照月「い、いいの……?」
【照月とのケッコン未だ為さざる提督諸氏は閲覧注意】
照月は、意識しなければ大丈夫。意識したら暴発する。
振り切れたらとことん突き進む。それが一番望むこと。
この感じ……いいかも! これならきっと、提督も「おいしい」って言ってくれそう!
心がリズムを刻む、足がステップを踏む。気分がノって、心あらずで幸せに満ち溢れちゃう!
お、っとと……あ、危なかったぁ。お皿に乗ったおにぎりがこぼれそうになっちゃったから、慌てて落とさないようにしないと。
く、口が、ちょっと触れちゃったけど、バレないよね、うん。に、にひひっ。これ、「間接キス」って言うんだよね?
て、照月と提督が…………///
…………って、いけないっ! 変なコト考えてる場合じゃなかったっ!
トテトテと、注文カウンターで笑顔を振りまく間宮さんのお叱りを受けない程度に厨房を駆け抜け、ごった返す廊下をなんとかすり抜けて。
往来が薄れる、その都度駆け足気味になって、気づけば全速で走っていたせいか、息を荒らげながら執務室へとたどり着く。
念のため、荒い息を落ち着けるついでに米粒をひとくち。
「ん……うんっ、おいしい」
よかったぁ。これで変な感じだったら、さらに提督を待たせちゃうことになっちゃうもんね。
よし、それじゃ、これを提督に——
そう考えた瞬間、照月はひとつ重大なことに気づいちゃいました。
「て、提督に照月の、を食べてもらうって……」
……す、すっごく恥ずかしい!
心あらずのうちに頬が紅潮して、全身が熱を持ってしまう。落ち着いてきた息は体温を下げるためにまた荒くなって、足場もおぼつかなくなる。
いつもありがとう、って想いを伝えるだけなのに、過度に変な意識をしてしまう。
それと、
「提督は喜んでくれるかな……」
だなんていう不安な気持ちも一気に押し寄せてきて、もうワケが分からなくなっちゃって混乱してる!?
腕が震えて、顔が熱くなって、心臓がバクバクして、足が震えて、何も考えられなくなる。
「う、うぅぅ……っ」
こ、ここで怖気付いてちゃ何もいいことなんてない! 提督は笑って受け入れてくれる! 照月が着任したての時もそうだった!
だから!
「しっ、失礼します!」
照月の想い、ちゃんと伝えるんだ!!
*
「おっ、おぉう……照月か。って、何をそんなに固まっているんだ?」
——う。やっぱり気持ちの整理くらいはしておくんだった。
目の前の提督の姿、それはいままでと何も変わらないはずなのに、照月が勝手にマスクをかけちゃう。
照月だけを見てる。照月だけに話してる。照月たちだけしかいない部屋で……!
「あぅぅ…………」
「お、おい!?」
一瞬だけ意識が飛んで、けれど瞬く間に現実に引き戻される。背中に回された提督の手、間近に迫った提督の顔。
て、照月……なにかおかしくなってる……?
「————? ——ッ! ————ッ!?」
な、んだろ。提督が、なにかを言って……。
「————『照月』!!」
「あッッはいッッ!!」
耳朶をしたたかに打った、ハリのある提督の声。
それが崩落寸前だった照月の感覚を引き止めてくれました。
「……あ。すみません提督……お邪魔してきたのは照月の方なのに」
提督から視線を逸らしながら、なんとか言葉を紡ぐ。同じ失態を繰り返すわけにはいかないっ。
「いや、それはいいんだが……用ってのは『これ』か?」
そう言われるのと同時に、照月が抱えていた重みがスッと無くなる。
慌てて顔を上げると、頬を盛大に膨らませた提督がそこにいました。
「て、提督…………一度に食べ過ぎですよっ! ……にひひ!」
「んゃ、おあみひもウッホ! み、みう……」
「はぁい……ひひっ」
これは、……照月のためにやってくれたのかな?
それがどうであれ、お水を汲みに行く照月の足はすっかり軽くなって、スキップまで踏んでいました。
気持ちも軽くなって、頬も緩んで……嬉しくってしかたない!
こんなことなら、もっと早く作ってあげればよかったっ。それで、あの提督の顔をもう一度……。
にひ、ひひひ。にひひひひっ!
*
「ほ、ほほ、ひあは」
「うんっ! ハイ、お水!」
「ん、んぐぐ——っア」
「ひひ。そんなひとくちで食べる必要なんてなかったのに」
「いやぁ、うまそうだったもんで、ついな。それに、また作ってくれるだろ?」
「ふぇ!? う、うん……提督が食べたいなら……」
「食べたいに決まってる。そういうことで、また頼むな」
「う、うん……」
——あ、危ない……提督の方から言われるとは思ってなかったから、また倒れそうになっちゃった。
も、もうあんなことにはさせないよっ! は、恥ずかしいし……っ。
「————照月?」
「う、うんっ!? どうしたのっ?」
「聞いてなかったのか……もう1回言うぞ」
「お、お願いします……」
って言ったのはいいけど、今度は申し訳なさで顔を俯かせてしまう。
だから見えてしまった。提督がその手に持つ、小さな黒い箱が。
意味はすぐに分かった。秋月姉ぇがさんざん惚けてきたから分かってしまった。
身体が熱い? いや、寒い……分からない。そもそも、照月はここにいるの……?
夢心地のような浮遊感にあった私に、途端に熱が加えられる。圧迫感も感じる、ぁ。これは……。
「て、提督……あったかい、です」
「お前は暑いよ」
「……ひひ。確かにちょっと暑いかも」
熱がフワリとほどける。一歩前に離れた提督が箱を開けて、そして思った通りのユビワが姿を覗かせる。
「て、照月で、いいの……?」
……この言葉は卑怯だ。分かりきったことにわざわざ言質を取りにいく、女々しい手口だ。
「言うまでもないだろう。」
言いながら、ユビワを取り出した提督がかがみ込む。
「お前がいいんだ、『照月』」
力強く手を握られて、この指にユビワをはめ込まれる。それがまた嬉しい。
ちっぽけな私を庇護してくれているようで。私のすべてを認めてくれたみたいで。
「ありがとう、提督。」
照月も応えなきゃ。提督の『照月』として、力強く。
「ずっと大事にしますね……にひひっ!」
照月はいいゾ……(布教)
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