「提督と瑞鳳」
軽空母瑞鳳が鎮守府に着任。
しかし、江風は瑞鳳の着任に反対する。
鎮守府にある艦娘がやってきました。
軽空母の瑞鳳さん、着任していた鎮守府が閉鎖され退去を余儀なくされた艦娘だそうです。
他の鎮守府も当たってみたけど、どこもいっぱいで・・・それで、この鎮守府に来たというわけです。
最近鎮守府閉鎖の話がよく聞かれます・・・実際ここも司令がいなければ閉鎖になっていましたが・・・
司令は一時的に「保護」として鎮守府にいることを許可しました。
司令が私に、瑞鳳さんに貸す部屋に案内するように言われました。
「わかりました」と返し、瑞鳳さんと一緒に執務室を出た時、江風さんと会いました。
江風さんは瑞鳳さんを見て、血相を変え・・・
「何であんたがここにいるんだよ!」と、ものすごい剣幕で叫んでいました。
当の瑞鳳さんはわけがわからず動揺していました。
「あんた・・・あんたらのせいで・・・あたしと姉貴はどんな苦労したかわかっているのか!!」
姉貴とは海風さんのことでしょうか・・・その言葉に瑞鳳さんは反応した。
「まさか・・・あの時の姉妹!?」
確信に変わった瞬間、江風から怒号の声が響く。
「散々あたしと姉貴をほったらかして・・・挙句にこの鎮守府に助けを求めたってか!? ふざけんな!!
出ていけ!! さっさとここから出ていけ!!」
廊下で江風さんの怒号が響き、何事かと皆が集まり・・・司令も来ました。
・・・・・・
結局江風さんは海風さんが止めに入り、瑞鳳さんはショックだったのかそのまま部屋に閉じこもってしまいました。
・・・・・・
執務室に江風と海風さんが入ってきた。
「江風・・・落ち着いて。」
海風さんが落ち着かせるが・・・
「落ち着いてられるか! 提督! あいつの着任を拒否してくれ! 頼むよ!」
「・・・・・・」
こんなにも瑞鳳さんを嫌うのは、余程の理由があると思いました・・・司令は既に気づいていたようで、
「江風たちがいた鎮守府に瑞鳳がいたんだな?」
落ち着かない江風の代わりに海風が無言で首を縦に振った。
「・・・・・・」
話は海風さんから聞いていました。
江風さんたちは昔いた鎮守府で暴力を受けていて、味方であるはずの戦艦・空母の皆さんは見て見ぬふりをしていたと。
その空母の一人が瑞鳳さんだったということ・・・
「・・・・・・」
もちろん彼女だけが悪いというわけではないのですが、江風さんにとっては助けてほしくても助けてくれなかった
憎しみの対象として思っていたのでしょう・・・
「絶対認めねぇからなぁ! あいつが着任するなんて!!」
江風さんは海風さんに連れられて部屋へと戻りました。
・・・・・・
「助けてくれなかった」 か・・・
私はその言葉が胸に響いた。
江風さんたちはずっと暴力を受け続け、それでも他の艦娘に助けを求めていた・・・でも、他の子たちも
止めれば自分がやられる・・・そう思って止めたくても止められなかった・・・辛いですね。
そして・・・やっと苦しみから解放されたのに・・・路頭に迷った瑞鳳さんがここに「保護」され・・・
自分たちを見捨てた一人がここにいて憎しみをさらけ出す江風さんの怒り・・・かわいそうです。
司令の判断は・・・瑞鳳さんは変わらず「保護」、もちろん江風さんは反対したが、
提督の命令上、嫌々ながら従わざるを得なかった・・・
翌日、
廊下を歩いていると・・・
話し声が聞こえました。
・・・・・・
海風さんと瑞鳳さんのようです。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
ただひたすら謝る瑞鳳さん。
「でも、仕方がなかったの・・・私だって暴力を受けていたから・・・止めたかったけど・・・」
「・・・わかっています。」
海風さんが口を開いた。
「私は瑞鳳さんを恨んでなんかいませんし、嫌いでもありません・・・でも」
「・・・・・・」
「江風に対して本当に申し訳ないと思っているのでしたら、鎮守府から出て行ってください・・・お願いします!」
「・・・ごめんなさい。」
それだけ言うと瑞鳳さんはその場から去った。
・・・・・・
瑞鳳さんの姿が見えない・・・どうやら自ら鎮守府を出たようです。
当然のことながら、原因はわかりきっていて、江風さんと海風さんが執務室に呼ばれました。
「申し訳ありませんでした・・・私が言ったばかりに・・・」
海風さんはすぐに謝る。
「何で謝るんだよ・・・あたしは安心したよ・・・もう会わなくて済むからな。」
「江風!」
海風が睨む、
「・・・・・・」
途端に無言になった。
「かわいそうにな・・・」
司令はため息をつく。
「今頃どうしているか・・・」
とつぶやいた矢先、司令に連絡が・・・
「・・・わかった、すぐ向かう。」
司令は立ち上がるとそのまま執務室から出た。
何でしょう、この胸騒ぎ・・・嫌な予感がします・・・
私も気になって司令についていきました。
・・・・・・
予想は当たりました・・・鎮守府から少し離れた場所で瑞鳳さんが倒れていました。
側には睡眠薬の瓶が・・・どうやら自殺しようとしたようです。
司令がすぐに応急処置を始めました・・・体に思いきり衝撃を与えた瞬間、瑞鳳さんが息を吹き返しました。
「うう・・・ごほごほっ!!」
司令は瑞鳳さんを抱えると鎮守府に戻り、そのまま瑞鳳さんの部屋に連れて行きました。
・・・・・・
瑞鳳さんが一命を取り留めたことで、江風さんがまた怒り出しました。
「提督! 何であんな奴助けたんだよ! 死なせとけばよかっただろ!」
「江風! 何てこと言うんですか!」
海風さんもさすがに怒り、江風さんは無言になった。
「・・・・・・」
司令はしばし無言でしたが、しばらくして口を開いた。
「お前は満足か?」
司令の言葉に江風さんは戸惑う。
「瑞鳳を散々罵倒して、追い詰めた挙句自殺まで追いやって、満足できたか?」
「・・・・・・」
「確かにお前は前の鎮守府で苦労をしていた、それはわかる。」
「・・・・・・」
「だが、江風。 お前が瑞鳳にしたことはお前が受けていた暴力と同じじゃないのか?」
「!? そ、それは・・・」
「お前は前の提督に受けていた暴力を瑞鳳に全く同じようにしただけだろ?」
「・・・・・・」
「お前がやったことは前の提督と同じただの”弱い者いじめ”だよ。」
「・・・・・・」
「オレから見れば瑞鳳が昔の江風に見えてきてかわいそうだよ。」
「・・・・・・」
「まぁ、少しは成長したのかと思ったけど・・・所詮自己中心的なとこは治らないもんだな。」
「・・・・・・」
「さてと、オレは瑞鳳の様子でも見てくるかな。」
そう言って司令は執務室から出て行った。
江風さんはずっと下を向いていました、先ほどの威勢はどこに行ったのかぐらいに・・・
司令は相変わらず率直に言いますね・・・まぁ言っていることは正しいので。
「私も瑞鳳さんの様子を見てきます。」
海風さんが執務室から出て行く。
そうね・・・私も心配なので見に行きますか・・・
「・・・・・・」
執務室でただ一人、江風がたたずんでいた・・・
「大丈夫か?」
部屋で寝ていた瑞鳳さんに司令が声をかけた。
「どうして・・・私を助けたの?」
「・・・・・・」
「私は、江風さんたちにひどいことをしたからこれは当然の報いだと思っていたのに・・・
どうして・・・私を・・・そのままにしてくれなかったの?」
「・・・・・・」
「どうして・・・どうしてあのまま死なせてくれなかったのよ!」
瑞鳳さんの瞳から涙が溢れる。
「私が死んだ方がよかったでしょ! 私がいないほうが喜ぶでしょ!」
パンっ!(平手打ちの音)
「!?」
「・・・はぁ~」
司令はため息をついて、
「わかった・・・そこまで死ぬ気でいたんだな・・・悪かったよ。」
「・・・・・・」
「悪かった・・・本当に・・・”助けて悪かった”よ」
「・・・・・・」
「この世に死んでいい艦娘なんて一人もいないと思っていた。」
「・・・・・・」
「でも、そこまで言うならオレは止めないよ、後は勝手に死ぬなり好きにしてくれ。」
興ざめしたかのように司令は部屋から出て行きました。
「ううう・・・」
瑞鳳さんはしばらく泣き続けていました。
執務室に戻った司令は何事もなかったかのように、書類を整理し始めました。
私も秘書艦として補佐をしました。
・・・・・・
私はあの2人の事を気にかけていました。
司令はそれに対して全く反応してくれません、もう諦めたのでしょうか?
しばらくして、執務室にあの2人が入ってきました。
隣にいるのに、何も言わない江風さんと、江風さんに視線を向けれない瑞鳳さんと・・・空気が重いです。
「あれ? 死んだんじゃなかったの?」
「・・・・・・」
司令・・・率直に言いすぎです。
「そして江風、いつもの弱い者いじめはどうした? しないのか?」
「・・・・・・」
司令の言葉に2人は全くの無言です。
「お前たちは本当に中途半端だな、散々瑞鳳がいなくなればいいと言っていた江風は何も言わないし、
散々死にたいと言っていた瑞鳳はまだ生きているし。」
「・・・・・・」
「オレはもうどうでもいいから・・・いじめるなり死ぬなり勝手にやってくれ。」
「・・・提督」
江風さんが口を開く。
「・・・ごめんなさい。」
江風さんの口から謝罪の言葉が出ました。
「提督の言う通り、また自分が嫌な目に遭ったことしか考えていなかった・・・
瑞鳳さんもあいつにやられていたことも知らずに・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・瑞鳳さん!」
江風さんは瑞鳳さんの方を向き、
「ごめんな! 本当は瑞鳳さんだってひどい目に遭っていたんだよね・・・
自分のことしか見ていなくて・・・本当にごめんな!」
「・・・江風さん」
瑞鳳さんも江風さんを向き、
「私こそごめんなさい・・・本当なら空母である私たちが駆逐艦たちを守るべきだったのに・・・
自分に来るのが怖くて・・・それで見て見ぬふりをしてしまって・・・ごめんね・・・本当にごめんね・・・」
2人はお互いに謝りながら泣いていました。
2人の間にあった壁がいつの間にかなくなっていました。
「・・・瑞鳳」
司令が声を掛けて、
「お前はまだ、死にたいと思うか?」
司令の言葉に瑞鳳さんは首を横に振る。
「・・・江風」
今度は江風さんに、
「瑞鳳の着任を許可してくれるか?」
江風さんは「もちろん」と言って首を縦に振っていました。
「ならばお前たちは今日から「仲間」だな」
「・・・・・・」
司令はすごいです・・・今回はあの2人を仲直りさせるのは難しいかなと思っていましたが・・・
やはり司令は私たちの事を一番よくわかっていますね。
・・・・・・
現在江風さんは海風さんと一緒に遠征任務で活躍し、瑞鳳さんは大鳳さんと共に主力部隊に参加。
制空権を確保し、戦況を常に有利に導いてくれて大活躍しています。
「提督と瑞鳳」 終
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