Warspite 「ここは...?」
深海棲艦との戦闘の末、英国艦娘「Warspite」が日本へ流れ着き、そこに着任する話です。
短編として書いていくので内容はそこまで濃密にはならないはずです。
※作者は英語ができないので、英語での会話は「(日本語)」という形式を取らせていただきます。
※稀に文中において英単語が用いられますので、分からない単語などは個々でお調べください。
*
その女性は、遥か彼方の水平線に沈みかけている夕陽を背にしていた。
そんな彼女は、その華奢な体躯におよそ似つかわしくない物々しい"艦娘"特有の艤装を、それも戦艦級のものをその背に抱いていた。
そして彼女は。
『Warspite』:『戦争を、軽蔑する者』。
そう、自らを名乗った。
その名を聞いた、外国語には疎い"提督"なる者は、やはりその名の意味を計り知る事は叶わなかったものの、だがそう名乗った彼女の皮肉でも言ってしまったかのような、そんな苦々しげな表情は簡単に読み解く事が出来た。
それはまるで自らの名前に懊悩しているような、そんな表情だった。
その二人は互いに生まれ故郷が違う者だ。
だからこそ互いに話す言葉が違うのであるし、だからこそ、艦娘である方の彼女はその場にいることに居たたまれなさそうにしているのだ。
つまり、そこは提督である者の方の居場所なのだ。
"鎮守府"として在るその場所は、いまや世界共通の敵となっている"深海棲艦"なる存在との生存競争を行う一大根拠地だ。
深海棲艦とは、すなわち敵だ。
そして艦娘である彼女は、その深海棲艦によって浅くはない傷を負った者だ。
彼女が鎮守府に居る理由とは、つまりこの事に依る。
「ないすうとぅみいとぅ、『うぉーすぱいと』。私がこの場を預かっている提督だ」
「...Nice to meet you, Japanese admiral. ...しばらく、お世話になります」
英国戦艦:Warspiteは、遥か遠くの異国の地で何を感じ、何を得るのか。
その答えは、これから紐解かれてゆくことだろう。
*
先ず一度、彼女、Warspiteが異国の鎮守府に辿り着いた来歴を述べておく必要があるだろう。
彼女は元来、その任務に就く予定は無かった。
その任務とは、「東洋艦隊の一員として印度洋に跋扈する深海棲艦の駆逐」。
彼女の歯車を大いに狂わせ、結果として日の本に至る要因となったそれは、遡ること数ヶ月前の事であった―――
~ アラビア海-ムンバイ航路 ~
一体どういった法則性に基づいて悪性である深海棲艦が出没するのかという事は未だ判明していないが、少なくとも、今現在Warspiteが航行しているその航路は比較的安全なものであることは既に知った事であった。
深海棲艦が現れるとしてもそれは脆弱な個体のみであり、今回Warspiteが遭遇したそれも例外に漏れることは無かった。
Warspite「Shoot! Shoot!」
叫び声すら優美な声色で放つ彼女の砲弾は、吸い込まれる様にして敵駆逐艦級の構えた砲身の中央部へと向かい、衝突する。
瞬間、爆発。
日の本では「イ級」と識別されているそれは爆発の後にはもう跡形もなく、残っているのは穏やかな海面のみであった。
Warspite「(...ふぅ)」
最早戦闘とすら呼べ得ない淡白とした砲撃を終えた彼女は、後続の僚艦に命を下す。
Warspite「(存外に時間を過ごしすぎました。急ぎましょう)」
了解、と返す僚艦達の声を確認してから、彼女は再び己が主機を動かし始めた。
たなびくスカートの端からスラリと延びている二つの足で、しかと海面を踏みしめながら。
~ 英領:ムンバイ軍港 ~
英領印度帝国は、深海棲艦が現出するより以前に英国が植民地化した大国である。
その中でも屈指の繁栄を誇る港町:ムンバイは、深海棲艦が遍く海という海を実行支配した後はその対抗勢力としての役割を持つ軍港としてより一層の繁栄を見せてきた街だ。
そんな物々しさを前面に出した波止場に、あの時より数日を経て彼女達は漸く姿を見せた。
彼女らの背負う艤装は見渡す限り傷一つ無いが、だがその顔には色濃く疲労の色が滲み出ていた。
~ 同港:海軍基地 ~
前述の港湾の一角にあるこの海軍基地は海軍大国である本国のそれとはかけ離れたものであるが、それでも充分その権威を誇示せしめる程の豪勢さがあった。
そんな海軍基地の正面ゲートをくぐって行くのは特派艦隊として先程現地入りしたWarspite率いる艦娘の面々。
最早植民地に建てられた物であると思わせない様な豪華絢爛極まった執務室のドアを見つめ、現状と対比して恨めしく思いつつもそれを前面に出さないよう注意しながら彼女らが待機していると、少ししてそのドアの向こうから「入れ」という声が飛んできた。
その声に応じるように、扉の両脇に控える衛兵に敬礼をしてからノックをし、扉を開けて後続の僚艦を先に室内に入れたのち、彼女も室内に足を踏み入れた。
そこは、軍所有の施設とは思えないほど貴族的な様相を呈していた。
壁面には彼女が見知らぬものもあるが、その殆どが誰でも知っているような「Sir John Everett Millais」などの著名な絵画で覆われ、天井から吊り下がっているのはこれもまた見事な装丁のシャンデリア。
床には優に高級さを窺わせる毛糸のカーペットが敷かれており、それらの持ち主であろう前方のChubbierを囲う机は、本当に執務机としての機能を果たせているのかと疑問符がついてしまう奇抜なデザインのものであった。
それらおよそ軍の設備とは思えないインテリアの数々を眼球の動きだけで追い、最後にこれまた重厚な造りの椅子に座っている提督とおぼしき恰幅の良い男性を見据え、全面的に取り繕った笑みで彼女は臨時的措置ながらも着任の挨拶をした。
Warspite「(本国密令に基づき只今このWarspiteを旗艦とした特派艦隊、着任しました)」
英提督「(うむ、遥か地中海からわざわざご苦労。私が東洋艦隊を女王殿下より賜っている提督だ)」
Chubbierに相応しい丸々とした声色で応じた自らを提督と名乗る英提督は、次いで演技が見え見えの渋面をその顔に宿し、こう続けた。
英提督「(それでだな、早速で悪いんだが、我が東洋艦隊と対峙する深海棲艦は少々厄介でな... 貴艦らには前線泊地であるリランカ島に赴いてもらいたい。これは現地司令官へ宛てる手紙だ、これで便宜を取り計らって貰えるだろう)」
着任したばかりの彼女達の労をねぎらう気を少しも見せずにChubbierが指示してきた事は、つまり死地へ行けという事に他ならない。
されどその指令に抗う術など持たない彼女達は、その手紙を受け取るほかなかった。
Warspite「(了解しました。必ずや女王殿下、英提督閣下へ吉報をお持ちしましょう)」
英提督「(期待しているぞ、可愛い戦士達)」
そう告げるChubbierは、現存するあらゆる言葉を以てしても形容不能なほどの下卑た笑みをその丸い顔面に宿していた。
最早その場に居る事にすら厭わしく思えてきた彼女達は、結局指令に従って即日にムンバイを出港する事とした。
英提督によるせめてもの餞別のつもりなのか、彼女達は燃料・弾薬の補給は受けられたものの、長旅や数々の戦闘による精神的な疲労を癒す事は叶わなかったのだ。
そしてこれが、続く激戦の連続に伴ってその度合いを増してゆくことになる...
彼女が率いる艦隊から最初の脱落者が出るのに、そう時間は掛からなかった。
*
~ 英領:リランカ基地司令室 ~
英司令「(ようこそ、最前線へ。話には聞いていたが、よもや本当に増援を寄越してくれるなんてな……)」
Warspite「(お初にお目にかかります。命に従い、現時刻よりこのWarspiteを旗艦とする艦隊は英司令殿の任務を支援します)」
英司令「(やはりそうなるか……ともあれ、よろしく頼む)」
Warspite「(はい。では、失礼しますわ)」
機械じみた挨拶を終えて司令室を出たWarspiteは、ムンバイで見たあのおぞましい肉の塊とは打って変わった、やせ細った英司令を見てやるせない憤激を覚えた。
かつて聞いた女王陛下の気落ちした愚痴を体現した現状が、確かに在った。
彼女の国では「艦娘保護政策」なる施策があり、艦娘については格別の待遇がなされているし、国民の方も身命を賭して女王陛下と陛下のおわす大英帝国を守護している艦娘へのその待遇に不満を持っている訳では無いから、そこは良い。
ただ、それまでその役目を担ってきていた軍人は別だ。
何年か前、深海棲艦が現出した際にある取り決めがあった。
『世界各国における一切の蟠りやそれらを構成する隔たりを忘却し、各国が連携して悪である深海棲艦の撃滅に注力するものとする』。
この協定により、半戦争状態にあった世界各国は協力こそ限定されたものの、深海棲艦に対する姿勢についてはどこも反対する国が無かったゆえに、それまでの情勢が一転して「対深海棲艦」に収束された。
そして大英帝国はその一番槍を担う事になったはいいが成果などとは無縁の負け戦が続き、結局は正体不明の「艦娘」に頼らざるを得なくなったのであるから、軍人の地位は貴族階級のものを除き、底なしに下落していったのである。
先ほどWarspiteが辞令を述べた英司令はそんな一介の軍人だ。
やせ細ってはいても生きて地を踏んでいるだけ良い、陣地で采配を執るだけましだと言えば聞こえはいいが、やはり以前のものと比べるとその差は歴然たるものという事が事実であるのは否めない。
兎にも角にも、彼女の憤激の理由はそこにあった。
戦争の変わらぬところはやはり変わらない。
権力者のみが搾取し、それを己が肥やしにする。
思考の扉を閉じなければ、その怒りを解消することなど出来得なかった。
*
『有力な空母級を伴った艦隊が基地に接近中』。
着任後まもなくして、Warspiteの耳にその報が舞い込んできた。
有力な空母。
空母級は他の艦種とは違い、補足のし難さと攻撃力で本国においても難敵であった。
こちらにも空母艦娘が居ればまた話は変わってくるのだが、居るのは軽空母艦娘が一人のみ。
有力な空母となれば敵方の編成は空母が複数居るものとみて間違いないだろう。
打算的に考えれば勝算の薄いこの戦いに臨む必要性は無いが、ここでやすやすと敵に基地を奪われたとなればあの貴族提督がまず黙ってはいない。
無情にも、確かに聞こえたのは秒を刻む時計の針のみであった。
英駆逐艦娘「(旗艦殿。悩む余裕なんてないのではないでしょうか)」
ふと脇から、そんな声が聞こえてきた。
サッと目を遣ってみると、そこには僚艦の駆逐艦娘が毅然として立っていた。
それまで幾多の戦闘を共にしてきた彼女の目には、Waspiteにとっては眩しすぎるほどの光が宿っていた。
その光を宿す目は、確かにWaspiteの背中を押してくれた。
Warspite「(そうね……そうだったわね)」
深く息を吸って、吐いて。
居並ぶ少女に負けぬほどの光を宿したWarspiteは、固く決心をした。
国と人と、そして目の前の少女を護ろうと。
*
今もなお広大な植民地を持っている大英帝国にとって、もちろんシーレーンが大動脈としての役割を担っているのは事実である。
地中海、アラビア海の制海権はいちおう帝国が握っているが、インド洋、とりわけマラッカ海峡近郊にまで至ると話はガラリと変わる。
ただ、マラッカ海峡を越えた先にあるシンガポールは帝国にとっての右腕であるからして、おいそれと手放すわけにもいかず、せっせと各種兵器を満載した輸送艦を放っていたのだった。
だが先日、そのシンガポールが陥落したとの報が本国にもたらされた。
最新鋭の戦艦娘隊を派遣していたが、どうやらあっけなく撃沈されたとのことだ。
シンガポールの陥落は、すなわち東南アジアにおける全権利の消失という事に他ならない。
帝国は、自身の右腕を失ったも同義と言えるほどの損害を、これで被っていた。
だからこそ、深海棲艦の魔の手が帝国の半身たる印度帝国に及ばぬよう、Warspiteが派遣されたわけであるが……遂に「その時」が来たという事なのだろう。
Warspiteは泊地を進発する際、そんな事を密かに思っていたのだった。
~ リランカ島南東方面海域 ~
ベンガル湾には精鋭の潜水艦が跋扈しているということは、能く正鵠を射ている。
彼女たちが泊地を進発してから間もなくして、まるで待っていましたとでも言わんばかりに敵の潜水艦による雷撃を受けた。
憎たらしいことに、深海棲艦の用いる魚雷はウェーキが全くもって視認できない。
帝国の新編東洋艦隊が壊滅した根幹的理由は、これと敵方の有力な航空機によるものでもあった事が言えよう。
であるからして、初っ端から彼女たちは後手後手に回らざるを得なくなり、絶えず深海棲艦からの脅威に備えなければならなかった。
初手の対潜戦においてはいちおう損傷艦無という結果を出せたが、潜水艦の脅威が払拭できた事実は無く、本命の空母機動部隊は当然のこと健在で、しかも双方居場所が限りなく特定しづらい、マトモな思考回路を持つものならば、匙を投げたとしても何らおかしくない状況が出来上がっていたのだ。
だが戦闘を放棄すれば帝国の半身はどうなる?
焦土と化し、見る影もなくなった印度帝国を本国はどう捉える?
そして、先程固めた覚悟に、そうアッサリと見切りを付けられるのか?
引くに引けない、無謀な一戦であることは火を見るよりも明らかだった。
*
悪魔は休むことなくその食指を彼女らに差し向けた。
まず、軽空母艦娘が沈んだ。
どこからともなく降り注いできた、一陣の突風が如き艦爆隊によって飛行甲板はおろか、内部構造物をも巻き込んだ大爆発を起こして轟沈した。
取って返す刀のように、今度は超低空を切り裂きながら艦攻隊がその牙を向いた。
触発するまで姿の見えぬ魚雷は、彼女たちを戦慄させるのには十分すぎるほどの効果があり、不幸も重なってか、それらは吸い込まれるようにして彼女らの機関部へと向かってしまい、航行不能艦を連発して叩き出していった。
おっつけやって来た艦爆隊もその犬歯を余すことなく食い込ませ、辺り一面は形容するならば「地獄の業火」とも言えるような様相を呈していた。
Warspiteには、勿論どうすることもできなかった。
彼女の傍には、機関損傷の英駆逐艦娘のみ。
はじめから勝てる見込みのないことは分かり切っていたが、まさかここまでとは、彼女自身、夢にも思っていなかった。
敗北の色が海面を染めつくしているいま、自身もまたこっぴどく爆撃されたWarspiteには尻尾を巻いて逃走するしかなかった。
計器盤もあらぬ方向を目指してグルグル回るばかりであり、彼女と英駆逐艦娘は己の勘を頼りにノロノロと進んでいた。
英駆逐艦娘「(旗艦殿。申し訳ありません……己の不甲斐なさと言ったら、悔やんでも悔やみきれません……)」
Warspite「(良いのよ。でも命あっての物種だわ。後悔するなら、生きて帰ってから思う存分にしましょう)」
英駆逐艦娘「(……旗艦殿の言うとおりであります。それにしても、パタリと止みましたな、敵機と敵潜の攻撃が。奴らも一枚岩ではないのでしょうか?)」
Warspite「(言われてみればそうね……辺り一面火の海だったから、全艦撃沈確実とでも思ったのかしら)」
英駆逐艦娘「(ああ、そういう事も……ッ⁉ 旗艦殿ッ‼)」
え? と応ずる間もなく、いつの間にか傍らの英駆逐艦娘の姿が掻き消え、次いで後方で爆発の音が一つ、雷が轟くかのように上がった。
彼女が後方を見遣ると、目視できるところに潜望鏡が一つ、二つと見えた。
爆発の元はもう水面には無かった。
Warspite「(そ、そんな……)」
二の句を継ぐ間も与えず、彼女の足元に何かがコツン、と固い何かが当たった音がした。
そして彼女の記憶は、そこから長く途切れることとなった。
*
*
大英帝国が誇る武勲艦、Warspiteがその後どうなったかについては、一度時系列を巻き戻す要があるので、そうさせていただく。
遡るのは、帝国がシンガポールを落とされ、落胆に暮れていたその直後までに至る。
~ シンガポール:旧東洋艦隊司令部施設内 ~
提督「……これはまた、随分激しい戦闘があったものだな」
金剛「Hah. 提督はまさか私達だけでこんな状態にさせたと思っていますネー?」
提督「いやいや……お前ら以外にどこのどいつがここまでやるというんだ」
金剛「ウウ~! 流石に濡れ衣を着せられるのはごめんネー‼」
他愛ないやり取りを交わしつつ、瓦礫が目立つ施設だったモノを踏みしめながら歩いているのは、昭南島攻略部隊旗艦の戦艦娘金剛と、旧日本海軍艦艇・軍艦の艦娘を一手に指揮する提督である。
いったいどんな魔法で以て全艦娘の指揮権を得たのかと探りを入れたくはなるが、ここで意味のない寄り道をするのは控えておこう。
ともあれ、大英帝国が落とされた東洋随一の根拠地であったシンガポールは、深海棲艦の占領下に入るという紆余曲折を経るものの、その時よりは「昭南島」として日本国の軍事的庇護下に入ることとなったのだった。
榛名「ご歓談中失礼します。やはり大英帝国の手の者は跡形も見当たらないようです。私達が至る前にいちど深海棲艦によって陥落せしめられたものと考えるのが無難かと思われます」
提督「フム。やはりそうとしか考えられんか……」
金剛「……Hey, テートク。やっぱり知ってて言っていましたネ⁉」
提督「お前なぁ……それぐらい分からずしてここまで戦線を拡げられると思うか?」
金剛「意地悪ネ~! いじわるネ~‼」
提督「ハイハイ、悪かったよ、提督が意地悪でござぁした……榛名、我が方に損耗艦は居なかったよな?」
榛名「いえ、どうも島風さんが機関故障を起こしているようです。ここの泊地設備を修復させれば恐らく直ぐに戦列に復帰はできるでしょうけど……」
提督「あぁ……そういえばそうだったな。まあそれは良い。予定通り飛行場の整備を急いでくれ。敵が体勢を整えなおす前に蘭印を頂くぞ」
榛名「はいッ‼ それでは、榛名はこれで失礼しますね」
提督「あぁ、頼んだ……それじゃあ金剛、ここの司令艦はお前に任せるからな。恙なく頼んだぞ」
金剛「ウゥ……分かりマシた」
言うや否や、慌ただしそうにその「提督」は恐らく飛行場の方へと向かっていった。
後に残された快活そうな女性は見るからに落ち込んでしまった声色で呟いた。
金剛「私は、英国ヴィッカース社で生まれた帰国子女の戦艦、金剛デース……私の活躍、見せてあげるネー……」
~ 西方海域:アンダマン海 ~
アンダマン海とは、ジャワ島とビルマの沿岸を繋ぐかのような形で伸びているアンダマン諸島とマレー半島の間に広がる海である。
日本列島と沿海州に挟まれた日本海のようなものであると思えば想像に難くないであろうか。
日本艦娘による昭南島攻略から時を置かずしてジャワ島の攻略が行われた。
とは言っても、深海棲艦はよっぽど戦略的拠点足り得る島嶼部を除いては陸上においての活動が見られないため、ここで言う攻略とは「周辺海域の」攻略であるという風に置き換えて然るべきであろうか。
そしてここアンダマン海においては、ジャワ島及び蘭印攻略の一環として、艦娘部隊一個艦隊が派遣され、敵艦の掃討に当たっていた。
雷「まったくもう、司令官ってば、こんな大事な戦闘に雷を出してくれるなんて、さすが分かってるじゃない!」
電「で、でもでも。やっぱり敵を無為に沈めてくはないのです……」
雷「ホントに沈めたくないなら『無為』なんて言葉使わないわよ……」
電「はわ、何故ですか?」
雷「いや、ふつうそう思ってるなら行動で示すもの、じゃないかしら……?」
阿武隈「うぅ~、雷ちゃん、電ちゃん! アタシの指示に従ってください~!」
雷電「ごめんなさい……」
響「……あれは。艦娘……?」
鬼怒「およ? ホントじゃん! ねぇ阿武隈、あれ艦娘だよ! しかも私たちの国の艦娘じゃない!」
阿武隈「え、えぇ⁉ えと、国際法だと損傷艦は……あ、暁ちゃん! どうだったっけ⁉」
暁「えぇ⁉ れ、レディならそれくらい当然知っているわよ‼ 確か、助けた方の場所に避難させて……」
雷「分かったわ‼ あのレディを助ければいいのね‼ 行くわよ、電‼」
電「はわ、雷ちゃん、待ってくださいなのです‼」
鬼怒「ハッハーン、負けてらんないなぁ……訓練の成果を見せる時だよ‼ 響ちゃん‼ いっくよ~‼」
響「Ураааааааа!!」
阿武隈「~~っ‼ あ、アタシの指示に……もうっ! 暁ちゃん、私達も行くよ!」
暁「……それで修復してあげたらお礼を貰って、って、ふぇ⁉ みんなは⁉」
……実際の所、この海域には目立った敵艦はおらず、この海域へと運よく漂流したWarspiteは、偶然にも海域掃討の任に就いていた彼女達「比島第一水雷戦隊」によって救助されるに至り、最寄りの昭南島はセレター軍港へと護送される幸運にありつけたのである。
更に偶然も重なってか、昭南島根拠地隊の司令艦となった金剛は、彼女と前世において少なからぬ縁があった訳だが……
一先ずは、Warspiteの無事を祝おうではないか。
*
~昭南島司令部施設内~
軽巡艦娘:阿武隈を旗艦とする比島第一水雷戦隊に救助されたWarspiteは、ほどなくして最寄りの昭南島へ曳航されてきた。
改めて彼女の艤装の状態を見てみると、確かにロイヤルネイビーの名を冠する大英帝国の戦艦であることは明白だ。
同時に、その誉れ高き艤装には見るに堪えかねないほどの尋常ならざる損傷もまた、よく見えた。
その点、比島一水戦は極めて勇敢な、一種の英断をしたと言えるであろうか。
先にも述べたが、世界の各国は深海棲艦なる共通の敵が現れる前、あと一歩、道を違えれば戦争へ突入しそうな様相を呈していた。
日本国にとって英国は、かつては盟友であり、師匠のような存在であったが、この時はすでに往時の関係は無く、むしろ強大な敵国であるとして捉えていた。
そんな敵国のロイヤルネイビー、しかも戦艦が目前に意識朦朧として漂っていたならば、一定の者はそれを見捨てるか、それ好機として沈めにかかっていたとしても何らおかしくはない。
だが比島一水戦は違った。
かつての敵国の艦であったからといって無碍に扱わず、こうして救助に懸かった。
これも、日本海軍の誇りと尊厳がなせる業であろうか。
さて、そんな英断によって九死に一生を得たWarspiteは、浅いのか深いのかが分からぬ、あやふやな眠りに就きながら悪夢を見ていた。
自らの目の前で、自らの僚艦が沈んでゆき、それが無尽蔵に繰り返される、悪夢を見ていた。
透き通るような肌に珠の汗を光らせながら、彼女は何度も何度も砲撃する。
その度に、敵影が軽くたゆたうが、敵からの砲撃が止むことは無い。
その夢の中で、状況はまるで一変しなかった。
撃つ、沈む、撃つ、沈む、撃つ、沈む。
この繰り返し。
敵は嗤い、砲撃の雨を浴びせ続ける。
僚艦は次々に沈んでいき、苦しげなうめき声のコーラスを奏でる。
悪魔の狂演じみた光景が、何度でも、何度でも眼前を横切ってゆく。
彼女の精神が悲鳴を上げるまで、そう時間は掛からなかった。
Warspite「————————ハッ!?!?!?!?」
金剛「!! 目が覚めましたカ。ワタシが判りますカ!?」
瞳孔は焦点を定めず、目まぐるしく動くことしかしない。
鼓膜は耳鳴りを聞き取るのに精一杯だ。
深い呼吸を繰り返しながら、四半時、時が流れた。
金剛は、その長いのか短いのか判断に困る時間の中で、縦横無尽に考えを巡らせていた。
彼女、Warspiteは、言ってしまえば捕虜だ。
こうして日本国の艦娘が彼女を保護したと知れば、途端に返還を要求するだろう。
だが、この状態の彼女を返還してしまえば、彼女はどうなる?
よくて戦線復帰、またこのようなボロボロの姿になってまで、そして死ぬまでこき使われるだろう。
最悪のケースとしては、威厳の保持のために殺されてしまうかもしれない。
若干行き過ぎた考えかもしれないが、昭南島での現状を見た金剛からしたら、栄華を極めた大英帝国が陥ってる窮状が大方察せられる。
どの道Warspiteは、英国に返還したとしてもロクなことにならないだろう。
ならどうするか。
真っ先に思いついたのが、こちらでこのまま保護し、療養を経て情勢を鑑み、あわよくば日本国にて本領を発揮してもらうこと。
だがWarspiteは、やはりロイヤルネイビーだ。
誇り高き英国戦艦が、ハイそうですかと従ってくれるとは思えない。
そこで金剛の考えは行き詰った。
果たしてどうするべきか、逡巡していた金剛にようやくWarspiteは気が付いた。
荒かった息も幾分落ち着き、状況を把握しようと首を巡らせたWarspiteの目に金剛が移った。
その姿は、彼女からしたらとても懐かしく感じられた。
なぜだか、彼女の目に映った金剛からは故郷を連想できたのだ。
そんな彼女に私が置かれている状況を訊いてみようとしたWarspiteに、金剛の方も気が付いたようだ。
この場合、およそ快活な者の方から先に発言するものであろうか。
どうやら今回は、この憶測は当たったようだった。
金剛「モシモシ? 聞こえる!? Can You hear my voice?」
帰国子女と言っても長らく日の本の言葉を話していた金剛の英語は、どうやら彼女の方にも届いたようだ。
むしろ、彼女の日本語の方がWarspiteにとって聞き取り易かった。
Warspite「え、ええ。聞こえるわ。それよりも、私は一体……」
金剛「Oh! そうでしたネ! あなたは……」
そして紡がれた金剛の言葉は、彼女にとっては十分すぎるほどの情報を持っていた。
とどのつまり、私は一人おめおめと……。
そっと伏せられたWarspiteの、その長く整ったまつ毛の隙間を大粒の涙が通っていく。
ひと粒、ふた粒、とどまるところを知らない彼女の涙は、やがて頬を伝わり終え、ゆるく握られた手の甲にポタリ、ポタリと落ちていった。
それはどこか、彼女の僚艦の最期を形容しているようにも見え、ますます彼女の涙を誘った。
やがて子供のように泣き出してしまったWarspiteの身体を、金剛はそっと包み込んでやっていた。
改装を終えたばかりか、白く清潔感に溢れる病室を、ひとつの泣き声が何分にも亘って駆け巡っていた。
その泣き声は、散っていった僚艦の魂にもきっと、届いて鎮魂歌を成したことだろう。
その間金剛は、震える彼女の身体を始終優しく抱きしめ続けていた。
一枚の芸術画にも引けを取らない、幻想的な光景を醸し出していた。
*
彼女は、Warspiteは熟考していた。
このままここにとどまるか、それとも本国へ戻るのか。
昭南島での療養生活の中で、彼女はたくさんの新たな出会いを経験した。
昭南島に着任しているいろいろな艦娘と交流した。
どの艦娘も活き活きとしており、まるで同じ世界の住人とは思えなかった。
基地を旅行し、昭南島は全体的に快活であることを見た。
彼女達に戦争をしている認識はあるのかと、思わず問いて回りたくなるほどに「現実的」な光景ではなかった。
艦娘達は口をそろえてこう言う。
「だって生きているのが楽しいから、楽しまなきゃ『楽しい』の意味がないよ」と。
ただただ、彼女の目には眩しすぎた。
やがて、空母艦娘を主体とする威風堂々とした機動部隊がやってきた。
その艦隊旗艦であった『赤城』はおしとやかに、それでいて威圧感もひしひしと感じる、本国においてもなかなか見られない稀有な艦娘だ。
赤城は戦う理由を、こう言った。
「それが私の、私達の使命ですから」と。
続けて、非情な現実にそれが挫けかけたことは無いのかと問いてみた。
「だとしても、前に進むことしか私達には出来ませんよ」と答える。
かつての私も、確かこうであった。
だが、その機動部隊のもたらした「リランカ島の深海棲艦領化」という報告を聞いても、彼女の心境は弱ったままであった。
私は弱い。
惨めに敗北し、僚艦という仲間を失って、「脚部不全」という診断を受けて心が折れた私は、弱い。
そんな私に、この世の中を生き残る資格はあるのだろうか……。
気が付けば、そんなことばかり考えるようになっていった。
日本の艦娘側で言う所の西方海域:カレー洋方面に出征していた赤城機動部隊は鎮守府に帰還する前、悲嘆に暮れるWarspiteの下を訪れ、こう告げた。
「Warspiteさん。あなたには私達と共に鎮守府まで来ていただきます」と。
Warspiteには拒否権が無かったのだが、そもそもロイヤルネイビーとしての尊厳も欠如しかけていた彼女は拒否することをしなかった。
凱旋気分にひたるはずであった赤城機動部隊は、逆にしんなりとした感傷的な気分で帰還する破目となった。
*
~ 鎮守府執務室 ~
提督「やあ、君が英国戦艦のWarspiteだな。噂はかねがね耳にしているよ」
Warspite「……そう、なのね」
提督「脚部不全という話を聞いたんだが、本当なのか?」
Warspite「……ええ」
提督「そうか、なら私から一度触診しておく必要があるな……」
Warspite「……え?」
言うが否や提督が立ち上がり、こちらの方に向かってきたのでWarspiteはただ困惑した。
だがそれも束の間、手を怪しげに蠢かせながらすり寄ってくる提督の歩みはすぐに止まった。
頭を押さえて蹲る提督の後ろから艦娘の姿が見えたので、どうやら彼女が提督を止めたらしい。
Warspite「……サ、Thank you」
そう告げたWarspiteを見やった艦娘は、すぐに破顔してこう言った。
大鳳「いえ、Warspiteさんは捕虜待遇を受けているので、このお方に問題を起こされるわけにもいかないですから」
Warspite「……あの、私は」
提督「イツツ……冗談が通じん奴だ」
いまだに頭を押さえながら、提督であろう人が体を起こして言った。
提督「それでWarspite、君の待遇なんだが、このまま食客として過ごすのもよし、それか……我が方の戦列に加わるかのどちらかを選んでもらうことになる。残念ながら赤城達から聞いていると思うが、リランカ島はとうの昔に深海棲艦によって占領され、要塞化しているらしい。『港湾棲姫』なる陸上型の深海棲艦が確認されたから間違いないだろう。よって、君を本国まで護送する余力はこちらにはないということになる。まあ、情勢如何によっては本国へ帰還できるやもしれんが、今すぐには無理であるということだけ踏まえて欲しい」
ひとことひとこと含むようにして語られた内容は、彼女にとってはおおよそ予測できた内容だ。
穀潰しになってのうのうと暮らすか、いまふたたび戦艦の艦娘として本領を発揮するか。
それは勿論後者を選ぶべきだという必然性は理解できているが、彼女は自身の必要性について大きな疑問を抱いていた。
脚部不全に関しては、まあ問題ない。
彼女の艤装をもってすれば戦闘には全くもって差支えなどないのだから。
だが彼女の心、精神状態は極めて悪かった。
彼女自身でも、手に取るように分かるくらいには、彼女の心は弱り切っていた。
それであの深海棲艦とまみえることはできるのだろうか……。
渋面を作って黙りこくってしまったWarspiteを見た提督は、そんな彼女の懊悩に気が付いていたのか、傍らの大鳳に何かを伝え、それを受けた大鳳が執務室から姿を消したのち、こう語った。
提督「なあWarspite、私達はどうして現世に生きているんだろうな。私は、最近考えるようになった。この星を埋め尽くす自然という恵みの中に、果たして私や君みたいな破壊と搾取をしてでしか生きられないような下劣な奴らが要るのかってな。この答えは結局出ないよ。例えこの世に私達が要るとしても、要らないとしても、『生きる目的』がある限り這いつくばってでも生きたいと思ってしまうからね」
Warspite「……私にはもうそんな、大それた『生きる目的』なんて」
無いわ、と続けようとしたWarspiteの言葉は遮られ、フワリ、と彼女の身体は宙に浮いた。
提督「そう言うと思った。だから少し、お身体をお借りしますよ、レディ」
Warspiteは制止の言葉をかける間もなく、提督によって執務室から連れていかれた。
~ 鎮守府正面波止場 ~
提督に連れられたそこは、どこにでもありそうな、有り体に言ってしまえば普通の波止場であった。
波が静かに、押し寄せては引いている。
それは言外に何かをWarspiteに伝えているのだろうか。
落ち着きのあるそこで、手近なところにそっとWarspiteを座らせて、提督もまたその隣に座った。
やや太陽が傾きかけた空の下、機械臭が混じりつつも、久方ぶりに落ち着いて吸う磯の香りは特別なものを感じられた。
それを感慨深く思っていると、隣に座っていた提督が静かに話しかけた。
提督「こうしてゆっくり自然に触れるのはいいだろう? 向こうからしたらただの迷惑行為かもしれんが、こちらはしみじみとさせられる。だからどうしてもやめられない」
Warspite「久しぶりになら、こうするのもいいと思うわ」
彼女がそう言って賛同の意を示すと、提督は非常にうれしそうな表情をしてこう続けた。
提督「だろう!? たとえどんなことでも、目的と理由をもってすればちゃんと価値のあるものになるんだよ。どんなに小さくてもいい。『自然に栄養をあげたいから』と言って野ションすれば価値はあるし、『水がもったいないから』と言って艦娘用の風呂場に飛び込めば、それはいけないことではないんだ」
Warspite「……貴方」
提督「卑しいとも疚しいとも思わん。矮小としていても生きる目的があれば、私達は地べたを這ってでも生きられる。案外単純で、慣れてしまえば楽しいもんだよ。まあ、鬼嫁の折檻だけは勘弁したいがな……」
最初は強かったものの、最後は語勢を弱めて呟くようにして提督が呟くと、それに呼応するかのようにして執務室にいた少女、大鳳がやってきた。
大鳳「そんなくだらないことに生きようとするから当然の報いよ。それと提督、用意ができましたよ」
提督「お、さすが『間宮』だな。さて、では行こうかレディ、また失礼しますよ」
Warspite「い、行くってどこに?」
提督「間宮食堂だよ。歓迎会をやるんだ、君のな」
Warspite「そ、そんな……私なんか」
提督「自分を卑下するのはやめてくれ。君がどう言おうと、今この時から君は我が艦隊の一員なんだから誇りを持て。どんな些細なことでもいい、『生きる目的』を見つけろ。まず君に課すのは、それだけだ」
Warspite「……私、は」
答えが凝り固まっていない。
そう答えようとしたWarspiteの発言は、提督によってまたも遮られた。
提督「いや、いい。曖昧なまま答えを出してもらおうとは思っていないし、これから行われるのは無礼講だ。無心で楽しんでみろ。きっと生きたいと思えるだろうよ!」
そう言って、大声で笑いだした提督という存在は、この時のWarspiteにはとても理解できるものではなかった。
この時は、まだ理解できていないだけだ。
*
Warspite「Shoot! Shoot!! Shoot!!!」
高潔さの中に、どこか楽しさや溌溂さを織り交ぜたかのような声で何発もの砲弾が放たれた。
射撃対象へ向け、吸い込まれるようにして放たれたその砲弾は、見事命中。
水平線の上に佇むようにして見えたある艦娘がのけぞるようにして倒れるのと、戦闘の終了を意味するブザーが鳴るのはほぼ同時だった。
提督『戦闘終了。勝者、Warspite』
その勝利を勝ち取ったWarspiteは、彼方に見える艦娘をさておき、審判とアナウンサーをしていた、此方に見える提督の下へ向け一目散に航行していった。
Warspite「Watched? Admiral! この私がNumber Oneよ!」
そのあまりの威勢に、アドミラルと呼ばれた者は「うお」と、思わずのけ反っていた。
提督「ああ、見ていたよスパ子。あの金剛に打ち勝つなんて、さすがロイヤルネイビーだな」
自信をスパ子呼ばわりされたWarspiteは不機嫌そうにしつつも、もはや慣れたこととでも言いたげに、その後に述べられたことを是正した。
Warspite「違うわAdmiral. 私はRoyal Navyなんかじゃないわ。私にはあの誇りも、この象徴も似つかわしくないわ」
そう区切って、何か言いたげに見えた提督を制止するかのように彼女は陸に上がって、そしてこう言った。
Warspite「『Remove Outfitting』」
途端に彼女の全身を覆う艤装は消えるようして無くなり、身体ひとつとなったWarspiteは倒れこむようにして提督の胸元にもたれかかった。
もたれかかられた提督は慌てつつも、優しく彼女の身体を抱きかかえた。
Warspite「いいのよ。私には、みんなを護るこの力があれば、それで十分なのよ」
そんなWarspiteの言葉を聞いて納得がいった提督は、自身が最初に抱いていたある疑問を口にした。
提督「それが『戦争を忌む者』、ウォースパイトの答えなんだな」
その疑問を受けたWarspiteは満足そうにすると、益々、自身を提督にもたれかけさせた。
Warspite「Let’s return, Admiral! もうすぐお茶会の時間よ。モタモタしてられないわ!」
そう言って満面の笑みを浮かべるWarspiteには、さすがの提督もドギマギせざるを得なかっただろう。
朗らかなムードを漂わせるそこに、ようやく敗者が登場した。
金剛「Hey, Warspite, 今のはたまたま艤装の調子が悪かっただけネー! いい気になるんじゃないデース!!」
Warspite「あら、金剛。フフ、次は本気の貴方を期待してますわ」
金剛「ウ~~! ガルル!」
提督「お、おいウォースパイト、あまり金剛をからかうんじゃない!」
Warspite「さあ、なんのことかしら。それよりもAdmiral, 喉が渇いたわ。Escort, please!」
提督「……ハイハイ、畏まりましたよレディ」
*
陽が高く昇っている空の下、影が二つ、できている。
そこに戦艦、Warspiteの姿はない。
だが、陽は確かに彼女の姿を捉えていた。
自身の輝きにも負けず劣らずの笑顔を咲かせる、彼女の笑顔を。
戦艦『Warspite』。
彼女の得た答えはさながら太陽がごとく燦然と輝き、それは彼女の名を確かに象徴しているように思えてならない。
彼女は、『戦争を軽蔑する者』。
戦争からみなを護るために、彼女は日々をあゆんでゆくことだろう。
~ fin ~
完結です! 疲れました!
英国艦娘『Warspite』は、どうやってここ日の本にたどり着いて、戦ってゆくのかなという妄想をした末の本作品です。
まあ、その大事(?)な過程がすっぱ抜かれていますが……ダラダラ日常パートを書くと飽きられてしまうと思ったので省きました! 「いろいろ病んでしまったけど結果的にここで戦います」というだけの話になってしまいましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
(2017/1/2: 更新)
海に生きる男には海の上でのルールが有るんやな。戦争で御互いに砲を交えたなら兎も角それ以外なら助けるのが暗黙のルールという物何だろうなあ。