2017-04-28 17:20:46 更新

概要

私は運命的な出会いをした。
ただ、それは束の間のことで——
諦めかけてはいたが、もう一度、その出会いを果たすための機会がもたらされた。
私が歩んできた、それまでの間の話ができればと思う。


前書き

自分は「大鳳」に惹かれて艦これの世界に入っていきました。2017年4月段階で、ちょうど2年前のことです。
キリがいい、と言えるかは分かりませんが、『恋する鳳は口ずさむ』の世界観をなるべく生かしながら、この話の世界に「大鳳」が着任するまでの、およそ1年間(リアルにそれくらいかかりました)をSSに起こしたいと思います。この枠に収まるか分かりませんが、かなり長い目で見ていただくことをご了承ください。

大鳳には話のトリを担ってもらうので、それまで出番らしい出番はないです!(前提)


紹介

前書きにて触れております『恋する鳳は口ずさむ:

』は、このSSの終着点から話を始めています。読む順番には気兼ねしなくていいように話づくりをしていきますので、気が向いたら読みに行ってやってください。提督と大鳳との出会いから、彼らがケッコンを果たすまでの話です。大鳳の一人称にて、こちらも書き進めております。











艦娘の起因とは












 私は、人に仮初めながらも翼を与えてくれる飛行機に、強い憧れを抱いていた。人には誰しも憧れというものがあるはずだろう。それは厳格な軍人にだったり、清らかな歌声を聞かせてくれる歌手にだったり、そして、自分を人として育て上げてくれる親にだったり。挙げればキリがなく、千差万別な、だけど一人に一つはあるであろう憧れの念。私にとっては、飛行機に抱くそれだった。


 ただ、私にはその翼を授かる適正というものがなかった。そも外遊びよりも読書や勉学に打ち込んでいた自分のことだ。無理もないというのが私の方便だったが、いかんせんそれで終わりにはしていられなかった。


 それは、わがままを言ってしまえば乗ってみたい。人の力では到達できないその世界に、私も没入してみたい。ただ先ほども言ったように、私個人ではもう成し得られるものではなくなってしまった。


 案外と代替案はすぐに見つかった。折しも、私がその答えを導き出したとき、その席に着くための最も確実な位置に私は居た。四島の民草が狂騒的に、やれ「戦争だ」と余すことなくのたまわっていた時代だ。軍の士官を目指そうと思う輩は当然増えるし、軍の側もそれを了解していたため、士官学校に入られる枠は広めに取られていたから、飛行隊員を目指さんとしていた往時の私でも入学できた。私は、この出世街道から離れまいと必死にもがきつき始めた。


 入学成績はそこまでにしても、卒業席次は悪くない位置に立つことができた私は、だが世界的に湧き上がった災厄に巻き込まれた。


 その姿は異形。けたり、けたりと嗤い、我らが護国の象徴を無慈悲に破壊するそれは、いつからか「深海棲艦」と呼ばれ始め、それまでの騒ぎはどこへやら、民草は水を打ったかのように静まり返り、事態の行方をおずおずと見つめるばかりとなった。


 不幸の先駆けは、対米急先鋒として南洋諸島の東端、マーシャル諸島に配備されていた二個大隊規模の陸兵さんが得ることになった。本当に不幸な話だが、上陸兵の迎撃用に設置していた海岸砲やトーチカから粉砕されたそうで、敵を退けるための兵器が、むしろ彼らを寄せ付けるエサであったとの調査書が、現在は上がっている。


 この情報がもっと早い段階で巡っていたら、もしかしたら後に話す被害は無かったろうが、ここでは全ての意味において深海棲艦の方に軍配が上がった。マーシャル諸島全域から日本人は消え去り、怒涛の勢いでカロリン諸島、マリアナ諸島からも日本人は途絶えた。


 ほかの地域については知らずとも、それが日本にとっての敵であることはもう分かりに分かりきっていた。最終防衛線になってしまった小笠原諸島に陸兵十個師団、連合艦隊もほとんどが抜錨し、民草は元より、私達軍の側でも楽観的な態度を取ることができた。


 そうして展開された小笠原諸島沖の海戦、小笠原諸島の闘いを尻目に、私の足は神戸の土を踏んでいた。この時私はすでに大尉であったが、即座に少佐に昇進することが下達されており、それと時を同じくして、竣工を間近に控えていたある航空母艦への乗り組みが決定された。だから私は艤装工事が進められている神戸へ赴き、艤装員としてその艦に乗艦せねばならなかったのだ。


 ウン百メートルを超す長身を、物々しくもスラリとした流線形で浮かべるその姿は、きっといつまでも忘るることなく脳裏に焼き付いて離れないだろう。それは鮮烈的に、そして情熱的に私の脳内を駆け巡った。そうなったからには、もう私の意識はそれ一点に釘付けされてしまうのも無理はない、と思っている。すなわち、私がそれまで抱いてきた憧れは、その一瞬にして目の前にそびえる空母に取って代わられたのだ。ならそれまでの私とは一体なんなのだ、と笑われてしまうのもしようがないとは思うが、それほど、この出会いは私にとって強烈なものだったんだ。それに結果としては、今までの努力があったからこそこうしていられるのだと思えば、存外報われた気がしたのもあった。


 私のことはもういいか。結果としてその空母、『大鳳』に着任することになった私は、乗艦して改めて深い感嘆を得た。外観から想像される以上に、それは戦うための艦なのだということを認識させられた。造船学には疎い私でもそれは分かった。ただ、どうしても私は大鳳を軍艦として見られなかった。その完成されたかのような造形美は、額縁に入れて飾っていた方がよっぽどいいと思っていた始末だった。


 こんな風に下卑た想いを持っていたからかもしれない。時季外れの感染症を患ってしまい、艤装員だった私は退艦静養を余儀なくされた。


 飛行隊員になれなかった私にとっての代替案、航空参謀になって翼を駆る者たちを側で見届けたいという思惑は、残念ながらここで完全に潰えることになった。完全に、と言ったのはもちろん事実だ。ああ、その後も感染症に罹り続けたというわけではない。それはひと月と保たずに死滅してくれた。事実なのだと言ったのは、海軍という、引いては帝国陸海軍がそのひと月というわずかな期間のうちに消滅し、私が再び軍に戻ることができなくなったからだ。


 小笠原諸島での一連の戦闘は、私達の微かな願望を踏みにじるかのようにして、陸海軍の全滅をもって終焉した。彼らは更に内地、帝都へ来襲されるものと予想され、大陸方面の陸兵を余すことなくすっぱ抜いて防衛線を構築し始めていたが、果たして次に狙われたのは南西諸島の島嶼であった。当地に群生していた人造物は軒並み破壊され、おびただしい犠牲者が生まれた。それは小笠原の地で失われた将兵の数に匹敵するのではないかと疑われたほどだ。これはひとえに、深海棲艦の習性を知らなかった私達が現地民を内地へ避難させてやらなかったことによるものだった。


 その沖縄陥落の報を受けたのは、それが決定的になった直後のことだった。帝都にて臨戦態勢を整えていた軍は、さいしょそれを信じられなかった。「常識的に考えて……」。だが、その先の言葉を紡ぐ者は誰一人としていなかった。彼らは常識の枠外にある存在だ。軍がそれを認識した頃には、破壊の火は内地へとくべられた。もはや、何もかもが手遅れであった。


 軍国主義日本は、国民のほとんどが軍か港湾部、または軍需工場へ出ていた。これらは内陸部にあった工場を除いて、すべて破壊された。沿岸部の民家、船舶、その他人造物は姿を消した。統計的な結果としては、信用できるだけで2000万人の犠牲者が出た。実際はこれ以上の被害が出ていたであろう。先ほども言ったように、軍は姿を消し、残された人々は亡霊のようにしてそこに佇むだけであった。ただ一つだけ幸運であったのは、深海棲艦はそれ以上、破壊の食指を伸ばすことがなかった点であろうか。日本という国家は消滅の憂き目に遭ったが、日本人という民族は生き永らえることができたのだ。


 もちろんその代償は大きく、沿岸部から平均して10㎞の範囲に人影は途絶えた。その範囲内に近づけば、自分の命が失われるだけだという単純な答えに気が付けたからだ。日本の民草は怒る暴徒になることもなく、代謝を極力抑えて生きることだけに心血を注いだ。


 そんな中、静養中の私の姿は呉市内にあった。当然ここも深海棲艦の砲火に見舞われたが、いち早く防空壕に逃げ込んでいた私は五体満足でいた。ただ、私の家は跡形もなく消えていたが……。私は砲火の止んだ外へ新鮮な空気を吸いに出ようとしていた。



元航空参謀「…………」



 文字通り絶句した。私の家はともかく、今まで慣れ親しんできた呉という街が丸ごと無くなっていたのだから。私は夢の世界にでも囚われたものだと思った。頬をつねって、全力で走ってみたりもした。ただ痛かったし、疲れが噴き出た。私の見回しているそこが現実なのは、言い得て事実であった。


 どうしたものか。どうしよう。どこへ行こう。まず何をしよう。まず何ができるのだろう。何をしたらいいのだろう。分からない。私には何ができるのか、それすらも分からない。私は、どうしたら……。


 適切な考えが思いつかなかった。同じころ、きっと違う場所で黄昏ているであろう民草同様、私もただそこに立ち尽くしてばかりであった。



元航空参謀「————そうだ。鎮守府、鎮守府なら」



 途端に何かに引っ張られるようにして、私の足は歩みを始めた。その向かう先は、どうやら呉鎮守府らしい。「鎮守府、鎮守府でなら」と、戯言を繰り返し口ずさみながら私は歩いた。その時、私の聴覚がいかれてなければ、呉の鎮守府からは依然として砲火の音が聞こえていた。












 そこは壮健とまでは言えずとも、先ほどまでの焼け野原と比べてみると、随分と恵まれた様相を呈していた。赤れんが造りが特徴的な鎮守府庁舎は無傷に等しかったし、爪痕が最も見られる広(ひろ)海軍空技廠の方も復旧できる見込みは十分あった。


 それら鎮守府建造物を練り歩きながら、私は一つ疑問を抱いていた。



元航空参謀「どうして、こうも奇麗に——」



 瞬間、私の視界は目まぐるしく動き、気が付けば仰向けに倒れていて、その上には誰かが覆い被さっていた。


 それまで私のいた方で何かが爆ぜたような音がしたが、そんな些末事は私の意識を揺さぶらなかった。それは、目の前の一点のみに注がれていた。



叢雲「——"アンタ"、バッカじゃないの!?」



 それは、帝国海軍、特型駆逐艦『叢雲』との出会いだった。






春,第一話












 私は仰向けに倒れていた。


 その眼前には美しい銀髪を長く伸ばした少女。

 

 周囲には砲弾の落ちるような音と、それがもたらす崩壊の音が合わさって聞こえてくる。


 この状況だけで、私の思考能力は処理落ち寸前であった。


 第一、「何をやっているんだ」と忠告してくれた少女にまず言いたい。「そちらの方こそ、何をしているんだ」と。


 だが、その少女が宿す目、それは眼球を二つはめ込んでいるだけのはずなのに、そこから何百もの意思や覚悟が見え隠れしているようで、おいそれと上段構えで言葉を交わせられる気がしなかった。



元航空参謀「何をって、それはどうしたってこの鎮守府だけ損壊を抑えられているか、それが気になって見ていたんだ」


叢雲「ハァ? 冗談言ってんじゃないわよ! こんな、鎮守府にまで敵が攻め寄せているってのに、それが『抑えられている』って、アンタ正気!?」



 先ほど同様、強気な発言をする少女。


 それは時おり流れ星がごとく鎮守府の方へ降ってくる砲弾を見れば、あながち嘘を言われている気もしない。だとしても、私がその以前に見た光景を思い起こせば、やはりここは随分ましな様相を保っていたことは確かに言えると思う。



元航空参謀「……ここにいるのは君だけか?」



 少女は知らないのだろう、呉の惨憺たる有様を。


 それを読み取った私は、次に少女の正体を知ろうとした。


 少女が何者か、それが分かれば自ずとこの状況にも整理がつくだろう。


 これが苦心して搾り出した私の答えだった。


 何かをするにしても、まず状況と情報を知らなければならない。そして、私にそう訊かれた少女は、眉根を少し訝しめながらも、渋々といった体で答えてくれた。



叢雲「……いや、『吹雪』と『白雪』、あと『綾波』と『敷波』もいるわ」


元航空参謀「……なんだって?」



 いや、少女は間違いなくこう言った。


『吹雪』に『白雪』、『綾波』と『敷波』がいると。


 その単語の並びようから、ふつう私達が連想するような意味を持つ用法で言われたわけではないだろう。そして私のような者には、それがどういった意味の単語なのか分かる、いや、分かっていて然りなのである。少女が言った言葉を鵜呑みにすると、ここにいるのは帝国海軍の駆逐艦、特型駆逐艦の「吹雪型」の面々らしい。


 だが待ってくれ。その名を擁する駆逐艦は、いや帝国海軍に籍を置く全ての艦艇は、すでに一隻たりとも存在していないはずだ。


……少女の目は嘘を語ってなどいない。


 それどころか、その少女すらも、あるいは——



元航空参謀「……お前は、『叢雲』、なのか?」



——そう語っていた。


 彼女の目が口々にそう聞かせてきたように思えた。


 そうであってもこれは戯画的すぎる、その滑稽さで、言った自分を疑いたくなる。



叢雲「……アラ、私の名前は言っていないはずなんだけど」



 これは嘘であるべきだ。そう思いながらの私の発言を、見事に少女は肯定してくれた。



??「叢雲さぁん! どうしたんですかぁ!?」


 

 傍から誰か駆け寄ってきた。

 

 その少女は、手に砲台のようなものを、脚に魚雷発射管のようなものを着けていた。


 よくよく見てみると、未だ私の上に跨っている少女にも、同様の艤装が見え——


 どうも、そこから先は気を失っていたようで覚えていない。












綾波「ごきげんよう。特型駆逐艦、綾波と申します」


 

 駆け寄ってきた少女は、名を綾波と言った。その名はもちろん、私も知るところにある。



元航空参謀「私は、元航空参謀という」



 突発的な叢雲との出会いに反して、随分と物腰の低い挨拶に私は、それに反射的に応じていた。



叢雲「『元航空参謀』?聞いたことないわね」


元航空参謀「……私は、帝国海軍第一航空艦隊旗艦、『大鳳』艤装員として乗り組んでいた」


叢雲、綾波『第一航空艦隊?』


元航空参謀「……『抗戦』後期、小笠原沖で壊滅した空母部隊に代わって、残存航空兵力を統括的に編成した艦隊と航空隊の総称だ。そして『大鳳』は、新鋭空母としてその旗艦を務めた」



 我ながら、とても機転の効いた言葉だと思う。マーシャル、カロリン、マリアナでの戦闘から、小笠原、沖縄、そして本土戦までの一連の対深海棲艦戦を「抗戦」と云うらしい。



叢雲「小笠原……」


綾波「綾波たちは……」


元航空参謀「帝国海軍は、その小笠原沖海戦で撃沈の難を逃れた全艦艇を一括りにして、本土沖にて全てぶつけた。その中に叢雲、綾波の名は無い。小笠原沖で撃沈したからだろう。だから私は、叢雲に君らの名を語られた時、酷く狼狽したんだ。なぜなら——」



 お前たちはすでに歴史の舞台からは姿を消したはずの存在なのだから。


 科学的根拠も何も無いが、彼女たちが、叢雲と綾波なのは信じられる。


 とは言っても実際は沈んでいるはずの艦なんだ。これが私の思考を惑わせ、そして気を失わせた。


 この私の言葉を信じてもらえたのだろうか。


 眼前に立つ二人は瞳を閉じ、ただ静かに佇んでいた。


 無論、その間も断続的に砲弾は降り注いでくる。しかし彼女らは一切気にする素振りも見せず、思考の海を漂っていたようだった。そのジッとしている様は、益々、彼女らが何者なのかを示唆していたように見えた。



叢雲「————私は、いえ、私たちは、気がつけばこんな姿で、そしてこんな状況下にいたわ」


綾波「——はい、綾波もです」



 彼女たちなりの答えが出たのだろう、長く感ぜられた沈黙を経て、それぞれが口を開いた。



叢雲「でも一つだけハッキリとしていること。『深海棲艦は私たちの敵で、私たちはそれと戦う』という運命」


綾波「綾波たちは、この場所を護るための存在ですから」


元航空参謀「……そのための存在、か」



 侵略行為のためではなく、護国成就のため。燃えるように輝きを放つ目をして、二人はそう言った。

 

 これは『大鳳』も想っていたことなのだろうか。


 ふと、私はそんなことを考えていた。


 脳裏によぎるのは、その美しい艦形。もし彼女もまた、叢雲や綾波のように生まれ変われるのならば——



元航空参謀「——なら、その手伝いを私にさせてもらえないだろうか」



 その考えの末に私は、自分でも卑しいと思えてくるが、ある欲のようなものを抱いた。いまひとたび、いや、結局は共に戦うことが叶わなかった彼女と、共に戦いたい。


 ああそうだとも。あの美しさをもった彼女と再びまみえたい。そういう願いだ。


 一瞬にして私の憧れになった出会いがこびりついて離れない。それが叶う可能性が目の前に転がり込んでいるならば、私はそれに縋りたい。


 それを目の前の二人がどう思うか分からなかったが、逡巡することなく答えが出された。



叢雲「あら、それは丁度いいわね。ねぇ綾波、あなたはどう思うかしら?」


綾波「はい、綾波も司令官がいてくれたら嬉しいです!」



 その選択がどういう結果をもたらしてくれるかは分からない。


 あるいは私の願いが果たされるかもしれないし、もしくはそれが果たされることなく、私の命は散ってしまうかもしれない。


 だが、例え不運のまま終わることになっても、そうなったとしても私はこの選択を後悔することはないと思う。


 それは私の個人的な願いを成すためという理由もあるが、この時はそれに勝るものがあった。



元航空参謀「……ありがとう。それなら私は、君たちを支えるため、またこの国の未来のために、自らの命を捧げよう」



 目の前の少女が戦うと言っているんだ。


 それなのに自分だけすごすごと引き下がるわけにもいかないだろう。


 私は、この時より「提督」になることを決意した。






春,第二話


【元航空参謀→提督】












 瀬戸内を眼前に眺める呉鎮守府庁舎からは、後方の呉市街の様子も能く見て取れた。私がいるのは、その鎮守府庁舎の一角、豪壮さが最も際立つ司令長官執務室の中であった。


 その私の目の前には、五人の少女の姿もあった。それまで呉の街を襲っていた放火の音はまるきり止んでいる。少女たちが奮闘した結果だ。


 この事実を、不思議と最初から知っていたように思えてきた。私はオカルトの類には知らぬ存ぜぬを通してきたつもりだが、目の前の少女たちが宿す、無数の魂が少女たちの強さを証明しているように見えてならなかったからだ。だってそうだろう。どうしたって陸海軍を討ち滅ぼした深海棲艦を打倒できるのか考えたら、そう思い至るのが最も納得できるのだから。それを呑み込まずにひたすら混乱するか、それか自分の見識の方を曲げて、もって理解に努めるか。私が選択したのは後者だった。


 そして更に。私はもう一つ、認識せねばならぬものに面していた。



提督「それで、これが『妖精』なのか」


叢雲「ええ、どうもそうみたいね」


提督「このちまっこいのが、お前たちの強さの秘訣というわけか」


吹雪「はい。私たちはこの妖精さんを通して艤装を操り、彼らと渡り合うことができます」


提督「つまり司令塔のような役割を持つわけか。どうだろう、彼らは独断的に行動したりしてしまわないのか?」


白雪「いえ、そういうことはありませんでした。ただ……動きがぎこちなく感じられました。先ほどの戦闘中、段々と身体に馴染んでくるような感覚はあったので、妖精さんには熟練度のようなものがあるのかもしれません」


提督「……そうか」



 立て続けに奇怪なことが連続し、唸りを上げたいのか、何かのどの方からせり上がってくる感覚がした。だがそんなことをしてみろ。今なお綾波へ小言らしきことを話している『敷波』のそれを増長させてしまう。それをなんとかのどでつまらせながら、私はさらに少女たちへ疑問を投げかけた。



提督「そして、その妖精と同様に、艤装を運用するためには燃料弾薬が必要、と……」


叢雲「それはもう、私たちはこんな姿になっても『軍艦』なんだから」


提督「軍艦、か」



 言い含めるような叢雲の言いようにあえて応じながら、私はそこで最も気になったことをあらわにした。



提督「ならお前たちは、それをどうやっておこなうんだ? あと、こうしてお前たちがいるということは、他の艦はどうなる? 今もどこかにいるのか?」



 そう訊いたら一概に、そんなの当たり前のことだろうという顔から、どもっているように見える顔へ変わっていった。



吹雪「……補給や修理は、工廠の妖精さんがやってくれます。他の艦は……」


提督「うん、言いたいことは分かった」



 だからその先は言わなくていい。そう言って、私はその自分で起こした話題を終わらせた。やはり、相当の時間をかけなければならないらしい。



提督「なら一度、その工廠へ行こうか。君たちもそれなりに損傷があるようだし、工廠と言うからには私の質問の答えが転がっているかもしれないしな」












 私の想像した通り、少女の艤装を造ったり、修理したりするための工廠は、それをおこなう妖精には大きすぎたようだ。


 しかしなんだ、彼らは現在進行形で何か作業しているように見えた。


 工廠の隅に置かれた、ドックの模型のような建造物の上に艤装が横たわっている。


 それは駆逐艦の砲には見えず、ただ戦艦のそれのような重厚さも感じられないから、巡洋艦でも建造しているのだろうか。


 合計して四つ、隣りだって置かれた他のドックには、駆逐艦、それとこれも駆逐艦の艤装が見える。残りの一つには……これは空母か?矢筒の存在が私に疑問符をもたらしたが、それの下敷きになっている飛行甲板は見間違えようがない。



叢雲「ここから先は見ない方がいいわ」



 そう言われて唐突に、私の視界は閉ざされた。



提督「……どういう意味だ?」


叢雲「視力を喪失するからよ。悪いことは言わないから、このままにされておきなさい」


提督「…………そうか」



 生憎と私は冒険癖を持ち合わせていない。飛行士になりたいとは言ったが、別にそれを駆って彼方に行きたいといったことではない。それはただ飛んでみたいというだけの話だ。


 わずかな時間を経て、気持ち隙間のあった向こうから眩い光を感じ、そして私の視界は開けた。



提督「……これは、詮索するなということか」


吹雪「そうしてもらった方がいいかもしれません……ごめんなさい」


提督「いや、責めるつもりはない。それにしても、やはり困惑はするようだな」


白雪「それはもう。かの戦地から、気づけばこの工廠へ、しかも知らぬ姿でいるのですから」


提督「でなければ、私は自分の感性を疑うところだよ」



 苦笑をして返し、私は自分の身体と周囲を見渡し続けていた四人の少女たちを仰ぎ見た。


……空母か疑った少女は、どうも「女性」と言った方が語弊がないのかもしれん。


 私は長い呼吸を一つ挟んだ。



提督「なぜ自分がここに、とか、『あの』戦いの行方はどうなったとか、そう言った事項は後を追って話すつもりだ。だからまずは、私の話を聞いて欲しい」



 少女三人と女性一人の視線が、細い身体に軍服を着て立つ私を訝しみでもって捉えた。












 そして話を終えた私は、少女たちからの紹介を受けた。



朝潮「駆逐艦、朝潮です! 司令官、よろしくお願いします!」


白露「白露型の一番艦、白露です。一番艦です!」


由良「長良型四番艦の由良です。どうぞ、よろしくお願い致しますっ」


蒼龍「航空母艦、蒼龍です。……え、なんですか?」


提督「……いや、蒼龍型を見るのは初めてなものでな、すまない」



 軽い咳払いを挟んで、改めて私は彼女たちに対面した。



提督「仔細については先ほど話した通りだ。君たちはすでに沈められた艦の名で自らを説明しているが、それ自体がかなり超常的な事象の結果であることは踏まえてもらいたい」


白露「はいはーい! 質問いいですかー?」


提督「うん、どうした?」


白露「私の妹たちとは、そうなるとまだしばらく会えないことになるんですか?」


提督「そうだな、まず君たちを迎えられたこと自体が偶然の産物であるからな。妹たちの姿を拝められるのはとうぶん先のことになると思う」


白露「こうして私たちを建造したのと同じようにしたりすることはー?」


提督「——ああ、それは」


叢雲「不可能ではないにしろ、かなり難しい話ね」



 第一、アンタたちを狙って建造したわけでもないのに、と脇で叢雲が嘆息した。



提督「……まあ、そういうわけだ。現段階では資源にも限りがあるからな、やはり時間をかけなければならないだろう」


白露「そうですかぁ……分かりました!」


蒼龍「でしたら、私たちがすることとは資源をかき集めること、でしょうか?」


提督「う、うむ、そうなるな」


叢雲「……なに鼻の下伸ばしてるのよ」


提督「そんなことはない」



 夢が膨らんだだけだ。



朝潮「となると、遠征任務をこなすわけですか! ……輸送船などは、現存しているのでしょうか?」


提督「……そう言えば、そうだったな」



 この子たちのように、輸送船の類も人の身体を持つのだろうか。そうであれば、もう見た目だけでは見分けがつかなさそうだ。


 だがそんなことはなかったらしく、ここでは妖精を乗せたミニマムな輸送船を使うらしい。


 口を酸っぱくした叢雲に怒鳴られながら、傍目でえっちらおっちらと運ばれて行く小さなタンカーを見ていた。


 私の新たな肩書き、「提督」という役目に具体的な実感は未だ湧かないもの、私は、これまでの歴史から先例を引き出せないような環境下で戦わなければならないことは、それだけは感じられていた。


 それは何より、この人形的な軍艦が指し示していた。何せとても、現実味がない。






春,第三話












 私たちが直面していたのは、資源面の問題以外にもあった。問題そのものは何個もあるが、これは私たちが活動していく上で必要最低限な範囲の内に入るものだ。



提督「な、なあ綾波。この魚、かなり黒ずんでいるが食えるのか……?」


綾波「ごめんなさい……失敗してしまいました……」



食糧問題である。


深海棲艦が蹂躙した後の海に魚類が寄り付かなかった、という副産物が付いていたならば、私たちは今頃餓死していた。


幸いにもそういうことにはなっていなかったようで、瀬戸内にはいつものように、いや今まで以上の魚がひしめき合っていた。たぶんこの地を縄張りにしていた漁師たちが揃っていなくなったからだろう。


だからひとまず、魚介の類に関しては豊富に、それこそ私たちが食べていくには十分な量が期待できると言えよう。


ただ人間、それのみ食べていては身体的、精神的にいつか参ってしまう。栄養に偏りが出てしまうし、それを食べても美味しいと感じられなくなる。それが積み重なれば戦うことすらままならなくなってしまうだろう。


そうならないためには一刻も早い自給自足体制を完成させなければならない。


そういう結論を得た私は、それを固く誓いながら、七輪にこべりついてしまった焼き魚もどきの、黒ずんだ物体と相対した。



敷波「何さ、文句があれば食べなければいいじゃん……ッ?ッ!!?」



おぞましいものを見るような目をした私に呆れが指したのか、果敢にも敷波がそれを口に含んでしまった。それみたことか。勇敢だった姿はどこへやら、背筋をピンと伸ばしきってしまっている。



提督「おい、無茶はするな。魚はまだあるし、後のは私が焼くよ」


敷波「ッ!?いいよ、アタシがやる」


提督「……だから無茶は」


敷波「いいじゃん!アンタにそんなことしてもらう義理はない!アタシたちのことはアタシたちだけでやる!やれるんだ!」



余計な気を回されたとでも言いたげに、敷波はしきりに頭を振って駄々をこねてしまった。それを、隣で宥めようとする綾波と二人まとめて見るとより一層、彼女たちがかの駆逐艦であるとは思えなくなる。どうしてこうも、姿形だけでなく、話す言葉まで人間らしいのだろう。



提督「……なら私がやり方を教えよう。別に先ほどのような物体が食べたいと言うのなら、私は何もしないが。ああ、だが勿体ないなあ。貴重な命が無駄に量産されてしまうのは」


敷波「ぐぅ、それは……」


提督「そんなに強がならくてもいいではないか。私には深海棲艦を打倒する力なんてない、だが君たちにはそれがある。だからそれを手伝うと言った私にできるのはこれぐらいのことしかないんだ。お願いだ。すぐにとは言わない、せめてもうしばらくの間だけ、その判断を溜飲してはもらえないだろうか」


敷波「…………れなら、……ょ」


提督「ありがとう」



私がしなければならないことは余りあるが、まずはゆっくりとでも確実に、彼女たち、艦の魂を持った……『艦娘』、とでも言い表そうか。彼女たちへの理解を深めよう。


これは焦る必要がない。足並みが揃わずして奴らと渡り合うこと敵わない。


だからまずは……この焼き魚をなんとかしようか。


これらはどれも、必要最低限の範疇だからな。






春,第四話












私の視界の片隅に、九人の少女たちが固まって一心不乱に魚を貪っている。普段、人がものを食べる光景をただ見ることしかできなかったからこそ、かような顔を覗かせられるのだろう。それは一様に燦然と輝いて見えた。


人か軍艦か、少女たちをどう見ればいいのか益々悩みつつも、一方で私は別なことを考えなければならなかった。


驚愕することしかできなかったが、彼女たちが現実に深海棲艦と対向できているのは確かだ。あの小さな砲身から放たれる砲弾は、本物のそれのような轟音を伴って飛翔し、ほとんどの無駄なく敵のはらわたを抉っていく。二、三発も当たれば敵は轟沈し、辺りはシンと静まり返った。


私の目が捉えたのはこの砲撃戦だけだったが、それは充分にさきの事実を証左していた。彼女たちの力があれば、日の本の四海はおろか、遠く南シナ海の果てにまで足を伸ばせられ、以降も深海棲艦と戦えるだけの資源が獲得できるのではないだろうか。それはすなわち、国の再興に繋がる。瀕死の際に立つ日本が、いま一度の繁栄を掴み取れるのかもしれない。知らぬ内に私の腕に粟肌が立った。


無論、懸念事項も多々あるが、無理にこのことを急く必要も無いだろう。だからまずは、佐世保、舞鶴、横須賀の鎮守府から大海を眺望しよう。そこから更に、いつまで続くか予想のつかぬ戦いになるだろうが、彼女たちならばきっとーー



蒼龍「ーー提督?」


提督「そ、蒼龍」



いつの間にか考えごとに没頭していたのか、目の前の蒼龍に気づいたのは彼女に声をかけられてからだった。それを少々心配そうにしてくれながらも、彼女は私に話しかけた。



蒼龍「いえ、その、私たちは具体的に何をすればいいのか伺いに来たんですけど……」


提督「おお、ちょうどそのことを考えていたんだ。……そうだな、蒼龍、悪いがいちど皆を集めて……もう集まっているようだな」



最初からそのつもりだったのか、顔を上げた私の前には、すでに面々が集まっていた。



提督「……これは、話が早い」


叢雲「それで?私たちは何をすればいいのかしら、司令官?」



私の胸は期待に膨らんでいたが、それとは反対に、私の両肩には酷く重い責任がのしかかっていた。それも彼女たちのそれに比べれば、格段に軽いものではあろうが。だが安直に希望的観測をするべきではない、そう私は改めて身を引き締めた。今の私は彼女たちを支える存在なのだと、自戒の念を頭に含ませながら。












私たちはまず、佐世保鎮守府を到達目標にしたい。距離的にも一番近い鎮守府がどうなってるか確認したいからだ。


ただ一直線にそこに向かえば、帰途に危険が付きまとうだろう。


よって、ひとまずはこの近海の偵察から始めよう。


この偵察艦隊には、旗艦蒼龍、護衛として、由良、綾波、敷波が就いてくれ。残りは鎮守府周辺の警戒に当たってもらう。叢雲はひとつ開発に従事してくれ。


偵察艦隊は向かって西方を重点的に頼む。警戒艦隊は、東側に注意を払ってくれ。蒼龍、可能なら君の航空機で舞鶴と横須賀の様子も探ってほしい。


知りたいのは敵の戦力配置と数だ。基本的には航空偵察を主軸とし、敵機との遭遇戦をも避けてほしい。


現在時刻はヒトゴーマルマル。三刻しか無いが、今日の所は何度も言っているように無理をせず、深入りをしないように。


よろしく頼む。艦隊、抜錨せよ。


後書き

近いうちにワードを使って書き進めていこうと思ってはいますが、まだしばらくはこうして直接チマチマ書くことになるかと思います。具体的には、スマホの編集画面じゃ動作が重すぎて書けない、というところまでいったらPCオンリーでの更新にします。

ウゴゴ……早くもネタが詰まってきた……


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