「初夢」
初夢に富士山・鷹・茄子を見ると縁起がいいと聞き・・・
キャラ紹介、
提督:階級は元帥で秘書艦は海風。最近仕事の量が減ったため執務室でのんびりする時間が増えて来た。
海風:提督の秘書艦で且つ奥さん、何事にも一生懸命。
村雨:提督のいる鎮守府の食堂で給仕を担当且つ初嫁艦、直感力が鋭い。
ウォースパイト:別の陣営から修行と称して提督の鎮守府に居候している戦艦。
何故か村雨と海風に頭が上がらない。
今日は1月1日、つまりお正月。
大晦日から各艦娘たちは最後の出撃・遠征をこなし、鎮守府に残った艦娘で鎮守府内の大掃除で大忙し。
そして正月に向けて給仕である村雨とベルさんがせっせとおせちや雑煮を調理し、今年も何の問題も無く年を過ごせた。
提督から去年の皆の活躍への感謝と今年も頑張って行く旨を伝えた後、皆は待ってましたとばかりにおせちを食べ始めた。
「富士山、それに鷹と茄子? 一体何の事かしら?」
食堂の隅で海風と一緒に食事をしていたウォースパイトが、側で食事している駆逐艦娘たちが口にした言葉が気になっていて、
「ああ、1富士2鷹3茄子の事ですね!」
海風が丁寧に説明する。
「元日の今日から数日の間に、今言った3つを初夢で見ることが出来れば、その年は縁起がいいと言われているんですよ。」
「そうなの? 初夢って事だから、1度きりって事よね?」
「はいっ♪ 私は何度か思い浮かべてから就寝していますが、中々思うようには行かないです。
多くて2つ見れました。」
「・・・」
確かに夢と言うのは、自分が思い通りには見られない・・・しかも、それが初夢限定なら尚更難度が高い。
「因みに海風ちゃんはその時、どんな夢を見たのかしら?」
「え~っとですね、確か・・・”提督と一緒に富士山に登っていて、途中の食堂で茄子の料理を食べた夢”ですね。」
「成程、つまり見るだけでは無く料理や登山している夢でもいいのね。」
ウォースパイトは納得する。
「はい、注目! 今からお楽しみのお年玉を渡すぞ~!」
提督の口からお年玉の言葉が出た瞬間に、駆逐艦娘が目を輝かせて一斉に並び始める。
「いいわね~駆逐艦たちは・・・子供だからお小遣いが貰えて。」
戦艦故に駆逐艦娘たちが羨ましく感じるウォースパイト。
「ウォースパイトさんも貰えますよ、この鎮守府では艦種の差別は無いですので♪」
「えっ、そうなの? むむ・・・私は子ども扱いされるのはあまり好きでは無いけど。」
そう思っていると、駆逐艦娘に渡し終わったのか、今度は軽巡・重巡に渡し始める。
「ほい、ベルさん。 いつもありがとうね。」
「ありがとうございます、ご主人様。」
深く礼をして大入袋を受け取るベルさん。
「なっ!? ベルが貰ってる・・・なら私だって貰える・・・わよね。」
先程まで子ども扱いを嫌っていたウォースパイトが急にお年玉が欲しくなる、
「大体渡し終わったな、後は嫁さん2人に渡してと。」
そう言って、村雨と海風に大入袋を渡す提督。
「ありがとう、提督♪」
「あ、ありがとうございます提督♪」
2人は大喜びである。
「後、ウォスパ・・・ほら、君の分も。」
そう言って、最後の大入り袋を彼女に差し出す。
「わ、私にも貰えるの? まぁ、くれるって言うなら貰ってあげてもいいわよ?」
貴族気質のためか、言動が若干偉そうになるも、
「いや、いらないならいいよ。 じゃあ中身はオレが貰おうかなぁ(笑)」
そう言って、懐にしまおうとする提督。
「なっ!? そ、それは私のでしょ! だったら頂戴! ・・・じゃなく、下さい(恥)」
「うん、最初からそう言えばいいのに。」
そう言って、提督からお年玉を受け取る。
「わ、私のお年玉・・・わぁ~い、やったぁ!」
喜ぶ姿はその辺の駆逐艦娘と変わらぬ光景のウォースパイトだった。
・・・
その後は、姉妹艦と一緒に初詣に行く艦娘たち、
別の鎮守府にいる妹に会いに行く艦娘、
朝から飲み続けて夕方まで飲み合う戦艦と空母艦娘たちと、休日を満喫している。
明日も休日のため、夜更かしする艦娘たちがいる中、
早めの就寝を取ろうとする人間がいた。
「富士山と鷹と茄子ね・・・よし! 頭の中であの3つは覚えたから、多分大丈夫よ!」
ウォースパイトは布団に入りながら、何度も3つを思い浮かべる。
「初夢だからね、これを逃したらチャンスは無いんだから・・・いい、富士山と鷹と茄子よ。」
何度も連呼している内にウォースパイトはそのまま寝息を立てる。
・・・
翌朝、
食堂に海風が入る。
「おはよう、海風。 早いわね。」
早朝から既に村雨が調理を行っていて、
「あっ、村雨さんおはようございます!」
お互いに挨拶をする。
「そう言えば、見られましたか? 富士山と鷹に茄子の夢は?」
海風の質問に、
「う~ん、残念だけど”旅行中に電車の中で富士山を見た夢”しか見ていないわ。」
「そうですか・・・海風も、”富士山を登山中に鳥(恐らく鷹)が飛んでいるのを見た夢”です。」
「あら、海風は2つ夢で見られたんだ? ちょっと羨ましいかな~♪」
2人が会話をしていると、
「女将さ~ん!!」
食堂に大慌てで入ってくるウォースパイト。
「おはようございます、ウォースパイトさん・・・そんなに慌ててどうしたのですか?」
彼女を落ち着かせて事情を聞くと、
「見、見れたの! 夢の中で富士山と鷹と茄子3つ! 全部見ることが出来たのよ!」
「あら、それはおめでとうございます♪」
ウォースパイトが急いで駆け付けたのは、ただ夢を見た報告をしたかっただけのようで、
「余程嬉しかったんだなぁ」と2人は無言で会釈する。
「それで、どんな夢を見たのですか?」
気になるのはその夢の内容、興味があり聞いて見ると、
「え~っと・・・まずは富士山って言う山に登っていたらね。」
「はいっ♪」
「途中で滑落事故を起こしちゃって、真っ逆さまに落ちて行ったの。」
「? ええっ!?」
「そこで、運悪く大きな鳥(恐らく鷹)に出くわして、空中で嘴で何度も突つかれて体中血まみれになったの。」
「・・・」
「そしてそのまま地面に叩きつけられて、しばらく動けなくて・・・実質の遭難よね。」
「・・・」
「それで、お腹が空いて・・・ちょうど落ちた場所がどこかの畑だった様で、そこに茄子が植えてあって、
申し訳ないと思いつつ1つ取って食べたら・・・」
「・・・」
「食中毒を起こしちゃって・・・そして、そのまま目が覚めたわ。」
「・・・」
「あまりいい夢では無かったけど・・・初夢に3つ見られたから、今年はとても縁起がいいのよね♪」
説明を終えると、ウォースパイトは喜びながら部屋に戻って行く。
「う~ん・・・」
村雨は難しい顔をする。
「た、確かに・・・3つ出ています・・・けどあれって。」
2人は口を揃えて言う。
”縁起がいいの(でしょうか)?”と。
その後、ウォースパイトにとって今年は、本当に縁起が良かったかどうかは謎である。
「初夢」 終
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