Saratoga「てい、とく……」
【サラトガとのケッコン未だ為さざる提督諸氏は閲覧注意】
溢れてしまう、溢れてしまう。それくらいに、膨れ上がった激情は。
*
——ああ、ついに、ついにサラはやってしまいました!
どうしても本心が制御できません。それは水底に沈めてしまったはずなのに、なのにすべて吊り上げられてしまいました……
だからなのでしょうか、もう……目の前の提督、サラにはあなたしか見えません。
しかも、今までの鬱憤を晴らさんがためか、どこまでも溺れてしまいそうで……
……お願いです提督、サラをたす、け————
*
いつか、どこかで戦いに明け暮れていたところ、忽然と現れた「艦娘」の皆さんに、サラは付き従うことを決めました。
そのサラの心境については、よく覚えてはいませんが……そこに居たサラは、きっと孤独だったのでしょう。何せサラは、孤独というものがたいそう嫌いでしたから。だから温かそうな彼女たちについていきました。
こうしたことも相まって、サラが辿り着いた「鎮守府」というところはとても温かい場所に感じました。
そこの皆さんは当たり前のように、サラにも普段のような接し合いを持ってくれました。そう、提督もそうでした。
むしろ提督が、一番に親身になってくれていました。何をするにもそう、我が子に対するように、サラを包んでくれた。
でも、これは異常です。少なくともサラはそう感じていました。
だってサラは、直感で「あなたたちとは住む世界が違う」ことを感じ取っていたのですから。
なのに感じた。そのことをかさにも着せず振る舞っている、あなたたちの嘘偽りのないことを。
そうした生活の中で、サラの異常はただの日常へと変わりました。三食がごはんの、お風呂に入って布団にくるまることもそう、にほんの言葉で話すこともそう。それとあなたと触れ合うことが、サラの日常になりました。
お話に華やかさなんてものはありませんでしたが、そのいとけなさが心地よかった。
しょっちゅうサラの頭を撫でてくれる、大きくて温かい手のひらが気持ちよかった。
なかんずく、サラのそばで振りまく笑顔が嬉しくてたまらなかった。
あなたと過ごすことが、サラの日常。サラに想い人ができるまで、そう時間は掛かりませんでした。
あなたの憂い顔が、サラを夜通し不安にさせました。
あなたの涙が、サラにそれを払拭させるだけの力を与えました。
あなたの真摯な顔が、サラを真剣にさせました。
あなたの苦しんでる顔は、サラをも苦しめてやみませんでした。
あなたのやる気は、サラのやる気にもなりました。
あなたの喜びは、どうしようもなくサラを幸福にしました。
あなたの笑顔は、そのままサラの活力になりました。
あなたの感情で、仕草で、行動で、サラが形作られていく。
サラは改装を経て、鎮守府の中でも随一の実力を伴っていきました。提督だけじゃなく、ナガトにカガのようなパートナーたちとも共に戦いました。そこに孤独感は介在せず、サラの本当の戦いができました。
ですが、そうした日々の中で、次第に胸が張り裂けそうな苦しさを感じるようになりました。
理由はすぐに明らかになりました。苦悶の中で提督に包まれると、それはスッと無くなったのです。提督の温かみが無くなると、また苦しくなる。単純なことです。
単純に、あなたがサラにとっての麻薬のような、必要不可欠な存在になってしまいました。でも、タダであなたの側にいてはいけない、そうしてしまうと、いつしかふたりが壊れてしまう……自分自身にそういうルールを架して、サラはその上を歩くようにしました。あなたに近く居すぎると、最後には常にあなたを伴わないといけないから。
でも、一回触れたら二回触れたい、三回触れたら四回、五回……芋づる式に日常が深化していきました。なのにあなたは笑顔で応じてくれる。サラを抱きしめてくれる。サラに愛を注いでくれる、何回も何回も。いけないことなのに。それは分かりに分かりきっているのに。それは蟲毒なのに。
取りも直さず、呑み込まれていく。サラが嫌いなひとつのものに、サラ自身がなってしまう。なのに——
*
「——なのに、サラはこうしないといけないのです」
「…………サラ、」
私は大丈夫だから、お前が戦ってきたものにケリをつけろ。
「……ッ、どうして、サラにそんな、優しくしてくれるのですか」
「野暮なことを聞くなよ」
私もそうだからだよ。
「てい、とく……ていとくッ!」
ずっと鎌首をもたげていたものが、ついに露わになってしまいました。あなたのせいですよ、提督。他でもない、あなたが肯定してしまったから。
私は銀の輝きに全てを取り払ってしまうのです。
「Oh, my god……! Beautiful……!」
自分史上サイコーのできでした。ヤバイ(語彙力喪失)。
此はキラキラどころじゃないね。
ハイパーモードで黄金になってるよw