに空気を読んだのだろう。そういうところはしっかりしてるのでなかなかツッコミ辛いキャラである。



提督「ほら、あっためてやったぞ。遠慮せずに食え。」



天龍「・・・いただきます。」



まさかその言葉が出てくるとはちょっと思っていなかったので少し嬉しい。意外と律儀なところがあるのだなと思いながら彼女の食べる様子を見守る。自分もまだ食べていなかったのだがこの時は軽く失念していた。



天龍「・・・美味い。」



提督「そうか、良かった。」



天龍「これ、提督が作ったのか?」



提督「ああ、こう見えてツマミ以外は得意でな。どうだ、なかなかのもんだろ。」



天龍「お前、実は女だったりするのか?」



提督「しねえよ!なんでそうなんだよ!」



天龍「メニューといい、味付けといい男の手料理とは到底思えねえぞ。」



卯月「司令官は男らしさに欠けるのかも知れないピョン。だからモテないんだピョン。」



提督「くぅ、中途半端な女々しさが俺のコンプレックスなのか。」



天龍「まあ、オレはこういうやつの方が好きだけどな・・・」



提督「・・・やっぱりお前乙女だな。」



天龍「お、おい!フォロー入れてやったのになんだよそれ!」



卯月「わかったピョン、司令官にはこういうベクトルのギャップが必要なんだピョン。こういうのがあればモテるんだピョン。」



提督「何、本当か?天龍!頼むからそれを俺に教えてくれ、いや下さい!」



天龍「ちょ、いきなりなんだよ!気持ちわるいから止めろその口調!」



提督「そんなこと言わずに師匠!」



天龍「師匠じゃねえ!お前もとっとと食べちまえよ!冷めるだろ!」



なんだかすっかり打ち解けてしまったかのような雰囲気で食事会が進んだ。本当に彼女が心から気を許すのにはまだ時間がかかりそうだが、それもゆっくりと解決していけばいい。彼女が前に進む足掛かりとなったこの日は絶対に忘れられないここでの思い出となった。





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鎮守府にやって来る者





ここに来て珍しく天候に恵まれたこの日、朝早くからこのアクセスも悪ければ見つけようにもどこにあるかわからないし、道行く人に聞いてもわからない(この近くでは聞いてはいけない)という訪れる者が滅多にいなそうな不幸鎮守府に、卯月を除いた残りの睦月型のメンバーがやって来た。



予定よりも数日過ぎていたので少し心配していたところだったが、無事にたどり着けたようで安心した。話を聞くところによると、大本営から来るときに渡された地図があまりにもお粗末だったので何度も道に迷ったらしい。

電車を間違えて盛岡まで行ってしまったというのは、にわかに信じがたいが土産の盛岡冷麺をくれたので嘘ではないのだろう。(大本営の寄越した地図のせいだけではないような気がする)



三日月「司令官、遅れてしまい申し訳ごさいませんでした。」



提督「まあ遅れたことはもう過ぎたことだ、気にすんな。それよりも長旅で疲れたろ?今日はそんなに忙しい日じゃないから休んできていいぞ。」



皐月「本当!? やったー!」



望月「あたしはそんな疲れてないけどね〜、観光も楽しかったし。まあ休めるならなんでもいっか、寝よ。」



睦月「も、望月ちゃんそれはナイショだよ!」



菊月「冷麺を渡した時点でもう既にバレてると思うが・・・」



長月「別に観光目的であちこち歩き回ったわけじゃないからいいじゃないか、もののついでだ。」



如月「そんなことより早くお風呂に入りたいわ。お気に入りのシャンプーが切れちゃって、ホテルのを使ったらボサボサになっちゃったの。」



文月「あ、如月ちゃん御用達のシャンプー買っておいたよ。えーっと、確かここに・・・あれ?」



弥生「・・・はいこれ...電車の棚に置きっぱなしだったよ...?」






提督「・・・なあ、卯月...」



卯月「何ピョン?」



提督「皆、自由人だな・・・」



卯月「まあ皆はちょっとマイペースなだけだピョン。そのうち慣れるピョン。」



結構勝手気ままな彼女達がこれから自分の周りで働くのかと思うと若干頭が痛くなった提督だった。



三日月「姉がご迷惑をおかけします・・・」



提督「いいんだ、別に謝ることじゃない。それにしても三日月は偉いな。飴食べるか?」



三日月「いいんですか?それじゃあ、ありがたくいただきますね!」



提督「卯月、ここに天使がいるぞ。」



卯月「ちょっ、司令官!こんな可愛い美少女のうーちゃんを差し置いて三日月だけ贔屓するピョン!?」



だが、平々凡々な提督にとって唯一誇れるのが彼の仕事に対するクソが付くほどの真面目っぷりなのだ。ここに来て真面目属性の人に1人も会っていない(教官のあれは見た目だけのエセ真面目属性だし、扶桑も候補に挙げられなくもないがちょっとまともじゃないので却下だ)ので自然とこういう娘に好感を持つのだ。



(ふみちゅきを差し置いて何事だといいたいそこの信者の方よ。まずは茶でも飲んで落ち着きたまえ。でもって、別に同胞を裏切るつもりはないことだけは理解して欲しい。ただ提督がこんな奴だっただけのことなのだ。)



提督「はいはい、卯月も十分かわいいぞ。」



卯月「えへへ、褒められちゃったピョン。」



提督 (やれやれ、チョロいな。)



提督「ま、それじゃあこれから1年よろしくな!」




睦月型一同

「はい!」




桜乱れる出会いの月。最初はどうなることかと思ったが、今までとは違う刺激をもたらしてくれる新たな仲間のおかげで少し希望を持つことができた提督は精一杯自分のやれることをやろうと一年の抱負を胸に抱いた。




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これを日常というのか





提督「あー、天気がいいな。」

ノビー



卯月「気持ちがいいピョン〜。」

グデー



望月「やっぱこうしてダラダラするのって最高だよね〜。」

ゴロゴロ



初雪「んしっ、撃破・・・」

カタカタ



加古「Zzz・・・」



提督「うおい!こんな所でゴロゴロするな!誰もサボっていいなんて言ってないぞ!」



未練でもあるのかと言わんばかりに訪れる冬並みの寒さもすっかり来なくなり心地よい晴天が続く今日この頃、いつの間にか鎮守府の執務室でだらだらゴロゴロする会(非公式)が行われていた。



提督「人が目を離したスキにご丁寧に布団まで敷いてくれちゃって、寝るなら自分の部屋で寝ろ。皆と寝たいなら仮眠室の使用も許可してやるから。」



望月「えー、移動するのめんどい。」



提督「そういう問題じゃないだろ。第一誰かに見られたらどうすんだよ。」



望月「別にこんな所にお客さんなんて来るわけないし、教官さんだってあれっきり一度も来ないじゃん。だからへーきへーき。」



提督「カメラとかで監視されてたらどうするつもりだよ。」



初雪「それは大丈夫。ここのカメラなら今は全部止めてるし、例え動いてても私が管理してるからデータファイルを消すなんて余裕のよ◯ちゃんイカです…」

ブイ



提督「おい、お前初雪だよな?でもってそこで寝てるのは加古だろ。」



初雪「いえす、あいあむ。」



加古「Zzz・・・」

スヤスヤ



提督「お前らいったい今までどこにいたんだよ。着任したからってわざわざ挨拶しに来いっては言わないけどせめて顔ぐらい見せてくれ。」



初雪「あ、じゃあ今したということで。」



提督「違う、そうじゃない。」



初雪「なら別に挨拶しないほうが良かったですか?」



提督「誰もそんなこと言ってないだろ。俺が言いたいのは、艦隊運営のために大本営に送ってやる名簿を作ったり、部屋割り決めたり、飯の時間の割合てを考えたり、風呂の順番決めたりしないといけないから早いとこメンバーを把握したいのにそうやって居るか居ないのか確認をとれなくするようなことされると凄い困るんだよ。」



初雪「ふーん...」



提督「軽い、何だその反応軽すぎるぞ。いったいそのことだけで1日何キロ歩き回ったと思って・・・ん、卯月何してんだ?」



卯月が妙に不似合いなノートパソコンを取り出して何かを閲覧し始めた。おバカっぽい卯月が使ってるのを見てるとどうしても大淀の方が絵になるなという感想が出てくる。せめて眼鏡があれば違ったのだろうが、彼女が眼鏡を着用している姿は想像がつかなかった。



卯月「えーっと、司令官がこの間歩いた距離は・・・あ、970mだピョン。惜しい、あと30m。」



提督「聞いてないぞそんなこと。というかそもそも何でそんなこと知ってんだよ。」



卯月「司令官の日々の健康管理とかも私のお仕事だから、司令官の制服に万歩計付けて毎日の運動状況をモニタリングしてるんだピョン。」



提督「え?うそ、どこ?」



卯月「えへへーん、秘密だピョン。」



提督「あれ?ない・・・ないぞ?どこに付けた・・・?」



卯月「教えてもきっとわからないピョン。」



体中の至る所を触ってもそのような固形物は見当たらない。だがこのままだと、子供の頃によくやってた背中にシールを貼るイタズラをされたようで落ち着かない。



初雪「ぷぷ、何キロ歩き回ったと思って(笑)」



提督「わ、笑うな初雪、くそ、どこだ?」



初雪「あ、そうだ司令官。」



提督「なんだ?」



初雪「着任おめです。」



提督「それ今言う台詞か!?」



それにあまりおめでたくない。本人に悪意は無いのだろうが言われて嬉しいかと言われたら微妙としか答えようがない。



提督「はあ、見つからないもんは仕方ないか、諦めよう。んで、初雪はPCイジって何してんだ?」



初雪「MMO、サブキャラの育成中。」



提督「ネトゲか、課金とかしてないだろうな。」



初雪「本アカとサブアカそれぞれ最初の方で5000円くらい、あとは無課金。」



提督「うーん、まあ沼にはまってないなら良いか。」



初雪「完全に無課金で遊ぶのは運営に対して失礼。面白いと思ったらお金を払ってあげるべきだと思います。」



望月「わかるなー、でも個人的に最初に金払っちゃうタイプのゲームが1番面白いと思う。」



提督「それも一理あるか。確かに金を払わないのもよくないよな〜。」



卯月「司令官は完全無課金主義者?」



提督「そりゃ一時期は課金しようかとも思ってたぞ?でも、昔友達にスマホのゲームに月何万も課金するような奴がいてな、そうなるのが怖くてやらなかった。」



望月「うわぁ、いい反面教師になったってわけだ。」



初雪「どうせ止めても無駄だから、運営にはこういう人も必要だと諦めるのが一番。」



提督「なかなか辛辣だな、まあ俺も何も言わなかったけど。」



提督「そういや、夕張がやってるゲーセンには行かないのか?」



初雪「普段はこれ、でも偶に誘われたりしたら行ってます。」



望月「1人でゲーセンってのもねえ、みんなで一緒に楽しんでなんぼでしょ。」



提督「まあ、それもそうか。」



確かに、学生時代は度々ゲーセンに行っていたことがあったが、1人で行くことはあまりなかった気がする。ゲームは1人でやるものだとしても、会話しながらの方がより楽しく遊べる。通話やチャット機能が無いゲームでわざわざSk◯peなどを利用してプレイするのもそういう理由からかもしれない。



いつの間にかゴロゴロする会を阻止する目的を忘れて雑談に花を咲かせていると、人が寝起きの時に発するあのなんと形容していいかわからない声が聞こえてきた。



加古「ん・・・んん」



提督「お、ようやく起きたか。」



加古「ん、ここどこ?」



提督「執務室だよ、自分で寝といて何で忘れるんだよ。」



加古「・・・誰?」



提督「はあ・・・」



寝ると記憶がぶっ飛ぶようにできているのだろうか、確かに顔を合わせたのは今が初めてだが、着任してだいぶ経つのだ、知らないわけがあるはずない。



提督「今月の初めにここに着任した提督だ。」



加古「ふーん・・・ああ、思い出した。上司に酒ぶっかけたせいでここに来たっていう...」



提督「仰る通りだよ…」



また記憶にないことを持ち出される。どうしてそんなことになったのか未だに思い出せないのだ。



加古「あたしは加古ってんだ、まあよろしく。」



提督「ああ、よろしく。ところで今までどこにいたんだ?鎮守府中を探し回ったけど全然見つからなかったぞ。」



加古「どこって、あそこ。」



提督「へ・・・?」



加古が窓の外を指差す。正確には窓の外に映る大木だ。あそこで何をしていたというのだろう。



加古「あの上に小っちゃい家建ててあるんだ。だから普段はそこで初雪と一緒にいる。」



提督「はい!?」



よくよく見てみると、確かに人工的に作られた箱のようなものが見える。少し上のほうでチラチラと見える布のようなものはどうやらハンモックらしい。



初雪「冷暖房完備、電源ありです。ついでに冷蔵庫とWi-Fiのアクセスポイントも。」



加古「晴れた日にあそこで寝るってすごく気持ちが良くてさぁ。流石に夜と雨降ったりしたときは中に入るけど。」



初雪「先先代が作ってくれたの、一度も喋ってるところ見たことないし不器用だけど一生懸命頑張ってくれたんです。」



加古「本当、何考えてるかも全然わからないしなかなか誰かと関わろうともしなかったけど、悪い人じゃなかったな〜。」



提督「なるほどな、そういうことか。」



そもそもコミュ力皆無のくせに何故提督をやっとるのかすごく疑問だが、まあその分だと好かれやすいタイプなのかもしれない。実際に会ってみたい気もする。



加古「あたしらは飯とか風呂の時とか以外はあそこにいるから用事があるならあそこに来てよ。あたしが行くかどうかは別だけど。」



提督「いや、そこは黙って従ってくれよ。」



加古「ええ、面倒くさい。」



この2人を働かせるのは至難の技なのだろうなとか思っていると、執務室に誰か入ってきた。



古鷹「失礼します。提督、第一艦隊只今戻りました。」



提督「お、ご苦労様。悪いな、今絶賛散らかってるんだ。(こいつらのせいで)」



古鷹「うわ、朝起きた時の旅館みたいですね・・・って加古!こんな所にいたの!?」



加古「やっほー古鷹。おかえりー」



古鷹「やっほーじゃないよ!またこんな所で寝てたの?提督の邪魔したら駄目!」



加古「いやー、ここ日当たりがいいから一度寝てみたかったというか何というか。」



提督「俺は一度も許可を出した覚えはないぞ。」



古鷹「ごめんなさい提督、加古がご迷惑をおかけしました。」



提督「別に古鷹が謝らなくても、あとそれに関しては加古オンリーじゃないから。」



加古「そうそう、私が全部悪いわけじゃ・・・」



古鷹「迷惑かけたのには変わりないでしょ、提督に謝る。」



加古「あう・・・ごめんなさい。」



古鷹「あと、今日こそは一緒に寝てよね。」



加古「ええ!?流石にそれは・・・」



古鷹「加古がいないから最近全然眠れないの、1人だと眠れないの知ってるでしょ?」



加古「え、でも私には専用の寝床があるし、いつも寝てる布団の方がいいなぁって・・・」



古鷹「既に移してあるから問題なし。ね?いいよね?」



加古「ええ・・・」



一向に首を縦に振ろうとしない加古。姉妹艦だというのに何故そこまで拒むのだろうか。だが対する古鷹も一歩も引こうとしない。遂には強行手段にはいり加古を引きずり始める。



加古「ちょっ、待ってストップ!話せばわかるから!」



古鷹「すみません提督、お騒がせしました。」



提督「お、おう。」



加古「ああ待って助けて!お願いだから止めてぇぇ!」



断末魔を残して2人がドアの向こうに消える。ただ一緒に寝るだけのことに異常な拒絶を示す加古にスッキリとしない疑問を持つが、そのうちわかるだろうと思って気にするのを止めた。あの古鷹が加古に虐待をしているというのなら話は別だが、あの古鷹がそんなことをするとは到底思えない。



提督「さてと、とりま加古がいなくなったし。・・・卯月」



卯月「はい?」



提督「今すぐにこの布団を全撤去、望月も手伝え。」



望月「ええ、面倒くさい。」



提督「今すぐやらないと今日の夜どんな目に遭うかわからないぞ?」



卯月「最低!夜中部屋に忍び込んで乱暴する気でしょ!エ○同人みたいに!エ○同人みたいに!」



初雪「司令官のロリコーン。訴えてやるー。」



望月「見損なったぞー。」



ちょっと意味深なことを言えばすぐこれである。まあ卯月は卯月でお決まりの台詞を言っているあたりフリにしか聞こえないが。



提督「いやー残念、俺がロリコンだったらまだ良かったかもな。でも俺にはそんな趣味は無いんだな〜、ただ紐で縛って山の中に放り込もうかなとかしか思ってないんだけどな〜、どうしようかな〜。」



精一杯ニヤニヤしてそう告げると卯月の顔が青ざめていった。望月と初雪も言葉を失う。



提督「こんな深い山だからな、野犬は当然いるだろうし熊なんかも出るかもな〜。」



卯月「もっちー、そっち持つピョン。」



望月「任された!」



初雪「枕持ってく。」



言い終わるや否や見事なチームワークで布団を片付け始めた。やはり大自然の力は偉大である。生き物は生まれながらにして自然の怖さというのを良く知っているものだなと感じた。



数分の後、赤い絨毯を隠していた布団が消えていつもの清潔感溢れる執務室へと戻った。これでやっと集中できる。



提督「さてと、戦果報告は・・・あ、古鷹が置いてってくれたみたいだな。どれどれ・・・」



望月「はあ、なんかどっと疲れた。」



卯月「やること無さそうだから部屋に戻ろうかな〜。」



初雪「外に出るの面倒だから便乗させて。」



誰か「逃げろー!爆ぜるぞー!!」




ズドォォォォン!!




3人が執務室から出て行こうとしたその時、どこからともなく爆音が轟いてきた。



提督「何だ!何が起こった。」



卯月「耳がキーンってするピョン。」



皐月「司令官!大変だよ!工廠から煙が出てるよ!」



提督「何だって!?」



執務室に駆け込んできた皐月に言われて窓から工廠の方を見やる。なるほど、火事のような真っ黒い煙ではないが軽度の火災が発生したらしい。



急いで館内放送をかけて危険を報せる。工廠と本館は独立した造りになっておりそう簡単にら燃え広がることはないのだが万が一ということもありえる、こういう時は常に最悪の未来を想像して行動せねばならない。可能な者には消火活動をさせ、それ以外の者には避難誘導を行う。



提督「よし、とりあえずはこんなところだろう。卯月!ついでに望月!初雪!皐月!付いて来い!」



卯月「ど、どこいくつもりピョン!?」



提督「工廠!怪我人の確認に行く!あともしも中に取り残された奴がいたら救助活動の指揮を執る!」



望月「うはー、人使いが荒いよまったく。」



初雪「同感。」



皐月「わわ!ちょっと待ってよ!」



一刻も早く現場に向かうべく工廠へ走っていく。



新たな爆発音が聞こえてこないあたり、どうやら弾薬や燃料への引火はしていないようだ。色々な都合上、消防の力を借りることができないので火災がこれ以上大規模にならないことを願う。



行く道々、避難を終えていない者に声をかけて、他にまだ残っている者がいないように気を払ってもらう。



そうこうしているうちに工廠の前へとたどり着いた。何名かの懸命な消火活動により大きな火災へは発展していないようだ。



扶桑「提督!」



提督「扶桑さんか、無事みたいで良かった。」



扶桑「提督の方こそ、ご無事でなによりです。」



提督「見た感じそこまで酷くはないな、中にまだ人は?」



扶桑「それが、どうも明石さんがまだ中にいるみたいで。」



提督「なに!?」



扶桑「爆発のせいか扉がどこも歪んでいて開けられなくて、煙で窓からの侵入もできず・・・」



提督「くそっ、早くしないと手遅れになる!扶桑さん、艤装は今どこですか?ドアを吹き飛ばせば中に入れるはずだ!」



扶桑「えっと、私も最初そう思ったのですが・・・」



提督「・・・?」



扶桑「ごめんなさい!今日の朝明石さんに点検を依頼してしまって工廠の中なんです!」



提督「はあぁ!?」



望月「そういや私も昨日頼んだな〜。」



卯月「確か遠征メンバー以外は全員明石さんに艤装を預けてるはずぴょん。」



提督「嘘だろ、何でこんな時に。遠征メンバーの帰投予定は!?」



卯月「早くて夕方、遅ければ夜中だぴょん。」



提督「そいつらに期待はできないか・・・」



火災の規模はそこまで大きくなく、数十分で消火は可能だろう。だがそれまで明石の身が保つかわからない。

現状打つ手が無い、お手上げとはまさにこのことだ。完全に詰みである。だがこのままでは明石の命に関わる、諦めるわけにはいかない。



提督「何かないか・・・」



救助の手段を求めてどうしょうもなく辺りを見回す。すると、魚雷を山積みにした箱を運んでいる者を見つけた。火の手から遠ざけようとしているのだろう。だが、あれなら扉を破壊することくらいわけないだろう。



早速箱をもらい受け、火の気の少ない扉に一本だけを残して全て置いた。



卯月「司令官?何する気ピョン?」



提督「この状況でやることなんて決まってるだろ!今からあれを爆発させるぞ!」



提督「総員に告ぐ!!半径30m以内への侵入禁止!瓦礫とか飛んできたら自分で何とかしろ!」



卯月「へええぇえ!?工廠を消し飛ばすつもりピョン!?」



提督「知ったことか!明石がピンチの時にそんな呑気なこと言ってられるかよ!」



望月「工廠が吹き飛んだら明石も巻き添えくらうような・・・」



提督「しまった!そうだった!」



とりあえず扉を吹き飛ばす


穴が開く


明石が脱出、ないしはこちらが突入できる



を想定していたのだが思わぬ誤算だ、確かに肝心な明石ごと吹き飛ばしてしまったら元も子もない。



皐月「司令官、それは誤算じゃなくてただ単に司令官が考え無しなだけじゃない?」



提督 ギク



しまった、心の中だけのはずだった声がいつの間にか漏れていたようだ。



卯月「司令官、真面目にしてれば隠せると思ったら大間違いだピョン。」



望月「さ、もう大人しく吐いたらどう?いつまでもつき続けられる嘘なんてないんだぞ?」



何故かこの非常時に尋問が始まる。どうやら、自分が後先考えない脳筋なのではないかと疑っているようだ。



提督「そ、そんなこと・・・」



この自分が、一応士官養成学校では優秀な方の成績を修めて提督に就任したこの自分が、将棋では二枚落ちしてもらえば有段者にもギリギリの接戦を繰り広げて負けるレベルの自分が、まさかそんなこと・・・



提督「ごめんなさい、見ての通り自分は考え無しの大うつけであります。」



かつての提督は、モテない理由のもっとも多かったものランキングで「普通」の次くらいに「脳筋そう」、「考えて行動してないみたい」がランクインしていた程度の特攻系キャラだったのだ。

それから何度も目上の者に注意され続けてかいぜんしようと努力したのだが、人間そう簡単に生まれ持った性は変えられない。だいぶマシにはなったのだが、時折昔の自分に戻ってしまうのだ。



卯月「んー、何となく予想はできてたピョン。司令官って以外と無鉄砲だし。」



望月「まあ、逆に知的な体育会系がいたらお目にかかりたいけどね〜。でも少しは考えないといつか死ぬよ?」



初雪「いつの時代も強き者は上に立てない、何故なら頭の良い弱き者にだいたい負けるから。」



皐月「うーん、大和さんと武蔵さんを見習うべきかな。すっごく強いのに頭も良いし、良い先生になってくれるよ?」



こうも言いたい放題言われては提督の威厳もへったくれもない。何もそこまで言わなくても良いだろうに。



提督「扶桑さん助けて、みんなが虐めてくる。」



扶桑「あらあら、提督大丈夫ですか?」



山城「ちょっと、さりげなく扶桑姉様にすがりつかない。」



提督「いいじゃんか、もうこのさい山城でもいいからお願い。」



山城「何よその言い方、やめっ、ちょっ、気持ち悪い。離れて。」



提督「うう、自分が嫌になった。」



山城「知るか!さっさと離れろ!」



提督「ひどい、傷心の俺になんて冷たい態度をとるんだ。」



卯月「司令官、みっともないピョン。」



初雪 皐月 望月

「うん」



この提督がここに来たのは上司に酒をぶっかけただけではない、そう思った彼女達は皆子供のような提督にひいていた。



明石「ちょっと!いつまでそんなことしてるんですか!いい加減助けに来てくださいよ!」



提督「へ?・・・あ、明石だ。どうしてここに?」



燃える工廠の中にいるはずの明石が何故かそこに立っていた。しかも彼女のものではなさそうな艤装を付けている。



明石「もう、あんまり遅いから壁に風穴開けて出てきてしまいました。そうだ扶桑さん、頼まれていた艤装の整備と試し射ち終わりましたよ。」



明石が腕に付けている艤装を外して扶桑に手渡す。なるほど、不かっkゲフンゲフン彼女には大きすぎる艤装は扶桑のものだったのか。



扶桑「ありがとうございます、あの試し射ちとは・・・」



明石「すみません、先程脱出の際に使わせていただきました。でもほら、威力はすごかったですよ!何せあんな大きな大穴が・・・」



明石が自分が脱出してきたという穴を指し示したそのとき、ガラガラと派手な音を立てて工廠が工廠だったものになってしまった。柱が柱の役割を果たせず、屋根が地面と同じ高さまで落ちてくる。



砂埃を上げて瓦礫と化すそれをみんなが唖然として見ていた。何故このようなことになったのか誰1人としてわからなかった。



いや、一人いた。それに関する考察をできる者が。



明石「しまった、あそこの壁って柱が埋まってたんだ。」



幸か不幸か、扶桑が装備して以来初めてのcriticalを出した41cm砲が重要な柱を吹き飛ばしてしまったようだ。



頑丈な鉄筋をブチ抜くことができるだけの火力が備わっていることが確認されたのはいいが、試し射ちの相手が悪すぎる。さらに撃ったのが扶桑ではなく明石なので、彼女としては自分では扱えないことを改めて知る結果になってしまっただろう。実際、ショックを受けたような顔をしている。



だが、この崩壊のおかげで火災は鎮火された。その後教官と話し合い、日数はかかるが新しく工廠を建ててくれることになった。教官曰く、前々から立て直そうと思ってはいたらしい。壁のコンクリートは風化し、基礎の鉄骨も腐食が進んでいたらしい。そのこともありすぐに建て直しという結論が出たのだろう。騒ぎの発端である明石は嬉しそうだった。後でお仕置きが必要だろう。



そもそも、今回の爆発及び工廠崩壊事件がどのように起こったのかというと・・・



ひょんな事から(裏ルートで)二式大艇を手に入れた明石が、それを艦爆にできないかとドラム缶に大量に魚雷を詰めて、それを上空で破裂させ広範囲を爆撃するというとんでもな兵器を考案。試作品を作る段階までできたのだが、破裂機構のテスト中に魚雷が誤爆、それが元で今回の事件に繋がったらしい。



奇跡的に死者、負傷者がいなかったためそこだけは幸運だったが、おかげで扶桑の41cm砲以外のほとんどの艦娘の艤装が瓦礫の下敷きになってしまった。(二式大艇はどっかに逃げた)

なので、明石が全責任を持って再建中である。



まあ今回の話はこれくらいにしておこう。だが、提督達に降り注ぐとんでもない不幸はまだまだ続く。



後書き

読んでくださりありがとうございます。最近謝ってばかりなので結構反省している影乃です

季節ネタを突っ込みたかったのですが、リアルの日常が殺人級のスケジュールを作ってくれたのでこんな形になりました。次回作はいける、たぶん。

たぶん


最近、応援してくださる方が増えてきてとても嬉しく思っています。こんなSSモドキのような拙い作品を評価してくださっている方、本当にありがとうございます。亀より遅い更新ですが、これからもよろしくお願いいたします。

長い事いいたかったことを言えた辺りで今回はここまで、次回作の皐月の章お楽しみに。

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2016-09-17 16:16:27

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1: SS好きの名無しさん 2016-05-30 22:10:41 ID: oBW-W_T2

前より読ませていただいていました。完結お疲れ様です!
次回作も楽しみに待ってます(・ω・ゞ

2: 影乃と月の神 2016-06-05 16:15:32 ID: 7VmqtHwf

ありがとうございます!
そう言って頂けると書いててやり甲斐があります!


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